説明

部分結晶性フッ素樹脂及び積層体

【課題】他の材料との接着性に優れ、燃料透過速度が小さい部分結晶性フッ素樹脂を提供する。
【解決手段】本発明は、テトラフルオロエチレン単位と、下記一般式(1)
CX=CXCF (1)
(式中、X、X及びXは同一又は異なってH、F又はClを表し、XはF又はClを表す。但し、X、X及びXのうち少なくとも1つはHである。)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位と、上記テトラフルオロエチレン単位及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位以外の任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位と、を含み、上記テトラフルオロエチレン単位及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体単位が全単量体単位に対して合計で80〜100モル%であり、上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位が20〜0モル%であることを特徴とする部分結晶性フッ素樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分結晶性フッ素樹脂及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含フッ素ポリマーは、耐熱性、耐薬品性、耐侯性、表面特性(低摩擦性等)、電気絶縁性に優れているため種々の用途に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非晶質テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(TFE−HFP)ジポリマー類、及び、TFEとHFPと3番目のモノマーを含むコポリマー類が記載されている。これらのコポリマー類は架橋エラストマー類であることが記載されている。
【0004】
一方、含フッ素ポリマーは、一般的に機械的強度や寸法安定性が不十分であったり、価格的に高価であったりする。
【0005】
そこで含フッ素ポリマーの長所を最大限に活かし、欠点を最小とするため、含フッ素ポリマーと他の有機材料との接着、積層化、無機材料との接着、積層化等の検討が種々行われている。
【0006】
含フッ素ポリマーの積層体について、官能基を含有させた含フッ素ポリマーと、非フッ素系の熱可塑性樹脂、例えばポリアミド樹脂や変性ポリオレフィン樹脂との積層構造が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
しかしながら、ポリアミド樹脂や変性ポリオレフィン樹脂は高価であるため、積層構造中の主たる部分を構成した場合、積層成形体全体の価格が上がってしまったり、また、変性ポリオレフィン樹脂は一般的に反応性を有する官能基を含有しているため、変性ポリオレフィン樹脂が最外層をなした場合、積層成形体の耐環境特性が低下する等の問題点がある。
【0008】
【特許文献1】特表平11−501685号公報
【特許文献2】国際公開第98/55557号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、他の材料との接着性に優れ、燃料透過速度が小さい部分結晶性フッ素樹脂を提供する。本発明は、また、上記部分結晶性フッ素樹脂からなる層を含む積層体であって、耐薬品性、耐燃料性、耐候性、燃料低透過性に優れ、低コストの積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、テトラフルオロエチレン単位と、下記一般式(1)
CX=CXCF (1)
(式中、X、X及びXは同一又は異なってH、F又はClを表し、XはF又はClを表す。但し、X、X及びXのうち少なくとも1つはHである。)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位と、上記テトラフルオロエチレン単位及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位以外の任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位と、を含み、上記テトラフルオロエチレン単位及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体単位が全単量体単位に対して合計で80〜100モル%であり、上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位が20〜0モル%であることを特徴とする部分結晶性フッ素樹脂である。
【0011】
本発明は、ポリオレフィン樹脂からなる層(A)、変性ポリオレフィン樹脂からなる層(B)、及び、上記部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)を有することを特徴とする積層体である。
【0012】
本発明は、部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)、及び、分子中に上記部分結晶性フッ素樹脂が有する官能基と反応性又は親和性を有する官能基を有し、かつ、フッ素原子を持たない有機材料からなる層(E)を有することを特徴とする積層体である。
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、テトラフルオロエチレン単位と、下記一般式(1)
CX=CXCF (1)
(式中、X、X及びXは同一又は異なってH、F又はClを表し、XはF又はClを表す。但し、X、X及びXのうち少なくとも1つはHである。)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位と、上記テトラフルオロエチレン単位及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位以外の任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位と、を含む部分結晶性フッ素樹脂である。
【0015】
部分結晶性フッ素樹脂とは、エラストマー性を持たず樹脂を構成し、部分的に結晶化した含フッ素共重合体をいう。
【0016】
部分的に結晶化した含フッ素共重合体とは、DSC分析において、第2加熱で昇温速度10℃/分の条件で測定した際に実質的に融解に基づく吸熱ピークの融解熱量が1J/g以上である共重合体である。本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、融解熱量を5J/g以上とすることもできる。上記第2加熱とは、フッ素樹脂の融点+50℃まで10℃/分で昇温し、引き続き10℃/分で50℃まで冷却した後の加熱をいう。
【0017】
上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、CH=CFCF〔2,3,3,3−テトラフルオロプロペン〕、CH=CHCF、CHF=CHCF、CH=CClCF、CH=CFCFCl、CHF=CFCF、CHCl=CHCF、CHCl=CClCFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、テトラフルオロエチレンと共重合が容易であることから、CH=CFCF及びCH=CHCFのいずれか一方又は両方であることがより好ましい。
【0018】
上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体は、テトラフルオロエチレン及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体とは異なるものであり、フッ素原子を有していても、有していなくてもよい。また、1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体としては、特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、へキサフルオロイソブテン、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは同一又は異なってH又はFを表し、XはH、F又はClを表し、nは2〜10の整数を表す。)で表される単量体、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルフルオロビニルエーテル誘導体、一般式(2)
CF=CF−Rf (2)
(式中、Rfは−CF又は−ORfを表し、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるエチレン性不飽和単量体、接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
【0020】
上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体としては、一般式(2)
CF=CF−Rf (2)
