説明

透明導電性積層体

【課題】ITOにはその特性上、450nm以下の短波長域に吸収があるため、透過色としては黄色くなってしまう問題があったので、透過色に黄色味の無い、ニュートラルな色味を有する透明導電性積層体を提供する。
【解決手段】透明な基板2の一方の面に基板の屈折率と比較して高屈折率材料3、低屈折率材料4をこの順番で積層し、最外層に透明導電膜5を形成した、透明導電性基板1において、その透過光をD65光源2°視野のL*a*b*表色系で表した時のb*が2以下である、透明導電性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電性積層体に関し、詳しくは、屈折率の異なる薄膜を積層することにより、透過色を補正する機能を有する透明導電性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
最表面に透明導電膜が形成された3層以上の薄膜を積層した反射防止積層体の例は特許文献1に挙げられるような各層の屈折率が限定されたもの、特許文献2のようにタッチパネル用途で透明導電膜を25nm以下に限定した反射防止積層体が知られている。さらには、特許文献3のように各層の材料および膜厚が限定された積層体も知られている。
【0003】
以下に上記先行技術文献を示す。
【特許文献1】WO00/63924
【特許文献2】特開平11−53114号公報
【特許文献3】特許第2509215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透明電極として最も一般的に用いられている酸化インジウム錫(ITO)は、一般的なガラスやプラスチック基材に比べ、屈折率の高い、高屈折率材料に分類されることから、単純に基板上にITOを形成すると、透過率が低下(反射率が増大)してしまう。そこで、基板とITO膜の間に複数の高屈折率材料、低屈折率材料を適当な膜厚に形成することにより、その透過率を増大させる(反射率を低減させる)ことが可能である。
【0005】
しかるに、一般に可視光域の透過率を増大させようとした場合、最も視感度の高い、波長550nm付近の透過率を増大させるような、光学膜構成を採用するが、ITOにはその特性上、450nm以下の短波長域に吸収があるため、透過色としては黄色くなってしまう問題があった。
【0006】
本発明では、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、透過色に黄色味の無い、ニュートラルな色味を有する透明導電性積層体を供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための手段として、
請求項1に記載の発明は、透明な基板の一方の面に基板の屈折率と比較して高屈折率材料、低屈折率材料をこの順番で積層し、最外層に透明導電膜を形成した、透明導電性基板において、その透過光をD65光源2°視野のL*a*b*表色系で表した時のb*が2以下であることを特徴とする、透明導電性積層体である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、基板単体の透過光をD65光源2°視野のL*a*b*表色系で表した時のb*が1以下である透明基板の一方の面に基板の屈折率と比較して高屈折率材料、低屈折率材料をこの順番で積層し、最外層に透明導電膜を形成した、透明導電性基板において、その透過光のb*が1以下であることを特徴とする、透明導電性積層体である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1あるいは2に記載の透明導電性積層体において、表面抵抗値が20Ω/□から150Ω/□の範囲であることを特徴とする、透明導電性積層
体である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れかに記載の透明導電性積層体において、1層目の高屈折率材料の光学膜厚がnd<λ/8(400nm<λ<800nm)であることを特徴とする、透明導電性積層体である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れかに記載の透明導電性積層体において、基板がプラスチックであることを特徴とする、透明導電性積層体である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の透明導電性積層体において、透明導電膜をパターニング工程後の積層体の水蒸気透過率が40℃90%Rh.の条件において、0.5g/m2・day以下であることを特徴とする、透明導電性積層体である。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れかに記載の透明導電性積層体を用いた表示装置である。
【発明の効果】
【0014】
透明な基板の一方の面に基板の屈折率と比較して高屈折率材料、低屈折率材料をこの順番で積層し、最外層に透明導電膜を形成した、透明導電性基板において、その透過光をL*a*b*表色系で表した時のb*を2以下となるような膜構成にすることにより、視覚的に黄色味のないニュートラルな色味を有する透明導電性積層体となる。
【0015】
さらに、b*を1以下になるような膜構成にすることにより、成膜面内の屈折率や膜厚の若干のバラツキによる色相変化によっても黄色味を視覚される恐れが少なくなる効果がある。
