説明

酸化アルミニウム前駆体ゾル及び光学用部材の製造方法

【課題】液中で凝集などが起こり難くコーティング用としての安定性の高い酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いることにより、高い反射防止性能を示し、反射率のばらつきの少ない反射防止膜を有する光学用部材の製造方法を提供する。
【解決手段】
アルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を成分として含有する粒子と、溶媒を含み、前記粒子の平均粒子径が2.5nm以上7nm以下である酸化アルミニウム前駆体ゾル。前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に供給して形成した酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を形成する工程を有する光学用部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化アルミニウム前駆体ゾル及びそれを用いた反射防止性能を有する光学用部材の製造方法に関し、さらに詳述すると可視領域を含む広い領域で高い反射防止性能を安定して得るのに適した光学用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の波長以下の微細周期構造を用いた反射防止構造体は、適切なピッチ、高さの微細周期構造を形成することにより、広い波長領域ですぐれた反射防止性能を示すことが知られている。
【0003】
微細周期構造を形成する方法としては、可視光波長以下の粒径の微粒子を分散した膜の塗布などが知られている。また、電子線描画装置やレーザー干渉露光装置,半導体露光装置,エッチング装置などの微細加工装置によるパターン形成によって微細周期構造を形成する方法は、ピッチ、高さの制御が可能であり、またすぐれた反射防止性を持つ微細周期構造を形成することが出来ることが知られている(特許文献1)。
【0004】
それ以外の方法として、アルミニウムの水酸化酸化物であるベーマイトを基材上に成長させて反射防止効果を得ることも知られている。これらの方法では、液相法(ゾルゲル法)により成膜したアルミニウム(酸化アルミニウム)の膜を水蒸気処理あるいは温水浸漬処理により、表層をベーマイト化して微細周期構造を形成し、反射防止膜を得ている(特許文献2)。
【0005】
ベーマイトの微細周期構造を用いて反射防止膜を形成する方法では、垂直入射による反射率が極めて低く、高い反射防止性が得られることが知られている。しかしながら高い反射防止性を維持するためには微細周期構造の高さや周期を一定にすることが求められ、前記の真空製膜法で微細周期構造を形成する方法では曲面上や広い面での膜厚制御が困難であった。一方、液相法(ゾルゲル法)により酸化アルミニウム膜を形成し温水浸漬処理する方法では、各種面形状に微細周期構造を形成できる。しかしながら、アルミニウム化合物の加水分解により合成される酸化アルミニウム前駆体ゾルは、コーティング用としては必ずしも安定ではない。そのため、基材上にムラ無く塗布した上、温水処理後に反射率のばらつきの小さい反射防止膜を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭50-70040号公報
【特許文献2】特開平09-202649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の様な酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いて反射防止膜を形成する液相法(ゾルゲル法)において、凝集などによりコーティング用としての安定性が損なわれない酸化アルミニウム前駆体ゾルと、それを用いたより簡便でバラツキの少ない高性能な反射防止膜の製造方法が望まれている。
【0008】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、コーティング用としての安定性の高い酸化アルミニウム前駆体ゾル、および高い反射防止性能を示し、反射率のばらつきの少ない反射防止膜を有する光学用部材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する酸化アルミニウム前駆体ゾルは、アルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を成分として含有する粒子と、溶媒を含み、前記粒子の平均粒子径が2.5nm以上7nm以下であることを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決する光学用部材の製造方法は、
(1)基材の少なくとも一方の面上に上記の酸化アルミニウム前駆体ゾルを供給する工程、
(2)前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に広げる工程、
(3)基材を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜を形成する工程、
(4)前記酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液中で凝集などが起こり難くコーティング用としての安定性の高い酸化アルミニウム前駆体ゾルを提供することができる。またその酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いることにより、高い反射防止性能を示し、反射率のばらつきの少ない反射防止膜を有する光学用部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルに含有されている粒子の粒度分布曲線の一例を示す図である。
【図2】本発明の光学用部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図3】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図4】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図5】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図6】本発明の光学用部材の一実施態様を示す概略図である。
