説明

重合性組成物、その硬化体の製造法および光学物品

光学材料として良好な物性の硬化体を与える下記式


(n=1〜5)で示されるようなアリルエステル化合物を含む重合性組成物であって、光学歪みが少ない成形体を与える重合性組成物を提供する。この重合性組成物は、(I)上記式で示される特定のラジカル重合性化合物を含有するラジカル重合性化合物成分100重量部、(II)少なくとも1種の、パーオキシジカーボネート系重合開始剤0.1〜2重量部および(III)少なくとも1種の、10時間半減期分解温度が60℃以上である重合開始剤0.01〜10重量部を含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、重合性組成物、その硬化体の製造法および眼鏡レンズ等の光学材料成形体となる前記硬化体に関する。
【背景技術】
耐衝撃性の優れた眼鏡レンズ用重合性組成物として、末端にラジカル重合性基を有し、内部に多価カルボン酸と多価アルコールから誘導された下記構造:

(式中、A’はジカルボン酸から誘導された炭素数が1〜20の2価の有機残基であり、B’はジオールから誘導された2価の有機残基でありそしてn’は1〜20の整数である。)
を有するアリルエステル系重合性化合物を含有するものが知られている。中でもその分子骨格中に芳香族環を有するもの、特に臭素原子等のハロゲン原子が置換した芳香族環を有するアリルエステル系重合性化合物を含有するものは、硬化体の屈折率を高く調節できるという特徴を有している(特開平7−33831号公報参照)。
このようなアリルエステル系重合性化合物を含む重合性組成物を熱重合により硬化させて眼鏡レンズのような光学物品を製造する場合には、一般に、光学特性及び機械特性の良好な成形体を得るために重合開始剤としてジイソブチルパーオキシカーボネート(以下、IPPと略記することもある)を用いて最高重合温度(重合は一般に昇温しながら行われるが、そのときの最も高くなるときの温度を意味する)を100℃程度の比較的低温とし、該最高重合温度まで20〜48時間という長時間をかけて重合硬化させることが行われている。また、IPPが有する取り扱い難さの問題を解決するために、IPPに代えて10時間半減期分解温度が75℃以下の脂肪族有機過酸化物と10時間半減期分解温度が80〜100℃の脂肪族有機過酸化物を併用する技術が知られている(特開平8−127608号公報)。
そして、この特開平8−127608号公報には、例えば下記構造

(式中、nは1〜20の数である)、
を有するアリルエステル系重合性化合物100重量部、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(10時間半減期分解温度65℃)3重量部および1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−シクロヘキサン(10時間半減期分解温度87℃)1重量部からなる重合性組成物を、24時間かけて70〜120℃まで昇温して重合して得た2mm厚のレンズは硬度及び屈折率が高くしかも着色が少ないことが記載されている。
【発明が解決しようとする課題】
上記したように前記式で示されるアリルエステル系重合性化合物のうち、分子骨格中に芳香族環を有するもの(以下、「高耐衝撃性・高屈折率用アリルエステル系重合性化合物」ともいう。)は、硬化体の耐衝撃性を改良するばかりでなく高屈折率化に有効であるため、矯正用の度数の高い眼鏡レンズの軽量化及びレンズ厚の薄化に対する要求に応える可能性を有する原料であるといえる。
しかしながら、眼鏡レンズの分野においては高屈折率材料を用いても矯正用の度数の関係上、レンズの厚さを例えば1cm程度と厚くしなければならないことがしばしばあるので、上記アリルエステル系重合性化合物を含む重合性組成物を用いて厚い成形体を製造する場合には、上記のような重合条件を採用しても光学歪み、その中でも特に「脈り」と呼ばれる現象の発生を満足の行くレベルに抑えることができないことが判明した。なお、「脈り」とは光学歪の一種で、重合体中に部分的に屈折率の異なる部分ができてしまい、それが目視によって筋状(所謂ミミズが這った跡のような模様に見えることがある)に観測される現象である。
そこで本発明の目的は、第1に、上記アリルエステル系重合性化合物を含む重合性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、第2に、厚い成形体であっても「脈り」の如き光学歪みが少ない成形体を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は以下の詳細な説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明者は、上記の問題点を解決するために鋭意研究を行ったところ、上記「脈り」発生の問題が分子量の異なる複数の高耐衝撃性・高屈折率用アリルエステル系重合性化合物を含む重合性組成物に特有の問題であること、更に「脈り」発生の問題を有するこのような重合性組成物であっても、これを重合・硬化させる際の重合開始剤として10時間半減期温度が40〜50℃であるパーオオキシカーボネート系重合開始剤と10時間半減期分解温度が60℃以上である高温分解型開始剤を特定の割合で併用した場合には、成形体の厚さを厚くしても光学歪(脈り)を生じないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、第一の本発明は、
(I)下記式(1)

