説明

配線板及びその製造法

【課題】アルミニウム基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かした、現実に製品化できる配線板を提供する。
【解決手段】アルミニウム基板1面にアルマイト層2が形成され、アルマイト層2は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層2Aとなり、アルミニウム基板1と当接する側の面とは反対側の高絶縁層2Aの面上に、配線部11が配される。そして、高絶縁層2A表面と配線部11を構成する導電層13との間に、スパッタリング法等の物理気相成長法、または化学気相成長法により金属層12が形成されている。アルマイト層2は、硬質アルマイトからなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線板及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器を構成する電子部品の高密度実装化や、発光ダイオードの普及に伴い、放熱性の良い配線板の要求が高まっている。放熱性の良い配線板には、セラミック基板、ほうろう基板およびアルミニウム基板を用いたものがある。これらのうち、セラミック基板と、ほうろう基板は、重量が重い上に加工性が良好でない欠点がある。
【0003】
そこで、軽量で加工性の良好なアルミニウム基板を用いた、放熱性の良い配線板に関する技術が提案されている(特許文献1参照)。また、その技術の改良として、アルミニウム基板表面に酸化アルミニウム膜および金属ニッケルを形成し、アルミニウム基板の耐蝕性を高めるものが知られている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特公昭46−13234号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平9−181221号公報(段落[0011])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や2に示されているように、アルミニウム基板の一面に酸化アルミニウム(アルマイト)層を形成し、さらにそのアルマイト層の表面に導電路を形成する技術は十分知られている。しかしこの技術は、アルマイト層の絶縁性の問題と、メッキに対する耐蝕性の問題を依然として解決できないことから、製品化には至っていない。現在製品化されているアルミニウムをベースとした基板は、絶縁体に有機物である樹脂を使用したものである。ところが、この製品化されているアルミニウム配線板は、樹脂の絶縁体が断熱層となり、アルミニウム金属の高い熱伝導率を生かしきれないものとなっている。
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、アルミニウム基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かした、現実に製品化できる配線板およびその製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の配線板は、アルミニウム基板面にアルマイト層が形成され、アルマイト層は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層となり、高絶縁層のアルミニウム基板とは反対となる表面に、物理気相成長法または化学気相成長法により金属層が形成され、金属層の高絶縁層とは反対の面上に、金属層と共に導電層となる配線部が配されている。
【0008】
この発明の配線板によれば、高絶縁層は、通常、樹脂等の層に比して3倍から5倍の熱伝導率を有している。そのため、この発明の配線板は、アルミニウム基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かし得る。また、アルマイト層を封孔処理することにより、アルマイト層が形成されたアルミニウム基板面における微細な、導電性を有する金属アルミニウムの露出が抑制される。すると、高絶縁層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁性を向上させることができる。そのため、配線板面に絶縁部分を設けることができる。さらに、金属の多くは物理気相成長法または化学気相成長法により、高絶縁層面と強固に固着する。ここで、高絶縁層の表面にはメッキ等の手段で配線部を構成する導電層を形成するのが困難である。しかし、金属層の表面には銅メッキ等の処理を施しやすい。よって、この金属層を高絶縁層の表面上に形成すれば、導電層を形成する手段の選択肢が広がり、高絶縁層の表面上に導電層を形成する工程が容易となり得る。
【0009】
