説明

遅延時間検出方法

【課題】プリディストーション歪補償を行うためのフィードバック信号の遅延時間検出を、経年変化等による大きな遅延時間変化が生じたときでも、オンライン状態のままで効率よく行えるようにする。
【解決手段】粗遅延検出部102による1サンプル単位での粗遅延検出と、微遅延生成器104、遅延器105、106、相関器107、108、加算器109及び遅延検出制御部103による微遅延検出をともにオンラインで行えるようにし、常時は微遅延検出とその検出値による微遅延補正のみを繰り返し実行し、微遅延検出ができないときだけ粗遅延検出を行って粗遅延補正の更新を行う。こうして、大きな遅延時間変化のため粗遅延検出が必要となったとき、粗遅延検出精度は微遅延検出のそれよりも低いので少ない処理時間で検出、補正の更新がオンラインで可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延時間検出方法に係り、とくにプリディストーション歪補償方式によりその非線形特性を補償するようにした送信機において、フィードバック信号の遅延時間を検出し、補償するのに適した遅延時間検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CDMA方式を用いた無線システム等では、基地局送信装置にプリディストーション歪補償方式を用いて増幅器等の非線形特性を補償した送信増幅器が用いられる。このようなシステムでは、送信増幅器やその周辺回路の特性が経年変化、温度変化、電源電圧変動等により変化するので、その変化に応じて歪補償量を変化させ、増幅器の歪補償特性を良好な状態に保つためのフィードバック制御が行われる。すなわち増幅器出力信号の一部を分岐してフィードバックし、入力信号と比較して歪量を検出し、この検出した歪量が小さくなるように歪補償量が制御される。
【0003】
上述したプリディストーション歪補償増幅器の構成や改良については、例えば特許文献1〜3等の公知例がある。
【特許文献1】特開2002−26998号公報
【特許文献2】特開2001−237723号公報
【特許文献3】特開平10−65570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリディストーション歪補償方式では、出力信号をフィードバックして入力信号と比較することにより歪量を検出するが、上記比較を行う比較手段へ入力されるフィードバック信号は、増幅器への入力信号がプリディストータ等の回路を経由して増幅器へ入力され、その出力がフィードバック回路を経由して戻って来た信号であるから、これら諸回路の伝播時間の合計分だけ入力信号より遅延した信号となる。歪量の検出やその結果に基づく歪補償量の算出、プリディストーションを入力信号に与える処理などはベースバンド又はIF帯のディジタル信号に対して行われることが多く、この場合にはフィードバック信号の経路にA/D変換器、周波数変換器、D/A変換器、フィルタなどの多くの回路が含まれることになり、入力信号に対するフィードバック信号の遅延時間が大きくなって、歪量検出精度の劣化が大きくなる。
【0005】
本件と同一出願人による関連先行技術(特願眼2005−98806)には、上記したフィードバック信号の遅延時間を補正して歪量の検出精度を向上させる技術が示されている。図3は、この先行技術に示されている遅延補正機能付き送信機の一実施形態を示したもので、入力信号(CDMA送信信号)はディジタル変調部301でIF信号に変換され、I,Q相の送信信号TXとなる。DPD(Digital PreDistorter)302は、電力増幅器305の歪み特性とは逆特性の予歪みを送信信号TXに与え、その出力はD/Aコンバータ303でアナログIF信号に変換される。その後周波数変換部304でRF信号とされ、電力増幅器305で電力増幅され、DPD302で与えられた予歪みにより歪補償された送信信号として出力される。
【0006】
電力増幅器から出力されたRF送信信号の一部はミキサ306でIF信号に変換され、A/Dコンバータ307でディジタル化されたのち、ディジタル直交検波部308で検波され、I,Q相のフィードバック信号RXとなる。
【0007】
遅延検出部309では、フィードバック信号RXの送信信号TXに対する遅延時間が検出され、この検出値に基づいて遅延補正機能部310で遅延補正が行われ、こうしてフィードバック信号RXと送信信号TXの時間ずれが補正されて歪検出部311による正確な歪検出が行われる。この検出された歪量は、図示を省略した歪補償制御回路へ入力され、DPD302の歪み特性制御に用いられる。
