説明

部品保持具

【課題】 加工中又は搬送中には十分な保持力で部品を保持固定でき、完成後には部品を容易に取り外すことができて、部品を破損させることがなく、特に薄板状の電子部品の取り扱いに適した部品保持具を提供する。
【解決手段】 上面に非粘着面若しくは弱粘着面を有する固定部4の平面内に、固定部4の上面よりも粘着力の大きな強粘着面5を上面に有する可動部6が配置されている部品保持具1であって、部品取り付け前の初期設定時には可動部6の上面が固定部4の上面と同一若しくはより高い位置にあり、かつ、部品取り外し時には可動部6の上面を固定部4の上面より低い位置に変更する切替手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコンウエハ、フレキシブルプリント基板等の薄板状の電子部品等を加工する際の保持又は加工後に搬送する際に用いる部品保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコンウエハ、フレキシブルプリント基板、ガラス板等の薄板状の電子部品は破損し易いため、その加工中においては保持具に固定して、研磨、パターニング、ダイシング等の加工を行っている。そして、複数の加工が別の場所で行われる電子部品にあっては、その工程間の電子部品の搬送に際しても保持具に固定した状態で移動される。つまり、このような部品保持具にあっては、加工中及び搬送中において電子部品が勝手に移動して重なり合ったりしないように固定され、電子機器本体に組み込むための組立作業時には容易に取り外し可能であることが要求される。
【0003】
このような部品保持具としては、従来から、基材の表面に高さの等しい凸状体を多数形成し、この凸状体上に電子部品を載置し真空吸着するタイプの保持具がある(特許文献1を参照のこと)。また、表面が粘着性を有する弾性部材で構成され、その粘着力により部品をその弾性部材表面に密着保持する保持具(特許文献2を参照のこと)がある。
【0004】
以上のような従来の部品保持具のうち、真空吸着タイプのものについては、加工中常に吸引状態を保つ必要があり、保持具自体の構造、製法が複雑で高価なものであった。また、表面が粘着性を有する弾性部材で構成されたものについては、その弾性部材表面全体に粘着力があり、すべての位置において部品が密着してしまうため、粘着面との接触表面積が大きい部品の場合には取り外し難かった。そのため、取り外しの際に部品を保持具自体に衝突させてしまうことが生じ、薄板状の電子部品の場合には割れや欠け等の破損事故を起こすおそれがあった。
【特許文献1】特開2000−286329号公報
【特許文献2】特公平07−093247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、加工中又は搬送中には十分な保持力で部品を保持固定でき、完成後には部品を容易に取り外すことができて、部品を破損させることがなく、特に薄板状の電子部品の取り扱いに適した部品保持具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のような課題を実現するため、請求項1に係る発明は、上面に非粘着面若しくは弱粘着面を有する固定部の平面内に、前記固定部の上面よりも粘着力の大きな強粘着面を上面に有する可動部が配置されている部品保持具であって、部品取り付け前の初期設定時には前記可動部の上面が前記固定部の上面と同一若しくはより高い位置にあり、かつ、部品取り外し時には前記可動部の上面を前記固定部の上面より低い位置に変更する切替手段を有していることを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記切替手段は、空洞部を備えたゴム状弾性体で前記可動部を構成し、前記空洞部内の空気を排出することにより前記可動部の上面の位置を変更するようにしたことを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記可動部は剛性を有する平面状の基材に固定される平面部と該平面部に連なる空洞部を有する凸部とからなり、前記固定部には前記可動部の凸部が収容される貫通孔が設けられており、前記基材には前記空洞部に連通する通気孔が設けられていることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記固定部と前記可動部とはゴム状弾性体で一体成形し、かつ、前記固定部の一部を切り欠いた空洞部を形成して前記可動部を構成したものが剛性を有する平板状の基材に前記固定部の下面で固定されており、前記基材には前記空洞部に連通する通気孔が設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか一つに記載の構成に加え、前記空洞部内に連続気泡構造のスポンジを収容したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
