説明

配線及びそのパターニング方法並びにディスプレイ及びその製造方法

【課題】剥離しにくい配線を精度良く形成することができるようにすること。
【解決手段】絶縁膜34に密着層35をパターニングし、フォトリソグラフィー法によりレジスト52をパターニングし、インクジェットヘッドからレジスト52の開口にむけて金属ナノインクを吐出する。その後、除去液によってレジスト52を除去する。次に、配線である金属隔壁Wを焼成により完全に固化させる。そして、トリアジンチオール水溶液によって金属隔壁Wの表面に撥液性導通膜36を形成する。その後、絶縁膜34をパターニングし、サブピクセル電極20aを露出させる。次に、インクジェット法により正孔輸送層20d、発光層20eを順次積層する。その後、対向電極20cを成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線のパターニング方法に関するとともに、そのパターニング方法によってパターニングされた配線に関する。また、本発明は、そのパターニング方法を用いたディスプレイパネルの製造方法に関するとともに、その製造方法によって製造されたディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリクス駆動方式のディスプレイパネル、半導体回路、その他の回路は、基板上に配線をパターニングして製造される。配線のパターニング方法として、インクジェット装置によって溶媒に分散された金属微粒子を基板に吐出することで配線を直接パターニングする方法が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。特許文献1には、基板に着弾したインク滴の広がりを抑えるために、基板全面に撥液性の自己組織化膜を形成した後にその自己組織膜に向けてインクを吐出することについて記載されている。特許文献2には、金型を基板に押しつけることで基板に微細な溝を形成し、その溝に導電性のインクを注入することについて記載されている。何れにおいても、固化したインクが配線となる。
【特許文献1】特開2003−80694号公報
【特許文献2】特開2004−356255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、溶媒に分散された金属微粒子は液状なために配線の厚さが厚いほど形状が不安定になり、配線の断面が下底面に近づく程幅広の略台形になってしまうしやすい傾向になる。
特許文献2に記載された方法では、基板が軟らかければ、加工された金型を転写することによって基板面に溝を形成することができるが、柔軟性がないために変形させにくい基板では溝を形成することができない。
【0004】
そこで、本発明は、上記問題点を解決しようとしてなされたものであり、剥離しにくい配線を精度良く形成することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の配線のパターニング方法は、基板上に設けられたレジストの開口部に金属ナノインク又は金属微粒子を塗布することによって配線をパターニングすることを特徴とする。
前記金属ナノインクとして銀ナノインクを用いることが好ましい。
前記金属ナノインクの塗布後に乾燥してから前記レジストを除去することが好ましい。
前記レジストの前記開口部には前記基板に設けられた密着層が露出され、前記金属ナノインクを前記密着層上に塗布することが好ましい。
【0006】
また別の配線のパターニング方法は、基板上に設けられた密着層上に金属ナノインク又は金属微粒子を塗布することによって配線をパターニングすることを特徴とする。
前記密着層の線膨張係数は、前記配線の線膨張係数と前記密着層の直下の部材の線膨張係数との間であることが好ましい。
【0007】
本発明の配線は、上記パターニング方法によってパターニングされたことを特徴とする。
【0008】
本発明のディスプレイパネルの製造方法は、上述の配線のパターニング方法を用いてディスプレイパネルの表示領域内に配線を形成することを特徴とする。
上記ディスプレイパネルの製造方法において、ピクセルを仕切る隔壁として前記配線を用いることが好ましく、またこの隔壁の間に形成された電極に向けて有機化合物含有液を塗布することが好ましい。
【0009】
本発明のディスプレイパネルは、上記製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レジストの開口部に金属ナノインク又は金属微粒子を塗布しているから、塗布された金属ナノインク又は金属微粒子がレジストによって堰き止められ、塗布された金属ナノインク又は金属微粒子の広がりを防止することができる。そのため、精度良く配線をパターニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0012】
〔第1の実施の形態〕
図1は、配線のパターニング方法の工程順序を示した図面である。
【0013】
図1(a)に示すように、まず基板550を準備する。基板550としては、プラスチック基板、ガラス基板、透明基板といった絶縁基板を用いることができる。また、基板550として、画素ごとに一又は複数の薄膜トランジスタが形成されたトランジスタアレイパネルを用いることができる。
【0014】
基板550の表面にクロム等の薄膜を気相成長法(例えば、スパッタリング等のPVD法)によって成膜し、その薄膜をフォトリソグラフィー法及びエッチング法によって形状加工することによって、図1(b)に示すように密着層551を基板550の表面に形成する。密着層551は、後述する配線554が基板550との間の密着性が良好でなく剥離してしまう恐れがある場合に成膜されるものであり、配線554及び基板550のいずれに対しても密着性に優れた膜である。密着層551の線膨張係数は、基板550の線膨張係数と配線554の線膨張係数との間であることが好ましい。
【0015】
次に、図1(c)に示すように、レジスト552を基板550の表面全体に塗布し、レジスト552によって密着層551を覆う。
【0016】
次に、図1(d)に示すように、レジスト552を露光・現像することによって、レジスト552の一部を除去し、密着層551を露出させる。なお、密着層551を露出させるため、レジスト552がポジ型の場合には、密着層551に重なる部分に光を照射し、レジスト552がネガ型の場合には、密着層551に重なる部分以外に光を照射する。
【0017】
