過剰のエポキシレジンを含むエポキシ熱硬化性組成物およびその製造方法
一側面において、本発明で開示する態様は、熱硬化性組成物を硬化させるための方法に関し、該方法は:エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含む硬化性組成物であってストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物を反応させて、未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の背景
開示の分野
本明細書で開示する態様は、一般的に、エポキシ熱硬化性組成物に関する。より詳細には、本明細書で開示する態様は、改善された靭性および/またはより高い耐熱性を有するエポキシ熱硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
エポキシレジンは、最も広く使用されるエンジニアリングレジンの1つであり、そして高強度繊維を有するコンポジットにおけるその使用は周知である。エポキシレジンはガラス状ネットワークを形成し、優れた耐食性および耐溶剤性、良好な接着、合理的に高いガラス転移温度、および適切な電気特性を示す。残念ながら、比較的高いガラス転移温度(>100℃)を有する架橋したガラス状エポキシレジンは脆い。高ガラス転移温度のエポキシレジンの衝撃強さが乏しいことは、構造材料としての、およびコンポジットにおけるエポキシの使用を制限する。
【0003】
架橋したエポキシレジンの衝撃強さ、破壊靱性、延性、更にほとんどの他の物理特性は、化学構造およびエポキシレジンと硬化剤との比によって、任意の添加される巨視的なフィラー、強化剤および他の添加剤によって、そして用いる硬化条件によって、制御される。熱硬化性レジン,例えばエポキシの典型的な性能要求としては、高軟化点(>200℃)、低燃焼性、耐加水分解性、耐化性および耐溶剤性、ならびに誘電強度が挙げられる。
【0004】
エポキシ配合物は、典型的には、ほぼストイキオメトリー量のエポキシレジンを、一般的には少量の過剰エポキシを伴って含有する。過剰量のエポキシレジンを含有する配合物は、一般的には硬化して過剰のエポキシレジンが反応することはなく、よってエポキシレジンが残留して、硬化した組成物中で可塑剤として作用し、しばしば、硬化したレジンの所望の強度、接着、吸湿、耐溶剤性および電気特性の低下をもたらす。
【0005】
例えば、米国特許出願公開第2005021565号は、光硬化性および熱硬化性のレジン組成物であってエポキシ基の比が0.6当量未満のものは残存カルボキシル基が電気絶縁性および耐アルカリ性を低下させるため好ましくないことを開示する。逆に、エポキシ基の比2.0当量超は好ましくない。過剰のエポキシレジンは可塑剤として作用し、結果として、コーティングフィルムの強度が低下するからである。
【0006】
同様に、米国特許第7,060,786号および第6,808,819号は、エポキシ基のフェノール性水酸基に対する比を、0.7〜1.3の範囲内、好ましくは0.8〜1.2の範囲内に制御することで、未反応残留物を最小化でき、よって接着、吸湿および電気特性の経時低下を抑制できることを開示する。米国特許第6,949,19号は、過度に多いエポキシ基が得られる場合、過剰のエポキシレジンが弾性の係数を増大させ、これは可撓性のポリイミドレジン組成物を形成するのに不都合であることを開示する。
【0007】
米国特許第6,469,074号は、シアネートエステル、エポキシレジンおよび酸無水物を含む組成物を開示する。’074特許は、過剰のエポキシレジンが未反応で残存し、ガラス転移温度の低下、吸湿の増大、熱膨張係数の増大を招来する場合があり、そして熱サイクルおよびリフロー信頼性が悪化する場合があることを更に記載する。
【0008】
米国特許第4,393,181号は、最大100パーセントの過剰のエポキシレジンまたは硬化剤のいずれかを硬化性組成物中で採用できることを開示する。同様に、米国特許第4,076,764号は、最大25パーセントの過剰のエポキシレジンまたは硬化剤のいずれかを採用できることを開示する。しかし、これらの特許のいずれも、過剰のエポキシレジンの反応は開示していない。
【0009】
米国特許第4,181,784号は、コーティング組成物を開示し、そして背景において、米国特許第3,969,979号および第4,018,848号(Khannaに付与)を議論し、過剰のエポキシレジンの使用を遠ざける教示(teach away)をしている。Khannaの組成物は、エポキシホスフェートエステルからなり、エポキシレジンおよびリン酸およびポリオール等(これらはホスフェートエステルと反応する)から形成される。これらの組成物は過剰のエポキシレジンを有し、その目的は過剰の酸触媒を硬化反応完了後に使い尽くすことである。Khannaは、例において、得られる硬化レジンがより高温に加熱される場合には、過剰のエポキシが過剰のヒドロキシル官能基と反応して更なるエーテル結合を与えることを教示する。’784特許は、これらの結合が硬化レジンの耐久性に対する悪化作用を有することを示す。更に、過剰のエポキシレジンの硬化は、高温およびゆっくりの手順を、触媒の利点なしで必要とする。これらは低温硬化の間に消費されたからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
改善された靱性および/またはより高い耐熱性を有するエポキシ熱硬化レジンに対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の要約
一側面において、本明細書で開示する態様は、熱硬化性組成物を硬化させる方法に関し、該方法は;エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含む硬化性組成物であってストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物を反応させること;未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;を含む。「中間」生成物に関連して記載するが、中間生成物は単離できる必要はなく、そして用語「中間体」は、詳細には、中間生成物が単離できない場合を包含することを意図する。
【0012】
別の側面において、本明細書で記載する態様は、コンポジットを形成する方法に関し、該方法は:硬化性組成物を基材上に堆積させ、該硬化性組成物が、エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含み、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物であること;エポキシレジンとエポキシ反応性化合物とを反応させて、未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;そして、未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;を含む。
【0013】
他の側面および利点は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての鎖延長ネットワーク(CEN)のNMRスペクトルを比較する。
【図2】図2は、本明細書で開示する態様に係る種々のエポキシレジンについてのアルキルエーテル分岐レベルを示すグラフである。
【図3】図3は、本明細書で開示する態様に係るCENの反応動態を示すグラフである。
【図4】図4は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンのガラス転移温度の比較である。
【図5】図5は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンの密度の比較である。
【図6】図6は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての動的機械温度分析データのグラフの比較である。
【図7】図7は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての動的機械温度分析データのグラフの比較である。
【図8】図8は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての分解温度の比較である。
【図9】図9は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについてのCTEの比較である。
【図10】図10は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての破壊靱性の比較である。
【図11】図11は、フェノール性成分のみのCENおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての引張降伏を比較する。
【図12】図12は、フェノール性成分のみのCENおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての引張降伏を比較する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
有利そして驚くべきことに、本発明者らは、改善された靱性および/またはより高い耐熱性を有する熱硬化性組成物が、過剰のエポキシ基を含有するエポキシレジン組成物を用いて形成できることを発見した。一側面において、本明細書で開示する態様は、改善された靱性を有するエポキシ熱硬化性組成物に関する。別の側面において、本明細書で開示する態様は、より高い耐熱性を有するエポキシ熱硬化性組成物に関する。本明細書で開示する熱硬化性組成物は、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンとエポキシ反応性化合物(硬化剤)との反応生成物を含むことができ、ここでエポキシレジンと硬化剤との反応が続き、過剰のエポキシレジンは実質的に反応/エーテル化している。
【0016】
本明細書で開示される、改善された靱性および/またはより高い耐熱性を有する熱硬化性組成物は、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含む硬化性組成物を硬化させることにより形成できる。エポキシレジンは、エポキシ反応性化合物と反応でき、そして、続いて、過剰のエポキシ基が反応して追加の架橋基を形成できる。
【0017】
本明細書で開示する幾つかの態様において、硬化性組成物は、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含むことができる。エポキシレジンは、エポキシ反応性化合物と反応できる。続いて、過剰のエポキシ基を反応させて追加の架橋を形成できる。過剰のエポキシ基の逐次反応は、触媒によって触媒されることができる。過剰のエポキシ基を逐次的に反応させることによって、得られる硬化組成物の幾つかの態様は、より低いバルク密度を有することができ;他の態様はより高い破壊靱性を有することができ、そして更に他の態様はより高い耐熱性を有することができる。共反応性硬化剤の使用により、過剰なエポキシ基の硬化の間のエポキシ熱硬化物の顕著な分解を回避できる。
【0018】
本明細書で開示する硬化性組成物は、幾つかの態様において最大2000パーセントのストイキオメトリー的に過剰のエポキシを含むことができる。他の態様において、本明細書で開示する硬化性組成物は、5パーセントから1500パーセント;他の態様においては10パーセントから1000パーセント;他の態様においては20パーセントから750パーセント;および更に他の態様においては50パーセントから500パーセント、のストイキオメトリー的に過剰のエポキシを含むことができる。
【0019】
本明細書で記載するエポキシネットワークは、2つの反応機構により形成できる。第1の反応機構は、エポキシレジンと何らかの種類の共反応性硬化剤,例えばアミンまたはフェノール性化合物(これはストイキオメトリー的にポリマーネットワーク中に組み込まれ、典型的には2級水酸基を生成する)との反応である。第2の反応機構は、エポキシレジンのエーテル化(例えば、2級水酸基とエポキシとの反応によるもの)である。エーテル化反応は、典型的には、硬化剤とエポキシとの反応よりも遅く、そしてルイス塩基,例えばイミダゾールを用いて触媒できる。逐次的、または少なくとも部分的に逐次的な反応,例えば過剰のエポキシレジンのエーテル化が、エポキシ熱硬化物の改善された特性をもたらすことができることを見出した。
【0020】
上記のように、本明細書の方法および組成物の態様は、エポキシレジン、硬化剤(curing agents / hardeners)(エポキシ反応性化合物)および触媒を含むことができる。加えて、本明細書の組成物は、種々の添加剤および他の変性剤,例えば鎖延長剤、流動性改良剤および溶媒を含むことができる。これらの各々は以下で、続けて本明細書で記載する反応および熱硬化性組成物の例でより詳細に説明する。
【0021】
エポキシレジン
本明細書で開示する態様において使用するエポキシレジンは、変更でき、ならびに従来および市販で入手可能なエポキシレジン(単独または2種以上の組合せで使用できる)を包含でき、例えば、ノボラックレジン、イソシアネート変性エポキシレジン、およびカルボキシレート付加物、その他が挙げられる。本明細書で開示する組成物のためのエポキシレジンの選択において、最終生成物の特性のみでなく、レジン組成物の加工に影響する場合がある粘度および他の特性をも考慮すべきである。
【0022】
エポキシレジン成分は、組成物の成形において有用な任意の種類のエポキシレジンであることができ、例えば、1種以上の反応性オキシラン基(本明細書で「エポキシ基」または「エポキシ官能基」という)を含有する任意の物質が挙げられる。本明細書で開示する態様において有用なエポキシレジンとしては、単官能エポキシレジン、多官能(マルチ官能またはポリ官能)エポキシレジン、およびこれらの組合せを挙げることができる。モノマー性およびポリマー性のエポキシレジンは、脂肪族、脂環式、芳香族、またはヘテロ環式のエポキシレジンであることができる。ポリマー性のエポキシとしては、末端エポキシ基を有する直鎖ポリマー(例えば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、ポリマー骨格オキシラン単位(例えばポリブタジエンポリエポキシド)、および側鎖エポキシ基を有するポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートポリマーまたはコポリマー)が挙げられる。エポキシは純粋化合物であることができるが、一般的には、分子当たり1つ、2つまたはそれ以上のエポキシ基を含有する混合物または化合物である。幾つかの態様において、エポキシレジンはまた、反応性−OH基を含むことができ、これはより高温で無水物、有機酸、アミノレジン、フェノールレジン、またはエポキシ基(触媒される場合)と反応して追加の架橋をもたらすことができる。
【0023】
一般的に、エポキシレジンは、グリシデート化レジン、脂環式レジン、エポキシ化油等であることができる。グリシデート化レジンは、しばしば、グリシジルエーテル(例えばエピクロロヒドリン)およびビスフェノール化合物(例えばビスフェノールA);C4からC28のアルキルグリシジルエーテル;C2からC28のアルキルおよびアルケニルグリシジルエステル;C1からC28のアルキル−、モノおよびポリ−フェノールグリシジルエーテル;多価フェノール(例えばピロカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(またはビスフェノールF)、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン(またはビスフェノールA)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、およびトリス(4−ヒドロキシフィニル)メタン)のポリグリシジルエーテル;上記ジフェノールの塩素化および臭素化の生成物のポリグリシジルエーテル;ノボラックのポリグリシジルエーテル;ジハロアルカンまたはジハロゲンジアルキルエーテルでの芳香族ヒドロカルボン酸の塩のエステル化により得られるジフェノールのエーテルのエステル化によって得られるジフェノールのポリグリシジルエーテル;フェノールと、少なくとも2つのハロゲン原子を含有する長鎖ハロゲンパラフィンとの縮合により得られるポリフェノールのポリグリシジルエーテル;の反応生成物である。本明細書で開示する態様において有用なエポキシレジンの他の例としては、ビス−4,4’−(1−メチルエチリデン)フェノールジグリシジルエーテルおよび(クロロメチル)オキシランビスフェノールAジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0024】
幾つかの態様において、エポキシレジンは、グリシジルエーテル型;グリシジルエステル型;脂環式型;ヘテロ環型;およびハロゲン化されたエポキシレジン等を包含できる。好適なエポキシレジンの限定しない例としては、クレゾールノボラックエポキシレジン、フェノール性ノボラックエポキシレジン、ビフェニルエポキシレジン、ハイドロキノンエポキシレジン、スチルベンエポキシレジン、ならびにこれらの混合物および組合せを挙げることができる。
【0025】
好適なポリエポキシ化合物としては、レゾルシノールジグリシジルエーテル(1,3−ビス−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゼン)、ビスフェノールA(2,2−ビス(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)プロパン)のジグリシジルエーテル、トリグリシジルp−アミノフェノール(4−(2,3−エポキシプロポキシ)−N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)アニリン)、ブロモビスフェノールA(2,2−ビス(4−(2,3−エポキシプロポキシ)3−ブロモ−フェニル)プロパン)のジグリシジルエーテル、ビスフェノールF(2,2−ビス(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)メタン)のジグリシジルエーテル、メタ−および/またはパラ−アミノフェノール(3−(2,3−エポキシプロポキシ)N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)アニリン)のトリグリシジルエーテル、およびテトラグリシジルメチレンジアニリン(N,N,N’,N’−テトラ(2,3−エポキシプロピル)4,4’−ジアミノジフェニルメタン)、ならびに2種以上のポリエポキシ化合物の混合物を挙げることができる。見出される有用なエポキシレジンのより包括的な列挙は、Lee,H.およびNeville,K., Handbook of Epoxy Resins,McGraw−Hill Book Company,1982再発行、に見出すことができる。
【0026】
他の好適なエポキシレジンとしては、芳香族アミンおよびエピクロロヒドリンを基にするポリエポキシ化合物,例えばN,N’−ジグリシジル−アニリン;N,N’−ジメチル−N,N’−ジグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン;N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン;N−ジグリシジル−4−アミノフェニルグリシジルエーテル;およびN,N,N’,N’−テトラグリシジル−1,3−プロピレンビス−4−アミノベンゾエートが挙げられる。エポキシレジンとしては:芳香族ジアミン、芳香族モノ1級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のうち1種以上のグリシジル誘導体も挙げることができる。
【0027】
有用なエポキシレジンとしては、例えば、多価ポリオール(例えばエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−へキサントリオール、グリセロール、および2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)のポリグリシジルエーテル;脂肪族および芳香族のポリカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、および二量化リノール酸等)のポリグリシジルエーテル;ポリフェノール(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブタン、および1,5−ジヒドロキシナフタレン等)のポリグリシジルエーテル;アクリレートまたはウレタン部分を有する変性エポキシレジン;グリシジルアミンエポキシレジン;ならびにノボラックレジンが挙げられる。
【0028】
エポキシ化合物は、脂環式(cycloaliphaticまたはalicyclic)エポキシドであることができる。脂環式エポキシドの例としては、ジカルボン酸(例えば、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)オキサレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート)の脂環式エステルのジエポキシド;ビニルシクロヘキサンジエポキシド;リモネンジエポキシド;ジシクロペンタジエンジエポキシド;等が挙げられる。ジカルボン酸の脂環式エステルの他の好適なジエポキシドは、例えば米国特許第2,750,395号に記載されている。
