説明

軸流圧縮機,軸流圧縮機を備えたガスタービンシステム及び軸流圧縮機の改造方法

【課題】ガスタービンの部分負荷運転時等による軸流圧縮機の最終段静翼の翼負荷の増加に対する信頼性を向上させた軸流圧縮機を提供する。
【解決手段】複数の動翼列が取り付けられたロータと複数の静翼列が取り付けられたケーシングとによって環状流路を形成し、前記環状流路の流れ方向について最も下流側に設けられた前記動翼列である最終段動翼列の下流側に、前記静翼列を2翼列以上有し、前記最終段動翼列の下流側に設けられた前記静翼列において、最も上流側に設けられた第1の静翼列の翼負荷が、前記第1の静翼列の一列下流側に設けられた第2の静翼列の翼負荷よりも小さくなるよう設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン用あるいは産業用の軸流圧縮機に関するものであり、特に軸流圧縮機の後段側に位置する静翼列に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、多段の軸流圧縮機の模式図を示す。圧縮機1は、複数の動翼列31が取り付けられた回転するロータ22と、複数の静翼列34を取り付けたケーシング21から構成され、内部にはロータ22とケーシング21より環状流路が形成されている。動翼列31と静翼列34は軸方向に交互に配列されており、それぞれ1つの動翼列と静翼列とで1つの段を構成している。初段動翼列の上流側には、吸込み流量を制御するための入口案内翼33(IGV:Inlet Guide Vane)が設けられている。また、最終段動翼列32の下流側には、静翼列である最終段静翼列35及び出口案内翼(EGV:Exit Guide Vane)36,37が設けられている。なお、図3では出口案内翼が軸方向に2翼列設けられた構成を示す。
【0003】
軸流圧縮機の流入空気はこの環状流路を通過しながら、各翼列により減速,圧縮されて高温高圧の気流になる。各翼列の圧力上昇(翼列負荷に相当)は翼列の設定角度や運転状態等により決定される。当然、翼列負荷が最も厳しくなる運転状態においても、翼列の空力性能と信頼性を確保する必要がある。
【0004】
特許文献1には、各段の静翼を独立可変翼として制御して、各段の負荷を平均化する圧縮機の負荷制御システムが公開されている。しかし、軸流圧縮機の後段側に位置する静翼列の負荷分布については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−61594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、IGVを閉じた状態で圧縮機を運転する場合、圧縮機の後段側の翼列負荷が上昇し、最終段静翼列およびその下流側のEGVの負荷も上昇する。また、最終段静翼列の上流側の内周抽気スリットから圧縮空気を多量に抽気した場合、最終段静翼列の内周側の軸流速度が低減することで軸方向に対する流れの角度(流入角)が局所的に大きくなるため、最終段静翼列の翼負荷が増大する可能性がある。
【0007】
翼負荷の増加に伴い、翼面で流れの剥離が発生する可能性が増加する。このような剥離現象は翼振動の増大を招く恐れがあり、翼列の性能や信頼性に悪影響を及ぼす。そのため、圧縮機の後段側に設けられた静翼列の負荷を適切に設定することが、圧縮機全体の信頼性や空力性能の観点から重要となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、信頼性を向上した軸流圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の軸流圧縮機は、複数の動翼列が取り付けられたロータと複数の静翼列が取り付けられたケーシングとによって環状流路を形成し、前記環状流路の流れ方向について最も下流側に設けられた前記動翼列である最終段動翼列の下流側に、前記静翼列を2翼列以上有し、前記最終段動翼列の下流側に設けられた前記静翼列において、最も上流側に設けられた第1の静翼列の翼負荷が、前記第1の静翼列の一列下流側に設けられた第2の静翼列の翼負荷よりも小さくなるよう設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、信頼性を向上した軸流圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1(a)】一般的な後段静翼列の翼負荷分布図。
