説明

軸受監視システム、及び軸受監視プログラム

【課題】 簡単な振動測定装置の構成で鉄道車両などの車両における軸受の損傷を早期かつ容易に検知することができる軸受監視システムを提供する。
【解決手段】 左側軸受の測定系においては、加速度センサ1Lが左軸受振動をN回測定し、フィルタ回路3Lが振動周波数の高周波帯域のみを通過させて実効値回路4Lへ送信する。実効値回路4LはN回測定中の左軸受振動から左軸受振動最小値を算出する。右側軸受の測定系においても、加速度センサ1Rが右軸受振動をN回測定し、フィルタ回路3Rが振動周波数の高周波帯域のみを通過させて実効値回路4Rへ送信する。実効値回路4RはN回測定中の右軸受振動から右軸受振動最小値を算出する。記録・判定装置5は、左軸受振動最小値と右軸受振動最小値の比が所定の閾値より大きいとき、振動最小値の大きい方の軸受が異常であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸軸受の正常/異常判定を行うための軸受監視システム等に関し、特に、鉄道車両における車軸軸受の損傷を早期に検知するための軸受監視システム、及び軸受監視をコンピュータに実行させる軸受監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車軸軸受や歯車装置軸受など(以下、単に軸受という)の損傷は車両の運行を阻害するおそれがあるので、これらの軸受の正常/異常監視は走行の安全性にとって重要な要素である。また、転がり軸受は荷重を受けながら回転しているため、最終的には疲労により転がり接触面がはく離することがある。さらに、はく離以外にも軸受の内輪や外輪の軌道面または転動体の転動面に圧痕などの損傷が発生することがある。軸受にはく離や損傷が生じると金属粉が軸受内のグリースに混入し、金属片の混じったグリースが循環するために、さらに軸受全体の損傷を促進させて軸受の寿命を低下させてしまう。このようなはく離や損傷は軸受の発熱や回転不良に結びつくことがあるので、はく離や損傷を早期に検知して軸受を交換するなどの処置を行う必要がある。
【0003】
従来、軸受の異常を監視する方法としては、軸受部の温度または振動を測定して軸受が正常か異常かを判別する方法が知られている。一部の車両(例えば、新幹線電車)では車軸軸受部の温度を常時監視して、ある温度以上になれば運転台に警報を発するシステムが採用されている。車軸における軸受部の温度は測定方法が簡便であるが、軸受の損傷で発熱する場合は、一般的に、発熱する前に発生する軸受部の異常振動が損傷の兆候を示している。そのため、軸受の損傷を検知するためには、振動測定の方が温度測定より早期に軸受の異常を検知することができる(例えば、特許文献1参照)。この技術は、あらかじめ設定した振動の初期値と現在の振動とを比較して軸受の異常判定を行うものである。また、貨車の一部の車両では車軸の軸受に振動センサが組み込まれているものもあるが、この振動センサは主に車輪フラットの監視を行うために使用されている。車輪フラットとは、車輪の滑走により車輪の円周上の一部が摩耗して平坦部が生じる現象である。さらに、試験走行時における軸受検査のために軸受部の振動を測定する方法もある。このように、軸受の損傷を早期に発見するためには軸受部の振動を測定する方式の方が有利である。
【特許文献1】特開平05−231992号公報(段落番号0008〜0011、図1及び図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように振動を検知して軸受部を常時監視する方式では、軸受部に加速度センサや増幅装置など幾つかの要素を常設しなければならないために設備コストが高くなってしまう。つまり、車両の試験走行時における軸受部の検査では、仮設した測定装置によって軸受部の振動測定をすればよいので、それらの測定装置を複数の車両に流用することができるが、営業車両に常設する場合は一軸受ごとに振動の測定装置を設置しなければならないので設備コストが嵩んでしまう。
【0005】
また、はく離や損傷の生じた軸受では、欠陥に対応した周期的な振動が検出されるが、走行中の車両から検出される振動には種々の周波数の振動が重畳されているため、振動の検出によって軸受の異常を検知することは極めて難しい。そのため、軸受異常の早期発見が遅れてしまい、結果的に、軸受の発熱や回転不良となり、車両の走行を阻害するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な振動測定装置の構成で鉄道車両などの車両における軸受の損傷を早期に検知することができる軸受監視システム、及び軸受監視をコンピュータに実行させる軸受監視プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の軸受監視システムは、前記の目的を達成するために創案されたものであり、車軸における両側の軸受の正常/異常判定を行う軸受監視システムであって、車軸における第1の軸受の振動レベルである第1軸受振動レベルを測定する第1軸受振動測定手段と、車軸における第2の軸受の振動レベルである第2軸受振動レベルを測定する第2軸受振動測定手段と、第1軸受振動測定手段が測定した第1軸受振動レベルと第2軸受振動測定手段が測定した第2軸受振動レベルとの比と所定の閾値とを比較し、その比が閾値より大きいか否かによって第1の軸受及び第2の軸受の正常/異常判定を行う軸受判定手段とを備える構成を採っている。
