説明

近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物およびその成形体、並びに、その積層体

【課題】透明性及び近赤外線遮蔽機能を有する様々な形状の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を、物理成膜法などを用いることなく簡便な方法で作製でき、成形時に黄変等の変化が起こらず、且つ近赤外線遮蔽機能を有する微粒子が均一に分散し、優れた近赤外線遮蔽機能を有するポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を製造するために用いられる近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂と、平均粒径30nm以下の窒化チタン微粒子と、熱分解温度が230℃以上であって、ポリエステル主鎖に塩基性官能基をもつ分散剤と、を含むことを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物、自動車、電車、航空機などの開口部に使用される窓材、フラットパネルディスプレイの近赤外線吸収フィルター材等に広く利用される、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体および積層体、それら成形体および積層体の製造に用いられる、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種建築物や車両の窓、ドア等のいわゆる開口部分から入射する太陽光線には、可視光線、紫外線および赤外線が含まれている。この太陽光線に含まれている赤外線のうち波長800〜2500nmの近赤外線は熱線と呼ばれ、前記開口部分から進入することにより、室内や車内の温度を上昇させる原因になる。
当該温度上昇を解消するために、近年、各種建築物や車両の窓材等の分野では、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制する近赤外線遮蔽成形体の需要が急増しており、近赤外線遮蔽成形体に関する提案が多数されている。
【0003】
例えば、透明樹脂フィルムに金属、金属酸化物を蒸着してなる熱線反射フィルムを、ガラス、アクリル板、ポリカーボネート板等の透明成形体に接着した近赤外線遮蔽板が提案されている。しかし、この金属酸化物を蒸着してなる熱線反射フィルムは、フィルム自体が非常に高価であり、かつ接着工程等の煩雑な工程を要する為さらに高コストとなる。さらに、透明成形体と反射フィルムとの接着性が良好でないので、経時変化により透明成形体からのフィルム剥離が生じるといった欠点を有している。
【0004】
また、透明成形体表面へ金属または金属酸化物を直接蒸着してなる、近赤外線遮蔽板も数多く提案されている。しかし、当該近赤外線遮蔽板の製造に際しては、高真空で精度の高い雰囲気制御を要する蒸着装置が必要となる為、量産性に乏しく、汎用性に乏しいという問題を有している。
【0005】
この他、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性透明樹脂へ、フタロシアニン系化合物、アントラキノン系化合物に代表される有機近赤外線吸収剤を練り込んだ近赤外線遮蔽板およびフィルムが提案されている(特許文献1、2等参照)。
【0006】
さらに、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂へ、熱線反射能を有する酸化チタン、あるいは酸化チタンで被覆されたマイカ等の無機粒子を、熱線反射粒子として練り込んだ近赤外線遮蔽板も提案されている(特許文献3、4等参照)。
【0007】
一方、本出願人は、近赤外線遮蔽効果を有する成分として、材料そのものの特性として自由電子を多量に保有する金属窒化物に着目した。そして、種々検討の結果、金属窒化物を超微粒子化し、当該金属窒化物の超微粒子が高度に分散された膜を製造することにより、可視光領域に透過率の極大を持つとともに、可視光領域に近い近赤外域に強いプラズマ反射を発現して透過率の極小を持つようになるという事実を見出した。具体的には、平均粒径100nm以下の窒化チタン微粒子、平均粒径100nm以下の窒化ジルコニウム微粒子、平均粒径100nm以下の窒化ハフニウム微粒子、平均粒径100nm以下の窒化バナジウム微粒子、平均粒径100nm以下の窒化ニオブ微粒子、および、平均粒径100nm以下の窒化タンタル微粒子のうち少なくとも1種が分散された熱線遮蔽膜形成用塗
布液、当該熱線遮蔽膜形成用塗布液を基材に塗布後加熱して得られる近赤外線遮蔽能を有する微粒子分散膜を提案している(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−256541号公報
【特許文献2】特開平6−264050号公報
【特許文献3】特開平2−173060号公報
【特許文献4】特開平5−78544号公報
【特許文献5】特開平11−263639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1、2に記載の近赤外線遮蔽板およびフィルムにおいては、熱線を十分に遮蔽するために多量の近赤外線吸収剤を配合しなければならない。だからといって、近赤外線遮蔽板およびフィルムへ近赤外線吸収剤を多量に配合すると、今度は可視光線透過能が低下したり、フィルムの機械特性が低下してしまうという課題がある。さらに、近赤外線吸収剤として有機化合物を使用しているため、当該近赤外線遮蔽板およびフィルムを、直射日光に常時曝される建築物や車両の窓材等へ適用するには耐侯性に難があり、必ずしも適当であるとはいえなかった。
【0010】
また、特許文献3、4に記載の近赤外線遮蔽板においては、近赤外線遮蔽能を高める為に当該熱線反射粒子を多量に添加する必要があり、上記特許文献1、2と同様、熱線反射粒子の多量配合に伴って成形体である透明樹脂の物性、特に耐衝撃強度や靭性が低下するという強度面からの問題があった。だからといって、熱線反射粒子の添加量を少なくすると、今度は、近赤外線遮蔽板の近赤外線遮蔽能が低下してしまい、近赤外線遮蔽能と可視光線透過能とを同時に満足させることが困難であるといった問題があった。
【0011】
ここで、本発明者らは、適宜な熱可塑性を有する樹脂としてポリエステル樹脂を選択し、当該ポリエステル樹脂を加熱溶融し、ここへ特許文献5に記載の金属窒化物微粒子を分散し、それを成形して、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体や、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体とすることに想到した。当該方法によれば、透明性および近赤外線遮蔽機能を有する様々な形状の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体や、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体を、物理成膜法などを用いることなく簡便な方法で作製出来ると考えたのである。
