説明

遮断弁の開弁完了判断方法および開弁完了判断装置

【課題】開弁完了確定時間を必要最低限の時間に設定することができる遮断弁の開弁完了判断方法および開弁完了判断装置を提供する。
【解決手段】ガス貯蔵容器からのガスを遮断し、内部に弾性体からなるバルブシートを使用した遮断弁の開弁完了判断方法であって、前記遮断弁の開弁指令を出す工程(S100)と、前記遮断弁の温度を検出する工程(S110)と、検出した前記温度と前記バルブシートの温度特性とに基づいて前記遮断弁の開弁完了確定時間を決定する工程(S120)と、前記遮断弁の開弁指令が出てからの経過時間を検出する工程(S150)と、前記経過時間と前記開弁完了確定時間とを比較して前記遮断弁の開弁の完了を判断する工程(S160)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガス貯蔵容器に設けられた遮断弁の開弁完了判断方法および開弁完了判断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池自動車などのガス燃料自動車には、燃料としてのガスが充填されたタンクと、このタンクからガス消費機器(燃料電池、エンジンなど)へのガスの流通を遮断する電磁弁とが設けられている。このような電磁弁の開弁応答性を調節する技術としては、例えば、開弁応答性のばらつきを抑制する開弁応答性調整機構を備えた電磁弁が提案され(特許文献1参照)、また電流制御により電磁弁の応答性向上を図る技術が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−164424号公報(図10)
【特許文献2】特許2998549号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般的な電磁弁の開弁完了判断は、燃料電池自動車の起動時などにおいて燃料系の電磁弁に開弁指令を与えてから電磁弁が確実に開いていることを開弁指令から一律に設定された所定経過時間により判断していた。このため、所定経過時間より短い時間で電磁弁の開弁がすでに完了している場合であっても、所定時間が経過するまでは燃料の消費を開始することができないという問題があった。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、開弁完了確定時間を必要最低限の時間に設定することができる遮断弁の開弁完了判断方法および開弁完了判断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、ガス貯蔵容器からのガスを遮断し、内部に弾性体からなるバルブシートを使用した遮断弁の開弁完了を、制御装置により判断する遮断弁の開弁完了判断方法であって、前記遮断弁の開弁指令を出す工程と、前記遮断弁の温度を検出する工程と、検出した前記温度と前記バルブシートの温度特性とに基づいて前記遮断弁の開弁完了確定時間を決定する工程と、前記遮断弁の開弁指令が出てからの経過時間を検出する工程と、前記経過時間と前記開弁完了確定時間とを比較して前記遮断弁の開弁の完了を判断する工程と、を有することを特徴とする。
また請求項5に係る発明は、ガス貯蔵容器からのガスを遮断し、内部に弾性体からなるバルブシートを使用した遮断弁の開弁完了判断装置であって、前記遮断弁の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段によって検出された温度と、前記バルブシートの温度特性とに基づいて前記遮断弁の開弁完了確定時間を決定する開弁完了確定時間決定手段と、前記遮断弁の開弁指令が出てからの経過時間を検出する開弁指令経過時間検出手段と、前記開弁指令経過時間検出手段によって検出された経過時間と前記開弁完了確定時間とを比較して前記遮断弁の開弁の完了を判断する開弁完了判断手段と、を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項1および請求項5に係る発明によれば、温度に応じて開弁完了確定時間を決定するようにしたため、温度依存性のある弾性体(ゴム部材)をバルブシートに使用した遮断弁であっても、開弁完了確定時間を必要最低限の時間として決定でき、開弁完了後に行なわれる制御を従来に比べて早期に行なうことが可能になる。
【0007】
請求項2および請求項6に係る発明は、前記バルブシートの温度特性は、温度と粘弾性との関係であることを特徴とする。
【0008】
