説明

進行方位算出装置、進行方位算出方法及び進行方位算出プログラム並びにナビゲーション装置

【課題】進行方位を精度良く算出できるようにする。
【解決手段】本開示の進行方位算出装置は、使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出する検出部と、鉛直加速度のゼロクロス点を基に、使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定する歩行周期設定部と、歩行周期内において、水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定する加減速切替位相設定部と、加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定する加減速区間推定部と、減速区間では水平加速度が表す方位に基づき、加速区間では水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、使用者の進行方位を決定する進行方位決定部とを設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は進行方位算出装置、進行方位算出方法及び進行方位算出プログラム並びにナビゲーション装置に関し、例えばナビゲーション機能を有するスマートフォンに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンと呼ばれる携帯型電話機が普及しつつある。このスマートフォンは、小型に構成され高い携帯性を維持しながら、通信機能に加えて、高い演算処理機能、大型の表示画面及びタッチパネル等を備えており、種々のアプリケーションプログラムを実行できるようになされている。
【0003】
またスマートフォンのなかには、加速度センサや地磁気センサ等の各種センサ、GPS(Global Positioning System)アンテナ等を内蔵し、所定のナビゲーションプログラムを実行することにより携帯型のナビゲーション装置として機能するものもある。
【0004】
この場合スマートフォンは、一般的なナビゲーション装置と同様、GPS衛星からの無線信号をGPSアンテナにより受信して現在位置を算出し、その近傍の地図画面や所望の目的地への経路等、様々な案内を提示することができる。
【0005】
またナビゲーション装置のなかには、GPS信号を受信できない場合に、加速度センサによる加速度の検出結果や地磁気センサによる磁北の検出結果等を基に、使用者の進行方位及び移動距離を算出して現在位置を推定するものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このナビゲーション装置では、加速度センサにより検出された加速度のうち垂直成分の波形及び水平成分の波形のピーク等の関係を用いることにより、使用者の進行方位を算出するようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4126388号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで使用者は、歩行する際、スマートフォンを上着のポケットやズボンのポケット、鞄等の中に入れ、或いは手に把持する等、様々な箇所に携帯する可能性がある。
【0009】
するとスマートフォンでは、使用者の携帯箇所に応じて、歩行に伴う外力の加わり方が大きく異なるため、加速度センサによる検出値の垂直成分の波形や水平成分の波形も大きく異なり、例えば想定していたピークが現れない可能性もある。
【0010】
このためスマートフォンでは、使用者の携帯箇所によっては垂直成分の波形及び水平成分の波形のピーク等の関係を利用することができず、進行方位を正しく算出できない場合があるという問題があった。
【0011】
本開示は以上の点を考慮してなされたもので、進行方位を精度良く算出し得る進行方位算出装置、進行方位算出方法及び進行方位算出プログラム、並びに進行方位を精度良く算出し適切な案内を提示し得るナビゲーション装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本開示の進行方位算出装置、進行方位算出方法及び進行方位算出プログラムにおいては、使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出し、鉛直加速度のゼロクロス点を基に、使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定し、歩行周期内において、水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定し、加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定し、減速区間では水平加速度が表す方位に基づき、加速区間では水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、使用者の進行方位を決定するようにした。
【0013】
本開示では、鉛直加速度のゼロクロス点を基に歩行周期の基準を良好に設定できると共に、水平加速度の極小点を用いることにより加減速切替位相を精度良く判別でき、これを基に加速区間及び減速区間を適切に設定できるので、順次得られる加速度の方向と使用者の進行方向との関係を正しく対応付けることができる。
【0014】
また本開示のナビゲーション装置においては、使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出する検出部と、上記鉛直加速度のゼロクロス点を基に、上記使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定する歩行周期設定部と、上記歩行周期内において、上記水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、上記使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定する加減速切替位相設定部と、上記加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定する加減速区間推定部と、上記減速区間では上記水平加速度が表す方位に基づき、上記加速区間では上記水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、上記使用者の進行方位を決定する進行方位決定部と、所定の位置検出部により検出した現在位置と上記進行方位とに基づいた案内を所定の提示部により上記使用者に提示させる提示制御部とを設けるようにした。
【0015】
本開示のナビゲーション装置は、鉛直加速度のゼロクロス点を基に歩行周期の基準を良好に設定できると共に、水平加速度の極小点を用いることにより加減速切替位相を精度良く判別でき、これを基に加速区間及び減速区間を適切に設定できるので、順次得られる加速度の方向と使用者の進行方向との関係を正しく対応付けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、鉛直加速度のゼロクロス点を基に歩行周期の基準を良好に設定できると共に、水平加速度の極小点を用いることにより加減速切替位相を精度良く判別でき、これを基に加速区間及び減速区間を適切に設定できるので、順次得られる加速度の方向と使用者の進行方向との関係を正しく対応付けることができる。かくして本開示は、進行方位を精度良く算出し得る進行方位算出装置、進行方位算出方法及び進行方位算出プログラム、並びに進行方位を精度良く算出し適切な案内を提示し得るナビゲーション装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】スマートフォンの外観構成を示す略線的斜視図である。
【図2】スマートフォンの回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図3】現在位置算出処理の実行時における制御部の機能ブロック構成を示す略線図である。
【図4】進行方位算出部の機能ブロック構成を示す略線図である。
【図5】使用者の進行方向ベクトルを示す略線図である。
【図6】スマートフォンの携帯箇所を示す略線図である。
【図7】座標系の変換の説明に供する略線図である。
【図8】帯域抽出処理による加速度の変化を示す略線図である。
【図9】歩行時における使用者の体の動きと鉛直加速度との関係を示す略線図である。
【図10】水平加速度の分布(胸ポケット)を示す略線図である。
【図11】水平加速度の分布(上着右ポケット)を示す略線図である。
【図12】水平加速度の分布(尻ポケット)を示す略線図である。
【図13】歩行時における加速度及び方位角(胸ポケット)を示す略線図である。
【図14】歩行時における加速度及び方位角(上着右ポケット)を示す略線図である。
【図15】歩行時における加速度及び方位角(尻ポケット)を示す略線図である。
【図16】自己相関関数評価値(胸ポケット)を示す略線図である。
【図17】自己相関関数評価値(上着右ポケット)を示す略線図である。
【図18】自己相関関数評価値(尻ポケット)を示す略線図である。
【図19】自己相関関数評価値(手)を示す略線図である。
【図20】自己相関関数評価値(鞄)を示す略線図である。
【図21】自己相関評価値における極小値の判定の説明に供する略線図である。
【図22】採用条件の適用による歩行周期の変化を示す略線図である。
【図23】鉛直加速度におけるゼロクロス点を示す略線図である。
【図24】位相基準点の選定の説明に供する略線図である。
【図25】水平加速度における極小点の出現頻度(胸ポケット)を示す略線図である。
【図26】水平加速度における極小点の出現頻度(上着右ポケット)を示す略線図である。
【図27】水平加速度における極小点の出現頻度(尻ポケット)を示す略線図である。
【図28】水平加速度における極小点の出現頻度(手)を示す略線図である。
【図29】水平加速度における極小点の出現頻度(鞄)を示す略線図である。
【図30】近接位相除外処理による極小点の出現頻度の変化を示す略線図である。
【図31】加減速の判別結果(胸ポケット(1))を示す略線図である。
【図32】加減速の判別結果(胸ポケット(2))を示す略線図である。
【図33】加減速の判別結果(上着右ポケット(1))を示す略線図である。
【図34】加減速の判別結果(上着右ポケット(2))を示す略線図である。
【図35】加減速の判別結果(尻ポケット(1))を示す略線図である。
【図36】加減速の判別結果(尻ポケット(2))を示す略線図である。
【図37】進行方位算出処理手順を示すフローチャートである。
【図38】歩行周期算出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図39】加減速切替位相学習サブルーチンを示すフローチャートである。
【図40】歩行時における進行方位の算出結果(胸ポケット)を示す略線図である。
【図41】歩行時における進行方位の算出結果(上着右ポケット)を示す略線図である。
【図42】歩行時における進行方位の算出結果(尻ポケット)を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
2.他の実施の形態
【0019】
<1.実施の形態>
[1−1.スマートフォンの構成]
図1に示すように、スマートフォン1は、本体部2の操作部3を介して使用者の操作指示を受け付けてナビゲーションプログラム等の各種アプリケーションを実行し、その実行結果に応じた表示画面を表示部4に表示するようになされている。
【0020】
ここで表示部4の短手方向及び長手方向、並びに表示画面と直交する方向をそれぞれx方向及びy方向並びにz方向と定義すると、本体部2は、x、y及びzの各方向にそれぞれ約63[mm]、約125[mm]及び約11[mm]となっており、全体として薄板状に構成されている。すなわちスマートフォン1は、使用者が片手で把持し、或いは上着やズボン等のポケットに収納し得るように構成されている。
【0021】
図2に示すように、スマートフォン1は、制御部10を中心として各部が接続された構成となっており、当該制御部10によって全体を統括制御するようになされている。
【0022】
制御部10のCPU(Central Processing Unit)11は、バス15を介してROM(Read Only Memory)12や不揮発性メモリ14等から基本プログラムや各種アプリケーションプログラム等を読み出し、RAM(Random Access Memory)13を作業領域として用いながら実行する。またCPU11は、バス15を介して供給される各種データや指示等を取得し、取得したデータや指示に基づいた処理を実行する。
【0023】
データベース(DB)16は、例えばフラッシュメモリ等でなり、電話帳データ、楽曲データ、画像データ及び地図データ等の各種データがそれぞれ所定のデータベース形式で格納されている。
【0024】
操作部3は、図1に示したように表示部4の表示パネルの表面に一体化されたタッチパネル3Aや各種の操作ボタン3B等により構成されており、使用者の操作指示を受け付けて操作信号をCPU11へ供給する。
【0025】
表示部4は、例えば液晶パネルでなり、バス15を介して供給される表示データに基づいて表示画面を生成して表示する。
【0026】
