説明

過給機

【課題】タービンホイール22およびコンプレッサインペラ24が設けられている回転軸25をラジアルベアリング31,32で回転自在に支持する構成の過給機20において、ラジアルベアリング31,32に供給するオイルの吸出しを抑制または防止する。
【解決手段】ラジアルベアリング31,32にオイルを供給するためのオイル供給装置50と、このオイル供給装置50によるオイル供給圧を制御する制御装置100とを備える。制御装置100は、ラジアルベアリング31,32に供給するオイルがタービンハウジング21あるいはコンプレッサハウジング23に吸い出される可能性が高くなる条件が成立しているか否かを調べ、条件が成立していると判断した場合に、条件が成立していない場合に比べて前記オイル供給圧を低く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車などの車両に搭載される内燃機関(エンジンともいう)に用いる過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用のエンジンにおいて、排気ガスの流体エネルギーを利用して吸入空気を圧縮して空気密度を高め、これによってエンジン出力の増大を図る過給機(ターボチャージャとも言う)が知られている。
【0003】
過給機は、排気通路の途中に設けられタービンハウジング内に配設されたタービンホイールと、吸気通路の途中に設けられコンプレッサハウジング内に配設されたコンプレッサインペラとを備えている。
【0004】
動作としては、排気ガスの圧力によってタービンホイールが回転すると、その回転力がタービンシャフトを介してコンプレッサインペラに伝達され、このコンプレッサインペラの回転によって吸入空気が燃焼室に向けて過給される。
【0005】
そして、タービンホイールとコンプレッサインペラとは回転軸によって連結されており、この回転軸は、フローティングブッシュなどのすべり軸受や、転がり軸受などのラジアルベアリングにより回転自在に支持されている(例えば特許文献1〜3参照)。このラジアルベアリングには、内燃機関のオイルパン内のオイルがオイルポンプで吸い上げられて供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−135933号公報
【特許文献2】実開平2−105545号公報
【特許文献3】特開2008−31859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に係る従来例では、タービン軸の振れ量が大きくなるターボ回転領域つまり過回転領域においてターボ過給機への潤滑油の供給量を増加させることにより、タービン軸の振動を抑制して、ターボ過給機の破損を防止するようにしているが、タービン軸を支持するラジアルベアリングに供給するオイルのリークについての言及が無く、当然ながら前記オイルリークを解決するという思想はない。
【0008】
上記特許文献2に係る従来例では、エンジンの低速回転領域あるいは減速時にロータの背面部が負圧になると、軸受け室に存在するオイルがロータの背面側に設けられている背面室を経てエンジンの吸気管へ吸い出されるので、前記ロータの背面部が負圧になったときに、ロータの背面室を大気開放させるようにして前記負圧を消滅させることにより、前記オイルの吸出しを防止するようにしている。しかしながら、この従来例には、オイル吸出しを防止することを目的として、ベアリングハウジングへのオイル供給圧を低くするという技術思想はない。
【0009】
上記特許文献3に係る従来例では、電動機付きターボチャージャにおいて、ターボチャージャの作動時にタービンホイールまたはコンプレッサホイールの翼背面部分の圧力が低下すると、軸受け部に供給されるオイルがエンジンの排気管または吸気管に吸い出されるので、前記翼背面部分の圧力が低下したときに、翼背面部分と中空部(軸受け配置側)との圧力を略等しくすることにより、前記オイルの吸出しを防止するようにしている。しかしながら、この従来例には、オイル吸出しを防止することを目的として、ベアリングハウジングへのオイル供給圧を低くするという技術思想はない。
【0010】
このような事情に鑑み、本発明は、タービンホイールおよびコンプレッサインペラが設けられている回転軸をラジアルベアリングで回転自在に支持する構成の過給機において、前記ラジアルベアリングに供給するオイルの外側への吸出しを抑制または防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、タービンホイールおよびコンプレッサインペラが設けられている回転軸を回転自在に支持するラジアルベアリングに、オイルを供給するためのオイル供給装置と、このオイル供給装置によるオイル供給圧を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記ラジアルベアリングに供給するオイルがタービンハウジングあるいはコンプレッサハウジングに吸い出される可能性が高くなる条件が成立しているか否かを調べ、条件が成立していると判断した場合に、条件が成立していない場合に比べて前記オイル供給圧を低く設定する、ことを特徴としている。
