説明

軸肥大加工機及びその加工方法

【課題】金属棒材からなるワークに素材割れ等の不具合を招くことなく、拡径部の成形に要する加工時間の短縮を図ることができる軸肥大加工機及びその加工方法を提供することにある。
【解決手段】軸肥大加工機及びその加工方法は拡径部の成形過程中、拡径部の外径(D)の増加(又はワーク(W)の圧縮変位速度(V)の減少)を把握し、この増加(又は減少)に従いワーク(W)への加圧力(F)を増加させるべく制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属棒材の途中にカラー状の拡径部を成形する軸肥大加工機及びその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の軸肥大加工機及びその加工方法は、金属棒材の軸線方向に離間した一対の保持体に金属棒材を嵌入保持し、そして、少なくとも一方の保持体を金属棒材の軸線回りに回転させながら、一対の保持体を近接させるべく一方の保持体を移動させて金属棒材にその軸線方向の加圧力を付与するとともに、一方の保持体を前記軸線に対して傾動させることで、一対の保持体間における金属棒材の部位を所望の外径まで塑性変形により拡径させ、この後、前記一方の保持体の傾動を元に戻すことで金属棒材の一部に一定幅の拡径部を成形する(特許文献1,2)。
【特許文献1】特許第3418698号明細書
【特許文献2】特許第3788751号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1,2に開示された軸肥大加工機及び加工方法はその実質的な成形過程にて、その金属棒材に付与する加圧力を一定として前記拡径部の成形加工を行っているが、この成形過程の初期段階での拡径部の成長速度に比べて、終期での拡径部の成長速度は大幅に低下し、これは拡径部の加工時間を長くしてしまう大きな要因である。
このことは、特許文献2の図3に相当する図6のグラフからも明らかであり、図6中、D,Lは金属棒材自身の外径及び一対の保持体における初期の離間間隔をそれぞれ示し、また、D,Lは拡径部の成形過程において、金属棒材の回転回数Nでの拡径部の外径及び離間間隔をそれぞれ示す。従って、図6中のD/Dは拡径部の拡径比を表す一方、L/Lは金属棒材の圧縮比を表しており、これらD/D及びL/Lは何れも回転回数が増加するに連れ、即ち、成形過程の終期にて一定値に収束する傾向を示している。なお、図6中、θは金属棒材の曲げ角度である。
【0004】
上述した加工時間の短縮を図るため、熟練作業者は自身の経験に基づき、成形過程にて金属棒材に付与する加圧力を増加させているものの、加圧力が過度になれば、金属棒材に素材割れが発生してしまい、成形加工品の歩留まり率を悪化させる。
なお、特許文献1の場合、成形過程の初期にて加圧力を低く設定し、この後、加圧力を増加させているが、これは保持体よる金属棒材の掴み力の軽減を目的とし、成形過程中、金属棒材への加圧力は実質的に一定である。
【0005】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、拡径部の成形に要する加工時間の短縮と、拡径部の安定した成形加工との両立が可能となる軸肥大加工機及びその加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、金属棒材をその軸線方向に離間した位置にてそれぞれ嵌入して保持する一対の保持体と、一方の保持体を前記軸線の回りに回転させる駆動手段と、一方の保持体を他方の保持体に近接させるべく相対的に移動させ、前記金属棒材に対して前記軸線方向に圧縮する加圧力を付与する加圧手段と、前記軸線に対して、一方の保持体を傾動させる傾動手段とを備え、前記金属棒材を回転させながら、前記金属棒材に加圧力を付与するとともに前記一方の保持体を傾動させることで、前記一対の保持体間における前記金属棒材の部位に拡径部を成形する軸肥大加工機において、本発明の軸肥大加工機は、前記金属棒材の成形過程にて、前記金属棒材の拡径状態を測定する状態測定手段と、この状態測定手段により検出された前記拡径状態に基づき、前記加圧手段による前記加圧力を制御する制御装置とを更に具備する(請求項1)。
【0007】
上述した請求項1の軸肥大加工機によれは、拡径部の成形過程中、金属棒材に付与される加圧力は一定ではなく、拡径部の拡径状態に基づいて加圧力が制御される。
