説明

部品温度推定装置および部品温度推定方法

【課題】コストの上昇を抑制しつつ、車両に搭載される部品の温度を精度高く推定する。
【解決手段】
ECUは、初期温度を算出するステップ(S100)と、熱源温度を推定するステップ(S102)と、車両状態を取得するステップ(S104)と、熱伝達率補正量を算出するステップ(S106)と、温度補正量を算出するステップ(S108)と、上昇温度を算出するステップ(S110)と、下降温度を算出するステップ(S112)と、クラッチ温度を推定するステップ(S114)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された部品の温度を推定する技術に関し、特に部品の近傍に設けられる熱源の影響を考慮して精度高く部品の温度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動系に用いられるクラッチの温度を、クラッチに対する入力エネルギに基づいて推定する技術が公知である。
【0003】
たとえば、特開2002−168270号公報(特許文献1)は、温度センサを用いることなく低コストでありながら、実クラッチ温度に近いクラッチ温度情報を得ることができるクラッチ温度推定装置を開示する。このクラッチ温度推定装置は、駆動系に設けられ、滑り締結を含む締結制御が行われる駆動系クラッチの温度を推定するクラッチ温度推定装置において、駆動系クラッチの入出力軸間の相対回転速度差を検出するクラッチ回転速度差検出手段と、駆動系クラッチを介して伝達される駆動トルクを推定するクラッチ伝達トルク推定手段と、クラッチ回転速度差とクラッチ伝達トルクにより駆動系クラッチに加わる入力エネルギを算出する入力エネルギ算出手段と、算出された入力エネルギの大きさに応じ、時間の経過と共に上昇したり下降したりするクラッチ温度の変動を予測し、この温度変動予測に基づいてクラッチ推定温度を算出するクラッチ推定温度算出手段とを備え、入力エネルギの判断しきい値を加算判断基準値として設定し、入力エネルギ算出手段により算出された入力エネルギが設定された加算判断基準値以上かどうかを判断するクラッチ温度加減判断手段を設け、クラッチ推定温度算出手段を、入力エネルギが加算判断基準値以上であると判断された場合には、その時のクラッチ推定温度に温度上昇量を加算し、また、入力エネルギが加算判断基準値未満であると判断された場合には、その時のクラッチ推定温度に温度下降量を減算することでクラッチ推定温度を算出する手段としたことを特徴とする。
【0004】
上述した公報に開示されたクラッチ温度推定装置によると、駆動系クラッチに加わる入力エネルギをクラッチの相対滑り(相対回転速度差)とクラッチ伝達トルクにより算出し、入力エネルギの大きさによるクラッチ温度の変動予測に基づいてクラッチ推定温度が算出される。つまり、入力エネルギが大きく変動するような場合、指令トルクが低くなる毎にクラッチ推定温度がリセットされることなく、入力エネルギの大きさにより推定温度を上昇させたり下降させたりというように、実クラッチ温度の変化推移に追従する推定動作により精度の高いクラッチ温度推定が行われる。よって、温度センサを用いることなく低コストでありながら、実クラッチ温度に近いクラッチ温度情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−168270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、クラッチの周囲に熱源(たとえば、排気管)が設けられる場合には、熱源から伝達される熱の影響によりクラッチの温度が変動するため、クラッチの温度を正確に推定できないという問題がある。上述した公報においてはこのような問題について何ら考慮されておらず、解決することができない。また、温度センサを用いてクラッチの温度を直接検出することも考えられるが、部品点数が増加し、コストの上昇の要因となる。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、コストの上昇を抑制しつつ、車両に搭載される部品の温度を精度高く推定する部品温度推定装置および部品温度推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る部品温度推定装置は、車両に搭載された熱源に対して予め定められた距離を有するように配置された部品の温度を推定するための部品温度推定装置である。この部品温度推定装置は、熱源の温度を推定するための第1の推定手段と、第1の推定手段によって推定された熱源の温度と、熱源から部品への熱伝達の程度と、部品の作動状態とに基づいて部品の温度を推定するための第2の推定手段とを含む。第5の発明に係る部品温度推定方法は、第1の発明に係る部品温度推定装置と同様の構成を有する。
