説明

遮熱コーティングの処理方法及び関連物品

【課題】タービンエンジン部品の有効寿命を延ばすように、タービンエンジン部品上の遮熱コーティングを処理する方法を提供する。
【解決手段】遮熱コーティングの処理方法は、タービンエンジン部品に設けられた遮熱コーティングの所定表面上にドーパント組成物を塗工し、前記表面を加熱して強化遮熱コーティングを形成する工程を含む。ドーパント組成物は希土類金属化合物を含有する。また、物品は本方法により形成した強化遮熱コーティングを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱コーティングの処理方法及び関連物品に関する。
【背景技術】
【0002】
遮熱コーティング(TBC=thermal barrier coating)は、タービンエンジンその他の発電タービンのガス流路環境で作動する部品を保護するものであるので、かなりな極限温度や関連した酸化性及び腐食性条件にさらされる。このようなTBCが望ましいタービンエンジン部品の例には、タービンブレード及びベーン、タービンシュラウド、バケット、ノズル、燃焼ライナ、ディフレクタ等が挙げられる。
【0003】
通常、TBCは、部品を形成する金属基材(TBCの金属表面への密着性を高めるボンドコート層を含んでもよい)の所定表面上に堆積される。TBCは熱伝導率が低いので、下側の金属基材への熱の流れを低減する(即ち、断熱作用をなす)。金属基材は、典型的には金属合金、例えばニッケル基、コバルト基及び/又は鉄基合金(例えば、耐熱性超合金)からなる。
【0004】
TBCはその使用寿命中に下記の破壊モード、即ち熱的−機械的歪みに続く剥落、エロージョンによる皮膜の除去、皮膜の有効性を軽減する熱伝導率の上昇、そしてCMAS浸透後の剥離を受ける。なお、CMASは、カルシウム−マグネシウム−アルミニウム−ケイ素酸化物系(Ca−Mg−Al−SiO)からなる混合環境汚染物質を指し、これはTBCに浸透し、保護層の亀裂や剥落につながるおそれがある。熱伝導率が上昇すると被保護部品に届く熱が多くなり、装置を効率の悪いより低い温度で運転しなければならなくなる。機械的耐久性の低下は、TBCのエロージョン/衝撃ダメージ及び全体的高温故障につながるおそれがある。使用温度が、TBCの結晶構造を耐久性の低いものに変化させる、例えば正方晶から立方晶に変化させるように作用することがある。
【0005】
立方相はエロージョンを8倍受けやすく、耐剥落性に劣ることが確認されている。
【0006】
タービンエンジンの部品を保護するのに用いられている皮膜など遮熱コーティング(TBC)は、代表的には、約24,000時間運転の使用寿命をもつ。その時間の間に何度も検査が行われる。現在の慣行では、TBCが、亀裂、剥落、剥離もしくは基材露出など弱体化の徴候を示したら、部品を物理的に交換している。部品の交換は部品自体と休止時間両面で高コストになる。
【0007】
TBCを改良する上での現在の関心は、新しいTBC層の改良、主としてTBC又はボンド層の化学組成、TBC層構造及び被覆条件の改良に向けられている。
【特許文献1】米国特許第7094450号明細書
【特許文献2】米国特許第6875464号明細書
【特許文献3】米国特許第6544346号明細書
【特許文献4】米国特許第6413578号明細書
【特許文献5】米国特許第6274193号明細書
【特許文献6】米国特許第6235352号明細書
【特許文献7】米国特許第6042880号明細書
【特許文献8】米国特許第5900102号明細書
【特許文献9】米国特許第5723078号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第20070202269号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第20060091119号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第20050191516号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第20050129868号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第20040219290号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第20040214938号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第20020182362号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第20020164417号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、使用寿命中にTBCの性能を改良する手段や方法はない。しかし、そのような方法があれば、潜在的にかなりの経済的利益があるので魅力的である。したがって、TBC性能を上記破壊モードの一つに関して改良し、被覆部品の有効寿命を延ばすTBC増強手段を追求した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、タービンエンジン部品の有効寿命を延ばすように、タービンエンジン部品上の遮熱コーティングを処理する方法を提供する。
