説明

近赤外線吸収フィルムおよび近赤外線吸収フィルムの製造方法

【課題】プラズマディスプレイパネルや液晶パネルの光源から放射される近赤外線を吸収することができる耐熱性、耐久性に優れた近赤外線吸収フィルムおよび近赤外線吸収フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂と、フタロシアニン系色素とを含むことにより、耐熱性、近赤外線吸収性、耐久性に優れている。さらに、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、耐熱性に優れていることにより、溶融押出し法によって成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖に環構造を有する耐熱性樹脂とフタロシアニン系色素とを含む近赤外線吸収フィルムおよび近赤外線吸収フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイ、液晶等のフラットパネルディスプレイは注目されており、年々大型化する傾向にある。しかし、プラズマディスプレイ、液晶等のフラットパネルディスプレイは、光源からのプラズマ放電による発光、陰極管からの放電による発光に際し、近赤外線を発生する。そして、その近赤外線の発生は、ディスプレイの大型化により顕著になってきている。近赤外線を発生することによる問題としては、例えば、家庭用電化製品のリモコンの誤作動を誘発すること等が挙げられる。そこで、近赤外線の除去が必要となっている。そのため、近赤外線の吸収能が高く、可視光線の透過性(可視領域の透明性)が高い近赤外線吸収フィルムが求められている。
【0003】
従来、可視光線の透過性が高い近赤外線吸収フィルムに含まれる樹脂として、アクリル系樹脂が使用されている。一方、近年の表示パネルの大型化に伴って、発光の際に光源から発生する熱によるパネル内の温度上昇、自重等の応力が加わることで発生するパネル内の光弾性複屈折等も問題となってきている。そこで、フィルム自体に、高い耐熱性、耐久性、低い光弾性複屈折等が求められている。
【0004】
また、液晶等のフラットパネルディスプレイにガラス転移温度の低い樹脂を使用すると、色素の耐久性が低下する。さらに、耐久性の低い色素を使用すると、製造過程でラインが汚染されるので、光学用途に使用できるフィルムを生産することは極めて困難である。
【0005】
従来の赤外線吸収材料としては、例えば、特許文献1には、アクリル樹脂と赤外線吸収剤としてのフタロシアニン系色素とを含む液晶表示装置用部材が示されている。また、特許文献2には、アクリル樹脂と近赤外線吸収剤としてのフタロシアニン系色素とを含むアクリル樹脂フィルムが示されている。また、特許文献3には、ラクトン環構造を有する耐熱性アクリル樹脂フィルムに近赤外線吸収剤としてのフタロシアニン系色素を含む層をコーティングした光学用面状熱可塑性樹脂成形体(光学用保護フィルム)が示されている。
【特許文献1】特開2001−305335号公報(平成13年10月31日公開)
【特許文献2】特開2004−217773号公報(平成16年8月5日公開)
【特許文献3】特開2006−96960号公報(平成18年4月13日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の赤外線吸収材料は、耐熱性、耐久性に劣っているという問題点を有している。また、上記従来の赤外線吸収材料の製造方法は、工程が簡略化されていないという問題点を有している。
【0007】
例えば、特許文献1に示される液晶表示装置用部材には、耐熱性樹脂が含まれていない。このため、当該液晶表示装置用部材は、耐熱性、耐久性に劣っている。また、特許文献2に示されるアクリル樹脂フィルムにも、耐熱性樹脂が含まれていない。このため、当該アクリル樹脂フィルムも耐熱性、耐久性に劣っている。また、特許文献3に示される光学用面状熱可塑性樹脂成形体(光学用保護フィルム)には、アクリル系樹脂とフタロシアニン系色素との組成物を溶融押出しによりフィルム化したことは具体的に示されていない。このため、当該光学用面状熱可塑性樹脂成形体(光学用保護フィルム)は、ディスプレイの大型化に伴い、製造工程を単純化することが求められている。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、プラズマディスプレイ、液晶等のフラットパネルディスプレイ等の光源から放射される近赤外線を吸収することができる耐熱性、耐久性に優れた近赤外線吸収フィルムおよび近赤外線吸収フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の近赤外線吸収フィルムは、上記課題を解決するために、主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂と、フタロシアニン系色素とを含むことを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、本発明の近赤外線吸収フィルムは、主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂を含んでいる。これにより、耐熱性樹脂が110℃よりも低い温度では融解しないので、本発明の近赤外線吸収フィルムは、耐熱性、耐久性に優れているといえる。また、上記の構成によれば、本発明の近赤外線吸収フィルムは、フタロシアニン系色素を含んでいる。これにより、フタロシアニン系色素が近赤外線を吸収するので、本発明の近赤外線吸収フィルムは、近赤外線吸収性に優れているといえる。また、フタロシアニン系色素は耐熱性を有しているので、本発明の近赤外線吸収フィルムは、より一層、耐熱性、耐久性に優れているといえる。
【0011】
さらに、上記の構成によれば、本発明の近赤外線吸収フィルムは、耐熱性に優れているので、発泡によって外観を損なうことなく溶融押出し法によって成形することができる。
【0012】
また、本発明の近赤外線吸収フィルムは、上記耐熱性樹脂が耐熱性アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0013】
これにより、耐熱性アクリル系樹脂が光学性能に優れているので、本発明の近赤外線吸収フィルムは、高い光線透過率、低複屈折率又は低位相差の光学等方材料として各種光学用材料に適応することができる。
【0014】
また、本発明の近赤外線吸収フィルムは、上記環構造がラクトン環構造であることが好ましい。
【0015】
これにより、ラクトン環構造を有する化合物は可視光線の透過性を有しているので、本発明の近赤外線吸収フィルムは、可視光線を透過することができる。さらに、ラクトン環構造を有する化合物は耐熱性を有しているので、本発明の近赤外線吸収フィルムは、より一層、耐熱性を有することができる。
【0016】
また、本発明の近赤外線吸収フィルムの製造方法は、溶融押出し法によって成形することが好ましい。
【0017】
これにより、本発明の近赤外線吸収フィルムの製造方法は、キャストコーティング法によって成形する製造方法よりも、製造コストを低く、生産効率をよくすることができる。
【0018】
また、本発明の液晶表示装置は、上記近赤外線吸収フィルムからなる層を、少なくとも1層備えることが好ましい。また、本発明の偏光板保護フィルム、位相差フィルムおよび拡散フィルムは、上記近赤外線吸収フィルムからなることが好ましい。
【0019】
上記近赤外線吸収フィルムが備える耐熱性、近赤外線吸収性、耐久性により、耐熱性、近赤外線吸収性、耐久性に優れた液晶表示装置、偏光板保護フィルム、位相差フィルムおよび拡散フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の近赤外線吸収フィルムは、以上のように、主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂と、フタロシアニン系色素とを含むものである。
【0021】
それゆえ、本発明の近赤外線吸収フィルムは、主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂を含んでいるので、耐熱性、耐久性に優れているといえる。また、本発明の近赤外線吸収フィルムは、フタロシアニン系色素を含んでいるので、近赤外線吸収性に優れているといえる。さらに、本発明の近赤外線吸収フィルムは、耐熱性に優れているので、溶融押出し法によって成形することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。
【0023】
本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂と、フタロシアニン系色素とを含むことを特徴としている。
【0024】
上記近赤外線吸収フィルムは、主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂とフタロシアニン系色素のみからなっていてもよいし、近赤外線吸収フィルムの特性を阻害しない限り、他の物質を含んでいてもよい。他の物質を含める方法としては、特に限定されるものではない。
【0025】
<近赤外線、可視光線>
赤外線とは、可視光線とマイクロ波との中間の波長領域の電磁波をいう。赤外線の波長領域は、約0.76μm以上1,000μm以下である。また、近赤外線とは、赤外線のうち波長領域が2.5μm以下の可視光線に近い部分をいう。また、可視光線とは、電磁波のうち人間の目に光として感じる波長領域のものをいう。可視光線の波長領域は、約0.38μm以上0.78μm以下である。また、マイクロ波とは、波長の短いラジオ波をいう。マイクロ波の波長領域は、約300μm以上300,000μm以下である。
【0026】
<環構造>
本発明の近赤外線吸収フィルムに含まれる耐熱性樹脂が有する環構造としては、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、N−置換メタクリルイミド構造、無水マレイン酸構造、N−置換マレイミド構造、シクロペンタン構造等が挙げられる。可視光線の透過性と、耐熱性とを共に兼ね備えた樹脂として、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体をラクトン環化縮合反応させることによって得られるラクトン環を含有した重合体(以下、「ラクトン化ポリマー」という)が知られているため、環構造としてはラクトン環構造が好ましい。
【0027】
<耐熱性樹脂、ガラス転移温度>
本発明の近赤外線吸収フィルムに含まれる耐熱性樹脂としては、耐熱性アクリル系樹脂、耐熱性ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。
