説明

遊星ギヤ機構を備える自動変速機

【課題】遊星ギヤ機構を備える変速ユニットを複数備える自動変速機において、遊星ギヤ機構の要素ギヤの軸方向移動を阻止するスラスト受け部を共用化することで、部品点数の削減によるコスト削減を図る。
【解決手段】変速機Mが、遊星ギヤ機構P1のサンギヤ30とキャリア40の遊星ギヤ41との噛合により発生する軸方向力F1bが作用するサンギヤ30と、遊星ギヤ機構P2のリングギヤ150 とキャリア140 の遊星ギヤ141 との噛合により発生する軸方向力F2bが作用するキャリア140 とが、軸方向で互いに反対方向から押圧する1つのスラスト受け部46を備える。スラスト受け部46は、軸方向でサンギヤ30の押圧部34とキャリア140 の押圧部153との間に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ギヤ機構を備える自動変速機に関し、該自動変速機は例えば車両に搭載される。
【背景技術】
【0002】
自動変速機が複数の変速ユニットを備え、各変速ユニットが、遊星ギヤ機構と、入力軸の回転速度に応じて変速比を制御する変速比制御機構とを備えるものは知られている。(例えば、特許文献1〜3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5514043号明細書
【特許文献2】特開2001−165250号公報
【特許文献3】特開2000−283251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遊星ギヤ機構および変速比制御機構を備える変速ユニットを複数備える自動変速機において、変速ユニットの構成部材(この構成部材は、遊星ギヤ機構および変速比制御機構と、それら機構以外の部材とを含む。)の配置が、各変速ユニットにおいて同様になるので、複数の変速ユニットでの構成部材の共用化による部品点数の削減が困難であり、部品点数の削減によるコスト削減の点で改善の余地がある。
具体的には、複数の変速ユニットが軸方向に配列される自動変速機では、各変速ユニットの遊星ギヤ機構を構成するサンギヤ、キャリアおよびリングギヤの3つの要素ギヤの少なくとも1つが軸方向に移動することを阻止するために、要素ギヤの軸方向移動を阻止するスラスト受け部を設ける必要がある。例えば、遊星ギヤ機構を構成するギヤがヘリカルギヤから構成される場合、サンギヤまたはリングギヤが噛合により発生する軸方向力で軸方向に移動することを阻止する必要がある。
しかしながら、1つの変速ユニット毎にスラスト受け部を設けるのでは、部品点数が増加して、コストの増加を招来する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、遊星ギヤ機構を備える変速ユニットを複数備える自動変速機において、遊星ギヤ機構の要素ギヤの軸方向移動を阻止するスラスト受け部を共用化することで、部品点数の削減によるコスト削減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、原動機(E)により回転駆動される入力軸(20)と、ヘリカルギヤからなるサンギヤ(30)、ヘリカルギヤからなる遊星ギヤ(41)を支持するキャリア(40)およびヘリカルギヤからなるリングギヤ(50)である3つの一次要素ギヤを有する一次遊星ギヤ機構(P1)と、前記入力軸(20)の回転が入力される前記一次遊星ギヤ機構(P1)による一次変速比(r1)を制御する一次変速比制御機構(C1)とを備える一次変速ユニット(M1)と、ヘリカルギヤからなるサンギヤ(130)、ヘリカルギヤからなる遊星ギヤ(141)を支持するキャリア(140)およびヘリカルギヤからなるリングギヤ(150)である3つの二次要素ギヤを有する二次遊星ギヤ機構(P2)と、前記一次変速ユニット(M1)の一次出力回転体(44b)の回転が入力される前記二次遊星ギヤ機構(P2)による二次変速比(r2)を制御する二次変速比制御機構(C2)とを備える二次変速ユニット(M2)と、前記二次変速ユニット(M2)の二次出力回転体(175 )の回転が入力される出力軸(23)とを備える自動変速機において、前記3つの一次要素ギヤのうちの第2一次要素ギヤ(30)と第3一次要素ギヤ(40)との噛合により発生する一次軸方向力(F1b)が作用する前記第2一次要素ギヤ(30)と、前記3つの二次要素ギヤのうちの第2二次要素ギヤ(150)と第3二次要素ギヤ(140)との噛合により発生する二次軸方向力(F2b)が作用する前記第2二次要素ギヤ(150)とが、軸方向で互いに反対方向から押圧する1つのスラスト受け部(46)を備え、前記スラスト受け部(46)は、軸方向で前記第2一次要素ギヤ(30)の押圧部(34)と前記第2二次要素ギヤ(150)の押圧部(153)との間に配置される自動変速機である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の自動変速機において、前記スラスト受け部(46)は、前記一次出力回転体(44b)のみに設けられ、前記第2一次要素ギヤ(30)および前記第2二次要素ギヤ(150)は、軸方向で前記スラスト受け部(46)の両側にそれぞれ配置されるものである。
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の自動変速機において、前記スラスト受け部(46)は、前記第2一次要素ギヤ(30)および前記第2二次要素ギヤ(150)の一方向での回転を阻止する一方向クラッチ(80,180)のアウタ部材(T)に囲まれた空間(S1)内に配置されるものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、一次,二次遊星ギヤ機構を備える一次,二次変速ユニットにおいて、噛合により発生する一次,二次軸方向力が作用する一次,二次要素ギヤの軸方向移動が共通の1つのスラスト受け部で阻止されるので、一次,二次遊星ギヤ機構に対してスラスト受け部が共用化されて、部品点数の削減によるコスト削減が可能になる。
また、一次,二次軸方向力がそれぞれ作用する第2一次,第2二次要素ギヤが、共通のスラスト受けを軸方向で互いに反対方向から押圧することから、1つのスラスト受け部において一次,二次軸方向力は、その合力が小さくなるように互いに打ち消し合うので、スラスト受け部の構造を簡単化できる。
請求項2記載の事項によれば、スラスト受け部は、一次変速ユニットで変速された回転を二次変速ユニットに入力する一次出力回転体のみを利用して設けることができるので、スラスト受け部を支持するために、一次出力回転体以外の部材が不要になって、部品点数を削減でき、また自動変速機の構造を簡素化できる。
また、第2一次要素ギヤおよび第2二次要素ギヤは、軸方向でスラスト受け部の両側に配置されるので、第2一次、第2二次要素ギヤを軸方向でコンパクトに配置できて、ひいては一次,二次変速ユニットを軸方向でコンパクトに配置できる。
請求項3記載の事項によれば、スラスト受け部が、第2一次、第2二次要素ギヤの回転方向を規制する一方向クラッチのアウタ部材により形成される空間を利用して配置されるので、第2一次、第2二次要素ギヤを軸方向でコンパクトに配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明が適用された自動変速機と内燃機関とを備える動力装置の断面図であり、内燃機関の一部が模式的に示されている。
【図2】図1の自動変速機の拡大図であり、回転規制用一方向クラッチについては図4のII−II線断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図1の自動変速機の動作を説明する模式図であり、(a)は、1速変速比が確立されるときの図であり、(b)は、2速変速比が確立されるときの図であり、(c)は、3速変速比が確立されるときの図であり、(d)は、4速変速比が確立されるときの図である。
【図6】図1の自動変速機で得られる変速比の概念的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図1〜図6を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明が適用された自動変速機Mは、原動機としての内燃機関Eと共に、車両としての自動二輪車に搭載される動力装置を構成する車両用自動変速機である。
なお、実施形態において、左右方向および前後方向は、前記動力装置が搭載される自動二輪車の左右方向および前後方向にそれぞれ一致し、また上下方向は鉛直方向である。
また、明細書または特許請求の範囲において、軸方向は、変速機の入力軸または出力軸の回転中心線に平行な方向であるとし、径方向および周方向は、それぞれ該回転中心線を中心とする径方向および周方向であるとする。そして、右方および左方の一方を軸方向の一方向とするとき、右方および左方の他方は軸方向の他方向である。
また、変速機の変速比は減速比である。
【0010】
空冷式で単気筒4ストローク内燃機関である内燃機関Eは、ピストン4が往復運動可能に嵌合するシリンダ1aを有するシリンダブロック1と、シリンダブロック1の上端部に結合されるシリンダヘッド2と、シリンダブロック1の下端部に結合されるクランクケース3とから構成される機関本体を備える。
シリンダヘッド2には、燃焼室7と、シリンダヘッド2に接続される吸気装置8からの燃焼用空気と燃料噴射弁9からの燃料との混合気を燃焼室7に導く吸気ポート(図示されず)と、シリンダヘッド2に接続される排気装置に燃焼室7からの排気ガスを導く排気ポート(図示されず)と、燃焼室7に臨む点火栓10aと、カム軸11aを備える動弁装置11により駆動されて前記吸気ポートおよび前記排気ポートをそれぞれ開閉する吸気弁および排気弁(いずれも図示されず)とが設けられる。
ピストン4は、燃焼室7内での混合気の燃焼により発生する燃焼ガスの圧力により駆動されて往復運動し、コンロッド5を介してクランク軸6を回転駆動する。カム軸11aは、チェーン12aを備える調時伝動機構12を介して伝達されるクランク軸6の動力により回転駆動される。
【0011】
変速機Mには、内燃機関Eが備えるクランク軸6の回転(この明細書では、この回転は、動力またはトルクと言い換えることができる。)が入力される。そして、変速機Mの出力取出軸91から取り出される動力が、駆動用伝動機構97を構成するチェーン97bを介して駆動対象としての駆動輪である後輪98を駆動する。
【0012】
吸気装置8が備えるスロットル弁8aは、燃焼室7に吸入される燃焼用空気の流量である吸気量を制御し、混合気形成手段である燃料噴射弁9は、混合気の空燃比を制御すべく、燃焼用空気に噴射される燃料の供給量を制御し、点火栓10aを備える点火装置10は点火時期を制御する。
スロットル弁8a、燃料噴射弁9および点火装置10のそれぞれは、内燃機関Eが備える制御装置13により制御されて、内燃機関Eの運転状態および変速機Mの作動状態に応じて内燃機関Eの出力を制御可能な出力制御手段であり、しかも内燃機関Eの出力制御を通じてクランク軸6の回転速度、ひいては変速機Mの入力軸20の回転速度Ni(図6参照)を制御する回転速度制御手段でもある。
【0013】