【図1(b)】本発明の実施形態の後段静翼列の翼負荷分布図。
【図2】本発明の実施形態の一つであるガスタービンのシステム概略図。
【図3】軸流圧縮機の子午面断面図。
【図4】軸流圧縮機の後段静翼列のスパン方向断面図。
【図5】最終段静翼列のスパン方向断面図と、それに対応した流入角−全圧損失特性図。
【図6】本発明の実施形態の一つである最終段静翼列の流入角−全圧損失特性図。
【図7】本発明の実施形態の一つである後段静翼列の翼負荷分布の比率。
【図8】本発明の実施形態の一つである後段静翼列のスパン方向断面図。
【図9】本発明の実施形態の一つであるガスタービン運転負荷範囲の拡大効果。
【図10】本発明の実施形態の一つである2軸式ガスタービンのシステム概略図。
【図11(a)】本発明の実施形態の後段静翼列の他の翼負荷分布図。
【図11(b)】本発明の実施形態の後段静翼列の更に他の翼負荷分布図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例えば、タービンと圧縮機が1つの軸で構成される1軸式ガスタービンの運転には、ガスタービンの燃焼温度を定格状態に保持し、圧縮機のIGV33を閉じることでガスタービンの運用負荷領域を拡大する運転方法がある。また、タービン側が高圧タービンと低圧タービンとで分かれ、回転軸が別軸構成となっている2軸式ガスタービンの部分負荷運転では、高圧タービンの出力と圧縮機動力をバランスさせるために、圧縮機のIGV33を通常より閉じた運転が必要となる。このような運転では圧縮機の後段側の翼列負荷が上昇し、翼面で剥離が発生する可能性がある。そのため、信頼性及び空力性能の低下が懸念される。
【0013】
図2に本発明の実施例の一つであるガスタービンシステムの概略図を示す。以下、図2を用いてガスタービンシステムの構成について説明する。
【0014】
図2に示すガスタービンシステムは、空気11を圧縮して圧縮空気12を生成する圧縮機1と、圧縮空気12と燃料13を混合して燃焼させる燃焼器2と、高温の燃焼ガスにより回転駆動するタービン3から構成されている。圧縮機1とタービン3は回転軸5を介して負荷機器である発電機4と接続されている。なお、ここでは1軸式のガスタービンを想定して説明を行うが、図10に示すような、タービン側が高圧タービン3aと低圧タービン3bとで別軸構成となっている2軸式ガスタービンについても同様のことが言える。
【0015】
次に、作動流体の流れについて説明する。作動流体である空気11は圧縮機1へ流入し、圧縮機1で圧縮された後に圧縮空気12として燃焼器2に流入する。燃焼器2で圧縮空気12は燃料13と混合・燃焼され、高温燃焼ガス14が生成される。燃焼ガス14はタービン3を回転させた後、排気ガス15として系外部へ放出される。発電機4は、圧縮機1とタービン3とを連通する回転軸5を通じて伝えられたタービンの回転動力により駆動される。
【0016】
圧縮機1の後段からは、圧縮空気の一部がタービンロータ冷却空気16(およびシール空気)として抽気され、ガスタービンの内周側流路を介してタービン側へ供給される。この冷却空気16は、タービンロータを冷却しながら、タービンの高温燃焼ガス流路へ導かれる。なお、冷却空気16はタービンの高温燃焼ガス流路からタービンロータ内部へ高温ガスの漏れこみを抑制する働きも有しており、シール空気の役割も兼ねている。
【0017】