(式中、Rfは−CF又は−ORfを表し、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるエチレン性不飽和単量体、及び、接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
一般式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、耐燃料性及び燃料低透過性に優れることから、ヘキサフルオロプロピレン、及び、一般式(3)
CF=CF−ORf (3)
(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕からなる群より選択される少なくとも一種のパーフルオロモノマーが好ましい。
【0022】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)等が挙げられ、なかでも、PMVE、PEVE又はPPVEがより好ましく、PPVEが更に好ましい。
【0023】
上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体としては、接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体であってもよい。
【0024】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合することにより当該不飽和単量体に由来する繰り返し単位を主鎖に有するものでもよいが、テトラフルオロエチレン単位と一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位と、所望により一般式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位とを含む共重合体及び接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体をグラフト重合することにより得られるものであってもよい。
【0025】
上記グラフト重合は、テトラフルオロエチレン単位と一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位と、所望により一般式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位とを含む共重合体及び接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を、ラジカル発生剤の存在下で溶融混合することにより行うことができる。
【0026】
上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位を含む共重合体において、主鎖に結合した水素原子はフッ素原子と比較して比較的不安定であり、ラジカル等の作用により炭素原子から引き抜かれやすいという特性を有する。この共重合体と接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体とをラジカル発生剤の存在下で溶融混合すると、水素原子が引き抜かれた炭素原子のラジカルにはグラフト性化合物の結合基が結合しグラフト化する。
【0027】
すなわち、本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位と接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体とを含むものである場合、円滑に進行するグラフト重合を利用して容易に製造できるという特徴がある。また、グラフト重合は接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を主鎖構造に取り込んで共重合体の主鎖構造を変えることがないので、グラフト化前の共重合体の物性が大きく変わることがなく、結晶状態への影響も小さいという利点もある。
【0028】
接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体としては、共重合を可能にする炭素−炭素不飽和結合(以下、「共重合性炭素−炭素不飽和結合」ともいう。)を1分子中に少なくとも1個有し、且つ、カルボニルオキシ基〔−C(=O)−O−〕を1分子中に少なくとも1個有する不飽和カルボン酸類が挙げられる。
【0029】
上記脂肪族不飽和カルボン酸としては、脂肪族不飽和モノカルボン酸であってもよいし、カルボキシル基を2個以上有する脂肪族不飽和ポリカルボン酸であってもよい。
【0030】
上記接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体としては、また、一般式(4)
CF=CF−Rf−Z (4)
(式中、Rfは炭素数1〜40の2価の含フッ素アルキレン基または−ORf(Rfは炭素数1〜40の2価の含フッ素アルキレン基または炭素数2〜40のエーテル結合を含む2価の含フッ素アルキレン基)を表し、ZはCHOHまたはCOOHを表す。)、
一般式(5)
CF=CFCF−ORf−Z (5)
(式中、−Rfは炭素数1〜39の2価の含フッ素アルキレン基または炭素数1〜39のエーテル結合を含む2価の含フッ素アルキレン基を表し、ZはCHOHまたはCOOHを表す。)、及び、
一般式(6)
CH=CFCF−Rf−Z (6)
(式中、−Rfは炭素数1〜39の2価の含フッ素アルキレン基、または−ORf(Rfは炭素数1〜39の2価の含フッ素アルキレン基または炭素数2〜39のエーテル結合を含む2価の含フッ素アルキレン基)を表し、ZはCHOHまたはCOOHを表す。)
の各一般式で表されるエチレン性不飽和単量体の1種又は2種以上であってもよい。
【0031】
上記一般式(4)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、
CF=CFOCFCFCHOH、CF=CFO(CFCHOH、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCHOH、CF=CFCFCHOH、CF=CFCFCFCHOH、
CF=CFOCFCFCOOH、CF=CFO(CFCOOH、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCOOH、CF=CFCFCOOH、CF=CFCFCFCOOH
等が挙げられる。
【0032】
上記一般式(5)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、
CF=CFCFOCFCFCFCHOH、CF=CFCFOCFCF(CF)CHOH、
CF=CFCFOCFCFCFCOOH、CF=CFCFOCFCF(CF)COOH
等が挙げられる。
【0033】
上記一般式(6)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、
CH=CFCFCFCHCHOH、CH=CFCFCFCHOH、CH=CF−(CFCF−CHCHOH、CH=CFCFOCF(CF)CHOH、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)CHOH、
CH=CFCFCFCHCOOH、CH=CFCFCFCOOH、CH=CF−(CFCF−CHCOOH、CH=CFCFOCF(CF)COOH、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COOH
等が挙げられる。
【0034】
上記接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体としては、また、ヒドロキシルブチルビニルエーテル、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、及び、メタクリル酸等が挙げられ、なかでも優れた接着力が得られることから、ヒドロキシルブチルビニルエーテル、グリシジルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、及び、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0035】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、カルボニル基、アミノ基、オキサゾリル基、グリシジル基、エポキシ基及びヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の接着性機能官能基を有することが好ましい。
【0036】
本明細書において、上記「カルボニル基」は、炭素−酸素二重結合から構成される炭素2価の基であり、−C(=O)−で表されるものに代表される。上記カルボニル基としては特に限定されず、例えば、カーボネート基、ハロゲノホルミル基、ホルミル基、カルボキシル基、エステル結合[−C(=O)O−]、酸無水物結合[−C(=O)O−C(=O)−]、イソシアネート基、アミド基、イミド基[−C(=O)−NH−C(=O)−]、ウレタン結合[−NH−C(=O)O−]、カルバモイル基[NH−C(=O)−]、カルバモイルオキシ基[NH−C(=O)O−]、ウレイド基[NH−C(=O)−NH−]、オキサモイル基[NH−C(=O)−C(=O)−]等の化学構造上の一部分であるもの等が挙げられる。
【0037】
上記アミド基は、下記一般式
【0038】
【化1】

【0039】
