説明

輸送機器部品

【課題】耐熱性に優れると共に、低吸水性、靭性、耐薬品性、耐沸水性、軽量性などの諸物性に優れた輸送機器部品の提供。
【解決手段】パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミド(A)および繊維状充填剤(B)を含むポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド(A)100質量部に対して繊維状充填剤(B)5〜200質量部を含むポリアミド樹脂組成物からなる輸送機器部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたポリアミド樹脂組成物に関する。詳しくは、耐熱性に優れ、力学強度、靭性、耐衝撃性、低吸水性、耐薬品性に優れた熱可塑性ポリアミド樹脂からなる輸送機器部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66に代表される脂肪族ポリアミドは耐熱性、耐薬品性、剛性、耐磨耗性、成形性、軽量性などの優れた性質を持つために、自動車エンジンルーム内部品を始めとする自動車部品用として使用されている。その一方で、従来の脂肪族ポリアミドは吸水率が大きく、寸法安定性、耐水性、耐沸水性などの性能に欠点があった。さらに、近年の自動車エンジンの高性能化に伴い、エンジンルーム内の温度が高くなってきており従来の樹脂では耐熱性の点も充分ではなくなってきている。
【0003】
このような世の中の要求に対し、1,6‐ヘキサンジアミンとテレフタル酸を主成分とする6T系半芳香族ポリアミドが提案され、自動車用部品として適用できることが開示されている(特許文献1〜4参照)。しかしながら、1,6‐ヘキサンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミドは融点が370℃付近にあるため、溶融重合、溶融成形を分解温度以上で実施する必要があり、実用に耐え得るものではない。そのため実際には、アジピン酸、イソフタル酸、ε‐カプロラクタム等を30〜40モル%共重合することにより、実使用可能温度領域である280℃〜320℃程度まで低融点化した組成で実用化されている。このように第3成分および第4成分を共重合することは低融点化には有効であるが、その一方で結晶化速度、到達結晶化度の低下を招く。その結果、高温下での剛性、耐薬品性、寸法安定性などの諸物性が低下するだけでなく、成形サイクルの延長に伴う生産性の低下も懸念される。また、溶融滞留時に粘度低下し易いため成形性にも難点がある。
【0004】
6T系半芳香族ポリアミド以外の高融点ポリアミドとして、1,9‐ノナンジアミンおよび2‐メチル‐1,8‐オクタンジアミンの混合物とテレフタル酸からなる9T系半芳香族ポリアミドを自動車部品用途として適用することが提案されている(特許文献5参照)。9T系半芳香族ポリアミドは上記6T系半芳香族ポリアミドに比べ、高い結晶化速度、到達結晶化度および低吸水性を有しているが、上記問題と同様に共重合による諸物性の低下、芳香族ジカルボン酸を主成分とする影響として溶融滞留時に粘度低下し易く成形性に難点があるという問題は解決できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−7761号公報
【特許文献2】特開平3−72564号公報
【特許文献3】特開平4−239530号公報
【特許文献4】特開平4−239531号公報
【特許文献5】特開平7−228769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記課題を解決し、耐熱性に優れると共に、低吸水性、靭性、耐薬品性、耐沸水性、軽量性などの諸物性に優れた輸送機器部品であるポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、パラキシリレンジアミンを主成分とするジアミン成分と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分からなるポリアミドおよび特定のガラス繊維を含むポリアミド樹脂組成物が耐熱性、低吸水性、靭性、耐薬品性、耐沸水性、軽量性のいずれの性能に優れた輸送機器部品を得ることができることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、パラキシリレンジアミン70モル%以上含むジアミン成分と炭素数6〜18の直鎖ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分からなるポリアミド(A)、繊維状充填剤(B)を含むポリアミド樹脂組成物であり、ポリアミド(A)100質量部に対して繊維状充填剤(B)10〜200質量部を含むポリアミド樹脂組成物に関する。また、本発明は該ポリアミド樹脂組成物よりなる輸送機器部品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は耐熱性に優れると共に、低吸水性、靭性、耐薬品性、耐沸水性、軽量性などの諸物性に優れ、輸送機器部品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の輸送機器部品は後述するジアミン単位とジカルボン酸単位からなるポリアミド(A)および繊維状充填剤(B)を含有するポリアミド樹脂組成物からなるものである。ここで、ジアミン単位とは原料ジアミン成分に由来する構成単位を指し、ジカルボン酸単位とは原料ジカルボン酸成分に由来する構成単位を指す。
