説明

輻輳制御装置及び輻輳制御方法

【課題】一般的なIP通信ネットワークの輻輳に対する安定性を向上させることができる輻輳制御装置及び輻輳制御方法を提供する。
【解決手段】ノードのバッファ容量が超過したことを検知するバッファ容量検知手段5と、バッファ容量検知手段5によりバッファ容量が超過したことを検知した際に、返送すべきパケットを選択するパケット選択手段7と、パケット選択手段7により選択されたパケットを上流側のノードに返送するパケット返送手段6と、上流側ノードに保持された返送パケットの再送時間を設定する再送時間設定手段9と、再送時間設定手段9により設定された時間に基づいて上流側ノードに保持された返送パケットを下流側ノードに再送する再送手段10と、各手段を制御する制御部(制御手段)8と、インターネットとの情報をやり取りするインターフェース11と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻輳制御装置、及び輻輳制御方法に関し、さらに詳しくは、ノードのバッファ容量が超過した場合に、当該ノードのパケットを上流側ノードへ返送して当該ノードの輻輳を低減する輻輳制御装置、及び輻輳制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低コストのTCP/IPに基づく汎用通信機器は、インターネットのみならず、企業内の閉域ネットワークへも適用が進んでいる。そして、ネットワークに様々なアプリケーションが取り込まれるに従い、輻輳防止のための対策はますます重要となってきている。
輻輳防止のための基本的な対策は、輻輳を発生させないように、ネットワーク設備の増強を行うことであるが、経済的な理由から増強の時期を遅らせざるを得ない場合、あるいは冗長化・負担分散化された通信経路で障害が発生した場合等には、トラフィックの集中するノードで輻輳が発生する可能性が高い。このため、輻輳の発生時においても、効率的に輻輳制御を行えるような対策を行う必要がある。
【0003】
そこで、大部分のアプリケーションで転送用プロトコルとして用いられているTCPは、設備容量内にトラフィックを抑制するために、通信速度を抑制する輻輳制御の機能を備えている。即ち、通信経路内のノードにおいて輻輳が発生してパケットが廃棄された場合、送信元のTCPがそれを検出し、一度に送信できるパケット数を決めるウィンドウサイズを減少させることにより、ネットワークへのパケット送出速度を抑制して輻輳を解消するものである。
輻輳を解消する従来技術として特許文献1には、ノードのバッファが輻輳により所定の閾値を超えた時点で、共通の外部バッファへパケットを転送し、一時的に保持して、輻輳が収まった時点でノードのバッファへパケットを戻す技術について開示されている。また、特許文献2には、ノードのバッファが輻輳により、所定の閾値を越えた時点で、複数のノードに対して速度を下げる制御信号を送信し、それを受けたノードが速度を下げ、余剰パケットを一時的に保持することで輻輳を解消する方式について開示されている。また、特許文献3には、ノードのバッファが所定の閾値を超えた時点で、同じノード内における別のポート用のバッファへパケットを転送し、一時的に保管する方式について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−325178公報
【特許文献2】特開2009−60283公報
【特許文献3】特開2009−081595公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、TCPの輻輳制御にも課題がある。その一つが、パケットが廃棄された場合に、廃棄されたパケット以降の全てのパケットを送信元から再送するため、伝送効率が低下してしまう点である。この課題に対する従来の取組みとして、Split−TCP(RFC2757)がある。これは、通信経路内のある特定のノード(TCPプロキシと呼ばれる)において、TCPコネクションをはりなおすという方式である。即ち、TCPプロキシからみて送信元へは疑似的な確認応答パケットを返すとともに、TCPプロキシで受信パケットをバッファリングし、送信先へ送信する。このとき、パケットをコピーしておく必要がある。そして、TCPプロキシより先の通信経路でパケットの廃棄が発生した場合は、送信元ではなく、TCPプロキシからコピーしておいたパケットを再送する。これにより、TCPコネクションのフィードバック・ループが小さくなり、伝送効率が向上するという効果が得られる。しかし、Split−TCPは、固定的にTCPプロキシを配置するため、効果が得られる最適な配置位置を選定する必要がある。また、パケットの廃棄が発生しなくても、常にTCPプロキシでパケットをコピーしておく必要があり、そのためのリソースを必要とするといった課題がある。
