説明

近赤外線吸収フィルターとその巻回体

【課題】波長領域850nm〜1100nmの近赤外線の透過率を低減させることが可能となる近赤外線吸収機能を有する近赤外線吸収フィルターとその巻回体を提供する。
【解決手段】本発明の近赤外線吸収フィルターは、基材と、前記基材の一方の主面側に配置された膜と、前記膜の主面上に配置された保護フィルムと、前記膜が配置された前記基材の主面側とは反対側に配置された近赤外線吸収層とを含み、前記膜が位置する側とは反対側の前記保護フィルムの主面の表面粗さRaが、0.01μm以上0.054μm以下であることを特徴とし、前記近赤外線吸収フィルターを用いてその巻回体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムに関し、さらに詳しくは、製造が容易で、可視光線波長領域における反射率が低く、かつ近赤外線吸収機能をも有する反射防止フィルムとその巻回体、およびその巻回体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネルなどに代表される高精細かつ大画面ディスプレイの開発が急速に進んでいる。従来、これらディスプレイ画面への外光の映り込みを防止するため、単層の低屈折率材からなる薄膜、あるいは低屈折率材からなる薄膜と高屈折率材からなる薄膜とを組み合わせた多層膜を、ディスプレイ画面の表面に配置することで、反射防止性能を得る方法が採用されている。
【0003】
また、プラズマディスプレイパネルにおいては、プラズマ放電を起こした際に不要な近赤外線が放出され、周辺の電子機器に悪影響を与え、特にテレビやエアコンなどのリモコンの誤動作を生じさせるといった問題があった。このため、近赤外線吸収剤を含むフィルムをプラズマディスプレイパネルの前面板に貼り付けるなどして対応している。特に、最近では各フィルムの密着性改善や工程簡略化によるコストダウンを目的として、各機能を集約したフィルムの提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0004】
即ち、特許文献1には、透明樹脂フィルムの一方の面に反射防止層を形成し、かつその透明樹脂フィルムの他の面に近赤外線吸収剤を含有する粘着剤層を積層してなる反射防止性フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−156991号公報
【特許文献2】特開平11−295506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、反射防止フィルムを製造する工程においては、透明樹脂フィルム基材の表面に形成された反射防止膜の汚れや傷つきなどを防ぐために、保護フィルムをラミネートすることが必須となる。しかし、この保護フィルムをラミネートした反射防止フィルムをロール状に巻き取って巻回体を製造する際には、保護フィルムの背面(反射防止膜が位置する側とは反対側の保護フィルムの表面)の表面粗さが小さすぎると、反射防止フィルム相互間の滑りが悪くなり、巻き取り不良を生じる問題があった。
【0007】
特に、反射防止膜が位置する側とは反対側の基材の表面に近赤外線吸収層を形成した場合には、保護フィルムの背面の表面粗さが小さすぎると、保護フィルムと近赤外線吸収層との相互間の摩擦が極めて大きくなって巻き取り不良を生じ、保護フィルムの背面の表面粗さが大きすぎると、近赤外線吸収層へ保護フィルムの表面粗さが転移するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材と、前記基材の一方の主面側に配置された膜と、前記膜の主面上に配置された保護フィルムと、前記膜が配置された前記基材の主面側とは反対側に配置された近赤外線吸収層とを含む近赤外線吸収フィルターであって、前記膜が位置する側とは反対側の前記保護フィルムの主面の表面粗さRaが、0.01μm以上0.054μm以下であることを特徴とする近赤外線吸収フィルターを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記近赤外線吸収フィルターが巻回されていることを特徴とする近赤外線吸収フィルターの巻回体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、製造が容易で、可視光線波長領域における反射率が低く、かつ近赤外線吸収機能をも有する反射防止フィルムとその巻回体を提供できる。
【0011】
