説明

進相コンデンサ制御装置

【課題】変圧器ロスの増加を抑制するとともに、フェランチ現象も抑制できる進相コンデンサ制御装置を提供する。
【解決手段】構内配電系統に設けられ、進相コンデンサ開閉器の投入開放制御を行う進相コンデンサ制御装置において、測定された変圧器の2次電流値と、想定電圧値と負荷の想定力率値とにより上記変圧器を通過する無効電力を推定し、あるいは受電点で測定された有効電力と負荷の想定力率値とにより受電点における無効電力を推定する無効電力推定部と、この無効電力推定部が推定した無効電力を補償するように、進相コンデンサ開閉器の投入開放制御の判断をおこない、進相コンデンサ開閉器に対し投入するまたは開閉する制御指令を出す制御決定部とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力需要家が電力負荷力率改善用に設置する低圧用進相コンデンサを、電流のみの簡易計測で入切制御すると共に、電力会社からの力率割引を受けつつ、変圧器の電力ロスを最小化するように制御する、進相コンデンサ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般家庭など電灯契約の需要家を除き、配電系統から受電する需要家は、電力系統からの受電点での遅れ力率を85%以上に改善・維持することで、契約電力に応じて支払う基本料金に対して割引を受けることができる。受電点の遅れ力率を100%に近づけるほどこの割引率は大きくなり、過剰な力率改善によって遅れ力率から進み力率に転じても特にペナルティも生じない。
【0003】
また、一般に力率改善用に用いる進相コンデンサ自体は比較的低価格であるため、多くの需要家は、力率改善用の進相コンデンサを常時接続形態で、過剰気味に設置する。しかし、需要家による進相コンデンサの過剰設置により、下記の問題が生じる。
【0004】
(1)特高受電/高圧受電の需要家については、特高/高圧母線に進相コンデンサを常時接続で設置する場合が多い。その場合、受電電力を特高/高圧から低圧へと変換する需要家構内変圧器では力率は改善されておらず、構内負荷の無効電力が構内変圧器を通過するため、変圧器ロス(負荷損)が増加する。
【0005】
(2)過剰な進相コンデンサ設置によって、特に需要家が軽負荷となる夜間では、各需要家とも受電点力率が大幅な進みとなる。すなわち、需要家から電力系統へ無効電力が供給される形となり、その結果、配電系統の電圧が上昇するフェランチ現象が発生する。
【0006】
上記(1)の対策としては、(a)進相コンデンサ接続先を特高/高圧回路から低圧回路へ移行する(特許文献1)、上記(2)の対策としては、(b)受電点力率をほぼ100%に維持するよう、構内無効電力負荷の増減に応じて進相コンデンサを入切制御する自動力率調整器を設置する(特許文献2)、といった対策が有効である。
【0007】
(a)については、需要家のコスト負担は大きくは変わらないため普及の大きな障壁とはなっていない。(b)については、自動力率調整器本体に加え、受電点電力を計測するためのセンサー(CT/PT)の設置と、コンデンサへの開閉器設置が新たに必要となるため、多くの需要家では対策が進まないのが現状である。
【0008】
特許文献1では、自動力率調整器の簡易版として、構内変圧器の二次側(低圧側)に負荷電流を計測する電流センサ(CT)と、その計測値から進相コンデンサを入切制御する簡易制御装置のみを設置し、負荷電流の大きさのみで進相コンデンサの入切制御を行うものが提案されている。すなわち、電流に第一基準と第二基準を設け、負荷電流が第一基準を超過した場合に進相コンデンサを入り制御し、第二基準を下回った場合に進相コンデンサを切り制御する簡易式の制御である。これによって、電圧センサ(PT)の設置や、自動力率調整器での負荷無効電力量計算が省略できるため、需要家へのコスト負担を減らすことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−17689号公報(図6など)