【0011】
ポリアミド(A)は、パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミドである。ジアミン単位中のパラキシリレンジアミン単位は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。ジカルボン酸単位中の炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0012】
ポリアミド(A)は、パラキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合させることにより得られる。
【0013】
ポリアミド(A)に用いる原料のジアミン成分は、パラキシリレンジアミンを70モル%以上含むものであり、さらには80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。ジアミン成分中のパラキシリレンジアミンが70モル%以上とすることで得られるポリアミドは、高融点、高結晶性を示し、耐熱性、耐薬品性などに優れるポリアミドとして輸送機器部品として好適に用いることができる。原料のジアミン成分中のパラキシリレンジアミンが70モル%未満の場合、耐熱性、耐薬品性などの諸物性が低下するため好ましくない。
【0014】
パラキシリレンジアミン以外の原料成分としては1,4‐ブタンジアミン、1,6‐ヘキサンジアミン、1,8‐オクタンジアミン、1,10‐デカンジアミン、1,12‐ドデカンジアミン、3‐メチル‐1,5‐ペンタンジアミン、2,2,4‐トリメチル‐1,6‐ヘキサンジアミン、2,4,4‐トリメチル‐1,6‐ヘキサンジアミン、2‐メチル‐1,8‐オクタンジアミン、5‐メチル‐1,9‐ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、1,3‐ビス(アミノメチル)シクロへキサン、1,4‐ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミンなどの芳香脂肪族ジアミン、あるいはこれらの混合物が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0015】
ポリアミド(A)の原料に用いるジカルボン酸成分は、炭素数6〜18の直鎖脂肪族カルボン酸を70モル%以上含むものであり、さらには80モル%以上が好ましく、90モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。炭素数6〜18の直鎖脂肪族カルボン酸を70モル%以上とすることで得られるポリアミドは溶融加工時の流動性、高結晶性、低吸水率を示し、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、成形加工性に優れるポリアミドとして輸送機器部品として好適に用いることができる。原料ジカルボン酸成分中の炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸濃度が70モル%未満の場合、耐熱性、耐薬品性、成形加工性が低下するため好ましくない。
【0016】
炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸などが例示できる。中でもアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸が好ましく、特に好ましいのはセバシン酸、アゼライン酸である。これらの代わりに炭素数が5以下の脂肪族ジカルボン酸を使用した場合、ジカルボン酸の融点、沸点が低いために重縮合反応時に反応系外に留出してジアミンとジカルボン酸の反応モル比が崩れ、得られるポリアミドの機械物性や熱安定性が低くなるため好ましくない。また、炭素数が19以上の脂肪族ジカルボン酸を使用した場合は性状の安定したポリアミドは得られるが、融点が大きく低下し、耐熱性が得られなくなるため好ましくない。
【0017】
炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸以外の原料ジカルボン酸としてはマロン酸、コハク酸、2‐メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、2,2‐ジメチルグルタル酸、2,4‐ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、3,3‐ジエチルコハク酸、1,3‐シクロペンタンジカルボン酸、1,3‐シクロヘキサンジカルボン酸、1,4‐シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6‐ナフタレンジカルボン酸、1,5‐ナフタレンジカルボン酸、1,4‐ナフタレンジカルボン酸、2,7‐ナフタレンジカルボン酸、あるいはこれらの混合物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
前記ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。
