説明

過給機付内燃機関の異常判定装置

【課題】吸気切替弁の異常判定において、製造コストを抑制しつつ、誤判定を防止する。
【解決手段】過給機付内燃機関の異常判定装置(100)は、二つの過給機(14、15)を有する内燃機関(11)を備える車両(1)に搭載され、シングルターボモードとツインターボモードとを相互に切替可能であり、内燃機関に供給される吸気を、一方の過給機を介して内燃機関に導く第1流路と、二つの過給機の両方を介して内燃機関に導く第2流路とを相互に切替可能な吸気切替弁(16)を有するモード切替手段(22)と、シングルターボモードからツインターボモードへ切り替えるモード切替の際に、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値と、異常判定値とに基づいて、吸気切替弁が異常であるか否かを判定する異常判定手段(21)とを備える。該異常判定手段は、車両が加速状態であることを条件に、異常判定値を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を二つ有する内燃機関の異常判定装置に関し、特に、吸気の流路を切り替え可能な吸気切替弁の異常判定の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置では、例えば、吸気切替弁が閉弁状態のまま作動しなくなった際に、シングルターボモードからツインターボモードへ移行した場合に生じる不具合等を回避するために、吸気切替弁の異常判定が行われる。
【0003】
この種の装置として、例えば、特許文献1には、シングルターボモードから、ツインターボモードへ移行する際に、内燃機関の回転数及び変速比により決定される目標過給圧と、実過給圧とに基づいて、吸気切替弁が故障であるか否かを判定する故障判定手段を備える装置が開示されている。或いは、特許文献2には、吸気切替弁の一例としての吸気制御弁の上流圧と下流圧との差圧により、吸気制御弁等の故障の有無を診断する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−98981号公報
【特許文献2】特開平6−123234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、例えば車両の加速時等、過給追従の遅れに起因して目標過給圧と実過給圧との間に差が生じている場合、誤判定が生じる可能性があるという技術的問題点がある。また、特許文献2に開示の技術では、例えば差圧センサ等を設けなければならず、製造コストが増加する可能性があるという技術的問題点がある。
【0006】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、製造コストを抑制しつつ、誤判定を防止することができる過給機付内燃機関の異常判定装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の過給機付内燃機関の異常判定装置は、上記課題を解決するために、二つの過給機を有する内燃機関を備える車両に搭載され、前記二つの過給機のうち一方の過給機により過給を行うシングルターボモードと、前記二つの過給機の両方により過給を行うツインターボモードとを相互に切替可能であり、前記内燃機関に供給される吸気を、前記一方の過給機を介して前記内燃機関に導く第1流路と、前記二つの過給機の両方を介して前記内燃機関に導く第2流路とを相互に切替可能な吸気切替弁を有するモード切替手段と、前記シングルターボモードから前記ツインターボモードへ切り替えるモード切替の際に、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値と、異常判定値とに基づいて、前記吸気切替弁が異常であるか否かを判定する異常判定手段とを備え、前記異常判定手段は、前記車両が加速状態であることを条件に、前記異常判定値を変更する。
【0008】
本発明の過給機付内燃機関の異常判定装置によれば、当該異常判定装置が搭載される車両は、二つの過給機を有する内燃機関を備える。ここで、本発明に係る二つの過給機は、相互に並列に接続されている、所謂「ツーウェイツインターボ」である。
【0009】
モード切替手段は、二つの過給機のうち一方の過給機により過給を行うシングルターボモードと、二つの過給機の両方により過給を行うツインターボモードとを相互に切替可能である。
【0010】
モード切替手段は、内燃機関に供給される吸気を、二つの過給機のうち一方の過給機を介して内燃機関に導く第1流路と、二つの過給機の両方を介して内燃機関に導く第2流路とを相互に切替可能な吸気切替弁を有している。モード切替手段は、更に、内燃機関から排出される排気を、二つの過給機のうち一方の過給機を介して車両の外へ導く第3流路と、二つの過給機の両方を介して車両の外へ導く第4流路とを相互に切替可能な排気切替弁を有している。
