説明

酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極及びその製造方法

【課題】酸化ガリウム単結晶基板とのオーミック性に優れると共に簡便な方法で得ることができる酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極を提供する。
【解決手段】酸化ガリウム単結晶基板上にインジウムからなる電極材を配置し(S1)、温度200℃程度で電極材を酸化ガリウム単結晶基板の表面上に溶着し(S2)、その後、温度600℃〜1000℃で少なくとも20分の熱処理を施して酸化ガリウム単結晶基板と電極材との界面部を合金化する(S3)ことにより酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極及びその製造方法に係り、特に酸化ガリウム(β-Ga2O3)単結晶基板を、紫外線センサ及びフォトディテクタ等の受光素子、LED及びLD等の発光素子、あるいは電子デバイス等に用いる際に必要となるオーミック電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ガリウム単結晶基板を用いて受光素子、発光素子等のデバイスを作製するには、酸化ガリウム単結晶基板とオーミック接触するオーミック電極が必要となる。
従来、この種のオーミック電極としては、Tiを下地層としたAl膜やAu膜が用いられている(例えば、下記特許文献1参照)。さらに、オーミック性を向上させるため、プラズマ照射によって酸素欠損を強制的に導入し、キャリア電子を増大させる方法も検討されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−227449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの方法で作製したオーミック電極は、必ずしも優れたオーミック性を示すとはいえず、デバイス特性の向上には、オーミック性の改善が必要とされていた。
また、Ti、Al、Au等の薄膜の製造には真空蒸着法が用いられているが、真空を利用するため、製造工程が複雑になると共に大がかりな製造装置を必要とするという問題点があった。
さらに、プラズマ照射を用いる場合には、プラズマ粒子による周辺箇所への損傷等の影響を避けるために、例えばショットキー接触部をマスキングして、オーミック接触部だけを選択的にプラズマ処理しなければならなかった。このため、製造工程が複雑化すると共に製造コストが嵩むという問題点もあった。
【0005】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、酸化ガリウム単結晶基板とのオーミック性に優れると共に簡便な方法で得ることができる酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極を提供することを目的とする。
また、この発明は、このようなオーミック電極を製造することができる酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の製造方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極は、酸化ガリウム単結晶基板の上に形成されたインジウムからなる電極層と、酸化ガリウム単結晶基板と電極層との間に形成され且つ酸化ガリウムとインジウムとの合金を含む合金層とを備えたものである。
また、この発明に係る酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の製造方法は、酸化ガリウム単結晶基板上にインジウムからなる電極材を配置し、温度600℃〜1000℃で少なくとも20分の熱処理を施して酸化ガリウム単結晶基板と電極材との界面部を合金化する方法である。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、電極材としてインジウムを選択し、インジウムからなる電極層と酸化ガリウム単結晶基板との間に酸化ガリウムとインジウムとの合金を含む合金層を形成したので、真空蒸着法を用いることなく、簡便な方法で酸化ガリウム単結晶基板とのオーミック性に優れたオーミック電極を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の断面構造を示す。酸化ガリウム(β-Ga2O3)単結晶基板1の表面上にインジウム(In)からなる電極層2が配置され、β-Ga2O3単結晶基板1と電極層2との間にGa2O3とInとの合金を含む合金層3が介在している。
合金層3は、β-Ga2O3単結晶基板1から電極層2に向かって、Ga2O3→(InxGa1-x2O3→In2O3→Inと合金化することでバンドギャップの縮小を図るものである。
【0009】
この実施の形態に係るオーミック電極は、図2に示されるように、ステップS1で、β-Ga2O3単結晶基板上にInからなる電極材を配置し、ステップS2で、温度200℃程度で電極材をβ-Ga2O3単結晶基板の表面上に溶着し、その後、ステップS3において、温度600℃〜1000℃で少なくとも20分の熱処理を施してβ-Ga2O3単結晶基板と電極材との界面部を合金化することにより製造することができる。
【0010】