音声処理部21は、マイクロホン5により集音した音声をディジタル形式の音声データに変換してバス15へ供給すると共に、当該バス15を介して取得した音声データを音声信号に変換してスピーカ6へ供給することにより、音声として出力する。
【0027】
通信処理部22は、アンテナ7を介して基地局(図示せず)との間で無線接続し、バス15を介して供給される各種データを基地局へ送信すると共に、基地局から送信されてきた各種データを受信してバス15へ供給する。
【0028】
外部インタフェース(I/F)23は、例えばmicroUSB(Universal Serial Bus)端子でなり、USBケーブル(図示せず)を介して接続されるコンピュータ装置(図示せず)等との間でデータを授受するようになされている。
【0029】
GPS回路24は、GPS衛星(図示せず)から送信されるGPS信号をGPSアンテナ25により受信し、所定の復調処理や復号化処理等を施して得られた測位データをバス15へ供給する。
【0030】
加速度センサ27は、x、y及びz方向の3軸方向について加速度をそれぞれ検出して加速度信号を生成する。A/D(Analog/Digital)変換回路27Aは、この加速度信号を50[Hz]のサンプリングレートでサンプリングすることによりディジタル形式でなる3次元の加速度A1に変換し、これをバス15へ供給する。この加速度A1は、スマートフォン1が使用者により携帯されている場合には、当該使用者の行動に応じて生じた加速度を表す値となる。
【0031】
地磁気センサ28は、地磁気により形成される磁界の方向を検出し、x、y及びz方向の3軸方向を成分とする地磁気信号を生成する。A/D変換回路28Aは、この地磁気信号を50[Hz]のサンプリングレートでサンプリングすることによりディジタル形式でなる3次元の地磁気値Mに変換し、これをバス15へ供給する。
【0032】
かかる構成により制御部10は、例えば使用者から操作部11を介して通話機能の実行指示を受け付けると、所定の通話プログラムを実行すると共に、通信処理部22により基地局と無線接続し、マイクロホン5により集音した音声をデータ化して相手方へ送信すると共に、相手方から送信されてきた音声データをスピーカ6から出力させる。
【0033】
また制御部10は、使用者から操作部3を介して楽曲再生機能の実行指示を受け付けると、所定の楽曲再生プログラムを実行すると共に、データベース16から圧縮状態の楽曲データを読み出し、音声処理部21により所定の復号化処理等を施して、その音声をスピーカ5から出力させる。
【0034】
さらに制御部10は、各アプリケーションプログラムについて、例えば使用者から操作部3を介して実行指示を受け付け、或いは自動的に実行するよう設定されると、不揮発性メモリ14から当該アプリケーションプログラムを読み出して実行する。そして制御部10は、その実行内容に応じて演算処理を行い、通信処理を行い、所定の表示画面を表示部4に表示し、或いは所定の音声をスピーカ6から出力する。
【0035】
このようにスマートフォン1は、使用者の操作指示に従って種々のプログラムを実行することにより、通話機能及び楽曲再生機能並びにアプリケーションプログラムによる種々の機能を実現するようになされている。
【0036】
[1−2.ナビゲーション処理]
ところで制御部10は、例えば使用者から操作部3を介してナビゲーション機能の実行指示を受け付けると、不揮発性メモリ14からナビゲーションプログラムを読み出して実行する。
【0037】
このナビゲーション機能では、使用者の操作指示により動作モードを切り換え得るようになされており、動作モードの一つとして使用者が徒歩で移動する場合を想定した歩行モードが用意されている。
【0038】
制御部10は、この歩行モードにおいて、屋内や高層ビルの近傍などGPS信号の受信状況が悪い場合を想定し、使用者の歩行動作により生じる加速度や地磁気の値を用いて、歩行速度や進行方位を算出する現在位置算出処理を実行するようになされている。
【0039】
このとき制御部10は、ナビゲーションプログラムに従い、図3に示すように歩数算出部31、速度算出部32、進行方位算出部33、方位フィルタ34及び位置フィルタ35の各機能ブロックを実現するようになされている。
【0040】
制御部10は、加速度センサ27から得られる加速度A1を歩数算出部31及び進行方位算出部33へ供給すると共に、地磁気センサ28から得られる地磁気値Mを算出方位算出部33へ供給する。
【0041】
また制御部10は、GPS回路24から得られる測位データのうち位置を表すGPS位置データGPを進行方位算出部33及び位置フィルタ35へ、速度を表すGPS速度データGVを速度算出部32へ、方位を表すGPS方位データGCを方位フィルタ34へそれぞれ供給する。
【0042】
歩数算出部31は、加速度A1を基に、使用者の1歩毎の周期を表す歩行ピッチ及びその歩数を算出し、これらを歩数データS1として速度算出部32へ供給する。
【0043】
速度算出部32は、所定の学習処理で得た歩幅に歩数データS1の歩行ピッチを乗じることにより歩行速度を算出し、この歩行速度とGPS速度データGVとを基に速度信号V1を算出して、これを位置フィルタ35及び後段の処理ブロック(図示せず)へ供給する。
【0044】
進行方位算出部33は、歩行時の加速度A1に現れる加速度の方向と地磁気値Mが示す磁北の方向とを基に進行方位を算出し、GPS位置データGPを用いてこれを補正することにより進行方位データC1を算出して(詳しくは後述する)、これを方位フィルタ34へ供給する。
【0045】
方位フィルタ34は、いずれも方位を表すGPS方位データGC及び進行方位データC1について現在の速度やGPS信号の受信状況等を基に重み付けを行うことにより、現在の進行方位を表す進行方位データC2を生成し、これを位置フィルタ35及び後段の処理ブロック(図示せず)へ供給する。
【0046】
位置フィルタ35は、歩行速度V1、進行方位データC2及びGPS位置データGPを基に、現在の速度及びGPS信号の受信状況等を基に重み付けを行って利用することにより、位置データP1を生成し、これを後段の処理ブロック(図示せず)へ供給する。
【0047】
そして制御部10は、図示しない後段の処理ブロックにおいて、徒歩速度V1、位置データP1及び進行方位データC2(以下これらをまとめて現在位置データD1と呼ぶ)に応じた範囲の地図データをデータベース16(図1)から読み出し、所定の現在位置マークや指定された目的地への経路と共にナビゲーション画面として表示部4に表示する。
【0048】
このようにスマートフォン1は、現在位置算出処理により加速度A1及び地磁気値M等を基に歩行速度データV1及び進行方位データC1等を算出し、GPS信号の受信状況に応じた重み付けを行うことにより現在位置データD1を生成するようになされている。
【0049】
[1−3.進行方位の算出]
ところでスマートフォン1の制御部10は、ナビゲーションプログラムの実行中に、使用者から歩行モードに切り換える指示を受けると、不揮発性メモリ14から進行方位算出プログラムを読み出して実行する。
【0050】
このとき制御部10は、図4に示すような複数の機能ブロックを進行方位算出処理部33内に実現して、進行方位を算出するようになされている。
【0051】
以下では、進行方位算出処理部33により、加速度A1等を基に進行方位を表す進行方位データC1を生成するまでの各機能ブロックによる詳細な演算処理について、その原理と共に詳細に説明する。
【0052】
[1−3−1.使用者の歩行と進行方位との関係]
一般に歩行者が所望の進行方向へ移動する場合、この進行方向を向いている歩行者が右足と左足とを交互に前へ踏み出すことにより、1歩ずつ進行方向へ移動していく。
【0053】
ここで歩行者の詳細な進行方向について検討してみると、図5に模式的な平面図を示すように、歩行者が右足を踏み出す時の進行方向ベクトルVC1と左足を踏み出す時の進行方向ベクトルVC2とが、全体的な進行方向に対し互いに反対方向へ傾いている。
【0054】
この場合、連続する2歩分の進行方向ベクトルを合成すれば、全体的な進行方向とほぼ同じ方向を向く合成ベクトルを得られると考えられる。
【0055】
またスマートフォン1は、使用者が歩行する際、着用している被服のポケットに収容され、或いは使用者の手に把持される等して携帯されることが想定される。このためスマートフォン1は、加速度センサ27により、使用者の歩行に伴いその体に作用する加速度を加速度A1として検出することができる。このとき検出された加速度A1が示す方向は、歩行する使用者の進行方向と深い関連性があると考えられる。
【0056】
さらにスマートフォン1は、地磁気センサ28による地磁気値Mを利用することにより、加速度センサ27により検出した加速度の方向を、磁北を基準とした進行方位として表すことができる。
【0057】
そこでスマートフォン1では、連続する2歩の歩行期間に得られる加速度A1及び地磁気値Mを基に、使用者の進行方位を算出するものとした。
【0058】
[1−3−2.座標系の変換及び鉛直方向の検出]
ところでスマートフォン1は、使用者に携帯される場合、図6に示すように、例えば上着の胸ポケットW1、上着の右ポケットW2やズボンの尻ポケットW3のように被服の各ポケットに収納され、或いは使用者の手W4に把持され、さらには使用者が手に持つ鞄W5に収納される場合がある。
【0059】
このときスマートフォン1は、様々な向きでポケット等に収納され、或いは使用者の手に把持される(以下、このときスマートフォン1が携帯されている箇所を携帯箇所と呼ぶ)。すなわちスマートフォン1は、図7(A)に示すように、任意の角度で使用者に携帯されることになる。
【0060】
このため、スマートフォン1の本体部2について規定したx軸、y軸及びz軸により表される3次元の座標系(以下これを検出座標系と呼ぶ)は、地上における鉛直方向を1つの軸とする座標系(以下これを地上座標系と呼ぶ)とは異なる。
【0061】
ところで加速度センサ27により検出される加速度A1には、歩行に伴い使用者の体が動くことに起因した成分(以下これを歩行加速度と呼ぶ)と、重力加速度の成分(以下これを重力加速度Gと呼ぶ)とが含まれる。
【0062】
歩行加速度は、使用者が左右の足を交互に前へ出し、着地し、後ろへ蹴り出す動作(以下これを歩行動作と呼ぶ)に伴い、進行方向である前方向及び後方向に加えて、進行方向に対する左右方向や上下方向にも現れる。
【0063】
ここで使用者がほぼ一定の速度で一定の進行方向へ歩行している場合、ある程度の期間全体で考えると、この使用者は定速運動していると見なすことができる。このため、歩行加速度の前後方向成分、左右方向成分、及び上下方向成分をそれぞれある程度の期間に渡って積算すると、いずれもほぼ0になる。これに対し重力加速度は、図中に重力ベクトルVGとして示すように、常に鉛直下向きに作用する。
【0064】
すなわち進行方位算出部33は、加速度A1の積算値を基に重力加速度の方向を算出すれば、図7(B)に示すように、この方向を地上座標系のz軸方向とすることができる。
【0065】
また地磁気センサ28により検出される地磁気値Mは、磁北の方向を示す地磁気ベクトルVM(図7(A))を、検出座標系による3次元の値として生成する。この地磁気値Mが示す磁北の方向を水平面、すなわち地上座標系のxy平面に投影した方向(以下これを投影磁北方向と呼ぶ)は、水平面における北(磁北)方向を指すことになる。
【0066】
ここで、例えば図7(C)に示すように、投影磁北方向を地上座標系のy軸方向と定義すると、このy軸方向及びこれと直交するx軸方向は、それぞれ北方向及び東方向を指すことになり、検出座標系と地上座標系との関係が定まることになる。
【0067】
そこで進行方位算出部33は、まず鉛直方向検出部41(図4)によってある程度の期間(例えば2秒間)に渡って加速度A1の値を積算することにより、歩行加速度の成分を相殺して重力加速度G(Gx,Gy,Gz)を生成し、これを変換行列生成部42へ供給する。
【0068】
変換行列生成部42は、次の(1)式、(2)式及び(3)式に従った演算を行うことにより、検出座標系から見た地上座標系のx軸方向、y軸方向及びz軸方向の単位ベクトルex、ey及びezをそれぞれ算出する。
【0069】
【数1】

【0070】
【数2】

【0071】
【数3】

【0072】
ここで変換行列生成部42は、次の(4)式に示すように、地上座標系の単位ベクトル(ex,ey,ez)をまとめて3次元の単位ベクトルUとする。
【0073】
【数4】

【0074】
この単位ベクトルUが表す行列は、検出座標系から地上座標系への変換行列を表すことになる。そこで変換行列生成部42は、この変換行列Uを座標変換部43へ供給する。
【0075】
座標変換部43は、次の(5)式に従った演算処理を行うことにより、検出座標系の加速度A1を地上座標系の加速度A2(A2x,A2y,A2z)へ座標変換し、これをBPF(Band Pass Filter:帯域通過フィルタ)44へ供給する。
【0076】
【数5】

【0077】
このようにしてスマートフォン1の制御部10における進行方位算出部33は、加速度A1の積算値から得られる重力加速度の方向と、地磁気値Mが示す磁北の方向とを基に、検出座標系から地上座標系への変換行列Uを算出した上で、検出座標系の加速度A1を地上座標系の加速度A2に変換するようになされている。
【0078】
[1−3−3.周波数帯域の抽出]
次に、加速度A2の周波数特性について検討する。一般に、人が徒歩で移動するときの歩行速度は、1秒間に約2歩であることが知られている。このため、検出座標系の加速度A1には、約2[Hz]を中心とした帯域に歩行に起因した成分が現れると考えられる。
