説明

酸化銀微粒子作製方法、及びそれを用いた導電性組成物または導電性画像の作製方法

【課題】本発明は、比較的低い温度の加熱やレーザー照射により導電性組成物を得るのに好適な酸化銀微粒子を、複雑な装置を用いることなく、簡便な方法で作製する方法を提供するものである。
【解決手段】酸化銀微粒子をデキストリンの存在下、銀イオンとアルカリの水溶液中の反応で作製し、かつ銀イオンに対するデキストリンとアルカリの使用量を特定の比率に限定することにより、沈降性が良く、脱塩作業の容易な酸化銀微粒子を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化銀の微粒子を簡便に作製する方法に関するものである。この微粒子は、加熱により導電性組成物や導電性画像を得るのに好適である。
【背景技術】
【0002】
銀は高導電性材料や記録材料、表面の被覆剤、印刷刷版等に広汎に使われている素材である。銀で画像を形成した銀画像の具体的な活用方法には、高導電性材料として使用する場合だけでも、プリント回路基板、光透過性電磁波シールド材料、ICカード及びタグのアンテナコイル、フラットパネルディスプレイ用電極等が挙げられる。銀画像作製法には、化学的に銀を析出させる湿式めっき法や金属銀を直接溶融、付着、または蒸着させて得た銀膜からエッチングで非画像部を除去する方法、銀の小粒子をペースト状に加工して印刷によりパターンを形成する方法、銀微粒子の分散液を用いてインクジェットで画像を描画する方法、ハロゲン化銀を光還元する方法等々多くの方法がある。
【0003】
中でも、銀微粒子をペースト化あるいはインク化して、導電性組成物や導電性画像を形成する方法が注目を集めており、銀微粒子作製方法についても多くの方法が提案されている。その例としては、機械的粉砕法、アトマイズ法、気相還元法、ガス蒸発法、電解析出法、化学的還元法等がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
機械的粉砕法は、金属の粒子に力を加えてさらに細かく粉砕していく方法であるが、金属は一般に展延性を有し、ある程度まで粉砕されると、それ以上は微粉化されにくい、あるいは2次凝集が起こる等の欠点があり、粒子径が1μm以下の微粒子の作成にはあまり向いていない。
【0005】
他の方法は、比較的小さい微粒子の作製にも使えるが、アトマイズ法、気相還元法、ガス蒸発法、電解析出法は複雑な装置を必要とする、あるいは実験レベルでは問題ないが工業的レベルでのスケールアップが困難等の問題があり、工業的に簡便な方法とは言い難い。
【0006】
これらの方法に対し、金属化合物の水溶液に還元剤を作用させて金属微粒子を作製する、あるいは塩基を作用させて水酸化微粒子または酸化物微粒子を作製してからこれを還元して金属微粒子を作製する化学的還元法は、設備が簡単でスケールアップも比較的容易な利点がある。特に、銀の場合は硝酸銀が水溶性が高く、還元されやすいこともあり、化学的還元法による微粒子生産に向いている。
【0007】
しかし、この方法では微粒子は懸濁液の形で得られるが、金属イオンの対イオンだった成分等が水溶性塩として混在しており、金属微粒子を導電性材料として使用するには、この水溶性塩を除去しなければ、導電性が低下する等の欠点が生じる。
【0008】
水溶性塩の除去方法としては、粒子を沈降させてデカンテーションする、遠心分離で粒子と液を分離する、濾過により粒子のみを捕集する、限外濾過で粒子を濃縮する等の方法があるが、いずれの方法も粒子径が小さくなるほど、沈降しにくくなる、あるいはフィルターが目詰まりを起こす等の欠点が生じ、その解決のために手間が増すようになる。
【0009】
その中で、カレー・リー(Carey Lea)法として知られる銀コロイド作成法は、得られる粒子径は極めて小さく、粒子の2次凝集も少なく、かつ脱塩も比較的容易な優れた方法である。これは、硝酸銀水溶液中の銀イオンを過剰のデキストリンと水酸化ナトリウムによって還元して、デキストリンを保護コロイドとした銀微粒子を作製するものである。この銀微粒子は水に対しては良好な分散安定性を示すが、メタノールの添加により沈降し、デカンテーションによって容易に脱塩ができる。
【0010】
