説明

酸化物磁性体の製造方法

【課題】 湿式成形に比べて成形速度が速い乾式成形において、乾式成形の欠点であるといわれる「(残留磁化/飽和磁化)の比」を改善して、従来より困難であるとされていた残留磁束密度を向上させることのできる酸化物磁性体の製造方法を提供する。
【解決手段】 酸化物磁性体粒子と潤滑剤とを含む原料混合物を磁場中で乾式成形して成形体を得る乾式成形工程を有する酸化物磁性体の製造方法において、官能基としてのアルデヒド構造を有するアルデヒド系潤滑剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性フェライト磁石等の酸化物磁性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、異方性酸化物磁性体として、六方晶系のSrフェライトやBaフェライトが用いられている。そして、これらの磁石の製造工程では、磁石の性能向上のために、磁場中プレスによる異方性化が行なわれている。
【0003】
磁石性能を表す因子として残留磁束密度(Br)が挙げられ、この残留磁束密度(Br)の値は、「単位重量当たりの飽和磁化(σs)」、「焼結体密度」、「(残留磁化/飽和磁化)の比(Mr/Ms)」の各々の値に比例する。
【0004】
「単位重量当たりの飽和磁化(σs)」は、物質固有の値であるから、組成や構造等が全く同じである同一粉体の場合、定数となる。また、「(残留磁化/飽和磁化)の比」は、焼結体中における結晶粒子の異方性、つまり粒子の配向度に対応している。粉体の形成は磁場を印加しながら行うが、同一粉体を用いた場合、最終製品である焼結体の配向度をより高めるためには、焼成操作の前段階である磁場中成形時にあらかじめ成形体の配向度を高めておくことが有効である。
【0005】
ところで、異方性酸化物の成形体をつくる方法には、大きく分けて湿式成形と乾式成形の2通りがある。一般的には、湿式成形の方が配向度は高い。乾式成形法に比べて粉体の凝集が抑えられ、また、用いた水や溶剤が潤滑剤の役割をするためである。しかしながら、湿式成形法の場合、脱水や脱溶剤の処理をしながら成形を行なうために、1回の成形時間が長くなり生産性に劣り、コストアップに繋がるというという不都合が生じる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−6761号公報
【特許文献2】特願平8−143902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであって、その目的は、湿式成形に比べて成形速度が速い乾式成形において、乾式成形の欠点であるといわれる「(残留磁化/飽和磁化)の比」を改善して、従来より困難であるとされていた残留磁束密度を向上させることのできる酸化物磁性体の製造方法を提供することにある。すなわち、生産に優れ、かつ磁気特性に優れる酸化物磁性体の製造方法を提供することにある。
【0008】
なお、本願発明の先行技術として、上記の公報を挙げることができ、特開2004−6761号公報には、希土類永久磁石の製造方法であって、潤滑剤添加による配向等の効果を享受しつつ、粉砕機器の損耗を低減するために、R−T−B系の希土類永久磁石の製造に際して、用いる潤滑剤として、脂肪酸、ショウノウ、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等が開示されている。しかしながら、特開2004−6761号公報に開示の技術は、本願発明の酸化物磁性体(磁石)を製造の対象とするものではない。開示されている潤滑剤も本願発明のものとは異なる。
【0009】
また、特願平8−143902号公報には、高級脂肪酸塩に対する希土類元素の酸化作用を低減させ、成形性に優れた希土類焼結永久磁石合金粉末の成形性改良剤を提供することを目的とし、潤滑剤である高級脂肪酸塩に5−ニトロサリチルアルデヒド等の添加物を添加することによって高級脂肪酸塩の酸化の防止を図る技術が開示されている。しかしながら、特願平8−143902号公報に開示の技術は、潤滑剤である高級脂肪酸塩の存在を前提とし、特殊なアルデヒドを高級脂肪酸塩の酸化防止のために使用しているのであって、アルデヒドそのものを潤滑剤として作用するように用いているものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、酸化物磁性体粒子と潤滑剤とを含む原料混合物を磁場中で乾式成形して成形体を得る乾式成形工程を有する酸化物磁性体の製造方法であって、前記潤滑剤は、官能基としてのアルデヒド構造を有するアルデヒド系潤滑剤であるように構成される。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、前記潤滑剤は、その添加量が、酸化物磁性体粒子に対して0.01〜1.5wt%であるように構成される。
【0012】
また、本発明の好ましい態様として、前記酸化物磁性体粒子は、六方晶フェライトであるように構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸化物磁性体の製造方法によれば、磁場中での成形操作前にアルデヒド系の潤滑剤を粉体に添加するようにしているので、粉体の凝集を抑制し、「(残留磁化/飽和磁化)の比」を改善して、残留磁束密度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明は、各種の酸化物磁性体の製造に適用可能であるが、中でも特に顕著な効果が得られる異方性フェライト磁石の製造例を取りあげて説明する。
