説明

透明フィルム

【課題】光学特性、熱線膨張係数等の耐熱性に優れた透明フィルム、特に表示素子用プラスチック基板用フィルムを提供する。
【解決手段】フマル酸ジエステル系樹脂および環状エーテル基を有するポリオルガノシロキサンからなることを特徴とする透明フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フマル酸ジエステル系樹脂および環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサンからなる新規な透明フィルムに関するものである。詳細には、光学特性及び熱線膨張係数等の耐熱性に優れた透明フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの基板には一般にガラス基板が用いられているが、割れやすい、比重が大きい、柔軟性および加工性に乏しい等の課題がある。透明樹脂からなる透明プラスチックフィルムが使用できれば、薄膜化、軽量化、フレキシブル性付与など様々なメリットが考えられる。しかしながら、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示素子用プラスチックフィルムには、高い耐熱性や優れた光学特性など厳しい特性が要求される。これは液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの製造における薄膜トランジスタの形成工程やパネルの張り合わせ工程、透明電極形成工程などで、150℃から200℃以上の高いプロセス温度が必要なためである。
【0003】
我々はフマル酸ジエステル系樹脂からなるディスプレイ用プラスチック基板が優れた耐熱性および良好な光学特性を有することを提案している(例えば、特許文献1参照)。しかし当該プラスチック基板では熱線膨張係数の改善が課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−97544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、光学特性および耐熱性に優れ、かつ熱線膨張係数が小さい透明フィルム、特に表示素子用プラスチック基板用フィルムを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フマル酸ジエステル系樹脂および特定のオルガノポリシロキサンからなる透明フィルムが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、フマル酸ジエステル系樹脂および環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサンからなることを特徴とする透明フィルムに関するものである。
【0008】
以下、本発明の透明フィルムについて詳細に説明する。
【0009】
本発明におけるフマル酸ジエステル系樹脂は、フマル酸ジエステルの重合体が挙げられ、その中でも下記一般式(1)で表されるフマル酸ジエステル残基単位を50モル%以上、特に80モル%以上からなるフマル酸ジエステル系樹脂が好ましい。
【0010】
【化1】

【0011】
(ここで、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、炭素数1〜12の分岐状アルキル基、炭素数3〜6の環状アルキル基を示す。)
ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、炭素数1〜12の分岐状アルキル基、炭素数3〜6の環状アルキル基であり、これらはフッ素、塩素などのハロゲン基;エーテル基;エステル基もしくはアミノ基で置換されていてもよい。
【0012】
、Rにおける炭素数1〜12の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、炭素数3〜6の環状アルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらの中でもイソプロピル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、特にイソプロピル基が好ましい。
【0013】
具体的な一般式(1)で表わされるフマル酸ジエステル残基単位としては、例えばフマル酸ジメチル残基単位、フマル酸ジエチル残基単位、フマル酸ジプロピル残基単位、フマル酸ジイソプロピル残基単位、フマル酸ジ−n−ブチル残基単位、フマル酸ジイソブチル残基単位、フマル酸ジ−sec−ブチル残基単位、フマル酸ジ−tert−ブチル残基単位、フマル酸ジ−n−ペンチル残基単位、フマル酸ジ−イソペンチル残基単位、フマル酸ジ−sec−ペンチル残基単位、フマル酸ジ−tert−ペンチル残基単位、フマル酸ジ−n−ヘキシル残基単位、フマル酸ビス−(2−エチルヘキシル)残基単位、フマル酸ジシクロプロピル残基単位、フマル酸ジシクロブチル残基単位、フマル酸ジシクロペンチル残基単位、フマル酸ジシクロヘキシル残基単位等が挙げられ、その中でもフマル酸ジイソプロピル残基単位、フマル酸ジ−tert−ブチル残基単位、フマル酸ジシクロペンチル残基単位、フマル酸ジシクロヘキシル残基単位が好ましく、特にフマル酸ジイソプロピル残基単位が好ましい。また、これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0014】
また、該フマル酸ジエステル系樹脂は、他の単量体残基単位を含有していてもよく、他の単量体残基単位としては、例えばスチレン残基単位、α−メチルスチレン残基単位等のスチレン類残基単位;(メタ)アクリル酸残基単位;(メタ)アクリル酸メチル残基単位、(メタ)アクリル酸エチル残基単位、(メタ)アクリル酸ブチル残基単位、(メタ)アクリル酸グシリジル残基単位等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基単位、(メタ)アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基単位等のオキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基単位、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル残基単位等のテトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基単位等の(メタ)アクリル酸エステル類残基単位;酢酸ビニル残基単位、プロピオン酸ビニル残基単位等のビニルエステル類残基単位;アクリロニトリル残基単位;メタクリロニトリル残基単位;メチルビニルエーテル残基単位、エチルビニルエーテル残基単位、ブチルビニルエーテル残基単位等のビニルエーテル類残基単位;N−メチルマレイミド残基単位、N−シクロヘキシルマレイミド残基単位、N−フェニルマレイミド残基単位等のN−置換マレイミド類残基単位;エチレン残基単位、プロピレン残基単位等のオレフィン類残基単位、より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。