説明

送信システムおよび送信アンテナ

【課題】地下街や地下鉄駅などのアンテナ設置施設内のデザインの統一性や美観を損なうことなく、末施設利用者に特別の注意や不快感を与えることなく、地上放送波等を送信できる送信システムおよび送信アンテナを提供する。
【解決手段】地上放送波が到来しない電波遮蔽空間である地下鉄等の駅構内や地下施設に設置されたエスカレータの手すりに内蔵されたメッシュ導体21を利用したエスカレータ型アンテナ20、地下鉄駅ホームの行先案内板やホーム番線の案内板を利用した天井アンテナ30、壁アンテナ40、ホームアンテナ50,60を送信アンテナとして地上放送を再送信する。それにより、特定の空間においてAM,FM放送電波、デジタルラジオ放送電波等を受信できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送信アンテナおよび送信システムに関し、たとえば、既存の設置施設内に設置するべき案内媒体や広告媒体等の内部にアンテナ素子を配設して放送電波等の送信を行うことが可能な送信システムおよび送信アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信技術の発達と、それに伴う無線機器の急速な普及により、ラジオやテレビ放送、携帯電話等を含む無線通信を全国的な規模で広範囲に行う必要が生じた。たとえば、従来電波が届かないことが前提であった地下街などでも通信可能にする必要がある。
【0003】
このためには、多数の無線局とアンテナの設置が不可欠となる。放送事業者や通信事業者は、都市部の地下鉄、地下街等の適当な個所に多数のアンテナの設置して、永続的な無線通信サービスの提供を行う必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、地下鉄の駅等においてホームの中央線上に並べて無線通信アンテナを設置して無線情報の交換を行う技術が開示されており、し、利用者の位置を示す注意喚起情報を利用者の無線携帯端末へ送信することで、利用者に注意を喚起している。
【0005】
また、特許文献2は、地下鉄駅構内のプラットホームに設置された監視カメラと電車内のモニタシステムとを無線で結び、電車の運転士が、電車が駅構内に進入する前にプラットホームや線路の状況を把握できる地下鉄プラットホームの線路監視無線システムを提供している。
【特許文献1】特開2003−032732号公報
【特許文献2】特開2004−196259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、放送事業や通信事業の展開には、今後もアンテナの設置数を増加する必要があるものの、近年の地下施設は美観を重要視するする方向にあり、アンテナそのものの美観に問題があるため設置場所の確保が困難になってきている。このことは、地下鉄の駅等、特に人口の密集する場所、地域において顕著かつ深刻な問題となっており、無線通信事業の展開に支障が生じる要因ともなっている。
【0007】
その一方で、新たなアンテナの設置は、環境との両立を図ったものでなければならず、同時に設置コストを考慮に入れる必要がある。このため、あまり複雑な構造のアンテナは実用上問題があった。
【0008】
さらに、地上施設にも同様に景観を損ねるような設備が敬遠されるようになってきており、ビルの屋上にアンテナが林立したようなものは敬遠されてきており、かえって企業イメージの低下などを引き起こす可能性もあった。このため、地上設備においても、アンテナの設置には十分な考慮が避けられなくなってきている。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたモノで、新たにアンテナの設置場所を必要としない送信システムおよび送信アンテナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、例えば以下の構成を備える。即ち、電波を空間に放射するための送信システムであって、設置施設内に設置するべき案内媒体や広告媒体等の内部にアンテナ素子を配設した送信アンテナと、前記送信アンテナの前記アンテナ素子から必要な電波を放射させるアンテナ駆動手段とを備え、前記案内媒体や広告媒体等の設置場所近傍の空間に電波を放射可能とすることを特徴とする。
【0011】
そして例えば、前記設置施設内に設置すべき案内媒体には、少なくとも地下鉄駅の駅内設備である利用案内表示システムが含まれることを特徴とする。あるいは、前記広告媒体には、地下街の壁面広告板またはアドバルーンの広告表示部が含まれることを特徴とする。
【0012】
また例えば、前記送信アンテナの指向性を可変する指向性変更手段を備えることを特徴とする。