【図7】実施例3における酸化アルミニウム前駆体ゾル5の粒度分布曲線である。
【図8】比較例1における酸化アルミニウム前駆体ゾル1の粒度分布曲線である。
【図9】比較例3における酸化アルミニウム前駆体ゾル7の粒度分布曲線である。
【図10】実施例1から4および比較例1から3における酸化アルミニウム前駆体ゾル1から7の触媒水量と粘度との関係を表す曲線である。
【図11】実施例1から4および比較例1から3における酸化アルミニウム前駆体ゾル1から7の触媒水量と平均粒子径との関係を表す曲線である。
【図12】実施例1から4および比較例1から3における、酸化アルミニウム前駆体ゾル1から7の触媒水量と主なピーク面積との関係を表す曲線である。
【図13】実施例9、10および比較例9、10における光学膜の波長400から700nmの絶対反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルは、アルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を成分として含有する粒子と、溶媒を含み、前記粒子の平均粒子径が2.5nm以上7nm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルは、基材上に塗布、乾燥してから温水中に浸漬すると酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を形成することができ、後述する本発明の光学用部材の製造方法に用いるのに適している。
【0015】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルは、アルミニウム化合物を溶媒中で水と接触させて得られるアルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を主成分として含んでいる。アルミニウム化合物をAl−X(Xはアルコキシル基、アシロキシル基、ハロゲン基、硝酸イオンを表す)とした時に、その加水分解物とはAl−X(OH)、Al−X(OH)、あるいはAl−(OH)で表される化合物である。前記加水分解物はその−OH基同士あるいは−X基と−OH基が反応してHOあるいはXHの脱離を伴いながらAl−O−Al結合を形成する。その結果得られる1個以上のAl−O−Al結合を有し、直鎖構造または枝分かれ構造を持った化合物がアルミニウム化合物の縮合物である。前記粒子が非晶質であることが好ましい。
【0016】
その縮合物はゲルおよび/または粒子として存在すると考えられ、そのため酸化アルミニウム前駆体ゾルを動的光散乱法により測定すると、散乱光強度から粒度分布曲線が得られる。さらに粒度分布曲線に見られる各山からは平均粒子径が、各山の面積からある平均粒子径を持つ粒子の割合を求めることができる。
【0017】
本発明に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルの粒度分布曲線に見られる各山から求められる粒子の平均粒子径は2.5nm以上7nm以下である。前記範囲の粒子径を有する酸化アルミニウム前駆体ゾルは基材への塗工性に優れ、膜厚均一性が高い。
好ましくは、本発明に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルの粒度分布曲線が単独のピークを持つ少なくとも1つ以上の山を有し、前記山の内一つの山の平均粒子径が2.5nm以上7nm以下であり、かつ平均粒子径が2.5nm以上7nm以下の山の面積が粒度分布曲線の総面積に対して90%以上である。より好ましくは98%以上である。
【0018】
図1は、本発明に係る酸化アルミニウム前駆体ゾルに含有されている粒子の粒度分布曲線の一例を示す図である。図1における粒度分布曲線は、横軸に粒子径を対数で表し、縦軸に散乱強度を表す。この粒度分布曲線はピーク1を持つ山とピーク2を持つ山の2つの山を有する。Aはピーク1を持つ山の平均粒子径を、Bはピーク2を持つ山の平均粒子径を表す。本発明における酸化アルミニウム前駆体ゾル中の粒子は、ピーク1を持つ山の平均粒子径Aで、2.5nm以上7nm以下、好ましくは3nm以上6nm以下の範囲にある。その上、ピーク1を持つ山の面積の割合が、ピーク1を持つ山およびピーク2を持つ山の面積の和、つまり粒度分布曲線の総面積に対して90%以上であることが好ましい。
【0019】
アルミニウム化合物の加水分解縮合物は単一のピーク1を持つ山として現れるが、水と接触させる際に副生成物として僅かに不溶物を生成する。この不溶物由来と思われる数100nmから数10μmに広がるブロードなピークがピーク2を持つ山として観測される。
【0020】
酸化アルミニウム前駆体ゾル中の加水分解縮合物は成長初期には微細なゲルであり、さらに成長すると粒子になる。ゲルから粒子への形態変化が起こる初期の段階では粒子径は2nm前後であり大きな粒子径の増加は起こらない。ところが、ゲルから粒子への形態変化に伴い、ゲル同士の凝集が起こり難くなり酸化アルミニウム前駆体ゾルの粘度が低下する。ゾルから粒子への変化が完全に進むと粒子径の増加が始まり、酸化アルミニウム前駆体ゾルの粘度は極小値をとる。粘度が極小になる領域の粒子径が2.5nm程度であり、さらに粒子が成長すると粒子径の増加に伴い酸化アルミニウム前駆体ゾルの粘度は上昇する。粒子径が7nmを超えると、粒子の成長が加速し粒子径が急激に増加して凝集が起こり易くなる。つまり、酸化アルミニウム前駆体ゾル中の縮合物がある程度成長して凝集が起こり難い粒子の状態になり、さらに成長して再び凝集が起こり易くなるまでの間の状態が平均粒子径2.5nm以上7nm以下の範囲である。
