説明

遊星歯車の潤滑装置

【課題】遊星歯車の軸受を潤滑する潤滑油が遠心力の影響を受けて偏在する問題を解決し、軸受全体にわたり十分な潤滑油が行き渡るようにすることを課題とする。
【解決手段】遊星歯車15とその支持軸16との間に転がり軸受19が介在され、前記支持軸16に軸方向の一端面が開放された給油溜り27が設けられ、前記給油溜り27の周壁に設けた給油ガイド穴29を前記転がり軸受19の内輪21に設けた給油穴26に連通させ、前記給油溜り27に対向して設置された外部の給油ノズル31から潤滑油を給油溜り27に向けて噴射するようにした遊星歯車の潤滑装置において、前記転がり軸受19の外輪20の内径面に、羽根付きの潤滑油移動部材32を取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般産業機械に使用される遊星歯車の潤滑装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車減速機における遊星歯車の軸受の潤滑装置として、従来から特許文献1に開示されたものが知られている。遊星歯車減速機は、用途に応じて縦軸型または横軸型があるが、特許文献1の場合は縦軸型である。この遊星歯車減速機は、入力軸に太陽歯車が設けられ、その太陽歯車とその周りに固定された内歯歯車との間に遊星歯車が介在されている。その遊星歯車の支持軸と一体のキャリヤが出力軸と一体化されている。
【0003】
前記遊星歯車は、支持軸の周りに介在された転がり軸受を介して自転しつつ太陽歯車の周りを公転し、キャリヤを介して出力軸を公転速度で減速回転させる。
【0004】
この場合の遊星歯車の潤滑装置は、遊星歯車の転がり軸受の上方に外部の給油ノズルが下向きに設置され、自転しつつ公転する遊星歯車の転がり軸受の上方から下向きに潤滑油を噴射するようにしている。軸受外輪に環状の捕捉部材(オイルスクープリング)が設けられ、軸受に向けて噴射された潤滑油を受け止め、転がり軸受の内部に向けて送りこむようにしている。
【0005】
また、従来公知の一般的な転がり軸受の潤滑構造として、転がり軸受の支持軸に設けた給油通路の終端部を径方向外向きに屈曲し、複列の軸受間に介在された内輪間座の給油穴に連通させ、その給油穴から軸受内部に潤滑油を供給するようにしたものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−101333号公報(図4)
【特許文献2】特開2008−19948号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された潤滑装置においては、遊星歯車が自転しつつ公転しているため、給油ノズルから供給された潤滑油が、公転による遠心力の影響を受けて、遊星歯車を支持する転がり軸受の内部においては、公転中心から遠い部分に片寄って溜まり、近い部分においては潤滑油が不足するという潤滑油の偏在が生じる。その結果、公転中心に近い部分においては潤滑が不十分になる問題がある。
【0008】
また、特許文献2のように、支持軸側から軸受内部に給油する構造をとることは、遊星歯車減速機においては支持軸が回転する構造であるので、支持軸側からの給油が困難となる。
【0009】
そこで、この発明は、遊星歯車の軸受を潤滑する潤滑油が遠心力の影響を受けて偏在する問題を解決し、軸受全体にわたり十分な潤滑油が行き渡るようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、この発明は、遊星歯車とその支持軸との間に転がり軸受が介在され、前記支持軸に軸方向の一端面が開放された給油溜りが設けられ、前記給油溜りの周壁に設けた給油ガイド穴を前記転がり軸受の内輪に設けた給油穴に連通させ、前記給油溜りに対向して設置された外部の給油ノズルから潤滑油を給油溜りに向けて噴射するようにした遊星歯車の潤滑装置において、前記転がり軸受の外輪の内径面に、潤滑油移動部材を取り付けた構成とした。
【0011】
前記の潤滑油移動部材としては、例えば、取付けリングの内径面に周方向に所定の間隔をおいて羽根を設けたものを用いることができる。
【0012】
前記の潤滑油移動部材は、遊星歯車と一体に回転し、その自転による回転によって軸受内に溜まった潤滑油を不足する部分に移動させ、潤滑油の偏在を解消する。
【発明の効果】
【0013】
この発明においては、遊星歯車と一体に回転する潤滑油移動部材を転がり軸受の外輪内径面に設けたことにより、遠心力の影響によって公転中心から遠い部分に溜まった潤滑油を不足する部分に移動させることができる。その結果、潤滑油の偏在が解消され、遊星歯車を支持する転がり軸受の潤滑性を向上させる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態1の一部省略正面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図3】図3(a)は、潤滑油移動部材の正面図、図3(b)は、図3(a)のX2−X2線の断面図である。