次に、図3を用いて、圧縮機の内部構造について説明する。圧縮機1は、複数の動翼列31が取り付けられた回転するロータ22と、複数の静翼列34を取り付けたケーシング21から構成され、ロータ22とケーシング21より環状流路が形成されている。動翼列31と静翼列34は軸方向に交互に配列しており、1つの段はそれぞれ1つの動翼列と静翼列とで構成される。動翼列31の上流側には、吸込み流量を制御するための入口案内翼(IGV)33が設けられている。また、前段側静翼列はガスタービン起動時の旋回失速を抑制するために可変機構を備えている。なお、図3では可変機構を備えた静翼列はIGV33と静翼列34だけとしたが、可変静翼列を更に複数段備えている場合もある。
【0018】
環状流路の流れ方向について最も下流側に設けられた動翼列である最終段動翼列32の下流側には、上流側から順に、最終段静翼列35及び出口案内翼(EGV)36,37という静翼列が3翼列設けられている。EGVは、環状流路内の動翼列が作動流体に与えた旋回速度成分を軸流速度成分に転向させる目的で設置された静翼列である。EGV37を出た圧縮空気12を減速させて燃焼器へ導入するために、圧縮機の下流側にはディフューザ23が設置されている。なお、図3では出口案内翼が軸方向に2段構成の場合を示すが、EGVが1翼列であっても、それ以上であっても構わない。また、最終段動翼列32の下流側,最終段静翼列35の上流側の内周には、タービンロータ冷却空気16を抽気するために内周抽気スリット24が設けられている。
【0019】
圧縮機の環状流路内に流入する空気11は、動翼列の回転により流体の運動エネルギーが増加され、静翼列で減速されて運動エネルギーを圧力エネルギーに変換させることで昇圧される。作動空気は動翼列により旋回速度が与えられるため、圧縮機の最終段静翼35への流れは軸流方向に対して約50〜60degの流入角で流入する。一方、空力性能向上のためには、圧縮機出口に位置するディフューザ23へ流入する流れは、流入角ゼロ(軸流速度成分のみ)にすることが望ましい。即ち、最終段静翼35と出口案内翼36,37から構成される静翼列で約60degから0degまで流れを転向させることが空力性能向上のために重要となる。
【0020】
図4を用いて、図3のA−A断面で示す静翼列断面の流れ場について説明する。簡単のため、以降は第一の静翼列である最終段静翼列35を静翼列I、第2の静翼列であるEGV36を静翼列II、第3の静翼列であるEGV37を静翼列IIIと称して説明を行う。静翼列Iから静翼列IIIはそれぞれ複数枚の翼が周方向についてあるピッチ長さでケーシングに取り付けられている。本図では、あるスパン方向断面について周方向に2枚の翼列だけを示し、その他の翼は省略してある。
【0021】
静翼列Iに流入角βIで流入した流れは、静翼列Iで流れが転向され、流出角βIIで流出する。流出した流れは、流入角βIIで静翼列IIに導入される。静翼列IIでも流れは転向され、静翼列IIの流出角βIIIで静翼列IIIに導入される。静翼列IIIで流れは軸方向に転向され、最終的に軸流速度成分でディフューザへ導入される。
【0022】
このような流れ場において、静翼列の負荷は、流入角と流出角の差である転向角によって定義される。即ち、転向角が大きいほど翼負荷が増大し、翼列で発生する損失も大きくなる。反対に、転向角が小さいほど翼負荷は小さくなり、損失も小さい。静翼列Iから静翼列IIIまでの全体の転向角は静翼列IIIの流出角がゼロであるので、最終段動翼列32の流出角で決定され、この最終段動翼列の流出角は圧縮機の運転状態によって異なる。圧縮機の高性能化のためには、静翼列Iから静翼列IIIの負荷分布を適切に設定することが重要となる。
【0023】
ここで、圧縮機の高効率化を優先した場合の、静翼列Iから静翼列IIIの負荷分布を図1(a)に示す。図1(a)では静翼列Iが最も負荷が大きく、静翼列II,IIIと、下流側になるにつれて、負荷が順次下がるように設定されている。また、静翼列IIIからの流出角を軸流方向にするため、翼列の取付角度(軸方向から翼コード長の傾き角度)は静翼列Iで大きく、静翼列IIIで小さくなる。なお、静翼列IIおよび静翼列IIIのような取付角度を小さくした翼列ほど、流入角が大きくなった際に、図5に示すような、翼列の負圧面側における流れの剥離が発生しやすくなる。
【0024】