【0029】
他の脂環式エポキシドとしては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられる。他の好適な3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートは、例えば、米国特許第2,890,194号に記載されている。
【0030】
特に有用な更なるエポキシ含有物質としては、グリシジルエーテルモノマーを基にするものが挙げられる。例は、多価フェノールを過剰のクロロヒドリン(例えばエピクロロヒドリン)と反応させることによって得られる、多価フェノールのジ−またはポリグリシジルエーテルである。このような多価フェノールとしては、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールFとして公知)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAとして公知),2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジブロモフェニル)プロパン、1,1,2,2−テトラキス(4’−ヒドロキシ−フェニル)エタンまたはフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物(酸条件下で得られるもの),例えばフェノールノボラックおよびクレゾールノボラックが挙げられる。この種のエポキシレジンの例は、米国特許第3,018,262号に記載されている。他の例としては、多価アルコール(例えば、1,4−ブタンジオールまたはポリアルキレングリコール(例えば、ポリプロピレングリコール))のジ−またはポリグリシジルエーテル、および脂環式ポリオール(例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)のジ−またはポリグリシジルエーテルが挙げられる。他の例は、単官能レジン,例えばクレジルグリシジルエーテルまたはブチルグリシジルエーテルである。
【0031】
別の分類のエポキシ化合物は、多価カルボン酸(例えばフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸またはヘキサヒドロフタル酸)のポリグリシジルエステルおよびポリ(ベータ−メチルグリシジル)エステルである。更なる分類のエポキシ化合物は、アミン、アミドおよびヘテロ環窒素塩基のN−グリシジル誘導体,例えばN,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルビス(4−アミノフェニル)メタン、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N’−ジグリシジルエーテルウレア、N,N’−ジグリシジル−5,5−ジメチルヒダントイン、およびN,N’−ジグリシジル−5−イソプロピルヒダントインである。
【0032】
更に他のエポキシ含有物質は、グリシドールのアクリル酸エステル(例えばグリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレート)と1種以上の共重合可能なビニル化合物とのコポリマーである。このようなコポリマーの例は、1:1スチレン−グリシジルメタクリレート、1:1メチル−メタクリレートグリシジルアクリレートおよび62.5:24:13.5メチルメタクリレート−エチルアクリレート−グリシジルメタクリレートである。
【0033】
容易に入手可能なエポキシ化合物としては、オクタデシレンオキサイド;グリシジルメタクリレート;D.E.R.331(ビスフェノールA液体エポキシレジン)およびD.E.R.332(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)(The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能);ビニルシクロヘキセンジオキサイド;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート;ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル;ポリプロピレングリコールで変性された脂肪族エポキシ;ジペンテンジオキサイド;エポキシ化ポリブタジエン;エポキシ官能基含有シリコーンレジン;難燃性エポキシレジン(例えば、臭素化ビスフェノール型エポキシレジン、商標名D.E.R.580でThe Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能);フェノールホルムアルデヒドノボラックの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(例えば、商標名D.E.N.431およびD.E.N.438でThe Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能なもの);ならびにレゾルシノールジグリシジルエーテルが挙げられる。具体的には言及しないが、商標記号D.E.R.およびD.E.N.でDow Chemical Companyから入手可能な他のエポキシレジンもまた使用できる。
【0034】
エポキシレジンとしては、イソシアネート変性エポキシレジンも挙げることができる。イソシアネートまたはポリイソシアネートの官能基を有するポリエポキシドポリマーまたはコポリマーとしては、エポキシ−ポリウレタンコポリマーを挙げることができる。これらの物質は、1,2−エポキシ官能基を与える1つ以上のオキシラン環を有し、開放オキシラン環(これは、ジイソシアネートまたはポリイソシアネートとの反応のためのジヒドロキシル含有化合物のための水酸基として有用である)も有するポリエポキシドプレポリマーを使用することにより形成できる。イソシアネート部分はオキシラン環を開放させ、反応は1級または2級の水酸基とのイソシアネート反応として連続する。ポリエポキシドレジン上に十分なエポキシド官能基が存在し、有効なオキシラン環をなお有するエポキシポリウレタンコポリマーの生成が可能になる。直鎖ポリマーは、ジエポキシドとジイソシアネートとの反応を通じて生成できる。ジ−またはポリイソシアネートは、幾つかの態様において芳香族または脂肪族であることができる。
【0035】
他の好適なエポキシレジンは、例えば米国特許第7,163,973号、第6,632,893号、第6,242,083号、第7,037,958号、第6,572,971号、第6,153,719号および第5,405,688号、ならびに米国特許出願公開第20060293172号および第20050171237号(これらの各々は参照により本明細書に組入れる)に開示されている。
【0036】
下記のように、硬化剤および強化剤はエポキシ官能基を含むことができる。これらのエポキシ含有硬化剤および強化剤は、本明細書において、上記エポキシレジンと分けて考えるべきではない。
【0037】
硬化剤(エポキシ反応性化合物)
硬化剤(hardenerまたはcuring agent)は、エポキシレジン組成物の架橋を促進してポリマー組成物を形成するために与えることができる。エポキシレジンと同様、硬化剤(hardenerおよびcuring agent)は、個々に、または2種以上の混合物として使用できる。
【0038】
硬化剤としては、1級および2級のポリアミン、ならびにこれらの付加物、無水物、ならびにポリアミドを挙げることができる。例えば、多官能アミンとしては、脂肪族アミン化合物,例えばジエチレントリアミン(D.E.H.20,The Dow Chemical Company, Midland,Michiganから入手可能)、トリエチレンテトラミン(D.E.H.24,The Dow Chemical Company, Midland,Michiganから入手可能)、テトラエチレンペンタミン(D.E.H.26,The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能)、更に、上記アミンのエポキシレジンでの付加物、希釈物または他のアミン反応性化合物を挙げることができる。芳香族アミン,例えばメタフェニレンジアミンおよびジアミンジフェニルスルホン、脂肪族ポリアミン,例えばアミノエチルピペラジンおよびポリエチレンポリアミンならびに芳香族ポリアミン,例えばメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、およびジエチルトルエンジアミン、もまた使用できる。
【0039】
無水物硬化剤としては、例えば、ナド酸メチル無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、フタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、およびメチルテトラヒドロフタル酸無水物、その他を挙げることができる。
【0040】
硬化剤(hardenerまたはcuring agent)としては、フェノール由来または置換フェノール由来のノボラックまたは無水物を挙げることができる。好適な硬化剤の限定しない例としては、フェノールノボラック硬化剤、クレゾールノボラック硬化剤、ジシクロペンタジエンフェノール硬化剤、リモネン型硬化剤、無水物、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
幾つかの態様において、フェノールノボラック硬化剤は、ビフェニル部分またはナフチル部分を含有できる。フェノール性ヒドロキシ基は、化合物のビフェニル部分またはナフチル部分に付いていることができる。この型の硬化剤は、例えば、EP915118A1号に記載される方法に従って調製できる。例えば、ビフェニル部分を含有する硬化剤は、フェノールとビスメトキシ−メチレンビフェニルとを反応させることによって調製できる。
【0042】
他の態様において、硬化剤としては、ジシアンジアミドおよびジアミノシクロヘキサンを挙げることができる。硬化剤としては、イミダゾール、その塩、および付加物も挙げることができる。これらのエポキシ硬化剤は、典型的には、室温で固体である。好適なイミダゾール硬化剤の例は、EP906927A1号に開示されている。他の硬化剤としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、無水物、およびフェノールが挙げられる。
【0043】
幾つかの態様において、硬化剤は、アミノ基当たりの分子量が最大500のアミノ化合物,例えば芳香族アミンまたはグアニジン誘導体であることができる。アミノ硬化剤の例としては、4−クロロフェニル−N,N−ジメチルウレアおよび3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチルウレアが挙げられる。
【0044】
本明細書で開示する態様において有用な硬化剤の他の例としては:3,3’−および4,4’−ジアミノジフェニルスルホン;メチレンジアニリン;ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(EPON 1062としてShell Chemical Co.から入手可能):およびビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(EPON 1061としてShell Chemical Co.から入手可能)が挙げられる。
【0045】
エポキシ化合物のためのチオール硬化剤もまた使用でき、そして例えば、米国特許第5,374,668号に記載されている。本明細書で用いる「チオール」は、ポリチオールまたはポリメルカプタンの硬化剤も包含する。例示的なチオールとしては、脂肪族チオール,例えばメタンジチオール、プロパンジチオール、シクロヘキサンジチオール、2−メルカプトエチル−2,3−ジメルカプトサクシネート、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、1,2−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラ(メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(ベータ−チオプロピオネート)、プロポキシル化アルカンのトリグリシジルエーテルのトリス−メルカプタン誘導体、およびジペンタエリスリトールポリ(ベータ−チオプロピオネート);脂肪族チオールのハロゲン置換誘導体;芳香族チオール,例えばジ−、トリ−、またはテトラ−メルカプトベンゼン、ビス−、トリス−またはテトラ−(メルカプトアルキル)ベンゼン、ジメルカプトビフェニル、トルエンジチオールおよびナフタレンジチオール;芳香族チオールのハロゲン置換誘導体;ヘテロ環式環含有チオール,例えばアミノ−4,6−ジチオール−sym−トリアジン、アルコキシ−4,6−ジチオール−sym−トリアジン、アリールオキシ−4,6−ジチオール−sym−トリアジンおよび1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレート;ヘテロ環式環含有チオールのハロゲン置換誘導体;少なくとも2つのメルカプト基を有し、かつメルカプト基に加えて硫黄原子を含有するチオール化合物,例えばビス−、トリス−またはテトラ(メルカプトアルキルチオ)ベンゼン、ビス−、トリス−またはテトラ(メルカプトアルキルチオ)アルカン、ビス(メルカプトアルキル)ジスルフィド、ヒドロキシアルキルスルフィドビス(メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシアルキルスルフィドビス(メルカプトアセテート)、メルカプトエチルエーテルビス(メルカプトプロピオネート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(メルカプトアセテート)、チオジグリコール酸ビス(メルカプトアルキルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトアルキルエステル)、4,4−チオ酪酸ビス(2−メルカプトアルキルエステル)、3,4−チオフェンジチオール、ビスマスチオールおよび2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが挙げられる。
【0046】
エポキシレジン、アクリロニトリル、または(メタ)アクリレートの付加によって変性される脂肪族ポリアミンもまた硬化剤として利用できる。加えて、種々のマンニッヒ塩基を使用できる。アミン基が直接芳香環に付いている芳香族アミンもまた使用できる。
【0047】
本発明における使用のための硬化剤の好適性は、製造者の仕様の参照またはルーチン実験により評価できる。硬化剤が、液体または固体のエポキシとの混合のための所望温度にて非晶性固体または結晶性固体である場合には、製造者の仕様を用いて評価できる。これに代えて、固体硬化剤は、単純な結晶学を用いて試験して、固体硬化剤の非晶性または結晶性の性質、および液体または固体のいずれかの形状のエポキシレジンとの混合についての硬化剤の好適性を評価できる。
【0048】
鎖延長剤
鎖延長剤は、本明細書で記載する組成物における任意成分として使用できる。本明細書で開示される硬化性組成物の態様において、鎖延長剤として使用できる化合物としては、近接エポキシ基との反応性を有する、分子当たり平均約2個の水素原子を有する任意の化合物が挙げられる。幾つかの態様において、二価および多価のフェノール化合物を使用でき、例えば、キサンテン、フタレインおよびスルホンフタレイン(2つのフェノール性水酸基を有するもの)が挙げられる。
【0049】
幾つかの態様において、鎖延長剤としては、フェノール性ヒドロキシル含有化合物,例えばレゾルシノール、カテコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールK、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラターシャルブチルビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、フェノールフタレイン、フェノールスルホンフタレイン、フルオレセイン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラブロモジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−2,6,2’,6’−テトラブロモ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ジシクロペンタジエンまたはそのオリゴマーおよびフェノール性化合物の反応生成物、これらの混合物等を挙げることができる。他の好適な鎖延長剤としては、例えば、アニリン、トルイジン、ブチルアミン、エタノールアミン、N,N−ジメチルフェニレンジアミン、フタル酸、アジピン酸、フマル酸、1,2−ジメルカプト−4−メチルベンゼン、ジフェニルオキサイドジチオール、1,4−ブタンジチオール、これらの混合物等を挙げることができる。
【0050】
他の態様において、鎖延長剤は、窒素含有モノマー,例えば、イソシアネート、およびアミンまたはアミドであることができる。幾つかの態様において、鎖延長剤としては、第WO99/00451号および米国特許第5,112,932号(これらの各々は参照により本明細書に組入れる)に記載されるようなエポキシ−ポリイソシアネート化合物を挙げることができる。鎖延長剤として有用なイソシアネート化合物としては、例えば、MDI,TDIおよびこれらの異性体が挙げられる。
【0051】
窒素含有鎖延長剤は、例えば、アミン−またはアミノアミド−含有化合物(エポキシ基と反応可能な2つのN−H結合を有するエポキシ末端アミン化合物を形成するもの)であることもできる。アミン含有鎖延長剤としては、例えば、一般式R−NH2(式中、Rは、アルキル、シクロアルキルまたはアリール部分である)のモノ−1級アミン;一般式R−NH−R’−NH−R”(式中、R、R’およびR”は、アルキル、シクロアルキルまたはアリール部分である)のジ−2級アミン;およびヘテロ環式ジ−2級アミン(N原子の一方または両方が窒素含有へテロ環式化合物の一部である)が挙げられる。アミン含有鎖延長剤の例としては、2,6−ジメチルシクロヘキシルアミンまたは2,6−キシリジン(1−アミノ−2,6−ジメチルベンゼン)を挙げることができる。芳香族ジアミンは、他の態様において、例えば3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンまたは4,4’−メチレン−ビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)および3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル等とともに使用できる。
【0052】
鎖延長剤として有用なアミノアミド含有化合物としては、例えば、カルボン酸アミドの誘導体、更にスルホン酸アミドの誘導体(追加的に1つの1級または2つの2級のアミノ基を有するもの)が挙げられる。このような化合物の例としては、アミノ−アリールカルボン酸アミドおよびアミノ−アリールスルホンアミド,例えばスルファニルアミド(4−アミノベンゼンスルホンアミド)およびアントラニルアミド(2−アミノベンズアミド)が挙げられる。
【0053】
鎖延長剤の量は、幾つかの態様において、エポキシレジン基準で1〜40質量パーセントの量で使用できる。他の態様において、鎖延長剤は、2〜35質量パーセント;他の態様では3〜30質量パーセント;および更に他の態様では5〜25質量パーセントの範囲の量(各々エポキシレジンの量基準)で使用できる。
【0054】
溶媒
別の任意の成分(硬化性エポキシレジン組成物に添加できるもの)は、溶媒または溶媒のブレンド物である。エポキシレジン組成物中で用いる溶媒は、レジン組成物中で他の成分と混和性であることができる。用いる溶媒は、電気ラミネートの形成において典型的に用いられるものから選択できる。本発明において採用する好適な溶媒の例としては、例えば、ケトン、エーテル、アセテート、芳香族炭化水素、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、グリコールエーテル、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0055】
触媒および阻害剤のための溶媒としては極性溶媒を挙げることができる。1〜20個の炭素原子を有する低級アルコール,例えばメタノール等は、プリプレグを形成する際に良好な溶解性およびレジンマトリクスからの除去のための揮発性を与える。他の有用な溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,2−プロパンジオール、エチレングリコールおよびグリセリンを挙げることができる。
【0056】
硬化性エポキシレジン組成物において用いる溶媒の総量は、一般的には、幾つかの態様において約1〜約65質量パーセントの範囲であることができる。他の態様において、溶媒の総量は、2〜60質量パーセント;他の態様では3〜50質量パーセント;および更に他の態様では5〜40質量パーセントの範囲であることができる。
