説明

透過型電子顕微鏡の試料ホルダー

【課題】結晶相のみの試料であっても標準試料を要することなく非点収差の補正が可能な、透過型電子顕微鏡の試料ホルダーを提供する。
【解決手段】透過型電子顕微鏡の観察位置に試料を位置させるための試料ホルダー(30)は、内部に段差(13)を有する第1の開口(12)が形成された試料ホルダー本体(10)と、前記段差(13)によってその周縁の一部が支持されることにより前記第1の開口(12)内に回転可能に収納されかつ中心部に前記試料(7)を保持するための第2の開口(15)を有する試料保持部材(11)と、前記第2の開口(15)を少なくとも一部を残して被覆する非晶質材料膜を備えたカバー部材(20)とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡の試料ホルダーに関し、特に、結晶相のみの試料に対しても高い分解能での撮像を可能にする透過型電子顕微鏡の試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、透過型電子顕微鏡の概略構成を示す。図において、1は鏡筒を示し、電子銃2、試料ホルダー3、および受光部4を含む撮像装置を有している。受光部4は、CCDカメラあるいはフィルムで構成される。図示はしていないが、鏡筒1内には複数の電子レンズを含む光学系が設けられ、電子銃2から出射した電子線6を試料ホルダー3に載置した試料7上に集光し、試料7を透過した電子線8を適宜拡大して、受光部4上に拡大された試料像9が鮮明に結像されるようにしている。試料ホルダー3は、鏡筒1の外部に設けた保持および移動機構5により、電子線の光軸方向および光軸に垂直な方向に移動可能なように支持されている。
【0003】
上記構成の透過型電子顕微鏡では、高い分解能を持った鮮明な試料像を得るために、光学系の種々の調整が必須である。特に、非点収差の補正は重要である。非点収差の補正は、一般に、試料内の非晶質相を利用して行われる。これは、非晶質相部分の透過型電子顕微鏡による観察像をフーリエ変換した画像を利用するものである。
【0004】
図2の(a)は、非晶質膜の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示し、(b)はそのフーリエ変換像を示す。非点収差が存在しない場合、フーリエ変換像は真円になる。したがって、得られたフーリエ変換像が真円でない場合は、非点補正つまみを調整しフーリエ変換像を真円化する。これによって非点収差の補正が完了するので、同一視野内にある結晶相についても高精度な観察像を得ることができる。
【0005】
ところが、試料が単結晶Siなどのように結晶相のみで非晶質相を含まない場合、観察視野内に非点収差補正の基準が存在しないため、その試料を用いて非点収差の補正を行うことができない。
【0006】
特許文献1では、このような場合に対処するために、結晶相と非晶質相を備えた標準試料を提案している。この標準試料の非晶質相の部分を利用して非点収差の補正を行い、結晶相の部分を利用して顕微鏡の倍率の校正、カメラ長の補正を行うようにしている。標準試料を用いた光学系の調整が終わると、標準試料を観察すべき試料に置き換えて電子顕微鏡写真を得ることにより、高精度の試料像を得るようにしている。
【0007】
また、図1に示す透過型電子顕微鏡では、試料ホルダー3は、ホルダー上に置かれた試料7をホルダー上で回転させる機構を備えているものが望ましい。これは、受光部4の形状が矩形であるため、試料7の設置方向によっては試料像9が受光部4外に渡って形成され、その結果、受光部4から充分な情報が得られないからである。そのため、試料7を回転することにより受光部4上で試料像9を回転させ、受光部4から充分な試料情報が得られるようにする必要がある。
【0008】
特許文献2は、試料の回転機構を備えた透過型電子顕微鏡装置を開示している。この装置では、試料ホルダーを鏡筒内の観察位置において第1回目の観察を行った後、試料ホルダー自体を観察位置から鏡筒に連結された試料交換室に移動させ、ここで、試料ホルダーに収納させた試料を回転させるものである。試料の回転後は、試料ホルダーを元の観察位置に戻して第2回目の観察を行う。
【0009】
【特許文献1】特開2002−367551号公報