次に、図1(e)に示すように、インクジェットヘッド560から密着層551に向けて金属ナノインク553を吐出する。ここで用いる金属ナノインクは、銀、金、銅、アルミ、これらを主成分とした合金等の少なくとも一種を含む直径が5〜9nm程度の複数の金属微粒子を被覆剤で被覆して、分散媒に分散させたものであり、後述する焼成工程で比較的低温処理でき、また比抵抗が比較的低いことから特に銀ナノインクを用いると良い。なお金属ナノインク553は焼成により凝集する際に溶融しやすいように融点の低い金属を混入させてもよい。インクジェットヘッド560と基板550のうちの少なくとも一方を基板550の表面に沿って移動させながら、インクジェットヘッド560から金属ナノインク553を吐出すると、密着層551上に線上に金属ナノインク553が堆積する。密着層551上に金属ナノインク553を塗布している間、基板550は数十℃に加熱されているので金属ナノインク553中の溶剤を蒸発して乾燥された配線554が形成される。なお、インクジェットヘッド560を用いて金属ナノインク553を液滴として吐出する代わりに、ディスペンサーを用いても金属ナノインクを塗布することで、配線554をパターニングしても良い。また、金属ナノインクを塗布する代わりに、金属微粒子からなる粉体を塗布することで、配線554をパターニングしても良い。また図1(d)の状態で基板550の密着層551を金属ナノインク553で満たされた槽に付着させて堆積するディップ成膜を行ってもよい。
【0018】
金属ナノインクが基板550に対して密着しにくい場合であっても、金属ナノインクに対して密着性の高い密着層551がパターニングされているから、金属ナノインクによる配線554を基板550に形成することができる。
【0019】
また、レジスト552をパターニングし、レジスト552の間の開口部に金属ナノインクを塗布しているから、塗布された金属ナノインクがレジスト552によって堰き止められ、塗布された金属ナノインクの滲みを防止することができる。そのため、精度良く配線554をパターニングすることができる。
【0020】
次に、図1(f)に示すように、金属ナノインクの塗布後、除去液によってレジスト552を除去するが、配線554が固まっているので、配線554は除去されない。
【0021】
次に、配線554を30分〜60分、180℃〜220℃に焼成して配線554内の複数の金属微粒子同士を固着、凝集して完全に固化させる。このように、金属ナノインクは、レジスト552に支持されているためにレジスト552の開口内に収まるので、低粘度であっても密着層551上から広がって基板550上にまで流出することはない。つまり、配線554の幅は、レジスト552の開口幅により規制されることができるので所定の長さとすることが可能となり、隣接する配線554同士が短絡することがない。
【0022】
〔第2の実施の形態〕
第2実施形態におけるエレクトロルミネッセンスディスプレイパネルについて説明する。以下の説明において、エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence)という用語をELと略称する。
【0023】
図2は、ELディスプレイパネルの表示領域内の四画素分の平面図である。図2に示すように、このELディスプレイパネルにおいては、赤、青及び緑のサブピクセルPによって1ドットの画素が構成され、このような画素がマトリクス状に配列されている。水平方向の配列に着目すると赤のサブピクセルP、青のサブピクセルP、緑のサブピクセルPの順に繰り返し配列され、垂直方向の配列に着目すると同じ色が一列に配列されている。
【0024】
このELディスプレイパネルにおいては、サブピクセルPに各種の信号を出力するために、複数の走査線X、信号線Y及び供給線Zが設けられている。走査線X及び供給線Zは水平方向に延在し、信号線Yは垂直方向に延在している。ここでmドットのサブピクセルPが水平方向に配列されている場合(但し、mは3の倍数)、m本の信号線Yが互いに平行となるように設けられ、nドットのサブピクセルPが垂直方向に配列されている場合(但し、nは2以上の整数)、n本の走査線X及びn本の供給線Zが互いに平行となるように設けられている。走査線Xと供給線Zは交互に配列されている。
【0025】
図3は、サブピクセルPの等価回路図である。サブピクセルPは、3つのnチャネル型トランジスタ21〜23と、キャパシタ24と、有機EL素子20とを有し、サブピクセルPの色が有機EL素子20の発光色で決まる。以下では、トランジスタ21をスイッチトランジスタ21と称し、トランジスタ22を保持トランジスタ22と称し、トランジスタ23を駆動トランジスタ23と称する。
【0026】
スイッチトランジスタ21においては、ソース21sが信号線Yに導通し、ドレイン21dが有機EL素子20のアノード、駆動トランジスタ23のソース23s及びキャパシタ24の電極24bに導通し、ゲート21gが保持トランジスタ22のゲート22g及び走査線Xに導通している。
【0027】
保持トランジスタ22においては、ソース22sが駆動トランジスタ23のゲート23g及びキャパシタ24の電極24aに導通し、ドレイン22dが駆動トランジスタ23のドレイン23d及び供給線Zに導通し、ゲート22gがスイッチトランジスタ21のゲート21g及び走査線Xに導通している。
【0028】
駆動トランジスタ23においては、ソース23sが有機EL素子20のアノード、スイッチトランジスタ21のドレイン21d及びキャパシタ24の電極24bに導通し、ドレイン23dが保持トランジスタ22のドレイン22d及び供給線Zに導通し、ゲート23gが保持トランジスタ22のソース22s及びキャパシタ24の電極24aに導通している。
【0029】
垂直方向に沿って一列に配列された何れのサブピクセルPのスイッチトランジスタ21のソース21sも共通の信号線Yに導通している。一方、水平方向に沿って一列に配列された何れのサブピクセルPのスイッチトランジスタ21のゲート21gも共通の走査線Xに導通している。
【0030】
なお、図3において、スイッチトランジスタ21、保持トランジスタ22、駆動トランジスタ23をnチャネル型としたが、pチャネル型でもよい。この場合、ソースとドレインの関係が逆となる。
【0031】
図4は、図2の切断線IV−IVに沿ってELディスプレイパネルを厚さ方向に切断した面の矢視断面図である。図4に示すように、スイッチトランジスタ21、保持トランジスタ22及び駆動トランジスタ23は絶縁基板2の上に設けられている。これらスイッチトランジスタ21、保持トランジスタ22及び駆動トランジスタ23が共通の保護絶縁膜32によって被覆されている。
【0032】
スイッチトランジスタ21、保持トランジスタ22及び駆動トランジスタ23は、何れも逆スタガ構造の薄膜トランジスタである。つまり、スイッチトランジスタ21は、絶縁基板2上に形成されたゲート21gと、ゲート絶縁膜31を挟んでゲート21gに対向した半導体膜21cと、半導体膜21cの中央部上に形成されたチャネル保護膜21pと、半導体膜21cの両端部上において互いに離間するよう形成され、チャネル保護膜21pに一部重なった不純物半導体膜21a,21bと、不純物半導体膜21a上に形成されたドレイン21dと、不純物半導体膜21b上に形成されたソース21sと、から構成されている。駆動トランジスタ23も、スイッチトランジスタ21と同様に、ゲート23gと、半導体膜23cと、チャネル保護膜23pと、不純物半導体膜23a,23bと、ドレイン23dと、不純物半導体膜23b上に形成されたソース23sと、から構成されている。保持トランジスタ22も、スイッチトランジスタ22及び駆動トランジスタ23と同様に構成されている。