【0013】
さらに例えば、電波を空間に放射する送信システムであって、施設に設けられているエスカレータの手すり部分に導電材料を内包させて形成した導電部と、前記導電部に電波信号を供給する供給手段とを備え、前記エスカレータの手すり部分を送信アンテナとして使用することを特徴とする。
【0014】
また例えば、前記空間に放射される電波信号は所定方式で変調された放送波帯域のアナログ電波信号、あるいはデジタルラジオ放送用のVHF帯域の電波信号であることを特徴とする。
【0015】
または、アンテナ素子から電波を空間に放射可能な送信アンテナであって、
前記アンテナ素子を電波透過性の材料からなる平面状媒体で覆うことで、前記アンテナ素子が外部から視認できないようにしたことを特徴とする送信アンテナとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既設の施設の美観を損ねることなく、かつ容易に新たなアンテナを設置することができる。
【0017】
そして例えば、案内媒体や広告媒体等にアンテナ素子を内蔵してなる送信アンテナとすることで、地下施設の美観を損ねることなく、あらたなアンテナを設置でき、地上放送波等を地下街や地下鉄ホーム内で低コストで視聴覚することが可能となり、地下鉄の駅等の従来の電波遮蔽空間においても、所定電力の放送電波を放射することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
<第1の実施の形態例>
【0019】
図1は、本発明にかかる第1の実施の形態例の無線送信用空中線としての送信アンテナの設置例を示している。ここでは、AM,FMラジオ放送、デジタルラジオ放送、マルチメディア放送等の地上放送波が到来しない、いわゆる電波遮蔽空間である地下鉄等の駅構内に送信アンテナを設置して地上放送を再送信する場合の送信システム(再送信システム)の構成を例にとり説明する。
【0020】
しかし、本発明は以上の例に限定されるものではなく、地下街であっても、ビルの地下施設であっても全く同様である。さらに、電波が届き難いビル内施設であってもよいことは勿論である。
【0021】
図1に示す送信システムにおいて、放送アンテナ1は、種々の番組を編集して放送するFM放送局、AM放送局、デジタルラジオ放送局あるいはそれらの中継局の放送電波を送信するための地上送信アンテナである。この放送アンテナ1より空間に放射された放送電波9は、例えば高層ビルの屋上等の所定位置に設置された地上アンテナ2で受信される。そして、地上アンテナ2で受信された電波は、例えば同軸ケーブル等の所定の伝送ケーブル2aを介して、ビル内に設けた再送信装置3に入力される。
【0022】
再送信装置3は、地下鉄の駅等に配設したアンテナシステムから上記の各放送波等を再送信するための装置である。地上アンテナ2で受信された電波は、例えば、531kHz〜1620kHzのAM放送信号、76MHz〜90MHzのFM放送信号、90〜222MHzのVHF帯放送信号が合成された放送波信号として、伝送ケーブル2aを介して再送信装置3内の共用器4に入力される。
【0023】
そして、共用器4でそれぞれの放送帯域ごとの放送電波信号に分配される。このため、共用器4の出力側には、分配されたそれぞれの放送電波信号に対応したAM中継ユニット6、FM中継ユニット7、デジタル中継ユニット8が接続されている。なお、デジタル中継ユニット8はデジタルラジオ放送及びマルチメディア放送などに対応している。しかし、デジタルラジオ放送用の中継ユニットとマルチメディア放送用の中継ユニットを別々に備える構成であってもよく、その方がより高性能のものと出来る。
【0024】
AM中継ユニット6やFM中継ユニット7内には、例えば、入力された不要な信号成分を除去するための帯域フィルタ、及び帯域フィルタを通過した放送波信号を増幅する高周波増幅器等が内蔵されている。また、地上アンテナ2で受信した放送波の受信状況は、常時、受信監視部5で監視されている。
【0025】
このように、各中継ユニットで信号増幅等された放送波信号は、共用器13で合成、電力増幅等された後、地上放送波の受信信号として、後述する本実施の形態例等のアンテナへ送られる。
【0026】
再送信装置3からの出力は、例えば地下鉄駅構内の天井裏等に設置された分波器15を介して分岐器10a〜10cに供給される。各分岐器10a〜10c、分波器15は、例えば信号伝送用の同軸ケーブル等の伝送線12a〜12cにより相互に接続されている。
【0027】
