説明

送りネジ装置、リニアアクチュエータ及びリフト装置

【課題】ローラ4とネジ軸1の片当たり防止機構を搭載しても、大型化を抑制でき、製造コストの上昇を抑制できる送りネジ装置20を提供する。
【解決手段】外周面に螺旋溝を形成したネジ軸1と、螺旋溝に接触しながら公転可能な複数のローラ4と、ローラ4を自転可能に支持するケージ2とを有し、ネジ軸1とケージ2との相対的な回転運動と直動運動を相互に変換する送りネジ装置20において、ローラ4を自転可能に支持する軸受5と、軸受5を支持しケージ2に支持されるホルダ6とを有し、軸受5の外輪の外周面のネジ軸1に近い側に突起5dを設け、ホルダ6が突起5dのネジ軸1に遠い側から当接する。軸受5の円錐台形状のころ5aを周方向に略隙間なく配置する。また、軸受5の外輪をホルダ6に螺着させるネジ部18を設け、軸受5とローラ4を自転の軸方向に移動可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動と直線運動を変換する送りネジ装置に係わり、特に、モータなどの回転駆動源の回転運動を直線運動に変換し対象物を直線的に駆動するリニアアクチュエータ、さらには、大推力が必要なリフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、特に温暖化対策の一環として、近年、各種機器のアクチュエータにおいて従来の油圧アクチュエータから電動アクチュエータへの変換を志向する動きが高まっている。これは、油圧アクチュエータでは必要な作動油を、電動アクチュエータでは使用しないので、環境汚染を発生させない点が評価されているからである。また、電動アクチュエータによる電動化は、効率を向上させ消費動力を削減し、更に、動力回生を活用することができるので一層の消費動力削減を狙うことができる。また、内燃機関を用いる場合であっても、油圧アクチュエータは内燃機関の直近に配置する必要があるが、電動アクチュエータでは内燃機関で発生した動力を一旦電力に変換するので、電動アクチュエータを内燃機関から離して配置することができ、アクチュエータ稼動現場というローカルエリアでの稼動環境の向上を狙うことができる。また、電動アクチュエータを深夜電力を蓄電したバッテリで駆動させることで、発電所を含めた電力供給のネットワークにおける電力の有効利用を狙うことができる。
【0003】
この油圧アクチュエータから電動アクチュエータへの変換を志向する動きは、建設機械やプレス機械などのリフト装置に多用されている油圧シリンダの様に大きな推力を発生させる必要のあるリニアアクチュエータの世界にも及んでおり、大推力に耐える電動リニアアクチュエータのニーズが高まっている。
【0004】
電動リニアアクチュエータには、回転直動変換機構(送りネジ装置)が用いられている。送りネジ装置としてはボールネジがすでに実用化されている。ボールネジは、小球を転動体とした転がり対偶を用いているので、動力伝達効率が高いが、小球の点接触に発生する大きなヘルツ応力によってフレーキングが発生し易く、大推力用に使用する場合には、要求される寿命に対して十分な耐久性を保証しにくい。
【0005】
そこで、大推力用の送りネジ装置として、線接触による転がり対偶を用いて回転直動変換機構を構成し、発生するヘルツ応力を低減してフレーキングに対する耐久性を改善したものが提案されている。例えば、特許文献1と特許文献2には、ネジ軸の中心軸とほぼ平行で、且つ、ネジ軸の外部にある平面内に自転軸が存在する複数のローラを、ネジ軸に対するナットに相当するローラケージによって転がり軸受を介して回転支持し、ローラとネジ軸とを線接触させることが可能な送りネジ装置が記載されている。また、特許文献3と特許文献4には、ネジ軸の中心軸にほぼ直交する平面内に自転軸が存在し、その自転軸がネジ軸中心軸と交差あるいは近傍を通過する複数のローラを、ネジ軸に対するナットに相当するローラケージによって転がり軸受を介して回転支持し、ローラとネジ軸とを線接触させることが可能な送りネジ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−286663号公報
【特許文献2】実用新案登録第2594535号公報
【特許文献3】特公平6‐17717号公報
【特許文献4】特開昭62−91050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の送りネジ装置では、各構成部品の寸法誤差や組立て誤差などにより、ローラとネジ軸とが片当たりして線接触していない場合もあると考えられた。確実に線接触するように、送りネジ装置に、片当たりを防止する片当たり防止機構を搭載することが望まれる。しかし、片当たり防止機構を搭載すれば、その分、送りネジ装置は大型化し、製造コストも上昇する。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ローラとネジ軸の片当たり防止機構を搭載しても、大型化を抑制でき、製造コストの上昇を抑制できる送りネジ装置を提供することであり、この送りネジ装置を搭載したリニアアクチュエータ及びリフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、外周面に螺旋溝を形成したネジ軸と、前記螺旋溝に接触しながら公転可能な複数のローラと、該複数のローラを自転可能に支持するローラケージとを有し、前記ネジ軸と前記ローラケージとの相対的な回転運動と、前記ネジ軸と前記ローラケージの相対的な前記ネジ軸の軸方向の直動運動とを相互に変換する送りネジ装置において、
前記複数のローラを前記自転可能に支持する軸受と、
該軸受を支持し、前記ローラケージに支持されるホルダとを有し、
前記軸受の外輪の外周面の前記ネジ軸に近い側に突起を設け、前記ホルダが前記突起の前記ネジ軸に遠い側から当接することを特徴としている。
【0010】
また、本発明は、前記送りネジ装置において、
前記複数のローラを前記自転可能に支持し、外輪が前記ローラケージに支持される軸受を有し、
前記軸受には円錐台の形状の複数のころが用いられ、前記ころは前記外輪の内周面上に周方向に略隙間なく配置され、隣接する前記ころ同士が接触可能であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、前記送りネジ装置において、