この発明は以上のような構成を有するため、請求項1に記載の発明によれば、初期設定時には可動部の強粘着面の上面が固定部の非粘着面若しくは弱粘着面の上面と同一若しくはより高い位置にあるので、部品保持具の上に部品を載せた場合に強粘着面に部品の一部が接触してその位置で粘着固定されることになり、部品保持具に十分な保持力で部品を保持固定できることになる。また、部品を取り外す場合には、その後切替手段により可動部の強粘着面の上面を固定部の非粘着面若しくは弱粘着面の上面より低い位置に変更することで、それまで接触していた可動部の強粘着面が部品から引き離されて、強粘着面に接触していなかった部品の一部が固定部の非粘着面若しくは弱粘着面のみによって支持されることになるから、部品保持具から部品を持ち上げるだけで簡単に取り外すことができる。したがって、部品の取り外しに際して大きな粘着固定力に打ち勝つような大きな力を使うことがないため、誤って部品を部品保持具に当てて破損させるようなことがない。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、可動部を空洞部を備えたゴム状弾性体で構成し、空洞部内の空気を排出することにより粘着面又は強粘着面の表面の位置を変更できるようにしたので、請求項1に記載の発明の効果に加えて、部品保持具に真空装置を接続するだけの簡単な設備で迅速な取り付け取り外し操作が実現できる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、可動部は剛性を有する平面状の基材に固定される平面部と該平面部に連なる空洞部を有する凸部とからなり、固定部には可動部の凸部が収容される貫通孔が設けられているので、請求項2に記載の発明の効果に加えて、可動部の凸部を固定部の貫通孔に収容するといった簡単な操作で機能部位の組立ができるため大量生産が可能となり部品保持具の製造コストが低減できる。また、固定部及び可動部は剛性を有する平面状の基材に固定され、該基材には空洞部に連通する通気孔が設けられているので、複数の空洞部の空気を同時に排気・吸気することができるから、迅速な取り付け取り外し動作にも追従できるとともに、寸法形状の異なる部品にも対応できる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、固定部と可動部とはゴム状弾性体で一体成形し、かつ、固定部の一部を切り欠いた空洞部を形成して可動部を構成したものが剛性を有する平板状の基材に固定部の下面で固定し、空洞部内の空気を排出することにより強粘着面の上面の位置を変更するようにしたので、請求項2に記載の発明の効果に加えて、可動部と固定部とからなる機能部材を弾性を有する合成樹脂で一体成形することができるから、材料や寸法形状のばらつきがなく品質の安定した機能部材を大量に生産することが可能となり部品保持具の製造コストが低減できる。また、固定部及び可動部は剛性を有する平面状の基材に固定され、該基材には空洞部に連通する通気孔が設けられているので、複数の空洞部の空気を同時に排気・吸気することができるから、迅速な取り付け取り外し動作にも追従できるとともに、寸法形状の異なる部品にも対応できる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、通気孔12から空洞部10内の空気(スポンジ内の空気も含む)を排除したときは空洞部10の変形に伴いスポンジが潰れるようにして弾性変形し、通気孔12から空洞部10内へ空気が流入したときはスポンジ内にもその空気が取り込まれるため、スポンジがない場合に比べて可動部6の上面が初期設定の位置に速く復帰することができる。これにより、薄板状の電子部品等を加工する際の保持又は加工後に搬送する工程のサイクルタイムを短縮できるため、生産効率のより一層の向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態に係る部品保持具について、図面に従って説明する。
[発明の実施の形態1]
【0017】
図1はこの発明の実施の形態1に係る部品保持具を示した斜視図であり、図2はこの発明の実施の形態1に係る部品保持具に部品を載置した状態を示した要部断面図である。
【0018】