しかし、この方法で得られた銀微粒子も導電性材料として用いるには欠点がある。即ち、粒子表面が保護コロイドによって被覆されているために、保護コロイドが絶縁体として作用して、粒子間に電流が流れなくなってしまう。300℃以上に加熱することによって保護コロイドを熱分解して除去して、粒子同士の接着、さらには融着を進めて導通を得ることはできるが、このため銀微粒子を導電性材料として乗せる支持体には耐熱性に富むものに限定される。
【0011】
酸化銀が熱で容易に銀に還元されることから、酸化銀微粒子を用いる方法も提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。しかし、これらの文献に示されている方法でも、粒子径が100nmを切るような微粒子は作りにくかったり、あるいは作れても脱塩処理が容易でなかったりする欠点があり、完全とは言えないものであった。
【特許文献1】特開平10−317022号公報
【特許文献2】特開2003−308730号公報
【特許文献3】特開2004−203696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、比較的低い温度の加熱やレーザー照射により導電性組成物を得るのに好適な酸化銀微粒子を、複雑な装置を用いることなく、簡便な方法で得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、この課題を解決するため研究を行った結果、カレー・リー法に改良を施し、硝酸銀に対する塩基やデキストリンの使用量を抑制することにより課題を解決し、本発明を完成するに至った。
【0014】
カレー・リー法による銀微粒子作製法の一例としては、銀イオン1モルに対し、水酸化ナトリウム1.7モル、銀イオンの質量1に対しデキストリンが1.4の割合で3者の水溶液を混合し、過剰の水酸化ナトリウムとデキストリンで銀イオンを還元し、デキストリンを保護コロイドとした銀微粒子を作製する。等モルの銀イオンと水酸化ナトリウムからは酸化銀ができることから、カレー・リー法の処方の水酸化ナトリウムとデキストリンの量を減らしていけば、銀イオンの還元が抑えられて、銀ではなく酸化銀の微粒子が生成する。
【0015】
具体的には、銀イオン1モルに対し、塩基0.5〜1.5モルを加えて酸化銀粒子を作製する水溶液中の反応を、銀イオンの質量1に対しデキストリンが質量0.1〜0.5の割合で存在する条件下で行うことにより、酸化銀微粒子懸濁液を作製する。この懸濁液に水溶性有機溶剤、具体例としてはメタノールを添加すると、微粒子は静置で沈降し、デカンテーションによって塩分を容易に除くことができる。
【発明の効果】
【0016】
上記の手段で得られた酸化銀微粒子は、作製に際し複雑な装置を必要とせず、脱塩・回収も比較的容易でありながら、粒子径が非常に小さいものが得られる。得られた微粒子は、粒子径が小さいことと酸化銀に還元性を有する保護コロイドに被覆されているために、反応性が強く、比較的低い温度の加熱により銀に還元される。この微粒子を含む組成物は、加熱により、粒子同士が融着した導電性組成物を容易に得ることができ、特に近赤レーザー光で導電性画像を得るための素材に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
酸化銀微粒子は銀イオンと塩基をデキストリンの存在下において、反応させることにより作製される。銀イオンについては、水溶性の銀塩を水に溶かすことによって得られる。水溶性銀塩の具体例としては硝酸銀、過塩素酸銀、アジ化銀等を挙げることができる。硝酸銀は水溶性が高く、比較的安定であり、安全性も高いため、特に好ましい。塩基についても特に制限はないが、具体例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、有機アミン等が挙げられる。
【0018】