分波器15では、共用器13で合成された電波信号のうち、例えばAM放送信号またはFM放送信号波形だけが分派されて取り出され、分岐器17を介して、詳細構成を後述する中波用空中線であるエスカレータ型アンテナ20や駅ホーム上の案内板に内蔵されたホームアンテナ50,60へ送られる。
【0028】
分岐器10a〜10cの各々には、後述するように地下鉄駅の天井案内板に内蔵された天井アンテナ30、駅ホーム上の案内板に内蔵されたホームアンテナ50,60、駅の壁面に設けられた駅名表示板に内蔵された壁アンテナ40が接続されている。
【0029】
なお、図1では、各種のアンテナがすべて駅構内に配設されている例を説明したが、本実施の形態例は以上の例に限定されるものではなく、これらのいずれかのアンテナのみが配設されているものであってもよく、あるいはこれらのアンテナのうちの任意のアンテナの組み合わせが配設されたものであってもよい。
【0030】
そして、これらのアンテナ20,30,40,50,60から放射された、例えば数ミリワットの出力を有するAM放送波、FM放送波等は、地下鉄の駅等において利用客が有するラジオやFM受信機能付き携帯電話機等の受信機で受信される。その結果、利用客は所望のAM,FM放送、デジタル放送を聴取可能となる。
【0031】
その際も 既存の駅設備の美観を損なうようなことはなく、駅利用者に特別の不快感や違和感を与えることなくアンテナシステムを設置することができる。
【0032】
また、図1では、送信装置3、分岐器10a〜10cと伝送線12a〜12cを地上設備であるかのように記載したが、地上アンテナ2以下のものは必ずしも地上設備である必要はなく、駅または地下施設の利用者の目に直接触れることがない箇所に設置するものであれればよく、例えば地下施設の所定の部屋に送信装置3を設置し、また、分岐器10a〜10cと伝送線12a〜12cを天井の裏側や、床の下部に配設されたものであってもよい。
【0033】
{第1の実施例}
図2は、図1に示す再送信システムを構成するアンテナのうち、AM放送波の再送信用空中線として機能するエスカレータ型アンテナの具体的な構成例を説明するための図である。
【0034】
図2に示す本実施の形態例のエスカレータ型アンテナ20は、通常、地下鉄の駅等に設置された既存のエスカレータの手すり部分を利用したもので、手すり部分の例えば中心部近傍にメッシュ導体、例えば、メッシュ導体を内蔵させてループ状導体路を形成してアンテナ素子としたもので、エスカレーターの手すり部分を送信アンテナとして利用するものである。
【0035】
そして例えば、エスカレータの所定箇所に手すり部分(ハンドレール、あるいは回転ベルト部分ともいう)の導体内蔵位置に近接させて信号供給部25を配設し、手すり部分に内蔵されたメッシュ導体21と非接触の状態で、誘導性の結合状態を形成させ、この部分を介して信号供給部25からメッシュ導体21へAM放送信号を供給する。
【0036】
すなわち、上述した分波器15等から送出されたAM放送波信号は、AM放送信号送信部28において、エスカレータ型アンテナ20からの電波出力が所定の値(例えば、数ミリワット)となるように不図示の増幅器で電力増幅された後、エスカレータ型アンテナ20とのインピーダンス整合を行うためのカップラ27、結合コンデンサCを介して信号供給部25へ送られる。
【0037】
カップラ27には、インピーダンス整合用の可変コイルL1と可変コンデンサC1,C2が組み込まれている。カップラ27そのものは、アンテナ・カップラーまたはアンテナ・チューナーとも呼ばれ、そこでインピーダンス整合された所定の信号がエスカレータ型アンテナ20に入力されることで、アンテナ20の信号入力端における信号の反射によるリターンロスや、アンテナ20における定在波等の発生を防止している。
【0038】
エスカレータの手すり部分に内蔵されたメッシュ導体21を送信アンテナとして利用する場合、そのメッシュ導体21の有する特性インピーダンスは、エスカレータの設置規模等により変動するため、それに合わせたインピーダンス・マッチングを行う必要がある。
【0039】
通常、コイルとコンデサーを組み合わせた集中定数によるマッチング回路、分布定数によるマッチング回路、あるいは集中定数と分布定数の組み合わせたマッチング回路を用いればよい。
【0040】
ここでは、図2に示すように、集中定数によるマッチング回路の形式としてT型回路を採用しているが、これに限定されるものではなく、回路形式はL型回路でもπ型回路でもよい。
【0041】
なお、インピーダンス・マッチングは、上記のマッチング回路以外にも、例えば、高周波特性に優れた伝送線路トランスでインピーダンス整合を行い、フィルタ回路で受信信号から高調波を除去する構成としてもよい。
【0042】
