説明

速効性経口ペプチド医薬品

生理的に活性なペプチド剤の経口送達に適応した完成医薬品であって、その医薬品は、治療有効量の活性ペプチド剤、少なくとも1つの薬学的に許容可能なpH低下剤、および活性剤の生物学的利用能を高めるのに有効な少なくとも1つの吸収促進剤を含み、pH低下剤は、医薬品が10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液に加えられている場合に、その溶液のpHを5.5以下に低下させるのに十分な量で完成医薬品中に存在し、医薬品の外面は、耐酸性の保護ビヒクルを実質的に含まない。この医薬品は、経口的に送達される治療的なペプチド活性剤の生物学的利用能を増大させるための方法における用途に適応している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2005年12月9日出願の仮出願第60/748,954号および2006年12月6日出願の米国特許出願第11/567,454号の優先権を主張し、これらの出願の内容は、本明細書中に参照により明示的に組み込まれている。
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、活性化合物が、分子構造内に複数のアミノ酸および少なくとも1つのペプチド結合を含む経口ペプチド医薬、および経口に投与されたときにそのようなペプチド活性化合物の良好な生物学的利用能を迅速にもたらす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
多くのヒトホルモン、神経伝達物質および他の重要な生体化合物は、その分子構造の実質的な部分としてペプチドを有する。多くの疾患は、患者におけるこれらのペプチド化合物のレベルの上昇に対して正に応答する。治療有効量のそのような生物学的に重要なペプチドが、種々の方法で患者に投与されうる。しかしながら、以下にさらに述べるように、経口投与は、好ましい方法であるが、このタイプの活性化合物を用いる場合は非常に困難である。
【0003】
例えば、サケカルシトニンは、骨からのカルシウムの取り込みを減少させるペプチドホルモンである。骨関連疾患およびカルシウム障害(例えば、骨粗鬆症、パジェット病、悪性高カルシウム血症など)を処置するために使用する際、サケカルシトニンは、骨密度の維持を補助する効果を有する。多くのタイプのカルシトニンが、単離されている(ヒトカルシトニン、サケカルシトニン、ウナギカルシトニン、エルカトニン、ブタカルシトニンおよびニワトリカルシトニン)。これらの様々なカルシトニンタイプの間に、有意な構造的非相同性が存在する。例えば、ヒトカルシトニンを構成するアミノ酸とサケカルシトニンを構成するアミノ酸との同一性は、たった50%である。分子構造が異なるにもかかわらず、サケカルシトニンは、上記のカルシトニン応答性疾患を処置するためにヒトにおいて使用されうる。
【0004】
従来技術において使用されているペプチド医薬は、注射または経鼻投与によって投与されることが多い。インスリンは、注射によって投与されることが多いペプチド医薬の一例である。しかしながら、注射および経鼻投与は、かなり不便であり、患者にとっては、例えば経口投与よりも不快感を伴うものである。この不便さまたは不快感は、多くの患者の治療計画の順守不良につながる。しかしながら、ペプチド活性化合物は、胃および腸で非常に分解されやすいので、より好ましい経口投与が問題となる傾向がある。従って、当該技術分野において、インスリン、サケカルシトニンおよび本明細書中でより詳細に述べるその他のものなどのペプチド医薬の経口投与をより効果的かつ再現性のあるものにする必要性がある。
【0005】
胃および腸の両方のタンパク質分解酵素は、ペプチドを分解しうるので、ペプチドは、血流に吸収される前に不活性となってしまう。胃のプロテアーゼ(典型的には至適pHが酸性である)によるタンパク質分解に耐える任意の量のペプチドは、後で小腸のプロテアーゼおよび膵臓から分泌される酵素(典型的には至適pHが中性から塩基性である)と直面することになる。サケカルシトニンのようなペプチドの経口投与によって生じる具体的な問題点は、比較的分子サイズが大きいことおよびその電荷分布に関する点である。これ
らのことは、サケカルシトニンが、腸壁に沿った粘液に浸透したり、消化管刷子縁膜を越えて血液に到達したりすることを、より困難にしうる。これらのさらなる問題点は、生物学的利用能を制限することにもさらに関わりうる。
【0006】
先に記載した問題点の多くを少なくとも部分的に克服した経口剤形は、それぞれ1999年6月15日および2000年7月11日に発行されたSternらの米国特許第5,912,014号および同第6,086,918号に開示および特許請求されており、それらの特許は、本明細書中に参照により組み込まれている。この両方の特許には、ペプチドを腸に放出することを目標とし、経口製剤としてペプチドを投与することによって生物学的利用能を増大させるペプチド製剤が記載されており、そのペプチド製剤は、ペプチドに加えて、そのペプチドの生物学的利用能を促進するのに有効な少なくとも1つの薬学的に許容可能なpH低下剤および少なくとも1つの吸収促進剤を含む。さらに、この製剤は、ペプチド、吸収促進剤およびpH低下剤を患者の胃に送ることができるが、胃のプロテアーゼによる分解からペプチドを保護する腸溶コーティングでコーティングされている。その後、そのコーティングが、溶解し、ペプチド、吸収促進剤およびpH低下剤が、患者の腸に一緒に放出される。
【0007】
しかしながら、ある特定の場合には、経口ペプチドによって処置すべき症状に対して、腸溶コーティングの比較的遅い溶解および腸内での活性成分の関連する放出によってもたらされる治療よりも、迅速な治療が有益である場合がある。そのような迅速な治療が有益となる症状の1つの特定の例は、疼痛緩和の分野に関連する例であり、この場合、そのような緩和が達成される速さは、患者にとって不可欠ではないにしても、明らかに重要な因子である。さらに、活性なペプチド剤は、必ずしも胃を通過して腸に達する道のりをずっと輸送される必要はない。すなわち、ある特定のペプチド剤(様々な鎮痛剤が挙げられるが、これらに限定されない)の場合、その製剤が腸に入る前、例えば、その物質が食道を通過するときまたは患者の胃に存在するときに活性薬剤の吸収が行われることが最も有効であることがある。そのような状況下では、経口の生物学的利用能は、なおも考慮されるべき因子であるが、生物学的利用能の限られた低下が、それに対応して製剤内に含まれる活性薬剤の吸収の速度が増大したり、作用速度が増大したりして相殺される場合は、患者および/または臨床医は、そのような限られた低下を受け入れてもよいと考えることがある。
【0008】
このように、望ましい程度の生物学的利用能をもたらしながらも、より迅速に治療的に作用することができる経口ペプチド製剤(すなわち、先に述べた‘014号特許および‘918号特許に記載されている製剤とは対照的な経口ペプチド製剤)が長い間必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の要旨
従って、本発明の目的は、生理的に活性なペプチド剤(副甲状腺ホルモン、ペプチドH−チロシン−D−アルギニン−フェニルアラニン−リシン−NH(DALDA)が挙げられるが、これらに限定されない)およびその誘導体(本明細書中、以後「DALDA」誘導体と呼ぶ)(DMT−DALDA(すなわち、H−2,6−ジメチルチロシン−D−アルギニン−フェニルアラニン−リシン−NH)が挙げられるが、これらに限定されない)、インスリン、カルシトニン、バソプレシンならびに本明細書中に述べるその他のものを迅速に経口送達するための、以下に記載するような完成医薬品を提供することである。本明細書中で使用されるとき、用語「完成」および/または「完全に完成」とは、その製品が投与される最終的な形態で提供されていることを意味すると定義される。
【0010】
本発明のさらなる目的は、そのような完成医薬品を用いた処置による、そのようなペプチドの送達の速度を高めるための治療的な方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、本明細書中に記載される完成医薬品の投与によって、例えば、カルシトニンまたは1つ以上の同化剤(例えば、副甲状腺ホルモン)を経口的に投与することによって、骨関連疾患およびカルシウム障害を処置する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの態様において、上記疾患または障害は、生理的に活性なペプチド剤の経口送達に適応した完成医薬品の投与によって処置され、その完成製品は、
(A)治療有効量の前記活性ペプチド剤、
(B)少なくとも1つの薬学的に許容可能なpH低下剤、および
(C)前記活性剤の生物学的利用能を高めるのに有効な少なくとも1つの吸収促進剤
を含み、前記pH低下剤は、前記医薬品が10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液に加えられている場合に、前記溶液のpHを5.5以下に低下させるのに十分な量で前記完成医薬品中に存在し、前記医薬品の外面は、耐酸性の保護ビヒクルを実質的に含まない。