しかし、当該金属窒化物微粒子を添加してポリエステル樹脂中へ分散させて成形しようとすると、成形時に黄変が発生し、さらに、ポリエステル樹脂中における微粒子の分散の均一性に不足があり、十分な近赤外線遮蔽機能を得ることが出来ないことを知見した。
【0012】
本発明は、上述の状況の下になされたものである。
その課題とするところは、透明性及び近赤外線遮蔽機能を有する様々な形状の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を、物理成膜法などを用いることなく簡便な方法で作製でき、成形時に黄変等の変化が起こらず、且つ近赤外線遮蔽機能を有する微粒子が均一に分散し、優れた近赤外線遮蔽機能を有するポリエステル樹脂組成物を提供すること。併せて当該樹脂組成物から製造した、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体、並びに、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、製造される近赤外線遮蔽成形体において、当該近赤外線遮蔽成形体が黄変する原因、および、当該近赤外線遮蔽
成形体が期待される可視光線透過能及び近赤外線遮蔽機能が得られない原因が、いずれも樹脂組成物中に含まれる分散剤の熱変性に起因するとの知見を得た。
つまり、近赤外線遮蔽樹脂組成物中に含まれる分散剤の耐熱性が低いため、当該近赤外線遮蔽樹脂組成物を加熱しながら混練混合する際、当該分散剤が熱変性し、当該分散剤の分散能力が劣化して近赤外線遮蔽樹脂組成物中に含まれる近赤外線遮蔽微粒子の分散に支障をきたし、期待される近赤外線遮蔽機能が得られず、さらには、当該熱変性した分散剤が黄から茶色に着色し、近赤外線遮蔽樹脂成形体が黄変する原因となっていたのである。
【0014】
上述の知見に基づいて、本発明者らはさらに研究を進め、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を製造するために用いられる近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂(本発明において「A」という符号を付与する場合がある。)と、平均粒径30nm以下の窒化チタン微粒子(本発明において「B」という符号を付与する場合がある。)と、熱分解温度が230℃以上であって、ポリエステル主鎖に塩基性官能基をもつ分散剤(本発明において「C」という符号を付与する場合がある。)と、を含む、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物に想到した。
【0015】
そして、当該近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を加熱しながら混練し、かつ、押出成形、射出成形、圧縮成形等公知の方法により、板状、フィルム状、球面状等の任意の形状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に吸収を持ちながら、成形の際に黄変しない近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体、並びに近赤外線遮蔽ポリエステル積層体の作製が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を製造するために用いられる近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物であって、
ポリエステル樹脂(A)と、平均粒径30nm以下の窒化チタン微粒子(B)と、熱分解温度が230℃以上であって、ポリエステル主鎖に塩基性官能基をもつ分散剤(C)と、を含むことを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物である。
【0017】
第2の発明は、
前記ポリエステル樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選択される1種類以上であることを特徴とする第1の発明に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物である。
【0018】
第3の発明は、
前記窒化チタン微粒子(B)が、熱プラズマ法によって製造されたことを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物である。
【0019】
第4の発明は、
前記窒化チタン微粒子(B)が、シラン化合物、チタン化合物、ジルコニア化合物から選択される少なくとも1種類の化合物によって表面処理されたことを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物である。
【0020】
第5の発明は、
第1〜4の発明のいずれかに記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物が、所定の形状に成形されていることを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体である。
【0021】
第6の発明は、
第5の発明に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体が、他の透明成形体上に積層されていることを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体である。
【0022】
第7の発明は、
第5の発明に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の表面に、近赤外線遮蔽膜が形成されていることを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体である。
【0023】
本発明の第8の発明は、