【0009】
第1の発明によると、熱源(たとえば、排気管)の温度と、熱源から部品(たとえば、クラッチ)への熱伝達の程度と、部品の作動状態とに基づいて部品の温度を推定することにより、熱源から伝達される熱の影響による部品の温度の変動分を考慮して部品の温度を精度高く推定することができる。そのため、温度センサを用いて直接的に部品の温度を検出する必要がないため、部品点数の増加を抑制することができる。その結果、コストの上昇を抑制することができる。したがって、コストの上昇を抑制しつつ、車両に搭載される部品の温度を精度高く推定する部品温度推定装置および部品温度推定方法を提供することができる。
【0010】
第2の発明に係る部品温度推定装置においては、第1の発明の構成に加えて、第2の推定手段は、部品の作動による発熱量に基づいて部品の温度の上昇量を算出するための第1の算出手段と、部品の放熱量に基づいて部品の温度の下降量を算出するための第2の算出手段と、熱源の温度と熱伝達の程度とに基づいて部品の温度補正量を算出するための第3の算出手段と、上昇量、下降量および温度補正量に基づいて部品の温度を推定するための手段とを含む。第6の発明に係る部品温度推定方法は、第2の発明に係る部品温度推定装置と同様の構成を有する。
【0011】
第2の発明によると、部品(たとえば、クラッチ)の作動状態に基づく発熱量と放熱量とにより部品の温度の上昇量と下降量とを算出し、熱源(たとえば、排気管)の温度と、熱源から部品への熱伝達状態とに基づいて温度補正量を算出するができる。これにより、熱源から伝達される熱の影響による部品の温度の変動分を考慮して部品の温度を精度高く推定することができる。
【0012】
第3の発明に係る部品温度推定装置は、第1または2の発明の構成に加えて、走行風の風量に対応する車両の速度と、走行風の温度と、走行風の湿度とのうちの少なくともいずれか1つに基づいて熱伝達の程度を補正するための補正手段をさらに含む。第7の発明に係る部品温度推定方法は、第3の発明に係る部品温度推定装置と同様の構成を有する。
【0013】
第3の発明によると、走行風の風量に対応する車両の速度と、走行風の温度と、走行風の湿度とのうちの少なくともいずれか1つが変化した場合に、熱源から部品への熱伝達の程度は変化する。そのため、走行風の風量に対応する車両の速度と、走行風の温度と、走行風の湿度とのうちの少なくともいずれか1つに基づいて熱伝達の程度を補正することにより、熱源から伝達される熱の影響による部品の温度の変動分を精度高く算出することができるため、部品の温度の推定精度を向上させることができる。
【0014】
第4の発明に係る部品温度推定装置においては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、車両は、内燃機関と変速機とを含む。部品は、内燃機関と変速機とを連結するクラッチである。熱源は、内燃機関から変速機側に向けて配設される排気管である。第8の発明に係る部品温度推定方法は、第4の発明に係る部品温度推定装置と同様の構成を有する。
【0015】
第4の発明によると、排気管の温度と、排気管からクラッチへの熱伝達の程度と、クラッチの作動状態とに基づいてクラッチの温度を推定することにより、排気管から伝達される熱の影響による部品の温度の変動分を考慮して部品の温度を精度高く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る部品温度推定装置が搭載された車両の全体構成図である。
【図2】本実施の形態に係る部品温度推定装置であるECUの機能ブロック図である。
【図3】気温と熱伝達率補正量との関係を示す図である。
【図4】車速と熱伝達率補正量との関係を示す図である。
【図5】本実施の形態に係る部品温度推定装置であるECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態に係る部品温度推定装置であるECUの動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係る部品温度推定装置が搭載された車両10は、エンジン20と、クラッチ30と、変速機40と、プロペラシャフト50と、ディファレンシャルギヤ60と、ドライブシャフト70と、車輪80と、ECU(Electronic Control Unit)100とを含む。
【0019】
エンジン20には、吸気システム90が設けられる。吸気システム90は、一方端がエンジン20の吸気ポート(図示せず)に接続される吸気通路94と、吸気通路94の他方端に設けられるエアクリーナ92と、吸気通路94の途中に設けられる電子スロットル96とを含む。
【0020】