【0019】
ポリアミド(A)の重縮合時に分子量調整剤として、ポリアミドの末端アミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能化合物を少量添加しても良い。使用できる化合物としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸などの脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸などの芳香族モノカルボン酸、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミンなどの脂肪族モノアミン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミンなどの芳香脂肪族モノアミン、あるいはこれらの混合物が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0020】
ポリアミド(A)の重縮合時に分子量調整剤を使用する場合、好適な使用量については、用いる分子量調整剤の反応性や沸点、反応条件などにより異なるものとなるが、通常、原料ジアミン成分とジカルボン酸成分の合計に対して0.1〜10質量%程度である。
【0021】
ポリアミドの重合度の指標としてはいくつかあるが、相対粘度は一般的に使われるものである。ポリアミド(A)において好ましい相対粘度は1.8〜4.2であり、さらには1.9〜3.5であることが好ましく、2.0〜3.0であることが特に好ましい。ポリアミド(A)の相対粘度が1.8未満の場合には、溶融したポリアミド(A)の流動性が不安定になりやすく成形品の外観が悪化することがある。またポリアミド(A)の相対粘度が4.2を超えると、ポリアミド(A)の溶融粘度が高すぎて成形加工が不安定になることがある。尚、ここで言う相対粘度は、ポリアミド1gを96%硫酸100mLに溶解し、キャノンフェンスケ型粘度計にて25℃で測定した落下時間(t)と、同様に測定した96%硫酸そのものの落下時間(t0)の比であり、下記式(1)で示される。
相対粘度=t/t0 ・・・(1)
【0022】
ポリアミド(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量(Mn)が10,000〜50,000の範囲であることが好ましく、14,000〜30,000の範囲であることが特に好ましい。Mnを10,000〜50,000の範囲にすることで、成形品とした場合の機械的強度が安定し、また成形性の上でも加工性良好となる適度な溶融粘度を持つものとなる。また、分散度(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn)は1.5〜5.0の範囲であることが好ましく、1.5〜3.5の範囲であることが特に好ましい。分散度を上記範囲とすることにより溶融時の流動性や溶融粘度の安定性が増し、溶融混練や溶融成形の加工性が良好となる。また靭性が良好であり、耐吸水性、耐薬品性、耐熱老化性といった諸物性も良好となる。
【0023】
ポリアミド(A)は(a)溶融状態における重縮合、(b)溶融状態で重縮合して低分子量のポリアミドを得た後に固相状態で加熱処理するいわゆる固相重合、(c)溶融状態で重縮合して低分子量のポリアミドを得た後混練押出機を使用して溶融状態で高分子量化する押出重合など公知のポリアミド合成方法で得ることができる。
【0024】
溶融状態における重縮合方法は特に限定されるものではないが、ジアミン成分とジカルボン酸成分とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で重縮合させる方法、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧または水蒸気加圧雰囲気下で重縮合する方法を例示できる。ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて重合する場合、反応系を均一な液状状態で保つためにジアミン成分を溶融ジカルボン酸相に連続的に加え、生成するオリゴアミドおよびポリアミドの融点を下回らないように反応温度を制御しつつ重縮合が進められる。
【0025】
溶融重縮合で得られたポリアミドは一旦取り出され、ペレット化された後、乾燥して使用される。また更に重合度を高めるために固相重合しても良い。乾燥乃至固相重合で用いられる加熱装置としては、連続式の加熱乾燥装置やタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置およびナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されることなく公知の方法、装置を使用することができる。特にポリアミドの固相重合を行う場合は、上述の装置の中で回分式加熱装置が、系内を密閉化でき、着色の原因となる酸素を除去した状態で重縮合を進めやすいことから好ましく用いられる。
【0026】