前記近赤外線遮蔽膜が、六ホウ化物微粒子分散液、アンチモンドープ酸化錫微粒子分散液、一般式MWO(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦Y≦0.5、2.2≦Z≦3.0)で示され且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子分散液、の少なくとも1種と、UV硬化樹脂または常温硬化樹脂と、を混合した塗布液を塗布し、その後硬化して得られる膜であることを特徴とする第7の発明に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物は、押出成形、射出成形、圧縮成形等公知の方法により、板状、フィルム状、球面状等の任意形状の成形体に成形出来、当該成形時の溶融混錬に起因する黄変がない。そして、成形された本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、可視光領域に透過率の極大を持つと共に、近赤外域に強い吸収を持つ。この為、太陽光に含まれる、近赤外線に加えて可視光領域の一部をも吸収することで、近赤外から長波長可視光領域において、効率的に太陽光線を吸収することが可能であって工業的に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を製造するために用いられる近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、平均粒径30nm以下の窒化チタン微粒子(B)と、熱分解温度が230℃以上であって、ポリエステル主鎖に塩基性官能基をもつ分散剤(C)と、を含み、上記窒化チタン微粒子(B)がポリエステル樹脂(A)中において、均一に分散していることを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物である。
そこで、本発明の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を構成する、
(1)窒化チタン微粒子(B)
(2)高耐熱性を有する分散剤(C)
(3)ポリエステル樹脂(A)
(4)窒化チタン微粒子のポリエステル樹脂への分散方法、
(5)近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物の製造方法、
(6)近赤外線遮蔽樹脂成形体
について順に説明する。
【0026】
1)窒化チタン微粒子(B)
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物において、近赤外線遮蔽材料として用いられる窒化チタン微粒子(B)は、窒化チタンそのものの特性として自由電子を多量に保有している。当該窒化チタンを超微粒子化し、かつポリエステル樹脂に均一に分散させることにより、可視光領域に透過率の極大を持つとともに、可視光領域に近い近赤外域に強いプラズマ反射を発現して透過率の極小を持つという特性を発揮する。また、本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物に用いられる窒化チタン微粒子は、可視光領
域に近い近赤外線領域である波長600〜1000nm付近の光を強く吸収するため、その透過色調は濃紺系の色調となるものが多い。
【0027】
上記構成から、本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は近赤外から長波長可視光領域において、低透過率特性を有する。すなわち、太陽光に含まれる、近赤外線に加えて可視光領域の一部をも吸収することで、近赤外から長波長可視光領域において、効率的に太陽光線を吸収することを可能としている。この点は、従来の顔料を用いた成形体が、可視光透過率を低減することは出来たものの、近赤外線の透過率を低減できなかったことと大きく異なる点である。つまり、従来の顔料では、近赤外から長波長可視光領域のうち、近赤外線領域を十分に吸収することができず、太陽光線から効率的に熱線を吸収することが出来なかった。
これに対し、本発明においては、窒化チタン微粒子を用いることで、近赤外から長波長可視光領域において、高い日射遮蔽特性を有する本発明の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体に付与することが可能となり有用である。
【0028】
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物に使用される窒化チタン微粒子は、一部または全量がオキシ窒化物で代替されたものであっても良い。また当該窒化チタン微粒子は、その表面が酸化していないことが好ましいが、通常は僅かに酸化していることが多く、また、微粒子の分散工程で表面の酸化が起こることがあるがある程度避けられない。しかし、当該僅かな酸化が有る場合でも、熱線遮蔽効果を発現する有効性に変わりはない。
【0029】
また、本発明に使用される窒化チタン微粒子は、結晶としての完全性が高いほど大きい熱線遮蔽効果が得られる。しかし、結晶性が低くX線回折で極めてブロードな回折ピークを生じるような窒化チタン微粒子であっても、微粒子内部の基本的な結合がチタンと窒素の結合から成り立っているものであるならば熱線遮蔽効果を発現する。
【0030】
窒化チタン微粒子の平均粒子径は、30nm以下、好ましくは20nm以下がよい。その理由は、粒子の平均粒子径が小さければ、幾何学散乱またはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になるからである。当該レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、平均粒子径の減少に伴い散乱が低減し、透明性が向上するからである。従って、光の散乱を回避する観点からは、平均粒子径が小さい方が好ましい。一方、平均粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。当該光の散乱が低減される結果、当該ポリエステル透明樹脂成形体はヘイズが小さくなり、曇りガラスのようになって鮮明な透明性が得られなくなることを回避できる。
上述の通り、窒化チタンの平均粒径は、工業的に製造可能な限り、より小さいほうが好ましい。よって、粒径の小さな窒化チタンを製造する方法としては、熱プラズマ法等の乾式プロセスや、還元雰囲気下での固相反応法が挙げられる。その中でも、不純物の混入が少なく、粒子径が揃いやすく、また生産性も高い熱プラズマ法が好ましい。熱プラズマを発生させる方法としては、直流アーク放電、多層アーク放電、高周波(RF)プラズマ、ハイブリッドプラズマ等が挙げられ、電極からの不純物の混入が少ない高周波プラズマがより好ましい。熱プラズマ法による窒化チタン微粒子の具体的な製造方法としては、チタン粉末を高周波熱プラズマにより蒸発させ、窒素をキャリアーガスとして導入し冷却過程にて窒化させ合成する方法や、プラズマの周縁部にアンモニアガスを吹き込む方法、その他、プラズマ炎中で四塩化チタンとアンモニアガスを反応させる方法等が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、上記の、所望とする物性を有する窒化チタン微粒子とすることができる製造方法であれば良い。
【0031】
上記窒化チタン微粒子を、シラン化合物、チタン化合物、ジルコニア化合物から選択される少なくとも1種類以上によって表面処理し、微粒子の表面を、Si、Ti、Zr、A
lの1種類以上を含有する酸化物で被覆することで、耐候性が向上し好ましい。
【0032】
2)高耐熱性を有する分散剤(C)
