説明

配管設備

【課題】LNG船へのリターンガスを、効率的に冷却する構成を有した配管設備を提供する。
【解決手段】LNGを輸送するLNG船SとLNGを貯蔵する貯蔵タンクTとを接続し、LNG船Sから貯蔵タンクTへLNGを供給する配管設備であって、LNG船Sから貯蔵タンクTへLNGを供給する受入配管10と、貯蔵タンクT内で生じたボイルオフガスをLNG船Sへ供給するリターン配管20と、リターン配管20から分岐すると共に、受入配管10と一部で接触した後に、受入配管10の分岐箇所31aから下流側において、第2配管と接続する分岐配管31,32と、を備え、ボイルオフガスは、一部が分岐配管で分岐され、分岐されたボイルオフガスが、分岐配管と受入配管10との接触箇所において、各配管の壁面を介してLNGとの間で熱交換されるとともに、リターン配管20内のボイルオフガスの残分と混合されることによって冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNG基地において、LNG船からLNGを受け入れる時に用いる配管設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電所等の燃料として、天然ガス等の化石燃料を用いることが知られている。天然ガスは、冷却することで低温(約−160℃)の液化天然ガス(LNG)となり、専用のLNG船によってLNG基地に海上輸送され貯蔵タンクに貯蔵される。
【0003】
図2は、LNG船からのLNG受け入れの様子を示す模式図である。LNG船Sが桟橋100近くに係留されると、桟橋100に設けられた第1ローディングアーム15および第2ローディングアーム25がLNG船Sに接続される。LNG船Sによって輸送されてきたLNGは、第1ローディングアーム15及び受入配管10を介して貯蔵タンクTに送られる。このとき、LNG船SのLNGタンクを負圧にしない為、貯蔵タンクT内において外部入熱により発生するボイルオフガス(BOG)を、リターン配管20及び第2ローディングアーム25を介してLNG船Sへと送り返す操作(リターンガス)を行っている(例えば特許文献1から3参照)。
【0004】
このようなリターンガスは、貯蔵タンクTからLNG船Sまでの間、リターン配管20内を通過することになるが、リターン配管20は水平距離で1km〜2km程度に達するため、輸送中に暖められ、LNG船S直前では−30℃程度にまで昇温する。一方で、LNG船SのLNGタンク内は、LNGを輸送するために約−160℃に保たれているため、タンク内温度と比べて100℃以上高いリターンガスを導入すると熱衝撃による破損が懸念される。そのため、リターンガスをタンクが破損しない船側要求温度(略−120℃〜−100℃)にまで冷却する必要がある。
【0005】
図3は、従来の配管設備が有するリターンガスの冷却設備の説明図である。通常このような冷却設備は、LNG船の直前となる桟橋上に設置されている。
【0006】
貯蔵タンクTからリターン配管20内を通って送られているリターンガスG1は、貯蔵タンクT内で気化したBOGでありメタンやエタンを主成分としている。従来の冷却設備では、LNG船Sから貯蔵タンクTへLNGを送る受入配管10から側管11を分岐し、スプレー設備21を用いてLNGをリターン配管20内にスプレー噴霧(符号G2で示す)している。この構成により、リターンガスG1は、低温のLNGの温度およびLNGの気化熱によって冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−258118号公報
【特許文献2】特開平04−171398号公報
【特許文献3】特開2003−254500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法には次のような問題がある。すなわち、符号G2で示すLNGには、BOGの主成分であるメタンやエタンの他に、重質分(プロパン/ブタン/ペンタン)等が含まれており、上記スプレー噴霧ではこれらの重質分が気化せず飛沫としてリターンガス中に浮遊する場合がある。このような飛沫が配管中に蓄積されると配管詰まりの原因となるため、リターン配管20をデミスター付きのノックアウトドラム50に接続し、LNGをスプレー噴霧した後のリターンガスから重質分を分離し除去しなければならない。冷却設備が設置される桟橋上は、多数の設備が込み入って設置されているが、ノックアウトドラム50は広い設置面積を要するため、他の設備の設置箇所を圧迫している。