また、本発明は、反射防止フィルムの特性を低下させずに、特に近赤外線吸収層の品位を低下させることなく、反射防止フィルムの巻回体を安定して製造可能な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の反射防止フィルムの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の反射防止フィルムの巻回体の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明の反射防止フィルムの実施の形態を説明する。本発明の反射防止フィルムの一例は、基材と、上記基材の一方の主面側に配置された反射防止膜と、上記反射防止膜の主面上に配置された保護フィルムとを含み、上記反射防止膜が位置する側とは反対側の上記保護フィルムの主面(背面)の表面粗さRaが、0.01μm以上1.0μm以下であることを特徴とする。
【0014】
背面の表面粗さRaが上記範囲の保護フィルムを用いることにより、反射防止フィルムの表裏相互間の滑りが適度となり、反射防止フィルムを巻き取っても巻き取り不良や反射防止フィルムの特性が低下しない。特に、反射防止膜が位置する側とは反対側の基材の表面に後述する近赤外線吸収層を形成した場合には、保護フィルムの背面の表面粗さRaが0.01μm未満では、保護フィルムと近赤外線吸収層との相互間の滑りが悪くなって巻き取り不良を生じ、保護フィルムの背面の表面粗さRaが1.0μmを超えると、近赤外線吸収層へ保護フィルムの表面粗さが転移して近赤外線吸収層の特性が低下する。
【0015】
上記保護フィルムの全光線透過率は、80%以上95%以下であることが好ましい。保護フィルムの全光線透過率が80%未満では、反射防止膜の塗布状態の検査が困難となり、95%を超えると保護フィルムの表面粗さRaを0.01μm以上とすることが困難になる。
【0016】
また、上記反射防止膜が配置された上記基材の主面側とは反対側に近赤外線吸収層をさらに配置することが好ましい。より具体的には、上記近赤外線吸収層を配置することにより、波長850nm〜1100nmの全領域において分光透過率を0.1%〜20%とすることが好ましく、特に900nm〜1100nmの全領域において分光透過率を0.1%〜10%とすることがより好ましい。これにより、不要な近赤外線の放出を防止でき、特に本実施形態の反射防止フィルムをプラズマディスプレイパネルの前面板に貼り付けることにより、不要な近赤外線の放出が防止され、周辺の電子機器に悪影響を与えることがなくなる。
【0017】
また、上記近赤外線吸収層と上記反射防止膜との間のいずれかの部分に紫外線吸収剤をさらに含ませることが好ましい。これにより、太陽光などの外光による近赤外線吸収層の劣化を防止することができる。上記紫外線吸収剤は、上記基材中に含ませるのが製造上有利である。
【0018】
また、上記反射防止膜は、上記基材の側から順に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層から形成されていることが好ましい。これにより、可視光線波長領域における反射率を低減することができる。
【0019】
また、上記基材と上記反射防止膜との間にハードコート層をさらに形成することが好ましい。これにより、より優れた耐擦傷性を付与することができる。
【0020】
次に、本発明の反射防止フィルムの巻回体の実施の形態を説明する。本発明の反射防止フィルムの巻回体の一例は、上記で説明した反射防止フィルムが巻回されていることを特徴とする。上記反射防止フィルムを巻回体とすることにより、可視光線波長領域における反射率が低く、かつ近赤外線吸収機能をも有する反射防止フィルムの取り扱いや運搬が容易となる。
【0021】
続いて、本発明の反射防止フィルムの巻回体の製造方法の実施の形態を説明する。本発明の反射防止フィルムの巻回体の製造方法の一例は、基材の一方の主面側に反射防止膜を配置する工程と、上記反射防止膜の主面上に保護フィルムを配置する工程と、上記保護フィルムを配置した基材を巻き取る工程とを含み、上記反射防止膜が位置する側とは反対側の上記保護フィルムの主面(背面)の表面粗さRaは、0.01μm以上1.0μm以下であることを特徴とする。
【0022】
表面粗さRaが上記範囲の保護フィルムを用いることにより、反射防止フィルムの表裏相互間の滑りが適度となり、反射防止フィルムを巻き取る際に巻き取り不良や反射防止フィルムの特性が低下しない。表面粗さRaが0.01μm未満では反射防止フィルムの表裏相互間の滑りが悪くなって巻き取り不良が発生し、表面粗さRaが1.0μmを超えると保護フィルムが配置されていない側の基材の表面に保護フィルムの表面粗さが転移して、反射防止フィルムの特性が低下する。
【0023】
特に、反射防止膜が位置する側とは反対側の基材の表面に後述する近赤外線吸収層を形成した場合には、保護フィルムの背面の表面粗さRaが0.01μm未満では、保護フィルムと近赤外線吸収層の相互間の滑りが悪くなって巻き取り不良を生じ、保護フィルムの背面の表面粗さRaが1.0μmを超えると、近赤外線吸収層へ保護フィルムの表面粗さが転移して、近赤外線吸収層の特性が低下する。
【0024】