請求項2および請求項6に係る発明によれば、開弁完了確定時間をさらに精度よく決定することが可能になる。
【0009】
請求項3に係る発明は、開弁開始時の前記遮断弁の上流側と下流側との圧力差を検出する工程と、前記差圧に応じて前記開弁完了確定時間を補正する工程と、を有することを特徴とする。
また請求項7に係る発明は、開弁開始時の前記遮断弁の上流側と下流側との差圧を検出する圧力差検出手段と、前記差圧に応じて前記開弁完了確定時間を補正する開弁確定時間補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3および請求項7に係る発明によれば、遮断弁の上流と下流とで圧力差が高いほど遮断弁の開弁完了に要する時間が長くなる傾向があっても、その圧力差に応じて開弁完了確定時間の補正を行なうので、開弁完了確定時間を必要最低限の時間として決定することが可能になる。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記バルブシートの経年劣化を推定する工程と、前記経年劣化に応じて前記温度特性を補正する工程と、を有することを特徴とする。
また請求項8に係る発明は、前記バルブシートの経年劣化を推定する経年劣化推定手段と、前記経年劣化に応じて前記温度特性を補正する温度特性補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項4および請求項8に係る発明によれば、経年劣化によってバルブシートの温度特性が変わったとしても、それに応じて補正を行なうので、開弁完了確定時間を正確に算出することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の遮断弁の開弁完了判断方法および開弁完了判断装置によれば、開弁完了確定時間を必要最低限の時間に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本実施形態の遮断弁の開弁完了判断装置を備えた燃料電池システムを示す全体構成図、図2は遮断弁の断面図を示し、(a)は全体図、(b)は(a)のA部の拡大図、図3はバルブシートの温度と粘弾性との関係の一例を示すグラフ、図4は本実施形態の遮断弁の開弁完了判断装置のフローチャート、図5は遮断弁の温度と開弁完了確定時間との関係を示すマップ、図6は圧力差と開弁完了確定時間との関係を示すマップである。なお、本実施形態では、燃料電池自動車に適用した場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、水素や天然ガスなどを燃料ガスとするガス燃料自動車(エンジン自動車、複合燃料エンジン自動車)などにも適用することができ、または船舶や航空機、あるいは家庭用電源としての定置式のものなどあらゆるものに適用できる。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の開弁完了判断装置を備えた燃料電池システム1は、燃料電池FC、遮断弁(1次遮断弁)10を備えたタンク11、1次減圧弁12、2次遮断弁13、2次減圧弁14、エゼクタ15、パージ弁16、エアコンプレッサ17、制御装置50などで構成されている。
【0016】
遮断弁10は、ガス配管a1を介して1次減圧弁12と接続されている。1次減圧弁12は、ガス配管a2を介して2次遮断弁13と接続されている。2次遮断弁13は、配管a3を介して2次減圧弁14と接続されている。2次減圧弁14は、配管a4を介してエゼクタ15と接続されている。エゼクタ15は、配管a5を介して燃料電池FCのアノード側の入口と、燃料電池FCのアノード側の出口に接続されたガス配管(ガス循環配管)a6とそれぞれ接続されている。ガス配管a6は、その途中においてガス配管a7と接続され、ガス配管a7にパージ弁16が設けられている。エアコンプレッサ17は、ガス配管a8を介して燃料電池FCのカソード側と入口と接続されている。燃料電池FCのカソード側の出口は、配管a9を介して外部と連通している。
【0017】
前記燃料電池FCは、例えば、プロトン透過性を有する固体高分子電解質膜をアノード(水素極)とカソード(空気極)で挟み、さらに導電性のセパレータで挟んで構成した単セルを複数積層した構造を有している。アノードに水素(燃料ガス)が供給され、カソードに空気(酸化剤ガス)が供給されることにより、アノードでは、水素から電子が乖離し、水素イオンが固体高分子電解質膜を介してカソードに透過するとともに電子が外部負荷(走行モータ、蓄電装置、補機など)を通ってカソードに移動することにより発電され、カソードでは、水素イオンと電子と空気中の酸素との反応により水が生成される。