【0010】
一実施形態では、遮熱コーティングの処理方法は、タービンエンジン部品に設けられた遮熱コーティングの所定表面上にドーパント組成物を塗工し、前記表面を加熱して強化遮熱コーティングを形成する工程を含む。ドーパント組成物は希土類金属化合物を含有する。
【0011】
別の実施形態では、物品は本方法により形成した強化遮熱コーティングを有する。
【0012】
遮熱コーティングを強化する方法の特徴及び利点は、以下の図面を参照した詳細な説明からいっそう容易に理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の遮熱コーティング(TBC)の処理方法は、TBC性能をTBCのCMAS耐性、機械的耐久性及び熱伝導率の1以上に関して改良する。処理したTBCを本明細書では強化TBCという。強化TBCは、処理前のTBCと比べて、低い熱伝導率、高い機械的耐久性、高いCMAS耐性の1つを有するか、2つ以上を合わせもつ。
【0014】
TBC処理は補修プロセスを上回るものと考えられる。改良されたTBC性能は、例えば次の部品交換までの運転時間の延長など、より効率のよいエンジン運転を実現し、全体的なメンテナンスコストを削減する可能性を持つ。
【0015】
本処理のもう一つの重要な利点は、イットリア安定化ジルコニアの全重量を基準にして約6〜8重量%のイットリア含量を有するイットリア安定化ジルコニア、特に7YSZを含有するTBC組成物に関係する。7YSZは、少なくとも部分的に高温耐久性、低い熱伝導率、堆積の容易さなどの理由で広範に用いられているTBC材料である。7YSZは、高温で長期間の間に正方晶から立方晶への相変態を生じる。立方相ははるかに軟らかい。本発明の処理方法は、機械的耐久性の高い正方相を再安定化する。
【0016】
一実施形態では、TBC、例えばタービンエンジン部品に設けられたTBCを処理する方法は、部品の使用寿命の間に少なくとも1回、TBCの所定表面上に希土類金属化合物を含有するドーパント組成物を塗工する工程を含む。TBCの所定表面は、所望に応じて、処理前に清浄化(クリーニング)することができる。以下に詳述するように、ドーパント組成物は、周囲温度で、溶液、有機溶剤への固体粒子分散液、水への固体粒子分散液、混合有機/水液体分散液、粉末、ペースト、ゲル又は半固体(ワックス)の形態とすることができる。塗工したドーパント組成物を乾燥し、所望に応じて加熱して希土類金属ドーパントのTBC中への拡散を促進する。
【0017】
部品はあらゆる金属基材とすることができ、特にタービンエンジンによく用いられる金属基材とすることができる。金属基材は、典型的には金属合金、例えばニッケル基、コバルト基及び/又は鉄基合金(例えば、耐熱性超合金)からなる。
【0018】
部品はさらに金属表面とTBC間にボンドコート層を含んでも、或いはTBCを部品の表面上に直接配置してもよい。任意のボンドコート層は、遮熱コーティングを金属基材に密着させる当業界で周知の組成物とすることができる。ボンドコート層は、典型的には、耐酸化性金属材料、具体的にはMCrAlY合金粉末(Mは、鉄、ニッケル、白金、コバルトなどの金属である)、特にニッケルアルミナイド、白金アルミナイドなどの種々の金属アルミナイドである。
【0019】
TBC及び任意のボンドコート層は1層又は2層以上から構成でき、既知の被覆方法、具体的にはプラズマ溶射、例えば大気プラズマ溶射(APS)及び真空プラズマ溶射(VPS)、又は他の溶射堆積法、例えば高速フレーム(HVOF)溶射、爆発溶射もしくはワイヤー溶射、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、例えば電子ビーム物理蒸着(EBPVD)、その他類似の方法により形成できる。
【0020】
TBC及び任意のボンドコート層はどのような厚さでもよい。通常堆積ボンドコート層は厚さが約25〜約495μm(約1〜約19.5ミル)の範囲である。特に、EBPVDなどのPVD法により堆積したボンドコート層は厚さが約25〜約76μm(約1〜約3ミル)の範囲である。APSなどのプラズマ溶射法により堆積したボンドコート層の厚さは、より典型的には約76〜約381μm(約3〜約15ミル)の範囲である。