【0016】
本発明が好ましく適用される異方性フェライト磁石は、主に、マグネトプランバイト型のM相、W相等の六方晶系のフェライトである。
【0017】
このようなフェライトとしては、特に、MO・nFe23(Mは好ましくはSrおよびBaの1種以上で、n=4.5〜6.5)であることが好ましい。
【0018】
このようなフェライトには、さらに、希土類元素、Ca、Pb、Si、Al、Ga、Sn、Zn、In、Co、Ni、Ti、Cr、Mn、Cu、Ge、Nb、Zr等が含有されていてもよい。
【0019】
また、より好ましくは、Fe、元素A(ただしAは、Sr、BaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素)、元素R(ただしRは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種で、Laを必ず含む)、元素M(ただしMは、Co、Mn、Mg、Ni、CuおよびZnから選択される少なくとも1種で、Coを必ず含む)を含有する六方晶M型フェライトを主成分とし、下記の組成式(I)で表される主成分を有することが磁気特性にとって好ましい。
【0020】
1−x(Fe12−y19 …(I)
【0021】
上記組成式(I)において、
0.04≦x≦0.9、0.04≦y≦1.0、0.4≦x/y≦5.0、0.7≦z≦1.2である。
【0022】
より好ましくは、0.04≦x≦0.5、0.04≦y≦0.5である。
さらに好ましくは、0.1≦x≦0.4、0.04≦y≦0.4、である。
【0023】
上記式(I)において、元素Aに関する詳細は以下のとおり。
【0024】
元素A:
本発明によるフェライト焼結磁石の飽和磁化および保磁力を高くするためには、元素AとしてSrおよびCaの少なくとも1種を用いることが好ましく、特にSrを用いることが好ましい。A中においてSr+Caの占める割合、特にSrの占める割合は、好ましくは51原子%以上、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは100原子%である。元素A中のSrの比率が低すぎると、飽和磁化と保磁力とを共に高くすることが難しくなる。
【0025】
上記式(I)において、R(x)に関する詳細は以下のとおり。
【0026】
R(x):
上記組成式(I)において、元素Rの量を示すxが小さすぎると、つまり元素Rの量が少なすぎると、六方晶M型フェライトに対する元素Mの固溶量を多くできなくなってきて、飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不充分となってくる。xが大きすぎると、六方晶M型フェライト中に元素Rが置換固溶出来なくなってきて、例えば元素Rを含むオルソフェライトが生成し、飽和磁化が低くなってくる。したがって本発明におけるxは、0.04≦x≦0.9とすることが好ましい。
【0027】
元素Rとして用いる希土類元素は、Y、Scおよびランタノイドである。元素Rとしては、Laを必ず用い、そのほかの元素を用いる場合には、好ましくはランタノイドの少なくとも1種、より好ましくは軽希土類の少なくとも1種、さらに好ましくはNdおよびPrの少なくとも1種を用いる。R中においてLaの占める割合は、好ましくは40原子%以上、より好ましくは70原子%以上であり、飽和磁化向上のためにはRとしてLaだけを用いることが最も好ましい。これは、六方晶M型フェライトに対する固溶限界量を比較すると、Laが最も多いためである。
【0028】
したがって、R中のLaの割合が低すぎるとRの固溶量を多くすることができず、その結果、元素Mの固溶量も多くすることができなくなり、磁気特性向上効果が小さくなってしまう。なお、Biを併用すれば、仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。
【0029】
上記式(I)において、M(y)に関する詳細は以下のとおり。
【0030】
M(y):
上記組成式(I)において、元素Mの量を示すyが小さすぎると飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不充分となってくる。yが大きすぎると、六方晶M型フェライト中に元素Mが置換固溶できなくなってくる。また、元素Mが置換固溶できる範囲であっても、異方性定数(K1)や異方性磁場(Ha)の劣化が大きくなってくる。したがって本発明におけるyは、0.04≦y≦1.0とすることが好ましい。
【0031】
元素M中においてCoの占める割合は、好ましくは20原子%以上、より好ましくは50原子%以上、さらに好ましくは100原子%である。M中におけるCoの割合が低すぎると、保磁力向上が不充分となる。
【0032】
上記式(I)において、zに関する詳細は以下のとおり。
【0033】
z:
上記組成式(I)において、zが小さすぎると、Srおよび元素Rを含む非磁性相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。zが大きすぎると、α−Fe相または元素Mを含む非磁性スピネルフェライト相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。したがって本発明におけるzは、0.7≦z≦1.2とすることが好ましい。
【0034】
上記組成式(I)において、x/yが小さすぎても大きすぎても元素Rと元素Mとの価数の平衡がとれなくなり、W型フェライト等の異相が生成しやすくなる。元素Mが2価イオンであって、かつ元素Rが3価イオンである場合、価数平衡の点でx/y=1とすることが一般的であるが、Rを過剰にすることが好ましい。なお、x/y>1の領域で許容範囲が大きい理由は、yが小さくてもFe3+→Fe2+の還元によって価数の平衡がとれるためである。
【0035】
組成式(I)において、酸素Oの原子数は19となっているが、これは、Mがすべて2価、Rがすべて3価であって、かつx=y、z=1のときの、酸素の化学量論組成比を示したものである。MおよびRの種類やx、y、zの値によって、酸素の原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素の欠損(ベイカンシー)ができる可能性がある。
【0036】
さらに、FeはM型フェライト中においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性もある。また、Co等の元素Mも価数が変化する可能性があり、これらにより金属元素に対する酸素の比率は変化する。本発明では、Rの種類やx、y、zの値によらず酸素の原子数を19と表示してあるが、実際の酸素の原子数は、これから多少偏倚した値であってよい。
【0037】
本発明によるフェライト磁性材料の組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができるが、主成分および副成分以外の成分の含有を排除するものではない。また、上記主相の存在は、X線回折や電子線回折などにより確認できる。
【0038】
本発明によるフェライト磁性材料には、Si成分、さらにはCa成分を含有する。Si成分およびCa成分は、六方晶M型フェライトの焼結性の改善、磁気特性の制御、および焼結体の結晶粒径の調整等を目的として添加される。
【0039】
Si成分としてはSiOを、Ca成分としてはCaCOを、それぞれを使用するのが好ましいが、この例に限定されるものではなく、本発明の効果を達成しうる化合物を適宜使用することができる。添加する時期については、Si成分は少なくとも総添加量の40%以上を仮焼前に添加(前添加)するのが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは100%を前添加することである。
【0040】
また、Ca成分については、総添加量の50%以上を仮焼後であって成形の前に添加(後添加)するのが好ましく、より好ましくは80%以上、最も好ましくは100%を後添加する。添加量は、Si成分について好ましくは、SiO換算で0.15〜1.35wt%で、かつCa成分のモル量とSi成分のモル量の比Ca/Siが0.35〜2.10、より好ましくはSiO換算で0.30〜0.90wt%で、Ca/Siが0.70〜1.75、さらに好ましくは0.45〜0.90wt%で、Ca/Siが1.05〜1.75である。
【0041】
本発明のフェライト磁性材料には、副成分としてAlおよび/またはCrが含有されていてもよい。AlおよびCrは、保磁力を向上させるが残留磁束密度を低下させる。したがって、AlとCrとの合計含有量は、残留磁束密度の低下を抑えるために好ましくは3wt%以下とする。なお、Alおよび/またはCr添加の効果を充分に発揮させるためには、AlとCrとの合計含有量を0.1wt%以上とすることが好ましい。
【0042】
本発明のフェライト磁性材料には、副成分としてBが含まれていてもよい。Bを含むことにより仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。Bの含有量は、フェライト磁性材料全体の0.5wt%以下であることが好ましい。B含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0043】
本発明のフェライト磁性材料には、Na、K、Rb等のアルカリ金属元素は含まれないことが好ましいが、不純物として含有されていてもよい。これらをNaO、KO、RbO等の酸化物に換算して含有量を求めたとき、これらの含有量の合計は、フェライト磁性材料全体の3wt%以下であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0044】
また、これらのほか、例えばGa、In、Li、Mg、Ti、Zr、Ge、Sn、V、Nb、Ta、Sb、As、W、Mo等が酸化物として含有されていてもよい。これらの含有量は、化学量論組成の酸化物に換算して、それぞれ酸化ガリウム5wt%以下、酸化インジウム3wt%以下、酸化リチウム1wt%以下、酸化マグネシウム3wt%以下、酸化チタン3wt%以下、酸化ジルコニウム3wt%以下、酸化ゲルマニウム3wt%以下、酸化スズ3wt%以下、酸化バナジウム3wt%以下、酸化ニオブ3wt%以下、酸化タンタル3wt%以下、酸化アンチモン3wt%以下、酸化砒素3wt%以下、酸化タングステン3wt%以下、酸化モリブデン3wt%以下であることが好ましい。