前記複数のローラを前記自転可能に支持する軸受と、
該軸受を支持し、前記ローラケージに支持されるホルダとを有し、
前記軸受の外輪を前記ホルダに螺着させるネジ部を設け、前記軸受と前記ローラを前記自転の軸方向に移動可能としたことを特徴としている。
また、本発明の送りネジ装置を搭載したリニアアクチュエータ及びリフト装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ローラとネジ軸の片当たり防止機構を搭載しても、大型化を抑制でき、製造コストの上昇を抑制できる送りネジ装置を提供でき、この送りネジ装置を搭載したリニアアクチュエータ及びリフト装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ベースの実施形態に係る送りネジ装置の側面図である。
【図2】ベースの実施形態に係る送りネジ装置の正面図である。
【図3】ベースの実施形態に係る送りネジ装置の上面図である。
【図4】ベースの実施形態に係る送りネジ装置の下面図である。
【図5】図3におけるA−A方向の矢視断面図である。
【図6】図3の配置のままメインローラ部組と揺動ピンのみを取り出して示した上面(外観)図である。
【図7】図3の配置のままメインローラ部組とネジ軸のみを取り出して示した図3におけるB−B方向の矢視断面図である。
【図8】図6におけるメインローラ部組を揺動軸の方向から見た外観図である。
【図9】ローラとネジ軸の片当たり防止機構(自動調心機構)の原理説明図であり、(a)はネジ山の先端側での片当たりの発生により揺動軸周りに時計回りの回転モーメントが発生する様子を示し、(b)はネジ山の基部側での片当たりの発生により揺動軸周りに反時計回りの回転モーメントが発生する様子を示し、(c)はネジ山の先端と基部の中間でローラがネジ山に当接することにより回転モーメントが発生しなくなっている様子を示している。
【図10】図4の配置のまま補助ローラ部組とネジ軸のみを取り出して示した図4におけるC−C方向の矢視断面図を上下反転して示した図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係る送りネジ装置の図5に相当する断面図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る送りネジ装置のメインローラ部組を回転軸方向から見た外観図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る送りネジ装置のメインローラ部組のみの図7に相当する断面図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係るリニアアクチュエータの概略図である。
【図15】本発明の第5の実施形態に係るリフト装置(建設機械)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。そして、まずは、本発明の実施形態の基礎となるベースの実施形態について説明し、そのベースの実施形態をふまえて、本発明の第1〜5の実施形態を説明する。
【0015】
(ベースの実施形態)
まずは、ベースの実施形態の送りネジ装置20について説明する。図1〜4に、ベースの実施形態の送りネジ装置20の側面図(図1)、正面図(図2)、上面図(図3)、下面図(図4)を示す。送りネジ装置20は、図1に示すように台形状断面の螺旋溝1cが外周面に形成されたネジ軸1と、そのネジ軸1が端面2eから端面2fへの間を貫通するケージ(ローラケージ)2と、図2に示すようにネジ軸1の周方向には略等間隔の120度の間隔で、ネジ軸1の軸方向には螺旋溝1cのリードLの略三分の一の間隔ずつ互いにずらしてケージ2に装着された複数、例えば図2のように3個のメインローラ部組3a、3b、3cを有している。
【0016】
図1、3、4の螺旋溝1cに対して、左側の側面が、フランク面1aとなり、右側の側面が、フランク面1bとなっている。螺旋溝1cを構成するネジ山1dの右側の側面がフランク面1aとなり、ネジ山1dの左側の側面がフランク面1bとなっている。螺旋溝1cは、ネジ軸1の中心軸に向かって溝幅の小さくなる台形状断面を有している。
【0017】
図1に示すように、メインローラ部組3cは、メインローラ4と、メインローラを自転可能に支持する円錐コロ軸受5と、円錐コロ軸受5を支持しケージ2に揺動ピン7を介して支持されるホルダ6とを有している。この点は、他のメインローラ部組3a、3bについても同じである。
【0018】
図3に示すように、メインローラ部組3b(ホルダ6)は、2本の揺動ピン7を介して、ケージ2に装着されている。2本の揺動ピン7は、ケージ2に設けられた揺動ピン穴2aに嵌められている。他のメインローラ部組3a、3cについても同じである。2本の揺動ピン7の中心軸は同軸上に配置されており、この結果、各メインローラ部組3a、3b、3cは、ケージ2に対して前記2本の揺動ピン7の共通軸回りに揺動運動可能になっている。ただし、図3に示すケージ2の2面幅寸法W1とメインローラ部組3b(3a、3c)の2面幅寸法W2はそれぞれある程度高精度に加工されており、ケージ2とメインローラ部組3b(3a、3c)の間の揺動ピン7の中心軸方向の隙間量を小さくするように管理している。これにより、各メインローラ部組3a、3b、3cの位置が、ケージ2に対する揺動ピン7の中心軸方向(揺動軸方向)に、大きく変化しないようにしている。
【0019】
ケージ2には、円弧状切欠2dを伴った補助ローラ挿入孔2bが、メインローラ部組3a、3b、3cと同数設けられている。補助ローラ挿入孔2bと円弧状切欠2dには、後記する補助ローラ部組8が埋め込まれ、アジャストナット10とロックナット11によって、後記する補助ローラ部組8を補助ローラ挿入孔2bに埋め込む深さを変更して固定できるようになっている。
【0020】
