説明

遠心型圧縮機械

【課題】流量が小さい場合においても、圧力損失の増大を抑え、流れの不安定領域を狭めることのできる遠心型圧縮機械を提供することを目的とする。
【解決手段】流体の流量が、予め定めた流量Q0よりも小さい状態になったときに、駆動部42により、可動部材41を連通部30からスクロール流路27の外部に退避させて連通部30の流路断面積を増大させる。すると、最終段のインペラ23Lから外周側のスクロール流路27に流れ込み、吐出口21oに向けて送り出される流体の一部が、連通部30から位置A近傍のスクロール流路27に流れ込むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機や遠心ポンプ等の遠心型圧縮機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示すものは、一般産業に使用されている従来の遠心圧縮機1である。遠心圧縮機1は、ケーシング4に、インペラ回転軸2と、このインペラ回転軸2に同軸状に取り付けられた複数のインペラ(羽根車)3とからなる回転体(ロータ)が収容されている(例えば特許文献1参照。)。ケーシング4には、吸込口5a及び吐出口5bが形成されており、吸込口5aからケーシング4内に吸い込まれた流体は、複数段に設けられたインペラ3を経ることで圧縮され、吐出口5bから吐出される。
ここで、ケーシング4内には、吸込口5aから流体を吸い込む吸込ケーシング7、吐出口5bから流体を吐出するための吐出スクロール8が設けられている。
【0003】
このうち、図6(a)、(b)に示すように、吐出スクロール8は、最終段のインペラ3の外周部に位置するディフューザ6の出口6aの全周を囲うように形成されたスクロール流路8bと、一端がスクロール流路8bに連続し、他端が吐出口5bとされた吐出ノズル8cとから形成される。
スクロール流路8bは、最終段のインペラ3の外周部に位置するディフューザ6の出口6aの全周を囲うように形成され、インペラ3の回転方向に沿って、その断面積が漸次連続的に拡大するように形成されている。このような吐出スクロール8では、最終段のインペラ3側からディフューザ6を経て送り込まれた流体は、インペラ3の回転によって外周側のスクロール流路8bに流れ込む。スクロール流路8bにおいては、流れ込んだ流体が周方向において順次合流することにより、断面積の小さい小径部8b-Aから断面積の大きな大径部8b−Bへと流量が徐々に大きくなりながら流れる。そして、流体は、スクロール流路8bに連続してディフューザ6の外周部の接線方向に延びる吐出ノズル8cを通し、吐出口5bから外部に吐出される。
【0004】
ここで、図6(c)に示すように、スクロール流路8bは、予め設計段階で設定された設計点流量にて、スクロール流路8bの全体で、流速および静圧が均一になるよう、小径部8b-Aから大径部8b−Bへの断面積が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−173299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したような従来の吐出スクロール8においては、設計点流量においては、スクロール流路8b内における流速および静圧が均一となるものの、流量が設計点から外れると、スクロール流路8b内の断面積と、流速および静圧とがマッチしないことがある。
例えば、設計点よりも流量が小さい場合、小径部8b−Aから大径部8b−Bに向かって流体が流れるにしたがい流速が減速し、静圧が大きくなる。その結果、全周で静圧が不均一になる。また、設計点よりも流量が大きい場合、小径部8b−Aから大径部8b−Bに向かって流体が流れるにしたがい流速が増速して静圧が小さくなり、全周で静圧が不均一になり、流れパターンも不均一になる。この静圧の不均一による流れの不均一は、上流側のディフューザ6やインペラ3にも影響を及ぼす。
この結果、例えば、設計点よりも流量が小さい場合、圧力損失は、設計点流量において最小となり、設計点流量から離れるにしたがい大きくなる。この圧力損失の増大は小流量側で圧縮機ヘッド曲線を頭打ちにさせ、設計点流量に近い側に圧縮機ヘッド極大点を作りやすくなり、不安定領域が増大する(圧縮機のヘッド極大点は、圧縮機を含め管路系全体の不安定性を引き起こす必要条件である。)。通常、圧縮機は、安定的な運転を行うため不安定領域を外し、圧縮機ヘッドが極大となる流量よりも大きな流量の範囲で運転を行う。