【特許文献2】特開2004−333405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されている標準試料を用いた観察方法では、標準試料によって光学系の調整を行った後、標準試料を観察試料に変えてTEM像を得るものであるため、試料交換に労力を要しかつ試料交換時に光学系の調整がずれる恐れがある。また、特許文献2に記載の電子顕微鏡装置では、第1の観察と第2の観察間で試料を一旦観察位置から移動させる必要があり、トライアンドエラーで最適な試料回転角を得るためには、試料を観察位置から何回も移動させる必要があり、多くの労力を要する結果となる。
【0011】
本発明は、従来の透過型電子顕微鏡における上記のような問題点を解決する目的でなされたもので、結晶相のみの試料であっても標準試料を要することなく、非点収差の補正が可能な試料ホルダーを提供することを課題とする。またさらに、試料を試料ホルダー内に収納し、これを鏡筒内の観察位置においた状態で試料の回転を可能とすることにより、より多くの試料情報あるいはより最適な試料情報の獲得が可能な、試料ホルダーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の試料ホルダーは、内部に段差を有する第1の開口が形成された試料ホルダー本体と、前記段差によってその周縁の一部が支持されることにより前記第1の開口内に回転可能に収納されかつ中心部に前記試料を保持するための第2の開口を有する試料保持部材と、前記第2の開口を少なくとも一部を残して被覆する非晶質材料膜を備えたカバー部材とを備えて構成される。
【0013】
上記第1の試料ホルダーでは、試料を保持するために試料保持部材に設けた第2の開口の一部を、非晶質相を有するカバー部材によって被覆している。そのため、試料が非晶質相を含まない場合であっても、透過型電子顕微鏡で試料像を観察するに当たって、非点収差の補正のための非晶質相を顕微鏡の観察視野内に提供することができる。したがって、カバー部材によって提供された非晶質相を利用して非点収差の補正を行った後、試料の撮像を行うことによって、結晶相のみの試料であっても、非点収差が完全に補正された鮮明な画像を得ることが可能となる。
【0014】
前記第1の試料ホルダーは、さらに、試料保持部材を回転させる機能を有している。試料保持部材を回転させることによって、試料ホルダー内に収納され、顕微鏡の観察位置におかれた試料をその位置で回転させることができる。これによって、試料像を観測しながら最適な試料位置を決定することが可能となる。
【0015】
上記の回転機構は、例えば、試料保持部材表面または裏面に形成された歯車受け部と、前記歯車受け部に係合する歯車と、前記歯車を回転させるための回転シャフトとを含んで構成しても良い。
【0016】
前記第1の試料ホルダーにおいて、前記カバー部材は、前記第2の開口の前記一部を開閉可能に被覆する様に、前記試料ホルダー本体に固定されている。この構成により、試料の交換に当たってカバー部材を試料ホルダー本体側に移動させることが可能となり、交換作業がスムースに行われる。あるいは非晶質相を含むような試料を観測する場合には、カバー部材を最初から試料ホルダー本体側に移しておくことによって、カバー部材が観察の障害とならないようにすることができる。
【0017】
カバー部材は、金属メッシュにカーボンを蒸着して構成されていても良い。カーボン蒸着によって金属メッシュ上に非晶質の膜が形成される。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の第2の試料ホルダーは、前記第1の試料ホルダーにおいて、一端を前記試料ホルダー本体に固定され他端で前記試料保持部材周縁の一部を支持する支持具であって、少なくともその一部分をピエゾ素子で構成した支持具をさらに備える。
【0019】
また、前記支持具は異なる方向から前記試料保持部材の周縁を支持する第1、第2の支持具を含んでいる。この前記第1、第2の支持具は、前記第1の開口内で互いに直行する方向に配置されていても良い。
【0020】
上記第2の試料ホルダーでは、ピエゾ素子に通電することにより、このピエゾ素子を含む支持具が伸張するため、試料保持部材が第1の開口内で開口面に水平な方向において移動するようになる。これにより、試料を観察位置においた状態で、試料位置の微調整が可能となる。
【0021】