ポリアミド(A)の重縮合系内には、重縮合反応の触媒、重縮合計内に存在する酸素によるポリアミドの着色を防止する酸化防止剤としてリン原子含有化合物を添加しても良い。添加するリン原子含有化合物としては次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、ピロリン酸のアルカリ金属塩、ピロリン酸のアルカリ土類金属塩、メタリン酸のアルカリ金属塩およびメタリン酸のアルカリ土類金属塩が挙げられる。具体的には、次亜リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素二マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸リチウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸マグネシウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸リチウム、あるいはこれらの混合物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
ポリアミド(A)の重縮合系内に添加するリン原子含有化合物の添加量は、ポリアミド(A)中のリン原子濃度換算で50〜400ppmであることが好ましく、さらには、60〜350ppmであることが好ましく、70〜300ppmであることが特に好ましい。リン原子濃度が50ppm未満の場合は、酸化防止剤としての効果を十分に得ることができず、ポリアミド樹脂組成物が着色する傾向にあり好ましくない。また、リン原子濃度が400ppmを超える場合は、ポリアミド樹脂組成物のゲル化反応が促進され、リン原子含有化合物(A)に起因すると考えられる異物が成形品中に混入する場合があり、成形品の外観が悪化する傾向があるため好ましくない。
【0028】
また、ポリアミド(A)の重縮合系内には、リン原子含有化合物と併用して重合速度調整剤を添加することが好ましい。重縮合中のポリアミドの着色を防止するためにはリン原子含有化合物を十分な量存在させる必要があるが、ポリアミドのゲル化を招く恐れがあるため、アミド化反応速度を調整するためにも重合速度調整剤を共存させることが好ましい。重合速度調整剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酢酸塩およびアルカリ土類金属酢酸塩が挙げられ、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩が好ましい。重合速度調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、あるいはこれらの混合物が挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0029】
重縮合系内に重合速度調整剤を添加する場合、リン原子含有化合物と重合速度調整剤のグラム当量比(=[重合速度調整剤のグラム当量]/[リン原子含有化合物のグラム当量])が0.4〜1.0となるようにすることが好ましく、さらには0.5〜0.95であることが好ましく、0.6〜0.9であることが特に好ましい0.4未満の場合、リン原子含有化合物のアミド化反応促進効果を抑制する効果が不足することがあり、ポリアミド中のゲルが多くなることがある。また1.0を超えるとリン原子含有化合物のアミド化反応促進効果を抑制しすぎて、重縮合の進行が遅くなり、ポリアミド製造時の熱履歴が増加してポリアミドのゲルが多くなることがあるので好ましくない。
【0030】
前記ポリアミド樹脂組成物はポリアミド(A)以外の構成成分として繊維状充填剤(B)を含有する。繊維状充填剤(B)としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。ガラス繊維としては無アルカリ硼珪酸ガラス、あるいはアルカリ含有C‐ガラス製のもので、直径3μmないし30μm、長さ5ないし50mmの長い繊維、あるいは長さ0.05ないし5mmの短い繊維を使用することができる。さらに繊維状充填剤(B)は、樹脂と密着向上の為のシランカップリング剤などによる表面処理や、ハンドリング性改良のための収束や収束剤処理が施されていても良い。
【0031】
繊維充填剤(B)の配合量は使用する繊維状充填剤の種類によって異なるが、ポリアミド(A)100質量部に対して、5〜200質量部、好ましくは15〜100質量部である。ガラス繊維の配合量が5重量部未満では機械的強度、熱的性質等の改善効果が少なく、200質量部以上では成形時の流動性に劣り成形性が低下するため好ましくない。
【0032】
また、上記繊維状充填剤(B)の他に、無機粉末状フィラーなどを配合することが可能である。
【0033】
前記ポリアミド樹脂組成物には、成形時の離型性を向上させるため、離型剤が添加されることが好ましい。具体的には、長鎖アルコール脂肪酸エステル、分岐アルコール脂肪酸エステル、グリセライド、多価アルコール脂肪酸エステル、高分子複合エステル、高級アルコール、ケトンワックス、モンタンワックス、シリコンオイル、シリコンガム、あるいはこれらの混合物が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0034】
前記ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で高分子材料に一般に用いられている各種添加剤を配合してもよい。具体的には、酸化防止剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等が例示できるがこれらに限定されることなく、種々の材料を配合することができる。