制御装置13は、内燃機関Eの運転状態および変速機Mの作動状態を検出する状態検出手段と、該状態検出手段からの検出信号が入力される制御部13aとを備える。前記状態検出手段は、内燃機関Eの機関回転速度や機関負荷を検出する運転状態検出手段のほかに、変速機Mの変速用クラッチ70,170 が半接続状態にあることを検出するクラッチ接続状態検出手段13bと、クラッチ接続状態検出手段13bにより検出された半接続状態の継続時間を検出する時間検出手段13cとを含む。
クラッチ接続状態検出手段13bは、変速機Mの入力軸20の入力回転速度Niに応じて予め設定された設定変速比と、いずれも回転速度検出手段により検出される変速機Mの出力軸23の実際の回転速度Noと実際の入力回転速度Niとに基づいて算出される実変速比とを比較することにより、前記半接続状態を検出する。例えば、両クラッチ70,170の少なくとも一方が滑っているときには、前記実変速比が前記設定変速比よりも小さくなることから、クラッチ接続状態検出手段13bは、前記実変速比が前記設定変速比よりも小さいと判定したときに前記半接続状態を検出する。
【0014】
制御部13aは、時間検出手段13cにより検出された継続時間が所定時間を超えたとき、吸気量、燃料供給量および点火時期の少なくとも1つの出力制御量を制御すべく、スロットル弁8a、燃料噴射弁9および点火装置10の少なくとも1つの作動を制御する。この制御により、入力回転速度Niが増加または減少するように変更されて、各クラッチ70,170 が接続完了状態になる回転速度に移行する。
【0015】
クランクケース3は、多数のボルトにより互いに結合されると共に車幅方向(左右方向でもある。)に分割可能な1対のケース半体3a,3bと、各ケース半体3a,3bに多数のボルトによりそれぞれ結合される1対のカバー3c,3dとから構成される。クランク軸6は、1対の主軸受14a,14bを介して1対のケース半体3a,3bに回転可能に支持される。
クランクケース3は、クランク軸6および変速機Mが収容される収容室15を形成する。収容室15は、該収容室15内に設けられる仕切壁としての変速機ハウジング16により、駆動回転軸としてのクランク軸6が配置される駆動室としてのクランク室15aと、変速機Mが配置されるミッション室15bとに仕切られる。この実施形態では、変速機ハウジング16は、クランク室15aとミッション室15bとが収容室15の上部において連通するように、収容室15の下部において収容室15を部分的に仕切り、ミッション室15bの底壁は、1対のケース半体3a,3bおよびカバー3dにより構成される。なお、別の例として、変速機ハウジング16は、クランク室15aとミッション室15bとが互いに独立した空間となるように収容室15を仕切ってもよい。
【0016】
クランク軸6の、主軸受14aを貫通して右方に延出している軸端部6aには、クランク軸6の回転速度である機関回転速度に応じて、変速機Mへのクランク軸6の回転の伝達および遮断を行う発進クラッチである遠心式クラッチ17が設けられる。遠心式クラッチ17は、機関回転速度の変化に応動して遠心式クラッチ17の接続状態を制御する遠心ウエイト17aを備える。
前記動力装置は、接続完了状態にある遠心式クラッチ17を介してクランク軸6の回転を変速機Mの入力軸20に伝達する入力側伝動機構としての減速機構18を備える。減速機構18は、遠心式クラッチ17の回転が伝達される駆動ギヤ18aと、入力軸20と一体に回転する被動ギヤ18bとから構成され、入力軸20への回転の伝達および遮断を制御する入力側クラッチである遠心式クラッチ17を介して伝達されたクランク軸6の回転を変速機Mに入力する。
【0017】
図1,図2を参照すると、変速機Mは、被動ギヤ18bを介して内燃機関Eのクランク軸6により回転駆動される入力軸20と、遊星ギヤ機構P1,P2を備える変速ユニットUと、入力回転速度Niが変速ユニットUにより変速された出力回転速度Noで回転する出力軸23と、出力軸23により回転駆動される出力取出軸91を備える出力側伝動機構90と、入力軸20、変速ユニットUおよび出力軸23を収容する変速機ハウジング16とを備える。
ここで、変速機ハウジング16およびクランクケース3は、変速ユニットUにおける遊星ギヤ機構P1,P2等の回転部材、入力軸20、出力軸23および出力取出軸91等の変速機Mの回転部材との対比で、それら回転部材には含まれない部材、例えば回転しない部材である固定側部材である。
【0018】
入力軸20は、変速機ハウジング16に回転可能に支持されると共に、出力軸23を介してケース半体3bに回転可能に支持される。入力軸20は、軸方向でミッション室15b(または変速機ハウジング16)の外部であるクランク室15aに配置されると共に被動ギヤ18bが一体成形により設けられた第1入力軸21と、出力軸23に対してスラスト軸受B1により軸方向での移動が規制された第2入力軸22とを有する。第2入力軸22は、その内周で出力軸23の外周に回転可能に支持され、その外周でハウジング16に軸受B2介して回転可能に支持される。
第2入力軸22の外周にスプライン嵌合により連結されると共に該第2入力軸22と同軸の第1入力軸21は、クランク室15aに軸方向に開口する開放口21bを形成する軸端部21aを有する。該軸端部21bは、入力軸20において第2入力軸22よりも大径の拡径部である。
【0019】
出力軸23は、一方の軸端部23bでケース半体3bに軸受B3を介して回転可能に支持され、他方の軸端部23a寄りの部分で軸受B4および第2入力軸22を介して変速機ハウジング16に回転可能に支持される。入力軸20と同軸に配置されて該入力軸20の回転中心線L1に一致する回転中心線L2を有する出力軸23は、変速ユニットU,入力軸20およびハウジング16を軸方向に貫通してクランク室15a内まで延びている。各回転中心線L1,L2はクランク軸6の回転中心線に平行である。
【0020】
変速機Mは、入力軸20と出力軸23との間に配置される伝動制御部材としての伝動用一方向クラッチ25を備える。出力軸23は、その軸端部23aにおいて一方向クラッチ25を介して入力軸20の軸端部21aに連結される。一方向クラッチ25は、軸端部23aに設けられて出力軸23と一体に回転する入力部材としてのクラッチインナ25aと、軸端部21aに設けられて、この実施形態では軸端部21a自体により構成される出力部材としてのクラッチアウタ25bと、径方向でクラッチインナ25aとクラッチアウタ25bとの間で周方向に間隔を置いて配置される複数のクラッチ素子25c(例えば、スプラグやローラ)とを備える。なお、別の例では、クラッチアウタ25bは軸端部21aとは別個の部材により構成されて該軸端部21aに設けられてもよく、クラッチインナ25aは軸端部23a自体により構成されてもよい。
【0021】
クラッチ素子25cは、出力軸23の回転速度Noが入力回転速度Niを超えるときにクラッチインナ25aおよびクラッチアウタ25bと係合状態になって、出力軸23の回転を入力軸20に伝達し、出力回転速度Noが入力回転速度Ni以下のときにクラッチインナ25aおよびクラッチアウタ25bと非係合状態になって、入力軸20の回転は一方向クラッチ25を介して出力軸23に伝達されない。
このため、一方向クラッチ25は、自動二輪車の減速時に、変速機Mが後述する直結状態での最小変速比である4速変速比R4以外の変速比R1〜R3(図6参照)を確立している場合に、変速ユニットUを介することなく出力軸23のみを介して伝達される後輪の動力により内燃機関Eが駆動されてエンジンブレーキが効くように前記係合状態になり、内燃機関Eにより後輪を駆動するときに前記非係合状態になる。
【0022】
変速ユニットUは、入力軸20から出力軸23までの回転の伝達経路において、入力軸20側から直列に配置される複数の、この実施形態では2つの一次変速ユニットM1および二次変速ユニットM2から構成される。変速機Mの主軸であると共に支持軸としての出力軸23に回転可能に支持される両変速ユニットM1,M2は、軸方向で減速機構18寄り(または出力軸23の軸端部23a寄り)から変速ユニットM1および変速ユニットM2の順で軸方向に配列される。
【0023】
図2,図3を参照すると、各変速ユニットM1,M2は、サンギヤ30,130 、複数の遊星ギヤ41,141 を回転可能に支持するキャリア40,140 およびリングギヤ50,150 である3つの要素ギヤを有する遊星ギヤ機構P1,P2と、遊星ギヤ機構P1,P2による変速比R(図6参照)を制御する変速比制御機構C1,C2を備える。
サンギヤ30,130 、遊星ギヤ41,141 およびリングギヤ50,150 は、いずれもヘリカルギヤからなる。サンギヤ30,130 、キャリア40,140 およびリングギヤ50,150 は、その回転中心線として回転中心線L1,L2を共有する。
【0024】
変速ユニットM1の一次遊星ギヤ機構P1のリングギヤ50は、第2入力軸22にスプライン嵌合により連結される管状の内方軸部51と、該内方軸部51に対して径方向外方に位置する管状の外方軸部であると共に各遊星ギヤ41の歯部42と噛合する歯部53が内周に設けられたリム部52と、径方向に延びていて内周縁で内方軸部51に連なると共に外周縁でリム部52に連なるディスク状の環状壁である一次ギヤ側壁54とを有する。リングギヤ50は、遊星ギヤ機構P1において入力軸20の回転が入力される一次入力ギヤであり、遊星ギヤ機構P1における3つの一次要素ギヤのうちの第1一次要素ギヤである。
【0025】
遊星ギヤ機構P1のキャリア40は、各遊星ギヤ41を回転可能に支持する支持軸43により互いに結合された第1,第2キャリア44,45から構成される。第1キャリア44は、支持軸43を支持する環状壁であるリング部44aと、リング部44aの内周縁に連なると共に内方軸部51および二次遊星ギヤ機構P2のサンギヤ130 を介して出力軸23に回転可能に支持される管状の内方軸部44bとを有する。第2キャリア45は、支持軸43を支持する環状壁であるリング部45aと、リング部45aの外周縁に連なる管状の外方軸部45bとを有する。キャリア40は、遊星ギヤ機構P1により変速された入力軸20の回転を遊星ギヤ機構P2に対して出力する一次出力ギヤであり、遊星ギヤ機構P1における3つの一次要素ギヤのうちの第3一次要素ギヤである。
【0026】
キャリア40の内方軸部44bは、入力軸20の回転を変速ユニットM1を介して遊星ギヤ機構P2に入力する一次出力回転体である。外方軸部45bは、軸方向で遊星ギヤ機構P2寄りの一方の端部にクラッチアウタ72にスプライン嵌合により一体に回転するように連結される連結部としての固定壁45cを有し、他方の端部に第1規制部材61を軸方向で挟んで配置される1対のスラスト軸受B5が設けられた被支持部45dを有する。このため、キャリア40は、第1規制部材61により、出力軸23および変速機ハウジング16に対して軸方向での移動が阻止される。
【0027】