【0008】
つまり、車両の車軸における左右一対の軸受の両方が同時に損傷を受けることはない。したがって、車軸における両側の軸受の振動を個別かつ同時に測定すれば、正常な軸受の振動と異常のある軸受の振動とでは振動レベルに差が生じるので、車軸における両側の軸受の振動レベルを比較すれば軸受の正常/異常を容易に判定することができる。本発明の軸受監視システムはこのような相互比較法を適用しているので、簡単な構成で軸受の損傷を早期に検知することができる。
【0009】
また、本発明の軸受監視システムは、前記発明の構成において、軸受判定手段は、第1軸受振動レベルと第2軸受振動レベルとの比が閾値より大きいとき、振動レベルの大きい方の軸受が異常であると判定する構成を採っている。
【0010】
このような構成によれば、車軸における両側の軸受の振動レベルを比較し、両者の振動レベルの比が所定の閾値以上となったとき、振動レベルの大きい方の軸受に損傷が発生したと判定することができる。したがって、このような軸受監視システムによれば、簡単な構成で軸受の損傷を早期かつ容易に検知することができる。
【0011】
また、本発明の軸受監視システムは、前記発明の構成において、第1軸受振動測定手段は、第1軸受振動レベルを複数回測定して振動レベルが最小となる第1軸受最小振動レベルを求め、第2軸受振動測定手段は、第2軸受振動レベルを複数回測定して振動レベルが最小となる第2軸受最小振動レベルを求め、軸受判定手段は、第1軸受最小振動レベルと第2軸受最小振動レベルとの比が閾値より大きいとき、最小振動レベルの大きい方の軸受が異常であると判定する構成を採っている。
【0012】
このような構成によれば、左右の軸受の振動をN回に亘ってサンプリング測定することにより、車輪がレールの継目やポイントを通過するときに生じる振動の影響を排除することができる。その結果、軸受の正常/異常判定をより正確に行うことができる。
【0013】
また、本発明の軸受監視システムは、前記発明の構成において、軸受判定手段は、車両の速度が所定の範囲内にあるときに正常/異常判定を行う構成を採っている。つまり、車両の速度が変化すると軸受の振動レベルも変化するので、一定の速度範囲にあるときに軸受の振動を測定することによって軸受の正常/異常判定をより正確に行うことができる。
【0014】
また、本発明の軸受監視システムは、前記発明の構成において、第1軸受振動測定手段は、第1のフィルタ回路を介して、加速度の周波数帯域を高周波帯域に制限して第1軸受振動レベルを測定し、第2軸受振動測定手段は、第2のフィルタ回路を介して、加速度の周波数帯域を高周波帯域に制限して第2軸受振動レベルを測定する構成を採っている。
【0015】
このような構成によれば、検出する加速度の周波数帯域を高周波帯域に制限して振動レベルを測定しているので、車輪の滑走による摩耗によって車輪の一部に平坦部が生じる車輪フラットによる振動やその他の軸受の損傷に関係しない振動の影響を排除することができる。したがって、軸受の振動成分のみを抽出することができるので、軸受の正常/異常判定をより正確に行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明は軸受の監視をコンピュータに実行させる軸受監視プログラムを提供することもできる。すなわち、車軸における両側の軸受の監視をコンピュータに実行させる軸受監視プログラムであって、車両の速度が所定の範囲内にあるか否かを判定する手順と、車両の速度が所定の範囲内にあるとき、車軸における第1の軸受の第1軸受振動レベルと第2の軸受の第2軸受振動レベルとをそれぞれ複数回測定する手順と、第1軸受振動レベルの最小値となる第1軸受最小振動レベルと第2軸受振動レベルの最小値となる第2軸受最小振動レベルとを算出する手順と、第1軸受最小振動レベルと第2軸受最小振動レベルとの比が閾値より大きいとき、最小振動レベルの大きい方の軸受が異常であると判定する手順とをコンピュータに実行させる軸受監視プログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の軸受監視システムによれば、車軸における両側の軸受の振動レベルを比較すれば軸受の正常/異常を判定することができるので、簡単な構成で軸受の損傷を早期に検知することができる。例えば、車軸における両側の軸受の振動レベルを比較し、両者の振動レベルの比が所定の閾値以上となったとき、振動レベルの大きい方の軸受に損傷が発生したと判定することができる。したがって、このような相互比較法を用いた軸受監視システムによれば、複雑な振動検出機構を追加することなく、簡単な構成で軸受の損傷を早期かつ容易に検知することができる。
