造営材への固定具
【課題】ナット等の締付具を介して一対の挟持体で造営材を挟持して固定するものにおいて、1種類の一対の挟持体で、反対側の締付具を保持することなく、かつ、いずれの方向からでも締付作業を行なえるようにする。
【解決手段】形鋼61のフランジ62を挟持する第1挟持体11及び第2挟持体21と、外面に雄ねじを備えた棒状体2と、棒状体2に螺合して第1挟持体11を挟圧する第1ナット3及び第2挟持体21を挟圧する第2ナット4とを備え、各挟持体は、棒状体2が貫通する貫通部を備えるとともに、貫通部を貫通した棒状体2に螺合したナットに係合する係合部18、係合部29を備え、各係合部は、ワッシャー5が介在することにより、ナットが係合することなく回動可能に形成した。
【解決手段】形鋼61のフランジ62を挟持する第1挟持体11及び第2挟持体21と、外面に雄ねじを備えた棒状体2と、棒状体2に螺合して第1挟持体11を挟圧する第1ナット3及び第2挟持体21を挟圧する第2ナット4とを備え、各挟持体は、棒状体2が貫通する貫通部を備えるとともに、貫通部を貫通した棒状体2に螺合したナットに係合する係合部18、係合部29を備え、各係合部は、ワッシャー5が介在することにより、ナットが係合することなく回動可能に形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形鋼のフランジ等の造営材に固定され、吊りボルト、照明器具、配線器具、配管材等の配設体を支持する造営材への固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、前記吊りボルト、照明器具等の配設体は固定具を使用して形鋼のフランジ等の造営材に取付けられている。この種の固定具に関しては、例えば、実用新案登録第3121581号公報に記載のものが知られている。図13は前記公報に記載された造営材への固定具を示し、図13において、固定具81は、H形状の形鋼61のフランジ62の一方に取付けられる側面視略コ字状の吊り金具82に、吊りボルト72等の配設体を支持する支持部材83が連結ボルト42を介して取付けられているとともに、吊り金具82の取付固定を補強する補強金具84が取付けられている。前記吊り金具82は、側面視略コ字状に形成された金具本体85の挿入開口85aから内部空間85bに形鋼61のフランジ62を挿入し、これを金具本体85と固定ボルト32とで挟持することにより、形鋼61のフランジ62に固定されるようになっている。吊りボルト72は、支持部材83の底板83aの挿通孔に挿通された後、底板83aに上下一対のナット86,86が締付け固定されることにより支持される。一方、補強金具84は、形鋼61のフランジ62に引掛かるく字板状の掛止板84aと、この掛止板84aに設けられている透孔に一端が挿通するとともに他端が吊り金具82内を貫通して吊り金具82の後端から突出するネジ棒84bと、このネジ棒84bの一端に螺合して掛止板84aを背面から位置固定するナット84cと、吊り金具82の後端に当接するとともにネジ棒84bの他端が挿通されるコ字板状の固定板84dと、ネジ棒84bの他端に螺合して固定板84dを位置固定するナット84eとで構成されている。
【0003】
固定具81は上記のように構成されているので、種々のサイズのフランジを有する形鋼に対応して固定することができるとともに、ネジ棒84bの両端に螺合するナット84c、ナット84eにより両方向からの緊締具合の調整が可能であるため、調整範囲が広く、また、掛止板84aが形鋼61のフランジ62に線接触するためにぐらつきの生じ難い安定した固定が可能である。
【特許文献1】実用新案登録第3121581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記公報に記載の固定具は、ネジ棒84bの両端にナット84c、ナット84eが螺合しており、例えばネジ棒84bのいずれか一端側からナットを締付ける際には、他端側のナットがから回りしないよう、締付中、ネジ棒84bの他端側に手を伸ばして他端側のナットを保持していなければならない。
そこで、例えば一端側の掛止板84aにナット84cの回り止め機構を設け、他端側の固定板84dに位置固定されているナット84eのみを締付けるために回動を許容する構成とすることが考えられる。この場合は、他端側のみの操作でナット84eを締付け固定することができる。
【0005】
ところが、その一方、一端側の掛止板84aにナット84cの回り止め機構を設けると、ネジ棒84bの他端側からしかナット84eの締付作業を行なうことができず、作業方向が制約されるため、仮に他端側に障害物等がある場合には、反対の一端側からナット84cの締付作業を行なうことができなくなる。このため、障害物等のある他端側の狭いスペース内での窮屈な締付作業を強いられることとなるから、作業性は低下する。
【0006】
そこで、ネジ棒84bの左右いずれの方向からでも締付作業を行なうことができ、かつ、締付中、反対側のナットを保持することなく締付けできるように、掛止板84a及び固定板84dのそれぞれに、回り止め機構を有するものと有しないものとの2種類を用意し、現場においていずれかを選択し、使用することが考えられる。
しかし、その場合は、部品点数が増えることになるから、部品コストが上昇し、取り扱いが煩雑化し、保管、運搬等における部品管理も煩わしいものとなる。また、回り止め機構有り無しの挟持板を間違えてネジ棒に取付けた場合は、これを取り外し、再度装着し直さなければならないという不都合も生ずる。
【0007】
そこで、本発明は、ナット等の締付具を介して一対の挟持体で造営材を挟持して固定するものにおいて、1種類の一対の挟持体で、反対側の締付具を保持することなく、かつ、いずれの方向からでも締付作業を行なうことのできる造営材への固定具の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の造営材への固定具は、造営材を挟持することにより該造営材に固定されるものであって、前記造営材を挟持する一対の挟持体と、外面に雄ねじを備えた棒状体と、該棒状体に螺合して前記挟持体を挟圧するナットとを備えている。そして、前記挟持体は、前記棒状体が貫通する貫通部を備えるとともに、該貫通部を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたはボルト体の頭部に係合する係合部を備え、前記係合部は、ワッシャーが介在することにより、前記ナットまたは前記ボルト体の頭部が係合することなく回動可能に形成されている。
【0009】
前記固定具は、一対の挟持体に棒状体を貫通し、棒状体にナットを螺合して締付け、一対の挟持体で挟持することにより形鋼のフランジ等の造営材に固定し、各種配設体を支持させるものである。ここで、各挟持体はナット等の周壁に当接し係合してナット等が回動するのを防止する係合部を備えており、この係合部はナット等が係合可能な切欠等を形成することにより設けることができる。また、この係合部にワッシャーを介在させると、それがスペーサとして機能し、ナット等の周壁は係合部から離間して係合が解除される。したがって、挟持体の係合部にワッシャーを介在させるか否かにより、ナット等を係合した回動防止状態とすることができ、また、係合が解除された回動許容状態とすることができる。その結果、棒状体のいずれの方向からでもナット等の締付作業を行なうことができ、かつ、反対側のナット等を保持することなく締付作業を行なうことができる。
【0010】
ここで、挟持体の係合部に係合する部材としては、棒状体に螺合するナットの他、ボルト体の頭部も該当する。このボルト体としては、長尺の六角ボルトを挙げることができるが、他に、四角或いは八角等の多角ボルト等を用いてもよい。また、挟持体の係合部に係合することなく回動して締付けられる部材も、同様に、棒状体に螺合するナットの他、前記ボルト体の頭部を挙げることもできる。即ち、一対の挟持体は、両側ともにナットが配設される場合の他、一側はナットで他側はボルト体の頭部が配設される場合もあり得る。
前記棒状体は、造営材がH形状の形鋼等の場合は直状のものが使用され、造営材がL形状の形鋼等の場合は軸方向の中間部で直角に屈曲したL字状のものが使用される。
前記一対の挟持体は、互いに同一のものであっても異なるものであってもよいが、同一のものである場合は更に部品を共通化できる。
前記ワッシャーは挟持体の係合部にスペーサとして介在するのであるから、一般には平座金が使用される。
【0011】
請求項2の造営材への固定具は、棒状体が一対の挟持体を貫通した状態で、一方の挟持体を貫通した棒状体に螺合したナットまたはボルト体の頭部が前記一方の挟持体の係合部に係合し、他方の挟持体を貫通した棒状体に螺合したナットまたはボルト体の頭部は前記他方の挟持体の係合部との間に前記ワッシャーが介在したものである。この固定具は直状の棒状体を使用してH形状の形鋼等の造営材に固定される態様のものである。
【0012】
請求項3の造営材への固定具は、挟持体及び棒状体の少なくとも一が、配設体を支持する支持部を備えている。支持部は挟持体等に別部材として設けてもよく、挟持体等の一部に一体に設けてもよい。支持部に支持される配設体としては、吊りボルト、照明器具、配線器具、安定器、火災報知器、配管材、ケーブル等が挙げられる。