【0013】
好ましいペプチド活性剤としては、DALDA、DMT−DALDA、インスリン、副甲状腺ホルモン(遊離酸型またはアミド化型のいずれかでの切断型ホルモンフラグメントを含む)、バソプレシン、サケカルシトニンなどのカルシトニンおよび以下に述べるその他のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
別の態様では、本発明は、経口的に送達される治療的なペプチド活性剤の送達の速度を高めるための方法を提供し、その方法は、患者の消化管内で、ペプチド活性剤の送達に適応した上記のタイプの完成医薬品から少なくとも1つのpH低下剤および少なくとも1つの吸収促進剤とともにペプチド活性剤を選択的に放出することを含み、その完成医薬品の外面は、耐酸性の保護ビヒクルを実質的に含まず、また、前記pH低下剤およびそれとともに放出される他の化合物は、10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液に加えられる場合に、前記溶液のpHを5.5以下に低下させるのに十分である量で放出される。完成医薬品の外側に耐酸性のコーティングを有しない場合、腸溶コーティングされた対応医薬品と比べて、活性ペプチド剤が患者の血漿に吸収される速度が、著しく上昇すると考えられている。本明細書中で使用されるとき、「対応」、例えば、対応組成物、対応医薬品などは、例えば、本発明に従って調整されるものと全く同一であるが、陽溶コーティングを有する組成物または医薬品を意味するとみなされるべきであり、ここで、本願で特許請求される製剤は、そのような腸溶コーティングを全く有しないものである。
【0015】
本発明のさらなる態様では、治療的なペプチド活性剤、少なくとも1つのpH低下剤および少なくとも1つの吸収促進剤は、耐酸性の保護ビヒクル(例えば、腸溶コーティング)を含む対応薬学的組成物からよりも迅速に完成医薬品から放出される。なおもさらなる実施形態では、ペプチド活性剤の最大血漿濃度は、患者において60分以内に達成される。
【0016】
別の態様では、本発明は、上記の完成医薬品によって経口的に送達されるサケカルシトニンの生物学的利用能を増大するための方法を提供し、その方法は、完成医薬品が患者の口を通過した後に、少なくとも1つのpH低下剤および少なくとも1つの吸収促進剤とともに前記サケカルシトニンを患者の消化管に選択的に放出することを含み、ここで、pH低下化合物は、その医薬品が10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液に加えられている場合に、前記溶液のpHを5.5以下に低下させるのに十分な量で前記医薬
品によって放出される。
【0017】
本発明のさらなる態様では、サケカルシトニン、少なくとも1つのpH低下剤および少なくとも1つの吸収促進剤は、耐酸性の保護ビヒクルを含む対応薬学的組成物からよりも迅速に完成医薬品から放出される。なおもさらなる実施形態では、サケカルシトニンの最大血漿濃度は、患者において、60分以内に達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、ペプチド活性化合物のタンパク質分解の可能性を低下させると考えられる。典型的には酸性pHにおいて最も活性である胃のプロテアーゼの効果は、空腹時の患者に完成医薬品を投与することによって、完全に排除することはできないにしても(空腹時の胃でも、そのようなプロテアーゼをいくらか含む)、最小化され得る。その後、そのペプチドは、典型的には塩基性から中性のpHで最も活性である腸または膵臓のプロテアーゼによるタンパク質分解性の攻撃からさらに保護されると考えられる。かなりの量の酸(ペプチド活性剤と混合される)によって、中性から塩基性で作用する腸内のプロテアーゼ(例えば、内腔のプロテアーゼまたは消化性のプロテアーゼおよび刷子縁膜のプロテアーゼ)の腸内における活性が、これらの腸内プロテアーゼのpHを最適な活性範囲よりも低い値に低下させることにより、低下すると考えられる。
【0019】
完成医薬品中の吸収促進剤は、腸の粘液層から、刷子縁膜から、血液へのペプチド剤の輸送を促進するために使用される。それにより、本発明は、タンパク質分解からのペプチドの保護を継続しながら、そのペプチドが、小腸刷子縁膜を通過して血液へ輸送されるプロセスを促進すると考えられる。
【0020】
本発明に従って、pH低下化合物と吸収促進剤とを同時に使用することにより、吸収促進剤のみまたはpH低下化合物のみと比較して、生物学的利用能に対する驚くほどの相乗効果がもたらされる。表4(後掲)の製剤I(サケカルシトニンのみ)、表3の製剤I(サケカルシトニンおよびpH低下化合物)および表4の製剤II(サケカルシトニンおよび吸収促進剤)を表4の製剤III(サケカルシトニン、pH低下化合物および吸収促進剤)と比較のこと。
【0021】
本発明の他の特徴および利点は、以下の本発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
発明の詳細な説明
驚いたことに、腸溶コーティングを有しない本発明の薬学的製剤を投与することによって、生物学的利用能を実用的なレベルよりも低いレベルに低下させずにペプチド吸収の速度が高められること(腸溶コーティングされた対応医薬と比べて)が見出されている。確かに、生物学的利用能はいくらか低下するが、この低下は、有効な医学的処置を妨げたり、特に、吸収速度が速いことが特に有益である場合の適用、すなわち疼痛緩和の場合において、速度が速いという利点を過度に損なったりすることがないと予想される。本発明は、ビヒクル(例えば、カプセルまたは錠剤)が溶解し、活性成分が放出されるのに必要な時間の短縮に起因して、活性ペプチドがより迅速に吸収されることを可能にする。本発明は、さらに、材料が腸に到達するのを待たずに、消化管のさらに上流、例えば、食道および/または胃においてそのような放出を可能にする。
【0023】
本発明によれば、ペプチド活性成分による処置を必要とする患者は、必ずしもそうである必要はないが、好ましくは、1つ以上のそのようなペプチド活性成分を(適切な投薬量で)含んでいる経口の薬学的組成物の形状をしている、製薬業界において通常の大きさの
錠剤の形態の本発明の完成医薬品の提供を受ける。完成医薬品は、所望であれば、さらに(例えば)カプセルの形態で調製されうる。その医薬品の投薬量および投与する頻度を、以下により詳細に述べる。その医薬品から恩恵を受けうる患者は、高レベルのペプチド含有化合物に良い応答を示す障害に罹患している任意の患者である。例えば、経口サケカルシトニンは、本発明によれば、カルシウム障害または骨疾患に罹患している患者を処置するために使用されうる。本発明は、例えば、骨粗鬆症、パジェット病、悪性高カルシウム血症などを、経口カルシトニン、好ましくはサケカルシトニンで処置するために使用されうる。あるいは、ペプチド活性剤は、代わりに、遊離酸の形態またはアミド化した形態で投与されうる副甲状腺ホルモン(完全長でも切断型でもよい)などの骨同化剤を含んでいてもよい。特定の実施形態は、PTH[1−31]NH、すなわち、切断型のアミド化副甲状腺ホルモンの投与に関する。さらに、dmt−DALDA(H−2,6−ジメチルチロシン−D−アルギニン−フェニルアラニン−リシン−NH)などのいわゆるDALDA誘導体を含むペプチドの投与によって、鎮痛効果および/または心臓血管系の効果が得られることがある。DALDA誘導体および他の有用なペプチドは、2005年6月2日出願の出願番号11/144,580に詳細に記載されており、その出願は、本願の所有者に譲渡されており、また、参照により本明細書中に明確に組み込まれている。
【0024】
サケカルシトニンは、本発明に従って使用される1つの活性成分である。例えば、サケカルシトニンは、ヒト患者に対する薬学的薬剤として使用したとしても、同等のヒトカルシトニンを上回る多くの利点をもたらす。ヒト骨粗鬆症を処置するために、ヒトカルシトニンの代わりにサケカルシトニンを利用することによってもたらされる利点としては、高い効力、鎮痛および長い半減期が挙げられる。サケカルシトニンは、ヒトカルシトニンで必要な投薬量よりも少ない投薬量で済むので、処置の際、天然のヒトカルシトニンよりも有効である。サケカルシトニンとヒトカルシトニンとの間には有意な非相同性が存在し、この2つのカルシトニンのアミノ酸配列の同一性はたった50%である。
【0025】
理論に拘束される意図はないが、本発明の完成医薬品を含む薬学的組成物は、生物学的利用能に関する一連の様々な関連性のない天然の障壁を克服すると考えられている。薬学的組成物の様々な成分は、各々にとって適切なメカニズムによって様々な障壁を克服するように作用し、ペプチド活性成分の生物学的利用能に対して相乗効果をもたらす。以下に述べるように、ペプチドに固有の物理的および化学的な特性が、そのペプチドの生物学的利用能を高める際に、ある特定の吸収促進剤をその他のものよりも有効にする。
【0026】
