説明

透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法

【課題】ガラス基材を部分的に発色させたパターンを形成することができる透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】カバーガラス10は、サファイアガラスからなる透明な基材11を備えている。基材11の表面には、基材11が赤色に発色して形成された発色部121と、無色透明な無色部122と、により、パターン部12が形成されている。カバーガラス10は、金属イオンおよび半金属イオンのうちいずれか一つを基材の一部に注入するイオン注入工程と、基材の熱処理を行う熱処理工程と、を実施することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用カバーガラス等に用いられる透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計用のカバーガラスには、視認性という観点から無色透明なガラスが使用されている。しかしながら、機能性やデザイン性を付与するために、カバーガラスに色をつけることが望まれている。
ガラスに色をつける方法として、サファイアガラスの製造時に、溶融酸化アルミニウム中に酸化第二鉄および二酸化チタンを溶解させてブルーのサファイアを製造する技術がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−137690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、サファイアガラスの原料である溶融酸化アルミニウムに酸化第二鉄や二酸化チタンなどの発色剤を含有させているため、サファイアガラス全体が発色してしまう。すなわち、カバーガラスを部分的に発色させたり、表面に模様を形成することができなかった。また、製品ごとに色を変えたい場合などの多品種少量生産の製品に対しては、多大なコストがかかるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ガラス基材を部分的に発色させたパターンを形成することができる透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透光性部材は、透光性を有する基材からなる透光性部材であって、前記基材は、金属イオンおよび半金属イオンのうち少なくとも一つが注入されることにより、表面層が選択的に発色して形成されるパターン部を備えたことを特徴とする。
【0007】
無機酸化物等からなる基材に金属イオンまたは半金属イオンが注入されると、注入された部分の基材が発色する。発色する色は、注入するイオンの種類によって決まっており、形成したい模様の形状に沿って所望の色を発色するイオンを注入する。そうすると、基材の表面層のうちイオンが注入された部分のみが発色してパターン部が形成される。
【0008】
この発明によれば、透光性部材はその表面層にパターン部を有するため、所望の形状のパターン部を形成することにより、デザイン性の高い透光性部材を提供することができる。
また、透光性部材の表面層のみを発色させているため、基材そのものの機能、形状および精度を維持したまま発色させることができる。
さらに、成形済みの無着色の基材に対して、表面層のみにイオンを注入すればよいので、加工時間や材料費などのコスト低減を図ることができる。
そして、注入するイオンの種類によって種々の色を発色し、注入する量によって色の濃さを変えられるため、多品種のものを少量しか生産しないような製品の製造に適している。
【0009】
本発明の透光性部材は、前記金属イオンは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ag、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Bi、Fr、Ra、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、Np、Puのうち少なくともいずれか一つであることが好ましい。
【0010】
上記した金属イオンのうち、例えば、Co(コバルト)は緑色または青色、Fe(鉄)は黄色、Ag(銀)は赤色、Nb(ニオブ)は青色を発色する。
また、これらの金属イオンの注入量が多いほど濃い色を発色する。
したがって、所望の色を発色する金属イオンとその量を選択して基材に注入することにより、基材の表面を所望の色で発色させることができ、所望の色・形状のパターン部を形成することができる。すなわち、デザイン性の高い透光性部材を提供することができる。
【0011】
本発明の透光性部材は、前記半金属イオンは、B、Si、Ge、Sb、Te、Poのうち少なくともいずれか一つであることが好ましい。
【0012】
上記した半金属イオンのうち、例えば、Si(ケイ素)は茶色を発色する。
また、これらの半金属イオンの注入量が多いほど濃い色を発色する。