具体的には、前記状態測定手段は、前記金属棒材の成形過程における拡径部の外径若しくはこの外径に相関するパラメータを前記拡径状態として測定し、そして、制御装置は、測定された前記拡径状態に基づいて前記成形過程の前記金属棒材に加わる応力を検出する検出手段を含み、この検出手段にて検出した前記応力を一定に維持すべく前記加圧力を制御する(請求項2)。
【0008】
この場合、拡径部の成形が進行するに連れ、一対の保持体間の離間距離が縮小するとともに拡径部の受圧面積が増加する結果、金属棒材に加わる応力が低下し、この低下を補うべく加圧力が増加される。
一方、前記状態測定手段は、前記金属棒材の成形過程にて前記金属棒材における前記軸線方向の圧縮変位速度を前記拡径状態として測定し、そして、前記制御装置は、前記状態測定手段により測定された前記圧縮変位速度を一定に維持すべく前記加圧力を制御するものであってもよい(請求項3)。
【0009】
この場合、拡径部の成形速度は金属棒材における軸方向の圧縮変位速度で表されるから、成形過程にて圧縮変位速度が低下する状況に至れば、この低下を補うべく加圧力が増加される。
好ましくは、前記加圧手段は、前記一方の保持体を他方の保持体に対して接離させるボール螺子型の送り機構を含む(請求項4)。このようなボール螺子型の送り機構はその保持体の移動、即ち、金属棒材の圧縮変位速度を高精度に可変でき、この結果、加圧力は極め細かく制御される。
【0010】
本発明は上述した請求項1〜3の加工機にそれぞれ対応する請求項5〜7の軸肥大加工方法もまた提供し、請求項5の加工方法は、前記金属棒材の成形過程にて、前記金属棒材の拡径状態を測定し、この測定した拡径状態に基づいて前記加圧力を制御する。
そして、請求項6の加工方法は、前記金属棒材の成形過程における拡径部の外径若しくはこの外径に相関するパラメータを前記拡径状態として測定し、この測定した前記拡径状態に基づいて前記成形過程の前記金属棒材に加わる応力を検出し、この検出した前記応力を一定に維持すべく前記加圧力を制御する。
【0011】
更に、請求項7の加工方法は、前記金属棒材の成形過程にて前記金属棒材における前記軸線方向の圧縮変位速度を前記拡径状態として測定し、この測定された前記圧縮変位速度を一定に維持すべく前記加圧力を制御する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜3,5〜7の軸肥大加工機及びその加工方法は、拡径部の成形過程にて、金属棒材に加わる応力又はその圧縮変位速度を一定に維持すべく、金属棒材に付与する加圧力を制御しているので、金属棒材に素材割れ等の損傷を発生させることなく、拡径部の成形加工に要する加工時間の短縮が可能となり、成形加工の生産性を大幅に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1を参照すると、軸肥大加工機が縦断面にて示されている。
軸肥大加工機は、金属棒材のワークが配置されるべき基準線Aを有し、この基準線Aは水平に延びている。ここで、ワークは中実及び中空の何れであっても良い。
基準線Aの下方には装置フレーム2が配置され、この装置フレーム2は基準線Aに沿って延びている。図1でみて、装置フレーム2の左端部には一対の支持壁4が設けられており、これら支持壁4は基準線Aを挟んで配置され、装置フレーム2の底から立設されている。
【0014】
支持壁4間には駆動側ホルダユニット6aが配置され、この駆動側ホルダユニット6aはユニットフレーム8を備えている。このユニットフレーム8は両支持壁4の近傍に、これら支持壁4の内面に沿って配置された一対の側板10と、これら側板10の上部を互いに連結するブロック形状の支持外筒12と、側板10の下端を相互に連結する底板14とを有する。
【0015】
図1でみて各側板10の右縁はその上部が支持外筒12から突出し、これら突出部10aは軸16を介して対応する側の支持壁4に回転自在に支持されている。なお、図1中、参照符号17は軸16を支持する軸受プレートを示し、この軸受プレート17は支持壁4の端縁に固定されている。
一方、底板14の下面には先端ブラケット18が取り付けられ、この先端ブラケット18に傾動シリンダ(傾動手段)20のピストンロッドがその先端にて連結されている。なお、傾動シリンダ20は装置フレーム2の底に後端ブラケット19を介して回動自在に取り付けられている。図1に示す状態から、傾動シリンダ20が伸長されると、上述したユニットフレーム8は一対の軸16を中心として上方、即ち、図1中の矢印Cで示す時計方向に傾動することができる。
【0016】