【0012】
このような前提構成を有する過給機では、タービンホイールの背面圧が負圧になると、ラジアルベアリングに供給されたオイルがタービンホイール側に吸い出される可能性が高くなり、また、コンプレッサインペラの背面圧が負圧になると、ラジアルベアリングに供給されたオイルがコンプレッサインペラ側に吸い出される可能性が高くなる。つまり、このタービンホイールの背面圧あるいはコンプレッサインペラの背面圧が負圧になる状態が、オイル吸出しが発生する可能性が高くなる条件の一つとして挙げられる。
【0013】
そして、本発明では、オイル吸出しが発生する可能性が高くなる条件が成立した場合に、ラジアルベアリングに供給するオイルの供給圧を低く設定しているから、吸い出し対象となるオイルの量が少なくなり、そのため前記オイル吸出しを抑制または防止することが可能になる。
【0014】
好ましくは、前記制御装置は、内燃機関への燃料噴射量と機関回転数とをパラメータとするタービンホイールの背面圧の等値線を示すマップを用いて前記タービンホイールの背面圧を推定するタービン背面圧推定処理と、内燃機関への燃料噴射量と機関回転数とをパラメータとするコンプレッサインペラの背面圧の等値線を示すマップを用いて前記コンプレッサインペラの背面圧を推定するインペラ背面圧推定処理と、前記2つの推定処理でそれぞれ推定した結果の少なくともいずれか一方が負圧であるか否かを判定する判定処理と、この判定処理で肯定判定した場合に、タービンホイールの背面圧あるいはコンプレッサインペラの背面圧が正圧である場合に比べて前記オイル供給圧を低く設定する設定処理とを実行する。
【0015】
この構成では、制御装置によりタービンホイールの背面圧およびコンプレッサインペラの背面圧をそれぞれ推定する形態を特定している。この特定により、前記背面圧をセンサなどで直接的に検出する形態とする場合に比べると、センサの費用ならびにその設置費用などを含む設備コストの上昇を抑制するうえで有利となる。
【0016】
そして、この構成では、タービンホイールの背面圧とコンプレッサインペラの背面圧との少なくともいずれか一方が負圧になったと判定した場合に、ラジアルベアリングに供給するオイルの供給圧を前記背面圧が正圧である場合に比べて小さく設定している。これにより、吸い出し対象となるオイルの量が少なくなるので、前記オイル吸出しを抑制または防止することが可能になる。
【0017】
好ましくは、前記オイル供給装置は、内燃機関のオイルパン内のオイルを吸い出すオイルポンプと、このオイルポンプから吐出されるオイルを前記ラジアルベアリングの設置領域に供給するための油路と、前記油路において前記オイルポンプの入口側と出口側とに接続されるバイパス油路と、このバイパス油路に設けられる流量制御弁とを備え、前記制御装置は、要求に応じて前記流量制御弁の開度を制御することにより前記油路から前記設置領域へ供給するオイルの供給圧を制御する。
【0018】
この構成では、オイル供給装置の構成を特定している。この特定により、比較的簡易な構成でオイル供給圧を制御することが可能になり、設備コストの上昇を抑制するうえで有利となる。
【0019】
そして、前記構成では、例えば流量制御弁の開度を小さくすると、オイルポンプから吐出されるオイルがバイパス油路に流入する量が少なくなるので、油路内のオイル圧力が高くなる。一方、流量制御弁の開度を大きくすると、オイルポンプから吐出されるオイルがバイパス油路に流入する量が多くなるので、油路内のオイル圧力が低くなる。このように、流量制御弁の開度を制御装置で制御することによって油路からラジアルベアリング設置領域へのオイル供給圧を変更することが可能になる。
【0020】
好ましくは、前記ラジアルベアリングは、前記回転軸の中間領域とベアリングハウジングとの対向環状空間に設置され、このラジアルベアリングよりタービンホイール寄り位置とコンプレッサインペラ寄り位置とには、前記ラジアルベアリングに供給されたオイルの外側流出を堰き止めるための密封部がそれぞれ設けられ、前記タービンホイールの背面側で前記密封部よりも外側に前記タービンホイールの背面室が、また、前記コンプレッサインペラの背面側で前記密封部よりも外側に前記コンプレッサインペラの背面室がそれぞれ設けられる。
【0021】
この構成では、ラジアルベアリングの設置場所やタービンホイールおよびコンプレッサインペラの各背面圧の発生場所を特定している。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、過給機において、タービンホイールおよびコンプレッサインペラが設けられている回転軸を回転自在に支持するラジアルベアリングに供給するオイルの外側への吸出しを抑制または防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る過給機を備える内燃機関の一実施形態で、概略構成を示す図である。