ペプチド活性化合物は、経口投与に適応した製剤内に含まれる。本発明によれば、胃のプロテアーゼ(そのほとんどが、酸性pHの範囲で活性である)によるペプチドのタンパク質分解は、好ましくは、空腹時の患者に製剤を投与することで低減する(このことは、適切な結果を達成するために必ずしも必要ではない)のに対し、腸または膵臓のプロテアーゼ(そのほとんどが中性から塩基性のpHの範囲で活性である)による分解は、腸内の環境のpHを最適未満のレベルに調整する際のpH低下剤の効果に起因して低減する。溶解促進剤は、ペプチド活性剤が腸上皮の障壁を通過することを促進する。
【0027】
pH低下剤は、局所的な(活性剤が放出された部分の)pHを、多くの腸内プロテアーゼの至適範囲よりも低いレベルに低下させると考えられる。このpHの低下により、腸内プロテアーゼのタンパク質分解活性が低減し、それにより、腸内にペプチドが存在する場合、ペプチドが起こり得る分解から保護される。本発明によって提供される一時的に酸性の環境によって、これらのプロテアーゼの活性は低下する。局所的な腸のpHを一時的に5.5以下、好ましくは4.7以下、より好ましくは3.5以下に低下させるように、十分な酸を提供することが好ましい。以下(「pH低下剤」という表題の節)に記載する炭酸水素ナトリウム試験によって、必要な酸の量が示される。好ましくは、低いpHの条件は、少なくともいくらかのペプチド剤が血流に到達する機会を有するまで、タンパク質分
解からペプチド剤を保護するのに十分な時間にわたって続く。サケカルシトニンについては、活性成分が、十二指腸、腸骨または結腸に直接注射されたとき、サケカルシトニンの血中レベルのTmaxが5〜15分であることが実験で証明されている。本発明の吸収促進剤は、タンパク質分解活性が低い条件が続いている間、相乗的に血液中へのペプチド吸収を促進する。本発明が目標である高い生物学的利用能を達成すると考えられているメカニズムは、可能な限り同時に放出される完成医薬品の活性成分を有することによって促進される。
【0028】
溶解促進剤および/または輸送促進剤(以下により詳細に記載する)でありうる吸収促進剤は、消化管から血液中へのペプチド剤の輸送を促進し、腸内のpHが低下していて、腸内のタンパク質分解活性が低下している時間にわたって、その輸送の促進がよりよく起きるようにプロセスを促進しうる。多くの界面活性剤は、溶解促進剤と輸送(取り込み)促進剤の両方として作用しうる。また、理論に拘束される意図はないが、溶解度を高めることにより、(1)消化管の水性部分への本発明の活性成分の放出がより同時におきること、(2)腸壁に沿って見られるような粘液層におけるペプチドの溶解度および粘液層を介した輸送がより高まることがもたらされると考えられている。一旦、ペプチド活性成分が、例えば腸壁に達すると、取り込み促進剤は、経細胞輸送または傍細胞輸送を介して、腸の刷子縁膜を通過して血液への輸送をより良好にする。以下により詳細に述べるように、多くの好ましい化合物は、両方の機能をもたらしうる。それらの場合において、これらの機能の両方を利用する好ましい実施形態では、ただ1つの追加化合物を薬学的組成物に加えることによって、これらの機能の両方を利用しうる。他の実施形態では、別個の吸収促進剤が、2つの機能を別々にもたらしうる。
【0029】
本発明の完成医薬品の好ましい成分の各々を、以下に別々に述べる。複数のpH低下剤または複数の促進剤の組み合わせは、単一のpH低下剤および/または単一の促進剤だけでの使用と同様に使用可能である。いくつかの好ましい組み合わせについても、以下に述べる。
【0030】
ペプチド活性成分
本発明に従って経口送達の恩恵を受けうるペプチド活性成分は、生理的に活性で、その分子構造内に複数のアミノ酸および少なくとも1つのペプチド結合を有する任意の治療薬を含む。本発明は、いくつかのメカニズムによって、活性成分の分解を抑制しなければ、活性成分のペプチド結合の1つ以上を切断する傾向にあるプロテアーゼによる活性成分の分解を抑制する。分子構造は、さらに他の置換基または修飾を含んでもよい。例えば、本明細書において有用なペプチド活性剤であるサケカルシトニンは、そのC末端がアミド化されている。本発明によれば、合成ペプチドと天然ペプチドの両方を、経口的に送達することができる。
【0031】
本発明のペプチド活性化合物としては、インスリン、バソプレシン、カルシトニン(サケカルシトニンだけでなく、他のカルシトニンも含む)が挙げられるが、これらに限定されない。他の例としては、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、副甲状腺ホルモン(完全長または切断型、アミド化型または遊離酸型、さらに修飾されたものまたはそうでないもの)、黄体形成ホルモン放出因子、エリトロポイエチン、組織プラスミノゲン活性化因子、ヒト成長ホルモン、アドレノコルチコトロピン、様々なインターロイキン、エンケファリン、dmt−DALDAなどのDALDA誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。その他の多くのものが、当該分野で公知である。本発明によって、消化管において切断されうるペプチド結合の切断が減少するので、そのようなペプチド結合を有する任意の薬学的化合物は、本発明に従って、経口送達の恩恵を受けうると予想される。
【0032】
サケカルシトニンを使用するとき、サケカルシトニンは、好ましくは、薬学的組成物全
体の総重量に対して0.02〜0.2重量パーセントを含む。サケカルシトニンは、市販されている(例えば、BACHEM、Torrance、CAから)。あるいは、カルシトニンは、公知の方法によって合成してもよく、その方法のいくつかを以下に簡単に述べる。本発明の活性化合物および経口送達系におけるその生物学的利用能(いくつかを表6に報告する)に対する所望の標的血中濃度に応じて、他のペプチド活性剤が高濃度または低濃度で存在するべきである。
【0033】
サケカルシトニン前駆体は、当該分野で公知の化学合成または組換え合成によって製造されうる。他のアミド化ペプチド活性剤の前駆体を同様の様式で製造してもよい。組換え生産の方が、非常に費用対効果が高いと考えられる。前駆体は、やはり当該分野で公知のアミド化反応によって活性なサケカルシトニンに変換される。例えば、酵素によるアミド化は、米国特許第4,708,934号および欧州特許公開第0308067号および同第0382403号に記載されている。前駆体と、サケカルシトニンへの前駆体の変換を触媒する酵素との両方にとって、組換え生産は好ましい。そのような組換え生産は、アミド化産物への前駆体の変換についてさらに記載しているBiotechnology、Vol.11(1993)pp.64−70に述べられている。その文献に報告されている組換え産物は、天然のサケカルシトニンならびに液相および固相の化学ペプチド合成を用いて製造されたサケカルシトニンと同一である。アミド化の最中に、アルファ−ケト酸などのケト酸またはその塩もしくはエステル(アルファ−ケト酸は、分子構造RC(O)C(O)OHを有し、Rは、アリール、C1−C4炭化水素部分、ハロゲン化またはヒドロキシル化されたC1−C4炭化水素部分およびC1−C4カルボン酸からなる群から選択される)を、カタラーゼの共同因子の代わりに使用してもよい。これらのケト酸の例としては、ピルビン酸エチル、ピルビン酸およびその塩、ピルビン酸メチル、ベンゾイルギ酸およびその塩、2−ケト酪酸およびその塩、3−メチル−2−オキソブタン酸およびその塩、ならびに2−ケトグルタル酸およびその塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
好ましい組換えサケカルシトニン(rsCT)の製造は、例えば、大腸菌において、グリシン伸長サケカルシトニン前駆体をグルタチオン−S−トランスフェラーゼとの可溶性融合タンパク質として産生することによって進めてもよい。グリシン伸長前駆体は、C末端以外に、活性なサケカルシトニンと同一の分子構造を有する(サケカルシトニンは、−pro−NHを末端として有するのに対し、前駆体は、−pro−glyを末端として有する)。上記の刊行物に記載されているα−アミド化酵素は、サケカルシトニンへの前駆体の変換を触媒する。好ましくは、その酵素は、上に引用したBiotechnologyの論文に記載されているように、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)において組換え的に産生される。他のアミド化ペプチドに対する他の前駆体を、同様の様式で製造してもよい。アミド化または他のさらなる官能性を必要としないペプチドも、同様の様式で製造してもよい。他のペプチド活性剤は、市販されているか、または当該分野で公知の技術によって製造されうる。
【0035】
pH低下剤