また、本発明の配線板は、アルミニウム基板面にアルマイト層が形成され、アルマイト層は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層となり、高絶縁層の厚みが30μmを超え500μmまでの範囲にあり、アルミニウム基板と当接する側の面とは反対側の高絶縁層の面上に、配線部が配されている。
【0010】
この発明の配線板によれば、高絶縁層は、通常、樹脂等の層に比して3倍から5倍の熱伝導率を有している。そのため、この発明の配線板は、アルミニウム基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かし得る。また、アルマイト層を封孔処理することにより、アルマイト層が形成されたアルミニウム基板面における微細な、導電性を有する金属アルミニウムの露出が抑制される。すると、高絶縁層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁性を向上させることができる。そのため配線板面に絶縁部分を設けることができる。この高絶縁層の厚みが30μmを超えることとしているため、高絶縁層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁が、十分なものとなる。また、この高絶縁層の厚みを500μm以下としているので、高絶縁層が剥がれてしまう危険性が少ないものとなる。
【0011】
他の発明の配線板は、上述の発明に加え、アルマイト層は、硬質アルマイトからなることとしている。この構成を採用することにより、アルマイト層を、容易かつ効率良く厚く形成できる。ここで、高絶縁層の厚みは厚い方が、高絶縁層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁を十分にできるため、硬質アルマイトを形成するのが有利である。特に、高絶縁層の厚みを5μm、10μm、20μm、35μm、100μmまたは500μmのように、厚めに、または厚く形成する場合には、硬質アルマイトを形成するのが有利である。
【0012】
他の発明の配線板は、上述の発明に加え、金属層は、Cr,Ti,Ni,Pdのいずれか、または、これらの金属のうち複数が、高絶縁層に接触するように形成されている。これらの金属は、物理気相成長法または化学気相成長法により、高絶縁層の面と強固に固着する。高絶縁層は絶縁物故、その表面にはメッキ等の手段で導電層を形成するのが困難だが、これらの金属の表面にはメッキ等の処理を施しやすい。よって、これらの金属層を形成すれば、導電層を形成する手段の選択肢が広がり、導電層を形成する工程が容易となり得る。
【0013】
なお、Cr,Ti,Ni,Pdは、それぞれの金属単体、または、それぞれの金属を基とする合金(たとえば、Cr−Fe系合金、Ni−Cr系合金等)であって、物理気相成長法または化学気相成長法により形成された場合に、高絶縁層と配線部との接着を担う役割を有するものを含む。
【0014】
また、他の発明は、上述の発明に加え、配線部は、前記金属層と、その金属層の表面に、メッキ法により形成された銅層を有している。ここで銅を、Cr,Ti,Ni,Pdのいずれか、または、これらの金属のうち複数から構成されている金属層に被着するようにメッキをすると、銅と金属層との間のメッキ固着強度を高くすることができる。
【0015】
さらに、本発明の配線板は、アルミニウム基板面に硬質アルマイトからなるアルマイト層が形成され、アルマイト層は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層となり、アルミニウム基板と当接する側の面とは反対側の高絶縁層の面上に、配線部が配されている。
【0016】
この発明の配線板によれば、高絶縁層は、通常、樹脂等の層に比して3倍から5倍の熱伝導率を有している。そのため、この発明の配線板は、アルミニウム基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かし得る。また、アルマイト層を封孔処理することにより、アルマイト層が形成されたアルミニウム基板面における微細な、導電性を有する金属アルミニウムの露出が抑制される。すると、高絶縁層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁性を向上させることができる。そのため、配線板面に絶縁部分を設けることができる。さらに、アルマイト層を、通常よりも大きな厚みにしやすい硬質アルマイトからなることとしているため、高絶縁層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁が十分なものとなる。
【0017】