剥離が発生すると、流体励振による翼列の信頼性の低下や空力性能の低下が生じる。特に、下流側の静翼列で剥離が生じた場合、剥離した流れがディフューザへ流入する等の理由から、更なる性能低下が生じる恐れがある。従って、圧縮機を高効率化させるためには、静翼列II,静翼列IIIになるにつれて転向角を小さくし、翼負荷を低減させて剥離を抑制できる図1(a)のような負荷配分が良いと考えられる。
【0025】
次に、ガスタービンシステムに用いた場合を例に、圧縮機の運転状態について説明する。
【0026】
ガスタービンは定格運転のみならず起動時や部分負荷時の性能および信頼性を確保する必要がある。ガスタービンの部分負荷特性を向上させることでガスタービンの運用負荷領域を拡大することは、夜間など電力がそれ程必要でないときの運転上のメリットが大きい。タービンと圧縮機とが同一軸で構成される1軸式ガスタービンでは、運用負荷領域を拡大させるために、燃焼温度を定格温度に保持した状態でIGV開度の開閉により圧縮機吸込流量を変化させ、ガスタービン出力を制御する方法がある。
【0027】
このような運転において、IGV33を閉じた場合、下流側になるほど流れの軸流方向の速度成分が小さくなり、周方向の速度成分の比率が高まる。そのため、静翼に対する流入角は増大し、圧縮機の後段翼列の負荷が増加することとなる。特に、最終段動翼列の流出角が流入角となる静翼列Iは、流入角の変動が顕著であり、負荷の増大が懸念される。また、大気温度が低い場合には、この部分負荷運転時の後段翼列の負荷増加が更に顕著となる。翼負荷の上限までのマージンが無くなり、翼負荷が限界ラインに達すると、翼列は剥離により流体励振されて、その翼列振動応力が許容応力値以上になると翼列が損傷する可能性が高くなる。
【0028】
図3で示したように、圧縮機前段側に可変機構を備えた翼列が複数段ある場合、通常IGV33と連動して可変静翼列34(a)も開閉されるため、IGV33を閉じた部分負荷運転時には可変静翼列34(a)も閉じられる。したがって、可変静翼列34(a)が設けられた段では段仕事が低減し、負荷が低減することとなる。しかし、圧縮機全体の圧力比自体は変わらないため、前段側の翼負荷の低減分に応じて、後段翼列の負荷が更に増大する結果となる。なお、環状流路の後段側では側壁境界層が発達しているため、側壁部分では軸流速度が低下し、その影響で静翼列の側壁部では流入角が大きくなり主流部に比べて負荷が増大する。これにより後段側翼列の側壁部では前段側の翼列より剥離しやすい状態となる。
【0029】
図10に示すような、タービンが高圧タービン3aと低圧タービン3bの別軸構成となっている2軸式ガスタービンの部分負荷運転では、高圧タービン3aの出力と圧縮機動力をバランスさせるために、IGV33を閉じて吸込流量を低減させて圧縮機動力を小さくし、高圧タービン3aでは圧力比を高めにさせて出力を大きくする必要がある。このようなIGV33および可変静翼列34(a)が閉じられた運転では、前述の通り圧縮機後段側の翼列の負荷が増加するため、翼列の信頼性および性能を確保することが課題となる。
【0030】
また、圧縮機の入口で多量の水噴霧によりガスタービンの出力および効率向上させるようなガスタービンシステムにおいても、圧縮機の前段側の翼列負荷が低減し、後段側の翼列負荷が増加する傾向となる。圧縮機の前段側では水分が蒸発することで作動流体の流量が増加する効果が、作動流体の温度低下による修正回転数が増加する効果に比べて大きいため、軸方向の速度成分が水噴霧以前よりも増加する。したがって、静翼列に対する流入角の増大が抑制され、負荷の増大が抑制される。一方、圧縮機全体の圧力比自体は変わらないので、前段側翼列の負荷低減分は後段側翼列の負荷増加によって補うこととなる。また、後段翼列では水分が蒸発することによる作動流体の流量が増加する効果に比べて、作動流体の温度低下による修正回転数が増加する効果が大きくなるため、後段翼列の流入角が増加して翼負荷が増加する。したがって、IGVを閉じた運転と同様、翼列の信頼性および性能を確保することが課題となる。
【0031】