(式中、Rは、水素原子又は有機基を表し、Rは、有機基を表す。)で表される基である。
【0040】
上記アミド基、イミド基、ウレタン結合、カルバモイル基、カルバモイルオキシ基、ウレイド基、オキサモイル基等の窒素原子に結合する水素原子は、例えばアルキル基等の炭化水素基により置換されていてもよい。
【0041】
上記接着機能性官能基は、導入が容易である点、及び、得られる塗膜が適度な耐熱性と比較的低温での良好な接着性とを有する点で、アミド基、カルバモイル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及び、カーボネート基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0042】
上記カーボネート基は、一般に[−OC(=O)O−]で表される結合を有する基であり、−OC(=O)O−R基(式中、Rは、有機基を表す。)で表されるものである。上記式中のRである有機基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、エーテル結合を有する炭素数2〜20のアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、エーテル結合を有する炭素数2〜4のアルキル基である。上記カーボネート基としては、例えば、−OC(=O)O−CH、−OC(=O)O−C、−OC(=O)O−C17、−OC(=O)O−CHCHCHOCHCH等が挙げられる。
【0043】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、接着機能性官能基を有するものである場合、接着機能性官能基を主鎖末端又は側鎖の何れかに有する重合体からなるものであってもよいし、主鎖末端及び側鎖の両方に有する重合体からなるものであってもよい。主鎖末端に接着機能性官能基を有する場合は、主鎖の両方の末端に有していてもよいし、いずれか一方の末端にのみ有していてもよい。本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、主鎖末端に接着機能性官能基を有する重合体からなるものが、機械特性、耐薬品性を著しく低下させない理由で、又は、生産性、コスト面で有利である理由で好ましい。
【0044】
上記接着機能性官能基は、上述したエチレン性不飽和単量体のうち、接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合して導入してもよいし、連鎖移動剤又は重合開始剤として導入してもよい。また、ラジカル発生剤の存在下に接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体とフッ素樹脂とを溶融混合して接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体をグラフト重合させてもよい。
【0045】
接着機能性官能基のうち主鎖末端にあるもの(以下、「不安定末端基」ということがある)としては、カーボネート基、−COF、−COOH、−COOCH、−CONH、又は、−CHOH等が挙げられる。上記不安定末端基は、通常、連鎖移動剤又は重合時に用いた重合開始剤が付加したことにより主鎖末端に形成されるものであり、連鎖移動剤又は重合開始剤の構造に由来するものである。
【0046】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、主鎖末端に接着機能性官能基を有する重合体であって、上記接着機能性官能基がカーボネート基である重合体からなるものである場合、パーオキシカーボネートを重合開始剤として用いて重合する方法により得ることができる。上記方法を用いると、カーボネート基の導入及び導入の制御が非常に容易であることや、経済性の面、耐熱性、耐薬品性等の品質面等から好ましい。
【0047】
上記パーオキシカーボネートとしては、下記式
【0048】
【化2】

【0049】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の一価飽和炭化水素基、又は、末端にアルコキシル基を有する炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の一価飽和炭化水素基を表し、Rは、炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の二価飽和炭化水素基、又は、末端にアルコキシル基を有する炭素数1〜15の直鎖状若しくは分岐状の二価飽和炭化水素基を表す。)で表される化合物が好ましい。
【0050】
なかでも、上記パーオキシカーボネートとしては、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が好ましい。
【0051】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、主鎖末端に接着機能性官能基を有する重合体であって、上記接着機能性官能基がカーボネート基以外である重合体からなるものである場合、上述のカーボネート基を導入する場合と同様に、パーオキシカーボネート、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシアルコール等のパーオキサイドを重合開始剤として用いて重合することにより、パーオキサイドに由来する接着機能性官能基を導入することができる。なお、「パーオキサイドに由来する」とは、パーオキサイドに含まれる官能基から直接導入されるか、又は、パーオキサイドに含まれる官能基から直接導入された官能基を変換することにより間接的に導入されることを意味する。
【0052】
パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等の上記重合開始剤の使用量は、目的とする部分結晶性フッ素樹脂の種類や組成、分子量、重合条件、使用する開始剤の種類等によって異なるが、得られる重合体100質量部に対して0.05〜5質量部であることが好ましく、特に好ましい下限は0.1質量部であり、特に好ましい上限は1質量部である。
【0053】
上記接着機能性官能基の数は、積層する相手材の種類、形状、接着の目的、用途、必要とされる接着力、部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)と隣接する層との接着方法等の違いにより適宜選択されうる。
【0054】
接着機能性官能基数(不安定末端基数)としては、320℃未満の成形温度にて溶融成形する場合、主鎖炭素数1×10個あたり3〜800個であることが好ましい。主鎖炭素数1×10個あたり3個未満であると、接着性が低下することがある。より好ましい下限は50個、更に好ましい下限は80個、特に好ましい下限は120個である。320℃未満の成形温度にて溶融成形する場合、上記不安定末端基数は、上記範囲内であれば、生産性の観点で、上限を、例えば、500個とすることができる。
【0055】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、上記テトラフルオロエチレン単位及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体単位が全単量体単位に対して合計で80〜100モル%であり、上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位が20〜0モル%である。好ましくは、上記テトラフルオロエチレン単位及び上記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体単位が合計で80〜99.9モル%であり、上記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位が20〜0.1モル%である。
【0056】
本明細書において、例えば、「TFE単位」とは、TFEに由来する部分〔−CF−CF−〕である。本明細書において、各単量体単位は、19F−NMR分析を行うことにより得られる値である。
【0057】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、
70〜90モル%のテトラフルオロエチレン単位と、
1〜30モル%の一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体単位と、
0〜15モル%の一般式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体単位と、
0〜5モル%の接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体単位と、
を含むものであることがより好ましい。
【0058】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、
80〜90モル%のテトラフルオロエチレン単位と、
1〜15モル%の一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体単位と、
0〜15モル%の一般式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体単位と、