【0033】
スイッチトランジスタ21のゲート21g、保持トランジスタ22のゲート22g、駆動トランジスタ23のゲート23g、キャパシタ24の電極24aは、気相成長法(例えば、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着等のPVD法)によって絶縁基板2上に成膜された導電性のゲートレイヤー(例えば、AlとTiからなる膜)をフォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いてパターニングすることによって形成されたものである。走査線X及び供給線Zは、ゲートレイヤーのパターニングによってゲート21g〜23gと同時に形成されたものである。そして、ゲート21g〜23g、電極24a、走査線X及び供給線Zは、共通のゲート絶縁膜31によって被覆されている。
【0034】
スイッチトランジスタ21のドレイン21d及びソース21s、保持トランジスタ22のドレイン22d及びソース22s、駆動トランジスタ23のドレイン23d及びソース23s並びにキャパシタ24の電極24bは、気相成長法によってゲート絶縁膜31上に成膜された導電性のドレインレイヤー(例えば、Cr膜にAlとTiからなる膜を積層したもの)をフォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いてパターニングすることによって形成されたものである。信号線Yは、ドレインレイヤーのパターニングによってソース21s〜23s及びドレイン21d〜23dと同時に形成されたものである。そして、ソース21s〜23s、電極24b、ドレイン21d〜23d及び信号線Yは、窒化シリコン又は酸化シリコン等を有する共通の保護絶縁膜32によって被覆されている。なお図示しないが、供給線Z上には供給線Zの配線の抵抗による信号遅延を解消するために、銅、銀、金、アルミ又はそれらを主成分とした合金を含む低抵抗の配線が形成されていてもよい。この配線は、平坦化膜33及び保護絶縁膜32の少なくともいずれか一方に設けられた溝に埋設されている。この低抵抗配線は、後述する絶縁膜34によって信号線Y及び金属隔壁Wと絶縁されている。
【0035】
保護絶縁膜32には、樹脂を硬化させた平坦化膜33が積層されている。平坦化膜33の表面が平坦となり、スイッチトランジスタ21、保持トランジスタ22、駆動トランジスタ23、走査線X、信号線Y及び供給線Zによる凹凸が平坦化膜33によって解消されている。
【0036】
なお、絶縁基板2から平坦化膜33までの積層構造がトランジスタアレイパネル50である。
【0037】
平坦化膜33上には、有機EL素子20のアノードであるサブピクセル電極20aがマトリクス状に配列されている。図2において、矩形状のサブピクセルPの位置は、サブピクセル電極20a(図3等に図示)の位置を表したものである。即ち、隣り合う信号線Yの間ではサブピクセル電極20aが垂直方向に一列に配列され、走査線Xとその下隣りの供給線Zの間ではサブピクセル電極20aが水平方向に一列に配列されている。なお、これらサブピクセル電極20aは、気相成長法によって平坦化膜33上に成膜された導電性膜(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム、酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)又はカドミウム−錫酸化物(CTO))をフォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いてパターニングすることによって形成されたものである。それぞれのサブピクセルPにおいてコンタクトホール91が平坦化膜33及び保護絶縁膜32を貫通するよう形成され、コンタクトホール91に埋められた導電性パッド92によってサブピクセル電極20aと駆動トランジスタ23のソース23sが接続されている。
【0038】
平坦化膜33上には、サブピクセル電極20aの他に絶縁膜34が形成されている。絶縁膜34はサブピクセル電極20aの間を縫うように網目状に形成されるとともにサブピクセル電極20aの一部外縁部に重なり、サブピクセル電極20aが絶縁膜34によって囲繞されている。また、絶縁膜34は、窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0039】
絶縁膜34には、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着等のPVD法によって例えばクロムからなる密着層35が形成され、密着層35上には、銅、銀、金、アルミ及びそれらを主成分とした合金の中から少なくとも一種を含む金属隔壁Wが積層されている。密着層35は、金属隔壁Wが絶縁膜34との間の密着性が良好でなく剥離してしまう恐れがある場合に成膜されるものであり、金属隔壁W及び絶縁膜34のいずれに対しても密着性に優れた膜である。密着層35の線膨張係数は、絶縁膜34の線膨張係数と金属隔壁Wの線膨張係数との間であることが好ましい。図2に示すように、密着層35及び金属隔壁Wは垂直方向のサブピクセル電極20aの列とその隣りのサブピクセル電極20aの列との間において垂直方向に延在し、信号線Yに密着層35及び金属隔壁Wが平面視して重なっている。金属隔壁Wは、金属ナノインクを硬化させたものであり、トランジスタ21〜23の各電極、走査線X、信号線Y及び供給線Zよりも十分に厚く、更に補助的な配線として機能する。また、これら金属隔壁Wは、サブピクセルPが配列されている領域の外側において互いに接続され、後述する対向電極20cと導通している。金属隔壁Wは対向電極20cと導通して共通電圧を供給するとともに、対向電極20cが十分低抵抗でなくても、全体として電極のシート抵抗を下げる作用をもたらす。このため、各対向電極20cを薄く、或いは高抵抗にしても十分電極として機能するので対向電極20cを透明電極とすれば、対向電極20cでの光透過性を向上できる。
【0040】
なお、図2において、信号線Yと金属隔壁Wとを区別しやすくするために、金属隔壁Wの幅が信号線Yの幅よりも狭くなっているが、実際には図4に示すように、金属隔壁Wは信号線Yとほぼ同じ幅となっていてもよく、或いは金属隔壁Wを信号線Yよりも幅を広くしてもよい。また、図2では複数の金属隔壁Wがライン状に形成されて絶縁膜34の一部に重なっているが、金属隔壁Wが網目状に形成され、その網目状の金属隔壁Wが絶縁膜34の全体に重なっていても良い。
【0041】
金属隔壁Wの表面には、撥液性を有した撥液性導通膜36が成膜されている。撥液性導通膜36は、次の化学式(1)に示されたトリアジルトリチオールのメルカプト基(−SH)の水素原子(H)が還元離脱し、硫黄原子(S)が選択的に金属隔壁Wの表面に酸化吸着したものである。なお、或る液体に対して接触角が50°以上になる状態を撥液性といい、或る液体に対して接触角が40°以下になる状態を親液性という。