【図2】図1の過給機の断面を示す図である。
【図3】図1の過給機にオイルを供給するためのオイル供給装置の一実施形態で、概略構成を示す図である。
【図4】図1の制御装置による動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4のステップS3においてタービンホイールの背面圧Ptbnを推定する際に用いるマップを示す図である。
【図6】図4のステップS3においてコンプレッサインペラの背面圧Pimpを推定する際に用いるマップを示す図である。
【図7】図4のステップS3においてターボ回転数Ntを推定する際に用いるマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1から図7に、本発明の一実施形態を示している。この実施形態では、シングルターボ式の過給機を備える内燃機関に本発明を適用した例を挙げている。
【0026】
図1に示す内燃機関1には、過給機20が装備されている。過給機20は、内燃機関1から排気通路3に排出される排気の圧力を利用して吸気通路2から内燃機関1に吸入される空気を過給する。
【0027】
過給機20のタービンホイール22が排気により回転すると、これに伴いコンプレッサインペラ24が回転して、エアクリーナ4から吸気通路2に吸入された空気がインタークーラ5により冷却されると共に、その容積が圧縮された後、内燃機関1の燃焼室に供給される。
【0028】
内燃機関1の運転に伴い燃焼室からクランク室に漏れたブローバイガスは、図示していないが、ベンチレーションケースに導入され、このベンチレーションケース内においてブローバイガスに含まれるミスト状(霧状)のオイルが分離される。このようにオイルが分離されたブローバイガスは、ブローバイガス通路6を介して吸気通路2において過給機20の上流側(即ち、エアクリーナ4と過給機20との間)に還流される。ブローバイガス通路6の途中部には、ブローバイガスを冷却するためのPCVクーラ7が設けられている。
【0029】
次に、図2を参照して、過給機20を詳しく説明する。過給機20は、タービンホイール22とコンプレッサインペラ24とを備えている。
【0030】
タービンホイール22は、排気通路3において図示しない触媒コンバータよりも上流側に設けられたタービンハウジング21内に収納されている。一方、コンプレッサインペラ24は、吸気通路2においてエアクリーナ4の下流側に設けられたコンプレッサハウジング23内に収納されている。
【0031】
タービンホイール22は、回転軸25の軸方向一端に一体に形成されており、コンプレッサインペラ24は、回転軸25の軸方向他端に一体に取り付けられている。この回転軸25は、2つのラジアルベアリング31,32によりベアリングハウジング33に回転自在に支持されている。
【0032】
ベアリングハウジング33の軸方向一端にはタービンハウジング21が取り付けられ、また、ベアリングハウジング33の軸方向他端にはコンプレッサハウジング23が取り付けられている。
【0033】
2つのラジアルベアリング31,32は、メタルやブッシュと呼ばれるほぼ円筒形状のすべり軸受とされており、回転軸25の軸方向中間領域とベアリングハウジング33との対向間の環状空間に軸方向に並んで設けられている。
【0034】
両方のラジアルベアリング31,32は、前記環状空間に相対回転可能にフローティング状態で介装されている。ただし、タービンホイール22寄りのラジアルベアリング(以下、タービン側ラジアルベアリングと言う)31は、ベアリングハウジング33に係止される2つのスナップリング35,36によってベアリングハウジング33の内周面上における軸方向への変位が規制されている。また、コンプレッサインペラ24寄りのラジアルベアリング(以下、コンプレッサ側ラジアルベアリングと言う)32は、ベアリングハウジング33に係止される1つのスナップリング37とスラストベアリング38およびスラストカラー34とによってベアリングハウジング33の内周面上における軸方向への変位が規制されている。
【0035】
そして、スラストカラー34の軸方向両端の鍔部でベアリングハウジング33に締結されたスラストベアリング38を所定のスラスト隙間を介して挟むような形態とすることにより、ベアリングハウジング33に対する回転軸25の軸方向への変位が規制されている。過給機20の動作中において回転軸25に作用するスラスト荷重は、スラストベアリング38およびスラストカラー34により支持される。このスラストベアリング38は、例えば自己潤滑性を有する合成樹脂材あるいは金属材などから形成されており、軸方向一方から見るとほぼ扇形で軸方向両端にテーパランド部が設けられた形状になっている。
【0036】
このようなラジアルベアリング31,32が配置される環状空間には、オイル供給装置50によりオイルが供給されるようになっている。