このように、地下鉄の駅等の地下施設に設置されたエスカレータの手すり部分にメッシュ導体を内蔵させ、AM放送波の再送信用アンテナとして利用することで、従来はアンテナを設置するための場所が確保できず、地上放送波の到来しない地下鉄の駅構内等の電波遮蔽空間においても、利用客は周囲の状況に違和感なく所望のAM放送を聴取できる。
【0043】
また、災害等が発生してエスカレータへの電力供給が途絶えたとしても、メッシュ導体そのものはアンテナとして作用させることができるため、小電力で動作する、放送信号の送信に関る機器等に対して、例えば無停電電源装置等から電力を供給することにより、緊急事態等が生じても利用者はAM放送を受信し続けることが可能となり、事態に対処するために必要な情報を確実に受信することが可能となる。
【0044】
{第2の実施例}
図3は、図1に示すシステムを構成するアンテナのうち、地下鉄等の駅の天井部分に設置される天井アンテナ30の具体的構成例を説明するための図である。図3に示すように、表示板(案内板)31は、地下鉄の駅等の地下施設の天井部分28から、または梁の部分から吊り下げられて設置、または側壁に固定された状態で設置されているものである。
【0045】
本実施の形態例では、このような、電車等の行先案内やホーム番線の案内用表示板などの内部に、アンテナ素子33を内蔵させ、埋め込んでいる。アンテナ素子33へは、例えば同軸ケーブル等からなる給電線38(図1の例えば分岐器10cよりの同軸ケーブルなどで構成)より、地上から送られた例えばFM放送波の放送信号が供給され、表示板部分をアンテナとして動作させている。
【0046】
アンテナ素子33によって、例えば、複共振ダイポールアンテナ等の無指向性のアンテナを構成し、所定出力の電波を放射させることで、例えば地下鉄のホーム等の地下施設において広範囲にFMラジオ放送等の地上放送電波をそのまま地下施設内に再送信可能となる。
【0047】
すなわち、従来の地下鉄駅等の地下施設の電波不感地域(電磁遮蔽空間)における地上放送電波等の再送信を可能とすることにより、地下鉄等の利用者は、その者が所有する携帯ラジオ、FM受信機能付き携帯電話機、あるいは据置型のラジオでFM放送波を受信できる。
【0048】
また、既存の表示板31にアンテナ33を内蔵する構成としているため、利用客の安全性の確保や地下鉄駅等の美観を損なうことがない、設置によるデメリットのほとんどないアンテナシステムが提供できる。
【0049】
{第3の実施例}
図4に示す例は、図1に示すシステムを構成するアンテナのうち、地下鉄等の駅名板や案内板や地下街の広告板等、地下鉄駅等の地下施設の壁部分、あるいは立設された案内板設備内に設置されるアンテナの構成を示している。
【0050】
図4の例は、地下施設の側壁に配設された案内板(広告パネル出会っても同様である。)内にアンテナ素子を設けた場合の例である。例えば、このアンテナは、地下鉄の駅等の地下施設の主として線路側の壁部分に設置することが望ましい。これは、広範囲に電波が拡散しやすいことと、人体への影響も最小限に防げるからである。
【0051】
図4に示す例は、地下鉄の駅名表示板41内にアンテナ43,45を配してなる壁アンテナ40の例である。駅名表示板41裏側内にアンテナ素子43,45を内蔵させ、例えば同軸ケーブル等からなる給電線48より分配器46を介して、地上波を受信して得られたFM放送波信号が供給される。
【0052】
既存の駅名表示板41には、通常、照明用として複数本の蛍光管が配されているため、新たにアンテナを内蔵させるための空間、特にホーム側へ延びる方向へのスペースを確保することが困難な場合も想定される。
【0053】
そこで、本実施の形態例では、アンテナ素子43,45として、例えばフィルム状八木型アンテナを使用し、アンテナ素子43,45らを駅名表示板41の前面パネルの裏側等に貼り付ける。
【0054】
貼り付けの際、アンテナ素子43,45の指向特性を水平方向に維持するとともに、同一の駅に配置された他の複数の駅名表示板にも同様にアンテナ素子43,45を配することで、駅ホームに沿った広範囲な領域に放送波を放射できる。
【0055】
この場合にも、地下施設の美観を変えることなく、既存の設備を最大限利用することができ、構造が簡単で、より廉価、かつ効率よくアンテナ設置が行える。
【0056】
このように駅名表示板41内にアンテナ素子43,45を配した結果、地下鉄の駅ホームが電波不感地域(電磁遮蔽空間)となるのを解消して、地上放送電波等を再送信できる。同時に、フィルム状のアンテナ43,45を使用することで、スペースの確保が難しい既存の駅名表示板41にも簡単にアンテナを設置(内蔵)できるため、地下鉄駅等の美観を保つことも可能となる。
【0057】
{第4の実施例}
