説明

逆浸透膜を用いた香気濃縮方法

【課題】 香気の減少がほとんどなく、香気バランスの良い優れた香気濃縮物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 天然原料を水蒸気蒸留して香気を含む留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣に水を加えて抽出することにより得られる抽出液の一部または全量を、香気を含む留出液に混合後、逆浸透膜を用いて濃縮して香気濃縮物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然原料の良好な香気バランスが保持された、天然香気濃縮物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜(以下、RO膜とも呼ぶ)は限外濾過膜、精密濾過膜とともに高分子分離膜の一種であり、医薬、食品、工業製品の濾過に普通に用いられている。精密濾過膜は0.01〜数μm程度の微粒子及び微生物が除去できるため除菌や濁質成分の除去に利用され、限外濾過膜はさらに小さな粒子である分子量数百〜数百万の溶質または粒子が分離できるため、醤油や果汁のおり成分の除去や除タンパクに利用されるのに対し、RO膜は浸透圧以上の圧力を高濃度溶液側に加えて溶媒と溶質を分離するため海水淡水化に利用されるほか、牛乳・果汁等の天然物の濃縮にも利用されている。
【0003】
さらに、天然原料を蒸留して得られる香気回収物(以下、回収香と呼ぶ)の濃縮にRO膜を用いるいくつかの提案がある。回収香は、天然原料に水を加えて抽出して得られる抽出物に比べ、香気成分を多く含み、これを抽出物あるいは食品に添加することにより、香気が強化、改善された品質の高い製品が得られるために広く利用されている。
【0004】
具体的提案として、天然果実から得られる果汁を加熱し、蒸発する芳香成分及び水分を精留塔で濃縮して得られる回収香を逆浸透膜で2〜100倍に濃縮する果実芳香成分の高濃縮液の製造方法(特許文献1)、水産物原料を水蒸気蒸留して得られる香り成分を回収した蒸留液を逆浸透膜で濃縮エキスとし、これを呈味成分を含有する濃縮液と混合した香味の改良された水産物の濃縮エキスの製造方法(特許文献2)、コーヒー抽出液を膜濃縮または凍結濃縮または減圧濃縮して、濃縮液と濃縮除去液とに分け、濃縮除去液を逆浸透膜で濃縮して得られる濃縮香気液を前記濃縮液と混合し、濃縮コーヒー液を得る方法(特許文献3)、コーヒー抽出液を膜濃縮または凍結濃縮して、濃縮液と濃縮除去液とに分け、濃縮除去液を減圧濃縮して得られる濃縮香気液を前記濃縮液と混合し、濃縮コーヒー液を得る方法(特許文献4)、水産物原料を水蒸気蒸留して得た香り成分を逆浸透膜で濃縮しアロマ抽出物としこれと前記水蒸気蒸留残渣の抽出物、あるいはこれとは別に用意した水産物抽出物を混合して得られる香味の優れた水産物の抽出物の製造方法(特許文献5)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、前記の提案により得られる回収香の濃縮物の香気回収率はまだ改善の余地が大いにあるとともに、回収香の濃縮物の香気バランスが濃縮前と比較して著しく崩れ、良好な天然感が損なわれるという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−215号公報
【特許文献2】特開平9−9908号公報
【特許文献3】特開2003−204757号公報
【特許文献4】特開2003−319749号公報
【特許文献5】特開2004−89141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、香気の減少が少なく、香気バランスの良い、優れた天然香気濃縮物の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、天然原料を蒸留して得られる回収香のRO膜を用いる濃縮方法の前記の欠点を克服すべく、種々の検討を行った。まず、本発明者が行った実験で、回収香をRO膜で濃縮すると、香気成分の一部が膜に吸着するという事実、また、香気成分のかなりの部分が膜を通過するという事実、通過液と元の回収香の香気成分の組成に違いがあるという事実を確認した。
【0009】
本発明者らは、その原因を次のように推測した。すなわち、水蒸気蒸留などにより香気成分を分離、回収した回収香は、天然抽出物を濃縮する場合のような目詰まり(ファウリング)の原因となる水溶性成分、あるいは熱水には溶解し、常温あるいはそれ以下の温度で徐々に沈殿として析出する成分が除去されているために、RO膜による濃縮の際、水の通過速度が速く、濃縮時間は短いものの、香気成分が水の中に希薄な状態で存在するために膜に吸着され易くなり、膜も通過し易くなると推測するとともに、あえて水溶性成分を意図的に回収香に加えてRO膜濃縮を行えば、香気成分の吸着あるいは通過を押さえられるのではないかと考えた。