請求項4の造営材への固定具は、いずれか一方の挟持体が、側面視コ字状に形成され、内部に挿入された造営材を挟持する固定ボルトを備えている。前記挟持体は、例えば形鋼のフランジ等と面当接する当接フランジ等を設け、この当接フランジと固定ボルトとで形鋼のフランジ等を挟持することができる。
請求項5の造営材への固定具は、一方の挟持体の係合部に係合するナットが、ダブルナットで形成されている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明は、挟持体の係合部がナット等を回動防止状態と回動許容状態とにすることができるので、棒状体のいずれの方向からでもナット等の締付作業を行なうことができ、かつ、反対側のナット等を保持することなく締付作業を行なうことができる。しかも、挟持体の係合部にワッシャーを介在させるか否かの極く簡易な構成で1種類の一対の挟持体を形成できる。そして、部品コストを低減でき、固定時に構成部材の取り扱いが容易となるとともに、保管、運搬等における部品管理も楽になる。
【0014】
請求項2の発明は、一方のナット等が一方の挟持体の係合部に係合し、他方のナット等は他方の挟持体の係合部との間にワッシャーが介在したものであり、直状の棒状体を使用してH形状の形鋼等の造営材に固定される態様において、請求項1と同様の効果を奏する。
【0015】
請求項3の発明は、一対の挟持体及び棒状体の少なくとも一は、配設体を支持する支持部を備えているから、各種配設体を支持できる。
請求項4の発明は、側面視コ字状に形成され、固定ボルトを備えているから、造営材への固定を簡単に行なうことができる。
請求項5の発明は、一方の挟持体の係合部に係合するナットが、ダブルナットで形成されているから、ナットを強固に棒状体に保持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の造営材への固定具1を図1乃至図8に基づいて説明する。なお、本実施形態では、固定具1を固定する造営材としてH形状の形鋼を例示する。
図1乃至図3において、固定具1は、造営材である建物の天井等に設けられたH形状の形鋼61のフランジ62に固定されて配設体を支持するものであり、造営材を相対向する側から挟持する左右一対の挟持体と、外面に雄ねじを備えた棒状体2と、各挟持体の外側から棒状体2に螺合する第1ナット3及び第2ナット4とを備えている。そして、各挟持体は、前記棒状体2が貫通する貫通部を備えるとともに、この貫通部を貫通した棒状体2に螺合したナットに係合する係合部を備える。この係合部は、ワッシャー5が介在することにより、ナットが係合することなく回動可能に形成されている。第1ナット3及び第2ナット4は六角ナットで形成されている。以下、各構成部材について詳細に説明する。
【0017】
まず、前記棒状体2は、全長に至って外面に雄ねじを備えた直状のボルト体で形成されており、全長は少なくとも形鋼61の左右両側のフランジ62全体の幅寸法より長く形成され、形鋼61のフランジ62の下面側に配設される。
【0018】
次に、一対の挟持体は、図1において棒状体2の左側に取付けられた第1挟持体11と、棒状体2の右側に取付けられた第2挟持体21とで構成されている。第1挟持体11は、左右対称形状の鋼板がその中央で180度折り返されて断面略U字状に形成され、一対の側壁12が間隔をおいて対向している。第1挟持体11の中央の折り返し部13は棒状体2の外径より僅かに大きい内径に形成され、この折り返し部13の内部は貫通部14として棒状体2が貫通するようになっている。両側壁12は形鋼61のフランジ62の先端部と対向する側部に挿入開口15を有する切欠空間16が形成されており、切欠空間16の奥部に形鋼61のフランジ62の先端部が当接するようになっている。
【0019】
更に、第1挟持体11の両側壁12における挿入開口15と反対側の側縁部17には段部状に切欠された係合部18が形成されており、その係合部18は、図1及び図4(b)に示すように、棒状体2において第1挟持体11側に螺合するダブルナットからなる第1ナット3の周壁3aが係合し、第1ナット3が回動するのを防止している。具体的には、図3に示す寸法に形成されており、第1挟持体11の対向する側壁12間の内寸L1は第1ナット3の対辺の間隔L2より小さく形成されている。したがって、棒状体2の軸心Oを中心とする、第1ナット3の辺と第1挟持体11の側壁12の端面角部とが当接する当接点P1までの半径R1は、棒状体2の軸心Oを中心とする、第1ナット3の頂点P2までの半径R2より小さい。このため、第1ナット3が棒状体2の軸心Oを中心に回動しようとしても第1ナット3の周壁3aが第1挟持体11の側壁12の端面角部と当接し干渉するから、第1ナット3の回動は阻止される。加えて、係合部18はワッシャー5が面当接する形態で切欠内に嵌入するようになっているとともに、切欠の深さは少なくともワッシャー5の厚さより小さく形成され、ワッシャー5の片側表面が側壁12の左側の側縁部17の端面17aと面一または僅かに外側に突出する大きさに形成されている。
【0020】
一方、第2挟持体21は、第1挟持体11と相対向して棒状体2に取付けられ、形鋼61のフランジ62を第1挟持体11とで挟持する挟持部22と、この挟持部22に付設された、形鋼61のフランジ62に固定される固定部としての金具31と、金具31の内部に挿入された形鋼61のフランジ62をこの金具31とで挟持する固定ボルト32と、後述する支持部とで構成されている。挟持部22は、第1挟持体11と同様に、中央の折り返し部23が棒状体2の外径より僅かに大きい内径に形成され、この折り返し部23の内部は貫通部24として棒状体2が貫通するようになっている。第2挟持体21の両側壁25には形鋼61のフランジ62と対向する側部に挿入開口26を有する切欠空間27が形成されており、切欠空間27の奥部に、金具31の左右一対の側壁33間に横方向に架設された架設ボルト34のねじ部が当接するようになっている。更に、両側壁25における挿入開口26と反対側の側縁部28には段部状に切欠された係合部29が形成されており、その係合部29は、第1挟持体11の係合部18と同形状に形成され、図5(c)に示すように、棒状体2において第2挟持体21側に螺合する第2ナット4の周壁4aが係合して第2ナット4が回動するのを防止している。そして、係合部29はワッシャー5が面当接する形態で切欠内に嵌入するようになっているとともに、切欠の深さは少なくともワッシャー5の厚さより小さく形成され、ワッシャー5の片側表面が側壁25の右側の側縁部28の端面28aと面一または僅かに外側に突出する大きさに形成されている。なお、図1では便宜上、金具31の手前側の側壁33の記載は省略してある。
【0021】
第2挟持体21の固定部としての金具31は、図6に示すように、鋼板等の金属板材をプレス加工することにより全体が略コ字板状に屈曲形成され、両側壁33は略コ字状に切欠形成されている。金具31の頂壁35には固定ボルト32が螺着されるねじ孔36が設けられている。金具31の頂壁35の両縁部から直交方向に屈曲形成された対向する一対の前記側壁33には、形鋼61のフランジ62が挿入される挿入開口37aを側方に有する切欠空間37が形成されている。側壁33における切欠空間37の下側の縁端部には、側壁33に直交して互いに外方に屈曲する一対の当接フランジ38が形成され、この当接フランジ38の上面には形鋼61のフランジ62の下面が面当接するようになっている。この構成により、挿入開口37aから切欠空間37内に挿入された形鋼61のフランジ62は金具31の当接フランジ38と固定ボルト32の先端とで挟持され、これにより、金具31は形鋼61のフランジ62に固定される。側壁33の下部2箇所には後述する支持部としての支持部材41を連結するための連結ボルト42が挿通する挿通孔39が形成されている。前記頂壁35のねじ孔36に螺着される固定ボルト32は、六角ボルトが使用され、ねじ部の先端は、形鋼61のフランジ62面に安定して当接すべく、平面に形成されている。なお、固定ボルト32は、金具31とで形鋼61のフランジ62を挟持できるものであればよく、六角ボルトに限られない。
【0022】
更に、第2挟持体21は、金具31の挿通孔39に連結ボルト42を挿通して、配設体を支持するための支持部を備えることができるようになっており、支持部の一例である支持部材41を図7に示す。図7において、支持部としての支持部材41は、連結ボルト42及びナット43を介して金具31の一対の側壁33に連結されており、配設体を支持する支持本体44と、連結ボルト42が挿通されて金具31に連結される連結体45とを備えてなる。支持本体44と連結体45とは別体で構成され、六角ボルト等からなる取着ボルト46及びナット47を介して一体に組付けられている。支持本体44は、連結体45に取着ボルト46を軸に水平方向に回動可能に取着されている。支持本体44は、細長矩形板状に形成された支持板部48で配設体を支持するとともに、支持板部48の幅方向の両側に上方向に屈曲するフランジ49が一体に設けられている。このフランジ49は内面が金具31の側壁33の外面に当接または近接して支持部材41を一定向きに保持するガイドとなっている。支持板部48の幅方向の中央部分には長手方向に一定幅の細長の切欠帯溝48aが形成され、その一端部は支持本体の長手方向の端部に開口している。この切欠帯溝48aは、配設体を支持する支持ボルトや配設体としての吊りボルトが開口から挿入され、支持板部48上に支持されるようになっている。連結体45は、中央の底壁とこの底壁の両端部において直角方向に立設する側壁とにより全体が略コ字板状に形成されている。連結体45の両側壁の略中央部には連結ボルト42が挿通されるボルト挿通孔が設けられ、底壁には取着ボルト46が挿通するボルト挿通孔が形成されている。