上記第2の試料ホルダーにおいて、前記回転機構を、前記試料保持部材の上面または裏面に接触するタイヤと前記タイヤを回転させる回転シャフトによって構成することにより、前記支持具を伸張させて試料保持部材を水平方向に移動させる場合であっても、タイヤが試料保持部材上を摺動するようになるので、回転機構が試料保持部材の移動の障害となることはない。
【0022】
また、第1、第2の試料ホルダーにおいて、前記回転機構を、前記試料保持部材に組み込まれたピエゾモータで構成することにより、回転機構の小型化が可能となる。その結果、試料ホルダー自体の構造がさらに簡略化される。
【発明の効果】
【0023】
以上に述べたように、本発明の試料ホルダーによれば、試料が結晶相のみを含むものであっても、標準試料を用いることなく非点収差を完全に補正して鮮明な観察画像を得ることができる。また、本発明の試料ホルダーが、試料保持部材を回転させる機能を有している場合、試料ホルダー内に収納され顕微鏡の観察位置におかれた試料をその位置で回転させることができる。これによって、試料像を観測しながら最適な試料配置角度を決定することが可能となるので、試料位置設定の作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
実施形態1
図3は、本発明の実施形態1にかかる試料ホルダー30の先端部分の平面図であり、図4は、図3に示す試料ホルダー30のA−A’線上断面を拡大して示す図である。試料ホルダー30は、図1の保持・移動機構5の先端に、機構5と一体に取り付けられていても良く、あるいは取り外し可能なように取り付けられていても良い。
【0025】
図3および4において、10は平板状の試料ホルダー本体であって、中央付近に試料保持部材11を収納する開口12を有している。開口12中には段差13が形成され、円形の保持部材11の周縁を部材11の裏面側から支持する。保持部材11の上面の周縁部分には、後述する歯車を受けるための溝からなる歯車受け部14が形成されている。保持部材11の中央部分には、試料台16を収納するための開口15と段差17が形成されている。18は、上記歯車受け部14の溝に係合し保持部材11を回転させるための歯車、19は歯車18を回転させるための回転シャフトであり、図1に示した試料ホルダーの保持・移動機構5に結合されている。
【0026】
試料台16は、図5に示すように、半円形状を有し、Cuなどで形成されている。半円の直径部分16aにLSIなどの試料7が、例えばタングステン蒸着によって固定される。試料台16は、半円形の側面16bを底面として試料保持部材11の開口15内に収納され、縁周部分を段差17によって支持される。したがって、試料台16を試料ホルダー本体10に取り付けた場合、試料7は開口15中に突出し、電子線6は試料7の側面16bの反対側を直接照射するようになる。
【0027】
図3および4において、20は開口12のほぼ半分をカバーする金属メッシュ体であり、蝶番21を介して試料ホルダー本体10に回転可能に取り付けられている。21a、21bは、金属メッシュ体20が開口12の半分をカバーした状態にあるとき、試料保持部材11の上面との間に間隙を確保するための金属メッシュ受け冶具である。本実施形態では、金属メッシュ体20は開口12の半分をカバーしているが、本来的には試料台16を収納する開口15の半分程度をカバーしていれば良い。
【0028】
金属メッシュ体20は、観察すべき試料が結晶相単相の試料である場合に、非点収差補正のための非晶質相を提供するものである。そのため、金属メッシュ体20は、例えば、市販の金属メッシュ上にコロシオン(商品名)などの高分子膜を貼り合わせ、その上にカーボンを蒸着して形成される。カーボンの蒸着によって金属メッシュ体20にカーボンの非晶質相が形成される。なお、カーボン蒸着時に高分子膜はそのほとんどが除去される。試料台16を試料ホルダー本体10より取り出すとき、あるいは非晶質相を含んだ試料を観察する場合は、金属メッシュ体20は、図4の矢印方向に回転して開口12を露出し、試料台16の取り出しを容易にし、あるいは試料7の観察の障害とならないようにされる。
【0029】
実施形態1の試料ホルダー30は、上記のような構成を有しているため、試料7がたとえ単結晶Siのように結晶相のみからなり、非点収差補正用の基準となる非晶質相を含んでいない場合であっても、金属メッシュ体20で試料7をカバーすることにより、同一視野内に非晶質相と結晶相とが存在するようになる。したがって、非晶質相のTEM像から得たフーリエ変換像を真円に補正することにより、非点収差の補正が可能となる。また、光学系の調整後、試料7のTEM像を得る場合には、回転シャフト19を回転させることにより試料保持部材11を回転させて、試料7を試料ホルダーに対してもっとも観察に適した角度に設定することができる。