上記保護フィルムの全光線透過率は、80%以上95%以下であることが好ましい。保護フィルムの全光線透過率が80%未満では、反射防止膜の塗布状態の検査が困難となり、95%を超えると保護フィルムの表面粗さRaを0.01μm以上とすることが困難になる。
【0025】
また、本実施形態の製造方法では、上記反射防止膜が配置された上記基材の主面側とは反対側に近赤外線吸収層を配置する工程をさらに含むことが好ましい。これにより、反射防止フィルムに近赤外線吸収機能を付与できる。
【0026】
また、本実施形態の製造方法では、上記近赤外線吸収層と上記反射防止膜との間のいずれかの部分に紫外線吸収剤を配置する工程をさらに含むことが好ましい。これにより、太陽光などの外光による近赤外線吸収層の劣化を防止することができる。上記紫外線吸収剤は、上記基材中に含ませるのが製造上有利である。
【0027】
また、上記反射防止膜は、上記基材の側から順に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層から形成することが好ましい。これにより、可視光線波長領域における反射率を低減することができる。
【0028】
また、本実施形態の製造方法では、上記基材と上記反射防止膜との間にハードコート層を配置する工程をさらに含むことが好ましい。これにより、より優れた耐擦傷性を付与することができる。
【0029】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0030】
(実施形態1)
図1は、本発明の反射防止フィルムの一例を示す断面図である。本実施形態の反射防止フィルムは、基材1と、基材1の一方の主面上に形成されたハードコート層2と、ハードコート層2の上に形成された3層からなる反射防止膜3と、反射防止膜3の上に配置された保護フィルム4と、基材1の他方の主面上に形成された近赤外線吸収層5とを備えている。また、反射防止膜3と接する側とは反対側の保護フィルム4の背面4aの表面粗さRaは、0.01μm以上1.0μm以下に設定されている。さらに、反射防止膜3は、基材1の側から順に中屈折率層3a、高屈折率層3b、低屈折率層3cから形成されている。
【0031】
基材1の材料は、透光性を有する材料であれば特に制限されない。例えば、飽和ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などの樹脂をフィルム状またはシート状に加工したものを用いることができる。フィルム状またはシート状への加工方法としては、押し出し成形、カレンダー成形、圧縮成形、射出成形、上記樹脂を溶剤に溶解させてキャスティングする方法などが挙げられる。基材1の厚さは、10μm〜500μm程度であることが好ましい。なお、上記樹脂には、酸化防止剤、難燃剤、耐熱防止剤、紫外線吸収剤、易滑剤、帯電防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0032】
ハードコート層2の材料は、硬度が高く透光性を有する材料であれば特に制限されない。例えば、ウレタン系、メラミン系、エポキシ系などの熱硬化型樹脂組成物、あるいは多官能または単官能のアクリレートモノマー、オリゴマーと光重合開始剤、各種添加剤とを含有する放射線硬化型樹脂組成物などを用いることができるが、特に表面硬度が高い放射線硬化型樹脂組成物が好ましい。さらに、上記樹脂に無機微粒子を添加することにより、より高い表面硬度が得られるとともに、樹脂の硬化による収縮を緩和できる。無機微粒子の材料としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、酸化ジルコニウムなどを用いることができる。
【0033】
基材1の上にハードコート層2を形成する方法については特に制限はなく、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。ハードコート層2の厚さは、1μm〜10μmが好ましく、2μm〜7μmがより好ましい。
【0034】
中屈折率層3aの材料は、屈折率nmが1.55〜1.65、より好ましくは1.57〜1.63で透光性を有する材料であれば特に制限されない。例えば、屈折率の高い無機微粒子を熱硬化型樹脂組成物または放射線硬化型樹脂組成物などの架橋可能な有機物成分中に均一に分散させたコーティング組成物が好適に用いられる。上記無機微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの微粒子を用いることができる。中でも高い導電性を有するITO微粒子またはATO微粒子を用いることでフィルムの帯電を防止する効果が得られるので特に好ましい。
【0035】
ハードコート層2の上に中屈折率層3aを形成する方法については特に制限はなく、前述した各種の塗工法、印刷法により形成できる。中屈折率層3aの屈折率nmとその厚さdmとの積nmm(光学厚さ)は、100nm〜150nmが好ましく、110nm〜140nmがより好ましい。