【0021】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いて酸化アルミニウム膜を製膜し温水処理すると、平均粒子径2.5nm未満の粒子が90%以上含まれる酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いた時に比べて反射防止特性の優れた反射防止膜を得ることができる。さらに平均粒子径が2.5nm未満の粒子は発達が不十分なため酸化アルミニウム前駆体ゾル中のゲル状物質と浮遊する副生成物が多く、特に数100nmから数10μmに広がる副生成物由来のブロードな山がメンブレンフィルターによる濾過後も残留する。このような酸化アルミニウム前駆体ゾルは塗工液としては不安定であり好ましくない。一方、平均粒子径が7nmを超える粒子は粒子同士の凝集力が強くなるため、独立した粒子と凝集した粒子が混在することになる。凝集した粒子を多く含む場合、濾過時のフィルターの目詰まりを招く。また凝集した粒子が少ない場合でも酸化アルミニウム前駆体ゾルの粘度は高く、塗工から指触乾燥までの間に凝集が進み急激な粘度上昇を引き起こす。
【0022】
また、酸化アルミニウム前駆体ゾルが副生成物や凝集物を多く含み、先述した100nmから数10μmに広がる副生成物由来のブロードな山の面積が10%以上になると、酸化アルミニウム膜を製膜し、温水処理すると反射率が安定しない場合がある。
酸化アルミニウム前駆体ゾルには、アルミニウム化合物とともに少量のZr、Si、Ti、Zn、Mgの各々の化合物の少なくとも1種からなる金属化合物とを用いることができる。これらの金属化合物としては各々の金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの金属塩化合物を用いることができる。ゾルを調製時の副生成物がコーティングの際の製膜性に与える影響が小さいなどの理由から、特に金属アルコキシドを用いるのが好ましい。また、金属化合物の総量100モル%中のアルミニウム化合物の含まれる量は90モル%以上が好ましい。
【0023】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルに含有されるアルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を成分として含有する粒子の含有量は、金属酸化物に換算して1重量%以上7重量%以下、好ましくは2.5重量%以上6重量%以下が望ましい。
【0024】
アルミニウム化合物などの金属化合物の具体例は以下に例示する。
アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−n−ブトキシド、アルミニウム−sec−ブトキシド、アルミニウム−tert−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、またこれらのオリゴマー、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0025】
ジルコニウムアルコキシドの具体例として、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラn−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、ジルコニウムテトラt−ブトキシド等などが挙げられる。
【0026】
シリコンアルコキシドとしては、一般式Si(OR)で表される各種のものを使用することができる。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の同一または別異の低級アルキル基が挙げられる。
【0027】
チタニウムアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン等が挙げられる。
【0028】
亜鉛化合物としては、例えば酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛などが挙げられ、特に酢酸亜鉛、塩化亜鉛が好ましい。
マグネシウム化合物としてはジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム等のマグネシウムアルコキシド、マグネシウムアセチルアセトネート、塩化マグネシウム等が挙げられる。
【0029】
上記の金属化合物の中でもアルミニウム−n−ブトキシド、アルミニウム−sec−ブトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウムなどの金属アルコキシドを原材料に用いることが好ましい。
【0030】
前記金属化合物の内、特にアルミニウム、ジルコニウム、チタニウムのアルコキシドは水に対する反応性が高く、空気中の水分や水の添加により急激に加水分解され溶液の白濁、沈殿を生じる。また、アルミニウム塩化合物、亜鉛塩化合物、マグネシウム塩化合物は有機溶媒のみでは溶解が困難で、溶液の安定性が低い。これらを防止するために安定化剤を添加し、溶液の安定化を図ることが好ましい。
【0031】
安定化剤としては、例えば、アセチルアセトン、ジピロバイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタンなどのβ−ジケトン化合物類。アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸アリル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸−iso−プロピル、アセト酢酸−tert−ブチル、アセト酢酸−iso−ブチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル、3−ケト−n−バレリック酸メチルなどの、β−ケトエステル化合物類。さらには、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの、アルカノールアミン類等を挙げることができる。
【0032】
安定化剤の添加量は金属化合物の種類によって異なるが、アルミニウムアルコキシド1モルに対して0.2モル以上2モル以下が好ましい。また、安定化剤は水を加える前に、一定時間アルコキシドと混合することによって効果を発揮する。
【0033】
加水分解を引き起こすためには、水を適量添加する必要がある。水の添加量は溶媒や濃度によって適量が変化する。水の添加量は、アルミニウム化合物1モルに対し1.2モル以上2モル未満であることが好ましい。
【0034】
また、加水分解反応の一部を促進する目的で水に触媒を加えることができる。触媒として塩酸、リン酸などを0.1mol/L以下の濃度で用いることが好ましい。