【0010】
そこで天然原料を蒸留して香気を含む香気回収香を得た後、この蒸留残渣に水を加えて抽出するか、またはこれとは別に用意した天然原料に水を加えて抽出することにより得られる抽出液の一部または全量を香気を含む留出液に混合後、RO膜を用いて濃縮したところ、推測の通り、香気の減少が押さえられ、香気バランスの良い優れた天然香気濃縮物が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明は、天然原料を蒸留して香気を含む留出液を得る工程、天然原料に水を加えて抽出して抽出液を得る工程、前記の香気を含む留出液に前記抽出液の一部または全量を混合後、逆浸透膜を用いて濃縮することを特徴とする天然香気濃縮物の製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明は、天然原料を水蒸気蒸留して香気を含む留出液得るとともに、該留出液を得る際の水蒸気蒸留残渣を天然原料として、これに水を加えて抽出して抽出液を得ることを特徴とする前記に記載の方法を提供するものである。
【0013】
本発明は、天然原料がコーヒーまたは茶類である前記のいずれかに記載の方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コーヒー、茶、水産物原料などの回収香の濃縮において香気の減少が押さえられ、香気バランスの良い優れた天然香気濃縮物を提供することができる。本発明の方法により得られる天然香気濃縮物は、例えば、飲食品に配合することにより従来の方法によって得られる天然香気濃縮物を配合する場合に比べ、香気バランスが良く、香気の増強された飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の方法において原料で使用しうる天然原料として、例えば、コーヒー、茶類(緑茶、紅茶、中国茶、麦茶、玄米茶、ハブ茶など)、ハーブ類(ラベンダー、シソ、ジャスミン、 セージ、オレガノ、ベルガモット、ホップ、レモンバーム、カモミール、ローズマリー、 タイム、ミント、コリアンダーなど)、果実(リンゴ、ブドウ、パイナップル)、ナッツ類(クルミ、栗、ピーナッツなど)、水産物(鰹節、スルメ、甲殻類など)を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0016】
これら天然原料は生のままで使用しても良いが、焙煎、焙焼などの加熱処理により、香気を増強あるいは改善して使用しても良い。また、必要に応じて粉砕を行い、蒸留による香気回収率の改善を行っても良い。
【0017】
例えば、コーヒー豆の焙煎に使用する原料生豆としては、アラビカ種、リベリカ種、ロブスタ種等いずれでも良く、その種類、産地を問わずブラジル、コロンビア、インドネシア種等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができる。また、原料生豆は、一種類の豆のみを単独で使用しても、またブレンドした二種類以上の豆を使用してもよい。
【0018】
これらの生豆をコーヒーロースターにより焙煎したものを原料とすることができる。焙煎の方法としてはコーヒーロースターなどを用い常法により行うことができる。例えば、コーヒー生豆を回転ドラムの内部に投入し、この回転ドラムを回転攪拌しながら、下方からガスバーナー等で加熱することで焙煎できる。かかるコーヒー豆の焙煎の程度は、通常飲用に供される程度の焙煎であればいかなる範囲内でも良いが、L値として16〜30に焙煎することを例示できる。L値とはコーヒーの焙煎の程度を表す指標で、コーヒー焙煎豆の粉砕物の明度を色差計で測定した値である。黒をL値0で、白をL値100で表す。従って、コーヒー豆の焙煎が深いほど数値は低い値となり、浅いほど高い値となる。参考までに、通常飲用に利用される焙煎豆のL値はほぼ次に示す程度である。イタリアンロースト:16〜19、フレンチロースト:19〜21、フルシティーロースト:21〜23、シティーロースト:23〜25、ハイロースト:25〜27、ミディアムロースト:27〜29。
【0019】
焙煎コーヒー豆は引き続き粉砕を行うが、粉砕方法についても特に制限はなく、いかなる粉砕方法、粉砕粒度も採用することができ、粉砕装置も、特に限定されるものではない。しかしながら、外気と接触せず、不活性気体中で適宜冷却でき短時間で粉砕できる装置を採用することにより香気の飛散が防止できるためより好ましい。