【0045】
本発明をフェライト焼結磁石に適用する場合、その平均結晶粒径は、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5〜1.0μmである。結晶粒径は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0046】
このような異方性フェライト焼結磁石を製造するには、フェライト組成物の原料の酸化物、または焼成により酸化物となる化合物を仮焼き前に混合し、その後、仮焼きを行なう。仮焼きは、大気中で、例えば1000〜1400℃で1秒間〜10時間、特にM型のSrフェライトの微細仮焼き粉を得るときには、1050〜1350℃で1秒間〜3時間程度行なえばよい。
【0047】
このような仮焼き粉は、実質的にマグネトブランバイト型のフェライト構造を持つ顆粒状粒子から構成され、その一次粒子の平均粒径は0.1〜1μm、特に0.1〜0.5μmであることが好ましい。平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)により測定すればよく、その変動係数CVは80%以下、一般にM型Srフェライトでは65〜71.5emu/g、保磁力Hcjは、159.2〜636.8kA/m(2000〜8000Oe)であることが好ましい。
【0048】
本発明では、酸化物磁性体粒子と、潤滑剤と、必要に応じて潤滑剤を溶解させるための溶媒を混合した原料混合物を磁場中で乾式成形するが、分散混合の効果を高めるために、乾式成形の前に、乾式での粉砕(例えば乾式粗粉砕工程)、あるいは水分等を加えた湿式での粉砕(湿式粉砕工程)を行なうことが望ましい。なお、仮焼き法ではなく、共沈法や水熱合成法により酸化物磁性体粒子を製造した場合には、通常、乾式や湿式の粉砕は必要とされないが、配向度をより高くするためには湿式粉砕工程を設けることが好ましい。以下、仮焼き法により形成された酸化物磁性体粒子の場合を例にとり、乾式粗粉砕工程および湿式粉砕工程を設ける場合について説明する。
【0049】
乾式粗粉砕工程では、通常、BET比表面積が2〜10倍程度となるまで粉砕が行なわれる。粉砕後の平均粒径は、0.1〜1μm程度、BET比表面積は、4〜10m2/g程度であることが好ましく、粒径のCVは80%以下、特に10〜70%に維持することが好ましい。粉砕手段は特に限定されない。例えば乾式振動ミル、乾式アトライター(媒体攪拌型ミル)、乾式ボールミル等が使用できる。中でも特に乾式振動ミルを用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜定めればよい。
【0050】
乾式粗粉砕には、仮焼体粒子に結晶歪みを導入して保磁力HcBを小さくする効果もあす。保磁力を低下させることにより粒子の凝集が抑制され、分散性が向上する。また、配向度も向上する。粒子に導入された結晶歪みは、後の焼成工程において開放され、これによって本来の硬磁性に戻って永久磁石となる。
【0051】
なお、乾式粗粉砕の際には、通常、SiO2と、焼成によりCaOとなるCaCO3とが添加される。SiO2およびCaCO3は、一部を仮焼き前に添加してもよく、その場合には特性向上が認められる。
【0052】
このような乾式粗粉砕の後に、水等を添加して粉体用スラリーを形成して湿式粉砕が行なわれる。湿式粉砕に用いられる粉砕手段は特に限定されないが、通常、ボールミル、アトライター、振動ミル等を用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜定めればよい。
【0053】
この後、必要に応じて乾燥工程を設けて、仮焼体粒子の乾燥が行なわれる。このように処理された仮焼体粒子を次工程の乾式成形工程における酸化物磁性体粒子として使用する。
【0054】
乾式成形工程では、酸化物磁性体粒子と潤滑剤とを含む原料混合物を磁場中で乾式成形して成形体を得る操作が行われる。成形圧力は、0.1〜5.0ton/cm2程度、印加磁場は398〜1194kA/m(5〜15kOe)程度である。
【0055】
本発明における乾式成形とは、成形原料を金型に入れ、金型から成形原料に含まれる水等の液状物を抜く作業をすることなく(磁場中)プレスして、酸化物磁性体粒子の磁化容易軸を揃える成形をすることを意味する。
【0056】
本発明の乾式成形工程において用いられる潤滑剤は、官能基としてのアルデヒド構造を有するアルデヒド系潤滑剤である。
【0057】
具体的には以下の潤滑剤が挙げられる。