したがって、所望の色を発色する半金属イオンをその量を選択して基材に注入することにより、基材の表面を所望の色で発色させることができ、所望の色・形状のパターン部を形成することができる。すなわち、デザイン性の高い透光性部材を提供することができる。
【0013】
本発明の透光性部材において、前記基材が無機酸化物であることが好ましい。
【0014】
ここで、透光性部材としては、例えば、時計用カバー部材や計器用カバー部材あるいは眼鏡レンズ等の硬質で透明な部材が挙げられる。透光性部材の材質としては、サファイアガラス、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0015】
本発明の透光性部材において、前記無機酸化物がサファイアガラスであることが好ましい。
この発明によれば、基材としてサファイアガラスを用いるので、透明性や硬度に優れる。
【0016】
本発明の透光性部材の製造方法は、前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちいずれか一つを前記基材の一部に注入するイオン注入工程と、前記基材の熱処理を行う熱処理工程と、を実施することを特徴とする。
【0017】
まず、所望の色を発色するイオンを選択し、このイオンを、基材の表面の所望の領域に注入するイオン注入工程を実施する。この時点では、イオンが注入された領域は黒色や灰色のくすんだ色合いとなる。
次に、イオンが注入された基材に対して熱処理(アニール)工程を実施する。基材は、この熱処理された時点で発色する。なお、熱処理の温度および時間は特に限定されない。所望の色を発色させるのに最適な温度および時間を調整することができる。例えば、Coの場合、800℃で緑色、1000℃で青色とすることができる。
以上のように、基材に対してイオン注入工程および熱処理工程を実施することにより、表面層にパターン部が形成された透光性部材を製造することができる。
【0018】
本発明の透光性部材の製造方法において、前記イオン注入工程は、前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちいずれか一つを、前記基材の一部である第一の領域に注入する第一の注入工程と、前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちのいずれか他の一つを、前記基材のうち前記第一の領域とは異なる第二の領域に注入する第二の注入工程と、を実施することが好ましい。
【0019】
この発明では、2段階のイオン注入工程を実施する。まず、第一の領域に任意のイオンを注入し、その後、第一の領域とは異なる領域である第二の領域に別の色を発色するイオンを注入する。
その結果、第一の領域と第二の領域において異なる色を発色するパターン部が形成される。なお、イオン注入工程は、発色させたい色の数に応じて何回でも実施可能であるので、所望の色数に応じて適宜実施してよい。
したがって、複数の色による見た目に鮮やかなパターン部を基材の表面に形成することができるので、デザイン性の高い製品を提供することができる。
【0020】
本発明の透光性部材の製造方法において、前記イオン注入工程は、前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちのいずれか一つを、前記基材の一部である第一の領域に注入する第一の注入工程と、前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちのいずれか他の一つを、前記第一の領域に注入する第三の注入工程と、を実施することが好ましい。
【0021】
この発明では、2段階のイオン注入工程を実施する。まず、第一の領域に任意のイオンを注入し、その後、別の色を発色するイオンを、第一の領域に重ねて注入する。
その結果、第一の領域において、2種類のイオンが存在することになり、熱処理工程後には、2種類のイオンが発色する色の混合色が発色する。例えば、AgとNbを第一の領域に注入した場合、Agが赤色を発色し、Nbが青色を発色するため、これらが混ざり合って紫色を発色する。
このように、上記したイオンの中で発色できない色があっても、これらのイオンを混ぜ合わせることによって新たな色を発色させることができる。したがって、様々な色を発色させることができるので、様々な色(デザイン)の製品を提供することができる。
【0022】
本発明の透光性部材の製造方法において、前記イオン注入工程は、電場で加速された前記金属イオンまたは前記半金属イオンが前記基材に注入されることが好ましい。
【0023】
ここで、イオンを電場で加速する方法(装置)としては、半導体用として汎用的に用いられるイオン注入装置が好ましく適用できる。このようなイオン注入装置は、元素のイオンを発生させるチャンバー、イオンを高エネルギーまで電気的に加速する加速器、対象となる物質(ターゲット)にイオンを打ち込むチャンバーから成り立っている。イオンの加速エネルギーは10〜500KeVの範囲とすることが好ましい。