【特許文献2】実開平6−70447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2では、電圧センサを省略し、電流センサによる負荷電流のみで簡易的に進相コンデンサの入切制御を行う。しかし、進相コンデンサの入切判定基準を第一基準、第二基準としているが、その基準値の設定方法は記載されていない。そのため、これによって受電点の力率が、力率割引が最大となる遅れ力率100%以上(=進み力率)となることを必ず保障するものではない。
また基準値が、力率割引のための平均力率算定対象時間帯(一般に深夜以外の時間帯、以後“昼間帯”と呼ぶ)と、それ以外の時間帯(深夜、以後“夜間帯”と呼ぶ)とで同じである。そのため、遅れ力率100%を保障するためには、基準値を低めに設定し、進相コンデンサが入り気味になるようにする必要がある。これは昼間帯においては適切な処置であるが、遅れ力率100%以上を保障する必要のない夜間帯では、必要以上に構内変圧器の通過無効電力を増やすことになり、変圧器ロスの増加があまり改善されない可能性がある。
【0011】
本発明は、以上のような従来の進相コンデンサを用いた力率改善方法の問題点を解決するためになされたもので、変圧器ロスの増加を抑制するとともに、フェランチ現象も抑制できる進相コンデンサ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
高圧配電系統から受電点を経て変圧器により低電圧に電圧変換を行って配電される低圧母線に、負荷と、進相コンデンサと進相コンデンサ開閉器との直列体とが接続された構内配電系統に設けられ、進相コンデンサ開閉器の投入開放制御を行う進相コンデンサ制御装置において、測定された変圧器の2次電流値と、想定した低圧母線の電圧値である想定電圧値と、想定した負荷の力率値である想定力率値とにより変圧器を通過する無効電力を推定し、あるいは受電点で測定された有効電力と、想定した負荷の力率値である想定力率値とにより受電点における無効電力を推定する無効電力推定部と、この無効電力推定部が推定した無効電力を補償するように、進相コンデンサ開閉器の投入開放の判定をおこない、この投入開放の判定結果に基づいて進相コンデンサ開閉器に対し投入または開放の制御指令を出す制御決定部とを設けた。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、簡易な計測のみで進相コンデンサ制御が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1による進相コンデンサ制御装置を含む配電系統全体の構成を示す概念図である。
【図2】本発明の実施の形態1による進相コンデンサ制御装置の制御フローを示すフロー図である。
【図3】本発明の実施の形態2による進相コンデンサ制御装置を含む配電系統全体の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に関わる進相コンデンサ制御装置と、その周辺の需要家構内配電系統の構成を示す概念図であり、図2は進相コンデンサ制御装置の制御フロー図である。図1において、1は需要家の受電点に設けられた受電点開閉器で、異常時などに高圧配電系統から需要家への配電を遮断するために設けられる。2は需要家内の構内高圧
母線(例えば6.6kV)、3は構内高圧母線2の高圧を低圧に変換する構内変圧器で、直列に構内変圧器開閉器4が設けられている。5は構内変圧器3により低圧(例えば基準電圧の202V)に変換されたて配電される低圧母線で、低圧母線5には通常複数の負荷6a、6b、6c(ここでは3個の負荷を示しているが、負荷の個数は何個でも良い。)が接続されている。7a、7bは力率を改善するための進相コンデンサで、それぞれ進相コンデンサ開閉器8a、8bを介して低圧母線に接続されている。9は構内変圧器4の2次側の電流値を測定するための電流センサ(CT)、10は本発明の対象である進相コンデンサ制御装置で、制御決定部11、無効電力推定部12、時間帯判定部13を備えている。
【0016】
次に、進相コンデンサ制御装置10の各部の動作について図2を用いて説明する。無効電力推定部12において、電流センサ9により測定された構内変圧器3の二次側電流値Iに、低圧母線5の想定電圧値V(例えば、基準電圧である202V)を乗じて皮相電力値とし、更に負荷の想定された力率値である想定力率値PFを加味した下記計算により、変圧器通過無効電力値Qを推定する。
【数1】

