説明

配向膜組成物、配向膜、光学フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】良好な光学補償能を有するとともに、保存、および製造適性に優れ、安定生産可能な光学フィルム、ならびに該光学フィルムを用いた偏光板および液晶表示装置の提供。
【解決手段】支持体、配向膜、および液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムの製造に使用される配向膜組成物。前記配向膜組成物は、側鎖に反応性基を有する高分子、エチレン性不飽和結合を有する化合物、光酸発生剤、および水を20質量%以上含む溶媒を少なくとも含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶分野で用いられる配向膜組成物、配向膜、液晶性化合物から作製される光学フィルム、偏光板および液晶表示装置に関する。より詳細には、光学フィルム製造において製造適性の高い液晶配向膜を得るための配向膜組成物、および液晶表示装置の視野角特性の向上に寄与する光学フィルムおよび偏光板、ならびに視野角特性が改善された液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差板は画像着色解消や視野角拡大のために、様々な液晶表示装置で用いられている。従来、位相差板としては延伸複屈折フィルムが使用されていたが、近年、延伸複屈折フィルムに代えて、透明支持体上に液晶性分子からなる光学異方性層を有する光学フィルムを位相差板として使用することが提案されている。この光学異方性層は、通常、液晶分子を含む組成物を配向膜上に塗布し、配向温度よりも高い温度に加熱して液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定することにより形成される。
【0003】
液晶性化合物の配向方向を規定する配向膜としては、種々のものが知られており、SiO2、TiO2、MgF2等の金属酸化物やフッ化物を蒸着物質とした無機斜方蒸着膜や、アゾベンゼン誘導体からなるLB膜のように光により異性化を起こし、分子が方向性を持って均一に配列する薄膜などが挙げられ、中でも、生産性の点から、表面をラビング処理したポリマー層が好ましい。この配向膜用のポリマーとしては、ポリイミドがよく用いられている。他にも特許文献1に記載のポリアミド、特許文献2、3、4または5等に記載のポリビニルアルコールや、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾールなども用いられている。
【0004】
中でも、特許文献3に記載の、水酸基の一部が架橋性基に置換された変性ポリビニルアルコールを配向膜として用いた光学フィルムは、全方向視野角を格段に拡大させるものである。この光学フィルムでは配向膜に架橋性基が導入されているため、配向膜のポリマーと光学異方性層とが、これらの層の界面を介して化学的に結合していることを特徴とするため、長期間保存したり、使用した場合にでも剥離することはない。
【0005】
また、特許文献6には、ポリマーに変性がなされていない場合であっても、エチレン性不飽和結合を有するモノマーまたはオリゴマーを配向膜組成物に添加し、その塗布膜を紫外線、または電子線により硬化することにより配向膜と光学異方層の密着性を高める方法が開示されている。そして、特許文献6には、この方法によれば、ポリマーに変性がされている場合には、配向膜と光学機能層の密着性を更に高めることができると記載されている。
【0006】
一方、位相差板として用いられる光学フィルムは、液晶表示装置において個別に用いられる場合もあれば偏光板の保護フィルムを兼ねる場合もある。後者の場合、偏光板製造プロセスにおけるケン化処理時のケン化浴への溶出や膜剥がれが問題となる。前述の変性ポリビニルアルコールを配向膜に用いた場合やエチレン性不飽和結合を有するモノマーまたはオリゴマーを配向膜組成物に添加し、その塗布膜を紫外線、または電子線により硬化することにより配向膜を形成した場合でも、光学フィルム、または偏光板の製造条件によってはケン化浴への溶出や膜剥がれが起こる場合があり、改善すべき課題となっていた。
【特許文献1】特開平3−9326号公報
【特許文献2】特開平3−291601号公報
【特許文献3】特開平9−152509号公報
【特許文献4】特開平2002−268068号公報
【特許文献5】特開平2002−350859号公報
【特許文献6】特開2004−206100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、良好な光学補償能を有するとともに、保存、および製造適性に優れ、安定生産可能な光学フィルム、ならびに該光学フィルムを用いた偏光板および液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する手段は、以下の通りである。
[1]支持体、配向膜、および液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムの製造に使用される配向膜組成物であって、側鎖に反応性基を有する高分子、エチレン性不飽和結合を有する化合物、光酸発生剤、および水を20質量%以上含む溶媒を少なくとも含有することを特徴とする配向膜組成物。
[2]前記光酸発生剤が水溶性化合物である[1]に記載の配向膜組成物。
[3]前記光酸発生剤がヨードニウム塩、またはスルホニウム塩である[2]に記載の配向膜組成物。
[4]前記高分子が側鎖に重合性基を有するポリビニルアルコール誘導体、ポリ(メタ)アクリレート誘導体および多糖類から選択される少なくとも一種である[1]〜[3]のいずれかに記載の配向膜組成物。
[5]支持体上に[1]〜[4]のいずれかに記載の配向膜組成物を塗布乾燥して塗布膜を形成する工程、該塗布膜に光を照射する工程、および該光照射された塗布膜をラビングする工程をこの順序で有する製造方法により製造されることを特徴とする配向膜。
[6]支持体上に[1]〜[4]いずれかに記載の配向膜組成物を塗布乾燥して塗布膜を形成する工程、該塗布膜をラビングする工程、および該ラビングされた塗布膜に光を照射する工程をこの順序で有する製造方法により製造されること特徴とする配向膜。
[7]支持体、配向膜、および液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムにおいて、前記配向膜が[5]または[6]に記載の配向膜であり、かつ前記光学異方性層が前記液晶性化合物の重合体から形成されることを特徴とする光学フィルム。
[8]前記液晶性化合物がディスコティック液晶性化合物を含む[7]に記載の光学フィルム。
[9]前記液晶性化合物が棒状液晶性化合物を含む[7]に記載の光学フィルム。
[10]前記液晶組成物が棒状液晶性化合物とカイラル剤を含む液晶性組成物である[7]に記載の光学フィルム。
[11]前記光学異方性層の正面レターデーション(Re)が0でなく、面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として光学フィルムの法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として光学フィルムの法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値が実質的に等しいことを特徴とする[7]〜[10]のいずれかに記載の光学フィルム。
[12][7]〜[11]のいずれかに記載の光学フィルムと、偏光膜とを有する偏光板。
[13][7]〜[11]のいずれかに記載の光学フィルム、または[12]に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
[14]VAモードである請求項13に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、配向膜組成物への光酸発生剤の添加により効率よく架橋反応を進行させることができるため、配向膜と光学異方性層に高い密着性を付与し、かつ配向膜そのもののケン化耐性を格段に向上させることができる。特に、本発明によれば、偏光板加工時におけるケン化処理時のケン化浴への溶出や膜剥がれのない配向膜を形成することができるため、この配向膜を用いることにより、生産性に優れた偏光板の製造が可能となる。
【0010】
さらに、本発明の光学フィルムを利用することにより、従来の液晶表示装置と同じ構成で、液晶セルを光学的に補償することが可能になり、前記光学フィルムを有する本発明の液晶表示装置は、表示品位のみならず、視野角が著しく改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
なお本発明において、Re、Rthは各々、波長λにおける正面レターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して角度を変えて、傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定した複数のレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。
【0013】
本明細書において、角度について「実質的に」とは、厳密な角度との誤差が±5°未満の範囲内であることを意味する。さらに、厳密な角度との誤差は、4°未満であることが好ましく、3°未満であることがより好ましい。レターデーションについて「実質的に等しい」とは、レターデーションが±10%以内の差であることを意味する。また、屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、可視光域の任意の波長を指す。なお、本明細書において、「可視光」とは、波長が400〜700nmの光ことをいう。
【0014】
[光学フィルム]
図1は本発明の光学フィルムの一例の概略断面図である。本発明の光学フィルムは、透明支持体11上に光学異方性層12を有し、光学フィルムとして機能する。透明支持体11と光学異方性層12との間には、光学異方性層12中の液晶性分子の配向を制御するための配向膜13が配置されている。配向膜13は、側鎖に反応性基を有する高分子、エチレン性不飽和結合を有する化合物、光酸発生剤、および水を20質量%以上含む溶媒を少なくとも含有する配向膜組成物(配向膜形成用塗布液)を塗布および乾燥し、光照射して形成した層である。光学異方性層12を、重合性基を有する液晶性化合物を含有する組成物から形成すれば、配向膜13と光学異方性層12との密着性を向上させることができ、水洗などの洗浄処理や、けん化処理等の化学処理時にも剥離等が生じ難く、取り扱い性が良好である。光学異方性層12は、液晶性化合物を可溶できる溶媒に溶解して調製した塗布液を、配向性が付与された本発明の配向膜上に塗布することによって作製することができる。また、可能であれば蒸着により形成してもよいが、塗布により形成することが好ましい。塗布方法としては、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ワイヤーバー法等の公知の塗布方法が挙げられる。次いで、25℃〜130℃において用いた溶媒を乾燥すると同時に、液晶性化合物を配向させ、さらに、所望により紫外線照射等によって固定化することによって、液晶性化合物の重合体から形成される光学異方性層が得られる。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、100mJ/cm2〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。液晶セル、特にVAモードの液晶セルを正確に補償するには、光学異方性層12の光学特性は、正面レターデーション(Re)が0でなく、面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として光学フィルムの法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として光学フィルムの法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値が実質的に等しく調整することが好ましい。なお、Reが0でないとは、Reが5nm未満でないことを意味する。
【0015】
[偏光板]
図2(a)〜(d)は本発明の光学フィルムを有する偏光板の概略断面図である。偏光板は、一般的には、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光膜をヨウ素にて染色し、延伸を行うことによって偏光膜21を得、その両面に保護フィルム22および23を積層して作製することができる。本発明の光学フィルムは、光学異方性層を支持するポリマーフィルム等からなる支持体を有するので、この支持体を保護フィルム22および23の少なくとも一方にそのまま用いることができる。この際、光学異方性層12は偏光層21側に(即ち、光学異方性層12が支持体11より偏光膜21により近くに)配置されていても、偏光膜21と反対側に(即ち、光学異方性層12が支持体11より偏光膜21により遠くに)配置されていてもよいが、図2(a)に示した様に、光学異方性層12は、偏光膜21と反対側にあることが好ましい。また、図2(b)のように偏光層21の一方の保護フィルム22の外側に粘着剤等を介して貼合することも可能である。
【0016】
図2(c)および(d)は、図2(a)に示した構成の偏光板に、さらに他の機能性層24を配置した偏光板の構成例である。図2(c)は、本発明の光学フィルムと偏光膜21を挟んで反対側に配置された保護フィルム23の上に、他の機能性層24を配置した構成例であり、図2(d)は、本発明の光学フィルムの上に、他の機能性層24を配置した構成例である。他の機能性層の例としては特に制限されず、λ/4層、反射防止層、ハードコート層等、種々の特性を付与する機能性層が挙げられる。これらの層は、λ/4板、反射防止フィルム、ハードコートフィルム等の一部材として、例えば粘着剤によって貼合してもよいし、図2(d)の構成例では、本発明の光学フィルム(光学異方性層12)上に、他の機能性層24を形成してから、偏光層21と貼り合わせて作製することもできる。また、本発明の光学フィルムと反対側の保護フィルム23そのものを、λ/4板、反射防止フィルム、ハードコートフィルム等の他の機能性フィルムにすることもできる。
【0017】
偏光膜と保護フィルムの積層による偏光板作製の際には、一対の保護フィルムと偏光膜の合計3枚のフィルムを、ロール・トゥ・ロールで貼り合わせることができる。このロール・トゥ・ロールは生産性の観点だけでなく、偏光板の寸法変化やカールの発生が起こりにくく、高い機械的安定性が付与できることから偏光板の製造プロセスとして好ましい方法である。
【0018】
[液晶表示装置]
図3は、本発明の液晶表示装置の一例である。液晶表示装置は、上下の電極基板間にネマチック液晶を挟持してなる液晶セル35、および液晶セルの両側に配置された一対の偏光板36および37を有しており、偏光板の少なくとも一方には図2に示した本発明の偏光板を用いている。本発明の偏光板を用いる際には、光学異方性層が偏光層と液晶セルの電極基板の間になるように配置することができる。ネマチック液晶分子は、電極基板上に施された配向膜およびその表面のラビング処理あるいはリブ等の構造物を設けることによって、所定の配向状態になるように制御されている。
【0019】
偏光板に挟持された液晶セルの下側には輝度向上フィルムや拡散フィルムのような調光フィルム34を1枚以上有していても良い。さらに調光フィルムの下側には冷陰極管31から出た光を正面に照射するための反射板32と導光板33を有している。この冷陰極管と導光板からなるバックライトユニットの代わりに、最近では冷陰極管を液晶セルの下に数本配列した直下型バックライトや、光源としてLEDを用いたLEDバックライト、あるいは有機EL、無機EL等を用いて面発光させるようなバックライトも用いられているが、本発明の光学フィルムはいずれもバックライトにおいても効果がある。
【0020】
さらに、図には示さないが、反射型液晶表示装置の態様では偏光板は観察側に1枚配置したのみでよく、液晶セルの背面あるいは液晶セルの下側基板の内面に反射膜を設置する。もちろん前記光源を用いたフロントライトを液晶セル観察側に設けることも可能である。さらに、表示装置の1画素内に、透過部と反射部を設けた半透過型も可能である。
【0021】
次に、本発明の光学フィルムの作製に用いられる材料、作製方法等について、詳細に説明する。
本発明の光学フィルムは、透明支持体、前記配向膜および前記光学異方性層を有し、前記光学異方性層が、液晶表示装置のコントラスト視野角の拡大し、液晶表示装置の画像着色を解消するために寄与する。本発明の光学フィルムは、前記光学異方性層の支持体が偏光板の保護フィルムを兼ねることによって、または前記光学異方性層が偏光板の保護フィルムを兼ねることによって、液晶表示装置の構成部材を減少させることができる。すなわち、かかる態様にすることにより液晶表示装置の薄型化にも寄与する。
【0022】
本発明では、液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を高分子ポリマーからなる光学的に一軸または二軸性の透明支持体上に形成することにより、液晶表示装置の光学特性を格段に向上させることができる。
【0023】
[液晶性組成物からなる光学異方性層]
本発明の光学フィルムは、液晶性化合物を含む液晶性組成物(光学異方性層形成用塗布液)から形成された光学異方性層を有する。前記光学異方性層は、液晶セルを光学補償するために寄与する。光学異方性層単独で充分な光学補償能を有する態様はもちろん、他の層(例えば支持体)との組み合わせで光学補償に必要とされる光学特性を満足する態様であってもよい。液晶性化合物にはその分子の形状から、棒状タイプと円盤状タイプに分類できる。さらにそれぞれ低分子と高分子タイプがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。本発明では、棒状液晶性化合物、ディスコティック液晶性化合物のいずれを用いることもできる。2種以上の棒状液晶性化合物、2種以上のディスコティック液晶性化合物、または棒状液晶性化合物とディスコティック液晶性化合物との混合物を用いてもよい。前記液晶性化合物は、少なくとも一つの重合性基を有するものであることができる。混合物を用いる場合、少なくとも一種が重合性基を有していればよい。光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。
【0024】
棒状液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。上記高分子液晶性化合物は、低分子の重合性基を有する棒状液晶性化合物が重合した高分子化合物である。特に好ましく用いられる上記低分子の重合性基を有する棒状液晶性化合物としては、下記一般式(IV)で表される棒状液晶性化合物を挙げることができる。
【0025】
一般式(IV):Q1−L1−A1−L3−M−L4−A2−L2−Q2
式中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に、重合性基であり、L1、L2、L3およびL4はそれぞれ独立に、単結合または二価の連結基を表すが、L3およびL4の少なくとも一方は、−O−CO−O−であることが好ましい。A1およびA2はそれぞれ独立に、炭素原子数2〜20のスペーサー基を表す。Mはメソゲン基を表す。
【0026】
以下に、上記一般式(IV)で表される重合性基を有する棒状液晶化合物についてさらに詳細に説明する。式中、Q1およびQ2は、それぞれ独立に、重合性基である。重合性基の重合反応は、付加重合(開環重合を含む)または縮合重合であることが好ましい。換言すれば、重合性基は付加重合反応または縮合重合反応が可能な重合性基であることが好ましい。以下に重合性基の例を示す。
【0027】
【化1】