遊星ギヤ機構P1における3つの一次要素ギヤのうちの第2一次要素ギヤとしてのサンギヤ30は、外周に各遊星ギヤ41の歯部42に噛合する歯部32が設けられた管状の軸部31と、軸部31から径方向外方に延びていて後述するラチェットポール81,82;181 ,182 が設けられる支持部としての環状壁であるリング部33とを有する。キャリア40の内方軸部44bの外周に回転可能に支持される軸部31は、軸部31に固着されたリング部33に対して軸方向で遊星ギヤ機構P2寄りに位置する端部である一次押圧部34を有する。押圧部34は、内方軸部44bの外周に内方軸部44bと一体に回転するように設けられたスラスト受け部46を、スラスト軸受B6を介して軸方向に押圧する。このため、遊星ギヤ41との噛合により発生する左方向きの第1一次軸方向力F1bにより、サンギヤ30がキャリア40に対して遊星ギヤ機構P2寄り(または左方)に移動することがスラスト受け部46により阻止される。
【0028】
遊星ギヤ機構P1のこれらの歯部32,42,53は、遊星ギヤ機構P1において、3つの一次要素ギヤ同士が噛み合う、すなわち一次要素ギヤの1対であるキャリア40の各遊星ギヤ41とリングギヤ50とが互いに噛み合う、および、一次要素ギヤの別の1対であるキャリア40の各遊星ギヤ41とサンギヤ30とが互いに噛み合う一次噛合部H1である。
【0029】
一方、二次変速ユニットM2の遊星ギヤ機構P2のサンギヤ130 は、遊星ギヤ機構P1のキャリア40の内方軸部44bにスプライン嵌合により連結される管状の内方軸部131 と、内方軸部131 に対して径方向外方に位置する管状の外方軸部132 と、径方向に延びていて内周縁で内方軸部131に連なると共に外周で外方軸部132に連なるディスク状の環状壁である二次ギヤ側壁133とを有する。出力軸23に軸受B7を介して回転可能に支持される内方軸部131の外周には、各遊星ギヤ141 の歯部142aと噛合する歯部131aが設けられる。
【0030】
内方軸部131は、キャリア40の内方軸部44bの径方向内方で遊星ギヤ機構P1のリングギヤ50の内方軸部51に向かって軸方向に延出している付勢部134 と、軸方向で右方へのサンギヤ130 の移動を阻止するストッパ135とを有し、該付勢部134 において内方軸部44bにスプライン嵌合により連結される。ストッパ135は、サンギヤ130 が右方に移動して付勢部134 が後述する押圧部材75,175 を右方に付勢するときに、軸方向で内方軸部44bと当接することにより、右方へのサンギヤ130 の移動を阻止して軸方向でのサンギヤ130 の移動量を規定する。
サンギヤ130 は、遊星ギヤ機構P2において変速ユニットM1から出力された回転が内方軸部44bを通じて入力される二次入力ギヤであり、遊星ギヤ機構P2における3つの二次要素ギヤのうちの第1二次要素ギヤである。
【0031】
遊星ギヤ機構P2のキャリア140 には、各遊星ギヤ141 を回転可能に支持する支持軸144が設けられる。キャリア140 は、支持軸144を支持する環状壁であるリング部145と、リング部145の外周縁に連なる管状の外方軸部146とを有する。キャリア140 は、遊星ギヤ機構P2により変速された内方軸部44bの回転を出力軸23に出力する二次出力ギヤであり、遊星ギヤ機構P2における3つの二次要素ギヤのうちの第3二次要素ギヤである。
【0032】
外方軸部146は、内方軸部44bの回転を変速して出力軸23に出力し、変速機Mが備える全ての遊星ギヤ機構P1,P2での終出力軸である。また、外方軸部146は、軸方向で遊星ギヤ機構P1寄りの一方の端部にクラッチアウタ172 にスプライン嵌合により一体に回転するように連結される連結部としての固定壁146cを有し、他方の端部に第2規制部材62を軸方向で挟んで配置される1対のスラスト軸受B8が設けられた被支持部146dを有する。このため、キャリア140 は、第2規制部材62により、出力軸23および変速機ハウジング16に対して軸方向での移動が阻止される。
【0033】
遊星ギヤ機構P2における3つの二次要素ギヤのうちの第2二次要素ギヤとしてのリングギヤ150 は、内周に各遊星ギヤ141 の歯部143aに噛合する歯部151aが設けられた管状の外方軸部151と、外方軸部151から径方向内方に延びていてラチェットポール81,82,181 ,182 が設けられる支持部としての環状壁であるリング部152と、内方軸部44bの外周に回転可能に支持される内方軸部である二次押圧部153とを有する。リング部152に対して軸方向で遊星ギヤ機構P1寄りに位置する押圧部153は、スラスト受け部46を、スラスト軸受B9を介して軸方向に、押圧部34とは反対方向に押圧する。このため、遊星ギヤ141 との噛合により発生する右方向きの第1二次軸方向力F2bにより、リングギヤ150 が両キャリア140 に対して遊星ギヤ機構P1寄り(または右方)に移動することがスラスト受け部46により阻止される。
【0034】
各遊星ギヤ141 は、サンギヤ130 の歯部131aと噛合する第1歯部142aを有する第1ギヤ142と、第1ギヤ142よりも大径であると共にリングギヤ150 の歯部151aと噛合する第2歯部143aを有する第2ギヤ143とから構成される。そして、遊星ギヤ141 により、遊星ギヤ機構P1による変速比である一次変速比r1よりも大きい二次変速比r2を、遊星ギヤ機構P1のリングギヤ50の外径とほぼ同じ外径のリングギヤ150 を有する遊星ギヤ機構P2により得ることができるので、遊星ギヤ141 のこの構造は、径方向での変速機Mの小型化に寄与する。
【0035】
また、第1,第2歯部142a,143aの(軸方向に対する)傾斜角度は、したがって各歯部131a,151aの傾斜角度も、遊星ギヤ機構P1の各遊星ギヤ41の歯部42の(軸方向に対する)傾斜角度、したがって各歯部32,53の傾斜角度に比べて大きく設定されている。
このため、遊星ギヤ41および遊星ギヤ141 に同じ大きさのトルクが作用する場合には、二次遊星ギヤ141 と噛合するサンギヤ130 およびリングギヤ150 との間で発生する二次軸方向力F2a,F2bは、一次遊星ギヤ41と噛合するリングギヤ50およびサンギヤ30との間で発生する一次軸方向力F1a,F1bに比べて大きい。
なお、別の例として、両遊星ギヤ機構P1,P2における全ての歯部32,42,53,131a,142a,143a,151aの傾斜角度は、互いに等しく設定されもよい。
【0036】
遊星ギヤ機構P2のこれらの歯部131a,142a,143a,151aは、遊星ギヤ機構P2において、3つの二次要素ギヤ同士が噛み合う、すなわち二次要素ギヤの1対であるキャリア140 の各遊星ギヤ141 とリングギヤ150 とが互いに噛み合う、および、二次要素ギヤの別の1対であるキャリア140 の各遊星ギヤ141 とサンギヤ130 とが互いに噛み合う二次噛合部H2である。
そして、両ギヤ側壁54,133は、軸方向から見て一次,二次噛合部H1,H2の全体またはほぼ全体が含まれる径方向範囲に渡って形成されている。
【0037】
図1〜図3を参照すると、変速機Mが備える規制部材60は、各遊星ギヤ機構P1,P2のキャリア40,140 の軸方向移動を規制する。軸方向で噛合部H1と噛合部H2との間に配置される規制部材60は、キャリア40の位置を規制する第1規制部材61と、キャリア140 の位置を規制する第2規制部材62とを有する。両規制部材61,62は、両遊星ギヤ機構P1,P2のサンギヤ30およびリングギヤ150 の回転方向を規制する一方向クラッチ80,180 を支持する支持部材65と共に互いに結合されている。
【0038】
そして、各規制部材61,62は、軸方向に延びている筒部61a,62aと、軸方向での筒部61a,62aの先端側から径方向に延びている第1,第2支持部としての第1,第2支持フランジ61b,62bと、軸方向での筒部61a,62aの基端側で径方向に延びている固定部としての基端フランジ61c,62cとを有する。そして、基端フランジ61c,62c同士が支持部材65を挟んだ状態で該支持部材65と共に結合された状態で変速機ハウジング16に周方向に間隔を置いて設けられた複数の取付部16a(図1参照)にボルトにより固定されて取り付けられる。
【0039】
変速機Mが備える1つのスラスト受け部46は、軸方向でサンギヤ30の押圧部34とキャリア140 の押圧部153との間に配置されて、内方軸部44bに設けられる。このスラスト受け部46は、内方軸部44bの外周面に設けられた環状溝44cに嵌合したサークリップにより構成される。
したがって、サンギヤ30およびキャリア140 は、軸方向でのスラスト受け部46の両側にそれぞれ配置されると共に、内方軸部44bの径方向外方に配置されて内方軸部44bに軸受B10を介して回転可能に支持される。そして、スラスト受け部46は、一方向クラッチ80,180 のアウタ部材Tに囲まれた空間内に配置される。また、軸方向でスラスト受け部46の両側に当接する1対のスラスト軸受B6,B9のそれぞれは、1対のリング状の軸受ケースB6a,B9aと、両軸受ケースB6aおよび両軸受ケースB9aの間に放射状に配置された多数のローラB6b,B9bとから構成される。
【0040】
図2,図3を参照すると、一次変速ユニットM1による一次変速比r1を制御する一次変速比制御機構C1は、入力軸20の回転速度Niに応じて遊星ギヤ40を介することなくキャリア40 へのリングギヤ50の回転の直接の伝達および遮断を制御する一次伝達制御機構としての一次変速用クラッチ70と、特定要素ギヤとしてのサンギヤ30の一方向A1(図4参照)への回転を阻止する一方で反対方向A2への回転を許容する一次回転規制部材としての一次回転規制用一方向クラッチ80とを備える。
【0041】
後述する二次変速用クラッチ170 が接続完了状態になる高速回転域よりも入力回転速度Niが小さい低速回転域で接続完了状態になる低速側クラッチである一次クラッチ70は、入力軸20からの回転が入力されると共にリングギヤ50の一部であるリム部52により構成される入力部材としての一次クラッチインナ71と、クラッチインナ71の径方向外方に配置されてキャリア40と一体に回転するように結合された出力部材としての管状の一次クラッチアウタ72と、径方向でクラッチインナ71とクラッチアウタ72との間に互いに接離可能に交互に積層されて配置された1以上の一次入力側クラッチ板73および1以上の一次出力側クラッチ板74からなる一次回転伝達制御部と、各クラッチ板73,74を軸方向に押圧してクラッチ板73,74同士を接触させる一次押圧部材75と、押圧部材75を駆動して軸方向に移動させる一次駆動部材としての1以上の、ここでは複数の一次遠心ウエイト76とを備える遠心式の摩擦クラッチである。
【0042】
クラッチ70は、遊星ギヤ機構P1に対して径方向外方に配置されている。
入力側クラッチ板73は、クラッチインナ71の外周でのスプライン嵌合によりクラッチインナ71と一体に回転すると共に軸方向に移動可能に設けられ、出力側クラッチ板74は、クラッチアウタ72の内周でのスプライン嵌合によりクラッチアウタ72と一体に回転すると共に軸方向に移動可能に設けられる。
【0043】
接離可能な複数のクラッチ板73,74を入力回転速度Niに応じて接離させる押圧部材75は、径方向に延びているディスク状部材であり、軸方向でギヤ側壁54に対して噛合部H1とは反対側(またはギヤ側壁54に対して右方)に配置されて、ストッパである抜止部材としての止め輪77により、右方への移動が規制される。止め輪77は、押圧部材75の押圧解除位置としての右方への最大移動位置を設定する。