【0017】
一方、時間帯判定部13において、現在時刻が平均力率算定対象時間帯(昼間帯、所定時間帯とも言う)か対象外の時間帯(夜間帯)かを判定する。この判定結果に応じて、無効電力の推定計算に使用する想定力率値PFを昼間帯用とするか夜間帯用とするかを切り替える。
【0018】
なお夜間帯用の想定力率値は負荷機器の内容から可能な限り実態に近い力率を想定する。例えば、インバータを介さない動力誘導機負荷では力率を75%、インバータを介する誘導機負荷では95%、事務用機器では95%とするなど、一般的に言われている目安を基準とすればよい。また、昼間帯用の想定力率は夜間帯用力率より小さめ(=無効電力成分比が大きめ)に想定する。
したがって、想定力率値PFが夜間帯用想定力率値の場合は、Qは実態に近い無効電力が推定される。一方、昼間帯用想定力率値では実態より小さめの数値とするため、Qはやや大きめの数値として推定される。
【0019】
次に、制御決定部11において、進相コンデンサ(コンデンサ容量をQとする)を制御後、入状態とした場合の変圧器通過無効電力Qと、切状態とした場合の変圧器通過無効電力Qを下記計算により求める。
1)進相コンデンサが既に入状態の場合
=Q
=Q+Q
2)進相コンデンサが既に切状態の場合
=Q−Q
=Q
【0020】
求めたQ、Qにつき、夜間帯はその絶対値が小さくなるように、すなわち構内変圧器3の通過電力が最小となるように入切状態を決定し、その状態を変える場合は、実際に進相コンデンサ開閉器8a、8bへ投入または開放の制御信号を出す。
昼間帯の場合も同様に入切状態を決定するが、昼間帯では更に、切状態となることによってQが遅れ方向(=受電点から負荷側へ無効電力が流れる方向)になる、すなわち受電点力率が遅れとなり力率割引が受けられない可能性がある場合には、入状態に決定する。
【0021】
また、制御決定部11では、機器寿命低下へとつながる進相コンデンサ開閉器8a、8bの投入開放制御頻発を防止するには、最終的な投入開放制御信号出力の前に動作時限を持たせればよい。すなわち図2の制御フローの出力が一定期間同じである場合のみ、実際に投入開放制御を行えばよい。例えば制御演算周期が1分で、10回連続して(=10分連続して)同じ入切方向の制御判断となった場合のみ、進相コンデンサの開閉器8a、8bに対しその同じ方向の制御信号を出せばよい。
【0022】
また、図1のように複数台の進相コンデンサ(図1では2個の進相コンデンサ7a、7bを示しているが、3個以上であっても良い。)がある場合は、従来の自動力率調整器と同じく、組合せ最適化によってどの進相コンデンサを入切制御するかを決定すれば良い。組合せ最適化の評価としては、前述と同じく、夜間帯では無効電力の絶対値が最小となるように、昼間帯では力率が進み方向になる範囲で無効電力の絶対値が最小となるように、進相コンデンサの入切台数を決定すれば良い。
【0023】
また、構内変圧器3が複数ある場合は、変圧器ごとに進相コンデンサと制御装置のセットを設置しても良いし、代表して1台の主変圧器だけに設置して制御してもよい。代表して1台の主変圧器のみに設置する場合は、他の変圧器に接続する負荷の無効電力分を加味して、昼間帯の想定負荷力率を更に小さい値とすればよい。
【0024】
この構成によれば、昼間帯は力率進み状態を維持する範囲で、変圧器通過無効電力が最小となるように進相コンデンサが制御され、夜間帯は力率の進み/遅れに関わらず変圧器通過無効電力が最小となるように制御される。これによって需要家は力率割引を第一に補償しつつ、変圧器ロスを最小に抑えることができる。
【0025】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に関わる進相コンデンサ制御装置と、その周辺の需要家構内配電系統の構成を示す概念図である。図3において、図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。図3において、14は電力センサで15は通常電力会社が電力取引のために需要家ごとに設置している電力量計(Whメータ)、16は、需要家が契約電力の超過有無を監視するために設置するデマンドコントローラである。
【0026】