【0036】
高屈折率層3bの材料は、屈折率nhが1.75〜1.85、より好ましくは1.76〜1.84で透光性を有する材料であれば特に制限されない。例えば、屈折率の最も高い無機微粒子である酸化チタン微粒子を熱硬化型樹脂組成物または放射線硬化型樹脂組成物などの架橋可能な有機物成分中に均一に分散させたコーティング組成物が好適に用いられる。高屈折率層3bは、このコーティング組成物が強固に架橋した膜として形成される。また、酸化チタン微粒子のうち、アナターゼ構造のものには光触媒作用があり、紫外線の照射により塗膜を構成する樹脂成分や基材などの有機物を分解してしまう問題がある。そのため、光触媒作用が弱く、かつ屈折率も高いルチル構造の酸化チタン微粒子が好適に使用される。酸化チタン微粒子の量は、硬化後の高屈折率層3bの全重量に対して50重量%〜65重量%が好ましい。
【0037】
中屈折率層3aの上に高屈折率層3bを形成する方法については特に制限はなく、前述した各種の塗工法、印刷法により形成できる。高屈折率層3bの屈折率nhとその厚さdhとの積nhh(光学厚さ)は210nm〜260nmが好ましく、220nm〜250nmがより好ましい。
【0038】
また、上記高屈折率層3b中の有機成分の一部に、屈折率が1.60〜1.80、より好ましくは1.65〜1.75の範囲内にある有機成分を含有させることが好ましい。これにより、高屈折率層3b中の酸化チタン微粒子の量を低減しても屈折率を高めることができる。また、酸化チタン微粒子の量を低減することにより、高屈折率層3b中における有機成分の架橋性の低下が防止でき、有機成分(樹脂)の硬化が促進されて、反射防止フィルムの耐擦傷性が向上する。上記有機成分の屈折率が1.60未満では、高屈折率層3b中の酸化チタン微粒子の量の低減効果が不十分となり、1.80を超えると反射光の黄色味が強くなる傾向があり好ましくない。屈折率が1.60〜1.80の範囲内にある有機成分となり得る高屈折率有機材料としては、芳香環、硫黄、臭素などを含有する有機化合物が挙げられ、例えば、ジフェニルスルフィドおよびその誘導体などを用いることができる。
【0039】
低屈折率層3cの材料は、屈折率nlが1.35〜1.45、より好ましくは1.35〜1.43で透光性を有する材料であれば特に制限されない。例えば、フッ素系またはシリコーン系の有機化合物、シリカ、フッ化マグネシウムなどの無機微粒子などを、熱硬化型樹脂組成物または放射線硬化型樹脂組成物などの架橋可能な有機物成分中に均一に分散させたコーティング組成物が好適に用いられる。特に、放射線硬化型樹脂組成物のうち紫外線硬化型樹脂組成物を用いる場合には、酸素による重合阻害を防止するため、窒素などの不活性ガスをパージして酸素濃度が1000ppm以下程度になる条件下にて紫外線照射を行うことが好ましい。
【0040】
高屈折率層3bの上に低屈折率層3cを形成する方法については特に制限はなく、前述した各種の塗工法、印刷法により形成できる。低屈折率層3cの屈折率nlとその厚さdlとの積nll(光学厚さ)は、120nm〜150nmが好ましく、120nm〜140nmがより好ましい。
【0041】
保護フィルム4の材料は、透光性を有する材料であれば特に制限されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを用いることができる。背面4aの表面粗さRaは、0.01μm以上1.0μm以下に設定する必要がある。背面4aの表面粗さRaをこの範囲にする方法としては、通常フィルムの内部あるいは表面に超微粒子を含有させる方法が用いられ、超微粒子の粒子径および含有量を調整することによりフィルムの表面粗さRaを制御できる。
【0042】
低屈折率層3cの上に保護フィルム4を配置する方法については特に制限はないが、通常、保護フィルム4は粘着剤を介してセパレータに貼り付けた状態で提供され、このセパレータを剥がしながら上記低屈折率層3cにラミネートされる。また、保護フィルム4の厚さは、5μm〜200μmが好ましく、10μm〜100μmがより好ましい。
【0043】
近赤外線吸収層5の材料は、近赤外線を吸収する透光性を有する材料であれば特に制限されない。通常は、近赤外線を吸収する化合物を分散させた樹脂が用いられる。近赤外線を吸収する化合物としては、近赤外領域に最大吸収波長を有する有機色素が好ましく、例えば、アミニウム系、アゾ系、アジン系、アントラキノン系、インジゴイド系、オキサジン系、キノフタロニン系、スクワリウム系、スチルベン系、トリフェニルメタン系、ナフトキノン系、ジイモニウム系、フタロシアニン系、シアニン系、ポリメチン系などの有機色素を用いることができる。
【0044】