【0018】
図2(a)に示すように、遮断弁10は、電磁力で駆動する弁であり、コイル31、プランジャ32、弁体33、バルブシート34、バネ35などを有している。なお、この遮断弁10は、いわゆるキックパイロット式の電磁弁であり、1次側(タンク11側)と2次側(燃料電池FC側)の圧力差が大きい場合にでも比較的小さな電磁力で開弁できるものとなっている。このため、1次側と2次側の差圧の関係で、差圧が大きい場合、遮断弁10はコイル31の電磁力により一度に開弁することはせず、2段階で開弁するように構成されている。
【0019】
コイル31は、円筒状に形成され、その中心にプランジャ32が設けられている。プランジャ32は、バネ35によって図示下方へ付勢されている。
【0020】
図2(b)に示すように、プランジャ32は、その下部に弁体33の上部が内挿されるプランジャ孔32aを備えている。プランジャ孔32aの内周壁には段部32bが設けられており、プランジャ32が上方に移動した場合、弁体33の小径部33bの下部と段部32bの上部とが係合するように構成されている。なお、プランジャ孔32aの上部(天面)と段部32bの上部との距離は、前記した2段階の開弁を実現するため、コイル31の電磁力によりプランジャ32が上下する移動距離よりも小さく設定されている。
【0021】
また、弁体33は、小径部33bと大径部33aとを上下に所定間隔を置いて備え、大径部33aが弁孔30によってスライド自在に支持され、小径部33bがプランジャ32の下端部に形成されたプランジャ孔32aによってスライド自在に支持されている。大径部33a及び小径部33bはそれぞれ通路33d,33eを備えており、1次側の配管口とプランジャ孔32aの上部とを連通している。また、弁体33は、1次側と2次側の差圧が大きい場合の1段階目の開弁で機能して、1次側(プランジャ孔32aの上部)と2次側とを連通する小径の貫通孔33cを備えている。この貫通孔33cは、閉弁時には、プランジャ32の下部に設けられたシール32cにより塞がれ、1次側と2次側とを遮断している。なお、遮断弁10の弁座30Aには2次側に連通する2次側連通孔30aを備えているが、この2次側連通孔30aの孔径は、貫通孔33cの孔径に比べて大径にしてある。大径部33aの下端面にはリング状のバルブシート34が設けられている。一方、弁座30Aには、2次側連通孔30aの外周を所定距離置いて取り囲むリング状の突起30bが設けられている。このバルブシート34と弁座30Aの突起30bとでシールが行われ、1次側と2次側とを遮断している。
【0022】
また、バルブシート34は、ゴムなどの弾性体で形成されたものである。このバルブシート34にゴムを使用している電磁弁は、ゴムの低温貼り付きにより低温下で応答時間(開弁完了時間)が遅くなる。このような低温下での貼り付きの原因は、ゴムの粘弾性変化による貼り付き力の増加によるものである。このゴムの貼り付き力は、例えば、ゴムの粘性(張り付こうとする力)と、弾性(粘性に逆らって元の形状に復元しようとすう力)との比で決まり、粘性に対する弾性の比は温度毎に異なるため、貼り付き力には温度依存性がある。つまり、ゴムの貼り付き力の指標(粘弾性)は、ゴムの損失弾性率(G´´)と貯蔵弾性率(G´)との比(G´´/G´)である損失係数(tanδ)で表される。これにより、損失係数が高いとゴムの反発弾性率が小さく(貼り付き力が高く)なって、開弁応答(開弁完了)に要する時間が長くなる。例えば、バルブシート34に用いられる弾性体(ゴム)の損失係数(tanδ)と温度との関係は、図3において実線で示すグラフのようになる。なお、図3のグラフは一例を示したものであり、弾性体(ゴム)の材質に応じて、グラフの波形は変化する。また、弾性体(ゴム)が経年劣化した場合には、図3において破線で示すように波形がシフトする。
【0023】
このように構成された遮断弁10では、1次側と2次側に圧力差がある状態でコイル31に通電すると、電磁力によってプランジャ32がまず引き上げられる。このとき、1次側に高圧が加えられている場合、貫通孔33cの部分に加わる差圧による力がプランジャ32の上方への移動を阻止しようとする。しかし、貫通孔33cの孔径は2次側連通孔30aの孔径よりも小径で狭いことから、差圧による力(プランジャ32の上方への移動を阻止する力)は電磁力(プランジャ32を上方へ移動させようとする力)よりも小さく、プランジャ32が上方に移動する。これにより、図2(b)の流れR1に示すように、1次側のガス(水素)が、貫通孔33cの狭い通路を通して徐々に2次側に流れ込み始める(1段階目の開弁)。