【0008】
ここで遅延検出部309では、ディジタル信号の1サンプル単位の遅延時間(これを粗遅延という)と1サンプル単位よりも短い時間単位の遅延時間(これを微遅延という)を検出する機能を持っている。粗遅延の検出は、送信機のオフライン状態で、例えば入力信号としてインパルス信号を入力したとき、送信信号TXとフィードバック信号RXのピーク値のずれがkサンプル(k:整数)ずれていると、粗遅延の検出量はk・T(T:サンプル周期)であるとするものである。この測定は装置の出荷時やオフライン保守を行うときに行われ、運用中は固定的に記憶されて遅延時間補正に用いられる。
【0009】
一方、微遅延の検出は装置がオンライン状態のままで行われるもので、粗遅延の補正だけでは補正しきれない遅延時間を常時測定して補正を行う。オンライン状態での遅延検出であるから送信信号TX、フィードバック信号RXはともに運用中の送信信号とそのフィードバック信号であるので、遅延検出はこの2つの信号の相互相関値を算出することにより行われる。但し、フィードバック信号の粗遅延は既に補正されているものとする。まず補間フィルタ等の技術によりフィードバック信号RXの内挿を行って各サンプル間隔をM等分した時点の値を算出する。これによりフィードバック信号RXをT/M単位でずらした波形を得ることができる。次に送信信号TXをjT/M(j=−M+1〜M−1)ずらした波形をTXとし、さらにこの波形TXを+1及び−1サンプルずらした波形をTXj+及びTXj−とする。このとき波形TXj+とフィードバック信号RXとの相互相関値Cと、波形TXj−とフィードバック信号RXとの相互相関値Cとを、jの値をかえながら求めると、相互相関値の差C−Cが最も0に近づくjの値のときのjT/Mの値が、T/M単位で測定した微遅延として求められる。こうして求められた微遅延は、遅延時間のオンライン補正に用いられ、歪検出精度の向上に寄与している。
【0010】
しかし上記した先願記載の技術では、微遅延の検出範囲が1サンプル周期T以下であるから、装置の運用中に経年変化などによって固定的に補正されている粗遅延よりも1サンプル周期以上の遅延時間ずれが生じたときには遅延の検出ができず、従って遅延の補正も不十分になってしまう。フィードバック信号RXを±(M−1)T/M以上の広い範囲でT/Mずつずらせながら微遅延検出を行えば、粗遅延より1サンプル周期以上のずれが発生しても検出は可能であるが、所要の処理時間が増大し、好ましくない。
【0011】
本発明は、粗遅延よりも1サンプル周期以上のずれが発生したときでも、少ない処理時間でそのずれを検出して正確な遅延補正を行えるようにするための遅延時間検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、与えられた装置の出力信号をフィードバックしたフィードバック信号の入力信号に対する遅延時間を補正して出力信号と入力信号とを比較処理するための遅延時間検出方法であって、
当該装置が運用状態にあるときに前記フィードバック信号の入力信号に対する遅延時間を第1の精度で検出し、その検出値を粗遅延として入力信号に与える第1の手段と、当該装置が運用状態にあるときに前記粗遅延を与えられた入力信号に対する前記フィードバック信号の遅延時間を前記第1の精度より高い第2の精度で検出しその検出値を微遅延とし前記粗遅延に加算して入力信号に与える第2の手段とを設けるとともに、
前記第1の手段による粗遅延の検出と入力信号への付与が行われた後は、前記第2の手段により前記第2の精度でもっての微遅延の検出が可能な間は前記第2の手段による微遅延の検出と入力信号への付与を周期的に繰り返し行って入力信号とフィードバック信号との時間差が前記第2の精度以下となるように制御し、
前記第2の手段による前記第2の精度での微遅延検出ができなかったときには、前記第1の手段による粗遅延の検出とその検出値の入力信号への付与を行い、その後前記第2の手段による微遅延検出とその入力信号への加算的付与を繰り返し行うようにしたことを特徴とする遅延時間検出方法を開示する。
【発明の効果】
【0013】