ここで、R及びRは、それぞれ独立に、ラジカル重合性基を有する有機基であり、Aは芳香環を有するジカルボン酸から2つのカルボキシル基を除去して得られる二価の有機残基であり、Bは芳香環を有するジオールから2つのヒドロキシル基を除去して得られる二価の有機残基でありそしてnは1〜20の整数である、
で示されるラジカル重合性化合物の2種以上を含有してなるラジカル重合性化合物成分100重量部、
(II)少なくとも1種の、10時間半減期分解温度が40〜50℃であるパーオキシジカーボネート系重合開始剤成分 0.1〜2重量部および
(III)少なくとも1種の、10時間半減期分解温度が60℃以上である重合開始剤成分 0.01〜10重量部
を含有してなることを特徴とする重合性組成物である。
また、第二の本発明は、上記本発明の重合性組成物を100〜130℃に加熱して重合および硬化させることを特徴とする硬化体の製造方法である。
さらに第三の本発明は、上記本発明の重合性組成物を硬化させて得られた硬化体からなることを特徴とする光学物品である。
上記本発明の重合性組成物は、前記式(1)で示されるラジカル重合性化合物(高耐衝撃性・高屈折率用アリルエステル系重合性化合物)を使用しているので、硬化体の耐衝撃性が良好で、高い屈折率に調節することが可能であるばかりでなく、硬化体の光学歪が小さいという特徴を有する。
本発明の組成物においてこのような優れた効果が得られるのは、次のような理由によるものと考えられるが、本発明はこのような推測によって何ら制限されるものではない。すなわち、IPPのような低温型の重合開始剤のみを用いて重合を行った場合には、重合が比較的低温でゆっくりと起こるため、例えば高温型重合開始剤(ここでは、10時間半減期分解温度が60℃以上である重合開始剤を意味する。)のみを使用して急激な重合を行った際に見られるような局所的な応力発生、更にはそれによってもたらされる異方性に起因する光学歪みである複屈折の発生は防止できる。しかしながら、前記式(1)で示されるラジカル重合性化合物の混合物を使用した場合には、一般にこれらラジカル重合性化合物は低分子量モノマーに比べて分子量が大きいため、その分子量の違いに起因して各成分の重合性が異なってしまうために重合中にポリマーの微視的な相分離が起こり、「脈り」が発生してしまうと考えられる。これに対し、低温型重合開始剤と高温型重合開始剤を特定の割合で併用した本発明の組成物においては、重合速度を上記のような相分離が起こらない、或いは一時的に相分離が起こったとしても重合中に解消できるような適度な速さに制御できるため、光学歪み(複屈折および脈り)が発生し難くなっているものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の組成物においてラジカル重合性化合物成分(I)は、前記式(1)で示されるラジカル重合性化合物を2種以上含有する。このような式(1)で示されるラジカル重合性化合物の混合物を含有することにより、本発明の組成物を重合硬化させて得られる硬化体を耐衝撃性が良好で、その種類によっては屈折率の高いものとすることができる。ラジカル重合性化合物を3種以上使用することは、得られる硬化体の耐衝撃性を一層向上させることができるために本発明において好ましい。
本発明で使用されるラジカル重合性化合物は前記式(1)で示されるものであれば特に限定されない。なお、前記式(1)においてR及びRは、それぞれ独立に、ラジカル重合性基を有する有機基である。ラジカル重合性基としては、例えばアリル基、メタリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及びこれらの基を有する基等が挙げられる。得られる硬化体の光学特性の観点からR及びRは共にアリル基であるのが好適である。
また、式(1)において、Aは、芳香環を有するジカルボン酸から2つのカルボキシル基を除去して得られる二価の有機残基である。かかる有機基の炭素数は1〜20が好ましい。具体的には、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香環を有するジカルボン酸から誘導される基を挙げることができる。なお、これらの有機残基は、核ハロゲン置換基を有していてもよい。
式(1)におけるBは、芳香環を有するジオールから2つのヒドロキシル基を除去して得られる二価の有機残基である。かかる有機基の炭素数としては2〜30が挙げられる。具体的には、ビスフェノール−Aのエチレンオキサイド付加体、ビスフェノール−Aのプロピレンオキサイド付加体、ジブロモハイドロキノン、テトラブロモビスフェノール−Aのエチレンオキサイド付加体、ビスフェノール−Aのプロピレンオキサイド付加体等から誘導される二価の基が挙げられる。これらのうち、ビスフェノール−Aのエチレンオキサイド付加体等の芳香環を有するジオールから誘導される二価の基、特に、テトラブロモビスフェノール−Aのエチレンオキサイド付加体のように核ハロゲン置換基を有する基が硬化体の屈折率を高くすることができるため好適である。
さらに、前記式(1)において、nは1〜20の整数であり、好適には1〜10、特に1〜5が好ましい。
前記式(1)で示されるラジカル重合性化合物の中でも、下記式