サケカルシトニンの各投与とともに投与されるpH低下化合物の総量は、腸に放出されるとき、好ましくは、例えば、局所的な腸内のpHをそこに存在するプロテアーゼに対する至適pHより実質的に低いpHに低下させるのに十分な量であるべきである。必要な量は、必然的にいくつかの因子によって変化し、その因子としては、使用するpH低下剤のタイプ(以下に述べる)および所与のpH低下剤によってもたらされるプロトンの均等物が挙げられる。実際には、良好な生物学的利用能を提供するのに必要な量は、本発明の医薬品が10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウムの溶液に加えられるとき、その炭酸水素ナトリウム溶液のpHを5.5以下、好ましくは4.7以下、最も好ましくは3.5以下に低下させる量である。先行の試験において、pHを約2.8に低下させるのに十分な酸が、いくつかの実施形態において使用されている。好ましくは、少なくとも300
ミリグラム、より好ましくは少なくとも400ミリグラムのpH低下剤が、本発明の薬学的組成物中に使用される。前述の好ましい量は、2つ以上のそのような薬剤を組み合わせて使用する場合は、すべてのpH低下剤を合わせた総重量に関するものである。経口製剤は、pH低下化合物と一緒に放出される場合に、上記の炭酸水素ナトリウム試験のpHを5.5以下に低下させるのを妨げうる量のいかなる基剤をも含むべきではない。
【0036】
本発明のpH低下剤は、消化管において無毒であり、水素イオン(従来の酸)を送達すること、または、局所的な環境からより多くの水素イオンを誘導することが可能な任意の薬学的に許容可能な化合物でありうる。また、本発明のpH低下剤は、そのような化合物の任意の組み合わせでありうる。本発明において使用される少なくとも1つのpH低下剤のpKaは、4.2以下、好ましくは3.0以下であることが好ましい。また、pH低下剤の水に対する溶解度は、室温で水100ミリリットルあたり少なくとも30グラムであることが好ましい。
【0037】
水素イオンをより多く含む化合物の例としては、塩化アルミニウムおよび塩化亜鉛が挙げられる。薬学的に許容可能な従来の酸としては、アミノ酸の酸塩(例えば、アミノ酸塩酸塩)またはその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。これらの例は、アセチルグルタミン酸、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、ベタイン、カルニチン、カルノシン、シトルリン、クレアチン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、ヒポタウリン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチルヒスチジン、ノルロイシン、オルニチン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、セリン、タウリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンの酸塩である。
【0038】
有用なpH低下化合物の他の例としては、ジカルボン酸およびトリカルボン酸が挙げられる。酸(例えば、アセチルサリチル酸、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、フマル酸、グルクロン酸、グルタル酸、グリセリン酸、グリココール酸、グリオキシル酸、イソクエン酸、イソ吉草酸、乳酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、オキサロコハク酸、プロピオン酸、ピルビン酸、コハク酸、酒石酸、吉草酸など)が有用であることが見出されている。
【0039】
通常、当該分野で「酸」と呼ばれないが、本発明において有用でありうる、他の有用なpH低下剤は、リン酸エステル(例えば、フルクトース1,6ジホスフェート、グルコース1,6ジホスフェート、ホスホグリセリン酸およびジホスホグリセリン酸)である。CARBOPOL.RTM.(BF Goodrichの登録商標)およびポリカルボフィルなどのポリマーもpHを低下させるために使用されうる。
【0040】
上に述べた炭酸水素ナトリウム試験において、求められるレベルである5.5以下にpHを低下させることができるpH低下剤の任意の組み合わせが使用されうる。1つの好ましい実施形態では、完成医薬品におけるpH低下剤の少なくとも1つとして、クエン酸、酒石酸およびアミノ酸の酸塩からなる群から選択される酸が利用される。
【0041】
サケカルシトニンが、ペプチド活性剤であるとき、pH低下剤とサケカルシトニンとのある特定の比が、特に有効であることが証明されている。pH低下剤とサケカルシトニンとの重量比は、200:1、好ましくは800:1、最も好ましくは2000:1を超えることが好ましい。
【0042】
吸収促進剤
吸収促進剤は、好ましくは、薬学的組成物の全重量に対して0.1〜20.0重量パーセントを構成する量で存在する。好ましい吸収促進剤は、溶解促進剤と取り込み促進剤の両方として作用する界面活性剤である。一般に、「溶解促進剤」は、本発明の成分が、本
来放出される水性の環境もしくは例えば脂溶性の環境(腸壁を裏打ちする粘液層の環境)のいずれかまたはその両方に可溶化される能力を増大させる。「輸送(取り込み)促進剤」(溶解促進剤として使用される同じ界面活性剤であることが多い)は、ペプチド剤が腸壁を通過するのを容易にするものである。
【0043】
1つ以上の吸収促進剤は、1つの機能だけ(例えば、溶解度)を果たしてもよいし、1つ以上の吸収促進剤は、本発明の範囲内の他の機能だけ(例えば、取り込み)を果たしてもよい。いくつかの化合物の混合物を有することも可能であり、その混合物の一部が、溶解度を改善し、その混合物の一部が、取り込みを改善し、そして/またはその混合物の一部が、その両方をもたらす。理論に拘束される意図はないが、取り込み促進剤は、(1)細胞の外側の膜の疎水性領域の障害を増大することで、経細胞輸送の増大を可能にすること、または(2)膜タンパク質の浸出の結果、経細胞輸送が増大すること、または(3)傍細胞輸送を増大させるために細胞間の細孔の半径を広げることによって作用しうると考えられている。
【0044】
界面活性剤は、溶解促進剤と取り込み促進剤の両方として有用であると考えられている。例えば、洗浄剤は、(1)活性成分のすべてを本来放出される水性の環境に迅速に可溶化する際、(2)本発明の成分、特にペプチド活性剤の脂溶性を増大させて、その成分が腸の粘液に入り、そこを通過するのを促進する際、(3)通常は極性のペプチド活性剤が刷子縁膜の上皮の障壁を通過する能力を増大させる際、および(4)上に記載したように経細胞輸送または傍細胞輸送を増大させる際に有用である。
【0045】
界面活性剤を吸収促進剤として使用するとき、それらは、製造プロセス中の混合およびカプセルへの充填を容易にするための流動性粉末(free flowing powder)であることが好ましい。サケカルシトニンおよび他のペプチドの固有の特徴(例えば、それらの等電点、分子量、アミノ酸組成など)のために、ある特定の界面活性剤が、ある特定のペプチドと最も良好に相互作用する。実際に、いくつかは、サケカルシトニンの荷電部分と相互作用してその吸収を妨げてしまうので、生物学的利用能を低下させてしまう。サケカルシトニンまたは他のペプチドの生物学的利用能を増大させようとするとき、吸収促進剤として使用される任意の界面活性剤は、(i)コレステロール誘導体(例えば、胆汁酸)である陰イオン性の界面活性剤、(ii)陽イオン性の表面剤(例えば、アシルカルニチン、リン脂質など)、(iii)非イオン性界面活性剤、および(iv)陰イオン性の界面活性剤(特に直鎖状炭化水素領域を有するもの)と負電荷中和剤との混合物からなる群から選択されることが好ましい。負電荷中和剤としては、アシルカルニチン、塩化セチルピリジニウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。吸収促進剤は、酸性pH、特に3.0〜5.0の範囲のpHで可溶性であることも好ましい。
【0046】
サケカルシトニンと良好に作用する1つの特に好ましい組み合わせは、陽イオン性の界面活性剤と、コレステロール誘導体である陰イオン性の界面活性剤とを混合したものである(その両方が、酸性pHで可溶性である)。
【0047】
特に好ましい組み合わせは、酸可溶性胆汁酸と陽イオン性の界面活性剤との組み合わせである。アシルカルニチンおよびショ糖エステルが、優良な組み合わせである。特定の吸収促進剤を単独で使用するとき、その吸収促進剤は、陽イオン性の界面活性剤であることが好ましい。アシルカルニチン(例えば、ラウロイルカルニチン)、リン脂質および胆汁酸は、特に優良な吸収促進剤であり、特にアシルカルニチンが優良である。コレステロール誘導体である陰イオン性の界面活性物質もまた、いくつかの実施形態において使用される。ペプチド剤の血液への吸収に干渉する、ペプチド剤との相互作用を妨げることが、これらが好ましい理由である。
【0048】
副作用の可能性を低くするために、本発明の吸収促進剤として使用されるときに好ましい洗浄剤は、生分解性または再吸収性(例えば、生物学的に再生利用可能な化合物(例えば、胆汁酸、リン脂質および/またはアシルカルニチン))であり、好ましくは、生分解性である。アシルカルニチンは、傍細胞輸送を促進する際に特に有用であると考えられている。胆汁酸(または、直鎖状炭化水素を有しない別の陰イオン性の洗浄剤)を陽イオン性の洗浄剤と組み合わせて使用するとき、サケカルシトニンは、より良好に腸壁に輸送され、腸壁を通過して輸送される。
