説明

重合体の回収方法

【課題】マスキング剤に由来する残留金属成分を十分に除去しつつ、重合体溶液から高純度の重合体を簡便に回収することのできる重合体の回収方法を提供する。
【解決手段】金属元素を構成要素として含むマスキング剤により官能基がマスキングされた重合体を含有する重合体溶液に、所定の式で表される構造部分を一分子中に少なくとも一つ有する、20℃におけるn−ヘキサンに対する溶解度が10質量%以下のリン化合物を添加して脱マスキングさせることにより、重合体を生成させる脱マスキング工程と、生成した重合体と金属元素に由来する成分とを分離する分離工程と、を含む重合体の回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体の回収方法、及びそれにより回収された重合体に関し、更に詳しくは、マスキング剤に由来する残留金属成分を十分に除去しつつ、重合体溶液から高純度の重合体を簡便に回収することのできる重合体の回収方法、及びこの回収方法によって回収された重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン/α−オレフィン共重合体エラストマーや、エチレン/α−オレフィン/非共役ポリエン共重合体エラストマー等のオレフィン系共重合体エラストマーは、耐熱性及び耐候性に優れたエラストマーであるため、自動車部品、機械部品、土木建材等の材料として広く用いられている。また、オレフィン系共重合体エラストマーは、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂の改質剤としても広く用いられている。しかし、このようなオレフィン系共重合体エラストマーは、これらの分子構造中に極性基を有しないものである。従って、オレフィン系共重合体エラストマーは、金属に対する接着性、ポリオレフィン系以外のエラストマー又は樹脂に対する接着性及び相容性が低く、これを用いて得られる成形体の塗装性や印刷適性が低下するという問題がある。
【0003】
このような問題を解消すべく、オレフィン系共重合体の分子構造中に極性基を導入する試みがなされている。導入される極性基(官能基)のうちのカルボキシル基は、アイオノマーに代表されるように、その反応性を活かした高分子反応を行う都合上、極めて有用である。このため、カルボキシル基等の官能基を有するオレフィン化合物を単量体成分として用いることにより得られる、官能基が導入されたオレフィン系共重合体が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0004】
ところで、その分子構造中にカルボキシル基等の官能基が導入されたオレフィン系共重合体を製造するに際しては、カルボキシル基等の官能基を含有する化合物を単量体成分として用いる。このような化合物を重合させるに際しては、この化合物と過剰の有機金属とを接触させることにより、予めカルボキシル基をマスキングしておく必要がある。ここで、得られたオレフィン系共重合体を反応溶液から回収するに際しては、マスキング剤に由来する金属成分を可能な限り除去することが好ましい。これは、金属成分が過剰に残留しているオレフィン系共重合体は、色調等の諸特性に劣る場合があるからである。
【0005】
反応溶液に溶解した重合体を回収するに際し、得られる重合体中に含まれる、マスキング剤に由来する金属成分を除去する方法としては、反応溶液にアセチルアセトン等のキレート剤を添加する方法が従来から知られている。しかしながら、この方法では、重合体中に残留する金属成分を十分に除去することは困難であるという問題がある。
【0006】
一方、ギ酸やシュウ酸をはじめとするカルボン酸を反応溶液に添加して反応溶液中に含まれる金属成分を不溶化させ、除去する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照)。但し、特許文献6において開示された方法であっても、重合体中に残留する金属成分の除去は十分であるとはいえず、更なる改良を図る必要性があった。また、特許文献6は、ポリオレフィンの精製方法に関する先行技術文献であり、官能基を有する重合体、及びマスキングに関しては何ら記載されていない。
【特許文献1】特公昭49−43275号公報
【特許文献2】特開平1−259012号公報
【特許文献3】特開昭64−54009号公報
【特許文献4】特表平4−503963号公報
【特許文献5】特開2001−247629号公報
【特許文献6】特開2003−96128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、マスキング剤に由来する残留金属成分を十分に除去しつつ、重合体溶液から高純度の重合体を簡便に回収することのできる重合体の回収方法、及びこの回収方法によって回収された、残留金属元素濃度の低い重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定の構造部分をその分子中に有する、所定の有機溶媒に対して低溶解度のリン化合物を重合体溶液に添加し、マスキング剤を構成する金属元素に由来する成分を析出させることにより、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下に示す重合体の回収方法、及びそれにより回収された重合体が提供される。
【0010】
[1]金属元素を構成要素として含むマスキング剤により官能基がマスキングされた重合体を含有する重合体溶液に、下記一般式(1)で表される構造部分を一分子中に少なくとも一つ有する、20℃におけるn−ヘキサンに対する溶解度が10質量%以下のリン化合物を添加して脱マスキングさせることにより、前記重合体を生成させる脱マスキング工程と、生成した前記重合体と前記金属元素に由来する成分とを分離する分離工程と、を含む重合体の回収方法。
【0011】
【化1】

