説明

通信システム

【課題】壁や床、家具什器など障害物が存在する施設内において、無線端末を携帯した個人の位置及び状態を即時かつ正確に検知することが可能な通信システムを提供する。
【解決手段】移動可能な無線端末2と、散点的に配置した複数の基地局3と、基地局3と接続された情報処理装置5と、あらかじめ無線端末2の位置と3以上の基地局3が検知した信号強度との関係を測定記録した実測値テーブル54とを備え、情報処理装置5は、複数の基地局3が検知した信号強度と実測値テーブル54とを比較することにより、無線端末2の位置を特定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の領域内または施設内において無線端末を携帯した個人の位置および状態を検知しうる通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、特定の領域内または施設内において、各個人の行動を検知するためのシステムは様々な構成が提案されている。このようなシステムは、例えば立ち入り禁止区域を含む施設の警備システム、イベント会場におけるスタッフの所在把握、介護施設における被介護者および介護スタッフの位置把握などに利用される。
【0003】
上記システムの従来の代表的な構成としては、例えば監視カメラを使用して特定区域への接近や立ち入りを監視したり、所定箇所にセンサを設置して接近や通過を検知したりするものがある。しかしこのようなカメラやセンサを用いたシステムは、個人がある地点に接近もしくは通過して初めて検知しうるものである。従って、例えば介護システムとして用いた場合、対応に遅れが生じる場合がある。
【0004】
また、GPS(Global Positioning System)やPHS(Personal Handyphone System)による位置検出機能を利用して、常に個人のいる地点を監視するシステムも提案されている。しかし、無線端末の寸法、重量が大きくなりがちであり、また消費電力が大きいため頻繁な電池交換または充電が必要である。またこれらのシステムの位置検知精度は数m〜数十mであって、屋外の広域での使用には適しているが、施設内で用いるには精度が不足する。また施設内ではこれらの公共電波が届きにくいこともあり、この点においても利用に適していない。
【0005】
さらに、ブルートゥース(Bluetooth)やRFIDなどの近距離無線通信を用いて位置検出を行うシステムも提案されている。これを例えば介護施設内に用いれば、被介護者の徘徊などをある程度検出することができる。具体的には、施設内の部屋等の区画に無線端末と交信する基地局を設け、無線端末からの電波を受信するか否かの判定を行うことにより、当該区画内に該端末が存在するかどうかの判定を行うものである。しかしこのシステムでは施設内のどの区画に端末が存在するかを検出するに留まり、その区画内における窓、階段などの危険個所への接近を検出するなどきめ細かな管理のためには機能が十分ではなかった。
【0006】
さらに、近距離無線通信を用いて、無線端末と複数の基地局との間で通信を行い、信号強度の違いから3点計測の原理により無線端末の位置を高精度に検出する提案もなされている。このシステムは、電波的に障害の存在しない自由空間に2次元的に多数の基地局を配置し、かつ端末と基地局間の電波減衰の有意差が検出可能な十分な距離をおいて配置した環境では、理論通りの効果を発揮しうる。しかし実際には、代表的な使用環境である施設内において壁や床、天井などの構造物あるいは室内の家具什器などの障害物のために電波の遮蔽、減衰、反射が発生し、単純な受信信号強度から距離を求めても実用的な位置検知精度は得られない。
【0007】
特に施設は通常複数の階を有し、例えば階段などの階連絡施設近傍では3次元構造になることが、位置精度向上の困難さを増している。言い換えれば施設内は、狭く屈曲した通路や、細かく区画された部屋、出入り口などで構成されるため、理想的な3点計測ができるように基地局を配置することは困難であった。
【0008】
一方、従来からも、あらかじめ無線端末の位置と3以上の基地局が検知した信号強度との関係を測定記録したテーブルを備え、検知した信号強度とテーブルに記録された信号強度とを比較することにより、位置を特定する構成が提案されている。
【0009】