【0030】
図6は、回転シャフト19を操作して、試料台16を図3に示す状態から90度回転させることによって、試料7を観察に適した位置まで回転させた状態を示している。回転シャフト19の操作は、試料7を鏡筒1内の観察位置に装着した後に可能であるため、試料台を回転のために試料ホルダーから取り外すなどの労力を要しない。なお、試料像の回転角度は、得られる情報量が最も多い角度、あるいは所望の情報が最適に得られる角度を任意に選択すればよい。金属メッシュ体20と試料7間で電子源との間の距離にわずかに差があるが、この差は既知であり、したがってその差による撮像への影響は、保持・移動機構5による試料ホルダー30の上下方向の移動によって解消することが可能である。
【0031】
図7および8に、金属メッシュ体20による非点収差補正の効果を示す。図7(a)は、結晶相のみを含む試料のTEM像を示し、図(b)は図(a)の像についてのフーリエ変換像を示す。図(b)に示すように、結晶相のみの試料ではそのフーリエ変換像に同心状の楕円あるいは円が形成されず、したがって楕円を真円に補正することによって可能な非点収差の補正が実施できない。その結果、図(a)に示すように、試料のTEM像は鮮明とはならない。
【0032】
図8の(a)は、観察の同一視野内に非晶質相と結晶相とを同時に有する場合の観察画像であり、図(b)は図(a)のAで示す部分を拡大したTEM像、図(c)は図(b)に示す部分のフーリエ変換像である。図(a)の部分Aは非晶質相で形成されており、従ってその部分のフーリエ変換像は同心状の楕円となる。したがってこの楕円を非点補正つまみによって真円化することによって、非点収差の補正が完了する。図(c)は非点補正つまみによって非点収差を補正した非晶質部分Aのフーリエ変換像である。図(d)は、このような非点収差の補正完了後の結晶部分Bの拡大TEM像を示す。図(d)より明らかなように、非点収差補正後のTEM像は、非点収差が完全に除去されており、極めて鮮明である。したがって、その画像の分解能も高くなる。
【0033】
実施形態2
図9および10に、本発明の実施形態2にかかる試料ホルダーの構成を示す。本実施形態の試料ホルダー31は、円板状の試料保持部材33を試料ホルダー本体32の裏面側から回転駆動させると共に、試料ホルダー本体32の開口34内でX、Y方向に移動可能なように構成したことを特徴としている。
【0034】
図9は、試料ホルダー31の先端部分の平面図であり、図10は図9のB−B’線上断面図である。図9および10において、32は試料ホルダー本体であり、中心に矩形の開口34を有している。開口34内には試料保持部材33を収容する段差35が形成されている。段差35の開口34側の端部形状は円形であっても矩形であっても良いが、一方の段差端部35aは他方の段差35bよりも高く形成され、この部分35aで試料保持部材33の一方の縁を保持するように構成される。
【0035】
図9および10において、36、37はピエゾ素子で構成されたX方向およびY方向の試料保持部材支持具であり、一端を試料ホルダー本体32に固定され、他端で試料保持部材33の縁を移動自在に支持するように構成されている。ピエゾ素子で構成される試料保持部材支持具36、37は、電圧を印加することによって、X、Y方向に伸縮する。この伸縮に従って、試料保持部材33は開口34内においてX−Y平面上で移動する。
【0036】
38は第1の実施形態の金属メッシュ体20と同様の材料および構造を有する半円形の金属メッシュ体であり、蝶番39によって試料保持部材支持具36に上下方向に回転可能に取り付けられている。試料保持部材33は、中心に荒いメッシュが張られた開口40を有し、試料はこのメッシュ上に置かれる。
【0037】
41、42は試料ホルダー本体32の裏面から試料保持部材33に接するタイヤであり、43、44はタイヤ41、42を回転させるための回転シャフトである。図9および10には示していないが、回転シャフト43、44は、試料ホルダーの保持・移動機構5によって支持され回転駆動される。タイヤ41は、例えばギアなどを介して連結された回転シャフト43によって、X軸に平行な方向に回転し、他方、タイヤ42は回転シャフト44の回転によってY軸に平行な方向に回転する。したがって、回転シャフト43、44の回転量を調節することにより、試料保持部材33を任意の角度だけ回転させることが可能となる。