ここで、Rは水素原子又はメチル基でありそしてXはハロゲン原子であるで示される化合物、特に下記式

で示される化合物が好適である。
本発明の組成物において、ラジカル重合性化合物成分(I)中に含まれる、2種以上の互いに異なるラジカル重合性化合物とは、式(1)中のA、B及びnの少なくとも一つが異なる化合物であることを意味する。入手の容易さの観点から互いに同一のA及びBを有し、互いにnのみが異なる2種以上の化合物であるのが好適である。即ち、2種以上のラジカル重合性化合物は、式(1)におけるnのみが互いに異なる2種以上のラジカル重合性化合物からなるのが好適である。さらに効果の観点からは、nが1〜10、特にnが1〜5の範囲にある2種以上のラジカル重合性化合物からなるのがさらに好適である。
このような2種以上の化合物の混合比は特に限定されないが、主成分(最も含有量の多い成分)が30〜95重量%、特に60〜95重量%であり、少なくとも1種の残りの成分が5〜70重量%、特に5〜40重量%であるのが好適である。最も含有量の多い成分が例えば下限値30重量%の場合は、残りの成分は3種以上からなり、これらの3種以上の各成分は30重量%未満であり、それらの合計が70重量%となる。また、最も含有量の多い成分が例えば45重量%の場合は、残りの成分は2種類であることができ、それぞれ45重量%未満で合計が55重量%となる。
本発明の重合性組成物においては、ラジカル重合性化合物成分(I)中に前記式(1)で示されるラジカル重合性化合物以外の他のラジカル重合性単量体(以下、任意モノマーともいう)が含まれていてもよい。本発明の重合性組成物を光学レンズ用途に用いる場合には、成分(I)中において、前記式(1)で示されるラジカル重合性化合物は好ましくは5〜100重量%、より好ましくは30〜80重量%であり、任意モノマーは好ましくは0〜95重量%、より好ましくは20〜70重量%を占める。
本発明の重合性組成物においてラジカル重合性化合物成分(I)が任意モノマーを含有する場合、該任意モノマーは、ラジカル重合性を示す化合物であれば特に限定されない。本発明において好適に使用される任意モノマーを例示すれば以下のようなものが挙げられる。すなわち、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルオルソフタレート、安息香酸アリル、シクロヘキサンカルボン酸アリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、ジベンジルマレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ジエチレングルコールビスアリルカーボネート、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ペンタブロムアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、スチレン、クロルスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、イソプロペニルナフタレン、ビスフェノールAジメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
このうち光学レンズ用途には、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルオルソフタレート、安息香酸アリル、ジベンジルマレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ジエチレングルコールビスアリルカーボネート、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ペンタブロムアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、N−シクロヘキシルマレイミド等が好ましいものとして例示される。この中でも、ジアリルテレフタレート、、ジアリルイソフタレート、ジアリルオルソフタレート、安息香酸アリル、ジベンジルマレート、ジエチレングルコールビスアリルカーボネート、N−シクロヘキシルマレイミド等が特に好ましく用いられる。これら任意モノマーは単独、又は異なる種類のものを混合して使用してもよい。
また、上記任意モノマーの中で、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテートの如き3官能性モノマーは、重合速度を大きくできるため、上記課題として挙げた「脈り」を更に抑制できるので好適に用いることができる。3官能性モノマーの配合比は、添加しすぎると機械的強度を失うため、ラジカル重合性化合物成分(I)の総量に占める割合で0.2〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%の範囲とするのが好ましい。この割合で「脈り」防止効果を十分に発現させることができる。
本発明の重合性組成物における成分(II)は、10時間半減期分解温度が40〜50℃のパーオキシジカーボネート系重合開始剤である。重合開始剤として、成分(II)を用いず、後述する成分(III)のみを使用した場合には、重合速度が大きくなりすぎて光学歪み(複屈折および脈りの両方)の発生を防止することができない。
成分(II)としては10時間半減期分解温度が40〜50℃の公知のパーオキシジカーボネート系重合開始剤が何ら制限なく使用できる。本発明で好適に使用できるパーオキシジカーボネート系重合開始剤を具体的に例示すれば、下記の如き化合物を挙げることができる。()内は10時間半減期分解温度を示す。
ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(40.3℃)、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート(40.5℃)、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(40.8℃)、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート(43.1℃)、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(43.6℃)、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート(45.8℃)、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート(40.5℃)、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート(46.7℃)が挙げられる。これらパーオキシジカーボネート系重合開始剤は単独で使用してもよいし、異なる種類のものを混合して使用してもよい。
本発明の組成物において、パーオキシジカーボネート系重合開始剤(II)の含有量は、ラジカル重合性化合物成分(I)100重量部に対して0.1〜2重量部である必要がある。パーオキシジカーボネート系重合開始剤の含有量が上記範囲から外れる場合には、本発明の効果を得ることができない。光学歪み発生防止能の高さの観点から、上記含有量は0.4〜1.7重量部であるのが好適である。