特開2003−248045(特許文献1)には、車室内に3つのアンテナを設けて、乗員の携帯する無線端末とブルートゥースによって通信を行い、信号強度により着座位置を特定する構成が記載されている。さらに、予測位置に対応するアンテナの向きと受信強度との関係を示すテーブルを事前に準備し、これと比較することにより位置の特定精度を向上させる構成が記載されている。
【0010】
特開2003−004835(特許文献2)には、地下や建築構造物内に三角格子状に基地局を多数配置し、複数の基地局によって送信機から発せられる端末IDとビート信号を受信する構成が記載されている。さらに、あらかじめ測定対象区域の端末IDとビート信号の強度を測定記録したルックアップテーブルを参照し、送信機の位置の特定を高精度に行う構成が記載されている。
【特許文献1】特開2003−248045号公報
【特許文献2】特開2003−004835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、壁や床、家具什器など障害物が存在する施設内において、無線端末を携帯した個人の位置及び状態を即時かつ正確に検知することが可能な通信システムを提供することを目的としている。さらに、介護システムとして適用することにより、被介護者の位置を即時かつ正確に検出および記録し、被介護者の行動に応じて対処することにより、被介護者の保護に供することの可能な通信システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる通信システムの代表的な構成は、移動可能な無線端末と、散点的に配置した複数の基地局と、基地局と接続された情報処理装置と、あらかじめ無線端末の位置と3以上の基地局が検知した信号強度との関係を測定記録した実測値テーブルとを備え、情報処理装置は、複数の基地局が検知した信号強度と実測値テーブルとを比較することにより、無線端末の位置を特定することを特徴とする。このように、実測値テーブルに格納された実際の信号強度と比較して位置を特定することにより、壁や床、天井などの構造物あるいは室内の家具什器などがある施設内においても正確に無線端末の位置を特定することができる。
【0013】
実測値テーブルは、さらにあらかじめ無線端末の位置と3以上の基地局が検知した通信品質値との関係を測定記録してあり、情報処理装置は、複数の基地局が検知した信号強度および通信品質値と実測値テーブルとを比較することにより、無線端末の位置を特定することが好ましい。すなわち信号強度のみでなく、通信品質値をあわせて判断することにより、外乱による影響を緩和し、さらに正確かつ安定した位置特定を行うことができる。ここで通信品質値とは、PER(パケット誤り率)、BER(ビット誤り率)、correlation(データの相関)、LQI(Link Quality Indication:リンク品質指標)などを用いることができる。
【0014】
実測値テーブルは、さらにあらかじめ無線端末の位置と無線端末が3以上の基地局に対して検知した信号強度または通信品質値との関係を測定記録してあり、情報処理装置は、複数の基地局が検知した信号強度および無線端末がその基地局に対して検知した信号強度または通信品質値と実測値テーブルとを比較することにより、無線端末の位置を特定することが好ましい。すなわち、基地局側で得た信号強度または通信品質値のみでなく、端末側で検知したこれらの値をも用いることにより、より信頼性の高い位置特定を行うことができる。
【0015】
さらに無線端末の位置情報と時刻情報とをあわせて記録するトラッキングテーブルを備え、情報処理装置は、特定した無線端末の位置情報と特定した時の時刻とをトラッキングテーブルに記録することが好ましい。これにより、無線端末を携帯する個人の行動を記録することができ、また位置のみでなく移動速度をも得ることができる。
【0016】
情報処理装置は、特定した無線端末の位置情報またはトラッキングデータが特定の状況にあるときに報知する報知手段を備えていることが好ましい。特定の状況とは、無線端末が特定領域に位置する場合、特定領域外へ移動した場合、および移動速度が規定範囲外である場合を含むことができる。これにより無線端末を携帯する個人(被介護者等)が立ち入り禁止区域に接近したことや、外出してしまったこと、異常行動していることなどを検出して報知することができる。
【0017】
