説明

遮熱性布帛の製法

【課題】 カーテンやブラインドの原料シートとして用いることが可能な遮熱性布帛、好ましくは難燃性を有する遮熱性布帛を、従来方法に比べて短い工程で容易に製造することを可能にする。
【解決手段】合成繊維糸を編織して得られた布帛に精錬、漂白、染色、乾燥、熱セットを施した後、乾燥状態の布帛表面にスパッタリング、イオンプレーティングおよびイオンビーム法等の物理蒸着法によってステンレス鋼またはチタンからなる光反射性の透明な金属膜を形成すると共に、この物理蒸着工程の前または後に上記布帛の表面に艶出し加工を施して布帛表面を平滑化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーテンやブラインドの材料シートとして好適な遮熱性布帛の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遮熱性に優れた遮光用カーテンとして、2枚の布地の間に、金属薄膜が形成された合成樹脂フィルムを挟着したものが知られている(下記の特許文献1参照)。この遮光用カーテンは、金属薄膜が形成された合成樹脂フィルムによって光線および熱線を遮蔽することができ、従来の完全遮光を目的とした暗幕カーテンに比べて軽量化することができ、また色彩などのバライテイに富んだプリント生地を活用することができ、装飾性にも優れているが、表裏2枚の布地と、中間の合成樹脂フィルムとの3層構造を必要とし、さらに合成樹脂フィルムには金属薄膜を蒸着やスパッタリング等で形成し、かつ上記3枚のシートを接着する必要があり、製造工程が長くなると共に、一般家庭等で使用する通常のカーテンとしては重くなる等の問題があった。
【特許文献1】特開平9−252931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、カーテンやブラインドの原料シートとして用いることが可能な遮熱性布帛、好ましくは難燃性を有する遮熱性布帛を、従来方法に比べて短い工程で容易に製造することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明では、合成繊維糸を編織して得られた布帛に精錬、漂白、染色、乾燥、熱セットを施した後、乾燥状態の布帛表面にスパッタリング、イオンプレーティングおよびイオンビーム法等の物理蒸着法によってステンレス鋼またはチタンからなる光反射性の金属膜を形成すると共に、この物理蒸着工程の前または後に上記布帛の表面に艶出し加工を施して布帛表面を平滑化する。
【0005】
すなわち、この発明では、編織して得られた布帛に対し、常法にしたがって精錬、漂白、染色、乾燥、熱セットを施した後、布帛表面に光反射性の金属膜を形成し、かつカレンダやプレス機による艶出し加工(又は艶付け加工)で布帛表面を平滑化するか、上記の艶出し加工で布帛表面を平滑化した後に物理蒸着を行なうので、金属膜の光反射性が向上する。したがって、上記の方法で製造された布帛をカーテンやブラインドに仕立て、金属膜側を戸外に向けて用いると、太陽光に含まれる熱線の反射率が従来のカーテンや布帛製ブラインドよりも大きくなり、カーテン自体および室内の温度上昇率が低下する。
【0006】
そして、上記の金属膜が布帛の片側に形成されるので、反対側では布帛の有する色彩や模様が金属膜で隠されることはなく、布帛の色調や外観が維持され、これに光沢が付与される。また、金属膜が耐蝕性のステンレス鋼やチタンで形成されるので、アルミニウムのように使用中に酸化で変色したり、黒ずんだりすることがなく、特にチタンは金属アレルギーの心配もない。更に、上記の金属膜が物理蒸着で形成されるので、洗濯等で剥離することもなく、耐久性に優れている。また、布帛1枚を用いて物理蒸着と艶出し加工を行なうので、製造に要する工数が従来方法に比べて大幅に減少し、製品も軽量化され、通常のカーテンやブラインドと同様の使用が可能である。
【0007】