例えば、プロピオンアルデヒド(n=1)、ブチルアルデヒド(n=2)、ペンタンアルデヒド(n=3)、オクタンアルデヒド(n=6)、ウンデカナール(n=9)、トリデカナール(n=11)等の構造式CH3(CH2−CHOで示される飽和直鎖アルデヒド化合物や;例えば、trans−2−へキセニルアルデヒド、アクロレインモノマー、クロトナルアルデヒド、10−ウンデセニルアルデヒド、2−ドデセナール、trans−2―ノネナール、trans−2―ドデセナール、cis−11−へキサデセナール、trans−2―オクテナール、cis−4−へプテナール、trans−2―デセナール、trans−2−ヘプテナール、trans−2−ウンデセナール等の不飽和二重結合を有する直鎖アルデヒド化合物や;例えば、3,5,5ートリメチルヘキサナール、2−エチルブチラールアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド、3−メチル−2−ブテナール、2−メチルーn−バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、trans−2−メチル−2−ブテナール、イソブチルアルデヒド、trans−2−メチル−2−ペンテナール、2−メチルブチルアルデヒド、ピバルアルデヒド等の側鎖を備えるアルデヒド化合物や;例えば、シクロヘキサンカルボキシアルデヒド等の環式化合物が挙げられる。
【0058】
潤滑剤の添加量は、酸化物磁性体粒子に対して0.01〜1.5wt%、好ましくは、0.05〜1.3wt%、さらに好ましくは0.1〜1.0wt%とされる。潤滑剤が少なすぎると配向度の向上が不充分となり、この一方で、潤滑剤が多くなり過ぎると成形体や焼結体にクラックが発生しやすくなる。
【0059】
潤滑剤は2種以上併用してもよく、この場合には、潤滑剤の総和量が上記の添加量の範囲内となるようにすればよい。
【0060】
潤滑剤の添加時期は特に限定されず、上述した乾式粗粉砕時に添加してもよく、湿式粉砕時に添加しても良い。一部を乾式粗粉砕時に添加するようにして、残部を湿式粉砕時に添加するようにしても良い。粉砕工程後に攪拌しながら添加するようにしてもよい。いずれの場合にでも、乾式成形工程における金型内の原料混合物の中に本発明における潤滑剤は存在するので本発明の効果は発現する。
【0061】
上述したような所定のプレス圧、および所定の磁場印加中で乾式成形工程を終えた後、通常、成形体は、添加した潤滑剤を十分に分解除去するために、大気中あるいは窒素雰囲気中において100〜500℃の温度で熱処理される。
【0062】
次いで、焼結工程(焼成工程)において、成形体を例えば、大気中で好ましくは、1100〜1300℃、より好ましくは、1160〜1250℃の温度で0.5〜3時間程度焼結して、異方性フェライト磁石が得られる。
【0063】
本発明の方法により製造された焼結フェライト磁石は、所定の形状に加工され、種々の幅広い用途に使用される。例えば、フュ−エルポンプ用、パワーウインド用、ABS用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー等の自動車用モータ;FDDスピンドル用、VTRキャンプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャンプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャンプスタン用、CDやLDやMDのスピンドル用、CDやLDやMDのローディング用、CDやLDの光ピックアップ用等のOA、AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー用、冷蔵コンプレッサー用、電動工具駆動用、扇風機用、電子レンジファン用、電子レンジプレート回転用、ミキサ駆動用、ドライヤーファン用、シェーバ駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータ;ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータ;その他、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネットラッチ、アイソレータ等に好適に使用される。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0065】
〔フェライト粉の準備〕
フェライト粉(酸化物磁性体粒子)を下記の要領で準備した。すなわち、SrCO3とFe23を混合し、1270℃で3時間仮焼きした。ボールミルによる粉砕と、その後の乾燥によるBET比表面積(SSA)=8cm2/gのフェライト粉を得た。ただし、この際に、後に行う焼結を制御する目的で、SiO2とCaCO3を少量(0.6wt%、1.2wt%)加えた。この粉体は、主成分がSrO・6Fe23であった。
【0066】
〔実験例1〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.5wt%のプロピオンアルデヒドを加えた。プロピオンアルデヒドを添加した後、5分間混合した。
【0067】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例1サンプル)を得た。
【0068】
〔実験例2〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.5wt%のペンタンアルデヒドを加えた。ペンタンアルデヒドを添加した後、5分間混合した。
【0069】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例2サンプル)を得た。
【0070】