【0020】
茶類、ハーブ類、ナッツ類、水産物などの焙煎または焙焼品は、市販品を用いるか、あるいは焙煎または焙焼に通常、使用される装置を用い、嗜好に適した焙煎または焙焼を行うことにより得ることもできる。
【0021】
水蒸気蒸留法は天然原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法であり、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留、気−液多段式交流接触蒸留(スピニングコーンカラム)などの方法を採用することができる。
【0022】
例えば、常圧水蒸気蒸留を用いる方法は、焙煎コーヒー豆を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝縮物として香気を含む留出液を捕集することができる。必要に応じて、この香気捕集装置の先に冷媒を用いたコールドトラップを接続することにより、より低沸点の香気成分をも確実に捕集することができる。また、水蒸気蒸留の際に、窒素ガスなどの不活性ガス及び/又はビタミンCなどの抗酸化剤の存在下で蒸留すると、香気成分の加熱による劣化を効果的に防止することができるので好適である。水蒸気蒸留では蒸留の初期に香気が多く留出し、その後、徐々に香気の留出が少なくなる。どこで蒸留を終了するかは、何回かの結果を参考に経済性等も考慮して決めるが、その結果、焙煎コーヒー豆に対する回収香の割合は重量換算で1:0.5〜1:5程度となり、Bx0.5〜5°程度の回収香が得られる。
【0023】
例えば、焙煎粉砕コーヒー豆を水と混合しスラリーとして、それを気−液向流接触法により香気回収する方法は、例えば、特公平7−22646号公報に記載の装置を用いて抽出する方法を採用することができる。この装置を用いて香気を回収する手段を具体的に説明すると、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有する気−液向流接触抽出装置の回転円錐上に、液状またはペースト状の嗜好性飲料用原料を上部から流下させると共に、下部から蒸気を上昇させ、該原料に本来的に存在している香気成分を回収する方法を例示することができる。この気−液向流接触抽出装置の操作条件としては、該装置の処理能力、原料の種類および濃度、香気の強度その他によって任意に選択することができる。コーヒースラリーのコーヒー豆と水の比率は、コーヒースラリーが流動性をもつ状態となる量であればいかなる比率も採用することができるがおおよそ、コーヒー豆1重量部に対し水5倍量〜30倍量を例示することができる。水が、この範囲を下回る場合、流動性が出にくく、また、水がこの範囲をはずれて多い場合、得られる留出液の香気が弱くなる傾向がある。
【0024】
気−液向流接触抽出装置の操作条件の一例を示せば、下記のごとくである。
原料供給速度:300〜700L/hr
蒸気流量:5〜50Kg/hr
蒸発量:3〜35Kg/hr
カラム底部温度:40〜100℃
カラム上部温度:40〜100℃
真空度:大気圧〜−100kPa(大気圧基準)
次に、天然原料に水を加えて抽出して抽出液を得る工程では、天然原料として上記の如き水蒸気蒸留を行った後の残渣を用いる場合と、上記の如き水蒸気蒸留とは全く別に、新たな天然原料を用いる場合の2通りの場合がある。しかしながら、手順は基本的に同じであり、上記の如き水蒸気蒸留を行った後の残渣を用いる場合で説明する。
【0025】
例えば、水蒸気蒸留残渣に対して、1〜5倍量の水を加え、5℃〜95℃の範囲の温度で0.5〜24時間の抽出を行い、濾過後、30℃以下に冷却し、Bx2〜10°程度の抽出液が得られる。
【0026】
濾過は、ろ紙、サラン、ネルを用い、不溶成分等の除去を行うが、その際、濾過助剤を併用しても良く、例えば、ケイソウ土、酸性白土、活性白土、タルク類、粘土、ゼオライト、粉末セルロース等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。さらに、濾過とは異なる手段として遠心分離で不純物の除去を行うことも効果的であり、単独、あるいは濾過と併用しても良い。
【0027】