さらに無線端末に設けられた生体センサと、無線端末を携帯する個人ごとに生体センサから得られるデータのパターンをあらかじめ格納した生体データテーブルとを備え、情報処理装置は、無線端末から送信された生体センサのデータと、生体データテーブルに格納されたパターンとを比較することにより、該無線端末を携帯する個人を特定することが好ましい。このとき情報処理装置は、無線端末の識別IDに関連づけられた該無線端末を携帯すべき個人と、生体センサから得られたデータにより特定された個人とが異なっていた場合に報知する報知手段を備えていることが好ましい。これにより、無線端末の取り違えによる誤認識を防止することができる。
【0018】
生体センサには指紋認証装置や脈動検知装置などを用いることもできるが、加速度センサとすることが好ましい。加速度センサであれば個人が特段の操作をしなくとも常にデータ取得が可能であり、またあらかじめ格納したパターンと比較することにより行動状態を認識することも可能である。
【0019】
情報処理装置は、加速度センサから得られたデータが、無線端末が完全に静止していることを示す場合に報知する報知手段を備えていることが好ましい。これにより無線端末の置き忘れを防止することができる。
【0020】
無線端末はアクティブ型RFIDであって、一定時間ごとに間欠的に基地局と通信することが好ましい。これにより無線端末の省電力化を図ることができ、電池寿命を延長することができるため、取り扱いを簡便にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基地局を設置した領域または施設内において、無線端末を携帯した個人の位置および状態を極めて正確に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第一実施例]
本発明にかかる無線システムの第一実施例について説明する。本実施例において無線システムは、介護システムとして適用した場合を例に用いて説明する。図1は本システムの概略構成を説明する図、図2は無線端末の構成および使用態様を説明する図、図3は基地局および情報処理装置の構成を説明する図である。
【0023】
(システムの構成)
図1に示すように本システムは、移動可能な無線端末2と、施設1内に散点的に配置した複数の基地局3と、基地局3とネットワーク4を介して接続された情報処理装置5を備えている。情報処理装置5には、後述する実測値テーブル54が備えられている。
【0024】
無線端末2と基地局3の通信方式には近距離無線通信を用いることができ、例えばブルートゥース規格やZigBee規格、RFIDなどを好適に用いることができる。本実施例においては、アクティブ型RFIDタグを用いるものとして説明する。パッシブ型RDIDではセンサからの通信範囲が数cm〜数十cm程度と狭いのに対し、アクティブ型RFIDでは十数mの通信範囲が得られるため、本システムの構成に適している。
【0025】
無線端末2は、被介護者および介護スタッフ(介護者)が常に携帯することを想定している。被介護者が携帯する無線端末2は、図2(a)に示すように、制御部20および無線通信部21を備えている。さらに付加的には、信号強度および通信品質値測定部22を備えていてもよい。制御部20は、一定時間間隔で基地局3との通信を起動するタイマー機能(不図示)を備えている。無線通信部21は、複数の基地局3に対して接続することが可能となっている。
【0026】
介護スタッフが携帯する無線端末2には、図2(b)に示すように、さらに通話部25、操作部26、表示部27を備えることでもよい。通話部25または表示部27を用いて介護スタッフに指示を送信することにより、介護行動を促すことが可能となっている。通話部25はPHSシステムを利用することが簡便であるが、LANを用いたIP電話システムや独自音声処理部を利用することでもよい。
【0027】
無線端末2は、図2(c)に示すように、ベルトに装着したり、クリップなどにより衣服のポケットに固定したり、ペンダントのように首から提げるなどの方式により携帯することができる。
【0028】
基地局3は、図1に示したように、壁や床、家具什器など障害物が存在する施設1内に散点的かつ固定的に配置される。階段などの階連絡施設近傍では、3次元的に配置される。この基地局3は、図3(a)に示すように、制御部30、無線通信部31、信号強度および通信品質値測定部32、ネットワーク制御部33、データ交信部34を備えている。無線通信部31は、複数の無線端末2に対して接続可能である。信号強度および通信品質値測定部32は、信号強度、および通信品質値を検出することが可能となっている。データ交信部34は、無線端末2から受信した情報をネットワーク制御部33を介して情報処理装置5に送信するものである。