【0049】
好ましい吸収促進剤としては、(a)サリチル酸塩(例えば、サリチル酸ナトリウム、3−メトキシサリチル酸塩、5−メトキシサリチル酸塩およびホモバニル酸塩)、(b)胆汁酸(例えば、タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、デオキシコール酸、コール酸、グリコール酸、リトコール酸塩、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ウルソコール酸、デヒドロコール酸、フシジン酸など)、(c)非イオン性界面活性物質(例えば、ポリオキシエチレンエーテル(例えば、Brij36T、Brij52、Brij56、Brij76、Brij96、Texaphor A6、Texaphor A14、Texaphor A60など)、p−t−オクチルフェノールポリオキシエチレン(Triton X−45、Triton X−100、Triton X−114、Triton X−305など)、ノニルフェノキシポリオキシエチレン(例えば、Igepal COシリーズ)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(例えば、Tween−20、Tween−80など))、(d)陰イオン性の界面活性物質(例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)、(e)リゾリン脂質(例えば、リゾレシチンおよびリゾホスファチジルエタノールアミン)、(f)アシルカルニチン、アシルコリンおよびアシルアミノ酸(例えば、ラウロイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、パルミトイルカルニチン、ラウロイルコリン、ミリストイルコリン、パルミトイルコリン、ヘキサデシルリシン、N−アシルフェニルアラニン、N−アシルグリシンなど)、(g)水溶性リン脂質(例えば、ジヘプタノイルホスファチジルコリン、ジオクチルホスファチジルコリンなど)、(h)中鎖長の脂肪酸(カプリル酸、カプリン酸およびラウリン酸)を含んでいるモノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドの混合物である中鎖グリセリド、(i)エチレンジアミン四酢酸、(j)陽イオン性の界面活性物質(例えば、塩化セチルピリジニウム)、(k)ポリエチレングリコールの脂肪酸誘導体(例えば、Labrasol、Labrafacなど)および(l)アルキルサッカライド(例えば、ラウリルマルトシド、ラウロイルスクロース、ミリストイルスクロース、パルミトイルスクロースなど)が挙げられる。
【0050】
いくつかの好ましい実施形態において、理論に拘束される意図はないが、別の可能性のあるメカニズムによって溶解度を増大させるために、陽イオン性のイオン交換剤(例えば、洗浄剤)を含める。特に、それらは、粘液へのサケカルシトニンまたは他のペプチド活性剤の結合を妨げうる。好ましい陽イオン性のイオン交換剤としては、塩化プロタミンまたは他の任意のポリカチオンが挙げられる。
【0051】
他の任意成分
いくつかの好ましい実施形態において、非特異的な吸着(例えば、腸内の粘液の障壁へのペプチドの結合)を低減することによって、高価なペプチド活性剤の必要濃度を低下させるために、別のペプチド(例えば、アルブミン、カゼイン、大豆タンパク質、他の動物性または植物性タンパク質など)を含める。このペプチドを加えるとき、ペプチドは、好ましくは、薬学的組成物全体の重量に対して1.0〜10.0重量パーセントである。好ましくは、この第2のペプチドは、生理的に活性でなく、また、食物ペプチド(例えば、大豆ペプチドなど)であることが最も好ましい。理論に拘束される意図はないが、この第2のペプチドは、望ましくはプロテアーゼ相互作用に対してペプチド活性剤と競合するプロテアーゼスカベンジャーとして作用することによって、生物学的利用能を増大させうる
。第2のペプチドはまた、肝臓への活性化合物の通過を促進しうる。
【0052】
本発明のすべての薬学的組成物は、必要に応じて、通常の公知の範囲および量で、通常の薬学的希釈剤、多糖類、潤滑剤、ゼラチンカプセル、保存剤、着色料などを含んでもよい。
【0053】
他の好ましい形態
pH低下剤と吸収促進剤との重量比は、3:1〜20:1、好ましくは4:1〜12:1、最も好ましくは5:1〜10:1である。所与の薬学的組成物におけるすべてのpH低下剤の総重量およびすべての吸収促進剤の総重量は、前述の好ましい比で含まれる。例えば、薬学的組成物が、2つのpH低下剤および3つの吸収促進剤を含む場合、前述の比は、両方のpH低下剤を合わせた総重量と3つすべての吸収促進剤を合わせた総重量に基づいて計算される。
【0054】
pH低下剤、ペプチド活性剤および吸収促進剤(各カテゴリにおいて、単一の化合物または複数の化合物のどちらでもよい)は、完成医薬品中に均一に分散していることが好ましい。1つの実施形態において、完成医薬品は、2層以上の積層物の形態で製造され得、ここで、ペプチド活性剤は、第1の層に含まれ、pH低下剤および吸収促進剤は、前記第1の層と積層される第2の層に含まれる。別の実施形態では、その医薬品の組成は、ペプチド活性剤を有する薬学的結合剤、その結合剤の中に均一に分散されているpH低下剤および吸収促進剤を含む顆粒剤からなる。好ましい顆粒剤はまた、有機酸の均一な層に囲まれている酸の中心、促進剤の層、および有機酸の外層に囲まれているペプチドの層からなってもよい。顆粒剤は、本発明において使用されるpH低下剤、吸収促進剤およびペプチド活性剤とともに薬学的結合剤(例えば、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)からなる水性混合物から調製されうる。
【0055】
製造プロセス
本発明の剤形は、好ましい実施形態において、少なくとも2層の積層構造を含む錠剤からなる。本明細書中で使用されるとき、用語「積層構造」は、堅固に一体となった材料の層から構成されるものという従来の意味を有するが、層間の相互作用はあったとしてもわずかである。第1の層の主成分は、典型的には、上に記載したpH低下剤である。第2の層の主成分は、典型的には、ペプチドおよび吸収促進剤である。以下に記載する様式で組み合わされるとき、それらの成分は、少なくとも2層を有する錠剤を形成する。それらの層は、互いに隣接(例えば、完成医薬品の1番外側に第1の層があって、その下に第2の層がある)していてもよいし、第1の層が、第2の層の中に存在していて、第2の層に含まれていてもよい。2層の錠剤は、その製造が比較的容易であるのでが好ましいが、3層以上を有する錠剤も可能であり、そのとき、第2の層は、実質的にペプチドからなり、第3の層は、界面活性物質を含む。
【0056】
第1の層は、第1の層材料を形成する少なくとも1つのpH低下剤を顆粒化することによって製造される。クエン酸が好ましいpH低下剤であるが、クエン酸単独では、必要な圧縮性特徴を示さない。従って、顆粒化の最中および顆粒化の後に、他の材料をそのpH低下剤に加えることによって、その力学的特性を向上させてもよい。特に、流動床において顆粒化を行っている間に、充填剤材料(例えば、微結晶性セルロースおよびポビドン結合剤)を当該分野で周知の量で加えてもよい。次に、得られた顆粒を乾燥し、必要に応じて、当業者に十分理解されている任意の様式で粉砕機を用いて大きさを整える。さらに、その顆粒を流動促進剤(glidant)および上に記載したような潤滑剤(例えば、タルクおよびステアリン酸マグネシウム)と混合することにより、顆粒の圧縮性および流動性をさらに向上させることによって第1の層材料を形成してもよい。
【0057】
第2の層材料は、ペプチドおよび少なくとも1つの吸収促進剤(すなわち、界面活性物質)を混合することによって形成される。第2の層もまた、流動床において製造してもよい。ペプチドは少量で比較的高い生物学的活性を示すので、第2の層は、そのペプチドおよび結合剤(例えば、ポビドン)を、界面活性物質または少なくとも1つの賦形剤と界面活性物質との混合物の上に噴霧することによって製造される。先に記載したように、界面活性物質は、典型的にはアシルカルニチンであり、本発明では、ラウロイル1−カルニチンが好ましい。任意の賦形剤は、典型的には、当業者には理解されているように、層間を適正に接着するのに十分な量の充填剤(例えば、微結晶性セルロース)を含む。次いで、得られた顆粒を乾燥し、必要に応じて、当業者に十分理解されている任意の様式で粉砕機を用いて大きさを整える。最後に、必要に応じて顆粒をブレンダに移し、そこで、その顆粒の重量の約10.0%以下の量、好ましくは約2.0重量%の量の、例えば、クロスカルメロースナトリウムなどの崩壊剤または他の1つ以上の適当な崩壊剤と混合する。崩壊剤は、pH低下剤が放出されるのとほぼ同じときにペプチドのより完全な放出を促進することによって、ペプチドの生物学的利用能を増大させると考えられるので、任意ではあるが、崩壊剤を含むのが好ましい。