【0009】
またLNG船Sから貯蔵タンクTへのLNGの送液は、LNG船Sが有する荷揚げ用のポンプを用いて行っているため、スプレー設備21へLNGを供給する圧力も該ポンプによる送液の圧力が基となっている。そのため、LNG船Sによってポンプ性能に差異が生じ、場合によってはスプレーへの供給圧力が十分確保出来ないことがある。すると、圧力が足りないために冷却に必要な量のスプレー噴霧ができず、所定の冷却性能を満たすことができない場合がある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、LNG船へのリターンガスを、効率的に冷却する構成を有した配管設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の配管設備は、LNG船とLNGを貯蔵する貯蔵タンクとを接続し、前記LNG船から前記貯蔵タンクへLNGを供給する配管設備であって、前記LNG船から前記貯蔵タンクへLNGを供給する第1配管と、前記貯蔵タンク内で生じたボイルオフガスを前記LNG船へ供給する第2配管と、前記第2配管の分岐箇所から分岐すると共に、前記第1配管と一部で接触した後に、前記第2配管の分岐箇所から下流側の接続箇所において、前記第2配管と接続する分岐配管と、を備え、前記ボイルオフガスは、一部が前記分岐配管で分岐され、分岐された前記ボイルオフガスが、前記分岐配管と前記第1配管との接触箇所において、各配管の壁面を介して前記LNGとの間で熱交換されるとともに、前記第2配管内の前記ボイルオフガスの残分と混合されることによって冷却されることを特徴とする。
この構成によれば、第1配管を介して貯蔵タンクへ供給されるLNGと、第2配管を介してLNG船へ供給されるボイルオフガス(リターンガス)と、の間で熱交換を行うことにより、所望の温度にまでボイルオフガスを冷却することができる。そのため、LNG船へ供給するガス内に無用の重質分を導入することなく、効率的に冷却を行うことが可能となる。
【0012】
本発明においては、前記第2配管の前記分岐箇所と前記接続箇所との間に、前記第2配管を流れる前記ボイルオフガスの量を制御する調節弁が設けられていることが望ましい。
この構成によれば、分岐配管へ供給するボイルオフガス量を制御することにより、良好にLNG船に供給するボイルオフガスの温度を制御することが可能となる。
【0013】
本発明においては、前記接続箇所よりも下流側に、前記第2配管内の前記ボイルオフガスの温度を測定する測定手段が設けられ、前記測定手段の検出結果に基づいて、前記ボイルオフガスが前記LNG船の最大許容温度よりも低い温度となるように、前記調節弁の開度を制御することが望ましい。
この構成によれば、LNG船が有する輸送タンクを破損させないために輸送タンクのスペックから定まる要求温度を、目標温度(所定の温度)とすることにより、良好な温度制御を行うことができる。
【0014】
本発明においては、前記接続箇所と前記測定手段との間に、前記第2配管内に乱流を発生させる乱流発生手段を有することが望ましい。
この構成によれば、熱交換器で冷却されたリターンガスと第2配管中のリターンガスとを良好に混合し温度ムラを無くすことができるため、測定手段において正確なリターンガス温度を検出することができ、確実な温度制御が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、リターンガスと受入LNGとの間で熱交換を行うことにより、所望の温度にまでリターンガスを冷却することができるため、リターンガス内に無用の重質分を導入することなく、効率的に冷却を行うことが可能となる。すると、リターンガス内の重質分を除去する必要が無いため、桟橋エリアにノックアウトドラムを設置する必要が無くなり、桟橋エリアにおけるリターン配管の取り回しが簡素化できとともに、他の設備の配置自由度が高まり、桟橋エリアの構成をコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の配管設備が有するリターンガスの冷却設備の説明図である。
【図2】LNG船からのLNG受け入れの様子を示す模式図である。
【図3】従来の配管設備が有するリターンガスの冷却設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る配管設備について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0018】