【0029】
ネットワーク4(図1参照)は、有線LANまたは無線LAN、PHSシステムなどのネットワークを利用することができる。また携帯電話や公衆回線、公衆ネットワーク(インターネット)をあわせて用いることにより、基地局3に対して情報処理装置5を遠隔地に設置することも可能である。
【0030】
情報処理装置5は、図3(b)に示すように、制御部50、ネットワーク制御部51、外部通信制御部52、位置測定部53、実測値テーブル54、トラッキングテーブル55、行動判定部57、報知手段58、記憶部59を備えている。ネットワーク制御部51は、ネットワーク4を介して基地局3と接続するものである。外部通信制御部52は、必要時にシステムの外部(例えば警備会社など)と接続するためのものである。位置測定部53は、後に詳述するように、基地局3から得られた信号強度等の情報と実測値テーブル54に格納された値を比較することにより、無線端末2の位置を特定する。実測値テーブル54は、後述するように、無線端末2の位置と3以上の基地局3が検知した信号強度および通信品質値との関係を記録している。トラッキングテーブル55は、無線端末2の位置と時刻情報を関連づけて格納するものである。行動判定部57は、検出した無線端末2の位置情報、および位置の推移から被介護者の特定の行動を判定するものである。報知手段58は、行動判定部57が特定の行動であると判定した場合に、介護スタッフの無線端末2またはシステムの表示部(不図示)などを用いて報知するものである。記憶部59には、監視区域の地図情報などが格納されている。
【0031】
(システムの動作)
次に、上記構成の通信システムの動作について説明する。図4は実測値テーブルの構成を説明する図、図5は実測値テーブルの準備の手順について説明するフローチャート、図6は稼働状態にあるときの全体動作を説明するフローチャート、図7は端末交信処理の動作を説明するフローチャート、図8は位置特定処理の動作を説明するフローチャート、図9は危険判定処理の動作を説明するフローチャート、図10は端末交信処理の動作の他の例を説明するフローチャートである。
【0032】
まずシステムを稼働させる前に、情報処理装置5の実測値テーブル54についてあらかじめ準備する必要がある。実測値テーブル54には、図4(a)に示すように、少なくともあらかじめ測定した無線端末2の位置と3以上の基地局3が検知した信号強度および通信品質値との関係を記録している。
【0033】
実測値テーブル54の具体的な作成手順の例を説明する。図5に示すように、まず施設内の全ての領域に格子状に位置検出点を設定する(S11)(図4(c)参照)。次に、施設1内に基地局3を仮配置する(S12)。そして各位置検出点に無線端末2を配置して各基地局3の接続を行い、信号強度および通信品質値を測定する(S13)。3つの基地局3との信号強度および通信品質値を用いて位置を特定する場合には、信号強度が強かった順に基地局3を選択し、それぞれについてその信号強度および通信品質値を実測値テーブル54に記録する(S14)。なお、4以上の基地局3についてデータを記録、利用するよう構成してもよい。領域全体の位置検出点について測定したか否かを判定し(S15)、まだ完了していなければ無線端末2を移動して測定を繰り返す(S13〜S14)。そして、各基地局3間の測定値について有意差(十分な差)があるか否かを判定し(S16)、有意差がなければ基地局を再配置して(S17)、再度測定を行う(S13〜S15)。
【0034】
上記の方法によって実測値テーブル54を準備することにより、実測値テーブル54には壁や床、天井などの構造物あるいは室内の家具什器などの障害物による電波の遮蔽、減衰、反射も加味した状態で信号強度および通信品質値が記録される。また、この段階において有意差を判断することにより、基地局3の配置を最適化することができる。
【0035】
システムが稼働状態にあるとき、図6に示すように、通信システムは無線端末2との端末交信処理(S20)と、位置特定処理(S21)と、危険判定処理(S22)とを並列処理にて行う。それぞれの処理については次に説明する。
【0036】