【0037】
このオイル供給装置50は、図3に示すように、オイルポンプ51、ピストン側油路52、過給機側油路53、油圧作動式の開閉弁54、バイパス油路55、電磁作動式の流量制御弁56などを備えている。
【0038】
オイルポンプ51は、内燃機関1のクランクシャフト(図示省略)により駆動されるものであって、オイルパン1aのオイルを吸い上げる。オイルポンプ51から吐出されるオイルは、ピストン側油路52およびジェットノズル(図示省略)を通じて内燃機関1のピストン(図示省略)に向けて噴射される。また、オイルポンプ51から吐出されるオイルは、ピストン側油路52の途中から分岐される過給機側油路53を経て過給機20の前記環状空間(ラジアルベアリング31,32の配置空間)に供給される。
【0039】
油圧作動式の開閉弁54は、ピストン側油路52において過給機側油路53への分岐部分よりも下流側に設置されており、このピストン側油路52内のオイル圧力が所定の閾値以上になると開いて、前記閾値未満のときに閉じる。
【0040】
電磁作動式の流量制御弁56は、ピストン側油路52においてオイルポンプ51の吐出側と入口側とに接続されるバイパス油路55の途中に設置されている。この流量制御弁56の開度は制御装置100により制御される。この流量制御弁56の開度を小さくすると、オイルポンプ51から吐出されるオイルがバイパス油路55に流入する量が少なくなるので、ピストン側油路52内のオイル圧力が高くなる。一方、流量制御弁56の開度を大きくすると、オイルポンプ51から吐出されるオイルがバイパス油路55に流入する量が多くなるので、ピストン側油路52内のオイル圧力が低くなる。このように、流量制御弁56の開度を制御装置100で制御することによってピストン側油路52内のオイル圧力を変更し、開閉弁54の開閉動作を制御することができる。開閉弁54は、内燃機関1が高負荷すなわち高油圧時に開弁状態になり、低油圧時に閉弁状態になる。
【0041】
しかも、流量制御弁56の開度を大きくすると、オイルポンプ51から過給機側油路53に供給されるオイル供給圧を低く設定することができる一方、流量制御弁56の開度を小さくすると、オイルポンプ51から過給機側油路53に供給されるオイル供給圧を高く設定することができる。
【0042】
ところで、ベアリングハウジング33の内部には、過給機側油路53に接続される導入油路33aが設けられている。この導入油路33aの下流側は、ラジアルベアリング31,32の外周面に向けて開放されている。このラジアルベアリング31,32には、その径方向内外に貫通する油孔31a,32aが円周方向および軸方向の複数箇所に設けられている。
【0043】
これにより、過給機側油路53、導入油路33aを経てラジアルベアリング31,32の外周側に供給されるオイルは、油孔31a,32aを経てラジアルベアリング31,32の内周側にも供給される。このラジアルベアリング31,32とベアリングハウジング33との対向間およびラジアルベアリング31,32と回転軸25との対向間に供給されるオイルは膜状に保持されることになって、回転軸25の径方向および軸方向での振れを抑制するダンパとして働く。このオイルの膜を、オイルフィルムダンパと呼んでいる。そして、このラジアルベアリング31,32が配置される環状空間に供給されたオイルの余剰分は、ベアリングハウジング33の下側の排油路33bから排出されて、オイルパン1aに戻される。
【0044】
ところで、前記環状空間に供給されたオイルは、回転軸25の軸方向両側から外側へ通過するようになっているが、これらのオイルがタービンハウジング21の内部流路21aおよびコンプレッサハウジング23の内部流路23aに漏れ出ることを防止するために、シールリング41,42が設けられている。
【0045】
タービンホイール22側のシールリング41は、回転軸25においてタービンホイール22寄りの大径部の外周溝内に取り付けられていて、ベアリングハウジング33のタービン側肩部の内周面に接触されている。タービン側肩部の内周面は、ラジアルベアリング31の摺接面よりも大径になっている。
【0046】
一方、コンプレッサインペラ24側のシールリング42は、前記回転軸25に外嵌装着されているシールスリーブ43の外周溝内に取り付けられていて、コンプレッサハウジング23の環状裏板23bの内周面に接触されている。なお、シールリング41,42は、この実施形態においてピストンリングとされているが、その種類は特に限定されない。
【0047】
さらに、この実施形態では、前記シールリング41,42が設置されている領域よりも内側に、前記各シールリング41,42の存在領域にオイルを到達させにくくするためのオイル堰き止め部(符号省略)が設けられている。
【0048】