(前記一般式(1)中、A及びBは、それぞれ独立して、H、O、C、P、N、及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも一の元素を含んで構成される基である。また、AとBは、互いに結合して環構造を形成していてもよい)
【0012】
[2]前記官能基が、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基が結合した炭化水素基、カルボキシル基、及びカルボキシル基が結合した炭化水素基からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の重合体の回収方法。
【0013】
[3]前記官能基がマスキングされた重合体が、少なくとも下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を、前記マスキング剤の存在下に重合反応させる反応工程により生成したものである前記[1]又は[2]に記載の重合体の回収方法。
【0014】
【化2】

(前記一般式(2)中、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又は下記一般式(4)で表される官能基である。なお、X1、X2、及びX3のうち少なくとも一つは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又は下記一般式(4)で表される官能基である。R1は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、mは0〜2の整数、nは0〜5の整数を示す)
【0015】
【化3】

(前記一般式(3)中、X4は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又は下記一般式(4)で表される官能基を示す。R2は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、pは0〜6の整数を示す)
【0016】
【化4】

(前記一般式(4)中、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立した、又は相互に連結して環を形成した有機基を示す)
【0017】
[4]前記反応工程が、前記一般式(2)及び/又は前記一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物と、エチレンと、炭素数が3〜12のα−オレフィンと、必要な場合非共役ポリエンと、を共重合反応させることを含む工程である前記[3]に記載の重合体の回収方法。
【0018】
[5]前記リン化合物が、酸性リン酸エステルである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の重合体の回収方法。
【0019】
[6]前記酸性リン酸エステルが、エチルリン酸、イソプロピルリン酸、メチルリン酸、ブチルリン酸、及びブトキシエチルリン酸からなる群より選択される少なくとも一種である前記[5]に記載の重合体の回収方法。
【0020】
[7]前記マスキング剤が、有機アルミニウム化合物及び/又はバナジウム化合物からなるものである前記[1]〜[6]のいずれかに記載の重合体の回収方法。
【0021】
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の重合体の回収方法により回収される重合体。
【0022】
[9]マスキング剤由来の残留金属元素の合計濃度が、50ppm以下である前記[8]に記載の重合体。
【発明の効果】
【0023】
本発明の重合体の回収方法によれば、マスキング剤に由来する残留金属成分を十分に除去しつつ、重合体溶液から高純度の重合体を簡便に回収することができる。
【0024】
本発明の重合体は、重合体溶液から簡便に回収され得るものであり、残留金属元素濃度が低く、色調等の諸特性に優れているという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。なお、本明細書において「重合(体)」というときは、「共重合(体)」が概念上含まれる。
【0026】
本発明の重合体の回収方法の一実施形態は、金属元素を構成要素として含むマスキング剤により官能基がマスキングされた重合体を含有する重合体溶液に、下記一般式(1)で表される構造部分を一分子中に少なくとも一つ有する、20℃におけるn−ヘキサンに対する溶解度が10質量%以下のリン化合物を添加して脱マスキングさせることにより、重合体を生成させる脱マスキング工程と、生成した重合体と金属元素に由来する成分とを分離する分離工程と、を含む重合体の回収方法である。なお、本発明において、重合触媒はマスキング剤としても作用する場合がある。以下、その詳細について説明する。
【0027】
【化5】

(前記一般式(1)中、A及びBは、それぞれ独立して、H、O、C、P、N、及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも一の元素を含んで構成される基である。また、AとBは、互いに結合して環構造を形成していてもよい)
【0028】
(1)反応工程・マスキング工程
本実施形態の重合体の回収方法における、重合体溶液に含有される官能基がマスキングされた重合体(以下、「マスク重合体」ともいう)の種類は特に限定されないが、具体例としては、少なくとも一般式(2)及び/又は一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を、マスキング剤の存在下に重合反応させる反応工程により生成したもの等を挙げることができる。
【0029】
一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物は、ディールス・アルダー反応等の種々の反応により得ることができる。置換基「X2」が一般式(4)で表されるものは、所定のカルボン酸とアルコールとの縮合反応、又は所定のカルボン酸とオレフィンとの付加反応等でも得ることができる。及び一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物のうちの、「X4」が一般式(4)で表されるものは、所定のカルボン酸とアルコールとの縮合反応、又は所定のカルボン酸とオレフィンとの付加反応により得られるエステル化合物である。置換基「X2」及び「X4」が一般式(4)で表される化合物は、一般的に用いられる重合用の有機溶媒等に溶解し易く、工業的なレベルの生産工程においても不均一な反応が生起され難く、好適に使用することができる。
【0030】
本実施形態の重合体の回収方法においては、一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物を用いる場合に、一般式(2)中、X3が一般式(4)で表される官能基であるとともに、X1及びX2が水素原子であり、かつ、nが0であることが、エチレン及びα−オレフィン等との共重合等の観点から好ましい。また、本実施形態の重合体の回収方法においては、一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物を用いる場合に、一般式(2)中、R1がメチル基であることが、得られる重合体が耐久性に優れる等の観点から好ましい。
【0031】
一般式(4)で表される官能基の具体例としては、下記式(5)〜(58)で表されるアルコキシカルボニル基を挙げることができる。なお、一般式(4)中、R3、R4、及びR5が、それぞれ独立した、又は相互に連結して環を形成した、炭素数1〜20の炭化水素基であることが、重合阻害し難い等の観点から好ましい。
【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
【化15】