図3に示すように、ネジ軸1と同一のリードL(図1参照)を有して中心軸を共有し、かつ、螺旋溝1cの略半分の深さにおける左側のフランク面1a上にある一つの螺旋を代表螺旋Eとする。代表螺旋Eと、ネジ軸1の中心軸を法線とする平面Gとの交点を、点Pとする。点Pにおけるフランク面1aと代表螺旋Eに対する接線を、接線Fとする。接線Fと前記平面Gのなす角を、リード角γとする。前記2本の揺動ピン7の中心軸の延長線(揺動軸)Hも、ネジ軸1の中心軸を法線とする平面Gとのなす角は、リード角γと等しくなっている。代表螺旋Eは、線状の接触区間内の一点Pを含みネジ軸1と中心軸を共有する架空円筒面上にあって、ネジ軸1と同一のリードLを有し、一点Pを通る。
【0021】
点Pは、前記延長線(揺動軸)Hの内のメインローラ4に架かる線分の中点である。点Pを通り延長線(揺動軸)Hを法線とする平面が、ネジ軸1の中心軸となす角は、リード角γと等しくなっている。
【0022】
点Pは、点Pと同様に、代表螺旋Eとネジ軸1の中心軸を法線とする平面Gとの交点であり、点Pと点Pとは、リードL(図1参照)の2倍の距離、離れている。ネジ軸1の中心軸を含む平面と、点Pを通り延長線(揺動軸)Hを法線とする平面とは、点Pにおいて交わっている。点Pにおいて、点Pを通り延長線(揺動軸)Hを法線とする平面は、フランク面1a、特に、代表螺旋Eと直交している。点Pにおいてフランク面1aとメインローラ4とが線状の接触区間で接している。
【0023】
図4に示すように、円弧状切欠2dは、補助ローラ挿入孔2bの内壁を切り欠くように設けられ、補助ローラ挿入孔2bに対して、円弧状切欠2dの設けられる方向は、ネジ軸1の中心軸を含み、かつ、補助ローラ挿入孔2bの中心軸と平行な面から、角度γ´傾いた方向である。ネジ軸1の中心軸を含み、かつ、補助ローラ挿入孔2bの中心軸と平行な面と、円弧状切欠2dの中央を通り前記角度γ´傾いた面とは、点Pにおいて交わっている。点Pにおいてフランク面1bと補助ローラ部組8とが接することになる。なお、角度γ´は、リード角γに略等しくてもよいのであるが、必ずしも等しくなければならないわけではなく、異なってもよいのである。
【0024】
図5に、図3におけるA−A方向の矢視断面図を示す。点Pにおいて、メインローラ4は、フランク面1aに接している。また、点Pにおいて、補助ローラ部組8の補助ローラ12は、フランク面1bに接している。メインローラ4を、各メインローラ部組3a、3b、3cが有しているので、3つのメインローラ4が、それぞれ1箇所ずつ、合計3箇所で、ネジ軸1をフランク面1a側から支持し、支持されている。同様に、補助ローラ部組8も3つ設けられているので、3つの補助ローラ部組8の補助ローラ12が、それぞれ1箇所ずつ、合計3箇所で、ネジ軸1をフランク面1b側から支持し、支持されている。これにより、ケージ2は、ネジ軸1から離れ接触していない。
【0025】
各メインローラ部組3a、3b、3cは、図5にメインローラ部組3bの例で示されているように、メインローラ4と円錐コロ軸受5とホルダ(メインローラホルダ)6を有している。ケージ2と各メインローラ部組3a、3b、3cとの間には隙間が確保されており、前記揺動運動の所定の揺動角範囲で両者が干渉するのを回避できる構成となっている。
【0026】
メインローラ4には、端面4bが設けられ、端面4bは、ネジ軸1のネジ山1dに対向し、凹面鏡の表面形状のように窪んでネジ山1dから離れ接しないようになっている。
【0027】
また、メインローラ4には、転動面4aが設けられている。転動面4aは、円錐台の側面の形状をしている。転動面4aの円錐台の母線に沿って、転動面4aは、ネジ軸1のフランク面1aに線接触している。メインローラ4は円錐台の側壁形状部に転動面4aを有し、転動面4aはネジ軸1のフランク面1aと線状の接触区間で接触している。揺動軸Hは、代表螺旋E(フランク面1a)と一点Pにおいて直交するB−B断面(平面)に対してほぼ直交している。揺動軸Hは、代表螺旋Eの点Pにおける接線になっている。
【0028】
なお、フランク面1a上の点Pと点Pと点Pは、代表螺旋E(図3参照)の通る点であり、図5では、点Pにおいて、フランク面1aが転動面4aに接している様子を示している。メインローラ4は、転動面4aを螺旋溝1cのフランク面1aに接触させながら、ネジ軸1の周りを公転可能になっている。そして、ケージ2は、メインローラ4を自転可能に支持している。送りネジ装置20は、ネジ軸1とケージ2との相対的な回転運動と、ネジ軸1とケージ2の相対的なネジ軸1の軸方向の直動運動とを相互に変換することができる。
【0029】
メインローラ4は、円錐コロ軸受5を介して、ホルダ6に回転可能に支持されている。円錐コロ軸受5は、メインローラ4を自転可能に支持し、軸受外輪5bがケージ2に支持されている。円錐コロ軸受5は、円錐台の形状の複数個の円錐コロ5aと、図示は省略したが、隣接する円錐コロ5a同士を離した状態に保持するリテーナと、メインローラ4の外周面に内周面が嵌め込まれ固定されている軸受内輪5cと、ホルダ6の内周面に外周面が嵌め込まれ固定されている軸受外輪5bとを有している。ホルダ6のネジ軸1の径方向外側には、突起6bが設けられている。この突起6bのネジ軸1の径方向内側が、円錐コロ軸受5の軸受外輪5bに当接し、軸受外輪5bさらには円錐コロ軸受5が、ネジ軸1の径方向外側に脱落するのを防止している。メインローラ4の転動面4aの近傍には、鉤部4cが設けられている。鉤部4cのネジ軸1の径方向外側が、円錐コロ軸受5の軸受内輪5cに当接することで、メインローラ4が、ネジ軸1の径方向外側に脱落するのを防止している。
【0030】
ケージ2のネジ軸1の周方向において、各メインローラ部組3a、3b、3cのネジ軸1を挟んで対向するように略180度ずれた方向に、補助ローラ部組8がそれぞれ設けられている。すなわち、補助ローラ部組8も、メインローラ部組3a、3b、3cと同様に、3個設けられ、具体的には、ネジ軸1の周方向には略120度の間隔で、軸方向にはリードL(図1参照)の略三分の一の間隔ずつずらして、ケージ2に装着されている。ケージ2のネジ軸1の軸方向に離れて配置された端面2eと端面2fに対して、各メインローラ部組3a、3b、3cは、ケージ2の端面2fより端面2eに近い側に配置され、補助ローラ部組8は、ケージ2の端面2eより端面2fに近い側に配置されている。
【0031】