先に、タービンハウジング21側のオイル堰き止め部を説明する。回転軸25においてタービンホイール22の背面側に外周溝25aが設けられている。この外周溝25aは、タービン側ラジアルベアリング31を外側へ通過したオイルを受け止めるとともに、鉛直方向下側に落下させてベアリングハウジング33の排油路33bに向かわせる。これにより、オイルがタービン側シールリング41側へ到達しにくくなる。この外周溝25aが、オイル堰き止め部として機能する。
【0049】
次いで、コンプレッサハウジング23側のオイル堰き止め部を説明する。コンプレッサハウジング23の環状裏板23bとベアリングハウジング33との軸方向対向空間には、オイルデフレクタ44が設けられている。このオイルデフレクタ44は、コンプレッサ側ラジアルベアリング32を外側に通過したオイルを受け止めるための環状空間を回転軸25の外周に作るものであり、その下側には、前記環状空間の下側からオイルを流れ落として排油路33bに導くための案内部44bが設けられている。そして、オイルデフレクタ44において径方向に沿う環状壁部44aの外側面は、コンプレッサハウジング23の環状裏板23bの内周部分に対して隙間を介して軸方向で対向するように配置されている。このオイルデフレクタ44の環状壁部44aとコンプレッサハウジング23の環状裏板23bとが対向して作られる隙間は、油の通過を制限する寸法に設定されることによって、オイルの堰き止め作用を発揮するオイル堰き止め部になっている。これにより、オイルがコンプレッサ側シールリング42側へ到達しにくくなる。
【0050】
なお、シールリング41,42と、タービン側オイル堰き止め部と、コンプレッサ側オイル堰き止め部とが、請求項に記載している密封部に相当している。
【0051】
次に、内燃機関1および過給機20の動作を制御するための制御装置100を説明する。この制御装置100は、公知のECU(Electronic Control Unit)であり、主としてCPU、ROM、RAM等を有する構成である。ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、例えば内燃機関1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0052】
内燃機関1には、内燃機関1の回転数Neを検出するためのクランク角センサ201、アクセルペダル9の踏み込み量を検出するためのアクセル開度センサ202、内燃機関1の水温を検出するための水温センサ203、インタークーラ5の下流側の吸気圧力(インテークマニホールド圧力または過給圧)Pimを検出するための吸気圧センサ204、吸入空気量Gaを検出するためのエアフローメータ205、排気通路3において図示省略の触媒コンバータの上流側圧力を検出するための圧力センサ206などが設けられている。ここでは、本発明の特徴構成に関係するセンサのみを提示している。
【0053】
制御装置100は、クランク角センサ201の検出信号から求められる機関回転数Ne、アクセル開度センサ202の検出信号から求められるスロットルバルブ8の開度等に基づいて、燃料噴射量及び燃料噴射時期についての指令値(目標値)を算出し、これら指令値に基づいて図示しない燃料噴射弁の燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御する。
【0054】
この他、制御装置100は、以下で詳細に説明するが、過給機20の運転状態に応じて、オイル供給装置50により過給機20のラジアルベアリング31,32に供給するオイルの供給圧を制御するようにしている。
【0055】
なお、内燃機関1の始動時や通常運転時には、基本的に、オイル供給装置50により内燃機関1のピストン(図示省略)などに対するオイル供給圧をオイルポンプ51の最大能力近傍に高く設定する高油圧制御を実行するようになっている。このオイルポンプ51は、一般的に、設計上で要求される能力よりも余裕を持つ容量に設定される。そのため、前記高油圧制御のみに固定していると、内燃機関1の軽負荷運転時には前記ピストンなどへのオイル供給が過多となって、フリクションロスが発生するなど燃費が悪化することが懸念される。そこで、前記始動時や通常運転時を除いた特定の条件が成立した場合には、フリクションロスを可及的に低減するために、オイル供給装置50により前記ピストンなどに対するオイル供給圧を低く設定するようになっている。前記特定の条件とは、例えば水温Tcが暖機完了温度(例えば95℃)以下でかつ機関回転数Neが中回転あるいは最高回転数の約半分(例えば2600rpm)以下などが挙げられる。
【0056】
この他、過給機20の作動時においてタービンホイール22の背面圧(タービン背面圧Ptbnという)が負圧になると、オイル供給装置50によりラジアルベアリング31,32に供給されるオイルがタービンホイール22とベアリングハウジング33との対向隙間26を経てタービンハウジング21の内部流路21aに吸い出される可能性が高くなる。また、コンプレッサインペラ24の背面圧(インペラ背面圧Pimpという)が負圧になると、オイル供給装置50によりラジアルベアリング31,32に供給されるオイルがコンプレッサインペラ24とコンプレッサハウジング23の環状裏板23bとの対向隙間27を経てコンプレッサハウジング23の内部流路23aに吸い出される可能性が高くなる。