合金化の際の熱処理は、不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気中で行うこともでき、また、酸素雰囲気中で行うこともできる。
1.不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気での熱処理
不活性ガスとして窒素雰囲気中にて熱処理を行った。これにより、熱処理時における金属の酸化を防止することができる。図3に示されるように、β-Ga2O3単結晶基板1の表面の両端部に径1mm程度の半球状のInからなる電極材4を配置して温度200℃程度で溶着させる。Inの融点は157℃であるので、例えば温度200℃で容易に溶着することが可能となる。電極材4が溶着されている面を上方に向けた状態で、窒素雰囲気中にて温度600℃〜1000℃の範囲で熱処理を行う。
【0011】
温度が600℃より低いと合金化が不十分となり、1000℃を超えた温度で行っても、Inと混晶化する効果はそれ以上向上することはない。処理時間は、少なくとも20分とする。20分より短いと、熱処理が不十分となり、優れたオーミック性を実現することが困難となる。
このようにしてβ-Ga2O3単結晶基板1の表面の両端部に作製した電極間の電流電圧特性を測定した結果、オーミック接触が確認された。
窒素雰囲気の代わりにAr等の不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気としても。同様の効果が確認された。
【0012】
2.酸素雰囲気での熱処理
基板の表面からショットキー電極を、裏面からオーミック電極をそれぞれ引き出す縦型構造のβ-Ga2O3フォトディテクタ等を作製する場合、予め酸素雰囲気中で熱処理してショットキー電極用の高抵抗層を形成した後に、裏面近傍の高抵抗層をダイヤモンドシート等で削り、さらに上述した窒素等の不活性ガス雰囲気中で裏面のオーミック接触をとれば、オーミック電極を作製することができる。
しかしながら、不活性ガス雰囲気中で高温まで昇温することは、ショットキー電極を形成する表側の面に悪影響を与えるおそれがある。また、熱処理を2回施すことになり、エネルギーが無駄になると共に製造工程が煩雑化する。
そこで、酸素雰囲気での熱処理によりオーミック電極を作製すれば、1回の熱処理で、ショットキー電極に必要な高抵抗層とオーミック電極とを同時に形成することができる。
【0013】
オーミック電極を形成しようとするβ-Ga2O3単結晶基板の裏面両端に径1mm程度の半球状のInからなる電極材をそれぞれ圧着し、温度200℃程度で溶着させる。その後、酸素雰囲気中で温度600℃〜1000℃の範囲で少なくとも20分の熱処理を行う。
このようにしてβ-Ga2O3単結晶基板の裏面の両端部に作製した電極間の電流電圧特性を測定した結果、オーミック接触が確認された。特に、フォトディテクタ等を作製するために必要な温度1000℃付近でも優れたオーミック接触を実現することができる。
例えば、β-Ga2O3単結晶基板の上面にInからなる電極材を配置し、化学機械研磨法(CMP:Chemical Mechanical Polishing)で研磨されたβ-Ga2O3単結晶基板の下面に酸素が供給されるような構成にして、酸素雰囲気中で熱処理することにより、上面にオーミック電極、下面にショットキー電極用の高抵抗層を同時に形成することが可能となる。
【0014】
なお、電極材をβ-Ga2O3単結晶基板の裏面に圧着する際に、シリコン(Si)基板の研磨面で下方から電極材をβ-Ga2O3単結晶基板の裏面に押しつけて、電極材をβ-Ga2O3単結晶基板とSi基板で挟み込み、この状態で溶着と熱処理を行うこともできる。Inは低融点で柔らかいため、容易に隙間のないサンドイッチ構造が形成され、Siは酸素を含まないため、β-Ga2O3単結晶基板とInからなる電極材との界面に酸素がほとんど到達しなくなる。
【0015】
以上説明したように、この発明においては、β-Ga2O3単結晶基板とのオーミック接触としてInを熱処理した電極を用いることにより、真空を用いた蒸着膜を使用することなく、簡素な製造工程で且つ低コストでオーミック電極を得ることが可能となる。
さらに、熱処理時の雰囲気を、結晶のダメージ回復用に用いる酸素雰囲気と同じにすることで、1回の熱処理でショットキー電極とオーミック電極とを同時に形成することも可能になり、フォトディテクタ等の製造プロセスの簡素化及び低コスト化を図ることが可能となる。
【0016】
(実施例1)
FZ(Floating Zone)法で作製したβ-Ga2O3単結晶をウエハ状に加工し、サイズ8mm×8mmの基板とした。この基板表面の両端にそれぞれ径1mmの半球状のInからなる電極材を載せ、温度200℃程度で溶着した後、電気炉内で窒素雰囲気中において処理温度400℃、600℃、800℃、1000℃でそれぞれ30分の熱処理を行った。
このようにして作製した電極間の電流電圧特性を測定したところ、図4に示すような結果が得られた。図4には、熱処理を実行しない場合の測定結果も併せて示されている。熱処理温度が増加するにつれて、表面近傍のInとの混晶化が進み、オーミック接触に近づいているのがわかる。特に、処理温度800℃及び1000℃では、理想的なオーミック性を示す直線状の電流−電圧特性が得られている。