【0079】
一方、加速度A1には、スマートフォン1に外部から加えられる振動のように、歩行以外の様々な要因による成分、すなわちノイズ成分が含まれると考えられる。このようなノイズ成分は、一般的に、比較的高い周波数であると考えられる。
【0080】
さらに加速度A1には、重力加速度Gに起因した成分や加速度センサ27のオフセット成分も含まれる。このうち重力加速度Gに起因した成分は直流成分となり、オフセット成分は温度変化等に伴い極めてゆっくり(例えば数秒から数分のオーダーで)変化する低域成分となる。
【0081】
またこのような検出座標系の加速度A1についての周波数特性は、座標変換により変化するものではないため、地上座標系に変換した加速度A2についてもそのまま当てはまる。
【0082】
そこで本実施の形態では、加速度A2について、BPF(帯域抽出フィルタ)44により、主に歩行による成分として、2[Hz]を含む帯域成分を抽出するものとした。
【0083】
具体的に進行方位算出部33のBPF44は、加速度A2について、約1〜10[Hz]を抽出する帯域抽出処理を施すことにより加速度A3(A3x,A3y,A3z)を生成し、これを歩行周期算出部45及び加減速区間切替位相学習部46へ供給する。
【0084】
この加速度A3は、各種ノイズ成分、重力加速度Gの成分やオフセット成分が大幅に低減され、主に使用者の歩行動作に起因した成分を表すものとなる。
【0085】
またBPF44は、加速度A3のうち水平成分(A3x,A3y)を進行方位算出部49へ供給する。
【0086】
ここで、帯域抽出処理前における加速度A2の水平成分と帯域抽出処理後における加速度A3の水平成分とについて、約10秒分をそれぞれxy平面上にプロットしたところ、図8(A)及び(B)に示すような分布特性が得られた。この図8(A)及び(B)から、高周波成分が低減されていることがわかる。
【0087】
以下では、次の(6)式により算出される水平方向の加速度(A3x,A3y)の大きさを、水平加速度Ahと呼ぶ。
【0088】
【数6】

【0089】
さらにBPF44は、加速度A3のうち鉛直成分(A3z)を加減速区間推定部47へ供給する。以下では、加速度A3のうち鉛直成分を特に鉛直加速度Avとも呼ぶ。
【0090】
このように進行方位算出部33のBPF44は、加速度A2の水平成分のうち1〜10[Hz]の周波数帯域を抽出することにより、主に歩行動作に起因した成分でなる加速度A3を生成するようになされている。
【0091】
[1−3−4.水平加速度の加速区間及び減速区間と進行方向との関係]
ここでは、まずスマートフォン1の使用者が歩行動作をする際における体の動きと、そのときに発生する加速度との関係について説明する。
【0092】
図9は、使用者が歩行により2歩進む期間(以下これを歩行周期PWと呼ぶ)における体勢の様子を、左から右へ向かう時間軸上の時点t0〜t4についてそれぞれ模式的に表したものである。
【0093】
図9における使用者は、時点t0において右足を前に踏み出した状態であり、この状態から上体を前へ移動させながら左足を後ろから持ち上げて前方へ持っていき、時点t1において左足を右足よりも前方へ出そうとしている。
【0094】
続いて使用者は、時点t1の状態からさらに状態を前へ移動させながら左足を前方へ蹴り出し、時点t2において左足を接地させる。このとき使用者は、時点t0の状態から1歩前へ進んだことになる。
【0095】
その後使用者は、時点t2からt4にかけて、時点t0から時点t2の場合と左右反対に、すなわち左足を接地させたまま右足を後ろから前へ持っていくことにより、もう1歩前へ進む。
【0096】
また図9には、時点t0〜t4と対応付けて、使用者の体に作用する上下方向(すなわち鉛直方向)への鉛直加速度Avの波形と、鉛直速度Vvの波形を示す。さらに図9には、各時点の間における体が上下に動く方向を表す上下方向の矢印VU及びVDと、前後方向に関する加速又は減速を表す左右方向の矢印HA及びHRと、鉛直加速度Avの増加又は減少の傾向を表す上下方向の矢印TU及びTDとを併せて示している。
【0097】
使用者は、左右の足を前後に開いて両方とも着地した状態となる時点t0、t2及びt4において、体(主に上体)の高さが最も低くなる。一方使用者は、左右いずれかの足が接地しており、且つその接地している足から頭までほぼ一直線上に延びた状態となる時点t1及びt3において、体の高さが最も高くなる。
【0098】
すなわち使用者は、上下方向への矢印VU及びVDにより示したように、2歩進む歩行周期PWにおいて、体が上下方向に2往復するように動いていることが分かる。
【0099】
ここで鉛直加速度Avに着目すると、時点t0において極大値となり、その後時点t1、t2、t3及びt4と進むにつれて、極小値、極大値、極小値及び極大値となっており、歩行周期PWの間に2回の極大値及び2回の極小値が出現することが分かる。
【0100】
因みに使用者の体の鉛直方向への速度である鉛直速度Vvは、鉛直加速度Avとの関係から、時点t0からt1の間及び時点t2からt3の間において、0から増加した後減少して再び0に戻り、時点t1からt2の間及び時点t3からt4の間において、0から減少した後増加して再び0に戻る。
【0101】
次に、使用者の体の水平方向への速度(以下これを水平速度Vhと呼ぶ)の変化、すなわち進行方向への加速及び減速について着目する。
【0102】
歩行中の使用者の体は、着地している足を後ろに動かすと共に上体を前へ押し出す間に加速する一方、前に蹴り出した足が着地してから上体をその足の位置付近まで前進させる間に減速している。
【0103】
すなわち歩行周期PW内に、矢印HRとして示したように進行方向に関して減速する区間(以下これを減速区間SRと呼ぶ)があり、それ以外の区間は矢印HAとして示したように進行方向に関して加速する区間(以下これを加速区間SAと呼ぶ)がある。
【0104】
減速区間SRでは、進行方向に対し減速していることから、使用者の体には、水平加速度Ahが進行方向へ向けて作用すると考えられる。一方、加速区間SAでは、進行方向に対し加速していることから、使用者の体には、水平加速度Ahが進行方向と反対の方向へ向けて作用すると考えられる。
【0105】
また、人が歩行するときの連続する2歩を1周期と見なした場合、体の各部は周期的な動作を繰り返すことになる。すなわち、使用者によるスマートフォン1の携帯箇所(図6)がいずれであっても、加速度センサ27により検出される加速度の値は周期性を持つ。
【0106】
ここで、使用者がスマートフォン1を携帯して実際に歩行したときに得られた水平加速度Ahをxy座標平面上にプロットしたところ、図10〜図12のような分布特性が得られた。
【0107】
図10、図11及び図12は、それぞれスマートフォン1の携帯箇所(図6)を胸ポケットW1、上着の右ポケットW2及びズボンの尻ポケットW3として、ほぼ北方向へ向かって歩行したときの分布特性である。また図10〜図12は、使用者がある程度の時間に渡って歩行したときに得られた水平加速度Ahのうち約4秒間分を切り出し、時間的に連続する点同士を線により結んでいる。因みに検出周期は50[Hz]であるため、連続するプロット同士の間隔は0.02[s]に相当する。
【0108】
図10〜図12では、歩行者の進行方位がほぼ北であること、すなわちy軸の正方向であることが判っているため、主にyの値が正となる第1象限及び第2象限に分布しているプロットが減速区間SRに相当し、主にyの値が負となる第3象限及び第4象限に分布しているプロットが加速区間SAに相当すると考えられる。
【0109】
さらに時間的な変化、すなわちプロット同士を結ぶ線の様子も考慮すると、図10〜12では、破線で囲った部分が減速区間SRに相当し、一点鎖線で囲った部分が加速区間SAに相当すると考えられる。
【0110】
ここで図10〜図12における水平加速度Ahの分布と使用者の進行方位との関係から、使用者の進行方位が未知であっても、xy平面座標において水平加速度Ahのうち減速区間SRの部分及び加速区間SAの部分それぞれの分布を区別することができれば、使用者の進行方位を類推することができると考えられる。
【0111】
ところで図11では、減速区間SR及び加速区間SAのいずれもが比較的わかりやすく分離している。しかしながら、図10では加速区間SAに相当する部分が顕著には表れておらず、図12では減速区間SRに相当する部分が顕著には表れていない。また図12から、人が歩行する際には、腰が回転するように動いており、加速度にその影響が現れ得ることも分かる。
【0112】
すなわち水平加速度Ahは、使用者によるスマートフォン1の携帯箇所によって、その特性が大きく異なっている。
【0113】
このため、水平加速度Ahの分布から使用者の進行方位を算出するには、得られた各加速度が加速区間SA又は減速区間SRのいずれに属しているのかを判別すること、すなわち水平加速度Ahを減速区間SRと加速区間SAとに正しく区分することが重要といえる。
【0114】
そこで以下では、最終的に進行方位を得るために、水平加速度Ahを減速区間SRと加速区間SAとに区分することについて検討する。
【0115】
[1−3−5.歩行周期の算出]
ここでは、水平加速度Ahを減速区間SRと加速区間SAとに区分するための事前準備として、加速度A3から使用者の歩行周期PWを算出することを検討する。
【0116】
使用者がスマートフォン1の携帯箇所(図6)を胸ポケットW1、上着の右ポケットW2及びズボンの尻ポケットW3として実際に歩行したところ、図13、図14及び図15の各特性曲線が得られた。
【0117】
図13(A)〜図15(A)はそれぞれ鉛直加速度Avを表し、図13(B)〜図15(B)はそれぞれ水平加速度Ahを表す。また図13(C)〜図15(C)は、水平加速度Ahが示す方位を、北方向を「0」とする極座標で表した場合の方位角Cm(図7(C))を表す。
【0118】
因みに図13〜図15における横軸は、加速度センサ27に接続されたA/D変換回路27Aによるサンプル数を表しており、そのサンプリングレートが50[Hz]であるため、1サンプルが0.02[s]に相当する。
【0119】
図9と図13〜図15とを比較すると、実際の鉛直加速度Avの波形は、必ずしも模式化した波形(図9)のような正弦波形とはならないことが判る。また実際の鉛直加速度Avの波形は、スマートフォン1の携帯箇所により大きく異なることも判る。
【0120】
例えば携帯箇所が胸ポケットW1の場合、鉛直加速度Avの波形のうち右足による波形と左足による波形とが比較的類似している。これに対し携帯箇所が上着の右ポケットW2又はズボンの尻ポケットW3の場合、鉛直加速度Avの波形のうち右足による波形と左足による波形とが(すなわち連続する2歩分の波形が)互いに大きく異なっている。
【0121】
しかしながら鉛直加速度Avは、携帯箇所がいずれであっても、2歩に相当する歩行周期PWごとであれば比較的類似した波形が繰り返し出現している。このことは、模式化した波形(図9)において、歩行周期PWの間、すなわち使用者が歩行により2歩進む間に、鉛直加速度Avに極大値及び極小値がそれぞれ2回現れることとも符合する。
【0122】
そこで、鉛直加速度Avについて、波形が周期性を有するものの携帯箇所により大きく異なることを考慮し、閾値等を用いるのではなく、ある部分の波形と類似する波形が再度出現するまでの時間(位相差)を求めた。
【0123】
具体的には、鉛直加速度Avのうち任意の部分を関数f(t)として、次の(7)式に示す自己相関評価関数g(t)により関数f(t)の自己相関度を表すものとした。
【0124】
【数7】

【0125】
この自己相関評価関数g(t)は、自己相関度が高いほど値が小さくなり、完全に一致する場合にはその値(評価値)が「0」となる。また定数Tはウィンドウサイズ、すなわち自己相関度を算出する位相差tの範囲を表す。また位相差tは、図13〜図15におけるサンプル数であり、時間差に相当するものである。
【0126】
そして、位相差tを1サンプル(すなわち0.02[s])から徐々に増加させたときの自己相関評価関数g(t)の値を自己相関評価値として順次算出し、位相差tとの関係をグラフ化した。
【0127】
図16、図17、図18、図19及び図20は、携帯箇所(図6)を胸ポケットW1、上着の右ポケットW2、ズボンの尻ポケットW3、使用者の手W4及び鞄の中W5とした場合における、位相差tに対する自己相関評価値のグラフを表す。因みに図16〜20では、鉛直加速度Avのうち関数f(t)として採用する部分を少しずつ変化させて得られた複数の算出結果を重ねて表示している。
【0128】
図16〜20のいずれにおいても、重なった波形の殆どにおいて、位相差tが約20〜24サンプルごと(約0.4〜0.48[s]ごと)に、すなわち使用者の1歩に相当する時間ごとに極小値が現れている。
【0129】
また、1歩目については、携帯箇所により極小値が極めて小さくなる場合とそれほど小さくならない場合とがあるものの、2歩目については、いずれの携帯箇所においても極小値が極めて小さい値となっている。
【0130】
これは、歩行において左右の足を交互に動かすという原理上、1歩目は他方の足による波形であるため相関性がやや低くなっており、2歩目は同一の足による波形であるため相関性が高くなっていると考えられる。
【0131】
これらを踏まえると、歩行周期PWについては、算出開始タイミング等を特に定めることなく、自己相関評価関数g(t)により得られる自己相関評価値において、2回目の極小値が出現する位相差tを歩行周期PWとすれば良いと考えられる。
【0132】
