説明

送受共用器を不要とするアンテナおよび移動通信端末

【課題】送受共用器を不用とするアンテナを提供する。
【解決手段】本発明によるアンテナ120は、送信系のアンテナ素子120aと、受信系のアンテナ素子120bとを備える。アンテナ素子120aは、ベースバンドプロセッサ102、電力増幅器104および方向性結合器106からなる送信系の伝送路インピーダンスと整合され、アンテナ素子120bは、低雑音増幅器110、帯域通過フィルタ108およびベースバンドプロセッサ102からなる受信系の伝送路インピーダンスと整合される。送信系と受信系の伝送路インピーダンスを異ならせ、それぞれの伝送路インピーダンスと整合するアンテナ素子により、送受共用器がなくても、送信信号および受信信号の分離が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナに関し、特に、移動通信用端末に用いられる送受共用器を不要とするアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの移動通信端末では、小型化および多機能化の要請により、アンテナ素子やRF回路などの小型化、省スペース化が求められている。そのため、小型チップアンテナ、RF回路のモジュール化の技術が検討されている。
【0003】
送受共用器は、アンテナを送信と受信において共用するためのRF回路であり、これにより、1つのアンテナ素子を送信および受信の両方に適用することができ、アンテナスペースの削減が可能となる(例えば、特許文献1)。また、送受共用器は、送信信号の受信回路への漏洩による干渉を低減している。
【0004】
【特許文献1】特開2001−189604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、送受共用器を用いる場合、以下のような問題があった。すなわち、移動通信端末の多機能化のために、通信機能だけでなく、カメラやデータ保存用メモリ、近距離通信用の回路などを限られた基板上のスペースに搭載しなければならない。また、移動通信端末の高機能化として複数の周波数帯域に対応するためには、複数の送受共用器が必要となる。
【0006】
したがって、送受共用器を不用とすることができれば、移動通信端末の小型化だけでなく、多機能化および高機能化に望ましい。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、送受共用器を不用とするアンテナおよび通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、送信系の伝送路インピーダンスと受信系の伝送路インピーダンスが異なる通信装置に使用するアンテナであって、前記送信系の伝送路インピーダンスに整合する第1のアンテナ素子と、前記第1のアンテナ素子と接続され、前記受信系の伝送路インピーダンスに整合する第2のアンテナ素子とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、第1の伝送路インピーダンスと第2の伝送路インピーダンスが異なる移動通信端末であって、前記第1の伝送路インピーダンスに整合する第1のアンテナ素子と、前記第1のアンテナ素子と接続され、前記第2の伝送路インピーダンスに整合する第2のアンテナ素子とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の移動通信端末であって、前記第1の伝送路は、送信系の伝送路であり、前記第2の伝送路は、受信系の伝送路であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の移動通信端末であって、前記第1のアンテナ素子は、第1の帯域に同調され、前記第2のアンテナ素子は、第2の帯域に同調されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、送受共用器を不用とすることができる。そのため、移動通信端末の小型化が可能になる。また、送受共用器の削減により、他の機能を基板上に搭載することができるので、移動通信端末の多機能化が可能となる。さらに、複数の周波数帯域に対応する場合には、複数の送受共用器が不要となり、移動通信端末の小型化および多機能化の要請を満たしつつ、高機能化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明によるアンテナを備えた移動通信端末の実装例を示している。移動通信端末10は、RF回路などが搭載された基板100を含み、本発明によるアンテナ120は、その一端が基板100のRF回路に接続されている。
【0015】
移動通信端末10は、通常、その表面にディスプレイや操作キーを備え、上部にスピーカ、下部にマイクを備えている。図では、移動通信端末10の上部にアンテナ120が搭載されているが、これは一例にすぎない。アンテナ120は、信号の送受信性能、端末のデザインや使用状態などに応じて、適した場所に適した形のものを配置することができる。例えば、移動通信端末が折り畳み式の構造である場合、アンテナ120をヒンジ部分に配置してもよい。また、端末がスライド式の構造である場合、アンテナ120を筐体の下部に配置してもよい。
【0016】
図2は、本発明によるアンテナと移動通信端末の送受信回路を示すブロック図である。アンテナ120は、2つのアンテナ素子120aおよび120bを備えている。移動通信端末の送受信回路は、その受信系の伝送路において、アンテナを介して受信した信号を増幅する低雑音増幅器(LNA)110と、不要な信号を除去する帯域通過フィルタ(BPF)108とを備えている。
【0017】