【0006】
また、特許文献1に開示されている従来技術は、共通の外部バッファを必要とするため、TCPプロキシと同様に、最適な配置位置を選定しなければならないといった課題がある。
また、特許文献2に開示されている従来技術は、輻輳発生中のノードが速度を下げる制御信号を送信し、これを受信したノードが速度制御を行ない、その結果として、輻輳発生中のノードの輻輳が解消されるというフィードバック制御であるため、トラフィック状況に応じた最適なバッファの閾値や速度制御の設定が難しく、最適な設定でない場合、制御遅延の影響でパケット廃棄に到るといった問題が発生する。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、通信経路中の任意のノードにおいて輻輳が発生し、届いたパケットの量がノードのバッファ容量を超過した場合、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せず、そのノードからみて上流側のノードへ返送するためのバッファへ入れ直す処理を行い、上流側のノードへパケットを返送することにより、一般的なIP通信ネットワークの輻輳に対する安定性を向上させることができる輻輳制御装置及び輻輳制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、輻輳が発生した特定ノードの上流側ノードへのパケット返送による輻輳制御装置であって、前記特定ノードのバッファ容量が超過したことを検知するバッファ容量検知手段と、前記バッファ容量検知手段によりバッファ容量が超過したことを検知した際に、返送すべきパケットを選択するパケット選択手段と、前記パケット選択手段により選択されたパケットを上流側のノードに返送するパケット返送手段と、前記上流側ノードに保持された返送パケットの再送時間を設定する再送時間設定手段と、前記再送時間設定手段により設定された時間に基づいて前記上流側ノードに保持された返送パケットを下流側ノードに再送する再送手段と、前記各手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
通信経路中の任意のノードにおいて輻輳が発生し、届いたパケットの量がノードのバッファ容量を超過した場合、従来は、そのノードでパケットが廃棄されていた。本発明では、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せず、そのノードからみて上流側のノードへ返送するためのバッファへ入れ直す処理を行い、上流側のノードへ返送する。返送されたパケットは、上流側のノードで保持し、再び下流側のノードへ送出する。また、上流側のノードは、フロー単位で返送パケットを受け取り、そのままパケットを保持していれば、いずれ送信元から到達するパケットは無くなり、輻輳を回避できるものの、保持しているフローの伝送効率は一時的に大きく低下してしまう。さらには、保持時間が一定の時間を超えると、送信元のTCPは、タイムアウトとしてパケットを再送するので、パケットを保持している意味が無くなってしまう。このため、再送時間を設定する再送時間設定手段が必要となる。これにより、通信経路中の任意のノードにおいて輻輳が発生し、届いたパケットの量がノードのバッファ容量を超過した場合でも、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せずに輻輳を解消することができる。
【0008】
請求項2は、前記制御手段は、前記バッファ容量を超過したパケットを前記上流側のノードへ返送する場合、送信側と受信側を1対1で関連付けている通信コネクションを指すフロー単位で返送することを特徴とする。
バッファ容量を超過したパケットを上流側のノードへ返送するにあたっては、フロー単位で返送することが好ましい。即ち、バッファに届くパケットがフローA、B、C、Dのパケットであったとする。そして、フローA、Bのパケットがバッファ容量を超過した場合、このパケットを上流側のノードへ返送するとともに、それ以降、フローA、Bのパケットについては、全ての到達パケットを返送する。このようにすれば、フローA、Bがバッファ内に入っていかないため、輻輳が緩和され、残りのフローC、Dがバッファを通過できるようになる。これにより、上流側のノードから再送出を行った後、最終的にパケットが届く送信先において、パケットの到着順が入れ替わらないようにすることができる。