【0028】
上記例示の耐熱性樹脂の中で、光学性能に優れ、高い光線透過率や低複屈折率、低位相差の光学等方材料として各種光学用材料への適応がなされている耐熱性アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0029】
本発明の近赤外線吸収フィルムは、ガラス転移温度が110℃以上の耐熱性樹脂を含有する。また、上記耐熱性樹脂のガラス転移温度は、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。
【0030】
ここで、ガラス転移温度とは、ポリマー分子がミクロブラウン運動を始める温度である。ガラス転移温度については、各種の測定方法がある。本発明においては、ガラス転移温度とは、示差走査熱熱量計(DSC)によって、ASTM−D−3418に従って、中点法で求めた温度と定義する。ガラス転移温度が複数観測される場合があるが、本発明では、より吸熱量の大きい、主転移温度を採用するものとする。
【0031】
ガラス転移温度が110℃以上の耐熱性アクリル系樹脂としては、アクリレート単量体を共重合したガラス転移温度が110℃以上の樹脂をいう。具体的には、無水マレイン酸とアクリレートの共重合体、N−置換マレイミドとアクリレートの共重合体、アクリレート共重合体を分子内環化反応することによりラクトン環構造を有するポリマー(ラクトン化ポリマー)、アクリレート共重合体を分子内環化反応することによりグルタルイミド環構造を有するポリマー(グルタルイミドポリマー)等が挙げられる。
【0032】
また、上記アクリレート単量体としては、炭素数1〜18のアルキル基、シクロヘキシル基、及び、ベンジル基のうちいずれかを有する(メタ)アクリル酸エステルが好適である。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3−フェニルプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシルエチル等が挙げられる。これらのうち、メタクリル酸メチルが特に好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0033】
また、これらの耐熱性アクリル系樹脂は、耐熱性を損なわない範囲で、共重合可能なその他の成分を共重合していてもよい。共重合可能なその他の単量体成分としては、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられる。
【0034】
さらに、これらの耐熱性アクリル系樹脂は、下記の一般式(1)で表されるラクトン環構造を有することが好ましい。
【0035】
【化1】

【0036】
式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0037】
有機残基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数が1〜20のアルキル基;エテニル基、プロペニル基等の炭素数が1〜20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数が1〜20の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和炭化水素基、上記芳香族炭化水素基の一以上の水素原子がヒドロキシル基で置換された基;上記アルキル基、上記不飽和炭化水素基、上記芳香族炭化水素基の一以上の水素原子がカルボキシル基で置換された基;上記アルキル基、上記不飽和炭化水素基、上記芳香族炭化水素基の一以上の水素原子がエーテル基で置換された基;上記アルキル基、上記不飽和炭化水素基、上記芳香族炭化水素基の一以上の水素原子がエステル基で置換された基であることが好ましい。すなわち、炭素数が1〜20のアルキル基、炭素数が1〜20の不飽和脂肪族炭化水素基、炭素数が1〜20の芳香族炭化水素基、又は、これらの基の少なくとも一以上の水素原子が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル基、又は、エステル基で置換された基であることが好ましい。
【0038】
上記耐熱性アクリル系樹脂中の上記の一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する重合体の含有割合の上限は90重量%、下限は5重量%であることが好ましい。また、上限は70重量%、下限は10重量%であることがより好ましく、上限は60重量%であることがさらに好ましい。耐熱性樹脂中の一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する重合体の含有割合が5重量%より少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不充分になるおそれがある。逆に、耐熱性樹脂中の一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する重合体の含有割合が90重量%より多いと、成形加工性が乏しくなるおそれがある。
【0039】
上記ラクトン化ポリマーは、濃度15重量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度は、6以下であることが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、光学用途に使用できないことがある。上記着色度は、上記ラクトン化ポリマーをクロロホルムに溶かし、15重量%として石英セルに入れ、JIS−K−7103に従い、色差計(商品名:SZ−Σ90、日本電色工業株式会社製)を用いて、透過光で測定するものとする。
【0040】
上記ラクトン化ポリマーのダイナミックTG測定における150℃以上300℃以下の範囲内における質量減少率は、1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。上記質量減少率は、上記ラクトン化ポリマーをテトラヒドロフランに溶解又は希釈し、過剰のヘキサン又はメタノールへ投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分等を除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析する。上記分析は、熱分析装置(商品名:Thermo Plus2 TG−8120 Dynamic TG、株式会社リガク製)を用いて、上記ラクトン化ポリマー5〜10mgを試料とし、10℃/minの昇温速度、200ml/minの窒素フロー、階段状等温制御法(60〜500℃の間で質量減少速度値0.005%/sec以下で制御)で測定するものとする。
【0041】
また、上記ラクトン化ポリマーの熱質量分析(TG)における5%質量減少温度(熱分解温度)は、300℃以上であることが好ましく、より好ましくは320℃以上、さらに好ましくは330℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが300℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。上記5%質量減少温度は、上記質量減少率と同様の方法で測定するものとする。
【0042】
上記ラクトン化ポリマーに含まれる残存揮発分の総量は、1500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が1500ppmを超えると、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリーク等の成形不良の原因となる。上記残存揮発分の総量は、従来公知の方法で測定するものとする。
【0043】
上記ラクトン化ポリマーは、上記の一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。上記の一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されない。例えば、ラクトン化ポリマーの製造方法として後述するような、(メタ)アクリル酸エステルと、ヒドロキシ基含有単量体と、下記の一般式(2)
【0044】
【化2】

【0045】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、又は、−COOH基を表し、Ac基はアセチル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。)
で示される単量体とからなる群から選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)であることが好ましい。
【0046】
上記ラクトン化ポリマーの製造方法は、特に限定されないが、例えば、重合工程によって分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(以下、「重合体(a)」という)を得た後、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
【0047】
上記重合工程においては、例えば、下記の一般式(3)
【0048】
【化3】

【0049】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。)で示される単量体を配合した単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)が得られる。
【0050】
上記の一般式(3)で示される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0051】
上記重合工程に供する単量体成分中における上記の一般式(3)で示される単量体の含有割合は、好ましくは5重量%以上50重量%以下、より好ましくは10重量%以上50重量%以下、特に好ましくは10重量%以上40重量%以下である。上記の一般式(3)で示される単量体の含有割合が5重量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性及び表面硬度が低下するおそれがある。また、上記の一般式(3)で示される単量体の含有割合が50重量%を超えると、重合工程やラクトン環化縮合工程においてゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が低下するおそれがある。
【0052】