【0028】
1、L2、L3およびL4で表される二価の連結基としては、−O−、−S−、−CO−、−NR2−、−CO−O−、−O−CO−O−、−CO−NR2−、−NR2−CO−、−O−CO−、−O−CO−NR2−、−NR2−CO−O−、およびNR2−CO−NR2−からなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。上記R2は炭素原子数が1〜7のアルキル基または水素原子である。この場合、L3およびL4の少なくとも一方は、−O−CO−O−(カーボネート基)であることが好ましい。前記式(IV)中、Q1−L1およびQ2−L2−は、CH2=CH−CO−O−、CH2=C(CH3)−CO−O−およびCH2=C(Cl)−CO−O−CO−O−が好ましく、CH2=CH−CO−O−が最も好ましい。
【0029】
1およびA2は、炭素原子数2〜20を有するスペーサー基を表す。炭素原子数2〜12の脂肪族基が好ましく、特にアルキレン基が好ましい。スペーサー基は鎖状であることが好ましく、隣接していない酸素原子または硫黄原子を含んでいてもよい。また、前記スペーサー基は、置換基を有していてもよく、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素)、シアノ基、メチル基、エチル基が置換していてもよい。
【0030】
Mで表されるメソゲン基としては、すべての公知のメソゲン基が挙げられる。特に下記一般式(V)で表される基が好ましい。
一般式(V):−(−W1−L5n−W2
式中、W1およびW2は各々独立して、二価の環状脂肪族基、二価の芳香族基または二価のヘテロ環基を表し、L5は単結合または連結基を表し、連結基の具体例としては、前記式(IV)中、L1〜L4で表される基の具体例、−CH2−O−、および−O−CH2−が挙げられる。nは1、2または3を表す。
【0031】
1およびW2としては、1,4−シクロヘキサンジイル、1,4−フェニレン、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル、1,3,4−オキサジアゾール−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイルが挙げられる。1,4−シクロヘキサンジイルの場合、トランス体およびシス体の構造異性体があるが、どちらの異性体であってもよく、任意の割合の混合物でもよい。トランス体であることがより好ましい。W1およびW2は、それぞれ置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、炭素原子数1〜10のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)、炭素原子数1〜10のアシル基(ホルミル基、アセチル基など)、炭素原子数1〜10のアルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基など)、炭素原子数1〜10のアシルオキシ基(アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基など)、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基などが挙げられる。
【0032】
前記一般式(V)で表されるメソゲン基の基本骨格で好ましいものを、以下に例示する。これらに上記置換基が置換していてもよい。
【0033】
【化2】