補助ローラ部組8は、ネジ軸1のフランク面1bに接しながら転動可能な補助ローラ12と、補助ローラ12を自転可能に支持するニードル(ニードルコロ)13と、補助ローラ12の回転軸となる補助ローラ軸14と、補助ローラ軸14を支持する補助ローラホルダ15と、補助ローラ軸14を補助ローラホルダ15に固定する固定ナット16とを有している。補助ローラ部組8は、補助ローラ軸14の固定ナット16が締結されている側が、円弧状切欠2dに入るように、補助ローラ挿入孔2bに挿入されている。補助ローラ挿入孔2bの内壁にはねじが切られ、補助ローラ12がネジ軸1のフランク面1bに接するように、補助ローラホルダ15の補助ローラ挿入孔2bの深さ方向の位置を調整できるようになっている(補助ローラ位置調整機能)。また、調整されたアジャストナット10がゆるみで回って位置がずれないように、ロックナット11が設けられている。ロックナット11は、アジャストナット10を、補助ローラホルダ15に押圧して、アジャストナット10がゆるんで回転しないように固定している。複数の補助ローラ12は、メインローラ4が転動するフランク面1aと対向したもう一方のフランク面1bを転動する。補助ローラ12の補助ローラ軸(自転軸)14は、ケージ2に固定されている。ケージ2に固定された補助ローラ軸(自転軸)14の固定位置を移動させることが可能な補助ローラ位置調整機能が、アジャストナット10とロックナット11等により構成されている。この補助ローラ位置調整機能によって、ネジ軸1と補助ローラ12との間のネジ軸1の軸方向および半径方向のバックラッシの調整ができる。
【0032】
補助ローラ部組8の補助ローラ12は、ネジ軸1のフランク面1b上の点Pを含む線上で線接触している。なお、補助ローラ12は、メインローラ4より小さく、耐えられる荷重も小さい。逆に、メインローラ4は、補助ローラ12より大きく、耐えられる荷重も大きい。このため、ケージ2に対して、端面2fから端面2eへの方向に作用する力は、端面2eから端面2fへの方向に作用する力に比べて、大きくすることができる。また、ケージ2に対して、端面2eから端面2fへの方向に作用する力を大きくしたい場合は、補助ローラ部組8の換わりに、メインローラ部組3a、3b、3cを設ければよい。
【0033】
次に、メインローラ部組3a、3b、3cの揺動運動について詳細に説明する。
【0034】
図6に、図3の配置のままメインローラ部組3bと揺動ピン7のみを取り出して示す。揺動ピン7は、ホルダ6に同軸に形成された2箇所の揺動ピン穴6aに1個ずつ嵌入され、それらの共通軸(揺動軸)H周りに、メインローラ部組3bが、揺動するのを支持している。共通軸(揺動軸)Hを法線とする平面(B−B断面)は、ネジ軸1の中心軸に対して、リード角γと等しい角度傾いている。
【0035】
各揺動ピン7は、ケージ2の揺動ピン穴2a(図3参照)とホルダ6の揺動ピン穴6aの両方にまたがって嵌入されており、ケージ2に対する各メインローラ部組3a、3b、3cを揺動させる揺動軸Hを構成させると同時に、そこに発生するせん断応力によってケージ2と各メインローラ部組3a、3b、3cとの間で荷重を伝達する機能も果たしている。
【0036】
図7に、図3の配置のままメインローラ部組3bとネジ軸1のみを取り出し、図3におけるB−B方向で切断した矢視断面図を示す。このB−B方向に切断した矢視断面、いわゆる、B−B断面は、ネジ軸1の中心軸に対してリード角γだけ傾いている。そして、図7に示すように、B−B断面には、メインローラ4の回転軸Dが含まれている。メインローラ4の回転軸Dに沿ってB−B断面は設けられている。回転軸Dは、ネジ軸1の径方向に向かって、転動面4aとフランク面1aとの接触区間側に傾斜している。このことによって、転動面4aの端面4bは、転動面4aが接触しているネジ山1dの1ピッチ右隣のネジ山1dの干渉を避ける方向に傾斜し、その右隣のネジ山1dを跨いで配置することが可能になっている。このため、転動面4aの曲率半径を大きくすることが可能になり、前記自動調心機構によって、確実に線接触させることができることと合わせて、接触区間に発生するヘルツ面圧を大幅かつ確実に低減し、フレーキング寿命を延ばすことができる。なお、端面4bは、凹面に形成されており、これによっても、転動面4aの曲率半径を大きくすることができている。
【0037】
メインローラ4の回転軸(中心軸)Dは、代表螺旋Eと一点Pにおいて直交するB−B断面とほぼ平行になり、B−B断面にほぼ含まれている。転動面4aは、メインローラ4の回転軸(中心軸)Dに沿ってネジ軸1の中心軸に近づくにしたがって軸直角断面の外周径が減少する略円錐台側面形状になっている。
【0038】
また、B−B断面には、メインローラ4の転動面4aとネジ軸1のフランク面1aとが線接触する線状の区間が含まれ、特に、その区間の中央に位置する点Pが含まれている。フランク面1aに対して、メインローラ4の円錐状の転動面4aは線接触状態で接触している。厳密には図7におけるフランク面1a上の線接触している区間の各点を通る各螺旋のリード角γは一定ではなく、B-B断面とネジ軸1の中心軸の交差角γと等しいリード角γを持つ代表螺旋Eのみが図7の点Pにおいて円錐状の転動面4aと紙面上で接することができる。点P以外の点を通る螺旋と転動面4aとの接点は、点P以外の点を通る螺旋のリード角と、点Pにおけるリード角γとの差に応じて図7の紙面上から紙面直角方向に変位する。しかし、それらの紙面上からの変位量は小さいとして、フランク面1aと転動面4aとの接触線は、概ね図7におけるフランク面1aの断面輪郭(B−B断面)上にあると近似して考えることができる。
【0039】
揺動軸H上の点である点Pは、回転軸Dから離れて、点Pの側に位置している。点Pは、回転軸Dと点Pの間に位置している。点Pにおけるフランク面1aの法線I上に、点Pは配置されている。また、法線I上を横切って転がるように、円錐コロ5aが配置されている。揺動軸HとB−B断面(平面)との交点Pは、B−B断面(平面)内にあって一点Pを通り線状の接触区間とほぼ直交する法線(線分)I上またはその近傍に配置されている。
【0040】
図8に、図6におけるメインローラ部組3bを揺動軸Hの方向から見た外観図を示す。揺動ピン穴6aの中心軸は、揺動軸Hに一致し、点P上を通っている。
【0041】
次に、図9を用いて、メインローラ部組3bの揺動運動による、メインローラ4とネジ軸1の片当たり防止機構(自動調心機構)について、その原理を説明する。