【0024】
そして、プランジャ32はさらに上方へ移動するが、やがて小径部33bの下部と段部32bの上部とが係合する。コイル31は発生した電磁力によりプランジャ32と共に弁体33を上方へ移動させようとするが(引き上げようとするが)、弁体33には、貫通孔33cの孔径よりも大径の2次側連通孔30a(バルブシート34の内径分)による大きな差圧の力が作用しているため、プランジャ32の上方への移動は停止する。
【0025】
このプランジャ32の上方への移動が停止している間も、狭い貫通孔33cを通して1次側から2次側へとガスが流れ込んでおり、1次側と2次側の差圧は徐々に小さくなっている。やがて、差圧の力が電磁力よりも小さくなると、弁体33が弁孔30をスライドしてプランジャ32により上方へ引き上げられる。これにより、図2(b)の流れR2に示すように、遮断弁10が完全に開弁して1次側と2次側とを連通させ、開弁完了状態となる(2段階目の開弁)。
【0026】
一方、コイル31への通電が遮断されたときには、バネ35の付勢力でプランジャ32が下がり(下方に移動し)、弁体33は弁座30Aに押し付けられ、バルブシート34の変形によって1次側と2次側の連通が遮断される。このとき、小径部33bの貫通孔33cもプランジャ32のプランジャ孔32aの端面に設けられたシール32cによって塞がれ、遮断弁10が閉弁状態になる。
【0027】
図1に戻って説明すると、タンク11は、例えば高純度の水素が非常に高い圧力で貯蔵されている。1次減圧弁12は、発電時にタンク11から供給された水素を1次減圧し、2次減圧弁14は、1次減圧した水素を2次減圧して所定の圧力となって燃料電池FCのアノードに供給するようになっている。2次遮断弁13は、例えば、遮断弁10における差圧を短い時間で小さくして、遮断弁10を短時間で開弁させるようになっている。エゼクタ15は、燃料電池FCのアノードから排出された未反応の水素を、ガス配管a6,a5を介して燃料電池FCに戻して再循環させる機能を有する。パージ弁16は、適宜開弁することにより、燃料電池FC内で生成された生成水や固体高分子電解質膜を透過した空気に含まれる窒素などを車外(外部)に排出して発電性能の低下を防止する機能を有する。
【0028】
エアコンプレッサ17は、燃料電池FCのカソードに空気(酸化剤ガス)を供給する機能を有し、例えばモータで駆動するスーパーチャージャなどで構成されている。なお、本実施形態の燃料電池システム1には、エアコンプレッサ17から導入された空気を加湿するための加湿器(図示せず)などが設けられている。
【0029】
制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)、RAM、プログラムを記憶したROM、各種回路などで構成され、開弁完了確定時間決定手段、開弁指令経過時間検出手段、開弁完了判断手段、圧力差検出手段、開弁確定時間補正手段を備えるとともに、遮断弁10、2次遮断弁13、パージ弁16をそれぞれ開閉制御し、エアコンプレッサ17のモータの回転速度を制御する。
【0030】
また、制御装置50は、温度センサ51、圧力センサ52、タイマ53、イグニッションスイッチ(IGSW)54と接続されている。温度センサ51は、遮断弁10の上流側に設けられ、タンク11内の温度を検出する。圧力センサ52は、遮断弁10と1次減圧弁12との間に設けられ、遮断弁10の下流の圧力を検出する。タイマ53は、遮断弁10の開弁指令からの経過時間T2(図4参照)、遮断弁10の使用開始からの経過時間T3(図7参照)を検出する。イグニッションスイッチ54は、運転者によってON/OFFが切り替えられ、制御装置50によってIG−ONおよびIG−OFFが検出される。
【0031】
開弁完了確定時間決定手段は、温度センサ51によって検出された温度と、バルブシート34の温度特性(温度と粘弾性との関係)とに基づいて開弁完了確定時間を決定する。開弁指令経過時間検出手段は、遮断弁10に対して開弁指令が出力されてからの経過時間をタイマ53によって検出する。開弁完了判断手段は、開弁指令経過時間検出手段によって検出された経過時間と、開弁完了確定時間決定手段によって決定された開弁完了確定時間とを比較して遮断弁10の開弁の完了を判断する。圧力差検出手段は、遮断弁10の上流側と下流側との圧力差を検出する。開弁確定時間補正手段は、圧力差検出手段によって検出された圧力差に応じて開弁完了確定時間を補正する。