【0034】
以下に、前記一般式(IV)で表される化合物の例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、一般式(IV)で表される化合物は、例えば、特表平11−513019号公報に記載の方法で合成することができる。
【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
本発明に用いることができるディスコティック液晶化合物は、様々な文献(C.Destrade et al.,Mol.Cryst.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載されている。ディスコティック液晶化合物の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。
【0039】
ディスコティック液晶化合物は、重合により固定可能な様に、重合性基を有することが好ましい。例えば、ディスコティック液晶化合物の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させた構造が考えられるが、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に連結基を有する構造が好ましい。即ち、重合性基を有するディスコティック液晶化合物は、下記一般式(VI)で表わされる化合物であることが好ましい。
一般式(VI): D(−L−P)n
式中、Dは円盤状コアであり、Lは二価の連結基であり、Pは重合性基であり、nは4〜12の整数である。
【0040】
前記式(VI)中、円盤状コア(D)、二価の連結基(L)および重合性基(P)の好ましい具体例としては、それぞれ、特開2001−4837号公報に記載の(D1)〜(D15)、(L1)〜(L25)、(P1)〜(P18)が挙げられ、同公報に記載される円盤状コア(D)、二価の連結基(L)および重合性基(P)に関する内容をここに好ましく適用することができる。
【0041】
光学異方性層に二軸性を発現させるためには、重合性基を有する棒状液晶性化合物を用いる場合、コレステリック配向もしくは傾斜角が厚み方向に徐々に変化しながらねじれたハイブリッドコレステリック配向を、偏光照射によって歪ませることが必要である。偏光照射によって配向を歪ませる方法としては、二色性液晶性重合開始剤を用いる方法(国際公開WO03/054111号公報)や分子内にシンナモイル基等の光配向性官能基を有する棒状液晶性化合物を用いる方法(特開2002−6138号公報)が挙げられる。
【0042】
重合性基を有するディスコティック液晶化合物を用いる場合、水平配向、垂直配向、傾斜配向、およびねじれ配向のいずれの配向状態で固定されていてもよいが、フィルムの法線方向に対して対称性がある水平配向、垂直配向、ねじれ配向が好ましく、水平配向が最も好ましい。水平配向とはディスコティック液晶性化合物のコアの円盤面と透明支持体の水平面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が10度未満の配向を意味するものとする。
【0043】
前記光学異方性層のReは5〜250nmであることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましく、10〜80nmであることが最も好ましい。Rthは透明支持体のRthとの合計で30〜500nmであることが好ましく、40〜400nmであることがより好ましく、100〜350nmであることが最も好ましい。
【0044】
前記光学異方性層を2層以上積層する場合、液晶化合物の組み合わせについては特に限定されず、全てディスコティック液晶化合物からなる層の積層体、全て棒状液晶化合物からなる層の積層体、ディスコティック液晶化合物からなる層と棒状液晶化合物からなる層の積層体であってもよい。また、各層の配向状態の組み合わせも特に限定されず、同じ配向状態の光学異方性層を積層してもよいし、異なる配向状態の光学異方性層を積層してもよい。
【0045】
前記光学異方性層は、前記液晶性化合物、および所望により下記の重合開始剤や他の添加剤を含む液晶性組成物(光学異方性層形成用塗布液)を、配向膜の上に塗布することで形成することができる。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。塗布液の塗布は、公知の方法(例、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
【0046】
[液晶性化合物の配向状態の固定化]
配向させた液晶性化合物の分子を、配向状態を維持して固定することが好ましい。固定化は、液晶性化合物に導入した重合性基の重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれるが、光重合反応がより好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)が含まれる。
【0047】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。液晶性化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜10J/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0048】
[偏光照射による光配向]
本発明の光学異方性層は、必要に応じて偏光照射により面内のレターデーションを発生させることができる。この偏光照射は、上記配向固定化における光重合プロセスと同時に行ってもよいし、先に偏光照射を行ってから非偏光照射でさらに固定化を行っても良いし、非偏光照射で先に固定化してから偏光照射を行っても良い。大きなレターデーションを得るためには偏光照射のみ、または先に偏光照射することが好ましい。偏光照射は、酸素濃度3%以下、より好ましくは0.5%以下、の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。偏光照射としては、紫外線偏光照射が好ましく、特に365±10nmにピークを持つ偏光照射が好ましく、365±5nmにピークを持つ偏光照射がさらに好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜10J/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。照度は20〜1000mW/cm2であることが好ましく、50〜500mW/cm2であることがより好ましく、100〜350mW/cm2であることがさらに好ましい。偏光照射によって硬化する液晶性化合物の種類については特に制限はないが、重合性基としてエチレン不飽和基を有する液晶性化合物が好ましい。
なお、偏光照射による光配向によって発生した面内のレターデーションを示す光学異方性層は、特に、VAモードの液晶表示装置を光学補償する機能に優れている。
【0049】
[水平配向剤]
前記光学異方性層を形成する液晶性化合物は、下記一般式(VII)〜(IX)で表される化合物の少なくとも一種を併用することで、実質的に水平配向させることができる。尚、本発明で「水平配向」とは、棒状液晶性化合物の場合、分子長軸と透明支持体の水平面が平行であることをいい、ディスコティック液晶性化合物の場合、ディスコティック液晶性化合物のコアの円盤面と透明支持体の水平面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が10度未満の配向を意味するものとする。傾斜角は0〜5度が好ましく、0〜3度がより好ましく、0〜2度がさらに好ましく、0〜1度が最も好ましい。
【0050】
本発明において、前記一般式(VII)〜(IX)にて表される化合物の添加量としては、液晶性化合物の量の0.01〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。なお、前記一般式(VII)〜(IX)にて表される化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0051】
以下、下記一般式(VII)〜(IX)について、順に説明する。
【0052】
【化6】

【0053】
式中、R1、R2およびR3は各々独立して、水素原子または置換基を表し、X1、X2およびX3は単結合または二価の連結基を表す。R1〜R3で各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基またはフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X1、X2およびX3で各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、―NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基または水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−およびSO2−からなる群より選ばれる二価の連結基または該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0054】
【化7】

【0055】
式中、Rは置換基を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上の整数を表す場合、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。Rとして好ましい置換基は、一般式(VII)におけるR1、R2、およびR3で表される置換基の好ましい範囲として挙げてものと同じである。mは、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2または3である。
【0056】
【化8】