【0057】
触媒
幾つかの態様において、触媒は、エポキシレジン成分と硬化剤(curing agent または hardener)との間の反応を促進するために使用できる。触媒としては、例えば、イミダゾールまたは3級アミンを挙げることができる。他の触媒としては、テトラアルキルホスホニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩等;ベンジルジメチルアミン;ジメチルアミノメチルフェノール;およびアミン,例えばトリエチルアミン、イミダゾール誘導体等を挙げることができる。
【0058】
3級アミン触媒は、例えば米国特許第5,385,990号(参照により本明細書に組入れる)に記載されている。例示的な3級アミンとしては、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ベンジルジメチルアミン、m−キシリレンジ(ジメチルアミン)、N−N’−ジメチルピペラジン、N−メチルピロリジン、N−メチルヒドロキシピペリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノエタン、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリブチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルデシルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン、N−メチルピペリジン、N,N’−ジメチル−1,3−(4−ピペリジノ)プロパン、ピリジン等が挙げられる。他の3級アミンとしては、1,8−ジアゾビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン、1,8−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、4−ジメチルアミノピリジン、4−(N−ピロリジノ)ピリジン、トリエチルアミンおよび2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールが挙げられる。
【0059】
触媒としては、イミダゾール化合物を挙げることができ、分子当たり1つのイミダゾール環を有するもの,例えばイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−イソプロピルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1)’]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1)’]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1)’]−エチル−s−トリアジン、2−メチルイミダゾリウム−イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾリウム−イソシアヌル酸付加物、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等;ならびに、上記で列挙したヒドロキシメチル含有イミダゾール化合物,例えば2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールおよび2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールの脱水、ならびに、脱ホルムアルデヒド反応によるこれらの縮合により得られる、分子当たり2つ以上のイミダゾール環を含有する化合物、例えば、4,4’−メチレン−ビス−(2−エチル−5−メチルイミダゾール)等が挙げられる。
【0060】
幾つかの態様において、2種以上の触媒の組合せを使用できる。他の態様において、使用する少なくとも1種の触媒は、組成物において使用される硬化剤よりも高い温度で反応できる。例えば、硬化剤が温度150℃で反応を開始する場合、触媒は180℃で反応を開始することができる。
【0061】
任意の添加剤
組成物はまた、エポキシ系において従来見出されている任意の添加剤およびフィラーを含むことができる。添加剤およびフィラーとしては、シリカ、ガラス、タルク、金属粉末、二酸化チタン、湿潤剤、顔料、色剤、型離型剤、カップリング剤、難燃剤、イオン捕捉剤、UV安定剤、軟化剤、および粘着付与剤を挙げることができる。添加剤およびフィラーとしては、ヒュームドシリカ、凝集体,例えばガラスビーズ、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオールレジン、ポリエステルレジン、フェノールレジン、グラファイト、モリブデンジスルフィド、研磨顔料、粘度低下剤、窒化ホウ素、マイカ、成核剤および安定剤、その他も挙げることができる。フィラーおよび変性剤をエポキシレジン組成物への添加前に予熱して湿気を追い出してもよい。加えて、これらの任意の添加剤は、組成物の特性に対する作用を、硬化の前および/または後に有する場合があり、そして組成物および所望の反応生成物の配合時に考慮すべきである。
【0062】
他の態様において、本明細書で開示する組成物は、強化剤を含むことができる。強化剤は、ポリマーマトリクス内に第2の相を形成することにより機能する。この第2の相は、ゴム状であり、そしてこれによりクラックの成長を抑留し、改善された衝撃靱性を付与できる。強化剤としては、ポリスルホン、シリコン含有弾性ポリマー、ポリシロキサン、および当該分野で公知の他のゴム強化剤を挙げることができる。
【0063】
他の態様において、本明細書で開示する組成物はナノフィラーを含むことができる。ナノフィラーとしては、無機物、有機物、または金属を挙げることができ、そして粉末、ウイスカー、繊維、板またはフィルムの形状であることができる。ナノフィラーは、一般的には、任意のフィラーまたは複数種のフィラーの組合せであることができ、少なくとも1つの寸法(長さ、幅または厚み)が約0.1〜約100ナノメートルを有することができる。例えば、粉末については、少なくとも1つの寸法は、グレインサイズとして特徴付けることができ;ウイスカーおよび繊維については、少なくとも1つの寸法は径であり;そして板およびフィルムについては、少なくとも1つの寸法は厚みである。例えばクレーは、エポキシレジン系のマトリクス中に分散でき、そしてクレーは、エポキシレジン中に剪断下で分散している場合、極めて薄い構成層に分解できる。ナノフィラーとしては、クレー、有機クレー、カーボンナノチューブ、ナノウイスカー(例えばSiC),SiO2、周期表のs,p,d,およびf族から選択される1種以上の元素の元素、アニオンまたは塩、金属、金属酸化物およびセラミックスを挙げることができる。
【0064】
基材
基材または対象物は特に限定を受けない。そのようなものとして、基材としては、金属,例えばステンレススチール、鉄、スチール、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、アルマイト等;このような金属の合金、ならびにこのような金属でめっきされたシートおよびこのような金属のラミネートシートを挙げることができる。基材としては、ポリマー、ガラス、および種々の繊維,例えばカーボン/グラファイト;ホウ素;クオーツ;酸化アルミニウム;ガラス,例えばEガラス、Sガラス、S−2 GLASS(登録商標)またはCガラス;ならびにチタンを含有するシリコンカーバイドまたはシリコンカーバイド繊維等も挙げることができる。市販で入手可能な繊維としては:有機繊維,例えばKEVLAR;酸化アルミニウム含有繊維,例えばNEXTEL繊維(3Mより);シリコンカーバイド繊維,例えばNICALON(Nippon Carbonより);およびチタンを含有するシリコンカーバイド繊維,例えばTYRRANO(Ubeより)を挙げることができる。幾つかの態様において、基材を相溶化剤でコートして、硬化性または硬化させた組成物の基材に対する接着を改善できる。
【0065】
選択された態様において、本明細書で記載する硬化性組成物は、高温に耐えることができない基材用のコーティングとして使用できる。他の態様において、硬化性組成物は、寸法および形状によって均一な加熱の適用が難しい基材,例えば風車のブレード等とともに使用できる。
【0066】
コンポジットおよびコート構造物
本明細書で記載する硬化性組成物およびコンポジットは、従来、上記のように硬化される前のエポキシレジン組成物(ストイキオメトリー的に過剰のエポキシレジンおよび温度安定性の触媒を含む)の代替で製造できる。幾つかの態様において、コンポジットは、本明細書で開示する硬化性組成物を硬化させることによって形成できる。他の態様において、コンポジットは、硬化性エポキシレジン組成物を基材または補強物質に、例えば基材または補強物質を含浸させまたはコーティングし、そして硬化性組成物を硬化させることによって適用することによって形成できる。
【0067】
上記された硬化性組成物は、粉末、スラリー、または液体の形状であることができる。硬化性組成物が製造された後、上記のように、これを上記の基材の上、中または間に、硬化性組成物の硬化の前、間または後に配置できる。
【0068】
例えば、コンポジットは、基材を硬化性組成物でコーティングすることによって形成できる。コーティングは、種々の手順,例えば、スプレーコーティング、カーテンフローコーティング、ロールコーターまたはグラビアコーターでのコーティング、ブラシコーティング、およびディップまたは浸漬コーティングで行なうことができる。
【0069】
種々の態様において、基材は単層または複層であることができる。例えば、基材は、2種のアロイのコンポジット、複層ポリマー物品、および金属コートポリマー、その他であることができる。他の種々の態様において、1つ以上の層の硬化性組成物を基材上に配置できる。例えば、本明細書で記載するポリウレタンリッチの硬化性組成物でコートされた基材は、エポキシレジンリッチの硬化性組成物で追加的にコートできる。基材層と硬化性組成物層との種々の組合せによって形成される他の複層コンポジットもまた本発明で構想される。
【0070】
幾つかの態様において、硬化性組成物の加熱は、例えば温度に敏感な基材の過熱を回避するために局所的であることができる。他の態様において、加熱は、基材および硬化性組成物の加熱を含むことができる。
【0071】
一態様において、上記の硬化性組成物、コンポジット、およびコート構造物は、硬化剤の反応を開始させるのに十分な温度まで硬化性組成物を加熱することにより硬化させることができる。初期硬化の間、2級水酸基は硬化剤反応物として形成できる。硬化剤とエポキシとの少なくとも一部の反応に続き、硬化性組成物、コンポジット、またはコート構造物の温度は、2級水酸基と過剰のエポキシレジンとの反応を触媒するための触媒にとって十分な温度まで上昇させることができる。この様式において、ストイキオメトリー的に過剰のエポキシは、エポキシ熱硬化物の顕著な分解なしで反応できる。
【0072】
幾つかの態様において、過剰のエポキシの反応の間に形成する追加の架橋は、エポキシ熱硬化物のバルク密度を低下させる場合がある。他の態様において、追加の架橋は、エポキシ熱硬化物の破壊靱性を増大させる場合がある。更に他の態様において、ストイキオメトリー的に過剰のエポキシの反応は、未反応エポキシが熱硬化性組成物に対して有する場合がある有害な作用(先行技術において記載するような)を回避して、適切または改善された耐熱性、耐溶剤性、低吸湿、リフロー信頼性、電気特性、ガラス転移温度、および接着、その他のうち1つ以上を有する熱硬化性組成物をもたらす場合がある。
【0073】
本明細書で開示される硬化性組成物の硬化は、温度少なくとも約30℃、最大約250℃を何分間か、最大何時間かの間、エポキシレジン、硬化剤および触媒(使用する場合)に応じて必要とする場合がある。他の態様において、硬化は、温度少なくとも100℃で、何分間か、最大何時間かの間起こる場合がある。後処理を同様に用いることができ、このような後処理は、通常、温度約100℃〜250℃の間である。
【0074】
幾つかの態様において、硬化を段階化して発熱を防止できる。段階化としては、例えば、ある時間ある温度での硬化に続いてのある時間のより高い温度での硬化が挙げられる。段階化された硬化は2つ以上の硬化段階を含むことができ、そして幾つかの態様において温度約180℃未満で、そして他の態様では約150℃未満で開始できる。
【0075】
幾つかの態様において、硬化温度は、下限30℃、40℃、50℃、60℃、7O℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、または180℃から、上限250℃、240℃、230℃、220℃、210℃、200℃、190℃、180℃、170℃、160℃の範囲であることができ、該範囲は、任意の下限から任意の上限であることができる。
【0076】
本明細書で開示する硬化性組成物は、高強度のフィラメントまたは繊維,例えばカーボン(グラファイト)、ガラス、ボロン等を含有するコンポジットにおいて有用であることができる。コンポジットは、幾つかの態様において約30%〜約70%、および他の態様では40%〜70%のこれらの繊維(コンポジットの総体積基準)を含有できる。
【0077】
例えば繊維補強コンポジットは、ホットメルトプリプレグ化によって形成できる。プリプレグ化方法は、連続繊維のバンドまたは布帛に、溶融形状の本明細書で記載する熱硬化性エポキシレジン組成物を含浸させてプリプレグを得て、これを引上げおよび硬化させて、繊維と熱硬化レジンとのコンポジットを作製することによって特徴付けられる。
【0078】
他の加工技術を用いて、本明細書で開示するエポキシ系組成物を含むコンポジットを形成できる。例えば、フィラメント巻取り、溶媒プリプレグ化、および引抜成形は、未硬化エポキシレジンを使用できる典型的な加工技術である。更に、バンドル形状の繊維を未硬化エポキシレジン組成物でコートし、フィラメント巻取りによって引上げ、そして硬化させてコンポジットを形成できる。
【0079】
本明細書で記載する硬化性組成物およびコンポジットは、接着剤、構造ラミネートおよび電気ラミネート、コーティング、キャスティング、航空宇宙産業用の構造物として、エレクトロニクス産業用の回路基板等として、風車ブレードとして、更にスキー板、スキーポール、釣竿、ならびに他のアウトドアスポーツ用品の形成のために有用であることができる。本明細書で開示するエポキシ組成物はまた、電気ニス、カプセル化剤、半導体、一般的な成形粉末、フィラメント巻取りパイプ、貯蔵タンク、ポンプ用ライナー、および防食コーティング、その他において使用できる。
【0080】
例
エポキシネットワークを、本明細書で開示する態様に従って形成し(サンプル1〜12)、そして、いずれの過剰のエポキシも反応していないフェノール性成分のみのエポキシネットワーク(比較サンプル1〜4)、およびエポキシのみのサンプル(比較サンプル5)と比較する。サンプル調製は、概略的には以下に記載し、各サンプルの配合の詳細は表1に示す。
【0081】
サンプル1〜12
特定量の、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(D.E.R.(商標)332 エポキシレジン,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能 表1中「BADGE」という)、および1,1,1−トリス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン(「THPE」,Aldrichから入手可能)を、表1に示すように組合せて、1リットル三つ口丸底フラスコ中で165℃に加熱して、明澄で均一な液体を得る。ビスフェノールA(「BA」,PARABISグレード,The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能)を次いでフラスコに添加し、そして混合物を更に180℃に加熱して、再び明澄で均一な液体を得る。混合物を次いで80℃に冷却した後、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール触媒(CUREZOL 1B2MZ,Air Products and Chemicalsから入手可能)を添加する。遠心分離ボトルを用いる3000rpmで3分間の遠心分離により混合物を脱ガスし、ホルダーを70℃に予熱して混合物の流動性を維持する。次いで、1/8インチ厚のプラークを、1/2インチアルミニウム板から2つの二重箔アルミニウムシートを敷いて(Insulectro Distributors,Dallas,TX)組立てた型内でキャストし、1/8インチU形アルミニウムスペーサーおよび長さ3/16インチの管により分離する。プラークを200℃で2時間硬化させる。組立物を次いでゆっくり室温まで冷却させた後、硬化したプラークを型から取出す。
【0082】
比較サンプル1〜4
特定量の、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(D.E.R.(商標)332 エポキシレジン,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能)、および1,1,1−トリス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン(「THPE」,Aldrichから入手可能)を組合せて、1リットル三つ口丸底フラスコ中で165℃に加熱して、明澄で均一な液体を得る。ビスフェノールA(「BA」,PARABISグレード,The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能)を次いでフラスコに添加し、そして混合物を更に180℃に加熱して、再び明澄で均一な液体を得る。混合物を次いで120℃に冷却した後、特定量のA−1触媒(70%w/w エチルトリフェニルホスホニウムアセテート−酢酸複合体(メタノール中),Morton Chemical,Garden Grove,Californiaから入手可能)を添加する。減圧により3分間混合物を脱ガスする。次いで、1/8インチ厚のプラークを、1/2インチアルミニウム板から2つの二重箔アルミニウムシートを敷いて(Insulectro Distributors,Dallas,TX)組立てた型内でキャストし、1/8インチU形アルミニウムスペーサーおよび長さ3/16インチの管により分離する。プラークを200℃で2時間硬化させる。組立物を次いでゆっくり室温まで冷却させた後、硬化したプラークを型から取出す。
【0083】
比較サンプル5
エポキシレジンおよび1B2MZ触媒のみを含有するプラークを、サンプル1〜12に関する上記のプロセスに従って調製する。得られる生成物を次いで250℃で2時間後硬化させる。
【0084】
【表1】
【0085】
サンプル試験
上記のサンプルおよび比較サンプルを、エポキシエーテル化度、架橋密度、熱的および機械的な特性(示差走査熱量測定(DSC)、熱機械分析(TMA)、動的機械熱分析(DMTA)、熱重量分析(TGA)および機械的試験(破壊靱性および引張特性)等)について分析する。各試験の種類および結果の説明を以下に記載し、そして表2〜4および図1〜11に示す。
【0086】
硬化したプラークにおけるエポキシエーテル化度は、単一パルスマジック角回転(MAS)13CNMRによって測定する。実験は、Bruker Avance 400分光計(Bruker BioSpin,Billerica,MA)で行ない、共振周波数100.56MHzにて7mm MAS−IIプローブで操作する。サンプルおよび比較サンプルは、分析のために粉砕してDMF中(約2:1溶媒:サンプル(質量基準))で膨潤させて溶解を向上させる。MASスピードは4800Hzである。
【0087】
示差走査熱量測定(DSC)実験は、TA Instruments(New Castle,DE)Q−1000熱量計で行なう。平衡温度35℃から275℃の、10℃/分の窒素下での2回のスキャンを中間の10℃/分での冷却を伴って各サンプルについて開放アルミニウムパン内で行なう。記録されるガラス転移温度(Tg)値は、2回目のスキャンでの熱容量カーブの変曲点から測定した。
【0088】
熱機械分析(TMA)実験は、TA Instruments Q−400でマイクロエクスパンションプローブを用いて行なう。分析前にサンプルをデシケーター内で1晩乾燥させ、そして温度を2回275℃に10℃/分で上げる。Tgおよび熱膨張係数(CTE)を、2回目スキャンから算出する。
【0089】
動的機械熱分析(DMTA)は、環境制御されたオーブンチャンバーおよび矩形板固定具を備えるARES LSレオメーター(Rheometric Scientific,Piscataway,NJ)で行なった。1.75インチ×0.5インチ×0.125インチのサンプルにつき、0.1%の物質を1Hzで適用し、更に250℃に3℃/分で上げる。
【0090】
熱重量分析(TGA)実験は、TA Instruments Q−50で行なう。乾燥サンプルを、ランプによって室温から600℃に10℃/分で窒素をパージガスとして用いて分析する。分解温度(Td)は、分解の前で引かれる重量/温度カーブの正接の交点および出発質量の5パーセントが損失した温度の両者で評価する。
【0091】