なお、「高絶縁」の語は、配線板を構成するに十分な程度に、配線部とアルミニウム基板との絶縁を実現する対象について用いている。また「絶縁性が向上した高絶縁層」は、配線部とアルミニウム基板との絶縁を、より確実にした、封孔処理後のアルマイト層である。また、「アルミニウム基板」には、金属アルミニウムまたはアルミニウム基合金からなるものを含む。また、「硬質アルマイト」は、硬度が概ね250HV以上のアルマイトをいう。そしてその硬度は、封孔処理後の高絶縁層の状態でも概ね維持される。また、この硬度は、アルミニウム基板にアルマイト層または高絶縁層が付いたものの断面における、アルマイト層または高絶縁層部分を、市販のマイクロビッカース硬度計を用い、100gの荷重で測定したものである(以下、硬度は同じ測定方法によるものである)。
【0018】
本発明の配線板の製造法は、アルミニウム基板面にアルマイト層を形成する第1の工程と、アルマイト層を封孔処理して絶縁性を向上させた高絶縁層とする第2の工程と、アルミニウム基板と当接する側の面とは反対側の、高絶縁層の面上に、物理気相成長法または化学気相成長法により、金属層を形成する第3の工程と、高絶縁層と当接する側の面とは反対側の、金属層の表面に、導電層を形成する第4の工程と、金属層のうち、導電層と当接する部分以外の部分を除去して配線部を形成する第5の工程とを経る。
【0019】
この発明によれば、第1の工程で形成したアルマイト層を、第2の工程で封孔処理した高絶縁層の面が、第3の工程で金属層により被覆されている。よって第3の工程より後の工程で、酸性溶液等の高絶縁層を侵す薬品中に、高絶縁層を浸漬させるような工程があったとしても、高絶縁層は保護され、配線板面の絶縁性及び高絶縁層の構造的強度は維持される。また第2の工程で封孔処理することにより、アルマイト層が形成されたアルミニウム基板面における微細な、導電性を有する金属アルミニウムの露出が抑制される。すると、高絶縁層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁性を向上させることができる。そのため、配線板面に絶縁部分を設けることができる。さらに第5の工程により、高絶縁層の表面に配される配線部が複数存在しても、各配線部の電気的独立性が実現される。
【0020】
他の発明の配線板の製造法は、上述の発明における第1の工程を、アルミニウム基板面に硬質アルマイトからなるアルマイト層を形成する工程としている。この構成を採用することで、厚くアルマイト層を形成する場合に、第1の工程が容易化・効率化される。
【0021】
他の発明の配線板の製造法は、上述の発明の第3の工程における前記金属層の形成が、Cr、Ti、Ni、Pdのいずれか、またはこれらの金属のうち複数からなる層を形成し、その後Cu層を形成する過程を経ることとしている。この構成を採用することで、Cu層によりCr層が被覆されてCr層表面の酸化が抑制され、第4の工程で、Cr層表面に導電層を形成したときの、Cr層と導電層との固着強度が強くなる。
【0022】
他の発明の配線板の製造法は、上述の発明における第4の工程の導電層である銅層を、メッキ法により形成している。この構成を採用することにより、第3の工程で形成した金属層と、銅層とが強固に固着される。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、アルミニウム基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かした、現実に製品化できる配線板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る配線板10について、その製造過程の一例を示す図1における、製造の最終段階を経た図1(G)に示す配線板10を参照しながら説明する。
【0025】
本実施の形態の配線板10は、アルミニウム基板1の面にアルマイト層2が形成されている。このアルマイト層2は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層2Aとなり、アルミニウム基板1と当接する側の面とは反対側の高絶縁層2Aの面上に、配線部11が配される。そして、高絶縁層2Aの表面には、物理気相成長法または化学気相成長法により金属層12が形成されている。また、高絶縁層2Aと当接する側の表面とは反対側の、金属層12の表面には、配線部11を構成する導電層13が、メッキ法により形成されている。
【0026】
ここで、アルミニウム基板1の材料は、金属アルミニウムまたはアルミニウム基合金とすることができる。アルミニウム基合金は、たとえばAl−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金等である。また、アルミニウム基板1の面にアルマイト層2を形成するには、アルミニウム基板1を陽極酸化する等の処理を行う。このアルマイト層2の厚みを調整するには、たとえば、その陽極酸化の際の電気量や酸化時間等を適宜調整する。