【0042】
まず、図9(a)は、ネジ軸1のネジ山1dの先端側の点Pでの片当たりの発生により、揺動軸H周りに時計回りの回転モーメントMが発生する様子を示している。片当たりは、フランク面1aと転動面4aとが寸法誤差などによって、点P周辺において平行にならなかった場合に生じる。ネジ山1dの点Pより先端側の点Pで、片当たりが発生したとすると、フランク面1aから転動面4aに作用する接触力Fは、点Pを作用点として、点Pにおけるフランク面1aの法線方向でネジ軸1からメインローラ4への方向に生じる。前記の如く、点Pも接触力Fも、図9(a)の紙面外に若干偏位しているので、図9(a)に示された接触力Fは、B-B断面へ投影された投影成分となるが、偏位成分は小さいので無視しても大勢に影響はなく、図9(a)に示された接触力Fを、正味の接触力Fとみなすことができる。
【0043】
その接触力Fが、揺動軸H(点P)に向かっておらず、揺動軸H(点P)から偏位した位置を通るので、揺動軸H(点P)周りに回転モーメントMが発生する。この回転モーメントMによって、メインローラ部組3b全体が時計回転方向に回転し、フランク面1aと転動面4aが、点Pよりネジ山1dの基部側(ネジ軸1の径方向、中心軸側)でも、例えば、点P周辺でも、フランク面1aと転動面4aとが当接する状態に移行する。図9(b)のように極端な片当たり状態でなくても、フランク面1aから転動面4aへ作用する接触力Fの合力の作用点が、点Pよりもネジ山1dの基部側にあれば、回転モーメントMと同方向の回転モーメントが発生し、メインローラ部組3bの全体が、接触力Fの合力の作用点を、ネジ山1dの先端側に移動させる方向に自動的に回転(揺動)する。
【0044】
次に、図9(b)は、ネジ山1dの基部側の点Pでの片当たりの発生により、揺動軸H周りに反時計回りの回転モーメントMが発生する様子を示している。ネジ山1dの点Pより基部側の点Pで、片当たりが発生したとすると、フランク面1aから転動面4aに作用する接触力Fは、点Pを作用点として、点Pにおけるフランク面1aの法線方向でネジ軸1からメインローラ4への方向に生じる。その接触力Fが、揺動軸H(点P)に向かっておらず、揺動軸H(点P)から偏位した位置を通るので、揺動軸H(点P)周りに回転モーメントMが発生する。この回転モーメントMによって、メインローラ部組3b全体が反時計回転方向に回転し、フランク面1aと転動面4aが、点Pよりネジ山1dの先端側(ネジ軸1の径方向、外側)でも、例えば、点P周辺でも、フランク面1aと転動面4aとが当接する状態に移行する。図9(a)のように極端な片当たり状態でなくても、フランク面1aから転動面4aへ作用する接触力Fの合力の作用点が、点Pよりもネジ山1dの基部側にあれば、回転モーメントMと同方向の回転モーメントが発生し、メインローラ部組3bの全体が、接触力Fの合力の作用点を、ネジ山1dの先端側に移動させる方向に自動的に回転(揺動)する。
【0045】
最後に、図9(c)は、ネジ山1dの先端と基部の中間の点Pで、メインローラ4がネジ山1dに当接することにより、回転モーメントが発生しなくなっている様子を示している。フランク面1aから転動面4aへ作用する接触力Fの合力の作用点が、ネジ山1dの先端と基部の中間の点Pに生じている。接触力Fは、点Pを作用点として、点Pにおけるフランク面1aの法線方向でネジ軸1からメインローラ4への方向に生じる。その接触力Fは、揺動軸H(点P)に向かっており、揺動軸H(点P)から偏位していないので、揺動軸H(点P)周りに回転モーメントが発生しない。このため、メインローラ部組3b全体は、回転せず、姿勢は安定しそのままの状態を維持する。また、フランク面1aから転動面4aへの接触力Fの合力の作用点は、点Pから移動しない。実際には、フランク面1aから転動面4aへの接触力Fは、線分布荷重として作用するが、その合力の作用点を、ネジ山1dの先端と基部の略中間の点Pに維持することができるということは、荷重の線分布においては、略一定値の均等な分布が可能になることを意味し、荷重の線分布における最大値を小さく抑えることができる。
【0046】
図9(a)と図9(b)と図9(c)における上記説明を総合すると、フランク面1aや転動面4a等の構成部品に寸法誤差などがあっても、回転モーメントM、Mがゼロになるまで、メインローラ部組3bは自動的にケージ2に対して揺動して、フランク面1aと転動面4aとを最大接触面圧の小さい線接触状態にする機能を有し、そして、メインローラ4とネジ軸1の片当たりを防止する機構(自動調心機構)を有していることが分かる。メインローラ4とネジ軸1の接触部が線状の接触区間の一端側に偏位すると、接触部を介してメインローラ4に作用する力によって揺動軸H周りにホルダ6を回動させる回転モーメントM、Mが発生し、接触区間の他端側においてメインローラ4をネジ軸1に近づける方向にホルダ6を回動(揺動)させる。これはメインローラ部組3a、3cの場合も全く同様である。
【0047】
図10に、図4の配置のまま補助ローラ部組8とネジ軸1のみを取り出して示した図4におけるC−C方向の矢視断面図を示す。このC−C方向に切断した矢視断面、いわゆる、C−C断面は、ネジ軸1の中心軸に対してリード角γ´傾いている。そして、図10に示すように、C−C断面には、補助ローラ軸14の中心軸である補助ローラ12の回転軸Jが含まれている。補助ローラ12の回転軸Jに沿ってC−C断面は設けられている。また、C−C断面には、補助ローラ12とネジ軸1のフランク面1bとが線接触する線状の区間が含まれ、特に、その区間の中央に位置する点Pが含まれている。フランク面1bに対して、補助ローラ12は線接触状態で接触している。補助ローラ12の外周の断面輪郭は、端部から中央へ向けて、直径が若干大きくなるようにわずかな曲率を持っており、ネジ軸1の螺旋溝1cにおける右側のフランク面1bと厳密には一点Pにおいて接触している。このことは、ネジ軸1と同一のリードLを有して中心軸を共有しフランク面1b上の点Pを通る代表螺旋Eのリード角をγ´とした時、図4のC-C断面もネジ軸1の中心軸とγ´の角度で交差する平面であることを意味する。
【0048】
