説明

還流式真空槽を用いた溶鋼の脱ガス処理方法

【課題】還流真空槽を用いて溶鋼の真空脱ガス処理中を行うに当たって、真空不良やスラグの吸い込み等のトラブルを耐火物の厚み増しを伴うことなしに抑制するとともに、浸漬管の寿命をより一層延長する。
【解決手段】真空槽に設けられた浸漬管5、6を、取鍋7に収容された溶鋼中に浸漬させて、該取鍋の昇降移動により該浸漬管5、6の浸漬深さを一定保持しつつ、該真空槽及び該取鍋7の相互間にわたって該溶鋼を還流させることにより該溶鋼中のガス成分を除去するに当たり、前記溶鋼の還流中に、マイクロ波レベル計8により前記取鍋7内のスラグ面レベルを計測し、この計測結果に基づいて、該浸漬管の取り付けフランジの下端面から該取鍋内スラグのスラグ表面に至るまでの距離Lを100〜200mmの範囲に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還流式真空槽を用いた溶鋼の脱ガス処理方法に関するものであり、該真空槽に設けられた浸漬管の寿命を、操業トラブルを引き起こすことなしに延長しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の真空脱ガス処理プロセスの主な目的は、該溶鋼中のガス成分(水素、窒素等)を除去するとともに、合金鉄の添加による溶鋼成分の調整、温度の均一化を図るところにある。
【0003】
かかる真空脱ガス処理に際しては、従来、フランジを介して連結された二本の浸漬管を有する還流式の真空槽が使用されており、溶鋼を収容する取鍋内のスラグ面レベルが、該浸漬管を連結するフランジの直下で維持されるように、オペレーターが目視でもって取鍋の位置を適宜、上昇、下降させる作業を行っている。
【0004】
ところで、上記浸漬管では、フランジの溶損が激しく、浸漬管寿命及び補修の律速の一つとなっていた。
【0005】
ここに、スラグ面レベルを、前記フランジの直下に維持するのは以下の理由による。
【0006】
前記フランジは、浸漬管と真空槽との接合面が形成される部位であり、通常、その相互間には気密性を高めるシール部材としてOリングが配置されているが、この部位がスラグに浸漬してしまった場合に、Oリングが焼損してしまい高真空を維持することが困難(真空不良)になる。
【0007】
また、前記浸漬管の下端がスラグの存在領域に位置している場合、真空槽内へのスラグの吸い込みにより排気口閉塞等のトラブルを引き起し、脱ガス処理ができなくなって操業が阻害されてしまうことになる。
【0008】
上記のような不具合を解決する従来技術としては、マイクロ波レベル計によりスラグ面レベルを監視することにより真空層内における鋼浴高さを正確に把握するようにした特許文献1に開示された測定装置が知られている。
【0009】
また、これに類する先行技術として、特許文献2には、取鍋内における湯面レベルが急激に変動した場合やスラグ厚さ不均一でスラグ面レベルの変動が湯面レベルの変動に同調していない場合でも浸漬管の浸漬深さを高精度に調整するようにした方法及び装置が提案されており、さらに、特許文献3には、浸漬管の底面とスラグ面との間隙を湯面監視カメラで観測し、該浸漬管の底面とスラグ面との接触を検知し、その接触時のスラグ面レベルから予め検知しておいたスラグ厚さを差し引いた湯面レベルを、初期湯面レベルとして、浸漬管の浸漬深さを調整するようにした方法及び装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006―249502号公報
【特許文献2】特開平11―323427号公報
【特許文献3】特開2005―2391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の特許文献1〜3においては、Oリングの焼損による真空不良や排気口の閉塞等のトラブルを解消する点においてはある程度の効果が期待できるものの、浸漬管の、スラグとの接触部位における溶損を抑制して該浸漬管の寿命の延長を図ることについての十分な検討がなされているとは言えないのが現状であった。
【0012】
なお、浸漬管の寿命の延長を図るには、スラグの接触部位における耐火物(レンガ)の厚さを増すことが有効であるが、該耐火物の厚さを単に増すだけでは、耐火物のコストアップにつながる不具合がある。
【0013】
本発明は、真空脱ガス処理中の真空不良やスラグの吸い込み等のトラブルを、耐火物の厚み増しを伴うことなしに抑制しつつも、該浸漬管の寿命をより一層延長することができる還流式真空槽を用いた溶鋼の脱ガス処理方法を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、真空槽に設けられた浸漬管を、取鍋に収容された溶鋼中に浸漬させて、該取鍋の昇降移動により該浸漬管の浸漬深さを一定に保持するとともに、該真空槽及び該取鍋の相互間にて該溶鋼を還流させることによって該溶鋼中のガス成分を除去するに当たり、