【0042】
【化16】

【0043】
【化17】

【0044】
【化18】

【0045】
【化19】

【0046】
【化20】

【0047】
【化21】

【0048】
【化22】

【0049】
【化23】

【0050】
また、本実施形態の重合体の回収方法においては、マスク重合体を生成する反応工程が、一般式(2)及び/又は一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物と、エチレンと、炭素数が3〜12のα−オレフィンと、必要な場合非共役ポリエンとを共重合反応させることを含む工程であることが好ましい。
【0051】
一般式(2)及び/又は一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を用いる場合においては、得られる重合体の全構造単位に占める、一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位a」とも記す)、及び/又は一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(b)」とも記す)の割合が、0.01〜30mol%となるように使用することが好ましく、0.05〜10mol%となるように使用することが更に好ましく、0.1〜5mol%となるように使用することが特に好ましい。構造単位(b)の割合が30mol%未満となるように一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用すると、官能基含有オレフィン化合物とエチレン等の他のオレフィン化合物との共重合が良好になる等の傾向にある。一方、構造単位(b)の割合が0.01mol%超となるように一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用すると、官能基による変性効果により、接着性、相容性、及び塗装性等が良好となり、アイオノマー化後の力学特性に優れる等の傾向にある。
【0052】
エチレンは、得られる重合体の全構造単位に占める、エチレンに由来する構造単位(以下、「構造単位(c)」とも記す)の割合が、5〜90mol%となるように使用することが好ましく、10〜85mol%となるように使用することが更に好ましく、15〜80mol%となるように使用することが特に好ましい。構造単位(c)の割合が5mol%以上となるようにエチレンを使用することにより、一般式(2)及び一般式(3)で表される官能基含有オレフィンを共重合させることが容易になり易く、しかも優れた耐久性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。一方、構造単位(c)の割合が90mol%以下となるようにエチレンを使用することにより、エラストマーとしての挙動を示す重合体を得易くなる傾向にある。
【0053】
α−オレフィンは、その炭素数が3〜12のものであり、具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−ペンテン−1、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、シクロヘキセン等を挙げることができる。これらのα−オレフィンを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。炭素数が12以下であるα−オレフィンを用いることにより、α−オレフィンと他の単量体との共重合性が良好となり易いために好ましい。
【0054】
α−オレフィンは、得られる重合体の全構造単位に占める、α−オレフィンに由来する構造単位(以下、「構造単位(d)」とも記す)の割合が、5〜60mol%となるように使用することが好ましく、10〜55mol%となるように使用することが更に好ましく、15〜50mol%となるように使用することが特に好ましい。構造単位(d)の割合が5mol%以上となるようにα−オレフィンを使用することにより、十分な弾性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。一方、構造単位(d)の割合が60mol%以下となるようにα−オレフィンを使用することにより、優れた耐久性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。
【0055】
非共役ポリエンの具体例としては、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、1,5−ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の脂環式ジエン等を挙げることができる。これらの非共役ポリエンを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、上記の非共役ポリエンの具体例のうちで更に好ましいものとしては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等である。
【0056】
非共役ポリエンは、得られる重合体の全構造単位に占める、非共役ポリエンに由来する構造単位(以下、「構造単位(e)」とも記す)の割合が、0〜12mol%となるように使用することが好ましく、0〜8mol%となるように使用することが更に好ましく、0〜5mol%となるように使用することが特に好ましい。構造単位(e)の割合が12mol%以下となるように非共役ポリエンを使用することにより、優れた耐久性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。
【0057】
反応工程は、適当な溶媒又は希釈剤の存在下で行われることが好ましい。このような溶媒又は希釈剤としては、例えば脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類、又はこれらのハロゲン化物を用いることができる。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2−ブテン、2−メチル−2−ブテン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等を挙ることができる。これらの溶媒又は希釈剤は、蒸留処理又は吸着処理することにより、その水分濃度が20ppm以下となったものを用いることが好ましい。
【0058】
反応工程において、重合反応は0〜150℃で行われることが好ましく、10〜100℃で行われることが更に好ましい。また、重合反応においては、必要に応じて分子量調節剤を用いることができる。分子量調節剤の具体例としては、水素、ジエチル亜鉛、水素化ジイソブチルアルミニウム等を挙げることができる。なお、重合反応を行うための反応器は、バッチ式、又は連続式のいずれであってもよい。連続式の反応器としては、チューブ型反応器、塔型反応器、槽型反応器等を用いることができる。
【0059】
(1−1)重合触媒成分
反応工程においては、重合触媒成分を使用する。この重合触媒成分としては、有機アルミニウム化合物と、遷移金属化合物、好ましくは周期表第4族又は第5族から選択された金属元素を含む化合物とからなるものを用いることが好ましい。更に、重合触媒成分が、有機アルミニウム化合物とバナジウム化合物とからなるものであることが好ましい。また、この重合触媒成分としては、エチレン、α−オレフィン、及び非共役ポリエンの共重合反応において、各構造単位が比較的ランダムに配列された共重合体を製造し得るものを用いることが好ましい。具体的な重合触媒成分としては、以下に示す重合触媒成分(1)〜(4)を挙げることができる。