請求項3は、前記制御手段は、前記上流側のノードにおいてバッファ容量に余裕がない場合には、更に上流側のノードへフロー単位で分割して返送することを特徴とする。
上流側のノードにおいて、バッファ容量に余裕がない場合は、さらに上流側のノードへフロー単位で分割して返送する。なお、通信経路が分岐していて複数の上流側ノードがある場合も同様に、フロー単位で分割して返送する。これにより、複数のノードのバッファ空き容量を活用することができる。
【0009】
請求項4は、前記制御手段は、前記再送時間設定手段により設定する再送時間を、前記フローごとにずらせて設定するように制御することを特徴とする。
保持時間が一定の時間を超えると、送信元のTCPは、タイムアウトとしてパケットを再送するので、パケットを保持している意味が無くなってしまう。このため、上流側のノードは、返送されてきたパケットをすぐに下流側のノードへ再送出する必要がある。ただし一方では、再送出によって再び輻輳が発生する危険性もあるため、例えば、再送出の開始時間をフロー毎にずらせる処理により、一挙にトラフィックが増えないようにすることが望ましい。これにより、各ノードでのトラフィックを一挙に増加することを防止することができる。
請求項5は、バッファ容量検知手段、パケット選択手段、パケット返送手段、再送時間設定手段、再送手段、及び制御手段を備え、上流側ノードへのパケット返送による輻輳制御装置の輻輳制御方法であって、前記バッファ容量検知手段が、ノードのバッファ容量が超過したことを検知するステップと、前記パケット選択手段が、前記バッファ容量検知手段によりバッファ容量が超過したことを検知した際に、返送すべきパケットを選択するステップと、前記パケット返送手段が、前記パケット選択手段により選択されたパケットを上流側のノードに返送するステップと、前記再送時間設定手段が、前記上流側ノードに保持された返送パケットの再送時間を設定するステップと、前記再送手段が、前記再送時間設定手段により設定された時間に基づいて前記上流側ノードに保持された返送パケットを再送するステップと、前記制御手段が、前記各手段を制御するステップと、を備えたことを特徴とする。
請求項1と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せず、そのノードからみて上流側のノードへ返送するためのバッファへ入れ直す処理を行い、上流側のノードへ返送する。また、保持時間が一定の時間を超えると、送信元のTCPは、タイムアウトとしてパケットを再送するので、パケットを保持している意味が無くなってしまう。このため、再送時間を設定する再送時間設定手段が必要となる。これにより、通信経路中の任意のノードにおいて輻輳が発生し、届いたパケットの量がノードのバッファ容量を超過した場合でも、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せずに輻輳を解消することができる。
また、バッファ容量を超過したパケットを上流側のノードへ返送するにあたっては、フロー単位で返送するので、上流側のノードから再送出を行った後、最終的にパケットが届く送信先において、パケットの到着順が入れ替わらないようにすることができる。
また、上流側のノードにおいて、バッファ容量に余裕がない場合は、さらに上流側のノードへフロー単位で分割して返送するので、複数のノードのバッファ空き容量を活用することができる。
また、再送時間設定手段により設定する再送時間を、フローごとにずらせて設定するように制御するので、各ノードでのトラフィックを一挙に増加することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る輻輳制御装置の機能を表すブロック図である。
【図2】ネットワーク図の一例を示す図である。
【図3】本発明の輻輳制御装置50のパケット返送動作を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の輻輳制御装置50のパケット再送動作を説明するフローチャートである。
【図5】(a)は上流側のノードに返送する動作を説明する図であり、(b)は上流側のノードから再送する動作を説明する図である。