図5および図6は、図1に示すシステムを構成するアンテナのうち、地下鉄等の駅のホーム上、あるいは地下施設の通路部分などに設置される案内板等にアンテナを内蔵させた例を説明するための図であり、第4の実施例のアンテナの構成例を示している。
【0058】
図5は、AM放送波の送信用アンテナの例であり、図6は、FM放送波の送信用アンテナの設置例である。放送波、特にAM放送波(中波)の送信用アンテナを設置するには、ある程度の面積を有する平面部分(スクリーン状の部分)が必要となり、現状の地下鉄の駅等において、そのような場所として好適なのが、例えば駅ホーム上に設置された地下鉄路線や出口等の案内板や時刻表等である。
【0059】
図5に示すホームアンテナ50は、案内板51内に2つのループコイル型のアンテナ素子53,55を並設してなるAM放送用アンテナである。アンテナ素子53,55は、送信するAM放送波に対応させるため、例えば、1MHzを中心に低チャンネル用のアンテナ素子53と、高チャンネル用のアンテナ素子55に2分割して案内板51内に埋め込まれている。
【0060】
また、アンテナ素子53,55へは、例えば同軸ケーブル等からなる給電線58より分配給電ボックス56を介して、地上から送られたAM放送波の放送信号が供給される。
【0061】
このようにホームアンテナとして、内蔵するアンテナを低チャンネル用と高チャンネル用に2分割し、分割した放送信号をそれぞれ対応するアンテナ素子53,55に供給するように構成されており、案内板51内に並置して収容する構成とすることで、アンテナ収容のための面積や容積を抑制できる。その結果、既存の地下鉄路線や出口等の案内板51を有効に活用して、駅ホーム等の地下施設の美観を損ねることなく、また、十分なスペースを確保して広範囲な領域にAM放送波を放射できる。
【0062】
一方、図6に示すホームアンテナでは、FM放送波の送信に対応させるため、案内板51内に2つの八木アンテナ素子63,65を配している。これらのアンテナ素子63,65へは、例えば同軸ケーブル等からなる給電線68より分配器66を介して、地上から送られたFM放送波の放送信号が供給される。ここでは、アンテナ63,65の指向特性を駅ホームと水平な方向に維持し、ホーム上の他の複数の案内板にも同様に八木アンテナを配することで、駅ホームにおいて直線状の広範囲な領域にFM放送波を放射できる。
【0063】
このように、地下鉄駅ホームの案内板51内にアンテナ63,65を配することでFM放送電波を再送信でき、駅の利用者は、所有する携帯ラジオ等でその電波を受信できるため、地下鉄の駅ホームが電波不感地域(電磁遮蔽空間)となるのが解消される。また、既存の案内板51を使用しているため、低コストでアンテナを設置(内蔵)でき、同時に地下鉄駅等の美観を保つことも可能となる。
【0064】
上述したように本実施の形態例によれば、地下鉄駅等の地下施設に設置されるべき案内板、広告板等の設備を利用してアンテナを設置することができ。放送波等の再送信のためのアンテナ設備に要する費用を、新規に設置する場合に比べて大幅に低減できる。
【0065】
また、地下街や地下鉄駅構内に既に設けられている案内板、駅名板等を利用した送信システムであるため、いわゆる電波不感地域(電磁遮蔽空間)において地上放送の提供や災害時の緊急放送にも応用でき、無線通信サービスの拡大や高品質化が可能となる。
【0066】
同時に、同一構内の複数箇所にアンテナを設置することにより、安定した地上放送の再送信サービスを提供できるため、利用者は、地下鉄駅や地下商店街等の従来は放送電波が届かなかった場所においても、AM,FM放送、デジタルラジオ放送を携帯ラジオ等で受信することができる。
【0067】
なお、上述した実施の形態例に係るアンテナの設置方法は、駅構内や駅ホームのみならず、一般のビル(オフィスビル)や公共の建造物等に設けられた非常用出口を示す案内灯の内部に無線LAN用のアンテナを配して、複数のパーソナルコンピュータ同士の相互通信等を行う際にも適用できる。
【0068】
<第2の実施の形態例>
以上の説明は、地下施設に設置するのに適した送信アンテナシステム及び送信アンテナについて行った。しかし、本発明は以上の例に限定されるものではなく、例えば地上設備においても、アンテナの存在を意識させることなく既存の景観と違和感なくアンテナ設置を行った本発明にかかる第2の実施の形態例を図7及び図8を参照して以下に説明する。
【0069】
図7および図8は、本発明にかかる第2の実施の形態例のアンテナ構成を説明するための図である。図7及び図8においては、無線用空中線として、広告媒体としても使用されるアドバルーンの一部に送信アンテナ素子を配置している。
【0070】