従来、酸化物微粒子を分散させた塗液を用いて塗膜を得る時の塗料用として一般的に使用されている分散剤は、様々な酸化物微粒子を有機溶剤中に均一に分散する目的で使用されている。しかし本発明者等の検討によれば、これらの分散剤は、200℃以上の高温で使用されることを想定されて設計されてはいない。具体的には、本発明の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を得るために、窒化チタン微粒子(B)とポリエステル樹脂(A)とを溶融混練する際に、耐熱性の低い分散剤を使用すると、当該分散剤中の官能基が熱により分解され、分散能が低下するとともに、分散剤が黄から茶色に変色する等の不具合を起こすことを確認した。
【0033】
本発明においては、TG−DTAで測定される熱分解温度が230℃以上である分散剤を、高耐熱性を有する分散剤(C)として用いることが肝要である。より好ましくは当該熱分解温度が250℃以上ある分散剤を用いる。高耐熱性を有する分散剤(C)の具体的な構造例としては、ポリエステル主鎖を有し、官能基として塩基性官能基を有する分散剤が挙げられる。当該構造を有する高耐熱性を有する分散剤(C)は、耐熱性が高く好ましい。
高耐熱性を有する分散剤(C)の熱分解温度が230℃以上であるので、溶融混練時または成形時に熱分解することがなく、分散能を維持できると伴に、分散剤自体が黄から茶色に変色することもない。この結果、製造されるポリエステル樹脂成形体において、近赤外線遮蔽微粒子が十分に分散され、可視光透過率が良好に確保されて、本来の光学特性を得ることが出来るとともに、成形体が黄色に着色することもない。
【0034】
具体的には、ポリエチレンテレフタレートの一般的な混練設定温度(250℃)で、高耐熱性を有する分散剤(C)とポリエチレンテレフタレート樹脂とを混練する試験を行ったところ、得られた混練物は、ポリエチレンテレフタレート樹脂のみを混練した場合とまったく同じ外観を呈し、無色透明で全く着色しないことが確認された。これに対し、例えば、後述する比較例1で使用している通常の分散剤を用いて同様の試験を行った場合、混練物は茶色に着色してしまうことが確認された。
【0035】
上述したように、本発明に係る高耐熱性を有する分散剤(C)はポリエステル主鎖を有し、且つ官能基として塩基性官能基を有する分散剤である。当該塩基性官能基は、窒化チタン微粒子の表面に吸着して、当該窒化チタン微粒子の凝集を抑止し、成形体中において窒化チタン物微粒子が均一に分散するという効果を発揮するからである。分散剤には、酸性官能基を有する分散剤も存在するが、当該酸性官能基を有する分散剤を使用すると、ポリエステル樹脂と分散剤とが相溶せず、成形体の透明性が失われてしまう。この為、官能基は、塩基性官能基であることが肝要である。
塩基性官能基としては、アミノ基を有するものが好ましく、具体的には、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などが挙げられる。また、芳香族複素環化合物であるピリジン、ピロール、イミダゾールなどを末端に持つ官能基も好ましい。
また、ポリエステル樹脂(A)と分散剤(C)の相溶性の観点より、分散剤の主鎖としては、同じ構造を持つポリエステル骨格であることが好ましい。ポリエステル主鎖を有する分散剤を使用することで、より透明度の高い成形体が得られる。
ポリエステル樹脂(A)として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートといった、溶融混練温度が高い樹脂を使用する場合には、熱分解温度が230℃以上である高耐熱性を有する分散剤(C)を使用する効果が明確である。
【0036】
高耐熱性を有する分散剤(C)と、窒化チタン微粒子(B)との重量比(分散剤(C)
の重量/複合タングステン酸化物微粒子(B)の重量)が0.5以上あれば、窒化チタン微粒子(B)を十分に分散することが出来、微粒子同士の凝集が発生せず、十分な光学特性が得られる。一方、当該重量比が9以下あれば、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体自体の機械特性(引っ張り強度、曲げ強度、表面硬度)が損なわれることがない。
【0037】
3)ポリエステル樹脂(A)
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、建築物、自動車、電車、航空機などの開口部に使用される窓材、フラットパネルディスプレイの近赤外線吸収フィルター等に広く利用される。これは、当該成形体に用いられるポリエステル樹脂の可視光領域における光線透過率が高く、当該成形体の透明性が優れていることによると考えられる。
【0038】
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体に使用されるポリエステル樹脂(A)としては、可視光領域の光線透過率が高い透明なポリエステル樹脂であれば、好ましく使用することが出来る。具体的には、3mm厚の板状成形体としたとき、JIS R 3106記載の可視光透過率が50%以上、JISK7105記載のヘイズが30%以下、のものが好ましい例として挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートを挙げることができる。
【0039】
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を、各種建築物や車両の窓材等に適用することを目的とした場合、当該成形体の透明性、耐衝撃性、耐侯性などを考慮すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、フラットパネルディスプレイの近赤外線吸収フィルター等に適用することを目的とした場合、汎用性などを考慮すると、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0040】
4)窒化チタン微粒子(B)のポリエステル樹脂(A)への分散方法
近赤外線遮蔽機能を有する微粒子である窒化チタン微粒子(B)のポリエステル樹脂(A)への分散方法は、当該微粒子が均一に樹脂中に分散できる方法であれば任意に選択できる。
具体例としては、まず、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用い、窒化チタン微粒子(B)を任意の溶剤に分散した分散液を調製する。次に、当該分散液と、高耐熱性を有する分散剤(C)と、ポリエステル樹脂(A)の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機を用いて均一に混合し混合物とする。続いて、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して、当該混合物から前記溶剤を除去しながら均一に溶融混合して、ポリエステル樹脂(A)に窒化チタン微粒子(B)を均一に分散した近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を調製することができる。尚、混錬時の温度は、使用するポリエステル樹脂(A)が分解しない温度に維持する。