サンプルの破壊靱性試験は、ASTM D−5045に従って行なう。サンプルは、水ジェットカッターを用いて切断してクラックおよび残留応力を最小化する。最低5つの分析を行なって平均化する。
【0092】
引張試験は、サンプルサイズ以外はASTM D638に従って、選択したサンプルで行なう。これらの試験について、通常1/8インチ厚熱硬化性プラークを、0.5インチ×2.75インチ片に、1/8インチゲージ幅で切断した。
【0093】
結果
【0094】
【表2】
【0095】
未反応エポキシは、サンプル1〜12のいずれについても検出されず、ほぼ完全な硬化(表2および図2を参照)を示す。しかし、より高レベルの過剰エポキシを有するサンプルは、相応のより高い分岐度を示さない。むしろ、NMR分析は、より高レベルの過剰エポキシでの分岐の増大に敏感ではない。
【0096】
未反応エポキシドが、存在すれば検出されることを確認するために、エポキシレジンおよび1B2MZ触媒のみを含有するプラークを準備する(比較サンプル5)。比較サンプル5の不完全硬化は、初期DSCスキャンにおける大きな発熱ピークの存在により確認される。NMRスペクトル(図1c)は、予測された44.4および50.6ppmの共鳴(2つのエポキシド環炭素に対応する)を含み、未反応エポキシド基が、存在する場合にはNMR法によって検出されることが確認される。2時間の250℃での後硬化の後、これらの2つの共鳴はNMRスペクトルから消失し(図示せず)、そして発熱はもはやDSCでは検出されない。
【0097】
過剰エポキシレジンを有するネットワークの架橋密度についての値は、フェノール性成分のみのサンプルについて得られるストイキオメトリーから直接算出される。A−1触媒のエポキシおよびフェノール性成分とのストイキオメトリー的な反応のみが予測されるからである。過剰のエポキシを含有するサンプルについて、架橋密度は、NMR分析によって観測されるような、過剰エポキシの100パーセント変換を用いることによって算出される。BA延長剤およびTHPE硬化剤の完全な変換もまた想定された。エポキシドとフェノール性基との間の反応は、エーテル化反応よりも大幅に速く、本質的に全てのフェノール性成分が、任意の相当のエーテル化よりも前に消費されるからである。そのようなものとして、架橋密度Xは:
(1) X=(nTHPE+nEE(CEE))/m
(式中、nTHPEは、THPEのモル数であり、nEEは、過剰エポキシド基のモル数であり(各過剰エポキシド基が架橋を導入できるため)、CEEは、過剰エポキシドの変換であり(フェノール性成分のみのサンプルについてはゼロであり、過剰エポキシを有するサンプルについては100パーセントである)、そしてmはネットワークの総質量である)
によって与えられる。架橋当たりの平均分子量Mpcは、単純に架橋密度の逆数である:
(2) Mpc=1/X
【0098】
最後に、架橋間の平均分子量Mcは、関係:
(3) Mc=(2/favg)Mpc
(式中、favgは、架橋基の平均官能性である)
によって与えられる。各THPE硬化剤分子および各反応過剰エポキシド基の両者は、単一の三方分岐点をネットワーク中に導入するため、各々は3つの官能性を有する。結果として、favg=3である。調製されるサンプルについてのMcの計算値を表2中に列挙する。
【0099】
熱分析および熱機械分析の結果を表3中に列挙する。
【0100】
これらの物質についてのガラス転移温度(Tg)は、3つの異なる技術:DSC,TMA,およびDMTA(表3中でそれぞれDSC Tg,TMA Tg,およびDMTA Tgとして示す)を用いて測定する。結果は極めて一致する(図4)ため、DSC結果のみを詳細に議論する。2回目のDSCスキャンから得られるTg値を、図4a中で1/Mcに対してプロットする。エポキシレジンのみを含有するネットワークを除き、いずれのDSCスキャンでも発熱が観察されず、完全な硬化を示した。これはNMRスペクトルにおける未反応エポキシドの不存在と一致する。表3に、ガラス状領域およびゴム状領域における熱膨張係数(それぞれ、CTEgおよびCTEr)、ゴム状領域における貯蔵弾性率(DMTA分析中に測定される)(G’r)、および分解温度(熱重量分析を用いて測定される)(分解の前で引かれる重量/温度カーブの正接の交点で測定される「TGA Td,ext」、および出発物質の5パーセントが損失した温度で測定される「TGA Td,5%重量損失」)を含む熱機械分析結果も示す。固体残渣(TGA残渣)は、最終温度600℃でのサンプル中の不揮発物質の量を表す。
【0101】
【表3】
【0102】
フェノール性成分のみのシリーズのサンプルについて、Tgは、架橋密度の増大(増大する1/Mc)とともに線形的に増大する。過剰エポキシを含有するサンプルが同じ一般的挙動を示す一方、変動量の過剰エポキシを有する2つのシリーズについての図4中の線の傾き(DSC測定に基づき、それぞれ延長剤/硬化剤比が4および1.75の、変動量の過剰エポキシを有するシリーズについて5.4および9.2kg℃/mol)は、両者とも、変動する延長剤/硬化剤比のシリーズの傾き(33.0kg℃/mol)よりも顕著に低い。THPE硬化剤および過剰エポキシド基の両者が、効果的な官能性である3を有するため、(favg−2)/favgの項は全ての場合で同じ値となる。
【0103】
表4中に列挙されるネットワークの密度測定は、加えられる架橋が、より効率的な充填に対する立体障害を形成するために、予測したように各シリーズ内でMcの増大とともに密度が低下することを示す(図5)。しかし、顕著なエポキシエーテル化度を有するネットワークにおいて、最低Mcの物質について到達される最終密度は、架橋密度を変動させるために延長剤/硬化剤比が用いられるネットワークよりも若干低く、そして与えられるMcについて、実質的な差が密度において存在する(特に、Mcが高い場合)可能性がある。更に、密度がより低いサンプルの1つによる実験、サンプル7は、これらの物質が、圧力下およびTg近傍の温度で圧縮される可能性がある予備的証拠をもたらした。この場合、圧力80psiを1/8インチプラークに120℃で1時間適用して、密度がフェノール性成分のみのサンプル、1.190g/mLにより近い物質を得た。このシリーズで最も高密度のサンプル、サンプル11での同一の実験は、密度の極めて小さい増大(1.177から1.185g/mL)のみもたらした。
【0104】
【表4】
【0105】
1/Mcに対してプロットした場合、ゴム状領域における貯蔵弾性率G’r(DMTAにより測定)は、評価されるほぼ全ての物質について同じ線にのり、モジュラスは確実に1/Mcとともに増大する(図6)。この挙動は、Tg超での架橋密度の増大に従った物質の剛性の増大と一致する。特筆すべき不一致は、最も少ない量の過剰エポキシを有するサンプルについてのみである。触媒および初期キャスト温度を除いてほぼ同一の処方を有するこれらの物質について、イミダゾール触媒で向上されたエーテル化によるMcの僅かなシフトがすでに示されている。しかしこのシフトは、G’rの過度に大きい増大に同伴したものである。より高い架橋密度を有するサンプルの剛性を幾らか欠くこれらのサンプルにおいて、エーテル化の範囲における小さい変化は、鎖間相互作用に対して顕著な影響を有する可能性がある。具体的には、幾つかのエーテル化結合の存在は、より強い相互作用を招来し、これらの物質のモジュラスを増大させる可能性がある。最後に、フェノール性硬化配合物は、Tgより上でダンピングを示し、これはMcの増大とともに大きさが増大した。これはおそらく、より高いMcのサンプル中に未反応で残存した、これらのサンプル中の少量の過剰エポキシにより生じた側鎖に起因する。過剰エポキシを伴って調製されたイミダゾール硬化サンプルは、この領域、存在する過剰エポキシの高変換の更なる指標においてダンピングを示さなかった。
【0106】
DMTA実験によるtanδカーブの試験から、これらの物質のTgに関する興味深い1つの最終点が明らかになる。フェノール性成分のみのサンプルについて、tanδカーブの幅は、評価されるMcの範囲を通じて比較的一定に維持された(図7a)。しかし、過剰エポキシサンプルでは、過剰エポキシの配合物中の量が増大するに従ってTg転移の幅は同様に増大するが、tanδカーブ下の面積が一定に維持された。この例は、図7b中に1つのシリーズについて示す。この挙動は、延長剤/硬化剤比が変わることによってMcが変動した場合には見られなかった。これは、Mc低下につれての後Tgダンピングによる。イミダゾール触媒サンプルにおけるtanδの幅が秩序立って増大することは、架橋密度の増大を伴う架橋間の鎖長の分布の広範化を示すと考えられる。
【0107】
サンプルについてのTd値は、一貫して十分400℃を超えていた(図8)。より高いMc値を有する物質の中で、Tdにおける何らかの小さい相違が、過剰エポキシ架橋を有するサンプルと有さないサンプルとの間で観察されたが、変動は極めて小さく、最大差が4パーセント未満であった。
【0108】
唯一の例外として、試験した全てのネットワークについて、ガラス状領域における物質についてのCTE(TMAによって測定される)(T<Tg,CTEg)は、Mc増大とともに極めて僅かな低下を示し(69〜78ppm/℃の範囲)、明らかな傾向はなかった(図9)。例外は、フェノール性成分のみのシリーズからの最も高いMcのサンプルにある。このサンプルは、この検討におけるいずれの他のものよりも顕著に高いMcを有し、そしてそのCTEgにおいて大きい降下を示した。ゴム状領域(T>Tg,CTEr)において、同じ例外のネットワークは別として、CTEr値は、Mc増大とともに若干増大する傾向がある(198〜243ppm/℃の範囲)。しかし、この場合、高Mcネットワークは、他のネットワークよりも大幅に高いCTErを有していた。
【0109】
サンプルの破壊靱性試験(ASTM D−5045に従った)から、エポキシエーテル化を伴う物質のより興味深い特性の1つが明らかになった(図10)。Mcが約1000mol/g超のサンプルについて、エーテル化ありおよびなしの両者で同じ傾向が観察され:架橋密度が増大するに従い、ネットワークの脆性が増大することによりKlcが低下する。しかし、過剰エポキシを有するこの範囲のサンプルは、エーテル化を伴わないサンプルよりも顕著に大きい破壊靱性値を有していた。これは、これらの低い密度によって示されるようなこれらの物質における増大した自由体積(鎖運動のためのより多くの空間を与えて、適用された負荷に適応させる)の結果である可能性があると我々は推測する。より低Mcのネットワークについて、Klc値のレベルは、比較的高い値の1.0MPa・m1/2近傍である。破壊データおよび破壊片自体の両者のより緊密な調査により、幾らかかの程度の、破壊前の延性降伏の証拠が明らかになった。典型的には、高架橋密度(これらが極めて脆いような)を有する物質は、低い値のKlcを有する。これらの物質で、この脆化は観察されなかった。
【0110】
これらのエポキシ熱硬化物の明らかな延性の改善を更に精査するために、選択したサンプル−フェノール性成分のみのサンプルおよび延長剤/硬化剤比が4のシリーズについてのMc範囲がいずれか極端であるサンプルについて引張試験を行なった。フェノール性成分のみのサンプルについて、引張係数は、Mc増大に伴って予期しない若干の増大を示し、傾向と逆のことが、ガラス状熱硬化物について典型的に観察された。これらのサンプルについての応力−歪み曲線を図11に示す。1つのあり得る説明は、Mcがこれらの物質において増大するに従い、第2の相互作用,例えば鎖間水素結合、双極性相互作用、および熱硬化骨格の絡み合いがより強くなることである。過剰エポキシサンプルについての応力−歪み曲線を図12に示す。高Mcネットワーク(配合物中に5パーセントの過剰エポキシを有する)について、物質は、伸長下で典型的な降伏挙動を示し、そして引張係数は、フェノール性成分のみの物質のいずれよりも大きかった。Mcが389(60パーセントの過剰エポキシ)であるネットワークについて、予測した挙動は、物質が降伏点の十分前に破壊されることである。降伏点は観察されたが、ネックは破壊前にすでに形成され始めていた。この物質はまた、フェノール性成分のみのサンプルよりも大きいモジュラスおよび高い降伏強度を有していた。この挙動(非常に緊密に架橋したネットワークにおいては予測されないことである)は、破壊靱性分析において観察された延性を確認する。硬化剤およびエーテル化レジンの組合せによる架橋で、物質の靱性は、フェノール性架橋のみを有する物質よりも顕著に高く、そしてある程度の延性が低Mcで(フェノール性硬化ネットワークにおいては完全に不存在である)存在する。
【0111】
最後に、サンプルを、エポキシレジンおよび触媒のみを含有させ、硬化剤または延長剤なしで、同様に形成した。初期の2時間の200℃での硬化の後、固体であるが不完全に硬化したネットワークが形成された(1回目のDSCスキャンにおける大きな発熱およびNMRスペクトルにおける未反応エポキシド基による共鳴の存在に基づく)。エポキシのほぼ完全な置換が、2時間250℃での後硬化を経て得られた(DSC発熱および未反応エポキシドによるNMR共鳴の両者が消失した)。このサンプルについて測定された特性を、表2,3および4に示す。鍵となる結果は、単独重合によって完全に硬化したレジンについての、合理的に高いTg(DSCにより120℃)にも関わらず、極めて低いKlc(0.57MPa・m1/2)であったことである。エポキシのみのサンプルの熱安定性はまた、そのより低いTdによって示されるように顕著に低下した。フェノール性成分(これは共反応性硬化剤を含む)との反応およびエーテル化の組合せによって硬化したサンプルは、いずれかの反応単独により硬化した物質とは極めて異なる特性を有する。
【0112】
サンプル13〜17
サンプル13〜17は、エポキシレジンおよび共反応性硬化剤から形成されるエポキシ熱硬化物である。これらのサンプルは以下のように調製し、そして平衡のストイキオメトリーを用いて調製されるエポキシレジンと比較する。
【0113】
特定量の、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(D.E.R.332,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能(表5参照)を、機械撹拌器、窒素/減圧入口、およびレオスタットで制御される加熱マントルを取付けた1リットル三つ口丸底フラスコ中で165℃に加熱する。レジンを60℃に加温し、次いで減圧で脱ガスする。レジンを次いで50℃に冷却させて1,2−ジアミノエタン(EDA,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能)および1−ベンジル−2−メチルイミダゾール触媒(CUREZOL 1B2MZ,Air Products and Chemicalsから入手可能)触媒(使用する場合)を添加する。混合物をゆっくり10分間撹拌しながら減圧下で脱ガスする。次いで、混合物を、60℃で予熱した型組立物に注ぎ入れ、オーブン中60℃で3時間、および170℃で2時間硬化させる。上記で詳述したサンプルについての具体的な成分量を表5に列挙する。
【0114】
比較例(比較例6)は、平衡のストイキオメトリーを用いて形成する。比較例7もまた、これが触媒を含有しないため比較例である。他のサンプル(サンプル13〜17)は、100eq%過剰エポキシレジンを有し、そして1B2MZ触媒の量を変動させて(0〜1.1質量パーセント)硬化させる。
【0115】
【表5】
【0116】
上記サンプルの特性は、上記の試験法を用いて測定し、結果を表6aおよび6bに示す。過剰エポキシの変換度は、NMRによって示されるように触媒濃度とともに増大する。
【0117】
【表6】
【0118】
前記のD.E.R.332−BA−THPEサンプルとは異なり、D.E.R.332−EDAサンプルは、いずれの鎖延長剤も含有しない。十分量の触媒とともに、過剰エポキシの変換は、平衡のストイキオメトリーを有する比較サンプル6よりもまたはこれと同程度に良好な多くの特性(すなわち、Tgの観点での耐熱性およびTdの観点での熱安定性)を与えるのに十分高い。過剰のエポキシ架橋を有するD.E.R.332−EDAサンプルは、密度の低下または破壊靱性の改善のいずれも示さない。
【0119】
本明細書で開示する態様は、ストイキオメトリー的に過剰のエポキシレジンのフェノール性硬化ネットワーク中の組込みを与え、延長剤/硬化剤比の調整とは別に特定のMcまたはTgを狙う手法を与えることができる。代替ルートにより与えられるネットワークの物理的特性の多くは類似しており、幾つかの鍵となる相違が、顕著なエーテル化度を有する物質において観察されている。まず、これらの物質におけるTgは、比較的剛直なTHPE硬化剤を用いるのと比べてMcの変化に対する感度が幾らか小さく、場合により、配合の変動に関わらず特性のより緊密な制御が可能である。これらの物質のより低い密度でのこの変化は、観察されるより大きい破壊靱性および引張降伏における因子でもあるネットワークの自由体積の増大を示唆する。
【0120】
有利に、熱硬化配合物中のエーテル化された過剰エポキシは、幾つかの潜在的な利点を有する。典型的にはエポキシレジンに関して硬化剤のコストはより高いため、幾つかの態様において経済的な利点を実現できる場合がある。他の態様において、物質の特性を考慮し、これらのエーテル化物質が破壊前に降伏する能力は、極めて高い架橋密度であっても、幾つかの用途において、特にこの挙動が(例えばフィラーおよび/またはゴム状含有物の組込みを通じて)向上する場合に、加えられる利点であることができる。本明細書で開示する組成物の他の利点としては、増大する耐熱性、改善する破壊靱性、およびより高いガラス転移温度、その他の1つ以上が挙げられる。
【0121】
開示は、制限された数の態様を含むが、当業者は、この開示の利益を有し、本開示の範囲から逸脱しない他の態様を講じることができることを理解するであろう。従って、範囲は、特許請求の範囲のみによって限定されるべきである。
【技術分野】
【0001】
開示の背景
開示の分野
本明細書で開示する態様は、一般的に、エポキシ熱硬化性組成物に関する。より詳細には、本明細書で開示する態様は、改善された靭性および/またはより高い耐熱性を有するエポキシ熱硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
エポキシレジンは、最も広く使用されるエンジニアリングレジンの1つであり、そして高強度繊維を有するコンポジットにおけるその使用は周知である。エポキシレジンはガラス状ネットワークを形成し、優れた耐食性および耐溶剤性、良好な接着、合理的に高いガラス転移温度、および適切な電気特性を示す。残念ながら、比較的高いガラス転移温度(>100℃)を有する架橋したガラス状エポキシレジンは脆い。高ガラス転移温度のエポキシレジンの衝撃強さが乏しいことは、構造材料としての、およびコンポジットにおけるエポキシの使用を制限する。
【0003】
架橋したエポキシレジンの衝撃強さ、破壊靱性、延性、更にほとんどの他の物理特性は、化学構造およびエポキシレジンと硬化剤との比によって、任意の添加される巨視的なフィラー、強化剤および他の添加剤によって、そして用いる硬化条件によって、制御される。熱硬化性レジン,例えばエポキシの典型的な性能要求としては、高軟化点(>200℃)、低燃焼性、耐加水分解性、耐化性および耐溶剤性、ならびに誘電強度が挙げられる。
【0004】
エポキシ配合物は、典型的には、ほぼストイキオメトリー量のエポキシレジンを、一般的には少量の過剰エポキシを伴って含有する。過剰量のエポキシレジンを含有する配合物は、一般的には硬化して過剰のエポキシレジンが反応することはなく、よってエポキシレジンが残留して、硬化した組成物中で可塑剤として作用し、しばしば、硬化したレジンの所望の強度、接着、吸湿、耐溶剤性および電気特性の低下をもたらす。
【0005】
例えば、米国特許出願公開第2005021565号は、光硬化性および熱硬化性のレジン組成物であってエポキシ基の比が0.6当量未満のものは残存カルボキシル基が電気絶縁性および耐アルカリ性を低下させるため好ましくないことを開示する。逆に、エポキシ基の比2.0当量超は好ましくない。過剰のエポキシレジンは可塑剤として作用し、結果として、コーティングフィルムの強度が低下するからである。
【0006】
同様に、米国特許第7,060,786号および第6,808,819号は、エポキシ基のフェノール性水酸基に対する比を、0.7〜1.3の範囲内、好ましくは0.8〜1.2の範囲内に制御することで、未反応残留物を最小化でき、よって接着、吸湿および電気特性の経時低下を抑制できることを開示する。米国特許第6,949,19号は、過度に多いエポキシ基が得られる場合、過剰のエポキシレジンが弾性の係数を増大させ、これは可撓性のポリイミドレジン組成物を形成するのに不都合であることを開示する。
【0007】
米国特許第6,469,074号は、シアネートエステル、エポキシレジンおよび酸無水物を含む組成物を開示する。’074特許は、過剰のエポキシレジンが未反応で残存し、ガラス転移温度の低下、吸湿の増大、熱膨張係数の増大を招来する場合があり、そして熱サイクルおよびリフロー信頼性が悪化する場合があることを更に記載する。
【0008】
米国特許第4,393,181号は、最大100パーセントの過剰のエポキシレジンまたは硬化剤のいずれかを硬化性組成物中で採用できることを開示する。同様に、米国特許第4,076,764号は、最大25パーセントの過剰のエポキシレジンまたは硬化剤のいずれかを採用できることを開示する。しかし、これらの特許のいずれも、過剰のエポキシレジンの反応は開示していない。