【0011】
モード切替手段は、シングルターボモードからツインターボモードへ切り替える際には、第1流路から第2流路へ切り替えるように吸気切替弁を制御しつつ、第3流路から第4流路へ切り替えるように排気切替弁を制御する。他方、モード切替手段は、ツインターボモードからシングルターボモードへ切り替える際には、第2流路から第1流路へ切り替えるように吸気切替弁を制御しつつ、第4流路から第3流路へ切り替えるように排気切替弁を制御する。
【0012】
例えばメモリ、プロセッサ、コンパレータ等を備えてなる異常判定手段は、シングルターボモードからツインターボモードへ切り替えるモード切替の際に、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値と、異常判定値とに基づいて、吸気切替弁が異常であるか否かを判定する。ここで、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値は、典型的には、目標過給圧から実際の過給圧を差し引いた値を意味する。従って、目標過給圧と実際の過給圧とが乖離するほど、差分値は大きくなる。
【0013】
具体的には例えば、異常判定手段は、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値が、異常判定値より大きい場合、吸気切替弁が異常であると判定する。他方、異常判定手段は、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値が、異常判定値より小さい場合、吸気切替弁は異常でないと判定する。尚、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値と、異常判定値とが「等しい」場合は、どちらかの場合に含めて扱えばよい。
【0014】
尚、本発明に係る「異常判定値」は、吸気切替弁が異常であるか否かを決定する値であり、典型的には、物理量又は何らかのパラメータに応じた可変値として設定される値である。このような異常判定値は、実験的若しくは経験的に、又はシミュレーションによって、例えば吸気切替弁の開度と、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値との関係を、車両の運転状態毎に求め、該求められた関係に基づいて、吸気切替弁に異常が生じていると確実にいえる値として設定されている。
【0015】
本発明に係る「シングルターボモードからツインターボモードへ切り替える際」は、シングルターボモードからツインターボモードへ移行するために、吸気切替弁及び排気切替弁の制御を開始した時点から、吸気切替弁及び排気切替弁の制御を終了した時点までの間に限らず、吸気切替弁及び排気切替弁の制御を開始した時点から多少遡った時点又は所定時間経過した時点から、吸気切替弁及び排気切替弁の制御を終了した時点から多少遡った時点又は所定時間経過した時点までの間を意味してよい。
【0016】
本願発明者の研究によれば、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値に基づいて、吸気切替弁の異常判定を行う装置では、車両の加速時等に追従性が低下することに起因して、目標過給圧と実際の過給圧との間に差が生じている場合、誤判定が生じる可能性がある。他方で、吸気切替弁の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧により、吸気切替弁の異常を判定する装置が提案されているが、例えば差圧センサ等を設けなければならず、製造コストが増加する可能性がある。更に、差圧センサ等を設けるために、例えば配管等のレイアウトが複雑化する可能性があることが判明している。
【0017】
しかるに本発明では、異常判定手段により、シングルターボモードからツインターボモードへ切り替えるモード切替の際に、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値と、異常判定値とに基づいて、吸気切替弁が異常であるか否かが判定される。本発明では特に、異常判定手段により、車両が加速状態であることを条件に、異常判定値が変更される。
【0018】
このため、過給圧の追従性が低下すると予測される場合であっても、該過給圧の追従性の低下を考慮した異常判定値に基づいて、吸気切替弁が異常であるか否かが判定されるので、誤判定を防止することができる。加えて、本発明では、例えば差圧センサ等を新たに設ける必要がないため、製造コストを抑制することができる。
【0019】
尚、車両が加速状態であるか否かは、例えばアクセルペダルの踏み込み量等を検出することによって、判定すればよい。