〔実験例3〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.5wt%のウンデカナールを加えた。ウンデカナールを添加した後、5分間混合した。
【0071】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例3サンプル)を得た。
【0072】
〔実験例4〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.5wt%のトリデカナールを加えた。トリデカナールを添加した後、5分間混合した。
【0073】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例4サンプル)を得た。
【0074】
〔実験例5〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.5wt%のヘキサデカナールを加えた。ヘキサデカナールを添加した後、5分間混合した。
【0075】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例5サンプル)を得た。
【0076】
〔実験例6〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.7wt%の3,5,5−トリメチルヘキサナールを加えた。3,5,5−トリメチルヘキサナールを添加した後、5分間混合した。
【0077】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例6サンプル)を得た。
【0078】
〔実験例7〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.7wt%の2−エチルブチルアルデヒドを加えた。2−エチルブチルアルデヒドを添加した後、5分間混合した。
【0079】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例7サンプル)を得た。
【0080】
〔実験例8〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉に対して、潤滑剤として0.7wt%の2−エチルクロトンアルデヒドを加えた。2−エチルクロトンアルデヒドを添加した後、5分間混合した。
【0081】
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(実験例8サンプル)を得た。
【0082】
〔比較実験例1〕
上記の要領で準備したフェライト粉を用い、このフェライト粉を5分間混合した。
このように処理された粉体(原料混合物)をφ30の金型に30g充填し、約557.2kA/m(7kOe)の磁場を印加しながら、1ton/cm2でプレスした。このようにして得られた成形体を大気雰囲気中、1230℃で1hr焼成して、焼結体(比較実験例1サンプル)を得た。
【0083】
このようにして得られた実験例1〜実験例8のサンプル、並びに比較実験例1サンプルについて、得られた焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを用いて残留磁束密度(Br)、および「(残留磁化/飽和磁化)の比(=Mr/Ms(%))」を求めた。
【0084】
結果を下記表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示される結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明の酸化物磁性体の製造方法は、磁場中での成形操作前にアルデヒド系の潤滑剤を粉体に添加するようにしているので、粉体の凝集を抑制し、「(残留磁化/飽和磁化)の比」を改善して、残留磁束密度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、異方性フェライト磁石等の酸化物磁性体の製造方法であり、酸化物磁性体の製造産業や、その酸化物磁性体を利用した駆動部を備える電子部品を製造する電子産業に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物磁性体粒子と潤滑剤とを含む原料混合物を磁場中で乾式成形して成形体を得る乾式成形工程を有する酸化物磁性体の製造方法であって、
前記潤滑剤は、官能基としてのアルデヒド構造を有するアルデヒド系潤滑剤であることを特徴とする酸化物磁性体の製造方法。
【請求項2】
前記潤滑剤は、その添加量が、酸化物磁性体粒子に対して0.01〜1.5wt%である請求項1に記載の酸化物磁性体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化物磁性体粒子は、六方晶フェライトである請求項1または請求項2に記載の酸化物磁性体の製造方法。

【公開番号】特開2006−156745(P2006−156745A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345775(P2004−345775)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】