補助ローラ部組8は、ケージ2の半径方向に形成された補助ローラ挿入孔2bに挿入されている。また、補助ローラ部組8の突出部との干渉を避けるための円弧状切欠2dが形成されている。突出部とは、具体的に、補助ローラ軸14の端部と固定ナット16である。補助ローラ部組8は、図示を省略したキー等によって、補助ローラ挿入孔2b内で回動しないように拘束され、補助ローラ12の回転軸(中心軸)Jを常にC-C断面内に維持している。アジャストナット10は、その外周のオネジ部が補助ローラ挿入孔2bのメネジ部にねじ込まれて行くことによって、補助ローラ部組8をケージ2の外周側から内周側へ移動させることができる。ロックナット11が補助ローラホルダ15にねじ込まれてアジャストナット10を補助ローラ部組8に固定することで、アジャストナット10が回転できなくなり、補助ローラ部組8も補助ローラ挿入孔2b内で、ケージ2の外周側から内周側への方向に固定される。
【0049】
そして、前記に説明したような送りネジ装置20によれば、例えば、図1に示すように、ケージ2の端面2e、2fがネジ軸1の中心軸に対して垂直となり、3個のメインローラ4が同時にフランク面1aに接触した状態を保持して、3個の補助ローラ部組8をアジャストナット10によってケージ2の内周方向に移動させて補助ローラ12を3方向からフランク面1bに接触させ、それぞれその位置でロックナット11により固定すれば、ケージ2はメインローラ4と補助ローラ12とを介して、ネジ軸1の軸方向にガタが無い状態で、ネジ軸1に装着できる。また、その状態から更に各アジャストナット10を所定量ねじ込んでからロックナット11により固定すれば、一定の予圧量を付加する事もでき、各アジャストナット10を逆方向に所定量回転させてからロックナット11により固定すれば、一定のバックラッシに管理することもできる。つまり、予圧量やバックラッシ量が構成部品の寸法誤差の集積によって大きくばらつくことを回避することができる。
【0050】
また、ネジ軸1の螺旋溝1cは、ネジ軸1の中心軸に向かって、溝幅の小さくなる断面の螺旋溝1cになっており、そのフランク面1aに接触して転動するメインローラ4の転動面4aは、メインローラ4の回転軸(中心軸)Dに沿ってネジ軸1の中心軸に向かうにしたがって、回転軸(中心軸)Dの直角断面の円の半径が減少する略円錐側面形状になっている。このため、フランク面1a上のネジ軸1の中心軸から離れた外周側にあって転動距離の大きな螺旋上を、円錐状の転動面4aの大きな径の部分が転動し、フランク面1a上の内周側にあって転動距離の小さな螺旋上を転動面4aの小さな径の部分が転動するようにすることができる。すなわち、線接触区間の全ての点において局部的なすべりも微小に抑えることができ、送りネジ装置20の長寿命化と同時に高効率化も実現することができる。
【0051】
前記では、ベースの実施形態となる送りネジ装置20について説明した。後記では、このベースの実施形態に基づいて、本発明の実施形態に係る送りネジ装置について説明する。
【0052】
(第1の実施形態)
図11に、本発明の第1の実施形態に係る送りネジ装置20の図5に相当する断面図を示す。第1の実施形態の送りネジ装置20が、ベースの実施形態の送りネジ装置20と異なる第1の点は、図5に示すメインローラ4と円錐コロ軸受5の軸受内輪5cとが一体化されて、メインローラ4’となっている点である。この一体化により、部品点数を削減でき、組立精度を向上させることができる。これにより、送りネジ装置20の信頼性も向上し、送りネジ装置20をリニアアクチュエータに用いた場合には、位置制御や推力制御などの制御精度の向上も実現することができる。
【0053】
また、第1の実施形態の送りネジ装置20が、ベースの実施形態の送りネジ装置20と異なる第2の点は、図5に示すホルダ6の突起6bがなくなり、替わりに段差部6cが、ホルダ6’のネジ軸1に近い側に設けられている点である。これに伴い、円錐コロ軸受5の軸受外輪5b’のネジ軸1に近い側には、突起部5dが設けられている。ホルダ6’のネジ軸1の径方向内側には、段差部6cが設けられている。この段差部6cのネジ軸1の径方向内側が、軸受外輪5b’の突起部5dのネジ軸1に遠い側から当接し、軸受外輪5b’さらには円錐コロ軸受5、メインローラ4が、ネジ軸1の径方向外側に脱落するのを防止している。図5に示すホルダ6の突起6bが省けるので、ホルダ6’のネジ軸1に遠い側が省け、ホルダ6’を小型化することができる。また、ホルダ6’のネジ軸1に遠い側の端面と、軸受外輪5b’のネジ軸1に遠い側の端面を、テーパー面にすることができるので、ホルダ6’だけでなく、メインローラ部組3a、3b、3cを小型化することができる。そして、これらにより、送りネジ装置20の径方向の寸法を小さくでき、送りネジ装置20を搭載するリニアアクチュエータの小型化を実現できる。
【0054】
(第2の実施形態)
図12に、本発明の第2の実施形態に係る送りネジ装置に搭載されるメインローラ部組3a、3b、3cを、メインローラ4の回転軸方向から見た外観図を示す。第2の実施形態のメインローラ部組3a、3b、3cが、ベースの実施形態のメインローラ部組3a、3b、3cと異なる点は、複数の円錐コロ5aが、隣接する円錐コロ5aとの間に略隙間はないが、互いに転がりを干渉しない状態で、メインローラ4’と軸受外輪5b’の間に配置されている点である。複数の円錐コロ5aは、軸受外輪5b’の内周面上に周方向に略隙間なく配置され、隣接する円錐コロ5a同士が接触可能になっている。これに伴い、円錐コロ軸受5のリテーナを省いている。リテーナを省いた分、円錐ころ5aの数を増やせるので、メインローラ部組3a、3b、3cの構造を簡素化しつつ、同じ体格で大きな許容推力を得ることができる。
【0055】
(第3の実施形態)
図13に、本発明の第3の実施形態に係る送りネジ装置に搭載されるメインローラ部組3a、3b、3cのみの図7に相当する断面図である。第3の実施形態のメインローラ部組3a、3b、3cが、第1の実施形態のメインローラ部組3a、3b、3cと異なる点は、メインローラ4’を、ホルダ6’’さらにはケージ2やネジ軸1に対して、回転軸Dの方向に移動可能とした点である。このために、ホルダ6’’と軸受外輪5b’の互いに対抗する両面に、ネジ部18を設けている。ネジ部18は、軸受外輪5b’をホルダ6’’に螺着させるとともに、軸受外輪5b’をホルダ6’’に対して回転軸Dの方向に移動可能にしている。