【0032】
次に、本実施形態の遮断弁10の開弁完了判断装置を備えた燃料電池システム1の起動時の制御について図4ないし図6を参照して説明する。なお、燃料電池システム1の停止時には、制御装置50によって遮断弁10が閉じられてタンク11から燃料電池FCへの水素の供給が停止され、エアコンプレッサ17の運転が停止されて燃料電池FCへの空気の供給が停止され、燃料電池FCの発電が停止されている。
【0033】
図4に示すように、ステップS100において、制御装置50は、イグニッションスイッチ54がオン(IG−ON)にされると、それと同時に遮断弁10に対して開弁指令が出される。これにより、遮断弁10のコイル31(図2(a)参照)への通電が開始される。
【0034】
そして、ステップS110において、制御装置50は、温度センサ51によりタンク11内のガス(水素)温度を検出する。なお、タンク11内ガス温度は、遮断弁10の温度とほぼ等しいと考えることができる。また、遮断弁10の温度は、タンク11内のガス温度によって検出するものに限定されず、遮断弁10の温度を直接に検出してもよく、あるいは外気温度などその他周囲の機器の温度で代替してもよい。
【0035】
そして、ステップS120において、制御装置50は、図5に示すマップに基づいて開弁完了確定時間T1を決定する。なお、図5に示すマップは、図3に示す温度と損失係数(粘弾性)との関係に基づいて、温度に応じて開弁完了確定時間T1を段階的に変化させたものである。つまり、図3において損失係数(tanδ、粘弾性)が高い領域では開弁完了確定時間T1が長く設定され、損失係数(tanδ)が低い領域では開弁完了確定時間T1が短く設定される。なお、図5に示すマップは一例であり、さらに多段階的に開弁完了確定時間T1を変化させるようにしてもよい。また、回転完了確定時間T1はマップに基づいて決定されるものに限定されず、関数やテーブルなどを用いて決定してもよい。また、ステップS120が、本実施形態の開弁完了確定時間決定手段が実施する処理に相当する。
【0036】
そして、ステップS130において、制御装置50は、遮断弁10を挟んで上流側と下流側との圧力差を検出する。なお、遮断弁10の上流側の圧力は、タンク11内の水素の残量により推定することができる。ただし、遮断弁10の上流側にも圧力センサを設けて、圧力差を検出するようにしてもよい。このステップS130が、本実施形態における圧力差検出手段が実施する処理に相当する。
【0037】
そして、ステップS140において、制御装置50は、ステップS130によって検出された圧力差に応じて開弁完了確定時間T1を補正する。開弁完了確定時間T1の補正は、図6に示すマップに基づいて補正される。つまり、圧力差が高くなるにつれて遮断弁10の開弁完了時間が遅れるので、図6に示すように、圧力差が高い場合には開弁完了確定時間T1を長くする補正を行い、圧力差が低い場合には開弁完了確定時間T1を短くする補正する補正を行なう。
【0038】
そして、ステップS150において、制御装置50は、IG−ON(遮断弁10の開弁指令)からの経過時間T2を検出する。なお、経過時間T2は、制御装置50に接続された(または内蔵された)タイマ53によって計測される。このステップS150が、本実施形態における開弁指令経過時間検出手段が実施する処理に相当する。
【0039】
そして、ステップS160において、制御装置50は、経過時間T2が開弁完了確定時間T1以上になったか否かを判断する。ステップS160において、制御装置50は、遮断弁10の開弁指令からの経過時間T2が開弁完了確定時間T1以上になっていないと判断した場合には(No)、ステップS150に戻り、遮断弁10の開弁指令からの経過時間T2が開弁完了確定時間T1以上になったと判断した場合には(Yes)、図4のフローの処理を終了する。
【0040】