【0042】
【化1】

【0043】
撥液性導通層36は極めて薄い分子層構造である。つまり、撥液性導通層36は、トリアジルトリチオール分子が金属隔壁Wの表面に極薄い膜であるから、非常に低抵抗であるため、厚さ方向に電気的に導通することができる。トリアジルトリチオール分子は選択的に金属と結合するが、ITO等の金属酸化物や、有機物には撥液性を示すほど被膜することはない。なお、撥液性を顕著にするためにトリアジルトリチオールに代えて、次の化学式(2)に示すようにトリアジルトリチオールのメルカプト基(−SH)がフッ化アルキルを含む撥液性官能基に置換された誘導体でも良い。撥液性官能基は化学式(2)に示したもの以外でも良い。なお、化学式(2)の化合物はメルカプト基の水素原子(H)が還元離脱し、硫黄原子(S)が金属隔壁Wの表面に酸化吸着することで、撥液性導通層36が形成される。
【0044】
【化2】

ただし、mは1以上の整数であり好ましくは2であり、nは1以上の整数であり好ましくは3である。
【0045】
サブピクセル電極20a上には有機EL層20bが積層されている。有機EL層20bは、有機化合物含有層を二層以上積層したものである。ここでは、有機EL層20bは、サブピクセル電極20aから順に正孔輸送層20d、発光層20eの順に積層した二層構造である。正孔輸送層は、導電性高分子であるPEDOT(ポリチオフェン)及びドーパントであるPSS(ポリスチレンスルホン酸)からなり、発光層は、ポリフルオレン系発光材料からなる。なお、有機EL層20bが、サブピクセル電極20aから順に正孔輸送層、発光層、電子輸送層となる三層構造であっても良いし、サブピクセル電極20aから順に発光層、電子輸送層となる二層構造であっても良いし、サブピクセル電極20aをカソードとし、サブピクセル電極20aから順に発光層、正孔輸送層としてもよいし、サブピクセル電極20aから順に電子輸送層、発光層としてもよいし、電荷輸送層と発光層との組合せは任意に設定できる。また、これらの層構造において適切な層間に電荷輸送を制限するインタレイヤ層が介在した積層構造であっても良いし、その他の積層構造であっても良い。
【0046】
有機EL層20bは、撥液性導通膜36の形成後に湿式塗布法(例えば、インクジェット法)によって成膜される。この場合、正孔輸送層20dとなるPEDOT及びPSSを含有する有機化合物含有液をサブピクセル電極20aに塗布して乾燥成膜し、その後、発光層20eとなるポリフルオレン系発光材料を含有する有機化合物含有液を塗布するが、厚膜の金属隔壁Wが設けられているので、更には金属隔壁Wの表面に撥液性導通膜36が形成されているので、隣り合うサブピクセル電極20aに塗布された有機化合物含有液が金属隔壁Wを越えて混ざり合うことを防止することができる。
【0047】
なお、サブピクセルPが赤の場合には有機EL層20b(特に、発光層20e)が赤色に発光し、サブピクセルPが緑の場合には有機EL層20bが緑色に発光し、サブピクセルPが青の場合には有機EL層20bが青色に発光するように、それぞれの発光層20eの材料を設定する。
【0048】
有機EL層20b上には、有機EL素子20のカソードである対向電極20cが成膜されている。対向電極20cは、全てのサブピクセルPに共通して形成された共通電極であり、べた一面に成膜されている。対向電極20cがべた一面に成膜されることで、対向電極20cが撥液性導通膜36を挟んで金属隔壁Wを被覆している。撥液性導通層36は極めて薄い膜であるので対向電極20cと金属隔壁Wは撥液性導通層36を介して導通しており、低抵抗で張り巡らされた金属隔壁Wが出力する共通電位によって、対向電極20cの電位はどのサブピクセルにおいても均等になっている。
【0049】
対向電極20cは、サブピクセル電極20aよりも仕事関数の低い材料で形成されており、例えば、インジウム、マグネシウム、カルシウム、リチウム、バリウム、希土類金属の少なくとも一種を含む単体又は合金で形成されている。また、対向電極20cは、ELディスプレイパネルをボトムエミッション構造の場合、上記各種材料の層が積層された積層構造となっていても良いし、以上の各種材料の層に加えて金属層が堆積した積層構造となっていても良い。具体的には、対向電極20cは、有機EL層20b側に設けられた低仕事関数の高純度のバリウム層と、バリウム層を被覆するように設けられたアルミニウム層とからなる積層構造であるか、又は、有機EL層20b側に設けられたリチウム層と、バリウム層を被覆するように設けられたアルミニウム層とからなる積層構造であり、トップエミッション構造の場合、対向電極20cを上述した仕事関数の低い単体又は合金を含む層と、その上に上述したITO等の透明電極を成膜した積層構造とし、サブピクセル電極20aを、反射性金属層と、その上に成膜されたITO等の金属酸化物層の積層構造とすればよい。また対向電極20cをアノードとする場合は、上述したITO等の透明電極で構成すればよい。
【0050】
なお、サブピクセル電極20a、有機EL層20b、対向電極20cの順に積層されたものが有機EL素子20である。
【0051】
以下、金属隔壁Wの幅、断面積及び抵抗率を定義する。ここで、ディスプレイパネルのサブピクセル数をWXGA(768×1366)としたときに、金属隔壁Wの望ましい幅、断面積を定義する。図9は、各サブピクセルの駆動トランジスタ23及び有機EL素子20の電流−電圧特性を示すグラフである。
【0052】
図9において、縦軸は1つの駆動トランジスタ23のソース23s−ドレイン23d間を流れる書込電流の大きさ又は1つの有機EL素子20のアノード−カソード間を流れる駆動電流の大きさを表し、横軸は1つの駆動トランジスタ23のソース23s−ドレイン23d間の電圧(同時に1つの駆動トランジスタ23のゲート23g−ドレイン23d間の電圧)のレベルを表す。図中、実線Ids maxは、最高輝度階調(最も明るい表示)のときの書込電流及び駆動電流であり、一点鎖線Ids midは、最高輝度階調と最低輝度階調との間の中間輝度階調のときの書込電流及び駆動電流であり、二点鎖線Vpoは駆動トランジスタ23の不飽和領域(線形領域)と飽和領域との閾値つまりピンチオフ電圧であり、三点鎖線Vdsは駆動トランジスタ23のソース23s−ドレイン23d間を流れる書込電流であり、破線Ielは有機EL素子20のアノード−カソード間を流れる駆動電流である。
【0053】
ここで電圧VP1は、最高輝度階調時の駆動トランジスタ23のピンチオフ電圧であり、電圧VP2は、駆動トランジスタ23が最高輝度階調の書込電流が流れるときのソース−ドレイン間電圧であり、電圧VELmax(電圧VP4−電圧VP3)は有機EL素子20が最高輝度階調の書込電流と大きさが等しい最高輝度階調の駆動電流で発光するときのアノード−カソード間の電圧である。電圧VP2’は、駆動トランジスタ23が中間輝度階調の書込電流が流れるときのソース−ドレイン間電圧であり、電圧(電圧VP4’−電圧VP3’)は有機EL素子20が中間輝度階調の書込電流と大きさが等しい中間輝度階調の駆動電流で発光するときのアノード−カソード間電圧である。