支持外筒12は基準線Aと同心のシリンダボアを有し、このシリンダボアは支持外筒112を貫通して形成されている。シリンダボアには保持内筒(駆動側回転保持体)22が配置され、この保持内筒22は基準線Aと同軸上に位置付けられ、シリンダボアを貫通している。保持内筒22はその両端部にて、スラストころ軸受24により支持外筒12に回転自在に支持されている一方、スラストころ軸受24間に配置された一対のラジアル玉軸受26によっても支持外筒12に対して回転自在に支持されている。なお、ラジアル玉軸受26は図1でみて右側のスラストころ軸受24に隣接して配置されている。
【0017】
図1でみて保持内筒22の左端は支持外筒12から突出し、この突出端にプーリ28が取り付けられている。このプーリ28は保持内筒22と一体的に回転可能である。一方、ユニットフレーム8の底板14には取付台30を介して電動モータ(駆動手段)32が配置され、この電動モータ32はその出力軸にプーリ34を有する。このプーリ34とプーリ28とには伝動ベルト36が掛け回され、電動モータ32が駆動されることで、保持内筒22は一方向に回転される。
【0018】
一方、保持内筒22の右端には保持体としての保持スリーブ38が嵌合されており、この保持スリーブ38は保持内筒22から所定の距離だけ突出した状態で、取付板40を介して保持内筒22に固定されている。保持スリーブ38は前述したワークの挿通を許容し且つワークをその全周に亘って保持するような内径を有する。
ここで、図1から明らかなように、前述した軸16の軸線は基準線Aと直交する方向に水平に延び、そして、保持スリーブ38の突出端面から所定の距離だけ外側、つまり、図1でみて右方に位置付けられていることに留意すべきである。
【0019】
また、保持内筒22の左端には排出シリンダ42が円筒状のリテーナ44を介して同軸に取り付けられている。排出シリンダ42は保持内筒22内に位置付けられたピストンロッドを有し、このピストンロッドの先端はリテーナ44を介してバッキング部材46に当接している。
バッキング部材46は、保持スリーブ38側に位置付けられ、その先端が保持スリーブ38内に摺動自在に嵌合された抜脱ロッド46aと、この抜脱ロッド46aの後端に固定され、リテーナ44を介して排出シリンダ42に当接されたテール46bとを有し、このテール46bは抜脱ロッド46aよりも大径である。
【0020】
なお、前述の説明から明らかなように排出シリンダ42は保持内筒22と一緒に回転するため、ロータリジョイント48を備えており、このロータリジョイント48は排出シリンダ42の回転に拘わらず、排出シリンダ42への油圧の給排を可能にする。
一方、図1でみて、駆動側ホルダユニット6aの右方にはこのユニット6aと対をなす従動側ホルダユニット6bが配置されている。この従動側ホルダユニット6bは前述した駆動側ホルダユニット6aの主要な構成要素と左右対称にして同様な構成要素を備え、説明の重複を避けるため、駆動側ホルダユニット6aの構成要素と同様な機能を発揮する構成要素については同一の参照符号を付し、以下には、駆動側ホルダユニット6aと相違する点のみを説明する。
【0021】
従動側ホルダユニット6bの支持外筒12はスライド台54上に取り付けられており、このスライド台54は一対の案内ベッド56に摺動自在に支持されている。これら案内ベッド56は基準線Aを挟んで左右に配置され、基準線Aに沿って水平面内を互いに平行に延びている。従って、従動側ホルダユニット6bは駆動側ホルダユニット6aに対し、基準線Aに沿って接離自在である。なお、案内ベッド56は前述した装置フレーム2の上面に取り付けられている。
【0022】
また、スライド台54は支持外筒12を両側から挟み込む側板58を有し、これら側板58は前述した駆動側ホルダユニット6aの側板10に対応する。
更に、スライド台54の下方にはその送り機構60が配置され、この送り機構60は案内ベッド56に沿い且つ基準線Aと平行に延びるフィードスクリュー62を備えている。このフィードスクリュー62の両端は装置フレーム2に回転自在に支持され、そして、フィードスクリュー62にはボールを介して噛み合うナット要素64が取り付けられており、このナット要素64は回転不能にしてホルダ66に収容され、このホルダ66はスライド台54の下面に固定されている。
【0023】
更に、駆動側ホルダユニット6aとは反対側のフィードスクリュー62の端部は装置フレーム2の端壁2aを貫通し、加圧モータ68に連結されている。この加圧モータ68は正逆回転可能であり、ブラケット70を介して端壁2aに取り付けられている。