【0016】
一般に透明導電膜が低抵抗になればなるほど、膜厚が厚くなることから、黄色味が顕著となる。デジタル式タッチパネルで用いられる抵抗値よりも低く、例えば無機EL用基板に用いられるような150Ω/□以下の透明導電膜を形成する場合、高屈折率、低屈折率の少なくとも2層を透明導電膜と基板の間に形成することにより、黄色味を抑えることが可能となる。
【0017】
通常反射防止機能を付与する場合、波長550nm付近の反射率を低減させる(透過率を高める)ため、1層目の高屈折率材料の光学膜厚はnd>λ/8(400nm<λ<800nm)とするが、nd<λ/8とすることにより、短波長域における透過率を高め、結果的に黄色味を抑える効果がある。また、膜厚を薄くすることにより製造コストを下げる効果もある。
【0018】
基板をプラスチックのようなフレキシブルな材料にすることにより、衝撃により破損することのない電極基板となる。また、薄膜を形成する際、ロールトゥロール方式により連続的に大量に量産が可能となり、生産コストを抑えることが可能となる。
【0019】
プラスチック基板は通常、水蒸気等のガス遮蔽性に乏しく、特にエレクトロニクスデバイス材料の劣化を引き起こすが、基板上の高屈折率材料および/あるいは低屈折率材料にバリア性能を有する薄膜を用い、透明導電膜層のエッチング工程後の積層体の水蒸気透過率を40℃90%Rh.の条件において、0.5g/m2・day以下とすることにより、エレクトロニクスデバイス材料の劣化を抑制し、デバイス寿命を延ばすことが可能となる。
【0020】
本発明の透明導電性積層体を表示装置に用いることにより、色再現性の良好な表示が可
能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面を用いながら説明する。
【0022】
図1の概略図は、透明基板(2)の一方の面に、基板の屈折率と比較して高屈折率材料(3)、低屈折率材料(4)をこの順番で積層し、最外層に透明導電膜(5)を形成した透明導電性積層体(2)である。
【0023】
本発明で用いる透明基板(2)にはガラスやプラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムとしては成膜工程および後工程において十分な強度があり、表面の平滑性が良好であれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリイミド等が挙げられる。特に表示装置前面板に適用する場合は、透明性と耐熱性に優れたポリカーボネートやポリエーテルサルホンが好適に用いられる。その厚さは部材の薄型化と基材の可撓性とを考慮し、10〜200μm程度のものが用いられる。これら基材の表面に周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤、易接着剤などが使用されてもよい。またバリア層との密着性を改善するため、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理などを施してもよい。
【0024】
高屈折率材料(3)、低屈折率材料(4)は、有機材料でも無機材料であっても屈折率の関係を満足するものであれば特に限定されないが、セラミック薄膜としては、酸化物、硫化物、フッ化物、窒化物などの材料が使用可能である。上記無機化合物からなる薄膜は、その材料により屈折率が異なり、その屈折率の異なるセラミック薄膜を特定の膜厚で複数層積層することにより、光学特性を調整することが可能となる。
【0025】
屈折率の低い材料としては、酸化マグネシウム(1.6)、二酸化珪素(1.5)、フッ化マグネシウム(1.4)、フッ化カルシウム(1.3〜1.4)、フッ化セリウム(1.6)、フッ化アルミニウム(1.3)などが挙げられる。また、屈折率の高い材料としては、二酸化チタン(2.4)、二酸化ジルコニウム(2.0)、硫化亜鉛(2.3)、酸化タンタル(2.1)、酸化亜鉛(2.1)、酸化インジウム(2.0)が挙げられる。但し、上記括弧内の数値は屈折率を表す。
【0026】
本発明における高屈折率材料や低屈折率材料の製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる成膜方法でも良く、なかでも薄膜の生成には乾式法が優れている。これには真空蒸着法、スパッタリング等の物理的気相析出法やCVD法のような化学的気相析出法を用いることができる。
【0027】
透明導電膜(5)は、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズのいずれか、または、それらの2種類もしくは3種類の混合酸化物、さらには、その他添加物が加えられた物等が挙げられるが、目的・用途により種々の材料が使用でき、特に限定されるものではない。
【0028】
バリア性能を有する材料としては、珪素やアルミニウムの酸化物、窒化物等、高屈折率材料としては酸化インジウム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0029】
エッチング工程としては、フォトリソを用いた方法が一般的である。パターン現像、エッチング工程でアルカリや酸の溶液を用いることから、バリア性能を有する薄膜は、それらに対する耐性が十分でなければならない。
