説明

連続鋳造における浸漬ノズルの閉塞制御方法

【課題】 鉛快削鋼などの溶鋼の連続鋳造において、モールドへ注湯する際にモールドへの浸漬ノズルがAl23の生成により閉塞することを減少するための溶製方法を提供する。
【解決手段】 連続鋳造用の溶鋼の精錬工程において、快削鋼とする機械構造溶鋼の鋼種のSi含有量を、質量%で、0.30〜0.80%とすることで、アルミナ系介在物を抑制してAl23−CaO−SiO2系の介在物として低融点化を図り、精錬最終工程のバブリングにより快削成分として必要量のPbを溶鋼中に添加して目的とする鋼種の鉛快削鋼に溶製し、連続鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を軽減する鉛快削鋼の溶製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉛快削鋼などの精錬の最終工程のバブリング工程で鉛を添加した鋼を連続鋳造で鋳造する場合に最終行程のバブリングによるAl23の生成を抑制することにより連続鋳造用のモールドへの注湯ノズルの閉塞を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛快削鋼などの精錬の最終工程がバブリング工程であり、このバブリング工程において鉛が添加される鋼では、バブリング時にスラグや空気酸化によりAl23を生成して溶鋼汚染しやすく、連続鋳造時のモールドへ注湯する浸漬ノズルの閉塞などを生じることがある。このように注湯用の浸漬ノズルが閉塞されると、連続鋳造の連々数が制約されることとなる。この浸漬ノズルの閉塞を防止する対策として、不活性ガスをノズル部に吹き込む方法がとられるが、この方法では不活性ガスが鋳片に巻き込まれ、鋳片の凝固界面に偏在して鋳片の表層下に鉛や硫黄のマクロ偏析が生じる場合がある。
【0003】
そこで、鉛快削鋼の精錬において、最終行程でCaを添加して再び精錬することで溶鋼中の介在物の量を極めて少なくして注湯する浸漬ノズルに不活性ガスを吹き込まなくともノズル閉塞を生ずることなく安定してモールドに注湯する方法が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭64−39345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、上記のようなCa添加の工程を必要とすることなく、鉛快削鋼などの溶鋼の連続鋳造においてモールドへ注湯する際にAl23の生成により注湯用の浸漬ノズルが閉塞することを減少する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、鉛快削鋼の溶製において、鋼中のSi成分を質量%で0.30〜0.80%とすることによって、鉛添加のためのバブリング時に巻き込んだ大気やスラグによって生成されるアルミナ系の介在物を抑制できることを見出し、さらにこの介在物の組成がAl23系もしくはAl23−CaO系の組成からAl23−CaO−SiO2系の組成となると介在物の低融点化を図ることができ、このために連続鋳造用のモールドへ注湯する浸漬ノズルの閉塞を抑制できることを見出し、本発明を得たものである。
【0007】
すなわち、上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、連続鋳造用の溶鋼の精錬工程において快削鋼とする鋼種のSi含有量の下限値を質量%で0.30%とし、上限値を0.80%として精錬最終工程のバブリングにより快削成分のPbを溶鋼中に添加して該鋼種を鉛快削鋼に溶製することを特徴とする連続鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を軽減する鉛快削鋼の溶製方法である。
【0008】
請求項2の発明では、快削鋼とする鋼種は、JIS G 4103のニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、JIS G 4104のクロム鋼鋼材、JIS G 4105のクロムモリブデン鋼鋼材、JIS G 4106の機械構造用マンガン鋼鋼材及びマンガンクロム鋼鋼材であることを特徴とする請求項1の手段の連続鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を軽減する鉛快削鋼の溶製方法である。
【0009】
本発明が適用できる鋼種は、上記のJIS規格の鋼種に限られるものではなく、この他に鉛快削鋼として慣用される機械構造用の鋼材であれば適用できる。なお、本発明で適用する鋼種がJIS規格の鋼種である場合には、Siの上限値はJISの規格で定める上限値とする。JIS規格の鋼種でない場合は、Siが0.60%以上では、浸漬ノズルの閉塞が見られないので、Siの上限値は安全を見て0.80%とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、鉛快削鋼の精錬において、鋼中成分のSi量を質量%で0.30%以上とすることで、最終工程のバブリングにより溶鋼中に鉛を添加することによりバブリングによるAl23の生成を抑制することができ、この結果、連続鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を減少でき、鉛快削鋼の連々鋳を低コスト、高効率で実施できるなどの優れた効果を奏するものである。この場合、上記の最終工程後の溶鋼中のAl量は質量%で0.005〜0.035%である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を図面及び表を参照して説明する。本発明の対象の鉛快削鋼としては、JIS規格の鋼種に限らず、他に鉛快削鋼として慣用される機械構造用の鋼材である。
【0012】