本発明の重合性組成物では、光学物性及び機械物性の良好な硬化体を得るために、重合開始剤として前記成分(II)の他に成分(III)として10時間半減期分解温度が60℃以上であるラジカル重合開始剤を併用する必要がある。重合開始剤として前記成分(II)と当該成分(III)を特定の割合で併用することにより、重合が適度な速度で進行するようになるためと思われるが、重合時に光学歪みが発生するのを防止することが可能となる。
なお、脈りの発生を防止する方法としては、成分(III)を使用せずに、成分(II)のみを使用し、その使用量を減らすことにより重合過程において前記相分離を解消させる(重合時には昇温するので、温度が高くなったときにある程度の流動性を持たせることにより相分離を解消させる)という方法も考えられるが、このような方法を採用した場合には脈りの発生は低減できるものの、硬化体の機械的強度(硬度)が低下してしまう。
本発明の組成物における成分(III)としては、10時間半減期分解温度が60℃以上であるラジカル重合開始剤であれば公知の化合物が特に限定されず使用できる。効果の観点から成分(III)の10時間半減期分解温度は60〜110℃、特に60〜95℃であるのが好適である。
本発明において成分(III)として好適に使用できるものを具体的に例示すれば、下記の如き開始剤を例示することができる。()内は、10時間半減期分解温度を示す。
ベンゾイルパーオキサイド(73.6℃)、P−クロルベンゾイルパーオキサイド(75℃)、ラウロイルパーオキサイド(61℃)等のジアシルパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイド(105℃)、メチルイソブチルケトンパーオキサイド(88℃)、シクロヘキサノンパーオキサイド(90℃)等のケトンパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(72℃)、t−ブチルパーオキシイソブチレート(78℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(65.3℃)、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(70℃)、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート(83℃)、t−ブチルパーオキシ−3.5.5−トリメチルヘキサネート(100℃)、t−ブチルパーオキシ−アセテート(103℃)、t−ブチルパーオキシ−ベンゾエート(105℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(95℃)等のパーオキシエステル類;および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(90℃)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(90.7℃)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシキロヘキサン(87℃)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン(83℃)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(87.1℃)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロデカン(95℃)、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン(103℃)、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレラート(105℃)等のパーオキシケタール類が挙げられる。これらの中でも効果の観点から、パーオキシケタール類、さらにはパーオキシエステル類を使用するのが好適である。なお、これら重合開始剤は1種類のみを単独で使用することもできるし、異なる種類のものを複数種混合して使用することもできる。
脈り発生防止効果の観点から、成分(III)は、10時間半減期分解温度が60℃以上80℃未満である重合開始剤60〜95重量%及び10時間半減期分解温度が80〜100℃である重合開始剤5〜40重量%からなるのが好適である。
本発明の組成物における成分(III)の含有量は、ラジカル重合性化合物成分(I)100重量部に対して0.01〜10重量部である必要がある。成分(III)の含有量が上記範囲から外れる場合には、本発明の効果を得ることができない。光学歪み発生防止能の高さの観点から、上記含有量は0.4〜4.0重量部であるのが好適である。
本発明の組成物には、上記した(I)〜(III)の成分以外に、例えば紫外線吸収剤、顔料又は染料、酸化防止剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤等の各種添加剤を配合することができる。紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、ベンゾトリアゾール系のものが使用できる。特に紫外線吸収剤としてシアノアクリレート系紫外線吸収剤およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を配合したものは、得られる成形体が耐候性に優れ、黄変が極めて少ないため、好適である。
また、顔料としては、例えば群青、コバルトブルー、紺青などの無機顔料;アントラキノン系、アゾ系、フタロシアニン系、インジゴ系などの有機染料、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、ジオキサジン系などの有機顔料が使用できる。また、蛍光染料などの着色剤を添加することにより樹脂の外観を改良することも可能である。
本発明の組成物を重合硬化させて成形体を得る方法は特に限定されないが、例えば得られる樹脂を光学レンズ用途に用いるときには注型重合を行うのが好適である。このときの重合条件は特に限定されないが、得られる成形体の光学特性の観点から、本発明の組成物では高温型重合開始剤{成分(III)}を使用するため、最高重合温度は低温型のパーオキシジカーボネート系重合開始剤{成分(II)}のみを使用する場合と比べて5〜30℃、特に10〜20℃高くするのが好適である。即ち、本発明の組成物を重合させて本発明の光学物品を得る場合の重合条件は、最高重合温度を100〜130℃、より好ましくは100〜120℃とし、室温付近から10〜48時間、より好ましくは24〜36時間かけて最高重合温度に達するように加熱しながら重合を行い、その後、型からはずして最高重合温度より5〜15℃高い温度で熱処理(アフターキュアー)するのが好適である。
このようにして製造される本発明の光学物品は、耐衝撃性に優れ、用いる成分(I)の種類によっては屈折率が高く、さらに光学歪みが小さいために厚さの厚い成形体としても光学特性が良好であるという特徴を有する。このため、矯正用の度数の大きな眼鏡レンズとして特に好適に使用できる。
【実施例】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において使用した化合物を以下に示す。
〔前記式(1)で示されるラジカル重合性化合物〕
A:下記構造の化合物の混合物