その結果、安定して運転を行える流量範囲が狭くなることになり、流量の変化・変動に対する運転安定性に改善の余地がある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、流量が小さい場合においても、圧力損失の増大を抑え、流れの不安定領域を狭めることのできる遠心型圧縮機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本発明は、回転軸に設けられたインペラを回転させ、インペラを経ることで流体が圧縮される遠心型圧縮機械であって、インペラの下流側に、インペラから送り込まれた流体を外部に吐出させる吐出スクロールが設けられ、吐出スクロールは、インペラの外周側の特定位置から、インペラの外周部に位置するディフューザの全周を囲うよう形成されて吐出口に繋がるスクロール流路と、流体の流量が低いときに、スクロール流路の吐出口側の流体を、スクロール流路の特定位置の近傍に送り込み、スクロール流路における流体の流量を増大させる流量増大手段と、を備えることを特徴とする。
ここで、流量増大手段は、スクロール流路における吐出口側と、特定の位置近傍とを連通する連通部の内部空間に出没可能とされた可動部材と、可動部材を連通部の内部空間に出没させる駆動部と、を備えることができる。
また、流量増大手段は、スクロール流路における吐出口側とスクロール流路における特定の位置近傍とを連通するバイパス管と、バイパス管の流路を開閉するバルブと、を備えることもできる。流体の流量が低いときは、吐出側へ行くほど静圧が高くなるので、その高い静圧が駆動力となって自然に流体が連通部あるいはバイパス管を通ってスクロール内に戻る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、流体の流量が低いときに、スクロール流路の吐出口側の流体を、スクロール流路の特定位置の近傍に送り込み、スクロール流路における流体の流量を増大させることができる。これにより、スクロール面積が減少したのと同じことになるので、圧力損失のボトムが、より小流量側に移り、小流量側での圧力損失の増大が抑制される。その結果、ヘッド極大点が小流量側へ移動して不安定領域も小流量側に移動する。このようにして、圧力損失の増大を抑えて流れの不安定領域を狭め、流量の変化や変動に対する運転の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態における遠心圧縮機の断面図である。
【図2】第一の実施形態における吐出スクロールを示す図であり、(a)は遠心圧縮機のインペラ回転軸方向から見た図、(b)は、(a)を上方から見た図である。
【図3】流量と圧力損失、圧縮機ヘッドとの関係を示す図である。
【図4】第二の実施形態における吐出スクロールを示す図であり、(a)は遠心圧縮機のインペラ回転軸方向から見た図、(b)は、(a)を上方から見た図である。
【図5】従来の遠心圧縮機の断面積である。
【図6】従来の吐出スクロールを示す図であり、(a)は遠心圧縮機のインペラ回転軸方向から見た図、(b)は、(a)を上方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第一の実施形態]
以下、添付図面に示す第一の実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における5段型遠心圧縮機の全体構成を説明するための図である。
図1に示すように、5段型遠心圧縮機(遠心型圧縮機械)20は、ケーシング21に、インペラ回転軸22と、このインペラ回転軸22に同軸状に取り付けられた複数段のインペラ23とからなる回転体が収容されている。さらに、複数のインペラ23が設けられたインペラ回転軸22の一端側には吸込ケーシング24が設けられ、他端側には吐出スクロール25が設けられている。ケーシング21には、吸込ケーシング24により外部から流体をケーシング21内に吸い込む吸込口21iと、吐出スクロール25によりケーシング21内の流体を外部に吐出する吐出口21oとが形成されている。
【0011】
5段型遠心圧縮機20の各段においては、前段側のインペラ23から後段側のインペラ23へと流体を送る流路Lが形成されている。
【0012】
5段型遠心圧縮機20においては、吸込ケーシング24により流体を外部から吸込口21iを通してケーシング21内に吸い込むと、複数段のインペラ23により前段側から後段側へと流体が送られつつ、流体が順次圧縮される。そして、最終段のインペラ23Lを経た流体は、吐出スクロール25により吐出口21oから外部に吐出される。
【0013】