BPF108からの受信信号は、ベースバンドプロセッサ(BB)102で復調および復号され、音声やデータなどとして処理される。また、ベースバンドプロセッサ102は、音声やデータなどを符号化および変調し、送信信号を生成する。
【0018】
一方、移動通信端末の送受信回路は、その送信系の伝送路において、ベースバンドプロセッサからの送信信号を増幅する電力増幅器(PA)104と、送信信号をアンテナに向けて透過し、アンテナからの信号を抑圧する方向性結合器(ISO)106とを備えている。方向性結合器106は、アンテナとのインピーダンス不整合による反射が電力増幅器を飽和させるのを防止するために使用される。方向性結合器106を透過した送信信号は、アンテナ120を介して空中に放射される。
【0019】
本実施形態において、アンテナ120の2つのアンテナ素子120aおよび120bは、それぞれ異なる伝送路インピーダンスを有しており、図2のP点およびQ点を介して、送受共用器を必要とすることなく、移動通信端末の送受信回路に接続されている。より具体的には、アンテナ素子120aは、送信系の伝送路インピーダンスと整合され、アンテナ素子120bは、受信系の伝送路インピーダンスと整合されている。
【0020】
今、BB102、PA104およびISO106からなる送信系の伝送路インピーダンスをAとし、LNA110、BPF105およびBB102からなる受信系の伝送路インピーダンスをBとする。アンテナ素子120aは、送信系の伝送路インピーダンスAと整合し、点PおよびQを介して、送受信回路と接続され、アンテナ素子120bは、受信系の伝送路インピーダンスBと整合し、同じく点PおよびQを介して、送受信回路と接続される。
【0021】
この場合、BB102で生成され、PA104およびISO106を通過した送信信号は、同じ伝送路インピーダンスAを有する送信系のアンテナ素子120aに流れ、空中に放射される。一方、この送信信号は、異なる伝送路インピーダンスBを有する受信系の伝送路には流れず、点Qで反射される。同様に、この送信信号は、異なる伝送路インピーダンスBを有する受信系のアンテナ素子120bには流れず、点Pで反射される。
【0022】
受信系のアンテナ素子120bを介して受信した受信信号は、同じ伝送路インピーダンスBを有する受信系の伝送路に流れ、LNA110で増幅され、BPF108で不要な信号が除去され、BB102で処理される。一方、この受信信号は、異なる伝送路インピーダンスAを有する送信系のアンテナ素子120aには流れず、点Pで反射される。同様に、この受信信号は、異なる伝送路インピーダンスAを有する送信系の伝送路には流れず、点Qで反射される。
【0023】
ところで、受信信号は、受信系のアンテナ素子120bだけでなく、送信系のアンテナ素子120aを介して受信される場合もある。この場合、送信系のアンテナ素子120aを介して受信した受信信号は、同じ伝送路インピーダンスAを有する伝送路に流れるが、方向性結合器106によりPA104には流れず、PA104を飽和させることはない。
【0024】
また、本発明によるアンテナ120は、送信信号の周波数帯域と受信信号の周波数帯域が異なり、送受信が同時に行われる周波数分割複信(FDD)方式の場合でも、送信信号の周波数帯域と受信信号の周波数帯域が同じであり、送受信が同時に行われない時分割複信(TDD)方式の場合でも、適用可能である。
【0025】
TDD方式の場合には、送信と受信が同時に行われることはないので、アンテナ素子120aから送信された信号がアンテナ素子120bを介して受信系の伝送路に干渉することはない。FDD方式の場合には、送信と受信が同時に行われるので、アンテナ素子120aから送信された信号がアンテナ素子120bを介して受信系の伝送路に干渉することがある。しかし、送信と受信の周波数帯域が異なるので、アンテナ素子120aとアンテナ素子120bでは伝送可能な周波数帯域が異なるため干渉が回避され、あるいは適切なフィルタを挿入したり、整合回路を調整したりすることにより、このような干渉を回避することができる。
【0026】
以上のように、送信系と受信系で送受信回路の伝送路インピーダンスを異ならせ、それぞれの伝送路インピーダンスと整合するアンテナ素子により、送受共用器がなくても、送信信号および受信信号の分離が可能となる。また、本発明によるアンテナと移動通信端末の送受信回路とは、送受共用器を必要とすることなく、1つの伝送路で接続されていればよい。そのため、アンテナ付近まで同一の伝送路を利用することで省スペース化が図られる。また、本発明によるアンテナは、送信系のアンテナ素子と受信系のアンテナ素子を備えているので、送信系のアンテナ素子を送信に適した場所に配置し、受信系のアンテナ素子を受信に適した場所に配置することができる。これによって、アンテナ配置の自由度の向上とアンテナの送受信性能の向上を図ることができる。
【0027】
(第2の実施形態)
図3は、デュアルバンドの場合の本発明によるアンテナと移動通信端末の送受信回路を示すブロック図である。本実施形態では、デュアルバンドの場合について説明するが、本発明は、マルチバンドの場合にも適用できることが理解されるであろう。
【0028】
アンテナ220は、デュアルバンドの一方の帯域(f1)に同調する2つのアンテナ素子220−1aおよび220−1bと、デュアルバンドの他方の帯域(f2)に同調する2つのアンテナ素子220−2aおよび220−2bとを備えている。ここで、アンテナ素子220−1aおよび220−2aと、アンテナ素子220−1bおよび220−2bとは、伝送路インピーダンスが異なり、それぞれの伝送路インピーダンスをAおよびBとする。
【0029】