【0027】
高絶縁層2Aの厚みは、厚くするに従い、高絶縁層2Aを介したアルミニウム基板1と配線部11との絶縁を確実にする。しかし、その厚みが500μmを越える場合には、高絶縁層2A自身の構造が比較的脆いため、高絶縁層2Aとアルミニウム基板1との固着性を高く維持し難い。よって、高絶縁層2Aの厚みは、500μm以下とする。なお、高絶縁層2Aとアルミニウム基板1との固着性をより良くする観点からは、高絶縁層2Aの厚みを300μm以下とするのが好ましく、100μm以下とすることがさらに好ましい。他方、高絶縁層2Aを介したアルミニウム基板1と配線部11との絶縁を確実にする観点からは、高絶縁層2Aの厚みを10μm以上もしくは20μm以上とすることが好ましく、また30μmを超える値とすることが、さらに好ましい。
【0028】
アルマイト層2を封孔処理する方法には、たとえば、アルマイト層2を酢酸ニッケル系溶液に浸漬する方法、または酢酸ニッケル系溶液の蒸気に接触させる方法等がある。これらの方法によれば、アルマイト層2が溶融・再結晶化(再成長化)するため、アルマイト層2に微細な孔があっても、その孔をアルマイト等からなる絶縁物が封孔する。その他の封孔処理方法には、高い耐蝕性を付与できる加圧水蒸気による蒸気封孔、耐摩耗性をあまり低下させずに耐蝕性を付与できる重クロム酸封孔、また、フッ化物による低温封孔等がある。
【0029】
このような封孔処理の結果、アルミニウム基板1の表面の微少領域に露出している、もしくは露出しているに等しい状態の、導電性を有する金属アルミニウムが絶縁物で覆われる。よって、封孔処理によりアルマイト層2の絶縁性が向上する。そして、この高絶縁層2Aを介したアルミニウム基板1と配線部11との絶縁を確実にする。また、封孔処理の結果、その露出している、もしくは露出しているに等しい状態の、金属アルミニウム部分を防触することができる。さらに、封孔処理の結果、構造が比較的脆いアルマイト層2が補強される。
【0030】
ここで、封孔処理によって孔を塞ぐ物質は、主として金属化合物(金属酸化物や金属水酸化物等)であり、アルマイト、アルミナ、水酸化アルミニウム等を含む。さらには窒化アルミニウム等の金属窒化物等であってもよい。また、アルミニウム基板1がアルミニウム合金からなるものであって、そのアルミニウム基板1を陽極酸化してアルマイト層2を形成した後、酢酸ニッケル溶液等に浸漬して封孔処理する場合には、アルミニウム合金のアルミニウム以外の金属の酸化物や水酸化物も孔を塞ぐ物質となり得る。さらには、孔を塞ぐ物質として、樹脂等を用いることができる。孔はアルミニウム基板1の表面に部分的に存在するから、従来のように、樹脂等が膜としてアルミニウム基板1を覆うことにはならない。よって、樹脂等の断熱効果はアルミニウム基板1の表面において部分的に発揮されるに過ぎないから、アルミニウム基板1が有する放熱性の良い特性を十分に生かし得る配線板10が得られる。
【0031】
Cr,Ti,Ni,Pdのいずれか、または、これらの金属のうち複数が高絶縁層に接触するよう形成される金属層12は、通常、導電層13として用いられる銅層との固着性が良好である。また、Cr,Ti,Ni,Pdは、蒸着、スパッタリング等の物理気相成長法、または化学気相成長法により形成することで、高絶縁層2Aとの固着性を良好にすることができる。他方、物理気相成長法または化学気相成長法ではないメッキ法等は、Cr,Ti,Ni,Pdを、高絶縁層2Aに固着させることが殆どできない。
【0032】
そして、高絶縁層2Aと当接する側の面とは反対側の金属層12の表面に、導電層13として通常用いられる銅層が、メッキ法により形成されることで、銅層の導電層13と金属層12の表面とが強固に固着する。よって、銅層を導電層13の構成の一部とする配線部11が、その構成の一部となる金属層12を介して高絶縁層2Aに高い固着力で配される。ここで導電層13は、銅層に代えてエポキシ系やアクリル系の樹脂ペースト中に銀粉を分散させた導電性接着剤を硬化させたもの等からなるものを用いることができる。ここで用いられる樹脂も断熱材として機能し得るが、従来のように樹脂等の大きな膜としてアルミニウム基板面を被覆している訳ではなく、高絶縁層2Aの表面に部分的に(線状に)存在するに過ぎないので、配線板10の放熱性を大きくは阻害しない。
【0033】
本実施の形態の配線板10の製造法は、アルミニウム基板1の面にアルマイト層2を形成する第1の工程と、アルマイト層2を封孔処理して絶縁性を向上させた高絶縁層2Aとする第2の工程と、アルミニウム基板1と当接する側の面とは反対側の、高絶縁層2Aの面上に、物理気相成長法または化学気相成長法により、金属層12を形成する第3の工程と、高絶縁層2Aと当接する側の面とは反対側の、金属層12の表面に、配線部11を構成する導電層13を形成する第4の工程と、金属層12のうち、導電層13と当接する部分以外の部分を除去して配線部11を形成する第5の工程とを経る。そして第3の工程における金属層12の形成は、Cr層とCu層とをこの順に形成する過程を経ることとしている。また第4の工程の導電層13である銅層を、メッキ法により形成している。