【0054】
駆動トランジスタ23及び有機EL素子20はいずれも飽和領域で駆動させるために、(供給線Zの発光期間時の電圧VH)から(金属隔壁Wの発光期間時の電圧Vcom)を減じた値VXは下記の式(1)を満たす。
【0055】
VX=Vpo+Vth+Vm+VEL ……(1)
【0056】
Vth(最高輝度時の場合VP2−VP1に等しい)は駆動トランジスタ23の閾値電圧であり、VEL(最高輝度時の場合VELmaxに等しい)は有機EL素子20のアノード−カソード間電圧であり、Vmは、階調に応じて変位する許容電圧である。
【0057】
図から明らかなように、電圧VXのうち、輝度階調が高くなる程、トランジスタ23のソース−ドレイン間に要する電圧(Vpo+Vth)が高くなるとともに有機EL素子20のアノード−カソード間に要する電圧VELが高くなる。したがって、許容電圧Vmは、輝度階調が高くなるほど低くなり、最小許容電圧VmminはVP3−VP2となる。
【0058】
有機EL素子20は低分子EL材料及び高分子EL材料にかかわらず一般的に経時劣化し、高抵抗化する。10000時間後のアノード−カソード間電圧は初期時の1.4倍程度になることが確認されている。つまり、電圧VELは、同じ輝度階調時でも時間が経つ程高くなる。このため、駆動初期時の許容電圧Vmが高い程長期間にわたって動作が安定するので、電圧VELが8V以上、より望ましくは13V以上となるように電圧VXを設定している。
【0059】
この許容電圧Vmには、有機EL素子20の高抵抗化ばかりでなく、さらに、供給線Zによる電圧降下の分も含まれる。
【0060】
共通線Zの配線抵抗のために電圧降下が大きいとディスプレイパネルの消費電力が著しく増大してしまうため、共通線Zの電圧降下は1V以下に設定することが特に好ましい。
【0061】
行方向の一つのサブピクセルPの長さであるサブピクセル幅Wpと、行方向のサブピクセル数(1366)と、を考慮した結果、ディスプレイパネルのパネルサイズが32インチ、40インチの場合、共通線Zの全長はそれぞれ706.7mm、895.2mmとなる。ここで、金属隔壁Wの線幅WLが広くなると、構造上有機EL層20bの面積が小さくなり、さらに他の配線との重なり寄生容量を発生してさらなる電圧降下をもたらすため、金属隔壁Wの線幅WLはそれぞれサブピクセル幅Wpの5分の1以下に抑えることが望ましい。このようなことを考慮すると、ディスプレイパネルのパネルサイズが32インチ、40インチの場合、幅WLはそれぞれ34μm以内、44μm以内となる。また、金属隔壁Wの最大膜厚Hmaxはアスペクト比を考慮すると、トランジスタ21〜23の最小加工寸法4μmの1.5倍、つまり6μmとなる。したがって金属隔壁Wの最大断面積Smaxは32インチ、40インチで、それぞれ204μm、264μmとなる。
【0062】
このような32インチのディスプレイパネルについて、最大電流が流れるように全点灯したときの金属隔壁Wの最大電圧降下を1V以下にするためには図10に示すように、金属隔壁Wの配線抵抗率ρ/断面積Sは4.7Ω/cm以下に設定される必要がある。図11に32インチのディスプレイパネルの金属隔壁Wの断面積と電流密度の相関関係を表す。なお、上述した金属隔壁Wの最大断面積Smax時に許容される抵抗率は、32インチで9.6μΩcm、40インチで6.4μΩcmとなる。
【0063】
そして、40インチのディスプレイパネルについて、最大電流が流れるように全点灯したときの金属隔壁Wのそれぞれの最大電圧降下を1V以下にするためには図12に示すように、金属隔壁Wの配線抵抗率ρ/断面積Sは2.4Ω/cm以下に設定される必要がある。図13に40インチのディスプレイパネルの金属隔壁Wの断面積と電流密度の相関関係を表す。
【0064】
金属隔壁Wの故障により動作しなくなる故障寿命MTFは、下記の式(2)を満たす。
【0065】
MTF=A exp(Ea/KT)/ρJ ……(2)
【0066】
Eaは活性化エネルギー、KT=8.617×10―5eV、ρは金属隔壁Wの抵抗率、Jは電流密度である。
【0067】
金属隔壁Wの故障寿命MTFは抵抗率の増大やエレクトロマイグレーションに律速する。金属隔壁WをAl系(Al単体或いはAlTiやAlNd等の合金)に設定し、MTFが10000時間、85℃の動作温度で試算すると、電流密度Jは2.1×10A/cm以下にする必要がある。同様に金属隔壁WをCuに設定すると、2.8×10A/cm以下にする必要がある。なおAl合金内のAl以外の材料はAlよりも低い抵抗率であることを前提としている。
これらのことを考慮して、32インチのディスプレイパネルでは、全点灯状態で10000時間に金属隔壁Wが故障しないようなAl系の金属隔壁Wのそれぞれの断面積Sは、図10から、57μm以上必要になり、同様にCuの金属隔壁Wのそれぞれの断面積Sは、図11から、0.43μm以上必要になる。
【0068】
そして40インチのディスプレイパネルでは、全点灯状態で10000時間に金属隔壁Wが故障しないようなAl系の金属隔壁Wのそれぞれの断面積Sは、図12から、92μm以上必要になり、同様にCuの金属隔壁Wのそれぞれの断面積Sは、図13から、0.69μm以上必要になる。
【0069】
Al系の金属隔壁Wでは、Al系の抵抗率が4.00μΩcmとすると、32インチのディスプレイパネルでは上述のように配線抵抗率ρ/断面積Sが4.7Ω/cm以下なので、最小断面積Sminは85.1μmとなる。このとき上述のように金属隔壁Wの配線幅WLは34μm以内なので金属隔壁Wの最小膜厚Hminは2.50μmとなる。
【0070】
またAl系の金属隔壁Wの40インチのディスプレイパネルでは上述のように配線抵抗率ρ/断面積Sが2.4Ω/cm以下なので、最小断面積Sminは167μmとなる。このとき上述のように金属隔壁Wの配線幅WLは44μm以内なので金属隔壁Wの最小膜厚Hminは3.80μmとなる。
【0071】
Cuの金属隔壁Wでは、Cuの抵抗率が2.10μΩcmとすると、32インチのディスプレイパネルでは上述のように配線抵抗率ρ/断面積Sが4.7Ω/cm以下なので、最小断面積Sminは44.7μmとなる。このとき上述のように金属隔壁Wの配線幅WLは34μm以内なので金属隔壁Wの最小膜厚Hminは1.31μmとなる。
【0072】
またCuの金属隔壁Wの40インチのディスプレイパネルでは上述のように配線抵抗率ρ/断面積Sが2.4Ω/cm以下なので、最小断面積Sminは87.5μmとなる。このとき上述のように金属隔壁Wの配線幅WLは44μm以内なので金属隔壁Wの最小膜厚Hminは1.99μmとなる。
【0073】