【0023】
次に、上記のように構成された固定具1を形鋼61のフランジ62に固定し、配設体を支持する方法を説明する。
最初に、支持本体44と連結体45とを取着ボルト46及びナット47を介して組付けて支持部材41となし、これを連結ボルト42及びナット43を介して金具31に連結する。次いで、支持部材41が連結された金具31の挿入開口37aから切欠空間37内に形鋼61の右側のフランジ62を挿入し、そのフランジ62の先端を金具31の切欠空間37の奥部に当接させ、固定ボルト32を締付けて金具31の当接フランジ38とで形鋼61のフランジ62を挟持し、これにより金具31を形鋼61のフランジ62に固定する。次に、棒状体2を金具31に横方向に架設した架設ボルト34の下方に位置するようにして金具31内に挿通し、更に第1挟持体11の貫通部14及び第2挟持体21の挟持部22の貫通部24に貫通させて形鋼61のフランジ62の下側に配置する。そして、この状態で、第1挟持体11の外側即ち左側から棒状体2にダブルナットからなる第1ナット3を螺合させるとともに、第2挟持体21の外側即ち右側から棒状体2にワッシャー5、ばね座金6、第2ナット4の順でこれらを取付けて、固定具1を仮組付状態とする。
【0024】
次に、この状態で、第1挟持体11を形鋼61の左側のフランジ62に取付け、第1挟持体11の挿入開口15からこの左側のフランジ62を切欠空間16内に挿入し、このフランジ62の先端を第1挟持体11の切欠空間16の奥部に当接させる。このとき、ダブルナットからなる第1ナット3は、図4(a)に示す状態から第1挟持体11を第1ナット3側に移動させるなどして、図4(b)に示すように、周壁3aを第1挟持体11の係合部18に係合させておく。続いて、第2挟持体21の挟持部22を右側方から金具31の一対の側壁33内に挿入し、金具31の両側壁33間に架設された架設ボルト34のねじ部を挟持部22の挿入開口26から切欠空間27内に挿入し、架設ボルト34のねじ部を切欠空間27の奥部に当接させる。これにより固定具1を形鋼61のフランジ62に取付けたら、第2ナット4の締付けを開始する。第2ナット4の締付けにおいては、ワッシャー5を図5(a)の状態から図5(b)に示すように挟持部22の係合部29内に嵌入させる。すると、ワッシャー5の片側表面は側壁25の右端の側縁部28の端面28aと面一または僅かに外側に突出するので、第2ナット4はその周壁4aが第2挟持体21の係合部29に係合することなく回動可能な状態となる。そこで、図5(c)に示すように、第2ナット4を回す。このようにして第2ナット4を回してその締付けが完了すると、一対の挟持体は両側のナットにより締付けられて形鋼61のフランジ62を両側方から強く挟持する。その結果、金具31が形鋼61のフランジ62から側方に外れるのが確実に防止される。なお、第2ナット4側に取付けたばね座金6は必ずしも要するものではない。
【0025】
その後、配設体を支持させる支持ボルトを第2挟持体21の支持部材41の支持本体44に形成された切欠帯溝48aに挿通し、配設体を支持部材41に支持させる。図8に、配設体として蛍光灯71を支持した固定具1を示す。なお、支持部材41の連結体45に対して支持本体44の取着向きを反転することにより、蛍光灯71を形鋼61の中央部で支持させることもできる。以上により、形鋼61のフランジ62への固定具1の固定及び配設体としての蛍光灯71の支持が完了する。
【0026】
ところで、上記実施形態においては、第1ナット3を第1挟持体11の係合部18に係合させてその回動を防止する一方、第2挟持体21の係合部29にワッシャー5を介在させることにより第2ナット4の回動を許容し、第2挟持体21側から締付作業を行なっているが、第2挟持体21側の周辺に障害物等があって周辺スペースが小さい場合には、第1挟持体11側から締付作業を行なうこともできる。その場合は、第2挟持体21の係合部29にはワッシャー5を介在させることなく第2ナット4が係合する回動防止状態とし、その一方、第1挟持体11の係合部18にはワッシャー5を介在させて第1ナット3が回動する回動許容状態とすればよい。なお、この場合、締付側の第1ナット3は単一のナットとし、保持側の第2ナット4は単一のナットまたはダブルナットとする。
【0027】
次に、上記のように構成された本実施形態の固定具1の作用を説明する。
固定具1は、第1挟持体11に、第1ナット3の周壁3aに当接し係合して第1ナット3が回動するのを防止する係合部18を備えているので、第2挟持体21において第2ナット4を締付けて一対の挟持体で形鋼61のフランジ62を挟持する際、第1ナット3がから回りして締付困難となるのを防止するために、反対側に離間している第1ナット3に手を伸ばしてこれを保持する必要がない。一方、第2挟持体21の係合部29にはワッシャー5が嵌入し、これが係合部29を形成する切欠空間を充填するスペーサとして機能するので、第2ナット4は第2挟持体21の係合部29に係合することなく回転し、第2挟持体21の挟持部22の右側の側縁部28を押圧する。これにより、第2挟持体21側において第1挟持体11の第1ナット3を片手で保持することなく第2挟持体21の第2ナット4を回すだけの操作で、左右一対の挟持体を両側から締付け、これら一対の挟持体で形鋼61のフランジ62を挟持することができる。したがって、形鋼61のフランジ62に対する固定具1の固定作業を楽に行なうことができる。
【0028】
加えて、特に、これらの係合部はワッシャー5を介在させると、それがスペーサとして機能し、ナットの周壁は係合部から離脱して係合が解除されるから、これらの係合部にワッシャー5を介在させるか否かにより回動防止状態または回動許容状態とすることができる。そして、棒状体2の左右いずれの方向からでも、反対側のナットを保持することなく手前側のナットの締付作業のみで形鋼61のフランジ62に固定具1を固定することができる。したがって、第1挟持体11及び第2挟持体21のそれぞれについて、側壁に切欠形成した係合部を設けたものとこれを設けてないものとの2種類を用意する必要はなく、第1挟持体11及び第2挟持体21はいずれも、係合部を設けた1種類のみを用意すれば足りる。しかも、挟持体の共通化を、側壁に切欠形成した係合部にワッシャー5を介在させるか否かという極く簡易な構成で簡単かつ安価に実現することができる。なお、第1挟持体11と第2挟持体21との間においても共通化すれば、固定具1全体で1種類の挟持体のみを用いて形鋼61のフランジ62への固定を行なうことができる。
【0029】
更に、第2挟持体21は支持部材41を備えているから、各種配設体を支持できる。
また、第2挟持体21の固定部は、側面視コ字状に形成された金具31で形成され、固定ボルト32を備えているから、形鋼61のフランジ62への固定を簡単に行なうことができる。
加えて、第1ナット3は、ダブルナットで形成されているから、これを強固に棒状体2に保持させることができる。
【0030】
ところで、上記実施形態においては、棒状体2において第1挟持体11側に第1ナット3を螺合し、第2挟持体21側に第2ナット4を螺合して、左右のナットにより一対の挟持体を形鋼61のフランジ62に挟持させているが、図9に示すように、長尺のねじ部を有する六角ボルトで形成することもできる。即ち、図9に示す固定具1は、左方向から六角ボルト7のねじ部を第1挟持体11の貫通部14に貫通し、次いで、第2挟持体21の挟持部22の貫通部24に貫通した後、これを貫通した六角ボルト7のねじ部の先端側にワッシャー5及びばね座金6を外挿し、第2ナット4を螺合してなる。ここで、六角ボルト7は請求項のボルト体に相当し、六角ボルト7の頭部は請求項のボルト体の頭部に相当する。なお、ボルト体は、六角ボルト7に限られず、他の多角ボルト等を用いてもよい。
【0031】
この固定具1においては、六角ボルト7の頭部が第1挟持体11の係合部18に係合し、六角ボルト7が回動するのが防止されるとともに、第2挟持体21の係合部29にはワッシャー5が嵌入して第2ナット4が回動可能となっている。したがって、この固定具1においても、図1乃至図8に示す固定具1と同様に、第2挟持体21側において、六角ボルト7の頭部に手を伸ばしてこの頭部を保持することなく、第2挟持体21の第2ナット4を回すだけの操作で、左右一対の挟持体を両側から締付け、これら一対の挟持体で形鋼61のフランジ62を挟持することができる。なお、六角ボルト7は左右を逆に配置し、図9の右方向から六角ボルト7のねじ部を第2挟持体21の挟持部22の貫通部24に貫通し、次いで、第1挟持体11の貫通部14に貫通した後、これを貫通した六角ボルト7のねじ部の先端側にワッシャー5及びばね座金6を外挿し、1個のナットからなる第1ナットを螺合させてもよい。
【0032】