0〜5モル%の接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体単位単位と、
を含むものであることが更に好ましい。
【0059】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、
80〜90モル%のテトラフルオロエチレン単位と、
1〜15モル%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位と、
1〜15モル%のヘキサフルオロプロピレン単位と、
を含むものであることが、特に好ましい。
【0060】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、
80〜90モル%のテトラフルオロエチレン単位と、
1〜15モル%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン単位と、
1〜15モル%のヘキサフルオロプロピレン単位と、
0.1〜5モル%の接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体単位単位と、
を含むものであることが、特に好ましい。
【0061】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、ポリオレフィン等の比較的融点が低い熱可塑性樹脂との共押出を可能にするため、融点が120〜250℃であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、230℃以下であることがより好ましい。特に融点が上記範囲にあると、耐薬品性、耐燃料性、耐候性、燃料低透過性等と成形性とを両立しやすい。融点が250℃を超えると共押出成形におけるダイ部の温度設定が少なくとも280℃を超える設定となるため、同時に押し出すポリオレフィンや変性オレフィン樹脂、有機材料が劣化するおそれがある。融点が低すぎると、燃料低透過性及び機械的強度が劣る傾向がある。
【0062】
上記部分結晶性フッ素樹脂は、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合等、従来公知の重合方法により得ることができる。上記重合において、温度、圧力等の各条件、重合開始剤やその他の添加剤は、所望の部分結晶性フッ素樹脂の組成や量に応じて適宜設定することができる。
【0063】
本発明は、ポリオレフィン樹脂からなる層(A)、変性ポリオレフィン樹脂からなる層(B)、及び、本発明の部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)を有することを特徴とする積層体でもある。
【0064】
本発明の積層体は、ポリオレフィンからなる層(A)と部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)とを有するものであるのでので、従来の汎用プラスチックやエラストマーにより形成されたものと比較して、耐薬品性、耐燃料性、燃料低透過性に優れるものであり、例えば、エタノール等のアルコールやバイオ燃料、尿素水に対しても充分な耐薬品性、耐燃料性、燃料低透過性を発揮し得るものである。更に、変性ポリオレフィンからなる層(B)を有するものであるので、ポリオレフィンからなる層(A)と部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)との接着性を向上することができ、耐衝撃性、機械的強度に優れた積層体を得ることができる。
【0065】
なお、本発明の積層体は、中空成形体であってもよい。中空成形体とは、内部に空間を有する成形体であって、タンクやボトル、袋等のように一端が閉じられ、開口部が1箇所に限定されたもののみならず、チューブ、ホース、パイプ等のように両端が開口したものも含める。
【0066】
上記部分結晶性フッ素樹脂の分子量は、得られる積層体の機械特性、薬液バリア性等を発現できるような範囲であることが好ましい。例えば、メルトフローレート〔MFR〕を分子量の指標として、部分結晶性フッ素樹脂一般の成形温度範囲である230〜350℃の範囲の任意の温度におけるMFRが0.5〜100g/10分であることが好ましい。
【0067】
本明細書において、各樹脂の融点は、DSC装置(セイコー社製)を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めるものであり、MFRは、メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、各温度、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)に流出するポリマーの重量(g)を測定するものである。
【0068】
上記部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)は、層間接着性を向上させ、得られる積層体の耐衝撃性や強度を向上させる点で、その表面が接着性表面処理されたものであってもよい。
【0069】
本発明における接着性表面処理としては特に限定されず、例えば、エッチング処理、プラズマ処理、コロナ処理、光化学的処理等の公知の技術が挙げられる。
【0070】
上記接着性表面処理は、使用する部分結晶性フッ素樹脂の組成等に応じて適宜条件を設定して行うことができる。
【0071】
上記層(A)を構成するポリオレフィン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン等が挙げられ、なかでも高密度ポリエチレンがより好ましい。
【0072】
上記層(B)を構成する変性ポリオレフィン樹脂は、積層する相手材との接着性が向上する点で、カルボニル基、アミノ基、オキサゾリル基、グリシジル基、エポキシ基、ヒドロキシル基及びシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。これらの官能基は、主鎖末端又は側鎖の何れか一方に位置してもよいし、主鎖末端及び側鎖の両方に位置してもよいし、いずれか一方の末端にのみ位置してもよい。
【0073】
カルボニル基、アミノ基等の窒素原子に結合する水素原子は、例えばアルキル基等の炭化水素基により置換されていてもよい。
【0074】
上記官能基は、上記官能基を有する不飽和単量体を共重合して導入してもよいし、連鎖移動剤又は重合開始剤として導入してもよい。また、ラジカル発生剤の存在下に官能基を有する不飽和単量体とポリオレフィン樹脂とを溶融混合して官能基を有する不飽和単量体をグラフト重合させてもよい。
【0075】
上記変性ポリオレフィン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン等をマレイン酸変性、エポキシ変性、グリシジル変性、アミン(NH)変性等したものが挙げられる。
【0076】
本発明の積層体は、更にポリアミド系樹脂からなる層(D)を層(B)と層(C)との間に有してもよい。上記層(D)を構成するポリアミド系樹脂は、分子内に繰り返し単位としてアミド結合〔−NH−C(=O)−〕を有するポリマーからなるものである。
【0077】
上記ポリアミド系樹脂としては、分子内のアミド結合が脂肪族構造又は脂環族構造と結合しているポリマーからなるいわゆるナイロン樹脂、又は、分子内のアミド結合が芳香族構造と結合しているポリマーからなる、いわゆるアラミド樹脂の何れであってもよい。
【0078】
上記ナイロン樹脂としては特に限定されず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン66/12、ナイロン46、メタキシリレンジアミン/アジピン酸共重合体等のポリマーからなるものが挙げられ、これらのなかから2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
上記ポリアミド系樹脂は、また、繰り返し単位としてアミド結合を有しない構造が分子の一部にブロック共重合又はグラフト共重合されている高分子からなるものであってもよい。
このようなポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6/ポリエステル共重合体、ナイロン6/ポリエーテル共重合体、ナイロン12/ポリエステル共重合体、ナイロン12/ポリエーテル共重合体等のポリアミド系エラストマーからなるもの等が挙げられる。
【0080】
これらのポリアミド系エラストマーは、ナイロンオリゴマーとポリエステルオリゴマーがエステル結合を介してブロック共重合することにより得られたもの、又は、ナイロンオリゴマーとポリエーテルオリゴマーとがエーテル結合を介してブロック共重合することにより得られたものである。上記ポリエステルオリゴマーとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート等が挙げられ、上記ポリエーテルオリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。上記ポリアミド系エラストマーとしては、ナイロン6/ポリテトラメチレングリコール共重合体、ナイロン12/ポリテトラメチレングリコール共重合体が好ましい。
【0081】
上記ポリアミド系樹脂のアミン価は10〜60(当量/10g)であってよい。また、好ましい下限は15(当量/10g)であってよく、好ましい上限は50(当量/10g)、より好ましい上限は35(当量/10g)であってよい。