なお、サファイア等の基材は絶縁体であるため、基材の近傍に導体を配置し、この導体を電極として電圧を印加することにより、基材への電荷印加が可能となる。
【0024】
この発明によれば、イオンを発生させ、基材への電荷印加によってイオンを基材に注入することにより、イオンをより深い注入ピーク深さで高濃度に注入することが可能となる。したがって、基材に対して確実にイオンを注入することができる。その結果、基材を確実に発色させることができる。
また、本発明の手法により、基材の平面方向において均一にイオンを注入することが可能となる。
【0025】
本発明の透光性部材の製造方法において、前記イオン注入工程は、放電プラズマ状態下で発生した前記金属イオンまたは前記半金属イオンが、前記基材への電荷印加によって注入されることが好ましい。
【0026】
ここで、イオンを電プラズマ状態下で加速する方法(装置)としては、半導体用として汎用的に用いられるPBII(Plasma Based Ion Implantation)装置が好ましく適用できる。
なお、サファイア等の基材は絶縁体であるため、基材の近傍に導体を配置し、この導体を電極として電圧を印加することにより、基材への電荷印加が可能となる。
【0027】
この発明によれば、放電プラズマ状態下でイオンを発生させ、基材への電荷印加によってイオンを基材に注入することにより、イオンをより深い注入深さで高濃度に注入することが可能となる。
また、本発明の手法により、立体形状物であってもその表面に均一にイオン注入をすることが可能となる。
したがって、PBII装置を用いることにより、さまざまな形状の透光性部材に対して確実にイオン注入することができる。すなわち、デザイン性の高い形状の透光性部材にも適応することができる。
【0028】
本発明の透光性部材の製造方法において、前記パターン部は、フォトリソグラフィーを用いて形成されることが好ましい。
【0029】
フォトリソグラフィーとは、基板にレジストと呼ばれる感光性樹脂を塗布して所定の領域を露光させた後、現像液に浸すことによって微細なパターンを基板上に形成していく技術のことである。
この発明では、このフォトリソグラフィーを用いて基材の表面層にパターン部を形成する。
具体的には、基材の表面にレジストを塗布して所定の領域のみを露光する。そして、基材を現像液で現像することにより、基材上の露光した領域にのみレジストが残存する。部分的にレジストが残存した基材に対してイオン注入工程を実施した後、レジストを剥離する。
【0030】
これによれば、レジストによって発色させる領域と発色させない領域を明確に区切ってイオン注入することができるので、熱処理工程終了後には、所望の領域にのみ発色させることができる。すなわち、所望の形状のパターン部を確実に形成することができる。
【0031】
本発明の透光性部材の製造方法において、前記パターン部は、メタルマスクを用いて形成されることが好ましい。
【0032】
メタルマスクとは、プリント基板に対して自動実装により表面実装部品を実装する際、プリント基板上にクリーム状の半田を印刷する印刷板のことである。
この発明では、このメタルマスクを用いて基材の表面層にパターン部を形成する。
具体的には、基材の表面に形成するパターン部と同形状に加工されたメタルマスクを基材上に配置し、基材に対してイオン注入工程を実施する。
【0033】
これによれば、メタルマスクによって発色させる領域と発色させない領域を明確に区切ってイオン注入することができるので、熱処理工程終了後には、所望の領域にのみ発色させることができる。すなわち、所望の形状のパターン部を確実に形成することができる。
【0034】
本発明の時計は、前述の透光性部材を備えた時計であって、前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられることを特徴とする。
【0035】
この発明によれば、前述の透光性部材を備えることにより、前述と同様な作用および効果を享受できる。なお、透光性部材は、例えばカバーガラス(風防)としてケースに設けられる。
【発明の効果】
【0036】
このような本発明によれば、ガラス基材を部分的に発色させたパターンを形成することができる透光性部材、時計、および透光性部材の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態の透光性部材は、時計用カバーガラス(以下、単に「カバーガラス」ともいう。)であり、図1には、第1実施形態にかかるカバーガラスの平面図が示されている。
【0038】
〔カバーガラスの構成〕
図1において、カバーガラス10は、サファイアガラスからなる透明な基材11を備えている。
基材11の表面には、基材11が赤色に発色して形成された発色部121と、無色透明な無色部122と、により、パターン部12が形成されている。なお、第1実施形態では、発色部121は赤色であり、無色部122は発色しておらず、基材11のそのままの色である。