上記重合工程に供する単量体成分には、上記の一般式(3)で示される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、及び、上記の一般式(2)で示される単量体等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0053】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記の一般式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られた重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0054】
上記の一般式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは10重量%以上95重量%以下、より好ましくは10重量%以上90重量%以下、さらに好ましくは40重量%以上90重量%以下、特に好ましくは50重量%以上90重量%以下である。
【0055】
上記の一般式(2)で示される単量体を用いる場合の上記の一般式(2)で示される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記の一般式(2)で示される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0057】
上記単量体成分を重合して分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)を得るための重合反応の形態としては、溶剤を使用する重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。また、リビングラジカル重合は、開始反応と成長反応のみからなり、停止又は連鎖移動等の成長末端を失活させる副反応が起こらないので、ポリマー分子鎖から水素を引き抜くことが少なく、ポリマーゲルやポリマー炭化物等の異物の発生を抑制するのに特に好適である。
【0058】
上記重合工程における重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合等に応じて変化するが、好ましくは、重合温度が0℃以上150℃以下、重合時間が0.5時間以上20時間以下であり、より好ましくは、重合温度が80℃以上140℃以下、重合時間が1時間以上10時間以下である。
【0059】
上記重合工程において、溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン化ポリマーの残存揮発分が多くなることから、沸点が50℃以上200℃以下である溶剤が好ましい。
【0060】
上記重合工程において、重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、ポリマー分子鎖から水素を引き抜く能力が低い開始剤である限り、特に限定されないが、例えば、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエー卜、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシベンゾエート、1,1’−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のt−アミル型の過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、2,2’−ジクロロアセトフェノン等のリビングラジカル系開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0061】
上記重合を行う際には、反応液のゲル化を抑制するために、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50重量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50重量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50重量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。なお、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。
【0062】
上記重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中に生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑制することができ、特に、ラクトン環の含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中のヒドロキシ基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0063】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、その後のラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、その後のラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0064】
上記重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは50,000〜170,000、より好ましくは60,000〜170,000、さらに好ましくは70,000〜170,000である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン化ポリマーとなる。
【0065】
上記重合体(a)にラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
【0066】
上記重合体(a)を加熱処理する方法については特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置又は脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
【0067】
上記環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等を用いる場合には、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されている方法を用いてもよい。
【0068】
上記環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン化ポリマーの着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
【0069】
上記環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)及びこれらのジエステル又はモノエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸ジエステル、モノエステル又はトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸ジエステル、モノエステル又はトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ、ジ又はトリアルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ、ジ又はトリアルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;等が挙げられる。これらの中でも、触媒活性が高くて低着色性のため、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステル又はモノエステル、リン酸ジエステル又はモノエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステル又はモノエステル、リン酸ジエステル又はモノエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸ジエステル又はモノエステルが特に好ましい。これら有機リン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
上記環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、重合体(a)に対して、好ましくは0.001重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.01重量%以上2.5重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以上1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以上0.5重量%以下である。触媒の使用量が0.001重量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が充分に図れないおそれがあり、一方、5重量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融成形し難くなったりするので、好ましくない。触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方に添加してもよい。
【0071】
上記環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、及び、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡がラクトンポリマーの生成側に有利となる。
【0072】
上記脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不充分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こったりする問題等が生じる。
【0073】
上記環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されない。本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置、ベント付き押出機、脱揮装置と押出機を直列に配置したもの等を用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置又はベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0074】