また、この水抽出時および/または水抽出後に酵素を用いても良い。例えば、アミラーゼ、セルラーゼ、マンナナーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどの酵素を作用させることもできる。また、場合により、水溶性有機溶媒の添加も効果的である。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類;アセトンのようなケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類などの一種もしくはそれらの複数種の混合物などを例示することができる。ただし、RO膜は高濃度の水溶性溶媒には弱いので、RO膜濃縮の際には溶媒をほとんど除去するか、膜に影響を与えない程度にする必要がある。
【0028】
香気を含む留出液全量に対して上記抽出液の一部、または全量を混合し、RO膜濃縮を行う。その混合割合は、留出液を得るのに使用した天然原料の量(a)および抽出液を得るのに使用した天然原料の量(b)の比率、(a:b)で示せば、1:3〜10:1の範囲、好ましくは1:1〜5:1の範囲、より好ましくは1:1〜3:1の範囲を挙げることができる。留出液に由来する固形分に対して抽出液に由来する固形分の量が多いほど香気回収率は高くなり、香気濃縮物の香気は濃縮前の回収香の香気に近くなる。一方、香気濃縮率はRO膜濃縮の場合、通常、約Bx30°が濃縮の限界なので、香気の濃縮度を高くするためには、抽出物由来の香気成分以外の固形分の量が少ない方が好ましい。したがって、得られる香気濃縮物の香気の質、濃縮度を考慮して、回収香と抽出液の混合割合を決めるが、その比率を変えることにより、香気濃縮倍率が1.1〜10程度の香気濃縮物を得ることができる。得られる香気濃縮物は呈味成分などの不揮発性の水溶性成分も含むため、食品の風味をより一層改善する。
【0029】
本発明で用いるRO膜は、その材質、分子構造など特に限定はないが、例えば、市販品であるSU−720(食塩阻止率99.4%)、SU−720F(食塩阻止率99.4%)、SU−720L(食塩阻止率99.0%)、SU−820(食塩阻止率99.75%)、SU−820L(食塩阻止率99.7%)、以上、東レ株式会社製RO膜;低圧スパイラル型ROエレメントNTR−759HR(食塩阻止率99%)、低圧スパイラル型ROエレメントLF10シリーズ(食塩阻止率98.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES10(食塩阻止率99.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES15−D(食塩阻止率99.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES20−D(食塩阻止率99.7%)、低圧スパイラル型ROエレメントES15−U(食塩阻止率93%)、NTR70HG S2F(食塩阻止率99%)、NTR759HG S2F(食塩阻止率99%)、以上、日東電工社製RO膜;フィルムテックSW30−HR320(食塩阻止率99.4%)、フィルムテックSW30−HR380(食塩阻止率99.4%)、フィルムテックSW30−XLE400i(食塩阻止率99.6%)、以上、ムロマチテクノス社製RO膜等を挙げることができる。特に食塩阻止率99%以上の膜は香気バランスの良い天然濃縮エキスが得られるので好ましい。
【0030】
食塩阻止率は逆浸透膜の透過性を表す数値であり、水中でNaイオンとClイオンに解離している食塩の透過しにくさを示し、食塩阻止率99%のように表示され、一般に市販品では食塩阻止率90〜99.8%程度のものがある。また、実際の逆浸透膜を含む濃縮装置は、着脱可能な円筒状の膜モジュール、膜モジュールに濃縮しようとする液を循環して供給するポンプ部、コントロール部などからなる装置である場合が多いが、形式はどんなものでも良い。
【0031】
RO膜による濃縮は0.1〜50MPaの操作圧力で行う。また、操作温度は濃縮を行う天然原料によって適宜選択するが、例えば、5〜50℃程度の温度範囲で行う。一般に温度が高い方が水の透過速度が大きくなるが、含有する成分の溶解性、安定性、逆浸透膜への吸着性なども原料により異なるので、好ましい温度を検討してから実際の操作を行う。RO膜濃縮の進行に伴って水が膜を通過し、除去される結果、濃縮液の固形分濃度が上昇し、濃縮液の粘性が高くなり、通常、約Bx30°程度まで濃縮すると、濃縮液は膜、ポンプおよびこれらを連結するパイプ内を循環することが困難になり、実質的に水の通過が止まる。このレベルまで濃縮するか、あるいはそれ以前の任意の段階で濃縮を終了する。
【0032】
上記した方法により得られる本発明の天然香気濃縮物は、そのまま水溶液の形態として使用することもできるが、所望により該エキスにデキストリン、加工澱粉、サイクロデキストリン、アラビアガム等の賦形剤を添加又は添加しないで、ペースト状とすることもでき、さらにまた、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの適宜な乾燥手段を採用して乾燥することにより粉末状とすることもできる。