本実施形態で使用した基材11の材質は、サファイアガラス以外にも、例えば石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。時計用カバーガラスの材質としては、硬度や透明性の観点より特にサファイアガラスが好ましい。
【0039】
また、発色部121は、金属イオンまたは半金属イオンを基材11が注入されることにより赤色に発色する。
金属イオンとしては、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ag、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Bi、Fr、Ra、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、Np、Puなどが挙げられ、これらのうち少なくとも一つを選択する。例えば、Co(コバルト)は緑色または青色、Fe(鉄)は黄色、Ag(銀)は赤色、Nb(ニオブ)は青色を発色する。
第1実施形態では、Agイオンが基材11に注入されている。
【0040】
半金属イオンとしては、B、Si、Ge、Sb、Te、Poなどが挙げられ、これらのうち少なくとも一つを選択する。例えば、Si(ケイ素)は茶色を発色する。
また、これらの金属イオンまたは半金属イオンは、その注入量が多いほど濃い色を発色するので、注入量を調整することで、色合いを変化させてもよい。
【0041】
〔カバーガラスの製造方法〕
次に、カバーガラス10の製造方法について説明する。
〔1.イオン注入装置の構成〕
まずは、イオン注入を実施するイオン注入装置20の構成について説明する。
図2は、透光性部材としてのカバーガラス10を加工するイオン注入装置20の概略を模式的に示したものである。このイオン注入装置20は、半導体用として汎用的に使用されるいわゆるイオンガン型のイオン注入装置であり、原料ガスから所定のイオンを発生させるイオン化室21と、イオンを加速する加速器室22と、加速されたイオンが注入される基材11を載置するターゲット室23とを含んで構成される。
【0042】
イオン化室21では、前述の金属イオンおよび半金属イオンから選択された少なくとも1種を含む原料ガスから所定の元素イオンが生成する。この元素イオンは、導管部221を通って加速管222に導入され、加速管222の高電圧によって加速された元素イオンは、導管部223を通って、ターゲット室23内の基材11に注入される。
【0043】
〔2.イオン注入工程〕
第1実施形態では、フォトリソグラフィーにより、基材11の表面にパターン部12を形成する。
この製造方法について、図3を用いて説明する。図3は、第1実施形態にかかるカバーガラスの製造工程を示す概略図であり、(A)は基材にレジストを載置した状態を示す断面図、(B)は基材に対してイオン注入を実施している状態を示す断面図、(C)は基材からレジストを除去した状態を示す断面図である。
【0044】
まず、基材11を90℃の熱硫酸(硫酸過水)で洗浄し、純水でリンスした後、120℃の対流オーブンに入れて乾燥させる。
次に、基材11の全面に、レジスト30(商品名「OFPR800」、東京応化工業株式会社製)を塗布し、基材11の無色部122に該当する領域のみを露光させる。そして、基材11を現像液(TMAH:水酸化テトラメチルアンモニウム)で現像し、純水でリンスした後、スピン乾燥させる。
現像後は、図3(A)に示すように、露光させた無色部122に該当する部分にのみレジスト30が残存する。
【0045】
そして、レジスト30が残存している基材11を前述のイオン注入装置20のターゲット室23内に設置して、イオン化室21内を例えば、4×10−4Paまで減圧したうえで、原料ガスをイオン化室21内に導入する。そして、イオン化室21内のガス圧を例えば2.4Paとした状態で、図示しない高周波電源からの高周波パルス(本実施形態では13.56MHz)を印加する。これによりイオン化室21内で気体放電によってプラズマが発生し、使用した原料ガスに応じて前述の金属イオンまたは半金属イオンが発生する。第1実施形態では、Agを含む原料ガスを導入してAgイオンを発生させた。
【0046】
続いて、イオン注入工程を実施する。
イオン注入工程では、イオンの加速エネルギーを10〜500KeVの範囲とする。イオン化室21で生成したイオンは、導管部221を拡散しながら加速管222に導入され、加速管222内部の高電圧によって加速されたイオンは、導管部223を通って、ターゲット室23内の基材11に高速で注入される。印加時間(注入時間)は、例えば5〜10分間である。
なお、印加電圧および印加時間は、基材11の体表面における単位面積あたりの注入イオン数を示すイオン注入量に基づいて決められる。このイオン注入量は、イオン注入状態を示す指標である。第1実施形態におけるイオン注入量は、電圧20KeVで、イオン注入量3.0E16ions/cmに設定される。
【0047】
〔3.熱処理工程〕