上記樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、セルロース、ポリブチラール、ポリエステルなどを用いることができ、またこれらの樹脂の2種以上がブレンドされたポリマーブレンドも用いることができる。
【0045】
近赤外線吸収層5は、850nm〜1100nmの波長領域に最大吸収波長を有する材料を含んでいることが好ましい。近赤外線吸収層5が上記化合物を含んでいると、波長400nm〜850nmの可視光の透過率を大きく低減させることなく、波長領域850nm〜1100nmの近赤外線の透過率を低減させることが可能となる。850nm〜1100nmの波長領域に最大吸収波長を有する材料としては、上記有機色素を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。これにより、本実施形態の反射防止フィルムをプラズマディスプレイパネルなどの近赤外線吸収フィルターとしても好適に用いることができる。
【0046】
近赤外線吸収層5には、プラズマディスプレイパネルのネオン輝線スペクトル(オレンジ色)をカットする化合物を適宜添加することも可能である。これにより、プラズマディスプレイパネルにおいて、赤色をより鮮やかに発色させることができる。ネオン輝線スペクトルをカットする化合物としては、580nm〜620nmの波長領域に最大吸収波長を有する有機色素が使用でき、例えば、シアニン系、アズレニウム系、スクワリウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、オキサジン系、アジン系、チオピリウム系、ビオローゲン系、アゾ系、アゾ金属錯塩系、アザポルフィリン系、ビスアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系などの有機色素を用いることができる。
【0047】
(実施形態2)
図2は、本発明の反射防止フィルムの巻回体の一例を示す側面図である。本実施形態の巻回体11は、実施形態1の反射防止フィルム12を芯材13を中心として巻き取ったものである。このように、背面の表面粗さRaが0.01μm以上1.0μm以下の保護フィルムを備えた実施形態1の反射防止フィルム12を用いることにより、保護フィルムと近赤外線吸収層との相互間の滑りが適度となり、反射防止フィルム12を巻き取る際に巻き取り不良が発生せず、また、近赤外線吸収層の特性が低下しない。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
基材として、表裏両面を易接着処理した厚さ100μmの紫外線カット性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製“ルミラーQT58”)を準備した。次に、シリカ超微粒子含有アクリレート系紫外線硬化型ハードコート材(JSR製“デソライトZ7501”)100重量部とシクロヘキサノン35重量部とを混合攪拌してコーティング液を調製し、このコーティング液を上記PETフィルムの一方の表面に、マイクログラビアコータ(康井精機製)を用いてコーティングして乾燥した。その後、紫外線を300mJ/cm2の強度で照射して硬化させ、上記PETフィルムの一方の表面に厚さ4μmのハードコート層を形成した。
【0050】
次に、無機超微粒子含有アクリレート系紫外線硬化型コート材(JSR製“オプスターTU4005”)100重量部、多官能アクリレート(日本化薬製“DPHA”)5重量部、およびシクロヘキサノン200重量部を混合攪拌してコーティング液を調製し、このコーティング液を上記ハードコート層の上に、上記マイクログラビアコータを用いてコーティングして乾燥した。その後、紫外線を300mJ/cm2の強度で照射して硬化させ、上記ハードコート層の表面に厚さ72nmの中屈折率層(屈折率1.60)を形成した。
【0051】
続いて、酸化チタン超微粒子(石原テクノ製“TTO55(A)”)30重量部、ジメチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学製“ライトエステルDM”)1重量部、リン酸基含有メタクリレート(日本化薬製“KAYAMER PM−21”)4重量部、シクロヘキサノン65重量部を混合した組成物をサンドグラインドミルにて分散して酸化チタン超微粒子分散体を調製し、これにアクリレート系紫外線硬化型ハードコート材(三洋化成工業製“サンラッドH−601R”)15重量部、メチルイソブチルケトン600重量部を配合分散してコーティング液を調製した。このコーティング液を上記中屈折率層の上に、上記マイクログラビアコータを用いてコーティングして乾燥した。その後、紫外線を500mJ/cm2の強度で照射して硬化させ、上記中屈折率層の表面に厚さ130nmの高屈折率層(固形分中に占める酸化チタン微粒子の量60重量%、屈折率1.80)を形成した。
【0052】