図1に示す状態から加圧モータ68がフィードスクリュー62を一方向に回転させると、スライド台54はフィードスクリュー62の回転方向に従い、基準線Aに沿って前述した一対の案内ベッド56上を移動する。即ち、従動側ホルダユニット6bは駆動側ホルダユニット6aに対して接離することができる。
【0024】
次に、上述した軸肥大加工機を使用したワークの加工方法について、図2を参照しながら説明する。なお、図2中、駆動側及び従動側ホルダユニット6a,6bは簡略化して示されている。
図2(a)は、駆動側及び従動側ホルダユニット6a,6bが基準線Aに沿い所定の距離だけ離間した状態を示し、この際、ユニット6a,6bの保持スリーブ38は基準線A上にあって互いに対向している。
【0025】
この状態にて、ユニット6a,6b間に加工すべきワークWが供給され、このワークWはその一端部が駆動側ホルダユニット6aの保持スリーブ38内に挿入される。
ここでの挿入は、ワークWの一端がバッキング部材46の抜脱ロッド46aの先端に当接した時点で停止され、ワークWの一端はバッキング部材46及びリテーナ44を介して排出シリンダ42に受け止められる。
【0026】
この後、加圧モータ68を回転させて、駆動側ホルダユニット6aに向けて従動側ホルダユニット6bを移動させ、ワークWの他端部をユニット6bの保持スリーブ38内に同様に挿入させる。それ故、ワークWの他端もまたユニット6b側のバッキング部材46及びリテーナ44を介して排出シリンダ42に受け止められ、図2(b)に示す状態となる。
【0027】
図2(b)の状態にて、ユニット6a,6bの保持スリーブ38間には所定の初期間隔Dが確保され、ここでの初期間隔Dは、ワークWに成形すべき拡径部の外径によって決定される。また、成形される拡径部の軸方向位置は、ワークWの一端とユニット6aにおける保持スリーブ38の端面38aとの間の距離並びにワークWの他端とユニット6bにおける保持スリーブ38の端面38aとの間の距離により決定される。
【0028】
この後、電動モータ32を駆動し、ユニット6a側の保持内筒22を回転させる。このような保持内筒(駆動側回転保持体)22の回転に伴い、両バッキング部材46間にて挟持状態にあるワークWは従動側ホルダユニット6bの保持内筒22(従動側回転保持体)とともに回転する。
このようにしてワークWを回転させながら、加圧モータ68は更に同一の方向に回転され、駆動側ホルダユニット6aに向けて従動側ホルダユニット6bが押圧される。それ故、 ワークWは基準線Aに沿い所定の加圧力Fで圧縮される。
【0029】
この後、前述した傾動シリンダ20が伸長されると、図2(c)に示されるように駆動側ホルダユニット6aは軸16の回りに上方に向けて徐々に傾動され、この傾動に伴い、そのユニット6aの保持内筒22は基準線Aに対して所定の角度、具体的には座屈を防止するためたに8°以下の角度でもって傾斜される。それ故、ワークWは軸16の軸線とワークWとの交点を中心として曲げられることになる。
【0030】
この際にも、ワークWへの加圧力Fの付与は維持され、ワークWはその軸線方向への圧縮を伴いながら、その曲げ方向でみて内側が塑性変形により膨らみ、この膨らみはワークWの回転に伴い、その全周に亘って成長する(図2(d))。
この後、加圧力Fの付与を維持した状態で、保持スリーブ38間の間隔が所定の距離まで縮小されると、この時点にて加圧モータ68の回転が停止される一方、駆動側ホルダユニット6aの傾動、即ち、ワークWの曲げが徐々に元に戻され、そして、図2(e)に示されるようにユニット6a,6bの保持スリーブ38は共に基準線A上に位置付けられ、互いに再び対向する。
【0031】
このようなワークWの曲げ戻しは、ワークWの軸線方向に沿った膨らみの幅をその全周に亘って均一にし、この結果、ワークWにその一部を肥大化させた円形の拡径部Cが成形され、この拡径部Cの幅は加工完了時での保持スリーブ38間の間隔、即ち、保持スリーブ38の外端面38a間の間隔により決定される。そして、拡径部Cの成形位置は、ユニット6a,6bへのワーク挿入量によって決定される。
【0032】
この時点で、ワークWに対する肥大加工が完了し、駆動側ホルダユニット6a側の保持内筒22の回転は停止される。
この後、加圧モータ68が逆向きに回転されて、従動側ホルダユニット6bは駆動側ホルダユニット6aから離間する方向に移動され、この移動に伴い、成形加工後のワークWは駆動側ホルダユニット6aの保持内筒22から抜き出される(図2(f))。
【0033】