粗遅延検出を微遅延検出と同様にオンラインで行うようにし、装置の運用中は第2の手段により微遅延検出とその検出値による遅延補正を繰り返して遅延時間誤差を微遅延の検出精度(第2の精度)以下に保つ。この繰り返し途中で経年変化等のため遅延時間の大幅な変化が生じて微遅延検出ができなかったときだけ、第1の手段による粗遅延検出と補正をやり直す。この方法によると、粗遅延検出は微遅延検出よりも低い精度での遅延検出であるから、微遅延検出範囲を単純に拡大して粗遅延補正を行うよりも小さい処理時間で大きな遅延時間変化にも対応できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の遅延時間検出方法を実現する遅延時間検出部の構成例を示す機能ブロック図で、送信信号TX及びフィードバック信号RXは図3で同一符号を用いて説明したのと同じ信号である。1サンプル単位での粗遅延は粗遅延検出部102で検出され、それ以下の微遅延は微遅延生成器104、±1サンプルの遅延を与える遅延ブロック105、106、相関器107、108、及び減算器109を用いて検出され、これら遅延検出の動作が遅延検出制御部103により制御される。
【0015】
図2は、図1に示した遅延検出部をDSP等の処理装置により実現したときの処理方法を示すフローチャートである。以下この処理を図1の各機能と対応づけて説明する。まず、処理が開始されると、遅延検出制御部103が粗遅延検出部102を動作させ、1サンプル単位の粗遅延検出処理を行う(ステップ201)。
【0016】
この粗遅延検出処理は、本発明ではオンライン状態で行うので、前記した先願に示されているようなインパルス信号の利用はできない。しかし、前もって、オフライン状態でインパルス信号を利用して粗遅延を検出しても良い。その場合、1サンプル単位の粗遅延検出処理(ステップ201)を飛ばす。オンラインで粗遅延検出を行う方法としては、想定される遅延量を含むより広い想定時間範囲Hを定め、その時間範囲Hを例えば10等分して送信信号TX又はフィードバック信号RXの一方をH/10づつ遅延させた信号を生成する。このような遅延信号の生成は、例えばローパルスフィルタにより実現できる。いまフィードバック信号RXの方をH/10づつ遅延させて遅延信号RX、RX…RXを生成するものとすると、これら遅延した信号RX、j=0〜9の各々ともう一方の信号TXとの相関値を求める。但し送信信号TXも従ってフィードバック信号RXも実際に送信されている信号とそのフィードバック信号であるから電力が時間的に変化しているので、信号の電力、即ち自己相関値で正規化した相関値とする。こうして得られた相関値のうちの最大値を与える遅延信号をRXとすると、H/10単位での遅延時間k・H/10が検出される。
【0017】
実際の粗遅延検出処理では、想定時間範囲Hをいきなり1サンプル単位で遅延時間を検出できるまで分割して上記の処理を行うと分割数が多くなり処理に大きな時間を必要とする。例えばW−CDMA方式で、想定時間範囲Hを5チップ(1チップは260ns)として、A/Dで24倍オーバーサンプリングすると同方式の1サンプルは約10nsであるから130等分することになる。このため、最初は粗く分割して概略遅延時間を求め、次にその求めた遅延時間前後の分割区間を細分して同様な処理を繰り返せば、効率よく1サンプル単位での遅延時間がオンラインで検出できる。
【0018】
このようにして粗遅延が検出されると、遅延検出制御部103は遅延補正部101に検出した粗遅延を設定する。これによって遅延補正部101から出力される信号TX1に対するフィードバック信号RXの遅延時間は1サンプル未満となる。こうして粗遅延の検出、設定が終わると、遅延検出制御部103は以下の処理で微遅延の検出及び設定を行うが、これは前記先願でその概略を説明した技術である。
【0019】
まず、±1サンプル区間(サンプル周期T)をそれぞれM分割するものとし、パラメータjを−M+1とし(ステップ203)、遅延補正部101から出力される信号TX1を微遅延生成器104によってjT/M遅延させる(ステップ204)。次にこの遅延させた信号を遅延器106、105により±1サンプル遅延して信号TX1j+及びをTX1j−を生成し(ステップ205)、さらにこれら各々とフィードバック信号RXとの相関値C及びCを相関器108、107により算出する(ステップ206)。さらに求めた相関値の差C−Cを算出して差ΔCとして保存する(ステップ207)。
【0020】
次に、jが−M+1かを調べる(ステップ208)。Yesであればまだ前回の差ΔCj−1は存在しないのでステップ211へ進む。j>−M+1になっていれば差ΔCj−1が保存されているのでΔCとΔCj−1が異符号かを調べ(ステップ209)、同符号であればj≧Mかを調べる(ステップ210)。そしてj<Mであればjを+1し(ステップ211)、ステップ204へ戻る。