さらに、フッ素系ポリマー含有熱硬化型低屈折率反射防止材(JSR製“オプスターTT1006”)100重量部とメチルイソブチルケトン20重量部とを混合攪拌してコーティング液を調製し、このコーティング液を上記高屈折率層の上に、上記マイクログラビアコータを用いてコーティングして乾燥した。その後、120℃で6分間熱処理を行い、上記高屈折率層の表面に厚さ92nmの低屈折率層(屈折率1.41)を形成した。
【0053】
次に、上記低屈折率層の上に保護フィルムとして厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(日立化成工業製“ヒタレックスL−8010”)をラミネートした。このPETフィルムは、粘着剤を介してセパレータに貼り付けた状態で提供され、このセパレータを剥がしながら上記低屈折率層にラミネートした。この保護フィルムの粘着剤が塗布された側とは反対側の背面の表面粗さRaを触針式表面粗さ計(Veeco製“Dektak3ST”)にて測定したところRa=0.042μmであった。また、セパレータを剥離した状態で、保護フィルムの全光線透過率を分光光度計(日本分光社製“Ubest V−570型”)を用いて測定したところ、88%であった。
【0054】
続いて、ポリエステル樹脂(ユニチカ製“エリーテルUE3690”)100重量部、近赤外線吸収色素(日本化薬製“カヤソーブIRG−022”)9.5重量部、近赤外線吸収色素(日本触媒製“イーエクスカラーIR−12”)3.2重量部、ネオン光カット色素(旭電化工業製“アートクルズTY−100”)2.2重量部、シクロヘキサノン370重量部、トルエン185重量部、およびメチルエチルケトン62重量部を混合攪拌して、コーティング液を調製した。このコーティング液を上記基材の他方の表面に、上記マイクログラビアコータを用いてコーティングして乾燥し、上記基材の表面に厚さ3μmの近赤外線吸収層を形成し、ロール状に巻き取って実施例1の反射防止フィルムの巻回体を作製した。
【0055】
(実施例2)
基材として、表裏両面を易接着処理した厚さ100μmの紫外線カット性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製“ルミラーQT58”)を準備した。次に、シリカ超微粒子含有アクリレート系紫外線硬化型ハードコート材(日本化薬製“カヤノーバFOP−5000”)100重量部とシクロヘキサノン40重量部とを混合攪拌してコーティング液を調製し、このコーティング液を上記PETフィルムの一方の表面に、マイクログラビアコータ(康井精機製)を用いてコーティングして乾燥した。その後、紫外線を300mJ/cm2の強度で照射して硬化させ、上記PETフィルムの一方の表面に厚さ4μmのハードコート層を形成した。
【0056】
次に、上記ハードコート層の上に実施例1と同様にして中屈折率層(屈折率1.60)を形成した。
【0057】
続いて、酸化チタン超微粒子(石原テクノ製“TTO55(B)”)30重量部、ジメチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学製“ライトエステルDM”)1重量部、リン酸基含有メタクリレート(日本化薬製“KAYAMER PM−21”)4重量部、シクロヘキサノン65重量部を混合した組成物をサンドグラインドミルにて分散して酸化チタン超微粒子分散体を調製し、これにアクリレート系紫外線硬化型ハードコート材(三洋化成工業製“サンラッドH−601R”)15重量部、メチルイソブチルケトン600重量部を配合分散してコーティング液を調製した。このコーティング液を上記中屈折率層の上に、上記マイクログラビアコータを用いてコーティングして乾燥した。その後、紫外線を500mJ/cm2の強度で照射して硬化させ、上記中屈折率層の表面に厚さ128nmの高屈折率層(固形分中に占める酸化チタン微粒子の量60重量%、屈折率1.81)を形成した。
【0058】
さらに、アルコキシシラン系熱硬化型低屈折率コート材(日産化学工業製“LR−202”)を上記高屈折率層の上に上記マイクログラビアコータを用いてコーティングして乾燥し、上記高屈折率層の表面に厚さ95nmの低屈折率層(屈折率1.41)を形成した。
【0059】
次に、上記低屈折率層の上に保護フィルムとして厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(日立化成工業製“ヒタレックスL−8310”)をラミネートし、その後70℃で72時間熱処理を行った。このPETフィルムは、粘着剤を介してセパレータに貼り付けた状態で提供され、このセパレータを剥がしながら上記低屈折率層にラミネートした。この保護フィルムの粘着剤が塗布された側とは反対側の背面の表面粗さRaを触針式表面粗さ計(Veeco製“Dektak3ST”)にて測定したところRa=0.054μmであった。また、セパレータを剥離した状態で、保護フィルムの全光線透過率を分光光度計(日本分光社製“Ubest V−570型”)を用いて測定したところ、87%であった。