銀イオン1モルに対し塩基は0.5〜1.5モル、銀イオンの質量1に対しデキストリンが質量0.1〜0.5の割合が好ましい。塩基の最も好ましい量は銀イオンに対し等モルである。塩基が0.5モルに満たない場合は、未反応の銀イオンが大量に生じて効率が悪く、1.5モルを越える場合は逆に未反応の塩基で効率が悪いばかりでなく、酸化銀微粒子が還元されて銀の微粒子が生成する可能性が出てくる。デキストリンについては添加量が0.1に満たない場合、分散性が悪くて酸化銀の粒子径が大きくなり、逆に0.5を越えると、やはり酸化銀粒子が還元されて銀粒子が生成してしまう。銀イオン、塩基、デキストリンの互いの比率は上記の条件に縛られるが、水溶液中の濃度には特に制限はなく、常識的な範囲で行えばよい。実際に反応させるときは、銀塩とデキストリンとの混合水溶液に塩基の水溶液を添加していけばよい。また、デキストリンの一部は塩基の水溶液の方に加えておいてもよい。添加は撹拌しながら、少しずつ行うのが基本だが、撹拌の度合いや添加の速度については特に制限はなく、これも常識的な範囲で行えばよい。
【0019】
このようにして得られた酸化銀懸濁液には、デキストリンを保護コロイドとした酸化銀微粒子以外に、銀イオンの対イオンや塩基に由来する水溶性の塩が水に溶け込んで存在している。酸化銀微粒子は静置や遠心分離により沈降するが、水溶性有機溶媒により沈降速度が増し、より脱塩が容易になる。
【0020】
使用する水溶性有機溶媒には特に制限はなく、粒子の沈降性を良くするものを適当に用いればよいが、具体例としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等が挙げられる。酸化銀粒子懸濁液への添加量も特に制限はないが、懸濁液の1/2〜3倍量程度が好ましい。
【0021】
水溶性有機溶媒の添加により、酸化銀微粒子は沈降しやすくなり、12〜24時間の静置で沈降する。この段階でデカンテーションにより上澄み液を捨てて、再度水溶性有機溶媒または水と水溶性有機溶媒の混合物を加えて、静置とデカンテーションを繰り返すことにより、水溶性の塩は懸濁液から除かれていく。デカンテーションによる脱塩は、時間がかかり、大量の溶媒を必要とする欠点はあるが、設備は簡単で良く、微粒子の凝集も起こりにくいために水への再分散が容易という利点がある。粒子と液を効率よく分離する方法としては、遠心分離を用いることもできる。この場合も、水溶性有機溶媒の添加することによって、遠心分離の回転数や時間を抑えることができる。
【0022】
このようにして得られた、脱塩した酸化銀微粒子はこれを含む組成物として実際の使用に供される。具体的には水等に懸濁したまま塗液として用いてもかまわないし、遠心分離して得た沈降物に少量の溶媒やバインダー等を加えて練り上げてペースト状にして使用してもかまわない。また、得られた微粒子を一度乾燥させて、粉体化してから、塗液やペースト等の使用しやすい状態に加工してもかまわない。乾燥の際には、凍結乾燥や噴霧乾燥等の方法により乾燥時の凝集を避けることが好ましい。
【0023】
酸化銀微粒子を含む組成物中には、様々な添加剤を含有させることも可能である。その例としては、溶剤、バインダーとしてのポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等高分子化合物、分散性向上や消泡剤としての界面活性剤、液性改良のための増粘剤、pH調整剤、カップリング剤、増感色素、近赤外レーザー吸収色素等が挙げられる。溶剤の例としては、水、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、メタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、α−テルピネオル等が挙げられる。導電性改善のため銀、銅、錫、鉛、ニッケル、金、白金、パラジウムおよびこれらの合金に代表される各種導電性金属粉や導電性金属を含有する化合物、あるいはこれら導電性金属に被覆された導電性微粒子を少量添加することも可能である。
【0024】
また、添加剤として還元剤を加えることもできる。ここで言う還元剤とは、一般に還元作用を有する薬品という意味ではなく、酸化銀と混合・加熱した場合、酸化銀が金属銀に還元される温度を低下せしめる、即ち酸化銀の還元作用を促進している薬品という意味である。したがって、通常は還元作用を有さないもの、還元剤とは呼ばれないものも、ここでは酸化銀に対する作用のみに着目して還元剤と呼ぶこととする。
【0025】