【0021】
TBCは、遮熱コーティングとして当業界で知られた化学組成物のいずれでもよい。これらの組成物には、種々のセラミック材料、例えばジルコニア(ZrO、酸化ジルコニウム)、イットリア(Y、酸化イットリウム)、マグネシア(MgO、酸化マグネシウム)、セリア(CeO、酸化セリウム)、In(酸化インジウム、インジアともいう)、La(酸化ランタン、ランタナともいう)、Pr(酸化プラセオジム、プラセオジミアともいう)、Nd(酸化ネオジム、ネオジミアともいう)、Sm(酸化サマリウム、サマリアともいう)、Eu(酸化ユーロピウム、ユーロピアともいう)、Gd(酸化ガドリニウム、ガドリニアともいう)、Tb(酸化テルビウム、テルビアともいう)、Dy(酸化ジスプロシウム、ジスプロシアともいう)、Ho(酸化ホルミウム、ホルミアともいう)、Er(酸化エルビウム、エルビアともいう)、Tm(酸化ツリウム、ツリアともいう)、Yb(酸化イッテルビウム、イッテルビアともいう)、Lu(酸化ルテチウム、ルテチアともいう)、Sc(酸化スカンジウム、スカンジアともいう)、MgO(酸化マグネシウム、マグネシアともいう)、CaO(酸化カルシウム、カルシアともいう)、TiO(二酸化チタン、チタニアともいう)、Ta(五酸化タンタル、タンタラともいう)及びこれらのセラミック材料の少なくとも1種を含む組合せがある。
【0022】
一実施形態では、TBCは、イットリア、ジスプロシア、エルビア、ユーロピア、ガドリニア、ネオジミア、プラセオジミア、ウラニア(酸化ウラン)、ハフニア(酸化ハフニウム)及びこれらの組合せから選択される金属酸化物で安定化されたジルコニアを含む。別の実施形態では、TBCは、イットリア含量がイットリア安定化ジルコニアの全重量を基準にして6〜8重量%であるイットリア安定化ジルコニアを含む。
【0023】
TBCはさらに他の添加剤を含有してもよく、特に一般組成式Aのパイロクロアを含有してもよい[式中のAは原子価+3又は+2の金属(例えばガドリニウム、アルミニウム、セリウム、ランタン又はイットリウム)を示し、Bは原子価+4又は+5の金属(例えばハフニウム、チタン、セリウム又はジルコニウム)を示し、AとBの原子価の和は7である]。このタイプの材料の代表例には、ジルコン酸ガドリニウム(Gdジルコネート、GdZ)の外に、チタン酸ランタン、ジルコン酸ランタン、ジルコン酸イットリウム、ランタンハフネート、ジルコン酸セリウム、アルミニウムセレート、セリウムハフネート、アルミニウムハフネート及びランタンセレートがある。
【0024】
TBCの表面を、グリース、炭素系付着物、ほこり、油などの粒状物及び非粒状物を除去するのに適当な方法のいずれかで清浄化して、強化用組成物の1種以上の成分が少なくとも部分的に浸透可能な表面を得ることができる。
【0025】
TBCを処理するドーパント組成物は、希土類金属化合物、例えば、ジルコニア、イットリア、マグネシア、セリア、インジア、ランタナ、プラセオジミア、ネオジミア、サマリア、ユーロピア、ガドリニア、テルビア、ジスプロシア、ホルミア、エルビア、ツリア、イッテルビア、ルテチア、スカンジア、マグネシア、カルシア又はこれらの希土類金属化合物の1種以上を含む組合せを含有する。別の実施形態では、ドーパント組成物は、イットリア、ジスプロシア、エルビア、ユーロピア、ガドリニア、ネオジミア、プラセオジミア、ウラニア、ハフニア又はこれらの組合せで安定化されたジルコニアを含有する。さらに特定すると、ドーパント組成物は、ランタナ、チタニア、イッテルビア、ガドリニア及びこれらの金属酸化物の1種以上を含む組合せからなる群から選択される1種以上の希土類金属酸化物又はその化学的均等物を含有する。希土類金属酸化物の化学的均等物は、ドーパント組成物のTBC表面への塗工後に、空気又は水分にさらされると、反応して希土類金属酸化物を形成することができる。別の実施形態では、ドーパント組成物は、イットリア含量がイットリア安定化ジルコニアの全重量を基準にして6〜8重量%であるイットリア安定化ジルコニア、即ち7YSZを含有する。
【0026】
ドーパント組成物はさらに、上述したようにパイロクロア添加剤を含有してもよく、例えば、ジルコン酸ガドリニウム、チタン酸ランタン、ジルコン酸ランタン、ジルコン酸イットリウム、ランタンハフネート、ジルコン酸セリウム、アルミニウムセレート、セリウムハフネート、アルミニウムハフネート、ランタンセレート又はこれらの組合せを含有してもよい。
【0027】
7YSZは、高温で長期間の間に正方晶から立方晶への相変態を生じる。立方相ははるかに軟らかい。一実施形態では、ドーパント組成物は、7YSZ正方相を再安定化するチタン又はタンタル組成物を含有する。ドーパント組成物の1例は、金属酸化物の全重量を基準にして約4〜約15重量%のチタニア/タンタラ(TiO/Ta)、約7重量%のイットリア(Y)及び残部のジルコニア(ZrO)を含む金属酸化物の混合物を含有する。