イオン注入工程終了後、90℃の熱硫酸で洗浄することによりレジスト30を基材11から除去し(図3(C)参照)、純粋でリンスした後、スピン乾燥させる。この時点では、注入部は茶色となる。
そして、基材11を800℃の大気炉に入れ、1時間熱処理(アニール処理)を実施する。
その結果、図1に示すような、赤色に発色した発色部121と、無色部122とからなるパターン部12が、基材11の表面層に形成された。
【0048】
〔4.時計の構成〕
図4に、カバーガラス10を備えた時計の断面図を示す。
図4に示すように、本実施形態の時計100において、カバーガラス10は、時計体(ムーブメント)103を収容するケース104に、カバーガラス102として設けられる。ケース104には裏蓋105が設けられている。
ここで、本実施形態のカバーガラス102の体表面部は、前面部102A、後面部102B、および側面部102Cからなる。前面部102Aは、カバーガラス102の外側の部分に相当する。後面部102Bは、カバーガラス102の内側の部分に相当し、文字板106および指針107に対向する。
本実施形態においては、カバーガラス102の前面部102Aに、前述のパターン部12が位置している。
【0049】
〔第1実施形態による効果〕
以上の第1実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)サファイアガラスである基材11にAgイオンを注入したことにより、注入した領域を赤色に発色させることができる。
このように、注入するイオンの種類に応じて種々の色を発色させることができる。また、イオンの注入量に応じて色の濃さを変化させることができるので、注入量を調節することでさらに多種の色合いを発色させることができる。
したがって、所望の色、形状のパターン部12を形成することができるので、デザイン性の高い製品を提供することができる。
【0050】
(2)イオン注入工程は、一般的に使用されているイオン注入装置20をそのまま用いて実施できるので、所望の模様を有する透光性部材を低コストで容易に製造することができる。
【0051】
(3)また、イオン注入工程で所望の形状のパターン部12を形成するにあたり、フォトリソグラフィーの技術を用いた。フォトリソグラフィーによれば、発色させたい領域にのみ正確にイオン注入することができるので、見た目に美しい形状のパターン部12を形成することができる。すなわち、デザイン性に優れた製品を確実に製造することができる。
【0052】
(4)時計100において、カバーガラス10が、カバーガラス102としてケース104に設けられており、ケース104や文字板106などとデザインを合わせることにより、時計100としてのデザイン性をより向上させることができる。
また、カバーガラス10のパターン部12における無色部122により、文字板106および指針107の情報を視認しやすいので、視認性も確保することができる。
【0053】
[第2実施形態]
第2実施形態の透光性部材は、第1実施形態と同様に、時計用カバーガラスであり、図5に、第2実施形態のカバーガラスの平面図が示されている。
第2実施形態は、カバーガラスの表面層に形成される発色部の色が異なることと、製造方法以外は第1実施形態と同様である。
【0054】
〔カバーガラスの構成〕
図5において、カバーガラス50は、サファイアガラスからなる透明な基材51を備えている。
基材51の表面には、基材51が紫色に発色して形成された発色部521と、無色透明な無色部522と、により、パターン部52が形成されている。第2実施形態では、発色部521は紫色であり、無色部522は発色しておらず、基材51のそのままの色である。
【0055】
〔カバーガラスの製造方法〕
〔1.イオン注入工程〕
第2実施形態では、マスクメタルにより、基材51の表面にパターン部52を形成する。
この製造方法について、図6を用いて説明する。図6は、第2実施形態にかかるカバーガラスの製造工程を示す概略図であり、(A)はメタルマスクを載置した基材にイオンを注入する状態を示す断面図、(B)は基材に対して別のイオンを注入する状態を示す断面図である。
【0056】
まず、基材51を90℃の熱硫酸(硫酸過水)で洗浄し、純水でリンスした後、120℃の対流オーブンに入れて乾燥させる。
次に、図6(A)に示すように、ステンレス鋼(SUS)製のメタルマスク60を基材51の表面に載置した状態で、前述のイオン注入装置20を用い第1実施形態と同様にして、基材51にAgイオンを注入する。このときのイオン注入装置20の電圧は20KeVで、イオン注入量は、3.0E16ions/cmである。
なお、メタルマスク60は、Agイオンを注入する領域、すなわち赤色に発色させたい領域のみ孔があいたパターンが形成されている。
【0057】
続いて、図6(B)に示すように、同じパターンのメタルマスク60を基材51の表面に載置した状態で、Nb(ニオブ)イオンを基材51に注入する。このときのイオン注入装置20の電圧は20KeVで、イオン注入量は、3.0E16ions/cmである。
【0058】
〔2.熱処理工程〕