還元剤として使えるものには多くの種類がある。例としては、例えば特開2004−058466号公報に記載したような、環状アミン、水酸基、オキシアルキレン基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩の少なくとも1つを有するもの、特開2004−139754号公報に記載したようにエポキシ化合物やアクリル化合物、特開2004−176079号公報に記載したグリセリン、還元糖等が挙げられる。具体例としては以下のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
1,3−ジ−4−ピペリジルプロパン、4−ピペリジノピペリジン、1,3−ジ−4−ピリジルプロパン、1,3,5−トリアジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、1,2,4,5−テトラジン、β−シクロデキストリン、キチン、キトサン、アミロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、フェニルイソ酪酸またはその銀塩、アビエチン酸またはその銀塩、2,4−ジエチルグルタル酸またはその銀塩、ベヘン酸、ベヘン酸銀、グリセリン、グリセルアルデヒド、トレオース、リボース、キシロース、アルトロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、キシルロース、フルクトース、ラクトース、マルトース等。
【0027】
これら還元剤等の添加剤の機能は単一に限定されるものではなく、複数の機能を同時に有していても何ら問題はない。あるいは、類似の機能を有する薬品を複数種併用することも可能である。
【0028】
酸化銀微粒子を含む塗液またはペーストを作製するための方法には、特に制限はない。必要な成分を配合し、プロペラ攪拌機、ホモジナイザー、ペイント・コンディショナー、ダイノミル、らいかい機、ニーダー、三本ロール、自転公転方式ミキサー等を用いて、均一に混合、分散すればよい。
【0029】
このようにして得られた酸化銀微粒子を含む組成物の使い方には特に制限はない。基本的には導電性を付与したいところに付着・塗布した後、加熱によって酸化銀を還元して銀に変換する。加熱温度は100〜200℃が好適である。また、酸化銀微粒子を含む組成物を膜状に加工し、これを部分的に加熱することにより導電性画像を作製することもできる。
【0030】
酸化銀微粒子を含む組成物を膜状に加工する方法には、特に制限はない。塗液状の組成物を支持体に塗布することにより作製してもかまわないし、ペースト状の組成物で印刷してもかまわない。膜の形成範囲は支持体全面に行ってもよいし、あるいは印刷法等により支持体上におおまかに像様に塗布した後、さらにレーザー照射等により細かい画像を形成していってもよい。酸化銀膜を形成するための支持体には特に制限はない。具体例としては、紙、アルミ板や銅板等金属板、PETフィルム等高分子フィルム、ガラス、セラミックス、石板等が挙げられる。
【0031】
酸化銀微粒子を含む膜状組成物から導電性画像を作製するために、膜状組成物を部分的に加熱する方法には、加熱した金属塊をスタンプする方法、感熱プリンターの熱ヘッドを用いる方法、レーザー光を照射する方法等がある。特に750〜900nmの範囲に波長を有する近赤レーザー光を照射する方法は高精細な画像を効率よく作製でき、好適である。
【0032】
近赤レーザー光の照射によって、酸化銀微粒子膜に加えられるエネルギーは、レーザー出力、レーザーのビーム径、照射時間等によって決定される。照射されるエネルギーは、照射部の酸化銀微粒子が還元されて銀になるのに充分なエネルギーであればよい。酸化銀のままの未照射部は、水洗あるいは酸処理によって取り除けば、画像はより鮮明になり、かつ改竄防止にもなり、好ましい。また、酸化銀を銀に還元するだけよりもさらに高いエネルギーの照射により爆発的に酸化銀を還元することにより、照射部の酸化銀微粒子をアブレーションによって飛ばしてしまい、画像を形成することも可能である。この時、レーザー光の照射だけで飛ばしてもかまわないし、レーザー光照射は膜強度を極端に弱める程度にとどめて、膜の除去はエアーの吹き付けや洗浄によってでもかまわない。
【0033】