【0082】
本明細書において、上記アミン価はポリアミド系樹脂1gをm−クレゾール50mlに加熱溶解し、これを1/10規定p−トルエンスルホン酸水溶液を用いて、チモールブルーを指示薬として滴定して求められる値であり、特に別の記載をしない限り、積層する前のポリアミド系樹脂のアミン価を意味する。
【0083】
上述した各層を構成する樹脂は、各樹脂を1種のみ含有するものであってもよいし、2種以上含有するものであってもよい。
【0084】
上記各層は、更に、目的や用途に応じてその性能を損なわない範囲で、無機質粉末、ガラス繊維、金属酸化物等の種々の充填剤を配合したものであってもよく、また、充填剤以外に、熱安定化剤、補強剤、紫外線吸収剤、顔料等、その他任意の添加剤を配合したものであってもよい。
【0085】
上記添加剤として、例えば、薬液透過低減の点で、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ノントロナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等のスメクタイト系の層状粘度鉱物や、雲母等の高アスペクト比を有する微小層状鉱物を添加してもよい。
【0086】
上記添加剤として、例えば、導電性を付与するために、導電性フィラーを添加してもよい。導電性フィラーとしては特に限定されず、例えば、金属、炭素等の導電性単体粉末又は導電性単体繊維;酸化亜鉛等の導電性化合物の粉末;表面導電化処理粉末等が挙げられる。
【0087】
上記導電性単体粉末又は導電性単体繊維としては特に限定されず、例えば、銅、ニッケル等の金属粉末;鉄、ステンレス等の金属繊維;カーボンブラック、炭素繊維、特開平3−174018号公報に記載の炭素フィブリル等が挙げられる。
【0088】
上記表面導電化処理粉末は、ガラスビーズ、酸化チタン等の非導電性粉末の表面に導電化処理を施して得られる粉末である。
【0089】
上記導電化処理の方法としては特に限定されず、例えば、金属スパッタリング、無電解メッキ等が挙げられる。上述した導電性フィラーのなかでもカーボンブラックは、経済性や静電荷蓄積防止の観点で有利であるので好適に用いられる。上記導電性フィラーを配合する場合、溶融混練して予めペレットを作製することが好ましい。
【0090】
導電性フィラーを配合してなる樹脂導電性組成物の体積抵抗率は、1×10〜1×10Ω・cmであることが好ましい。より好ましい下限は、1×10Ω・cmであり、より好ましい上限は、1×10Ω・cmである。
【0091】
導電性を付与する場合は、最内層の薬液に接する部分結晶性フッ素樹脂にのみ導電性を付与してもよい。この場合、部分結晶性フッ素樹脂層の更に内層として導電性のフッ素樹脂層を設けてもよい。
【0092】
本発明の積層体は、ポリオレフィンからなる層(A)、変性ポリオレフィンからなる層(B)、部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)を有する。本発明の好ましい態様の1つは、層(B)の片面に層(A)が位置し、もう一方の片面に層(C)が位置する積層体である。この積層体は、層(B)を層(A)と層(C)との間に有するものであるので、層(A)と層(C)との接着性を向上することができる。
【0093】
本発明の積層体は、層(B)と層(C)との間にポリアミド系樹脂からなる層(D)を有していてもよく、接着強度をより優れたものとすることができるが、層構成が複雑になりコストも高くなる点で、層(D)を含まないものであってもよい。
【0094】
上記積層体の積層構造は、ポリオレフィン樹脂〔層(A)〕/変性ポリオレフィン樹脂〔層(B)〕/部分結晶性フッ素樹脂〔層(C)〕(外面層/中間層/内面層)、ポリオレフィン樹脂〔層(A)〕/変性ポリオレフィン樹脂〔層(B)〕/ポリアミド樹脂〔層(D)〕/部分結晶性フッ素樹脂〔層(C)〕(最外面層/外面層/内面層/最内面層)であることが好ましい。中間層として変性ポリオレフィン樹脂〔層(B)〕を設けることにより、部分結晶性フッ素樹脂〔層(C)〕とポリオレフィン樹脂〔層(A)〕との接着性を向上することができるため好ましい。
【0095】
上記積層体の積層構造の好ましい層構成としては特に限定されず、例えば、ポリエチレン樹脂/変性ポリエチレン樹脂/部分結晶性フッ素樹脂、部分結晶性フッ素樹脂/変性ポリエチレン/ポリエチレン樹脂/変性ポリエチレン樹脂/部分結晶性フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂/変性ポリエチレン樹脂/ポリアミド樹脂/部分結晶性フッ素樹脂、等が挙げられる。
【0096】
また、上記の層以外に多層フィルムを製造する際や袋状に加工する際に発生した樹脂の廃材や上記積層体がリサイクルされて分別された樹脂を二軸押出機や短軸押出機で溶融混練して得られたペレットをリサイクル層として入れることも可能である。
【0097】
本発明は、部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)、及び、分子中に上記部分結晶性フッ素樹脂が有する官能基と反応性又は親和性を有する官能基を有し、かつ、フッ素原子を持たない有機材料からなる層(E)を有することを特徴とする積層体でもある。
【0098】
フッ素原子を持たない有機材料は、分子中に上記部分結晶性フッ素樹脂が有する官能基と反応性又は親和性を有する官能基を有するものであれば特に限定されないが、合成樹脂、合成ゴム、合成繊維、合成皮革などの合成高分子材料、天然ゴム、天然繊維、木材、紙類、皮革類などの天然の有機物、または、それらの複合物であってよい。
【0099】
そのなかでも、非フッ素系ポリマー材料が部分結晶性フッ素樹脂と積層することにより、互いの欠点となる性能を補い合い、種々の用途に用いられる点で好ましい。
【0100】
非フッ素系ポリマー材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、アクリル系、酢酸ビニル系、ポリオレフィン、塩化ビニル系、ポリカーボネート、スチレン系、ポリウレタン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリアラミド、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル、セルロース誘導体などがあげられる。
【0101】
それらのなかでも(1)分子中に上記部分結晶性フッ素樹脂が有する官能基と反応性又は親和性を有する官能基を有するポリマー材料が上記部分結晶性フッ素樹脂との接着性において好ましい。上記反応性を有する官能基とは、部分結晶性フッ素樹脂が有する官能基と成形時に反応し、化学結合を形成し得る官能基をいう。また、親和性を有する官能基とは、上記部分結晶性フッ素樹脂が有しうる極性基とある程度の分子間力を発現し得る官能基であって、炭素原子および水素原子以外の原子を少なくとも1つ有する官能基である。具体的にはヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボン酸塩類、エステル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、イミド基、メルカプト基、チオレート基、スルホン酸基、スルホン酸塩類、エポキシ基などの官能基を有するものが好ましい。(2)熱可塑性樹脂であることが部分結晶性フッ素樹脂との接着と成形が同時に行うことができる点、すなわち、多層での溶融成形が可能である点で好ましく、なかでも結晶融点が270℃以下さらには230℃以下の熱可塑性樹脂が共押出等の多層成形が適用でき、しかも得られた積層体が優れた接着性を示す点で好ましい。
【0102】
具体的にはポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、PES、ポリスルホン、PPO、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、エポキシ変性ポリエチレン等のエチレン重合体などが好ましく、その中でも溶融成形性に優れ、ポリマー自体が機械的特性に優れており、さらに部分結晶性フッ素樹脂と積層化することによって、優れた耐薬品性、耐溶剤性、溶剤不透過性、耐候性、防汚性、光学特性(低屈折率性)を付与できる点でポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネートなどがとくに好ましい例示である。上記ポリアミドは、層(D)を構成するポリアミド系樹脂として例示したものであってよい。
【0103】
層(E)と層(C)とを有する本発明の積層体としては、層(E)と層(C)とが接着していることが好ましく、この場合、2層の外側に1層以上の他の層を有してもよい。
【0104】
本発明の積層体は、チューブ、ホース、タンク等、燃料等の引火性の液体に接する用途に好適に用いることができ、この場合、液体と接する箇所は層(C)であることが好ましい。
【0105】
本発明の積層体において、層(C)は50〜1000μmとすることができ、層(C)以外の層は合計で100〜50000μmとすることができる。
【0106】
上記層(C)の好ましい膜厚は50〜500μmであり、層(C)以外の層の好ましい膜厚は合計で300〜20000μm、より好ましくは900〜10000μmである。