電子スロットル96は、吸気通路94の吸入空気の流量を調整するスロットルバルブ98と、スロットルバルブ98の開度を検出するスロットルポジションセンサ116と、ECU100からの制御信号に基づいてスロットルバルブ98を駆動させるためのスロットルモータ(図示せず)とを含む。スロットルポジションセンサ116は、検出したスロットルバルブ98の開度を示す信号をECU100に送信する。
【0021】
エアフローメータ102は、吸気通路94の途中であって、電子スロットル96よりもエアクリーナ92側に設けられる。エアフローメータ102は、吸気通路94を流通する空気の流量(以下、吸入空気量と記載する)を検出する。エアフローメータ102は、検出した吸入空気量を示す信号をECU100に送信する。
【0022】
エンジン20においては、吸気通路94から流通する空気と、燃料噴射装置(図示せず)から噴射される燃料との混合気を気筒内で燃焼させることにより、動力を発生させる。エンジン20は、発生した動力をクラッチ30に伝達する。また、エンジン20の出力は、ECU100からのエンジン制御信号に基づいて制御される。
【0023】
エンジン20には、排気システム150が設けられる。排気システム150は、排気管152,154と、触媒コンバータ(図示せず)と、消音器(図示せず)とを含む。
【0024】
排気管152,154には、エンジン20からの排気が流通し、触媒コンバータおよび消音器を流通した後に車両10の外部に排出される。本実施の形態において排気管152,154のそれぞれの一方端は、たとえば、2つのバンクを有するエンジン20の各バンクの排気ポートにそれぞれ接続される。そのため、クラッチ30は、排気管152,154の間に位置することとなる。エンジン20の負荷が高くなるほど排気温度が高くなるため、排気管152,154の温度も上昇することとなる。
【0025】
クラッチ30の入力軸は、エンジン20の出力軸(クランクシャフト)に連結される。クラッチ30の出力軸は、変速機40の入力軸に連結される。本実施の形態において、クラッチ30は、乾式クラッチであるとして説明するが湿式クラッチであってもよい。また、クラッチ30は、運転者のクラッチペダルの操作により作動するものであってもよいし、油圧あるいは電動アクチュエータを用いて作動するものであってもよい。
【0026】
クラッチ30は、入力軸側および出力軸側にそれぞれ連結される少なくとも2つの摩擦係合要素を含む。クラッチ30は、2つの摩擦係合要素を係合させることでエンジン20と変速機40との間を動力伝達状態とする。また、クラッチ30は、係合した2つの摩擦係合要素の係合力を弱めて、2つの摩擦係合要素を解放させることでエンジン20と変速機40との間を動力遮断状態とする。クラッチ30は、排気管152,154に対して予め定められた距離を有するように設けられ、作動により熱を発生させる。
【0027】
変速機40は、クラッチ30を経由して伝達されるエンジン20の動力を変速してプロペラシャフト50に伝達する。変速機40は、手動変速機であるとして説明するが、自動変速機であってもよい。
【0028】
プロペラシャフト50は、変速機40とディファレンシャルギヤ60とを接続する。プロペラシャフト50は、変速機40から伝達される動力をディファレンシャルギヤ60に伝達する。
【0029】
ディファレンシャルギヤ60には、一方端が車輪80に接続されるドライブシャフト70の他方端が接続される。ディファレンシャルギヤ60は、車両10の旋回走行時において、ドライブシャフト70を介在して連結される左右の車輪80の回転差を吸収する差動装置である。
【0030】
ECU100には、水温センサ104と、エンジン回転数センサ106と、車輪速センサ108と、気温センサ112と、湿度センサ114とが接続される。
【0031】
水温センサ104は、エンジン20の内部を流通する冷却水の温度(以下、水温と記載する)を検出する。水温センサ104は、検出された水温を示す信号をECU100に送信する。
【0032】
エンジン回転数センサ106は、エンジン20の出力軸の回転数(以下、エンジン回転数と記載する)を検出する。エンジン回転数センサ106は、検出されたエンジン回転数を示す信号をECU100に送信する。
【0033】
車輪速センサ108は、車輪80の回転数(以下、車輪速と記載する)を検出する。車輪速センサ108は、車輪速を示す信号をECU100に送信する。
【0034】
気温センサ112は、気温を検出し、検出された気温を示す信号をECU100に送信する。湿度センサ114は、湿度を検出し、検出された湿度を示す信号をECU100に送信する。
【0035】
なお、気温センサ112および湿度センサ114は、車両10の外部に設けられ、車両10の周囲の気温および湿度あるいは車両10に接触する走行風の温度および湿度を検出するようにしてもよいし、エンジンルーム内に設けられ、エンジンルーム内に導入される走行風の温度および湿度を検出するようにしてもよい。
【0036】