ここで、図20に示した自己相関評価値のうち一の波形を取り出して図21に示す。図21では、位相差tが約20〜24サンプルとなるときに極小値min1A及びmin1Bが2回出現しており、その後位相差tが約46サンプルとなる時に3回目の極小値min2が出現している。
【0133】
このため、図21のような自己相関評価値の場合、単純に2回目の極小値が出現する位相差tを採用してしまうと、本来採用したい極小値min2ではなく、1歩目に相当する極小値min1Bをとるときの位相差tを誤って採用してしまうことになる。
【0134】
このように単純に2回目の極小値が出現するときの位相差tを歩行周期PWとする場合、図22(A)に示すように、正しい2歩目に相当する値(約46〜50サンプル)付近の他に、1歩目に相当する値(約24〜32サンプル)を比較的高い頻度で誤検出してしまう。
【0135】
ここで、図21における各極小値と、その直前に出現する極大値との落差に着目すると、1歩目における極大値max1と極小値min1A(又はmin1B)との落差d1は、比較的小さい。一方、2歩目における極大値max2と極小値min2との落差d2は、比較的大きい。また図16及び19に示したように、携帯箇所によっては、1歩目の落差d1が2歩目の落差d2とほぼ同等の比較的大きな値となる場合もある。
【0136】
これらを踏まえて、1回目の極小値min1については次の(8)式を満たすこと、2回目の極小値min2については次の(9)式を満たすことを、それぞれの採用条件とした。
【0137】
【数8】

【0138】
【数9】

【0139】
ただし極大値max1及びmax2については、1歩に相当する間に複数回出現する可能性があることを踏まえて、採用しようとしている各極小値min1及びmin2の直前に出現した極大値をそれぞれ用いるものとした。
【0140】
ここで(8)式における係数「0.9」は、歩行時の鉛直加速度Avにおける他方の足との相関性がそれほど高くはない可能性があることを考慮し、極小値が比較的大きい値であっても1歩目として確実に検出するべく定めた。
【0141】
また(9)式における係数「0.5」は、歩行時の鉛直加速度Avにおける同一の足との相関性が比較的高くなることを考慮し、極小値がある程度小さくなるときを2歩目として検出するよう、すなわち他方の足である1歩目により複数の極小値が生じた場合にこれを2歩目として誤検出しないよう、(8)式の係数「0.9」よりも小さな値とした。
【0142】
これらの採用条件を適用することにより、図22(A)と対応する図22(B)に示すように、最初の約15サンプルを除いた全ての範囲で、2歩に相当する値(約46〜50サンプル)を正しく歩行周期PWとすることが確認された。
【0143】
以上を踏まえて、進行方位算出部33の歩行周期算出部45(図4)は、鉛直方向検出部41Bから供給された鉛直加速度A2zのうち任意の部分を関数f(t)とし、(7)式に従って自己相関評価値を算出する。
【0144】
そして歩行周期算出部45は、(8)式及び(9)式を満たすような極小値min1及びmin2を採用し、極小値min2となるときの位相差tを歩行周期PWとする。
【0145】
このように歩行周期算出部45は、使用者の歩行に応じた周期的な波形を表す鉛直加速度A2zを基に、当該鉛直加速度A2zについての自己相関度が2回目に高まる位相差tを2歩分の歩行周期PWとして検出するようになされている。
【0146】
[1−3−6.位相基準点の選定]
次に、水平加速度Ahを基に減速区間SR及び加速区間SAを区別するための事前準備として、当該水平加速度Ahを歩行周期PWごとに区切る場合の基準とすべき位相(以下これを位相基準点PSと呼ぶ)について検討する。
【0147】
図9を再度参照すると、歩行時における減速区間SRは、鉛直加速度Avが極大値となった後に現れている。このため位相基準点PSについては、鉛直加速度Avの波形を基に定め得ると考えられる。また波形において特定しやすい位相としては、検出の容易さ等を考慮すると、ゼロクロスする位相(以下これをゼロクロス点と呼ぶ)が挙げられる。
【0148】
ここで、スマートフォン1の携帯箇所(図6)を鞄W5としたときに得られた鉛直加速度Avのうち、任意の4歩分(すなわち歩行周期PWで2周期分)の波形を図23に示す。
【0149】
本来であれば、4歩分、すなわち歩行周期PWで2周期分の間には、極大点と極小点とが4回ずつ出現し、負から正へ、又は正から負へそれぞれ変わるゼロクロス点(以下それぞれ上りゼロクロス点及び下りゼロクロス点と呼ぶ)が4箇所ずつ存在する。
【0150】
しかしながら図23には、適切な上りゼロクロス点SU及び下りゼロクロス点SD以外に、余分な上りゼロクロス点EU及び下りゼロクロス点EDが出現している。さらに、本来出現すべき下りゼロクロス点が消滅してしまった箇所(便宜上、これを消滅した下りゼロクロス点LDと呼ぶ)も存在する。
【0151】
このため位相基準点PSとしては、各歩行周期PWにおいて消滅することなく確実に出現し、且つ余分なゼロクロス点とは明確に区別し得るようなゼロクロス点を採用することが望ましい。
【0152】
ここで再度図23を参照すると、2歩の間に1回の割合で、比較的大きな極大値と比較的小さな極小値とが連続して出現する箇所、すなわち極大値と極小値との落差が比較的大きくなる箇所があることがわかる。また図13〜図15を参照しても、これと同様に、少なくとも2歩の間に1回の割合で、極大値と極小値との落差が比較的大きくなる箇所がある。
【0153】
そこで鉛直加速度Avについては、歩行周期PW分の範囲に着目し、この範囲内に含まれる極大値とその直後に出現する極小値との落差が最大となるときを、歩行周期PWの基準に用いることが考えられる。
【0154】
以上を踏まえて、進行方位算出部33の歩行周期算出部45(図4)は、図24に示すように、BPF44から供給された鉛直加速度Avのうち任意の時点から歩行周期PW分の範囲を抽出する。因みに図24は、6歩分、すなわち歩行周期PWで3周期分の鉛直加速度Avを示す。
【0155】
続いて歩行周期算出部45は、この範囲内に存在する各極大値について、その直後に出現する極小値との間の落差をそれぞれ算出し、この落差が最大となるときの極大点及び極小点に挟まれた下りゼロクロス点を位相基準点PSとして採用する。
【0156】
また歩行周期算出部45は、位相基準点PSとして採用した下りゼロクロス点の次に出現する上りゼロクロス点を基準上りゼロクロス点PUとする。因みにこの基準上りゼロクロス点PUは、後の処理において利用する。
【0157】
そして歩行周期算出部45は、位相基準点PSを加減速区間切替位相学習部46へ供給すると共に、位相基準点PS及び基準上りゼロクロス点PUを加減速区間推定部47へ供給する。
【0158】
このように歩行周期算出部45は、歩行周期PW分の鉛直加速度Avにおいて、極大値とその直後に出現する極小値との間の落差が最大となるときの極大点及び極小点に挟まれた下りゼロクロス点を位相基準点PSとするようになされている。
【0159】
[1−3−7.加減速切替位相の検出]
次に、位相基準点PSを開始点とする歩行周期PWにおいて、加速区間SAと減速区間SRとが切り替わる箇所を検出することについて検討する。
【0160】
図9に示したように、歩行周期PWの間、すなわち使用者が歩行により2歩進む間には、減速区間SRが2回出現する。このことは、歩行周期PWの間に加速区間SAと減速区間SRとが4回切り替わることを意味している。
【0161】
一方、加速区間SAと減速区間SRとが切り替わるとき、原理上、水平加速度Ahは極小値をとる可能性が極めて高い。すなわち水平加速度Ahには、歩行周期PWの間に、加速区間SAと減速区間SRとの切り替わりに起因した極小点(以下これを加減速切替点CHと呼ぶ)が4回出現すると考えられる。
【0162】
そこで再び図13〜図15を参酌すると、水平加速度Ahには、加減速切替点CH(図中丸印で示す)の他に、他の要因による極小点(以下これを他要因点OTと呼び、図中三角印で示す)も出現していることがわかる。
【0163】
このため、水平加速度Ahに出現する極小点を基に加速区間SA及び減速区間SRをそれぞれ検出するには、この極小点のなかから加減速切替点CHを適切に選定する必要がある。
【0164】
そこで、水平加速度Ahに極小点が出現する位相を基に、統計的手法により、加減速切替点CHに相当する位相(以下これを加減速切替位相PCと呼ぶ)を学習することを検討する。
【0165】
具体的な処理としては、水平加速度Ahを位相基準点PSごとに(すなわち歩行周期PWごとに)区切り、この位相基準点PSを開始点として位相を正規化し、この位相ごとに各歩行周期PWにおいて極小点の出現頻度(累積値)を算出するものとする。
【0166】
また、加速及び減速が切り替わる時には、方位角Cmも大きく変化すると考えられる。換言すれば、水平加速度Ahに極小点が出現するときに、方位角Cmの変化がそれほど大きくなければ、この極小点は他要因点OTである可能性が高い。この場合、この位相については統計処理から除外することが望ましい。
【0167】
そこで、1の歩行周期PW内に極小点が5回以上出現した場合には、そのときの方位変化が大きい順、具体的には方位角Cmの微分値が大きい順に4箇所の位相を累積加算の対象とすることとした。
【0168】
このような方針に従い、スマートフォン1の携帯箇所(図6)を胸ポケットW1及び上着の右ポケットW2とした場合のそれぞれについて極小点の出現頻度を集計したところ、それぞれ図25(D)及び図26(D)に示すようなグラフが得られた。
【0169】
また図25(A)〜(C)及び図26(A)〜(C)は、それぞれと対応する鉛直加速度Av、水平加速度Ah及び方位角Cmの波形の例を示す。水平加速度Ahについては、既知の加減速切替点CH(図中丸印で示す)及び他要因点OT(図中三角印で示す)も示している。
【0170】
この図25及び図26から、胸ポケットW1及び上着の右ポケットW2については、加減速切替点CHと対応する位相付近において極小点の出現頻度が高くピークが形成されており、それ以外の位相では極小点の出現頻度が低く殆どピークも形成されていないことが分かる。
【0171】
このことは、ピークが形成された位相のうち極小点の出現頻度が高い順に4箇所を、加減速切替位相PCとして採用し得ることを表している。
【0172】
次に、スマートフォン1の携帯箇所(図6)をズボンの尻ポケットW3、使用者の手W4及び鞄W5とした場合についても同様に極小点の出現頻度を集計したところ、それぞれ図27(D)、図28(D)及び図29(D)のようなグラフが得られた。
【0173】
また図27(A)〜(C)、図28(A)〜(C)及び図29(A)〜(C)は、図25(A)〜(C)及び図26(A)〜(C)と同様、それぞれと対応する鉛直加速度Av、水平加速度Ah及び方位角Cmの波形の例を示す。
【0174】
この図27、図28及び図29から、ズボンの尻ポケットW3、使用者の手W4及び鞄W5については、加減速切替点CHと対応する位相付近において極小点の出現頻度がある程度高くピークが形成されている。しかしながら、それ以外の位相においても、極小点の出現頻度が高くピークが形成されている箇所がある。
【0175】
特にズボンの尻ポケットW3(図27)の場合、加減速切替点CH以外の位相において形成されたピークよりも他の位相において形成されたピークの方が大きく(すなわち出現頻度が高く)なっている。
【0176】
このことは、ピークが形成された位相のうち極小点の出現頻度が高い順に4箇所を採用するだけでは、加減速切替位相PCを正しく選択できないことを意味している。
【0177】
ここで、スマートフォン1の携帯箇所(図6)をズボンの尻ポケットW3として、図27で用いたデータとは異なるデータを基に、各歩行周期PWにおいて水平加速度Ahに極小点が出現した位相の累積値を改めて算出したところ、図30(A)のようなグラフが得られた。
【0178】
図30(A)では、図27(B)の場合と同様、6箇所に極小点の出現頻度が高い箇所、すなわちピークが現れている。ここでは、位相順にピークPK1、PK2、PK3、PK4、PK5及びPK6とする。
【0179】
ピークPK1、PK3、PK4及びPK6は加減速切替点CHと対応しており、残りのピークPK2及びPK5は他要因点OTと対応している。また、各ピークの大きさを比較すると、大きい順にピークPK1、PK6、PK4、PK2、PK3及びPK5となる。すなわちこの場合も、図27の場合と同様、極小点の出現頻度が高い順に4箇所を採用するだけでは、加減速切替点CHを正しく選択できない。
【0180】
ここでピークPK1及びPK2に着目すると、両者の位相間隔は約4サンプル、すなわち約0.08[s]となっている。しかしながら、スマートフォン1の使用者が実際に歩行する際に、水平方向に関して加速と減速とを僅か0.08[s]程度の短時間に切り換えることは考えにくい。
【0181】
そこで、水平加速度Ahに極小点が出現した位相の累積値を算出する際に、各歩行周期PWにおいて既に累積加算の対象として採用した位相との間隔が小さすぎる位相、例えばこの間隔が歩行周期PWの1/10以下となる位相については、その歩行周期PW内では以降の採用候補から除外することとした。以下、このような処理を近接位相除外処理と呼ぶ。
【0182】
ここで歩行周期PWの1/10という間隔は、路面の状況等により歩行者の歩幅が一時的に狭まった等の理由により加減速の切替が比較的短時間に行われた際の、加速区間SA又は減速区間SRが最小限取り得る長さを考慮して定めたものである。
【0183】