溶媒としては、アルミニウム化合物などの原料が均一に溶解し、かつ粒子が凝集などしない有機溶媒であれば良い。例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチルプロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、シクロペンタノール、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、4−メチル−2―ペンタノール、2−メチル−1―ペンタノール、2−エチルブタノール、2,4−ジメチル−3―ペンタノール、3−エチルブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノールなどの1価のアルコール類:エチレングリコール、トリエチレングリコールなどの2価以上のアルコール類:メトキシエタノール(沸点125℃)、エトキシエタノール(沸点136℃)、プロポキシエタノール(沸点151℃)、イソプロポキシエタノール(沸点141℃)、ブトキシエタノール(沸点170℃)、1−メトキシ−2−プロパノール(沸点120℃)、1―エトキシ−2−プロパノール(沸点132℃)、1−プロポキシ−2−プロパノール(沸点140から160℃)などのグリコールエーテル類:ジメトキシエタン、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルのようなエーテル類:ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類:n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類:トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類:クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類:N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0035】
上記溶媒の中でもアルミニウム化合物の溶解性が高く、吸湿し難い点で炭素数5以上8以下の一価のアルコールが好ましい。溶媒の吸湿によりアルミニウム化合物の加水分解が進行すると粒径の制御が困難になる。また塗工時の吸湿は粒子の凝集を招き、光学特性の安定性を損なう。さらに、一般的な低沸点アルコールを用いると溶媒の揮発が早く、前述した安定化剤が膜中に残存するため光学特性に影響を与えるが、炭素数5以上8以下の一価のアルコールは用いると乾燥および/または焼成時に溶媒が安定化剤を伴って揮発するため安定化剤が残存し難い。一方、前記炭素数5以上8以下の一価のアルコールは疎水性が高く、加水分解に必要な水を均一に混合できず粒径を一定にすることが困難である。そのため炭素数5以上8以下の一価のアルコールに対し水溶性溶媒を併用することが好ましい。ここで述べる水溶性溶媒とは23℃の溶媒に対する水の溶解度が80重量%以上である溶媒を指す。
【0036】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルに含有される溶媒の含有量は、50重量%以上98重量%以下、好ましくは60重量%以上93重量%以下が望ましい。
前記溶媒の混合比としては、炭素数5以上8以下の一価のアルコールを50重量%以上90重量%以下、沸点110℃以上170℃以下の水溶性溶媒を10重量%以上50重量%以下の割合で含有することが好ましい。水溶性溶媒は110℃以上170℃以下の沸点を有する水溶性溶媒である。沸点110℃未満の水溶性溶媒を用いると、揮発による吸湿や白化が起こり易い。沸点170℃を超える水溶性溶媒を用いると、乾燥後も酸化アルミニウム膜中に残存して反射率のばらつきを生じる。前記水溶性溶媒がグリコールエーテルであることが好ましい。
【0037】
本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを調製するにあたり、アルミニウムアルコキシドの加水分解と縮合反応を促進するために加熱することができる。加熱温度は溶媒の沸点にも依るが60℃以上150℃以下が好ましく、加熱することによって粒子が成長し粒子性が向上する。
【0038】
本発明の光学用部材の製造方法について詳細を説明する。
本発明に係る光学用部材の製造方法は、
(1)基材の少なくとも一方の面上に前記の酸化アルミニウム前駆体ゾルを供給する工程、
(2)前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に広げる工程、
(3)基材を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜を形成する工程、
(4)前記酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を形成する工程
を有することを特徴とする。
【0039】
上記(1)から(4)の工程を順に含み、かつ前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを供給する工程に前述の酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いることを特徴とする。
前記光学用部材が、基材の少なくとも一方の面上に酸化アルミニウムベーマイトを成分として含有する板状結晶から形成される板状結晶層からなる反射防止膜を有することが好ましい。
【0040】
図2は本発明の光学用部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図2(a)は、工程(1)において、基材1に前述の酸化アルミニウム前駆体ゾル2が供給された状態を表す。酸化アルミニウム前駆体ゾル2を供給する方法には、細管や一個または複数の細孔から酸化アルミニウム前駆体ゾル2を滴下するなどによって供給する方法、スリットを介して基材1上に酸化アルミニウム前駆体ゾル2を付着させる方法、あるいは版に一旦酸化アルミニウム前駆体ゾル2を付着させてから基材1に転写させる方法などが挙げられる。また、基材1を酸化アルミニウム前駆体ゾル2に浸漬することで、基材1にゾル2を供給することができる。