以上のことから、ディスプレイパネルを正常且つ消費電力を低く動作させるには、金属隔壁Wでの電圧降下を1V以下にした方が好ましく、このような条件にするには、金属隔壁WがAl系の32インチのパネルでは、膜厚Hが2.50μm〜6μm、幅WLが14.1μm〜34.0μm、抵抗率が4.0μΩcm〜9.6μΩcmとなり、金属隔壁WがAl系の40インチのパネルでは、金属隔壁WがAl系の場合、膜厚Hが3.80μm〜6μm、幅WLが27.8μm〜44.0μm、抵抗率が4.0μΩcm〜9.6μΩcmとなる。
【0074】
総じてAl系の金属隔壁Wの場合、膜厚Hが2.50μm〜6μm、幅WLが14.1μm〜44μm、抵抗率が4.0μΩcm〜9.6μΩcmとなる。
同様に、金属隔壁WがCuの32インチのパネルでは、膜厚Hが1.31μm〜6μm、幅WLが7.45μm〜34μm、抵抗率が2.1μΩcm〜9.6μΩcmとなり、金属隔壁WがCuの40インチのパネルでは、金属隔壁WがCu系の場合、膜厚Hが1.99μm〜6μm、幅WLが14.6μm〜44.0μm、抵抗率が2.1μΩcm〜9.6μΩcmとなる。
【0075】
総じてCuの金属隔壁Wの場合、膜厚Hが1.31μm〜6μm、幅WLが7.45μm〜44μm、抵抗率が2.1μΩcm〜9.6μΩcmとなる。
したがって、金属隔壁WとしてAl系材料又はCuを適用した場合、ディスプレイパネルの金属隔壁Wは、膜厚Hが1.31μm〜6μm、幅WLが7.45μm〜44μm、抵抗率が2.1μΩcm〜9.6μΩcmとなる。
【0076】
次に、ボトムエミッション構造のELディスプレイパネルの製造方法について説明する。
【0077】
図5に示すように、気相成長法、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を適宜何回か行うことによって、トランジスタアレイパネル50を製造し、それぞれのサブピクセルPにコンタクトホール91を形成して導電性パッド92を埋設し、気相成長法、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を順によってITO等の金属酸化物からなる透明のサブピクセル電極20aをパターニングする。次いで気相成長法によって絶縁膜34を成膜後、トランジスタアレイパネル50上にわたって網目状にパターニングしてサブピクセル電極20aを露出させる。
【0078】
次に、図6に示すように、サブピクセル電極20aの間であって絶縁膜34の上にクロムからなる密着層35を気相成長法、フォトリソグラフィー法及びエッチング法により絶縁膜34上にトランジスタアレイパネル50上にわたって網目状に形成する。なお、密着層35となる金属層を成膜する前に絶縁膜34を成膜しただけでパターニングを行わずに、密着層35をパターニングしてから絶縁膜34のパターニングを行うようにしてもよい。
【0079】
次に、図7に示すように、レジスト52をべた一面に塗布し、そのレジスト52を露光・現像することにより、水平方向に隣り合うサブピクセル電極20aの間であって密着層35の上を開口させ、その開口部において密着層35を露出させる。
【0080】
次に、図8に示すように、インクジェットヘッド又はディスペンサーを用いて、金属ナノインクをレジスト52の開口部に塗布し、密着層35上に金属隔壁Wを積層する。インクジェットヘッドを用いる場合、インクジェットヘッドの金属ナノインクの吐出ノズル又はディスペンサーノズルが相対的にトランジスタアレイパネル50の表面に沿って移動するように、インクジェットヘッド又はディスペンサーとトランジスタアレイパネル50とのうちの少なくとも一方を移動させながら、インクジェットヘッド又はディスペンサーから金属ナノインクを吐出する。ここで用いる金属ナノインクは、銀、金、銅、アルミ、これらを主成分とした合金等の少なくとも一種を含む直径が5〜9nm程度の複数の金属微粒子を被覆剤で被覆して、分散媒に分散させたものであり、焼成工程で比較的低温処理でき、また比抵抗が比較的低いことから特に銀ナノインクを用いると良い。なお金属ナノインクは焼成により凝集する際に溶融しやすいように融点の低い金属を混入させてもよい。密着層35上に金属ナノインクを塗布している間、トランジスタアレイパネル50は数十℃に加熱されているので金属ナノインク中の溶剤を蒸発して乾燥された金属隔壁Wが形成される。また、金属ナノインクを塗布する代わりに、金属微粒子からなる粉体を塗布することで、金属隔壁Wを形成しても良い。この場合、金属微粒子が飛散しないように速やかに金属微粒子を溶融する温度に加熱することが望ましい。また図7の状態でトランジスタアレイパネル50の密着層35を金属ナノインクで満たされた槽に付着させて堆積するディップ成膜を行ってもよい。
【0081】
このように、金属ナノインクが絶縁膜34に対して密着しにくい場合であっても、金属ナノペースに対して密着性の高い密着層35がパターニングされているから、金属ナノインクによる金属隔壁Wを剥離されることなく形成することができる。また、レジスト52をパターニングし、レジスト52の間の開口部に金属ナノインクを塗布しているから、塗布された金属ナノインクがレジスト52によって堰き止められ、塗布された金属ナノインクの滲みを防止することができる。そのため、精度良く金属隔壁Wをパターニングすることができる。また、金属ナノインクは、レジスト52により支持されているためにレジスト52の開口内に収まるので、低粘度であっても密着層35上から広がってサブピクセル電極20a上にまで流出することはない。つまり、金属隔壁Wの幅は、レジスト52の開口幅により規制されることができるので所定の長さとすることが可能となり、金属隔壁Wがサブピクセル電極20aや隣接する金属隔壁Wと短絡することがない。
【0082】
次に、レジスト52を除去してから金属隔壁Wを30分〜60分、180℃〜220℃に焼成して金属隔壁W内の複数の金属微粒子同士を固着、凝集して完全に固化させる。
【0083】
次に、紫外線/オゾン洗浄法によってトランジスタアレイパネル50を洗浄する。次に、表面全体にトリアジンチオール化合物またはトリアジンチオール誘導体(例えば化学式(1)又は化学式(2))の水溶液をトランジスタアレイパネル50に塗布することによって、或いは、トランジスタアレイパネル50をトリアジンチオール水溶液に浸漬することによって、金属隔壁Wの表面処理を行う。トリアジンチオールの性質により、金属隔壁Wの表面にはトリアジンチオール水溶液が塗布されて、金属隔壁Wの表面には撥液性導通膜36が形成されるが、絶縁膜34の表面には撥液性導通膜が形成されない。
【0084】
ここで、化学式(2)のフッ素系トリアジンジチオール誘導体は、水に難溶又は不溶であるが、同モル量のNaOH又はKOHの水溶液に溶解し、フッ素系トリアジンジチオール誘導体水溶液を調製することができる。水溶液の濃度は、1×10-4〜1×10-2mol/Lの範囲とする。フッ素系トリアジンジチオール誘導体水溶液を用いる場合には、水溶液の温度を20〜30℃とし、浸漬時間を1〜10分とすることが好ましい。フッ素系トリアジンジチオール誘導体のフッ素は多い程、撥水性を示すが溶媒に溶解しにくくなるので多すぎないことが好ましい。なお、上述のトリチオールやジチオールに限らず、モノチオールとしてもよく、モノチオールの場合、フッ化アルキルを含む撥液性官能基を一つまたは二つ設けてもよい。