端末交信処理は、図7に示すように、無線端末2の制御部20が、タイマーを用いて所定時間(例えば2秒)経過したか否かを判定し(S30)、経過していれば無線端末2の主回路を起動する(S31)。そして基地局3からの呼出信号送信(S34)に対して、呼出信号受信応答と共に、無線端末ID、名称、シーケンス番号を基地局3に返す(S32)。それから制御部20は主回路を停止しスリープ状態とする(S33)。
【0037】
なお、無線端末2と基地局3の間の通信は連続的に行うことも可能である。しかし上記のように無線端末2の主回路を間欠的に駆動させることにより、基地局3から見て接続可能な無線端末2の数を増加させることができる。また無線端末2が消費する電力を低減させることができるため、電池寿命を飛躍的に延長させることができる。従って電池を使用するアクティブ型RFIDの欠点を補い、取り扱いを簡便にすることができる。
【0038】
一方基地局3では呼出信号送信を送信した後、無線端末2からの呼出信号受信応答を待機しており(S34)、無線端末2からの呼出受信応答を受信すると信号強度および通信品質値を測定する(S35)。そして情報処理装置5に対し、基地局3のID、端末のID、測定した信号強度および通信品質値を送信する(S36)。複数の基地局3は、それぞれが局に応じた時分割タイムスロットを利用して応答電波の干渉を防ぐ機能を有し、複数の基地局3と複数の無線端末との間でも送受信する機能を互いに有している。
【0039】
情報処理装置5は基地局3からデータを受信するまで待機しており(S37)、受信したら記憶部59にデータを一時的に保存する(S38)。
【0040】
位置特定処理は、図8に示すように、情報処理装置5の制御部50が、基地局3から送信されたデータが記憶部59に保存されているか否かを判断し(S40)、保存されていた場合は端末IDごとにデータを整理し、各無線端末2と交信した基地局3と受信強度および通信品質値との組み合わせパターンを作成する。(S41)。
【0041】
次に作成した組み合わせパターンを実測値テーブル54と比較照合し、パターンの近似する地点を検索して(S42)、該当する地点を無線端末2の位置であると特定する(S43)。近似としては、データの分布の誤差が最小となるパターンを分布データ中に求め、その位置を無線端末2の位置と判定することができる。そして特定した位置を端末ID、測定時刻と共にトラッキングテーブル55に記録する(S44)。また位置の特定が完了すると、記憶部59から使用したデータを消去する(S45)。この位置特定処理は、被介護者および介護スタッフのいずれが携帯する無線端末2に対しても行う。
【0042】
危険判定処理は、行動判定部57がトラッキングテーブル55を参照することにより行う。図9に示すように、行動判定部57はまず最新の各無線端末2の位置情報を読み込み、登録された危険位置と比較する(S51)。これらが一致していた場合には(S52)、報知手段58を用いて報知する(S50)。さらに端末電波が位置検出対象領域内で検出されない場合も異常として検出される。これにより、危険地点通過及び該地点への接近、無断外出などの異常行動、および無線端末2の故障や電池切れを検知することができる。
【0043】
報知手段58は、情報処理装置5自身に設けられた不図示の表示装置への表示や警報装置の駆動を行う。また異常行動が検知された被介護者に近い位置にいる介護スタッフの無線端末2に情報を送信し、表示部27に救護対象の被介護者のIDや氏名、特定された位置情報、判定された異常行動、救護に向かう旨の指示、緊急度などを表示することができる。
【0044】
次に、行動判定部57は位置情報と時刻情報をあわせて読み込むことにより行動パターンを判定する。これにより、被介護者及び介護スタッフの時系列的な移動状況、徘徊、繰り返し行動、長時間の不動などの異常行動を検出することができる。判定された行動パターンを登録された危険パターンと比較し(S53)、一致していた場合には(S54)、報知手段58を用いて報知する(S50)。行動パターンは他の要素もあわせて複合的に判断することができ、例えば深夜に徘徊していた場合などを危険パターンと登録することができる。
【0045】
また、記録された位置と時刻から移動速度を算出し、登録された許容範囲と比較する(S55)。これにより、速すぎる移動速度などの異常行動を検出することができる。そして範囲外である場合には(S56)、報知手段58を用いて報知する(S50)。この移動速度も他の要素とあわせて複合的に判断することができ、例えば廊下における許容範囲(走っていることの認識)、階段における許容範囲(滑落の認識)など、個別に設定することができる。