これらの中でも他の単量体残基単位としては、オキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基単位、テトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基単位が好ましい。
【0015】
具体的な本発明におけるフマル酸ジエステル系樹脂としては、例えばフマル酸ジイソプロピル樹脂、フマル酸ジイソプロピル/アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル共重合体樹脂、フマル酸ジイソプロピル/アクリル酸テトラヒドロフルフリル共重合体樹脂、フマル酸ジシクロヘキシル/アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル共重合体樹脂等が挙げられ、特にフマル酸ジエステル樹脂、フマル酸ジイソプロピル/アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル共重合体樹脂等が好ましい。
【0016】
本発明におけるフマル酸ジエステル系樹脂は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量が50,000〜250,000であることが好ましい。
【0017】
本発明におけるフマル酸ジエステル系樹脂の製造方法としては、該フマル酸ジエステル系樹脂が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよく、例えばフマル酸ジエステル類、場合によってはフマル酸ジエステル類と共重合可能な他の単量体を併用しラジカル重合あるいはラジカル共重合を行うことにより製造することができる。この際のフマル酸ジエステル類としては、例えばフマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジ−n−ブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジ−sec−ブチル、フマル酸ジ−tert−ブチル、フマル酸ジ−n−ペンチル、フマル酸ジイソペンチル、フマル酸ジ−sec−ペンチル、フマル酸ジ−tert−ペンチル、フマル酸ジ−n−ヘキシル、フマル酸ビス−(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジシクロプロピル、フマル酸ジシクロブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシル等が挙げられ、フマル酸ジエステルと共重合可能な単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル等のオキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のテトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0018】
前記ラジカル重合は公知の重合方法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれも採用可能である。
【0019】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0020】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン(THF);アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0021】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には40〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0022】
本発明におけるオルガノポリシロキサンは、シロキサン結合で構成されるシルセスキオキサンであることが好ましい。シルセスキオキサンの構造は、ランダム構造やラダー構造、カゴ構造が挙げられ、それらは一種、または二種以上の混合物として使用できる。
【0023】
本発明のポリオルガノシロキサンは、シロキサン結合以外のケイ素に有機官能基が結合しており、その官能基が環状エーテル基である。環状エーテル基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基、テトラヒドロフルフリル基などが挙げられ、その中でもエポキシ基、オキセタニル基が好ましく、これらは任意の割合で官能基を有する。
【0024】
そして、具体的な環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサンとしては、例えばグリシジロキシプロピル基を有するシルセスキオキサン、エポキシシクロヘキシルエチル基を有するシルセスキオキサン、3−エチル−3−オキセタニルプロピル基を有するシルセスキオキサン等が挙げられ、特に3−エチル−3−オキセタニルプロピル基を有するシルセスキオキサンが好ましい。
【0025】
本発明の透明フィルムにおけるフマル酸ジエステル系樹脂と環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサンの割合は、フマル酸ジエステル系樹脂50〜99重量%、環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサン50〜1重量%が好ましく、特に好ましくはフマル酸ジエステル系樹脂70〜95重量%、環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサン30〜5重量%である。
【0026】