【0041】
他の方法として、上述した窒化チタン微粒子(B)の分散液へ、高耐熱性を有する分散剤(C)を添加した後、溶剤を公知の方法で除去して、窒化チタン微粒子(B)と高耐熱性を有する分散剤(C)との混合粉末を得る。得られた混合粉末と、ポリエステル樹脂(A)の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを均一に溶融混合して、ポリエステル樹脂(A)に窒化チタン微粒子(B)が均一に分散した近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を調製することもできる。
【0042】
また、分散処理を施していない窒化チタン微粒子(B)の粉末と、高耐熱性を有する分散剤(C)とを、ポリエステル樹脂(A)に直接添加し、均一に溶融混合する方法を用いることもできる。
【0043】
上述した分散方法の他にも、ポリエステル樹脂(A)中へ、窒化チタン微粒子(B)を均一に分散出来る方法であれば良く、上述した方法に限定されない。
【0044】
以上のようにして得られた近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物をペレット状に加工することにより、本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体製造用の中間原料を得ることも可能である。
【0045】
上述したペレット状の中間原料は、最も一般的な方法として、溶融押出されたストランドをカットすることにより得ることができる。従って、そのペレット形状としては、円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、溶融押出されたストランドを直接カットする、所謂ホットカット法を採ることも可能である。当該ホットカット法において、ペレット形状は球状に近い形状をとることが一般的である。
【0046】
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物へ、さらに、一般的な添加剤を配合することも可能である。例えば、任意の色調を与えるためのアゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系染料、ペリレン系染料、カーボンブラック等であって、熱可塑性樹脂の着色に用いられる一般的な染料、顔料の有効発現量を、配合することが出来る。また、ヒンダードフェノール系、リン系等の安定剤、離型剤、ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸系、HALS系、トリアゾール系、トリアジン系等の紫外線吸収剤、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等の有効発現量を配合することも出来る。
【0047】
5)近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物の製造方法
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、上述した近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を、所定の形状に成形することによって得られる。
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、高耐熱性を有する分散剤(C)を用いて製造されていることから、成形時においても熱劣化が非常に少ない。この為、窒化チタン微粒子(B)は、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体中においても十分に分散される結果、当該成形体の透明性が良好に確保される。そして、高耐熱性を有する分散剤(C)が、黄色から茶色に変色することもないので、当該成形体が黄色に着色することもない。
【0048】
近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の形状は、任意の形状に成形可能であり、例えば、平面状や曲面状に成形することが可能である。また、当該成形体の厚さは、板状からフィルム状まで任意の厚さに調整することが可能である。さらに平面状に形成した当該成形体の樹脂シートは、後加工によって球面状等の任意の形状に成形することができる。
【0049】
近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、および、回転成形等の任意の方法を挙げることができる。中でも、射出成形により成形品を得る方法と、押出成形により成形品を得る方法が好適に採用される。
押出成形により板状、フィルム状の成形品を得るには、Tダイなどの押出機を用いて押出した溶融樹脂組成物を冷却ロールで冷却しながら引き取る方法により製造される。また必要に応じて、当該溶融樹脂組成物を延伸加工し、成形品の厚みを調整することも可能である。押出成形により得られた板状品は、アーケードやカーポート等の建造物用に好適に使用され、フィルム状の成形品は、窓ガラスへの貼り付け用に好適に使用される。また、上記射出成形で得られた成形品は、自動車の窓ガラスやルーフ等の車体用に好適に使用される。
【0050】
本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、当該成形体自体として、窓ガラス、アーケード等の構造材に使用することが出来るほか、無機ガラス、樹脂ガラス、樹脂
フィルムなどの他の透明成形体へ任意の方法で積層し、一体化した近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体として、構造材に使用することも出来る。例えば、予めフィルム状に成形した近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を、熱ラミネート法により、無機ガラスへ積層し一体化することで、近赤外線遮蔽機能、ガラスの飛散防止機能を有する近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体を得ることができる。当該近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体は、相互の成形体の持つ利点を有効に発揮させつつ相互の欠点を補完するので、より有用な構造材として使用することが出来る。
【0051】