上記脱揮工程において、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150℃以上350℃以下の範囲が好ましく、200℃以上300℃以下の範囲がより好ましい。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなるおそれがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こるおそれがある。
【0075】
上記脱揮工程において、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931hPa以下1.33hPa以上(700mmHg以下1mmHg以上)の範囲が好ましく、798hPa以下66.5hPa以上(600mmHg以下50mmHg以上)の範囲がより好ましい。上記圧力が931hPaを超えると、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題がある。逆に、1.33hPa未満であると、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
【0076】
上記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0077】
上記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150℃以上350℃以下の範囲が好ましく、200℃以上300℃以下の範囲がより好ましい。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなるおそれがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こるおそれがある。
【0078】
上記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理圧力は、931hPa以下1.33hPa以上(700mmHg以下1mmHg以上)の範囲が好ましく、798hPa以下13.3hPa以上(600mmHg以下10mmHg以上)の範囲がより好ましい。反応処理圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になるという問題がある。
【0079】
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン化ポリマーの物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
【0080】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)を溶剤と共に環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体(a)を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0081】
上記環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体(a)を、2軸押出機を用いて、250℃近い、又は、それ以上の高温で熱処理するときに、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン化ポリマーの物性が悪くなるおそれがある。そこで、脱揮工程を併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン化ポリマーの物性の悪化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0082】
上述のように、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基を予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン化ポリマーを得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン化ポリマーが得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、ダイナッミクTG測定における、150℃以上300℃以下の範囲内での質量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
【0083】
上記脱揮工程を併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられる。さらに、脱揮工程を併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用でき、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0084】
上記脱揮工程を併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、及び、上記(i)又は(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去したのちに環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよい。
【0085】
上記脱揮工程を併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン;等でもよい。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、重合工程で用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。
【0086】
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等が挙げられるが、本発明においては、上述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体(a)の重量に対し、好ましくは0.001重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.01重量%以上2.5重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以上0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以上0.5重量%以下である。方法(i)の加熱温度と加熱時間は特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上180℃以下、より好ましくは50℃以上150℃以下であり、加熱時間としては、好ましくは1時間以上20時間以下、より好ましくは2時間以上10時間以下である。加熱温度が低いと、又は、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0087】
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜等を用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。方法(ii)の加熱温度と加熱時間は特に限定されないが、例えば、加熱温度としては、好ましくは100℃以上180℃以下、さらに好ましくは100℃以上150℃以下である。加熱時間としては、好ましくは1時間以上20時間以下、より好ましくは2時間以上10時間以下である。加熱温度が低いと、又は、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0088】
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。脱揮工程を併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0089】
上記脱揮工程を併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150℃以上300℃以下の範囲での質量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン化ポリマーの物性が低下するおそれがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0090】
上記方法(i)、(ii)は、上記重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基を予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を併用した環化縮合反応を行う形態で行ってもよい。例えば、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を併用した環化縮合反応に導入してもよい。また、必要に応じて、上記重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシル基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を併用した環化縮合反応に導入しても構わない。脱揮工程は環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0091】
上記ラクトン化ポリマーは、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、低着色性、機械的強度、成形加工性等の所望の特性を備えると共に、特に異物が少なくゲル化し難い成形材料であるので、光学用途に特に好適である。
【0092】
<フタロシアニン系色素>
本発明の近赤外線吸収フィルムに含まれるフタロシアニン系色素としては、近赤外線吸収能に優れるものであれば特に限定されず、公知のフタロシアニン系色素を用いることができる。その中でも、以下の一般式(4)、一般式(5)で表される化合物が好ましい。
【0093】
【化4】

【0094】
【化5】

【0095】
一般式(4)において、A〜A16は官能基を表す。上記一般式(4)において、A〜A16は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ヒドロキシスルホニル基、カルボキシル基、チオール基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアラルキルオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基を表す。