更に、最終段静翼列(静翼列I)の上流側には、圧縮機の内周側にタービンロータ冷却空気16を抽気する内周抽気スリット24がある。内周抽気スリット24で多量の抽気量を取り出した場合、抽気によって静翼列Iの内周側の軸流速度が低減する。そのため、静翼列Iの内周側において流入角が大きくなり翼負圧面側で失速して大きく剥離する可能性がある。図3の静翼列Iのようにケーシングに取り付けられた片持ち支持の静翼では、特に内周側で剥離が発生すると翼列は流体励振され、バフェッティングや失速フラッタといった流体振動により翼列を損傷する恐れがある。
【0032】
図5に、効率を優先した静翼列Iのスパン方向断面図と、翼へ流入する空気の流入角−全圧損失特性曲線41を示す。図5を用いて、静翼列Iの翼負荷増加の問題について説明する。
【0033】
静翼列Iはガスタービン定格運転の流入角βdにおいて性能が最大で、かつ起動から定格といった様々な運転範囲においてチョーク側βcとストール側βsからなる作動領域43を十分に確保できるように設計される。流入角βdで静翼列Iに流入した流れは翼負圧面側に沿って減速され、静翼列IIへ導入される。
【0034】
しかし、ガスタービンの部分負荷運転や、低大気温度下での運転,内周抽気量の増加,圧力比の増加などによって静翼列Iに対する流入角は大きくなる。そして、ストール側の限界流入角βs以上で静翼列Iに流入した流れは、静翼列Iの入射角(インシデンス)が大きくなり、負圧面側で剥離するため静翼列Iは失速する。このような剥離現象は、翼列の性能や信頼性に悪影響を及ぼすため、翼面での剥離を抑制するために静翼列Iの作動領域43の拡大が必要である。そのためにも静翼列Iから静翼列IIIの翼負荷配分の適正化を図ることが重要となる。
【0035】
図1(b)に本実施例の静翼列Iから静翼列IIIの翼負荷分布を示す。図1(a)と図1(b)の違いは、静翼列Iの負荷を静翼列IIの負荷よりも小さく設定している点である。また、静翼列IIIの負荷を静翼列Iの負荷よりも小さく設定している点である。
【0036】
本実施例による静翼列Iの負荷を小さく設定した効果について、図6を用いて説明する。図6は、静翼列Iに流入する空気の流入角−全圧損失特性図であり、点線の特性曲線41は図5と同一である。静翼列Iの翼負荷を低減させると、流入角−全圧損失特性曲線42のように、流入角に対するチョーク限界およびストール限界を増加させることができる。特にストール側の限界の流入角βsを拡大させることが可能となり、翼列の作動領域43が拡大できる。更には、静翼列Iの翼負荷軽減前の損失と比較して、損失を低減することができ、高効率化も図れる。
【0037】
このように静翼列Iの翼負荷を軽減して作動領域を拡大することで、翼負荷軽減前には静翼列Iに対して悪影響を及ぼすような流れを生じさせていた運転条件になったとしても、翼負荷の限界ライン以下で翼列を作動させることができる。即ち、静翼列Iのインシデンスをインシデンス限界以下にすることで翼負圧面での剥離を抑制でき、静翼列Iの信頼性の向上を図ることができる。
【0038】
なお、図1(b)のような負荷分布にした場合、静翼列Iの負荷の低減量に応じて静翼列IIの負荷が増加する。しかし、静翼列IIは上流には静翼列Iが設けられているため、静翼列IIでは静翼列Iよりも運転状態の変化による流入角の増大の影響が小さく、内周抽気等による局所的なインシデンスの増大もないため、流入角が安定している。また、下流側に静翼列IIIがあるので、静翼列IIにおける翼面での剥離は直接的にディフューザへ影響を及ぼさない。そのため、図1(b)の負荷分布を適用することで、ガスタービン性能および静翼列の信頼性を両立させることができる。
【0039】
また、静翼列IIIの負荷は図1(a)から変更していない。静翼列Iの負荷を下げて、その負荷低減量を静翼列IIIでも負荷分配した場合、静翼列IIIの負荷増加に伴い、負圧面側で流れの剥離を引き起こす可能性がある。静翼列IIIは流出角をゼロにするために取付角度を軸流方向としている。そのため、流入角が大きくなるほど静翼列Iまたは静翼列IIに比べて、静翼列IIIは翼面での剥離が発生しやすい。静翼列IIIでの剥離は、翼の信頼性の問題だけではなく、その剥離した流れは下流側のディフューザへ流入するので、ディフューザ性能の低下に繋がる。さらに、ディフューザ性能低下は、燃焼器への圧損の増加に繋がり、ガスタービン性能低下に大きく影響を及ぼす恐れがあるため、静翼列IIIの負荷は増加させないことが望ましい。