【0107】
上記積層体は、その用途に応じて、その大きさを選択することができる。
【0108】
本明細書において、各層の膜厚は、マイクロスコープ等により測定したものである。
【0109】
部分結晶性フッ素樹脂は、燃料透過係数が10g・mm/m/day以下であることが好ましく、5g・mm/m/day以下であることがより好ましく、3g・mm/m/day以下であることが更に好ましく、2g・mm/m/day以下であることが更に好ましい。本発明の積層体は、上記フッ素樹脂の燃料透過係数が上述の範囲内であることから、高度の燃料低透過性を有するものとすることができる。
【0110】
本明細書において、上記燃料透過係数は、イソオクタン、トルエン及びエタノールを45:45:10の容積比で混合したイソオクタン/トルエン/エタノール混合溶媒(CE10)を投入した燃料透過係数測定用カップに測定対象樹脂から得たフィルムを入れ、60℃において測定した質量変化から算出される値である。
【0111】
本発明の積層体の燃料透過速度は、下限を例えば、0.05g/m/dayとすることができ、上限を例えば、30g/m/dayとすることができる。
【0112】
本明細書において、上記燃料透過速度は、積層体全体から単位日数、単位内面積当たりに透過する薬液の質量であり、CE10を用いて、60℃での透過量を測定し得られる値である。
【0113】
本発明の積層体は、フィルム形状、シート形状、チューブ形状、ホース形状、ボトル形状、タンク形状等の各種形状とすることができる。フィルム形状、シート形状、チューブ形状、ホース形状は、波形形状、蛇腹(corrugated)形状、渦巻き(convoluted)形状等であってもよい。
【0114】
本発明の積層体の成形方法としては、例えば、(1)積層体を構成する各層を溶融状態で共押出成形することにより層間を熱溶融着(溶融接着)させ1段で多層構造の積層体を形成する方法(共押出成形)が挙げられる。
【0115】
本発明の積層体の成形方法としては、また上記(1)の他に、(2)押出機によりそれぞれ別個に作製した各層を重ね合せ熱融着により層間を接着させる方法、(3)予め作製した層の表面上に押出機により溶融樹脂を押し出すことにより積層体を形成する方法、(4)予め作製した層の表面上に、該層に隣接することとなる層を構成する重合体を静電塗装したのち、得られる塗装物を全体的に又は塗装した側から加熱することにより、塗装に供した重合体を加熱溶融して層を成形する方法等が挙げられる。
【0116】
本発明の積層体がチューブ又はホースである場合、例えば、上記(2)に相当する方法として、(2a)押出機により円筒状の各層をそれぞれ別個に形成し、内層となる層に該層に接触する層を熱収縮チューブにて被膜する方法、上記(3)に相当する方法として、(3a)先ず内層となる層を内層押出機で形成し、この外周面に、外層押出機で該層に接触する層を形成する方法、上記(4)に相当する方法として、(4a)内層を構成する重合体を該層に接触する層の内側に静電塗装したのち、得られる塗装物を加熱オーブンに入れて全体的に加熱するか、又は、円筒状の塗装物品の内側に棒状の加熱装置を挿入して内側から加熱することにより、内層を構成する重合体を加熱溶融して成形する方法、等が挙げられる。
【0117】
本発明の積層体がチューブ又はホースである場合、かかる波形の折り目が複数個環状に配設されている領域を有することにより、その領域において環状の一側を圧縮し、他側を外方に伸張することができるので、応力疲労や層間の剥離を伴うことなく容易に任意の角度で曲げることが可能となる。
【0118】
本発明の積層体を構成する各層が共押出可能なものであれば、上記(1)の共押出成形によって形成することが一般的である。上記共押出成形としては、マルチマニホールド法、フィードブロック法等の従来公知の多層共押製造法が挙げられる。
【0119】
波形領域の形成方法は限定されないが、まず直管状のチューブを成形した後に、引き続いてモールド成形等し、所定の波形形状等とすることにより容易に形成することができる。
【0120】
本発明の積層体を成形する方法としては、射出成形、真空あるいは加圧によるプレス成形、ブロー成形、インフレーション成形、押出成形等であってもよい。
【0121】
上記射出成形は、熱可塑性樹脂の成形に広く用いられており、複雑な形状の成形体の作製に適している。積層体を成形するためには、例えば、溶融させた樹脂を成形体部品の金型に射出し、固化させることにより成形した樹脂層上に、溶融させた他の樹脂を射出し、固化させることを繰り返すことにより成形する方法により行うことができる。
【0122】
ただし、上記射出成形法を用いた場合には、成形後金型を取り除かなければならないため、一度に積層体を作成することはできず、幾つかの部品に分けて成形し、その後、熱融着、接着等の手段によって一体に接合することにより、所望の積層体を得ることができる。
【0123】
上記成形において、フッ素樹脂層を必ず最内層かあるいは最外層のどちらかに位置させると、上記のような接合を行った場合でも、フッ素樹脂層同士が必ず接合されるため、積層体全体の燃料低透過性が維持できる。
【0124】
上記各層の成形工程の順序は、所望の積層構造に応じて適宜選択することができ、上述のように外面となる層から先に成形してもよいし、内面となる層の成形を先に行ってもよい。上記射出成形の各条件は、使用する樹脂の種類や量に応じて適宜選択することができる。
【0125】
上記プレス成形においては、後述の成型方法により得られたシート又はプレート(該シート又はプレートを、以下、積層体シートと総称する。)を原材料として、これを加熱下で真空、あるいは加圧、あるいはオス型により型に押しつけることによって成形を行うものである。
【0126】
上記プレス成形における各条件は、使用する積層体シートの組成や厚みに応じて適宜選択することができるが、積層体シートを加熱する第1の工程において、各層の溶融温度に応じて、上ヒータと下ヒータの温度を異なる温度に設定することが好ましい。
【0127】
上記原材料となる積層体シートは、上述した(1)〜(4)の方法によって作製することができる。
【0128】
各層を構成する樹脂が共押出可能なものであれば、上記(1)の共押出成形によって形成することが一般的である。上記共押出成形としては、マルチマニホールド法、フィードブロック法、多層ブロー法、多層インフレーション成形法等の従来公知の多層共押製造法が挙げられる。これらの方法によって成形することにより、シート状、またはフィルム状の積層体とすることができる。
【0129】
上記(2)及び(3)の成形方法においては、各フィルムを形成したのち、層間接着性を高めることを目的として、各フィルムにおける他のフィルムとの接触面を表面処理してもよい。そのような表面処理としては、ナトリウムエッチング処理等のエッチング処理;レーザーやエキシマーランプ等を用いた光化学処理;コロナ処理;プラズマ処理等が挙げられ、なかでも、プラズマ処理が好ましい。上記プラズマ処理は、例えば、Ar、He、H、O、N、NH若しくは炭化水素ガス、又は、これらの混合ガス等の雰囲気下で実施することができる。フィルムを表面処理する場合には、フッ素樹脂が接着性官能基を有するものでなくとも、充分な接着強度を得ることができる。
【0130】
上記成形方法としては、上記(1)、及び、上記(2)と(3)の各方法において表面処理を施して積層させる方法が好ましく、生産効率の観点から(1)の方法が最も好ましい。
【0131】
本発明の積層体は、上記積層体シートを作成した後、得られた積層体シートを公知の方法により接合して継ぎ合わせ、袋状にしたものであってもよく、このような方法としては、例えば、国際公開第2008/041643号パンフレットに記載の方法が挙げられる。
【0132】
本発明の積層体は、射出成形又は積層体シートの熱成形によって2個以上の部品を作成した後、得られた2個以上の部品を公知の方法により接合してもよく、このような方法としては、例えば、国際公開第2008/041645号パンフレットに記載の方法が挙げられる。
【0133】
本発明の積層体は、多層ブロー成形により得ることもできる。上記多層ブロー成形は、必要な層数に応じた台数の押出機を用いて、溶融させた樹脂を多層ブロー成形用ダイに経路させてパリソンとして押し出し、該パリソンを割型ではさみ、上下を挟まれて袋状になったパリソン内に空気等を吹き込み、ふくらませて、所望の形状を有する金型の内壁へ密着させ、冷却固化後、成形品として取り出すことにより行うことができる。また、射出ブロー成形や延伸ブロー成形を用いてもよい。上記多層ブロー成形は、一連の工程が連続しており、成形が容易である点で好ましい。
【0134】
本発明の積層体は、内面層を構成するフッ素樹脂層をコーティングにより成形したものであってもよい。
【0135】
上記コーティングによるフッ素樹脂層の成形は、例えば、上述の射出成形又は真空成形を行い、目的とする形状を有するフッ素樹脂層以外の層からなる成形体部品を得た後、該成形体部品にフッ素樹脂含有塗料を従来公知の方法により塗布し、乾燥して行うことができる。
【0136】
本発明の積層体は、薬液用容器、尿素水用容器、燃料用タンク、燃料用チューブ、燃料用ホース、地下埋設チューブ、地下埋設ホース等の用途に好適である。
【0137】
例えば、以下の用途を挙げることができる。