以下実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【実施例1】
【0034】
10%硝酸銀水溶液100部と10%デキストリン水溶液16部を混合した。銀イオンとデキストリンの質量比はおよそ1:0.25である。これに、ホモミキサーで撹拌しながら、水酸化ナトリウムが銀イオンと等量になるように10%水酸化ナトリウム水溶液24部をゆっくりと添加して、酸化銀微粒子懸濁液を作製した。これにメタノール140部を添加し、1晩静置すると、粒子は沈降して、上澄み液は透明になっていた。デカンテーションでこの上澄み液を除いた。さらに、メタノールと水の1:1混合溶媒を100部を加えて静置後デカンテーションという操作を5回繰り返した。最後に水を加えて40部とし、酸化銀微粒子の分散液を得た。この酸化銀微粒子の大きさを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したが、1次粒子でおよそ100nm前後の大きさであった。
【0035】
このようにして得た酸化銀微粒子分散液をスライドグラスに塗布し、風乾した。テスターで導通を調べたが、導通は見られなかった。これを150℃に設定した送風乾燥機中で30分加熱処理後、再び導通を調べたところ、全面にわたり導通が生じていた。
【実施例2】
【0036】
実施例1で得た酸化銀微粒子分散液を白色PET(パナック(株)製ルミラーE−22、厚み188μm)に塗布し、風乾した。波長830nmの半導体レーザー(最大出力600mW、ビーム径25μm)を用いて、印加エネルギーが250mJ/cm2になるようレーザーの出力、描画速度を調節して酸化銀膜への描画を行った。テスターで調べたところ、描画部に導通が生じていることが確認できた。
【実施例3】
【0037】
10%硝酸銀水溶液100部と10%デキストリン水溶液19部を混合した。銀イオンとデキストリンの質量比はおよそ1:0.3である。これに、ホモミキサーで撹拌しながら、水酸化ナトリウムが銀イオンと等量になるように10%水酸化ナトリウム水溶液24部をゆっくりと添加して、酸化銀微粒子懸濁液を作製した。これにメタノール140部を添加し、1晩静置後デカンテーションで上澄みを捨てた。さらに、メタノールと水の1:1混合溶媒を100部を加え、4000rpmで10分間遠心分離した。粒子は全て沈降し、上澄み液は透明になっていた。上澄み液を廃棄して、残った沈降粒子に8%ポリビニルアルコール水溶液を少量加え、自転・公転方式のミキサー((株)シンキー製、商品名あわとり練太郎、形式AR−250)を用いて、公転2000rpm、自転800rpmの条件下で3分間混合して、ペースト状にした。
【0038】
このようにして得た酸化銀ペーストを用いて、ガラス板にスクリーン印刷で回路パターンの印刷を行った。ペーストを印刷したガラス板を、200℃に設定した送風乾燥機中で30分加熱処理後、テスターで導通を調べたところ、回路パターンには導通が生じていた。
【0039】
(比較例1)
[カレー・リー法による銀微粒子調製]
実施例1のデキストリン水溶液を140部、水酸化ナトリウム水溶液を40部に変えた以外は実施例1と全く同様にして、銀微粒子懸濁液を作製した。この時の銀イオンとデキストリンの質量比は1:2.2、銀イオンと水酸化ナトリウムのモル比は1:1.7である。実施例1と同様にメタノールを添加して、1晩静置すると粒子は沈降し、上澄み液は透明であった。デカンテーションと溶媒の添加を実施例1と同様に繰り返した後、水を加えて全体を40部として、銀微粒子の分散液を得た。
【0040】
このようにして得た銀微粒子分散液をスライドグラスに塗布し、風乾した。テスターで導通を調べたが、導通は見られなかった。これを200℃に設定した送風乾燥機中で30分加熱処理後、再び導通を調べたところ、導通は一部にしか生じておらず、導通の見られない部分が残っていた。また、実施例2と同様に、白色PETへの塗布物にレーザーによる描画を行ったが、レーザー照射部には何ら変化は見られず、描画部に導通が生じることもなかった。
【0041】
(比較例2)