前記溶鋼の還流中に、レベル計により前記取鍋内のスラグ面レベルを計測し、この計測結果に基づいて、該浸漬管の取り付けフランジの下端面から該取鍋内スラグのスラグ表面に至るまでの距離を100〜200mmの範囲に保持することを特徴とする還流式真空槽を用いた溶鋼の脱ガス処理方法である。
【0015】
本発明においては、処理チャージ毎に該距離を段階的に変更するのが望ましい。また、レベル計としては、マイクロ波レベル計を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
取鍋を昇降移動させて浸漬管の取り付けフランジの下端面から該取鍋内スラグのスラグ表面に至るまでの距離を100〜200mmの範囲内に保持することにより、該フランジの溶損が抑制されるとともに、該浸漬管の先端部での付着物(スラグを主成分とする付着物)の生成とその成長が抑制される。
【0017】
また、処理チャージ毎に、前記距離を100〜200mmの範囲内で段階的に変更することにより、浸漬管の溶損部位を適宜変えることが可能となる(溶損部位の分散化)ため、その結果として該浸漬管の寿命が延長される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従う脱ガス処理方法を実施するのに好適な還流式真空脱ガス槽を、取鍋とともに模式的に示した図である。
【図2】図1に示した還流式脱ガス槽の浸漬管を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明を実施するのに用いて好適な還流式真空槽を、取鍋とともに模式的に示した図であり、図2は、図1に示した還流式真空槽の要部を拡大して示した図である。
【0020】
図における符号1は、鋼板を外皮としてこの外皮にレンガ等の耐熱材を内張りすることによって形作られた真空槽本体である。この真空槽本体1は、筒状の胴部1aと、この胴部1aの上端に設けられ、該真空槽本体1の天井を形成する天面板1bと、該胴部1aの下端に設けられ、真空槽本体1の底壁を形成する底板1cから構成されている。この真空槽本体1の胴部1a、天面板1b及び底板1cによって取り囲まれた内側領域が溶鋼の脱ガス処理空間Mとなる。
【0021】
また、2は、真空槽本体1の胴部1aの上部に設けられ、脱ガス処理空間Mにつながる通路を有する排気ダクト、3、4は、真空槽本体1の底板1cに間隔をおいて設けられた還流管である。還流管3、4の下端には、フランジ3a、4aが形成されている。
【0022】
5は、取鍋内の溶鋼中に浸漬される浸漬管(吸引管)、6は、取鍋内の溶鋼中に浸漬される浸漬管(排出管)である。浸漬管5、6は、その上端にフランジ5a、6aが形成されている。
【0023】
上記浸漬管5、6のフランジ5a、6aと、還流管3、4のフランジ3a、4aとはそれぞれ突合せることができるようになっており、該浸漬管5、6と、該還流管3、4を突き合わせるとともに、ボルト等の締結手段によってそれらを相互に連結することによって該浸漬管5、6が、真空槽本体1の底板1cに固定保持される。
【0024】
7は脱ガス処理をすべき溶鋼を収容する取鍋である。この取鍋7は、具体的な構造については図示しないが、適宜、自動操作でもって昇降移動させることができる駆動機構を備えている。
【0025】
また、8は真空槽本体1の胴部1aの外表面に設けられ、取鍋7内のスラグ面レベルを常時、計測するためのマイクロ波レベル計である。
【0026】
マイクロ波レベル計8によって計測された結果は、随時、駆動機構を制御する制御系に伝達され、図2に示す如く、浸漬管5、6の下端面から取鍋内スラグのスラグ表面に至るまでの距離Lが100〜200mmの範囲内で一定に保持されるように取鍋7を適宜、昇降移動させる。ここに、距離Lを計測するのに本発明ではマイクロ波レベル計8を設ける場合について説明したが、その他の計測手段を用いることもできる。
【0027】
上記の構成からなる真空槽を用いて溶鋼の脱ガス処理を施すには、まず、転炉等から出鋼された溶鋼を取鍋7に収容したのち、該取鍋7を、真空槽本体1の直下まで移動させ、次いで、該取鍋7を上昇させて真空槽本体1の底板1cに固定保持した浸漬管5、6を取鍋7内の溶鋼に所定の深さでもって浸漬する。
【0028】
そして、真空槽本体1内を減圧していき浸漬管5を通して取鍋7内の溶鋼を処理空間Mに吸い上げる一方、該処理空間Mに吸い上げられた溶鋼を浸漬管6を通して取鍋7へと排出する操作を複数回にわたって繰り返す(この際、浸漬管5、6は所定の浸漬深さが保持されるよう、取鍋7は適宜、昇降させる制御が行われる)。この吸い上げ、排出により、該溶鋼は、真空槽本体1及び取鍋7の相互間で還流することとなり脱ガス処理空間Mにおいて溶鋼中のガス成分(酸素、水素等)が除去される。
【0029】
本発明においては、とくに、浸漬管の取り付けフランジの下端面から取鍋内スラグのスラグ表面に至るまでの距離Lを100〜200mmの範囲に保持することとしたが、その理由は、該距離Lが100mm未満では、フランジ3a、4a、5a、6aが取鍋内スラグに接近しすぎることにため、その部位の溶損が激しくなるからであり、一方、該距離Lが200mmを越えると、浸漬管5、6のうち、溶鋼が下がる下降管側の先端部において生成した付着物(スラグを主成分とする付着物)の成長が促進される傾向にあるからである。とくに、浸漬管5、6のうちの下降管先端部(下端部)において付着物の成長が促進されると、溶鋼の脱ガス時の還流過程及び取鍋7の昇降移動に伴って該付着物が浸漬管から離脱して鋼中に分散し、該溶鋼の清浄度が低下することが懸念されるからである。