この近接位相除外処理を行いながら極小点の出現頻度を集計したところ、図30(A)と対応する図30(B)に示すように、各ピークの大きさが、大きい順にピークPK6、PK1、PK4、PK3、PK2及びPK5となった。
【0184】
すなわち図30(B)では、大きい順に4箇所のピークが現れる位相が、全て加減速切替点CHとなった。このことは、水平加速度Ahに出現する極小点について近接位相除外処理を行いながら方位変化の大きな順に4箇所の出現頻度を集計すれば、形成されるピークのうち大きい順に4箇所の位相をそのまま加減速切替点CHとして採用し得ることを表している。
【0185】
これらを踏まえて、進行方位算出部33の加減速区間切替位相学習部46(図4)は、鉛直方向検出部41Bから供給された加速度A3から(6)式により水平加速度Ahを算出し、歩行周期PW毎の極小点の出現頻度を累積する。
【0186】
このとき加減速区間切替位相学習部46は、各歩行周期PW内に出現する極小点のうち方位角Cmの微分値が大きいものから順に4箇所を累積加算の対象とするが、既に累積加算の対象として採用した位相からの間隔が歩行周期PWの1/10以下の極小点については、その歩行周期PWにおける累積加算の対象から除外する。
【0187】
そして加減速区間切替位相学習部46は、極小点の出現頻度の集計結果に現れる複数のピークのうち、大きいものから順に4箇所の位相を加減速切替位相PCとして採用し、これを加減速区間推定部47へ供給する。
【0188】
このように加減速区間切替位相学習部46は、近接位相除外処理を行いながら水平加速度Ahの極小値の出現頻度を集計し、そのピークが大きい順に4箇所の位相を加減速切替位相PCとして検出するようになされている。
【0189】
[1−3−8.加減速区間の推定]
次に、歩行周期PW内で4箇所の加減速切替位相PCにより区切られた各区間が、それぞれ加速区間SA又は減速区間SRのいずれであるかを推定する処理(以下これを加減速区間推定処理と呼ぶ)について検討する。
【0190】
図13〜図15及び図25〜図29の各波形を再度参照すると、鉛直加速度Avの波形が上に凸である期間中に、極大点が2回出現する場合が多いことがわかる。また、その1回目の極大点の出現後に減速区間SRが開始される場合が多いこともわかる。
【0191】
しかしながら、鉛直加速度Avの波形が上に凸であるとき、その形状が乱れることも多いため、1回目の極大点を確実に検出することは難しいと考えられる。
【0192】
ここで、鉛直加速度Avの波形が上に凸である期間と減速区間SRとの関係に着目する。この期間中に加減速切替位相PCが2回含まれるときは、これらの加減速切替位相PCにより挟まれた区間を減速区間SRとすれば良い。また、この期間中に加減速切替位相PCが1回含まれるときは、この加減速切替位相PCの直後の区間を減速区間SRとすれば良い。
【0193】
これらをまとめると、位相基準点PSから始まる歩行周期PW内の鉛直加速度Avにおいて最初に出現する上りゼロクロス点、すなわち基準上りゼロクロス点PU(図24)の後に最初に出現する加減速切替位相PCを、減速区間SRの開始点とすれば良いことになる。
【0194】
その後の2歩分については、加減速切替位相PCが出現する度に減速区間SRと加速区間SAとを交互に切り換えれば良い。
【0195】
これらを踏まえて、進行方位算出部33の加減速区間推定部47(図4)は、まずBPF44から鉛直加速度Avの供給を受けると共に、歩行周期算出部45から位相基準点PS及び基準上りゼロクロス点PUの供給を受け、さらに加減速区間切替位相学習部46から加減速切替位相PCの供給を受ける。
【0196】
そして加減速区間推定部47は、位相基準点PSを開始点とする歩行周期PWにおいて、基準上りゼロクロス点PUの後に最初に出現する加減速切替位相PCからその次に出現する加減速切替位相PCまでの区間を減速区間SRとする。
【0197】
続いて加減速区間推定部47は、それ以降の加減速切替位相PCごとに区切られる各区間を、交互に加速区間SA又は減速区間SRとして順次推定していく。
【0198】
さらに加減速区間推定部47は、現時点が加速区間SA又は減速区間SRのいずれに属するかを表す加減速情報IARを生成し、これを進行方位算出部49へ供給する。
【0199】
ここで、加減速区間推定部47により加減速情報IARを推定した結果の一例を、鉛直加速度Av、水平加速度Ah及び方位角Cmの各波形と共に図31〜図36に示す。
【0200】
図31及び図32はスマートフォン1の携帯箇所(図6)を胸ポケットW1とした場合、図33及び図34は上着の右ポケットW2とした場合、図35及び図36は尻ポケットW3とした場合の、それぞれ歩き始め及びその続きの波形を表す。
【0201】
また図31(D)〜図36(D)に示す加減速情報IARの波形は、ハイレベルが減速区間SRであることを表し、ローレベルが加速区間SAであることを表している。
【0202】
図31〜図36から、スマートフォン1の携帯箇所がいずれであっても、おおむね歩き始めから十数歩進行した時点TS以降において、減速区間SRと加速区間SAとを良好に推定できていることが分かる。
【0203】
すなわち加減速区間推定部47は、極小点の出現頻度を十分に蓄積し学習処理がある程度進んだ時点TS以降においては、加減速区間切替位相学習部46による加減速切替位相PCの検出精度が高まることにより、減速区間SRと加速区間SAとを精度良く安定的に推定できている。
【0204】
このように加減速区間推定部47は、加減速区間推定処理として、基準上りゼロクロス点PUの後に最初に出現する加減速切替位相PCを減速区間SRの開始点とし、以降の加減速切替位相PCごとに区切られる各区間を交互に加速区間SA又は減速区間SRとして順次推定するようになされている。
【0205】
[1−3−9.進行方位の算出]
最後に、水平方向の加速度(A3x,A3y)と加減速情報IAR(すなわち加速区間SA又は減速区間SRの推定結果)とを基に、最終的な使用者の進行方位を算出する処理について説明する。
【0206】
上述したように、スマートフォン1を携帯する使用者が前向きに歩行する場合、このスマートフォン1に対し、減速時には加速度が前向きに作用し、加速時には加速度が後ろ向きに作用する。すなわち減速区間SRでは、加速度の作用する方向が使用者の進行方向を表し、加速区間SAでは、加速度の作用する方向と反対の方向が使用者の進行方向を表す。
【0207】
また地上座標系の加速度A3は、地磁気値Mにより表される磁北の方向をy軸方向としているが、一般に地磁気が示す磁北は、地球の地軸が示す真北との間に偏角と呼ばれる誤差がある。この偏角は、緯度及び経度により異なる値となることが知られている。
【0208】
このため、地上座標系で表される方位、すなわち磁北を基準とした方位については、現在地の緯度及び経度を基に得られる偏角に応じて補正することにより、真北を基準とした方位に変換することが可能となる。
【0209】
ところで加速度A3は、BPF44により歩行に起因した帯域成分が抽出されているものの、歩行以外の要因により発生した加速度もある程度は含まれていると考えられる。
【0210】
このため加速度A3が表す方位は、当該加速度A3の大きさが比較的大きい場合には、歩行に起因した加速度の相対的な割合が高いため、使用者の進行方位又はその反対の方位を表す精度が高いと考えられる。
【0211】
しかしながら加速度A3が表す方位は、当該加速度A3の大きさが比較的小さい場合には、歩行以外の要因により発生する加速度の相対的な割合が高まることから、使用者の進行方位又はその反対の方位を表す精度が低下すると考えられる。
【0212】
そこで得られた進行方位については、平滑化処理として、加速度の値が大きいほど比重を高めること、具体的には加速度A3の大きさに応じた係数を乗じて加算平均をとることにより、歩行以外の要因による加速度の影響を低減することができ、その精度を高め得ると考えられる。
【0213】
以上を踏まえて進行方位算出部33は、まず偏角取得部48により、GPS回路24から緯度及び経度を表すGPS緯度経度データGLの供給を受け、これを基に現在位置の偏角を取得して偏角データDAを生成し、これを進行方位算出部49へ供給する。
【0214】
進行方位算出部49は、加減速区間推定部47から供給される加減速情報IARを基に、現時点が加速区間SA又は減速区間SRのいずれに属するかを識別する。
【0215】
そして進行方位算出部49は、BPF44から供給される水平方向の加速度(A3x,A3y)が示す方位を、現時点が減速区間SRに属していればそのまま進行方位とし、現時点が加速区間SAに属していればその反対方向を進行方位とする。
【0216】
さらに進行方位算出部49は、偏角データDAを基に進行方位を補正することにより、進行方位を表す進行方位データC0を生成し、これを進行方位平滑化部50へ供給する。
【0217】
また進行方位算出部49は、水平方向の加速度(A3x,A3y)の大きさを表す水平加速度値Ahsを算出し、これも進行方位平滑化部50へ供給する。
【0218】
進行方位平滑化部50は、平滑化処理として、進行方位データC0に対し水平加速度値Ahsの大きさに応じた係数を乗じた上で、ある程度の期間(例えば1秒間)に渡って加算平均を算出することにより進行方位データC1を生成し、これを方位フィルタ34(図3)へ供給する。
【0219】
このように進行方位算出部49は、加減速情報IARを基に現時点が加速区間SA又は減速区間SRのいずれに属するかを識別し、偏角に応じた補正処理を行った上で、進行方位を表す進行方位データC0を生成するようになされている。
【0220】
また進行方位平滑化部50は、進行方位データC0が表す方位を加速度A3の大きさに応じた比重で平滑化処理することにより、精度を高めた進行方位データC1を生成するようになされている。
【0221】
このようにして進行方位算出処理部33は、加速度A1及び地磁気値Mを基に、歩行する使用者の進行方位を表す進行方位データC1を生成することができる。
【0222】
[1−4.処理手順]
次に、進行方位算出処理部33(図3、図4)により進行方位を算出する際に行う一連の処理手順について、図37、図38及び図39のフローチャートに分けてそれぞれ説明する。
【0223】
[1−4−1.進行方位算出処理手順]
スマートフォン1の制御部10(図1)は、不揮発性メモリ14から進行方位算出プログラムを読み出して実行することにより進行方位算出処理手順RT1(図37)を開始し、ステップSP1へ移る。
【0224】
ステップSP1において制御部10は、鉛直方向検出部41(図4)により加速度A1の値を2秒間に渡って積算することにより重力加速度G(Gx,Gy,Gz)を生成し、次のステップSP2へ移る。
【0225】
ステップSP2において制御部10は、変換行列生成部42(図4)により(4)式に従って検出座標系から見た地上座標系の単位ベクトルU(ex,ey,ez)算出し、次のステップSP43へ移る。
【0226】
ステップSP3において制御部10は、座標変換部43(図4)により(5)式に従って検出座標系の加速度A1を地上座標系の加速度A2(A2x,A2y,A2z)に座標変換し、次のステップSP4へ移る。
【0227】
ステップSP4において制御部10は、BPF44(図4)により、加速度A2のうち約1〜10[Hz]の帯域成分を抽出することにより加速度A3(A3x,A3y,A3z)を生成し、次のステップSP5へ移る。
【0228】
ステップSP5において制御部10は、歩行周期算出部45(図4)によりサブルーチンSRT1(詳しくは後述する)に従った処理手順で歩行周期PWを算出し、次のステップSP6へ移る。
【0229】
ステップSP6において制御部10は、引き続き歩行周期算出部45により、鉛直加速度Avのうち任意の時点から歩行周期PW分の範囲において、落差が最大となる極大点及び極小点に挟まれた下りゼロクロス点を位相基準点PSとする。さらに制御部10は、その次に出現する上りゼロクロス点を基準上りゼロクロス点PUとして、次のステップSP7へ移る。
【0230】
ステップSP7において制御部10は、加減速区間切替位相学習部46により、サブルーチンSRT2(詳しくは後述する)に従った処理手順で近接位相除外処理を行いながら加減速切替位相PCを選定し、次のステップSP8へ移る。
【0231】
ステップSP8において制御部10は、加減速区間推定部47(図4)により、位相基準点PSを開始点とする歩行周期PW内で、基準上りゼロクロス点PUの後に最初に出現する加減速切替位相PCからその次に出現する加減速切替位相PCまでの区間を減速区間SRと推定する。
【0232】
また制御部10は、加減速区間推定部47により、以降の加減速切替位相PCごとに区切られる各区間を交互に加速区間SA又は減速区間SRと推定して、次のステップSP9へ移る。
【0233】
ステップSP9において制御部10は、進行方位算出部49(図4)により、現時点が減速区間SRに属していれば水平方向の加速度(A3x,A3y)が示す方位をそのまま進行方位とし、現時点が加速区間SAに属していればその反対方向を進行方位として、次のステップSP10へ移る。
【0234】
ステップSP10において制御部10は、進行方位平滑化部50によって、水平加速度値Ahsの大きさに応じた係数を進行方位データC0に乗じて1秒間の加算平均を算出することにより進行方位データC1を算出する。
【0235】
続いて制御部10は、進行方位データC1を方位フィルタ34(図3)へ供給した後、次のステップSP11へ移って一連の進行方位算出処理手順RT1を終了する。
【0236】
[1−4−2.歩行周期算出処理手順]
