説明

輸送防振機器

【課題】 防振コンテナや防振パレット等の輸送防振機器において、上架台及び下架台の間に介在される防振素子をフォークから保護するカバーを設ける場合に、そのカバーがフォーク爪先の衝突によって大きく変形したときでも、容易に修復できるようにする。
【解決手段】 防振パレット10は、貨物が上載される上架台11と、その下方に所定の隙間20を設けて配置された下架台12と、それら上架台11及び下架台12の間に介在された防振素子13とを備えている。隙間20にはリフト用フォークが差し込まれるようになっている。上架台11に溶接したブラケット35に、フォーク爪先の衝突による衝撃を吸収するダンパーとして機能するような態様で、防振素子13を保護する素子カバー50を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送する貨物への振動の伝達を低減するための防振素子を備えたコンテナやパレットのような輸送防振機器に関し、特にその防振素子を保護するカバーの構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重量物や比較的大きな物品等の貨物をフォークリフト等によって運搬するときには、その貨物を収容するコンテナや貨物を載せるパレットなどが用いられる。コンテナにおいて貨物の載置される床部分は概略、パレットと同じ構造とすればよく、例えば格子状や枠状に形成された上架台及び下架台が、所定の間隔をおいて対向配置された二重構造を有している。下架台は床面に置かれる一方、上架台には貨物が上載される。そして、上架台と下架台との間の隙間にはフォークリフト等のフォークが挿入されるようになっている。
【0003】
さらに、そうして上架台に上載した貨物への振動の伝達を低減するために、上架台と下架台との間に防振素子を介在させた防振コンテナも知られている。例えば、特許文献1に記載の航空機用防振コンテナは、貨物収納用箱体の床(上架台)を複数の防振支持手段によりベース板(下架台)上に支持してなり、さらに、それら防振支持手段同士の間で上記箱体の床とベース板との隙間にフォークが挿入されるように、該フォークの爪先をガイドするフォークエントリー部を備えている。
【0004】
また、特許文献2の防振コンテナでは、床部(下架台)と内部床(上架台)との間に複数の防振素子を介在させるとともに、それら防振素子同士の間でフォークの挿入方向に延びるように筒状の爪受部が設けられている。そして、上記床部と内部床との隙間を外側から覆うように、該床部の上面外周縁部には断面コ字状の溝型鋼等からなる基枠部が溶接されている。この基枠部には上記爪受部に連通するようにして、矩形上のフォークエントリが開口されている。
【特許文献1】特開2002−255279号公報
【特許文献2】特開2004−292026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1の防振コンテナでは、箱体の床とベース板との隙間にフォークリフト等のフォークを差し込むときに、その差込位置を誤ってフォークの爪先がフォークエントリー部から逸れると、防振支持手段に衝突させてしまうことがある。また、爪先をフォークエントリー部に差し込めても、フォークが斜めになっていると、その側部が防振支持手段に接触することがあり、防振支持手段が損傷する虞れがある。
【0006】
一方、上記特許文献2の防振コンテナでは、床部と内部床との隙間の外周がフォークエントリの開口を除いて鋼製の基枠部により覆われているから、上記特許文献1のもののようにフォークの爪先が防振素子に衝突することはない。また、フォークエントリに差し込まれたフォークは、爪受部に挿入されることになるから、それが斜めになって防振素子を傷つけることもない。
【0007】
しかしながら、上記のものではフォークの差込位置を誤ると、その爪先が基枠部に衝突して、これを大きく変形させることがあり、そうなると、その基枠部がコンテナの床部に溶接されていることから、修復が容易ではないという問題がある。
【0008】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、防振コンテナや防振パレット等の輸送防振機器において、上架台及び下架台の間に介在される防振素子をフォークから保護するカバーを設ける場合に、その保護カバーがフォーク爪先の衝突によって大きく変形したときでも、容易に修復できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、上架台又は下架台のいずれかに設けたブラケットに、フォーク爪先の衝突による衝撃を吸収するダンパーとして機能するような態様で保護カバーを取り付けた。