このような5段型遠心圧縮機20において、図2に示すように、吐出スクロール25は、最終段のインペラ23Lの外周部に位置するディフューザ26の出口26aの全周を囲うように形成されたスクロール流路27と、スクロール流路27に連続して形成され、終端に吐出口21oが形成された吐出ノズル28と、を備える。
スクロール流路27には、最終段のインペラ23Lの回転により、流体が外周側に押し込まれる。スクロール流路27は、最終段のインペラ23Lの外周部に位置するディフューザ26の出口26aの外周部の特定の位置Aから、インペラ23Lの周方向に沿って連続して形成され、その終端位置Bは、ディフューザ26の出口26aの接線方向に延びる吐出ノズル28に繋がっている。
【0014】
スクロール流路27は、位置Aから終端位置Bに向けて、その流路断面積が漸次連続的に増大するよう形成されている。具体的には、インペラ23Lの外周部に位置するディフューザ26の径方向におけるスクロール流路27の拡径寸法Rと、インペラ23Lの回転軸方向における幅寸法Hが、それぞれ位置Aから終端位置Bに向けて漸次連続的に増大するよう形成されている。
【0015】
また、スクロール流路27は、流路断面積が小さい位置Aの小径部27aと、吐出口21oに繋がる終端位置Bの大径部27bとが、連通部30により互いに連通している。
そして、この連通部30には、連通部30の流路断面積を可変とする可変機構(流量増大手段)40が設けられている。この可変機構40は、スクロール流路27の外部から連通部30内に進退可能に設けられた可動部材41を有している。この可動部材41は、油圧シリンダ機構、モータを駆動源としたリンク機構等の駆動部42により、連通部30内に対して前進・後退するよう設けられている。本実施形態では、駆動部42により、可動部材41は、インペラ23Lの軸方向に沿って移動することで、連通部30から退避したスクロール流路27の外部の位置と、連通部30の内部に突出した位置との間で往復動できるようになっている。
ここで、可動部材41は、連通部30の内部に突出した位置において、連通部30から退避した場合に比較して、連通部30の流路断面を縮小させるようになっている。可動部材41は、位置A近傍のスクロール流路27の内周面に連続する湾曲面41aと、吐出口21oに連続する平面41bとを有している。
【0016】
図3に示すように、このような可変機構40によれば、流体の流量が、予め定めた流量Q0よりも大きい状態では、可動部材41を、連通部30内に突出させておく。この状態におけるスクロール流路27における流路面積の周方向における変化は、従来の吐出スクロール8(図6参照)と同様である。
一方、流体の流量が、予め定めた流量Q0よりも小さい状態になったときには、駆動部42により、可動部材41を連通部30からスクロール流路27の外部に退避させ、連通部30の流路断面積を増大させる。すると、インペラ23Lから外周側のスクロール流路27に流れ込み、吐出ノズル28に向けて送り出された流体の一部が、連通部30から位置A近傍のスクロール流路27に流れ込む。
【0017】
このような可動部材41の進退駆動は、流量センサで検出する流体の流量や、インペラ回転軸22の回転数等に応じて、自動的に行うことが好ましい。このため、前記の流量や回転数を検出するためのセンサと、センサの検出結果に基づいて可動部材41を進退駆動させる駆動部42を制御するコントローラとを備えることができる。
【0018】
このようにして連通部30から流体が引き込まれる結果、スクロール流路27における流体の内部循環量が増大する。これにより、インペラ23Lから外周側のスクロール流路27に送り出される流体の流量が少ない状態であっても、スクロール流路27における流体の内部循環量を多い状態とすることができる。その結果、図3(a)に示すように、流体の流量が少ない状態において、圧力損失状態が抑えられる。そして、図3(b)に示すように、圧縮機ヘッドの極大点を、より低流量側に移動させることができ、圧縮機ヘッドの極大点となる流量よりも小流量の不安定領域を小さくすることができる。その結果、流量が小さい場合においても、不安定領域を狭め、安定して流体を吐出させることが可能となる。
【0019】
[第二の実施形態]
ところで、上記第一の実施形態では、可変機構40として、可動部材41を連通部30に出没させる構成としたが、これに限るものではない。
例えば、図4に示すように、可変機構40として、吐出口21oと、位置Aの近傍におけるスクロール流路27とを接続するバイパス管50を備えることもできる。このバイパス管50には、バイパス管50内の流路を開閉できるバルブ51と、バルブ51を開閉させるモータ等の駆動部52を備える。
【0020】