以上のような構成を有する車両10のように、クラッチ30の周囲に熱源である排気管152,154が設けられるため、熱源から伝達される熱の影響によりクラッチ30の温度が変動する場合がある。そのため、クラッチ30の作動状態に基づくクラッチ30の推定温度の精度が悪化する場合がある。
【0037】
そこで、本実施の形態においては、ECU100が、熱源である排気管152,154の温度を推定し、推定された排気管152,154の温度と、排気管152,154からクラッチ30への熱伝達の程度と、クラッチ30の作動状態とに基づいてクラッチ30の温度を推定する点に特徴を有する。
【0038】
具体的には、ECU100は、クラッチ30の発熱量および放熱量に基づいてクラッチ30の温度の上昇量および下降量を算出する。また、ECU100は、推定された排気管152,154の温度と、排気管152,154からクラッチ30への熱伝達の程度とに基づいて、クラッチ30の温度の補正量を算出する。そして、ECU100は、算出された上昇量、下降量および補正量に基づいてクラッチ30の温度を推定する。
【0039】
なお、排気管152,154からクラッチ30への熱伝達の程度とは、排気管152,154において発生した熱量のうちのクラッチ30に伝達される熱量の割合であって、以下の説明においては、熱伝達率と記載する。
【0040】
ECU100は、走行風の風量に対応する車両10の速度と、走行風の温度と、走行風の湿度とのうちの少なくともいずれか1つに基づいて熱伝達率を補正する。
【0041】
図2に、本実施の形態に係る部品温度推定装置であるECU100の機能ブロック図を示す。ECU100は、初期温度算出部200と、熱源温度推定部202と、車両状態取得部204と、熱伝達率補正量算出部206と、温度補正量算出部208と、上昇温度算出部210と、下降温度算出部212と、クラッチ温度推定部214とを含む。
【0042】
初期温度算出部200は、クラッチ30の初期温度を算出する。具体的には、初期温度算出部200は、水温センサ104により検出される水温に基づいてクラッチ30の初期温度を算出する。初期温度算出部200は、たとえば、エンジン20が停止中である場合、あるいは、エンジン20が停止してから予め定められた時間が経過している場合に、水温センサ104により検出された水温に基づいてクラッチ30の初期温度を算出する。
【0043】
初期温度算出部200は、水温センサ104により検出された水温の値をそのままクラッチ30の初期温度の値として算出するようにしてもよいし、検出された水温の値に予め定められた係数を乗じた値をクラッチ30の初期温度の値として算出するようにしてもよい。
【0044】
熱源温度推定部202は、クラッチ30の近傍の熱源である排気管152,154の温度を推定する。具体的には、熱源温度推定部202は、エンジン20の負荷に基づいて排気管152,154の温度を推定する。熱源温度推定部202は、たとえば、吸入空気量を入力値としてエンジン20の負荷を推定し、推定されたエンジン20の負荷に基づいて排気管152,154の温度を推定する。
【0045】
熱源温度推定部202は、たとえば、クラッチ30の初期温度と同様に、エンジン20の停止中あるいはエンジン20が停止してから予め定められた時間の経過した後に、水温センサ104により検出された水温の値に基づいて排気管152,154の初期温度を設定する。熱源温度推定部202は、初期温度の設定後であって、かつ、エンジン20が始動した後に、予め定められた計算周期毎に排気管152,154の温度の変動分を吸入空気量(エンジン20の負荷)に基づいて算出し、積算するようにしてもよい。なお、吸入空気量に代えて吸気管圧力を用いてもよい。熱源の温度の推定としては、上述の方法に特に限定されるものではなく、その他の周知技術を用いて熱源の温度を推定するようにしてもよい。
【0046】
車両状態取得部204は、車両10の外環境および走行状態を取得する。本実施の形態においては、車両10の外環境とは、走行風の気温および走行風の湿度であり、車両10の走行状態とは、たとえば、走行風の風量に対応する車速であるとして説明するが、特にこれらに限定されるものではなく、たとえば、加速度、エンジン20の出力トルクあるいはクラッチ30の伝達トルクであってもよい。
【0047】
本実施の形態においては、車両状態取得部204は、気温センサ112および湿度センサを用いて気温および湿度を取得し、車輪速センサ108を用いて車輪速を取得する。車両状態取得部204は、取得した車輪速に基づいて車速を算出することにより、車速を取得する。また、車両状態取得部204は、吸入空気量に基づいてあるいはエンジン20の制御システムから通信によりエンジン20の出力トルクを取得するようにしてもよい。
【0048】