第2の実施の形態例のアンテナの詳細構成を説明する。第2の実施の形態例のアンテナは、垂直方向への折返しダイポールアンテナを多段化した構造としている。
【0071】
図7に示すアンテナは、アドバルーンの広告表示部分に複数段の略水平方向折返しダイポールアンテナを配した、水平偏波の電波送信用アンテナの詳細構成を示している。
【0072】
一方、図8に示すアンテナは、アドバルーンの広告表示部分に複数段の略垂直方向折返しダイポールアンテナを配した、垂直偏波の電波送信用アンテナの詳細構成を示している。
【0073】
図7に示すアンテナは、アドバルーン70の広告表示部71に4段構成の折返しダイポールアンテナ72a,72b,72c,72dを水平方向に配することで、スタック型多段コリニア空中線を構成している。
これらの折返しダイポールアンテナは、各々が垂直方向に所定間隔を保ちながら、それぞれのアンテナの主放射(メインローブ)が平行に並ぶよう配置して、水平偏波の電波送信に適するように配されている。
【0074】
ここでは、例えば、FMラジオ放送等の地上放送波信号が、放送信号送信部76より給電線75を介して広告表示部71の下部に配した分配器73に供給される。
そして、分配器73からは、4つの折返しダイポールアンテナ72a,72b,72c,72dそれぞれに対して、所定レベルの放送波信号の給電が行われる。
【0075】
一方、図8に示すアンテナは、分配給電ボックス87を介して2つの折返しダイポールアンテナ82a,82bを接続するとともに、分配給電ボックス88に2つの折返しダイポールアンテナ82c,82dを接続して、これらをアドバルーン80の広告表示部81に配した構成をとる。
【0076】
これらの折返しダイポールアンテナ82a,82b,82c,82dは、各々のアンテナが所定間隔を維持しながら、各アンテナ素子の長軸が同一となるように垂直方向に配した構成をとる。
【0077】
上述したように、それぞれのアンテナの主放射(メインローブ)が平行に並ぶよう配置することで、スタック型多段(2並列スタック)コリニア空中線を構成している。このようなアンテナ素子の配置とすることで、垂直偏波の電波送信に適したアンテナとすることができる。
【0078】
なお、図7に示すアンテナと同様、図8のアンテナにおいても広告表示部81の下部に分配器83が配され、給電線85を介して、例えばFMラジオ放送等の地上放送波信号が放送信号送信部86より分配器83に供給される。
【0079】
そして、分配器83から分配給電ボックス87,88へ所定レベルの同相の放送波信号が給電される。また、図7および図8に示すアンテナにおいて、例えば同軸ケーブル等からなる給電線75,85の一部をアドバルーン70,80そのものの支持線として機能させてもよい。
【0080】
また、図7および図8に示すアンテナにおいて、各アンテナ素子の長手方向の全長Lが地上放送波の波長λの1/2となるように設置しており、入力インピーダンスは、約300Ωに制御することとしている。そのため、通常の同軸ケーブルで給電する場合には、分配器73,83にインピーダンス変換器(平衡不平衡変換器)等を設けることが望ましい。
【0081】
さらには、図7および図8に示すアンテナがアドバルーンに組み込んだアンテナであることから、実際の設置現場では風等の影響を受けて、アンテナの指向性が変わることも予想される。そこで、アドバルーンに方位磁針やGPS等を搭載して、空中線の指向特性が変化せずに一定となるようアドバルーン自体の方向を制御するようにしてもよい。
【0082】
このように、アドバルーンの広告表示部分に折返しダイポールアンテナを多段化して配置し、それらをスタック構造として複数のアンテナを同時に励振することで、水平偏波や垂直偏波の電波送信用アンテナを容易に構成できる。
【0083】
その結果、例えば、地震や台風等の自然災害時において、ビルの倒壊等により通常の放送用アンテナ設備が使用できない時にも、災害現場において簡易かつ安価なアンテナの組立てができる。しかも、設置場所を選ばない利点があることから、非常時における通信の確保、情報伝達を円滑に行うことが可能となる。
【0084】
このように第2の実施の形態例のアンテナシステムによれば、設置場所の制約が少なく、しかも簡易かつ安価なアンテナの組立て・設置が可能であり、特に緊急災害時など、直ちに放送(通信)環境を整備する必要がある場合などに有用性が優れている。
【0085】
このような災害時には、広告表示部に、緊急時の連絡事項や緊急避難場所の表示を行うことで、より優れた作用効果を奏することができる。例えば、アドバルーンのあがっている場所が、避難場所や各種配布品の配布場所であることを表示するなどすることで、より周辺住民などにとって有益なものとできる。