【0060】
(重合触媒成分(1))
炭化水素化合物に可溶な有機アルミニウム化合物とバナジウム化合物とからなる重合触媒成分であって、有機アルミニウム化合物及びバナジウム化合物の一方又は両方に塩素原子を少なくとも一つ含むものである。
【0061】
バナジウム化合物としては、下記一般式(59)で表される化合物、VCl4、VO(acac)2、V(acac)3(なお、「acac」は、アセチルアセトナト基を示す))、及び下記一般式(60)で表される化合物等を挙げることができる。
【0062】
O=VClk(OR63-k …(59)
(前記一般式(59)中、R6はエチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭化水素基、kは0〜3の整数を示す)
【0063】
VCl3・mZ …(60)
(前記一般式(60)中、Zはテトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、2−メトキシメチル−テトラヒドロフラン、ジメチルピリジン等の炭化水素化合物に可溶な錯体を形成するルイス塩基を示す。また、mは2〜3の整数を示す)
【0064】
有機アルミニウム化合物としては、下記一般式(61)で表されるトリアルキルアルミニウム化合物、下記一般式(62)又は下記一般式(63)で表される水素化アルキルアルミニウム、下記一般式(64)、下記一般式(65)又は下記一般式(66)で表される塩素化アルキルアルミニウム、下記一般式(67)又は下記一般式(68)で表されるアルコキシ若しくはフェノキシ置換有機アルミニウム、水と前記トリアルキルアルミニウム化合物との反応によって得られるメチルアルモキサン(MAO)、エチルアルモキサン、ブチルアルモキサン等を挙げることができる。
【0065】
AlR73 …(61)
HAlR72 …(62)
2AlR73 …(63)
7AlCl2 …(64)
73Al2Cl3 …(65)
72AlCl …(66)
72Al(OR8) …(67)
7Al(OR82 …(68)
(前記一般式(61)〜(68)中、R7はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭化水素基、R8はメチル基、エチル基、ブチル基、フェニル基、トリルキシリル基、2,6−ジ−tert−ブチルフェニル基、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、又は4−メチル−2,6−ジメチルフェニル基を示す)
【0066】
また、この重合触媒成分(1)においては、有機アルミニウム化合物及びバナジウム化合物に、更に有機酸又は無機酸のエステル、エーテル、アミン、ケトン、アルコキシシラン等の含酸素又は含窒素電子供与体を添加することができる。
【0067】
(重合触媒成分(2))
シリカ又は塩化マグネシウム上に担持されたハロゲン化チタニウム又はハロゲン化ジルコニウムと、有機アルミニウム化合物とからなる重合触媒成分である。
【0068】
ハロゲン化チタニウム又はハロゲン化ジルコニウムとしては、四塩化チタニウム、四臭化チタニウム、四塩化ジルコニウム等を用いることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、メチルアルモキサン等を用いることができる。また、この重合触媒成分(2)には、更にジオクチルフタレート、テトラアルコキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等を添加することができる。
【0069】
(重合触媒成分(3))
配位子として、水素原子、アルキル基、及びアリル基からなる群より選択される一以上の置換基を持ったシクロペンタジエニル基又はインデニル基を一つ又は二つ有する、チタニウム、ジルコニウム、及びハーフニウムからなる群より選択される一以上の遷移金属を含む遷移金属化合物と、メチルアルモキサンを50mol%以上含有する有機アルミニウム化合物とからなる重合触媒成分である。
【0070】
前記遷移金属化合物の具体例としては、ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ジエチルジルコニウム、ビス(シクロペンタジエニル)メチルジルコニウムモノクロライド、エチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(シクロペンタジエニル)メチルジルコニウムモノクロライド、メチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(インデニル)ジメチルジルコニウム、エチレンビス(インデニル)ジフェニルジルコニウム、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジメチルジルコニウム、エチレンビス(4−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(2,3−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルメチル(フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチル(フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルシリルビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリルビス(2−メチル−4−フェニル−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルチタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)メチルチタニウムモノクロライド、エチレンビス(インデニル)チタニウムジクロライド、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)チタニウムジクロライド、メチレンビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド、η1:η5−{[(tert−ブチル−アミド)ジメチルシリル](2,3,4,5−テトラメチル−1−シクロペンタジエニル)}チタニウムジクロライド、ビス(1,1,1−トリフルオロ−3−フェニル−2,4−ブタジオナト)チタニウムジクロライド等を挙げることができる。
【0071】
(重合触媒成分(4))
ビスアルキル置換又はN−アルキル置換サリチルアルドイミンと、チタン、ジルコニウム、又はハーフニウムの二塩化物と、メチルアルモキサン(MAO)とからなる触媒である。
【0072】
(1−2)マスキング剤