フィルム、シート類;食品用フィルム、食品用シート、薬品用フィルム、薬品用シート、ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン等。
チューブ、ホース類;自動車燃料用チューブ若しくは自動車燃料用ホース等の燃料用チューブ又は燃料用ホース、溶剤用チューブ又は溶剤用ホース、塗料用チューブ又は塗料用ホース(プリンタ用途含む)、自動車のラジエーターホース、エアコンホース、ブレーキホース、電線被覆材、飲食物用チューブ又は飲食物用ホース、ガソリンスタンド用地下埋設チューブ若しくはホース、海底油田用チューブ若しくはホース(インジェクションチューブ、原油移送チューブ含む)等。
ボトル、容器、タンク類;自動車のラジエータータンク、ガソリンタンク等の燃料用タンク、溶剤用タンク、塗料用タンク、半導体用薬液容器等の薬液容器、飲食物用タンク等
その他;キャブレターのフランジガスケット、燃料ポンプのOリング等の各種自動車用シール、油圧機器のシール等の各種機械関係シール、ギア、医療用チューブ(カテーテル含む)、索道管等。
【0138】
本発明の積層体は、例えば、自動車のガソリンタンク、軽油タンク等の燃料用タンク、ラジエータータンク、溶剤用タンク、塗料用タンク、半導体用薬液等の酸・アルカリ等の腐食性、侵食性の強い薬液の容器や研磨材のスラリー用の容器、飲料用又は飲食物用タンク等、液体を収容するボトル、容器、タンク、袋、燃料補給ステーションに用いられる地下埋設チューブ又はホース等として好適に用いることができる。
【0139】
また、本発明の積層体はディーゼルエンジン排ガスに尿素水を噴霧してNOを低減するシステムにおける尿素水用容器としても、その優れた耐薬品性から好適に使用できる。
【発明の効果】
【0140】
本発明の部分結晶性フッ素樹脂は、他の材料との接着性に優れ、燃料透過速度が小さい。本発明の積層体は、上述の構成よりなるので、耐薬品性、耐燃料性、耐侯性、燃料低透過性に優れ、低コストである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0141】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0142】
実施例及び比較例において、各種測定は以下の方法にて行った。
【0143】
フッ素樹脂の単量体組成
NMR分析装置(ブルカーバイオスピン社製、AC300 高温プローブ)を用いて測定した。
【0144】
樹脂の融点
DSC装置(セイコー社製)を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0145】
MFR
メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、各温度、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)に流出するポリマーの重量(g)を測定した。
【0146】
カーボネート基の個数
共重合体の白色粉末又は溶融押出ペレットの切断片を室温で圧縮成形し、厚さ150〜250μmのフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトル分析によってカーボネート基〔−OC(=O)O−〕のカルボニル基由来のピークが1810〜1815cm−1〔ν(C=O)〕の吸収波長に現れるので、そのν(C=O)ピークの吸光度を測定し、下記式(a)により共重合体の主鎖炭素数10個あたりのカーボネート基の個数Nを算出した。
【0147】
N=500AW/εdf (a)
A:カーボネート基〔−OC(=O)O−〕由来のν(C=O)ピークの吸光度
ε:カーボネート基〔−OC(=O)O−〕由来のν(C=O)ピークのモル吸光度係数。モデル化合物からε=170(l・cm−1・mol−1)とした。
W:共重合体の組成から計算される単量体の平均分子量
d:フィルムの密度(g/cm
f:フィルムの厚さ(mm)
【0148】
なお、赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FT−IRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて40回スキャンした。得られたIRスペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for windows Ver.1.4Cを用いて自動でベースラインを判定させ、1810〜1815cm−1のピークの吸光度を測定した。なお、フィルムの厚さはマイクロメーターを用いて測定した。
【0149】
カルボン酸基の個数
モル吸光度係数εの値を600とする以外は上記カーボネート基の個数の測定方法と同様に算出した。
【0150】
接着強度
長さ5cm、幅1cmのサンプルを成形体から切り出し、成形体の最も接着の弱い部分を剥離し、テンシロン(オリエンテック製)を用いて180度の剥離試験を行い、N/cmを単位とする接着強度を測定した。
【0151】
材料の燃料透過係数の測定
共重合体のペレットを、それぞれ、直径120mmの金型に入れ、融点以上に加熱したプレス機にセットし、約2.9MPaの圧力で溶融プレスして、厚さ0.15mmのシートを得た。CE10を18ml投入した内径40mmφ、高さ20mmのSUS316製の透過係数測定用カップに得られたシートを取り付け、60℃における質量変化を1000時間まで測定した。時間あたりの質量変化、接液部のシートの表面積及びシートの厚さから燃料透過係数(g・mm/m/day)を算出した。
【0152】
成形体の燃料透過速度
CE10を用いて、60℃での重量変化を測定し、単位日数単位内面積当たりに透過する薬液の質量を算出した。
【0153】
合成実施例1
(カーボネート基含有フッ素樹脂F−Aの合成)
174L容積のオートクレーブに蒸留水46.5Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン6kg、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕48kgを仕込み、系内の温度を35℃、攪拌速度200rpmに保った。次いで、TFEを1.07MPaまで圧入した後、重合開始剤ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート〔NPP〕を130g添加して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、TFEと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとの混合モノマー(TFE:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン=95:5(モル%))を仕込み、系内圧力を1.07MPaに保った。最終的にTFEの追加仕込み量が17kgになった時点で重合を停止し、放圧して大気圧に戻した後、得られたTFE/HFP/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン共重合体を水洗、乾燥して16kgの粉末を得た。
【0154】
次いでφ50mm短軸押出し機を用いてシリンダー温度260℃で溶融混練を行い、ペレットを得た。次いで得られたペレットを150℃で24時間加熱した。
【0155】
得られたペレットは以下の組成及び物性を有していた。
TFE/HFP/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン:85.7/9.2/5.1(モル%)
融点:213℃
MFR:18g/10min(297℃−5kg)
官能基:カーボネート基(主鎖炭素10個に対するカーボネート個数92個)
燃料透過係数:0.8g・mm/m/day
【0156】
合成実施例2(ヒドロキシル基含有フッ素樹脂F−Bの合成)
174L容積のオートクレーブに蒸留水46.5Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン12kg、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕42kgを仕込み、系内の温度を35℃、攪拌速度200rpmに保った。次いで、TFEを1.07MPaまで圧入した後、重合開始剤ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート〔NPP〕を130g添加して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、TFEと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとの混合モノマー(TFE:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン=90:10(モル%))を仕込み、系内圧力を1.07MPaに保った。最終的にTFEの追加仕込み量が17kgになった時点で重合を停止し、放圧して大気圧に戻した後、得られたTFE/HFP/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン共重合体を水洗、乾燥して16kgの粉末を得た。
【0157】