そして、基材51を800℃の大気炉に入れ、1時間熱処理(アニール処理)を実施する。
その結果、図5に示すような、紫色に発色した発色部521と、無色部522とからなるパターン部52が、基材51の表面層に形成される。
【0059】
以上のように製造されたカバーガラス50は、第1実施形態と同様に、時計のカバーガラスとして使用される。
【0060】
〔第2実施形態による効果〕
以上の第2実施形態によれば、前述の第1実施形態の(1)(2)(4)と同様の作用効果のほか、次のような作用効果が得られる。
(5)第2実施形態では、メタルマスクを用いてイオン注入工程で所望の形状のパターン部52を形成した。メタルマスクによれば、発色させたい領域にのみ正確にイオン注入することができるので、見た目に美しい形状のパターン部52を形成することができる。すなわち、デザイン性に優れた製品を確実に製造することができる。
【0061】
[第3実施形態]
第3実施形態の透光性部材は、第2実施形態と同様に、紫色に発色する発色部を備えたカバーガラス50である。
【0062】
〔カバーガラスの構成〕
カバーガラス50は、図5に示すように、サファイアガラスからなる透明な基材51を備えている。
基材51の表面には、基材51が紫色に発色して形成された発色部521と、無色透明な無色部522と、により、パターン部52が形成されている。
発色部521は、見た目は紫色に発色するため第2実施形態と同様であるが、微視的には、発色部521は、赤色部と青色部とが細かいドット状に規則正しく並んで形成されており、発色部521全体としては紫色に発色して見えるものである。
【0063】
〔カバーガラスの製造方法〕
〔1.イオン注入工程〕
第3実施形態では、第2実施形態と同様に、マスクメタルによって基材51の表面にパターン部52を形成する。
この製造方法について、図7を用いて説明する。図7は、第3実施形態にかかるカバーガラスの製造工程を示す概略図であり、(A)はメタルマスクを載置した基材にイオンを注入する状態を示す断面図、(B)は別のメタルマスクを載置した基材に別のイオンを注入する状態を示す断面図である。
【0064】
まず、基材51を90℃の熱硫酸(硫酸過水)で洗浄し、純水でリンスした後、120℃の対流オーブンに入れて乾燥させる。
次に、図7(A)に示すように、ステンレス鋼(SUS)製のメタルマスク70を基材51の表面に載置した状態で、前述のイオン注入装置20を用い第1実施形態と同様にして、基材51にAgイオンを注入する。このときのイオン注入装置20の電圧は20KeVで、イオン注入量は、3.0E16ions/cmである。
なお、メタルマスク70は、Agイオンを注入する領域、すなわち赤色部521Aに該当する領域のみ孔があいたパターンが形成されている。
【0065】
続いて、図7(B)に示すように、メタルマスク70とは異なるパターンで形成されたメタルマスク80を基材61の表面に載置した状態で、Nb(ニオブ)イオンを基材61に注入する。このときのイオン注入装置20の電圧は20KeVで、イオン注入量は、3.0E16ions/cmであった。
なお、メタルマスク80は、Nbイオンを注入する領域、すなわち青色部521Bに該当する領域のみ孔があいたパターンが形成されている。
【0066】
〔2.熱処理工程〕
そして、基材51を800℃の大気炉に入れ、1時間熱処理(アニール処理)を実施する。その結果、赤色に発色した赤色部521Aと青色に発色した青色部521Bとにより紫色に発色して見える発色部521が形成され、無色部522とともに基材51の表面層にパターン部52を形成する。
【0067】
以上のように製造されたカバーガラス50は、第1実施形態と同様に、時計のカバーガラスとして使用される。
【0068】
〔第3実施形態による効果〕
以上の第3実施形態によれば、前述の第2実施形態の(1)(2)(4)(5)と同様の作用効果のほか、次のような作用効果が得られる。
(6)第3実施形態では、2種の金属イオンを細かいドット状に別々の領域に注入することにより、新たな色が発色して見える構成とした。
すなわち、一つの領域に一種類のイオンしか注入されないので、発色がより美しくなる。
【0069】
[本発明の変形例]
本発明は、以上述べた実施形態には限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で種々の改良および変形を行うことが可能である。
【0070】
例えば、前記実施形態では、イオン注入するためにイオン注入装置20を用いたが、図8に示すプラズマイオン注入装置(PBII:Plasma Based Ion Implantation)90を用いてもよい。プラズマイオン注入装置90は、プラズマ生成用の高周波電源(RF電源)91と、イオン注入用の負の高電圧パルス源であるパルス発振器92を備え、回路部93および端子94を介して接続されたSUS(ステンレス鋼)製のチャンバー95とを備える。チャンバー95は、導入部951から金属イオンまたは半金属イオンを含む原料ガスを導入し、排気部952からチャンバー95内の気体を排気する。また、チャンバー95内には、カバーガラス10を載置する導体96が電極として設置されている。このようなプラズマイオン注入装置90として、例えば、半導体用として汎用的に用いられるPBII(Plasma Based Ion Implantation)装置が好ましく適用できる。