【0046】
なお、上記実施例において、実測値テーブル54には信号強度および通信品質値を記録すると説明した。しかし、簡略な構成として信号強度のみを記録し、位置の特定においても信号強度のみを用いてもよい。これにより演算負荷を軽減し、処理速度の向上を図ることができる。これに対し本実施例のように信号強度のみでなく通信品質値をあわせて位置の特定を行うことにより、外乱による影響を緩和し、さらに正確かつ安定した位置特定を行うことができる。
【0047】
さらに実測値テーブル54の構成としては、図4(b)に示すように、端末において検知した各基地局3に対する信号強度および通信品質値をも記録し、位置の特定においてもこれを用いることでもよい。
【0048】
この場合のシステムの端末交信処理について、図10を用いて説明する。図7を用いて説明した端末交信処理との差異点について主に説明すれば、無線端末2から送信された呼出信号受信応答(S32)を受信すると(S34)、基地局3は無線端末2に対して応答確認を送信する(S60)。無線端末2は応答確認を受信すると(S61)、信号強度および通信品質値を測定し(S62)、測定値を基地局3に送信してから(S63)、主回路を停止しスリープ状態とする(S33)。基地局3は測定値を受信すると(S64)、自身が測定した信号強度および通信品質値(S35)と合わせて、情報処理装置5にデータを送信する(S36)。また図8に示した位置特定処理においては、基地局3が検知した信号強度および通信品質値と、無線端末2が当該基地局3に対して検知した信号強度および通信品質値とを、あわせて比較照合し、無線端末2の位置を特定する(S42)。
【0049】
このように基地局側で得た信号強度または通信品質値のみでなく、端末側で検知したこれらの値をも用いることにより、さらに信頼性の高い位置特定を行うことができる。
【0050】
上記説明した如く、本実施例にかかる通信システムによれば、実測値テーブルに格納された実際の信号強度と比較して位置を特定することにより、壁や床、天井などの構造物あるいは室内の家具什器などがある施設内においても、無線端末を携帯した個人の位置および状態を極めて正確に把握することができる。
【0051】
さらに、トラッキングテーブルを用いて無線端末を携帯する個人の行動を記録し、行動パターンを判定することにより、異常行動していることなどを検出して報知することができる。従って特に介護システムとして適用することにより、被介護者の保護に供することが可能である。
【0052】
[第二実施例]
本発明にかかる通信システムの第二実施例について説明する。図11は第二実施例にかかる無線端末および情報処理装置の構成を説明する図、図12は第二実施例にかかる端末交信処理の動作を説明するフローチャート、図13は第二実施例にかかる危険判定処理の動作を説明するフローチャートである。上記実施例に対し、本実施例は無線端末2に生体センサを備えた点において異なっている。生体センサには指紋認証装置や脈動検知装置、および加速度センサなどを用いることができる。
【0053】
生体センサに指紋認証装置を用いた場合には、本人確認として用いることができる。従って無線端末の識別IDに関連づけられた該無線端末を携帯すべき個人と、生体センサから得られたデータにより特定された個人とが異なっていることを認識することができる。また生体センサに脈動検知装置を用いた場合には、脈動が異常である場合にこれを認識し、報知手段58から報知することができる。
【0054】
しかし生体センサとしては、加速度センサを用いることが好ましい。加速度センサであれば個人が特段の操作をしなくとも常にデータ取得が可能であり、またあらかじめ格納したパターンと比較することにより行動状態を認識することも可能である。
【0055】
図11(a)に示すように、本実施例において無線端末2には、生体センサの例としての加速度センサ23、および加速度センサ23から得られたデータを一時的に蓄積する記憶部24が備えられている。無線端末2は、加速度センサ23を用いる場合には、携帯する者の胴体部分に固定することが好ましい。
【0056】