本実施形態の重合体の回収方法で回収される重合体を得るに際しては、予めマスキングされたマスク重合体を使用できることの他に、マスキング剤を使用して重合体をマスキングすることもできる。この場合、マスキング剤としては、周期表第2族、第12族及び第13族から選択される金属元素を構成要素として含む有機金属化合物が好適に用いられる。より具体的には、ジエチル亜鉛、ジブチルマグネシウム、エチルマグネシウムクロライド、ブチルマグネシウムクロライド、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジエチルアルミニウム、二水素化エチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、ジブチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシド、ジイソブチルアルミニウムジブトキシド、ジイソブチルアルミニウムイソプロポキシド、ジイソブチルアルミニウム2−エチルヘキシド、イソブチルアルミニウムブトキシド、イソブチルアルミニウム2−エチルヘキシド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、ジエチルアルミニウムブロマイド、エチルアルミニウムセスキクロライド、水又は硫酸銅の水和物とトリアルキルアルミニウムの反応で得られるメチルアルモキサン、エチルアルモキサン、ブチルアルモキサン等を挙げることができる。これらの中で、有機アルミニウム化合物が好ましい。有機アルミニウム化合物の好適例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド等を挙げることができる。また、後述するように、場合によっては重合触媒成分をマスキング剤として使用することもできる。
【0073】
マスキング剤と所定の官能基を有する単量体との反応は、不活性溶媒又は希釈剤の存在下で、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。不活性溶媒又は希釈剤としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロエタン、ジクロロメタン等の芳香族化合物、ハロゲン化炭化水素化合物等を用いることができる。
【0074】
また、マスキング剤は、官能基を有する単量体の官能基1当量に対して、0.8当量以上の割合で用いることが好ましく、0.9〜2.5当量の割合で用いることが更に好ましい。0.8当量未満であると、マスキングされない官能基が残存し易く、反応工程において触媒活性が低下し、重合反応が十分に進行し難くなる傾向にある。マスキングの条件は、使用するマスキング剤、及び官能基を有する単量体の種類によって異なるが、反応時間が2分間〜10時間であることが好ましく、10分間〜2時間であることが更に好ましい。また、反応温度は−10〜60℃であることが好ましく、10〜40℃であることが更に好ましい。
【0075】
マスキング処理された官能基を有する単量体は、重合処理に供されるまで30℃以下の温度で貯蔵することが好ましい。これにより、貯蔵中の副反応の発生を防止することができる。また、マスキング処理された単量体中に、未反応の金属−炭素結合が存在する場合には、貯蔵中の安定性を向上させることを目的として、分岐構造を有するイソプロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類、2,6−ジ−tert−ブチルクレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジメチルクレゾール、2,6−ジメチルフェノール等のフェノール類等を添加することもできる。また、一般式(4)で表される官能基を有する化合物においては(共)重合反応中に重合触媒成分によりin situでマスキングされるため、マスキング反応条件が重合反応条件となる場合がある。
【0076】
(2)脱マスキング工程
本実施形態の重合体の回収方法では、マスク重合体を含有する重合体溶液に、後述する特定のリン化合物を添加して脱マスキングを行う。この脱マスキングによって、回収目的物である重合体が、重合反応溶媒中に生成される。脱マスキングを行うに際しての温度・圧力条件は、マスキング工程及び/又は反応工程における条件と基本的に同じでよい。即ち、温度は−10〜150℃であることが好ましく、10〜100℃であることが更に好ましい。但し、脱マスキング工程は、圧力によっては左右され難く、常圧で行うこともできる。
【0077】
(2−1)リン化合物
本実施形態の重合体の回収方法における、脱マスキング工程で用いられるリン化合物は、前記一般式(1)で表される構造部分を一分子中に少なくとも一つ有するものである。マスク重合体を含有する重合体溶液に、この構造部分を有するリン化合物を添加すると、官能基をマスキングしていたマスキング剤を構成する金属元素との化合物が形成される。即ち、マスク重合体の脱マスキングが行われることによって、回収目的物である重合体が生成される。なお、リン化合物は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、マスキングされる重合体の官能基は、具体的にはヒドロキシル基、ヒドロキシル基が結合した炭化水素基、カルボキシル基、及びカルボキシル基が結合した炭化水素基からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0078】
また、本実施形態の重合体の回収方法で用いられるリン化合物の、20℃におけるn−ヘキサンに対する溶解度は、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。即ち、このリン化合物は、重合反応で一般的に使用されるn−ヘキサンをはじめとする重合反応溶媒に対する溶解度が低いものである。このため、重合体溶液に添加した場合に、このリン化合物は、マスキング剤に由来する金属元素と金属化合物を形成する。リン化合物の、20℃におけるn−ヘキサンに対する溶解度が10質量%超であると、一般的に使用される重合反応溶媒に対する溶解度が高過ぎるため、形成される金属化合物の溶解度も上昇してしまう。従って、形成された金属化合物を重合反応系から除去することが困難になる。
【0079】
本実施形態の重合体回収方法で用いられるリン化合物を表す前記一般式(1)中、「A」は、具体的には水酸基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、又はブトキシエチル基であることが好ましい。また、前記一般式(1)中、「B」は、具体的には水酸基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、又はブトキシエチル基であることが好ましい。リン化合物のより具体的な好適例としては、酸性リン酸エステルを挙げることができる。なお、酸性リン酸エステルは、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、この酸性リン酸エステルの好適例としては、エチルリン酸、イソプロピルリン酸、メチルリン酸、ブチルリン酸、及びブトキシエチルリン酸等を挙げることができ、これらを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、酸性リン酸エステルは、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルのいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0080】
(3)金属化合物の分離工程