次に、本発明の別の実施形態の固定具1を図10及び図11に基づいて説明する。なお、図10(b)では便宜上、金具31の手前側の側壁33の記載は省略してある。
図10において、固定具51はL形状の形鋼63のフランジ64に固定されて配設体を支持するものであり、形鋼63のフランジ64を挟持する一対の挟持体である第1挟持体52及び第2挟持体53と、両端の周辺部の外面に雄ねじを備え、L字状に屈曲された棒状体54と、各挟持体の外側から棒状体54に螺合するナット55とを備えている。第1挟持体52は、図1乃至図9に示した実施形態の第2挟持体21の挟持部22と同一に形成されており、前記ナット55に係合してこのナット55の回動を防止するとともにワッシャー5が介在することによりこのナット55が係合することなく回動が可能となる係合部56を備えている。また、第2挟持体53は、図1乃至図9に示した実施形態の第2挟持体21と同一に形成されており、同様に、係合部57を備えている。このように形成された一対の挟持体の係合部には、いずれもワッシャー5が介在し、ナット55が回動可能となっている。前記棒状体54は両端部がそれぞれ形鋼63のフランジ64の先端部より少なくともナット55が螺合し得る分だけ外方に突出する長さに形成されている。
【0033】
この固定具51は、ナット55を回して締付けることにより、第1挟持体52と棒状体54の水平部とで形鋼63の上下方向のフランジ64を挟持し、第2挟持体53の挟持部22と棒状体54の垂直部とで形鋼63の水平方向のフランジ64を挟持しており、これにより固定具51を形鋼63のフランジ64に固定している。したがって、本実施形態においては、両側のナット55とも各挟持体の係合部にワッシャー5を介在させて回動可能な状態としている。ここで、L形状の形鋼63のフランジ64を挟持する第1挟持体52及び第2挟持体53は2個のナット55がいずれも回動可能な状態とする必要があるから、挟持体に、ナット55を係合させてその回動を防止する係合部は特に設ける必要はない。しかし、建物に、H形状の形鋼61とL形状の形鋼63とが構築されている場合などにおいては、各挟持体を共通化できれば、複数種類の挟持体を用意し、使い分ける煩わしさがなくなり、運搬、保管管理も楽になるので都合がよい。そこで、図10に示す固定具51では、それぞれに係合部を設けた一対の挟持体を使用しているのである。
【0034】
図11に、固定具51の第2挟持体53の支持部材41に配設体として吊りボルト72を支持させた例を示す。図11において、吊りボルト72はこれに螺合した上下一対のナット73で支持本体44の支持板部48を挟持することにより第2挟持体53の支持部材41に垂設されている。なお、吊りボルト72は、金具31に対して支持部材41を連結ボルト42の軸心を中心に上下方向に所定角度回動させた後、締付けて固定することにより、傾斜した状態で吊り下げることもできる。
【0035】
ところで、上記各実施形態の挟持体の係合部は、図3に示したように、側縁部に切欠を形成し、左右一対の側壁間の内寸L1をナットの対辺間隔より小さく形成して、挟持体の側縁部の端面角部にナットの周壁を当接させることにより、ナットの回動を防止しているが、ナットの回動防止機構はこれに限られるものではなく、例えば、図12に示すように、第1挟持体11の一方の側壁12の側縁部17等に直角方向に屈曲した屈曲片19を形成し、屈曲片19の下辺部と第1ナット3の周壁3a等とを当接させることにより、これらのナットの回動を防止するようにしてもよい。この場合、屈曲片19の下辺部は挟持体の係合部となる。
【0036】
また、上記実施形態の直状の棒状体2は、全長に至って外面に雄ねじが設けられているが、ナットが螺合する部分のみ雄ねじを設けてもよい。そして、L字状の棒状体54は両端部側に雄ねじが設けられているが、全長に至って雄ねじを設けてもよい。
【0037】
加えて、上記実施形態の各挟持体、第2挟持体の固定部、支持部等は、上記各図に示した形状、構成に限られるものではなく、例えば、支持部は、図13に示した支持部材83を取付けることもできる。また、支持部材41は、第2挟持体21や第2挟持体53に取着されているが、第1挟持体11や第1挟持体52に取着してもよく、或いは、棒状体2や棒状体54に取着してもよく、更には、これら双方またはそれぞれに取着してもよい。そして、各固定具において、固定部は別体の金具31で形成し、支持部は別体の支持部材41で形成しているが、これら固定部或いは支持部を挟持部22に一体に付設してもよい。
【0038】
更に、直状の棒状体2に取付けられた第1挟持体11の係合部18に係合する第1ナット3は、ダブルナットで形成されているが、単一のナットで形成してもよい。また、棒状体に螺合し、回して締付けるナットは、六角ナットでなくてもよく、手で締付け可能な蝶ナットなどであってもよい。
加えて、上記実施形態のワッシャー5は、円形の平座金が使用されているが、小判形状、矩形状等の平座金を使用してもよい。
【0039】
なお、上記各実施形態では、造営材として、H形状の形鋼61及びL形状の形鋼63を例示しているが、他に、C形状の形鋼や通常の固定具では抜脱し易い角パイプ、丸パイプなどの造営材にも固定具1及び固定具51を固定し、配設体を支持することができる。また、上記各実施形態の固定具は、配設体として、蛍光灯71及び吊りボルト72を支持しているが、他に、配線器具、安定器、火災報知器、配管材、ケーブル等を支持させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態における造営材への固定具の正面図である。
【図2】(a)は図1の固定具の左側面図、(b)は(a)のA−A切断線による断面図である。
【図3】図1の第1挟持体の係合部と第1ナットとの寸法関係を示す説明図である。
【図4】(a)は図1の第1挟持体に第1ナットを螺合した状態を示す斜視図、(b)は第1ナットを第1挟持体の係合部に係合させた状態を示す斜視図である。
【図5】(a)は図1の第2挟持体に第2ナットを螺合した状態を示す斜視図、(b)はワッシャーを第2挟持体の係合部に嵌入した状態を示す斜視図、(c)は第2ナットを締付けるときの状態を示す斜視図である。
【図6】図1の金具を示す斜視図である。
【図7】図1の金具に支持部材を連結した固定具を示し、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は(b)のB−B切断線による断面図である。
【図8】図7(a)の支持部材に蛍光灯を支持した固定具の断面図である。
【図9】図1の固定具の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明の別の実施形態の固定具を示し、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は(a)のC−C切断線による断面図である。
【図11】図10(b)の第2挟持体に吊りボルトを支持した固定具の正面図である。
【図12】図1及び図10の挟持体の別の係合部を示す側面図である。
【図13】従来の固定具の正面図である。
【符号の説明】
【0041】
1、51 固定具
2、54 棒状体
3 第1ナット
4 第2ナット
5 ワッシャー
7 六角ボルト
11、52 第1挟持体
14、24 貫通部
18、29 係合部
21、53 第2挟持体
31 金具
32 固定ボルト
41 支持部材
55 ナット
61、63 形鋼
62、64 フランジ
71 蛍光灯
72 吊りボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は、形鋼のフランジ等の造営材に固定され、吊りボルト、照明器具、配線器具、配管材等の配設体を支持する造営材への固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、前記吊りボルト、照明器具等の配設体は固定具を使用して形鋼のフランジ等の造営材に取付けられている。この種の固定具に関しては、例えば、実用新案登録第3121581号公報に記載のものが知られている。図13は前記公報に記載された造営材への固定具を示し、図13において、固定具81は、H形状の形鋼61のフランジ62の一方に取付けられる側面視略コ字状の吊り金具82に、吊りボルト72等の配設体を支持する支持部材83が連結ボルト42を介して取付けられているとともに、吊り金具82の取付固定を補強する補強金具84が取付けられている。前記吊り金具82は、側面視略コ字状に形成された金具本体85の挿入開口85aから内部空間85bに形鋼61のフランジ62を挿入し、これを金具本体85と固定ボルト32とで挟持することにより、形鋼61のフランジ62に固定されるようになっている。吊りボルト72は、支持部材83の底板83aの挿通孔に挿通された後、底板83aに上下一対のナット86,86が締付け固定されることにより支持される。一方、補強金具84は、形鋼61のフランジ62に引掛かるく字板状の掛止板84aと、この掛止板84aに設けられている透孔に一端が挿通するとともに他端が吊り金具82内を貫通して吊り金具82の後端から突出するネジ棒84bと、このネジ棒84bの一端に螺合して掛止板84aを背面から位置固定するナット84cと、吊り金具82の後端に当接するとともにネジ棒84bの他端が挿通されるコ字板状の固定板84dと、ネジ棒84bの他端に螺合して固定板84dを位置固定するナット84eとで構成されている。