熱伝達率補正量算出部206は、取得した車両10の外環境および走行状態に基づいて熱伝達率補正量を算出する。本実施の形態においては、熱伝達率補正量算出部206は、気温センサ112により取得された気温Taに基づいて熱伝達率補正量Caを算出する。たとえば、熱伝達率補正量算出部206は、気温センサ112により取得された気温Taと、図3に示すマップに基づいて熱伝達率補正量Caを算出する。
【0049】
図3の縦軸は熱伝達率補正量Caを示し、横軸は、気温Taを示す。図3に示すマップにおいて、気温Taと熱伝達率補正量Caとの関係は、気温Ta(1)である場合の熱伝達率補正量Ca(1)が、気温Ta(1)よりも高い気温Ta(2)である場合の熱伝達率補正量Ca(2)よりも低い関係となる。すなわち、図3に示すマップは、気温Taが高くなるほど熱伝達率補正量Caも上昇する関係を示す。
【0050】
熱伝達率補正量算出部206は、たとえば、気温センサ112により気温Ta(3)が取得された場合には、取得された気温Ta(3)と図3に示すマップとから熱伝達率補正量Ca(3)を算出する。
【0051】
同様に、熱伝達率補正量算出部206は、車輪速センサ108により取得された車輪速から車速Vを算出し、算出された車速Vに基づいて熱伝達率補正量Cbを算出する。たとえば、熱伝達率補正量算出部206は、車速Vと、図4に示すマップに基づいて熱伝達率補正量Cbを算出する。
【0052】
図4の縦軸は熱伝達率補正量Cbを示し、横軸は車速Vを示す。図4に示すマップにおいて、車速Vと熱伝達率補正量Cbとの関係は、車速V(1)である場合の熱伝達率補正量Cb(1)が車速V(1)よりも高い車速V(2)である場合の熱伝達率補正量Cb(2)よりも高い関係となる。すなわち、図4に示すマップは、車速Vが高くなるほど熱伝達率補正量Cbは下降する関係を示す。
【0053】
熱伝達率補正量算出部206は、たとえば、車速V(3)が算出された場合に、算出された車速V(3)と図4に示すマップとから熱伝達率補正量Cb(3)を算出する。
【0054】
なお、図3および図4に示すマップは、一例であり車両の種類あるいはエンジン20の種類等により実験的に適合される。
【0055】
また、本実施の形態においては、熱伝達率補正量算出部206は、気温Taに基づいて熱伝達率補正量Caを算出し、車速Vに基づいて熱伝達率補正量Cbを算出するとして説明したが、特に、気温および車速に限定して熱伝達率補正量を算出するものではなく、気温および車速に加えてまたは代えて湿度、エンジントルク等に基づいて同様に熱伝達率補正量を算出するようにしてもよい。
【0056】
温度補正量算出部208は、熱伝達率補正量算出部206により算出された熱伝達率補正量Ca,Cbに基づいてクラッチ30の温度補正量を算出する。温度補正量算出部208は、たとえば、熱源である排気管152,154とクラッチ30との距離等により予め定められる熱伝達率を、熱伝達率補正量算出部206により算出された熱伝達率補正量Ca,Cbの加算により補正する。温度補正量算出部208は、排気管152,154の前回の推定温度を基準とした温度上昇量により発生した熱量を算出し、算出された熱量と補正された熱伝達率とに基づいてクラッチ30に伝達される熱量を算出する。温度補正量算出部208は、排気管152,154からクラッチ30に伝達される熱量に基づいてクラッチ30の温度補正量を算出する。温度補正量算出部208は、たとえば、熱量の補正量と熱量を温度に変換する予め定められた換算式とに基づいて温度補正量を算出すればよい。
【0057】
本実施の形態において、熱源は、排気管152,154の2つあるため、各熱源からの熱伝達による温度補正量をそれぞれ算出し、その和より最終的な温度補正量を算出してもよいし、あるいは、同一の熱量を発生する2つの熱源を1つの熱源とみなして温度補正量を算出するようにしてもよい。
【0058】
上昇温度算出部210は、クラッチ30の作動状態に基づいてクラッチ30の上昇温度を算出する。なお、上昇温度とは、前回の計算から今回の計算までの予め定められた計算周期において上昇が予測される温度変化量を示す。
【0059】
上昇温度算出部210は、たとえば、エンジン20からクラッチ30に対して入力されるエネルギと、クラッチ30の滑り量とに基づいて上昇温度を算出する。
【0060】
上昇温度算出部210は、エンジン20の出力トルク等に基づいてエンジン20からクラッチ30に対して入力されるエネルギを推定する。また、上昇温度算出部210は、クラッチ30の入力軸回転数(すなわち、エンジン回転数)と、クラッチ30の出力軸回転数との差によりクラッチ30の滑り量を算出する。
【0061】
上昇温度算出部210は、クラッチ30に対して入力されるエネルギと、クラッチ30の滑り量とに基づいてクラッチ30においての発熱量を推定し、推定された発熱量に基づいてクラッチ30の上昇温度を算出する。
【0062】