なお、経過時間T2が開弁完了確定時間T1に至った場合には(S160、Yes)、その後の制御として、制御装置50によって2次遮断弁13が開かれて、タンク11からの水素が2次減圧弁14で減圧された後に燃料電池FCのアノードへの供給が開始される。また、制御装置50によってエアコンプレッサ17が駆動されて、燃料電池FCのカソードへの空気の供給が開始される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、遮断弁10の温度に応じて開弁完了確定時間を決定しているため、温度依存性のある弾性体(ゴム部材)をバルブシート34に使用した電磁弁10であっても、開弁完了確定時間を必要最小限の時間に設定できる。したがって、従来においては、図5の破線で示すように開弁完了確定時間を温度変化に関係なくワーストケースを想定した時間に一律に設定していたが、本実施形態では必要最低限の時間に設定することが可能になる。その結果、遮断弁10の開弁完了後に行なわれる制御、つまり燃料電池FCのアノードへの水素供給開始を従来よりも早期に行なうことが可能になる。
【0042】
また、本実施形態によれば、バルブシート34の温度特性として、温度と粘弾性との関係に基づいたマップにより開弁完了確定時間を決定しているため、バルブシート34の貼り付き状態を高い精度で推定することができ、開弁完了確定時間をさらに精度よく決定することが可能になる。
【0043】
また、本実施形態によれば、遮断弁10の上下流での圧力差が高くなって遮断弁10の開弁の完了に要する時間が長くなったとしても、圧力差に応じて開弁完了確定時間を補正するため、開弁完了確定時間として必要最低限の時間を適切に設定することが可能になる。
【0044】
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、図7および図8に示すような開弁完了判断にしてもよい。図7は他の実施形態の遮断弁の開弁完了判断装置のフローチャート、図8は補正後の遮断弁の温度と開弁完了確定時間との関係を示すマップである。この実施形態での開弁完了判断装置は、図4のフローに、バルブシート34の経年劣化を推定する経年劣化推定手段と、経年劣化に応じて温度特性(温度と粘弾性との関係)を補正する温度特性補正手段とを追加したものである。なお、図4に示すフローと同様の処理については、同一のステップ符号を付してその説明を省略する。
【0045】
すなわち、図7に示すように、ステップS111において、制御装置50は、バルブシート34の使用開始からの経過時間T3が所定時間以上であるか否かを判断する。なお、経過時間T3は、タイマ53などを用いて計測することができ、例えば何万時間などに設定される。バルブシート34は、時間の経過とともに劣化するので、使用開始からの経過時間T3を検出することにより、バルブシート34が劣化しているか否かの推定が可能になる。
【0046】
ステップS111において、制御装置50は、バルブシート34の使用開始からの経過時間T3が所定時間以上ではないと判断した場合には(No)、ステップS120に進み、所定時間以上であると判断した場合には(Yes)、ステップS112に進む。なお、ステップS111が、本実施形態における経年劣化推定手段が実施する処理に相当する。
【0047】
ステップS112において、制御装置50は、バルブシート34の温度特性を補正する。つまり、バルブシート34が劣化すると、図3の破線で示すグラフのように波形がシフトする。したがって、遮断弁10の温度が劣化前と同じ温度であっても損失係数(tanδ)が高くなるので、図8の温度と開弁完了確定時間T1との関係を示すマップについても、例えば実線(破線は補正前)に示すように補正される。なお、補正したマップは、実験等によって予め決められており、補正時に前回のマップと置き換える。このステップS112が、本実施形態における温度特性補正手段が実施する処理に相当する。
【0048】
そして、ステップS120において、制御装置50は、遮断弁10の温度(タンク内ガス温度)に基づいて、補正後のマップにより開弁完了確定時間T1を決定する。なお、使用開始からの経過時間に応じて、図3に示す温度特性を多段階的に補正して、図8に示すマップを補正してもよい。
【0049】
このように、バルブシート34の経年劣化を推定して、温度特性(温度と粘弾性との関係)を補正することにより、経年劣化によってバルブシート34の温度特性が変化したとしても、開弁完了確定時間を正確に算出することが可能になる。
【0050】