【0010】
具体的に、請求項1の発明は、防振コンテナや防振パレットなどの輸送防振機器であって、貨物が上載される上架台と、この上架台の下方に所定の隙間を設けて配置された下架台とを備え、これら上架台及び下架台の間に複数の防振素子を介在させて、上記貨物への振動の伝達を低減するとともに、それら防振素子同士の間で上記隙間に所定の方向からリフト用フォークが挿入されるように構成されたものを対象とする。
【0011】
そして、上記上架台又は下架台のいずれか一方に、上記フォーク挿入方向に延びるように設けたブラケットを介して、上記防振素子を保護するための保護カバーを取り付ける場合に、この保護カバーを、上記防振素子を上記フォーク挿入方向のいずれか一方から覆う前壁部と、この前壁部の左右両側縁からそれぞれ上記防振素子の左右両側を覆うように上記フォーク挿入方向に延びる左右の側壁部とを有するものとし、その左右両側壁部をそれぞれ上記ブラケットにリベットにより締結するとともに、このリベットの軸部の強度を、上記前壁部にフォーク挿入方向の荷重が作用したとき、上記ブラケットに剪断変形が生じる前に剪断破壊するように設定した。
【0012】
前記構成の輸送防振機器の上架台に貨物を上載して、これをフォークリフトにより運搬するときには、その上架台と下架台との隙間に所定の方向からリフト用フォークを挿入する。こうして挿入するフォークは斜めになっていても、その側部が保護カバーの側壁部に擦れるだけで、防振素子は保護される。
【0013】
また、仮にフォークの差込位置を誤って、その爪先が保護カバーの前壁部に衝突しても、その前壁部が大きく変形することによって衝撃が吸収され、それで吸収しきれないほど大きな衝撃が作用したときには、ブラケットに塑性変形が生じる前に、これに上記保護カバーの側壁部を締結するリベットの軸部が剪断破壊して、衝撃を吸収する。
【0014】
そのようにブラケットに塑性変形が生じる前に、リベットの軸部を剪断破壊させるためには、ブラケットの材質や板厚、或いはリベット穴の大きさやその周縁部の形状による応力集中の状態などを考慮して、リベットの軸部の材質(つまり剪断強さ)及び直径を設定すればよい。
【0015】
こうして保護カバーの変形とリベットの破断とによってフォーク爪先の衝突による衝撃を吸収し、防振素子を保護することができるとともに、上架台若しくは下架台に設けられているブラケットに塑性変形が生じないので、新しい保護カバーをリベット留めするだけで、輸送防振機器を容易に修復することができる。
【0016】
すなわち、仮に上記保護カバーをボルトによりブラケットに締結していると、破断したボルトの軸部はボルト穴に残留するので、これを取り除くのに手間が掛かり、さらにねじ山が損傷している場合には、これを修正しなくてはならないので、容易に修復できるとは言い難いが、本発明のようにリベットを用いれば、たとえ破断した軸部がリベット穴に残留していても、これを取り除くことは容易である。
【0017】
上記構成の輸送防振機器において、上記保護カバーの前壁部と上記ブラケットのフォーク挿入方向の端部との間には、所定以上の大きさの隙間を形成することが好ましい(請求項2の発明)。こうすれば、前壁部へのフォーク爪先の衝突によって保護カバー全体が後方に押されたときに、その前壁部と後方のブラケットの端部とが当接するよりも前に、リベットが破断するようになる。言い換えると、上記隙間の大きさはリベットの軸部が破壊する剪断方向の変位量よりも大きければよい。
【0018】
また、好ましいのは、上記ブラケットを上架台に設けるとともに、上記保護カバーは、上下方向に延びる矩形筒状に形成して上記防振素子の前後左右を囲むように配置し、この保護カバーの左右両側壁部の相対的に上側の部位をそれぞれ上記ブラケットに対し、上記フォーク挿入方向に互いに離間した2カ所で締結することである(請求項3の発明)。
【0019】
こうすれば、矩形筒状の保護カバーが防振素子の前後左右を上方から覆うことになるので、塵埃などの付着を抑制するダストカバーとしての機能が得られる。また、保護カバー左右の側壁部の相対的に上側の部位を前後に離間した2カ所でリベット留めすると、前壁部へのフォーク爪先の衝突によって先に前側のリベット軸部に大きな剪断力が作用し、これが破断した後は、保護カバー全体がその後部を中心に下向きに回動するようになる。つまり、防振素子を回避するようにして保護カバーを後退させることができる。