【0058】
他の潤滑剤および添加剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸)ならびに他の賦形剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素およびポビドン)を、当該分野で公知の様式で第2の層材料の特性を改良するために加えてもよい。
【0059】
次に、第1の層材料の一部を標準的な2層の打錠プレス機に送り込み、金型または鋳型に充填する。次いで、第1の層材料をある程度圧縮して、第1の層を形成する。そのある程度の圧縮は、典型的には、第2の層材料がその金型に加えられるときに第1の層材料と第2の層材料との間での実質的な混合を防ぐために必要である。第1の層材料をある程度圧縮した後に、第2の層材料を、第1の層が入っている金型に加える。次いで、第1および第2の層材料を一緒に圧縮することにより、2層を有する錠剤が形成される。
【0060】
典型的には、第1の層材料は、最終的な錠剤の総重量の約50%〜90%を構成する。好ましくは、第1の層材料は、錠剤の総重量の約70%を構成する。第2の層材料は、典型的には、最終的な錠剤の総重量の約50%〜10%を構成する。好ましくは、第2の層材料は、最終的な錠剤の総重量の約30%を構成する。
【0061】
第1の層材料が、事前にある程度まで層状に圧縮されているので、第2の層材料と第1の層材料との実質的な混合が回避される。本発明の2層構造は、pH低下剤とペプチドと界面活性物質との接触を実質的に防ぐ。特に、2層間の界面において、典型的には、ペプチドの0.1%未満がpH低下剤と接触する。
【0062】
別の実施形態では、本発明の完成医薬品(例えば、サケカルシトニン)は、0.25mgのペプチド、400mgの顆粒状のクエン酸(例えば、Archer Daniels
Midland Corp.から入手可能)、50mgのタウロデオキシコール酸(例えば、SIGMAから入手可能)および50mgのラウロイルカルニチン(SIGMA)で満たされたサイズ00ゼラチンカプセルを含みうる。上記成分のすべてが、好ましくは、ゼラチンカプセルへの最終的な挿入に適応しており、好ましくは、任意の順序でブレンダに加えられ得る粉末である。その後、粉末が完全に混合されるまで、そのブレンダを約5分間作動させる。次いで、その混合された粉末をゼラチンカプセルの大きい端に充填する。次いで、カプセルの他方の端を合わせ、カプセルをカチッと閉める。
【0063】
本発明によって高い生物学的利用能がもたらされるので、本発明の薬学的調製物中の比較的高価なペプチド活性剤(例えば、サケカルシトニン、PTH、バソプレシン、DALDA、DMT−DALDA、インスリンなど)の濃度が比較的低く保たれうる。特定の製
剤の例を、以下に記載する実施例で説明する。
【0064】
患者の処置
骨粗鬆症を処置するための活性成分としてサケカルシトニンを選択するとき、定期的な投与が推奨される。サケカルシトニンは、ヒトに皮下投与された後、たった20〜40分という半減期で迅速に代謝される。しかしながら、破骨細胞に対してはその有益な効果は、それよりずっと長く持続し、血中レベルは迅速に低下するにもかかわらず、24時間以上その効果は持続しうる。従来の投薬量でサケカルシトニンを注射してから2時間以上後では、通常、血中レベルは検出不可能である。従って、1週間あたり約5日間、1回投与するという定期的な投与が好ましい。サケカルシトニン(100国際単位)の皮下投与により、約250ピコグラム/ミリリットルという最大血清濃度がもたらされることが多い。サケカルシトニン(200国際単位)の経鼻投与は、10ピコグラム/ミリリットルほどの低いレベルで骨粗鬆症に対して有効であると証明されている。高いピークレベル(例えば、200ピコグラム/ミリリットル以上)で何らかの消化器系の障害を示す患者もいる。従って、10〜150ピコグラム/ミリリットル、より好ましくは10〜50ピコグラム/ミリリットルの血清サケカルシトニンのピークが好ましい。血清レベルは、当該分野で公知のラジオイムノアッセイ技術により測定されうる。主治医は、特に、処置の初期段階(1〜6ヶ月)の間、患者の応答、サケカルシトニンの血中レベルまたは骨疾患の代用マーカー(例えば、尿中のピリジノリンまたはデオキシピリジノリン)を監視してもよい。次いで、主治医は、個別の患者の代謝および応答を説明するために投薬量をいくらか変更してもよい。
【0065】
本発明に従って達成されうる生物学的利用能によって、1カプセルあたりたった300〜3000マイクログラムのサケカルシトニン、好ましくは300〜1,200マイクログラム、特に300〜600マイクログラムのサケカルシトニンを用いて、先に特定した好ましい濃度レベルで血液中にサケカルシトニンを経口送達することが可能となる。
【0066】
医薬品の単回投与によって、ポリペプチド、pH低下剤および吸収促進剤が最も良好に同時に放出されるので、単一の錠剤またはカプセルを各投与において使用することが好ましい。ポリペプチドが放出されるのと非常に近いタイミングで酸が放出されるとき、その酸が、ポリペプチドに対する望ましくないタンパク質分解性の攻撃を最も減少させることができるので、上記のような投与が非常に望ましい。従って、本発明のすべての成分を単一の錠剤またはカプセルとして投与することによって、同時に近い放出が最も良好に達成される。しかしながら、本発明は、例えば、必要量の酸および促進剤を2つ以上の錠剤またはカプセルに分割することも包含し、それらの錠剤またはカプセルを一緒に投与することで、すべての成分の必要量が一緒にもたらされうる。用語「薬学的組成物」は、本明細書中で使用されるとき、実質的に同時の投与である限り、どのように細分されているかに関係なく、ヒト患者に対する特定の投与に適切な、完全な投与量を含むものである。
【実施例1】
【0067】
ある特定のパラメータを変化させることによる生物学的利用能に対する効果を示している一連の表を、以下で説明する。本明細書中に報告するヒトでの研究に関するものを除いて、成分の量は、ヒトと、動物モデルにおいて使用される動物との間の差を説明するために、本明細書中に特許請求される量と異なる場合がある。
【0068】
【表1】

【0069】
方法:
雌ウィスター系ラット(250〜275g)(各製剤につきn=3)をケタミンおよびキシラジンで麻酔した後、カニューレを頚動脈に挿入した。そのカニューレに3方弁を装着し、そこから血液をサンプリングし、生理食塩水で置き換えた。腹腔を正中切開し、0.5mlの製剤を露出した十二指腸に直接注入した。様々な量の等モル濃度のクエン酸およびクエン酸ナトリウムを混合することによって、製剤のpHを調整した。血液(0.5ml)を、製剤投与の前および製剤投与の5、15、30、60および120分後に採取した。血液サンプルを2600gで10分間遠心分離し、得られた血漿上清を−20℃で保存した。血漿中のカルシトニンの濃度を競合ラジオイムノアッセイにより測定した。絶対生物学的利用能(すなわち、カルシトニンの静脈内投与に対するもの)を、時間の関数としてカルシトニンの血漿濃度のプロットから得られる曲線下面積から計算した。
結果および考察:
緩衝液のpHを5(製剤I)から4(製剤II)に低下させたとき、絶対生物学的利用能は、0.02%から0.1%に5倍増加した。pHを3(製剤III)に低下させたときは、絶対生物学的利用能は、さらに6.4倍増加した。pHを2まで低下させたときは、カルシトニンの生物学的利用能の増加は非常に小さかった。カルシトニンの生物学的利用能全体は、緩衝液のpHを5から3に低下させたとき、32倍増加した。
【0070】
【表2】

【0071】
方法:
総容積0.5mlにおいて、一定量のタウロデオキシコール酸および2つの異なる量のクエン酸からなる製剤を、表1の説明文に記載したように麻酔したラットの十二指腸に投与した。マンニトールを、傍細胞輸送を測定するためのマーカーとして製剤中に含めた。血液サンプルを様々な時点で採取し、先に記載したようにカルシトニンについて分析した。
結果および考察:
9.6mgのクエン酸(I)の存在下で投与されたサケカルシトニンの生物学的利用能は、0.25%であったのに対し、48mgのクエン酸(II)の存在下では、その生物学的利用能は、2.43%であった。固定量のタウロデオキシコール酸の存在下では、製剤中のクエン酸の量を5倍増加させただけで、サケカルシトニンの生物学的利用能は、ほぼ10倍に増加した。
【0072】
【表3】

【0073】
方法:
総容積0.5mlにおいて、クエン酸、カルシトニンおよび様々な種類の促進剤からなる製剤を、表1の説明文に記載したように麻酔したラットの十二指腸に投与した。マンニ
トールを、傍細胞輸送を測定するためのマーカーとして製剤V中に含めた。血液サンプルを様々な時点で採取し、先に記載したようにカルシトニンについて分析した。
結果および考察:
促進剤が存在しない場合は、カルシトニンの絶対生物学的利用能は、0.69%であった。水溶性リン脂質を含めると(製剤VII)、生物学的利用能が4.3倍増加して2.97%となった。最も有効な促進剤は、糖エステルの種類(製剤V)であり、その場合、カルシトニン生物学的利用能は、5.83%であった。胆汁酸と陽イオン性の洗浄剤との混合物(製剤III)、非イオン性の洗浄剤(製剤IV)およびアシルカルニチン(製剤VI)を使用した結果、3.03%〜4.53%の範囲の中程度の生物学的利用能がもたらされた。様々な種類の促進剤の存在下でのカルシトニンの生物学的利用能の差は、製剤中に促進剤が存在せずクエン酸のみが存在するときに観察された生物学的利用能と比較してわずかである。
【0074】
【表4】

【0075】
方法:
総容積0.5mlにおいて、ラウロイルカルニチン、カルシトニンおよび他の様々な化合物からなる製剤を、表1の説明文に記載したように麻酔したラットの十二指腸に投与した。血液サンプルを様々な時点で採取し、先に記載したようにカルシトニンについて分析した。
結果および考察:
クエン酸または任意の促進剤が存在しない場合(製剤I)の、カルシトニン絶対生物学的利用能は、0.096%であった。5mgの塩化ラウロイルカルニチンの存在下では(
製剤II)、生物学的利用能は、1.8倍増加して0.17%となった。クエン酸をラウロイルカルニチンとともに含むとき(製剤III)、生物学的利用能は、さらに27倍増加して4.53%となった。ラウロイルカルニチンの量を5倍減少させたが、クエン酸の量は変化させないときは(製剤IV)、サケカルシトニンの生物学的利用能は、有意に低下しなかった。製剤IIIに5mgのジヘプタノイルホスファチジルコリンを含めて製造された製剤Vでは、生物学的利用能がわずかに増加した(1.4倍)。クエン酸を25mgのウシ血清アルブミンに置き換えたとき(製剤VI)は、その生物学的利用能が4.53%(製剤III)から0.42%に低下した。これらの結果を組み合わせると、クエン酸のようなpH低下剤とラウロイルカルニチンのような促進剤との間の相乗効果が示される。
【0076】
【表5】

【0077】
方法:
改良血管アクセスポートを雄のビーグル犬の十二指腸、回腸および結腸に外科的に埋め込んだ。そのポートの隔壁/貯蔵部本体を皮膚の下に埋め込み、カルシトニン製剤の投与用の部位として使用した。意識のあるイヌへのカルシトニン製剤の投与の前後に、カルシトニンを含まない2ml製剤をポートに流した。カルシトニン投与の前のt=30、15および0、そしてt=5、10、20、30、40、50、60、その後は2時間にわたって15分毎に、血液(2ml)を脚静脈の血管カテーテル管から採取した。血液サンプルを2600gで10分間遠心分離し、得られた血漿上清を−20℃で保存した。血漿中のカルシトニンの濃度を競合ラジオイムノアッセイによって測定した。絶対生物学的利用能(すなわち、カルシトニンの静脈内投与に対するもの)を、得られる時間の関数として血漿濃度のプロットから得られる曲線下面積から計算した。
結果および考察:
水中で投与したカルシトニン(I)の絶対生物学的利用能は、0.015%であった。192mgのクエン酸の存在下では(II)、カルシトニンの生物学的利用能は、25倍増加した。20mgのタウロデオキシコール酸を製剤中に含めることにより(III)、絶対生物学的利用能がさらに2.2倍増加して0.81%となった。pH低下化合物とクエン酸と促進剤タウロデオキシコール酸とを組み合わせることにより、サケカルシトニンの絶対生物学的利用能が全体で54倍増加した。
【0078】
【表6】

【0079】
方法:
総容積0.5mlにおいて、[Arg]−バソプレシン、組換えサケカルシトニンまたはヒトインスリンのいずれかと、記載されている添加剤とからなる製剤を、表1の説明文に記載したように麻酔したラットの十二指腸に投与した。血液サンプルを様々な時点で採取し、記載されているペプチドについて先に記載したように分析した。
結果および考察:
いずれの添加剤も存在しない場合、十二指腸内に投与された[arg.sup.8]−バソプレシンの絶対生物学的利用能は、0.38%であった。クエン酸およびラウロイルカルニチンをその製剤に加えたとき、バソプレシンの生物学的利用能は、8.1%に増加した。酸および促進剤が存在しないときのカルシトニンの生物学的利用能は、0.096%であり、これは、バソプレシンのみのものよりも低かった。しかしながら、クエン酸およびラウロイルカルニチンをその製剤に含めたとき、その絶対生物学的利用能は、50倍増加して4.53%となった。クエン酸が存在しないと、ヒトインスリンを水に溶解することさえできない。クエン酸が存在すると、そのペプチドのすべてが容易に溶解し、十二指腸内に投与されたヒトインスリンの絶対生物学的利用能は、0.07%であった。ラウロイルカルニチンをその製剤に含めたとき、インスリンの絶対生物学的利用能は、10倍増加した。これらの結果から、ペプチドのみの生物学的利用能は、最も良好なもので0.38%、クエン酸などの有機酸およびラウロイルカルニチンなどの促進剤を含むときのペプチド生物学的利用能は、8.1%に増加したことが示される。
【0080】
【表7】

【0081】
サイズ00のHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)カプセルを、クエン酸、ラウロイルカルニチンおよびサケカルシトニン(sCT)からなる粉末の混合物でそれぞれ満たした。カプセルの半分を、EUDRAGIT L30D−55(メタクリル酸メチルエステルとのメタクリル酸コポリマーで、ROHM Tech Inc.、Maidan、Mass.から入手可能な腸溶コーティング)の腸溶コーティング溶液でコーティングし、残りのカプセルは腸溶コーティングしなかった。コーティングプロセスは、米国特許第6,086,918号の第11欄、第50行〜第12欄、第11行に教示されているものに対応するものであった。腸溶コーティングされたカプセルおよび腸溶コーティングされていないカプセルに対するカプセル内容物の平均を表に示す。8匹の絶食イヌにそれぞれ1つのコーティングされていないカプセルを経口的に投与し、2週間後にそれぞれのイヌに腸溶コーティングされたカプセルを経口的に投与した。各カプセルを投与してから4時間後まで15分間隔で、留置カテーテルから血液サンプルを採取した。血液サンプルを遠心分離し、得られた血漿上清を−20℃で凍結保存した。その後、血漿サンプルを直接ELISAによりsCTについて分析した。1mg用量に標準化した最大血漿sCT濃度として表にまとめた結果は、腸溶コーティングしたカプセルならびに腸溶コーティングしていないカプセルを経口的に投与されたイヌにおいてsCTが検出されたことを示している。コーティングしていないカプセルを投与されたときと比べて、腸溶コーティングしたカプセルを投与されたときのイヌの血漿中にはほぼ3倍多くのsCTが検出された。コーティングしていないカプセルを経口的に投与されたイヌにおけるsCTの最大濃度は、投与後30分以内に見られた。腸溶コーティングしたカプセルを投与されたイヌにおけるsCTの最大濃度は、投与の98分後に見られた。これらの結果から、治療有効量のsCTは、腸溶コーティングしていないカプセルからの方がずっと速い時間枠で吸収されうるが、血液中で検出されたsCTの量は、腸溶コーティングしたカプセルで観察されたものよりも低いことが証明された。特にペプチドの場合、速度が速いことは有利であり得、その速さは、生物学的利用能全体よりも重要である(例えば、鎮痛剤)。腸溶コーティング工程が必要でないとき、製造効率においても有益でありうる。
【0082】
【表8】

【0083】
サイズ00のHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)カプセルを、記載した量のクエン酸、ラウロイルカルニチン、ショ糖およびサケカルシトニン(sCT)からなる粉末の混合物でそれぞれ満たした。カプセルに対するカプセル内容物の平均を表に示す。各週において、8匹の絶食イヌにそれぞれ1つのコーティングしていないカプセルを経口的に投与した。カプセルを投与してから4時間後まで15分間隔で、留置カテーテルから血液サンプルを採取した。血液サンプルを遠心分離し、得られた血漿上清を−20℃で凍結保存した。その後、血漿サンプルを直接ELISAによりsCTについて分析した。1mg用量に標準化された最大血漿sCT濃度として表にまとめた結果は、クエン酸を含む、コーティングしていないカプセルを経口的に投与されたイヌにおいて最高濃度のsCTが検出されたことを示している。クエン酸が存在しないが、ラウロイルカルニチンが存在するとき、イヌの血漿中の最大sCT濃度は、80%減少した。クエン酸およびラウロイルカルニチンが存在しないとき、イヌにおける最大sCT濃度は、99%減少した。これらの結果は、酸と吸収促進剤の両方が重要であることを示唆している。
【0084】
【表9】

【0085】