【0009】
米国特許第4,181,784号は、コーティング組成物を開示し、そして背景において、米国特許第3,969,979号および第4,018,848号(Khannaに付与)を議論し、過剰のエポキシレジンの使用を遠ざける教示(teach away)をしている。Khannaの組成物は、エポキシホスフェートエステルからなり、エポキシレジンおよびリン酸およびポリオール等(これらはホスフェートエステルと反応する)から形成される。これらの組成物は過剰のエポキシレジンを有し、その目的は過剰の酸触媒を硬化反応完了後に使い尽くすことである。Khannaは、例において、得られる硬化レジンがより高温に加熱される場合には、過剰のエポキシが過剰のヒドロキシル官能基と反応して更なるエーテル結合を与えることを教示する。’784特許は、これらの結合が硬化レジンの耐久性に対する悪化作用を有することを示す。更に、過剰のエポキシレジンの硬化は、高温およびゆっくりの手順を、触媒の利点なしで必要とする。これらは低温硬化の間に消費されたからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
改善された靱性および/またはより高い耐熱性を有するエポキシ熱硬化レジンに対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の要約
一側面において、本明細書で開示する態様は、熱硬化性組成物を硬化させる方法に関し、該方法は;エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含む硬化性組成物であってストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物を反応させること;未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;を含む。「中間」生成物に関連して記載するが、中間生成物は単離できる必要はなく、そして用語「中間体」は、詳細には、中間生成物が単離できない場合を包含することを意図する。
【0012】
別の側面において、本明細書で記載する態様は、コンポジットを形成する方法に関し、該方法は:硬化性組成物を基材上に堆積させ、該硬化性組成物が、エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含み、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物であること;エポキシレジンとエポキシ反応性化合物とを反応させて、未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;そして、未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;を含む。
【0013】
他の側面および利点は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての鎖延長ネットワーク(CEN)のNMRスペクトルを比較する。
【図2】図2は、本明細書で開示する態様に係る種々のエポキシレジンについてのアルキルエーテル分岐レベルを示すグラフである。
【図3】図3は、本明細書で開示する態様に係るCENの反応動態を示すグラフである。
【図4】図4は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンのガラス転移温度の比較である。
【図5】図5は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンの密度の比較である。
【図6】図6は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての動的機械温度分析データのグラフの比較である。
【図7】図7は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての動的機械温度分析データのグラフの比較である。
【図8】図8は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての分解温度の比較である。
【図9】図9は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについてのCTEの比較である。
【図10】図10は、過剰の未反応エポキシ基を有するエポキシレジンおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての破壊靱性の比較である。
【図11】図11は、フェノール性成分のみのCENおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての引張降伏を比較する。
【図12】図12は、フェノール性成分のみのCENおよび本明細書で開示する態様に係るエポキシレジンについての引張降伏を比較する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
有利そして驚くべきことに、本発明者らは、改善された靱性および/またはより高い耐熱性を有する熱硬化性組成物が、過剰のエポキシ基を含有するエポキシレジン組成物を用いて形成できることを発見した。一側面において、本明細書で開示する態様は、改善された靱性を有するエポキシ熱硬化性組成物に関する。別の側面において、本明細書で開示する態様は、より高い耐熱性を有するエポキシ熱硬化性組成物に関する。本明細書で開示する熱硬化性組成物は、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンとエポキシ反応性化合物(硬化剤)との反応生成物を含むことができ、ここでエポキシレジンと硬化剤との反応が続き、過剰のエポキシレジンは実質的に反応/エーテル化している。
【0016】
本明細書で開示される、改善された靱性および/またはより高い耐熱性を有する熱硬化性組成物は、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含む硬化性組成物を硬化させることにより形成できる。エポキシレジンは、エポキシ反応性化合物と反応でき、そして、続いて、過剰のエポキシ基が反応して追加の架橋基を形成できる。
【0017】
本明細書で開示する幾つかの態様において、硬化性組成物は、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含むことができる。エポキシレジンは、エポキシ反応性化合物と反応できる。続いて、過剰のエポキシ基を反応させて追加の架橋を形成できる。過剰のエポキシ基の逐次反応は、触媒によって触媒されることができる。過剰のエポキシ基を逐次的に反応させることによって、得られる硬化組成物の幾つかの態様は、より低いバルク密度を有することができ;他の態様はより高い破壊靱性を有することができ、そして更に他の態様はより高い耐熱性を有することができる。共反応性硬化剤の使用により、過剰なエポキシ基の硬化の間のエポキシ熱硬化物の顕著な分解を回避できる。
【0018】
本明細書で開示する硬化性組成物は、幾つかの態様において最大2000パーセントのストイキオメトリー的に過剰のエポキシを含むことができる。他の態様において、本明細書で開示する硬化性組成物は、5パーセントから1500パーセント;他の態様においては10パーセントから1000パーセント;他の態様においては20パーセントから750パーセント;および更に他の態様においては50パーセントから500パーセント、のストイキオメトリー的に過剰のエポキシを含むことができる。
【0019】
本明細書で記載するエポキシネットワークは、2つの反応機構により形成できる。第1の反応機構は、エポキシレジンと何らかの種類の共反応性硬化剤,例えばアミンまたはフェノール性化合物(これはストイキオメトリー的にポリマーネットワーク中に組み込まれ、典型的には2級水酸基を生成する)との反応である。第2の反応機構は、エポキシレジンのエーテル化(例えば、2級水酸基とエポキシとの反応によるもの)である。エーテル化反応は、典型的には、硬化剤とエポキシとの反応よりも遅く、そしてルイス塩基,例えばイミダゾールを用いて触媒できる。逐次的、または少なくとも部分的に逐次的な反応,例えば過剰のエポキシレジンのエーテル化が、エポキシ熱硬化物の改善された特性をもたらすことができることを見出した。
【0020】
上記のように、本明細書の方法および組成物の態様は、エポキシレジン、硬化剤(curing agents / hardeners)(エポキシ反応性化合物)および触媒を含むことができる。加えて、本明細書の組成物は、種々の添加剤および他の変性剤,例えば鎖延長剤、流動性改良剤および溶媒を含むことができる。これらの各々は以下で、続けて本明細書で記載する反応および熱硬化性組成物の例でより詳細に説明する。
【0021】
エポキシレジン
本明細書で開示する態様において使用するエポキシレジンは、変更でき、ならびに従来および市販で入手可能なエポキシレジン(単独または2種以上の組合せで使用できる)を包含でき、例えば、ノボラックレジン、イソシアネート変性エポキシレジン、およびカルボキシレート付加物、その他が挙げられる。本明細書で開示する組成物のためのエポキシレジンの選択において、最終生成物の特性のみでなく、レジン組成物の加工に影響する場合がある粘度および他の特性をも考慮すべきである。
【0022】
エポキシレジン成分は、組成物の成形において有用な任意の種類のエポキシレジンであることができ、例えば、1種以上の反応性オキシラン基(本明細書で「エポキシ基」または「エポキシ官能基」という)を含有する任意の物質が挙げられる。本明細書で開示する態様において有用なエポキシレジンとしては、単官能エポキシレジン、多官能(マルチ官能またはポリ官能)エポキシレジン、およびこれらの組合せを挙げることができる。モノマー性およびポリマー性のエポキシレジンは、脂肪族、脂環式、芳香族、またはヘテロ環式のエポキシレジンであることができる。ポリマー性のエポキシとしては、末端エポキシ基を有する直鎖ポリマー(例えば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、ポリマー骨格オキシラン単位(例えばポリブタジエンポリエポキシド)、および側鎖エポキシ基を有するポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートポリマーまたはコポリマー)が挙げられる。エポキシは純粋化合物であることができるが、一般的には、分子当たり1つ、2つまたはそれ以上のエポキシ基を含有する混合物または化合物である。幾つかの態様において、エポキシレジンはまた、反応性−OH基を含むことができ、これはより高温で無水物、有機酸、アミノレジン、フェノールレジン、またはエポキシ基(触媒される場合)と反応して追加の架橋をもたらすことができる。
【0023】
一般的に、エポキシレジンは、グリシデート化レジン、脂環式レジン、エポキシ化油等であることができる。グリシデート化レジンは、しばしば、グリシジルエーテル(例えばエピクロロヒドリン)およびビスフェノール化合物(例えばビスフェノールA);C4からC28のアルキルグリシジルエーテル;C2からC28のアルキルおよびアルケニルグリシジルエステル;C1からC28のアルキル−、モノおよびポリ−フェノールグリシジルエーテル;多価フェノール(例えばピロカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(またはビスフェノールF)、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン(またはビスフェノールA)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、およびトリス(4−ヒドロキシフィニル)メタン)のポリグリシジルエーテル;上記ジフェノールの塩素化および臭素化の生成物のポリグリシジルエーテル;ノボラックのポリグリシジルエーテル;ジハロアルカンまたはジハロゲンジアルキルエーテルでの芳香族ヒドロカルボン酸の塩のエステル化により得られるジフェノールのエーテルのエステル化によって得られるジフェノールのポリグリシジルエーテル;フェノールと、少なくとも2つのハロゲン原子を含有する長鎖ハロゲンパラフィンとの縮合により得られるポリフェノールのポリグリシジルエーテル;の反応生成物である。本明細書で開示する態様において有用なエポキシレジンの他の例としては、ビス−4,4’−(1−メチルエチリデン)フェノールジグリシジルエーテルおよび(クロロメチル)オキシランビスフェノールAジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0024】
幾つかの態様において、エポキシレジンは、グリシジルエーテル型;グリシジルエステル型;脂環式型;ヘテロ環型;およびハロゲン化されたエポキシレジン等を包含できる。好適なエポキシレジンの限定しない例としては、クレゾールノボラックエポキシレジン、フェノール性ノボラックエポキシレジン、ビフェニルエポキシレジン、ハイドロキノンエポキシレジン、スチルベンエポキシレジン、ならびにこれらの混合物および組合せを挙げることができる。
【0025】
好適なポリエポキシ化合物としては、レゾルシノールジグリシジルエーテル(1,3−ビス−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゼン)、ビスフェノールA(2,2−ビス(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)プロパン)のジグリシジルエーテル、トリグリシジルp−アミノフェノール(4−(2,3−エポキシプロポキシ)−N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)アニリン)、ブロモビスフェノールA(2,2−ビス(4−(2,3−エポキシプロポキシ)3−ブロモ−フェニル)プロパン)のジグリシジルエーテル、ビスフェノールF(2,2−ビス(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)メタン)のジグリシジルエーテル、メタ−および/またはパラ−アミノフェノール(3−(2,3−エポキシプロポキシ)N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)アニリン)のトリグリシジルエーテル、およびテトラグリシジルメチレンジアニリン(N,N,N’,N’−テトラ(2,3−エポキシプロピル)4,4’−ジアミノジフェニルメタン)、ならびに2種以上のポリエポキシ化合物の混合物を挙げることができる。見出される有用なエポキシレジンのより包括的な列挙は、Lee,H.およびNeville,K., Handbook of Epoxy Resins,McGraw−Hill Book Company,1982再発行、に見出すことができる。
【0026】
他の好適なエポキシレジンとしては、芳香族アミンおよびエピクロロヒドリンを基にするポリエポキシ化合物,例えばN,N’−ジグリシジル−アニリン;N,N’−ジメチル−N,N’−ジグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン;N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン;N−ジグリシジル−4−アミノフェニルグリシジルエーテル;およびN,N,N’,N’−テトラグリシジル−1,3−プロピレンビス−4−アミノベンゾエートが挙げられる。エポキシレジンとしては:芳香族ジアミン、芳香族モノ1級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のうち1種以上のグリシジル誘導体も挙げることができる。
【0027】
有用なエポキシレジンとしては、例えば、多価ポリオール(例えばエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−へキサントリオール、グリセロール、および2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)のポリグリシジルエーテル;脂肪族および芳香族のポリカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、および二量化リノール酸等)のポリグリシジルエーテル;ポリフェノール(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブタン、および1,5−ジヒドロキシナフタレン等)のポリグリシジルエーテル;アクリレートまたはウレタン部分を有する変性エポキシレジン;グリシジルアミンエポキシレジン;ならびにノボラックレジンが挙げられる。
【0028】
エポキシ化合物は、脂環式(cycloaliphaticまたはalicyclic)エポキシドであることができる。脂環式エポキシドの例としては、ジカルボン酸(例えば、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)オキサレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート)の脂環式エステルのジエポキシド;ビニルシクロヘキサンジエポキシド;リモネンジエポキシド;ジシクロペンタジエンジエポキシド;等が挙げられる。ジカルボン酸の脂環式エステルの他の好適なジエポキシドは、例えば米国特許第2,750,395号に記載されている。
【0029】
他の脂環式エポキシドとしては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられる。他の好適な3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートは、例えば、米国特許第2,890,194号に記載されている。
【0030】
特に有用な更なるエポキシ含有物質としては、グリシジルエーテルモノマーを基にするものが挙げられる。例は、多価フェノールを過剰のクロロヒドリン(例えばエピクロロヒドリン)と反応させることによって得られる、多価フェノールのジ−またはポリグリシジルエーテルである。このような多価フェノールとしては、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールFとして公知)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAとして公知),2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジブロモフェニル)プロパン、1,1,2,2−テトラキス(4’−ヒドロキシ−フェニル)エタンまたはフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物(酸条件下で得られるもの),例えばフェノールノボラックおよびクレゾールノボラックが挙げられる。この種のエポキシレジンの例は、米国特許第3,018,262号に記載されている。他の例としては、多価アルコール(例えば、1,4−ブタンジオールまたはポリアルキレングリコール(例えば、ポリプロピレングリコール))のジ−またはポリグリシジルエーテル、および脂環式ポリオール(例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)のジ−またはポリグリシジルエーテルが挙げられる。他の例は、単官能レジン,例えばクレジルグリシジルエーテルまたはブチルグリシジルエーテルである。
【0031】
別の分類のエポキシ化合物は、多価カルボン酸(例えばフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸またはヘキサヒドロフタル酸)のポリグリシジルエステルおよびポリ(ベータ−メチルグリシジル)エステルである。更なる分類のエポキシ化合物は、アミン、アミドおよびヘテロ環窒素塩基のN−グリシジル誘導体,例えばN,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルビス(4−アミノフェニル)メタン、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N’−ジグリシジルエーテルウレア、N,N’−ジグリシジル−5,5−ジメチルヒダントイン、およびN,N’−ジグリシジル−5−イソプロピルヒダントインである。
【0032】
更に他のエポキシ含有物質は、グリシドールのアクリル酸エステル(例えばグリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレート)と1種以上の共重合可能なビニル化合物とのコポリマーである。このようなコポリマーの例は、1:1スチレン−グリシジルメタクリレート、1:1メチル−メタクリレートグリシジルアクリレートおよび62.5:24:13.5メチルメタクリレート−エチルアクリレート−グリシジルメタクリレートである。
【0033】