【0020】
その場合に、より好ましいのは、上面に上記防振素子の設置される箱状のベースを、上記下架台上で上記保護カバーの壁部に囲まれた内方側に位置するように設けることである(請求項4の発明)。こうすれば、上記のように後部を中心に下向きに回動する保護カバーの前壁部がベースの前縁部に当接して、それ以上の後退が阻止されるようになるので、後退する保護カバーと防振素子との接触をより確実に防止できる。
【0021】
上記保護カバー及びブラケットはいずれも鋼板により形成することができるが、その場合に保護カバーの板厚は2.5mm以上とし、それよりもブラケットの板厚を大きくするのが好ましい(請求項5の発明)。このように保護カバーの板厚を設定すれば、これがフォーク爪先の衝突によって過大な変形を生じることがなく、防振素子の保護の実効を担保できる。勿論、フォークの側部が擦れても何ら問題は生じない。
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように、本発明に係る輸送防振機器によると、上架台及び下架台の間に介在させた防振素子を保護カバーによってフォークから保護することができるとともに、フォークの爪先が衝突したときには保護カバーの変形とリベットの破断とによって、衝撃を吸収するダンパーとして機能させることができ、上架台又は下架台のブラケットには損傷を生じないので、保護カバーを交換するだけで極めて容易に修復することができる。
【0023】
特に請求項2の発明では、保護カバー前壁部へのフォーク爪先の衝突時に、リベットをより確実に破断させることができる。
【0024】
請求項3の発明では、上記保護カバーによって防振素子の前後左右を上方から覆って、ダストカバーとして機能させることができるとともに、この保護カバーをフォーク爪先の衝突時に下向きに回動させて、防振素子を回避させることができる。
【0025】
さらに、請求項4の発明では、上記のように回動変位する保護カバーの前壁部をベースの前縁部に当接させることで、防振素子の損傷をより確実に防止することができる。
【0026】
加えて、請求項5の発明では、上記保護カバーを厚さ2.5mm以上の鋼板によって形成することで、フォーク爪先の衝突に対する防振素子の保護の実効を担保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
図2〜4は、本発明の輸送防振機器を防振パレットに適用した実施形態を示し、図2は防振パレット10を上方から視た平面図であり、図3及び図4は側面図である。各図に示すように、防振パレット10は、例えば半導体や液晶パネルの製造装置、検査装置等の精密機器類である貨物(図示省略)が上載される上架台11と、上架台11の下方に所定の隙間20を空けて配置された下架台12と、それら上架台11及び下架台12の間に介在されて貨物への微細な振動伝達を低減するための複数の防振素子13とを備えている。
【0029】
上架台11は、例えば矩形断面の鋼管を組み合わせて格子枠状に形成したものである。すなわち、上架台11は、矩形状の枠部15と、この矩形枠部15に略中央位置で、該矩形枠部15の一辺と平行に延びるように架け渡された一組の平行な梁部材16と、この一組の梁部材16の両外側で矩形枠部15にそれぞれ架け渡され、各梁部材16と平行に延びる梁部材17とを有している。梁部材17とその外側の矩形枠部15の一辺との間隔は、上記一組の梁部材16同士の間隔と同じ大きさになっている。言い換えれば、矩形枠部15における対向する2辺の間には、梁部材17、一組の梁部材16及び梁部材17が、この順に互いに平行に配置されている。
【0030】
さらに、上架台11は、隣り合う梁部材16及び梁部材17の中央部同士を繋ぐ梁部材18を有している。梁部材18は、梁部材16,17とは垂直な方向に延びている。これら矩形枠部15及び各梁部材16,17,18は、断面矩形状の一般構造用角形鋼管によって構成されている。また、この実施形態では、上架台11は、図2に一部を省略して示すように、上記矩形枠部15及び各梁部材16,17,18の上面に貼り付けられた矩形状の天板19を有している。貨物は、天板19の上面に上載される。
【0031】