【0038】
本実施形態では、実施形態1の場合と異なり、タイヤ41、42は試料保持部材33に対して摺動可能に接している。そのため、上記したように、ピエゾ素子からなる試料保持部材支持具36、37を伸縮させることによって、試料保持部材33をX−Y平面内で自由に移動させることができる。その結果、本実施形態の試料ホルダー31では、試料を試料保持部材33に置いて鏡筒1の観測位置に設定した後に、試料保持部材33をX−Y平面内で移動させて観測位置の微調整を行うこと、および所望の観察像を得るために試料保持部材33を回転させることが可能となる。また、観測しようとする試料が結晶相のみの場合は、金属メッシュ体38で観測位置をカバーすることにより、非点収差の補正が可能となる。
【0039】
図9および10に示した構造では、金属メッシュ体38は試料保持部材支持具36(試料保持部材支持具37であっても良い)に蝶番39を介して支持されているが、あるいは金属メッシュ体38を、蝶番を介して試料ホルダー本体32により支持する構造としても良い。なお、金属メッシュ体38と試料保持部材33とは、金属メッシュ受け冶具45、46によってその間に一定の間隔が保持されている。また、タイヤ41、42および回転シャフト43、44は、試料保持部材33の裏面側に配置されているが、これらを試料保持部材33の上面側に配置する構成としても良いことは勿論である。
【0040】
実施形態3
図11および12に、本発明の実施形態3にかかる試料ホルダー50を示す。図11は、試料ホルダー50の先端部分の平面図、図12は図11のC−C’線上断面図である。51は、実施形態1および2と同様の材料および構造を有する試料ホルダー本体であり、中心付近に円形の開口52が形成されている。開口52内には試料保持部材53を支持するための段差54が形成されている。試料支持部材53の中心部分には段差を有する開口55が形成され、その段差に試料台56が収納される。
【0041】
試料保持部材53にはピエゾモータを構成するためのピエゾ素子が内蔵されている。このピエゾ素子は外部電源57と接続され、電力が供給される。電力の供給によってピエゾモータが回転し、試料支持部材53を回転させる。ピエゾモータは周知のように回転速度が速く、かつ小型化が容易であるため、試料保持部材53への組み込み用回転機構として適している。
【0042】
図において、58は実施形態1および2と同様の金属メッシュ体であり、蝶番59を介して試料ホルダー本体51により支持されている。60、61は金属メッシュ体58と試料保持部材53との間に所定の間隔を維持するための金属メッシュ受け冶具である。なお、試料台56の構造、試料台56への試料の取り付け方法および金属メッシュ体58の構造は実施形態1の場合と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0043】
本実施形態の試料ホルダー51では、上記したように、試料保持部材53をピエゾモータによって回転させる構成であるため、回転機構が実施形態1および2の場合に比べて簡略化する利点を有している。なお、本実施形態においても、実施形態2に示すような試料保持部材33を試料保持部材53に代わって用いることが可能である。その場合は、試料保持部材33にピエゾモータを組み込む構成とすることによって、本実施形態特有の回転機構を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】透過型電子顕微鏡の概略構成を示す図。
【図2】試料の非晶質相を利用した非点収差の補正方法を示す図。
【図3】本発明の実施形態1にかかる試料ホルダーの一部平面図。
【図4】図3のA−A’線上断面図。
【図5】試料台に試料を装着した状態を示す図。
【図6】試料台を回転させた状態を示す図。
【図7】本発明の効果の説明に供する図であって、試料が結晶相のみの場合の非点収差補正の効果を示す図。
【図8】本発明の効果の説明に供する図であって、試料が非晶質相を含む場合の非点収差補正の効果を示す図。
【図9】本発明の実施形態2にかかる試料ホルダーの一部平面図。