【0018】
また、本発明の軸受監視システムによれば、左右の軸受の振動をN回に亘ってサンプリング測定することにより、車輪がレールの継目やポイントを通過するときに生じる振動の影響を排除することができる。その結果、軸受の正常/異常判定をより正確に行うことができる。さらに、本発明の軸受監視システムは、車両の速度が所定の範囲内にあるときに軸受の振動レベルを測定しているので、速度変化による振動変動の影響を排除して軸受の振動レベルを測定することができる。その結果、軸受の正常/異常判定をより正確に行うことができる。さらに、本発明の軸受監視システムは、検出する加速度の周波数帯域を高周波帯域に制限して振動レベルを測定しているので、車輪フラットによる振動やその他の軸受の損傷に関係しない振動の影響を排除して軸受の振動レベルのみによって軸受の正常/異常判定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〈発明の概要〉
通常、車両の車軸における左右一対の軸受の両方が同時に損傷を受けることはなく、必ず片方の軸受から損傷が始まる。本発明の軸受監視システムでは、このような現象に着目して、車軸における左右両側の軸受の振動を個別に測定する。そして、左右両側の軸受の振動測定データを比較し、両者の振動レベルの比が所定の閾値以上となった場合に、振動レベルの大きい方の軸受に損傷が発生したと判定するシステム構成となっている。このような軸受監視システムによれば、簡単な構成で軸受の損傷を早期かつ容易に検知することができる。
【0020】
〈実施の形態〉
以下、図面を参照しながら、本発明における軸受監視システムの実施の形態について詳細に説明する。図1は、一部の鉄道車両に採用されている軸はり式軸箱支持装置の概略的な構造図である。なお、軸はり式軸箱支持装置とは、車両の前後の輪軸を平行に保ち、かつ輪軸の直進安定性と曲線転向性という相反する性能をバランスよく満たすために、車両の台車枠に対して輪軸を適切な位置に保持し、さらに上下方向の荷重を支持するための装置である。また、図1に示す軸箱11は、車軸の両端のジャーナル部に取り付けられていて、軸受、潤滑装置、油切りなどを収納して回転する車軸を支持すると同時に上部の軸ばね12を介して台車枠13を支持する装置である。さらに、オイルダンパ14は、台車枠13の垂直方向とピッチング方向の振動を抑制するための装置である。
【0021】
図1に示すように、軸箱11の紙表側から紙裏側に向けて車軸が挿通されていて、軸箱11の紙表側に一方の軸受が存在し、軸箱1の紙裏側に他方の軸受が存在している。なお、軸受そのものは図1では示されていない。また、軸箱1の直上には軸ばね12が設けられていて軸受に軸ばねを介して車両重量による荷重がかかっている。したがって、長期にわたって軸受が使用されると、繰り返し荷重が加わることによる疲労のため、軸受の内輪、外輪または転動体がはく離することがある。また、何らかの原因で圧痕が発生することがある。
【0022】
そこで、本発明の軸受監視システムでは、このようなはく離現象を起こすと通常の振動(通常振動)とは異なった振動(異常振動)が発生するので、通常振動と異常振動との比を算出して軸受の異常検知を行う。つまり、一本の車軸において、軸箱11の紙表側にある第1の軸受と軸箱11の紙裏側にある第2の軸受が同時にはく離現象を起こすことはないことを前提とし、第1の軸受の振動レベル(第1軸受振動レベル)と第2の軸受の振動レベル(第2軸受振動レベル)とを個別に測定して、第1軸受振動レベルと第2軸受振動レベルとの比が所定の閾値を超えたときに、振動の大きい方の軸受が異常であると判定する。
【0023】
図2は、本発明における軸受監視システムの構成を示すブロック図である。この軸受監視システムは1車軸における2軸受分の測定系を示している。すなわち、左側軸受の測定系には、左側軸受の振動を測定する加速センサ1Lと、測定された振動成分を増幅する加速度アンプ2Lと、加速度(振動)の周波数成分を高周波帯域に制限するフィルタ回路3Lと、測定された加速度(振動)の実効値を求める実効値回路(第1軸受振動測定手段)4Lとが備えられている。また、右側軸受の測定系についても、左側軸受の測定系と同様の機能を有する加速センサ1R、加速度アンプ2R、フィルタ回路3R、及び実効値回路(第2軸受振動測定手段)4Rが備えられている。
【0024】