下架台12は、天板19を有しない点を除いて、上架台11と同じ構造を有している。つまり、下架台12は、上架台11と同様に、矩形枠部15と、一組の平行な梁部材16と、各梁部材17,18とを備えている。そして、これら下架台12の矩形枠部15及び各梁部材16,17,18は、上架台11の矩形枠部15及び各梁部材16,17,18にそれぞれ対向して配置されている。
【0032】
上記上架台11及び下架台12の隙間20は、上架台11における矩形枠部15及び各梁部材16,17,18の各下面と、下架台12における矩形枠部15及び各梁部材16,17,18の各上面との間に区画されている。そして、この隙間20に、主として上記梁部材16,17の間で(即ち、上記防振素子13,13,…の間で)該両梁部材16,17に沿うようにして、フォークリフト等のリフト用フォークが挿入されるようになっている。
【0033】
つまり、この実施形態の防振パレット10では、上架台11及び下架台12において梁部材16,17の延びる方向、即ち矩形枠部15の短辺の方向が主にフォークの挿入される方向であり、以下、この方向を便宜的に防振パレット10の前後方向とも呼ぶものとする。尚、この実施形態の防振パレット10では、前後方向だけでなく、左右方向にもフォークが挿入可能である。
【0034】
そうして隙間20に挿入されるフォークとの接触による矩形枠部15や梁部材16,17,18の損傷を防ぐために、この実施形態では、図3及び図4に示すように、上架台11における該矩形枠部15及び各梁部材16,17,18の各下面と、下架台12における矩形枠部15及び各梁部材16,17,18の各上面に、例えばステンレス材料により略矩形状に形成された保護プレート22が装着されている。
【0035】
図2に示すように、この実施形態の防振パレット10では合計9個の防振素子13が用いられている。3個の防振素子13が、一組の梁部材16の両端部及び中央部にそれぞれ配置され、各梁部材16や矩形枠部15によって支持されている。また、他の6個の防振素子13は、梁部材17とこれに隣り合う矩形枠部15の一辺とにおける両端部及び中央部にそれぞれ配置され、これら梁部材17及び矩形枠部15によって支持されている。
【0036】
それらの防振素子13は、いずれも、無負荷状態の防振パレット10の断面図である図5に示すように、上架台11と下架台12との間で弾性変形する弾性部30を有する。弾性部30は、リング状のゴム部材31と円板状の仕切板32とが交互に積層されたもので、ゴム部材31は高減衰ゴムにより構成される一方、仕切板32は金属板により構成されている。各ゴム部材31は、図示しないピンによって仕切板32に固定されており、こうして連結された複数のゴム部材31と複数の仕切板32とからなる弾性部30全体が一体的に変形するようになっている。
【0037】
上記弾性部30の上端は、上架台11に対し、略矩形板状のブラケット35を介して、ボルト36により締結されている。このブラケット35は、後述の如く所定の板厚を有する鋼板により形成され、その上面において上架台11の矩形枠部15や梁部材16,17,18の下面に溶接されている。また、この実施形態では左右両端部に位置するブラケット35の二辺に、それぞれ下方に折り曲げられた折り曲げ部35aがそれぞれ前後方向に延びるように形成されている。
【0038】
一方、下架台12には、上架台11のブラケット35の下方に対応する位置に、下方に開放された箱状のベース部37が配設されていて、その下端部が下架台12の矩形枠部15や梁部材16,17,18の上面に溶接されている。そして、弾性部30の下端は、ベース部37の天板部分37aにボルト38によって締結されている。
【0039】
また、詳しくは後述するが、上架台11には、フォークとの接触から防振素子13を保護するための素子カバー50(保護カバー)が取り付けられている。素子カバー50は、上下に延びる矩形筒状に形成され、防振素子13を囲むように配置されてブラケット35により上架台11に取り付けられている。素子カバー50の下端は、無負荷状態でも弾性部30の下端よりも下方に位置して、ベース部37の天板部分37aを取り囲んでいる。言い換えると、ベース部37が素子カバー50の壁部に囲まれた内方側に位置している。
【0040】
図2に示す平面視で、上架台11の中央位置に配置されている防振素子13と、梁部材18を介してその両外側に配置されている防振素子13とには、2つの弾性部30が設けられている。それ以外の防振素子13(つまり、梁部材16の両端部に配置されている防振素子13、及び梁部材17の両端部に配置されている防振素子13)には、2つの弾性部30の他に、図5に示すようにストッパ41が設けられている。