【0041】
基材上に供給する前に予め酸化アルミニウム前駆体ゾルを濾過することが好ましい。濾過には1μm以下の細孔を有するメンブレンフィルターを用いることで異物などと数%含まれる大きな粒子を取り除くことができる。濾過方法としては吸引濾過や加圧濾過、あるいはフィルターを繰り返し通過させる循環濾過などが挙げられる。また、先述した細管を介して基材に供給する方法では細管途中にフィルターを設け、濾過しながらゾルを供給することもできる。
【0042】
図2(b)は、工程(2)において、工程(1)で供給された酸化アルミニウム前駆体ゾル2が基材1上に広げられた状態を表す。酸化アルミニウム前駆体ゾル2を基材1上に広げる方法としては、基材1を回転することによって滴下したゾル2を広げるスピンコート法、基材1上をブレードやロールを移動させて滴下したゾル2を広げるブレードコート法やロールコート法などが挙げられる。また、酸化アルミニウム前駆体ゾル2を供給しながら広げることも可能である。スリットから酸化アルミニウム前駆体ゾル2を供給しながらスリットまたは基材1を移動させてゾル2を広げるスリットコート法や、一旦版に付着させたゾル2を版または基材1を移動させながら転写する印刷法などである。
【0043】
基材1を酸化アルミニウム前駆体ゾル2に一旦浸漬してから基材1を等速で引き上げるディップコート法なども一例である。凹面などの立体的に複雑な形状を有する光学用部材を製造する場合、酸化アルミニウム前駆体ゾル2の供給源を接近することが困難であるためスピンコート法が好ましい。
【0044】
図2(c)は、工程(3)において、基材1を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜3を形成した状態を表す。基材1の加熱乾燥を行うと,工程(2)で基材1上に広げた酸化アルミニウム前駆体ゾル2は溶媒が揮発して、ゾル2中の粒子が堆積した酸化アルミニウム膜3が形成される。さらに加熱すると安定化剤の揮散、未反応のアルコキシドや水酸基の縮合反応が進行する。加熱温度は安定化剤の揮散に必要な150℃以上が好ましく、基材やその他の部材への影響を考慮に入れると300℃以下が好ましい。加熱方法としては熱風循環オーブン、マッフル炉、IH炉中で加熱する方法、IRランプで加熱する方法などが挙げられる。
【0045】
図2(d)は、工程(4)において、基材1上に酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造5を有する層4が形成された状態を表す。凹凸構造5は工程(3)で得られた酸化アルミニウム膜3を60℃以上100℃以下の温水に接触し形成される。形成される酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を有する層4は、アルミニウムの酸化物または水酸化物またはそれらの水和物の結晶からなり、主な結晶としてはベーマイトである。酸化アルミニウム膜3を温水に接触する方法は、基材1を温水に浸漬する方法、温水を流水もしくは霧状にして酸化アルミニウム膜3に接触させる方法などが挙げられる。
【0046】
酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造5を有する層4は、酸化アルミニウムベーマイトを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層であることが好ましい。その場合の本実施形態に係る光学用部材を示す模式的な概略断面図を図3に示す。
【0047】
図3において、本発明の製造方法によって得られる光学用部材は、基材1上に、酸化アルミニウムベーマイトを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層6が積層されている。酸化アルミニウムベーマイトを主成分とする板状結晶層6は、アルミニウムの酸化物または水酸化物またはそれらの水和物の結晶から形成され、主な結晶としてはベーマイトである。板状結晶層6は、本発明の酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に塗布し、加熱することによって形成された酸化アルミニウム膜を温水に接触させることにより形成された酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を有する層である。板状結晶層6には、板状結晶の下部(根元部分)に非晶質の酸化アルミニウムが残っていてもよい。
【0048】
また、これらの板状結晶を配することで、その端部が微細な凹凸形状7を形成するので、微細な凹凸の高さを大きくし、その間隔を狭めるために板状結晶は選択的に基材の表面に対して特定の角度で配置される。
【0049】
基材1の表面が平板、フィルムないしシートなどの平面の場合には、図4に示すように、板状結晶は基材の表面に対して、すなわち板状結晶の傾斜方向8と基材表面との間の角度θ1の平均角度が45°以上90°以下、好ましくは60°以上90°以下となるように配置されることが望ましい。
【0050】
また、基材1の表面が二次元あるいは三次元の曲面を有する場合には、図5で示すように、板状結晶は基材の表面に対して、すなわち板状結晶の傾斜方向8と基材表面の接線9との間の角度θ2の平均角度が45°以上90°以下、好ましくは60°以上90°以下となるように配置されることが望ましい。
【0051】
板状結晶層6の層厚は、好ましくは20nm以上1000nm以下であり、より好ましくは50nm以上1000nm以下である。凹凸を形成する層厚が20nm以上1000nm以下では、微細な凹凸構造による反射防止性能が効果的であり、また凹凸の機械的強度が損なわれる恐れが無くなり、微細な凹凸構造の製造コストも有利になる。また、層厚が50nm以上1000nm以下とすることにより、反射防止性能をさらに高めることとなり、より好ましい。
【0052】
本発明の微細凹凸の面密度も重要であり、これに対応する中心線平均粗さを面拡張した平均面粗さRa’値が5nm以上、より好ましく10nm以上、さらに好ましくは15nm以上100nm以下、また表面積比Srが1.1以上である。より好ましくは1.15以上、さらに好ましくは1.2以上3.5以下である。