【0028】
ドーパント組成物は、周囲温度で溶液、有機溶剤への固体粒子分散液、水への固体粒子分散液、混合有機/水液体分散液、粉末、ペースト、ゲル又は半固体(ワックス)の形態をとることができる。さらに特定すると、ドーパント組成物は、例えば、添加剤金属を酸、例えば硝酸に溶解して金属塩を形成することにより調製することができる。得られる粒子は寸法が数原子直径にすぎない分子である。或いはまた、ドーパント組成物は、ナノ粒子をアルコールなどの溶剤に懸濁することにより調製できる。分散形態で、ドーパント粒子は約0.5nm〜約10nmの範囲のメジアン径を有する。
【0029】
特に望ましい形態のドーパント組成物は、ブラシ、ローラ、スポンジ、布、手動スプレー、動力スプレー、エアゾールスプレーなどを含む、液体媒体用の既知のアプリケータを用いて、ペイントのように塗布できるものである。高粘稠、半固体もしくは固体形態のドーパント組成物は、手動こすり、コーキングガンによるなどの射出、こて、パテナイフ、粉末アプリケータ、布などによる塗工を含む、当業界で既知の手段により塗工することができる。
【0030】
一実施形態では、ドーパント組成物をTBCへの塗工前に加熱して、例えば、ドーパント組成物の流動性を高める。別の実施形態では、ドーパント組成物を、塗工後かつタービンエンジンの運転前に加熱して、例えば、溶剤の蒸発を促進するか、ドーパントのTBCへの浸透を増加する。或いはまた、ドーパント処理区域を周囲条件下で乾燥させることができる。硬化性成分を含有するドーパント組成物塗膜は、空気曝露による周囲硬化、加熱硬化、又はX線、マイクロ波、紫外、可視及び赤外線を含む適当な形態の輻射エネルギーをドーパント組成物塗膜に照射することによる硬化を含む、既知の方法により硬化させることができる。
【0031】
別の実施形態では、ドーパント組成物の多重層をTBCの所定区域に塗工し、この際、各層を乾燥又は硬化させてから、次の層を塗工する。別の実施形態では、多重層が異なるドーパント組成物からなる。
【0032】
ドーパント組成物はさらに、周囲温度もしくは僅かな高温で蒸発し得る溶剤を含有することができる。溶剤は、有機、水性もしくはその組合せでよく、低級鎖状、枝分かれ及び環状炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、ポリエーテル、環状エーテル、エステル、ケトン、アルコールなどがある。さらに特定すると、溶剤は、塩化メチレン、クロロホルム、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、石油エーテル、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、シクロオクタン、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル及びこれらの溶剤の1種以上を含む組合せとすることができる。
【0033】
ドーパント組成物はさらに、他の添加剤、例えば界面活性剤、酸化防止剤、オイル、浸透剤、樹脂などを含有してもよい。
【0034】
ドーパント組成物は、1以上のタービンエンジン部品上のTBCの所定表面に塗工する。部品はドーパント組成物の塗工前に、外しておいても装着したままでもよい。ドーパント組成物を部品の使用寿命の間に少なくとも1回塗工する。ドーパント組成物を部品の使用寿命の間いつでも塗工でき、特にサービス検査の際に塗工することができる。
【0035】
ドーパント組成物は、部品のTBC表面の所定部分もしくは全部に、特に、初期運転後にエロージョン、クラックその他の欠陥を示すTBC表面の区域に塗工することができる。TBCは新品の時に、意図的に多数のマイクロクラックを有する。TBCセラミックと金属基材との熱膨張の不一致のせいで、このようなマイクロクラックは加熱・冷却時のひずみ順応を可能にするために必須である。ドーパントが皮膜に浸透できるのは、この既存のマイクロクラック網を通してである。
【0036】
ドーパント組成物を塗工する温度は特に限定されない。一実施形態では、ドーパント組成物の一部を周囲温度でTBCの多孔質表面に塗工する。塗工されたドーパントは、タービンエンジンの運転中の高温で装着部品のTBC中に拡散する。拡散に必要な温度は通常約550℃超え(>1000°F)である。別の実施形態では、ドーパント組成物の塗工前にTBCの所定表面を加熱して、マイクロクラックを広げ、ドーパント組成物の初期浸透深さを増加する。
【0037】