【0020】
本発明の過給機付内燃機関の異常判定装置の一態様では、前記異常判定手段は、前記ツインターボモードに切り替わった時点から所定期間経過後に、前記吸気切替弁が異常であるか否かを判定する。
【0021】
この態様によれば、シングルターボモードからツインターボモードへ切り替えた際に、過給圧の落ち込みが生じた場合であっても、誤判定を防止することができ、実用上非常に有利である。
【0022】
尚、本発明に係る「所定期間」とは、吸気切替弁が異常であるか否かの判定を実施するタイミングを決定する値であり、予め固定値として、或いは物理量又は何らかのパラメータに応じた可変値として設定される値である。このような所定期間は、実験的若しくは経験的に、又はシミュレーションによって、例えばシングルターボモードからツインターボモードへの切り替えを開始時点からの経過時間と、目標過給圧及び実際の過給圧間の乖離の程度との関係を、過給圧の落ち込みの程度毎に求め、該求められた関係に基づいて、吸気切替弁が異常である場合と、吸気切替弁が正常である場合とを識別可能な期間として設定すればよい。これは、吸気切替弁が正常である場合は、目標過給圧及び実際の過給圧間の乖離の程度が、時間の経過とともに小さくなることを利用している。
【0023】
本発明の過給機付内燃機関の異常判定装置の他の態様では、前記異常判定手段は、前記目標過給圧を決定する目標過給圧決定手段と、前記実際の過給圧を検出する過給圧検出手段とを有する。
【0024】
この態様によれば、比較的容易にして、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値を求めることができ、実用上非常に有利である。
【0025】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る異常判定装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。
【図2】シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際の、目標過給圧と実過給圧との推移の一例を示す概念図である。
【図3】シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際の、目標過給圧に対する実過給圧の乖離の程度の推移の一例を示す概念図である。
【図4】本発明の実施形態に係る異常判定装置が実行する異常判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る過給機付内燃機関の異常判定装置の実施形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0028】
先ず、本実施形態に係る異常判定装置が搭載される車両について、図1を参照して説明する。ここに、図1は、本実施形態に係る異常判定装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。尚、図1では、説明の便宜上、本実施形態に直接関係のある部材のみ示し、それ以外の部材は省略している。また、図中の実線矢印は吸気の流れを示しており、点線矢印は排気の流れを示している。
【0029】
図1において、車両1は、内燃機関11、第1過給機14及び第2過給機15を備えて構成されている。内燃機関11には、吸気通路12及び排気通路13が夫々接続されている。吸気通路12には、第1過給機14のコンプレッサ14a、第2過給機15のコンプレッサ15a及び吸気切替弁16が設けられている。他方、排気通路13には、第1過給機14のタービン14b、第2過給機15のタービン15b及び排気切替弁17が設けられている。尚、第1過給機14のタービン14bは、可変ノズルVN付のタービンである。
【0030】
吸気切替弁16及び排気切替弁17が閉弁状態である場合、車両1の外部から取り込まれた空気は、第1過給機14のコンプレッサ14aを介して内燃機関11に導かれ、該内燃機関11から排出された排気は、第1過給機14のタービン14bを介して車両1の外部に導かれる。この場合は、第1過給機14のみが作動することとなる(即ち、シングルターボモード)。
【0031】
他方、吸気切替弁16及び排気切替弁17が開弁状態である場合、車両1の外部から取り込まれた空気は、第1過給機14のコンプレッサ14a及び第2過給機15のコンプレッサ15aを介して内燃機関11に導かれ、該内燃機関11から排出された排気は、第1過給機14のタービン14b及び第2過給機15のタービン15bを介して車両1の外部に導かれる。この場合は、第1過給機14及び第2過給機15が作動することとなる(即ち、ツインターボモード)。
【0032】