この発明の実施の形態1に係る部品保持具1は、矩形状の剛性を有する平らな基材2の上面に、非粘着若しくは弱粘着の非・弱粘着面3を有する基材2と同じ大きさの均一な厚みからなる固定部4が設けられている。基材2には、鋼、ステンレス、アルミニウム等の金属材料の他、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、その他のエンジニアリングプラスチックが使用される。固定部4の平面部には固定部4の上面よりも粘着力の大きな強粘着面5を上面に有する可動部6が配置できる貫通孔7が設けられている。
【0019】
可動部6はシリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリスチレン等の伸縮性、復元性に富むゴム状弾性体であって、基材2に固定される平面部8とこの平面部8に連なる凸部9とからなる一体成形品である。凸部9には空洞部10を備え、この空洞部内の空気を排出することにより可動部6の上面の位置を変更できるようになっている。可動部6の凸部9は固定部4に設けられた貫通孔7に収容され、部品保持具1に部品11を取り付ける前の初期設定時には、可動部6の上面が固定部4の上面と同一若しくはより高い位置にある。
【0020】
基材2には、可動部6の凸部9に設けた空洞部10に連通する通気孔12が設けられており、部品保持具1から部品11を取り外す場合に、真空吸引装置等の切替手段(図示せず)により、空洞部10内の空気を排出することで可動部6の上面を固定部4の上面より低い位置に変更できるようになっている。
【0021】
以上のような実施の形態1を使用する場合には、部品保持具1の上に部品11を載せると、強粘着面5に部品11の一部が接触してその位置で粘着固定され、部品保持具1に十分な保持力で部品11を保持固定できる。また、部品11を取り外す場合には、その後真空吸引装置等の切替手段を使用して可動部6の空洞部10内の空気を排出することで、可動部6の強粘着面5の上面を固定部4の非・弱粘着面3の上面より低い位置に変更する。すると、それまで接触していた可動部6の強粘着面5が部品11から引き離されて、強粘着面5に接触していなかった部品11の一部が固定部4の非・弱粘着面3のみによって支持されることになるから、部品保持具1から部品11を持ち上げるだけで簡単に取り外すことができる。
[発明の実施の形態2]
【0022】
図3はこの発明の実施の形態2に係る部品保持具を示した斜視図であり、図4はこの発明の実施の形態2に係る部品保持具に部品を載置した状態を示した要部断面図である。
【0023】
この発明の実施の形態2に係る部品保持具1は、矩形状の剛性を有する平らな基材2の上面に、非粘着若しくは弱粘着の非・弱粘着面3を有する基材2と同じ大きさの均一な厚みからなる固定部4が設けられている。
【0024】
固定部4は、シリコーンゴムその他の合成樹脂が使用され、その平面部には固定部4の上面よりも粘着力の大きな強粘着面5を上面に有する可動部6が所定の間隔を置いて複数配置されている。
【0025】
固定部4と可動部6とは、シリコーンゴムその他の合成樹脂製のゴム状弾性体で一体成形するものとし、固定部4の一部を切り欠いた空洞部10を形成して可動部6を構成している。
【0026】
基材2には固定部4の下面で固定されており、部品保持具1に部品11を取り付ける前の初期設定時には、可動部6の上面が固定部4の上面と同一若しくはより高い位置にある。
【0027】
基材2には、可動部6の凸部9に設けた空洞部10に連通する通気孔12が設けられており、部品保持具1から部品11を取り外す場合に、真空吸引装置等の切替手段(図示せず)により、空洞部10内の空気を排出することで可動部6の上面を固定部4の上面より低い位置に変更できるようになっている。
【0028】
実施の形態2のように、一体成形品の上面に固定部4の非粘着若しくは弱粘着の非・弱粘着面3と可動部6の強粘着面5とを形成する方法としては、固定部4と可動部6とを粘着性部材で一体成形する方法と非粘着性部材で一体成形する方法とが考えられる。
【0029】
固定部4と可動部6とを粘着性部材で一体成形した場合には、一体成形後に固定部4に相当する部位に紫外線(UV)や電子線(EB)を照射したり、鋼、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、ガラス、セラミック等の非粘着性材料をコーティングすることとし、固定部4と可動部6とを非粘着性部材で一体成形した場合には、一体成形後に可動部6の上面に相当する部位にシリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリスチレン等の粘着性材料をコーティングする。
【0030】
なお、粘着性部材で一体成形した場合には、部品保持機能には関係のない外周面を粗面化して非粘着なものとすることで、ハンドリング性の向上を図るとよい。
【0031】