n=1を主成分(90重量%)とするn=1〜5の混合物。
B:下記構造の化合物の混合物

n=1を主成分(80重量%)とするn=1〜7の混合物。
C:下記構造の化合物の混合物

n=1を主成分(90重量%)とするn=1〜5の混合物。
〔任意モノマー〕
D:下記構造のもの

E:下記構造のもの

F:下記構造のもの

G:下記構造のもの

H:下記構造のもの

I:下記構造のもの

〔成分(II)の重合開始剤〕
a:ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(10時間半減期温度40.5℃、構造式を以下に示す)

b:ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(10時間半減期温度40.8℃、構造式を以下に示す)

c:ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート(10時間半減期温度40.5℃、構造式を以下に示す)

d:ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート(10時間半減期温度46.7℃、構造式を以下に示す)

〔成分(III)の重合開始剤〕
e:1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(10時間半減期温度65.3℃、構造式を以下に示す)

f:1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(10時間半減期温度90℃、構造式を以下に示す)

g:t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(10時間半減期温度95℃、構造式を以下に示す)

h:1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(10時間半減期温度87.1℃、構造式を以下に示す)

【実施例1〜14】
表1に示す各成分を表1に示す重量割合でビーカーに入れ、スターラーで攪拌しながら35℃で1時間混合して溶液状の本発明の組成物を調製した。その後、得られた各組成物をデシケータ内で真空脱気した後、シールされた2枚のガラス板の間にそれぞれ注入し、注型重合法により40℃から110℃まで24時間かけて昇温して重合を行った。その後、ガラス板を離型し、120℃で60分アフターキュアーを行い、約10mm厚の成形体(レンズ)及び2mm厚の成形体を得た。得られた各レンズについて評価を以下のようにして行った。得られた結果を表2に示す。
(1)光学歪み(脈り)評価:超高圧水銀ランプを使用し目視により約10mm厚の成形体の光学歪み(脈り)を評価した。光学歪み(脈り)が全く認められないものを◎、殆ど認められないものを○、若干認められるものを△、光学歪みがかなり認められるもの(不良)を×として評価した。
(2)硬度評価:2mm厚の成形体を(株)明石製作所製アカシロックウエル硬度計(Lスケール)を使用し測定した。
(3)屈折率測定:2mm厚の成形体を(株)アタゴ製アッベ精密屈折率計を使用し測定した。
(4)可視光線透過率:2mm厚の成形体を(株)日立製作所製分光光度計を使用し測定した。
(5)黄色度(イエローインデックス(YI)):2mm厚の成形体を、スガ試験機株式会社製SMカラーコンピューター(SM−T)を用いてレンズの黄色度(YI)を測定した。YIの値が小さければ、黄色度が少なく無色透明であり、光学用途には好ましい。
比較例1、2および3
重合性組成物の組成を表1に示すように変え、さらに重合条件を重合最高温度およびそれに達するまでの時間をそれぞれ90℃及び20時間とし、アフターキュアー温度を120℃としたこと以外は実施例と同様にして10mm厚のレンズを得た。得られたレンズの評価結果を表2に示した。なお、上記重合条件は、比較例の系において良好な光学物性のレンズが得られるように最適化した重合条件である。