【0085】
トリアジンチオール水溶液にトランジスタアレイパネル50を浸漬した後、そのトランジスタアレイパネル50を取り出し、アルコールによってそのトランジスタアレイパネル50をすすぐ。これにより、余分なトリアジンチオールを洗い流す。
【0086】
次に、そのトランジスタアレイパネル50を水で二次洗浄した後、不活性ガス(例えば、窒素ガス(N2))をトランジスタアレイパネル50に吹き付けることにより、トランジスタアレイパネル50を乾燥させる。
【0087】
次に、正孔注入材料(導電性高分子であるPEDOT及びドーパントとなるPSS)を水に分散した有機化合物含有液をサブピクセル電極20aに塗布する。塗布方法としては、インクジェット法(液滴吐出法)、その他の印刷方法を用いても良いし、ディップコート法、スピンコート法といったコーティング法を用いても良い。サブピクセル電極20aごとに独立して正孔輸送層20dを成膜するためには、インクジェット法等の印刷方法が好ましい。
【0088】
このように湿式塗布法により正孔輸送層20dを形成した場合、厚膜の金属隔壁Wが設けられているから、更には金属隔壁Wの表面に撥液性導通膜36がコーティングされているから、隣り合うサブピクセル電極20aに塗布された有機化合物含有液が金属隔壁Wを越えて混ざり合わない。そのため、サブピクセル電極20aごとに独立して正孔輸送層20dを形成することができる。
【0089】
更に、撥液性導通膜36の撥液性によって、サブピクセル電極20aに塗布された有機化合物含有液がサブピクセル電極20aの外縁部で厚くならないので、正孔輸送層20dを均一な膜厚で成膜することができる。
【0090】
正孔輸送層20dを形成した後、ホットプレートを用いてトランジスタアレイパネル50を160〜180℃の温度で熱処理する。
【0091】
次に、発光色が赤、緑、青のポリフルオレン系発光材料をそれぞれ有機溶剤(例えば、テトラリン、テトラメチルベンゼン、メシチレン)に溶かし、赤、緑、青それぞれの有機化合物含有液を準備する。そして、赤のサブピクセルPの正孔輸送層20d上には赤の有機化合物含有液を塗布し、緑のサブピクセルPの正孔輸送層20d上には緑の有機化合物含有液を塗布し、青のサブピクセルPの正孔輸送層20d上には青の有機化合物含有液を塗布する。これにより、正孔輸送層20d上に発光層20eを成膜する。塗布方法としてはインクジェット法(液滴吐出法)、その他の印刷方法を用いて、色ごとに塗り分けを行う。
【0092】
このように湿式塗布法により発光層20eを形成した場合、厚膜の金属隔壁Wが設けられているから、更には金属隔壁Wの表面に撥液性導通膜36がコーティングされているから、隣り合うサブピクセルPに塗布された有機化合物含有液が金属隔壁Wを越えて混ざり合わない。そのため、サブピクセルPごとに独立して発光層20eを形成することができる。
【0093】
なお、発光層20eを形成する前に正孔輸送層20dに正孔輸送層20dからの正孔輸送性を制限するインタレイヤ層をインクジェット法等の湿式塗布法により積層し、その後そのインタレイヤ層に発光層20eを積層しても良い。
【0094】
次に、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素ガス雰囲気)下でホットプレートによってトランジスタアレイパネル50を乾燥させ、残留溶媒の除去を行う。なお、真空中でシーズヒータによる乾燥を行っても良い。
【0095】
次に、気相成長法により対向電極20cをべた一面に成膜する。具体的には、真空蒸着法によってCa又はBaの薄膜をべた一面に成膜し、その上にAl又はITOをべた一面に成膜する。金属隔壁Wは、撥液性導通層36は極めて薄い膜であるので対向電極20cと金属隔壁Wは撥液性導通層36を介して導通しており、低抵抗で張り巡らされた金属隔壁Wが出力する共通電位によって、対向電極20cの電位はどのサブピクセルにおいても均等になっている。
【0096】
次に、封止基板(例えば、メタルキャップ、ガラス基板)に紫外線硬化性又は熱硬化性の接着剤を塗布し、その接着剤によって封止基板を対向電極20cに接着する。これにより、ELディスプレイパネルが完成する。
【0097】
以上のように、本実施形態によれば、各サブピクセルPの間において凸設された金属隔壁Wがトランジスタ21〜23の電極とにメッキ法により成長したものであるから、金属隔壁Wを厚膜にすることができ、金属隔壁Wを低抵抗化することができる。そして、金属隔壁Wが対向電極20cに導通しているから、対向電極20c自体が薄膜化してより高抵抗になっても対向電極20cの電圧を面内で一様にすることができる。従って、サブピクセルPごとの発光強度のバラツキを防止することができ、面内の発光強度を一様することができる。例えば、全てのサブピクセル電極20aに同じ電位を印加した場合でも、どのサブピクセルPにおいても有機EL層20bの発光強度もほぼ等しくなる。
【0098】
〔第3の実施の形態〕
次に、図14を用いて第3実施形態におけるELディスプレイパネルについて説明する。なお、第3実施形態におけるELディスプレイパネルと第2実施形態におけるELディスプレイパネルとの間で互いに対応する部分に同一の符号を付す。以下では、第3実施形態におけるELディスプレイパネルと第2実施形態におけるELディスプレイパネルとの間で互いに対応する部分が異なる場合に、その相違する部分について説明する。
【0099】
第3実施形態におけるELディスプレイパネルにおいては、金属隔壁Wが絶縁膜34及び平坦化膜33の上層133aに設けられたコンタクトホール37に埋め込まれている。ここで、平坦化膜33は上層133aと下層133bから構成され、金属隔壁Wは下層133bまで埋設されず、上層133aに埋設されている。上層133a及び下層133b何れもレジストのように感光性樹脂を硬化させたものであり、上層133aのうち金属隔壁Wが埋設される箇所が露光・現像により開口されコンタクトホール37が形成されている。具体的には、図5の状態から金属ナノインクが上層133a及び絶縁膜34をエッチングしてコンタクトホール37を形成し、このコンタクトホール37に金属ナノインクを塗布して金属隔壁Wが形成される。金属ナノインクを塗布している間、トランジスタアレイパネル50は数十℃に加熱されているので速やかに溶剤が蒸発し、乾燥した金属微粒子がコンタクトホール37内に積層される。このとき、絶縁膜34の高さ以上に金属微粒子を積層するのであれば、絶縁膜34上にコンタクトホール37の位置にコンタクトホールが設けられたレジストマスクを設けてから、金属ナノインクを堆積することが好ましい。なおその他の製造工程は第2実施形態の製造工程と同様でる。
【0100】
上層133a及び絶縁膜34が金属隔壁Wを埋め込む凹部として用いられるが、上層133a及び絶縁膜34除去されずにそのままディスプレイパネルに残存させるから、金属隔壁Wは、上層133aの底面及び側壁、並びに絶縁膜34の側壁により密着されているので第2実施形態の場合と比較しても、金属隔壁Wが更に剥離しにくくなる。