【0035】
前記ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂を配合しても良い。
【0036】
前記ポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、ポリアミド(A)、繊維状充填剤(B)、さらに必要に応じてその他添加剤および樹脂を所定量配合して溶融混練することにより製造できる。溶融混練には従来公知の方法で行うことができる。例えば単軸や2軸の押出機、バンバリーミキサー又はこれに類似した装置を用いて、一括で押出機根元から全ての材料を投入して溶融混練してもよいし、先ず樹脂成分を投入して溶融しながらサイドフィードした繊維状強化材と混練する方法により、ペレットを製造してもよい。また、異なる種類のコンパウンド物をペレット化した後にペレットブレンドしてもよいし、一部の粉末成分や液体成分を別途ブレンドする方法でもよい。
【0037】
前記ポリアミド樹脂組成物は射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、延伸、真空成形などの公知の成形方法が適用でき、エンジニアリングプラスチックとしてエンジンマウント、エンジンカバー、トルクコントロールレバー、ウィンドレギュレーター、前照灯反射板、ドアミラーステイ、ラジエタータンク等の自動車用部品、主翼等の航空機部品、等の輸送機器部品に成形可能である。
【実施例】
【0038】
以下実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において各種測定は以下の方法により行った。
【0039】
(1)ポリアミドの相対粘度
ポリアミド1gを精秤し、96%硫酸100mlに20〜30℃で攪拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下速度(t)を測定した。また、96%硫酸そのものの落下速度(t0)も同様に測定した。tおよびt0から下記式(1)により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t0 ・・・(1)
【0040】
(2)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
GPC測定は、昭和電工社製Shodex GPC SYSTEM−11にて行った。溶媒にはヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、サンプルのポリアミド10mgを10gのHFIPに溶解させて測定に用いた。測定条件は、測定カラム同社製GPC標準カラム(カラムサイズ300×8.0mmI.D.)のHFIP−806Mを2本、リファレンスカラムHFIP−800を2本用い、カラム温度40℃、溶媒流量1.0mL/minとした。標準試料にはpMMA(ポリメタクリル酸メチル)を使用し、データ処理ソフトは同社製SIC−480IIを使用して数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0041】
(3)成形品機械物性
成形品機械物性の測定は表1の条件にて行った。
【表1】

【0042】
(4)平衡吸水率
φ50×3mm厚円盤型の試験片を絶乾状態の質量を秤量した後、常圧沸騰水に浸漬し、経時的な質量変化を測定する。質量変化がなくなった時点での吸水率を平衡吸水率とした。
【0043】
<合成例1>
攪拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置及び窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したセバシン酸8950g(44.25mol)、次亜リン酸カルシウム12.54g(0.073mol)、酢酸ナトリウム6.45g(0.073mol)を秤量して仕込んだ(次亜リン酸カルシウムと酢酸ナトリウムのグラム当量比は0.5)。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素で0.3MPaに加圧し、攪拌しながら160℃に昇温してセバシン酸を均一に溶融した。次いでパラキシリレンジアミン6026g(44.25mol)を攪拌下で170分を要して滴下した。この間、反応容器内温は281℃まで連続的に上昇させた。滴下工程では圧力を0.5MPaに制御し、生成水は分縮器及び冷却器を通して系外に除いた。分縮器の温度は145〜147℃の範囲に制御した。パラキシリレンジアミン滴下終了後、0.4MPa/hの速度で降圧し、60分間で常圧まで降圧した。この間に内温は300℃まで昇温した。その後0.002MPa/minの速度で降圧し、20分間で0.08MPaまで降圧した。その後攪拌装置のトルクが所定の値となるまで0.08MPaで反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、約13kgのポリアミド1(以下PA1と称す)を得た。PA1の相対粘度は2.47、Mw/Mnは2.6であった。
【0044】
<合成例2>