表2における実施例1〜14と比較例1、2、3の結果の対比から明らかなように、成分(II)又は(III)の重合開始剤のいずれか一方のみを用いた比較例において10mm厚のレンズを成形したときにはその光学歪み(脈り)が問題となるのに対し、本発明の組成物を用いて得たレンズにおいては光学歪み(脈り)が問題とならないレベルとなっている。しかも、硬度、屈折率、可視光線透過率および黄色度(YI)といったレンズ物性は(II)の重合開始剤のみを使用した比較例1と比べて同等な値を示している。又、(III)の重合開始剤のみを使用した比較例2では、屈折率、硬度は申し分ないが、黄色度が著しく高いため透明性が必要とされる光学材料として適さない。又、比較例3では、眼鏡材料として通常必要とされる硬度80以上を満たしておらず、機械的強度が不足しているため、上記用途には適さない。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)下記式(1)

ここで、R及びRは、それぞれ独立に、ラジカル重合性基を有する有機基であり、Aは芳香環を有するジカルボン酸から2つのカルボキシル基を除去して得られる二価の有機残基であり、Bは芳香環を有するジオールから2つのヒドロキシル基を除去して得られる二価の有機残基でありそしてnは1〜20の整数であるで示されるラジカル重合性化合物の2種以上を含有してなるラジカル重合性化合物成分100重量部、
(II)少なくとも1種の、10時間半減期分解温度が40〜50℃であるパーオキシジカーボネート重合開始剤成分 0.1〜2重量部、および
(III)少なくとも1種の、10時間半減期分解温度が60℃以上である重合開始剤成分 0.01〜10重量部
を含有してなることを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
ラジカル重合性化合物が下記式

ここで、Rは水素原子又はメチル基であり、Xはハロゲン原子でありそしてnは1〜20の整数である
で示される請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
ラジカル重合性単量体が下記式

ここで、nは1〜20の整数である
で示される請求項1記載の重合性組成物。
【請求項4】
成分(I)が、式(1)においてnのみが異なる2種以上のラジカル重合性化合物の混合物を含有してなる請求項1記載の重合性組成物。
【請求項5】
成分(I)が、最も含有量の多いラジカル重合性化合物が30〜95重量%であり、少なくとも1種の他のラジカル重合性化合物が5〜70重量%の混合物である請求項1記載の重合性組成物。
【請求項6】
成分(III)が、10時間半減期分解温度が60〜110℃の重合開始剤である請求項1記載の重合性組成物。
【請求項7】
成分(III)が、10時間半減期分解温度が60℃以上80℃未満である重合開始剤60〜95重量%と10時間半減期分解温度が80〜100℃である重合開始剤5〜40重量%からなる請求項1記載の重合性組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の重合性組成物を100〜130℃に加熱して重合および硬化させることを特徴とする硬化体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の重合性組成物を硬化させて得られた硬化体からなることを特徴とする光学物品。

【国際公開番号】WO2004/039853
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【発行日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548054(P2004−548054)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013787
【国際出願日】平成15年10月28日(2003.10.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】