容易に入手可能なエポキシ化合物としては、オクタデシレンオキサイド;グリシジルメタクリレート;D.E.R.331(ビスフェノールA液体エポキシレジン)およびD.E.R.332(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)(The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能);ビニルシクロヘキセンジオキサイド;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−メチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート;ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート;ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル;ポリプロピレングリコールで変性された脂肪族エポキシ;ジペンテンジオキサイド;エポキシ化ポリブタジエン;エポキシ官能基含有シリコーンレジン;難燃性エポキシレジン(例えば、臭素化ビスフェノール型エポキシレジン、商標名D.E.R.580でThe Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能);フェノールホルムアルデヒドノボラックの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(例えば、商標名D.E.N.431およびD.E.N.438でThe Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能なもの);ならびにレゾルシノールジグリシジルエーテルが挙げられる。具体的には言及しないが、商標記号D.E.R.およびD.E.N.でDow Chemical Companyから入手可能な他のエポキシレジンもまた使用できる。
【0034】
エポキシレジンとしては、イソシアネート変性エポキシレジンも挙げることができる。イソシアネートまたはポリイソシアネートの官能基を有するポリエポキシドポリマーまたはコポリマーとしては、エポキシ−ポリウレタンコポリマーを挙げることができる。これらの物質は、1,2−エポキシ官能基を与える1つ以上のオキシラン環を有し、開放オキシラン環(これは、ジイソシアネートまたはポリイソシアネートとの反応のためのジヒドロキシル含有化合物のための水酸基として有用である)も有するポリエポキシドプレポリマーを使用することにより形成できる。イソシアネート部分はオキシラン環を開放させ、反応は1級または2級の水酸基とのイソシアネート反応として連続する。ポリエポキシドレジン上に十分なエポキシド官能基が存在し、有効なオキシラン環をなお有するエポキシポリウレタンコポリマーの生成が可能になる。直鎖ポリマーは、ジエポキシドとジイソシアネートとの反応を通じて生成できる。ジ−またはポリイソシアネートは、幾つかの態様において芳香族または脂肪族であることができる。
【0035】
他の好適なエポキシレジンは、例えば米国特許第7,163,973号、第6,632,893号、第6,242,083号、第7,037,958号、第6,572,971号、第6,153,719号および第5,405,688号、ならびに米国特許出願公開第20060293172号および第20050171237号(これらの各々は参照により本明細書に組入れる)に開示されている。
【0036】
下記のように、硬化剤および強化剤はエポキシ官能基を含むことができる。これらのエポキシ含有硬化剤および強化剤は、本明細書において、上記エポキシレジンと分けて考えるべきではない。
【0037】
硬化剤(エポキシ反応性化合物)
硬化剤(hardenerまたはcuring agent)は、エポキシレジン組成物の架橋を促進してポリマー組成物を形成するために与えることができる。エポキシレジンと同様、硬化剤(hardenerおよびcuring agent)は、個々に、または2種以上の混合物として使用できる。
【0038】
硬化剤としては、1級および2級のポリアミン、ならびにこれらの付加物、無水物、ならびにポリアミドを挙げることができる。例えば、多官能アミンとしては、脂肪族アミン化合物,例えばジエチレントリアミン(D.E.H.20,The Dow Chemical Company, Midland,Michiganから入手可能)、トリエチレンテトラミン(D.E.H.24,The Dow Chemical Company, Midland,Michiganから入手可能)、テトラエチレンペンタミン(D.E.H.26,The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能)、更に、上記アミンのエポキシレジンでの付加物、希釈物または他のアミン反応性化合物を挙げることができる。芳香族アミン,例えばメタフェニレンジアミンおよびジアミンジフェニルスルホン、脂肪族ポリアミン,例えばアミノエチルピペラジンおよびポリエチレンポリアミンならびに芳香族ポリアミン,例えばメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、およびジエチルトルエンジアミン、もまた使用できる。
【0039】
無水物硬化剤としては、例えば、ナド酸メチル無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、フタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、およびメチルテトラヒドロフタル酸無水物、その他を挙げることができる。
【0040】
硬化剤(hardenerまたはcuring agent)としては、フェノール由来または置換フェノール由来のノボラックまたは無水物を挙げることができる。好適な硬化剤の限定しない例としては、フェノールノボラック硬化剤、クレゾールノボラック硬化剤、ジシクロペンタジエンフェノール硬化剤、リモネン型硬化剤、無水物、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
幾つかの態様において、フェノールノボラック硬化剤は、ビフェニル部分またはナフチル部分を含有できる。フェノール性ヒドロキシ基は、化合物のビフェニル部分またはナフチル部分に付いていることができる。この型の硬化剤は、例えば、EP915118A1号に記載される方法に従って調製できる。例えば、ビフェニル部分を含有する硬化剤は、フェノールとビスメトキシ−メチレンビフェニルとを反応させることによって調製できる。
【0042】
他の態様において、硬化剤としては、ジシアンジアミドおよびジアミノシクロヘキサンを挙げることができる。硬化剤としては、イミダゾール、その塩、および付加物も挙げることができる。これらのエポキシ硬化剤は、典型的には、室温で固体である。好適なイミダゾール硬化剤の例は、EP906927A1号に開示されている。他の硬化剤としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、無水物、およびフェノールが挙げられる。
【0043】
幾つかの態様において、硬化剤は、アミノ基当たりの分子量が最大500のアミノ化合物,例えば芳香族アミンまたはグアニジン誘導体であることができる。アミノ硬化剤の例としては、4−クロロフェニル−N,N−ジメチルウレアおよび3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチルウレアが挙げられる。
【0044】
本明細書で開示する態様において有用な硬化剤の他の例としては:3,3’−および4,4’−ジアミノジフェニルスルホン;メチレンジアニリン;ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(EPON 1062としてShell Chemical Co.から入手可能):およびビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(EPON 1061としてShell Chemical Co.から入手可能)が挙げられる。
【0045】
エポキシ化合物のためのチオール硬化剤もまた使用でき、そして例えば、米国特許第5,374,668号に記載されている。本明細書で用いる「チオール」は、ポリチオールまたはポリメルカプタンの硬化剤も包含する。例示的なチオールとしては、脂肪族チオール,例えばメタンジチオール、プロパンジチオール、シクロヘキサンジチオール、2−メルカプトエチル−2,3−ジメルカプトサクシネート、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、1,2−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラ(メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(ベータ−チオプロピオネート)、プロポキシル化アルカンのトリグリシジルエーテルのトリス−メルカプタン誘導体、およびジペンタエリスリトールポリ(ベータ−チオプロピオネート);脂肪族チオールのハロゲン置換誘導体;芳香族チオール,例えばジ−、トリ−、またはテトラ−メルカプトベンゼン、ビス−、トリス−またはテトラ−(メルカプトアルキル)ベンゼン、ジメルカプトビフェニル、トルエンジチオールおよびナフタレンジチオール;芳香族チオールのハロゲン置換誘導体;ヘテロ環式環含有チオール,例えばアミノ−4,6−ジチオール−sym−トリアジン、アルコキシ−4,6−ジチオール−sym−トリアジン、アリールオキシ−4,6−ジチオール−sym−トリアジンおよび1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレート;ヘテロ環式環含有チオールのハロゲン置換誘導体;少なくとも2つのメルカプト基を有し、かつメルカプト基に加えて硫黄原子を含有するチオール化合物,例えばビス−、トリス−またはテトラ(メルカプトアルキルチオ)ベンゼン、ビス−、トリス−またはテトラ(メルカプトアルキルチオ)アルカン、ビス(メルカプトアルキル)ジスルフィド、ヒドロキシアルキルスルフィドビス(メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシアルキルスルフィドビス(メルカプトアセテート)、メルカプトエチルエーテルビス(メルカプトプロピオネート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(メルカプトアセテート)、チオジグリコール酸ビス(メルカプトアルキルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトアルキルエステル)、4,4−チオ酪酸ビス(2−メルカプトアルキルエステル)、3,4−チオフェンジチオール、ビスマスチオールおよび2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが挙げられる。
【0046】
エポキシレジン、アクリロニトリル、または(メタ)アクリレートの付加によって変性される脂肪族ポリアミンもまた硬化剤として利用できる。加えて、種々のマンニッヒ塩基を使用できる。アミン基が直接芳香環に付いている芳香族アミンもまた使用できる。
【0047】
本発明における使用のための硬化剤の好適性は、製造者の仕様の参照またはルーチン実験により評価できる。硬化剤が、液体または固体のエポキシとの混合のための所望温度にて非晶性固体または結晶性固体である場合には、製造者の仕様を用いて評価できる。これに代えて、固体硬化剤は、単純な結晶学を用いて試験して、固体硬化剤の非晶性または結晶性の性質、および液体または固体のいずれかの形状のエポキシレジンとの混合についての硬化剤の好適性を評価できる。
【0048】
鎖延長剤
鎖延長剤は、本明細書で記載する組成物における任意成分として使用できる。本明細書で開示される硬化性組成物の態様において、鎖延長剤として使用できる化合物としては、近接エポキシ基との反応性を有する、分子当たり平均約2個の水素原子を有する任意の化合物が挙げられる。幾つかの態様において、二価および多価のフェノール化合物を使用でき、例えば、キサンテン、フタレインおよびスルホンフタレイン(2つのフェノール性水酸基を有するもの)が挙げられる。
【0049】
幾つかの態様において、鎖延長剤としては、フェノール性ヒドロキシル含有化合物,例えばレゾルシノール、カテコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールK、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラターシャルブチルビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、フェノールフタレイン、フェノールスルホンフタレイン、フルオレセイン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラブロモジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−2,6,2’,6’−テトラブロモ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ジシクロペンタジエンまたはそのオリゴマーおよびフェノール性化合物の反応生成物、これらの混合物等を挙げることができる。他の好適な鎖延長剤としては、例えば、アニリン、トルイジン、ブチルアミン、エタノールアミン、N,N−ジメチルフェニレンジアミン、フタル酸、アジピン酸、フマル酸、1,2−ジメルカプト−4−メチルベンゼン、ジフェニルオキサイドジチオール、1,4−ブタンジチオール、これらの混合物等を挙げることができる。
【0050】
他の態様において、鎖延長剤は、窒素含有モノマー,例えば、イソシアネート、およびアミンまたはアミドであることができる。幾つかの態様において、鎖延長剤としては、第WO99/00451号および米国特許第5,112,932号(これらの各々は参照により本明細書に組入れる)に記載されるようなエポキシ−ポリイソシアネート化合物を挙げることができる。鎖延長剤として有用なイソシアネート化合物としては、例えば、MDI,TDIおよびこれらの異性体が挙げられる。
【0051】
窒素含有鎖延長剤は、例えば、アミン−またはアミノアミド−含有化合物(エポキシ基と反応可能な2つのN−H結合を有するエポキシ末端アミン化合物を形成するもの)であることもできる。アミン含有鎖延長剤としては、例えば、一般式R−NH2(式中、Rは、アルキル、シクロアルキルまたはアリール部分である)のモノ−1級アミン;一般式R−NH−R’−NH−R”(式中、R、R’およびR”は、アルキル、シクロアルキルまたはアリール部分である)のジ−2級アミン;およびヘテロ環式ジ−2級アミン(N原子の一方または両方が窒素含有へテロ環式化合物の一部である)が挙げられる。アミン含有鎖延長剤の例としては、2,6−ジメチルシクロヘキシルアミンまたは2,6−キシリジン(1−アミノ−2,6−ジメチルベンゼン)を挙げることができる。芳香族ジアミンは、他の態様において、例えば3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンまたは4,4’−メチレン−ビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)および3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル等とともに使用できる。
【0052】
鎖延長剤として有用なアミノアミド含有化合物としては、例えば、カルボン酸アミドの誘導体、更にスルホン酸アミドの誘導体(追加的に1つの1級または2つの2級のアミノ基を有するもの)が挙げられる。このような化合物の例としては、アミノ−アリールカルボン酸アミドおよびアミノ−アリールスルホンアミド,例えばスルファニルアミド(4−アミノベンゼンスルホンアミド)およびアントラニルアミド(2−アミノベンズアミド)が挙げられる。
【0053】
鎖延長剤の量は、幾つかの態様において、エポキシレジン基準で1〜40質量パーセントの量で使用できる。他の態様において、鎖延長剤は、2〜35質量パーセント;他の態様では3〜30質量パーセント;および更に他の態様では5〜25質量パーセントの範囲の量(各々エポキシレジンの量基準)で使用できる。
【0054】
溶媒
別の任意の成分(硬化性エポキシレジン組成物に添加できるもの)は、溶媒または溶媒のブレンド物である。エポキシレジン組成物中で用いる溶媒は、レジン組成物中で他の成分と混和性であることができる。用いる溶媒は、電気ラミネートの形成において典型的に用いられるものから選択できる。本発明において採用する好適な溶媒の例としては、例えば、ケトン、エーテル、アセテート、芳香族炭化水素、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、グリコールエーテル、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0055】
触媒および阻害剤のための溶媒としては極性溶媒を挙げることができる。1〜20個の炭素原子を有する低級アルコール,例えばメタノール等は、プリプレグを形成する際に良好な溶解性およびレジンマトリクスからの除去のための揮発性を与える。他の有用な溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,2−プロパンジオール、エチレングリコールおよびグリセリンを挙げることができる。
【0056】
硬化性エポキシレジン組成物において用いる溶媒の総量は、一般的には、幾つかの態様において約1〜約65質量パーセントの範囲であることができる。他の態様において、溶媒の総量は、2〜60質量パーセント;他の態様では3〜50質量パーセント;および更に他の態様では5〜40質量パーセントの範囲であることができる。
【0057】
触媒
幾つかの態様において、触媒は、エポキシレジン成分と硬化剤(curing agent または hardener)との間の反応を促進するために使用できる。触媒としては、例えば、イミダゾールまたは3級アミンを挙げることができる。他の触媒としては、テトラアルキルホスホニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩等;ベンジルジメチルアミン;ジメチルアミノメチルフェノール;およびアミン,例えばトリエチルアミン、イミダゾール誘導体等を挙げることができる。
【0058】
3級アミン触媒は、例えば米国特許第5,385,990号(参照により本明細書に組入れる)に記載されている。例示的な3級アミンとしては、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ベンジルジメチルアミン、m−キシリレンジ(ジメチルアミン)、N−N’−ジメチルピペラジン、N−メチルピロリジン、N−メチルヒドロキシピペリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノエタン、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリブチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルデシルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン、N−メチルピペリジン、N,N’−ジメチル−1,3−(4−ピペリジノ)プロパン、ピリジン等が挙げられる。他の3級アミンとしては、1,8−ジアゾビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン、1,8−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、4−ジメチルアミノピリジン、4−(N−ピロリジノ)ピリジン、トリエチルアミンおよび2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールが挙げられる。
【0059】
触媒としては、イミダゾール化合物を挙げることができ、分子当たり1つのイミダゾール環を有するもの,例えばイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−イソプロピルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1)’]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1)’]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1)’]−エチル−s−トリアジン、2−メチルイミダゾリウム−イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾリウム−イソシアヌル酸付加物、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等;ならびに、上記で列挙したヒドロキシメチル含有イミダゾール化合物,例えば2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールおよび2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールの脱水、ならびに、脱ホルムアルデヒド反応によるこれらの縮合により得られる、分子当たり2つ以上のイミダゾール環を含有する化合物、例えば、4,4’−メチレン−ビス−(2−エチル−5−メチルイミダゾール)等が挙げられる。
【0060】