本発明の透明フィルムの製造方法としては、フィルムの製造が可能であれば如何なる方法を用いてもよく、例えば溶液キャスティング法、溶融キャスティング法等の方法によってフィルム化して製造できる。
【0027】
溶液キャスティング法は、フマル酸ジエステル系樹脂を溶媒に溶解した溶液(以下、ドープと称する。)を支持基板上に流延した後、加熱等により溶媒を除去しフィルムを得る方法である。その際ドープを支持基板上に流延する方法としては、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられる。特に、工業的にはダイからドープをベルト状又はドラム状の支持基板に連続的に押し出す方法が最も一般的である。用いられる支持基板としては、例えばガラス基板;ステンレスやフェロタイプ等の金属基板;ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)等のプラスチック基板などが挙げられる。溶融キャスティング法において、高い透明性を有し、且つ厚み精度、表面平滑性に優れたフィルムを製膜する際には、ドープの溶液粘度は極めて重要な因子であり、700〜30000cpsが好ましく、特に1000〜10000cpsであることが好ましい。また、溶融キャスティング法とは、フマル酸ジエステル系樹脂を押出機内で溶融し、Tダイのスリットからフィルム状に押出した後、ロールやエアーなどで冷却しつつ引き取る成形法である。
【0028】
本発明の透明フィルムの膜厚は特に制限なく、10〜500μmが好ましく、特に好ましいのは30〜200μmの範囲がハンドリング性の点でよい。
【0029】
本発明の透明フィルムは、より熱線膨張係数に優れた透明フィルムとなることからオルガノポリシロキサンの環状エーテル基を反応させることによって、架橋体とすることが好ましい。透明フィルムを架橋体とする方法としては、特に制限はなく、紫外光の照射および/又は熱を加えて行なう方法が挙げられる。
【0030】
紫外光の照射により架橋する方法としては、例えば水銀ランプやメタルハライドランプ等を光源として用いる方法、熱によって架橋する方法としては、単に加熱する方法が挙げられる。
【0031】
光、熱による架橋を行う際、オルガノポリシロキサンの環状エーテル基のみを反応させて架橋体を得る以外として、オルガノポリシロキサンの環状エーテル基と反応性を示す官能基を有する単量体単位を含むフマル酸ジエステル系樹脂を用いることが可能であり、その場合、オルガノポリシロキサンは架橋反応によってフマル酸ジエステル系樹脂のポリマー鎖の一部として取り込まれることとなり、より架橋度の高い架橋体を得ることができる。
【0032】
オルガノポリシロキサンの環状エーテル基と反応する官能基としては、同様な環状エーテル基が挙げられ、例えばフマル酸ジエステル系樹脂におけるフマル酸ジエステル残基以外の単量体残基として、環状エーテル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基、(メタ)アクリル酸グリシジル残基、(メタ)アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル残基等を含むものが好ましい。
【0033】
また、光、熱による架橋を行う際に架橋促進剤を用いることが好ましく、該架橋促進剤としては、例えばフェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモン酸、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロリン酸等の芳香族ジアゾニウム塩;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモン酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロリン酸等の芳香族ヨードニウム塩;トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモン酸、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロリン酸等の芳香族スルホニウム塩等が挙げられる。架橋促進剤の添加量は、フマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、特に好ましくは0.2〜5重量部である。
【0034】
本発明の透明フィルムは透明性に優れるものであり、全光線透過率は85%以上が好ましく、特に好ましくは90%以上である。
【0035】
また、透明フィルムのヘーズは2.0%以下が好ましく、特に好ましくは1.0%以下である。
【0036】
本発明の透明フィルムの熱線膨張係数は、80ppm/℃以下が好ましく、特に好ましくは60ppm/℃以下である。
【0037】
本発明の透明フィルムには、発明の趣旨を超えない範囲で、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等が加えられていてもよい。
【0038】
本発明の透明フィルムは、カラーフィルター用プラスチック基板、フラットパネルディスプレイ用薄膜トランジスタアレイフィルム基板、タッチパネル用導電性プラスチック基板、太陽電池用フィルム基板として使用可能である。
【発明の効果】
【0039】
本発明の透明フィルムは、透明性、熱線膨張係数等耐熱性に優れるものであり、特に液晶表示素子用ディスプレイ用フィルム基板として適したものである。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
なお、実施例により示す諸物性は、以下の方法により測定した。
【0042】
〜透明性の評価方法〜
ヘーズメーター(日本電色工業製、商品名NDH5000)を使用して、フィルムの全光線透過率およびヘーズを測定した。
【0043】
〜熱線膨張係数の測定〜
無加重条件において、10℃から240℃まで、5℃/min.で昇降温させ、測定2回目の昇降温から求められる膨張係数の平均値を熱線膨張係数とした。
【0044】
〜フマル酸ジエステル系樹脂の組成〜
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(H−NMR)スペクトル分析より求めた。
【0045】
〜数平均分子量の測定〜