【0057】
なお、前記タービンホイール22とベアリングハウジング33との対向隙間26や、コンプレッサインペラ24とコンプレッサハウジング23の環状裏板23bとの対向隙間27が、請求項に記載している背面室に相当している。
【0058】
このようにタービン背面圧Ptbnあるいはインペラ背面圧Pimpが負圧になる状況としては、例えば内燃機関1のアイドリング運転を長時間継続した場合、車速を減速する場合、車速を緩加速する場合など、吸気脈動あるいは排気脈動が発生するような状況が挙げられる。
【0059】
そこで、この実施形態では、ラジアルベアリング31,32に供給するオイルがタービンハウジング21あるいはコンプレッサハウジング23に吸い出される可能性が高くなる条件が成立しているか否かを調べ、条件が成立していると判断した場合に、条件が成立していない場合に比べて、オイル供給装置50によりラジアルベアリング31,32に供給するオイルの供給圧を低く設定することにより、前記オイル吸出しを抑制または防止するようにしている。
【0060】
前記条件の一つとしては、タービン背面圧Ptbnおよびインペラ背面圧Pimpの少なくともいずれか一方が負圧になることが挙げられる。
【0061】
以下、図4のフローチャートを参照して、オイル供給圧の制御形態を詳しく説明する。図4のフローチャートには、制御装置100を主体とする制御動作を示している。このフローチャートは、内燃機関1の運転中において一定周期(例えば数msec〜数十ミリsec程度)毎に開始される。
【0062】
まず、ステップS1では、内燃機関1や過給機20の運転状態に関係する情報を取得する。ここでは、例えばクランク角センサ201からの入力信号に基づいて内燃機関1の回転数Neを算出し、アクセル開度センサ202からの入力信号に基づいて目標スロットル開度や目標燃料噴射量Qを算出する。
【0063】
続くステップS2では、オイル供給装置50によるオイル供給圧を低油圧に変更不可能な条件が成立しているか否かを判定する。ここでは、例えば内燃機関1の始動時のようにピストンへのオイル供給圧を高油圧にする必要がある場合、あるいはオイル供給装置50の制御が困難となる何らかの異常が発生している場合に、前記オイル供給圧を低油圧に変更不可能な条件が成立していると判定するようになっている。
【0064】
さらに、ステップS3では、タービン背面圧Ptbn、インペラ背面圧Pimp、ターボ回転数Ntを推定する。例えば、タービン背面圧Ptbnは図5に示すマップを、インペラ背面圧Pimpは図6に示すマップを、ターボ回転数Ntは図7に示すマップをそれぞれ用いて推定される。
【0065】
なお、図5〜図7に示すマップは、いずれも、内燃機関1の回転数Neと燃料噴射量Qとをパラメータとするタービン背面圧Ptbn、インペラ背面圧Pimp、ターボ回転数Ntの等値線を示すマップであって、予め実験などに基づいて経験的に作成されて制御装置100のROMに記憶されている。
【0066】
また、図5〜図7に示すマップにおいてハッチングを付した領域は、タービン背面圧Ptbn、インペラ背面圧Pimpが脈動しやすくなるとともに、この圧力脈動の谷が負圧になってオイル吸出しの発生が懸念される領域であって、オイル吸出し懸念領域と言うことにする。
【0067】
さらに、図7に示すマップにおいてクロスハッチングを付した領域は、ターボ回転数Ntが高回転数になっていて、潤滑不足の発生が懸念される領域であって、潤滑不足懸念領域と言うことにする。なお、このオイル吸出し懸念領域や循環不足懸念領域は、使用される過給機20の容量に基づいて予め実験などにより経験的に設定される。
【0068】
具体的に、前記ステップS3では、前記ステップS1で取得した機関回転数Neと目標燃料噴射量Qとを、図5〜図7に示す各マップの2次元座標上にそれぞれプロットすることにより、タービン背面圧Ptbn、インペラ背面圧Pimp、ターボ回転数Ntを算出する。
【0069】
この後、ステップS4において、アクセルペダル9がオフされているか否かを判定する。このステップS4において、肯定判定した場合つまりアクセルオフされている場合にはステップS5に移行する一方で、否定判定した場合つまりアクセルオフされていない場合にはステップS6に移行する。
【0070】
先に、ステップS5を説明する。このステップS5では、前記ステップS3で推定したターボ回転数Ntが図7のクロスハッチング領域(潤滑不足懸念領域)に入っているか否かを調べる。
【0071】
このステップS5で肯定判定すると、ステップS8に移行して、オイル供給装置50によるオイル供給圧を高くする高油圧制御を行うことにより、ラジアルベアリング31,32へのオイル供給量を多くさせるようにした後、このフローチャートの処理を終了する。なお、前記ステップS8の高油圧制御によるオイル供給圧は、前記した内燃機関1の始動時や定常運転時に行う高油圧制御と同一に設定されるが、実験により経験的に特定することが可能である。