【0057】
式中、R4、R5、R6、R7、R8およびR9は各々独立して、水素原子または置換基を表す。R4、R5、R6、R7、R8およびR9でそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(VII)におけるR1、R2およびR3で表される置換基の好ましいものとして挙げたものである。
【0058】
[配向膜組成物、配向膜]
本発明の配向膜組成物は、支持体、配向膜、および液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムの製造に使用される配向膜組成物(配向膜形成用塗布液)であって、側鎖に反応性基を有する高分子、エチレン性不飽和結合を有する化合物、光酸発生剤、および水を20質量%以上含む溶媒を少なくとも含有することを特徴とする配向膜組成物である。
支持体上に本発明の配向膜組成物を塗布乾燥して塗布膜を形成した後に、該塗布膜に紫外線等の光を照射することにより、組成物中に含まれる高分子が有する反応性基を、エチレン性不飽和結合を有する化合物が架橋することによって、該塗布膜の硬化が促進される。一般に、このような硬化反応(架橋反応)の前または後に、配向膜にはラビング処理が施される。ラビング処理は、例えばポリマー層の表面を紙や布で一定方向に数回こすることにより実施される。そして、ラビング処理後の配向膜上に、液晶性組成物(光学異方性層形成用塗布液)を塗布乾燥することにより、配向膜上に光学異方性層を有する光学フィルムが形成される。このように、側鎖に反応性基を有する高分子とエチレン性不飽和結合を有する化合物から形成された配向膜は、その上に形成される光学異方性層との密着性に優れる。しかし、前記架橋反応の進行が不十分であると、当該光学フィルムを偏光板製造プロセスにおけるケン化処理に付すと、ケン化浴への溶出や剥がれが生じ、偏光板の安定生産に支障をきたすおそれがある。それに対し、本発明では、配向膜組成物に光酸発生剤を添加することにより、前述の架橋反応を高効率で進行させることができる。これにより、配向膜と光学異方性層との密着性に優れ、かつ、ケン化処理時の溶出や剥がれが抑制された、偏光板への適用に適した光学フィルムを形成することができる。
【0059】
配向膜は、透明支持体上に設けられ、その上に塗布等で設けられる液晶性化合物の配向方向を規定する機能を有する。本発明において、配向膜は、ラビング処理等の配向処理が施された、エチレン性不飽和結合を有する化合物、具体的にはエチレン性不飽和結合を有するモノマーまたはオリゴマーと光酸発生剤が添加された高分子膜であり、その高分子は側鎖に反応性基を有する高分子である。前記高分子は、ビニル、オキシラン、アジリジニルまたはアリルを有する基を有することができる。前記高分子は、側鎖に重合性基を有するポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール誘導体)、ポリ(メタ)アクリレート誘導体および多糖類から選択される少なくとも一種であることが好ましい。ポリビニルアルコールにおいて、少なくともその一個のヒドロキシル基を、ビニル部分、オキシラン部分またはアジリジニル部分を有する基で置換することができる。上記部分は、一般に、ポリビニルアルコールのポリマー鎖(炭素原子)と、エーテル結合(−O−)、ウレタン結合(−OCONH−)、アセタール結合((−O−)2CH−)またはエステル結合(−OCO−)を介して結合している。ウレタン結合、アセタール結合またはエステル結合が好ましい。ビニル、オキシラン、アジリジニルまたはアリールは、上記結合を介して間接的にポリビニルアルコールに結合していることが好ましく、即ち、上記部分を有する基が、結合基と共にポリビニルアルコールに結合していることが好ましい。
【0060】
ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールに導入されるべき基を有する化合物を、ポリビニルアルコールと反応させることにより、特定の基を有するポリビニルアルコールを得ることができる。ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールは、一般に鹸化度70〜100%のものである。重合度としては、100〜3000の範囲のものが好ましい。鹸化度は、80〜100%の範囲が好ましく、特に鹸化度85〜95%が好ましい。また重合度としては、100〜3000の範囲が好ましい。本発明に好ましく用いられるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールの例について、特開平9−152509号公報に記載されている。
【0061】
前記多糖類としては、セルロース、プルラン、デンプンなどの多糖類、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピルプルランなどのヒドロキシアルキル化多糖類、ジヒドロキシプロピルセルロース、ジヒドロキシプロピルプルラン、ジヒドロキシプロピルデンプンなどのジヒドロキシアルキル化多糖類などが挙げられる。多糖類の配向膜の詳細については、例えば特開平6−230388記載される。また、前記ポリ(メタ)アクリレートとしては、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩、ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどとそれらの誘導体や共重合体が挙げられる。
【0062】
[エチレン不飽和結合を有する化合物]
前記配向膜組成物は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む。前記化合物は、少なくとも一つのエチレン不飽和結合と少なくとも一つの重合性基を有するモノマーまたはオリゴマーであることが好ましい。前記化合物は、例えば、本発明の配向膜組成物を調製する際に、前記高分子とともに溶媒中に溶解され、支持体表面に塗布される。該化合物が、後述する光酸発生剤の存在下で紫外線等の照射によって官能基を有する高分子(例えば、配向膜がポリビニルアルコールまたはその誘導体を主成分とする場合は水酸基)を効率よく架橋して、配向膜の硬化を促進する。その上に、光学異方性層を塗布し、紫外線等の照射によって、重合基を有する前記化合物と重合性基を有する液晶性化合物とを重合させて光学異方性層を形成することにより、配向膜と光学異方性層との密着性をより高めることができる。従って、前記エチレン不飽和結合を有する化合物は、配向膜を構成している高分子が有する官能基に対して親和性の置換基を有していることが好ましい。
【0063】
エチレン性不飽和結合を有する化合物の例としては、トリメトキシビニールシラン、ジエトキシメチルビニールシラン、ジエトキシジビニールシラン、トリエトキシビニールシラン、アリルトリエトキシシラン、3−アリルチオプロピルトリメトキシシラン、3−アリルアミノプロピールトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI)、p−スチリルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等が好ましく、3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0064】
[光酸発生剤]
本発明の配向膜組成物は、光酸発生剤を含むものである。光酸発生剤とは、紫外線等の光照射により酸を発生する化合物である。前記光酸発生剤は、側鎖に反応性基を有する高分子とエチレン性不飽和結合を有する化合物との架橋を効率的に進行させることができ、これにより、配向膜と光学異方性層との密着性向上効果およびケン化処理時の溶出や剥がれの抑制効果を得ることができる。
【0065】
前記配向膜に用いられる光酸発生剤としては、水溶性光酸発生剤が好ましく用いられ、ヨードニウム塩またはスルホニウム塩が特に好ましく用いられる。ヨードニウム塩またはスルホニウム塩の好ましい例としては、下記の一般式で表される塩を挙げることができる。
【0066】
【化9】