幾つかの態様において、2種以上の触媒の組合せを使用できる。他の態様において、使用する少なくとも1種の触媒は、組成物において使用される硬化剤よりも高い温度で反応できる。例えば、硬化剤が温度150℃で反応を開始する場合、触媒は180℃で反応を開始することができる。
【0061】
任意の添加剤
組成物はまた、エポキシ系において従来見出されている任意の添加剤およびフィラーを含むことができる。添加剤およびフィラーとしては、シリカ、ガラス、タルク、金属粉末、二酸化チタン、湿潤剤、顔料、色剤、型離型剤、カップリング剤、難燃剤、イオン捕捉剤、UV安定剤、軟化剤、および粘着付与剤を挙げることができる。添加剤およびフィラーとしては、ヒュームドシリカ、凝集体,例えばガラスビーズ、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオールレジン、ポリエステルレジン、フェノールレジン、グラファイト、モリブデンジスルフィド、研磨顔料、粘度低下剤、窒化ホウ素、マイカ、成核剤および安定剤、その他も挙げることができる。フィラーおよび変性剤をエポキシレジン組成物への添加前に予熱して湿気を追い出してもよい。加えて、これらの任意の添加剤は、組成物の特性に対する作用を、硬化の前および/または後に有する場合があり、そして組成物および所望の反応生成物の配合時に考慮すべきである。
【0062】
他の態様において、本明細書で開示する組成物は、強化剤を含むことができる。強化剤は、ポリマーマトリクス内に第2の相を形成することにより機能する。この第2の相は、ゴム状であり、そしてこれによりクラックの成長を抑留し、改善された衝撃靱性を付与できる。強化剤としては、ポリスルホン、シリコン含有弾性ポリマー、ポリシロキサン、および当該分野で公知の他のゴム強化剤を挙げることができる。
【0063】
他の態様において、本明細書で開示する組成物はナノフィラーを含むことができる。ナノフィラーとしては、無機物、有機物、または金属を挙げることができ、そして粉末、ウイスカー、繊維、板またはフィルムの形状であることができる。ナノフィラーは、一般的には、任意のフィラーまたは複数種のフィラーの組合せであることができ、少なくとも1つの寸法(長さ、幅または厚み)が約0.1〜約100ナノメートルを有することができる。例えば、粉末については、少なくとも1つの寸法は、グレインサイズとして特徴付けることができ;ウイスカーおよび繊維については、少なくとも1つの寸法は径であり;そして板およびフィルムについては、少なくとも1つの寸法は厚みである。例えばクレーは、エポキシレジン系のマトリクス中に分散でき、そしてクレーは、エポキシレジン中に剪断下で分散している場合、極めて薄い構成層に分解できる。ナノフィラーとしては、クレー、有機クレー、カーボンナノチューブ、ナノウイスカー(例えばSiC),SiO2、周期表のs,p,d,およびf族から選択される1種以上の元素の元素、アニオンまたは塩、金属、金属酸化物およびセラミックスを挙げることができる。
【0064】
基材
基材または対象物は特に限定を受けない。そのようなものとして、基材としては、金属,例えばステンレススチール、鉄、スチール、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、アルマイト等;このような金属の合金、ならびにこのような金属でめっきされたシートおよびこのような金属のラミネートシートを挙げることができる。基材としては、ポリマー、ガラス、および種々の繊維,例えばカーボン/グラファイト;ホウ素;クオーツ;酸化アルミニウム;ガラス,例えばEガラス、Sガラス、S−2 GLASS(登録商標)またはCガラス;ならびにチタンを含有するシリコンカーバイドまたはシリコンカーバイド繊維等も挙げることができる。市販で入手可能な繊維としては:有機繊維,例えばKEVLAR;酸化アルミニウム含有繊維,例えばNEXTEL繊維(3Mより);シリコンカーバイド繊維,例えばNICALON(Nippon Carbonより);およびチタンを含有するシリコンカーバイド繊維,例えばTYRRANO(Ubeより)を挙げることができる。幾つかの態様において、基材を相溶化剤でコートして、硬化性または硬化させた組成物の基材に対する接着を改善できる。
【0065】
選択された態様において、本明細書で記載する硬化性組成物は、高温に耐えることができない基材用のコーティングとして使用できる。他の態様において、硬化性組成物は、寸法および形状によって均一な加熱の適用が難しい基材,例えば風車のブレード等とともに使用できる。
【0066】
コンポジットおよびコート構造物
本明細書で記載する硬化性組成物およびコンポジットは、従来、上記のように硬化される前のエポキシレジン組成物(ストイキオメトリー的に過剰のエポキシレジンおよび温度安定性の触媒を含む)の代替で製造できる。幾つかの態様において、コンポジットは、本明細書で開示する硬化性組成物を硬化させることによって形成できる。他の態様において、コンポジットは、硬化性エポキシレジン組成物を基材または補強物質に、例えば基材または補強物質を含浸させまたはコーティングし、そして硬化性組成物を硬化させることによって適用することによって形成できる。
【0067】
上記された硬化性組成物は、粉末、スラリー、または液体の形状であることができる。硬化性組成物が製造された後、上記のように、これを上記の基材の上、中または間に、硬化性組成物の硬化の前、間または後に配置できる。
【0068】
例えば、コンポジットは、基材を硬化性組成物でコーティングすることによって形成できる。コーティングは、種々の手順,例えば、スプレーコーティング、カーテンフローコーティング、ロールコーターまたはグラビアコーターでのコーティング、ブラシコーティング、およびディップまたは浸漬コーティングで行なうことができる。
【0069】
種々の態様において、基材は単層または複層であることができる。例えば、基材は、2種のアロイのコンポジット、複層ポリマー物品、および金属コートポリマー、その他であることができる。他の種々の態様において、1つ以上の層の硬化性組成物を基材上に配置できる。例えば、本明細書で記載するポリウレタンリッチの硬化性組成物でコートされた基材は、エポキシレジンリッチの硬化性組成物で追加的にコートできる。基材層と硬化性組成物層との種々の組合せによって形成される他の複層コンポジットもまた本発明で構想される。
【0070】
幾つかの態様において、硬化性組成物の加熱は、例えば温度に敏感な基材の過熱を回避するために局所的であることができる。他の態様において、加熱は、基材および硬化性組成物の加熱を含むことができる。
【0071】
一態様において、上記の硬化性組成物、コンポジット、およびコート構造物は、硬化剤の反応を開始させるのに十分な温度まで硬化性組成物を加熱することにより硬化させることができる。初期硬化の間、2級水酸基は硬化剤反応物として形成できる。硬化剤とエポキシとの少なくとも一部の反応に続き、硬化性組成物、コンポジット、またはコート構造物の温度は、2級水酸基と過剰のエポキシレジンとの反応を触媒するための触媒にとって十分な温度まで上昇させることができる。この様式において、ストイキオメトリー的に過剰のエポキシは、エポキシ熱硬化物の顕著な分解なしで反応できる。
【0072】
幾つかの態様において、過剰のエポキシの反応の間に形成する追加の架橋は、エポキシ熱硬化物のバルク密度を低下させる場合がある。他の態様において、追加の架橋は、エポキシ熱硬化物の破壊靱性を増大させる場合がある。更に他の態様において、ストイキオメトリー的に過剰のエポキシの反応は、未反応エポキシが熱硬化性組成物に対して有する場合がある有害な作用(先行技術において記載するような)を回避して、適切または改善された耐熱性、耐溶剤性、低吸湿、リフロー信頼性、電気特性、ガラス転移温度、および接着、その他のうち1つ以上を有する熱硬化性組成物をもたらす場合がある。
【0073】
本明細書で開示される硬化性組成物の硬化は、温度少なくとも約30℃、最大約250℃を何分間か、最大何時間かの間、エポキシレジン、硬化剤および触媒(使用する場合)に応じて必要とする場合がある。他の態様において、硬化は、温度少なくとも100℃で、何分間か、最大何時間かの間起こる場合がある。後処理を同様に用いることができ、このような後処理は、通常、温度約100℃〜250℃の間である。
【0074】
幾つかの態様において、硬化を段階化して発熱を防止できる。段階化としては、例えば、ある時間ある温度での硬化に続いてのある時間のより高い温度での硬化が挙げられる。段階化された硬化は2つ以上の硬化段階を含むことができ、そして幾つかの態様において温度約180℃未満で、そして他の態様では約150℃未満で開始できる。
【0075】
幾つかの態様において、硬化温度は、下限30℃、40℃、50℃、60℃、7O℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、または180℃から、上限250℃、240℃、230℃、220℃、210℃、200℃、190℃、180℃、170℃、160℃の範囲であることができ、該範囲は、任意の下限から任意の上限であることができる。
【0076】
本明細書で開示する硬化性組成物は、高強度のフィラメントまたは繊維,例えばカーボン(グラファイト)、ガラス、ボロン等を含有するコンポジットにおいて有用であることができる。コンポジットは、幾つかの態様において約30%〜約70%、および他の態様では40%〜70%のこれらの繊維(コンポジットの総体積基準)を含有できる。
【0077】
例えば繊維補強コンポジットは、ホットメルトプリプレグ化によって形成できる。プリプレグ化方法は、連続繊維のバンドまたは布帛に、溶融形状の本明細書で記載する熱硬化性エポキシレジン組成物を含浸させてプリプレグを得て、これを引上げおよび硬化させて、繊維と熱硬化レジンとのコンポジットを作製することによって特徴付けられる。
【0078】
他の加工技術を用いて、本明細書で開示するエポキシ系組成物を含むコンポジットを形成できる。例えば、フィラメント巻取り、溶媒プリプレグ化、および引抜成形は、未硬化エポキシレジンを使用できる典型的な加工技術である。更に、バンドル形状の繊維を未硬化エポキシレジン組成物でコートし、フィラメント巻取りによって引上げ、そして硬化させてコンポジットを形成できる。
【0079】
本明細書で記載する硬化性組成物およびコンポジットは、接着剤、構造ラミネートおよび電気ラミネート、コーティング、キャスティング、航空宇宙産業用の構造物として、エレクトロニクス産業用の回路基板等として、風車ブレードとして、更にスキー板、スキーポール、釣竿、ならびに他のアウトドアスポーツ用品の形成のために有用であることができる。本明細書で開示するエポキシ組成物はまた、電気ニス、カプセル化剤、半導体、一般的な成形粉末、フィラメント巻取りパイプ、貯蔵タンク、ポンプ用ライナー、および防食コーティング、その他において使用できる。
【0080】
例
エポキシネットワークを、本明細書で開示する態様に従って形成し(サンプル1〜12)、そして、いずれの過剰のエポキシも反応していないフェノール性成分のみのエポキシネットワーク(比較サンプル1〜4)、およびエポキシのみのサンプル(比較サンプル5)と比較する。サンプル調製は、概略的には以下に記載し、各サンプルの配合の詳細は表1に示す。
【0081】
サンプル1〜12
特定量の、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(D.E.R.(商標)332 エポキシレジン,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能 表1中「BADGE」という)、および1,1,1−トリス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン(「THPE」,Aldrichから入手可能)を、表1に示すように組合せて、1リットル三つ口丸底フラスコ中で165℃に加熱して、明澄で均一な液体を得る。ビスフェノールA(「BA」,PARABISグレード,The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能)を次いでフラスコに添加し、そして混合物を更に180℃に加熱して、再び明澄で均一な液体を得る。混合物を次いで80℃に冷却した後、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール触媒(CUREZOL 1B2MZ,Air Products and Chemicalsから入手可能)を添加する。遠心分離ボトルを用いる3000rpmで3分間の遠心分離により混合物を脱ガスし、ホルダーを70℃に予熱して混合物の流動性を維持する。次いで、1/8インチ厚のプラークを、1/2インチアルミニウム板から2つの二重箔アルミニウムシートを敷いて(Insulectro Distributors,Dallas,TX)組立てた型内でキャストし、1/8インチU形アルミニウムスペーサーおよび長さ3/16インチの管により分離する。プラークを200℃で2時間硬化させる。組立物を次いでゆっくり室温まで冷却させた後、硬化したプラークを型から取出す。
【0082】
比較サンプル1〜4
特定量の、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(D.E.R.(商標)332 エポキシレジン,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能)、および1,1,1−トリス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン(「THPE」,Aldrichから入手可能)を組合せて、1リットル三つ口丸底フラスコ中で165℃に加熱して、明澄で均一な液体を得る。ビスフェノールA(「BA」,PARABISグレード,The Dow Chemical Company,Midland,Michiganから入手可能)を次いでフラスコに添加し、そして混合物を更に180℃に加熱して、再び明澄で均一な液体を得る。混合物を次いで120℃に冷却した後、特定量のA−1触媒(70%w/w エチルトリフェニルホスホニウムアセテート−酢酸複合体(メタノール中),Morton Chemical,Garden Grove,Californiaから入手可能)を添加する。減圧により3分間混合物を脱ガスする。次いで、1/8インチ厚のプラークを、1/2インチアルミニウム板から2つの二重箔アルミニウムシートを敷いて(Insulectro Distributors,Dallas,TX)組立てた型内でキャストし、1/8インチU形アルミニウムスペーサーおよび長さ3/16インチの管により分離する。プラークを200℃で2時間硬化させる。組立物を次いでゆっくり室温まで冷却させた後、硬化したプラークを型から取出す。
【0083】
比較サンプル5
エポキシレジンおよび1B2MZ触媒のみを含有するプラークを、サンプル1〜12に関する上記のプロセスに従って調製する。得られる生成物を次いで250℃で2時間後硬化させる。
【0084】
【表1】
【0085】
サンプル試験
上記のサンプルおよび比較サンプルを、エポキシエーテル化度、架橋密度、熱的および機械的な特性(示差走査熱量測定(DSC)、熱機械分析(TMA)、動的機械熱分析(DMTA)、熱重量分析(TGA)および機械的試験(破壊靱性および引張特性)等)について分析する。各試験の種類および結果の説明を以下に記載し、そして表2〜4および図1〜11に示す。
【0086】
硬化したプラークにおけるエポキシエーテル化度は、単一パルスマジック角回転(MAS)13CNMRによって測定する。実験は、Bruker Avance 400分光計(Bruker BioSpin,Billerica,MA)で行ない、共振周波数100.56MHzにて7mm MAS−IIプローブで操作する。サンプルおよび比較サンプルは、分析のために粉砕してDMF中(約2:1溶媒:サンプル(質量基準))で膨潤させて溶解を向上させる。MASスピードは4800Hzである。
【0087】
示差走査熱量測定(DSC)実験は、TA Instruments(New Castle,DE)Q−1000熱量計で行なう。平衡温度35℃から275℃の、10℃/分の窒素下での2回のスキャンを中間の10℃/分での冷却を伴って各サンプルについて開放アルミニウムパン内で行なう。記録されるガラス転移温度(Tg)値は、2回目のスキャンでの熱容量カーブの変曲点から測定した。
【0088】
熱機械分析(TMA)実験は、TA Instruments Q−400でマイクロエクスパンションプローブを用いて行なう。分析前にサンプルをデシケーター内で1晩乾燥させ、そして温度を2回275℃に10℃/分で上げる。Tgおよび熱膨張係数(CTE)を、2回目スキャンから算出する。
【0089】
動的機械熱分析(DMTA)は、環境制御されたオーブンチャンバーおよび矩形板固定具を備えるARES LSレオメーター(Rheometric Scientific,Piscataway,NJ)で行なった。1.75インチ×0.5インチ×0.125インチのサンプルにつき、0.1%の物質を1Hzで適用し、更に250℃に3℃/分で上げる。
【0090】
熱重量分析(TGA)実験は、TA Instruments Q−50で行なう。乾燥サンプルを、ランプによって室温から600℃に10℃/分で窒素をパージガスとして用いて分析する。分解温度(Td)は、分解の前で引かれる重量/温度カーブの正接の交点および出発質量の5パーセントが損失した温度の両者で評価する。
【0091】
サンプルの破壊靱性試験は、ASTM D−5045に従って行なう。サンプルは、水ジェットカッターを用いて切断してクラックおよび残留応力を最小化する。最低5つの分析を行なって平均化する。
【0092】
引張試験は、サンプルサイズ以外はASTM D638に従って、選択したサンプルで行なう。これらの試験について、通常1/8インチ厚熱硬化性プラークを、0.5インチ×2.75インチ片に、1/8インチゲージ幅で切断した。
【0093】
結果
【0094】
【表2】
【0095】
未反応エポキシは、サンプル1〜12のいずれについても検出されず、ほぼ完全な硬化(表2および図2を参照)を示す。しかし、より高レベルの過剰エポキシを有するサンプルは、相応のより高い分岐度を示さない。むしろ、NMR分析は、より高レベルの過剰エポキシでの分岐の増大に敏感ではない。
【0096】
未反応エポキシドが、存在すれば検出されることを確認するために、エポキシレジンおよび1B2MZ触媒のみを含有するプラークを準備する(比較サンプル5)。比較サンプル5の不完全硬化は、初期DSCスキャンにおける大きな発熱ピークの存在により確認される。NMRスペクトル(図1c)は、予測された44.4および50.6ppmの共鳴(2つのエポキシド環炭素に対応する)を含み、未反応エポキシド基が、存在する場合にはNMR法によって検出されることが確認される。2時間の250℃での後硬化の後、これらの2つの共鳴はNMRスペクトルから消失し(図示せず)、そして発熱はもはやDSCでは検出されない。
【0097】
過剰エポキシレジンを有するネットワークの架橋密度についての値は、フェノール性成分のみのサンプルについて得られるストイキオメトリーから直接算出される。A−1触媒のエポキシおよびフェノール性成分とのストイキオメトリー的な反応のみが予測されるからである。過剰のエポキシを含有するサンプルについて、架橋密度は、NMR分析によって観測されるような、過剰エポキシの100パーセント変換を用いることによって算出される。BA延長剤およびTHPE硬化剤の完全な変換もまた想定された。エポキシドとフェノール性基との間の反応は、エーテル化反応よりも大幅に速く、本質的に全てのフェノール性成分が、任意の相当のエーテル化よりも前に消費されるからである。そのようなものとして、架橋密度Xは:
(1) X=(nTHPE+nEE(CEE))/m
(式中、nTHPEは、THPEのモル数であり、nEEは、過剰エポキシド基のモル数であり(各過剰エポキシド基が架橋を導入できるため)、CEEは、過剰エポキシドの変換であり(フェノール性成分のみのサンプルについてはゼロであり、過剰エポキシを有するサンプルについては100パーセントである)、そしてmはネットワークの総質量である)
によって与えられる。架橋当たりの平均分子量Mpcは、単純に架橋密度の逆数である:
(2) Mpc=1/X
【0098】
最後に、架橋間の平均分子量Mcは、関係:
(3) Mc=(2/favg)Mpc
(式中、favgは、架橋基の平均官能性である)
によって与えられる。各THPE硬化剤分子および各反応過剰エポキシド基の両者は、単一の三方分岐点をネットワーク中に導入するため、各々は3つの官能性を有する。結果として、favg=3である。調製されるサンプルについてのMcの計算値を表2中に列挙する。
【0099】
熱分析および熱機械分析の結果を表3中に列挙する。
【0100】
これらの物質についてのガラス転移温度(Tg)は、3つの異なる技術:DSC,TMA,およびDMTA(表3中でそれぞれDSC Tg,TMA Tg,およびDMTA Tgとして示す)を用いて測定する。結果は極めて一致する(図4)ため、DSC結果のみを詳細に議論する。2回目のDSCスキャンから得られるTg値を、図4a中で1/Mcに対してプロットする。エポキシレジンのみを含有するネットワークを除き、いずれのDSCスキャンでも発熱が観察されず、完全な硬化を示した。これはNMRスペクトルにおける未反応エポキシドの不存在と一致する。表3に、ガラス状領域およびゴム状領域における熱膨張係数(それぞれ、CTEgおよびCTEr)、ゴム状領域における貯蔵弾性率(DMTA分析中に測定される)(G’r)、および分解温度(熱重量分析を用いて測定される)(分解の前で引かれる重量/温度カーブの正接の交点で測定される「TGA Td,ext」、および出発物質の5パーセントが損失した温度で測定される「TGA Td,5%重量損失」)を含む熱機械分析結果も示す。固体残渣(TGA残渣)は、最終温度600℃でのサンプル中の不揮発物質の量を表す。