この際、ユニット6aの保持スリーブ38内にて、ワークWの部位が上述の肥大加工に伴い拡径して保持スリーブ38の内周面に密接し、ワークWの抜き出しが困難となっている場合には、ユニット6a側の排出シリンダ42が伸長されることで、ワークWの一端はバッキング部材46の抜脱ロッド46aにより押し出され、この結果、ワークWは保持スリーブ38から強制的に排出される。
【0034】
この後、従動側ホルダユニット6b側においても、その排出シリンダ42が伸長されることで、ワークWはユニット6bから強制的に排出される。
前述した軸肥大加工機は、前述した基本的成形プロセスに加え、拡径部Cの成形過程にて、加圧力Fを制御する機能をも備えており、この機能を実現するための構成を以下に説明する。
【0035】
先ず、駆動側ホルダユニット6a側の保持スリーブ38の先端近傍には、外径センサ72が配置されている。この外径センサ72は例えば非接触型の測距計からなり、前述した拡径部Cの成形過程にて、拡径部の外周面までの距離、具体的には、拡径部の外周面と基準線Aとの間の差に基づいて拡径部の外径を測定し、この測定データをコントローラ74に供給する。なお、外径センサ72としては、拡径部の外径を直接に測定する外径測定器であってもよい。
【0036】
また、コントローラ74にはロードセル76からの検出データもまた供給されており、このロードセル76は従動側ホルダユニット6b側におけるバッキング部材46のテール46bに内蔵され、ワークWに加わる荷重を検出する。前記コントローラ74は検出した荷重からワークWに加わる応力を演算する。なお、このロードセル76の設置箇所はワークWに加わる応力を検出できるところであれば良く、本実施例に限定されるものではない。
【0037】
更に、コントローラ74は加圧モータ68に電気的に接続され、上述した外径センサ72及びロードセル76から測定及び検出データに基づき、拡径部の成形過程にて加圧モータ68の回転、即ち、ワークWに付与すべき加圧力を制御する。
なお、加圧モータ68はロータリエンコーダ(図示しない)を内蔵しており、このロータリエンコーダは前述したフィードスクリュー62の回転速度、即ち、従動側ホルダユニット6bの移動速度をコントローラ74に供給する。
【0038】
図3はコントローラ74が実行する第1実施例の加圧制御ルーチンを示しており、この加圧制御ルーチンについて以下に説明する。
先ず、コントローラ74は初期設定を実施し(ステップS1)、ここでは、ワークWの素材径D、成形すべき拡径部の目標外径D及びワークWに加えるべき設定応力σy(ワークWの材料により決定される降伏応力)等が設定され、これらのデータに基づき、ワークWに加えるべき初期加圧力Fが演算される。
【0039】
具体的には、初期加圧力Fは次式(1)から演算される。
=(D/2)×π×σy …(1)
この後、次のステップS2にて、目標加圧力Fに初期加圧力Fが設定された後、前述した拡径部の成形プロセスが開始され、コントローラ74は、目標加圧力FでワークWを加圧すべく加圧モータ68を駆動し(ステップS3)、これにより、従動側ホルダユニット6bを駆動側ホルダユニット6aに向けて移動する。具体的には、ここでは、前述したロードセル76にて検出したワークWの実応力σaを設定応力σyに一致させるべく加圧モータ68が駆動され、そして、これに並行してワークWの回転や傾動が行われる。
【0040】
そして、次のステップS4にて、前述した外径センサ72からの測定データに基づき、拡径部の外径Dを読み込み(ステップS4)、ワークWの応力が前記設定応力σyに維持されるべく、次式(2)からワークWに付与すべき目標加圧力Fを再演算する(ステップS5)。
=(D/2)×π×σy …(2)
この後、外径Dが目標外径D以上に達したか否かが判別され(ステップS6)、ここでの判別結果が偽(No)の場合には、ステップS3以降のステップが繰り返して実施される。これに対し、ステップS6の判別結果が真(Yes)になると、即ち、拡径部の外径Dが目標外径Dに達すると、駆動側ホルダユニット6aの傾動を元の状態に戻してワークWを真直化し、この後、加圧モータ68の回転が停止される(ステップS7)。
【0041】
上述の説明から明らかなように、拡径部がその目標外径Dに達するまでの間、ワークWに付与すべき目標加圧力Fはその時点での拡径部の外径Dに基づいて繰り返して再演算され、そして、再演算された目標加圧力FをワークWに付与すべくワークWの加圧力が制御される。この結果、ワークWの応力は設定応力σyに維持される。
ここで、前記の(2)式中、π×σyを定数τに置換可能であるから、(2)式は下式(3)に書き直すことができる。
【0042】
=τ×(D/2) …(3)