【0033】
本発明の天然香気濃縮物は、所望により、他の方法で得られる天然抽出エキス、香料、抗酸化剤、色素、ビタミンなどの任意の食品素材または添加剤を添加することもできる。
【0034】
かくして、本発明によれば、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、乳飲料、機能性飲料などの飲料類;キャンディー、クッキー、ケーキ、ゼリーなどの菓子類などに天然濃縮物の適当量を添加することにより、天然原料の持つ、バランスのよい、良好な天然風味が付与された飲食品を提供することができる。また、本発明によれば、例えば、シャンプー類、ヘアクリーム類、その他の毛髪化粧料基剤;オシロイ、口紅、その他の化粧用基剤や化粧用洗剤類基剤;洗濯用洗剤類、消毒用洗剤類、防臭洗剤類、その他各種の保健・衛生用洗剤類;歯磨き、ティシュー、トイレトペーパーなどの各種保健・衛生材料類;医薬品類などに天然濃縮物の適当量を添加することにより、天然感の向上した、嗜好性の高い消費財を提供することができる。
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0035】
実施例1
市販の焙煎コーヒー豆であるブラジルサントス#2(L値16.5)10kgを内径27cm、高さ57cmの三連のステンレス製カラムのそれぞれに充填し、100〜105℃で2.5時間、水蒸気蒸留を行い、留出液54kg(参考品1、pH3.28)を得た。次にそれぞれのカラムに90℃の軟水30kgを加え、90〜95℃で30分間保持した後、1時間放置し、蒸留残渣の抽出を行い、濾過することにより抽出液81kg(Bx8.48°)を得た。上記の留出液9kgに抽出液13.5kgを加え、重曹にてpH5.01としたものをRO膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理後、遠沈処理(20℃、800×G、5分間)を行い、Bx20°に調整し、200メッシュ濾過を行い、濃縮液5.7kg(本発明品1、Bx20°、対留出液濃縮倍率:1.58)を得た。
【0036】
実施例2
実施例1で得られた留出液9kgに抽出液6.75kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液2.86kg(本発明品2、Bx20°、対留出液濃縮倍率:3.15)を得た。
【0037】
実施例3
実施例1で得られた留出液9kgに抽出液4.5kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液1.9kg(本発明品3、Bx20°、対留出液濃縮倍率:4.74)を得た。
【0038】
実施例4
実施例1で得られた留出液9kgに抽出液3.38kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液1.43kg(本発明品4、Bx20°、対留出液濃縮倍率:6.29)を得た。
【0039】
実施例5
実施例1と同じ、焙煎したブラジルサントス#2(L値16.5)10kgを用意し、新たに実施例1と同じカラムに充填し、90℃の軟水30kgを加え、90〜95℃で30分間保持した後、1時間放置し、抽出を行い、濾過することにより抽出液27.5kg(Bx8.52°)を得た。上記の抽出液13.5kgに実施例1の留出液9kgを加え、重曹にてpH5.01としたものをRO膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理後、遠沈処理(20℃、800×G、5分間)を行い、Bx20°に調整し、200メッシュ濾過を行い、濃縮液5.96kg(本発明品5、Bx20°、対留出液濃縮倍率:1.51)を得た。
【0040】
比較例1
実施例1の留出液9kg(pH3.28)に重曹を加え、pH5.01とし、RO膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理を行い、濃縮留出液3kgを得た。次に実施例1の抽出液13.5kg(Bx8.48°)をNTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理を行い、濃縮抽出液4.3kg(Bx26.6°)を得た。
濃縮留出液および濃縮抽出液を混合し、軟水を加え、Bx20°に調整し、90℃達温殺菌後、30℃以下に冷却後、200メッシュ濾過を行い、濃縮液5.7kg(比較品1、Bx20°、対留出液濃縮倍率:2.09)を得た。