【0101】
【表3】
【0102】
フェノール性成分のみのシリーズのサンプルについて、Tgは、架橋密度の増大(増大する1/Mc)とともに線形的に増大する。過剰エポキシを含有するサンプルが同じ一般的挙動を示す一方、変動量の過剰エポキシを有する2つのシリーズについての図4中の線の傾き(DSC測定に基づき、それぞれ延長剤/硬化剤比が4および1.75の、変動量の過剰エポキシを有するシリーズについて5.4および9.2kg℃/mol)は、両者とも、変動する延長剤/硬化剤比のシリーズの傾き(33.0kg℃/mol)よりも顕著に低い。THPE硬化剤および過剰エポキシド基の両者が、効果的な官能性である3を有するため、(favg−2)/favgの項は全ての場合で同じ値となる。
【0103】
表4中に列挙されるネットワークの密度測定は、加えられる架橋が、より効率的な充填に対する立体障害を形成するために、予測したように各シリーズ内でMcの増大とともに密度が低下することを示す(図5)。しかし、顕著なエポキシエーテル化度を有するネットワークにおいて、最低Mcの物質について到達される最終密度は、架橋密度を変動させるために延長剤/硬化剤比が用いられるネットワークよりも若干低く、そして与えられるMcについて、実質的な差が密度において存在する(特に、Mcが高い場合)可能性がある。更に、密度がより低いサンプルの1つによる実験、サンプル7は、これらの物質が、圧力下およびTg近傍の温度で圧縮される可能性がある予備的証拠をもたらした。この場合、圧力80psiを1/8インチプラークに120℃で1時間適用して、密度がフェノール性成分のみのサンプル、1.190g/mLにより近い物質を得た。このシリーズで最も高密度のサンプル、サンプル11での同一の実験は、密度の極めて小さい増大(1.177から1.185g/mL)のみもたらした。
【0104】
【表4】
【0105】
1/Mcに対してプロットした場合、ゴム状領域における貯蔵弾性率G’r(DMTAにより測定)は、評価されるほぼ全ての物質について同じ線にのり、モジュラスは確実に1/Mcとともに増大する(図6)。この挙動は、Tg超での架橋密度の増大に従った物質の剛性の増大と一致する。特筆すべき不一致は、最も少ない量の過剰エポキシを有するサンプルについてのみである。触媒および初期キャスト温度を除いてほぼ同一の処方を有するこれらの物質について、イミダゾール触媒で向上されたエーテル化によるMcの僅かなシフトがすでに示されている。しかしこのシフトは、G’rの過度に大きい増大に同伴したものである。より高い架橋密度を有するサンプルの剛性を幾らか欠くこれらのサンプルにおいて、エーテル化の範囲における小さい変化は、鎖間相互作用に対して顕著な影響を有する可能性がある。具体的には、幾つかのエーテル化結合の存在は、より強い相互作用を招来し、これらの物質のモジュラスを増大させる可能性がある。最後に、フェノール性硬化配合物は、Tgより上でダンピングを示し、これはMcの増大とともに大きさが増大した。これはおそらく、より高いMcのサンプル中に未反応で残存した、これらのサンプル中の少量の過剰エポキシにより生じた側鎖に起因する。過剰エポキシを伴って調製されたイミダゾール硬化サンプルは、この領域、存在する過剰エポキシの高変換の更なる指標においてダンピングを示さなかった。
【0106】
DMTA実験によるtanδカーブの試験から、これらの物質のTgに関する興味深い1つの最終点が明らかになる。フェノール性成分のみのサンプルについて、tanδカーブの幅は、評価されるMcの範囲を通じて比較的一定に維持された(図7a)。しかし、過剰エポキシサンプルでは、過剰エポキシの配合物中の量が増大するに従ってTg転移の幅は同様に増大するが、tanδカーブ下の面積が一定に維持された。この例は、図7b中に1つのシリーズについて示す。この挙動は、延長剤/硬化剤比が変わることによってMcが変動した場合には見られなかった。これは、Mc低下につれての後Tgダンピングによる。イミダゾール触媒サンプルにおけるtanδの幅が秩序立って増大することは、架橋密度の増大を伴う架橋間の鎖長の分布の広範化を示すと考えられる。
【0107】
サンプルについてのTd値は、一貫して十分400℃を超えていた(図8)。より高いMc値を有する物質の中で、Tdにおける何らかの小さい相違が、過剰エポキシ架橋を有するサンプルと有さないサンプルとの間で観察されたが、変動は極めて小さく、最大差が4パーセント未満であった。
【0108】
唯一の例外として、試験した全てのネットワークについて、ガラス状領域における物質についてのCTE(TMAによって測定される)(T<Tg,CTEg)は、Mc増大とともに極めて僅かな低下を示し(69〜78ppm/℃の範囲)、明らかな傾向はなかった(図9)。例外は、フェノール性成分のみのシリーズからの最も高いMcのサンプルにある。このサンプルは、この検討におけるいずれの他のものよりも顕著に高いMcを有し、そしてそのCTEgにおいて大きい降下を示した。ゴム状領域(T>Tg,CTEr)において、同じ例外のネットワークは別として、CTEr値は、Mc増大とともに若干増大する傾向がある(198〜243ppm/℃の範囲)。しかし、この場合、高Mcネットワークは、他のネットワークよりも大幅に高いCTErを有していた。
【0109】
サンプルの破壊靱性試験(ASTM D−5045に従った)から、エポキシエーテル化を伴う物質のより興味深い特性の1つが明らかになった(図10)。Mcが約1000mol/g超のサンプルについて、エーテル化ありおよびなしの両者で同じ傾向が観察され:架橋密度が増大するに従い、ネットワークの脆性が増大することによりKlcが低下する。しかし、過剰エポキシを有するこの範囲のサンプルは、エーテル化を伴わないサンプルよりも顕著に大きい破壊靱性値を有していた。これは、これらの低い密度によって示されるようなこれらの物質における増大した自由体積(鎖運動のためのより多くの空間を与えて、適用された負荷に適応させる)の結果である可能性があると我々は推測する。より低Mcのネットワークについて、Klc値のレベルは、比較的高い値の1.0MPa・m1/2近傍である。破壊データおよび破壊片自体の両者のより緊密な調査により、幾らかかの程度の、破壊前の延性降伏の証拠が明らかになった。典型的には、高架橋密度(これらが極めて脆いような)を有する物質は、低い値のKlcを有する。これらの物質で、この脆化は観察されなかった。
【0110】
これらのエポキシ熱硬化物の明らかな延性の改善を更に精査するために、選択したサンプル−フェノール性成分のみのサンプルおよび延長剤/硬化剤比が4のシリーズについてのMc範囲がいずれか極端であるサンプルについて引張試験を行なった。フェノール性成分のみのサンプルについて、引張係数は、Mc増大に伴って予期しない若干の増大を示し、傾向と逆のことが、ガラス状熱硬化物について典型的に観察された。これらのサンプルについての応力−歪み曲線を図11に示す。1つのあり得る説明は、Mcがこれらの物質において増大するに従い、第2の相互作用,例えば鎖間水素結合、双極性相互作用、および熱硬化骨格の絡み合いがより強くなることである。過剰エポキシサンプルについての応力−歪み曲線を図12に示す。高Mcネットワーク(配合物中に5パーセントの過剰エポキシを有する)について、物質は、伸長下で典型的な降伏挙動を示し、そして引張係数は、フェノール性成分のみの物質のいずれよりも大きかった。Mcが389(60パーセントの過剰エポキシ)であるネットワークについて、予測した挙動は、物質が降伏点の十分前に破壊されることである。降伏点は観察されたが、ネックは破壊前にすでに形成され始めていた。この物質はまた、フェノール性成分のみのサンプルよりも大きいモジュラスおよび高い降伏強度を有していた。この挙動(非常に緊密に架橋したネットワークにおいては予測されないことである)は、破壊靱性分析において観察された延性を確認する。硬化剤およびエーテル化レジンの組合せによる架橋で、物質の靱性は、フェノール性架橋のみを有する物質よりも顕著に高く、そしてある程度の延性が低Mcで(フェノール性硬化ネットワークにおいては完全に不存在である)存在する。
【0111】
最後に、サンプルを、エポキシレジンおよび触媒のみを含有させ、硬化剤または延長剤なしで、同様に形成した。初期の2時間の200℃での硬化の後、固体であるが不完全に硬化したネットワークが形成された(1回目のDSCスキャンにおける大きな発熱およびNMRスペクトルにおける未反応エポキシド基による共鳴の存在に基づく)。エポキシのほぼ完全な置換が、2時間250℃での後硬化を経て得られた(DSC発熱および未反応エポキシドによるNMR共鳴の両者が消失した)。このサンプルについて測定された特性を、表2,3および4に示す。鍵となる結果は、単独重合によって完全に硬化したレジンについての、合理的に高いTg(DSCにより120℃)にも関わらず、極めて低いKlc(0.57MPa・m1/2)であったことである。エポキシのみのサンプルの熱安定性はまた、そのより低いTdによって示されるように顕著に低下した。フェノール性成分(これは共反応性硬化剤を含む)との反応およびエーテル化の組合せによって硬化したサンプルは、いずれかの反応単独により硬化した物質とは極めて異なる特性を有する。
【0112】
サンプル13〜17
サンプル13〜17は、エポキシレジンおよび共反応性硬化剤から形成されるエポキシ熱硬化物である。これらのサンプルは以下のように調製し、そして平衡のストイキオメトリーを用いて調製されるエポキシレジンと比較する。
【0113】
特定量の、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(D.E.R.332,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能(表5参照)を、機械撹拌器、窒素/減圧入口、およびレオスタットで制御される加熱マントルを取付けた1リットル三つ口丸底フラスコ中で165℃に加熱する。レジンを60℃に加温し、次いで減圧で脱ガスする。レジンを次いで50℃に冷却させて1,2−ジアミノエタン(EDA,The Dow Chemical Co.,Midland,Michiganから入手可能)および1−ベンジル−2−メチルイミダゾール触媒(CUREZOL 1B2MZ,Air Products and Chemicalsから入手可能)触媒(使用する場合)を添加する。混合物をゆっくり10分間撹拌しながら減圧下で脱ガスする。次いで、混合物を、60℃で予熱した型組立物に注ぎ入れ、オーブン中60℃で3時間、および170℃で2時間硬化させる。上記で詳述したサンプルについての具体的な成分量を表5に列挙する。
【0114】
比較例(比較例6)は、平衡のストイキオメトリーを用いて形成する。比較例7もまた、これが触媒を含有しないため比較例である。他のサンプル(サンプル13〜17)は、100eq%過剰エポキシレジンを有し、そして1B2MZ触媒の量を変動させて(0〜1.1質量パーセント)硬化させる。
【0115】
【表5】
【0116】
上記サンプルの特性は、上記の試験法を用いて測定し、結果を表6aおよび6bに示す。過剰エポキシの変換度は、NMRによって示されるように触媒濃度とともに増大する。
【0117】
【表6】
【0118】
前記のD.E.R.332−BA−THPEサンプルとは異なり、D.E.R.332−EDAサンプルは、いずれの鎖延長剤も含有しない。十分量の触媒とともに、過剰エポキシの変換は、平衡のストイキオメトリーを有する比較サンプル6よりもまたはこれと同程度に良好な多くの特性(すなわち、Tgの観点での耐熱性およびTdの観点での熱安定性)を与えるのに十分高い。過剰のエポキシ架橋を有するD.E.R.332−EDAサンプルは、密度の低下または破壊靱性の改善のいずれも示さない。
【0119】
本明細書で開示する態様は、ストイキオメトリー的に過剰のエポキシレジンのフェノール性硬化ネットワーク中の組込みを与え、延長剤/硬化剤比の調整とは別に特定のMcまたはTgを狙う手法を与えることができる。代替ルートにより与えられるネットワークの物理的特性の多くは類似しており、幾つかの鍵となる相違が、顕著なエーテル化度を有する物質において観察されている。まず、これらの物質におけるTgは、比較的剛直なTHPE硬化剤を用いるのと比べてMcの変化に対する感度が幾らか小さく、場合により、配合の変動に関わらず特性のより緊密な制御が可能である。これらの物質のより低い密度でのこの変化は、観察されるより大きい破壊靱性および引張降伏における因子でもあるネットワークの自由体積の増大を示唆する。
【0120】
有利に、熱硬化配合物中のエーテル化された過剰エポキシは、幾つかの潜在的な利点を有する。典型的にはエポキシレジンに関して硬化剤のコストはより高いため、幾つかの態様において経済的な利点を実現できる場合がある。他の態様において、物質の特性を考慮し、これらのエーテル化物質が破壊前に降伏する能力は、極めて高い架橋密度であっても、幾つかの用途において、特にこの挙動が(例えばフィラーおよび/またはゴム状含有物の組込みを通じて)向上する場合に、加えられる利点であることができる。本明細書で開示する組成物の他の利点としては、増大する耐熱性、改善する破壊靱性、およびより高いガラス転移温度、その他の1つ以上が挙げられる。
【0121】
開示は、制限された数の態様を含むが、当業者は、この開示の利益を有し、本開示の範囲から逸脱しない他の態様を講じることができることを理解するであろう。従って、範囲は、特許請求の範囲のみによって限定されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性組成物を硬化させる方法であって:
エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含む硬化性組成物であってストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物を反応させて、未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;
未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;
を含む、方法。
【請求項2】
反応が、エポキシレジンをエポキシ反応性化合物と反応させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硬化性組成物が、約10パーセントから約1000パーセントのストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒がイミダゾールである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒の反応生成物を含み、該ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが実質的に反応している、熱硬化性組成物。
【請求項6】
DSCによって測定した場合のガラス転移温度(Tg)が、平衡のストイキオメトリーを用いて形成される同様のエポキシレジン系組成物よりも高い、請求項5に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
フィラー、ナノフィラー、界面活性剤、強化剤、および粘着付与剤のうち少なくとも1種を更に含む、請求項5または6に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
破壊靱性が少なくとも1.2MPa・m1/2である、請求項5〜7のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
密度が1.18g/cc未満である、請求項5〜8のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
引張係数が、少なくとも3000MPaである、請求項5〜9のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
コンポジットを形成する方法であって:
硬化性組成物を基材上に堆積させ、該硬化性組成物が、エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含み、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物であること;
エポキシレジンとエポキシ反応性化合物とを反応させて、未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;そして
未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;
を含む、方法。
【請求項12】
硬化性組成物が、約10パーセントから約1000パーセントのストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
熱硬化性組成物を硬化させる方法であって:
エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含む硬化性組成物であってストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物を反応させて、未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;
未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;
を含む、方法。
【請求項2】
反応が、エポキシレジンをエポキシ反応性化合物と反応させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硬化性組成物が、約10パーセントから約1000パーセントのストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒がイミダゾールである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒の反応生成物を含み、該ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが実質的に反応している、熱硬化性組成物。
【請求項6】
DSCによって測定した場合のガラス転移温度(Tg)が、平衡のストイキオメトリーを用いて形成される同様のエポキシレジン系組成物よりも高い、請求項5に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
フィラー、ナノフィラー、界面活性剤、強化剤、および粘着付与剤のうち少なくとも1種を更に含む、請求項5または6に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
破壊靱性が少なくとも1.2MPa・m1/2である、請求項5〜7のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
密度が1.18g/cc未満である、請求項5〜8のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
引張係数が、少なくとも3000MPaである、請求項5〜9のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
コンポジットを形成する方法であって:
硬化性組成物を基材上に堆積させ、該硬化性組成物が、エポキシレジン、エポキシ反応性化合物および触媒を含み、ストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンが存在する硬化性組成物であること;
エポキシレジンとエポキシ反応性化合物とを反応させて、未反応エポキシ基および2級水酸基を有する中間生成物を形成すること;そして
未反応エポキシ基および2級水酸基の少なくとも一部を触媒により触媒してエーテル化して熱硬化性組成物を形成すること;
を含む、方法。
【請求項12】
硬化性組成物が、約10パーセントから約1000パーセントのストイキオメトリー的に過剰なエポキシレジンを含む、請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−526907(P2010−526907A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507516(P2010−507516)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/061163
【国際公開番号】WO2008/140906
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/061163
【国際公開番号】WO2008/140906
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】
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