【0003】
固定具81は上記のように構成されているので、種々のサイズのフランジを有する形鋼に対応して固定することができるとともに、ネジ棒84bの両端に螺合するナット84c、ナット84eにより両方向からの緊締具合の調整が可能であるため、調整範囲が広く、また、掛止板84aが形鋼61のフランジ62に線接触するためにぐらつきの生じ難い安定した固定が可能である。
【特許文献1】実用新案登録第3121581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記公報に記載の固定具は、ネジ棒84bの両端にナット84c、ナット84eが螺合しており、例えばネジ棒84bのいずれか一端側からナットを締付ける際には、他端側のナットがから回りしないよう、締付中、ネジ棒84bの他端側に手を伸ばして他端側のナットを保持していなければならない。
そこで、例えば一端側の掛止板84aにナット84cの回り止め機構を設け、他端側の固定板84dに位置固定されているナット84eのみを締付けるために回動を許容する構成とすることが考えられる。この場合は、他端側のみの操作でナット84eを締付け固定することができる。
【0005】
ところが、その一方、一端側の掛止板84aにナット84cの回り止め機構を設けると、ネジ棒84bの他端側からしかナット84eの締付作業を行なうことができず、作業方向が制約されるため、仮に他端側に障害物等がある場合には、反対の一端側からナット84cの締付作業を行なうことができなくなる。このため、障害物等のある他端側の狭いスペース内での窮屈な締付作業を強いられることとなるから、作業性は低下する。
【0006】
そこで、ネジ棒84bの左右いずれの方向からでも締付作業を行なうことができ、かつ、締付中、反対側のナットを保持することなく締付けできるように、掛止板84a及び固定板84dのそれぞれに、回り止め機構を有するものと有しないものとの2種類を用意し、現場においていずれかを選択し、使用することが考えられる。
しかし、その場合は、部品点数が増えることになるから、部品コストが上昇し、取り扱いが煩雑化し、保管、運搬等における部品管理も煩わしいものとなる。また、回り止め機構有り無しの挟持板を間違えてネジ棒に取付けた場合は、これを取り外し、再度装着し直さなければならないという不都合も生ずる。
【0007】
そこで、本発明は、ナット等の締付具を介して一対の挟持体で造営材を挟持して固定するものにおいて、1種類の一対の挟持体で、反対側の締付具を保持することなく、かつ、いずれの方向からでも締付作業を行なうことのできる造営材への固定具の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の造営材への固定具は、造営材を挟持することにより該造営材に固定されるものであって、前記造営材を挟持する一対の挟持体と、外面に雄ねじを備えた棒状体と、該棒状体に螺合して前記挟持体を挟圧するナットとを備えている。そして、前記挟持体は、前記棒状体が貫通する貫通部を備えるとともに、該貫通部を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたはボルト体の頭部に係合する係合部を備え、前記係合部は、ワッシャーが介在することにより、前記ナットまたは前記ボルト体の頭部が係合することなく回動可能に形成されている。
【0009】
前記固定具は、一対の挟持体に棒状体を貫通し、棒状体にナットを螺合して締付け、一対の挟持体で挟持することにより形鋼のフランジ等の造営材に固定し、各種配設体を支持させるものである。ここで、各挟持体はナット等の周壁に当接し係合してナット等が回動するのを防止する係合部を備えており、この係合部はナット等が係合可能な切欠等を形成することにより設けることができる。また、この係合部にワッシャーを介在させると、それがスペーサとして機能し、ナット等の周壁は係合部から離間して係合が解除される。したがって、挟持体の係合部にワッシャーを介在させるか否かにより、ナット等を係合した回動防止状態とすることができ、また、係合が解除された回動許容状態とすることができる。その結果、棒状体のいずれの方向からでもナット等の締付作業を行なうことができ、かつ、反対側のナット等を保持することなく締付作業を行なうことができる。
【0010】
ここで、挟持体の係合部に係合する部材としては、棒状体に螺合するナットの他、ボルト体の頭部も該当する。このボルト体としては、長尺の六角ボルトを挙げることができるが、他に、四角或いは八角等の多角ボルト等を用いてもよい。また、挟持体の係合部に係合することなく回動して締付けられる部材も、同様に、棒状体に螺合するナットの他、前記ボルト体の頭部を挙げることもできる。即ち、一対の挟持体は、両側ともにナットが配設される場合の他、一側はナットで他側はボルト体の頭部が配設される場合もあり得る。
前記棒状体は、造営材がH形状の形鋼等の場合は直状のものが使用され、造営材がL形状の形鋼等の場合は軸方向の中間部で直角に屈曲したL字状のものが使用される。
前記一対の挟持体は、互いに同一のものであっても異なるものであってもよいが、同一のものである場合は更に部品を共通化できる。
前記ワッシャーは挟持体の係合部にスペーサとして介在するのであるから、一般には平座金が使用される。
【0011】
請求項2の造営材への固定具は、棒状体が一対の挟持体を貫通した状態で、一方の挟持体を貫通した棒状体に螺合したナットまたはボルト体の頭部が前記一方の挟持体の係合部に係合し、他方の挟持体を貫通した棒状体に螺合したナットまたはボルト体の頭部は前記他方の挟持体の係合部との間に前記ワッシャーが介在したものである。この固定具は直状の棒状体を使用してH形状の形鋼等の造営材に固定される態様のものである。
【0012】
請求項3の造営材への固定具は、挟持体及び棒状体の少なくとも一が、配設体を支持する支持部を備えている。支持部は挟持体等に別部材として設けてもよく、挟持体等の一部に一体に設けてもよい。支持部に支持される配設体としては、吊りボルト、照明器具、配線器具、安定器、火災報知器、配管材、ケーブル等が挙げられる。
請求項4の造営材への固定具は、いずれか一方の挟持体が、側面視コ字状に形成され、内部に挿入された造営材を挟持する固定ボルトを備えている。前記挟持体は、例えば形鋼のフランジ等と面当接する当接フランジ等を設け、この当接フランジと固定ボルトとで形鋼のフランジ等を挟持することができる。
請求項5の造営材への固定具は、一方の挟持体の係合部に係合するナットが、ダブルナットで形成されている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明は、挟持体の係合部がナット等を回動防止状態と回動許容状態とにすることができるので、棒状体のいずれの方向からでもナット等の締付作業を行なうことができ、かつ、反対側のナット等を保持することなく締付作業を行なうことができる。しかも、挟持体の係合部にワッシャーを介在させるか否かの極く簡易な構成で1種類の一対の挟持体を形成できる。そして、部品コストを低減でき、固定時に構成部材の取り扱いが容易となるとともに、保管、運搬等における部品管理も楽になる。
【0014】
請求項2の発明は、一方のナット等が一方の挟持体の係合部に係合し、他方のナット等は他方の挟持体の係合部との間にワッシャーが介在したものであり、直状の棒状体を使用してH形状の形鋼等の造営材に固定される態様において、請求項1と同様の効果を奏する。
【0015】
請求項3の発明は、一対の挟持体及び棒状体の少なくとも一は、配設体を支持する支持部を備えているから、各種配設体を支持できる。
請求項4の発明は、側面視コ字状に形成され、固定ボルトを備えているから、造営材への固定を簡単に行なうことができる。
請求項5の発明は、一方の挟持体の係合部に係合するナットが、ダブルナットで形成されているから、ナットを強固に棒状体に保持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の造営材への固定具1を図1乃至図8に基づいて説明する。なお、本実施形態では、固定具1を固定する造営材としてH形状の形鋼を例示する。
図1乃至図3において、固定具1は、造営材である建物の天井等に設けられたH形状の形鋼61のフランジ62に固定されて配設体を支持するものであり、造営材を相対向する側から挟持する左右一対の挟持体と、外面に雄ねじを備えた棒状体2と、各挟持体の外側から棒状体2に螺合する第1ナット3及び第2ナット4とを備えている。そして、各挟持体は、前記棒状体2が貫通する貫通部を備えるとともに、この貫通部を貫通した棒状体2に螺合したナットに係合する係合部を備える。この係合部は、ワッシャー5が介在することにより、ナットが係合することなく回動可能に形成されている。第1ナット3及び第2ナット4は六角ナットで形成されている。以下、各構成部材について詳細に説明する。
【0017】
まず、前記棒状体2は、全長に至って外面に雄ねじを備えた直状のボルト体で形成されており、全長は少なくとも形鋼61の左右両側のフランジ62全体の幅寸法より長く形成され、形鋼61のフランジ62の下面側に配設される。