押圧部材75は、リングギヤ50における入力軸20との連結部である内方軸部51近傍からリム部52を超えてクラッチアウタ72までの径方向範囲で、軸方向で右方からリングギヤ50およびクラッチ板73,74を覆う一次側壁である。また、押圧部材75は、リングギヤ50の内方軸部51近傍の壁部において、スラスト軸受B11を介して回転可能に支持され、かつ軸方向にリングギヤ50と一体に移動可能である。
【0044】
二次変速ユニットM2による二次変速比r2を制御する二次変速比制御機構C2は、入力回転速度Niに応じて、より具体的には入力回転速度Niが一次変速ユニットM1により変速された内方軸部44bの回転速度である一次出力回転速度Naに応じて遊星ギヤ140を介することなくキャリア140 へのサンギヤ130 の回転の直接の伝達および遮断を制御する二次伝達制御機構としての二次変速用クラッチ170 と、特定要素ギヤとしてのキャリア140 の一方向A1(図4参照)への回転を阻止する一方で反対方向A2への回転を許容する二次回転規制部材としての二次回転規制用一方向クラッチ180 とを備える。
【0045】
入力回転速度Niの高速回転域で接続完了状態になる高速側クラッチである二次クラッチ170 は、内方軸部44bの回転が入力されると共にサンギヤ130 の一部である外方軸部132により構成される入力部材としての二次クラッチインナ171 と、クラッチインナ171 の径方向外方に配置されてキャリア140 と一体に回転するように結合された出力部材としての管状の二次クラッチアウタ172 と、径方向でクラッチインナ171 とクラッチアウタ172 との間に互いに接離可能に交互に積層されて配置された1以上の二次入力側クラッチ板173 および1以上の二次出力側クラッチ板174 からなる二次回転伝達制御部と、各クラッチ板173 ,174 を軸方向に押圧してクラッチ板173 ,174 同士を接触させる二次押圧部材175 と、押圧部材175 を駆動して軸方向に移動させる二次駆動部材としての1以上の、ここでは複数の二次遠心ウエイト176 とを備える遠心式の摩擦クラッチである。
【0046】
クラッチ170 は、遊星ギヤ機構P2に対して径方向外方に配置されている。
入力側クラッチ板173 は、クラッチインナ171 の外周でのスプライン嵌合によりクラッチインナ171 と一体に回転すると共に軸方向に移動可能に設けられ、出力側クラッチ板174 は、クラッチアウタ172 の内周でのスプライン嵌合によりクラッチアウタ172 と一体に回転すると共に軸方向に移動可能に設けられる。
両クラッチ70,170 のクラッチ板73,74,173 ,174 は、その下部において、変速機ハウジング16内に貯留されている潤滑油に浸漬されている。
【0047】
接離可能な複数のクラッチ板173 ,174 を入力回転速度Niが変速ユニットM1により変速された一次出力回転速度Naに応じて接離させる押圧部材175 は、径方向に延びているディスク状部材であり、軸方向でギヤ側壁133 に対して二次噛合部H2とは反対側(またはギヤ側壁133 に対して左方)に配置されて、ストッパである抜止部材としての止め輪177により、左方への移動が規制される。止め輪177は、押圧部材175 の押圧解除位置としての左方への最大移動位置を設定する。
【0048】
出力軸23に直結されて一次,変速ユニットM1,M2により変速された回転を出力軸23に入力する二次出力回転体である押圧部材175 は、出力軸23との連結部であるスプライン175aから外方軸部132 を超えてクラッチアウタ172 までの径方向範囲で、軸方向で左方からサンギヤ130 およびクラッチ板173 ,174 を覆う二次側壁である。また、押圧部材175 は、サンギヤ130 の内方軸部131 近傍の壁部において、スラスト軸受B12を介して回転可能に支持され、かつ軸方向にサンギヤ130 と一体に移動可能である。
【0049】
両クラッチ70,170 において、クラッチアウタ72,172 は、外方軸部45b,146 の外周に軸方向に摺動により移動可能に支持される環状の端部壁である支持壁72a,172aと、非作動時(すなわち非拡開時)の遠心ウエイト76,176 の休止位置を規定する非拡開時ストッパ72b,172bと、最大の拡開したときの最大拡開位置(図2,図3に二点鎖線で示される。)を規定する拡開時ストッパ72c,172cとを有する。
【0050】
遠心ウエイト76は、入力回転速度Ni、より具体的には、入力回転速度Niが変速比r1で変速された回転速度である一次出力回転速度Na(すなわち、キャリア40の内方軸部44b、クラッチアウタ72または押圧部材75の回転速度であり、図6には、一次出力回転速度Naの1つが例示されている。)に応じて発生する遠心力の増加時に、押圧部材75を介して複数のクラッチ板73,74を互いに接触させる。また、遠心ウエイト176 は、一次出力回転速度Na、より具体的には、該一次出力回転速度Naが変速ユニットM2による変速比r2で変速された回転速度である出力回転速度No(すなわち、キャリア140 、クラッチアウタ172 または押圧部材175 の回転速度である。)に応じて発生する遠心力の増加時に、押圧部材175 を介して複数の二次クラッチ板173 ,174 を互いに接触させる。
【0051】
一次,二次遠心ウエイト群をそれぞれ構成する前記複数の遠心ウエイト76,176 は、周方向に等しい間隔を置いて配置されると共に、遠心ウエイト76,176 に作用する遠心力により径方向外方に拡開可能に支持壁72a,172aに支持される。各遠心ウエイト76,176 は、キャリア40,140 のリム部52に中間部材としての皿バネ48,148 を介して設けられた受け部47,147 に当接可能な支点部76a,176aと、拡開時に作用部としての支持壁72a,172aを遠心力に基づいて生じる押圧力F1c,F2cで付勢する付勢部76d,176dと、非作動時にストッパ72b,172bに当接する非作動側当接部76b,176bと、最大拡開時にストッパ72c,172cに当接する拡開側当接部76c,176cとを有する。クラッチアウタ72,172 に対してスプライン嵌合により設けられる受け部47,147 は、固定壁45c,146cとの間に配置される皿バネ48,148 により軸方向での移動が規制されている。
なお、変速機ハウジング16(図1参照)は、一次,二次遠心ウエイト76,176 に径方向で対向する位置に肉厚部からなる高剛性部を有する。
【0052】
そして、クラッチ70において、押圧力F1cはクラッチ70を接続完了状態にする接続力であり、第2一次軸方向力F1aはクラッチ70を非接続状態にする接続解除力であり、同様に二次クラッチ170 において、第2二次押圧力F2cはクラッチ170 を接続完了状態にする接続力であり、軸方向力F2aはクラッチ170 を非接続状態にする接続解除力である。
【0053】
各遠心ウエイト76,176 は、押圧力F1c,F2cが遠心力の増加により軸方向力F1a,F2aに打ち勝つ大きさになったときに、支点部76a,176aが受け部47,147 に当接した状態で該支点部76a,176aを中心に揺動して拡開し、クラッチアウタ72,172 が軸方向に移動するように付勢部76d,176dが押圧力F1c,F2cで支持壁72a,172aを付勢する。そして、このとき、押圧部材75,175 がクラッチアウタ72,172 と共に軸方向に移動して各クラッチ板73,74,173 ,174 を外方軸部45b,146に一体に設けられた固定壁45c,146cに向けて軸方向に押圧して互いに接触させ、互いに接触するクラッチ板73,74,173 ,174 間の摩擦により、リングギヤ50またはサンギヤ130 の回転が各クラッチ板73,74,173 ,174 を介してクラッチアウタ72,172 およびキャリア40,140 に伝達される。
【0054】
また、二次クラッチ170 の遠心ウエイト176 は、クラッチアウタ72,172 が同一回転速度で回転する場合に、一次クラッチ70の遠心ウエイト76により発生する一次押圧力F1cよりも大きな二次押圧力F2cを発生するウエイト構造とされる。該ウエイト構造は、この実施形態では、各遠心ウエイト176 の質量が各遠心ウエイト76の質量よりも大きく設定される構造である。具体的には、両遠心ウエイト76,176 の質量は、入力回転速度Niが第1特定回転速度としての後述する第2所定速度N2(図6参照)となるときに、二次押圧力F2cが一次押圧力F1cよりも大きくなって、右方に移動する押圧部材175 がクラッチ70を接続完了状態にしている押圧部材75を右方に移動させて、クラッチ70の接続完了状態を解除することが可能となるように設定されている。
なお、別の例として、前記ウエイト構造は、遠心ウエイト176 における支点部176aと付勢部176dとの間の距離が、遠心ウエイト76における支点部76aと付勢部76dとの間の距離よりも小さく設定される構造であってもよく、さらにこれらのウエイト構造が併用されてもよい。
【0055】
そして、各クラッチ70,170 は、遠心ウエイト76,176 が前記休止位置を占めるとき、クラッチ板73,173 ,74,174 を介して回転が伝達されない非接続状態にあり、遠心ウエイト76,176 が前記最大拡開位置を占めるとき、クラッチ板73,74,173 ,174 間で滑りを生じることなくクラッチインナ71,171 とクラッチアウタ72,172 と(したがって、リングギヤ50とキャリア40と、またはサンギヤ130 とキャリア140 と)が、等速で回転する接続完了状態にあり、拡開した遠心ウエイト76,176 が前記休止位置と前記最大拡開位置との間に位置すると共に互いに接触したクラッチ板73,74,173 ,174 間で滑りが発生している中間位置を占めるとき、クラッチインナ71,171 (したがって、リングギヤ50またはサンギヤ130 )の回転が、クラッチ板73,74,173 ,174 間での滑りを伴う状態で、クラッチアウタ72,172 (したがって、キャリア40,140 )に伝達される半接続状態(または半クラッチ状態)にある。
【0056】
変速機Mは、該変速機Mが備える複数の変速ユニットM1,M2のうちで、前記伝達経路において入力軸20側に配置された変速ユニットである変速ユニットM1の変速比r1を変更する変速比変更機構としてのクラッチ解除機構Dを備える。クラッチ解除機構Dは、接続完了状態にあるクラッチ70の接続完了状態を解除して非接続状態にするための機構であり、駆動部としての付勢部134 と、付勢部134 の駆動力を、クラッチ70を解除するための解除力としてクラッチ70の押圧部材75に伝達する中間伝達部材36とを備える。
【0057】
中間伝達部材36は、付勢部134 に軸方向で当接可能である管状の第1中間伝達部材37と、第1中間伝達部材37と軸方向で当接可能である管状の第2中間伝達部材38とを備える。第1,第2中間伝達部材37,38は、出力軸23に回転可能に、かつ軸方向に移動可能に支持される。
第2中間伝達部材38は、軸方向での両端部の間に制御用付勢部材としての弾性部材であるバネ部材39aを有する伸縮部39を備える。弾性部材である前記バネ部材39aは、この実施形態では1または複数の、例えば4つの皿バネ39bにより構成される。第2中間伝達部材38の、伸縮部39により構成される一方の端部には第1中間伝達部材37が当接し、第2中間伝達部材38の、スラスト軸受B13により構成される他方の端部にはリングギヤ50の内方軸部51が当接する。