【0034】
以下、図1を用いて、本実施の形態の配線板10の製造過程の一例を説明する。図1において(A)から(G)に進むに従い、配線板10の製造が進行する。
【0035】
図1(A)は、アルミニウム基板1を示している。図1(B)は、アルミニウム基板1の一方の面に、厚み20μmのアルマイト層2を形成した状態を示している。形成したアルマイト層2は、硬度が250HVを下回る、いわゆるリン酸アルマイトである。これが第1の工程に相当する。
【0036】
その後、アルマイト層2の封孔処理を行う。この封孔処理は、約90℃の酢酸ニッケル系溶液に数十分間、アルマイト層2を有するアルミニウム基板1を浸漬させる処理である。これが第2の工程に相当する。この処理により、アルマイト層2が溶融・再結晶化(再成長化)して、アルマイト層2の微細な孔をアルマイト等からなる絶縁物で封孔することができ、高絶縁層2Aとなる。なお、高絶縁層2Aの厚みも、封孔処理前のアルマイト層2の厚みと同じく20μmとなる。
【0037】
図1(C)は、高絶縁層2Aの表面に、金属層12となるCr層3とCu層4とを、この順に形成した状態を示している。Cr層3とCu層4は、それぞれ厚み0.1から1μmの範囲でスパッタリング法で形成する。これが第3の工程に相当する。Cr層3は、高絶縁層2Aと強固に密着し、後に形成される、導電層13としてのメッキ銅層6との固着を強固にする。すなわちCr層3は、高絶縁層2Aとメッキ銅層6との接着を担う役割をする。またCr層3は、常温大気中で表面が酸化し、メッキ銅層6との接着に支障を来たすおそれがある。よって、Cu層4は、Cr層3の酸化を防止する役割を担っている。
【0038】
図1(D)は、ドライフィルム5をCu層4の上に貼り付け、配線部11位置に相当する部分以外に対して露光し、露光部分以外、すなわち配線部11位置に相当する部分のドライフィルム5を除去し、ドライフィルム5に孔部5aが形成された状態を示している。ドライフィルム5は、市販のものを用いることができる。図1(E)は、配線部11位置に相当するドライフィルム5の孔部5aに、メッキ銅層6、メッキNi層7、メッキAu層8からなる導電層13をこの順に形成した状態を示している。
【0039】
メッキ銅層6を形成する際のメッキ浴は、硫酸銅からなる酸性浴である。電解銅メッキで形成されるメッキ銅層6は、Cr層3との密着性が良好な状態で形成される。メッキ銅層6の厚みは約10μmとした。これが第4の工程に相当する。
【0040】
メッキNi層7は、メッキ銅層6が、電子部品実装時に使用する、ハンダと過剰に合金化するのを防ぐための障壁として電解ニッケルメッキにより形成されている。また、メッキNi層7は、メッキ銅層6とメッキAu層8とが、過剰に合金化するのを防止する障壁としての役割もある。メッキNi層7は、たとえば弱酸の硫酸ニッケル溶液をメッキ浴として用い、形成される。メッキAu層8は、配線部10と、ハンダとの濡れ性を良好にするものとして電解金メッキにより形成されている。メッキAu層8は、たとえば亜硫酸金塩を含む弱酸性溶液メッキ浴として用い、形成される。
【0041】
図1(F)は、ドライフィルム5を除去した状態を示している。ドライフィルム5の除去には、アミン系の剥離液を用いる。通常の、ガラス繊維混入エポキシ系樹脂基板を用いた場合は、NaOHやKOHの強アルカリ溶液を用いてドライフィルムを剥離する。しかし、これら強アルカリ溶液は、アルミニウム基板1を溶解して、ダメージを与えるため、本実施の形態では、その使用を避けている。
【0042】
図1(G)は、Cu層4とCr層3とを、この順に、各々の層の除去に適したエッチング液を用いて除去した状態を示している。この除去の結果、Cr層3とCu層4とが、高絶縁層2A表面の配線部11位置にのみ残され、Cr層3、Cu層4、メッキ銅層6、メッキNi層7およびメッキAu層8からなる配線部11が形成される。これが第5の工程に相当する。この配線部11は通常、配線板10面に複数離隔して存在する。各々の配線部11は、第5の工程により他の配線部11とは互いに電気的に独立した配線部11となる。なお、これらの層の境界は、便宜的に図示したように、明確に表れず、たとえばCu層4とメッキ銅層6が一つの層として表れる場合もある。Cr層3とCu層4との除去は、銅アンモニアクロライドとアンモニアからなる、弱アルカリ性のエッチング剤に約3秒浸漬することで行う。この除去処理により、エッチング剤と、アルミニウム基板1や高絶縁層2Aとが接触することとなる。しかし、エッチング剤が弱アルカリ性であること、浸漬時間が約3秒と非常に短いことから、アルミニウム基板1や高絶縁層2Aが侵されることは殆ど無く、配線板10の諸特性には悪影響は無い。