【0041】
ストッパ41は、2つの弾性部30の間に配置され、リング状の上側ストッパ本体42及び下側ストッパ本体43と、これら各ストッパ本体42,43を貫通して上下に延びる軸部44とを有している。軸部44の上端部は、ブラケット35を介して上架台11に締結されている。一方、軸部44の下端部は、ベース部37の天板部分37aに形成された開口部37bを介して下方のベース部37の内部へ延びており、そのベース部37の内部で下側ストッパ本体43が締結されている。
【0042】
また、上側ストッパ本体42は下側ストッパ本体43よりも所定の高さだけ上方に配置された状態で、軸部44に締結されている。上側ストッパ本体42とブラケット35との間の軸部44には、例えば3つのボルト45が設けられている。このボルト45の数を増減させることにより、上側ストッパ本体42と下側ストッパ本体43との間隔を調整することができる。上側ストッパ本体42の下部、及び下側ストッパ本体43の上部には、リング状のゴム部46がそれぞれ設けられている。
【0043】
ベース部37における開口部37bの内径は、上側ストッパ本体42及び下側ストッパ本体43の各ゴム部46の外径よりも小さくなっている。そして、上架台11に貨物を上載した貨物積載状態では、断面図である図6に示すように、上架台11は貨物の重量によって下降する。上架台11がさらに下降して下限位置へ移動したときに、ベース部37の天板部分37aは、上側ストッパ本体42のゴム部46下面に当接する。一方、上架台11が上昇して上限位置へ移動したときに、天板部分37aは下側ストッパ本体43のゴム部46上面に当接する。こうして、上架台11の上下方向の振幅は、ストッパ41によって規制されるようになっている。
【0044】
また、ベース部37の天板部分37aに形成されている開口部37bの内径は、軸部44の外径よりも大きい。そして、上架台11が水平方向の限度位置へ移動したときに、軸部44の外周面が開口部37bの内周面に当接するようになっている。こうして、上架台11の水平方向の移動についても、ストッパ41により規制することができる。
【0045】
−素子カバーの構造−
本発明の特徴は、上述した防振素子13の素子カバー50を上架台11に取り付ける構造にある。すなわち、図1にも示すが、素子カバー50は、その後壁部51aと左右の側壁部51bとが一体に形成されるように鋼板を折り曲げてなるコ字状の本体部材51と、その両側壁部51bの前端に跨って取り付けられた矩形板状の前壁部材52とからなり、前後左右の各壁部がそれぞれ防振素子13(同図には示さない)の前後左右を囲むように配置されている。
【0046】
言い換えると、素子カバー50の左右の側壁部51bは、それぞれ前壁部材52の左右両側縁から防振素子13の左右両側を覆うように前後方向(フォーク挿入方向)に延びている。そして、その側壁部51bの前端を内向きに折り曲げてなる折り曲げ部51cに、前壁部材52の左右両端部がそれぞれ重ね合わされて、ボルト53により締結されている。このボルト53を緩めて前壁部材52を取り外せば、防振素子13のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0047】
そして、上記素子カバー50の左右の側壁部51bの上部(相対的に上側の部位)が、それぞれブラケット35の左右の折り曲げ部35aに外側から重ね合わされて、前後方向に離間した2カ所でリベット55により締結されている。こうしてブラケット35に組み付けられた素子カバー50は、該ブラケット35と共に防振素子13の上方及び周囲を覆って、塵埃などの付着を抑制する働きをする。
【0048】
また、そうしてブラケット35に組み付けられた素子カバー50の前壁部材52とブラケット35との間(図の例では前壁部材52に重ね合わされた本体部材51の折り曲げ部51c後面とブラケット35の折り曲げ部35a前端との間)には概略、15ミリ程度の大きさの隙間Sが形成されている(10〜20ミリ程度とすればよい)。尚、図1において符号35bは、防振素子13におけるストッパー41の軸部44上端が貫通する貫通穴を示し、符号35cは同弾性部30の上端を締結するボルト36の貫通穴である。
【0049】