実施の形態2では、図1で示す実施の形態1と異なり、進相コンデンサ制御装置10の入力用に電流計を設置せず、代替として既設の電力量計15とデマンドコントローラ16を用いる。この実施の形態2では、受電点電力が変圧器負荷とほぼ等しい必要があるため、基本的には構内変圧器3は1台を想定する。但し、小容量負荷用に、小容量変圧器が別にあっても誤差の範囲として許容する。
【0027】
電力量計15は、受電点の電流・電圧を計測し、需要家が使用した有効電力量(W)を積算し、使用電力量が所定電力量となるごとに、パルス信号をデマンドコントローラに出力する。デマンドコントローラ16では、受信したパルス信号を使用電力量に換算し、毎正時と毎正時間30分を区切りとして、30分ごとの使用電力量を算出する。
【0028】
進相コンデンサ制御装置10は、無効電力推定部12において、30分での使用電力量を計測時間t(この場合30分=0.5時間)で割って平均有効電力値とし、更に想定力率PFを加味した下記計算により、受電点通過無効電力値Qを推定する。
【数2】

それ以外の動作は、実施の形態1と同じである。
【0029】
また、電力量計15では受電点有効電力Pを随時算出しているため、電力量計15から直接有効電力Pを取り込んでも良い。その場合は、進相コンデンサ制御装置10は、無効電力推定部12において、電力量計15から取り込んだ有効電力Pから、更に想定力率PFを加味した下記計算により、受電点通過無効電力値Qを推定する。
【数3】

【0030】
この構成によれば、実施の形態1で必要であった電流計の新設が不要であり、更に低コストで進相コンデンサの入切制御が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、電力需要家が電力負荷力率改善用に設置する進相コンデンサの制御装置として利用できる。
【符号の説明】
【0032】
2:高圧母線 3:構内変圧器
5:低圧母線 6a、6b、6c:負荷
7a、7b:進相コンデンサ 8a、8b:進相コンデンサ用開閉器
9:電流センサ 10:進相コンデンサ制御装置
11:制御判定部 12:無効電力推定部
13:時間帯判定部 15:電力量計
16:デマンドコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧配電系統から受電点を経て変圧器により低電圧に電圧変換を行って配電される低圧母線に、負荷と、進相コンデンサと進相コンデンサ開閉器との直列体とが接続された構内配電系統に設けられ、上記進相コンデンサ開閉器の投入開放制御を行う進相コンデンサ制御装置において、
測定された上記変圧器の2次電流値と、想定した上記低圧母線の電圧値である想定電圧値と、想定した上記負荷の力率値である想定力率値とにより上記変圧器を通過する無効電力を推定し、
あるいは上記受電点で測定された有効電力と、想定した上記負荷の力率値である想定力率値とにより受電点における無効電力を推定する無効電力推定部と、
この無効電力推定部が推定した無効電力を補償するように、上記進相コンデンサ開閉器の投入開放の判定をおこない、この投入開放の判定結果に基づいて上記進相コンデンサ開閉器に対し投入または開放の制御指令を出す制御決定部とを
設けたことを特徴とする進相コンデンサ制御装置。
【請求項2】
現在時刻が所定時間帯の時刻であるかないかを判定する時間帯判定部を備え、
この時間帯判定部が現在時刻が所定時間帯の時刻であると判定した場合の想定力率値を、上記時間帯判定部が現在時刻が所定時間帯の時刻でないと判定した場合の想定力率値よりも低く設定することを特徴とする請求項1に記載の進相コンデンサ制御装置。
【請求項3】
制御決定部が、投入または開放のうちいずれかの判定を所定回数連続して行った場合に、進相コンデンサ開閉器に対して投入または開放の制御指令を出すことを特徴とする請求項1に記載の進相コンデンサ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−50122(P2011−50122A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194224(P2009−194224)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】