ここで図面を参照すると、図1は、TBC内にTBCを配置した下側の基材の表面までは達していない欠陥クラックを有するTBCを処理する例を示す線図である。全体を10で示す物品は、基材12及び欠陥クラック20を有する多層TBC皮膜を含む。多層TBCは層14,16,18を含み、この場合物品10はボンドコート層をもたない。或いは層14がボンドコート層を示し、その場合TBCは層16及び18を含む。TBC中の層の数は例示にすぎず、限定的な意味はない。物品10をドーパント組成物で処理した後、欠陥クラック20はドーパントで充填された状態となる、即ち充填された欠陥クラック32となる。理論で限定されるものではないが、塗工されたドーパントは欠陥クラックを取り囲むTBCの区域に浸透し、かくしてTBCを補強すると考えられる。
【0038】
図2は、TBC内にTBCを配置した下側の基材の表面まで達する欠陥クラックを有するTBCを処理する例を示す線図である。物品40は基材42を含み、TBC内の欠陥クラック44が基材42の表面まで達している。図1の場合と同様に、TBCは層46,48,50を含み、この場合物品40はボンドコート層をもたない。或いは層46がボンドコート層を示し、その場合TBCは層48及び50を含む。物品40をドーパント組成物で処理した後、欠陥クラック44はドーパントで充填された状態となる、即ち充填された欠陥クラック52となる。
【0039】
塗工されたドーパント組成物は、TBCの遮熱特性の1以上を強化するのに有効である。遮熱特性には、熱伝導率、機械的耐久性、及びCMAS耐性(カルシウム−マグネシウム−アルミニウム−ケイ素酸化物、即ちCMASとして知られる環境汚染物質に対する耐性)がある。したがって、本発明の方法は、処理前のTBCに対して熱伝導率を下げるか、機械的耐久性を上げるか、CMAS耐性を上げるか、これらの2つ以上を合せて達成することにより、TBC性能を増強する。本方法を用いることにより、TBCに適用した希土類ドーパントが現存部品の寿命を延ばし、装置の停止時間を短くすることを確かめた。本処理により、CMAS耐性、熱伝導率及び高温耐久性を含む破壊モードの1以上が改良される。
【0040】
単数表現は、文脈上特記されない限り、複数要素を含む。同じ特性又は成分に関するすべての範囲の上下限点はそれぞれ独立に組合せ可能で、また表記した上下限点を含む。
【0041】
本明細書では、具体例を挙げて、最良の形態を含む本発明を開示するとともに、当業者が装置又はシステムの作製と使用また方法の実行を含めて本発明を実施できるようにしている。本発明の要旨は、特許請求の範囲に規定された通りで、当業者が想起できる他の例を含むことができる。このような他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有するか、特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない均等な構造要素を含むならば、特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】基材表面を露出しない欠陥クラックを有するTBCを処理する方法を示す線図である。
【図2】基材表面を露出する欠陥クラックを有するTBCを処理する方法を示す線図である。
【符号の説明】
【0043】
10,40 物品
12,42 基材
14,16,18 層
20,44 クラック
32,52 充填クラック
46,48,50 層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンエンジン部品に設けられた遮熱コーティングの所定表面上に希土類金属化合物を含有するドーパント組成物を塗工し、
前記表面を加熱して強化遮熱コーティングを形成する
工程を含む方法。
【請求項2】
前記遮熱コーティングが、ジルコニア、イットリア、マグネシア、セリア、インジア、ランタナ、プラセオジミア、ネオジミア、サマリア、ユーロピア、ガドリニア、テルビア、ジスプロシア、ホルミア、エルビア、ツリア、イッテルビア、ルテチア、スカンジア、マグネシア、カルシア及びこれらの希土類化合物の1種以上を含む組合せからなる群から選択される希土類金属化合物の1層又は2層以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遮熱コーティングが、イットリア、ジスプロシア、エルビア、ユーロピア、ガドリニア、ネオジミア、プラセオジミア、ウラニア、ハフニア及びこれらの組合せからなる群から選択される金属酸化物で安定化されたジルコニアの1層又は2層以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記遮熱コーティングが、イットリア含量がイットリア安定化ジルコニアの全重量を基準にして6〜8重量%であるイットリア安定化ジルコニアの1層又は2層以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記遮熱コーティングが、ランタナ、チタニア、イッテルビア、ガドリニア及びこれらの金属酸化物の1種以上を含む組合せからなる群から選択される希土類金属酸化物又はその化学的均等物の1層又は2層以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ドーパント組成物が溶剤を含有し、前記方法が塗工後に溶剤を蒸発させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ドーパント組成物が、ジルコニア、イットリア、マグネシア、セリア、インジア、ランタナ、プラセオジミア、ネオジミア、サマリア、ユーロピア、ガドリニア、テルビア、ジスプロシア、ホルミア、エルビア、ツリア、イッテルビア、ルテチア、スカンジア、マグネシア、カルシア及びこれらの希土類化合物の1種以上を含む組合せからなる群から選択される希土類金属化合物を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ドーパント組成物が、イットリア、ジスプロシア、エルビア、ユーロピア、ガドリニア、ネオジミア、プラセオジミア、ウラニア、ハフニア及びこれらの組合せからなる群から選択される金属酸化物で安定化されたジルコニアを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ドーパント組成物が、イットリア含量がイットリア安定化ジルコニアの全重量を基準にして6〜8重量%であるイットリア安定化ジルコニアを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ドーパント組成物が、ランタナ、チタニア、イッテルビア、ガドリニア、タンタラ及びこれらの金属酸化物の1種以上を含む組合せからなる群から選択される希土類金属酸化物又はその化学的均等物を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ドーパント組成物が、金属酸化物の全重量を基準にして約4〜約15重量%のチタニア/タンタラ、約7重量%のイットリア及び残部のジルコニアを含む金属酸化物の混合物を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ドーパント組成物を塗工後の遮熱コーティングが、処理前の遮熱コーティングと比べて低い熱伝導率、高い機械的耐久性及び高いCMAS耐性から選択される1以上の特性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
さらに、塗工前にドーパント組成物又は所定表面を加熱する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ドーパント組成物が、周囲温度で溶液、有機溶剤への固体粒子分散液、水への固体粒子分散液、混合有機/水液体分散液、粉末、ペースト、ゲル及び半固体のいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ドーパント組成物を、ブラシ、ローラ、スポンジ、布、手動スプレー、動力スプレー、エアゾールスプレー、手動こすり、射出、こて、パテナイフ、粉末アプリケータ、浸漬又はこれらの組合せによって塗工する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
塗工を複数のドーパント組成物で繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
さらに、塗工前に表面を清浄化する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記部品がブレード、ベーン、シュラウド、バケット、ノズル、燃焼ライナ、ディフレクタ又はこれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
タービンエンジンの部品に設けられた遮熱コーティングの所定表面上に希土類金属化合物を含有するドーパント組成物を塗工し、前記表面を加熱して強化遮熱コーティングを形成することにより、強化遮熱コーティングを設けた物品。
【請求項20】
ブレード、ベーン、シュラウド、バケット、ノズル、燃焼ライナ、ディフレクタ又はこれらの組合せから選択されるタービンエンジンの部品を含む、請求項19に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−108856(P2009−108856A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271463(P2008−271463)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】