スマートフォン1の制御部10(図1)は、進行方位算出処理手順RT1(図37)においてステップSP5へ移ると、歩行周期算出部45(図4)による演算処理として歩行周期算出サブルーチンSRT1(図38)を開始し、ステップSP21へ移る。
【0237】
ステップSP21において制御部10は、鉛直加速度Avのうち任意の部分を関数f(t)とし、(7)式に従い自己相関評価関数g(t)を用いて自己相関評価値を算出して、次のステップSP22へ移る。
【0238】
ステップSP22において制御部10は、自己相関評価値について位相差tを1から順次増加させる方向へ変化させながら極小点を検出し、次のステップSP23へ移る。
【0239】
ステップSP23において制御部10は、ステップSP22において検出した極小点の直前に出現した極大点を検出し、次のステップSP24へ移る。
【0240】
ステップSP24において制御部10は、1回目の極小点を既に採用したか否かを判定する。ここで否定結果が得られると、制御部10は次のステップSP25へ移る。
【0241】
ステップSP25において制御部10は、(8)式に従い、現在着目している極小点の値(すなわち極小値)が、その直前に出現した極大点の値(すなわち極大値)の0.9倍以下であるか否かを判定する。ここで否定結果が得られると、このことは極大値と極小値との落差が極めて小さく、現在着目している極小点が1歩目を表すものではない可能性が高いことを表している。このとき制御部10は再度ステップSP22へ戻り、次の極小点を検出する。
【0242】
一方ステップSP25において肯定結果が得られると、このことは現在着目している極小点が1歩目を表していると見なし得ることを表しており、このとき制御部10は次のステップSP26へ移る。
【0243】
ステップSP26において制御部10は、現在着目している極小点を1回目の(すなわち1歩目に相当する)極小点として採用した後、2歩目に相当する極小点を検出するべく再度ステップSP22へ戻る。
【0244】
ところでステップSP24において肯定結果が得られた場合、すなわちステップSP26において1回目の極小点を採用した後に再度ステップSP24へ移ってきた場合、制御部10は次のステップSP27へ移る。
【0245】
ステップSP27において制御部10は、(9)式に従い、現在着目している極小点の値(すなわち極小値)が、その直前に出現した極大点の値(すなわち極大値)の0.5倍以下であるか否かを判定する。ここで否定結果が得られると、このことは極大値と極小値との落差が比較的小さく、現在着目している極小点が2歩目を表すものではないと見なし得ることを表している。このとき制御部10は再度ステップSP22へ戻り、次の極小点を検出する。
【0246】
一方ステップSP27において肯定結果が得られると、このことは現在着目している極小点が2歩目を表していると見なし得ることを表しており、このとき制御部10は次のステップSP28へ移る。
【0247】
ステップSP28において制御部10は、現在着目している極小点を2回目の(すなわち2歩目に相当する)極小点として採用し、このときの位相差tを歩行周期PWとする。その後制御部10は、次のステップSP29へ移って歩行周期算出サブルーチンSRT1を終了し、進行方位算出サブルーチンRT1(図37)のステップSP5へ戻る。
【0248】
[1−4−3.加減速切替位相学習処理手順]
スマートフォン1の制御部10(図1)は、進行方位算出処理手順RT1(図37)においてステップSP7へ移ると、加減速区間切替位相学習部46(図4)による演算処理として加減速切替位相学習サブルーチンSRT2(図39)を開始し、ステップSP31へ移る。
【0249】
ステップSP31において制御部10は、ある歩行周期PWに着目し、この歩行周期PWにおける各位相について加速度A3を基に(6)式に従って水平加速度Ahを算出する。さらに制御部10は、この水平加速度Ahに現れる極小点を検出し、次のステップSP32へ移る。
【0250】
ステップSP32において制御部10は、極小点を検出した各位相について、方位角Cmの微分値をそれぞれ算出し、次のステップSP33へ移る。
【0251】
ステップSP33において制御部10は、未着目の極小点のうち方位角Cmの微分値が最も大きい極小点に着目し、次のステップSP34へ移る。
【0252】
ステップSP34において制御部10は、既に採用済みの極小点があるか否かを判定する。ここで否定結果が得られると、このことは現在着目している極小点が最初に着目した極小点であることを表している。このとき制御部10は、現在着目している極小点については他の極小点との間隔を考慮せず無条件に採用するべく、次のステップSP35へ移る。
【0253】
ステップSP35において制御部10は、現在着目している極小点を採用し、次のステップSP36へ移る。
【0254】
ステップSP36において制御部10は、極小点の採用数が4に達したか否かを判定する。ここで否定結果が得られると、このことは他にも極小点を採用する必要があることを表しており、このとき制御部10は次の極小点に着目するべく再度ステップSP33へ戻る。
【0255】
一方、ステップSP34において肯定結果が得られると、このことは既に採用済みの極小点と現在着目している極小点との間隔を考慮する必要があることを表しており、このとき制御部10は次のステップSP37へ移る。
【0256】
ステップSP37において制御部10は、採用済みの極小点の位相と、現在着目している極小点の位相との間隔のうち最も小さいもの(以下これを最小間隔と呼ぶ)を算出し、次のステップSP38へ移る。
【0257】
ステップSP38において制御部10は、算出した最小間隔が歩行周期PWの1/10以下であるか否かを判定する。ここで否定結果が得られると、このことは現在着目している極小点が採用済みの極小点から十分に離れており、両者に挟まれた区間を加速区間SA又は減速区間SRとした場合にも歩行者の動作として不自然ではないことを表している。このとき制御部10は、上述したステップSP35へ移って現在着目している極小点を採用する。
【0258】
一方、ステップSP38において肯定結果が得られると、このことは現在着目している極小点が採用済みの極小点と近すぎることから、両者に挟まれた区間を加速区間SA又は減速区間SRとした場合、歩行者の動作として不自然となってしまうことを表している。このとき制御部10は、近接位相除外処理として、現在着目している極小値を採用することなく、次の極小点に着目するべく再度ステップSP33へ戻る。
【0259】
その後、ステップSP36において肯定結果が得られると、このことは現在着目している歩行周期PWについて有効な4箇所の極小点を採用し終えたことを表しており、このとき制御部10は次のステップSP39へ移る。
【0260】
ステップSP39において制御部10は、採用した各極小点の位相について、その出現頻度をそれぞれ加算し、次のステップSP40へ移る。
【0261】
ステップSP40において制御部10は、所定の集計期間に含まれる全ての歩行周期PWについて、各極小点の位相を出現頻度として加算し終えたか否かを判定する。ここで否定結果が得られると、このことは未だ着目していない、すなわち極小点の位相を加算していない歩行周期PWが残っていることを表しており、このとき制御部10は次のステップSP41へ移る。
【0262】
ステップSP41において制御部10は、未着目の歩行周期PWを新たに着目する歩行周期PWとして、この歩行周期PWについても極小点の位相を出現頻度に加算するべく、再度ステップSP31へ戻る。
【0263】
一方、ステップSP40において肯定結果が得られると、このことは極小点の出現頻度について十分な集計結果が得られたことを表しており、このとき制御部10は次のステップSP42へ移る。
【0264】
ステップSP42において制御部10は、最終的に極小点の出現頻度が最も高い位相から順に4箇所を加減速切替位相PCとして採用する。その後制御部10は、次のステップSP43へ移って加減速切替位相学習サブルーチンSRT2を終了し、進行方位算出処理手順RT1(図37)のステップSP7へ戻る。
【0265】
[1−5.進行方位の算出結果]
次に、使用者が実際に歩行した際に得られた加速度等のデータを基に、一連の方位算出処理により生成された進行方位データC1と、GPS回路24により得られたGPS位置データGPとを組み合わせ、地図上における移動の軌跡としたものを図40、図41及び図42として示す。
【0266】
図40〜図42では、使用者の歩行の軌跡を二等辺三角形の軌跡マークにより地図データ上にプロットしており、その頂角が指す方向により各プロットにおける進行方位を表している。また使用者は、実際の道路を区画に沿って矩形状に反時計回りに歩行している。
【0267】
図40〜図42を参照すると、一部の区間において本来の進行方向よりもやや右向きとなっているものの、使用者の歩行時における進行方位を良好に算出できていることがわかる。
【0268】
また、携帯位置が尻ポケットW3の場合(図42)には、胸ポケットW1の場合(図40)及び上着の右ポケットW2の場合(図41)よりも誤差がやや大きくなる傾向にあるものの、十分に信頼できる程度に進行方位を算出できていることもわかる。
【0269】
[1−6.動作及び効果]
以上の構成において、スマートフォン1の制御部10は、歩行モードでナビゲーション機能を実行する際、ナビゲーションプログラム及び進行方位算出プログラムを実行することにより、図3及び図4に示した各機能ブロックを実現する。
【0270】
このとき進行方位算出部33は、まず加速度A1の積算値を基に重力加速度Gを算出して鉛直方向を定め、(4)式により検出座標系から見た地上座標系の単位ベクトルUを生成して、検出座標系の加速度A1を地上座標系の加速度A2に座標変換する。
【0271】
続いて進行方位算出部33は、加速度A2から主に歩行に起因した周波数帯を抽出して加速度A3とし、その鉛直方向成分である鉛直加速度Avの自己相関評価値を用いて、自己相関の度合いが2回目に高まるときの位相差を基に歩行周期PWを定める。また進行方位算出部33は、鉛直加速度Avにおいて落差が最大となる極大点及び極小点を基に位相基準点PS及び基準上りゼロクロス点PUを定める。
【0272】
さらに進行方位算出部33は、位相基準点PSを開始点とする歩行周期PWごとに、水平加速度Ahに極小点が出現し方位角Cmの微分値が大きい位相を学習し、その学習結果を基に加減速切替位相PCを選定する。
【0273】
そして進行方位算出部33は、歩行周期PW内で、基準上りゼロクロス点PUを基に加減速切替位相PCごとに交互に減速区間SR又は加速区間SAと推定し、水平方向の加速度が示す方位又はその反対の方位を進行方位として、平滑化した上で進行方位データC1を算出する。
【0274】
従ってスマートフォン1は、水平加速度Ahに出現する極小点を用いて加減速切替位相PCを適切に定めることができるので、歩行時における減速区間SRと加速区間SAとを高精度に切り分けることができる。これによりスマートフォン1は、水平方向の加速度が進行方向またはその反対方向のいずれに作用しているかを適切に判別することができ、最終的な使用者の進行方位を精度良く算出することができる。
【0275】
特にスマートフォン1は、加速区間SAと減速区間SRとに分けた上で最終的な進行方位を算出するため、両者を分けることなく水平面に長軸を定義するような手法と比較して、腰が回転するように動くことの影響を有効に排除することができる。
【0276】
このときスマートフォン1は、歩行時における使用者の動作原理を踏まえ、水平加速度Ahに極小点が出現する位相を基に加減速切替位相PCを検出することにより、この加減速切替位相PCごとに、減速区間SRと加速区間SAとを明確に区別することができる。
【0277】
またスマートフォン1は、図25〜図29に示したように、水平加速度Ahの特性が使用者の携帯箇所により異なるものの、少なくとも減速区間SRと加速区間SAとが切り替わる位相においては高い確度で極小点が出現することから、加減速切替位相PCを良好に検出することができる。
【0278】
さらにスマートフォン1は、水平加速度Ahの微小点のうち方位角Cmの微分値が大きい位相を、加速と減速とが切り替わる位相として学習することにより、他要因点OTを排除して加減速切替位相PCを精度良く選出することができる。
【0279】
この学習処理を行う際、スマートフォン1は、歩行時に加速と減速とが極めて短い時間では切り替わらないことを利用した近接位相除外処理を行うことによっても、他要因点OTを有効に除外することができる。
【0280】
またスマートフォン1は、歩行周期PWを算出する際、使用者が周期的に繰り返す歩行動作に伴って鉛直加速度Avが周期的に変動することを踏まえ、自己相関評価値を用いることにより、当該歩行周期PWを精度良く算出することができる。
【0281】
特にこの場合、(8)式及び(9)式のように極大値と極小値との落差による採用条件を1歩目と2歩目とで相違させることにより、他方の足による1歩目と同一の足による2歩目とをそれぞれ適切に検出することができ、結果的に歩行周期PWの算出精度を格段に高めることができる。
【0282】
またスマートフォン1は、歩行周期PW内で極大値と極小値との落差が最大となる下りのゼロクロス点を位相基準点PSとすることにより、各歩行周期PWを精度良く切り出すことができる。
【0283】
さらにスマートフォン1は、鉛直加速度Avの波形と減速区間SR及び加速区間SAとの関係を踏まえ、位相基準点PSの次に出現する基準上りゼロクロス点PUを基に最初の減速区間SRを定めることにより、以降の減速区間SR及び加速区間SAを適切に定めることができる。