ジカルボン酸成分にアゼライン酸8329g(44.25mol)を使用した以外は実施例1と同様の条件でポリアミドを合成し、ポリアミド2(以下PA2と称す)を得た。PA2の相対粘度は2.22、Mw/Mnは2.5であった。
【0045】
<合成例3>
ジアミン成分にパラキシリレンジアミン5423g(39.82mol)、メタキシリレンジアミン603g(4.43mol)を使用した以外は実施例1と同様の条件でポリアミドを合成し、ポリアミド3(以下PA3と称す)を得た。PA3の相対粘度は2.11、Mw/Mnは2.7であった。
【0046】
本実施例中に用いたポリアミド以外の原材料を一括して示すと以下の通りである。
(1)ガラス繊維
日本電気硝子株式会社製、商品名03T−296GH
【0047】
<実施例1>
減圧下150℃で7時間乾燥したPA1を東芝機械株式会社製2軸押出機(商品名:TEM37BS)の基部ホッパーに8kg/hの速度で供給し、シリンダ温度:280〜300℃、スクリュー回転数150rpmで押出し、ガラス繊維を2kg/hの速度でサイドフィードして樹脂ペレットを作成した。得られた組成物を射出成形機(ファナックi100)にてシリンダ温度300℃、金型温度120℃で射出成形し、評価用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0048】
<実施例2>
PA1の代わりにPA2を使用した以外は実施例1と同様の方法で評価用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0049】
<実施例3>
PA1の代わりにPA3を使用した以外は実施例1と同様の方法で評価用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0050】
<比較例1>
ポリアミド6T(ソルヴェイ社製、商品名Amodel)を東芝機械株式会社製2軸押出機(商品名:TEM37BS)の基部ホッパーに8kg/hの速度で供給し、シリンダ温度:300〜340℃、スクリュー回転数150rpmで押出し、ガラス繊維を2kg/hの速度でサイドフィードして樹脂ペレットを作成した。得られた組成物を射出成形機(ファナックi100)にてシリンダ温度340℃、金型温度130℃で射出成形し、評価用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0051】
<比較例2>
ポリアミド46(DSM社製、商品名Stanyl)を東芝機械株式会社製2軸押出機(商品名:TEM37BS)の基部ホッパーに8kg/hの速度で供給し、シリンダ温度:290〜310℃、スクリュー回転数150rpmで押出し、ガラス繊維を2kg/hの速度でサイドフィードして樹脂ペレットを作成した。得られた組成物を射出成形機(ファナックi100)にてシリンダ温度310℃、金型温度120℃で射出成形し、評価用試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から明らかなように各実施例は同等の耐熱性を持ち、機械物性、低吸水率の諸物性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミド(A)および繊維状充填剤(B)を含むポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド(A)100質量部に対して繊維状充填剤(B)5〜200質量部を含むポリアミド樹脂組成物からなる輸送機器部品。
【請求項2】
前記直鎖脂肪族ジカルボン酸単位がアゼライン酸単位、セバシン酸単位、ウンデカン二酸単位およびドデカン二酸単位より選ばれる少なくとも1種類である請求項1に記載の輸送機器部品。
【請求項3】
前記直鎖脂肪族ジカルボン酸単位がセバシン酸単位およびアゼライン酸単位より選ばれる少なくとも1種類である請求項1または2に記載の輸送機器部品。
【請求項4】
ポリアミド(A)がパラキシリレンジアミン単位を90mol%以上含むジアミン単位とセバシン酸単位およびアゼライン酸単位より選ばれる少なくとも1種類を90mol%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載の輸送機器部品。
【請求項5】
ポリアミド(A)の相対粘度が1.8〜4.2の範囲である請求項1〜4のいずれかに記載の輸送機器部品。
【請求項6】
ポリアミド(A)のゲル浸透クロマトグラフィー測定における数平均分子量(Mn)が10,000〜50,000の範囲であり、かつ分散度(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn)が1.5〜5.0の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の輸送機器部品。
【請求項7】
繊維状充填剤(B)がガラス繊維、炭素繊維および金属繊維から選ばれる少なくとも1種類である請求項1〜6のいずれかに記載の輸送機器部品。
【請求項8】
自動車部品である請求項1〜7のいずれかに記載の輸送機器部品。

【公開番号】特開2011−57932(P2011−57932A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211839(P2009−211839)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】