また、熱ラミネート法、共押出法、プレス成形法、射出成形法等を用いて、本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の成形の際、同時に他の透明成形体に積層一体化することで、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体を得ることも可能である。当該近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体も、相互の成形体の持つ利点を有効に発揮させつつ、相互の欠点を補完することで、より有用な構造材として使用することが出来る。
【0052】
また、本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体は、当該成形体の表面へ近赤外線遮蔽能を有する微粒子を含む塗料を塗布して近赤外線遮蔽膜を形成することで、さらに、近赤外線吸収能を調整することが可能である。当該近赤外線遮蔽能を有する微粒子としては、六ホウ化物微粒子、アンチモンドープ酸化錫(以下、ATOと記す場合がある。)微粒子が挙げられる。
【0053】
例えば、六ホウ化物微粒子の一つである六ホウ化ランタン微粒子分散液をUV硬化樹脂と混合して得られた塗布液を、本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体に塗布し、その後硬化させて、表面に近赤外線遮蔽膜を形成することで、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体自体よりも近赤外線遮蔽能を向上させることが出来る。
【0054】
ATO微粒子は、可視光領域で光の吸収や反射がほとんど無く、波長1000nm以上の領域の光に対し、プラズマ共鳴に由来する反射・吸収が大きい。そして、ATO微粒子の透過プロファイルは、近赤外領域で長波長側に向かうに従って透過率が減少する。一方、上述した六ホウ化物の透過プロファイルは、波長1000nm付近に極小値をもち、それより長波長側では徐々に透過率の上昇を示す。ここで、本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体と、六ホウ化物と、ATOとを組み合わせて使用することにより、可視光透過率は減少させずに、近赤外領域の熱線を遮蔽することが可能となり、それぞれ単独で使用するよりも熱線遮蔽特性が向上する。
【0055】
上述した用途に用いる為、近赤外線遮蔽能を有する微粒子を含む塗料を作製するにあたり、ATO微粒子を用いる場合は、ATO微粒子の平均粒径は200nm以下であることが好ましい。
一方、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の一部の用途においては、透明性よりも不透明な光透過性を要求されることがある。そのような要求の下では、ATO粒子の粒径を大きくして散乱を助長する構成が望ましい。しかし、ATO粒子の粒径が大きすぎると赤外線吸収能そのものも減衰するため、やはり200nm以下の平均粒径が好ましい。
【0056】
六ホウ化物微粒子の単位重量当たりの熱線遮蔽能力は非常に高く、ATO微粒子と比較して30分の1以下の使用量で同等の効果を発揮する。従って、六ホウ化物微粒子を添加することによって、少量でも好ましい熱線遮蔽効果が得られるうえ、ATO微粒子と併用した場合にはこれらの微粒子を削減してコスト低下を図ることが可能となる。また、全微粒子の使用量を大幅に削減できるので、基材である樹脂の物性、特に耐衝撃強度や靭性の低下を防ぐことができる。
六ホウ化物微粒子としては、CeB、GdB、TbB、DyB、HoB、YB、SmB、EuB、ErB、TmB、YbB、LuB、SrB、Cr
、LaB、PrB、NdB微粒子が挙げられる。これら六ホウ化物微粒子は、単独または2種以上を混合して使用することもできる。これら六ホウ化物微粒子は、暗い青紫などに着色した粉末であるが、粒径を可視光波長に比べて十分に小さくし、且つ薄膜中に分散させた状態では、当該膜に可視光透過性が生じるものの、近赤外線遮蔽能は十分強く保持できる。
【0057】
本発明者の検討によれば、六ホウ化物微粒子を十分細かく、かつ均一に分散した膜では、透過率が波長400〜700nmの間に極大値を持ち、且つ波長700〜1800nmの間に極小値を持つことが観察された。可視光波長が380〜780nmであり、人間の視感度が波長550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を有効に透過し、それ以外の波長の光を有効に吸収・反射することが理解できる。
【0058】
近赤外線遮蔽に用いる六ホウ化物微粒子の平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下とする。その理由は、六ホウ化物微粒子の平均粒径が200nm以下であれば、微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中に微粒子の沈降が生じ難いからである。さらに、平均粒径が200nm以下の六ホウ化物微粒子、またはそれらが凝集した粒子であれば、それらの凝集粒子による光散乱があっても可視光透過率の低下の原因とならないので好ましいからである。なお六ホウ化物微粒子の平均粒径は200nm以下、好ましくは100nm以下と、小さいほど好ましいが、現在の技術では商業的に製造できる最小粒径はせいぜい2nm程度である。
【0059】
以上、詳細に説明したように、近赤外線遮蔽成分として窒化チタン微粒子(B)を、高耐熱性を有する分散剤(C)を用いてポリエステル樹脂(A)へ均一に分散させた近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を、本発明係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体製造に用いることにより、高コストの物理成膜法や複雑な工程を用いることなく、近赤外線遮蔽機能を有しかつ透明性を有し、成形時の溶融混錬による分散剤(C)の熱劣化に起因する黄変が少ない近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体並びに近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体を提供することが可能となる。
【0060】
6)近赤外線遮蔽樹脂成形体
当該本発明に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物並びに近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体は、ポリエステル樹脂(A)と、平均粒径30nm以下の窒化チタン微粒子(B)と、熱分解温度が230℃以上であって、ポリエステル主鎖に塩基性官能基をもつ分散剤(C)と、を含み、上記窒化チタン微粒子(B)がポリエステル樹脂(A)中において、均一に分散している近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物である。