【0096】
〜A16の官能基は同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていてもよく、官能基同士が連結基を介して繋がっていても良い。Mは2個の水素原子、2価の金属原子、3価の置換金属原子、4価の置換金属原子またはオキシ金属を表す。なお、本明細書において、「アシル基」とは、有機酸からヒドロキシル基が除去された基であり(日刊工業新聞株式会社発行の第三版科学技術用語大辞典の17頁に記載される定義と同様)、具体的には、RCO−(Rは、脂肪基、脂環基または芳香族基である)で表される基である。
【0097】
末端がアミノ基以外の官能基の場合、上記一般式(4)において、官能基A〜A16のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ジフェニルメチルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルチオ基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基としては、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基、ジフェニルメチルチオ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、iso−プロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、iso−ブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、t−ブチルスルホニル基、n−ペンチルスルホニル基、n−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、n−ヘプチルスルホニル基、n−オクチルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキルスルホニル基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていても良い炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよいアラルキルスルホニル基としては、ベンジルスルホニル基、フェネチルスルホニル基、ジフェニルメチルスルホニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基としてはメチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基、ベンジルカルボニル基、フェニルカルボニル基等のアリールカルボニル基、ベンゾイル基等のアラルキルカルボニル基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、iso−プロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、iso−ブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基、ナフチルカルボニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基、ジフェニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、iso−ブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、n−ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、n−ヘプチルカルボニルオキシ基、3−ヘプチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールカルボニルオキシ基としては、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基としては、ベンジルカルボニルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基としては、ピロール基、イミダゾール基、ピペリジン基、モルホリン基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0098】
また、上記一般式(4)において、官能基A〜A16のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基または複素環基が置換されている場合、これらの官能基A〜A16に存在する置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0099】
末端がアミノ基である官能基の場合、上記一般式(4)において、官能基A〜A16の置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基としては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;アセチル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、3−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等のアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基等のアラルキルカルボニル基などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではなく、これらの置換基はさらに置換基で置換されていても良い。これらの置換基は0個、1個または2個存在していてもよく、2個存在する場合にはお互いが同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基が2個の場合、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0100】
上記置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基であるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アラルキルカルボニル基などに更に存在しても良い置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0101】
また、金属Mとしての2価の金属の例としては、Cu(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)、Ni(II)、Ru(II)、Rh(II)、Pd(II)、Pt(II)、Mn(II)、Mg(II)、Ti(II)、Be(II)、Ca(II)、Ba(II)、Cd(II)、Hg(II)、Pb(II)、Sn(II)などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。3価の置換金属原子の例としては、Al−F、Al−Cl、Al−Br、Al−I、Fe−Cl、Ga−F、Ga−Cl、Ga−I、Ga−Br、In−F、In−Cl、In−Br、In−I、Tl−F、Tl−Cl、Tl−Br、Tl−I、Al−C、Al−C(CH)、In−C、In−C(CH)、In−C、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn〔OSi(CH〕、Ru−Cl等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。4価の置換金属原子の例としては、CrCl、SiF、SiCl、SiBr、SiI、ZrCl、GeF、GeCl、GeBr、GeI、SnF、SnCl、SnBr、TiF、TiCl、TiBr、Ge(OH)、Mn(OH)、Si(OH)、Sn(OH)、Zr(OH)、Cr(R、Ge(R、Si(R、Sn(R、Ti(R{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}Cr(OR、Ge(OR、Si(OR、Sn(OR、Ti(OR、{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基またはそれらの誘導体を表す}、Sn(SR、Ge(SR{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。オキシ金属の例としては、VO、MnO、TiOなどが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0102】
一般式(5)において、B〜B24は官能基を表す。B〜B24は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ヒドロキシスルホニル基、カルボキシル基、チオール基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアラルキルオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基を表す。
【0103】
〜B24の官能基は同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていてもよく、官能基同士が連結基を介して繋がっていても良い。Mは2個の水素原子、2価の金属原子、3価の置換金属原子、4価の置換金属原子またはオキシ金属を表す。
【0104】