【0056】
また、固定ナット17が、軸受外輪5b’の側のネジ部18に螺着し、ホルダ6’’とでダブルナットとして機能させることで、ホルダ6’’に対して軸受外輪5b’が移動しないように、固定(位置決め)することができる。これによれば、図11に示すメインローラ4’とネジ軸1との接触点である点Pにおける隙間の量、いわゆるバックラッシを調整可能とすることができる。高い部品精度を必要とすることなく、送りネジ装置の組み立て後に適切な微少値にバックラッシを調整、あるいは予圧量を調整できるので、高いロバスト性を実現できる。
【0057】
また、ネジ部18と固定ナット17とによって、ホルダ6’’に対して軸受外輪5b’を固定(位置決め)することができるので、図5に示すホルダ6の突起6bを省くことができ、さらに、ホルダ6’’のネジ軸1に遠い側の端面と、軸受外輪5b’のネジ軸1に遠い側の端面を、テーパー面にすることができる。このため、ホルダ6’’だけでなく、メインローラ部組3a、3b、3cを小型化することができる。そして、これらにより、送りネジ装置20の径方向の寸法を小さくでき、送りネジ装置20を搭載するリニアアクチュエータの小型化を実現できる。
【0058】
(第4の実施形態)
図14に、本発明の第4の実施形態に係るリニアアクチュエータ21の概略図を示す。リニアアクチュエータ21は、第1の実施形態から第3の実施形態で説明した送りネジ装置20を備えている。送りネジ装置20は、既に説明したように、ネジ軸1とケージ2を有している。リニアアクチュエータ21は、送りネジ装置20の他に、モータ22と、リニアスライダ(外筒)23と、伸縮腕(内筒)24とを有している。モータ22の回転軸(図示省略)に、ネジ軸1が両方の軸心が同一となるように、連結されており、モータ22の筐体(図示省略)に、リニアスライダ(外筒)23が固定され、リニアスライダ(外筒)23は、その筒の内部においてケージ2をネジ軸1の軸方向にスライド可能にしている。そして、モータ22が回転すると、ネジ軸1も回転し、ネジ軸1とケージ2とが相対的に回転することで、ネジ軸1とケージ2の間に相対的なネジ軸1の軸方向の直動運動が生じ、ケージ2は、リニアスライダ(外筒)23の筒内部を、ネジ軸1の軸方向にスライドする。ケージ2には、伸縮腕(内筒)24が取り付けられており、ケージ2のスライドに応じて、リニアスライダ(外筒)23から外に露出される伸縮腕(内筒)24の長さが変わる。こうして、リニアアクチュエータ21の軸方向の長さを伸縮することができる。
【0059】
特に、第1と第3の実施形態に係る送りネジ装置20を、リニアアクチュエータ21に用いると、送りネジ装置20の径方向の寸法を小さくできるので、リニアスライダ(外筒)23の径方向の寸法、さらには、リニアアクチュエータ21の径方向の寸法を小さくすることができる。
【0060】
(第5の実施形態)
図15に、本発明の第5の実施形態に係るショベル(リフト装置、建設機械)29を示す。第5の実施形態のショベル29は、第4の実施形態のリニアアクチュエータ21と同じ構造の複数のリニアアクチュエータ21a〜21cを備えている。ショベル29は、リニアアクチュエータ21a〜21cの他に、バケット25と、アーム26と、ブーム27と、上部旋回体28を有している。バケット25は、アーム26に対して回転可能に直接連結され、さらに、リニアアクチュエータ21aを介して間接的に連結されている。リニアアクチュエータ21aが伸縮することで、バケット25は、アーム26に対して回動することができる。アーム26は、ブーム27に対して回転可能に直接連結され、さらに、リニアアクチュエータ21bを介して間接的に連結されている。リニアアクチュエータ21bが伸縮することで、アーム26は、ブーム27に対して回動することができる。ブーム27は、上部旋回体28に対して回転可能に直接連結され、さらに、リニアアクチュエータ21cを介して間接的に連結されている。リニアアクチュエータ21cが伸縮することで、ブーム27は、上部旋回体28に対して回動することができる。上部旋回体28は、下部走行体(図示省略)上に旋回可能に設けられている。なお、ショベル29を例に説明したが、同様な、リニアアクチュエータ21、21a〜21cが必要な機器に対しても採用が可能であり、例として、建設機械や射出成型機などの昇降動作を伴うリフト装置や、水平動作を伴うあらゆる装置に活用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 ネジ軸
1a、1b フランク面
1c 螺旋溝
1d ネジ山
2 ケージ(ローラケージ)
2a 揺動ピン穴
2b 補助ローラ挿入孔
2d 円弧状切欠
2e、2f 端面
3a、3b、3c メインローラ部組
4 メインローラ
4a 転動面
4b 端面
4c 鉤部
5 円錐コロ軸受
5a 円錐コロ
5b 軸受外輪
5c 軸受内輪
5d 突起部
6 ホルダ(メインローラホルダ)
6a 揺動ピン穴
6b 突起
6c 段差部
7 揺動ピン
8 補助ローラ部組
10 アジャストナット
11 ロックナット
12 補助ローラ
13 ニードル(ニードルコロ)
14 補助ローラ軸
15 補助ローラホルダ
16 固定ナット
17 固定ナット
18 ネジ部
20 送りネジ装置
21、21a、21b、21c リニアアクチュエータ
22 モータ
23 リニアスライダ(外筒)
24 伸縮腕(内筒)
25 バケット
26 アーム
27 ブーム
28 上部旋回体
29 ショベル(リフト装置、建設機械)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋溝を形成したネジ軸と、前記螺旋溝に接触しながら公転可能な複数のローラと、該複数のローラを自転可能に支持するローラケージとを有し、前記ネジ軸と前記ローラケージとの相対的な回転運動と、前記ネジ軸と前記ローラケージの相対的な前記ネジ軸の軸方向の直動運動とを相互に変換する送りネジ装置において、
前記複数のローラを前記自転可能に支持する軸受と、
該軸受を支持し、前記ローラケージに支持されるホルダとを有し、
前記軸受の外輪の外周面の前記ネジ軸に近い側に突起を設け、前記ホルダが前記突起の前記ネジ軸に遠い側から当接することを特徴とする送りネジ装置。
【請求項2】