次いで、得られた粉末16kg、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド0.2kgおよびジクミルパーオキシド35gの混合物をφ50mm短軸押出し機を用いてシリンダー温度270℃で溶融混練を行い、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドを共重合体にグラフトさせたヒドロキシル基含有フッ素樹脂を得た。
【0158】
次いで得られたペレットを150℃で24時間加熱した。
【0159】
得られたペレットは以下の組成及び物性を有していた。
TFE/HFP/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド:82.4/7.6/9.1/0.9(モル%)
融点:203℃
MFR:32g/10min(297℃−5kg)
官能基:ヒドロキシル基
燃料透過係数:1.7g・mm/m/day
【0160】
合成実施例3
(カルボン酸基含有フッ素樹脂F−Cの合成)
174L容積のオートクレーブに蒸留水99Lおよび10質量%フッ素系界面活性剤(C15COONH)水溶液10.8kgおよびパラフィン2kgを仕込み、充分に窒素置換を行った後、攪拌速度200rpmにて攪拌しながらTFEとHFPおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合モノマー(TFE:HFP:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン=30/67/3(モル%))を仕込み、最終的にオートクレーブ系内の温度を80℃とし、0.78MPaGまで昇圧した。重合開始剤として10質量%APS水溶液を0.77kg仕込み、反応を開始させた。
【0161】
反応開始5時間毎に10質量%APS水溶液を0.13kg追加し、そして系内の圧力を0.78MPaGに維持するよう、TFEとHFPおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合モノマー(TFE:HFP:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン=85/10/5(モル%))を連続的に供給し、最終的に混合モノマーの追加仕込み量が30kgになった時点で放圧して大気圧に戻し重合を停止した。
【0162】
次にこの乳化分散体を、60%硝酸を用いて酸凝析を行いポリマーを分離した後、蒸留水で洗浄後、乾燥させて28kgの粉末を得た。
【0163】
次いでφ50mm短軸押出し機を用いてシリンダー温度280℃で溶融混練を行い、ペレットを得た。次いで得られたペレット状のTFE/HFP共重合体を150℃で24時間加熱した。
【0164】
得られたペレットは以下の組成及び物性を有していた。
TFE/HFP/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン:86.6/8.7/4.8(モル%)
融点:217℃
MFR:18g/10min(297℃−5kg)
官能基:カルボン酸基(主鎖炭素10個に対するカルボン酸基個数179個)
燃料透過係数:0.8g・mm/m/day
【0165】
積層実施例1
特開平2−255763公報等で知られる方法でアルコキシビニルシラン変性エチレン樹脂(三菱化学(株)製、商品名リンクロンXHE650N)とγ‐アミノプロピルトリエトキシシランを220℃で溶融混合押出を行いアミノ変性ポリエチレン樹脂を得た。得られたアミノ変性ポリエチレン樹脂のMFRは0.8g/10min(190℃、2.16kg荷重)であった。
【0166】
次いで、マルチマニホールドTダイを装着した3種3層シートの押出し装置を用いて、上記アミノ変性ポリエチレンを中間層(B)とし、カーボネート基含有フッ素樹脂F−Aを層(C)、高密度ポリエチレン[日本ポリエチレン(株)製、商品名ノバテックHB111R MFR6g/10min(190℃、21.6kg荷重)]を層(A)とした3層シートを得た。表1にシート成形条件及び得られたシート物性を示す。
【0167】
積層実施例2
グリシジル変性ポリエチレン(アルケマ製、商品名LotaderAX8840)を中間層(B)、カーボネート基含有フッ素樹脂F−Aを層(C)、高密度ポリエチレン[日本ポリエチレン(株)製、商品名ノバテックHB111R MFR6g/10min(190℃、21.6kg荷重)]を層(A)とした3層シートを得た。表1にシート成形条件及び得られたシート物性を示す。
【0168】
積層実施例3
層(C)をヒドロキシル基含有フッ素樹脂F−Bにする以外は積層実施例1と同様に3層シートを得た。表1にシート成形条件及び得られたシート物性を示す。
【0169】
積層実施例4
層(C)をカルボン酸基含有フッ素樹脂F−Cにする以外は積層実施例1と同様に3層シートを得た。表1にシート成形条件及び得られたシート物性を示す。
【0170】
積層実施例5
マルチマニホールドを装着した2種2層のチューブ押出し装置を用いて、ポリアミド12(商品名:Vestamid X7297、Degussa Huls AG社製)を外層(E)、カーボネート基含有フッ素樹脂F−Aを内層(C)とした2種2層の多層チューブを得た。表1にチューブ成形条件及び得られたチューブ物性を示す。
【0171】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の積層体は、液体を収容する容器、ボトル、タンク、袋、チューブ、ホース、パイプ等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位と、
下記一般式(1)
CX=CXCF (1)
(式中、X、X及びXは同一又は異なってH、F又はClを表し、XはF又はClを表す。但し、X、X及びXのうち少なくとも1つはHである。)
で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位と、
前記テトラフルオロエチレン単位及び前記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体に由来する繰り返し単位以外の任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位と、
を含み、
前記テトラフルオロエチレン単位及び前記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体単位が全単量体単位に対して合計で80〜100モル%であり、前記任意成分としてのエチレン性不飽和単量体単位が20〜0モル%である
ことを特徴とする部分結晶性フッ素樹脂。
【請求項2】
一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである請求項1記載の部分結晶性フッ素樹脂。
【請求項3】
任意成分としてのエチレン性不飽和単量体は、下記一般式(2)
CF=CF−Rf (2)
(式中、Rfは−CF又は−ORfを表し、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるエチレン性不飽和単量体、及び、接着機能性官能基を有するエチレン性不飽和単量体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載の部分結晶性フッ素樹脂。
【請求項4】
カルボニル基、アミノ基、オキサゾリル基、グリシジル基、エポキシ基及びヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の接着機能性官能基を有する請求項1、2又は3記載の部分結晶性フッ素樹脂。
【請求項5】
融点が120〜250℃である請求項1、2、3又は4記載の部分結晶性フッ素樹脂。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂からなる層(A)、変性ポリオレフィン樹脂からなる層(B)、及び、請求項1、2、3、4又は5記載の部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)を有することを特徴とする積層体。
【請求項7】
部分結晶性フッ素樹脂は、燃料透過係数が10g・mm/m/day以下である請求項6記載の積層体。
【請求項8】
変性ポリオレフィン樹脂は、カルボニル基、アミノ基、オキサゾリル基、グリシジル基、エポキシ基、ヒドロキシル基及びシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する請求項6又は7記載の積層体。
【請求項9】
請求項1、2、3、4又は5記載の部分結晶性フッ素樹脂からなる層(C)、及び、分子中に前記部分結晶性フッ素樹脂が有する官能基と反応性又は親和性を有する官能基を有し、かつ、フッ素原子を持たない有機材料からなる層(E)を有することを特徴とする積層体。
【請求項10】
薬液用容器、尿素水用容器、燃料用タンク、燃料用チューブ、燃料用ホース、地下埋設チューブ、又は、地下埋設ホースである請求項6、7、8又は9記載の積層体。

【公開番号】特開2010−95576(P2010−95576A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265659(P2008−265659)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】