クラッチ30に対して入力されるエネルギと、クラッチ30の滑り量と、発熱量との関係および発熱量と上昇温度との関係は、それぞれ予めマップ等により定めておけばよい。上昇温度算出部210は、たとえば、クラッチ30に入力されるエネルギがしきい値よりも大きい場合に上昇温度を算出するようにしてもよい。なお、上昇温度算出部210は、特に上記した方法に限らず、周知の技術を用いて、クラッチ30の作動状態に基づくクラッチ30の上昇温度を算出すればよい。
【0063】
下降温度算出部212は、クラッチ30の作動状態に基づいてクラッチ30の下降温度を算出する。なお、下降温度とは、前回の計算から今回の計算までの予め定められた計算周期において下降が予測される温度変化量を示す。
【0064】
下降温度算出部212は、たとえば、クラッチ30から外気への放熱の程度、あるいは、クラッチ30からエンジン20あるいは変速機40への熱伝達の程度等に基づいてクラッチ30においての放熱量を推定し、推定された放熱量に基づいてクラッチ30の下降温度を算出する。下降温度算出部212は、たとえば、クラッチ30に入力されるエネルギがしきい値以下の場合に下降温度を算出するようにしてもよい。なお、下降温度算出部212は、特に上記した方法に限らず、周知の技術を用いて、クラッチ30の作動状態に基づくクラッチ30の下降温度を算出すればよい。
【0065】
クラッチ温度推定部214は、上昇温度算出部210にて算出された上昇温度と、下降温度算出部212にて算出された下降温度と、温度補正量算出部208にて算出された温度補正量とに基づいてクラッチ30の温度を推定する。クラッチ温度推定部214は、たとえば、前回算出された推定値と上昇温度と下降温度と温度補正量との和を、今回のクラッチ30の温度の推定値として算出するようにしてもよい。クラッチ温度推定部214にて推定されたクラッチ30の温度は、クラッチ30の制御に用いられたり、警告制御に用いられたりする。クラッチ30の制御は、たとえば、クラッチ30の温度が予め定められた温度以上である場合には、強制的にクラッチ30の係合状態あるいは解放状態を維持する制御を含む。警告制御は、クラッチ30の温度が予め定められた温度以上であることを車両10の乗員に通知するための通知装置(たとえば、スピーカや表示装置)の制御を含む。
【0066】
本実施の形態において、初期温度算出部200と、熱源温度推定部202と、車両状態取得部204と、熱伝達率補正量算出部206と、温度補正量算出部208と、上昇温度算出部210と、下降温度算出部212と、クラッチ温度推定部214とは、いずれもECU100のCPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両10に搭載される。
【0067】
図5を参照して、本実施の形態に係る部品温度推定装置であるECU100で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0068】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、ECU100は、クラッチ30の初期温度を算出する。S102にて、熱源である排気管152,154の温度を推定する。S104にて、ECU100は、外環境(気温Ta)および車両10の走行状態(車速V)を取得する。
【0069】
S106にて、ECU100は、気温Taおよび車速Vに基づいて熱伝達率補正量Ca,Cbを算出する。S108にて、ECU100は、温度補正量を算出する。S110にて、ECU100は、上昇温度を算出する。S112にて、ECU100は、下降温度を算出する。S114にて、ECU100は、前回の計算にて推定されたクラッチ30の温度と、初期温度と、温度補正量と、上昇温度と、下降温度との和によりクラッチ30の温度を推定する。
【0070】
S116にて、ECU100は、終了条件が成立したか否かを判定する。終了条件とは、たとえば、IGオフなどのECU100の停止条件が成立するという条件であってもよいし、クラッチ30の温度の推定が不要となる条件が成立するという条件であってもよい。終了条件が成立すると(S116にてYES)、この処理は終了する。もしそうでないと(S116にてNO)、処理はS102に戻される。
【0071】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係る部品温度推定装置であるECU100の動作について図6を参照して説明する。
【0072】
車両10が走行を開始すると、クラッチ30の初期温度が算出され(S100)、熱源である排気管152,154の温度が推定される(S102)。このとき、エンジン20の負荷が低い場合には排気温度が低いため、図6の排気管152,154の推定温度の変化に示すように、排気管152,154の温度も低くなる。