【0072】
一方、前記ステップS5で否定判定すると、ステップS9に移行して、オイル供給装置50によるオイル供給圧を低くする低油圧制御を行うことにより、ラジアルベアリング31,32へのオイル供給量を少なくさせるようにした後、このフローチャートの処理を終了する。なお、前記ステップS9の低油圧制御によるオイル供給圧は、高油圧制御の場合に比べて低くなるように設定されるが、実験により経験的に特定することが好ましく、例えば、ラジアルベアリング31,32周辺のオイルが枯渇しない程度でゼロに近い値に設定することが可能である。
【0073】
次に、ステップS6を説明する。このステップS6では、前記ステップS3で推定したタービン背面圧Ptbn、あるいはインペラ背面圧Pimpが負圧(0kpa未満)であるか否かを調べる。
【0074】
ここで、負圧(Ptbn<0kpa、あるいはPimp<0kpa)である場合には、前記ステップS6で肯定判定して、前記したステップS9に移行して低油圧制御を行う。一方、正圧(Ptbn≧0kpa、あるいはPimp≧0kpa)である場合には、前記ステップS6で否定判定して、続くステップS7に移行する。
【0075】
このステップS7では、前記ステップS3で推定したターボ回転数Ntが図7のハッチング領域(オイル吸出し懸念領域)に入っているか否かを調べる。
【0076】
このステップS7で肯定判定した場合、つまりターボ回転数Ntがオイル吸出し懸念領域に入っている場合には、前記したステップS9に移行して低油圧制御を行う。一方、ステップS7で否定判定した場合、つまりターボ回転数Ntがオイル吸出し懸念領域に入っていない場合には、前記したステップS8に移行して高油圧制御を行う。
【0077】
以上説明したように、本発明を適用した実施形態では、内燃機関1および過給機20の運転中において、タービン背面圧Ptbn、インペラ背面圧Pimp、ターボ回転数Ntを推定するとともに、この推定結果に基づいて、過給機20のラジアルベアリング31,32に供給するオイルがタービンハウジング21の内部通路21aあるいはコンプレッサハウジング23の内部通路23aに吸い出される可能性が高くなる条件が成立しているか否かを調べ、条件が成立していると判断した場合に、過給機20のラジアルベアリング31,32に対するオイルの供給圧を可及的に低く設定するようにしている。
【0078】
このように、オイル吸出しが発生しやすい状況になると、吸い出し対象となるオイルの量を可及的に減らすようにしているから、この実施形態のようにオイル供給圧を制御していない従来例に比べると、オイル吸出しを抑制または防止することが可能になる。
【0079】
これにより、内燃機関1の燃焼室(図示省略)にオイル混入空気が導入される現象や、排気通路3にオイルが排出される現象を防止することが可能になり、それらが原因となる弊害の発生を防止するうえで役立つ。
【0080】
この他、オイル供給装置50に備えるオイルポンプ51は、前記したように一般的に、設計上で要求される能力よりも余裕を持つ容量に設定されるが、そのために、この実施形態のようにオイル吸出し対策を行わない従来例の場合には、前記オイル吸出しが発生するような状況になると、オイル吸出し量が多くなり過ぎることが予想される。これに対し、この実施形態では、潤滑不足を回避することを目的として前記容量の大きいオイルポンプ51を用いながらも、オイル吸出し対策を行うようにしているから、定常時には過給機20の十分な潤滑性能を確保することができて、特定条件が成立する場合にはオイル吸出しを抑制または防止することが可能になる。
【0081】
特に、上記実施形態では、オイル吸出しが発生する可能性が高くなる条件として、図4のステップS6のようにタービン背面圧Ptbnおよびインペラ背面圧Pimpが負圧になっているか否かの判定だけに特定せずに、図4のステップS7のようにタービン背面圧Ptbnおよびインペラ背面圧Pimpが図5および図6のオイル吸出し懸念領域に入っているか否かの判定を加えるようにしているので、オイル吸出しの抑制効果を高めるうえで有利になると言える。
【0082】
その理由を説明する。そもそも、前記オイル吸出し懸念領域では、タービン背面圧Ptbnおよびインペラ背面圧Pimpが脈動していて、圧力脈動の谷が負圧になって脈動の山が正圧になっている状況が含まれている。つまり、タービン背面圧Ptbnおよびインペラ背面圧Pimpが図5および図6のオイル吸出し懸念領域に入っている場合とは、負圧と正圧とが交互に発生するような状況であることを意味している。そのため、上記実施形態のように、タービン背面圧Ptbnおよびインペラ背面圧Pimpがオイル吸出し懸念領域に入っているときに低油圧制御を行うようにしていれば、負圧に近い正圧になっているときでも低油圧制御を行うことが可能になるので、オイル吸出しの抑制効果を高めるうえで有利になるのである。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。以下で例を挙げる。