【図6】(a)は上流側のノードにおいて、バッファ容量に余裕がなく、さらに上流側のノードへフロー単位で分割して返送する動作を説明する図、(b)は上流側のノードから再送する動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る輻輳制御装置の機能を表すブロック図である。この輻輳制御装置50は、コアルータ4内に設置し、輻輳が発生した特定ノードの上流側ノードへのパケット返送による輻輳制御装置であって、特定ノードのバッファ容量が超過したことを検知するバッファ容量検知手段5と、バッファ容量検知手段5によりバッファ容量が超過したことを検知した際に、返送すべきパケットを選択するパケット選択手段7と、パケット選択手段7により選択されたパケットを上流側のノードに返送するパケット返送手段6と、上流側ノードに保持された返送パケットの再送時間を設定する再送時間設定手段9と、再送時間設定手段9により設定された時間に基づいて上流側ノードに保持された返送パケットを下流側ノードに再送する再送手段10と、各手段を制御する制御部(制御手段)8と、インターネットとの情報をやり取りするインターフェース11と、を備えて構成されている。また、インターネット3にはエッジルータ2が接続されている。
通信経路中の任意のノードにおいて輻輳が発生し、届いたパケットの量がノードのバッファ容量を超過した場合、従来は、そのノードでパケットが廃棄されていた。本実施形態では、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せず、そのノードからみて上流側のノードへ返送するためのバッファへ入れ直す処理を行い、上流側のノードへ返送する。返送されたパケットは、上流側のノードで保持し、再び下流側のノードへ送出する。また、上流側のノードは、フロー単位で返送パケットを受け取り、そのままパケットを保持していれば、いずれ送信元から到達するパケットは無くなり、輻輳を回避できるものの、保持しているフローのスループットは一時的に大きく低下してしまう。さらには、保持時間が一定の時間を超えると、送信元のTCPは、タイムアウトとしてパケットを再送するので、パケットを保持している意味が無くなってしまう。このため、再送時間を設定する再送時間設定手段9が必要となる。これにより、通信経路中の任意のノードにおいて輻輳が発生し、届いたパケットの量がノードのバッファ容量を超過した場合でも、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せずに輻輳を解消することができる。
【0014】
図2はネットワーク図の一例を示す図である。送信端1の回線を集約しているルータをエッジルータ2、それ以外をコアルータ4とする。エッジルータ2はネットワーク3中に複数存在する。エッジルータ2は、送信端1からパケットを受け取ると、すぐに確認応答(ACK)パケットを送信端1に返信する。一方、エッジルー2タが受け取ったパケットは、コアルータ4へ送られ、受信端へ到着すると、受信端から確認応答(ACK)パケットを受け取る。つまり、エッジルータ2でTCPコネクションが張りなおされる形となる。このとき、エッジルータ2から見て、送信端1側のネットワークはRTT(Round Trip Time)が小さいので通信速度は速く、逆にコアルータ側のネットワークは(特に輻輳時には)RTTが大きいので通信速度は遅い。そのため、この速度差によってエッジルータ2のバッファには自然にパケットが蓄積される。これは、送信端1が持っていた送信データがエッジルータ2のバッファに引っ張り出されるイメージとなる。このような原理上、バッファにパケットが蓄積されていても、通信遅延は発生していない。また、このバッファは、TCPコネクションで繋がったパケットを蓄積するものではないので、たとえ保持時間が長い場合でも、タイムアウトでTCPが切断されることはない。
【0015】
図3は本発明の輻輳制御装置50のパケット返送動作を説明するフローチャートである。制御部8はバッファ容量検知手段5により、輻輳が発生して(S1でY)ノードのバッファ容量が超過したか否かを検証する(S2)。検証の結果、容量が超過していなければ、ステップS1に戻る。ステップS2で容量が超過したら(S2でY)、返送すべきパケットをパケット選択手段7により選択し、パケット返送手段6によりそのパケットを上流側のノードに返送する(S3)。返送した上流側のノードのバッファ容量に余裕があるか否かを検証し(S4)、余裕が無ければ、更に上流のノードに返送する(S6)。ステップS4で上流のノードのバッファに余裕があれば(S4でY)、全ての到達パケットの返送が終了した否かを検証し(S5)、終了するまで繰り返す。尚、ステップS1で輻輳が発生しなければ(S1でN)、そのパケットをバッファに通過させる(S7)。
【0016】