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名C0−8011(カラムGMHHR−Hを装着))を用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃で測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0046】
合成例1(フマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル樹脂)の合成1)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた30Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)40g、蒸留水15.6kg、フマル酸ジイソプロピル8.4kg、および重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート60gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、200rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液を遠心分離した。得られたポリマー粒子を蒸留水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系樹脂を得た(収率:81%)。
【0047】
得られたフマル酸ジエステル系樹脂の数平均分子量は150,000であった。
【0048】
合成例2(フマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル共重合体樹脂)の合成2)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた3Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)5g、蒸留水1.5kg、フマル酸ジイソプロピル970g、アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル30gおよび重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート7gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、蒸留水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系樹脂を得た。(収率:85%)。
【0049】
得られたフマル酸ジエステル系樹脂の数平均分子量は145,000であった。また、H−NMR測定により、樹脂組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基単位=96/4(モル%)であることを確認した。
【0050】
実施例1
合成例1により得られたフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、3−エチル−3−オキセタニルプロピル基(環状エーテル基としてオキセタニル基)を有するシルセスキオキサン10重量部、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロリン酸1重量部、テトラヒドロフラン400重量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.5重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト1.0重量部を混合した20重量%の樹脂溶液を調製した。(フマル酸ジエステル系樹脂:環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサン=91:9(重量%))。
【0051】
次いで、上記樹脂溶液を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、50℃で5分乾燥後、更に100℃で10分乾燥することにより、厚み80μmのフィルムを作製した。
【0052】
作製したフィルムは、水銀ランプで紫外光を5分間照射することによって架橋フィルムを得た(厚み80μm)。
【0053】
得られたフィルムは、全光線透過率が92%、ヘーズ0.6%であったことから透明性が良好なフィルムであった。また、200℃で1時間加熱した後のフィルムは、着色や透明性の低下は見られず耐熱性に優れていた。該フィルムの熱線膨張係数は76ppm/℃であった。
【0054】
実施例2
合成例1により得られたフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、グリシジロキシプロピル基(環状エーテル基としてエポキシ基)を有するシルセスキオキサン25重量部、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロリン酸1重量部、テトラヒドロフラン400重量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.5重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト1.0重量部を混合した20重量%の樹脂溶液を調製した。(フマル酸ジエステル系樹脂:環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサン=80:20(重量%))。
【0055】
次いで、上記樹脂溶液を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、50℃で5分乾燥後、更に100℃で10分乾燥することにより、厚み100μmのフィルムを作製した。
【0056】
作製したフィルムは、水銀ランプで紫外光を5分間照射することによって架橋フィルムを得た(厚み100μm)。
【0057】
得られたフィルムは、全光線透過率が90%、ヘーズ1.1%であったことから透明性が良好なフィルムであった。また、200℃で1時間加熱した後のフィルムは、着色や透明性の低下は見られず耐熱性に優れていた。該フィルムの熱線膨張係数は71ppm/℃であった。
【0058】
実施例3