【0071】
また、本発明の透光性部材は、時計に使用されるカバー部材に限らず、携帯電話、携帯情報機器、計測機器、ディジタルカメラ、プリンタ、ダイビングコンピュータ、脈拍計等の各種機器における情報表示部のカバー部材として好適に使用できる。
【0072】
さらに、第3実施形態では、異なる色を発色するイオンを細かいドット状に規則正しく注入することにより混合色に見える状態としたが、細かいドット状ではなく、通常の模様を形成する程度の大きさの形状にイオンを注入すれば、異なる色のパターン部を形成することができる。すなわち、様々な色からなる鮮やかなパターン部を基材の表面層に形成することができるので、デザイン性に優れたカバーガラスを製造することができる。
【0073】
そして、透光性部材の基材としては、高硬度のサファイアガラスが好適であるが、このほか、石英ガラス、ソーダガラス等の使用も検討してよい。
【0074】
また、前記実施形態では、基材のみで透光性部材としたが、基材の表面に反射防止層や防汚層などの機能性を有する層を積層してもよい。これによれば、透光性部材に反射防止機能や防汚機能などの各種機能を付与することができる。
【実施例】
【0075】
透光性部材に注入するイオンの注入量による効果とイオンの種類による色の効果を以下の方法で確認した。
[試験体の作成]
サファイアガラスを基板として用い、この基板を90℃の熱硫酸(硫酸過水)で洗浄した後、純水でリンスし、120℃の対流オーブンで乾燥させた。
次に、SUSメタルマスクを基板の上に載置した状態で、イオンガン型のイオン注入装置を用い、電圧20KeVでイオン注入を行った。
その後、大気炉500℃で1時間熱処理を行い、試験体を完成させた。
なお、注入するイオンの種類と注入量は以下の実施例1〜3に示す。
【0076】
[実施例1−1]
イオンの種類:Agイオン
注入量 :0.5E16ions/cm
【0077】
[実施例1−2]
イオンの種類:Agイオン
注入量 :2.0E16ions/cm
【0078】
[実施例1−3]
イオンの種類:Agイオン
注入量 :3.0E16ions/cm
【0079】
[実施例1−4]
イオンの種類:Agイオン
注入量 :4.0E16ions/cm
【0080】
[実施例1−5]
イオンの種類:Agイオン
注入量 :5.0E16ions/cm
【0081】
[実施例2]
イオンの種類:Nbイオン
注入量 :3.0E16ions/cm
【0082】
[実施例3]
イオンの種類:Siイオン
注入量 :3.0E16ions/cm
【0083】
[評価]
実施例1−1から実施例1−5で作成した試験体の光吸収特性を測定した結果を以下の図9に示す。図9は、Agイオンの注入量に対する吸光強度を示すグラフである。
【0084】
図9に示すように、Agイオンの注入量が多いほど、吸収特性に優れており、色が濃くなることを確認できた。また、実施例1−1から実施例1−5では、基材が黄色に発色することを確認できた。
また、実施例2のNbイオンの場合、基材は青色に発色することを確認できた。
さらに、実施例3のSiイオンの場合、基材は茶色に発色することを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるカバーガラスの平面図。
【図2】第1実施形態にかかるイオン注入装置の概略構成を示す図。
【図3】第1実施形態にかかるカバーガラスの製造工程を示す概略図であり、(A)は基材にレジストを載置した状態を示す断面図、(B)は基材に対してイオン注入を実施している状態を示す断面図、(C)は基材からレジストを除去した状態を示す断面図。
【図4】第1実施形態にかかるカバーガラスを備えた時計の断面図。
【図5】本発明の第2実施形態にかかるカバーガラスの平面図。
【図6】第2実施形態にかかるカバーガラスの製造工程を示す概略図であり、(A)はメタルマスクを載置した基材にイオンを注入する状態を示す断面図、(B)は基材に対して別のイオンを注入する状態を示す断面図。
【図7】本発明の第3実施形態にかかるカバーガラスの製造工程を示す概略図であり、(A)はメタルマスクを載置した基材にイオンを注入する状態を示す断面図、(B)は別のメタルマスクを載置した基材に別のイオンを注入する状態を示す断面図。
【図8】本発明の変形例であるプラズマイオン注入装置の概略構成を示す図。
【図9】Agイオンの注入量に対する吸光強度を示すグラフ。
【符号の説明】
【0086】
10、50・・・カバーガラス、11、51・・・基材、12、52・・・パターン部、121、521・・・発色部、122、522・・・無色部、20・・・イオン注入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材からなる透光性部材であって、