【0017】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同じβ-Ga2O3単結晶基板を用い、基板裏面の両端にそれぞれ径1mmの半球状のInからなる電極材を載せ、これをSi基板で挟んで温度200℃程度で溶着した。その後、電気炉内で酸素雰囲気中において処理温度400℃、600℃、800℃、1000℃でそれぞれ30分の熱処理を行った。
このようにして作製した電極間の電流電圧特性を測定したところ、図5に示すような結果が得られた。図5には、熱処理を実行しない場合の測定結果も併せて示されている。熱処理温度が増加するにつれて、オーミック接触に近づき、特に、処理温度800℃及び1000℃では、理想的なオーミック性を示す直線状の電流−電圧特性が得られたことがわかる。
【0018】
(実施例3)
実施例2と同一の条件でβ-Ga2O3単結晶基板の裏面の両端にそれぞれ径1mmの半球状のInからなる電極材を温度200℃程度で溶着した後、電気炉内で酸素雰囲気中において処理温度1000℃で1時間の熱処理を行った。
このようにして作製した電極間の電流電圧特性を測定したところ、図6に示すような結果が得られた。この場合にも、理想的なオーミック接触が得られていることがわかった。
【0019】
(比較例)
実施例3において、Inの代わりに低融点金属の錫(Sn)からなる電極材を用いて作製した電極間の電流電圧特性を測定したところ、図7に示すような結果が得られた。熱処理により特性は悪化してしまい、オーミック特性は得られなかった。
同様に、実施例3において、Inの代わりに低融点金属のガリウム(Ga)からなる電極材を用いて作製した電極間の電流電圧特性を測定したところ、図8に示すような結果が得られた。この場合も、熱処理により特性は悪化してしまい、オーミック特性は得られなかった。
低融点金属のなかで、β-Ga2O3単結晶基板とのオーミック接触として、Inを熱処理した電極が有効であることわかる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態に係る酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の構造を示す断面図である。
【図2】この発明に係る酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】β-Ga2O3単結晶基板の表面に電極材を配置した状態を示す図である。
【図4】実施例1で作製した電極間の電流電圧特性を示すグラフである。
【図5】実施例2で作製した電極間の電流電圧特性を示すグラフである。
【図6】実施例3で作製した電極間の電流電圧特性を示すグラフである。
【図7】比較例で作製した電極間の電流電圧特性を示すグラフである。
【図8】比較例で作製した電極間の電流電圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0021】
1 β-Ga2O3単結晶基板、2 電極層、3 合金層、4 電極材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム単結晶基板の上に形成されたインジウムからなる電極層と、
前記酸化ガリウム単結晶基板と前記電極層との間に形成され且つ酸化ガリウムとインジウムとの合金を含む合金層と
を備えたことを特徴とする酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極。
【請求項2】
前記合金層は、(InxGa1-x2O3とIn2O3を含む請求項1に記載の酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極。
【請求項3】
ショットキー電極とオーミック電極とを備えた受光素子に用いられる請求項1または2に記載の酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極。
【請求項4】
酸化ガリウム単結晶基板上にインジウムからなる電極材を配置し、
温度600℃〜1000℃で少なくとも20分の熱処理を施して酸化ガリウム単結晶基板と電極材との界面部を合金化する
ことを特徴とする酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の製造方法。
【請求項5】
不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気中で前記熱処理を施す請求項4に記載の酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の製造方法。
【請求項6】
酸素雰囲気中で前記熱処理を施す請求項4に記載の酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の製造方法。
【請求項7】
酸化ガリウム単結晶基板上に配置された電極材を前記熱処理の温度より低い温度で酸化ガリウム単結晶基板上に溶着した後、熱処理を施す請求項4〜6のいずれか一項に記載の酸化ガリウム単結晶基板用オーミック電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−302257(P2009−302257A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154455(P2008−154455)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】