【図10】図9のB−B’線上断面図。
【図11】本発明の実施形態3にかかる試料ホルダーの一部平面図。
【図12】図11のCーC’線上断面図。
【符号の説明】
【0045】
1 鏡筒
2 電子銃
3 試料ホルダー
4 受光部
5 試料ホルダーの保持・移動機構
6 電子線
7 試料
8 電子線
9 試料像
10 試料ホルダー本体
11 試料保持部材
12 開口
13 段差
15 開口
18 歯車
19 回転シャフト
20 金属メッシュ体
30 試料ホルダー
36、37 試料保持部材支持具
38 金属メッシュ体
41、42 タイヤ
43、44 回転シャフト
58 金属メッシュ体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡の観察位置に試料を位置させるための試料ホルダーであって、
内部に段差を有する第1の開口が形成された試料ホルダー本体と、
前記段差によってその周縁の一部が支持されることにより前記第1の開口内に回転可能に収納されかつ中心部に前記試料を保持するための第2の開口を有する試料保持部材と、
前記第2の開口を少なくとも一部を残して被覆する非晶質材料膜を備えたカバー部材と、を備えることを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項2】
請求項1に記載の試料ホルダーにおいて、前記試料保持部材を前記第1の開口内で回転させるための回転機構をさらに備えることを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項3】
請求項2に記載の試料ホルダーにおいて、前記回転機構は、前記試料保持部材表面または裏面に形成された歯車受け部と、前記歯車受け部に係合する歯車と、前記歯車を回転させるための回転シャフトとを含むことを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項4】
請求項1に記載の試料ホルダーにおいて、前記カバー部材は、前記第2の開口の前記一部を開閉可能に被覆する様に、前記試料ホルダー本体に固定されていることを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項5】
請求項1に記載の試料ホルダーにおいて、前記カバー部材は、金属メッシュにカーボンを蒸着して構成されていることを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項6】
請求項1に記載の試料ホルダーにおいて、一端を前記試料ホルダー本体に固定され他端で前記試料保持部材周縁の一部を支持する支持具であって、少なくともその一部分をピエゾ素子で構成した支持具を、さらに備えることを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項7】
請求項6に記載の試料ホルダーにおいて、前記支持具は異なる方向から前記試料保持部材の周縁を支持する第1、第2の支持具を含むことを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項8】
請求項7に記載の試料ホルダーにおいて、前記第1、第2の支持具は、前記第1の開口内で互いに直行する方向に配置されていることを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項9】
請求項6に記載の試料ホルダーにおいて、前記回転機構は、前記試料保持部材の上面または裏面に接触するタイヤと前記タイヤを回転させる回転シャフトとを含むことを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。
【請求項10】
請求項2に記載の試料ホルダーにおいて、前記回転機構は、前記試料保持部材に組み込まれたピエゾモータを含むことを特徴とする、透過型電子顕微鏡の試料ホルダー。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−179805(P2007−179805A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375165(P2005−375165)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】