【0053】
得られた微細凹凸組織の評価方法の一つとして、走査型プローブ顕微鏡による微細凹凸組織表面の観察があり、該観察により該膜の中心線平均粗さRaを面拡張した平均面粗さRa’値と表面積比Srが求められる。すなわち、平均面粗さRa’値(nm)は、JIS B 0601で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対し適用し三次元に拡張したもので、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」と表現し、次の式(1)で与えられる。
【0054】
【数1】

【0055】
Ra’:平均面粗さ値(nm)、
:測定面が理想的にフラットであるとした時の面積、|X−X|×|Y−Y|、F(X,Y):測定点(X,Y)における高さ、XはX座標、YはY座標、
からX:測定面のX座標の範囲、
からY:測定面のY座標の範囲、
:測定面内の平均の高さ。
【0056】
また、表面積比Srは、Sr=S/S〔S:測定面が理想的にフラットであるときの面積。S:実際の測定面の表面積。〕で求められる。なお、実際の測定面の表面積は次のようにして求める。先ず、最も近接した3つのデータ点(A,B,C)より成る微小三角形に分割し、次いで各微小三角形の面積△Sを、ベクトル積を用いて求める。△S(△ABC)=[s(s−AB)(s−BC)(s−AC)]0.5〔但し、AB、BCおよびACは各辺の長さで、s≡0.5(AB+BC+AC)〕となり、この△Sの総和が求める表面積Sになる。微細凹凸の面密度がRa’が5nm以上で、Srが1.1以上になると、凹凸構造による反射防止を発現することができる。また、Ra’が10nm以上で、Srが1.15以上であると、その反射防止効果は前者に比べ高いものとなる。そしてRa’が15nm以上で、Srが1.2以上になると実際の使用に耐えうる性能となる。しかしRa’が100nm以上で、Srが3.5以上になると反射防止効果よりも凹凸構造による散乱の効果が勝り十分な反射防止性能を得ることが出来ない。
【0057】
基材1と酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造5を有する層4との間に酸化アルミニウム以外を主成分とする層を設けることができる。図6は基材1上に酸化アルミニウム以外を主成分とする層10、さらにその上に酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造5を有する層4が形成された光学用部材の例である。
【0058】
酸化アルミニウム以外を主成分とする層10は、主に基材1と酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造5を有する層4との屈折率差を調整する目的で設けられる。そのため酸化アルミニウム以外を主成分とする層10は無機材料もしくは有機材料からなる透明膜であることが好ましい。
【0059】
酸化アルミニウム以外を主成分とする層10に用いられる無機材料の例としては、SiO、TiO、ZrO、ZnO、Taなどの金属酸化物が挙げられる。無機材料からなる酸化アルミニウム以外を主成分とする層10を形成する方法は蒸着やスパッタなどの真空製膜法、金属酸化物前駆体ゾルの塗布によるゾル−ゲル法などが挙げられる。
【0060】
一方、酸化アルミニウム以外を主成分とする層10に用いられる有機材料の例としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリエーテル、ポリウレア、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリケトン、ポリスルホン、ポリフェニレン、ポリキシリレン、ポリシクロオレフィンなどの有機ポリマーが挙げられる。有機材料からなる酸化アルミニウム以外を主成分とする層10を形成する方法は、主にその溶液を塗布により形成するウェットコート法などが挙げられる。
【0061】
その他、酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造5の表面に、反射防止性を損なわない程度に処理を施すことができる。耐擦傷性や防汚性を付与するためにSiO薄膜、FAS(フッ素化アルキルシラン)やフッ素樹脂の極めて薄い層を設ける例を挙げることができる。
【実施例1】
【0062】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。各実施例、比較例で得られた、表面に微細な凹凸を有する光学膜について、下記の方法で評価を行った。
【0063】
(1)酸化アルミニウム前駆体ゾル1から7の調製
17.2gのアルミニウム−sec−ブトキシド(ASBD、川研ファインケミカル製)と、4.56gの3−オキソブタン酸エチルエステルと、4−メチル−2−ペンタノールとを均一になるまで混合攪拌した。0.01M希塩酸を4−メチル−2−ペンタノール/1−エトキシ−2−プロパノール(沸点132℃)の混合溶媒に溶解してから、前記アルミニウム−sec−ブトキシドの溶液にゆっくり加え、暫く攪拌した。溶媒は最終的に53gの4−メチル−2−ペンタノールと、23gの1−エトキシ−2−プロパノールの混合溶媒になるように調整した。さらに120℃のオイルバス中で2から3時間以上攪拌することによって酸化アルミニウム前駆体ゾルを調製した。0.01M希塩酸の量を0.88から2.02gまで段階的に量を変えた酸化アルミニウム前駆体ゾル1から7を調製した。
【0064】
(2)酸化アルミニウム前駆体ゾル8から11の調製
24.6gのアルミニウム−sec−ブトキシド(ASBD、川研ファインケミカル製)と、6.51gの3−オキソブタン酸エチルエステルと、1−ペンタノールとを混合し、当初白濁するものの均一になるまで混合攪拌した。0.01M希塩酸を1−ペンタノール/1−エトキシ−2−プロパノールの混合溶媒に溶解してから、前記アルミニウム−sec−ブトキシドの溶液にゆっくり加え、暫く攪拌した。溶媒は最終的に49gの1−ペンタノールと、21gの1−エトキシ−2−プロパノールの混合溶媒になるように調整した。さらに120℃のオイルバス中で2から3時間以上攪拌することによって酸化アルミニウム前駆体ゾルを調製した。0.01M希塩酸の量が1.8g、2.25g、2.7g、3.06gと異なる酸化アルミニウム前駆体ゾル8から11を調製した。