【0067】
【化10】

【0068】
式中、RはHまたは炭素数1〜6のアルキル基または分岐アルキル基である。X―はヨードニウム塩またはスルホニウム塩の対イオンを表す。好ましくはPF6-またはCF3SO3-である。
【0069】
好ましい具体例として、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨウドニウムキサフルオロホスファート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨウドニウムキサフルオロホスファート、トリス(4−メチルフェニル)スルフォニウムトリフルオロメタンスルフォネート、トリス(4−メチルフェニル)スルフォニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。その中で特に、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。透明支持体に塗布した配向膜に紫外線等を照射することにより、光酸発生剤が分解され酸が放出される。これによって、前記エチレン不飽和結合を有するモノマーと高分子の架橋反応を高効率で促進することができ、配向膜と光学異方性層との密着性を向上させるとともに、ケン化処理時の溶出や剥がれを抑制することができる。前記架橋反応は、ラビング処理前または処理後に、塗布膜に紫外線、電子線等の光を照射することによって行うことができる。光照射の条件は、配向膜組成物の組成等に応じて適宜設定することができるが、照度50〜200mW/cm2で照射エネルギー10〜100mJ/cm2の非偏光紫外線照射が特に好ましく使用される。
【0070】
前記配向膜組成物に含まれる溶媒は、水を20質量%以上、好ましくは50〜80質量%含む。含水溶媒として使用することで、支持体上に塗布する際、溶媒による支持体の溶出を抑制または制御することができる。
【0071】
前記配向膜組成物中の各成分の含有量は、安定な配向膜を形成できるように適宜設定することができる。例えば、側鎖に反応性基を有する高分子の含有量は、組成物の合計量に対して 2.0〜10.0質量%、好ましくは3.5〜5.0質量%とすることができる。また、エチレン性不飽和結合を含有する化合物の含有量は、前記高分子量に応じて設定することができ、例えば、高分子量に対して1.0〜15.0質量%、好ましくは3.0〜10.0質量%とすることができる。光酸発生剤の添加量は、前述の架橋反応を高効率で促進し得る範囲で適宜設定することができ、例えば、高分子量に対して1.0〜15.0質量%、好ましくは3.0〜10.0質量%とすることができる。また、組成物における溶媒量は、例えば、組成物の合計量に対して80〜98質量%、好ましくは90〜97質量%とすることができる。
【0072】
[支持体]
光学異方性層の支持体としては、光透過率が80%以上であるポリマーフィルムを用いることが好ましい。支持体の厚みは10〜500μmが好ましく、20〜200μmがより好ましく、35〜110μmが最も好ましい。
【0073】
本発明において使用される透明支持体のガラス転移温度(Tg)は、使用目的に応じて適宜定められる。当該樹脂のガラス移転温度は、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃〜200℃、特に好ましくは80℃〜180℃の範囲である。この範囲の樹脂を採用すると、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0074】
透明支持体のReは−200〜100nmの範囲に、そして、Rthは−100〜100nmの範囲に調節することが好ましい。Reは−50〜30nmがなお好ましく、−30〜20nmが最も好ましい。本明細書において負のReとは透明支持体面内遅相軸がTD方向(フィルム搬送方向と直交する方向)にあることを指し、負のRthとは厚み方向の屈折率が面内平均屈折率よりも大きいことを指す。
【0075】
透明支持体を構成するポリマーの例には、セルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート)、ポリオレフィン(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリスルホンが含まれる。市販のポリマー(ノルボルネン系ポリマーでは、アートン(JSR製)、ゼオノア(日本ゼオン製)など)を用いてもよい。
【0076】
特に偏光板の保護フィルムとして用いる場合にはセルロースエステルが好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。セルロースの低級脂肪酸エステルのなかでは、セルロースアセテートが最も好ましい。セルロースエステルのアシル基置換度は、2.50〜3.00であることが好ましく、2.75〜2.95であることがさらに好ましく、2.80〜2.90であることが最も好ましい。
【0077】
セルロースエステルの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、セルロースエステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMm/Mn(Mmは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。Mm/Mnの値は、1.0〜5.0であることが好ましく、1.3〜3.0であることがさらに好ましく、1.4〜2.0であることが最も好ましい。
【0078】
セルロースエステルでは、セルロースの2位、3位および6位のヒドロキシル基が均等に置換されるのでなく、6位の置換度が小さくなる傾向がある。本発明において、セルロースエステルの6位置換度は、2位および3位と同程度またはそれ以上であることが好ましい。2位、3位および6位の置換度の合計に対する6位置換度の割合は、30〜40%であることが好ましい。6位置換度の割合は、31%以上、特に32%以上であることが好ましい。6位の置換度は、0.88以上であることが好ましい。セルロースの6位は、アセチル以外に炭素数3以上のアシル基(例、プロピオニル、ブチリル、バレロイル、ベンゾイル、アクリロイル)で置換されていてもよい。各位の置換度は、NMRによって測定することができる。6位置換度が高いセルロースエステルは、特開平11−5851号公報の段落番号0043〜0044に記載の合成例1、段落番号0048〜0049に記載の合成例2、および段落番号0051〜0052に記載の合成例3を参照して合成することができる。
【0079】
セルロースエステルフィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)、ビフェニルジフェニルホスフェート、およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0080】
セルロースエステルフィルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1質量%を越えると、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。さらに、ライトパイピング防止に、極少量の染料を添加してもよい。透過率の観点からは、波長420nmの光の透過率が50%以上となるように、種類および量を調整することが好ましい。染料の添加量としては、0.01ppm〜1ppmであることが好ましい。
【0081】
セルロースエステルフィルムには、Reレターデーション値やRthレターデーション値を制御するため、レターデーション制御剤を添加することができる。レターデーション制御剤は、セルロースエステル100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用することが好ましく、0.05〜15質量部の範囲で使用することがさらに好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することが最も好ましい。二種類以上のレターデーション制御剤を併用してもよい。レターデーション制御剤については国際公開WO01/88574号、国際公開WO00/2619号の各パンフレット、特開2000−111914号、同2000−275434号の各公報に記載がある。
【0082】
セルロースエステルフィルムは、セルロースエステルおよび他の成分を含む溶液をドープとして用いて、ソルベントキャスト法により製造することができる。ドープを、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成することができる。流延前のドープは、固形分量が10〜40質量%となるように濃度を調整することが好ましい。固形分量は18〜35質量%であることがさらに好ましい。ドープを2層以上流延することもできる。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許第2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許第640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0083】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。そして、得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100〜160℃で逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させる方法(特公平5−17844号公報記載)を採用できる。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。複数のセルロースエステル溶液を流延する場合、支持体の進行方向に間隔をおいて設けた複数の流延口からセルロースエステルを含む溶液をそれぞれ流延させて、それらを積層させながらフィルムを作製してもよい(特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および同11−198285号の各公報記載)。2つの流延口からセルロースエステル溶液を流延することによりフィルムを作製することもできる(特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、同61−947245号、同61−104813号、同61−158413号および特開平6−134933号の各公報に記載)。高粘度セルロースエステル溶液の流れを低粘度のセルロースエステル溶液で包み込み、高粘度および低粘度のセルロースエステル溶液を同時に押出すセルロースエステルフィルムの流延方法(特開昭56−162617号公報記載)を採用してもよい。
【0084】
セルロースエステルフィルムは、さらに延伸処理によりレターデーションを調整することができる。延伸倍率は、3〜100%の範囲にあることが好ましい。テンター延伸が好ましい。遅相軸を高精度に制御するために、左右のテンタークリップ速度および離脱タイミングの差をできる限り小さくすることが好ましい。延伸処理については国際公開WO01/88574号パンフレットの37頁8行〜38頁8行目に記載がある。
【0085】
セルロースエステルフィルムには、表面処理を施すことができる。表面処理には、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理および紫外線照射処理が挙げられる。フィルムの平面性を保持する観点から、表面処理においてセルロースエステルフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
【0086】