【0073】
車両10の外環境(気温Ta)および車両10の走行状態(車速V)が取得され(S104)、取得された車両10の外環境および車両10の走行状態に基づいて熱伝達率補正量Ca,Cbが算出される(S106)。
【0074】
算出された熱伝達率補正量Ca,Cbに基づいて温度補正量が算出され(S108)、クラッチ30における発熱量に基づいて上昇温度が算出され(S110)、クラッチ30における放熱量に基づいて下降温度が算出され(S112)、算出された初期温度と、温度補正量と、上昇温度と、下降温度との和よりクラッチ30の温度が推定される(S114)。終了条件が成立しない限り(S116にてNO)、クラッチ30の温度の推定処理が繰返される。
【0075】
たとえば、車両10が発進および停止を繰返したり、低車速時のように継続的あるいは断続的にクラッチ30の半係合状態が維持される場合においては、エンジン20からクラッチ30に入力されたエネルギがクラッチ30の滑りにより生じる摩擦熱として変換される。そのため、エンジン20からクラッチ30に入力されたエネルギが上昇するほど摩擦熱に変換されるエネルギが増加するためクラッチ30の実温度は上昇する。
【0076】
このとき、エンジン20の負荷は低いため、排気管152,154の温度は、クラッチ30の実温度に影響を与えない温度Tb(1)を維持することとなる。そのため、クラッチ30の推定温度は、排気管152,154の熱影響の考慮の有無に関係なく、クラッチ30の実温度の変化とほぼ一致することとなる。
【0077】
運転者がアクセルペダルの踏み込み量を増加させるなどしてエンジン20の負荷が高められた場合には、排気温度が上昇することにより排気管152,154の温度も上昇することとなる。このとき、クラッチ操作あるいはクラッチ制御が実行されず、クラッチ30が完全に係合した状態が維持される場合には、エンジン20からクラッチ30に入力されたエネルギは、クラッチ30において摩擦熱に変換されることなくそのまま変速機40に伝達される。そのため、クラッチ30においては、放熱量が発熱量を上回ることとなるため、クラッチ30の実温度は下降していく。このとき、排気管152,154の温度は、クラッチ30の実温度に影響を与える温度まで上昇していないため、クラッチ30の推定温度は、下降温度が上昇温度を上回ることとなるため、排気管152,154の熱影響の考慮の有無に関係なく、クラッチ30の実温度の変化とほぼ一致することとなる。
【0078】
時間T(0)にて、排気管152,154の温度がTb(0)よりも高いTb(1)以上になると、排気管152,154において発生した熱がクラッチ30に伝達されることとなる。そのため、クラッチ30の実温度は上昇することとなる。
【0079】
排気管152,154の熱影響を考慮しない場合には、クラッチ30が完全に係合した状態が維持されるため、エンジン20からクラッチ30に入力されたエネルギが、クラッチ30において摩擦熱に変換されることなくそのまま変速機40に伝達されていることから下降温度が上昇温度を上回り、クラッチ30の推定温度は、図6の破線に示すようにクラッチ30の実温度を下回るように変化する。
【0080】
一方、排気管152,154の熱影響を考慮する場合には、排気管152,154の温度の増加により温度補正量が増加するため、クラッチ30の推定温度の変化は、図6の実線に示すように、クラッチ30の実温度の上昇変化とほぼ一致することとなる。
【0081】
以上のようにして、本実施の形態に係る部品温度推定装置によると、熱源である排気管の温度と、排気管からクラッチへの熱伝達率と、クラッチの作動状態とに基づいてクラッチの温度を推定することにより、排気管から伝達される熱の影響によるクラッチの温度の変動分を考慮してクラッチの温度を精度高く推定することができる。そのため、温度センサを用いて直接的に部品の温度を検出する必要がないため、部品点数の増加を抑制することができる。その結果、コストの上昇を抑制することができる。したがって、コストの上昇を抑制しつつ、車両に搭載される部品の温度を精度高く推定する部品温度推定装置および部品温度推定方法を提供することができる。
【0082】
さらに、クラッチにおける発熱量と放熱量とに基づいてクラッチの温度の上昇量と下降量とを算出し、排気管の温度と、排気管からクラッチへの熱伝達率とに基づいて温度補正量を算出することにより、排気管から伝達される熱の影響によるクラッチの温度の変動分を考慮してクラッチの温度を精度高く推定することができる。
【0083】
本実施の形態においては、クラッチ30を温度推定の対象として説明したが、特に、クラッチ30に限定されるものではなく、車両10に搭載され、排気管等の熱源に対して予め定められた距離を有するように設けられ、作動によって熱を発生させる部品であれば、特にクラッチ30に限定されるものではない。