【0018】
次に、一対の挟持体は、図1において棒状体2の左側に取付けられた第1挟持体11と、棒状体2の右側に取付けられた第2挟持体21とで構成されている。第1挟持体11は、左右対称形状の鋼板がその中央で180度折り返されて断面略U字状に形成され、一対の側壁12が間隔をおいて対向している。第1挟持体11の中央の折り返し部13は棒状体2の外径より僅かに大きい内径に形成され、この折り返し部13の内部は貫通部14として棒状体2が貫通するようになっている。両側壁12は形鋼61のフランジ62の先端部と対向する側部に挿入開口15を有する切欠空間16が形成されており、切欠空間16の奥部に形鋼61のフランジ62の先端部が当接するようになっている。
【0019】
更に、第1挟持体11の両側壁12における挿入開口15と反対側の側縁部17には段部状に切欠された係合部18が形成されており、その係合部18は、図1及び図4(b)に示すように、棒状体2において第1挟持体11側に螺合するダブルナットからなる第1ナット3の周壁3aが係合し、第1ナット3が回動するのを防止している。具体的には、図3に示す寸法に形成されており、第1挟持体11の対向する側壁12間の内寸L1は第1ナット3の対辺の間隔L2より小さく形成されている。したがって、棒状体2の軸心Oを中心とする、第1ナット3の辺と第1挟持体11の側壁12の端面角部とが当接する当接点P1までの半径R1は、棒状体2の軸心Oを中心とする、第1ナット3の頂点P2までの半径R2より小さい。このため、第1ナット3が棒状体2の軸心Oを中心に回動しようとしても第1ナット3の周壁3aが第1挟持体11の側壁12の端面角部と当接し干渉するから、第1ナット3の回動は阻止される。加えて、係合部18はワッシャー5が面当接する形態で切欠内に嵌入するようになっているとともに、切欠の深さは少なくともワッシャー5の厚さより小さく形成され、ワッシャー5の片側表面が側壁12の左側の側縁部17の端面17aと面一または僅かに外側に突出する大きさに形成されている。
【0020】
一方、第2挟持体21は、第1挟持体11と相対向して棒状体2に取付けられ、形鋼61のフランジ62を第1挟持体11とで挟持する挟持部22と、この挟持部22に付設された、形鋼61のフランジ62に固定される固定部としての金具31と、金具31の内部に挿入された形鋼61のフランジ62をこの金具31とで挟持する固定ボルト32と、後述する支持部とで構成されている。挟持部22は、第1挟持体11と同様に、中央の折り返し部23が棒状体2の外径より僅かに大きい内径に形成され、この折り返し部23の内部は貫通部24として棒状体2が貫通するようになっている。第2挟持体21の両側壁25には形鋼61のフランジ62と対向する側部に挿入開口26を有する切欠空間27が形成されており、切欠空間27の奥部に、金具31の左右一対の側壁33間に横方向に架設された架設ボルト34のねじ部が当接するようになっている。更に、両側壁25における挿入開口26と反対側の側縁部28には段部状に切欠された係合部29が形成されており、その係合部29は、第1挟持体11の係合部18と同形状に形成され、図5(c)に示すように、棒状体2において第2挟持体21側に螺合する第2ナット4の周壁4aが係合して第2ナット4が回動するのを防止している。そして、係合部29はワッシャー5が面当接する形態で切欠内に嵌入するようになっているとともに、切欠の深さは少なくともワッシャー5の厚さより小さく形成され、ワッシャー5の片側表面が側壁25の右側の側縁部28の端面28aと面一または僅かに外側に突出する大きさに形成されている。なお、図1では便宜上、金具31の手前側の側壁33の記載は省略してある。
【0021】
第2挟持体21の固定部としての金具31は、図6に示すように、鋼板等の金属板材をプレス加工することにより全体が略コ字板状に屈曲形成され、両側壁33は略コ字状に切欠形成されている。金具31の頂壁35には固定ボルト32が螺着されるねじ孔36が設けられている。金具31の頂壁35の両縁部から直交方向に屈曲形成された対向する一対の前記側壁33には、形鋼61のフランジ62が挿入される挿入開口37aを側方に有する切欠空間37が形成されている。側壁33における切欠空間37の下側の縁端部には、側壁33に直交して互いに外方に屈曲する一対の当接フランジ38が形成され、この当接フランジ38の上面には形鋼61のフランジ62の下面が面当接するようになっている。この構成により、挿入開口37aから切欠空間37内に挿入された形鋼61のフランジ62は金具31の当接フランジ38と固定ボルト32の先端とで挟持され、これにより、金具31は形鋼61のフランジ62に固定される。側壁33の下部2箇所には後述する支持部としての支持部材41を連結するための連結ボルト42が挿通する挿通孔39が形成されている。前記頂壁35のねじ孔36に螺着される固定ボルト32は、六角ボルトが使用され、ねじ部の先端は、形鋼61のフランジ62面に安定して当接すべく、平面に形成されている。なお、固定ボルト32は、金具31とで形鋼61のフランジ62を挟持できるものであればよく、六角ボルトに限られない。
【0022】
更に、第2挟持体21は、金具31の挿通孔39に連結ボルト42を挿通して、配設体を支持するための支持部を備えることができるようになっており、支持部の一例である支持部材41を図7に示す。図7において、支持部としての支持部材41は、連結ボルト42及びナット43を介して金具31の一対の側壁33に連結されており、配設体を支持する支持本体44と、連結ボルト42が挿通されて金具31に連結される連結体45とを備えてなる。支持本体44と連結体45とは別体で構成され、六角ボルト等からなる取着ボルト46及びナット47を介して一体に組付けられている。支持本体44は、連結体45に取着ボルト46を軸に水平方向に回動可能に取着されている。支持本体44は、細長矩形板状に形成された支持板部48で配設体を支持するとともに、支持板部48の幅方向の両側に上方向に屈曲するフランジ49が一体に設けられている。このフランジ49は内面が金具31の側壁33の外面に当接または近接して支持部材41を一定向きに保持するガイドとなっている。支持板部48の幅方向の中央部分には長手方向に一定幅の細長の切欠帯溝48aが形成され、その一端部は支持本体の長手方向の端部に開口している。この切欠帯溝48aは、配設体を支持する支持ボルトや配設体としての吊りボルトが開口から挿入され、支持板部48上に支持されるようになっている。連結体45は、中央の底壁とこの底壁の両端部において直角方向に立設する側壁とにより全体が略コ字板状に形成されている。連結体45の両側壁の略中央部には連結ボルト42が挿通されるボルト挿通孔が設けられ、底壁には取着ボルト46が挿通するボルト挿通孔が形成されている。
【0023】
次に、上記のように構成された固定具1を形鋼61のフランジ62に固定し、配設体を支持する方法を説明する。
最初に、支持本体44と連結体45とを取着ボルト46及びナット47を介して組付けて支持部材41となし、これを連結ボルト42及びナット43を介して金具31に連結する。次いで、支持部材41が連結された金具31の挿入開口37aから切欠空間37内に形鋼61の右側のフランジ62を挿入し、そのフランジ62の先端を金具31の切欠空間37の奥部に当接させ、固定ボルト32を締付けて金具31の当接フランジ38とで形鋼61のフランジ62を挟持し、これにより金具31を形鋼61のフランジ62に固定する。次に、棒状体2を金具31に横方向に架設した架設ボルト34の下方に位置するようにして金具31内に挿通し、更に第1挟持体11の貫通部14及び第2挟持体21の挟持部22の貫通部24に貫通させて形鋼61のフランジ62の下側に配置する。そして、この状態で、第1挟持体11の外側即ち左側から棒状体2にダブルナットからなる第1ナット3を螺合させるとともに、第2挟持体21の外側即ち右側から棒状体2にワッシャー5、ばね座金6、第2ナット4の順でこれらを取付けて、固定具1を仮組付状態とする。
【0024】
次に、この状態で、第1挟持体11を形鋼61の左側のフランジ62に取付け、第1挟持体11の挿入開口15からこの左側のフランジ62を切欠空間16内に挿入し、このフランジ62の先端を第1挟持体11の切欠空間16の奥部に当接させる。このとき、ダブルナットからなる第1ナット3は、図4(a)に示す状態から第1挟持体11を第1ナット3側に移動させるなどして、図4(b)に示すように、周壁3aを第1挟持体11の係合部18に係合させておく。続いて、第2挟持体21の挟持部22を右側方から金具31の一対の側壁33内に挿入し、金具31の両側壁33間に架設された架設ボルト34のねじ部を挟持部22の挿入開口26から切欠空間27内に挿入し、架設ボルト34のねじ部を切欠空間27の奥部に当接させる。これにより固定具1を形鋼61のフランジ62に取付けたら、第2ナット4の締付けを開始する。第2ナット4の締付けにおいては、ワッシャー5を図5(a)の状態から図5(b)に示すように挟持部22の係合部29内に嵌入させる。すると、ワッシャー5の片側表面は側壁25の右端の側縁部28の端面28aと面一または僅かに外側に突出するので、第2ナット4はその周壁4aが第2挟持体21の係合部29に係合することなく回動可能な状態となる。そこで、図5(c)に示すように、第2ナット4を回す。このようにして第2ナット4を回してその締付けが完了すると、一対の挟持体は両側のナットにより締付けられて形鋼61のフランジ62を両側方から強く挟持する。その結果、金具31が形鋼61のフランジ62から側方に外れるのが確実に防止される。なお、第2ナット4側に取付けたばね座金6は必ずしも要するものではない。