【図4】図4(a)は、他の潤滑油移動部材の正面図、図4(b)は、図4(a)のX3−X3線の断面図である。
【図5】図5(a)から(c)は、他の潤滑油移動部材の諸例を示す一部拡大正面図である。
【図6】図6(a)は、他の潤滑油移動部材の正面図、図6(b)は、図6(a)のX4−X4線の断面図である。
【図7】図7(a)は、他の潤滑油移動部材の一部拡大縦断正面図、図7(b)は、図7(a)のX5−X5線の断面図である。
【図8】図8は、実施形態1の変形例の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0016】
図1および図2に示した実施形態1の遊星歯車減速機11は、入力軸12の一端部に同芯状態に設けられた太陽歯車13、その太陽歯車13の周りに同芯状態に固定された内歯歯車14、太陽歯車13と内歯歯車14の間に介在された1以上の遊星歯車15、遊星歯車15を支持する支持軸16、支持軸16の一端部と一体化された径方向のキャリヤ17、そのキャリヤ17の他端部に一体化され前記入力軸12と同芯状態に配置された出力軸18(図2参照)とにより構成される。
【0017】
前記の遊星歯車15とその支持軸16との間に転がり軸受19が介在される。この転がり軸受19は、支持軸16の外径面に嵌合固定された内輪21、遊星歯車15の内径側に一体化された外輪20、前記内輪21の外径面に形成された2列の軌道面22と外輪20の内径面に形成された円弧状の軌道面23との間に介在された2列のたる形のころ24、そのころ24の保持器25とからなる自動調心ころ軸受19aである。
【0018】
前記内輪21の周方向4等分位置に径方向の給油穴26が設けられ、各給油穴26は2列の軌道面22の間に開口される。
【0019】
前記の支持軸16の一方の端面、即ち、入力軸12が突き出す方向の端面に開放された給油溜り27が設けられる。給油溜り27の周壁部分の周方向4等分位置に径方向の穴による給油ガイド穴29が設けられる。各給油ガイド穴29は前記の給油穴26の位置と合致し径方向に連通する。前記給油溜り27の開口面の中心上の外部に、給油溜り27に対向した給油ノズル31が設置される。
【0020】
前記外輪20の軌道面23の中央部において左右のころ24間に存在するすき間に環状の潤滑油移動部材32が取り付けられる。潤滑油移動部材32は、図3(a)(b)に示したように、取付けリング33と、その取付けリング33の内径面に周方向に一定間隔をおいて内径方向に突き出すように設けられた多数の羽根34とにより構成される。羽根34は、取付けリング33の幅(軸方向長さ)と一致する幅と所定の厚さを有したストレート形状のものであり、両側辺はテーパ状に形成されている。
【0021】
前記軌道面23のすき間部分に周方向の取付け溝35(図2参照)が設けられ、その取付け溝35に前記の取付けリング33が嵌合固定されることにより、潤滑油移動部材32が外輪20の内径面に固定され、羽根34が両側のころ24の間において内径方向にストレートに突き出す。羽根34の幅や長さは、ころ24や保持器25に干渉しない範囲に設定される。
【0022】
前記羽根34のその他の例として、回転方向の面がV字形に屈曲しているもの(図4(a)(b)参照)、回転方向に湾曲しているもの(図5(a)参照)、先端部36が回転方向に屈曲しているもの(図5(b)参照)、回転方向の面に囲み面37が設けられ箱形になっているもの(図5(c)参照)等がある。また、ストレート形状の羽根34で回転方向に対して傾斜角θをもつものもある(図6参照)。
【0023】
このうち、回転方向の面がV字形に屈曲しているもの(図4(a)(b)参照)、回転方向に湾曲しているもの(図5(a)参照)、先端部36が回転方向に屈曲しているもの(図5(b)参照)、回転方向の面に囲み面37が設けられ箱形になっているもの(図5(c)参照)は、いずれも回転方向の面に凹入部38が形成されるので、効率よく潤滑油を移動することができる。
【0024】
通常、潤滑油移動部材32は樹脂製であるが、金属製でもよく、また取付けリング33を金属、羽根34を樹脂(たとえば、PTFE)によって形成してもよい。また、羽根34に潤滑油をスムーズに移動させ得るように、撥油剤を塗布する場合もある。
【0025】
また、取付けリング33を用いることなく、図7(a)(b)に示したように、
羽根34を直接外輪20の内径面に取り付けてもよい。この場合の羽根34は、その根元に固定基部39とその固定基部39の反対面に突起40が設けられる。
【0026】
外輪20の内径面には、全周にわたり前記の場合と同様の取付け溝35が設けられ、その取付け溝35の溝底に周方向に一定間隔をおいて固定穴41が設けられる。その固定穴41の部分において、羽根34の固定基部39を取付け溝35に密に嵌合させるとともに、突起40も固定穴41に密に嵌合させ、接着剤等によって固定する。