【0084】
また、本実施の形態においては、FR(Front engine Rear drive)であって、かつ、エンジンに設定された2つのバンクから変速機40側に向けて設けられる2つの排気管152,154の間にクラッチ30が位置するというレイアウトを一例として説明したが、特にこのようなレイアウトに限定されるものではない。
【0085】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0086】
10 車両、20 エンジン、30 クラッチ、40 変速機、50 プロペラシャフト、60 ディファレンシャルギヤ、70 ドライブシャフト、80 車輪、90 吸気システム、92 エアクリーナ、94 吸気通路、96 電子スロットル、98 スロットルバルブ、100 ECU、102 エアフローメータ、104 水温センサ、106 エンジン回転数センサ、108 車輪速センサ、112 気温センサ、114 湿度センサ、116 スロットルポジションセンサ、150 排気システム、152,154 排気管、200 初期温度算出部、202 熱源温度推定部、204 車両状態取得部、206 熱伝達率補正量算出部、208 温度補正量算出部、210 上昇温度算出部、212 下降温度算出部、214 クラッチ温度推定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された熱源に対して予め定められた距離を有するように配置された部品の温度を推定するための部品温度推定装置であって、
前記熱源の温度を推定するための第1の推定手段と、
前記第1の推定手段によって推定された前記熱源の温度と、前記熱源から前記部品への熱伝達の程度と、前記部品の作動状態とに基づいて前記部品の温度を推定するための第2の推定手段とを含む、部品温度推定装置。
【請求項2】
前記第2の推定手段は、
前記部品の作動による発熱量に基づいて前記部品の温度の上昇量を算出するための第1の算出手段と、
前記部品の放熱量に基づいて前記部品の温度の下降量を算出するための第2の算出手段と、
前記熱源の温度と前記熱伝達の程度とに基づいて前記部品の温度補正量を算出するための第3の算出手段と、
前記上昇量、前記下降量および前記温度補正量に基づいて前記部品の温度を推定するための手段とを含む、請求項1に記載の部品温度推定装置。
【請求項3】
前記部品温度推定装置は、走行風の風量に対応する前記車両の速度と、前記走行風の温度と、前記走行風の湿度とのうちの少なくともいずれか1つに基づいて前記熱伝達の程度を補正するための補正手段をさらに含む、請求項1または2に記載の部品温度推定装置。
【請求項4】
前記車両は、内燃機関と変速機とを含み、
前記部品は、前記内燃機関と前記変速機とを連結するクラッチであって、
前記熱源は、前記内燃機関から前記変速機側に向けて配設される排気管である、請求項1〜3のいずれかに記載の部品温度推定装置。
【請求項5】
車両に搭載された熱源に対して予め定められた距離を有するように配置された部品の温度を推定するための部品温度推定方法であって、
前記熱源の温度を推定するステップと、
前記熱源の温度を推定するステップにて推定された前記熱源の温度と、前記熱源から前記部品への熱伝達の程度と、前記部品の作動状態とに基づいて前記部品の温度を推定するステップとを含む、部品温度推定方法。
【請求項6】
前記部品の温度を推定するステップは、
前記部品の作動による発熱量に基づいて前記部品の温度の上昇量を算出するステップと、
前記部品の放熱量に基づいて前記部品の温度の下降量を算出するステップと、
前記熱源の温度と前記熱伝達の程度とに基づいて前記部品の温度補正量を算出するステップと、
前記上昇量、前記下降量および前記温度補正量に基づいて前記部品の温度を推定するステップとを含む、請求項5に記載の部品温度推定方法。
【請求項7】
前記部品温度推定方法は、走行風の風量に対応する前記車両の速度と、前記走行風の温度と、前記走行風の湿度とのうちの少なくともいずれか1つに基づいて前記熱伝達の程度を補正するステップをさらに含む、請求項5または6に記載の部品温度推定方法。
【請求項8】
前記車両は、内燃機関と変速機とを含み、
前記部品は、前記内燃機関と前記変速機とを連結するクラッチであって、
前記熱源は、前記内燃機関から前記変速機側に向けて配設される排気管である、請求項5〜7のいずれかに記載の部品温度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−276074(P2010−276074A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127587(P2009−127587)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】