【0025】
その後、配設体を支持させる支持ボルトを第2挟持体21の支持部材41の支持本体44に形成された切欠帯溝48aに挿通し、配設体を支持部材41に支持させる。図8に、配設体として蛍光灯71を支持した固定具1を示す。なお、支持部材41の連結体45に対して支持本体44の取着向きを反転することにより、蛍光灯71を形鋼61の中央部で支持させることもできる。以上により、形鋼61のフランジ62への固定具1の固定及び配設体としての蛍光灯71の支持が完了する。
【0026】
ところで、上記実施形態においては、第1ナット3を第1挟持体11の係合部18に係合させてその回動を防止する一方、第2挟持体21の係合部29にワッシャー5を介在させることにより第2ナット4の回動を許容し、第2挟持体21側から締付作業を行なっているが、第2挟持体21側の周辺に障害物等があって周辺スペースが小さい場合には、第1挟持体11側から締付作業を行なうこともできる。その場合は、第2挟持体21の係合部29にはワッシャー5を介在させることなく第2ナット4が係合する回動防止状態とし、その一方、第1挟持体11の係合部18にはワッシャー5を介在させて第1ナット3が回動する回動許容状態とすればよい。なお、この場合、締付側の第1ナット3は単一のナットとし、保持側の第2ナット4は単一のナットまたはダブルナットとする。
【0027】
次に、上記のように構成された本実施形態の固定具1の作用を説明する。
固定具1は、第1挟持体11に、第1ナット3の周壁3aに当接し係合して第1ナット3が回動するのを防止する係合部18を備えているので、第2挟持体21において第2ナット4を締付けて一対の挟持体で形鋼61のフランジ62を挟持する際、第1ナット3がから回りして締付困難となるのを防止するために、反対側に離間している第1ナット3に手を伸ばしてこれを保持する必要がない。一方、第2挟持体21の係合部29にはワッシャー5が嵌入し、これが係合部29を形成する切欠空間を充填するスペーサとして機能するので、第2ナット4は第2挟持体21の係合部29に係合することなく回転し、第2挟持体21の挟持部22の右側の側縁部28を押圧する。これにより、第2挟持体21側において第1挟持体11の第1ナット3を片手で保持することなく第2挟持体21の第2ナット4を回すだけの操作で、左右一対の挟持体を両側から締付け、これら一対の挟持体で形鋼61のフランジ62を挟持することができる。したがって、形鋼61のフランジ62に対する固定具1の固定作業を楽に行なうことができる。
【0028】
加えて、特に、これらの係合部はワッシャー5を介在させると、それがスペーサとして機能し、ナットの周壁は係合部から離脱して係合が解除されるから、これらの係合部にワッシャー5を介在させるか否かにより回動防止状態または回動許容状態とすることができる。そして、棒状体2の左右いずれの方向からでも、反対側のナットを保持することなく手前側のナットの締付作業のみで形鋼61のフランジ62に固定具1を固定することができる。したがって、第1挟持体11及び第2挟持体21のそれぞれについて、側壁に切欠形成した係合部を設けたものとこれを設けてないものとの2種類を用意する必要はなく、第1挟持体11及び第2挟持体21はいずれも、係合部を設けた1種類のみを用意すれば足りる。しかも、挟持体の共通化を、側壁に切欠形成した係合部にワッシャー5を介在させるか否かという極く簡易な構成で簡単かつ安価に実現することができる。なお、第1挟持体11と第2挟持体21との間においても共通化すれば、固定具1全体で1種類の挟持体のみを用いて形鋼61のフランジ62への固定を行なうことができる。
【0029】
更に、第2挟持体21は支持部材41を備えているから、各種配設体を支持できる。
また、第2挟持体21の固定部は、側面視コ字状に形成された金具31で形成され、固定ボルト32を備えているから、形鋼61のフランジ62への固定を簡単に行なうことができる。
加えて、第1ナット3は、ダブルナットで形成されているから、これを強固に棒状体2に保持させることができる。
【0030】
ところで、上記実施形態においては、棒状体2において第1挟持体11側に第1ナット3を螺合し、第2挟持体21側に第2ナット4を螺合して、左右のナットにより一対の挟持体を形鋼61のフランジ62に挟持させているが、図9に示すように、長尺のねじ部を有する六角ボルトで形成することもできる。即ち、図9に示す固定具1は、左方向から六角ボルト7のねじ部を第1挟持体11の貫通部14に貫通し、次いで、第2挟持体21の挟持部22の貫通部24に貫通した後、これを貫通した六角ボルト7のねじ部の先端側にワッシャー5及びばね座金6を外挿し、第2ナット4を螺合してなる。ここで、六角ボルト7は請求項のボルト体に相当し、六角ボルト7の頭部は請求項のボルト体の頭部に相当する。なお、ボルト体は、六角ボルト7に限られず、他の多角ボルト等を用いてもよい。
【0031】
この固定具1においては、六角ボルト7の頭部が第1挟持体11の係合部18に係合し、六角ボルト7が回動するのが防止されるとともに、第2挟持体21の係合部29にはワッシャー5が嵌入して第2ナット4が回動可能となっている。したがって、この固定具1においても、図1乃至図8に示す固定具1と同様に、第2挟持体21側において、六角ボルト7の頭部に手を伸ばしてこの頭部を保持することなく、第2挟持体21の第2ナット4を回すだけの操作で、左右一対の挟持体を両側から締付け、これら一対の挟持体で形鋼61のフランジ62を挟持することができる。なお、六角ボルト7は左右を逆に配置し、図9の右方向から六角ボルト7のねじ部を第2挟持体21の挟持部22の貫通部24に貫通し、次いで、第1挟持体11の貫通部14に貫通した後、これを貫通した六角ボルト7のねじ部の先端側にワッシャー5及びばね座金6を外挿し、1個のナットからなる第1ナットを螺合させてもよい。
【0032】
次に、本発明の別の実施形態の固定具1を図10及び図11に基づいて説明する。なお、図10(b)では便宜上、金具31の手前側の側壁33の記載は省略してある。
図10において、固定具51はL形状の形鋼63のフランジ64に固定されて配設体を支持するものであり、形鋼63のフランジ64を挟持する一対の挟持体である第1挟持体52及び第2挟持体53と、両端の周辺部の外面に雄ねじを備え、L字状に屈曲された棒状体54と、各挟持体の外側から棒状体54に螺合するナット55とを備えている。第1挟持体52は、図1乃至図9に示した実施形態の第2挟持体21の挟持部22と同一に形成されており、前記ナット55に係合してこのナット55の回動を防止するとともにワッシャー5が介在することによりこのナット55が係合することなく回動が可能となる係合部56を備えている。また、第2挟持体53は、図1乃至図9に示した実施形態の第2挟持体21と同一に形成されており、同様に、係合部57を備えている。このように形成された一対の挟持体の係合部には、いずれもワッシャー5が介在し、ナット55が回動可能となっている。前記棒状体54は両端部がそれぞれ形鋼63のフランジ64の先端部より少なくともナット55が螺合し得る分だけ外方に突出する長さに形成されている。
【0033】
この固定具51は、ナット55を回して締付けることにより、第1挟持体52と棒状体54の水平部とで形鋼63の上下方向のフランジ64を挟持し、第2挟持体53の挟持部22と棒状体54の垂直部とで形鋼63の水平方向のフランジ64を挟持しており、これにより固定具51を形鋼63のフランジ64に固定している。したがって、本実施形態においては、両側のナット55とも各挟持体の係合部にワッシャー5を介在させて回動可能な状態としている。ここで、L形状の形鋼63のフランジ64を挟持する第1挟持体52及び第2挟持体53は2個のナット55がいずれも回動可能な状態とする必要があるから、挟持体に、ナット55を係合させてその回動を防止する係合部は特に設ける必要はない。しかし、建物に、H形状の形鋼61とL形状の形鋼63とが構築されている場合などにおいては、各挟持体を共通化できれば、複数種類の挟持体を用意し、使い分ける煩わしさがなくなり、運搬、保管管理も楽になるので都合がよい。そこで、図10に示す固定具51では、それぞれに係合部を設けた一対の挟持体を使用しているのである。
【0034】
図11に、固定具51の第2挟持体53の支持部材41に配設体として吊りボルト72を支持させた例を示す。図11において、吊りボルト72はこれに螺合した上下一対のナット73で支持本体44の支持板部48を挟持することにより第2挟持体53の支持部材41に垂設されている。なお、吊りボルト72は、金具31に対して支持部材41を連結ボルト42の軸心を中心に上下方向に所定角度回動させた後、締付けて固定することにより、傾斜した状態で吊り下げることもできる。
【0035】