ここでは最良の形態の1例として、クロム鋼の肌焼鉛添加鋼で、質量%で、溶鋼を精錬した鍋下のSi含有量を0.30〜0.35%、Al含有量を0.025〜0.035%とし、精錬最終工程においてこの鍋下の溶鋼にバブリングによりPbを添加し、さらPb含有量を0.05〜0.08%とした溶鋼を表1のテスト1とした。さらに、マンガン鋼の鉛添加鋼で、鍋下のSi含有量を0.60〜0.70%、Al含有量を0.010〜0.020%とし、精錬最終工程においてこの鍋下の溶鋼にバブリングによりPbを添加し、Pb含有量を0.09〜0.13%とした溶鋼を表1のテスト2とした。これらに対し、比較鋼としてクロム鋼の肌焼鉛添加鋼で、鍋下のSi含有量を0.25%以下、Al含有量を0.025〜0.035%とし、精錬最終工程においてこの鍋下の溶鋼にバブリングによりPbを添加し、Pb含有量を0.05〜0.08%として表1の比較材とした。
【0013】
すなわち、これらの鋼種の成分の鋼を、電気炉で溶製し、次いで取鍋精錬して鍋下に溶製し、さらにRH脱ガス処理の最終工程のバブリングで溶鋼中にPbを添加して上記の鉛含有量の溶鋼とした。これらを表1に示した。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に見られるように、質量%において、Si含有量が0.60〜0.70%と最も多い本発明のテスト2では、鉛の添加時のバブリングによって生成されるAl23生成による鋼中のAl含有量の低下は最も少なく、Alの含有量は0.010〜0.018%であった。この時に得られた介在物の組成はAl23−CaO−SiO2系の組成で、この場合の連々数は8であり、ノズル閉塞は見られなかった。さらに、Si含有量が0.30〜0.35%である本発明のテスト1では、鉛の添加時のバブリングによって生成されるAl23生成による鋼中のAl含有量の低下は次いで少なく、Alの含有量は0.012〜0.024%であった。この時に得られた介在物の組成は、同じくAl23−CaO−SiO2系の組成で、この場合の連々数は4でノズル閉塞が見られた。これらのAl23−CaO−SiO2系の組成の介在物の融点は1400〜1500℃であった。
【0016】
一方、Si含有量が0.25%以下である比較材では、鉛の添加時のバブリングによって生成されるAl23生成による鋼中のAl含有量の低下は上記に比して多く、Alの含有量は0.015〜0.031%であった。この時の介在物組成はAl23−CaO系の組成で、この場合の連々数は2でノズル閉塞が見られた。このAl23−CaO系の組成の介在物の融点は1500〜1600℃で、上記の本発明のテスト1あるいはテスト2の例に比し、融点は凡そ100℃高かった。なお、表1において、連々数指数はノズル閉塞の開始する連々数で評価した。
【0017】
これらのことから、溶鋼の成分であるSi量のレベルを0.30%以上と高めることにより、図1に見られるように、鉛添加時のAlの含有量の低下を抑制でき、多連の連続鋳造が可能となることがわかる。ところで、鉛鋼は、巨大鉛防止のため、鉛添加後、すぐに鋳造しなければならないのでキーリングなどによる介在物の浮上分離は期待できない。そこで、本発明では、上記のように鉛添加時のAlの含有量の低下を抑制して介在物をAl23−CaO−SiO2系の組成とすることで、介在物の融点を下げてノズル閉塞をしにくくした。この場合、溶鋼の成分中のSi量が多いとバブリング時にAl23だけでなく、SiO2も生成され、介在物の組成がAl23−CaO−SiO2になり、上記したように介在物の融点が下がるのでノズルが閉塞しにくくなる。
【0018】
さらに、JIS規格のJIS G 4103のニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、JIS G 4104のクロム鋼鋼材、JIS G 4105のクロムモリブデン鋼鋼材、JIS G 4106の機械構造用マンガン鋼鋼材及びマンガンクロム鋼鋼材等の鋼材では、Si量の含有量の上限はそれらのJIS規格で規定する上限の0.35%とし、精錬の最終行程のバブリングで溶鋼中にPbを添加してPb含有の溶鋼として連続鋳造した。この場合も浸漬ノズルのつまりは減少し、4〜8連の連々数を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】鍋下のSi含有量と鉛添加時のAlの含有量の低下との関係を本発明の実施例と比較例で示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用の溶鋼の精錬工程において快削鋼とする鋼種のSi含有量の下限値を質量%で0.30%、上限値を0.80%とし、精錬最終工程のバブリングにより快削成分のPbを溶鋼中に添加して該鋼種を鉛快削鋼に溶製することを特徴とする連続鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を軽減する鉛快削鋼の溶製方法。
【請求項2】
快削鋼とする鋼種は、JIS G 4103のニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、JIS G 4104のクロム鋼鋼材、JIS G 4105のクロムモリブデン鋼鋼材、JIS G 4106の機械構造用マンガン鋼鋼材及びマンガンクロム鋼鋼材であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造時の浸漬ノズルの閉塞を軽減する鉛快削鋼の溶製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−31767(P2007−31767A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216081(P2005−216081)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】