【0060】
続いて、上記基材の他方の表面に実施例1と同様にして近赤外線吸収層を形成し、ロール状に巻き取って実施例2の反射防止フィルムの巻回体を作製した。
【0061】
(比較例1)
保護フィルムの粘着剤が塗布された側とは反対側の背面の表面粗さRaを1.2μmとした以外は、実施例1と同様にして比較例1の反射防止フィルムの巻回体を作製した。
【0062】
(比較例2)
保護フィルムの粘着剤が塗布された側とは反対側の背面の表面粗さRaを0.008μmとした以外は、実施例1と同様にして比較例2の巻回体を作製しようと試みたが、巻き取り不良が発生し、巻回体を作製できなかった。
【0063】
次に、実施例1、2、および比較例1で得られた巻回体の反射防止フィルムを用いて、以下の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0064】
(1)可視光線波長領域における反射率
分光光度計(日本分光社製“「Ubest V−570型”)を用いて、380nm〜780nmの可視光線波長領域における反射防止フィルムの反射防止膜側の反射率の測定を行い、450nm〜750nmの領域における最小反射率を測定した。
【0065】
(2)近赤外線吸収層の表面状態
反射防止フィルムの近赤外線吸収層の表面状態を目視にて判定した。その判定基準は、A:無傷、B:僅かに傷あり、C:多数傷あり、とした。
【0066】
(3)近赤外線波長領域における分光透過率
上記分光光度計を用いて、850nm〜1100nmの近赤外線波長領域における分光透過率の最大値を測定した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、実施例1および実施例2は、比較例1に比べて、近赤外線吸収層の表面状態が良好であり、850nm〜1100nmの近赤外線波長領域における分光透過率も小さいことが分かる。比較例1では、保護フィルムの粘着剤が塗布された側とは反対側の背面の表面粗さRaを1.2μmと粗くしたため、この反射防止フィルムが巻き取られて巻回体を形成した際に、この背面の粗さが近赤外線吸収層に転移し、その結果、表面むら、傷などに起因するフィルムの外観不良が生じるとともに、近赤外線の透過率も上昇したものである。
【0069】
なお、実施例1、2および比較例1は、いずれも可視光線波長領域における反射率が低く、かつ近赤外線吸収機能も高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、製造が容易で、可視光線波長領域における反射率が低く、かつ近赤外線吸収機能をも有する反射防止フィルムとその巻回体を提供できる。また、本発明は、反射防止フィルムの特性を低下させずに、特に近赤外線吸収層の特性を低下させることなく、反射防止フィルムの巻回体を安定して製造可能な製造方法を提供できる。この反射防止フィルムをディスプレイ用前面板に用いることにより、CRT、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネルなどのディスプレイ画面への外光の映り込みを防止することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 基材
2 ハードコート層
3 反射防止膜
3a 中屈折率層
3b 高屈折率層
3c 低屈折率層
4 保護フィルム
4a 背面
5 近赤外線吸収層
11 巻回体
12 反射防止フィルム
13 芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の主面側に配置された膜と、前記膜の主面上に配置された保護フィルムと、前記膜が配置された前記基材の主面側とは反対側に配置された近赤外線吸収層とを含む近赤外線吸収フィルターであって、
前記膜が位置する側とは反対側の前記保護フィルムの主面の表面粗さRaが、0.01μm以上0.054μm以下であることを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の近赤外線吸収フィルターが巻回されていることを特徴とする近赤外線吸収フィルターの巻回体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−145899(P2009−145899A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8815(P2009−8815)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【分割の表示】特願2003−344616(P2003−344616)の分割
【原出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】