さらに、実効値回路4Lから左側軸受の振動レベル(左軸受振動レベル)の実効値を入力し、実効値回路4Rから右側軸受の振動レベル(右軸受振動レベル)の実効値を入力して、左軸受振動レベルと右軸受振動レベルとの比が閾値より大きいときに左側軸受又は右側軸受の正常/異常を判定する記録・判定装置(軸受判定手段)5を備えている。なお、この記録・判定装置5は車両の速度信号SVを入力して、車両が一定の速度範囲で走行しているときに左側軸受又は右側軸受の正常/異常の判定を行うように構成されている。
【0025】
次に、図2に示す本発明の軸受監視システムによる軸受の正常/異常判定の動作について説明する。本発明の軸受監視システムでは、左側軸受の左軸受振動レベルの実効値と右側軸受の右軸受振動レベルの実効値とを比較して軸受の正常/異常判定を行う相互比較法を用いている。
【0026】
左側軸受の測定系においては、加速度センサ1L、加速度アンプ2L、フィルタ回路3L、実効値回路4Lの測定をN回実行し、N個の実効値を求め、左軸受振動実効値の最小値を抽出して記録・判定装置5へ送信する。
【0027】
また、右側軸受の測定系においても、加速度センサ1L、加速度アンプ2L、フィルタ回路3L、実効値回路4Lの測定をN回実行し、N個の実効値を求め、右軸受振動実効値の最小値を抽出して記録・判定装置5へ送信する。
【0028】
これによって、記録・判定装置5は、速度信号SVを入力して車両が一定の速度範囲で走行しているか否かを判定し、車両が一定の速度範囲で走行しているならば、実効値回路4Lから取得した左軸受振動実効値の最小値と、実効値回路4Rから取得した右軸受振動実効値の最小値との比が所定の閾値を超えているか否かを判定して、左軸受振動実効値の最小値と右軸受振動実効値の最小値との比が所定の閾値を超えていれば、振動実効値の最小値が大きい方の軸受が異常であると判定する。
【0029】
次に、数値記号を用いて、本発明の軸受監視システムによる軸受の正常/異常判定の手法を説明する。車速信号SVを検出して車両が一定の速度範囲で走行している間に、1つの車軸に装着されている左側軸受と右側軸受の左右2個の軸受について、同時に、左軸受振動と右軸受振動の実効値をN回測定する。ここで、左側軸受と右側軸受をそれぞれLとRで示すと、取得した振動実効値Vは、左側軸受の左軸受振動実効値はVL…VLで表わされ、右側軸受の右軸受振動実効値はVR…VRで表わされる。そして、左側軸受における左軸受振動実効値VL…VLの最小値をVLminとし、右側軸受における右軸受振動実効値VR…VRの最小値をVRminとする。さらに、左側軸受における左軸受振動実効値の最小値VLminと右側軸受における右軸受振動実効値の最小値VRminの比がX倍以上であれば、振動実効値の最小値が大きい方の軸受が異常であると判定する。
【0030】
車両の速度が変化すると軸受の振動も変化するため、一定の速度範囲にあるときに振動を測定する必要がある。また、車両の走行中に車輪がレールの継目を通過するときや、車輪がレールやポイントを通過するときには、これらの振動の影響で異常に大きな振動が発生するため、この影響を除くために左右それぞれの軸受でN回のサンプリング測定を行い、それらの振動測定値から最小の振動実効値を選択する。なお、車輪フラットの影響を受けないように、振動による加速度の周波数帯域を高周波帯域に制限して振動実効値を求める。
【0031】
図3は、本発明の軸受監視システムによって軸受異常の判定を行う処理の流れを示すフローチャートである。まず、車両の速度がR1〜R2の範囲にあるか否かを判定する(ステップS1)。ここで、車両の速度がR1〜R2の範囲になければ(ステップS1でNoの場合)、車両の速度がR1〜R2の範囲になるまで待つが、車両の速度がR1〜R2の範囲にあれば(ステップS1でYesの場合)、左側軸受及び右側軸受についてそれぞれ振動実効値をN回測定して取得する(ステップS2)。そして、左側軸受における左軸受振動実効値の最小値VLminと右側軸受における右軸受振動実効値の最小値VRminを算出する(ステップS3)。
【0032】
さらに、左側軸受における左軸受振動実効値の最小値VLminと右側軸受における右軸受振動実効値の最小値VRminとの比が所定の閾値Xより大きいか否かの判定(つまり、VLmin/VRmin>X?)を行う(ステップS4)。ここで、VLmin/VRmin>Xであれば(ステップS4でYesの場合)、左側軸受が異常であると判定する(ステップS5)。一方、VLmin/VRmin>Xでなければ(ステップS4でNoの場合)、右側軸受における右軸受振動実効値の最小値VRminと左側軸受における左軸受振動実効値の最小値VLminとの比が所定の閾値Xより大きいか否かの判定(つまり、VRmin/VLmin>X?)を行う(ステップS6)。ここで、VRmin/VLmin>Xであれば(ステップS6でYesの場合)、右側軸受が異常であると判定する(ステップS7)。なお、VRmin/VLmin>Xでなければ(ステップS6でNoの場合)、左側軸受、右側軸受は共に正常であるので、ステップS1に戻って、前述の処理を繰り返して左右両軸受の正常/異常判定の処理を繰り返す。