図4は本発明の輻輳制御装置50のパケット再送動作を説明するフローチャートである。まず、再送を開始すると(S10)、上流のノードに保持した最初のパケットを再送する(S11)。次に、パケットをフローごとに再送するために、所定の時間ずらして(S12)、次のパケットを再送する(S13)。そして、全てのパケットの再送が終了するまでステップS12の間を繰り返す。
通信経路中の任意のノードにおいて輻輳が発生し、届いたパケットの量がノードのバッファ容量を超過した場合、従来は、そのノードでパケットが廃棄されるところ、提案手法では、バッファ容量を超過したパケットを廃棄せず、そのノードからみて上流側のノードへ返送するためのバッファへ入れ直す処理を行い、上流側のノードへ返送する。返送されたパケットは、上流側のノードで保持し、再び下流側のノードへ送出する。
バッファ容量を超過したパケットを上流側のノードへ返送するにあたっては、フロー単位で返送することとする。フローとは、送信側と受信側を1対1でつないでいる通信コネクションを指す。
【0017】
図5より、フロー単位での返送を具体的に説明する。図5(a)は上流側のノードに返送する動作を説明する図であり、図5(b)は上流側のノードから再送する動作を説明する図である。バッファに届くパケットがフローA、B、C、Dのパケットであったとする。そして、フローA、Bのパケットがノード21でバッファ容量を超過した場合、このパケットを上流側のノード20へ返送するとともに、それ以降、フローA、Bのパケットについては、全ての到達パケットを返送する。このようにすれば、フローA、Bがバッファ内に入っていかないため、輻輳が緩和され、残りのフローC、Dがノード21のバッファを通過できるようになる。これにより、フローA、B、C、Dのパケットが少しずつ返送されるのではなく、フローA、Bのパケットだけがノード20に返送されるようになる。
また、図5(b)のように、フロー単位でパケットを上流側のノードへ返送することで、上流側のノード20から再送出を行った後、最終的にパケットが届く送信先において、パケットの到着順が入れ替わらないようにできる(TCPは、パケットの到着順が途中で入れ替わった場合でも、送信先で並び替えることができるが、一定個数以上、順番が入れ替わった場合は、送信元はパケット消失と判断して再送を行ってしまう。このため、パケットの並び順を大きく変えないようにする必要がある)。上流側のノード20は輻輳が発生していないため、基本的にバッファの容量には空きがある。返送されたパケットを保持するための所要空き容量は、最大でも(返送されたフロー数)×(ウィンドウサイズ)となる(TCPの性質上、送信先は、パケットを受け取る度に送信元へ確認応答パケット(以下、ACKという)を返すが、ACKが届くまでに、送信元から一度に送信されてくるパケット数は、ウィンドウサイズ分だけである)。
【0018】
図6(a)は上流側のノードにおいて、バッファ容量に余裕がなく、さらに上流側のノードへフロー単位で分割して返送する動作を説明する図、図6(b)は上流側のノードから再送する動作を説明する図である。上流側のノードにおいて、バッファ容量に余裕がない場合は、さらに上流側のノードへフロー単位で分割して返送する。なお、通信経路が分岐していて複数の上流側ノード22〜25がある場合も同様に、フロー単位で分割して返送する。このような分割返送により、複数のノードのバッファ空き容量を活用することができる。例えば、輻輳が発生したノードにおいて、バッファ容量の20%分のパケットが容量超過になったとする。上流側のノードへパケットを返送し、4つのノード22〜25で分割して保持する場合、各ノードのバッファ容量の5%をパケット保持用として活用することになる(ノードは同一バッファ容量と仮定)。
【0019】
今、上流側のノードは、フロー単位で返送パケットを受け取り、保持しているとする。上流側のノードでそのままパケットを保持していれば、いずれ送信元から到達するパケットは無くなり、輻輳を回避できるものの、保持しているフローのスループットは一時的に大きく低下してしまう。さらには、保持時間が一定の時間を超えると、送信元のTCPは、タイムアウトとしてパケットを再送するので、パケットを保持している意味が無くなってしまう。このため、上流側のノードは、返送されてきたパケットをすぐに下流側のノードへ再送出する必要がある。ただし一方では、再送出によって再び輻輳が発生する危険性もあることから、例えば、再送出の開始時間をフロー毎にずらせる処理により、一挙にトラフィックが増えないようにすることが望ましい。また、上流側のノードで保持していたパケットの送信を終了した後は、送信元からパケット廃棄前と同一のウィンドウサイズでパケットが送信されてくるので、パケット廃棄前と同一の速度に戻ることとなる。これは、速度の復旧が早い反面、再び輻輳に陥る危険性が高い。そこで、次のウィンドウサイズ分のパケットについても一定の保持時間での保持を行い、保持時間を徐々に減少させつつ、これをウィンドウサイズで数回分繰り返し、徐々に速度を上げていく動作を行ってもよい。なお、送信側のTCPがRTT(Round Trip Time)の変化に応じて適宜ウィンドウサイズを調整する方式(TCP−Vegas等)である場合は、さらに効果的に速度が調整できる。上流側のノードは、パケットの通過経路であるため、このような処理を安定的に実行するのに好都合である。