末端がアミノ基以外の官能基の場合、上記一般式(5)において、官能基B〜B24のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ジフェニルメチルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルチオ基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基としては、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基、ジフェニルメチルチオ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、iso−プロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、iso−ブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、t−ブチルスルホニル基、n−ペンチルスルホニル基、n−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、n−ヘプチルスルホニル基、n−オクチルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキルスルホニル基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていても良い炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよいアラルキルスルホニル基としては、ベンジルスルホニル基、フェネチルスルホニル基、ジフェニルメチルスルホニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基としてはメチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基、ベンジルカルボニル基、フェニルカルボニル基等のアリールカルボニル基、ベンゾイル基等のアラルキルカルボニル基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、iso−プロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、iso−ブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル、ナフチルカルボニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基、ジフェニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、iso−ブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、n−ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、n−ヘプチルカルボニルオキシ基、3−ヘプチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールカルボニルオキシ基としては、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基としては、ベンジルカルボニルオキシ基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基としては、ピロール基、イミダゾール基、ピペリジン基、モルホリン基等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0105】
上記一般式(5)において、官能基B〜B24のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基または複素環基が置換されている場合、これら官能基B〜B24に存在する置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0106】
末端がアミノ基である官能基の場合、上記一般式(5)において、官能基B〜B24の置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基としては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;アセチル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、3−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等のアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基等のアラルキルカルボニル基などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではなく、これらの置換基はさらに置換基で置換されていても良い。これらの置換基は0個、1個または2個存在していてもよく、2個存在する場合にはお互いが同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基が2個の場合、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0107】
上記置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基であるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アラルキルカルボニル基などに更に存在しても良い置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0108】
また、金属Mとしての2価の金属の例としては、Cu(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)、Ni(II)、Ru(II)、Rh(II)、Pd(II)、Pt(II)、Mn(II)、Mg(II)、Ti(II)、Be(II)、Ca(II)、Ba(II)、Cd(II)、Hg(II)、Pb(II)、Sn(II)などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。3価の置換金属原子の例としては、Al−F、Al−Cl、Al−Br、Al−I、Fe−Cl、Ga−F、Ga−Cl、Ga−I、Ga−Br、In−F、In−Cl、In−Br、In−I、Tl−F、Tl−Cl、Tl−Br、Tl−I、Al−C、Al−C(CH)、In−C、In−C(CH)、In−C、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn〔OSi(CH〕、Ru−Cl等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。4価の置換金属原子の例としては、CrCl、SiF、SiCl、SiBr、SiI、ZrCl、GeF、GeCl、GeBr、GeI、SnF、SnCl、SnBr、TiF、TiCl、TiBr、Ge(OH)、Mn(OH)、Si(OH)、Sn(OH)、Zr(OH)、Cr(R1)、Ge(R、Si(R、Sn(R、Ti(R{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}、Cr(OR、Ge(OR、Si(OR、Sn(OR、Ti(OR{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基またはそれらの誘導体を表す}、Sn(SR、Ge(SR{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、またはその誘導体を表す}などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。オキシ金属の例としては、VO、MnO、TiOなどが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。具体的には、商品名イーエクスカラーIR−10A、イーエクスカラーIR−12、イーエクスカラーIR−14やTX−EX−906B、TX−EX−910B、TX−EX−902K(いずれも株式会社日本触媒製)が挙げられる。
【0109】
これらのフタロシアニン系色素は、1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0110】
また、900nm以上920nm以下、1,000nm以上1,020nm以下の領域の近赤外線を吸収することができるフタロシアニン系色素としては、商品名イーエクスカラーIR−10A、イーエクスカラーIR−12、イーエクスカラーIR−14やTX−EX−906B、TX−EX−910B、TX−EX−902K、TX−EX−806B、TX−EX−802K(いずれも株式会社日本触媒製)が好ましい。
【0111】
本発明の近赤外線吸収フィルムには、他の近赤外線吸収色素を添加してもよい。併用し得る他の近赤外線吸収色素としては、公知のシアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素、無機酸化物粒子等が挙げられる。
【0112】
さらに、必要に応じて、可視光を吸収する色素を添加してもよい。可視光を吸収する色素としては、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ポルフィリン系、テトラアザポルフィリン系、金属ジチオール錯体系、スクアリリウム系、アズレニウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、オキサジン系、アジン系、チオピリリウム系、ビオローゲン系、アゾ系、アゾ金属錯体系、ビスアゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、ニトロソ系、インジコ系、アゾメチン系、キサンテン系、オキサノール系、インドアニリン系、キノリン系、ジケトピロロピロール系等の、公知の色素を広く添加することができる。
【0113】
また、近赤外線吸収フィルムからなる薄膜の色調を調整するために、調色用の可視光吸収色素を添加してもよい。調色用の可視光吸収色素の種類は特に限定されない。例えば、1:2クロム錯体、1:2コバルト錯体、銅フタロシアニン、アントラキノン、ジケトピロロピロール等が挙げられる。具体的には、オラゾールブルーGN、オラゾールブルーBL、オラゾールレッド2B、オラゾールレッドG、オラゾールブラックCN、オラゾールイエロー2GLN、オラゾールイエロー2RLN、マイクロリスDPPレッドB−K(いずれもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)が挙げられる。
【0114】
<耐熱性樹脂とフタロシアニン系色素以外の添加剤、水>
本発明の近赤外線吸収フィルムは、耐熱性樹脂とフタロシアニン系色素のみからなるものであってもよいが、さらに種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、硫黄系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;等が挙げられる。また、例えばオムニミキサー等、従来公知の混合機で成形品原料をプレブレンドした後、得られた混合物を添加してもよい。この場合、混合機は、特に限定されず、例えば単軸押出機、2軸押出機等の押出機、加圧ニーダー等、従来公知の混合機を用いてもよい。