(3)式から明らかなように拡径部の外径Dが大きくなれば、目標加圧力Fは拡径部の半径(D/2)の2乗に比例して増加する。即ち、図4に示されるように外径Dの増加するにつれ、即ち、拡径部の成形過程が終期に近づくに連れ、目標加圧力Fは急激に増加されるので、拡径部の成形速度が成形過程の終期において低下することはなく、拡径部Cの成形に要する加工時間の短縮を図ることができる。
【0043】
また、成形過程の終期において、目標加圧力Fが急激に増加されるとしても、ワークWに加わる応力は前述した設定応力σyに維持されているので、ワークWに素材割れ等の不具合が発生することはなく、拡径部Cの成形を安定して実施可能となる。
更に、前述したように従動側ホルダユニット6bの送りはボール螺子型の送り機構60によりなされることから、ワークWに付与すべく目標加圧力Fを極め細かく制御することができる。
【0044】
なお、ワークWに目標加圧力Fを付与するにあたり、ロードセル76に代えて、ホルダユニット6a,6bにおける保持スリーブ38間の離間距離がワークWに加わる応力と相関することから、この離間距離に基づいてワークWに加わる実応力σaを推定するようにしてもよく、前記離間距離は拡径部の成形プロセスが開始されてからの加圧モータ68の回転回数に基づいて求めることができる。また、ボール螺子型送り機構の発生推力はワークWに加わる応力と相関関係にあることから、その発生推力に基づいてワークWに加わる実応力σaを推定してもよい。なお、発生推力は加圧モータ68のトルクから求めることができる。
【0045】
図5はコントローラ74が実行する第2実施例の変位制御ルーチンを示し、この変位制御ルーチンについて以下に説明する。
第2実施例の変位制御ルーチンは、図3のステップS2〜S5がステップS8〜S12に置換されている。
ステップS8では、前述した初期加圧力FがワークWの圧縮変位速度Vが変換され、この圧縮変位速度Vは、ワークWに初期加圧力Fを付与するうえで、ワークWをその軸線(基準線A)に沿って圧縮変位させるべき速度である。
【0046】
そして、加圧モータ68は圧縮変位速度Vを達成すべく駆動されて、ワークWが加圧され(ステップS9)、圧縮変位速度Vが読み込まれる(ステップS10)。ここでの圧縮変位速度Vは加圧モータ68におけるロータリエンコーダからの検出データに基づき演算して求められる。
この後、圧縮変位速度度Vが許容速度VMAX以下であるか否かが判別され(ステップS11)、ここでの判別結果が真の場合、圧縮変位速度Vは所定の増分ΔXだけ増加された後(ステップS12)、次のステップS6の判別が実施され、これに対し、その判別結果が偽の場合には、ステップ11をバイパスしてステップS6の判別が実施される。
【0047】
従って、拡径部の成形過程において、拡径部の外径Dが目標外径Dに達するまでの間にあっては、圧縮変位速度Vが許容速度VMAXに近似すべく制御されるので、拡径部の成形が進行しても、圧縮変位速度Vが不所望に低下することはなく、拡径部Cの成形に要する加工時間が長くなるようなことはない。また、圧縮変位速度Vは許容速度VMAX以下に制限されているので、拡径部の成形過程にて、ワークWに過度な加圧力が加わることもなく、ワークWの素材割れ等が引き起こされるようなこともない。
【0048】
なお、本発明の軸肥大加工機を作動させるにあたり、図2(a)〜(f)に示される加工手順に限らず、ワークWの回転はワークWに加圧力及び曲げ力を加えた後、つまり、図2(c)に示す状態から開始されてよい。また、駆動側ホルダユニット6aは水平面内にて傾動されてもよいし、従動側ホルダユニット6bが傾動されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】軸肥大加工機を示した断面図である。
【図2】図1の加工機を使用したワークの加工手順を(a)〜(f)の順次で示す図である。
【図3】第1実施例の加圧制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図4】図3の加圧制御ルーチンの実行を受け、拡径部の外径の増加に従って目標加圧力が増加されることを示したグラフである。
【図5】第2実施例の変位制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図6】従来技術(特許文献2)を使用したワークの加工において、回転回数に対するワークの拡径比及び圧縮比を示したグラフである。
【符号の説明】
【0050】
6a 駆動側ホルダユニット