【0284】
さらにスマートフォン1は、平滑化処理において、加速度の大きさに応じた比重で加算することにより、進行方位の信頼性が高いサンプルの比重を高めつつ、全てのサンプルを有効に利用することにより、最終的に得られる進行方位データC1の精度を高めることができる。
【0285】
特にスマートフォン1は、加速度に一時的なノイズ成分が含まれる場合にも、全てのサンプルを用いることにより、その影響を相対的に低く抑えることができる。
【0286】
またスマートフォン1は、座標系の変換処理において、単位ベクトルUが表す変換行列により検出座標系を一度に地上座標系へ変換するため、演算処理量を最小限に止めると共に、回転座標系に変換する場合のような誤差を発生させずに済む。
【0287】
以上の構成によれば、スマートフォン1は、鉛直加速度Avの自己相関評価値を用いて歩行周期PWを定め、さらに位相基準点PS及び基準上りゼロクロス点PUを定める。またスマートフォン1は、近接位相除外処理を行いながら水平加速度Ahに極小点が出現する位相を学習し、その学習結果を基に加減速切替位相PCを選定する。そしてスマートフォン1は、基準上りゼロクロス点PUの後に加減速切替位相PCごとに区切られる区間を交互に減速区間SR又は加速区間SAと推定し、水平方向の加速度が示す方位又はその反対の方位を進行方位として、平滑化した上で進行方位データC1を算出する。これによりスマートフォン1は、減速区間SR及び加速区間SAそれぞれにおいて適切な進行方向を得ることができ、最終的な使用者の進行方位を精度良く算出することができる。
【0288】
<2.他の実施の形態>
なお上述した実施の形態においては、水平加速度Ahの極小点の出現位相を基に、学習処理により加減速切替位相PCを選定するようにした場合について述べた。
【0289】
本技術はこれに限らず、例えば水平加速度Ahの極小点のうち方位角Cmの微分値が大きい順に4箇所をそのまま加減速切替位相PCとするようにしても良い。このように学習処理を省略することにより、スマートフォン1の演算処理量を削減できるので、消費電力を低減することができる。
【0290】
また上述した実施の形態においては、水平加速度Ahの極小点のうち学習処理により出現頻度を加算すべき位相を、方位角Cmの微分値の大きさを指標として選定するようにした場合について述べた。
【0291】
本技術はこれに限らず、例えば鉛直加速度Avにおける極大点や極小点の出現位相との関係など、他の種々の指標を基に選定するようにしても良い。また学習処理において1回の歩行周期PWについて出現頻度を加算すべき位相の数としては、4に限らず、5以上や3以下としても良い。特に5以上の位相を加算する場合、例えば方位角Cmの微分値の大きさに応じた係数を乗じて頻度を非整数化して加算するようにしても良い。
【0292】
さらに上述した実施の形態においては、水平加速度Ahの極小点の出現位相を学習する際の近接位相除外処理において、位相同士の最小間隔が歩行周期PWの1/10以下となる場合に加算対象から除外するようにした場合について述べた。
【0293】
本技術はこれに限らず、歩行周期PWの1/8以下や1/15以下等、任意のしきい値を条件として加算対象から除外するようにしても良い。或いは、極小点の出現位相同士の間隔が比較的大きいことが判明している場合等に、近接位相除外処理を省略するようにしても良い。
【0294】
さらに上述した実施の形態においては、近接位相除外処理として、水平加速度Ahの極小点の出現位相を学習する際に、採用済みの位相との間隔が小さすぎる位相をその歩行周期における採用候補から除外するようにした場合について述べた。
【0295】
本技術はこれに限らず、例えば出現位相を学習する際には採用済みの位相との間隔が小さすぎる位相についても除外することなく頻度を加算し、加算後に頻度の高い順に4位相を採用する際に、近接位相除外処理として、採用済みの位相にとの間隔が小さすぎる位相を除外しながら順次採用するようにしても良い。
【0296】
さらに上述した実施の形態においては、歩行周期を使用者の2歩分に相当する期間として算出すると共に、当該歩行周期内において加減速切替位相を4点設定するようにした場合について述べた。
【0297】
本技術はこれに限らず、例えばスマートフォン1を収納した鞄を肩からつり下げており、この鞄が歩行中の体に周期的に当たることにより加減速が余分に切り替わることが判明している場合に、歩行周期内において加減速切替位相を6点や8点など、任意数に設定するようにしても良い。この場合であっても、加減速切替位相PCごとに交互に加速区間SA又は減速区間SRを推定することができるので、最終的に進行方位を適切に算出することが可能となる。
【0298】
さらに上述した実施の形態においては、基準上りゼロクロス点PUの後に最初に出現する加減速切替位相PCを減速区間SRの開始点とし、以降の加減速切替位相PCごとに区切られる区間を交互に加速区間SA又は減速区間SRと推定するようにした場合について述べた。
【0299】
本技術はこれに限らず、例えば歩行周期PWの開始点、すなわち位相基準点PSの後に最初に出現する加減速切替位相PCを減速区間SRの開始点とするなど、他の指標を基に減速区間SR及び加速区間SAを推定するようにしても良い。この場合、要は図13〜図15及び図25〜図29について説明したように、鉛直加速度Avの波形に現れる特徴を指標として減速区間SR及び加速区間SAを推定するようにすれば良い。
【0300】
さらに上述した実施の形態においては、鉛直加速度Avを表す自己相関関数を用いて得られる自己相関評価値を基に、歩行周期PWを算出するようにした場合について述べた。
【0301】
本技術はこれに限らず、例えば水平加速度Ahや方位角Cmを表す自己相関関数を用いて得られる自己相関評価値を用いるなど、他の種々の自己相関関数を用いるようにしても良い。
【0302】
さらに上述した実施の形態においては、自己相関評価値において2回目に極小点が現れた位相を歩行周期PWとするようにした場合について述べた。
【0303】
本技術はこれに限らず、例えば2回目の極大点の次に現れる極小点を歩行周期PWとするなど、種々の手法により歩行周期PWを算出するようにしても良い。この場合、要は自己相関関数の性質に応じて、位相差を順次拡大していった時に相関度が2回目に高まる位相を歩行周期PWとすれば良い。
【0304】
さらに上述した実施の形態においては、(8)式及び(9)式の係数をそれぞれ0.9及び0.5とする場合について述べた。
【0305】
本技術はこれに限らず、それぞれの係数を任意の値に定めるようにしても良い。この場合、1歩目が他方の足であり2歩目が同じ足であることを考慮し、(8)式及び(9)式の各係数をそれぞれj及びkとしたときに次の(10)式の関係を満たしていれば良い。
【0306】
【数10】

【0307】
さらに上述した実施の形態においては、鉛直加速度Avの極大値と極小値との落差が最大となる時の下りのゼロクロス点を位相基準点PSとし、これを歩行周期PWの開始点とするようにした場合について述べた。
【0308】
本技術はこれに限らず、例えば鉛直加速度Avの極大値と極小値との落差が最大となる時の極大点又は極小点の位相を位相基準点PSとするなど、種々の選択基準に基づき位相基準点PSを定めるようにしても良い。この場合、要は鉛直加速度Avにおいて歩行周期PWの期間内に1回のみ出現する特徴を用いて位相基準点PSを定めれば良い。
【0309】
さらに上述した実施の形態においては、BPF44(図4)により抽出する周波数帯を約1〜10[Hz]とした場合について述べた。
【0310】
本技術はこれに限らず、例えば約0.5〜20[Hz]など、種々の周波数帯を抽出するようにしても良い。この場合、歩行者の2歩に相当する周波数を含み、且つ直流成分及び高周波成分を除去することができれば良い。また高周波数帯に不要な成分が少ない場合に、低周波数帯のみを除去するようにしても良い。
【0311】
さらに上述した実施の形態においては、座標変換の際に、水平方向に関し磁北をy軸とする地上座標系に変換するようにした場合について述べた。
【0312】
本技術はこれに限らず、例えば検出座標系のx軸及びy軸を水平面に投影した軸をそれぞれx軸及びy軸とするような座標系、すなわち磁北を考慮しない座標系に変換し、加速度を基に進行方位を算出した後に、磁北を基準とした方位に変換するようにしても良い。また座標系については、直交座標系に限らず、極座標系など任意の座標系を用いても良い。
【0313】
さらに上述した実施の形態においては、平滑化処理として、算出した進行方位を水平方向の加速度の大きさに応じた係数を乗じて加算平均をとるようにした場合について述べた。
【0314】
本技術はこれに限らず、例えば水平方向の加速度の2乗に比例した係数を乗じるなど、種々の係数を乗じて加算平均をとるようにしても良く、或いは全ての係数を同一の値(例えば「1」)とすることにより平滑化処理を省略するようにしても良い。
【0315】
さらに上述した実施の形態においては、現在地の緯度及び経度を基に得られる偏角に応じて進行方位を補正するようにした場合について述べた。
【0316】
本技術はこれに限らず、例えばGPS信号を受信できず現在地の緯度及び経度を得られない場合に、標準的な補正値を基に進行方位を補正するようにしても良く、或いは補正処理を省略しても良い。また現在地の緯度及び経度についても、GPS信号に限らず、例えば無線LAN(Local Area Network)の信号等、種々の信号や情報を基に得るようにしても良い。
【0317】
さらに上述した実施の形態においては、方位フィルタ34においてGPS方位データGC及び進行方位データC1についてGPS信号の受信状況等を基に重み付けを行う場合、すなわちGPS信号の受信精度が低い場合のみ進行方位データC1の重みを増加する場合について述べた。
【0318】
本技術はこれに限らず、例えば方位フィルタ34において進行方位データC1を常用するようにしても良い。これにより、GPS回路24によるGPS信号の受信頻度を低減させることができるので、スマートフォン1の消費電力を抑えることができる。
【0319】
さらに上述した実施の形態においては、ナビゲーション機能に複数の動作モードを設け、その一つである徒歩モードが選択された場合に、進行方位算出部33により進行方位データC1を算出するようにした場合について述べた。
【0320】
本技術はこれに限らず、例えばナビゲーションプログラムの実行中に、加速度A1の波形を常時監視するようにし、その特徴から歩行中であることを判断した場合に、進行方位算出部33により進行方位データC1を算出するようにしても良い。
【0321】
さらに上述した実施の形態においては、ナビゲーション処理における案内として、表示部4に地図画面を表示するようにした場合について述べた。
【0322】
本技術はこれに限らず、例えば音声により目的地の方向を案内する等、種々の手法により使用者に案内を提示するようにしても良い。
【0323】
さらに上述した実施の形態においては、本技術をスマートフォン1に適用する場合について述べた。
【0324】
本技術はこれに限らず、例えば携帯型のナビゲーション装置、ディジタルビデオカメラやディジタルスチルカメラ、携帯型音楽プレーヤや携帯型ビデオプレーヤ、携帯型ゲーム機、歩数計、或いはノート型やスレート型等のコンピュータ装置など、使用者が歩行時に携帯可能であり測位機能を有する種々の電子機器に適用するようにしても良い。いずれにしても、鉛直加速度及び水平加速度を得て、これらを基に最終的に進行方位データC1を生成できれば良い。
【0325】
さらに上述した実施の形態においては、スマートフォン1の制御部10が、予めROM12や不揮発性メモリ14等に格納されているナビゲーションプログラム及び進行方位算出プログラムを実行することにより、進行方位算出処理手順RT1等に従った種々の処理を行うようにした場合について述べた。
【0326】
本技術はこれに限らず、スマートフォン1の制御部10が、記憶媒体からインストールしたアプリケーションプログラムや、インターネットからダウンロードしたアプリケーションプログラム、その他種々の入手経路を経てインストールしたアプリケーションプログラムに従って上述した各処理を行うようにしても良い。
【0327】
さらに上述した実施の形態においては、検出部としての加速度センサ27及び座標変換部43と、歩行周期設定部としての歩行周期算出部45と、加減速切替位相設定部としての加減速区間切替位相学習部46と、加減速区間設定部としての加減速区間推定部47と、進行方位決定部としての進行方位算出部49とによって進行方位算出装置としての進行方位算出処理部33を構成する場合について述べた。
【0328】
しかしながら本技術はこれに限らず、その他種々の構成でなる検出部と、歩行周期設定部と、加減速切替位相設定部と、加減速区間設定部と、進行方位決定部とによって進行方位算出装置を構成するようにしても良い。
【0329】
さらに、本技術は次のような構成も取ることができる。
(1)使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出する検出部と、上記鉛直加速度のゼロクロス点を基に、上記使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定する歩行周期設定部と、上記歩行周期内において、上記水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、上記使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定する加減速切替位相設定部と、上記加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定する加減速区間推定部と、上記減速区間では上記水平加速度が表す方位に基づき、上記加速区間では上記水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、上記使用者の進行方位を決定する進行方位決定部とを有する進行方位算出装置。