【0043】
以上の工程を経ることで、本実施の形態の配線板10を得ることができる。得られた配線板10は、従来の、樹脂等の層を介したアルミニウム基板と配線部との絶縁を実現した配線板の熱伝導率(3から5W/m・K)に比して、3倍から5倍の熱伝導率(10から15W/m・K)を有していることが確認された。
【0044】
また得られた配線板10に対し、導体引き剥がし試験(JIS C 5012 8.1)を行った。その結果、十分にJISの基準を満たす、導体引き剥がし強度を有する配線板10が得られていることが確認された。
【0045】
このJISの試験終了後に、配線板10の引き剥がされた部分を観察した。すると、引き剥がされて崩壊しているのは、高絶縁層2Aの部分であることがわかった。また、高絶縁層2Aの厚みを変えて、同様の試験を行った結果、高絶縁層2Aの厚みが厚くなるに従い、引き剥がし強度が低下することがわかった。この引き剥がし強度の低下は、高絶縁層2Aの厚みが500μmを越えると、アルミニウム基板1との固着性を高く維持できなくなるのと同様の理由(高絶縁層2Aの構造が比較的脆いこと)によるものと考えられる。よって、高絶縁層2Aの厚みは、JISの基準を満たす、導体引き剥がし強度を有する配線板10を得る観点からも、500μm以下であることを要し、好ましくは100μm以下であることがわかった。つまり、本実施の形態の配線板10が、JISの基準を満たす程の引き剥がし強度を備えることができた第1の理由は、高絶縁層2Aの厚みを適正なものとしたためである。
【0046】
本実施の形態の配線板10が、JISの基準を満たす程の引き剥がし強度を備えることができた第2の理由は、製造過程にある。アルマイト層2は酸性溶液に侵され易く、侵された結果、その一部が溶解された場合には、構造的に脆くなってしまい、引き剥がし強度が低下する。しかし、本実施の形態に係る製造過程を経た場合、高絶縁層2Aが酸性溶液に接触することはないため、JISの基準を満たす程の引き剥がし強度を備えることができた。なお、この引き剥がし強度は、上述の封孔処理の有無に影響される。その理由は、封孔処理で、アルマイト層2の微細な孔をアルマイト等で封孔することにより、アルマイト層2が緻密化する結果、引き剥がし強度が向上するためである。なお、封孔処理によってアルミニウム基板1の耐候性・耐蝕性が向上したことは言うまでもない。
【0047】
配線板10の製造過程において、高絶縁層2Aを酸性溶液に接触させないことができた理由は、図1(C)において、Cr層3及びCu層4を、高絶縁層2A表面に、スパッタリング法で形成したためである。Cr層3及びCu層4は、その後の工程で使用する酸性溶液を高絶縁層2Aに接触するのを阻んでいる。たとえば、第4の工程における、メッキ銅層6の形成は、メッキ浴を硫酸銅溶液とする酸性溶液中に、Cr層3及びCu層4を高絶縁層2A表面に形成した状態のものを浸漬することを伴う。第4の工程における、メッキNi層7とメッキAu層8の形成過程でも同様の浸漬を伴う。それによっても高絶縁層2Aが崩壊しなかったのは、Cr層3及びCu層4の酸性溶液浸入防止機能が発揮されたためであることが裏付けられた。
【0048】
このCr層3に相当する部材を、たとえばガラス繊維混入エポキシ基板面に形成する際には、通常、メッキ法による。このメッキの前には、脱脂処理を強アルカリ溶液および強酸溶液で行う。そのような脱脂処理を要しないスパッタリング法の採用は、前述した高絶縁層2AとCr層3との強固な密着の実現ばかりでなく、高絶縁層2Aの強酸溶液からの保護にも寄与している。なお、スパッタリング法に代えて、蒸着法その他の物理気相成長法、または化学気相成長法を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0049】
本実施の形態では、Cr層3とCu層4とを銅アンモニアクロライドとアンモニアからなるエッチング剤により除去している(図1(G))。ここで、そのエッチング剤に代えて、塩素系酸化剤とアンモニアからなるエッチング剤を好適に用いることができる。
【0050】
また本実施の形態では、アルミニウム基板1の一方の面にアルマイト層2を形成している(図1(B))。しかし、アルミニウム基板1の両面にアルマイト層2(高絶縁層2A)を形成することができる。その場合、基板両面に電子部品を実装可能な配線部を配した配線板(両面配線板)を得ることができる。両面配線板において、基板にスルーホールを有する場合には、そのスルーホール内壁面にもアルマイト層2(高絶縁層2A)を形成することができる。しかし、スルーホール内壁面は通常面積が小さく、放熱性に殆ど影響しない場合がある。その場合にはスルーホール内壁面を、樹脂等で被覆することができる。