6b 従動側ホルダユニット
12 支持外筒
20 傾動シリンダ(傾動手段)
22 保持内筒(駆動側及び従動側回転保持体)
38 保持スリーブ(保持部)
60 送り機構(加圧手段)
62 フィードスクリュー
64 ナット要素
68 加圧モータ(加圧手段)
72 外径センサ(状態測定手段)
74 コントローラ(制御装置)
76 ロータリエンコーダ(検出手段)
A 基準線
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属棒材をその軸線方向に離間した位置にてそれぞれ嵌入して保持する一対の保持体と、
一方の保持体を前記軸線の回りに回転させる駆動手段と、
一方の保持体を他方の保持体に近接させるべく相対的に移動させ、前記金属棒材に対して前記軸線方向に圧縮する加圧力を付与する加圧手段と、
前記軸線に対して、一方の保持体を傾動させる傾動手段と
を備え、前記金属棒材を回転させながら、前記金属棒材に加圧力を付与するとともに前記一方の保持体を傾動させることで、前記一対の保持体間における前記金属棒材の部位に拡径部を成形する軸肥大加工機において、
前記金属棒材の成形過程にて、前記金属棒材の拡径状態を測定する状態測定手段と、
前記状態測定手段により検出された前記拡径状態に基づき、前記加圧手段による前記加圧力を制御する制御装置と
を更に具備したことを特徴とする軸肥大加工機。
【請求項2】
前記状態測定手段は、前記金属棒材の成形過程における拡径部の外径若しくはこの外径に相関するパラメータを前記拡径状態として測定し、
前記制御装置は、測定された前記拡径状態に基づいて前記成形過程の前記金属棒材に加わる応力を検出する検出手段を含み、この検出手段にて検出した前記応力を一定に維持すべく前記加圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の軸肥大加工機。
【請求項3】
前記状態測定手段は、前記金属棒材の成形過程にて前記金属棒材における前記軸線方向の圧縮変位速度を前記拡径状態として測定し、
前記制御装置は、前記状態測定手段により測定された前記圧縮変位速度を一定に維持すべく前記加圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の軸肥大加工機。
【請求項4】
前記加圧手段は、前記一方の保持体を他方の保持体に対して接離させるボール螺子型の送り機構を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の軸肥大加工機。
【請求項5】
金属棒材の軸線方向に離間した一対の保持体に前記金属棒材をそれぞれ嵌入して保持し、
一方の保持体を前記軸線の回りに回転させながら、一方の保持体を他方の保持体に近接させるべく相対的に移動させ、前記金属棒材に対して前記軸線方向に圧縮する加圧力を付与するともに、前記軸線に対して一方の保持体を傾動させることで、前記一対の保持体間における前記金属棒材の部位に拡径部を成形する軸肥大加工方法において、
前記金属棒材の成形過程にて、前記金属棒材の拡径状態を測定し、この測定した拡径状態に基づいて前記加圧力を制御する、ことを特徴とする軸肥大加工方法。
【請求項6】
前記金属棒材の成形過程における拡径部の外径若しくはこの外径に相関するパラメータを前記拡径状態として測定し、
測定した前記拡径状態に基づいて前記成形過程の前記金属棒材に加わる応力を検出し、この検出した前記応力を一定に維持すべく前記加圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載の軸肥大加工方法。
【請求項7】
前記金属棒材の成形過程にて前記金属棒材における前記軸線方向の圧縮変位速度を前記拡径状態として測定し、
測定された前記圧縮変位速度を一定に維持すべく前記加圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載の軸肥大加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−212936(P2008−212936A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49152(P2007−49152)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(394006129)株式会社いうら (63)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】