なお、本実施形態では、タンク11に設けられた遮断弁10について説明したが、2次遮断弁13などにも適用できる。また、遮断弁10は、この遮断弁10がタンク11に一体に組み込まれたいわゆるインタンク式の電磁弁にも同様にして適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の遮断弁の開弁完了判断装置を備えた燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図2】遮断弁の断面図を示し、(a)は全体図、(b)は(a)のA部の拡大図である。
【図3】バルブシートの温度と粘弾性との関係の一例を示すグラフである。
【図4】本実施形態の遮断弁の開弁完了判断装置のフローチャートである。
【図5】遮断弁の温度と開弁完了確定時間との関係を示すマップである。
【図6】圧力差と開弁完了確定時間との関係を示すマップである。
【図7】他の実施形態の遮断弁の開弁完了判断装置のフローチャートである。
【図8】補正後の遮断弁の温度と開弁完了確定時間との関係を示すマップである。
【符号の説明】
【0052】
1 燃料電池システム
10 遮断弁
11 タンク(ガス貯蔵容器)
34 バルブシート
50 制御装置
51 温度センサ(温度検出手段)
52 圧力センサ
53 タイマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス貯蔵容器からのガスを遮断し、内部に弾性体からなるバルブシートを使用した遮断弁の開弁完了を、制御装置により判断する遮断弁の開弁完了判断方法であって、
前記遮断弁の開弁指令を出す工程と、
前記遮断弁の温度を検出する工程と、
検出した前記温度と前記バルブシートの温度特性とに基づいて前記遮断弁の開弁完了確定時間を決定する工程と、
前記遮断弁の開弁指令が出てからの経過時間を検出する工程と、
前記経過時間と前記開弁完了確定時間とを比較して前記遮断弁の開弁の完了を判断する工程と、を有することを特徴とする遮断弁の開弁完了判断方法。
【請求項2】
前記バルブシートの温度特性は、温度と粘弾性との関係であることを特徴とする遮断弁の開弁完了判断方法。
【請求項3】
開弁開始時の前記遮断弁の上流側と下流側との圧力差を検出する工程と、
前記圧力差に応じて前記開弁完了確定時間を補正する工程と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の遮断弁の開弁完了判断方法。
【請求項4】
前記バルブシートの経年劣化を推定する工程と、
前記経年劣化に応じて前記温度特性を補正する工程と、を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の遮断弁の開弁完了判断方法。
【請求項5】
ガス貯蔵容器からのガスを遮断し、内部に弾性体からなるバルブシートを使用した遮断弁の開弁完了判断装置であって、
前記遮断弁の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度と、前記バルブシートの温度特性とに基づいて前記遮断弁の開弁完了確定時間を決定する開弁完了確定時間決定手段と、
前記遮断弁の開弁指令が出てからの経過時間を検出する開弁指令経過時間検出手段と、
前記開弁指令経過時間検出手段によって検出された経過時間と前記開弁完了確定時間とを比較して前記遮断弁の開弁の完了を判断する開弁完了判断手段と、を備えることを特徴とする遮断弁の開弁完了判断装置。
【請求項6】
前記バルブシートの温度特性は、温度と粘弾性との関係であることを特徴とする請求項5に記載の遮断弁の開弁完了判断装置。
【請求項7】
開弁開始時の前記遮断弁の上流側と下流側との圧力差を検出する圧力差検出手段と、
前記圧力差に応じて前記開弁完了確定時間を補正する開弁確定時間補正手段と、を備えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の遮断弁の開弁完了判断装置。
【請求項8】
前記バルブシートの経年劣化を推定する経年劣化推定手段と、
前記経年劣化に応じて前記温度特性を補正する温度特性補正手段と、を備えることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の遮断弁の開弁完了判断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−129593(P2009−129593A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301159(P2007−301159)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】