【0040】
図7に示す静翼列Iから静翼列IIIの負荷配分の比率を用いて、図1(a)と図1(b)で示した静翼列Iの負荷低減割合の具体例を示す。
【0041】
静翼列IIIの翼負荷を基準として、静翼列Iの負荷は1.0〜1.3倍、静翼列IIの負荷は1.3〜1.6倍にすることで、静翼列Iの作動領域を拡大でき、翼列の信頼性を確保することができる。静翼列Iの負荷を下げ過ぎると、反対に静翼列IIの負荷が増加し、静翼列IIの翼面で剥離する可能性がある。この剥離があまりに大きい場合、静翼列IIIの翼負圧面でも剥離が発生する恐れがある。したがって、静翼列IIの負荷増加は、静翼列IIIの負荷に対して1.3〜1.6倍の範囲内とし、静翼列IIで大きな剥離が発生しないように負荷を設定することが望ましい。
【0042】
次に、図8を用いて、翼負荷を低減する方法の一例を説明する。図8は、静翼列Iから静翼列IIIのスパン方向断面図である。通常、ガスタービンの運転領域を考慮して圧縮機翼列は広い作動範囲を確保できるように設計される。しかし、特殊な運転を行うことで、静翼列Iの流入角が大きくなり、空気の静翼列Iへのインシデンスが増大する可能性がある。このような場合、静翼列Iの信頼性を確保するために翼負荷を低減させる方法が必要となる。図8では、改造前の静翼列35,36を点線、改造後の静翼列51,52を実線で示している。
【0043】
静翼列Iは、翼重心を中心に取付角度が大きくなるように回転71させる。翼を回転71させることで、静翼列Iの流入角が運転状態に応じて一定なのに対し、流出角を大きくすることができる。そのため、転向角を小さくすることができ、静翼列Iの翼負荷を低減できる。また、静翼列Iを回転71させて取付角度を大きくすることで、空気の静翼列Iへのインシデンスが小さくなる。そのため、ストール側の作動領域を拡大することができ、翼負圧面側の剥離を抑制が可能となる。
【0044】
しかし、静翼列Iの取付角度を大きくすると、流出角が大きくなり、静翼列IIの流入角が大きくなる。この流入角の増大に対し、静翼列Iと同様に静翼列IIの取付角度を変更した場合、静翼列IIIへの流入角が大きくなり、結果的に静翼列IIIの翼負荷が増大してしまう。しかし、前述したように、静翼IIIは流出角をゼロにする必要があり、翼列負荷も小さいほうが望ましい。
【0045】
そこで、静翼列IIは翼前縁側と翼後縁側を圧力面側に曲げて72キャンバ角を大きくさせる。このように曲げることで、静翼列IIにおける転向角を増加させることができる。すなわち、流入角の増加に起因する静翼列IIのインシデンスの増大を緩和させ、かつ流出角を一定に保つことができる。このような翼形状にすることで、静翼列IIへの流入角の増加に対してインシデンスを適正に保つことができる。更に、静翼列Iにおける転向角の減少分を静翼IIの転向角の増加分で補うことにより、静翼列IIの流出角を一定に保持することができるため、静翼列IIIおよびディフューザに悪影響を及ぼすことはない。
【0046】
図8に示した改造による、ガスタービンの運転範囲への効果について、図9を用いて説明する。図9では、一軸式ガスタービンを例としており、ガスタービン負荷に対するIGV開度変化と燃焼温度の特性を示している。また、IGV開度を変化させることで燃焼温度一定で出力変化できる領域をガスタービンの運用負荷領域としている。
【0047】
改良前では燃焼温度一定でIGVを閉じていくと、あるIGV開度61で圧縮機後段側の翼列負荷が増大し、特に静翼列Iで負荷限界ラインに到達したときが低負荷側の限界となる。図9では運用負荷Iで示している。ここで、図8のように改良することで、静翼列Iの負荷限界ラインまでのマージンが拡大するため、IGVを閉じる限界62も拡大できる。そのため、ガスタービンの運用負荷領域も運用負荷Iから運用負荷IIまで拡大させることが可能となる。