【0065】
(3)酸化アルミニウム前駆体ゾル12の調製
17.2gのアルミニウム−sec−ブトキシド(ASBD、川研ファインケミカル製)と、4.56gの3−オキソブタン酸エチルエステルと、2−プロパノールとを均一になるまで混合攪拌した。1.26gの0.01M希塩酸を2−プロパノールに溶解してから、前記アルミニウム−sec−ブトキシドの溶液にゆっくり加え、暫く攪拌した。2−プロパノールは最終的に76gになるように調整した。さらにオイルバス中で2から3時間以上還流することによって酸化アルミニウム前駆体ゾル12を調製した。
【0066】
(4)粘度測定
標準ローター(1°34‘、R24)を装備したコーンプレートタイプ回転粘度計(RE−105L、東機産業製)を使用し、25℃、50rpmの時の粘度を測定した。
【0067】
(5)粒度分布測定
粒度分布計(ゼータサイザーナノS、マルバーン製)を用い、ガラス製セルに約1mlの酸化アルミニウム前駆体ゾルを入れて25℃で測定した。屈折率を1.5、吸収を0.01、溶液粘度に上記測定粘度として解析を行った。
【0068】
(6)基材の洗浄
片面だけ研磨され、もう一方の面がスリガラス状の大きさ約φ30mm、厚さ約1mmの円盤状ガラス基板をアルカリ洗剤中で超音波洗浄した後、オーブン中で乾燥した。
【0069】
(7)反射率測定
絶対反射率測定装置(USPM−RU、オリンパス製)を用い、400nmから700nmの範囲の入射角0°時の反射率測定を行った。
【0070】
(8)基板の表面観察
基板表面をPd/Pt処理を行い、FE−SEM(S−4800、日立ハイテク製)を用いて加速電圧2kVで表面観察を行った。
【0071】
実施例1から4
酸化アルミニウム前駆体ゾル3から6の粘度測定と粒度分布測定を行った。その結果を表1に示した。酸化アルミニウム前駆体ゾル5を用いた実施例3の時の粒度分布曲線を図7に示した。また、アルミニウム−sec−ブトキシドに対する触媒水(0.01M希塩酸)のモル等量と粘度、主なピークの平均粒子径、および主なピークの面積%をそれぞれグラフにして、図10から図12に示した。
【0072】
実施例5
洗浄したLaを主成分とするnd=1.77、νd=50のガラス基材(φ30mm)の研磨面上に酸化アルミニウム前駆体ゾル3を適量滴下し、3500rpmで20秒スピンコートを行った。その際にスピンコートによるムラは観察されなかった。その後、200℃の熱風循環オーブンで120分間焼成し、ガラス基板上に非晶性酸化アルミニウム膜を被膜した。
【0073】
次に、80℃の温水中に30分間浸漬したのち、60℃で15分間乾燥させた。
得られた膜表面のFE−SEM観察を行ったところ、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶がランダム状にかつ複雑に入り組んだ微細な凹凸組織が観測された。
【0074】
反射率の測定を行ったところ中心部1点と周辺部2点の反射率を測定し、600nmの反射率差の大小からばらつきの有無を確認した。その結果、反射率差は0.1%未満であり反射防止性のばらつきが小さいことが確認された。
【0075】
実施例6
酸化アルミニウム前駆体ゾル3を4に変えた以外は実施例5と同様の操作を行った。
その結果、スピンコートの際のムラは観察されなかった。温水浸漬後の反射率差は0.1%未満であり反射防止性のばらつきが小さいことが確認された。
【0076】
実施例7
酸化アルミニウム前駆体ゾル3を5に変えた以外は実施例5と同様の操作を行った。
その結果、スピンコートの際のムラは観察されなかった。温水浸漬後の反射率差は0.1%未満であり反射防止性のばらつきが小さいことが確認された。
【0077】
実施例8
酸化アルミニウム前駆体ゾル3を6に変えた以外は実施例5と同様の操作を行った。
その結果、スピンコートの際のムラは観察されなかった。温水浸漬後の反射率差は0.1%未満であり反射防止性のばらつきが小さいことが確認された。
【0078】
実施例9
酸化アルミニウム前駆体ゾル10(平均粒子径とピーク面積はそれぞれ3.5nm、93%)を洗浄したLaを主成分とするnd=1.77、νd=50のガラス基材(φ30mm)の研磨面上に適量滴下し、3000rpmで20秒スピンコートを行った。その後、200℃の熱風循環オーブンで120分間焼成し、ガラス基板上に非晶性酸化アルミニウム膜を被膜した。
【0079】
次に、80℃の温水中に30分間浸漬したのち、60℃で15分間乾燥させた。
得られた膜表面のFE−SEM観察を行ったところ、酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶がランダム状にかつ複雑に入り組んだ微細な凹凸組織が観測された。
反射率の測定を行った結果を図13に示した。粒子径の増加によって反射率を下げる効果が確認された。
【0080】
実施例10
酸化アルミニウム前駆体ゾル10を11(平均粒子径とピーク面積はそれぞれ6.8nm、96%)に変えた以外は実施例9と同様の操作を行った。
反射率の測定を行った結果を図13に示した。粒子径の増加によって反射率を下げる効果が確認された。
【0081】
比較例1から4
酸化アルミニウム前駆体ゾル1、2、7、12それぞれの粘度測定と粒度分布測定を行った。その時の結果を表1に示した。酸化アルミニウム前駆体ゾル1または7を用いた比較例1および3の時ぞれぞれの粒度分布曲線を図8と9に示した。また、ゾル1、2、7についてアルミニウム−sec−ブトキシドに対する触媒水(0.01M希塩酸)のモル等量と粘度、主なピークの平均粒子径、および主なピークの面積%をそれぞれグラフにし図10から12に示した。
【0082】
比較例5
酸化アルミニウム前駆体ゾル3を1に変えた以外は実施例5と同様の操作を行った。
その結果、酸化アルミニウム前駆体ゾル1をスピンコートした時点で、基材中心から周辺にかけて放射状に伸びるスジ状のムラが確認された。温水浸漬後の反射率差は0.2%と反射防止性の面内のばらつきが確認された。
【0083】
比較例6
酸化アルミニウム前駆体ゾル3を2に変えた以外は実施例5と同様の操作を行った。