重合体溶液にリン化合物を添加することにより、マスキング剤を構成する金属元素に由来して形成された金属化合物は、一般的に使用される重合反応溶媒に対する溶解性が低いものであり、重合反応溶媒中で不溶化して容易に析出する。従って、本実施形態の重合体の回収方法によれば、重合反応溶媒に溶解した状態で生成した重合体と、重合反応溶媒から析出した金属化合物とを分離することにより、マスキング剤に由来する残留金属成分を十分に除去しつつ、重合体溶液から高純度の重合体を簡便に回収することができる。重合体溶液と金属化合物は、例えばろ過、遠心分離、静置分離等の方法によって容易に分離することができる。なお、生成した重合体が溶解した重合体溶液と、析出した金属化合物とを分離するに際しての温度条件は、100℃以下とすることが、析出される金属化合物の量が多くなり、分離効率が高くなるために好ましく、60℃以下とすることが更に好ましい。
【0081】
(4)重合体溶液からの重合体の回収工程
脱マスキング工程及び分離工程を終えた後は、回収目的物である重合体は、反応に用いた溶媒中に溶解した状態の重合体溶液として得ることができる。本実施形態の重合体の回収方法においては、このようにして得られる重合体溶液を、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等が充填された吸着カラムを通過させること、又は重合体溶液に水、酸性水溶液、アルコール等を多量に添加して洗浄することが、残留する金属元素や処理剤等を除去して高純度の重合体が得られるために好ましい。また、重合体溶液に、公知のフェノール系、リン系、イオウ系等の老化防止剤を添加することにより、得られる重合体の安定性を向上させることができるために好ましい。
【0082】
重合体溶液に水蒸気を吹き込むことにより溶媒を除去してスラリーを得た後、このスラリーから固形物を分離し、スクリュータイプの絞り機、押出機、加熱ロール等を用いて脱水・乾燥することにより、固体状の重合体を回収(単離)することができる。また、重合体溶液を加熱することによって濃縮し、次いでベント付き押出機を用いて乾燥処理することによっても、固体状の重合体を回収(単離)することができる。
【0083】
(5)重合体
次に、本発明の重合体の一実施形態について説明する。本実施形態の重合体は、上述してきた本発明の実施形態である重合体の回収方法により、重合体溶液から回収されたものである。従って、残留金属元素の濃度が極めて低い、という優れた特性を有するものである。このため、本実施形態の重合体は、色調、耐熱性等の諸特性に優れているものである。また、他の材料に対する接着性及び相容性に優れたものであるために、自動車部品、機械部品、電子部品、土木建材等の材料として好適なエラストマーを得ることができるといった利点を有するものである。なお、本実施形態の重合体の、マスキング剤由来の残留金属元素の合計濃度は、50ppm以下であることが、色調等の諸特性により優れたものであるために好ましく、30ppm以下であることが更に好ましく、20ppm以下であることが特に好ましい。
【0084】
前述の反応工程において、一般式(2)及び/又は一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物と、エチレンと、炭素数が3〜12のα−オレフィンと、必要に応じて非共役ポリエンとを共重合反応させた場合を想定する。このとき、一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物を用いた場合において、本実施形態の重合体の全構造単位に占める、構造単位(a)の割合が、0.01〜30mol%となるように、一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用することが好ましく、0.05〜10mol%となるように使用することが更に好ましく、0.1〜5mol%となるように使用することが特に好ましい。構造単位(a)の割合が30mol%未満となるように一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用すると、官能基含有オレフィン化合物とエチレン等の他のオレフィン化合物との共重合が良好になり、得られる重合体がゴム弾性に優れたものとなる傾向にある。一方、構造単位(a)の割合が0.01mol%超となるように一般式(2)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用すると、官能基による変性効果により、接着性、相容性、及び塗装性等が良好となり、また、アイオノマー化後の力学特性に優れる等の傾向にある。
【0085】
また、一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を用いた場合において、本実施形態の重合体の全構造単位に占める、構造単位(b)の割合が、0.01〜30mol%となるように一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用することが好ましく、0.05〜10mol%となるように使用することが更に好ましく、0.1〜5mol%となるように使用することが特に好ましい。構造単位(b)の割合が30mol%未満となるように一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用すると、官能基含有オレフィン化合物とエチレン等の他のオレフィン化合物との共重合が良好になる等の傾向にある。一方、構造単位(b)の割合が0.01mol%超となるように一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を使用すると、官能基による変性効果により、接着性、相容性、及び塗装性等が良好となり、アイオノマー化後の力学特性に優れる等の傾向にある。
【0086】
本実施形態の重合体の全構造単位に占める、構造単位(c)の割合は、5〜90mol%であることが好ましく、10〜85mol%であることが更に好ましく、15〜80mol%であることが特に好ましい。構造単位(c)の割合が5mol%以上であると、優れた耐久性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。一方、構造単位(c)の割合が90mol%以下であると、この重合体が、エラストマーとしての挙動を示す傾向にある。
【0087】
また、本実施形態の重合体の全構造単位に占める、構造単位(d)の割合は、5〜60mol%であることが好ましく、10〜55mol%であることが更に好ましく、15〜50mol%であることが特に好ましい。構造単位(d)の割合が5mol%以上であると、十分な弾性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。一方、構造単位(d)の割合が60mol%以下であると、優れた耐久性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。
【0088】
本実施形態の重合体の全構造単位に占める、構造単位(e)の割合は、0〜12mol%であることが好ましく、0〜8mol%であることが更に好ましく、0〜5mol%であることが特に好ましい。構造単位(e)の割合が12mol%以下であると、優れた耐久性を有するエラストマーを得易くなる傾向にある。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
(合成例1)