ところで、上記各実施形態の挟持体の係合部は、図3に示したように、側縁部に切欠を形成し、左右一対の側壁間の内寸L1をナットの対辺間隔より小さく形成して、挟持体の側縁部の端面角部にナットの周壁を当接させることにより、ナットの回動を防止しているが、ナットの回動防止機構はこれに限られるものではなく、例えば、図12に示すように、第1挟持体11の一方の側壁12の側縁部17等に直角方向に屈曲した屈曲片19を形成し、屈曲片19の下辺部と第1ナット3の周壁3a等とを当接させることにより、これらのナットの回動を防止するようにしてもよい。この場合、屈曲片19の下辺部は挟持体の係合部となる。
【0036】
また、上記実施形態の直状の棒状体2は、全長に至って外面に雄ねじが設けられているが、ナットが螺合する部分のみ雄ねじを設けてもよい。そして、L字状の棒状体54は両端部側に雄ねじが設けられているが、全長に至って雄ねじを設けてもよい。
【0037】
加えて、上記実施形態の各挟持体、第2挟持体の固定部、支持部等は、上記各図に示した形状、構成に限られるものではなく、例えば、支持部は、図13に示した支持部材83を取付けることもできる。また、支持部材41は、第2挟持体21や第2挟持体53に取着されているが、第1挟持体11や第1挟持体52に取着してもよく、或いは、棒状体2や棒状体54に取着してもよく、更には、これら双方またはそれぞれに取着してもよい。そして、各固定具において、固定部は別体の金具31で形成し、支持部は別体の支持部材41で形成しているが、これら固定部或いは支持部を挟持部22に一体に付設してもよい。
【0038】
更に、直状の棒状体2に取付けられた第1挟持体11の係合部18に係合する第1ナット3は、ダブルナットで形成されているが、単一のナットで形成してもよい。また、棒状体に螺合し、回して締付けるナットは、六角ナットでなくてもよく、手で締付け可能な蝶ナットなどであってもよい。
加えて、上記実施形態のワッシャー5は、円形の平座金が使用されているが、小判形状、矩形状等の平座金を使用してもよい。
【0039】
なお、上記各実施形態では、造営材として、H形状の形鋼61及びL形状の形鋼63を例示しているが、他に、C形状の形鋼や通常の固定具では抜脱し易い角パイプ、丸パイプなどの造営材にも固定具1及び固定具51を固定し、配設体を支持することができる。また、上記各実施形態の固定具は、配設体として、蛍光灯71及び吊りボルト72を支持しているが、他に、配線器具、安定器、火災報知器、配管材、ケーブル等を支持させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態における造営材への固定具の正面図である。
【図2】(a)は図1の固定具の左側面図、(b)は(a)のA−A切断線による断面図である。
【図3】図1の第1挟持体の係合部と第1ナットとの寸法関係を示す説明図である。
【図4】(a)は図1の第1挟持体に第1ナットを螺合した状態を示す斜視図、(b)は第1ナットを第1挟持体の係合部に係合させた状態を示す斜視図である。
【図5】(a)は図1の第2挟持体に第2ナットを螺合した状態を示す斜視図、(b)はワッシャーを第2挟持体の係合部に嵌入した状態を示す斜視図、(c)は第2ナットを締付けるときの状態を示す斜視図である。
【図6】図1の金具を示す斜視図である。
【図7】図1の金具に支持部材を連結した固定具を示し、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は(b)のB−B切断線による断面図である。
【図8】図7(a)の支持部材に蛍光灯を支持した固定具の断面図である。
【図9】図1の固定具の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明の別の実施形態の固定具を示し、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は(a)のC−C切断線による断面図である。
【図11】図10(b)の第2挟持体に吊りボルトを支持した固定具の正面図である。
【図12】図1及び図10の挟持体の別の係合部を示す側面図である。
【図13】従来の固定具の正面図である。
【符号の説明】
【0041】
1、51 固定具
2、54 棒状体
3 第1ナット
4 第2ナット
5 ワッシャー
7 六角ボルト
11、52 第1挟持体
14、24 貫通部
18、29 係合部
21、53 第2挟持体
31 金具
32 固定ボルト
41 支持部材
55 ナット
61、63 形鋼
62、64 フランジ
71 蛍光灯
72 吊りボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造営材を挟持することにより該造営材に固定される造営材への固定具であって、
前記造営材を挟持する一対の挟持体と、外面に雄ねじを備えた棒状体と、前記棒状体に螺合して前記挟持体を挟圧するナットとを備え、
前記挟持体は、前記棒状体が貫通する貫通部を備えるとともに、該貫通部を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたはボルト体の頭部に係合する係合部を備え、
前記係合部は、ワッシャーが介在することにより、前記ナットまたは前記ボルト体の頭部が係合することなく回動可能に形成されてなることを特徴とする造営材への固定具。
【請求項2】
前記棒状体が前記一対の挟持体を貫通した状態で、一方の前記挟持体を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたは前記ボルト体の頭部は前記一方の挟持体の係合部に係合し、他方の前記挟持体を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたは前記ボルト体の頭部は前記他方の挟持体の係合部との間に前記ワッシャーが介在してなることを特徴とする請求項1に記載の造営材への固定具。
【請求項3】
前記挟持体及び前記棒状体の少なくとも一は、配設体を支持する支持部を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の造営材への固定具。
【請求項4】
いずれか一方の前記挟持体は、側面視コ字状に形成され、内部に挿入された前記造営材を挟持する固定ボルトを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の造営材への固定具。
【請求項5】
前記一方の挟持体の係合部に係合するナットは、ダブルナットで形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の造営材への固定具。
【請求項1】
造営材を挟持することにより該造営材に固定される造営材への固定具であって、
前記造営材を挟持する一対の挟持体と、外面に雄ねじを備えた棒状体と、前記棒状体に螺合して前記挟持体を挟圧するナットとを備え、
前記挟持体は、前記棒状体が貫通する貫通部を備えるとともに、該貫通部を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたはボルト体の頭部に係合する係合部を備え、
前記係合部は、ワッシャーが介在することにより、前記ナットまたは前記ボルト体の頭部が係合することなく回動可能に形成されてなることを特徴とする造営材への固定具。
【請求項2】
前記棒状体が前記一対の挟持体を貫通した状態で、一方の前記挟持体を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたは前記ボルト体の頭部は前記一方の挟持体の係合部に係合し、他方の前記挟持体を貫通した前記棒状体に螺合した前記ナットまたは前記ボルト体の頭部は前記他方の挟持体の係合部との間に前記ワッシャーが介在してなることを特徴とする請求項1に記載の造営材への固定具。
【請求項3】
前記挟持体及び前記棒状体の少なくとも一は、配設体を支持する支持部を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の造営材への固定具。
【請求項4】
いずれか一方の前記挟持体は、側面視コ字状に形成され、内部に挿入された前記造営材を挟持する固定ボルトを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の造営材への固定具。
【請求項5】
前記一方の挟持体の係合部に係合するナットは、ダブルナットで形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の造営材への固定具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−293750(P2009−293750A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149992(P2008−149992)
【出願日】平成20年6月7日(2008.6.7)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月7日(2008.6.7)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】
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