当該近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物を、押出成形、射出成形、圧縮成形等公知の方法により、板状、フィルム状、球面状等の任意の形状に成形することによって得られる近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体並びに近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体は、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収を持ち、太陽光に含まれる、近赤外線に加えて可視光領域の一部をも吸収することで、近赤外から長波長可視光領域において、効率的に太陽光線を吸収することが出来、工業的に有用である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
尚、各実施例において、近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の可視光透過率並びに日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。この日射透過率は近赤外線遮蔽性能を示す指標である。また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR−200を用い、JISK 7105に基づいて測定した。
(実施例1)
【0062】
熱プラズマ法で製造した平均粒径DBET13.5nm(比表面積81.6m)の窒化チタン微粒子aを10重量%、高耐熱性分散剤α(ポリエステル主鎖に、芳香族複素環化合物を末端に持つ官能基を有する分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は250℃。)を5重量%、トルエンを85重量%秤量し、0.3mmφZrOビ−ズを入れたペイントシェ−カ−で3時間分散処理することによって窒化チタン微粒子分散液(以下、本実施例において「A液」と記載する。)を調製した。
上記A液へ、さらに、高耐熱性分散剤αを添加し、この高耐熱性分散剤αと窒化チタン微粒子a微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/窒化チタン微粒子]が3となるように調整した。次に、窒化チタン微粒子分散液A液と高耐熱性分散剤αとの混合物からスプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、窒化チタン微粒子aと高耐熱性分散剤αとの混合粉を得た(以下、本実施例において「A粉」と記載する。)。
得られたA粉と、ポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットとを、窒化チタン微粒子a濃度が0.2重量%となるように混合し、ブレンダーを用いて均一に混合した後、二軸押出機で240℃で熔融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線遮蔽機能を持つポリエステル樹脂成形体用のコンパウンドを得た(以下、本実施例において「コンパウンドA」と記載する。)。
得られたコンパウンドAを、一軸押出機を用い240℃で熔融混練した後、Tダイより押し出し、二軸延伸加工し、0.05mm厚に成形することで窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂全体に均一に分散した実施例1に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。
当該実施例1に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率35.0%のときの日射透過率は33.8%で、ヘイズ値は1.1%であった。成形体の断面TEM観察の結果、窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散していることが確認出来た。
【0063】
(実施例2)
ポリエステル樹脂を、ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットからポリエチレンナフタレート樹脂ペレットへ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。
実施例2に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率34.8%のときの日射透過率は34.1%で、ヘイズ値は1.0%であった。成形体の断面TEM観察の結果、窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散していることが確認できた。
【0064】
(実施例3)
ポリエステル樹脂を、ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットからポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットへ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。
実施例3に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率35.1%のときの日射透過率は34.1%で、ヘイズ値は1.1%であった。成形体の断面TEM観察の結果、窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散していることが確認できた。
【0065】
(実施例4)
A粉と、ポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットとを、窒化チタン微粒子濃度が0.02重量%となるように混合した以外は、実施例1と同様にして近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体用のコンパウンドを得た(以下、本実施例において「コンパウンドB」と記載する。)。得られたコンパウンドBを0.5mm厚に成形した
以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。実施例4に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率35.2%のときの日射透過率は34.0%で、ヘイズ値は1.0%であった。成形体の断面TEM観察の結果、窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散していることが確認できた。
【0066】
(実施例5)