【0101】
なお、図15に示すように、下層133bを形成した後であって上層133aを形成する前に、下層133b上に密着層35を気相成長法、フォトリソグラフィー法及びエッチング法によってパターニングしても良い。この場合、密着層35のパターン後、上層133aを積層してからコンタクトホール37を形成するか、上層133aを積層後上層133aにコンタクトホール37を設けてから密着層35を積層する。この後、コンタクトホール37に向けて金属ナノインクを塗布することで金属隔壁Wを形成する。
【0102】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
【0103】
例えば、金属隔壁Wの表面に金メッキを施してから撥液性導通膜36を被膜しても良い。
【実施例1】
【0104】
以下、実施例を挙げることにより本発明について更に具体的に説明する。
配線をパターニングする基板には、表面に窒化シリコン(SiN)が成膜された基板を用いた。また、金属ナノインクとして、真空冶金株式会社製のAgナノメタルインク(型式Agl TeH)を用いた。また、レジストとして、ナガセケムテックス株式会社製のノボラック系のポジ型レジスト(型式NPR3510PG)を用いた。
【0105】
まず、基板の表面に密着層として膜厚20〜30nmのクロム膜をスパッタリングにより成膜し、そのクロム膜をフォトリソグラフィー法・エッチング法によりパターニングした。クロム膜は、窒化シリコンに対して配線が十分に密着されるように形成されるものである。
その後、フォトリソグラフィー法により、クロム膜を露出させるようにポジ型レジストをパターニングした。ここで、ポジ型レジストの膜厚を1.5μmとし、その開口幅を30μmとし、開口ピッチを169μmとした。
次に、インクジェット法によりレジストの開口部に金属ナノインクを吐出した。このとき、インクジェット装置の基板ステージを加熱し、基板の表面温度を50℃に加熱した状態で金属ナノインクの吐出を行った。また、金属ナノインクの液滴量は30plとし、着弾ピッチ85μmとし、二回重ね塗りを行った。
次に、塗布した金属ナノインクが乾くまで基板を基板ステージ上にて放置した。インクが乾いたら、基板を取り出し、除去液である水酸化カリウム水溶液にその基板を浸漬し、レジストを除去した。水酸化カリウムの濃度は5〜10wt%が好適である。このとき、塗布された金属ナノインクは基板上で仮乾燥しているため、水酸化カリウム水溶液に基板を浸漬してもその金属ナノインクが剥離することはなかった。
レジストの除去後、大気中において金属ナノインクに対して焼成を行った。焼成条件温度を180〜220℃とし、焼成時間を30〜60分とした。
出来上がった配線の幅は30μmであり、その膜厚は1.5μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】配線のパターニング方法の工程図である。
【図2】ディスプレイパネルの概略平面図である。
【図3】サブピクセルの等価回路図である。
【図4】図2の切断線IV−IVに沿った面の矢視断面図である。
【図5】ディスプレイパネルの製造方法の一工程を示した図である。
【図6】図5の次の工程を示した図である。
【図7】図6の次の工程を示した図である。
【図8】図7の次の工程を示した図である。
【図9】駆動トランジスタ23及び有機EL素子20の電流−電圧特性を示すグラフである。
【図10】32インチのディスプレイパネルにおける金属隔壁Wの最大電圧降下と配線抵抗率ρ/断面積Sの相関を示すグラフである。
【図11】32インチのディスプレイパネルにおける金属隔壁Wの断面積と電流密度の相関を示すグラフである。
【図12】40インチのディスプレイパネルの金属隔壁Wの最大電圧降下と配線抵抗率ρ/断面積Sの相関を示すグラフである。
【図13】40インチのディスプレイパネルの金属隔壁Wの断面積と電流密度の相関を示すグラフである。
【図14】第3実施形態におけるディスプレイパネルの断面図である。
【図15】変形例におけるディスプレイパネルの断面図である。
【符号の説明】
【0107】
35 薄膜
50 トランジスタアレイパネル
52 レジスト
133a 上層(レジスト)
W 金属隔壁(配線)
550 トランジスタアレイパネル
551 薄膜
552 レジスト
553 金属ナノインク
554 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられたレジストの開口部に金属ナノインク又は金属微粒子を塗布することによって配線をパターニングすることを特徴とする配線のパターニング方法。
【請求項2】
前記金属ナノインクとして銀ナノインクを用いることを特徴とする請求項1に記載の配線のパターニング方法。
【請求項3】
前記金属ナノインクの塗布後に乾燥してから前記レジストを除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の配線のパターニング方法。
【請求項4】
前記レジストの前記開口部には前記基板に設けられた密着層が露出され、前記金属ナノインクを前記密着層上に塗布することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の配線のパターニング方法。
【請求項5】
基板上に設けられた密着層上に金属ナノインク又は金属微粒子を塗布することによって配線をパターニングすることを特徴とする配線のパターニング方法。
【請求項6】
前記密着層の線膨張係数は、前記配線の線膨張係数と前記密着層の直下の部材の線膨張係数との間であることを特徴とする請求項5記載の配線のパターニング方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の配線のパターニング方法を用いてディスプレイパネルの表示領域内に配線を形成することを特徴とするディスプレイパネルの製造方法。
【請求項8】
ピクセルを仕切る隔壁として前記配線を用いることを特徴とする請求項7に記載のディスプレイパネルの製造方法。
【請求項9】
前記隔壁の間に形成された電極に向けて有機化合物含有液を塗布することを特徴とする請求項8に記載のディスプレイパネルの製造方法。
【請求項10】
請求項1から4の何れか一項に記載の配線のパターニング方法によってパターニングされたことを特徴とする配線。
【請求項11】
請求項7から9の何れか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−260954(P2006−260954A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77114(P2005−77114)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】