上記のように素子カバー50をブラケット35に締結するリベット55の軸部の強度は、後述の如くフォークの爪先が衝突したとき、ブラケット35の折り曲げ部35aに塑性変形を生じる前に破断するように設定されている。すなわち、この実施形態では、例えばブラケット35及び素子カバー50をSPHC、SPCC等の鋼板で形成し、それぞれ板厚を4.5mm、3.2mmとする一方、リベット55はSUS305等のステンレス材料により形成し、その軸部の直径は4mmとしている(リベット55として、より具体的に一例を挙げれば、JISB0147−2004準拠のポップリベット・ファスナー株式会社製SSD56SSBS等を使用すればよい)。
【0050】
そのようにブラケット35、素子カバー50及びリベット55の材質や寸法を選定すると、素子カバー50の前壁部材52にフォークの爪先が衝突したときに、まず、この衝突部位を中心に前壁部材52が大きく変形するとともに、素子カバー50の側壁部51bにも大きな荷重が作用して、該側壁部51bとブラケット35の折り曲げ部35aとに跨るリベット55の軸部に集中的に剪断力が作用する。そして、ブラケット35の折り曲げ部35aに塑性変形が生じる前に、リベット55の軸部が剪断破壊するようになる。
【0051】
図7は、素子カバー50の前壁部材52の略中央部に前方から押圧力Fを加えたときに、この前壁部材52を含む素子カバー50とブラケット35とに生じる応力分布をシミュレーションによって調べた結果を示すイメージ図である。この図では、応力の高い部位の濃度が高く(ドットの密度が高く)なるようにして、応力の分布状態を示しており、相対的に応力の高い部位では塑性変形が生じている。
【0052】
同図から、フォークの爪先が衝突した前壁部材52の中央付近では大きな変形を生じることが分かる。また、この前壁部材52の左右両側の折り曲げ部51cとの接合部付近でも応力が高くなり、塑性変形を生じる。さらに、側壁部51bでは、折り曲げ部51cとの境界の湾曲部位で応力が高くなって塑性変形を生じ、その付近に位置する前側のリベット締結部にも強い力が加わることが伺える。
【0053】
そのようなシミュレーションの結果を基に、この実施形態では、ブラケット35、素子カバー50及びリベット55の材質や寸法を上記のように選定したものであり、これにより、フォーク爪先の衝突時には、まず、素子カバー50の本体部材51の折り曲げ部51cや前壁部材52を出来るだけ大きく変形させて、衝撃を吸収し、それで吸収しきれない衝撃は、ブラケット35の折り曲げ部53aに塑性変形が生じる前にリベット55の軸部を剪断破壊させて、吸収することができる。
【0054】
尚、素子カバー50の前壁部材52が薄過ぎると、フォーク爪先の衝突時に過大な変形を生じることがあり、さらには破断することがある。こうなると、素子カバー50を設けても防振素子13が損傷するの虞れがあるので、この点からは前壁部材52を含めた素子カバー50の板厚は2.5mm以上とするのがよい。こうすれば、フォークの側部が擦れたときにも何ら問題は生じない。
【0055】
但し、前壁部材52を厚くし過ぎると、これがあまり変形しないうちにリベット55が破断することになり、鋼板の変形による衝撃の吸収が十分に図れない。これに対してリベット55の強度を上げると、ブラケット35の折り曲げ部35aに塑性変形を生じる虞れがある。従って、前壁部材52の板厚の最適値は、ブラケット35の材質及び板厚、リベット55の材質及び軸部の直径によって変化するが、少なくとも材質が同じであれば、ブラケット35の板厚よりも小さくなる。
【0056】
上記構成の素子カバー50は、防振パレット10の前縁又は後縁に配置されている防振素子13(つまり、上記ストッパ41の設けられている防振素子13)においては、その前壁部材52を防振パレット10の外方(前方又は後方)に臨ませて配置されている。つまり、それらの防振素子13において素子カバー50は、それぞれ、フォークの差し込まれる向きに前壁部材52を向けて配置されており、結果として、防振パレット10の前縁に位置するものと後縁に位置するものとは前後方向に逆向きになっている。
【0057】
尚、ストッパ41の設けられていない防振素子13の素子カバー50は、上記前縁又は後縁のいずれかに配置されている防振素子13と同じ向きになっている。
【0058】
上述の如く構成された防振パレット10の天板19に貨物が上載されると、防振素子13の弾性部30が圧縮され、上架台11は、図5に示す無負荷状態の上昇位置から図6に示すように下方へ移動する。この状態で、防振パレット10は、上架台11と下架台12との間に上記防振素子13が介在されているので、精密部品等の貨物への微細な振動の伝達を低減することができる。