セルロースエステルフィルムの厚さは、製膜により作製する場合は、リップ流量とラインスピード、または延伸もしくは圧縮により、調整することができる。使用する主素材により透湿性が異なるので、厚み調整により、偏光板の保護フィルムとしての好ましい透湿性の範囲にすることが可能である。また、前記セルロースエステルフィルムの自由体積は、製膜により作製する場合は、乾燥温度と時間により調整することができる。この場合もまた、使用する主素材により透湿性が異なるので、自由体積調整により保護フィルムとして好ましい透湿性の範囲にすることが可能である。セルロースエステルフィルムの親疎水性は、添加剤により調整することができる。自由体積中に親水的添加剤を添加することで透湿性は高くなり、逆に疎水性添加剤を添加することで透湿性を低くすることができる。この様に種々の方法により、セルロースエステルフィルムの透湿性を調整することで、偏光板の保護フィルムとして好ましい透湿性の範囲とすることができ、光学異方性層の支持体を偏光板の保護フィルムと兼ねることができて、光学補償能を有する偏光板を安価に高い生産性で製造することができる。
【0087】
本発明の配向膜は、支持体上に前記配向膜組成物を塗布乾燥して塗布膜を形成する工程、該塗布膜に光を照射する工程、および該光照射された塗布膜をラビングする工程をこの順序で有する製造方法により、または、支持体上に前記配向膜組成物を塗布乾燥して塗布膜を形成する工程、該塗布膜をラビングする工程、および該ラビングされた塗布膜に光を照射する工程をこの順序で有する製造方法により製造することができる。製造方法の詳細は、先に記載の通りである。
【0088】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、支持体、配向膜、および液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムであり、前記配向膜が、前述の本発明の配向膜であり、かつ前記光学異方性層が前記液晶性化合物の重合体から形成されるものである。本発明の光学フィルムは、例えば、以下に記載する態様で液晶表示装置に用いることができる。但し、本発明はこの態様に限定されるものではない。
【0089】
[偏光板]
本発明の偏光板は、前記光学フィルムと、偏光膜とを有する偏光板である。液晶表示装置に用いる偏光板は、偏光膜と該偏光膜を挟持する一対の保護フィルムとからなる。偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜が挙げられる。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。保護フィルムの種類は特に限定されず、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネート等のセルロースエステル類、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル等を用いることができる。透明保護フィルムは、通常、ロール形態で供給され、長尺の偏光膜に対して、長手方向が一致するようにして連続して貼り合わされることが好ましい。ここで、保護フィルムの配向軸(遅相軸)はいずれの方向であってもよい。また、保護フィルムの遅相軸(配向軸)と偏光膜の吸収軸(延伸軸)の角度も特に限定はなく、偏光板の目的に応じて適宜設定できる。
【0090】
偏光膜と保護フィルムは水系接着剤で貼り合わせてもよい。水系接着剤中の接着剤溶剤は、保護フィルム中を拡散することで乾燥される。保護フィルムの透湿性が高ければ、高いほど乾燥は早くなり生産性は向上するが、高くなりすぎると、液晶表示装置の使用環境(高湿下)により、水分が偏光膜中に入ることで偏光能が低下する。光学フィルムの透湿性は、ポリマーフィルム(および重合性液晶性化合物)の厚み、自由体積、もしくは親疎水性などにより決定される。偏光板の保護フィルムの透湿性は、100〜1000(g/m2)/24hrsの範囲にあることが好ましく、300〜700(g/m2)/24hrsの範囲にあることがさらに好ましい。
【0091】
本発明では、薄型化等を目的に、偏光膜の保護フィルムのうち一方が、光学異方性層の支持体を兼ねていてもよいし、また光学異方性層そのものであってもよい。光学異方性層と偏光膜は、光学軸のズレ防止やゴミなどの異物の侵入防止などの点から、固着処理されていることが好ましい。その固着積層には例えば透明接着層を介した接着方式などの適宜な方式を適用することができる。その接着剤等の種類について特に限定はなく、構成部材の光学特性の変化防止などの点から、接着処理時の硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものが好ましく、長時間の硬化処理や乾燥時間を要しないものが望ましい。このような観点から、親水性ポリマー系接着剤や粘着層が好ましく用いられる。
【0092】
偏光膜の片面または両面に、上記の保護フィルムに準じた耐水性等の各種目的の保護フィルム、表面反射の防止等を目的とした反射防止層または/および防眩処理層などの適宜な機能層を形成した偏光板を用いてもよい。前記反射防止層は、例えばフッ素系ポリマーのコート層や多層金属蒸着膜等の光干渉性の膜などとして適宜に形成することができる。また防眩処理層も例えば微粒子含有の樹脂塗工層やエンボス加工、サンドブラスト加工やエッチング加工等の適宜な方式で表面に微細凹凸構造を付与するなどにより表面反射光が拡散する適宜な方式で形成することができる。
【0093】
なお前記の微粒子には、例えば平均粒子サイズが0.5〜20μmのシリカや酸化カルシウム、アルミナやチタニア、ジルコニアや酸化錫、酸化インジウムや酸化カドミウム、酸化アンチモン等の導電性のこともある無機系微粒子や、ポリメチルメタクリレートやポリウレタの如き適宜なポリマーからなる架橋または未架橋の有機系微粒子などの適宜なものを一種または二種以上用い得る。また上記した接着層ないし粘着層は、斯かる微粒子を含有して光拡散性を示すものであってもよい。
【0094】
本発明の偏光板は、市販のスーパーハイコントラスト品(例えば、株式会社サンリッツ社製HLC2−5618等)と同等以上の光学的性質および耐久性(短期、長期での保存性)を有することが好ましい。具体的には、可視光透過率が42.5%以上で、偏光度√{(Tp−Tc)/(Tp+Tc)} ≧ 0.9995(ただし、Tpは平行透過率、Tcは直交透過率)であり、温度60℃、湿度90%RH雰囲気下に500時間および80℃、ドライ雰囲気下に500時間放置した場合のその前後における光透過率の変化率が絶対値に基づいて3%以下、さらには1%以下、偏光度の変化率は絶対値に基づいて1%以下、さらには0.1%以下であることが好ましい。
【0095】
本発明で用いられる液晶表示装置の表示モードは特に限定されないが、VAモードを例にとり説明する。なお、本発明で用いられる液晶表示装置は、上記表示モードだけでなくSTNモード、TNモード、OCBモードに適用した態様も有効である。
【0096】
[VAモード液晶セル]
本発明において、液晶セルはVertically Alignedモード(VAモード)であることが好ましい。VAモードの液晶セルは、対向面がラビング処理された上下基板の間に誘電異方性が負の液晶性分子を封入してなる。例えば、Δn=0.0813、およびΔε=−4.6程度の液晶分子を用い、液晶分子の配向方向を示すダイレクタ、いわゆるチルト角が約89°の液晶セルを作製することができる。この時、液晶層の厚さdは3.5μm程度にすることができる。液晶層の厚さd(nm)と、屈折率異方性Δnとの積Δn・dの大きさにより白表示時の明るさが変化する。最大の明るさを得るためには、液晶層の厚さdは2〜5μm(2000〜5000nm)の範囲であるのが好ましく、Δnは、0.060〜0.085の範囲である。
【0097】
図3に示すように、液晶セル35の上下基板の内側には透明電極が形成されるが、電極に駆動電圧を印加しない非駆動状態では、液晶層中の液晶分子は基板面に対して概略垂直に配向し、その結果液晶パネルを通過する光の偏光状態はほとんど変化しない。液晶セルの上側偏光板37の吸収軸と下側偏光板36の吸収軸とは概略直交しているので、光は偏光板を通過しない。すなわち、VAモードの液晶表示装置では、非駆動状態において理想的な黒表示を実現することができる。これに対し、駆動状態では液晶分子は基板面に平行な方向に傾斜し、液晶パネルを通過する光は傾斜した液晶分子により偏光状態を変化させ、偏光板を通過する。
【0098】
ここまでは上下基板間に電界が印加されるため、電界方向に垂直に液晶分子が応答するような、誘電率異方性が負の液晶材料を使用した例を示したが、電極を一方の基板に配置し、電界が基板面に平行の横方向に印加される場合は、液晶材料は正の誘電率異方性を有するものを使用することもできる。
【0099】
VAモードの特徴は、高速応答であることおよびコントラストが高いことである。しかし、コントラストは、正面では高いが斜め方向では低下するという課題がある。黒表示時に液晶性分子は基板面に垂直に配向しているため、正面から観察すると液晶分子の複屈折はほとんどないので透過率が低く、高コントラストが得られる。しかし、斜めから観察した場合は液晶性分子に複屈折が生じる。さらに上下の偏光板吸収軸の交差角は、正面では90°の直交であるが、斜めから見た場合は90°より大きくなる。この2つの要因のために斜め方向では漏れ光が生じやすくなり、コントラストが低下する傾向にある。本発明では、光学異方性層を所定の光学特性を有する透明支持体上に少なくとも一層設けることにより、この課題を解決することができる。
【0100】
VAモードでは、白表示時には液晶性分子が傾斜しているが、傾斜方向とその逆方向では、斜めから観察した時の液晶性分子の複屈折の大きさが異なり、輝度や色調に差が生じる。これを解決するためには、液晶セルをマルチドメインにするのが好ましい。マルチドメインとは、一つの画素中に、配向状態の異なる複数の領域を形成した構造をいう。例えば、マルチドメイン方式のVAモードの液晶セルでは、一つの画素中に、電界印加時の液晶性分子の傾斜角が互いに異なる複数の領域が存在する。マルチドメイン方式のVAモード液晶セルでは、電界印加による液晶性分子の傾斜角を画素ごとに平均化することができ、そのことによって、視角特性を平均化することができる。一画素内で配向を分割するには、電極にスリットを設けたり、突起を設けたり、電界方向を変えたり、電界密度に偏りを持たせたりすることで達成できる。全方向に均等な視野角を得るにはこの分割数を多くすればよいが、白表示時の透過率が減少してしまうため、4分割が好適である。
【0101】
VAモードの液晶表示装置では、Twised Nematicモード(TNモード)の液晶表示装置で一般的に使われているカイラル剤の添加は、動的応答特性の劣化させるため用いることは少ないが、配向不良を低減するために添加されることもある。配向分割の領域境界では、液晶分子が応答しづらい。そのためノーマリーブラック表示では黒表示が維持されるため、輝度低下が問題となる。液晶材料にカイラル剤を添加することは、境界領域を小さくすることに寄与する。特に、本発明では、棒状液晶性化合物とカイラル剤とを併用することが好ましい。カイラル剤としては、公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0102】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0103】
(透明支持体S−1の作製)
市販のセルロースアセテートフィルムであるフジタックTD80UF(富士写真フイルム(株)製、Re=3nm、Rth=50nm)を透明支持体S−1として用いた。
【0104】
(透明支持体S−2の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
──────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成(質量%) 内層 外層
──────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 20.89 19.78
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 1.63 1.54
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 0.815 0.770
メチレンクロライド(第1溶媒) 61.22 62.12
メタノール(第2溶媒) 14.83 15.03
1−ブタノール(第3溶媒) 0.313 0.320
シリカ(粒子サイズ20nm) 0.00 0.160
レターデーション上昇剤S−2−1 0.302 0.280
──────────────────────────────────────
【0105】
【化11】