【0030】
次に、本発明を具体的な実施例を挙げて詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
<実施例1>
ポリエチレンナフタレート基板上に、真空成膜により、酸化チタン42nm、酸化ケイ素19nmをこの順序で積層し、その上に酸化インジウムスズ(ITO)を115nm積層し、透明導電性積層体を作製した。なお、それぞれの膜厚は光学膜厚ndである。
【0032】
作製した透明導電性積層体の表面抵抗値は95Ω/□、透過光はD65光源2°視野でb*=0.2となり、透過色のニュートラルな透明導電性積層体が得られた。また、電極パターニング後に水蒸気透過率を測定したところ、0.1g/m2・dayだった。この透明導電性積層体を無機EL基板として用いたところ、色再現性の良好な表示体となり、デバイスを60℃90%Rh.の条件で1000時間耐久性試験を行ったところ、劣化が認められなかった。
<実施例2>
透過光がD65光源2°視野でb*=0.3のポリカーボネート基材上に真空成膜により、酸化チタン42nm、酸化ケイ素19nmをこの順序で積層し、その上に酸化インジウムスズ(ITO)を115nm積層し、透明導電性積層体を作製した。なお、それぞれの膜厚は光学膜厚ndである。
【0033】
作製した透明導電性積層体の表面抵抗値は95Ω/□、透過光はD65光源2°視野でb*=−0.9となり、透過色のニュートラルな透明導電性積層体が得られた。この透明導電性積層体を電子ペーパー用の基板として用いたところ、色再現性の良好な表示体となった。
<比較例1>
図2に示されるように、ポリカーボネート基板上に真空成膜により、酸化インジウムスズ(ITO)を115nm成膜した。なお、膜厚は光学膜厚ndである。
【0034】
作製した透明導電性積層体の表面抵抗値は95Ω/□、透過光はD65光源2°視野でb*=3.1となり、透過色に茶から黄色味が感じられた。
<比較例2>
ポリカーボネート基板上に真空成膜により、酸化チタン110nm(nd>λ/8,400nm<λ<800nm)、酸化ケイ素19nmをこの順序で積層し、その上に酸化インジウムスズ(ITO)を115nm積層した。なお、それぞれの膜厚は光学膜厚ndである。
【0035】
作製した透明導電性積層体の表面抵抗値は95Ω/□、視感反射率Yは3.3で、低反射を実現できたが、透過光はD65光源2°視野でb*=12となり、透過色に茶から黄色味が強く感じられた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る透明な基材の片面に高屈折率材料、低屈折率材料、透明導電膜を順次積層させた透明導電性積層体の断面図である。
【図2】比較例として、透明な基材の片面に透明導電膜を形成させた透明導電性積層体の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1…透明導電性積層体
2…透明基材
3…高屈折率材料層
4…低屈折率材料層
5…透明導電膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板の一方の面に基板の屈折率と比較して高屈折率材料、低屈折率材料をこの順番で積層し、最外層に透明導電膜を形成した、透明導電性基板において、その透過光をD65光源2°視野のL*a*b*表色系で表した時のb*が2以下であることを特徴とする、透明導電性積層体。
【請求項2】
基板単体の透過光をD65光源2°視野のL*a*b*表色系で表した時のb*が1以下である透明基板の一方の面に基板の屈折率と比較して高屈折率材料、低屈折率材料をこの順番で積層し、最外層に透明導電膜を形成した透明導電性基板において、その透過光のb*が1以下であることを特徴とする、透明導電性積層体。
【請求項3】
請求項1あるいは2に記載の透明導電性積層体において、表面抵抗値が20Ω/□から150Ω/□の範囲であることを特徴とする、透明導電性積層体。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の透明導電性積層体において、1層目の高屈折率材料の光学膜厚がnd<λ/8(400nm<λ<800nm)であることを特徴とする、透明導電性積層体。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の透明導電性積層体において、基板がプラスチックであることを特徴とする、透明導電性積層体。
【請求項6】
請求項5に記載の透明導電性積層体において、透明導電膜をパターニング工程後の積層体の水蒸気透過率が40℃90%Rh.の条件において、0.5g/m2・day以下であることを特徴とする、透明導電性積層体。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の透明導電性積層体を用いた表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−181838(P2008−181838A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16069(P2007−16069)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】