【0051】
また本実施の形態では、高絶縁層2Aの表面にCr層3とCu層4とを、この順に形成している(図1(C))。ここで、Cr層3に代えて、Ti,Ni,Pdのいずれかからなる金属層を形成させることができる。これらの金属層は、Cr層3同様に、高絶縁層2Aとメッキ銅層6との接着を担う。また、金属層は、Cr,Ti,Ni,Pdから選ばれる異なる2以上の金属(たとえばCrとNi等)からなる2層以上の層とすることもできる。また、NiとCrとの合金層等とすることもできる。
【0052】
また本実施の形態では、高絶縁層2Aの表面にCr層3を形成している(図1(C))。しかし、高絶縁層2Aの表面にCr層3を形成しないことが工程簡略化の観点から好ましい。Cr層3を形成しないためには、Cu層4を物理気相成長法または化学気相成長法により高絶縁層2Aの表面に形成した場合に、Cu層4と高絶縁層2Aとが強固に接着することを要する。Cr層3を形成しないことにより、Cr層3を形成する工程を省略できる利点、及びCr層3等の除去(図1(G))工程を簡易化できる利点を得ることができる。
【0053】
また本実施の形態では、アルミニウム基板1をリン酸溶液中で陽極酸化して、リン酸アルマイトからなるアルマイト層2を形成している。しかし、他の電解浴、たとえば硫酸溶液、しゅう酸溶液、クエン酸溶液、芳香族スルホン酸溶液、クロム酸溶液、これら2以上の混合溶液等を、適宜選択して使用することができる。そして、形成するアルマイト層2は、いわゆる白アルマイト、クロム酸アルマイト等からなるものとすることができる。またアルマイト層2として、リン酸アルマイト、白アルマイト、クロム酸アルマイト等とは異なる、硬質アルマイトを形成する場合には、これらの電解浴の温度、濃度、通電する電流密度を適宜調整する。
【0054】
硬質アルマイトを形成するための形成方法は、電解浴温度を0℃付近の低温にし、通電電流密度を、通常のアルマイト(リン酸アルマイト、白アルマイト、クロム酸アルマイト等)を形成する場合よりも高める方法である。この通電電流密度の高さが、厚いアルマイト層の形成を効率良くする。ここで、通電電流密度が高いため、アルミニウム基板1と電解浴の界面では大きなジュール熱が発生し、当該界面における電解浴温度が高くなる場合がある。そのような場合には、必要に応じ撹拌羽根等で電解浴を撹拌する。このような形成方法を採用すると、通常のアルマイトよりも容易に、かつ効率的に厚いアルマイト層を形成できる。
【0055】
以下、硬質アルマイトの形成方法の具体例を示す。電解浴に硫酸を用いる場合の例は、硫酸濃度を10から20%とし、電解浴温度を0から10℃とし、通電電流密度を2から5A/dmとする。電解浴にしゅう酸を用いる場合の例は、しゅう酸濃度を3から8%とし、電解浴温度を5から15℃とし、通電電流密度を2から10A/dmとする。電解浴に硫酸と、しゅう酸との混合溶液を用いる場合の例は、硫酸濃度を10から20%、しゅう酸濃度を1から2%とし、電解浴温度を0から15℃とし、通電電流密度を2から5A/dmとする。
【0056】
なお、硬質アルマイトは、その構造の緻密さから、封孔処理をしなくても、硬質アルマイト層を介したアルミニウム基板1と配線部11との絶縁を確実にできる可能性がある。その場合には、封孔処理の工程を省略でき得るため、工程設計上極めて好ましい。また、硬質アルマイトは、その構造の緻密さから、封孔処理の工程を省略しないまでも、それを形成することで、封孔処理に要する時間を短縮できる可能性がある。その場合には、封孔処理の工程を短時間化できるため、工程設計上好ましい。
【0057】
さらに硬質アルマイトは、その表面が硬いため、電子部品実装時の配線板の固定治具等による引っ掻き等による衝撃によっても、高絶縁層が損傷し難く、高絶縁層の絶縁性が低下し難い。高絶縁層が損傷することにより、高絶縁層の耐蝕性が低下することも考えられる。しかし同一の、電子部品実装時の配線板の固定治具等による引っ掻き等による衝撃を受けた場合には、高絶縁層の耐蝕性の低下よりも、絶縁性の低下の方にその影響が大きいと考えられる。なぜなら、固定治具は通常金属からなるため、引っ掻き等の際に、その金属の一部が粉末状または片状として、引っ掻き傷の中に入り込み易い。すると、その粉末状または片状の金属の導電性が、高絶縁層の導電性を低下させることとなるが、高絶縁層の耐蝕性の低下にまで至る孔は形成されない場合が多いと考えられるためである。よって、引っ掻き傷の深さを小さくして、高絶縁層の絶縁性低下をし難くする観点から、高絶縁層の硬度は、300HV以上が好ましく、350HV以上がより好ましく、400HV以上がさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態に係る配線板の製造方法を示す図であり、(A)はアルミニウム基板を示し、(B)はアルミニウム基板の一方の面にアルマイト層を形成した状態を示し、(C)はCr層とCu層とを高絶縁層表面に、この順に形成した状態を示し、(D)はドライフィルムをCu層の上に形成した状態を示し、(E)はドライフィルムの孔部に、メッキ銅層、メッキNi層、メッキAu層をこの順に形成した状態を示し、(F)はドライフィルムを除去した状態を示し、(G)はCr層とCu層とを除去した状態を示すと共に、本発明の実施の形態に係る配線板を示している。