【0106】
得られた内層用ドープおよび外層用ドープを、三層共流延ダイを用いて、0℃に冷却したドラム上に流延した。残留溶剤量が70質量%のフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターにて固定して搬送方向のドロー比を110%として搬送しながら80℃で乾燥させ、さらに、残留溶剤量が10質量%となったところで、110℃で乾燥させた。その後、140℃の温度で30分乾燥して作製した残留溶剤が0.3質量%のセルロースアセテートフィルム(外層:3μm、内層:74μm、外層:3μm)を透明支持体S−2として用いた。得られたフィルムの光学特性はRe=8nm、Rth=82nmであった。
【0107】
(透明支持体S−3の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。
──────────────────────────────────────
セルロースアシレート溶液組成(質量%)
──────────────────────────────────────
セルロースアシレート(アセテート基1.2、ブチリル基1.3の置換度)
24.0
混合溶媒(下表) 75.0
レターデーション上昇剤S−3−1 0.70
2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(UV剤a) 0.12
2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(UV剤b) 0.05
2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(UV剤c) 0.02
シリカ(972、日本アエロジル(株)製) 0.06
クエン酸エチルエステル(モノエステルとジエステルが1:1混合)0.05
──────────────────────────────────────
【0108】
【化12】

【0109】
─────────────────────────────────────
混合溶媒組成(質量%)
─────────────────────────────────────
酢酸メチル 80.0
アセトン 5.0
メタノール 7.0
エタノール 5.0
ブタノール 3.0
─────────────────────────────────────
【0110】
この後、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)でろ過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。上述のドープを35℃に加温し、ギーサーを通して、−15℃に設定した直径3mの鏡面ステンレスのドラムに流延した。使用したギーサーは、特開平11−314233号公報に記載の形態に類似するものを用いた。なお流延スピードは100m/分でその流延幅は250cmとした。残留溶剤が200質量%で剥ぎ取った後、130℃で乾燥し、残留溶剤が1質量%以下となったところで巻き取ってセルロースアシレートフィルムを作製した。得られたフィルムは両端を3cmトリミングした後、両端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを付与し、3000mロール状に巻き取った。このフィルムをさらに二軸延伸したものを透明支持体S−3(Re=10nm、Rth=40nm)として用いた。
【0111】
(配向膜組成物AL−1調製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、配向膜組成物(塗布液)AL−1して用いた。
─────────────────────────────────────
配向膜用塗布液組成(質量%)
─────────────────────────────────────
変性ポリビニルアルコールAL−1−1 3.85
水 72.89
メタノール 22.83
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.20
3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(関東化学製) 0.160
クエン酸 0.008
クエン酸モノエチルエステル 0.029
クエン酸ジエチルエステル 0.027
クエン酸トリエチルエステル 0.006
─────────────────────────────────────
【0112】
【化13】

【0113】
(配向膜組成物AL−2製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、配向膜組成物AL−2として用いた。
──────────────────────────────────────
配向膜用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────────
変性ポリビニルアルコールAL−1−2 3.85
水 72.89
メタノール 22.83
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.20
グリシジルメタクリレート(関東化学製) 0.160
クエン酸 0.008
クエン酸モノエチルエステル 0.029
クエン酸ジエチルエステル 0.027
クエン酸トリエチルエステル 0.006
──────────────────────────────────────
【0114】
【化14】

【0115】
(光学異方層用塗布液LC−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、光学異方層用塗布液LC−1として用いた。
──────────────────────────────────────
光学異方層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────────
棒状液晶(LC−1−1) 6.65
棒状液晶(LC−1−2) 2.60
カイラル剤(LC−1−3) 21.07
カイラル剤(LC−1−4) 1.67
連鎖移動剤(LC−1−5) 0.67
光重合開始剤(LC−1−6) 0.67
スチレンボロン酸 0.02
メチルエチルケトン 66.65
──────────────────────────────────────
【0116】
【化15】

【0117】
LC−1−1:
Angew. Makromol.Chem.誌、第183巻、45頁(1990年)に記載の方法に準じて合成した。
LC−1−2:
EP1174411B1号に記載の方法により合成した4−(6−アクリロイルオキシヘキシルオキシ)安息香酸と、4−プロピルシクロヘキシルフェノール(関東化学製)を縮合して合成した。
LC−1−3:
EP1174411B1号に記載の方法により合成した4−(6−アクリロイルオキシヘキシルオキシ)安息香酸と、国際公開WO/2001040154A1号公報に記載の方法により合成した4−ヒドロキシ−4‘−(2−メチルブチル)ビフェニルを縮合して合成した。
LC−1−4:
EP1389199A1に記載の方法により合成した。
LC−1−5:
ヒドロキシプロピルアクリレート(アルドリッチ社製)をメシル化した後、4−プロピルシクロヘキシルフェノール(関東化学製)と反応させ、次に硫化水素を付加して合成した。
LC−1−6:
4−プロピルシクロヘキシルフェノール(関東化学製)をトリフレート化した後、フェニルボロン酸による鈴木カップリング反応でビフェニル体とした。さらに、イソ酪酸クロライドと塩化アルミでビフェニルの4’位をアシル化した後、カルボニルのα位の炭素を臭素によってブロム化、次いでアルカリにより水酸基とすることで合成した。
【0118】
(光学異方層用塗布液LC−2の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、光学異方層用塗布液LC−2として用いた。
──────────────────────────────────────
光学異方層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────────
ディスコティック液晶(LC−2−1) 19.18
添加剤(LC−2−2) 0.20
光重合開始剤(LC−2−3) 0.60
スチレンボロン酸 0.02
メチルエチルケトン 80.00
──────────────────────────────────────
【0119】
【化16】

【0120】
(セルロースエステルフィルムの片面ケン化処理)
セルロースエステルフィルムを温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて14ml/m2で塗布した。そして、110℃に加熱したスチーム式遠赤外線ヒーター((株)ノリタケカンパニー製)の下に10秒滞留させた後に、同じバーコーターを用いて純水を3ml/m2塗布した。この時のフィルム温度は40℃であった。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後、70℃の乾燥ゾーンに2秒滞留させて乾燥した。
【0121】
──────────────────────────────────────
アルカリ溶液組成(質量%)
──────────────────────────────────────
水酸化カリウム 4.7
水 14.7
イソプロパノール 64.8
プロピレングリコール 14.8
界面活性剤(SF−1) 1.0
──────────────────────────────────────
【0122】
【化17】