【0115】
上記近赤外線吸収フィルム中における上記添加剤の含有割合は、5重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0116】
本発明の近赤外線吸収フィルムは、さらに水を含有していてもよい。上記近赤外線吸収フィルム中における水の含有量は、5,000ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることがさらに好ましい。水の含有量が、5,000ppm以上であると、水分が関与する加水分解等の副作用を引き起こすおそれがある。
【0117】
<成形方法>
本発明の近赤外線吸収フィルムの製造方法は、耐熱性樹脂とフタロシアニン系色素とが充分に混合されればよく、それらを混合するときの条件や、順番等については、特に限定されない。
【0118】
<溶融押出し法>
また、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、耐熱性樹脂とフタロシアニン系色素とを溶融押出し法によって成形することが好ましい。近赤外線吸収フィルムを溶融押出し法によって成形すれば、キャストコーティング法によって成形する場合よりも、製造コストが低く、生産効率がよい。
【0119】
以下に、耐熱性アクリル系樹脂を含む近赤外線吸収フィルムを溶融押出し法によって成形する方法について詳細に説明する。なお、近赤外線吸収シートについても、近赤外線吸収フィルムと同様の成形方法により成形することができる。
【0120】
溶融押出し法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。例えば、150℃以上350℃以下であることが好ましく、200℃以上300℃以下であることがより好ましい。
【0121】
上記Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や2軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻き取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻き取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることにより、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸等を行うこともできる。
【0122】
上記耐熱性アクリル系樹脂からフィルムを製造するには、例えば、オムニミキサー等、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されず、例えば、単軸押出機、2軸押出機等の押出機や加圧ニーダー等、従来公知の混合機を用いることができる。
【0123】
本発明の近赤外線吸収フィルムは、未延伸フィルム又は延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合には、1軸延伸フィルム又は2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合には、同時2軸延伸フィルム又は逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合には、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。ラクトン化ポリマーは、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持したフィルムを得ることができる。
【0124】
本発明の近赤外線吸収フィルムの製造方法において、延伸温度は、フィルム原料であるラクトン化ポリマーのガラス転移温度近傍であることが好ましい。具体的には、(ガラス転移温度−30℃)以上(ガラス転移温度+100℃)以下の範囲内であることが好ましく、(ガラス転移温度−20℃)以上(ガラス転移温度+80℃)以下の範囲内であることがより好ましい。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)を超えると、重合体の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
【0125】
本発明の近赤外線吸収フィルムの製造方法において、面積比で定義した延伸倍率は、1.1倍以上25倍以下の範囲内であることが好ましく、1.3倍以上10倍以下の範囲内であることがより好ましい。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
【0126】
本発明の近赤外線吸収フィルムの製造方法において、延伸速度は、一方向で、10%/min以上20,000%/min以下の範囲内であることが好ましく、100%/min以上10,000%/min以下の範囲内であることがより好ましい。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがある。
【0127】
本発明の近赤外線吸収フィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)等を行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。なお、上記近赤外線吸収シートについても、近赤外線吸収フィルムと同様の熱処理を行うことができる。
【0128】
<近赤外線吸収フィルムの物性値等>
上記近赤外線吸収フィルムの厚さは、5μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、他の部品に貼着して耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。上記近赤外線吸収シートの厚さは、200μmを超えて5mm以下であることが好ましく、500μm以上3mm以下であることがより好ましい。5mmを超えるとシートの透明性が低くなるおそれがある。
【0129】
上記近赤外線吸収フィルムの表面の濡れ張力は、40mN/m以上であることが好ましく、50mN/m以上であることがより好ましく、55mN/m以上であることがさらに好ましい。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、ラクトン化ポリマーからなるフィルムと他の部品との接着強度がさらに向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。なお、上記シートについても、フィルムと同様の表面の濡れ張力を有することが好ましい。
【0130】
上記近赤外線吸収フィルムは、平均粒子径50μm以上のポリマーゲルやポリマー炭化物等の異物含有量が、近赤外線吸収フィルム100gに対して100個以下であることが好ましい。これにより、本発明の近赤外線吸収フィルムは、優れた光学特性を有する光学フィルムとなる。例えば、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂を成形材料として光学用途に用いる場合、異物の含有量が近赤外線吸収フィルム100gに対して100個を超えると、光学用途に適さないことがある。異物の含有量は、近赤外線吸収フィルム100gに対して0個であることが最も好ましい。
【0131】
<液晶表示装置>
また、本発明の液晶表示装置は、上記近赤外線吸収フィルムからなる層を、少なくとも1層備えている。
【0132】
上記近赤外線吸収フィルムは、液晶表示装置用部材として好適に用いることができ、中でも後述する偏光板保護フィルム、位相差フィルム、拡散フィルム等として有用である。
【0133】
<偏光板保護フィルム>
また、本発明の偏光板保護フィルムは、上記近赤外線吸収フィルムからなっている。
【0134】
偏光板は液晶表示装置の中で最も光源側にあるので、偏光板には光源から出た光が直接入射される。したがって、偏光板保護フィルムは劣化し易い。しかしながら、偏光板保護フィルムが上記近赤外線吸収フィルムからなっていると、上記近赤外線吸収フィルムの耐久性により、偏光板保護フィルムが劣化し難くなる。
【0135】
偏光板等の光学用保護フィルムには、高い透明性、高い光学等方性に加えて、低い光学弾性率、耐熱性、耐光性、高い表面硬度、高い機械的強度、位相差の波長依存性が小さいこと、位相差の入射角依存性が小さいこと等の特性が要求される。
【0136】
<位相差フィルム>
また、本発明の位相差フィルムは、上記近赤外線吸収フィルムからなっている。
【0137】
位相差フィルムには、高い透明性、高い光学等方性に加えて、低い光学弾性率、耐熱性、耐光性、高い表面硬度、高い機械的強度、大きい位相差、位相差の波長依存性が小さいこと、位相差の入射角依存性が小さいこと等の特性が要求される。
【0138】
<拡散フィルム>
また、本発明の拡散フィルムは、上記近赤外線吸収フィルムからなっている。
【0139】
拡散フィルムには、高い透明性、高い光学等方性に加えて、低い光学弾性率、耐熱性、耐光性、高い表面硬度、高い機械的強度等の特性が要求される。特に、拡散フィルムは、含有される樹脂に、現行の光学フィルムに含まれているポリメチルメタクリレート(PMMA)よりもさらに高い耐熱性を持たせることによって、成形ひずみを原因とする光学特性の低下を抑えることが望まれている。
【0140】
このように、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、例えば、ガラス転移温度が110℃以上である耐熱性樹脂と、近赤外線領域において、900〜1050nmに最大吸収波長の値を有するフタロシアニン系色素を含むという構成を有しているものであれば、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0141】
また、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、例えば、主鎖に環構造を含み、ガラス転移温度が110℃以上である耐熱性アクリル樹脂と、フタロシアニン系色素を含むという構成であってもよい。
【0142】
また、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、例えば、主鎖にラクトン環構造を有するという構成であってもよい。
【0143】