その結果、酸化アルミニウム前駆体ゾル2をスピンコートした時点で、基材中央部に大きな星型のムラが確認された。温水浸漬後の反射率差は0.2%と反射防止性の面内のばらつきが確認された。
【0084】
比較例7
酸化アルミニウム前駆体ゾル3を7に変えた以外は実施例5と同様の操作を行った。
その結果、酸化アルミニウム前駆体ゾル7をスピンコートした時点で、基材中心から周辺にかけて放射状に伸びるスジ状のムラが確認された。温水浸漬後の反射率差は0.2%であり反射防止性の面内のばらつきが確認された。
【0085】
比較例8
酸化アルミニウム前駆体ゾル3を12に変えた以外は実施例4と同様の操作を行った。
その結果、酸化アルミニウム前駆体ゾル12をスピンコートした時点で、基材中心から周辺にかけて放射状に伸びるスジ状のムラと無数のクラックが確認された。温水浸漬後の反射率差は0.2%であり反射防止性の面内のばらつきが確認された。
【0086】
比較例9
酸化アルミニウム前駆体ゾル8(平均粒子径とピーク面積はそれぞれ1.7nm、84%)に変えた以外は実施例7と同様の操作を行った。
その結果、反射率の測定を行った結果を図13に示した。
【0087】
比較例10
酸化アルミニウム前駆体ゾル9(平均粒子径とピーク面積はそれぞれ2.2nm、88%)に変えた以外は実施例7と同様の操作を行った。
【0088】
その結果、反射率の測定を行った結果を図13に示した。
【0089】
【表1】

【0090】
(注1)*触媒水(モル等量)は、アルミニウム−sec−ブトキシドに対する触媒水のモル等量を示す。
(注2)*主なピーク面積は、全ピークの面積に対する、表中の平均粒子径のピークの面積の割合を示す。
【0091】
〔性能評価〕
実施例1から4から特定の領域の粒子径を有する酸化アルミニウム前駆体ゾル3から6の粘度の低減効果や副生成物の減少が確認された。また実施例5から8からそれらの酸化アルミニウム前駆体ゾルを用いることで反射率のばらつきの少ない光学膜が得られた。さらに実施例9、10では反射率を下げる効果も確認された。一方、比較例5から8では酸化アルミニウム前駆体ゾルの塗布性が悪く、反射率のばらつきも大きい光学膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により製造される光学用部材は、任意の屈折率を有する透明基材に対応でき、可視光に対して優れた反射防止効果を示すとともに、長期的な耐候性を有するので、ワープロ、コンピュータ、テレビ、プラズマディスプレイパネル等の各種ディスプレイ:液晶表示装置に用いる偏光板、各種光学硝材及び透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度付メガネレンズ、カメラ用ファインダーレンズ、プリズム、フライアイレンズ、トーリックレンズ、各種光学フィルター、センサーなどの光学部材:さらにはそれらを用いた撮影光学系、双眼鏡などの観察光学系、液晶プロジェクタなどに用いる投射光学系:レーザービームプリンターなどに用いる走査光学系等の各種光学レンズ:各種計器のカバー、自動車、電車等の窓ガラスなどの光学部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 基材
2 酸化アルミニウム前駆体ゾル
3 酸化アルミニウム膜
4 酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を有する層
5 酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造
6 酸化アルミニウムベーマイトを主成分とする板状結晶から形成されている板状結晶層
7 凹凸形状
8 傾斜方向
9 基材表面の接線
10 酸化アルミニウム以外を主成分とする層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム化合物の加水分解物および/またはその縮合物を成分として含有する粒子と、溶媒とを含み、前記粒子の平均粒子径が2.5nm以上7nm以下であることを特徴とする酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【請求項2】
前記粒子の粒度分布曲線が単独のピークを持つ少なくとも1つ以上の山を有し、前記山の内一つの山の平均粒子径が2.5nm以上7nm以下であり、かつ平均粒子径が2.5nm以上7nm以下の山の面積が粒度分布曲線の総面積に対して90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【請求項3】
前記溶媒は、炭素数5以上8以下の一価のアルコールを50重量%以上90重量%以下、沸点110℃以上170℃以下の水溶性溶媒を10重量%以上50重量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1または2記載の酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【請求項4】
前記水溶性溶媒がグリコールエーテルであることを特徴とする請求項3記載の酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【請求項5】
前記粒子が非晶質であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の酸化アルミニウム前駆体ゾル。
【請求項6】
(1)基材の少なくとも一方の面上に請求項1記載の酸化アルミニウム前駆体ゾルを供給する工程、
(2)前記酸化アルミニウム前駆体ゾルを基材上に広げる工程、
(3)基材を乾燥および/または焼成を行うことにより酸化アルミニウム膜を形成する工程、
(4)前記酸化アルミニウム膜を60℃以上100℃以下の温水中に浸漬して酸化アルミニウムベーマイトの凹凸構造を形成する工程を有することを特徴とする光学用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−254553(P2010−254553A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66989(P2010−66989)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】