そして、両クラッチ70,170 が非接続状態にあるとき、両中間伝達部材37,38の間には、クラッチ70が接続完了状態になった時に両中間伝達部材37,38が互いに当接状態になるようにするための軸方向での間隔が形成されている。
【0058】
付勢部134 により付勢された第1中間伝達部材37が第2中間伝達部材38に当接して、該第2中間伝達部材38の左方への移動が阻止されている状態で、バネ部材39aは、そのバネ力により、押圧部材75が前記押圧解除位置を占めるように、押圧力F1cに抗して遠心ウエイト76が前記休止位置を占めるように、リングギヤ50を介して押圧部材75を付勢する。
【0059】
一次クラッチ70が接続完了状態にあるとき、遊星ギヤ機構P2のキャリア140 の回転速度の増加により遠心ウエイト176 が飛開して二次クラッチ170 が非接続状態から接続完了状態になる過程で、押圧部材175 の右方への移動に伴って、サンギヤ130 が右方に移動して、付勢部134 が第1,第2中間伝達部材37,38を押圧して第2中間伝達部材38が内方軸部51に当接する。このとき、遠心ウエイト176 が押圧部材175 に加える押圧力F2cは、遠心ウエイト76が押圧部材75に加えている押圧力F1cよりも大きいため、前記駆動力により、キャリア40および押圧部材75が、第1,第2中間伝達部材37,38を介して付勢部134 により押圧されて右方に移動する。押圧部材75のこの軸方向移動により、クラッチ70は、半接続状態を経て非接続状態になる。
【0060】
そして、一次クラッチ70の接続完了状態の解除のためには、押圧力F2cが押圧力F1cに打ち勝つ大きさであれば十分である。一方、クラッチ70が付勢部134 により付勢されて一旦非接続状態になった後、入力回転速度Niが増加して第2特定回転速度としての第3所定速度N3(図6参照)を超えて、クラッチ70が再度接続完了状態になるときは、押圧力F1cは、バネ部材39aのバネ力に抗して伸縮部39が軸方向に縮小することにより、押圧部材75を左方に移動させて、クラッチ70が接続完了状態になる。したがって、バネ部材39aのバネ力は、遠心ウエイト76が再度拡開する入力回転速度Niを規定する制御用付勢力である。
【0061】
図3、図4を参照して、一方向クラッチ80,180 について説明する。なお、両一方向クラッチ80,180 は基本的に同一の構造を有することから、図4には、一方向クラッチ80に関する部材の符号が併記されている。
遊星ギヤ機構P1のサンギヤ30の一方向A1への回転を阻止する一方向クラッチ80およびキャリア140 の一方向A1への回転を阻止する二次一方向クラッチ180 のそれぞれは、リング部33;152に設けられた支持軸89;189 に揺動可能に支持される1以上の回転側係合部、ここでは複数としての2組の1対のラチェットポール81,82;181 ,182 と、各ラチェットポール81,82;181 ,182 が一方向A1で係合することによりサンギヤ30またはリングギヤ150 の一方向A1への回転を阻止する回転規制側係止体である複数の爪部83;183が設けられた回転規制部材としてのアウタ部材Tと、各ラチェットポール81,82;181 ,182 が爪部83;183と係合する方向にラチェットポール81,82;181 ,182 を付勢する付勢部材としてのバネ84;184とを備える。バネ84;184は、リング部33;152およびラチェットポール81,82;181 ,182 にそれぞれ設けられた係止孔K1,K2に挿通された後、リング部33;152およびラチェットポール81,82;181 ,182 に保持される。
【0062】
各ラチェットポール81,82;181 ,182 を径方向外方から覆うアウタ部材Tは、両一方向クラッチ80,180 に共通の単一の管状部材であり、径方向で内方軸部44bとの間に環状の空間S1を形成する。アウタ部材Tは、該アウタ部材Tに一体成形されて設けられてアウタ部材Tの外周から径方向外方に延びている支持部材65により変速機ハウジング16に支持される。支持部材65は、変速機ハウジング16の取付部16a(図1参照)にボルトにより固定されて取り付けられる。
【0063】
ラチェットポール81,82;181 ,182 は、爪部83;183と係合する係合部81a,82a;181a,182aと、ウエイト部81b,82b;181b,182bとを有する。ラチェットポール81,82;181 ,182 は、ウエイト部81b,82b;181b,182bに作用する遠心力により、バネ84;184の付勢力に抗して係合部81a,82a;181a,182aが爪部83;183の係止部85a,185aと係合しない位置である非接触位置(図4において二点鎖線で示される。)を占めるまで揺動可能である。該非接触位置は、各リング部33,152 に設けられたストッパ87,187 により規定される。ラチェットポール81,82;181 ,182 が前記非接触位置にあるとき、各ラチェットポール81,82;181 ,182 において径方向外方で爪部83;183またはアウタ部材Tに対向する外周面81c,82c;181c,182cの全体は、軸方向から見て回転中心線L1,L2と同心の1つの仮想円88上および該仮想円88よりも径方向内方に位置する。
【0064】
径方向でラチェットポール81,82;181 ,182 寄りに突出している爪部83;183は、係止部85a;185aを有する本体部85;185 と、サンギヤ30またはリングギヤ150 の回転を許容する回転方向である反対方向A2に向かって径方向に徐々に突出する傾斜部86;186 とを有する。ラチェットポール81,82;181 ,182 が係止部85a;185aと当接していないとき、ラチェットポール81,82;181 ,182 はバネ84;184により付勢されて傾斜部86;186 に接触する。傾斜部86;186 は、係止部85a;185aに焼付けにより設けられた弾性材料としてのゴム材により形成されるので、衝撃を緩和する緩衝部を構成し、ラチェットポール81,82;181 ,182 との接触に起因する騒音を低減する。
【0065】
1対のラチェットポール81;181 は回転中心線L1,L2に対して点対称に配置され、別の1対のラチェットポール82;182 は、回転中心線L1,L2に対して点対称に配置されると共に各ラチェットポール81,82;181 ,182 が係止部85a;185aと係合している係合位置を占めるときに係止部85a;185aと係合しない非係合位置を占めるように配置される。これにより、全てのラチェットポール81,82;181 ,182 が非係合位置にある状態からアウタ部材Tに対して一方向A1に回転するときの係止部85a;185aとの係合の機会を増やすことができて、迅速に回転阻止状態にすることができる。
【0066】
図2,図3を参照すると、一次噛合部H1の全体および二次噛合部H2の全体は、軸方向で互いに離隔している第1側壁としての押圧部材75および第2側壁としての押圧部材175 と、両押圧部材75,175 の間で軸方向に延びているクラッチアウタ72,172 、ギヤ周壁としての両外方軸部45b,146、および外周壁としてのアウタ部材Tから構成される管状の周壁とにより形成される1つのギヤ室19に収容される。このギヤ室19は、変速機ハウジング16内に形成される空間である。
【0067】
押圧部材75は、軸方向で該押圧部材75と噛合部H1との間に位置するギヤ側壁54と協働して、軸方向から見て両噛合部H1,H2の全体またはほぼ全体が含まれる径方向範囲で二重壁を構成し、押圧部材175 は、軸方向で該押圧部材175 と噛合部H2との間に位置するギヤ側壁133 と協働して、軸方向から見て両噛合部H1,H2の全体またはほぼ全体が含まれる径方向範囲で二重壁を構成する。
【0068】
また、両外方軸部45b,146 において軸方向で互いに対向する端部同士である被支持部45d,146d同士寄りでアウタ部材Tを径方向外方から覆う両外方軸部45b,146 に跨って第1,第2規制部材61,62が配置される。そして、該第1,第2規制部材61,62および支持部材65が、軸方向で両外方軸部45b,146 およびアウタ部材Tに渡って、両外方軸部45b,146 とアウタ部材Tとの境界を含めて両外方軸部45b,146 およびアウタ部材Tを径方向外方から覆うので、両噛合部H1,H2での噛合音による騒音を一層低減できる。
【0069】
また、クラッチアウタ72および外方軸部45b、クラッチアウタ172 および外方軸部146 、そして、各外方軸部45b,146 およびアウタ部材Tは、軸方向での位置において互いに重なる重合部分を有することから、ギヤ室19の径方向での壁である前記周壁においても部分的に二重壁が構成されることにより、両噛合部H1,H2での噛合に起因する騒音低減効果を向上させながら、軸方向での前記周壁の幅を小さくできて、軸方向で両変速ユニットM1,M2をコンパクトに配置することができる。
【0070】
図1,図2を参照すると、変速ユニットM2から軸方向で左方に延出している延出軸部27を有する出力軸23は、出力側伝動機構90が備える出力取出軸91を回転駆動する。伝動機構90は、出力取出軸91のほかに、変速ユニットM2との間に軸方向での所定範囲Wに渡って延出軸部27の周囲に、その外周面27aを囲む空間S2を形成する位置で延出軸部27に設けられた駆動回転体としての出力ギヤ92と、出力取出軸91に回転可能に設けられて出力ギヤ92との噛合により駆動される被動回転体としての被動ギヤ93と、出力ギヤ92の回転を出力取出軸91に対して伝達および遮断するニュートラルクラッチ95とを備える。
【0071】
出力取出軸91の全体は、軸方向から見て変速ユニットM2と重なる位置に配置される。回転中心線L1,L2に平行な回転中心線を有する出力取出軸91は、被動ギヤ93に対して所定範囲Wで軸方向に延びている内部延長軸部93aと、ケース半体3bを貫通してクランク室15a外に延びる外部延長軸部93bとを有する。外部延長軸部93bには、チェーン97bが巻き掛けられる終出力部としての駆動スプロケット97aが設けられる。
内部延長軸部93aの軸端部は、クランクケース3とは別個の部材である変速機ハウジング16に設けられた軸受部16bに、軸受B14を介して支持される。出力取出軸91は、駆動スプロケット97aと被動ギヤ93との間で、軸受B15を介してケース半体3bに回転可能に支持される。
【0072】
出力ギヤ92と被動ギヤ93は、出力軸23の回転速度Noを減速して出力回転速度Noをさらに変速する出力側変速比を規定する減速機構を構成する。そして、出力軸23の回転を駆動スプロケット97aに伝達する出力側伝動機構90と、入力側伝動機構である減速機構18とは、軸方向で両変速ユニットM1,M2の両側に振り分けられて配置される。
【0073】
ニュートラルクラッチ95は、延長軸部93aに配置されて、所定範囲Wに配置される。ニュートラルクラッチ95は、スプライン嵌合により出力取出軸91と一体に回転すると共に被動ギヤ93に係合可能なシフタ95aと、クラッチ操作部材(図示されず)により操作されてシフタ95aを軸方向に移動可能に駆動するシフトフォーク95bとを備える。