尚、本実施形態に係る「空気を第1過給機14のコンプレッサ14aを介して内燃機関11に導く流路」及び「排気を第1過給機14のタービン14bを介して車両1の外部に導く流路」は、夫々、本発明に係る「第1流路」及び「第3流路」の一例である。また、本実施形態に係る「空気を第1過給機14のコンプレッサ14a及び第2過給機15のコンプレッサ15aを介して内燃機関11に導く流路」及び「排気を第1過給機14のタービン14b及び第2過給機15のタービン15bを介して車両1の外部に導く流路」は、夫々、本発明に係る「第2流路」及び「第4流路」の一例である。
【0033】
異常判定装置100は、判定部21、制御部22及び過給圧センサ23を備えて構成されている。制御部22は、吸気切替弁16及び排気切替弁17各々を閉弁状態又は開弁状態とすることで、シングルターボモードとツインターボモードとを相互に切り替える。ここに、本実施形態に係る「判定部21」、「制御部22」及び「過給圧センサ23」は、夫々、本発明に係る「異常判定手段」、「モード切替手段」及び「過給圧検出手段」の一例である。
【0034】
判定部21は、典型的には、目標過給圧を定めるマップを予め格納しており、例えば内燃機関11の回転数や変速機(図示せず)の変速比等に基づいて、格納されているマップから目標過給圧を決定する。このようなマップは、実験的若しくは経験的に、又はシミュレーションによって、例えば内燃機関の回転数や変速機の変速比と、該回転数や変速比の場合に要求される出力を達成する過給圧との関係を求め、該求められた関係に基づいて構築すればよい。
【0035】
また、判定部21は、アクセルペダル24の踏み込み量を検出することによって、車両1が加速状態であるか否かを判定する。尚、判定部21は、アクセルペダル24の踏み込み量に限らず、例えば、車速センサ(図示せず)を介して取得した車速の単位時間当たりの変化量(即ち、加速度)を求め、該求められた加速度に基づいて、車両1が加速状態であるか否かを判定してもよい。
【0036】
次に、車両1が加速状態である場合に、シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際の、目標過給圧及び実過給圧の推移について、図2を参照して説明する。ここに、図2は、シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際の、目標過給圧と実過給圧との推移の一例を示す概念図である。
【0037】
図2の上段は、ターボモードの状態を示すパラメータである「emdtb」の値の推移を示している。emdtbの値が「0」の場合、第1過給機14のみが作動するシングルターボモードを示しており、emdtbの値が「1」の場合、排気切替弁17が微小開度だけ開いている状態を示しており、emdtbの値が「2」の場合、第1過給機14及び第2過給機15が作動するツインターボモードを示している。
【0038】
従って、図2では、時刻t1に、排気切替弁17が微小開度だけ開くように、該排気切替弁17が制御部22によって制御され、時刻t2に、吸気切替弁16及び排気切替弁17が開弁状態となるように、該吸気切替弁16及び排気切替弁17が制御部22によって制御される。
【0039】
本実施形態では、シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際に、先ず、排気切替弁17を微小開度だけ開けて、第2過給機15を予回転させている。これにより、シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際の、過給圧の落ち込みを抑制することができ、実用上非常に有利である。
【0040】
図2の下段は、過給圧の推移を示している。図2の下段において、パラメータ「epim」、「epimtrg」、「epimdltch」及び「epimdlt」は、夫々、「実過給圧」、「目標過給圧」、「ターボモード切替直前(例えば図2中の時刻t1)における目標過給圧と実過給圧との差」及び「目標過給圧と実過給圧との差」を示している。また、破線aは、epimtrgからepimdltchを差し引いた値を示している。
【0041】
図2に示すように、車両1が加速状態であることに起因して、実過給圧は、目標過給圧に対する追従遅れを伴っている。シングルターボモードからツインターボモードへ移行した際(即ち、emdtbの値が「2」となった際)、実過給圧(即ち、epim)は、大なり小なり落ち込む(吸気切替弁16が正常であっても、異常であっても)。
【0042】
吸気切替弁16が正常である場合(即ち、吸気切替弁16が開弁状態となっている場合)、実過給圧は、一旦落ち込んだ後に、時間の経過と共に、目標過給圧(即ち、epimtrg)に近づく。他方、吸気切替弁16が異常である場合(例えば、吸気切替弁16が開弁状態にならない場合)、実過給圧は時間の経過と共に、目標過給圧から離れていく。