サイズ00のHPMCカプセルを、少なくとも500mgのクエン酸、50mgのラウロイルカルニチンおよび記載したペプチドのうちの1つからなる粉末の混合物でそれぞれ満たした。各週において、8匹の絶食イヌにコーティングしていないカプセルのうちの1つを経口的に投与した。カプセルを投与してから4時間後まで15分間隔で、留置カテーテルから血液サンプルを採取した。血液サンプルを遠心分離し、得られた血漿上清を−20℃で凍結保存した。その後、血漿サンプルをそれぞれDmt−DALDA、PTH(1−31)NHまたはインスリンについて分析した。表にまとめた結果は、3つのすべてのペプチドが、治療的に使用することができるのに十分な濃度でイヌ血漿中に検出できたことを示している。しかしながら、検出されたペプチドの最大濃度は、大きさ、配列および/または構造に依存していると思われる。
【0086】
本発明をその特定の実施形態に関して説明したが、他の多くの変法および改変ならびに他の用途が当業者には明らかになるであろう。ゆえに、本発明は、本明細書中の特定の開示によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理的に活性なペプチド剤の経口送達に適応した完成医薬品であって、前記医薬品は:(a)治療有効量の前記活性ペプチド、
(b)少なくとも1つの薬学的に許容可能なpH低下剤、および
(c)前記活性剤の生物学的利用能を高めるのに有効な少なくとも1つの吸収促進剤
を含み、
pH低下剤は、前記医薬品が10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液に加えられている場合に、前記溶液のpHを5.5以下に低下させるのに十分な量で前記完成医薬品中に存在し、
前記医薬品の外面は、耐酸性の保護ビヒクルを実質的に含まない、
完成医薬品。
【請求項2】
前記医薬品が10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム溶液に加えられている場合に前記溶液のpHを3.5以下に低下させるのに十分な量で前記pH低下化合物が存在する、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項3】
前記吸収促進剤が、吸収性または生分解性の界面活性剤である、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項4】
前記界面活性剤が、アシルカルニチン、リン脂質、胆汁酸およびショ糖エステルからなる群から選択される、請求項3に記載の完成医薬品。
【請求項5】
前記吸収促進剤が、(a)コレステロール誘導体である陰イオン性の薬剤、(b)負電荷の中和剤と陰イオン性の界面活性剤との混合物、(c)非イオン性界面活性剤、および(d)陽イオン性の界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤である、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項6】
前記ペプチド活性剤の生物学的利用能を増大するのに有効な生理的に活性なペプチドでない、ある量の第2のペプチドをさらに含む、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項7】
少なくとも1つのpH低下剤の水に対する溶解度が、室温で水100ミリリットルあたり少なくとも30グラムである、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項8】
前記医薬品が、薬学的結合剤を含む顆粒からなり、前記結合剤中に、前記pH低下剤、前記吸収促進剤および前記ペプチド活性剤が均一に分散した、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項9】
前記医薬品が、少なくとも1つの薬学的に許容可能なpH低下剤を含む第1の層および治療有効量の前記活性ペプチドを含む第2の層を有する積層構造を含み、前記医薬品は、活性剤の生物学的利用能を高めるのに有効な前記少なくとも1つの吸収促進剤をさらに含み、第1および第2の層は、互いに一体となっているが、少なくとも1つのpH低下剤とペプチドとが積層構造内で実質的に分離され、約0.1%未満のペプチドがpH低下剤と接触し、第1の層材料と第2の層材料との実質的な混合が防がれ、それにより、pH低下剤とペプチドとの間の積層構造において相互作用が回避される、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項10】
pH低下剤が、クエン酸、酒石酸およびアミノ酸の酸性塩からなる群から選択される、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項11】
pH低下剤が、ジカルボン酸およびトリカルボン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項12】
pH低下剤が、300ミリグラム以上の量で存在する、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項13】
前記ペプチド剤が、カルシトニンおよび副甲状腺ホルモンからなる群から選択される、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項14】
前記副甲状腺ホルモンが、完全長の副甲状腺ホルモンおよびアミド化副甲状腺ホルモンからなる群から選択される、請求項13に記載の完成医薬品。
【請求項15】
前記副甲状腺ホルモンが、その遊離酸型で含まれるか、またはアミド化誘導体として含まれる、請求項13に記載の完成医薬品。
【請求項16】
副甲状腺ホルモンが、PTH[1−31]NHである、請求項13に記載の完成医薬品。
【請求項17】
前記ペプチド剤が、バソプレシン、インスリンおよびDALDA誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の完成医薬品。
【請求項18】
前記ペプチドが、DMT−DALDAである、請求項17に記載の完成医薬品。
【請求項19】
経口的に送達される治療的なペプチド活性剤の生物学的利用能を増大する必要のある被験体において、そのような増大を行うための方法であって、前記方法は、少なくとも1つのpH低下剤および少なくとも1つの吸収促進剤とともに前記ペプチド活性剤を、前記ペプチド活性剤の送達に適応した完成医薬品から被験体の消化管に選択的に放出する工程を含み、ここで、前記医薬品の外面は、耐酸性の保護ビヒクルを実質的に含まず、
前記医薬品は、10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液に加えられる場合に、溶液のpHを5.5以下に低下するのに十分な量で消化管に放出される、方法。
【請求項20】
治療的なペプチド活性剤、少なくとも1つのpH低下剤および少なくとも1つの吸収促進剤が、耐酸性の保護ビヒクルを含む対応薬学的組成物から放出されるよりも迅速に前記完成医薬品から放出される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチド活性剤の最大血漿濃度が、前記患者において60分以内に達成される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記pH低下化合物はすべての成分が、10ミリリットルの0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液に加えられている場合に、前記溶液のpHを3.5以下に低下させるのに十分な量で存在する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記吸収促進剤が、陽イオン性の界面活性物質およびコレステロール誘導体である陰イオン性の界面活性物質からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
pH低下剤のpKaが、4.2未満であり、pH低下剤の水に対する溶解度が、室温で水100ミリリットルあたり少なくとも30グラムである、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記pH低下剤が、300ミリグラム以上の量で存在する、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記ペプチド剤が、カルシトニン、副甲状腺ホルモンおよびDALDA誘導体からなる
群から選択される、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2009−518437(P2009−518437A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544567(P2008−544567)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/047108
【国際公開番号】WO2007/070450
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(503195300)ユニジーン・ラボラトリーズ・インコーポレーテッド (17)
【Fターム(参考)】