延長軸部93a上で軸方向に移動可能なシフタ95aは、図2に実線で示される駆動位置を占めるとき、出力ギヤ92から被動ギヤ93を介して伝達された回転を出力取出軸91に入力し、出力取出軸91が伝動機構90により設定される速度比で出力軸23の回転速度Noが調整された回転速度で回転する。また、シフタ95aは、図2に二点鎖線で示されるニュートラル位置を占めるとき、出力取出軸91への出力軸23の回転の伝達を遮断する。
【0074】
図1,図5,図6を参照して、変速機Mの動作について説明する。
図5(a)を主として参照すると、内燃機関Eが始動してクランク軸6の回転速度である機関回転速度が、アイドル回転速度を超えて遠心式クラッチ17が接続状態になると、減速機構18を介して伝達された入力回転速度Niで入力軸20およびリングギヤ50が回転する。このとき、入力回転速度Niが第1所定速度N1以下のときは、変速ユニットM1において、遊星ギヤ機構P1のサンギヤ30は一方向クラッチ80により一方向A1(図4参照)での回転が阻止されて停止状態にある。このため、遊星ギヤ機構P1では、キャリア40は、入力回転速度Niが遊星ギヤ機構P1による変速比r1で減速された回転速度で回転し、クラッチ70では、遊星ギヤ41とリングギヤ50 との噛合による軸方向力F1aにより、リングギヤ50が押圧部材75を右方に付勢して、押圧部材75が前記押圧解除位置を占めるので、クラッチ板73,74同士が離隔した位置を占め、遠心ウエイト76が前記休止位置を占めて、クラッチ70が非接続状態にある。
【0075】
一方、変速ユニットM2において、遊星ギヤ機構P2のリングギヤ150 は一方向クラッチ180 により一方向A1(図4参照)での回転が阻止されて停止状態にある。このため、遊星ギヤ機構P2では、キャリア140 は、遊星ギヤ機構P1のキャリア40と等速で回転するサンギヤ130 の回転速度が遊星ギヤ機構P2による変速比r2で減速された回転速度で回転し、クラッチ170 では、遊星ギヤ141 とサンギヤ130 との噛合による軸方向力F2aにより、サンギヤ130 が押圧部材175 を左方に付勢して、押圧部材175 が前記押圧解除位置を占めるので、クラッチ板173 ,174 同士が離隔した位置を占め、遠心ウエイト176 が前記休止位置を占めて、クラッチ170 が非接続状態にある。
この状態で、変速機Mは、両変速比r1,r2の積である1速の変速比R1を確立し、変速機Mの最大変速比である該1変速比R1で入力回転速度Niが変速された回転速度で出力軸23が回転する。そして、ニュートラルクラッチ95(図2参照)が前記駆動位置を占めるとき、出力軸23の回転が出力ギヤ92および被動ギヤ93を介して出力取出軸91に入力される。
【0076】
図5(b)を主として参照すると、入力回転速度Niが、第1所定速度N1を超えて該第1所定速度N1よりも大きい第2所定速度N2以下であるとき、変速ユニットM1において、キャリア40の回転速度の増加により、クラッチ70では、遠心ウエイト76に作用する遠心力に基づく押圧力F1cが軸方向力F1aに打ち勝って遠心ウエイト76が拡開する。そして、遠心ウエイト76が前記最大拡開位置を占め、押圧部材75がリングギヤ50を左方に移動させると共にクラッチ板73,74同士を互いに接触するように押し付けて、クラッチ70が接続完了状態になる。このため、リングギヤ50、キャリア40およびサンギヤ30が入力回転速度Niで一方向A1とは反対の方向A2(図4参照)に回転して変速比r1が1、すなわち直結状態になる。
一方、変速ユニットM2においては、キャリア140 の回転速度が増加するものの、遠心ウエイト176 に作用する遠心力に基づく押圧力F2cが軸方向力F2a以下であるため、遠心ウエイト176 が前記休止位置を占める。このため、遊星ギヤ機構P2およびクラッチ170 は、1速変速比R1が確立されているときと同様の状態にある。
この状態で、変速機Mは、2速の変速比R2を確立する。
【0077】
図5(c)を主として参照すると、入力回転速度Niが、第2所定速度N2を超えて該第2所定速度N2よりも大きい第3所定速度N3以下であるとき、二次変速ユニットM2において、キャリア140 の回転速度の増加により、二次クラッチ170 では、遠心ウエイト176 に作用する遠心力に基づく押圧力F2cが軸方向力F2aに打ち勝って遠心ウエイト176 が拡開する。そして、遠心ウエイト176 が前記最大拡開位置を占め、押圧部材175 がサンギヤ130 を右方に移動させると共にクラッチ板173 ,174 を互いに接触するように押し付けて、二次クラッチ170 が接続完了状態になる。このため、リングギヤ150 、キャリア140 およびサンギヤ130 がキャリア40の回転速度である一次出力回転速度Naで一方向A1とは反対の方向A2(図4参照)に回転して変速比r2が1、すなわち直結状態になる。
【0078】
そして、低速側変速比としての2速変速比R2から該2速変速比R2よりも高速側の高速側変速比としての第3変速比R3への移行時、クラッチ170 が非接続状態から半接続状態を経て接続完了状態に至る過程で、右方に移動する押圧部材175 と一体にサンギヤ130 が右方に移動して、付勢部134 は、第1,第2中間伝達部材37,38を右方に移動させ、さらにリングギヤ50を介してクラッチ70の押圧部材75を右方に移動させて、クラッチ70の接続完了状態を解除する方向に移動させる。
このため、クラッチ70では、遠心ウエイト76が前記最大拡開位置から前記休止位置に向かって移動し、クラッチ70は接続完了状態から半接続状態を経て非接続状態になり、入力回転速度Niで回転していたクラッチアウタ72およびキャリア40は、入力回転速度Niが変速比r1で減速された回転速度で回転する。押圧部材175 およびサンギヤ130 の右方への移動は、押圧部材175 およびサンギヤ130 の移動量を規制するストッパ135がキャリア40の内方軸部44bの左方の端部に当接することで阻止される。
この状態で、変速機Mは、変速ユニットM1による変速比r1に等しい3速変速比R3を確立する。
【0079】
また、制御装置13は、2速変速比R2から3速変速比R3への移行時に、クラッチ接続状態検出手段13bにより両クラッチ70,170 の少なくとも一方が半接続状態になって該半接続状態が継続している時間が所定時間を超えたことを時間検出手段13cが検出したときに、回転速度制御手段であるスロットル弁8a、燃料噴射弁9および点火装置10の少なくとも1つにより、吸気量、燃料供給量および点火時期およびの少なくとも1つの出力制御量を制御することにより、半接続状態にあるクラッチ170 が接続完了状態に、または半接続状態にあるクラッチ70が非接続状態になる入力回転速度Niに移行すべく、入力回転速度Niが増加するように該入力回転速度Niを変更するので、クラッチ70またはクラッチ170 の半接続状態が速やかに解消されて、2速変速比R2から3速変速比R3への移行が早められる。
逆に、3速変速比R3から2速変速比R2への移行時には、制御装置13が制御する前記回転速度制御手段は、半接続状態にあるクラッチ70が接続完了状態に、または半接続状態にあるクラッチ170 が非接続状態になる入力回転速度Niに移行すべく、入力回転速度Niが減少するように該入力回転速度Niを変更する。
【0080】
同様に、1速変速比R1から2速変速比R2への移行時、3速変速比R3から4速変速比R4への移行時に、クラッチ接続状態検出手段13bにより検出されるクラッチ70の半接続状態の継続時間が所定時間を超えたことを時間検出手段13cが検出したときに、制御装置13は、前記回転速度制御手段を制御することにより、クラッチ70が接続完了状態になる入力回転速度Niに移行すべく、入力回転速度Niが増加するように該入力回転速度Ni変更し、また、2速変速比R2から1速変速比R1への移行時、4速変速比R4から3速変速比R3への移行時に、クラッチ接続状態検出手段13bにより検出されるクラッチ70の半接続状態の継続時間が所定時間を超えたことを時間検出手段13cが検出したときに、制御装置13は、前記回転速度制御手段を制御することにより、クラッチ70が非接続状態になる入力回転速度Niに移行すべく、前記回転速度制御手段により入力回転速度Niが減少するように該入力回転速度Niが変更される。
【0081】
図5(d)を主として参照すると、入力回転速度Niが、第3所定速度N3を超えるとき、変速ユニットM2においては、遊星ギヤ機構P2およびクラッチ170 は、前述の3速変速比R3が確立されているときと同様の状態にある。
一方、変速ユニットM1において、押圧力F2cにより第1,第2中間伝達部材37,38が右方に付勢されている状態で、バネ部材39aのバネ力により接続解除方向である右方に付勢されている押圧部材75が、入力回転速度Niに応じたキャリア40の回転速度の増加により、クラッチ70では、押圧力F1cがバネ部材39aのバネ力に打ち勝って遠心ウエイト76が拡開する。そして、遠心ウエイト76が前記最大拡開位置を占め、押圧部材75がリングギヤ50を左方に移動させると共にクラッチ板73,74,を互いに接触するように押し付けて、クラッチ70が接続完了状態になる。このため、変速比r1が1、すなわち変速ユニットM1が直結状態になる。
そして、両変速ユニットM1,M2による両変速比r1,r2が共に1になるため、変速機Mは直結状態になって最小変速比である4速変速比R4が確立され、出力軸23は入力回転速度Niで回転する。
【0082】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
変速機Mが、遊星ギヤ機構P1のサンギヤ30とキャリア40の遊星ギヤ41との噛合により発生する軸方向力F1bが作用するサンギヤ30と、遊星ギヤ機構P2のリングギヤ150 とキャリア140 の遊星ギヤ141 との噛合により発生する軸方向力F2bが作用するキャリア140 とが、軸方向で互いに反対方向から押圧する1つのスラスト受け部46を備え、該スラスト受け部46は、軸方向でサンギヤ30の押圧部34とキャリア140 の押圧部153との間に配置されることにより、遊星ギヤ機構P1,P2を備える変速ユニットM1,M2において、遊星ギヤ機構P1,P2での噛合により発生する軸方向力F1b,F2bが作用するサンギヤ30およびキャリア140 の軸方向移動が共通の1つのスラスト受け部46で阻止されるので、遊星ギヤ機構P1,P2に対してスラスト受け部46が共用化されて、部品点数の削減によるコスト削減が可能になる。
また、軸方向力F1b,F2bがそれぞれ作用するサンギヤ30およびキャリア140 が、共通のスラスト受け部46を軸方向で互いに反対方向から押圧することから、1つのスラスト受け部46において両軸方向力F1b,F2bは、その合力が小さくなるように互いに打ち消し合うので、スラスト受け部46の構造を簡単化できる。
【0083】
リング状部材であるスラスト受け部46は、キャリア40の内方軸部44bのみに設けられ、サンギヤ30およびキャリア140 は、軸方向でスラスト受け部46の両側にそれぞれ配置されることにより、スラスト受け部46は、変速ユニットM1で変速された回転を変速ユニットM2に入力する一次出力回転体としての内方軸部44bのみを利用して設けることができるので、スラスト受け部46を支持するために、内方軸部44b以外の部材が不要になって、部品点数を削減でき、また変速機Mの構造を簡素化できる。