十分に窒素置換した500ml三口フラスコ内に、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸54.6g(0.25mol)、及び乾燥トルエン250mlを入れ、0〜10℃にてトリフルオロ酢酸無水物44.0ml(0.31mol)をゆっくり滴下し、滴下終了後、室温にて1時間撹拌した。次いで、0〜10℃にて乾燥tert−ブタノール48.8ml(0.50mol)をゆっくり滴下し、滴下終了後、室温にて2時間撹拌した。その後、反応液を0℃に冷却し、2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液250ml、及び水250mlを加え、分液した。水層をジエチルエーテル250mlで2回抽出した後、有機層を水150mlで3回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した後、130〜135℃、3mmHgの条件で減圧蒸留して精製することにより、無色の液状の4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸tert−ブチル47.3gを得た。
【0091】
(実施例1)
窒素置換した2lセパラブルフラスコ内に、溶媒としてヘキサン1000mlと、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸tert−ブチルの1.0mol/lヘキサン溶液3.5mlと、5−エチリデン−2−ノルボルネン2mlとを入れ、20℃にてエチレン(供給量:5.0l/min)/プロピレン(供給量:4.5l/min)/水素(供給量:1.5l/min)混合ガスを連続的に供給した。5分後に、2lセパラブルフラスコ内にVOCl3の0.32mol/lヘキサン溶液3.66mlを加えた。更に5分後に、Al2(C253Cl3の0.41mol/lヘキサン溶液15.4mlを添加し、単量体の付加重合処理を開始した。25℃で10分間の条件で重合処理を行った後、反応系にエチルリン酸(日本化学工業社製、モノエステルとジエステルのモル比=1:1)4.3mlを加えて重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。
【0092】
得られた重合溶液を遠沈管に分取し、25℃、2500rpm、10分間の遠心分離を行った。遠心分離後に得られた上澄み溶液と沈降物とを分離し、得られた上澄み溶液を500mlの水で洗浄した。洗浄後、水蒸気蒸留にてヘキサンを留去し、次いで真空乾燥することにより、白色の共重合体24.9gを得た。得られた共重合体の残留金属元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析法によって分析したところ、バナジウムが1ppm、アルミニウムが6ppmであった。なお、バナジウムとアルミニウムを含めた残留金属元素の合計濃度は、7ppmであった。
【0093】
(実施例2)
エチルリン酸を、イソプロピルリン酸5.7mlとしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、白色の共重合体24.0gを得た。得られた共重合体の残留金属元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析法によって分析したところ、バナジウムが10ppm、アルミニウムが9ppmであった。なお、バナジウムとアルミニウムを含めた残留金属元素の合計濃度は、19ppmであった。
【0094】
(合成例2)
十分に窒素置換した1000ml三口フラスコ内に、20質量%のトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液700mlを入れ、0℃にて4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸88.7g(0.41mol)を30分間かけて加えた。その後、室温にて1時間撹拌し、ヘキサンにて1000mlになるように調整して、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸のマスキング反応溶液を得た。
【0095】
(実施例3)
窒素置換した2lセパラブルフラスコ内に、溶媒としてヘキサン1000mlと、0.41mol/lの4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸のマスキング反応溶液の8.5mlと、5−エチリデン−2−ノルボルネン2mlとを入れ、20℃にてエチレン(供給量:5.0l/min)/プロピレン(供給量:4.5l/min)/水素(供給量:1.5l/min)混合ガスを連続的に供給した。5分後に、2lセパラブルフラスコ内にAl2(C253Cl3の0.41mol/lヘキサン溶液5.1mlを加えた。更に5分後にVOCl3の0.32mol/lヘキサン溶液0.84ml添加し、単量体の付加重合処理を開始した。25℃で10分間の条件で重合処理を行った後、エチルリン酸3.8mlを加えて重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。この後、実施例1と同様な処理を行い、白色の共重合体30.5gを得た。得られた共重合体の残留金属元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析法によって分析したところ、バナジウムが2ppm、アルミニウムが1ppmであった。なお、バナジウムとアルミニウムを含めた残留金属元素の合計濃度は、3ppmであった。
【0096】
(比較例1)
エチルリン酸を、2−エチルヘキシルリン酸10.9mlとしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、白色の共重合体24.0gを得た。なお、重合溶液は、遠心分離を行っても上澄み溶液と沈降物とには分離しなかった。得られた共重合体の残留金属元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析法によって分析したところ、バナジウムが560ppm、アルミニウムが4550ppmであった。なお、バナジウムとアルミニウムを含めた残留金属元素の合計濃度は、5110ppmであった。
【0097】
エチルリン酸をアセチルアセトン4.4mlにしたこと、及び、10質量%の硫酸水溶液41mlを上澄み溶液を洗浄する水500mlに加えたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、白色の共重合体25.6gを得た。得られた共重合体の残留金属元素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析法によって分析したところ、バナジウムが2ppm、アルミニウムが270ppmであった。なお、バナジウムとアルミニウムを含めた残留金属元素の合計濃度は、272ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の重合体は、自動車部品、機械部品、電子部品、土木建材等の材料となるエラストマーを得るための材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素を構成要素として含むマスキング剤により官能基がマスキングされた重合体を含有する重合体溶液に、
下記一般式(1)で表される構造部分を一分子中に少なくとも一つ有する、20℃におけるn−ヘキサンに対する溶解度が10質量%以下のリン化合物を添加して脱マスキングさせることにより、前記重合体を生成させる脱マスキング工程と、
生成した前記重合体と前記金属元素に由来する成分とを分離する分離工程と、を含む重合体の回収方法。
【化1】