【0330】
(2)上記加減速切替位相設定部は、上記歩行周期内において上記水平加速度の大きさが極小となる頻度が高い位相を上記加減速切替位相に設定する上記(1)に記載の進行方位算出装置。
【0331】
(3)上記加減速切替位相設定部は、上記水平加速度を基に上記加速度が作用する方位を極座標により表す方位角及び当該方位角の微分値を算出し、上記水平加速度の大きさが極小となる位相のうち上記方位角の微分値が大きい順に所定数を上記頻度の加算対象とする上記(1)または(2)に記載の進行方位算出装置。
【0332】
(4)上記加減速切替位相設定部は、上記歩行周期内において上記水平加速度の大きさが極小となる頻度が最も高い位相から順次上記加減速切替位相に設定し、既に設定した上記加減速切替位相から所定間隔未満の位相を新たな上記加減速切替位相の設定対象から除外する上記(2)または(3)に記載の進行方位算出装置。
【0333】
(5)上記加減速切替位相設定部は、上記歩行周期内において上記加減速切替位相を4点設定する上記(1)から(4)のいずれかに記載の進行方位算出装置。
【0334】
(6)上記歩行周期設定部は、上記鉛直加速度において所定部分に類似する波形が再度出現するまでの期間を基に上記歩行周期の長さを設定する上記(1)から(5)のいずれかに記載の進行方位算出装置。
【0335】
(7)上記歩行周期設定部は、上記鉛直加速度について位相差を順次増加させながら自己相関度を算出し、当該自己相関度が高くなる極値が2回目に出現するときの位相差を上記歩行周期の長さとする上記(5)に記載の進行方位算出装置。
【0336】
(8)上記歩行周期設定部は、上記自己相関度の高さに応じて値が小さくなる自己相関値により上記自己相関度を算出し、当該自己相関値の1回目の極小値がその直前に出現した極大値のj倍(ただし0<j<1)以下であり、且つ当該自己相関値の2回目の極小値がその直前に出現した極大値のk倍(ただし0<k<j)以下であるときに、当該2回目の極小値が出現する時の位相差を上記歩行周期の長さとする上記(6)または(7)に記載の進行方位算出装置。
【0337】
(9)上記歩行周期設定部は、上記歩行周期を設定すると共に、上記歩行周期内において上記鉛直加速度の互いに隣接する極大値と極小値との落差が最大となる下りのゼロクロス点を位相の基準となる基準位相に設定する上記(1)から(8)のいずれかに記載の進行方位算出装置。
【0338】
(10)上記検出部は、上記進行方位算出装置に加えられる加速度を検出し、固有の3次元でなる検出座標系で表された加速度検出値とする加速度センサと、上記加速度検出値を基に鉛直方向を算出する鉛直方向算出部と、上記加速度検出値のうち上記鉛直方向成分を上記鉛直加速度とすると共に、上記加速度検出値のうち上記鉛直方向と直交する水平面に含まれる2次元の成分を上記水平加速度とする変換部とをさらに有する上記(1)から(9)のいずれかに記載の進行方位算出装置。
【0339】
(11)上記検出部は、上記進行方位算出装置における磁北の方向を検出する地磁気センサをさらに有し、上記変換部は、上記水平加速度が表す方位を、上記磁北を基準とした絶対方位に変換する上記(10)に記載の進行方位算出装置。
【0340】
(12)上記変換部は、上記加速度検出値を、上記検出座標系から、上記鉛直方向及び上記磁北に相当する方向をそれぞれ1つの軸方向とする地上座標系に変換する上記(10)または(11)に記載の進行方位算出装置。
【0341】
(13)上記水平加速度の大きさに応じた係数を上記進行方位に乗じて加算平均を算出する進行方位平滑化部をさらに有する上記(1)から(12)のいずれかに記載の進行方位算出装置。
【産業上の利用可能性】
【0342】
本開示は、携帯型のナビゲーション装置、ナビゲーション機能を搭載した携帯電話機、或いはディジタルスチルカメラやコンピュータ装置等の種々の電子機器でも利用できる。
【符号の説明】
【0343】
1……スマートフォン、10……制御部、27……加速度センサ、28……地磁気センサ、33……進行方位算出部、34……方位フィルタ、41……鉛直方向検出部、42……変換行列生成部、43……座標変換部、44……BPF、45……歩行周期算出部、46……加減速区間切替位相学習部、47……加減速区間推定部、49……進行方位算出部、50……進行方位平滑化部、A1、A2、A3……加速度、M……地磁気値、Av……鉛直加速度、Ah……水平加速度、PW……歩行周期、PS……位相基準点、PC……加減速切替位相、PU……基準上りゼロクロス点、SR……減速区間、SA……加速区間、IAR……加減速情報、C1……進行方位データ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出する検出部と、
上記鉛直加速度のゼロクロス点を基に、上記使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定する歩行周期設定部と、
上記歩行周期内において、上記水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、上記使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定する加減速切替位相設定部と、
上記加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定する加減速区間推定部と、
上記減速区間では上記水平加速度が表す方位に基づき、上記加速区間では上記水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、上記使用者の進行方位を決定する進行方位決定部と
を有する進行方位算出装置。
【請求項2】
上記加減速切替位相設定部は、
上記歩行周期内において上記水平加速度の大きさが極小となる頻度が高い位相を上記加減速切替位相に設定する
請求項1に記載の進行方位算出装置。
【請求項3】
上記加減速切替位相設定部は、
上記水平加速度を基に上記加速度が作用する方位を極座標により表す方位角及び当該方位角の微分値を算出し、上記水平加速度の大きさが極小となる位相のうち上記方位角の微分値が大きい順に所定数を上記頻度の加算対象とする
請求項2に記載の進行方位算出装置。
【請求項4】
上記加減速切替位相設定部は、
上記歩行周期内において上記水平加速度の大きさが極小となる頻度が最も高い位相から順次上記加減速切替位相に設定し、既に設定した上記加減速切替位相から所定間隔未満の位相を新たな上記加減速切替位相の設定対象から除外する
請求項2に記載の進行方位算出装置。
【請求項5】
上記加減速切替位相設定部は、
上記歩行周期内において上記加減速切替位相を4点設定する
請求項1に記載の進行方位算出装置。
【請求項6】
上記歩行周期設定部は、
上記鉛直加速度において所定部分に類似する波形が再度出現するまでの期間を基に上記歩行周期の長さを設定する
請求項1に記載の進行方位算出装置。
【請求項7】
上記歩行周期設定部は、
上記鉛直加速度について位相差を順次増加させながら自己相関度を算出し、当該自己相関度が高くなる極値が2回目に出現するときの位相差を上記歩行周期の長さとする
請求項6に記載の進行方位算出装置。
【請求項8】
上記歩行周期設定部は、
上記自己相関度の高さに応じて値が小さくなる自己相関値により上記自己相関度を算出し、当該自己相関値の1回目の極小値がその直前に出現した極大値のj倍(ただし0<j<1)以下であり、且つ当該自己相関値の2回目の極小値がその直前に出現した極大値のk倍(ただし0<k<j)以下であるときに、当該2回目の極小値が出現する時の位相差を上記歩行周期の長さとする
請求項7に記載の進行方位算出装置。
【請求項9】
上記歩行周期設定部は、
上記歩行周期を設定すると共に、上記歩行周期内において上記鉛直加速度の互いに隣接する極大値と極小値との落差が最大となる下りのゼロクロス点を位相の基準となる基準位相に設定する
請求項1に記載の進行方位算出装置。
【請求項10】
上記検出部は、
上記進行方位算出装置に加えられる加速度を検出し、固有の3次元でなる検出座標系で表された加速度検出値とする加速度センサと、
上記加速度検出値を基に鉛直方向を算出する鉛直方向算出部と、
上記加速度検出値のうち上記鉛直方向成分を上記鉛直加速度とすると共に、上記加速度検出値のうち上記鉛直方向と直交する水平面に含まれる2次元の成分を上記水平加速度とする変換部と
をさらに有する請求項1に記載の進行方位算出装置。
【請求項11】
上記検出部は、
上記進行方位算出装置における磁北の方向を検出する地磁気センサ
をさらに有し、
上記変換部は、
上記水平加速度が表す方位を、上記磁北を基準とした絶対方位に変換する
請求項10に記載の進行方位算出装置。
【請求項12】
上記変換部は、
上記加速度検出値を、上記検出座標系から、上記鉛直方向及び上記磁北に相当する方向をそれぞれ1つの軸方向とする地上座標系に変換する
請求項11に記載の進行方位算出装置。
【請求項13】
上記水平加速度の大きさに応じた係数を上記進行方位に乗じて加算平均を算出する進行方位平滑化部
をさらに有する請求項1に記載の進行方位算出装置。
【請求項14】
検出部により、使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出する検出ステップと、
歩行周期設定部により、上記鉛直加速度のゼロクロス点を基に、上記使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定する歩行周期設定ステップと、
加減速切替位相設定部により、上記歩行周期内において、上記水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、上記使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定する加減速切替位相設定ステップと、
加減速区間推定部により、上記加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定する加減速区間推定ステップと、
進行方位決定部により、上記減速区間では上記水平加速度が表す方位に基づき、上記加速区間では上記水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、上記使用者の進行方位を決定する進行方位決定ステップと
を有する進行方位算出方法。
【請求項15】
情報処理装置に対し、
使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出する検出ステップと、
上記鉛直加速度のゼロクロス点を基に、上記使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定する歩行周期設定ステップと、
上記歩行周期内において、上記水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、上記使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定する加減速切替位相設定ステップと、
上記加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定する加減速区間推定ステップと、
上記減速区間では上記水平加速度が表す方位に基づき、上記加速区間では上記水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、上記使用者の進行方位を決定する進行方位決定ステップと
を実行させるための進行方位算出プログラム。
【請求項16】
使用者の歩行に伴い発生する加速度のうち、鉛直方向の加速度を表す鉛直加速度と、水平面内における加速度の方位及び大きさを表す水平加速度とを検出する検出部と、
上記鉛直加速度のゼロクロス点を基に、上記使用者の2歩に相当する期間を歩行周期として設定する歩行周期設定部と、
上記歩行周期内において、上記水平加速度の大きさが極小となる位相を基に、上記使用者の進行方向への加速と減速とが切り替わる加減速切替位相を設定する加減速切替位相設定部と、
上記加減速切替位相毎に区切られた各区間を交互に加速区間又は減速区間として推定する加減速区間推定部と、
上記減速区間では上記水平加速度が表す方位に基づき、上記加速区間では上記水平加速度が表す方位と反対の方位に基づき、上記使用者の進行方位を決定する進行方位決定部と、
所定の位置検出部により検出した現在位置と上記進行方位とに基づいた案内を所定の提示部により上記使用者に提示させる提示制御部と
を有するナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【公開番号】特開2012−242179(P2012−242179A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110730(P2011−110730)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】