なお、再送出パケットが下流側のノードにおいて、再びバッファから溢れた場合は、送信側のTCPがタイムアウトとして再送する可能性が高いので、そのまま廃棄することが望ましい。もしくは、再送出パケットについては、優先的にバッファを通過させ、再送出ではないパケットを上流側のノードへ返送してもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 送信端、2 エッジルータ、3 インターネット、4 コアルータ、5 バッファ容量検知手段、6 パケット返送手段、7 パケット選択手段、8 制御部、9 再送時間設定手段、10 再送手段、50 輻輳制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻輳が発生した特定ノードの上流側ノードへのパケット返送による輻輳制御装置であって、
前記特定ノードのバッファ容量が超過したことを検知するバッファ容量検知手段と、
前記バッファ容量検知手段によりバッファ容量が超過したことを検知した際に、返送すべきパケットを選択するパケット選択手段と、
前記パケット選択手段により選択されたパケットを上流側のノードに返送するパケット返送手段と、
前記上流側ノードに保持された返送パケットの再送時間を設定する再送時間設定手段と、
前記再送時間設定手段により設定された時間に基づいて前記上流側ノードに保持された返送パケットを下流側ノードに再送する再送手段と、
前記各手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする輻輳制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記バッファ容量を超過したパケットを前記上流側のノードへ返送する場合、送信側と受信側を1対1で関連付けている通信コネクションを指すフロー単位で返送することを特徴とする請求項1に記載の輻輳制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記上流側のノードにおいてバッファ容量に余裕がない場合には、更に上流側のノードへフロー単位で分割して返送することを特徴とする請求項1又は2に記載の輻輳制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記再送時間設定手段により設定する再送時間を、前記フローごとにずらせて設定するように制御することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の輻輳制御装置。
【請求項5】
バッファ容量検知手段、パケット選択手段、パケット返送手段、再送時間設定手段、再送手段、及び制御手段を備え、上流側ノードへのパケット返送による輻輳制御装置の輻輳制御方法であって、
前記バッファ容量検知手段が、ノードのバッファ容量が超過したことを検知するステップと、
前記パケット選択手段が、前記バッファ容量検知手段によりバッファ容量が超過したことを検知した際に、返送すべきパケットを選択するステップと、
前記パケット返送手段が、前記パケット選択手段により選択されたパケットを上流側のノードに返送するステップと、
前記再送時間設定手段が、前記上流側ノードに保持された返送パケットの再送時間を設定するステップと、
前記再送手段が、前記再送時間設定手段により設定された時間に基づいて前記上流側ノードに保持された返送パケットを再送するステップと、
前記制御手段が、前記各手段を制御するステップと、を備えたことを特徴とする輻輳制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−193238(P2011−193238A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57783(P2010−57783)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】