【0043】
次に、目標過給圧に対する実過給圧の推移について、図3を参照して説明する。ここに、図3は、シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際の、目標過給圧に対する実過給圧の乖離の程度の推移の一例を示す概念図である。尚、図3では、目標過給圧(即ち、epimdtrg)からターボモード切替直前における目標過給圧と実過給圧との差(epimdltch)を差し引いた値に対する実過給圧の推移を示している。また、図3の時刻t1及びt2は、夫々、図2の時刻t1及びt2に対応している。
【0044】
図3における実線a、b、c及びdは、夫々、「吸気切替弁16の異常時に過給圧の落ち込みが比較的大きい場合の実過給圧の推移」、「吸気切替弁16の異常時に過給圧の落ち込みが比較的小さい場合の実過給圧の推移」、「吸気切替弁16の正常時に過給圧の落ち込みが比較的大きい場合の実過給圧の推移」及び「吸気切替弁16の正常時に過給圧の落ち込みが比較的小さい場合の実過給圧の推移」を示している。また、本実施形態に係る「期間α」は、本発明に係る「所定期間」の一例である。
【0045】
ここで、図3において、例えば期間α内に、吸気切替弁16が異常であるか否かの判定を行うとする。吸気切替弁16の異常時における実過給圧の推移を実線aのように仮定し、吸気切替弁16が異常であるか否かを判定するための異常判定値を、図3の破線Aと破線Bとの間に設定すると、実線bのように実過給圧が推移した場合(即ち、吸気切替弁16の異常時に過給圧の落ち込みが比較的小さい場合)に、吸気切替弁16が異常であると判定することができない。他方で、吸気切替弁16の異常時における実過給圧の推移を実線bのように仮定し、異常判定値を、図3の破線Cと破線Dとの間に設定すると、実線cのように実過給圧が推移した場合(即ち、吸気切替弁16の正常時に過給圧の落ち込みが比較的大きい場合)に、吸気切替弁16が異常であると判定してしまう(即ち、誤判定してしまう)。
【0046】
このため、本実施形態に係る異常判定装置100は、時刻t2から期間α経過した時点である時刻t3以降に、吸気切替弁16が異常であるか否かの最終的な判定を行うように構成されている。このように構成すれば、異常判定値を、例えば図3の破線Dに設定したとしても、吸気切替弁16が異常であるか否かを適切に判定することができる。
【0047】
次に、以上のように構成された異常判定装置100が搭載される車両1の主に加速時、且つシングルターボモードからツインターボモードへ移行する際に、異常判定装置100が実施する異常判定処理について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0048】
図4において、先ず、判定部21は、パラメータemdtbの値が「0」から「1」になることを検出して(ステップS101)、その際の目標過給圧と、過給圧センサ23を介して取得される実過給圧との差を、パラメータepimdltchの値として記憶する(ステップS102)。次に、制御部22は、ターボモード切替時に発生する過給圧の落ち込みを補うために、燃料噴射弁(図示せず)から噴射される燃料の噴射量の制限を解除する(ステップS103)。
【0049】
次に、判定部21は、パラメータemdtbの値が「2」であるか否かを判定する(ステップS104)。パラメータemdtbの値が「2」でないと判定された場合(ステップS104:No)、再びステップS104の処理が実行される。他方、パラメータemdtbの値が「2」であると判定された場合(ステップS104:Yes)、判定部21は、パラメータepimdltの値及びパラメータepimdltchの値の差分値が、異常判定値を示すパラメータであるepimlop2amの値より大きいか否かを判定する(ステップS105)。尚、本実施形態では、パラメータepimlop2amの値は、図3における破線Dに設定されている。
【0050】
ここで、上述の如く、パラメータepimdltは、目標過給圧と実過給圧との差であり、パラメータepimdltchは、ターボモード切替直前における目標過給圧と実過給圧との差(言い換えれば、ターボモード切替直前に存在する過給圧追従遅れに起因する差)である。また、ステップS105の判定式は、「epimdlt>epimlop2am+epimdltch」と変形することができる。従って、本実施形態では、目標過給圧と実過給圧との差と、過給圧追従遅れを考慮した(即ち、パラメータepimdltchの値だけ嵩上された)異常判定値とを比較することによって、吸気切替弁16が異常であるか否かを判定していると言える。
【0051】