一方、図11(b)に示すように、情報処理装置5には生体データテーブル56を備えている。生体データテーブル56には、無線端末2を携帯する個人ごとに、様々な行動における加速度データのパターンについて、あらかじめ格納している。加速度センサ23から得られるデータパターンは個人によって差異があるので、あらかじめ格納されたパターンと比較照合することにより、個人を特定することが可能である。すなわち生体センサとして加速度センサ23を用いることにより、個人を特定しうると共に、歩行中、静止中、就寝中などの行動状態をあわせて認識することが可能である。また加速度センサ23が全く値を出していないことにより、無線端末2の置き忘れも認識することができる。
【0057】
本実施例にかかるシステムの端末交信処理について、図12を用いて説明する。図10を用いて説明した端末交信処理との差異点について主に説明すれば、無線端末2は常に加速度センサ23から得られるデータを記憶部24に格納している(S70)。そして無線端末2は基地局3から応答確認を受信すると(S61)、記憶部24に格納された加速度センサのデータを基地局3に対して送信してから(S71)、記憶部24内のデータを消去する(S72)。ここで無線端末2は複数の基地局3と通信を行うが、主回路を起動(S31)した後に最初に接続した基地局3に対してデータを送信すればよい。基地局3は情報処理装置5に対し、基地局3のID、端末のID、測定した信号強度および通信品質値に加えて、無線端末2から受信した加速度センサのデータを送信する(S73)。
【0058】
本実施例にかかるシステムの危険判定処理について、図13を用いて説明する。図9を用いて説明した危険判定処理との差異点について主に説明すれば、さらに追加の判定として、行動判定部57は、加速度センサのデータから認識した個人と無線端末2の端末IDが一致しているか否かを比較し(S74)、一致していなければ(S75)、報知手段58を用いて報知する(S50)。これにより、無線端末の取り違えによる誤認識を防止することができる。
【0059】
次に行動判定部57は、加速度センサのデータから認識した行動状態と登録された危険行動とを比較し(S76)、一致していれば(S77)、報知手段58を用いて報知する(S50)。危険パターンの例としては、走行中、転倒、完全停止(置き忘れ)などが挙げられる。これにより、位置情報のみでは判断できない被介護者の状態を検知し、よりきめ細かな介護を行うことができる。
【0060】
なお、上記実施例においては、本発明に係る通信システムを介護システムに適用して説明した。しかし本発明はこれに限定されるものではなく、警備システム、イベント会場における所在地確認システムなどにも利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、特定の領域内または施設内において無線端末を携帯した個人の位置および状態を検知するための通信システムとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】システムの概略構成を説明する図である。
【図2】無線端末の構成および使用態様を説明する図である。
【図3】基地局および情報処理装置の構成を説明する図である。
【図4】実測値テーブルの構成を説明する図である。
【図5】実測値テーブルの準備の手順について説明するフローチャートである。
【図6】稼働状態にあるときの全体動作を説明するフローチャートである。
【図7】端末交信処理の動作を説明するフローチャートである。
【図8】位置特定処理の動作を説明するフローチャートである。
【図9】危険判定処理の動作を説明するフローチャートである。
【図10】端末交信処理の動作の他の例を説明するフローチャートである。
【図11】第二実施例にかかる無線端末および情報処理装置の構成を説明する図である。
【図12】第二実施例にかかる端末交信処理の動作を説明するフローチャートである。
【図13】第二実施例にかかる危険判定処理の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
1 …施設
2 …無線端末
3 …基地局
4 …ネットワーク
5 …情報処理装置
20 …制御部
21 …無線通信部
22 …信号強度および通信品質値測定部
23 …加速度センサ
24 …記憶部
25 …通話部
26 …操作部
27 …表示部
30 …制御部
31 …無線通信部
32 …信号強度および通信品質値測定部
33 …ネットワーク制御部
34 …データ交信部
50 …制御部
51 …ネットワーク制御部
52 …外部通信制御部
53 …位置測定部
54 …実測値テーブル