【0048】
次に、図11を用いて、静翼列が3列以上存在する場合について説明する。図11は最終段動翼列よりも下流側に静翼列が4列設けられている場合における、各静翼列の負荷分布を示している。
【0049】
図11(a),(b)は静翼列が3列の場合と同様、最終段動翼列の下流側に設けられた静翼列において最も上流側に設けられている静翼Iの翼負荷を、その一列下流側に設けられた静翼列IIの翼負荷よりも小さくなるように設定している。また、最も下流側に設けられた静翼列IIIの翼負荷が静翼Iの翼負荷よりも小さくなるように設定されていることも同様である。
【0050】
図11の(a)と(b)との違いは、静翼IIと静翼IIIとの間に設けられている静翼II′の翼負荷の設定である。図11(a)のように負荷を設定した場合、静翼IIに加えて静翼II′においても負荷を大きく分担することができる。そのため、静翼Iの翼負荷を更に小さく設定することが可能となり、軸流圧縮機の信頼性をより大きく向上させることができる。
【0051】
また、図11(a)のように負荷を設定した場合であれば、静翼IIで負荷を大きく持つことで静翼Iの負荷を低減でき、信頼性を向上させることができる。また、静翼IIから静翼IIIに向うにつれて、翼負荷が下がっていくような負荷分布となるように静翼II′の翼負荷を設定することで、ディフューザへの渦流の流入等が抑制できる。そのため、空力性能を良好に保つことができ、高い効率を達成できる。
【0052】
このように、前述のような負荷分布を採用することで、1軸式および2軸式ガスタービンの部分負荷運転などのIGVを閉じた運転における圧縮機の後段側の静翼列の負荷増加に対して、最終段静翼列の翼負荷が限界ラインに達することを抑制できるため、翼列の信頼性を向上させることができる。これにより、信頼性の向上した軸流圧縮機を提供することが可能となる。また、最終段静翼の上流側にタービンロータ冷却用空気を抽気する内周抽気スリットが存在する場合においても、信頼性を向上することができる。
【0053】
更に、圧縮機後段側の静翼列の負荷配分を適正化して増大させた翼負荷の限界ラインまでのマージン生かすことで、IGV開度の変化量を拡大できる。したがって、圧縮機吸込流量をより幅広く制御可能となり、ガスタービンの部分負荷における運用範囲を拡大することができる。また、同様に、内周抽気スリットからの抽気量を増加させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
ガスタービン用軸流圧縮機以外に、産業用の軸流圧縮機においても適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 圧縮機
2 燃焼器
3 タービン
4 発電機
5 回転軸
11 空気
12 圧縮空気
13 燃料
21 ケーシング
22 ロータ
23 ディフューザ
24 内周抽気スリット
31 動翼列
32 最終段動翼列
33 入口案内翼(IGV)
34 静翼列
35 最終段静翼列
36,37 出口案内翼(EGV)
41 効率を優先した静翼列Iの流入角−全圧損失特性曲線
42 本実施例の静翼列Iの流入角−全圧損失特性曲線
43 翼列作動範囲
51 静翼列Iの改良翼列
52 静翼列IIの改良翼列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の動翼列が取り付けられたロータと複数の静翼列が取り付けられたケーシングとによって環状流路を形成する軸流圧縮機において、
前記環状流路の最終段動翼列の下流側に、静翼列を2翼列以上有し、
該静翼列の内、最も上流側に設けられた第1の静翼列の翼負荷が、前記第1の静翼列の一列下流側に設けられた第2の静翼列の翼負荷よりも小さくなるよう設定されていることを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の軸流圧縮機において、