【0084】
上記実施形態では、タービンホイール22の背面圧Ptbnおよびコンプレッサインペラ24の背面圧Pimpを推定するようにした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばタービンホイール22の背面圧Ptbnおよびコンプレッサインペラ24の背面圧Pimpを、図示していないが、それぞれセンサなどを用いて検出することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、例えば内燃機関に備える過給機に適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 内燃機関
2 吸気通路
3 排気通路
20 過給機
21 タービンハウジング
22 タービンホイール
23 コンプレッサハウジング
24 コンプレッサインペラ
25 回転軸
31 タービン側ラジアルベアリング
32 コンプレッサ側ラジアルベアリング
33 ベアリングハウジング
41 タービン側シールリング
42 コンプレッサ側シールリング
43 シールスリーブ
44 オイルデフレクタ
50 オイル供給装置
51 オイルポンプ
52 ピストン側油路
53 過給機側油路
54 油圧作動式の開閉弁
55 バイパス油路
56 電磁作動式の流量制御弁
100 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンホイールおよびコンプレッサインペラが設けられている回転軸を回転自在に支持するラジアルベアリングに、オイルを供給するためのオイル供給装置と、このオイル供給装置によるオイル供給圧を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記ラジアルベアリングに供給するオイルがタービンハウジングあるいはコンプレッサハウジングに吸い出される可能性が高くなる条件が成立しているか否かを調べ、条件が成立していると判断した場合に、条件が成立していない場合に比べて前記オイル供給圧を低く設定する、ことを特徴とする過給機。
【請求項2】
請求項1に記載の過給機において、
前記制御装置は、内燃機関への燃料噴射量と機関回転数とをパラメータとするタービンホイールの背面圧の等値線を示すマップを用いて前記タービンホイールの背面圧を推定するタービン背面圧推定処理と、
内燃機関への燃料噴射量と機関回転数とをパラメータとするコンプレッサインペラの背面圧の等値線を示すマップを用いて前記コンプレッサインペラの背面圧を推定するインペラ背面圧推定処理と、
前記2つの推定処理でそれぞれ推定した結果の少なくともいずれか一方が負圧であるか否かを判定する判定処理と、
この判定処理で肯定判定した場合に、タービンホイールの背面圧あるいはコンプレッサインペラの背面圧が正圧である場合に比べて前記オイル供給圧を低く設定する設定処理とを実行する、ことを特徴とする過給機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の過給機において、
前記オイル供給装置は、内燃機関のオイルパン内のオイルを吸い出すオイルポンプと、このオイルポンプから吐出されるオイルを前記ラジアルベアリングの設置領域に供給するための油路と、前記油路において前記オイルポンプの入口側と出口側とに接続されるバイパス油路と、このバイパス油路に設けられる流量制御弁とを備え、
前記制御装置は、要求に応じて前記流量制御弁の開度を制御することにより前記油路から前記設置領域へ供給するオイルの供給圧を制御する、ことを特徴とする過給機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の過給機において、
前記ラジアルベアリングは、前記回転軸の中間領域とベアリングハウジングとの対向環状空間に設置され、このラジアルベアリングよりタービンホイール寄り位置とコンプレッサインペラ寄り位置とには、前記ラジアルベアリングに供給されたオイルの外側流出を堰き止めるための密封部がそれぞれ設けられ、
前記タービンホイールの背面側で前記密封部よりも外側に前記タービンホイールの背面室が、また、前記コンプレッサインペラの背面側で前記密封部よりも外側に前記コンプレッサインペラの背面室がそれぞれ設けられる、ことを特徴とする過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−21418(P2012−21418A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158113(P2010−158113)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】