55 …トラッキングテーブル
56 …生体データテーブル
57 …行動判定部
58 …報知手段
59 …記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な無線端末と、
散点的に配置した複数の基地局と、
前記基地局と接続された情報処理装置と、
あらかじめ前記無線端末の位置と3以上の前記基地局が検知した信号強度との関係を測定記録した実測値テーブルとを備え、
前記情報処理装置は、複数の前記基地局が検知した信号強度と前記実測値テーブルとを比較することにより、前記無線端末の位置を特定することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記実測値テーブルは、さらにあらかじめ前記無線端末の位置と3以上の前記基地局が検知した通信品質値との関係を測定記録してあり、
前記情報処理装置は、複数の前記基地局が検知した信号強度および通信品質値と前記実測値テーブルとを比較することにより、前記無線端末の位置を特定することを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記実測値テーブルは、さらにあらかじめ前記無線端末の位置と前記無線端末が3以上の前記基地局に対して検知した信号強度または通信品質値との関係を測定記録してあり、
前記情報処理装置は、複数の前記基地局が検知した信号強度および前記無線端末がその基地局に対して検知した信号強度または通信品質値と前記実測値テーブルとを比較することにより、前記無線端末の位置を特定することを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項4】
さらに前記無線端末の位置情報と時刻情報とをあわせて記録するトラッキングテーブルを備え、
前記情報処理装置は、特定した無線端末の位置情報と特定した時の時刻とを前記トラッキングテーブルに記録することを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項5】
前記情報処理装置は、特定した前記無線端末の位置情報またはトラッキングデータが特定の状況にあるときに報知する報知手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の通信システム。
【請求項6】
前記特定の状況とは、前記無線端末が特定領域に位置する場合、特定領域外へ移動した場合、および移動速度が規定範囲外である場合を含むことを特徴とする請求項5記載の通信システム。
【請求項7】
さらに前記無線端末に設けられた生体センサと、
前記無線端末を携帯する個人ごとに前記生体センサから得られるデータのパターンをあらかじめ格納した生体データテーブルとを備え、
前記情報処理装置は、前記無線端末から送信された前記生体センサのデータと、前記生体データテーブルに格納されたパターンとを比較することにより、該無線端末を携帯する個人を特定することを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項8】
前記情報処理装置は、前記無線端末の識別IDに関連づけられた該無線端末を携帯すべき個人と、前記生体センサから得られたデータにより特定された個人とが異なっていた場合に報知する報知手段を備えていることを特徴とする請求項7記載の通信システム。
【請求項9】
前記生体センサとは加速度センサであることを特徴とする請求項7記載の通信システム。
【請求項10】
前記情報処理装置は、前記加速度センサから得られたデータが、前記無線端末が完全に静止していることを示す場合に報知する報知手段を備えていることを特徴とする請求項9記載の通信システム。
【請求項11】
前記無線端末はアクティブ型RFIDであって、一定時間ごとに間欠的に前記基地局と通信することを特徴とする請求項1記載の通信システム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−150435(P2007−150435A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338838(P2005−338838)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ZIGBEE
【出願人】(505435958)株式会社レディオウェア (3)
【Fターム(参考)】