外周面に螺旋溝を形成したネジ軸と、前記螺旋溝に接触しながら公転可能な複数のローラと、該複数のローラを自転可能に支持するローラケージとを有し、前記ネジ軸と前記ローラケージとの相対的な回転運動と、前記ネジ軸と前記ローラケージの相対的な前記ネジ軸の軸方向の直動運動とを相互に変換する送りネジ装置において、
前記複数のローラを前記自転可能に支持し、外輪が前記ローラケージに支持される軸受を有し、
前記軸受には円錐台の形状の複数のころが用いられ、前記ころは前記外輪の内周面上に周方向に略隙間なく配置され、隣接する前記ころ同士が接触可能であることを特徴とする送りネジ装置。
【請求項3】
外周面に螺旋溝を形成したネジ軸と、前記螺旋溝に接触しながら公転可能な複数のローラと、該複数のローラを自転可能に支持するローラケージとを有し、前記ネジ軸と前記ローラケージとの相対的な回転運動と、前記ネジ軸と前記ローラケージの相対的な前記ネジ軸の軸方向の直動運動とを相互に変換する送りネジ装置において、
前記複数のローラを前記自転可能に支持する軸受と、
該軸受を支持し、前記ローラケージに支持されるホルダとを有し、
前記軸受の外輪を前記ホルダに螺着させるネジ部を設け、前記軸受と前記ローラを前記自転の軸方向に移動可能としたことを特徴とする送りネジ装置。
【請求項4】
前記軸受を支持し、揺動軸周りに揺動可能に前記ローラケージに支持されるホルダを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の送りネジ装置。
【請求項5】
外周面に螺旋溝を形成したネジ軸と、前記螺旋溝に接触しながら公転可能な複数のローラと、該複数のローラを自転可能に支持するローラケージとを有し、前記ネジ軸と前記ローラケージとの相対的な回転運動と、前記ネジ軸と前記ローラケージの相対的な前記ネジ軸の軸方向の直動運動とを相互に変換する送りネジ装置において、
前記複数のローラを前記自転可能に支持し、外輪が前記ローラケージに支持される軸受と、
前記軸受を支持し、揺動軸周りに揺動可能に前記ローラケージに支持されるホルダとを有することを特徴とする送りネジ装置。
【請求項6】
前記ローラは円錐台の側壁形状部を有し、前記ローラの円錐台の側壁形状部は前記ネジ軸のフランク面と線状の接触区間で接触することが可能であり、
ローラとネジ軸の接触部が前記線状の接触区間の一端側に偏位すると、前記接触部を介して前記ローラに作用する力によって前記揺動軸周りに前記ホルダを回動させる回転モーメントが発生し、前記接触区間の他端側において前記ローラを前記ネジ軸に近づける方向に前記ホルダを回動させることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の送りネジ装置。
【請求項7】
前記ローラは円錐台の側壁形状部を有し、前記ローラの円錐台の側壁形状部は前記ネジ軸のフランク面と線状の接触区間で接触することが可能であり、
前記揺動軸は、前記線状の接触区間内の一点を含み前記ネジ軸と中心軸を共有する架空円筒面上にあって前記ネジ軸と同一のリードを有し前記一点を通る代表螺旋と前記一点において直交する平面に対してほぼ直交し、
前記揺動軸と前記平面との交点は、前記平面内にあって前記一点を通り前記線状の接触区間とほぼ直交する線分上またはその近傍にあることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の送りネジ装置。
【請求項8】
前記ローラの中心軸は、前記線状の接触区間内の一点を含み前記ネジ軸と中心軸を共有する架空円筒面上にあって前記ネジ軸と同一のリードを有し前記一点を通る代表螺旋と前記一点において直交する平面とほぼ平行であり、
かつ、前記ローラの中心軸は、前記ネジ軸の径方向に対して前記接触区間側に傾斜しており、
前記ネジ軸の螺旋溝は中心軸に向かって溝幅の小さくなる台形状断面の螺旋溝であり、
前記螺旋溝のフランク面に接触して転動する前記ローラの転動面は、前記ローラの中心軸に沿って前記ネジ軸の中心軸に近づくにしたがって軸直角断面の外周径が減少する略円錐台側面形状であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の送りネジ装置。
【請求項9】
前記ネジ軸の螺旋溝が、台形状断面を有し、
前記螺旋溝において互いに対向している2つのフランク面の一方を転動する前記ローラの数が3個であることを特徴とする請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載の送りネジ装置。
【請求項10】
前記ローラが転動する前記フランク面と対向したもう一方のフランク面を転動する補助ローラを複数有し、該補助ローラの自転軸は前記ローラケージに固定されており、
さらに、前記ローラケージに固定された前記自転軸の固定位置を移動させることが可能な補助ローラ位置調整機能を有しており、前記補助ローラ位置調整機能によって前記ネジ軸と前記補助ローラとの間の前記ネジ軸の軸方向および半径方向のバックラッシの調整が可能であることを特徴とする請求項9に記載の送りネジ装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の送りネジ装置を備え、
前記ネジ軸と前記ローラケージとを相対的に回転させて、前記ネジ軸と前記ローラケージの間に相対的な前記ネジ軸の軸方向の直動運動を生成させることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項12】
請求項11に記載のリニアアクチュエータを備えることを特徴とするリフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−145231(P2012−145231A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−100709(P2012−100709)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【分割の表示】特願2010−13957(P2010−13957)の分割
【原出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】