ステップS105の処理において、パラメータepimdltの値及びパラメータepimdltchの値の差分値が、パラメータであるepimlop2amの値より小さいと判定された場合(ステップS105:No)、この場合は吸気切替弁16が正常であるので、一旦処理を終了する。他方、ステップS105の処理において、パラメータepimdltの値及びパラメータepimdltchの値の差分値が、パラメータであるepimlop2amの値より大きいと判定された場合(即ち、吸気切替弁16が異常であると判定された場合)(ステップS105:Yes)、判定部21は、ツインターボモードに移行してからの経過時間を示すパラメータであるEcfvnop2aをカウントアップする(ステップS106)。
【0052】
続いて、判定部21は、パラメータEcfvnop2aの値が期間α(図3参照)よりも大きいか否かを判定する(ステップS107)。パラメータEcfvnop2aの値が期間αよりも小さいと判定された場合(ステップS107:No)、この場合は期間αが経過していないので、パラメータepimdltの値を更新した後、ステップS105の処理を実行する。
【0053】
他方、パラメータEcfvnop2aの値が期間αよりも大きいと判定された場合(ステップS107:Yes)、この場合は、期間αが経過し且つ吸気切替弁16が異常であると判定されているので、吸気切替弁16が異常であるという最終的な判定がなされ、判定部21は、異常flagをON状態にする(ステップS108)。続いて、制御部22は、車両1をシングルターボモードでしか運転できないような噴射量に制限して(ステップS109)、一旦処理を終了する。
【0054】
尚、制御部22は、ステップS109の処理と相前後して、例えば警告ランプ(Malfunction Indicator Lamp:MIL)を点灯して、運転者に異常を知らせる等してもよい。
【0055】
また、本実施形態に係る排気切替弁17には、シングルターボモードからツインターボモードへ移行する際に、排気切替弁17を微小開度だけ開けて第2過給機15を予回転させるために、開度センサが設けられている。このため、該開度センサからの出力信号に基づいて、排気切替弁17が異常であるか否かを判定することができる。
【0056】
尚、本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う過給機付内燃機関の異常判定装置もまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
1…車両、11…内燃機関、14…第1過給機、15…第2過給機、16…吸気切替弁、17…排気切替弁、21…判定部、22…制御部、23…過給圧センサ、100…異常判定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの過給機を有する内燃機関を備える車両に搭載され、
前記二つの過給機のうち一方の過給機により過給を行うシングルターボモードと、前記二つの過給機の両方により過給を行うツインターボモードとを相互に切替可能であり、前記内燃機関に供給される吸気を、前記一方の過給機を介して前記内燃機関に導く第1流路と、前記二つの過給機の両方を介して前記内燃機関に導く第2流路とを相互に切替可能な吸気切替弁を有するモード切替手段と、
前記シングルターボモードから前記ツインターボモードへ切り替えるモード切替の際に、目標過給圧及び実際の過給圧の差分値と、異常判定値とに基づいて、前記吸気切替弁が異常であるか否かを判定する異常判定手段と
を備え、
前記異常判定手段は、前記車両が加速状態であることを条件に、前記異常判定値を変更する
ことを特徴とする過給機付内燃機関の異常判定装置。
【請求項2】
前記異常判定手段は、前記ツインターボモードに切り替わった時点から所定期間経過後に、前記吸気切替弁が異常であるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の過給機付内燃機関の異常判定装置。
【請求項3】
前記異常判定手段は、
前記目標過給圧を決定する目標過給圧決定手段と、
前記実際の過給圧を検出する過給圧検出手段と
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の過給機付内燃機関の異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−229903(P2010−229903A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78680(P2009−78680)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】