前記最終段動翼列の下流側に、前記静翼列を3翼列以上有し、
前記環状流路の流れ方向について最も下流側に設けられた第3の静翼列の翼負荷が、前記第1の静翼列の翼負荷よりも小さくなるよう設定されていることを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の軸流圧縮機において、
前記第3の静翼列の翼負荷を基準として、
前記第1の静翼列の翼負荷が1.3倍以下となるよう設定し、
前記第2の静翼列の翼負荷が、前記第1の静翼列の翼負荷よりも大きく、且つ、1.3〜1.6倍となるように設定したことを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項4】
請求項2に記載の軸流圧縮機において、
前記最終段動翼と前記第1の静翼列との間から圧縮空気を抽気する内周抽気スリットを備えたことを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項5】
圧縮空気と燃料を混合して燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼ガスにより回転させられるタービンと、前記タービンの回転動力によって駆動される軸流圧縮機及び負荷機器とを備えたガスタービンシステムにおいて、
前記軸流圧縮機の最終段動翼列の下流側に静翼列を3翼列以上有し、
該静翼列のうち、最も上流側に設けられた第1の静翼列の翼負荷が、最も下流側に設けられた第3の静翼列の翼負荷よりも大きくなるよう設定され、
前記第1の静翼列の一列下流側に設けられた第2の静翼列の翼負荷が、前記第1の静翼列の翼負荷よりも大きくなるよう設定されている
ことを特徴とするガスタービンシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のガスタービンシステムであって、
前記タービンは、それぞれ異なる軸を有する高圧タービンと低圧タービンとを備えた
ことを特徴とするガスタービンシステム。
【請求項7】
複数の動翼列が取り付けられたロータと、複数の静翼列が取り付けられたケーシングとによって環状流路を形成し、前記環状流路の最終段動翼列の下流側に静翼列を3翼列以上有する軸流圧縮機における、前記最終段動翼列の下流側に設けられた前記静翼列の負荷の分配方法であって、
最下流に設けられた第3の静翼列の負荷を基準として、前記最終段動翼列の1列下流側に設けられた第1の静翼列の翼負荷が1.3倍以下となるよう設定し、第1の静翼列の一列下流側に設けられた第2の静翼列の翼負荷を前記第1の静翼列の翼負荷よりも大きく、且つ、1.3〜1.6倍となるように設定することを特徴とする負荷の分配方法。
【請求項8】
作動流体の流れ方向について最も下流側に設けられた最終段動翼列の下流側に、静翼列を2翼列以上有する軸流圧縮機の改造方法であって、
前記静翼列のうち、最も上流側に設けられた第1の静翼列は翼重心を中心に取付角度が大きくなるように回転させ、
前記第1の静翼列の一列下流側に設けられた第2の静翼列については翼前縁側と翼後縁側を圧力面側に曲げてキャンバ角を大きくする
ことを特徴とする静翼列の改造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の静翼列の改造方法において、
前記第1の静翼列の取付角度を大きくなるよう回転させたことによる前記第1の静翼列における作動流体の転向角の減少分と、前記第2の静翼列の翼前縁側と翼後縁側を圧力面側に曲げてキャンバ角を大きくしたことによる転向角の増加分とを等しくする
ことを特徴とする静翼列の改造方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【公開番号】特開2012−62814(P2012−62814A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207448(P2010−207448)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】