熱プラズマ法で製造した平均粒径DBET30nmの窒化チタン微粒子bを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。
実施例5に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率34.5%のときの日射透過率は33.7%で、ヘイズ値は1.1%であった。成形体の断面TEM観察の結果、窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散していることが確認できた。
【0067】
(実施例6)
高耐熱性分散剤αを高耐熱性分散剤β(ポリエステル主鎖に、ジメチルアミノ基を官能基として有する分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は230℃である。)へ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例6に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。
実施例6に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率34.8%のときの日射透過率は33.6%で、ヘイズ値は1.2%であった。成形体の断面TEM観察の結果、窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散していることが確認できた。
【0068】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で調製したA液へ、メチル−トリメトキシシランを添加し、メカニカルスターラーで1時間攪拌し混合した後、スプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、シラン化合物にて表面処理を施された窒化チタン微粒子cを得た。
以下、実施例1と同様にして実施例7に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。実施例7に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率35.6%のときの日射透過率は34.3%で、ヘイズ値は1.2%であった。成形体の断面TEM観察の結果、シラン化合物にて表面処理された窒化チタン微粒子がポリエステル樹脂中に均一に分散していることが確認できた。
【0069】
(比較例1)
熱プラズマ法で製造した平均粒径DBET50nmの窒化チタン微粒子dを使用した以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。
比較例1に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率35.0%のときの日射透過率は33.8%で、ヘイズ値は9.5%であった。
平均粒径DBET50nmの窒化チタン微粒子を使用したため、ヘイズ値が9.5%と高くなり、透明度の低い成形体となった。
【0070】
(比較例2)
高耐熱性分散剤αを分散剤γ(ポリエステル主鎖に、、芳香族複素環化合物を末端に持つ官能基を有する分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は200℃である。)へ代替した以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を得た。
比較例2に係る近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率29.5%のときの日射透過率は33.2%で、ヘイズ値は4.5%であった。
TG−DTAで測定した熱分解温度が200℃の分散剤γを使用した為、成形体が黄変し、窒化チタン本来の色調が得られなかった。また、ヘイズ値が4.5%と高くなり、透明度の低い成形体であった。成形体の断面TEM観察の結果、窒化チタン微粒子が一部凝集しており、ポリエステル樹脂中に均一に分散していないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体を製造するために用いられる近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物であって、
ポリエステル樹脂と、平均粒径30nm以下の窒化チタン微粒子と、熱分解温度が230℃以上であって、ポリエステル主鎖に塩基性官能基をもつ分散剤と、を含むことを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選択される1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記窒化チタン微粒子が、熱プラズマ法によって製造されたことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記窒化チタン微粒子が、シラン化合物、チタン化合物、ジルコニア化合物から選択される少なくとも1種類以上の化合物によって表面処理されていることを特徴とする請求項
1から3のいずれかに記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂組成物が、所定の形状に成形されていることを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体が、他の透明成形体に積層されていることを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂積層体。
【請求項7】
請求項5に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体の表面に、近赤外線遮蔽膜が形成されていることを特徴とする近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体。
【請求項8】
前記近赤外線遮蔽膜が、六ホウ化物微粒子分散液、アンチモンドープ酸化錫微粒子分散液、一般式MWO(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦Y≦0.5、2.2≦Z≦3.0)で示され且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子分散液、の少なくとも1種と、UV硬化樹脂または常温硬化樹脂と、を混合した塗布液を塗布し、その後硬化して得られる膜であることを特徴とする請求項7に記載の近赤外線遮蔽ポリエステル樹脂成形体。

【公開番号】特開2011−184522(P2011−184522A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49494(P2010−49494)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】