(官能評価)
本発明品1〜5および比較品1は対留出液濃縮倍率に従い、希釈し、これら希釈品と参考品1を訓練された10名のパネラーにより官能評価を行った。香気強度およびコーヒー感の2項目に関して参考品1の風味を10として各パネラーが評価を行い、その平均値を示すとともに、香気強度およびコーヒー感の値を平均して総合評価とした。その結果を表1に示す。
(香気分析)
参考品1、本発明品1〜5および比較品1をガスクロマトグラフィーにより分析した。分析結果を酸、エステル、アルデヒド、アルコール、フラン、フェノール、ケトン、窒素化合物、硫黄化合物およびその他の化合物に分け、香気成分量の変化を比較した。参考品1に比べ比較品1で減少が大きかったのは、酸、フラン、窒素化合物、硫黄化合物であり、それら成分の濃縮後の存在量を、濃縮前を100とした時の数値で表した。また、ガスクロマトグラフィーの香気成分量(ppm)を合計して香気量(ppm)とした。なお、本発明品1〜5および比較品1は対留出液濃縮倍率にしたがって換算して参考品1と比較した。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、本発明品1〜5はいずれも比較品1に比べ、香気強度、香気バランスが高く、総合評価も高かった。特に本発明品1、2および5は濃縮前の参考品1の香気バランスが保持されており、非常に良好であった。また、香気量(ppm)は本発明品1〜5のいずれの場合も比較品1に比べ高い数値であった。比較品1では酸、フラン、窒素化合物、硫黄化合物の存在量は参考品1を100とする値が、77、65、74、30であったが、本発明品1〜5のいずれの場合も比較品1に比べ高い数値であった。これらの成分はコーヒーの重要な香気成分であり、これら成分の数値が高いことは香気バランスの改善を支持する結果であった。特に、硫黄化合物は微量でもコーヒー香気に大きな影響を与える成分であるが、本発明品1〜5の数値は85〜105と非常に高く、比較品1の30に比べ、香気の回収に関し格段の改善効果が見られた。
【0043】
実施例6
市販の煎茶5kgを内径27cm、高さ57cmの三連のステンレス製カラムのそれぞれに充填し、100〜105℃で2〜3時間、水蒸気蒸留を行い、留出液30kg(参考品2、pH4.56)を得た。次にそれぞれのカラムに50℃軟水15kgを加え、50〜55℃で30分間の抽出を行い、濾過することにより抽出液36kg(Bx7.48°)を得た。上記の留出液7.5kgに抽出液9kgを加え、重曹にてpH5.01としたものをRO膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理後、遠沈処理(20℃、800×G、5分間)を行い、Bx20°に調整し、200メッシュ濾過を行い、濃縮液3.35kg(本発明品6、Bx20°、対留出液濃縮倍率:2.24)を得た。
【0044】
実施例7
実施例6で得られた留出液4.5kgに抽出液6.75kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液2.51kg(本発明品7、Bx20°、対留出液濃縮倍率:1.79)を得た。
【0045】
実施例8
実施例6で得られた留出液4.5kgに抽出液4.5kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液1.67kg(本発明品8、Bx20°、対留出液濃縮倍率:2.69)を得た。
【0046】
実施例9
実施例6で得られた留出液4.5kgに抽出液3.38kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液1.25kg(本発明品8、Bx20°、対留出液濃縮倍率:3.6)を得た。
【0047】
比較例2
実施例6で得られた留出液7.5kgに重曹を加え、pH5.01とし、RO膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理を行い、濃縮留出液1kgを得た。次に実施例6の抽出液9kg(Bx7.48°)をNTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理を行い、濃縮抽出液2.5kg(Bx26.8°)を得た。
【0048】
濃縮留出液および濃縮抽出液を混合し、軟水を加え、Bx20°に調整後、90℃達温殺菌後、30℃以下に冷却し、200メッシュ濾過を行い、濃縮液3.4kg(比較品2、Bx20°、対留出液濃縮倍率:3.0)を得た。
(官能評価)