【0027】
以上の説明は、遊星歯車15を支持する転がり軸受19が、自動調心ころ軸受19aの場合についてのものであるが、この転がり軸受19として、図8に示したように、複列の円筒ころ軸受19b、19bを使用する場合もある。この場合は、両方の円筒ころ軸受19b、19bの各内輪21aの相互間に間座42が介在され、その間座42に給油穴26が設けられ、その給油穴26が支持軸16の給油ガイド穴29と連通される。外輪20の軌道面23の中間部分に周方向の取付け溝35が設けられ、その取付け溝35に潤滑油移動部材32が固定されることは、前記の場合と同様である。
【0028】
実施形態1の遊星歯車減速機11における遊星歯車15の潤滑装置は以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0029】
遊星歯車減速機11は、入力軸12に加えられた回転トルクによって、太陽歯車13が回転すると、太陽歯車13と内歯歯車14との間で遊星歯車15が自転し(図1の矢印a参照)、同時に公転する(同矢印b参照)。遊星歯車15の公転によりキャリヤ17を介して出力軸18に減速回転が出力される。入出力の方向を逆にすれば増速機となる。
【0030】
前記の作動中、給油ノズル31から給油溜り27に向けて潤滑油が噴射される。給油溜り27内に入った潤滑油は、遊星歯車15の公転に伴う遠心力により、公転中心P(図1参照)から遠い給油溜り27の内周壁28に沿うように片寄り、公転中心Pに近い内周壁28の部分には潤滑油が少なくなる潤滑油の偏在が生じる。
【0031】
しかし、この実施形態1の場合は、遊星歯車15と一体に自転する潤滑油移動部材32の羽根34が、潤滑油をその羽根34の前面で押しながら回転するので、公転中心Pから遠い内周壁28に沿った部分に溜まった潤滑油を反対側の内周壁28の方へ移動させる。これにより潤滑油の偏在が解消され、すべての給油ガイド穴29、給油穴26を経て転がり軸受19の内部に潤滑油が供給される。
【符号の説明】
【0032】
11 遊星歯車減速機
12 入力軸
13 太陽歯車
14 内歯歯車
15 遊星歯車
16 支持軸
17 キャリヤ
18 出力軸
19 転がり軸受
19a 自動調心ころ軸受
19b 円筒ころ軸受
20 外輪
21、21a 内輪
22 軌道面
23 軌道面
24 ころ
25 保持器
26 給油穴
27 給油溜り
28 内周壁
29 給油ガイド穴
31 給油ノズル
32 潤滑油移動部材
33 取付けリング
34 羽根
35 取付け溝
36 先端部
37 囲み面
38 凹入部
39 固定基部
40 突起
41 固定穴
42 間座


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車とその支持軸との間に転がり軸受が介在され、前記支持軸に軸方向の一端面が開放された給油溜りが設けられ、前記給油溜りの周壁に設けた給油ガイド穴を前記転がり軸受の内輪に設けた給油穴に連通させ、前記給油溜りに対向して設置された外部の給油ノズルから潤滑油を給油溜りに向けて噴射するようにした遊星歯車の潤滑装置において、前記転がり軸受の外輪の内径面に、潤滑油移動部材を取り付けたことを特徴とする遊星歯車の潤滑装置。
【請求項2】
前記転がり軸受が、自動調心ころ軸受によって構成され、その内輪の2列の内輪軌道面の中間部分に前記の給油穴が設けられ、前記外輪軌道が減速歯車と一体化された外輪の内径面に2列に形成され、その2列の外輪軌道面の間に前記の潤滑油移動部材が取り付けられたことを特徴とする遊星歯車の潤滑装置。
【請求項3】
前記転がり軸受が、複列の円筒ころ軸受によって構成され、各円筒ころ軸受の内輪相互間に間座が介在され、その間座に前記給油穴が設けられ、前記外輪軌道が減速歯車と一体化された外輪の内径面に2列に形成され、その2列の外輪軌道面の間に前記の潤滑油移動部材が取り付けられたことを特徴とする遊星歯車の潤滑装置。
【請求項4】
前記の潤滑油移動部材が、取付けリングと、その取付けリング径面に周方向に所定の間隔をおいて設けられた所要数の羽根とにより構成されたことを特徴とする遊星歯車の潤滑装置。
【請求項5】
前記の潤滑油移動部材が、所要数の羽根により構成され、各羽根が直接前記外輪に取り付けられたことを特徴とする遊星歯車の潤滑装置。
【請求項6】
前記羽根の回転方向の面に凹入部が設けられたことを特徴とする遊星歯車の潤滑装置。
【請求項7】
前記羽根が回転方向に対して傾斜角を有することを特徴とする遊星歯車の潤滑装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−159118(P2012−159118A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17897(P2011−17897)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】