上記の布帛を構成する繊維は、合成繊維、特にポリエチレンテレフタレートからなる繊維が好ましく、この場合は物理蒸着が容易であり、かつ得られた金属膜が耐久性に優れる。そして、上記のポリエチレンテレフタレート繊維は、スパン糸またはフィラメント糸の形で用いることができ、フィラメント糸を用いたときは反射性および遮熱性を一層良好にすることができる。また、これらの糸は難燃加工を施した難燃加工糸が好ましく、上記の遮光性布帛に難燃性を付与することができる。
【0008】
上記の繊維糸からなる布帛は、織物および編物であり、編物は経編および緯編のいずれでもよく、その組織は任意であるが、目付量は60〜400g/m2が好ましく、この目付量が60g/m2未満では所望の遮熱性が得られず、反対に400g/m2を超えると、コスト、重量、品質、意匠性等で問題である。
【0009】
上記布帛の表面にスパッタリング、イオンプレーティングおよびイオンビーム法等の物理蒸着法で形成される金属膜の厚みは、10〜500nmが好ましく、この厚みが不足すると目的の遮熱性が得られず、反対に過剰になると布帛の風合いが失われ、かつ不経済である。そして、この物理蒸着と前後して行なわれる艶出し加工は、ロールカレンダ、フリクションカレンダ、シュライナカレンダ、フェルトカレンダ等を用いたカレンダ加工およびペーパープレスやロータリプレスを用いたプレス加工で行なわれる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、表面に光反射性の金属膜を備え、かつ表面の平滑化された布帛が得られる。したがって、上記の布帛をカーテンやブラインドに仕立て、金属膜側を戸外に向けて用いると、太陽光に含まれる熱線が上記のカーテンやブラインドの表面から戸外に向かって反射され、そのため上記カーテン等の表面温度および室内温度が、上記の金属膜が存在しない場合、又は存在しても艶出し加工のされない場合に比べて低下する。しかも、上記布帛の色調や外観が維持され、光沢も良好となり、かつ使用により変色したり、黒ずんだりすることがなく、耐久性にも優れ、製造に要する工数も従来方法に比べて減少し、製品も軽量化され、通常のカーテンやブラインドと同様の使用が可能である。特に請求項2に係る発明は、上記の遮熱性布帛からなるカーテンやブラインドに難燃性を付加することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施形態1
ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸または紡績糸を経糸および緯糸に用いて目付量60〜400g/m2の織物を織り、常法にしたがって精錬、染色、熱セットを施し、更に水分率0.1%以下に乾燥した後、スパッタリング装置の密閉チャンバ内にセットし、このチャンバ内をいったん真空にした後、アルゴンガスを導入して低圧アルゴンガス雰囲気とし、しかるのち上記布帛の表面にチタンまたはステンレス鋼をスパッタして厚み10〜500nmの金属膜を形成し、しかるのち上記チャンバから布帛を取出し、この布帛をカレンダに導いて艶出し加工を行ない、表面が上記のチタンまたはステンレス鋼からなる金属膜で覆われ、かつ平滑化された遮熱性布帛を得、この遮熱性布帛を用いてカーテンまたはブラインドに加工する。
【0012】
実施形態2
上記の実施形態1において、スパッタリング装置による物理蒸着加工とロールカレンダによる艶出し加工の順序を反対にする以外は、実施形態1と同様にして表面がチタンまたはステンレス鋼からなる厚み10〜500nmの金属膜で覆われ、かつ平滑化された遮熱性布帛を製造し、カーテンまたはブラインドに仕立てる。
【実施例】
【0013】
実施例1
リン系の難燃性ポリエステル繊維(東洋紡績株式会社製「ハイム」)からなる紡績糸(60番手双糸)を経糸に用い、同じくリン系の難燃性ポリエステル繊維(東洋紡績株式会社製「ハイム」)からなるマルチフィラメント糸(75デニール、35フィラメント)の2本引揃え糸を緯糸に用い、経糸密度を32本/吋、緯糸密度を17本/吋(実本数は34本/吋)に設定して平織組織のタッサーを製織し、常法にしたがって精錬、染色、熱セットを行い、次いで水分率0.1%以下に乾燥した。
【0014】