【0059】
そうして貨物の上載された防振パレット10を運搬するときには、フォークリフト等のリフト用フォークを、上架台11及び下架台12の隙間20に差し込んで上昇させるが、このフォークが斜めに挿入されたときでも、この実施形態では防振素子13の前後左右が素子カバー50によって覆われているので、フォークの側部が素子カバー50の側壁部に擦れるだけで、防振素子13が損傷することはない。
【0060】
一方、仮にフォークの差込位置を誤って、その爪先が素子カバー50の前壁部材52に衝突すると、図8(a)に示すように前壁部材52に作用する荷重Fによって、まず、その前壁部材52や側壁部51bの一部が大きく変形することにより、衝撃が吸収される。この際、前壁部材52の板厚が十分に大きいことから、これがフォーク爪先の衝突によって過大な変形を生じたり、さらには破断したりすることはなく、防振素子13を確実に保護できる。
【0061】
また、上記フォーク爪先の衝突によって素子カバー50全体が後方に押圧されるので、その側壁部51bをブラケット35に締結するリベット55の軸部には大きな剪断力が作用し、上記のように前壁部材52などが変形した後、ブラケット35の折り曲げ部35aに塑性変形が生じる前に、まず前側のリベット55の軸部が剪断破壊する。このことによっても衝撃の吸収が図られる。
【0062】
その際、前壁部材52の後面とブラケット35の折り曲げ部35a前端との間に所定以上の大きさの隙間Sが形成されているため、上記のように後方に押圧された素子カバー50の前壁部材52が後方のブラケット35折り曲げ部35aと当接する前に、リベット55が破断するようになる。つまり、上記のような隙間Sがあることで、リベット55の軸部をより確実に剪断破壊させることができる。
【0063】
そうして前側のリベット55が破断すると、素子カバー50全体がその上縁の後端部、若しくは後側のリベット締結部を中心に下向きに回動し、図8に示すように前壁部材52がベース部37の前縁部に当接するまで、変位する。つまり、フォーク爪先の衝突によって後退する素子カバー50が防振素子13と接触して、これを損傷することがない。
【0064】
したがって、この実施形態の防振パレット10によると、素子カバー50によって、フォークとの接触から防振素子13を保護することができるとともに、そのフォークの爪先が素子カバー50の前壁部材52に衝突したときには、該素子カバー50の変形とリベット55の破断とによって衝撃を吸収し、上架台11に溶接されているブラケット35には塑性変形を生じない。よって、新しい素子カバー50をリベット留めするだけで、防振パレット10を容易に修復することができる。
【0065】
この点について、仮に上記素子カバー50をボルトによりブラケットに締結していると、破断したボルトの軸部がボルト穴に残留し、これを取り除くのに手間が掛かることになるし、さらにねじ山が損傷している場合には、これを修正しなくてはならないので、容易に修復できるとは言い難い。これに対し、この実施形態のようにリベット55を用いれば、たとえ破断した軸部がリベット穴に残留したとしても、これを取り除くことは容易であり、修復に手間はかからないのである。
【0066】
尚、本発明は、上記した実施形態の構成に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。すなわち、上記実施形態では、素子カバー50の左右両側壁部51bをそれぞれ2つのリベット55によりブラケット35の折り曲げ部35aに締結しているが、側壁部51bを1つのリベット55により締結してもよいし、反対に3個以上のリベット55を用いることもできる。
【0067】
また、上記実施形態ではブラケット35を上架台11に溶接し、その折り曲げ部35aに素子カバー50の側壁部51bの上部を締結しているが、これに限らず、下架台12にブラケットを設けて、これに素子カバー50の側壁部51bの下部を締結するようにしてもよい。また、上記素子カバー50の前壁部材52を本体部材51と一体に形成してもよい。
【0068】
さらに、ブラケット35、素子カバー50、リベット55の材質や寸法は上記した例に限らず、それらを例えばアルミニウム材料等の他の金属材料によって形成することもできる。要するに、フォーク爪先の衝突時に素子カバー50の前壁部が或る程度以上、変形した後に、ブラケット35に塑性変形が生じる前に、リベット55の軸部が剪断破壊するように、それらの材質や寸法を設定すればよい。
【0069】
さらにまた、本発明は、上記実施形態のような防振パレット10に限らず、例えば防振コンテナにも適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明は、例えば精密機器等の貨物への振動伝達を低減する防振コンテナや防振パレットなどの輸送防振機器に適用して、フォークの差込位置を誤っても防振素子の損傷を防止することができるとともに、その場合の修復も容易なものであるから、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】防振素子の素子カバーを示す斜視図である。
【図2】防振パレットの外観を上方から見た平面図である。
【図3】防振パレットの外観を前後方向に見た側面図である。
【図4】防振パレットの外観を左右方向に見た側面図である。
【図5】無負荷状態の防振素子を拡大して示す断面図である。
【図6】貨物積載状態の防振素子を拡大して示す断面図である。
【図7】フォーク爪先が衝突したときの素子カバーの応力分布を示すイメージ図である。
【図8】フォーク爪先の衝突によってブラケットから外れる素子カバーの説明図である。
【符号の説明】
【0072】
10 防振パレット(輸送防振機器)
11 上架台
12 下架台
13 防振素子
20 隙間
35 ブラケット
35a 折り曲げ部
37 ベース部
50 素子カバー(保護カバー)
51b 側壁部
52 前壁部材
55 リベット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物が上載される上架台と、
上記上架台の下方に所定の隙間を設けて配置された下架台とを備え、
上記上架台及び下架台の間に複数の防振素子を介在させて、上記貨物への振動の伝達を低減するとともに、それら防振素子同士の間で上記隙間に所定の方向からリフト用フォークが挿入されるように構成された輸送防振機器であって、
上記上架台又は下架台のいずれか一方に、上記フォーク挿入方向に延びるように設けられたブラケットを介して、上記防振素子を保護するための保護カバーが取り付けられ、
上記保護カバーは、
上記防振素子を上記フォーク挿入方向のいずれか一側から覆う前壁部と、この前壁部の左右両側縁からそれぞれ上記防振素子の左右両側を覆うように上記フォーク挿入方向に延びる左右の側壁部とを有し、
その左右両側壁部がそれぞれ上記ブラケットにリベットにより締結されていて、このリベットの軸部の強度が、上記前壁部にフォーク挿入方向の荷重が作用したとき、上記ブラケットに塑性変形が生じる前に剪断破壊するように設定されている
ことを特徴とする輸送防振機器。
【請求項2】
請求項1において、
上記保護カバーの前壁部と上記ブラケットのフォーク挿入方向の端部との間には、所定以上の大きさの隙間が形成されていることを特徴とする輸送防振機器。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかにおいて、
上記ブラケットが上架台に設けられ、
上記保護カバーは、上下方向に延びる矩形筒状に形成され、上記防振素子の前後左右を囲むように配置された状態で、その左右両側壁部の相対的に上側の部位がそれぞれ上記ブラケットに対して、上記フォーク挿入方向に互いに離間した2カ所で締結されている
ことを特徴とする輸送防振機器。
【請求項4】
請求項3において、
上記下架台には、上面に上記防振素子の設置される箱状のベースが固定されていて、このベースが上記保護カバーの壁部に囲まれた内方側に位置していることを特徴とする輸送防振機器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
上記保護カバー及びブラケットがいずれも厚さ2.5mm以上の鋼板により形成され、且つそのブラケットの板厚が保護カバーよりも大きいことを特徴とする輸送防振機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−40493(P2007−40493A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227522(P2005−227522)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】