また、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、例えば、溶融押出し法によって成形されるという構成であってもよい。
【0144】
また、本発明に係る液晶用表示パネルは、例えば、近赤外線吸収フィルムを少なくとも1層に用いるという構成であってもよい。
【0145】
また、本発明に係る偏光子保護フィルムは、例えば、近赤外線吸収フィルムを用いるという構成であってもよい。
【0146】
また、本発明に係る位相差フィルムは、例えば、近赤外線吸収フィルムを用いるという構成であってもよい。
【0147】
また、本発明に係る拡散フィルムは、例えば、近赤外線吸収フィルムを用いるという構成であってもよい。
【0148】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0149】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と記載し、「リットル」を単に「L」と記載する。
【0150】
〔耐熱性樹脂の重合体からなるペレットの製造方法〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた30Lの反応釜に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル20部、メタクリル酸メチル80部、トルエン100部を仕込み、窒素を通しつつ105℃まで昇温して還流した。その後、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(商品名:ルパゾール570、アトフィナ吉富株式会社製)0.1部を加えると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2部とトルエン1部とからなる溶液を2時間かけて滴下しながら105〜110℃で溶液重合を行った。さらに、その溶液を4時間かけて熟成した。得られた溶液に、リン酸ステアリルとリン酸ジステアリルとの混合物(商品名:PhoslexA−18、堺化学工業株式会社製)0.1部を加え、還流下、100〜110℃で5時間環化縮合反応を行った。次いで、得られた溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のべントタイプスクリュー2軸押出機(Φ=30mm、L/D=42)に、樹脂量換算2.0kg/hの処理速度で導入することにより、ラクトン化ポリマーの透明なペレットを得た。
【0151】
そして、上記ラクトン化ポリマーの重量平均分子量、ガラス転移温度を以下の条件で測定した。
【0152】
<重量平均分子量の測定方法>
上記ラクトン化ポリマーの重量平均分子量は、GPC(東ソー株式会社製GPCシステム)のポリスチレン換算により求めた。その結果、重量平均分子量は、150,000であった。
【0153】
<ガラス転移温度の測定方法>
樹脂の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC(商品名:DSC−8230、株式会社リガク製)を用いて行った。上記耐熱性樹脂の重合体のガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。その結果、ガラス転移温度(Tg)は、130℃であった。
【0154】
〔実施例1〕
上記ペレット100部と、フタロシアニン系色素(商品名:EX−806B、株式会社日本触媒製)を0.1部とを混練して生じた混合物を、シリンダー径が20mmの押出機を用いて、以下の条件で押出成形し、100μmの厚さを有するフィルムを作成した。
ダイ:温度260℃、幅1,000mm
ツヤ付き3本ロールの温度:第1ロール125℃、第2ロール142℃、第3ロール118℃
引き取り速度:1.5m/分
そして、上記フィルムの近赤外線の透過率、可視光線の透過率、光弾性係数を以下の条件で測定した。また、上記フィルムの耐久性(耐熱性、耐湿熱性)を以下の条件で測定した。
【0155】
<近赤外線の透過率>
上記フィルムの近赤外線透過率は、分光光度計(商品名:UV−3100、株式会社島津製作所製)を使用し、350〜1,100nmの透過スペクトルを測定し、波長800〜1,100nmにおける最小透過率で求めた。
【0156】
<可視光線の透過率>
上記フィルムの可視光線の透過率は、分光光度計(商品名:UV−3100、株式会社島津製作所製)を使用し、350〜1,100nmの透過スペクトルを測定し、波長450〜700nmにおける平均透過率で求めた。
【0157】
<光弾性係数>
上記フィルムの光弾性係数は、エリプソメーター(日本電子株式会社製)を用い、各種の引張り強度における400nmの光弾性率の傾きから求めた。
【0158】
<耐熱性>
上記フィルムを100℃の乾燥機内に20時間静置し、その乾燥の前後での近赤外線透過率、可視光線の透過率、光弾性率の変化率を求めた。また、上記フィルムを10cm×10cmのサイズとし、その乾燥の前後でのサイズの変化率を求めた。ここで、変化率(%)は、以下の式により求めた。
変化率(%)=(乾燥前の値/乾燥後の値)×100
<耐湿熱性>
上記フィルムを80℃、95%RHの恒温恒湿室槽に20時間静置し、その処理の前後での近赤外線透過率、可視光線の透過率、光弾性率の変化率を求めた。また、上記フィルムを10cm×10cmのサイズとし、その処理の前後でのサイズの変化率を求めた。
【0159】
〔実施例2〕
フタロシアニン系色素(商品名:EX−806B、株式会社日本触媒製)0.1部を、0.3部に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0160】
〔実施例3〕
フタロシアニン系色素(商品名:EX−806B)0.1部を、フタロシアニン系色素(商品名:EX−802K、株式会社日本触媒製)0.1部に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0161】
〔実施例4〕
フタロシアニン系色素(商品名:EX−806B)0.1部を、フタロシアニン系色素(商品名:EX−802K、株式会社日本触媒製)0.3部に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0162】
〔実施例5〕
フタロシアニン系色素(商品名:EX−806B)0.1部を、フタロシアニン系色素(商品名:EX−802K)0.3部及びフタロシアニン系色素(商品名:EX−806B)0.2部からなる混合物に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0163】
〔比較例1〕
フタロシアニン系色素(商品名:EX−806B)0.1部を、ジイモニウム系色素(商品名:EX−991K、株式会社日本触媒製)0.3部に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0164】
表1は、実施例1〜5及び比較例1において測定した上記フィルムの近赤外線透過率、可視光線の透過率、光弾性率をまとめたものである。
【0165】
【表1】

【0166】
表1に示したように、実施例1〜5と比較例1とを比較すると、フタロシアニン系色素を混合した実施例1〜5の近赤外線透過率は、ジイモニウム系色素を混合した比較例1の近赤外線透過率よりも小さいという結果になった。すなわち、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、近赤外線を吸収することにより、近赤外線を透過し難くしていることが明らかとなった。
【0167】
また、表2,3は、実施例1〜5において測定した上記フィルムの耐久性(耐熱性、耐湿熱性)をまとめたものである。
【0168】
【表2】

【0169】
【表3】

【0170】
表2に示したように、100℃の乾燥機内に20時間静置後の、実施例1〜5の近赤外線透過率および可視光線の透過率は変化しなかった。これに対して、比較例1の近赤外線透過率は上昇し、可視光線の透過率は低下した。また、表3に示したように、80℃、95%RHの恒温恒湿室槽に20時間静置後の、実施例1〜5の近赤外線透過率は0〜5%上昇し、可視光線の透過率は0〜5%低下した。これに対して、比較例1の近赤外線透過率は10%上昇し、可視光線の透過率は20%低下した。すなわち、本発明に係る近赤外線吸収フィルムは、耐熱性、耐久性に優れていることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0171】
以上のように、本発明では、プラズマディスプレイパネルや液晶パネルの光源から放射される近赤外線を吸収することができる耐熱性、耐久性に優れた近赤外線吸収フィルムおよび近赤外線吸収フィルムの製造方法を提供することが可能となる。そのため、本発明は、プラズマディスプレイ、液晶等のフラットパネルディスプレイ等の分野に広く利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を有しガラス転移温度が110℃以上、170℃以下である耐熱性樹脂と、フタロシアニン系色素とを含むことを特徴とする近赤外線吸収フィルム。
【請求項2】
上記耐熱性樹脂が耐熱性アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線吸収フィルム。
【請求項3】
上記環構造がラクトン環構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の近赤外線吸収フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルムを、溶融押出し法によって成形することを特徴とする近赤外線吸収フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルムからなる層を、少なくとも1層備えることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルムからなることを特徴とする偏光板保護フィルム。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルムからなることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収フィルムからなることを特徴とする拡散フィルム。

【公開番号】特開2008−191509(P2008−191509A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27300(P2007−27300)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】