【0030】
このため、本発明においては、取鍋内スラグのスラグ表面に至るまでの距離Lを100〜200mmの範囲に保持することとした。
【0031】
上記の距離Lは、100〜200mmの範囲内で一定に保持することが基本になるが、処理チャージ毎に該距離をその範囲内で段階的に変更することが好ましく、これにより、浸漬管5、6もの溶損範囲が分散化され、浸漬管5、6の寿命が延長されることになる。距離Lの変更は、取鍋7をレベルダウンさせてもよいし、その間にレベルアップする段階を入れてもよく、この点についてはとくに限定されない。なお、浸漬管は、内径400〜750mm、外径1000〜1300mm、フランジ下長さ570〜700mmが代表的寸法であるが、何れの浸漬管においても適用可能である。
【実施例】
【0032】
内径500mm、外径1100mm、長さ(取り付けフランジから先端部に至るまでの長さ)620mmの浸漬管5、6を備えた還流式真空脱ガス槽(RH脱ガス槽)を用いて、下記の条件のもとで取鍋内に収容した溶鋼(鋼種:低炭素鋼(炭素量0.2質量%以下)の脱ガス処理を行い、浸漬管の寿命(浸漬管の補修頻度指数)についての調査を行った。なお、脱ガス処理は、マイクロ波レベル計により取鍋内スラグのレベルを常時監視し、距離Lが一定に保持されるよう自動操作により取鍋の位置調整(上昇、下降)を行った。
【0033】
比較例の操業条件
浸漬管の取り付けフランジの下端から150mm一定とし、300チャージにて補修
発明例の操業条件
300t取鍋を使用、チャージ回数:600回
距離L:1〜100チャージ 200mm、101〜200チャージ 150mm、
201〜300チャージ 100mm、301〜400チャージ 200mm、
401〜500チャージ 150mm、501〜600チャージ 100mm、
【0034】
その結果、従来法(比較例)に従う脱ガス処理操業(浸漬管の浸漬深さ150mm一定)における補修頻度を1.0とした場合、本発明に従う操業では、補修頻度を0.5とすることが可能となり、浸漬管の寿命を従来に比較してほぼ二倍程度に延長できることが確認された。
【0035】
また、距離Lを50mm、250mm、300mmに変更して脱ガス処理を行った場合の浸漬管の寿命について調査したところ、距離Lを50mmとした場合には、フランジの溶損が激しくシール部が溶損し、浸漬管の補修頻度は、3倍であった。距離Lを250mm、300mmとした場合には、フランジの溶損についてはとくに問題はないものの、浸漬管の先端部において生成された付着物の成長の促進により、該付着物の鋼中への分散が活発化し、鋼中粗大介在物の残留が発生することがあり、距離Lが長くなるほど溶鋼が汚染される割合が高くなることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、真空脱ガス処理中の真空不良やスラグの吸い込み等のトラブルを、耐火物の厚み増しを伴うことなしに抑制するとともに、浸漬管の寿命をより一層延長することが可能となった。
【符号の説明】
【0037】
1 真空槽本体
1a 胴部
1b 天面板
1c 底板
2 排気ダクト
3 還流管
3a フランジ
4 還流管
4a フランジ
5 浸漬管
5a フランジ
6 浸漬管
6a フランジ
7 取鍋
8 マイクロ波レベル計
M 脱ガス処理空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽に設けられた浸漬管を、取鍋に収容された溶鋼中に浸漬させて、該取鍋の昇降移動により該浸漬管の浸漬深さを一定に保持しつつ、該真空槽及び該取鍋の相互間にわたって該溶鋼を還流させることにより該溶鋼中のガス成分を除去するに当たり、
前記溶鋼の還流中に、レベル計により前記取鍋内のスラグ面レベルを計測し、この計測結果に基づいて、該浸漬管の取り付けフランジの下端面から該取鍋内スラグのスラグ表面に至るまでの距離を100〜200mmの範囲に保持することを特徴とする還流式真空槽を用いた溶鋼の脱ガス処理方法。
【請求項2】
前記距離を、処理チャージ毎に変更する請求項1に記載の還流式真空槽を用いた溶鋼の脱ガス処理方法。
【請求項3】
前記レベル計として、マイクロ波レベル計を用いる請求項1または2に記載の還流式真空槽を用いた溶鋼の脱ガス処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−180559(P2012−180559A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44196(P2011−44196)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】