前記基材は、金属イオンおよび半金属イオンのうち少なくとも一つが注入されることにより、表面層が選択的に発色して形成されるパターン部を備えたことを特徴とする透光性部材。
【請求項2】
請求項1に記載の透光性部材において、
前記金属イオンは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ag、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Bi、Fr、Ra、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、Np、Puのうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする透光性部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透光性部材において、
前記半金属イオンは、B、Si、Ge、Sb、Te、Poのうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする透光性部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の透光性部材において、
前記基材が無機酸化物である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項5】
請求項4に記載の透光性部材において、
前記無機酸化物がサファイアガラスである
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の透光性部材の製造方法であって、
前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちいずれか一つを前記基材の一部に注入するイオン注入工程と、
前記基材の熱処理を行う熱処理工程と、を実施することを特徴とする透光性部材の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の透光性部材の製造方法において、
前記イオン注入工程は、
前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちいずれか一つを、前記基材の一部である第一の領域に注入する第一の注入工程と、
前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちのいずれか他の一つを、前記基材のうち前記第一の領域とは異なる第二の領域に注入する第二の注入工程と、を実施することを特徴とする透光性部材の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の透光性部材の製造方法において、
前記イオン注入工程は、
前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちのいずれか一つを、前記基材の一部である第一の領域に注入する第一の注入工程と、
前記金属イオンおよび前記半金属イオンのうちのいずれか他の一つを、前記第一の領域に注入する第三の注入工程と、を実施することを特徴とする透光性部材の製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の透光性部材の製造方法において、
前記イオン注入工程は、電場で加速された前記金属イオンまたは前記半金属イオンが前記基材に注入されることを特徴とする透光性部材の製造方法。
【請求項10】
請求項7または請求項8に記載の透光性部材の製造方法において、
前記イオン注入工程は、放電プラズマ状態下で発生した前記金属イオンまたは前記半金属イオンが、前記基材への電荷印加によって注入されることを特徴とする透光性部材の製造方法。
【請求項11】
請求項7または請求項8に記載の透光性部材の製造方法において、
前記パターン部は、フォトリソグラフィーによって形成されることを特徴とする透光性部材の製造方法。
【請求項12】
請求項7または請求項8に記載の透光性部材の製造方法において、
前記パターン部は、メタルマスクによって形成されることを特徴とする透光性部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の透光性部材を備えた時計であって、
前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる
ことを特徴とする時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−216452(P2009−216452A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58189(P2008−58189)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】