デュアルバンド対応の移動通信端末の送受信回路は、その受信系の伝送路において、一方の帯域(f1)に対応するLNA110−1およびBPF108−1と、他方の帯域(f2)に対応するLNA110−2およびBPF108−2とを備えている。他方、デュアルバンド対応の移動通信端末の送受信回路は、その送信系の伝送路において、一方の帯域(f1)に対応するPA104−1およびISO106−1と、他方の帯域(f2)に対応するPA104−2およびISO106−2とを備えている。ここで、送信系の伝送路と、受信系の伝送路とは、伝送路インピーダンスが異なり、それぞれの伝送路インピーダンスをAおよびBとする。
【0030】
上記の設定において、BB202で生成された一方の帯域(f1)の送信信号は、PA104−1およびISO106−1を通過し、点PおよびQを介して、同じ伝送路インピーダンスAを有し、同じ帯域f1に同調する送信系のアンテナ素子220−1aに流れ、空中に放射される。また、BB202で生成された他方の帯域(f2)の送信信号は、PA104−2およびISO106−2を通過し、点PおよびQを介して、同じ伝送路インピーダンスAを有し、同じ帯域f2に同調する送信系のアンテナ素子220−2aに流れ、空中に放射される。
【0031】
次に、一方の帯域(f1)に同調する受信系のアンテナ素子220−1bを介して受信した受信信号は、点PおよびQを介して、同じ伝送路インピーダンスBを有するLNA110−1およびBPF108−1を通過し、BB202で処理される。また、他方の帯域(f2)に同調する受信系のアンテナ素子220−2bを介して受信した受信信号は、点PおよびQを介して、同じ伝送路インピーダンスBを有するLNA110−2およびBPF108−2を通過し、BB202で処理される。
【0032】
このように、デュアルバンド対応の移動通信端末の場合には、帯域および伝送路インピーダンスの組合せにより、それぞれの帯域の送信信号および受信信号を分離することができる。なお、上記の帯域および伝送路インピーダンスの組合せは、例示であり、その他の組合せも可能である。例えば、図4の例において、送受信回路の4つの伝送路インピーダンスをそれぞれA,B,CおよびDとし、これに対応して4つのアンテナ素子の伝送路インピーダンスをそれぞれA,B,CおよびDとしても、デュアルバンドでの送信信号および受信信号の分離が可能である。
【0033】
また、1つのアンテナ素子で2つの帯域をカバーできる場合には、アンテナ素子の数を減らして、2つのアンテナ素子だけでデュアルバンドに対応させることができる。例えば、図3の例において、送信系のアンテナ素子220−1aおよび220−2aを1つのアンテナ素子とし、受信系のアンテナ素子220−1bおよび220−2bを1つのアンテナ素子とすることができる。
【0034】
以上、本発明について説明したが、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、本発明によるアンテナを移動通信端末に適用した例について説明したが、本発明によるアンテナは、移動通信端末に限らず、アンテナを用いて送受信を行う通信装置全般に使用することができる。したがって、ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるアンテナを備えた移動通信端末の実装例を示す図である。
【図2】本発明によるアンテナと移動通信端末の送受信回路を示すブロック図である。
【図3】本発明によるアンテナとデュアルバンド対応の移動通信端末の送受信回路を示すブロック図である。
【図4】本発明によるアンテナとデュアルバンド対応の移動通信端末の全ての送受信回路が異なるインピーダンスを有する場合のブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
10 移動通信端末
100 基板
102,202 ベースバンドプロセッサ
104,104−1,104−2 電力増幅器
106,106−1,106−2 方向性結合器
108,108−1,108−2 帯域通過フィルタ
110,110−1,110−2 低雑音増幅器
120,220 アンテナ
120a,120b,220−1a,220−2a,220−1b,220−2b アンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の伝送路インピーダンスと第2の伝送路インピーダンスが異なる通信装置に使用するアンテナであって、
前記第1の伝送路インピーダンスに整合する第1のアンテナ素子と、
前記第1のアンテナ素子と接続され、前記第2の伝送路インピーダンスに整合する第2のアンテナ素子と
を備えたことを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
第1の伝送路インピーダンスと第2の伝送路インピーダンスが異なる移動通信端末であって、
前記第1の伝送路インピーダンスに整合する第1のアンテナ素子と、
前記第1のアンテナ素子と接続され、前記第2の伝送路インピーダンスに整合する第2のアンテナ素子と
を備えたことを特徴とする移動通信端末。
【請求項3】
請求項2に記載の移動通信端末であって、
前記第1の伝送路は、送信系の伝送路であり、前記第2の伝送路は、受信系の伝送路であることを特徴とする移動通信端末。
【請求項4】
請求項2または3に記載の移動通信端末であって、
前記第1のアンテナ素子は、第1の帯域に同調され、前記第2のアンテナ素子は、第2の帯域に同調されたことを特徴とする移動通信端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−219633(P2008−219633A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56249(P2007−56249)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】