【0123】
(偏光UV照射装置POLUV−1)
UV光源として350〜400nmに強い発光スペクトルを有するD−Bulbを搭載したマイクロウェーブ発光方式の紫外線照射装置(Light Hammer 10、240W/cm、Fusion UV Systems社製)を用い、照射面から10cm離れた位置に、ワイヤグリッド偏光フィルタ(ProFlux PPL02(高透過率タイプ)、Moxtek社製)を設置して偏光UV照射装置を作製した。この装置の最大照度は400mW/cm2であった。
【0124】
[実施例1]
透明支持体S−1の片面を前述の片面ケン化処理法を使ってケン化処理した後、その上に光酸発生剤ジフェニルヨウドニウムヘキサフルオロホスフェート(関東化学製)4.0質量%(対固形分比)を添加した配向膜組成物(塗布液)AL−1を#14のワイヤーバーコーターで塗布し、60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥して厚さ1.0μmの配向膜を形成した。続いて、配向膜に対して非偏光UVを用いて照射(照度200mW/cm2、100mJ/cm2)した後、透明支持体の遅相軸方向に対して連続的にラビング処理した後、光学異方層用塗布液LC−1を、ラビング処理面に#3のワイヤーバーコーターで塗布し、60℃1分間加熱乾燥熟成して均一な液晶相を有する光学異方層を形成した。さらに熟成後に光学異方層に対して、酸素濃度0.3%以下の窒素雰囲気下において、偏光UV照射装置POLUV−1を用いて、該装置の偏光フィルタの透過軸が透明支持体の進相軸方向となるようにして偏光UVを照射(照度200mW/cm2、照射量200mJ/cm2)し、実施例1の光学フィルムを作製した。光学異方層は固定化後、昇温しても液晶相を示さなかった。光学異方性層の厚みは1.3μmであった。得られた光学フィルムに対し、下記の評価を行った。
【0125】
(鹸化耐性)
作製した補償板を60℃の鹸化液(2.0N NaOH水溶液)に3分間浸して、水で洗浄した。続いて、剥がれの有無を目視で観察し、下記の3段階評価を行った。
〇:剥がれが殆ど認められなかったもの
△:10%以上剥がれが認められたもの
×:50%剥がれが認められたもの
【0126】
(位相差測定)
KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)により、589nmにおける正面レターデーションReおよび遅相軸を回転軸として±40度サンプルを傾斜させたときのレターデーションRe(40)、Re(−40)を測定した。RthはKOBRA 21ADHにより計算した値を用いた。光学異方性層の位相差は、各角度における光学補償シート全体の位相差から各角度における支持体の位相差を差し引くことにより求めた。
【0127】
[実施例2]
AL−1をAL−2に代えた以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムに対し、前述の評価を行った。
【0128】
[実施例3]
透明支持体S−1の片面を前述の片面ケン化処理法を使ってケン化処理した後、その上に光酸発生剤ジフェニルヨウドニウムヘキサフルオロホスフェート(関東化学製)4.0質量%(固形分比)を添加した配向膜用塗布液AL−1を#14のワイヤーバーコーターで塗布し、60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥して厚さ1.0μmの配向膜を形成した。続いて、配向膜に対して非偏光UVを用いて照射(照度200mW/cm2、100mJ/cm2)した後、透明支持体の遅相軸方向に対して連続的にラビング処理した後、光学異方層用塗布液LC−2を、ラビング処理面に#3のワイヤーバーコーターで塗布し、125℃1分間加熱乾燥熟成して均一な液晶相を有する光学異方層を形成した。さらに熟成後、光学異方層に対して、偏光UV照射装置POLUV−1を用いて、該装置の偏光フィルタの透過軸が透明支持体の進相軸方向となるようにして偏光UVを照射(照度200mW/cm2、照射量200mJ/cm2)し、実施例1の光学フィルムを作製した。光学異方層は固定化後、昇温しても液晶相を示さなかった。光学異方性層の厚みは1.3μmであった。得られた光学フィルムに対し、前述の評価を行った。
【0129】
[実施例4]
支持体S−1を支持体S−2に代えた以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムに対し、前述の評価を行った。
【0130】
[実施例5]
支持体S−1を支持体S−3に代え、且つ光学異方層用塗布液LC−1をLC−2に代えた以外は実施例3と同様にして光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムに対し、前述の評価を行った。
【0131】
[比較例1]
透明支持体S−1の片面を前述の片面ケン化処理法を使ってケン化処理した後、その上に配向膜用塗布液AL−1を#14のワイヤーバーコーターで塗布し、60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥して厚さ1.0μmの配向膜を形成した。続いて、配向膜に対して非偏光UVを用いて照射(照度200mW/cm2、100mJ/cm2)した後、透明支持体の遅相軸方向に対して連続的にラビング処理した後、光学異方層用塗布液LC−1を、ラビング処理面に#3のワイヤーバーコーターで塗布し、60℃1分間加熱乾燥熟成して均一な液晶相を有する光学異方層を形成した。さらに熟成後直ちに光学異方層に対して、酸素濃度0.3%以下の窒素雰囲気下において、偏光UV照射装置POLUV−1を用いて、該装置の偏光フィルタの透過軸が透明支持体の進相軸方向となるようにして偏光UVを照射(照度200mW/cm2、照射量200mJ/cm2)し、比較例1の光学フィルムを作製した。光学異方層は固定化後、昇温しても液晶相を示さなかった。光学異方性層の厚みは1.3μmであった。得られた光学フィルムに対し、前述の評価を行った。
【0132】
[比較例2]
透明支持体S−1の片面を前述の片面ケン化処理法を使ってケン化処理した後、その上に配向膜用塗布液AL−1を#14のワイヤーバーコーターで塗布し、60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥して厚さ1.0μmの配向膜を形成した。続いて、配向膜に対して非偏光UVを用いて照射(照度200mW/cm2、100mJ/cm2)した後、透明支持体の遅相軸方向に対して連続的にラビング処理した後、光学異方層用塗布液LC−2を、ラビング処理面に#3のワイヤーバーコーターで塗布し、125℃1分間加熱乾燥熟成して均一な液晶相を有する光学異方層を形成した。さらに熟成後、光学異方層に対して、偏光UV照射装置POLUV−1を用いて、該装置の偏光フィルタの透過軸が透明支持体の進相軸方向となるようにして偏光UVを照射(照度200mW/cm2、照射量200mJ/cm2)し、比較例2の光学フィルムを作製した。光学異方層は固定化後、昇温しても液晶相を示さなかった。光学異方性層の厚みは1.3μmであった。得られた光学フィルムに対し、前述の評価を行った。
【0133】
実施例1〜5、ならびに比較例1および2の密着評価結果を表1に、実施例1〜5、ならびに比較例1の位相差測定結果を表2に示す。
【0134】
[表1]
──────────────
試料 鹸化耐性
──────────────
実施例1 ○
実施例2 ○
実施例3 ○
実施例4 ○
実施例5 ○
比較例1 ×
比較例2 △
──────────────
【0135】
[表2]
─────────────────────────
試料 Re Re(40) Re(−40)
─────────────────────────
実施例1 9.6 61.5 60.5
実施例2 8.8 58.9 58.0
実施例3 11.5 61.0 60.5
実施例4 8.5 60.5 60.0
実施例5 13.9 61.2 67.1
比較例1 9.9 62.3 61.0
比較例2 12.8 62.3 60.4
─────────────────────────
(表中、Re値は光学異方性層のRe値である。)
【0136】
(光学フィルム付偏光板の作製)
本発明の実施例1〜3、5および比較例1の光学フィルムと、市販のフジタックTD80UF(富士写真フイルム(株)製、Re=3nm、Rth=50nm)を、1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で2分間浸漬した。続いて室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。これを再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。この後、水洗、中和処理を行い、この二枚のケン化済フィルムを、偏光板の保護膜として偏光膜の両面にポリビニルアルコール系接着剤を用いてロール・トゥ・ロールで貼り付け、一体型偏光板を作製した。本発明の実施例はいずれも生産性に優れ、光学異方層は良好な面状を示していた。比較例のものは密着性が不十分であるだけでなく、配向膜塗布前の片面ケン化処理による生産性低下を引き起こすと共に、偏光板加工時のケン化浴を汚染するなどの問題を引き起こした。
【0137】
[実施例6]
(VA−LCD液晶表示装置の作製)
市販のVA−LCD(SyncMaster 173P、サムスン電子社製)の下側偏光板を剥がし、実施例1で作製した本発明の光学フィルム付偏光板を、光学異方性層が液晶セル基板ガラス面になるように粘着剤で貼合して本発明の液晶表示装置を作製した。作製した液晶表示装置の断面概略図を、各層の光学的軸の角度関係とともに図4に示す。図4中、41は偏光層、42は透明支持体、43は配向膜、44は光学異方層(41〜44で光学フィルムが構成される)、45は偏光板保護フィルム、46は液晶セル用ガラス基板、47は液晶セルおよび48は粘着剤層である。また、偏光層41中の矢印は吸収軸の向きを、光学異方性層44やその支持体44および保護フィルム45中の矢印は遅相軸の向きを示し、丸印は矢印が紙面に対する法線方向であることを示す。
【0138】
(VA−LCD液晶表示装置の評価)
作製した液晶表示装置の視野角特性を視野角測定装置(EZ Contrast 160D、ELDIM社製)で測定した。さらに特に斜め45度方向について目視でも評価した。実施例6のEZ Contrastによるコントラスト特性を図5に、目視評価結果を表3に示す。
【0139】
[表3]
────────────────────────────────────
試料 目視評価結果
────────────────────────────────────
実施例6 白表示、黒表示いずれも色ズレが少なく、中間調の階調特性が良好
────────────────────────────────────
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によれば、光学異方性層との密着性に優れ、かつケン化処理による溶出や剥がれのない配向膜を提供することができる。本発明の配向膜は、VAモードの液晶表示装置に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の液晶表示装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の偏光板の例の概略断面図である。
【図3】本発明の液晶表示装置の一例の概略断面図である。
【図4】実施例6で作製した液晶表示装置の層構成を層中の光学的軸の方向とともに示した概略断面図である。
【図5】実施例6で作製した液晶表示装置のコントラスト特性を示す図である。
【符号の説明】
【0142】
11 透明支持体
12 液晶性組成物からなる光学異方性層
13 配向膜
21 偏光層
22、23 保護フィルム
24 λ/4板、反射防止膜等の機能性層
31 冷陰極管
32 反射シート
33 導光板
34 輝度向上フィルム、拡散フィルム等の調光フィルム
35 液晶セル
36 下側偏光板
37 上側偏光板
41 偏光層
42 透明支持体
43 配向膜
44 光学異方層
45 偏光板保護フィルム
46 液晶セル用ガラス基板
47 液晶セル
48 粘着剤
51 一軸延伸光学フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、配向膜、および液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムの製造に使用される配向膜組成物であって、側鎖に反応性基を有する高分子、エチレン性不飽和結合を有する化合物、光酸発生剤、および水を20質量%以上含む溶媒を少なくとも含有することを特徴とする配向膜組成物。
【請求項2】
前記光酸発生剤が水溶性化合物である請求項1に記載の配向膜組成物。
【請求項3】
前記光酸発生剤がヨードニウム塩、またはスルホニウム塩である請求項2に記載の配向膜組成物。
【請求項4】
前記高分子が側鎖に重合性基を有するポリビニルアルコール誘導体、ポリ(メタ)アクリレート誘導体および多糖類から選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の配向膜組成物。
【請求項5】
支持体上に請求項1〜4のいずれか1項に記載の配向膜組成物を塗布乾燥して塗布膜を形成する工程、該塗布膜に光を照射する工程、および該光照射された塗布膜をラビングする工程をこの順序で有する製造方法により製造されることを特徴とする配向膜。
【請求項6】
支持体上に請求項1〜4いずれか1項に記載の配向膜組成物を塗布乾燥して塗布膜を形成する工程、該塗布膜をラビングする工程、および該ラビングされた塗布膜に光を照射する工程をこの順序で有する製造方法により製造されること特徴とする配向膜。
【請求項7】
支持体、配向膜、および液晶性化合物を含む液晶性組成物からなる光学異方性層を有する光学フィルムにおいて、前記配向膜が請求項5または6に記載の配向膜であり、かつ前記光学異方性層が前記液晶性化合物の重合体から形成されることを特徴とする光学フィルム。
【請求項8】
前記液晶性化合物がディスコティック液晶性化合物を含む請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
前記液晶性化合物が棒状液晶性化合物を含む請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記液晶組成物が棒状液晶性化合物とカイラル剤を含む液晶性組成物である請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項11】
前記光学異方性層の正面レターデーション(Re)が0でなく、面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として光学フィルムの法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として光学フィルムの法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値が実質的に等しいことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の光学フィルムと、偏光膜とを有する偏光板。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の光学フィルム、または請求項12に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
【請求項14】
VAモードである請求項13に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−220891(P2006−220891A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33924(P2005−33924)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】