また、サンギヤ30およびキャリア140 は、軸方向でスラスト受け部46に両側に配置されるので、サンギヤ30およびキャリア140 を軸方向でコンパクトに配置できて、ひいては両変速ユニットM1,M2を軸方向でコンパクトに配置できる。
【0084】
スラスト受け部46は、サンギヤ30およびキャリア140 の一方向A1での回転を阻止する一方向クラッチ80,180 のアウタ部材Tに囲まれた空間S1内に配置されることにより、スラスト受け部46が、サンギヤ30およびキャリア140 の回転方向を規制する一方向クラッチ80,180 のアウタ部材Tにより形成された空間S1を利用して配置されるので、サンギヤ30およびキャリア140 を軸方向でコンパクトに配置できる。
【0085】
変速機Mにおいて、遊星ギヤ機構P1の噛合部H1および遊星ギヤ機構P2の噛合部H2は、軸方向で互いに離隔しているクラッチ70の押圧部材75およびクラッチ170 の押圧部材175 と、両押圧部材75,175 の間で(すなわち、軸方向での両押圧部材75,175 の内側で)軸方向に延びている周壁を構成する両キャリア40,140 の外方軸部45b,146 および一方向クラッチ80,180 のアウタ部材Tとにより形成される1つのギヤ室19に収容され、遊星ギヤ機構P1のリングギヤ50は、軸方向で押圧部材75と噛合部H1との間に位置するギヤ側壁54を有し、遊星ギヤ機構P2のサンギヤ130 は、軸方向で押圧部材175 と噛合部H2との間に位置するギヤ側壁133を有し、押圧部材75およびギヤ側壁54と、押圧部材175 およびギヤ側壁133とが、それぞれ、軸方向から見て両噛合部H1,H2が含まれる径方向範囲で二重壁を構成する。
この構造により、一次,二次遊星ギヤ機構P1,P2および一次,二次クラッチ70,170 を備える一次,二次変速ユニットM1,M2が共通の1つのギヤ室19に収容されるので、両変速ユニットM1,M2の構成部材の共用化が可能になって、部品点数の削減によるコスト削減が可能になる。さらに、該構成部材の共用化により、該構成部材の配置のコンパクト化が可能になって、変速機Mの小型化が可能になる。
また、クランクケース3内であって、かつ変速機ハウジング16内に形成される1つのギヤ室19に収容される両噛合部H1,H2は、径方向外方からは両外方軸部45b,146 およびアウタ部材Tにより覆われ、軸方向での両側方からは、両変速ユニットM1,M2の構成部材を利用することで、押圧部材75およびギヤ側壁54により形成される二重壁と、押圧部材175 およびギヤ側壁133により形成される二重壁とにより覆われるので、両外方軸部45b,146 およびアウタ部材Tによる騒音低減効果に加えて、軸方向での側壁の二重壁構造により、各噛合部H1,H2の噛合に起因する騒音低減効果を向上できる。
【0086】
両噛合部H1,H2を径方向外方から覆う前記周壁が、両遊星ギヤ機構P1,P2の各キャリア40,140 の外方軸部45b,146 と、両一方向クラッチ80,180 が有する共通の部材であるアウタ部材Tとにより構成されることにより、両変速ユニットM1,M2の構成部材を利用して形成されるギヤ室19の前記周壁が、両遊星ギヤ機構P1,P2の各キャリア40,140 を利用した一次,二次ギヤ周壁としての外方軸部45b,146 のほかに、両一方向クラッチ80,180 に共通の構成部材である外周壁であるアウタ部材Tにより構成されるので、両変速ユニットM1,M2が備える両一方向クラッチ80,180 の構成部材の共用化により、ギヤ室19を形成する前記周壁の構造が簡単化され、構成部材の配置のコンパクト化に寄与でき、さらに両一方向クラッチ80,180 の配置をコンパクト化できる。
【0087】
変速比制御機構C1は、接離可能な複数のクラッチ板73,74を入力軸20の回転速度Niに応じて接離させる押圧部材75を備えるクラッチ70を備え、変速比制御機構C2は、接離可能な複数のクラッチ板173 ,174 をキャリア40の一次出力回転速度Naに応じて接離させる押圧部材175 を備えるクラッチ170 を備え、ギヤ室19を形成する軸方向での両側壁が、両クラッチ70,170 の押圧部材75,175 によりそれぞれ構成されることにより、ギヤ室19の二重壁の外側の壁を、両クラッチ70,170 の両押圧部材75,175 を利用して構成できるので、騒音低減のために遊星ギヤ機構P1,P2のリングギヤ40,サンギヤ130 など、一次,二次要素ギヤを径方向で大型化させることなく、両噛合部H1,H2の噛合に起因する騒音を低減できる。
【0088】
変速ユニットM1,M2による変速比Rで得られた回転を出力軸23に入力する二次出力回転体がクラッチ170 の押圧部材175 であることにより、クラッチ170 の接続状態を制御する押圧部材175 が、各噛合部H1,H2の噛合に起因する騒音の低減機能および出力軸23への回転の伝達機能を行うので、部品点数を削減できる。
【0089】
変速機Mにおいて、一方向クラッチ80,180 は、軸方向で、遊星ギヤ機構P1の噛合部H1および遊星ギヤ機構P2の噛合部H2の間に配置された共通のアウタ部材Tを備えることにより、遊星ギヤ機構P1,P2および変速比制御機構C1,C2を備える変速ユニットM1,M2において、一方向クラッチ80,180 が、軸方向での両噛合部H1,H2の間に形成されるスペースを利用して配置された共通の回転規制部材としてのアウタ部材Tを備えるので、一方向クラッチ80,180 の構成部材の共用化が可能になって、部品点数の削減によるコスト削減が可能になる。
【0090】
遊星ギヤ機構P1のサンギヤ30および遊星ギヤ機構P2のリングギヤ150 の軸方向移動を規制する規制部材60を備え、アウタ部材Tは、変速機ハウジング16に固定して設けられる該規制部材60に固定されることにより、遊星ギヤ機構P1,P2において、サンギヤ30およびリングギヤ150 の軸方向での移動を規制する規制部材60を利用して、アウタ部材Tが固定されるので、アウタ部材Tを支持するための専用の支持部材が不要になって、部品点数の削減が可能になる。
【0091】
変速機Mが、遊星ギヤ機構P1のキャリア40および遊星ギヤ機構P2のキャリア140 の軸方向移動を規制する共通の規制部材60を備え、該規制部材60は、キャリア40の、軸方向での両方向での移動を規制する支持フランジ61bと、キャリア140 の、軸方向での両方向での移動を規制する支持フランジ62bとを有することにより、遊星ギヤ機構P1,P2および変速比制御機構C1,C2を備える変速ユニットM1,M2において、遊星ギヤ機構P1,P2の両キャリア40,140 の軸方向移動が、共通の規制部材60により規制されるので、遊星ギヤ機構P1,P2に対して規制部材60が共用化されて、部品点数の削減によるコスト削減が可能になる。
また、両キャリア40,140 は、それぞれ別個の支持フランジ61b,62bにより、軸方向での両方向での軸方向移動を規制できるので、規制部材60により軸方向移動が規制される両キャリア40,140 の配置の自由度を大きくできる。
【0092】
規制部材60は、第1支持フランジ61bを有する第1規制部材61と、第2支持フランジ62bを有する第2規制部材62とから構成され、第1規制部材61および第2規制部材62は、互いに結合された状態で変速機ハウジング16に設けられた取付部16aに取り付けられることにより、第1,第2規制部材61,62が一体化された状態で変速機ハウジング16に取り付けられるので、規制部材60の取付け構造が簡単化される。
【0093】
第1,第2規制部材61,62のそれぞれは、軸方向に延びている筒部61a,62aと、軸方向での筒部61a,62aの先端側から径方向に延びている支持フランジ61b,62bと、軸方向での筒部61a,62aの基端側で径方向に延びている基端フランジ61c,62cとを有し、第1,第2規制部材61,62の基端フランジ61c,62c同士が結合された状態で取付部16aに取り付けられることにより、筒部61a,62aおよび支持フランジ61b,62bを有する第1,第2規制部材61,62が基部フランジ61c,62cで互いに結合されて構成されるので、規制部材が平板状部材である場合に比べて、規制部材60の剛性が高められ、また剛性が高いことにより、加工が容易な薄肉の材料で規制部材60を形成できる。
【0094】
規制部材60は、一方向クラッチ80,180 のアウタ部材Tを支持する支持部材65と共に変速機ハウジング16に取り付けられることにより、一方向クラッチ80,180 のアウタ部材Tを支持する支持部材65と共に規制部材60が変速機ハウジング16に取り付けられるので、部品点数、取付け個所が少なくなり、規制部材60および支持部材65の取付け構造が簡素化される。
【0095】
変速機Mにおいて、変速ユニットM1のクラッチ70は、互いに接離可能な複数のクラッチ板73,74と、入力回転速度Niに応じて発生する遠心力の増加時に複数のクラッチ板73,74を互いに接触させる遠心ウエイト76 とを備え、変速ユニットM2のクラッチ170 は、互いに接離可能な複数のクラッチ板173 ,174 と、変速ユニットM1の一次出力回転速度Naに応じて発生する遠心力の増加時に複数のクラッチ板173 ,174 を互いに接触させる遠心ウエイト176 とを備え、内燃機関Eが備える制御装置13は、クラッチ70およびクラッチ170 の少なくとも一方が半接続状態にあることを検出するクラッチ接続状態検出手段13bと、クラッチ接続状態検出手段13bにより検出された半接続状態の継続時間を検出する時間検出手段13cとを備え、制御装置13は、時間検出手段13cにより検出された継続時間が所定時間を超えたとき、入力回転速度Niを変更して半接続状態を解消する回転速度に移行させるべく、入力回転速度Niを制御する前記回転速度制御手段を制御することにより、両クラッチ70,170 の少なくとも一方が半接続状態が所定時間継続したときに、制御装置13が制御する該回転速度制御手段により、接続完了状態になるように入力軸20の回転速度Niが変更されるので、半接続状態でのクラッチ板73,74,173 ,174 同士の滑り状態が早期に解除される。この結果、クラッチ板73,74,173 ,174 の摩耗が抑制されて、遠心式クラッチ70,170 の耐久性を向上でき、また走行性が良好になって運転フィーリングを向上できる。
【0096】
遠心ウエイト176 は、クラッチ170 を非接続状態から接続完了状態に移行させる過程で、クラッチ70を接続完了状態から非接続状態に移行させることにより、クラッチ170 が非接続状態から接続完了状態に移行する途中での半接続状態、およびクラッチ70が接続完了状態から非接続状態に移行する途中での半接続状態を早期に解消できるので、各クラッチ70,170 の耐久性を向上でき、また走行性が良好になって運転フィーリングを向上できる。