このようなバルブ51の開閉駆動は、流量センサで検出する流体の流量や、インペラ回転軸22の回転数等に応じて、自動的に行うことが好ましい。このため、前記の流量や回転数を検出するためのセンサと、センサの検出結果に基づいてバルブ51を開閉させる駆動部52を制御するコントローラとを備えることができる。
【0021】
このような構成においては、流体の流量が、予め定めた流量Q0よりも大きい状態では、バルブ51を閉じておく。この状態におけるスクロール流路27における流路面積の周方向における変化は、従来の吐出スクロール8(図6参照)と同様である。
一方、流体の流量が、予め定めた流量Q0よりも小さい状態になったときには、駆動部52により、バルブ51を開く。すると、バイパス管50を通してスクロール流路27に流れ込み、吐出口21oに向けて送り出された流体の一部が位置A近傍のスクロール流路27に流れ込む。
なお、バイパス管50からスクロール流路27に流れ込む流体との混合損失の影響を考慮すると、なるべくスクロール流路27の接線方向に近い角度でバイパス管50を接続させることが好ましい。また、バイパス管50は1つに限定することなく複数設けてもよい。
【0022】
このようにしてバイパス管50から流体が引き込まれる結果、スクロール流路27における流体の内部循環量が増大する。これにより、インペラ23Lから外周側のスクロール流路27に送り出される流体の流量が少ない状態であっても、スクロール流路27における流体の内部循環量を多い状態とすることができる。その結果、図3(a)に示すように、流体の流量が少ない状態において、圧力損失状態が抑えられる。そして、図3(b)に示すように、圧縮機ヘッドの極大点を、より低流量側に移動させることができ、不安定領域を小さくすることができる。その結果、流量が小さい場合においても、安定して流体を吐出させることが可能となる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、5段型遠心圧縮機20の構成を示したが、吐出スクロール25以外の部分については、その構成を上記したものに限定することなく、適宜他の構成を採用することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0024】
20…5段型遠心圧縮機(遠心型圧縮機械)、21…ケーシング、21i…吸込口、21o…吐出口、22…インペラ回転軸、23…インペラ、24…吸込ケーシング、25…吐出スクロール、26…ディフューザ、27…スクロール流路、30…連通部、40…可変機構(流量増大手段)、41…可動部材、42…駆動部、50…バイパス管、51…バルブ、52…駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に設けられたインペラを回転させ、前記インペラを経ることで流体が圧縮される遠心型圧縮機械であって、
前記インペラの下流側に、前記インペラから送り込まれた前記流体を外部に吐出させる吐出スクロールが設けられ、
前記吐出スクロールは、前記インペラの外周側の特定位置から、前記インペラの外周部に位置するディフューザの全周を囲うよう形成されて吐出口に繋がるスクロール流路と、
前記流体の流量が低いときに、前記スクロール流路の前記吐出口側の前記流体を、前記スクロール流路の前記特定位置の近傍に送り込み、前記スクロール流路における前記流体の流量を増大させる流量増大手段と、を備えることを特徴とする遠心型圧縮機械。
【請求項2】
前記流量増大手段は、前記スクロール流路における前記吐出口側と前記特定の位置近傍とを連通する連通部の内部空間に出没可能とされた可動部材と、
前記可動部材を前記連通部の内部空間に出没させる駆動部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の遠心型圧縮機械。
【請求項3】
前記流量増大手段は、前記スクロール流路における前記吐出口側と前記スクロール流路における前記特定の位置近傍とを連通するバイパス管と、
前記バイパス管の流路を開閉するバルブと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の遠心型圧縮機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122368(P2012−122368A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272465(P2010−272465)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】