本発明品6〜9および比較品2は対留出液濃縮倍率に従い、希釈し、これら希釈品と参考品2を訓練された10名のパネラーにより官能評価を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すように、本発明品6〜9の香気香味は、比較品2と比べ、香気強度、香気バランスが高く、総合評価も高いとともに、良好な煎茶感を有していた。特に本発明品5および6は濃縮前の参考品2と同程度の香気バランスが保持されており、非常に良好であった。
【0051】
実施例10
市販の鰹節研磨粉(鰹節の整形時に、まわりをグラインダーで削ることにより、生成する粉、G粉とも呼ばれる)5kgを内径27cm、高さ57cmのステンレス製カラムのそれぞれに充填し、100〜105℃で2〜3時間、水蒸気蒸留を行い、留出液30kg(参考品3、pH4.65)を得た。次にそれぞれのカラムに95℃軟水50kgを加え、90〜95℃で30分間の抽出を行い、濾過することにより抽出液123kg(Bx2.0°)を得た。上記の留出液5kgに重曹を加え、pH 5.01としたものに、抽出液20.5kgを添加混合し、RO膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理後、遠沈処理(20℃、800×G、5分間)を行い、Bx20°に調整し、200メッシュ濾過を行い、濃縮液2.0kg(本発明品10、Bx20°)を得た。
【0052】
実施例11
実施例10で得られた留出液5kgに抽出液10.25kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液1.01kg(本発明品11、Bx20°)を得た。
【0053】
実施例12
実施例10で得られた留出液5kgに抽出液6.83kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液0.68kg(本発明品12、Bx20°)を得た。
【0054】
実施例13
実施例10で得られた留出液10kgに抽出液5.13kgを加え、重曹にてpH5.01とした後、RO膜濃縮を行い、軟水を加えてBx20°に調整することにより、濃縮液0.52kg(本発明品12、Bx20°)を得た。
【0055】
比較例3
実施例10で得られた留出液5kgに重曹を加え、pH5.01とし、RO膜濃縮機NTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理を行い、濃縮留出液1.3kgを得た。次に実施例10の抽出液10.25kg(Bx7.48°)をNTR−759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理を行い、濃縮抽出液3.14kg(Bx24.3°)を得た。
【0056】
濃縮留出液および濃縮抽出液を混合し、軟水を加え、Bx20°に調整後、90℃達温殺菌後、30℃以下に冷却し、200メッシュ濾過を行い、濃縮液3.8kg(比較品2、Bx20°)を得た。
(官能評価)
本発明品10〜13および比較品3は対留出液濃縮倍率に従い、希釈し、これら希釈品と参考品3を訓練された10名のパネラーにより官能評価を行った。その結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、本発明品10〜13の香気香味は、比較品3と比べ、香気強度、香気バランスが高く、総合評価も高いとともに、鰹節の有する上品な風味を有していた。特に本発明品10および11は濃縮前の参考品3と同程度の香気バランスが保持されており、非常に良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程:
(A)天然原料を水蒸気蒸留して香気を含む留出液を得る工程、
(B)天然原料に水を加えて抽出して抽出液を得る工程、
(C)(A)の留出液に(B)の抽出液の一部または全量を混合後、逆浸透膜を用いて濃縮することを特徴とする香気濃縮物の製造方法。
【請求項2】
(B)の天然原料が(A)の留出液を得る際の水蒸気蒸留残渣である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
天然原料がコーヒーまたは茶類である請求項1〜2のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−13510(P2010−13510A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172763(P2008−172763)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】