実施の形態2のその他の構成は、実施の形態1と同様であり、同じ構成には同じ符号を付して、その構成及び作用の説明を省略する。
【0032】
以上説明した実施の形態1及び2のように、使用される部品11の平面形状内に固定部4と可動部6とが複数組存在できる構成とするのが一般的である。ただし、使用される部品11に対して固定部4と可動部6とが少なくとも一組存在する構成あれば、この発明が目的とする効果は得られるといえるので、そのような構成を採用してもよい。
【0033】
材料が同じ場合には、表面積の大きさを変えることで粘着力を調整することで可能であるから、必要に応じて、可動部6の上面の強粘着面5の一部に非・弱粘着面3を形成することで、部品11の取り外し易さを向上させることも考えられる。
【0034】
また、以上説明した実施の形態1及び2の空洞部10内に、連続気泡構造のスポンジを収容することとしてもよい。このような構成によれば、通気孔12から空洞部10内の空気(スポンジ内の空気も含む)を排除したときは空洞部10の変形に伴いスポンジが潰れるようにして弾性変形し、通気孔12から空洞部10内へ空気が流入したときはスポンジ内にもその空気が取り込まれるため、スポンジがない場合に比べて可動部6の上面が初期設定の位置に速く復帰することができる。これにより、薄板状の電子部品等を加工する際の保持又は加工後に搬送する工程のサイクルタイムを短縮できるため、生産効率のより一層の向上が可能となる。
【0035】
なお、以上説明した実施の形態1及び2では、空洞部10内の空気を排気するための通気孔12を基材2に空洞部10の数だけ設けたものとしたが、必要に応じて、一体成形品の固定部4又は基材2の内部で通気孔12を連通させる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態1に係る部品保持具を示した斜視図である。
【図2】同実施の形態1に係る部品保持具に部品を載置した状態を示した要部断面図である。
【図3】同実施の形態2に係る部品保持具を示した斜視図である。
【図4】同実施の形態2に係る部品保持具に部品を載置した状態を示した要部断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 部品保持具
2 基材
3 非・弱粘着面
4 固定部
5 強粘着面
6 可動部
7 貫通孔
8 平面部
9 凸部
10 空洞部
11 部品
12 通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に非粘着面若しくは弱粘着面を有する固定部の平面内に、前記固定部の上面よりも粘着力の大きな強粘着面を上面に有する可動部が配置されている部品保持具であって、部品取り付け前の初期設定時には前記可動部の上面が前記固定部の上面と同一若しくはより高い位置にあり、かつ、部品取り外し時には前記可動部の上面を前記固定部の上面より低い位置に変更する切替手段を有していることを特徴とする部品保持具。
【請求項2】
前記切替手段は、空洞部を備えたゴム状弾性体で前記可動部を構成し、前記空洞部内の空気を排出することにより前記可動部の上面の位置を変更するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の部品保持具。
【請求項3】
前記可動部は剛性を有する平板状の基材に固定される平面部と該平面部に連なる空洞部を有する凸部とからなり、前記固定部には前記可動部の凸部が収容される貫通孔が設けられており、前記基材には前記空洞部に連通する通気孔が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の部品保持具。
【請求項4】
前記固定部と前記可動部とはゴム状弾性体で一体成形し、かつ、前記固定部の一部を切り欠いた空洞部を形成して前記可動部を構成したものが剛性を有する平板状の基材に前記固定部の下面で固定されており、前記基材には前記空洞部に連通する通気孔が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の部品保持具。
【請求項5】
前記空洞部内に、連続気泡構造のスポンジを収容したことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一つに記載の部品保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−73802(P2007−73802A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260347(P2005−260347)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】