上記の乾燥布帛をロール状に巻取り、スパッタリング装置の密閉チャンバ内にセットし、このチャンバ内圧力をいったん5×10-6Torrに減圧し、次いでアルゴンガスを導入して圧力7×10-4Torrの低圧アルゴンガス雰囲気とし、上記の乾燥布帛を2m/分の速度で引出し走行させながら50KWHの電力を投入し、上記布帛の表面にチタンをスパッタして厚み40nmのチタン金属膜を形成し、しかるのち上記チャンバから布帛を取出し、この布帛をロールカレンダに導き、チルドロール温度150℃、圧力50t/1800mm、布帛走行速度15m/分で艶出し加工を行ない、実施例1の遮熱性布帛を得た。
【0015】
比較例1
上記の実施例1において、精錬、染色、熱セット後の織物タッサーをそのまま用い、実施例1のスパッタ加工および艶出し加工を省略して比較例1の遮熱性布帛を得た。
【0016】
比較例2
上記の実施例1において、精錬、染色、熱セットの後の織物タッサーにスパッタ加工のみ行ない、実施例1の艶出し加工を省略して比較例2の遮熱性布帛を得た。
【0017】
上記の実施例1、比較例1および比較例2の遮熱性布帛を30×30cmの大きさに切り取って試験片とし、この試験片を温度20℃、湿度65%の室内に吊下げ、その前方30cmの距離にランプ(500W)を設置し、上記試験片の前面(スパッタ加工面)の反射率および後方への透過率を、分光光度計(島津製作所製「UV3100」)を用いて波長別に測定した。その結果を下記の表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
上記の表1に見られるとおり、未加工の比較例1は、反射率が最大であるが、透過率も最大で、遮熱性に欠けることが推察された。これに対し、実施例1および比較例2は、反射率が上記比較例1に比べて大幅に低下するが、透過率も大幅に低下し、遮熱性を有することが推察された。特に実施例1は、反射率が比較例2よりも低く、しかも透過率は、可視光領域および赤外領域のいずれにおいても比較例2の60%程度と低く、遮熱性に優れることが明らかであった。
【0020】
上記の実施例1および比較例2の試験片を前記同様に吊下げ、その前方300mmの距離に赤外ランプ(TOSHIBA TDC屋外用 300Vランプ、500W)を設置し、上記試験片の表面温度を赤外放射温度計(KYORITSU INFRARED THERMOMETER MODEL5500)で測定し、上記試験片の後方500mmにブラックパネルを設置し、その表面温度を反射率測定器(MINOLTA分光側色計CM-2500d)で測定した。その結果を、下記の表2に示した。なお、表2において、前面温度は試験片前面の温度を意味し、後方温度は上記ブラックパネルの表面温度を意味する。
【0021】
【表2】

【0022】
上記の表2に示されるとおり、試験片前面の温度は、前記表1で反射率が大きく透過率の小さい実施例1の方が、反射率が小さく透過率の大きい比較例2よりも温度が約6〜8℃℃低くなって落ち着き、また試験片の後方温度は、試験を開始して数分後から、実施例1の方が比較例2よりも約2℃低くなり、実施例1の遮熱効果が明らかになった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維糸を編織して得られた布帛に精錬、漂白、染色、乾燥、熱セットを施した後、乾燥状態の布帛表面に物理蒸着法によってステンレス鋼またはチタンからなる光反射性の金属膜を形成すると共に、この物理蒸着工程の前または後に上記布帛の表面に艶出し加工を施して布帛表面を平滑化することを特徴とする遮熱性布帛の製法。
【請求項2】
合成繊維糸としてポリエチレンテレフタレートからなる難燃加工糸を用いる請求項1記載の遮熱性布帛の製法。



【公開番号】特開2006−174978(P2006−174978A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370307(P2004−370307)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(591158335)株式会社鈴寅 (20)
【Fターム(参考)】