図1は、本実施形態の配管設備を示す模式図である。本実施形態の配管設備では、受入配管(第1配管)10の経路内に熱交換器30が設けられていると共に、リターン配管(第2配管)20から分岐した第1分岐配管31および第2分岐配管32が熱交換器30に接続されている。第1分岐配管31、第2分岐配管32、および熱交換器30の一部が、本発明における分岐配管を構成している、
【0019】
熱交換器30は、例えば横型のShell&Tube Type熱交換器を用いることができる。この場合、Tube側に受入配管10を接続し、Shell側に第1分岐配管31および第2分岐配管32を接続して、受入LNGとリターンガスとの熱交換を行う。すなわち、熱交換器30は内部に複数の内部配管(Tube)38を有し、内部配管38を胴体部(Shell)39が覆う構成となっており、内部配管38の管壁を介して、内部配管38を流れるLNGと、胴体部39に導かれるリターンガスとの熱交換が行われる。熱交換器30は、受入配管10の一部と置き換えることによる圧力損失の増加が極力生じないような構造となっている。
【0020】
ここで、圧力損失を極力生じない熱交換器30を採用する理由としては、次のようなものである。上述のように、LNG船Sから貯蔵タンクTへのLNGの送液は、LNG船Sが有する荷揚げ用のポンプを用いて行っており、該ポンプによって1km〜2kmにもおよぶ受入配管10内にLNGを流動させる必要がある。そのため、LNG流動のために必要な圧力がポンプの能力を超えると、良好なLNG受入ができなくなるおそれが生じる。そのため、本発明のために設ける熱交換器30としては、圧力損失が極力生じない構造のものを採用することとしている。
【0021】
圧力損失は、LNGの分子同士の衝突、LNGの配管内壁への衝突、LNGと配管内壁との摩擦、等の原因によって、配管内のLNGがエネルギーを消費するために生じる。この圧力損失は、圧力損失をΔP、配管内の摩擦係数をλ、配管長をL、配管内径をD、LNGの密度をγ、LNGの流速をVとすると、式1によって求められる。ここで、摩擦係数λは、LNGのレイノルズ数と配管の内面粗度との関数である。
【0022】
【数1】

【0023】
上式より、熱交換器30では、LNGが流れる配管の内径を極力大きくすると圧力損失の発生を抑制することができることが分かる。すなわち、熱交換器30では、熱交換器としての機能を損なわない程度に内部配管38の内径を大きくすることにより、圧力損失が極力生じない構造としている。さらには、内部配管38の内径によって定まる配管断面積の合計を、受入配管10の内径によって定まる配管断面積と同等以上とすることにより、圧力損失が極力生じない構造としている。
【0024】
第1分岐配管31は、リターン配管20よりも細い内径の配管であり、リターン配管20中を流れるリターンガスの内の一部を熱交換器30へ導いている。熱交換器30へのリターンガスの供給量は、リターン配管20において第1分岐配管31への分岐箇所31aより下流側(LNG船S側)で第2分岐配管32への接続箇所32aよりも上流側(貯蔵タンクT側)の位置に設けられた調節弁33の開度によって調節されている。
【0025】
接続箇所32aよりも下流側には、リターン配管20にミキサー(乱流発生手段)34が接続されている。ミキサー34は静的なもの(スタティックミキサー)が好ましく、リターン配管20内を流れるリターンガスと、熱交換器30において冷却されたリターンガスと、が合流した後に、両者を混合して温度を略均一にしている。
【0026】
スタティックミキサーとしては、リターンガスに乱流拡散を生じさせるものであれば種々の形式を採用することができる。
【0027】
例えば、リターン配管20内に、リターン配管20と同方向に延在する複数の邪魔板(エレメント)を配管内に連続配置したものが挙げられる。各エレメントは矩形の板を180度ねじった形を有しており、リターン配管20の内径を直径方向に2分割するように配設される。このようなスタティックミキサーでは、内部を流れるリターンガスが邪魔板で分割され、180度ねじれたエレメント形状に沿って転換されることにより、らせん型の流れを生じる。エレメント毎にねじれ方向を反転させることにより、リターンガスに効果的に乱流を生じさせ、温度が略均一になるように混合する。