【0086】
<第3の実施の形態例>
通常、ビルの屋上等はその見通しの良さから通信用アンテナの好適な設置場所として選定されるが、近年における電磁環境、電波環境等に対する国民意識の向上から複数のアンテナを集中的に設置することに対して、不安感を抱く周辺住民も増えてきている。これは、それらのアンテナが国の設置基準(電波防護指針)に合致していても当然に起こりうる感情と考えられる。本発明にかかる第3の実施の形態例では、このような状況に対処すべく新たなアンテナ設置方法を提案する。
【0087】
図9は、本発明にかかる第3の実施の形態例の無線用空中線としてのアンテナの設置方法の一例を説明するための図である。図9(a)は、種々のアンテナ群を地上建造物に設置した状況の例であり、ビル90の屋上には複数本のアンテナからなる通信アンテナ群91が設置されている。
【0088】
図9(b)に93で示すのは、第3の実施の形態例のアンテナ群を覆うための、広告塔を兼ねる被覆パネルである。
被覆パネル93は、長方形パネルの互いの両側面を係止して前後左右に組合わせたもので、上下方向に貫通状態であるととともに、一辺が通信アンテナ群91を覆う程度の幅及び長さを有する。
【0089】
パネル材料としては、電波透過性の材料(例えば低誘電率材料等)とすることが望ましい。そして、この被覆パネル93を、図9(c)に示すように通信アンテナ群91全体を囲うように設置することで、アンテナ群を周囲から視認できないようにすることができ、アンテナ群91の存在が外観からは容易に判断できなくなる。
【0090】
アンテナ群91を囲うための被覆パネル93は、低誘電率材料であれば特別の制限はなく、例えば、電波が透過するアラミド繊維強化プラスチック等の誘電体材料、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、有機高分子、例えば発泡ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル、塩化ビニール、フッ素樹脂等で構成することができる。
【0091】
上記した材料に、適宜周辺の景観や広告効果などを勘案した着色や描画を施せばよい。また、電波の透過効率を向上させるため、例えば、被覆パネル93により囲まれた内部を視認できない程度の多数の小孔を被覆パネル93に設けてもよい。
【0092】
このようにすることで、アンテナ本来の電波放射機能や受信機能を損なうことなく、しかも被覆パネル93の側面を図9(c)に示すように広告媒体としても有効利用できるため、アンテナと広告の共存と美観の向上を図ることができる。のみならず、アンテナからの電波放射に対する周辺住民の誤解の解消や安心感の醸成に資することもできる。
【0093】
<第4の実施の形態例>
図10は、本発明にかかる第4の実施の形態例のアンテナの設置例を説明するための図であり、主に、客の輸送業務等に使用されるタクシーやバス等の車輌におけるアンテナの設置例を示している。
【0094】
第4の実施の形態例においては、図10(a)に示すように、タクシー等の自動車車輌100の車体の屋根部(天井部)に設置される識別灯(行灯)や案内板の中にアンテナを内蔵させるものである。
【0095】
例えば、自動車の屋根部分に無線用のローディングコイルアンテナ103を設置し、そのままでは美観上問題があり、アンテナが突起状であることから安全性の面からも、信頼性の面からも問題がある。
【0096】
そこで、第4の実施の形態例ではローディングコイルアンテナ103に被せることのできる大きさの、電波透過型のカバーである行灯105を用意し、その行灯105を、ローディングコイルアンテナ103全体を覆うように係止する。
【0097】
これにより、アンテナ素子103を図10(b)に示すように行灯内に収容して外から視認できないようにする。電波透過型のカバーでアンテナ素子を覆うことにより、アンテナ特性の維持とともに、美観の向上や高速走行等における安全性の向上が図られ、さらには、他の物との接触によるアンテナの破損、人に刺さったりするような人身事故も未然に防ぐことができる。
【0098】
以上に説明したように上記各実施の形態例によれば、既存の施設の景観や設計コンセプトに応じたデザインのアンテナシステムを設置することができ、しかも、設置場所に関しても施設利用者などがアンテナの設置場所に注目をさせることがないため、自由度が高いものとできる。特に大きな設置場所を必要とする中波放送のためのアンテナであっても、効率よく廉価に設置できる。
【0099】