(前記一般式(1)中、A及びBは、それぞれ独立して、H、O、C、P、N、及びハロゲンからなる群より選択される少なくとも一の元素を含んで構成される基である。また、AとBは、互いに結合して環構造を形成していてもよい)
【請求項2】
前記官能基が、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基が結合した炭化水素基、カルボキシル基、及びカルボキシル基が結合した炭化水素基からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の重合体の回収方法。
【請求項3】
前記官能基がマスキングされた重合体が、
少なくとも下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物を、前記マスキング剤の存在下に重合反応させる反応工程により生成したものである請求項1又は2に記載の重合体の回収方法。
【化2】

(前記一般式(2)中、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又は下記一般式(4)で表される官能基である。なお、X1、X2、及びX3のうち少なくとも一つは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又は下記一般式(4)で表される官能基である。R1は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、mは0〜2の整数、nは0〜5の整数を示す)
【化3】

(前記一般式(3)中、X4は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又は下記一般式(4)で表される官能基を示す。R2は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、pは0〜6の整数を示す)
【化4】

(前記一般式(4)中、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立した、又は相互に連結して環を形成した有機基を示す)
【請求項4】
前記反応工程が、
前記一般式(2)及び/又は前記一般式(3)で表される官能基含有オレフィン化合物と、エチレンと、炭素数が3〜12のα−オレフィンと、必要な場合非共役ポリエンと、を共重合反応させることを含む工程である請求項3に記載の重合体の回収方法。
【請求項5】
前記リン化合物が、酸性リン酸エステルである請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体の回収方法。
【請求項6】
前記酸性リン酸エステルが、エチルリン酸、イソプロピルリン酸、メチルリン酸、ブチルリン酸、及びブトキシエチルリン酸からなる群より選択される少なくとも一種である請求項5に記載の重合体の回収方法。
【請求項7】
前記マスキング剤が、有機アルミニウム化合物及び/又はバナジウム化合物からなるものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の重合体の回収方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の重合体の回収方法により回収される重合体。
【請求項9】
マスキング剤由来の残留金属元素の合計濃度が、50ppm以下である請求項8に記載の重合体。

【公開番号】特開2006−273993(P2006−273993A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94263(P2005−94263)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】