また、クラッチ170 が接続完了状態になって変速比r2が変更される際に、接続完了状態にあるクラッチ70が非接続状態になることにより、クラッチ170 が接続完了状態のときの二次変速比r2とクラッチ70が非接続状態のときの変速比r1との組み合わせによる変速比が得られる。この結果、接続完了状態にあるクラッチ70が入力回転速度Niの増加時に非接続状態にならない変速機に比べて、変速機Mで確立される変速比の数を、より少ない数の遊星ギヤ機構により得ることができる。
【0097】
クラッチ接続状態検出手段13bは、実際の入力回転速度Niおよび出力軸23の実際の出力回転速度Noに基づいて算出される実変速と予め設定された設定変速比とに基づいて変速状態を検出する変速状態検出手段であることにより、各クラッチ70,170 の半接続状態が実際の変速比である実変速比を通じて検出されるので、半接続状態を解消するための制御精度が向上する。
【0098】
回転速度制御手段は、スロットル弁8a、燃料噴射弁9または点火装置10であり、内燃機関Eの吸気量、燃料供給量および点火時期の少なくとも1つの出力制御量を制御することで制御される機関回転速度を制御することにより、入力軸20の回転速度Niを制御することで、各クラッチ70,170 の半接続状態を解消できる。
例えば、制御装置13は、クラッチ接続状態検出手段13bの検出結果に基づいて、半接続状態にないときの機関回転速度と、半接続状態のときの機関回転速度を比較して、半接続状態での機関回転速度が大きいとき(または、小さいとき)、シフトアップ方向(または、シフトダウン方向)に移行中であると判定して、スロットル弁8a、燃料噴射弁9または点火装置10の少なくとも1つを制御することにより、吸気量、燃料供給量および点火時期の少なくとも1つを制御して、クラッチ70またはクラッチ170 が半接続状態を脱するまで機関回転速度を増加(または減少)させる。
【0099】
変速機Mにおいて、変速比制御機構C1,C2は、一方向クラッチ80,180 を備え、回転伝達経路での入力軸20と出力軸23との間に、出力回転速度Noが入力回転速度Niを超えたときにのみ出力軸23の回転を入力軸20に伝達する一方向クラッチ25を備えることにより、後輪98の回転が出力軸23を通じて入力軸20を回転駆動するときである自動二輪車の減速時に、出力軸23の回転が、遊星ギヤ機構P1,P2をバイパスして、一方向クラッチ25を介して入力軸20に伝達される。この結果、変速機Mが直結状態になる4速変速比R4以外の変速比R1〜R3においてもエンジンブレーキを機能させることができ、したがって全ての変速段(または変速比R1〜R4)においてエンジンブレーキを機能させることができる。
【0100】
入力軸20および遊星ギヤ機構P1,P2は、出力軸23にその径方向外方で回転可能に支持され、入力軸20の軸端部21aには、軸方向に開口した拡径部が設けられ、一方向クラッチ25は該拡径部の径方向内方に配置されることにより、一方向クラッチ25は、入力軸20の軸端部21aに設けられ、しかも軸方向に開口した前記拡径部に対して着脱されるので、一方向クラッチ25の着脱が容易になる。
【0101】
変速機Mにおいて、出力軸23は、二次変速ユニットM2から軸方向に延出している延出軸部27を有し、出力側伝動機構90は、変速ユニットM2との間に軸方向での所定範囲Wに渡って延出軸部27の周囲に、延出軸部27の外周面を囲む空間S2を形成する位置で延出軸部27に設けられた出力ギヤ92と、出力取出軸91に設けられて出力ギヤ92により駆動される被動ギヤ93と、出力ギヤ92の回転を出力取出軸91に対して伝達および遮断するニュートラルクラッチ95とを備え、出力取出軸91の全体は、軸方向から見て変速ユニットM2と重なる位置に配置され、ニュートラルクラッチ95は、軸方向で所定範囲Wに配置されることにより、延出軸部27の径方向外方に形成される空間S2を利用することにより、軸方向から見て変速ユニットM2と重なる位置に配置される出力取出軸91を径方向で出力軸23に近接した位置に配置することができ、また、ニュートラルクラッチ95を径方向で出力軸23に近接して配置することができるので、出力取出軸91およびニュートラルクラッチ95を備える出力側伝動機構90を径方向で出力軸23に近接させてコンパクトに配置することができ、変速機Mを径方向で小型化できる。
【0102】
変速ユニットUは、一次遊星ギヤ機構P1および一次変速比制御機構C1を備える一次変速ユニットM1と、二次遊星ギヤ機構P2および二次変速比制御機構C2を備える二次変速ユニットM2とから構成され、出力軸23には、二次変速ユニットM2の押圧部材175の回転が入力され、一次変速比制御機構C1は、サンギヤ30の一方向への回転を阻止する一次一方向クラッチ80を備え、二次変速比制御機構C2は、リングギヤ150の一方向への回転を阻止する二次一方向クラッチ180を備え、両一方向クラッチ80,180は、軸方向で、一次遊星ギヤ機構P1の一次噛合部H1および二次遊星ギヤ機構P2の二次噛合部H2の間に配置された共通の回転規制部材としてのアウタ部材Tを備える。
この構造により、一次,二次遊星ギヤ機構P1,P2および一次,二次変速比制御機構C1,C2を備える一次,二次変速ユニットM1,M2において、一次,二次一方向クラッチ80,180が、軸方向での一次,二次噛合部H1,H2の間に形成されるスペースを利用して配置された共通のアウタ部材Tを備えるので、別々のアウタ部材を備える一次,二次一方向クラッチが軸方向で一次,二次遊星ギヤ機構の外側に振り分けられて配置される変速機に比べて、変速機Mにおいて両変速ユニットM1,M2を軸方向でコンパクトに配置でき、したがって変速ユニットM2から延出している延出軸部27の長さに依存する前記所定範囲Wに配置されるニュートラルクラッチ95を、軸方向でコンパクトに配置できる。
【0103】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した形態について、変更した構成に関して説明する。
変速機Mは、前記実施形態では2つの変速ユニットM1,M2を備えていたが、2以外の複数の同様の変速ユニットM1,M2を備えていてもよく、その場合には、少なくとも2つの変速ユニットM1,M2に関して本発明が適用される。
変速機の主軸は、入力軸または出力軸の回転中心線と同軸または平行な中心軸線を有すると共に変速ユニットを支持する支持軸であってもよく、また該支持軸は回転しない軸であってもよい。
一次遊星ギヤ機構において、第1一次要素ギヤがサンギヤであり、第2一次要素ギヤがリングギヤであってもよく、二次遊星ギヤ機構において、第1二次要素ギヤがリングギヤであり、第2二次要素ギヤがサンギヤであってもよい。
各押圧部材75,175 を駆動する駆動部材は、遠心ウエイト76,176 の代わりに、油圧などを利用した圧力式アクチュエータまたは電磁気式アクチュエータで構成されてもよい。
クラッチ70,170の接続解除力は、遠心ウエイト76,176が前記休止位置を占めるように遠心ウエイト76,176を付勢するバネのバネ力であってもよい。
規制部材60は1つの部材のみで構成されてもよい。
制御装置13が備えるクラッチ接続状態検出手段13bは、クラッチ70,170 を潤滑する潤滑油の温度を検出するものであってもよい。例えば、両クラッチ70,170の少なくとも一方が滑っているときには、潤滑油の温度が上昇することから、制御装置13が備える温度センサにより検出される潤滑油の温度に基づいて、潤滑油の温度が所定温度よりも高いとき、または潤滑油の温度の上昇率が所定値よりも大きいときに、クラッチ接続状態検出手段13bは各クラッチ70,170 の半接続状態を検出する。そして、この場合には、潤滑油の温度を検出する温度センサを、各クラッチ70,170 の半接続状態を検出するために利用できるので、部品点数の削減によるコスト削減が可能になる。
内燃機関Eは、複数のシリンダを備える多気筒機関であってもよい。
原動機は、内燃機関以外のものであってもよく、例えば電動モータでもよい。
【符号の説明】
【0104】
6…クランク軸、9…燃料噴射弁、10…点火装置、13…制御装置、13b…クラッチ接続状態検出手段、13c…時間検出手段、16…変速機ハウジング、20…入力軸、23…出力軸、25…一方向クラッチ、27…延出軸部、30,130 …サンギヤ、40,140…キャリア、41,141 …遊星ギヤ、46…スラスト受け部、50,150 …リングギヤ、60…規制部材、65…支持部材、70,170…クラッチ、75,175 …押圧部材、76,176 …遠心ウエイト、80,180 …一方向クラッチ、90…出力側伝動機構、91…出力取出軸、95…ニュートラルクラッチ、
M…自動変速機、E…内燃機関、P1,P2…遊星ギヤ機構、M1,M2…変速ユニット、C1,C2…変速比制御機構、F1a,F1b,F2a,F2b…軸方向力、H1,H2…噛合部、F1c,F2c…押圧力、T…アウタ部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により回転駆動される入力軸と、
ヘリカルギヤからなるサンギヤ、ヘリカルギヤからなる遊星ギヤを支持するキャリアおよびヘリカルギヤからなるリングギヤである3つの一次要素ギヤを有する一次遊星ギヤ機構と、前記入力軸の回転が入力される前記一次遊星ギヤ機構による一次変速比を制御する一次変速比制御機構とを備える一次変速ユニットと、
ヘリカルギヤからなるサンギヤ、ヘリカルギヤからなる遊星ギヤを支持するキャリアおよびヘリカルギヤからなるリングギヤである3つの二次要素ギヤを有する二次遊星ギヤ機構と、前記一次変速ユニットの一次出力回転体の回転が入力される前記二次遊星ギヤ機構による二次変速比を制御する二次変速比制御機構とを備える二次変速ユニットと、
前記二次変速ユニットの二次出力回転体の回転が入力される出力軸と
を備える自動変速機において、
前記3つの一次要素ギヤのうちの第2一次要素ギヤと第3一次要素ギヤとの噛合により発生する一次軸方向力が作用する前記第2一次要素ギヤと、前記3つの二次要素ギヤのうちの第2二次要素ギヤと第3二次要素ギヤとの噛合により発生する二次軸方向力が作用する前記第2二次要素ギヤとが、軸方向で互いに反対方向から押圧する1つのスラスト受け部を備え、
前記スラスト受け部は、軸方向で前記第2一次要素ギヤの押圧部と前記第2二次要素ギヤの押圧部との間に配置されることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機において、
前記スラスト受け部は、前記一次出力回転体のみに設けられ、
前記第2一次要素ギヤおよび前記第2二次要素ギヤは、軸方向で前記スラスト受け部の両側にそれぞれ配置されることを特徴とする自動変速機。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動変速機において、
前記スラスト受け部は、前記第2一次要素ギヤおよび前記第2二次要素ギヤの一方向での回転を阻止する一方向クラッチのアウタ部材に囲まれた空間内に配置されることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−223270(P2010−223270A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69027(P2009−69027)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】