また例えば、アドバルーンを利用してアンテナシステムを構築することにより、災害時の緊急放送などに利用するのに適したアンテナシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明にかかる第1の実施の形態例の送信システムにおける送信アンテナの設置例を説明するための図である。
【図2】第1の実施の形態例の送信システムの第1の実施例であるエスカレータ型アンテナの構成を示す図である。
【0101】
【図3】第1の実施の形態例の送信システムの第2の実施例の天井アンテナの構成を示す図である。
【0102】
【図4】第1の実施の形態例の送信システムの第3の実施例の壁アンテナの構成を示す図である。
【0103】
【図5】第1の実施の形態例の送信システムの第4の実施例のホームアンテナをAM放送波の送信アンテナに適用した場合の構成例を示す図である。
【図6】第1の実施の形態例の送信システムの第4の実施例のホームアンテナをFM放送波の送信アンテナに適用した場合の構成例を示す図である。
【0104】
【図7】本発明にかかる第2の実施の形態例のアドバルーンを利用した送信アンテナの第1の設置例を説明するための図である。
【0105】
【図8】本発明にかかる第2の実施の形態例のアドバルーンを利用した送信アンテナの第2の設置例を説明するための図である。
【図9】本発明にかかる第3の実施の形態例のアンテナの設置例を説明するための図である。
【0106】
【図10】本発明にかかる第4の実施の形態例のアンテナの設置例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0107】
1 放送アンテナ
2 地上アンテナ
2a 伝送ケーブル
3 再送信装置
4 共用器
5 受信監視部
6 AM中継ユニット
7 FM中継ユニット
8 デジタル中継ユニット
10a〜10c 分岐器
15 分波器
20 エスカレータ型アンテナ
21 メッシュ導体
25 信号供給部
27 カップラ
30 天井アンテナ
40 壁アンテナ
41 駅名表示板
50,60 ホームアンテナ
51 案内板
56 分配給電ボックス
70,80 アドバルーン
83 分配器
87,88 分配給電ボックス
91 通信アンテナ群
93 被覆パネル
100 車輌
103 ローディングコイルアンテナ
105 行灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を空間に放射するための送信システムであって、
設置施設内に設置するべき案内媒体や広告媒体等の内部にアンテナ素子を配設した送信アンテナと、
前記送信アンテナの前記アンテナ素子から必要な電波を放射させるアンテナ駆動手段とを備え、前記案内媒体や広告媒体等の設置場所近傍の空間に電波を放射可能とすることを特徴とする送信システム。
【請求項2】
前記設置施設内に設置すべき案内媒体には、少なくとも地下鉄駅の駅内設備である利用案内表示システムが含まれることを特徴とする請求項1に記載の送信システム。
【請求項3】
前記広告媒体には、地下街の壁面広告板またはアドバルーンの広告表示部が含まれることを特徴とする請求項1に記載の送信システム。
【請求項4】
前記送信アンテナの指向性を可変する指向性変更手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の送信システム。
【請求項5】
電波を空間に放射する送信システムであって、
施設に設けられているエスカレータの手すり部分に導電材料を内包させて形成した導電部と、
前記導電部に電波信号を供給する供給手段とを備え、
前記エスカレータの手すり部分を送信アンテナとして使用することを特徴とする送信システム。
【請求項6】
前記空間に放射される電波信号は所定方式で変調された放送波帯域のアナログ電波信号、あるいはデジタルラジオ放送用のVHF帯域の電波信号であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の送信システム。
【請求項7】
アンテナ素子から電波を空間に放射可能な送信アンテナであって、
前記アンテナ素子を電波透過性の材料からなる平面状媒体で覆うことで、前記アンテナ素子が外部から視認できないようにしたことを特徴とする送信アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−4988(P2009−4988A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162688(P2007−162688)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(595063503)株式会社エフエム東京 (7)
【Fターム(参考)】