【0028】
他にも、リターン配管20の内壁に、内壁から配管内部に張り出す邪魔板が設けられ、邪魔板にリターンガスが衝突することで生じる乱流によって乱流拡散を促進させる形式のスタティックミキサーを挙げることもできる。
【0029】
これらのスタティックミキサーは、リターン配管20内に組み込まれたインライン型のものであってもよく、またリターン配管20のフランジ部に挟み込むプレート型のものであっても良い。
【0030】
ミキサー34の下流側には温度センサー(測定手段)35が設けられている。温度センサー35では、ミキサー34で混合されたリターンガスの温度を測定し、不図示の制御装置は検知した温度情報を用いて、リターンガスの温度が船側要求温度にまで下がっていないならば、調節弁33の開度を小さくし、第1分岐配管31側に流れるガス量を増やして冷却されたリターンガス量を多くするように制御する。
【0031】
リターンガスはメタンやエタンを主成分とするBOGであるため、船側要求温度(略−100℃〜−120℃)では凝縮して液化することがない。また、リターンガスを例えば−100℃程度にまで冷却したとしても、LNGが過剰に気化されてしまうほど温度が上昇することもない。そのため、本実施形態の配管設備では気液分離のためのノックアウトドラムは不要となっている。
【0032】
以上のような構成の配管設備によれば、リターンガスと受入LNGとの間で非接触で熱交換を行うことにより、所望の温度にまでリターンガスを冷却することができるため、リターンガス内に無用の重質分を導入することなく、効率的に冷却を行うことが可能となる。
【0033】
なお、本実施形態においては、Shell&Tube Type熱交換器を用いることとしたが、圧力損失が小さい構造であれば、例えばフィンチューブ型熱交換器のような他の方式の熱交換器であっても構わない。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0035】
10…受入配管(第1配管)、20…リターン配管(第2配管)、30…熱交換器、31…第1分岐配管、32…第2分岐配管、33…調節弁、34…ミキサー、35…温度センサー(測定手段)、S…LNG船、T…貯蔵タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNG船とLNGを貯蔵する貯蔵タンクとを接続し、前記LNG船から前記貯蔵タンクへLNGを供給する配管設備であって、
前記LNG船から前記貯蔵タンクへLNGを供給する第1配管と、
前記貯蔵タンク内で生じたボイルオフガスを前記LNG船へ供給する第2配管と、
前記第2配管の分岐箇所から分岐すると共に、前記第1配管と一部で接触した後に、前記第2配管の分岐箇所から下流側の接続箇所において、前記第2配管と接続する分岐配管と、を備え、
前記ボイルオフガスは、一部が前記分岐配管で分岐され、分岐された前記ボイルオフガスが、前記分岐配管と前記第1配管との接触箇所において、各配管の壁面を介して前記LNGとの間で熱交換されるとともに、前記第2配管内の前記ボイルオフガスの残分と混合されることによって冷却されることを特徴とする配管設備。
【請求項2】
前記第2配管の前記分岐箇所と前記接続箇所との間に、前記第2配管を流れる前記ボイルオフガスの量を制御する調節弁が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の配管設備。
【請求項3】
前記接続箇所よりも下流側に、前記第2配管内の前記ボイルオフガスの温度を測定する測定手段が設けられ、
前記測定手段の検出結果に基づいて、前記ボイルオフガスが前記LNG船の最大許容温度よりも低い温度となるように、前記調節弁の開度を制御することを特徴とする請求項2に記載の配管設備。
【請求項4】
前記接続箇所と前記測定手段との間に、前記第2配管内に乱流を発生させる乱流発生手段を有することを特徴とする請求項2または3に記載の配管設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−149446(P2011−149446A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8925(P2010−8925)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】