実施例1のデキストリン水溶液を50部、水酸化ナトリウム水溶液を40部に変えた以外は実施例1と全く同様にして、銀微粒子懸濁液を作製した。この時の銀イオンとデキストリンの質量比は1:0.8、銀イオンと水酸化ナトリウムのモル比は1:1.7である。実施例1と同様にメタノールを添加して、1晩静置すると粒子は沈降し、上澄み液は透明であった。デカンテーションと溶媒の添加を実施例1と同様に繰り返した後、水を加えて全体を40部として、銀微粒子の分散液を得た。この分散液を用いて、比較例1と同様に送風送風乾燥機での加熱試験とレーザーによる描画試験を行ったが、結果も比較例1と同様であった。
【0042】
(比較例3)
実施例1のデキストリン水溶液16部を140部に変えた以外は実施例1と全く同様にして、銀微粒子懸濁液を作製した。実施例1と同様にメタノールを添加して、1晩静置すると粒子は沈降し、上澄み液は透明であった。デカンテーションと溶媒の添加を実施例1と同様に繰り返した後、水を加えて全体を40部として、銀微粒子の分散液を得た。この分散液を用いて、比較例1と同様に送風送風乾燥機での加熱試験とレーザーによる描画試験を行ったが、結果も比較例1と同様であった。
【0043】
(比較例4)
実施例1の10%デキストリン水溶液を2%ポリビニルアルコール水溶液140部に変えた以外は実施例1と全く同様にして、酸化銀微粒子懸濁液を作製した。実施例1と同様にメタノールを添加して、1晩静置すると粒子の一部は沈降したが、上澄み液には濁りが見られた。そこで、4000rpmで10分間遠心分離したが、それでも粒子の沈降は完全ではなく、上澄みには濁りが残った。遠心分離の条件を18000rpmで15分にすることで、ようやく上澄み液は透明になった。この酸化銀微粒子の大きさをSEMで観察したが、1次粒子でおよそ100nm前後の大きさであった。
【0044】
(比較例5)
実施例1の10%デキストリン水溶液16部を5%ヒドロキシプロピルセルロース50部に変えた以外は実施例1と全く同様にして、酸化銀微粒子懸濁液を作製した。実施例1と同様にメタノールを添加して、1晩静置すると粒子は沈降し、上澄み液は透明であった。デカンテーションと溶媒の添加を実施例1と同様に繰り返した後、水を加えて全体を40部として、酸化銀微粒子の分散液を得た。この酸化銀微粒子の大きさをSEMで観察したが、1次粒子でおよそ300nm前後の大きさであった。この分散液を用いて、比較例1と同様に送風乾燥機での加熱試験とレーザーによる描画試験を行った。結果は、送風乾燥機の加熱処理では200℃で全面に導通が得られたが、250mJ/cm2の印加エネルギーでのレーザーによる描画では、導通を得るには至らなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、本文中に述べたように導電材料として用いられる他、平版印刷版等の記録材料や装飾、工芸品として使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン1モルに対し、塩基0.5〜1.5モルを加えて酸化銀粒子を作製する水溶液中の反応を、銀イオンの質量1に対してデキストリンが質量0.1〜0.5の割合で水溶液中に存在する条件下において行うことを特徴とする、酸化銀微粒子作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載した方法で作製した酸化銀微粒子の懸濁液に、水溶性有機溶剤を加えることにより、微粒子を沈降させて水溶性塩分を除去する、酸化銀微粒子作製方法。
【請求項3】
少なくとも請求項1または2に記載した方法で作製した酸化銀微粒子を含む組成物を、100〜200℃に加熱する導電性組成物作製方法。
【請求項4】
少なくとも請求項1または2に記載した方法で作成した酸化銀微粒子を含む組成物を膜状に加工し、これを部分的に加熱する導電性画像作製方法。
【請求項5】
膜状組成物を部分的に加熱する方法が750〜900nmの範囲に波長を有する近赤レーザー光を照射することである、請求項4記載の導電性画像作製方法。

【公開番号】特開2006−56740(P2006−56740A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239638(P2004−239638)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】