【符号の説明】
【0059】
1 アルミニウム基板
2 アルマイト層
2A 高絶縁層
3 Cr層(金属層の一部、配線部の一部)
4 Cu層(金属層の一部、配線部の一部)
5 ドライフィルム
5a 孔部
6 メッキ銅層(導電層の一部、配線部の一部)
7 メッキNi層(導電層の一部、配線部の一部)
8 メッキAu層(導電層の一部、配線部の一部)
10 配線板
11 配線部
12 金属層
13 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基板面にアルマイト層が形成され、当該アルマイト層は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層となり、当該高絶縁層の上記アルミニウム基板とは反対となる表面に、物理気相成長法または化学気相成長法により金属層が形成され、上記金属層の上記高絶縁層とは反対の面上に、上記金属層と共に導電層となる配線部が配されることを特徴とする配線板。
【請求項2】
アルミニウム基板面にアルマイト層が形成され、当該アルマイト層は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層となり、当該高絶縁層の厚みが30μmを超え500μmまでの範囲にあり、上記アルミニウム基板と当接する側の面とは反対側の上記高絶縁層の面上に、配線部が配されることを特徴とする配線板。
【請求項3】
前記アルマイト層は、硬質アルマイトからなることを特徴とする請求項1または2記載の配線板。
【請求項4】
前記金属層は、Cr,Ti,Ni,Pdのいずれか、または、これらの金属のうち複数が、前記高絶縁層に接触するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の配線板。
【請求項5】
前記配線部は、前記金属層と、その金属層の表面に、メッキ法により形成された銅層を有していることを特徴とする請求項1記載の配線板。
【請求項6】
アルミニウム基板面に硬質アルマイトからなるアルマイト層が形成され、当該アルマイト層は、封孔処理により絶縁性が向上した高絶縁層となり、上記アルミニウム基板と当接する側の面とは反対側の上記高絶縁層の面上に、配線部が配されることを特徴とする配線板。
【請求項7】
アルミニウム基板面にアルマイト層を形成する第1の工程と、
上記アルマイト層を封孔処理して絶縁性を向上させた高絶縁層とする第2の工程と、
上記アルミニウム基板と当接する側の面とは反対側の、上記高絶縁層の面上に、物理気相成長法または化学気相成長法により、金属層を形成する第3の工程と、
上記高絶縁層と当接する側の面とは反対側の、上記金属層の表面に、導電層を形成する第4の工程と、
上記金属層のうち、上記導電層と当接する部分以外の部分を除去して配線部を形成する第5の工程とを経ることを特徴とする配線板の製造法。
【請求項8】
前記第1の工程が、前記アルミニウム基板面に硬質アルマイトからなる前記アルマイト層を形成する工程であることを特徴とする請求項7記載の配線板の製造法。
【請求項9】
前記第3の工程における前記金属層の形成は、Cr、Ti、Ni、Pdのいずれか、またはこれらの金属のうち複数からなる層を形成し、その後Cu層を形成する過程を経ることを特徴とする請求項7記載の配線板の製造法。
【請求項10】
前記第4の工程の前記導電層が銅層であり、当該銅層をメッキ法により形成することを特徴とする請求項7記載の配線板の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−123382(P2007−123382A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310821(P2005−310821)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(595068195)株式会社アイン (9)
【出願人】(596091004)株式会社マルチ (18)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【Fターム(参考)】