【0033】
つまり、過去の事例では左側軸受と右側軸受が同時に損傷することは皆無であった経験を踏まえて、左側軸受における左軸受振動実効値の最小値と右側軸受における右軸受振動実効値の最小値とを比較して、両者の比が所定の閾値Xより大きければ、振動実効値の最小値が大きい方の軸受が異常であると判定する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の軸受監視システムによれば、鉄道車両の車軸軸受及び歯車装置軸受の正常/異常を判定するために有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一部の鉄道車両に採用されている軸はり式軸箱支持装置の概略的な構造図である。
【図2】本発明における軸受監視システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の軸受監視システムによって軸受異常の判定を行う処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1L、1R 加速度センサ
2L、2R 加速度アンプ
3L、3R フィルタ回路
4L 実効値回路(第1軸受振動測定手段)
4R 実効値回路(第2軸受振動測定手段)
5 記録・判定装置(軸受判定手段)
11 軸箱
12 軸ばね
13 台車枠
14 オイルダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸を支持する複数の軸受の正常/異常判定を行う軸受監視システムであって、
前記車軸における第1の軸受の振動レベルである第1軸受振動レベルを測定する第1軸受振動測定手段と、
前記車軸における第2の軸受の振動レベルである第2軸受振動レベルを測定する第2軸受振動測定手段と、
前記第1軸受振動測定手段が測定した第1軸受振動レベルと前記第2軸受振動測定手段が測定した第2軸受振動レベルとの比と所定の閾値とを比較し、前記比が前記閾値より大きいか否かによって前記第1の軸受及び前記第2の軸受の正常/異常判定を行う軸受判定手段と、
を備えることを特徴とする軸受監視システム。
【請求項2】
前記軸受判定手段は、前記第1軸受振動レベルと前記第2軸受振動レベルとの比が前記閾値より大きい場合に、振動レベルの大きい方の軸受が異常であると判定することを特徴とする請求項1に記載の軸受監視システム。
【請求項3】
前記第1軸受振動測定手段は、前記第1軸受振動レベルを複数回測定して振動レベルが最小となる第1軸受最小振動レベルを求め、
前記第2軸受振動測定手段は、前記第2軸受振動レベルを複数回測定して振動レベルが最小となる第2軸受最小振動レベルを求め、
前記軸受判定手段は、前記第1軸受最小振動レベルと前記第2軸受最小振動レベルとの比が前記閾値より大きい場合に、最小振動レベルの大きい方の軸受が異常であると判定することを特徴とする請求項2に記載の軸受監視システム。
【請求項4】
前記軸受判定手段は、車両の速度が所定の範囲内にあるときに前記正常/異常判定を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の軸受監視システム。
【請求項5】
前記第1軸受振動測定手段は、第1のフィルタ回路を介して、加速度の周波数帯域を高周波帯域に制限して前記第1軸受振動レベルを測定し、
前記第2軸受振動測定手段は、第2のフィルタ回路を介して、加速度の周波数帯域を高周波帯域に制限して前記第2軸受振動レベルを測定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の軸受監視システム。
【請求項6】
車軸における両側の軸受の監視をコンピュータに実行させる軸受監視プログラムであって、
車両の速度が所定の範囲内にあるか否かを判定する手順と、
前記車両の速度が所定の範囲内にあるとき、前記車軸における第1の軸受の第1軸受振動レベルと第2の軸受の第2軸受振動レベルとをそれぞれ複数回測定する手順と、
前記第1軸受振動レベルの最小値となる第1軸受最小振動レベルと前記第2軸受振動レベルの最小値となる第2軸受最小振動レベルとを算出する手順と、
前記第1軸受最小振動レベルと前記第2軸受最小振動レベルとの比が前記閾値より大きいとき、最小振動レベルの大きい方の軸受が異常であると判定する手順と、
をコンピュータに実行させる軸受監視プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−275954(P2006−275954A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99093(P2005−99093)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】