合成例2により得られたフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、3−エチル−3−オキセタニルプロピル基(環状エーテル基としてオキセタニル基)を有するシルセスキオキサン10重量部、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロリン酸1重量部、テトラヒドロフラン400重量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.5重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト1.0重量部を混合した20重量%の樹脂溶液を調製した。(フマル酸ジエステル系樹脂:環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサン=91:9(重量%))。
【0059】
次いで、上記樹脂溶液を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、50℃で10分乾燥後、更に100℃で10分乾燥することにより、厚み150μmのフィルムを作製した。
【0060】
作製したフィルムは、水銀ランプで紫外光を5分間照射することによって架橋フィルムを得た。(厚み150μm)。
【0061】
得られたフィルムは、全光線透過率が90%、ヘーズ1.0%であったことから透明性が良好なフィルムであった。また、200℃で1時間加熱した後のフィルムは、着色や透明性の低下は見られず耐熱性に優れていた。該フィルムの熱線膨張係数は60ppm/℃であった。
【0062】
実施例4
合成例2により得られたフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、エポキシシクロヘキシルエチル基(環状エーテル基としてエポキシ基)を有するシルセスキオキサン5重量部、テトラヒドロフラン400重量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.5重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト1.0重量部を混合した20重量%の樹脂溶液を調製した。(フマル酸ジエステル系樹脂:環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサン=95:5(重量%))。
【0063】
次いで、上記樹脂溶液を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、50℃で10分乾燥後、更に100℃で10分乾燥することにより、厚み80μmのフィルムを作製した。
【0064】
得られたフィルムは、全光線透過率が92%、ヘーズ0.6%であったことから透明性が良好なフィルムであった。また、200℃で1時間加熱した後のフィルムは、着色や透明性の低下は見られず耐熱性に優れていた。該フィルムの熱線膨張係数は80ppm/℃であった。
【0065】
比較例1
合成例1により得られたフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、テトラヒドロフラン400重量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.5重量部、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト1.0重量部を混合した20重量%の樹脂溶液を調製した。
【0066】
次いで、上記樹脂溶液を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、50℃で5分乾燥後、更に100℃で10分乾燥することにより、厚み80μmのフィルムを作製した。
【0067】
得られたフィルムは、全光線透過率が92%、ヘーズ0.5%であったことから透明性が良好なフィルムであった。また、200℃で1時間加熱した後のフィルムは、着色や透明性の低下は見られず耐熱性に優れていた。しかしながら、該フィルムの熱線膨張係数は110ppm/℃と大きな値であった。
【0068】
よって、環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサンを用いなかったことから熱線膨張係数に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジエステル系樹脂および環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサンからなることを特徴とする透明フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の透明フィルムを硬化させて得られることを特徴とする架橋透明フィルム。
【請求項3】
フマル酸ジエステル系樹脂が下記一般式(1)で表されるフマル酸ジエステル系残基単位50モル%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の透明フィルム。
【化1】

(式中、RおよびRは炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、炭素数1〜12の分岐状アルキル基、炭素数3〜6の環状アルキル基を示す。)
【請求項4】
フマル酸ジエステル系樹脂50〜99重量%、環状エーテル基を有するオルガノポリシロキサン50〜1重量%からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項5】
フィルムの厚みが10〜500μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項6】
全光線透過率が85%以上、ヘーズが2.0%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項7】
熱線膨張係数が80ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の透明フィルムからなることを特徴とするカラーフィルター用プラスチック基板、薄膜トランジスタアレイ用プラスチック基板、タッチパネル用透明導電性プラスチック基板、太陽電池用透明プラスチック基板。

【公開番号】特開2011−137051(P2011−137051A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295872(P2009−295872)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】