【0021】
以上の処理で、j≧Mとなる前のjの値に対して差ΔCと前回の差ΔCj−1が異符号となったときは(ステップ209でYes)、そのときのjに対してjT/Mが検出された微遅延とされ(ステップ212)、この値が先に検出した粗遅延に加算されて遅延補正部101に設定される(ステップ202)。これによって信号TX1とフィードバック信号RXとはT/M以下の遅延時間差となる。こうしてステップ203以下の処理が常時繰り返されることにより、微遅延も常時オンライン補正された状態となる。
【0022】
装置の経年変化等により微遅延の補正範囲±Tをこえる遅延時間変化が生じたときには、図2の処理でj=Mとなっても差ΔCとΔCj−1が同符号のままになる。このときにはステップ210でYesとなり、処理は1サンプル単位の遅延量検出処理201へ戻る。
【0023】
以上のようにして、1サンプル以上の大きな遅延時間変化が生じたときでも短い処理時間でのオンライン補正が可能となるから、遅延補正部101出力の信号TX1とフィードバック信号RXを用いれば、送信増幅器出力の歪成分検出を常に正確に行えるようになる。
【0024】
なお、以上の説明では、遅延を検出する信号の一方を想定時間範囲内で少しずつ遅延して相関値を求め、最大の相関値を与える信号の遅延量から遅延時間を求めるという処理を繰り返して粗遅延をオンラインで求めるものとしたが、別の方法として、CDMA携帯電話で行われているバスサーチと同様に、マッチトフィルタで1/2チップ(130ns)間隔で全てのタイミングの相関値(相関プロファイル)を求め、最大の相関値を与えるタイミングを遅延時間とする方法を用いてもよい。あるいは、図2で説明した微遅延の検出方法を利用し、想定時間範囲を最初はあらく分割した遅延を一方の信号に与えて遅延時間を求め、さらにその求めた遅延時間を補正した上で残りの遅延時間をより細かく分割した遅延を一方の信号に与えて遅延時間を求める、という方法を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の遅延時間検出方法を実現する遅延時間検出部の例を示す機能ブロック図である。
【図2】図1の遅延補正部に於ける処理方法を示すフローチャートである。
【図3】遅延補正機能付き送信機の例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
101 遅延補正部
102 粗遅延検出部
103 遅延検出制御部
104 微遅延生成器
105、106 1サンプル遅延器
107、108 相関器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
与えられた装置の出力信号をフィードバックしたフィードバック信号の入力信号に対する遅延時間を補正して出力信号と入力信号とを比較処理するための遅延時間検出方法であって、
当該装置が運用状態にあるときに前記フィードバック信号の入力信号に対する遅延時間を第1の精度で検出し、その検出値を粗遅延として入力信号に与える第1の手段と、当該装置が運用状態にあるときに前記粗遅延を与えられた入力信号に対する前記フィードバック信号の遅延時間を前記第1の精度より高い第2の精度で検出しその検出値を微遅延とし前記粗遅延に加算して入力信号に与える第2の手段とを設けるとともに、
前記第1の手段による粗遅延の検出と入力信号への付与が行われた後は、前記第2の手段により前記第2の精度でもっての微遅延の検出が可能な間は前記第2の手段による微遅延の検出と入力信号への付与を周期的に繰り返し行って入力信号とフィードバック信号との時間差が前記第2の精度以下となるように制御し、
前記第2の手段による前記第2の精度での微遅延検出ができなかったときには、前記第1の手段による粗遅延の検出とその検出値の入力信号への付与を行い、その後前記第2の手段による微遅延検出とその入力信号への加算的付与を繰り返し行うようにしたことを特徴とする遅延時間検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−49593(P2007−49593A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234142(P2005−234142)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】