説明

金型の製造方法及びレンズシートの製造方法

【課題】レンズシートのレンズとなる金型の凸部を形成する際に、1種類のめっき液でも所望のレンズ形状を得ることを可能とする金型の製造方法及びレンズシートの製造方法を提供する。
【解決手段】板状基材1上にめっき導電膜2を形成し、めっき導電膜2上に所定の幅の溝状、円状又は多角形状の開口部4を有するレジスト5を形成し、ラウリル硫酸ナトリウム及びホルムアルデヒドの少なくともいずれかを含む第1添加剤と、芳香族スルフォン酸塩を含む第2添加剤と、芳香族イミドを含む第3添加剤Cとが各々添加されためっき液を用い、かつ、めっき導電膜2に所定電流を供給することで、レジスト5上の開口部4に対応する位置に、略半円柱状または略半球状のめっき構造物6を形成し、めっき構造物6が形成されているレジスト5上に金属めっきを行って、めっき構造物6の形状が反転転写された略半円柱形状又は略半球状の凹部8を有する金型9を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の製造方法及びレンズシートの製造方法に係り、特にレンチキュラーレンズ等のレンズシートを製造するための金型の製造方法及びレンズシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、裸眼式の3次元ディスプレイ等に、シリンドリカルレンズが複数配列されたレンズシート、所謂シート状のレンチキュラーレンズが用いられている。
このようなレンズシートは、ディスプレイの高解像度化に応じてさらなる微細化が要求される。
このようなレンズシートの製造方法、及びレンズシートを成形するための金型の製造方法の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−165121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、レンズシートのレンズ部となる金型の凸部をめっき法を用いて形成する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示されている形成方法では2種類のめっき液を用いて2層構造の凸部を形成するため、工程が煩雑になり、生産性を悪化させる要因となる。
【0005】
そこで、本発明は、レンズシートのレンズ部となる金型の凸部を形成する際に、1種類のめっき液でも所望のレンズ形状を得ることを可能とする、金型の製造方法及びレンズシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は次の金型の製造方法及びレンズシートの製造方法を提供する。
1)板状の基材(1)上にめっき用導電膜(2)を形成するめっき用導電膜形成ステップと、前記めっき用導電膜(2)上に、所定の幅を有する溝状、円状または多角形状の開口部(4)を備えたレジストパターン(5)を形成するレジストパターン形成ステップと、ラウリル硫酸ナトリウム及びホルムアルデヒドの少なくともいずれかを含む第1の添加剤と、芳香族スルフォン酸塩を含む第2の添加剤と、芳香族イミドを含む第3の添加剤Cとがそれぞれ添加されためっき液を用い、かつ、前記めっき用導電膜(2)に所定の電流を供給することにより、前記レジストパターン(5)上の前記開口部(4)に対応する位置に、略半円柱状または略半球状のめっき構造物(6)を形成するめっきステップと、前記めっき構造物(6)が形成されている前記レジストパターン(5)上に金属めっきを行って、前記めっき構造物(6)の形状が反転転写された略半円柱形状または略半球状の凹部(8)を有する金型(9)を形成する金型形成ステップと、を含むことを特徴とする金型の製造方法。
2)板状の基材(1)上にめっき用導電膜(2)を形成するめっき用導電膜形成ステップと、前記めっき用導電膜(2)上に、所定の幅を有する溝状、円状または多角形状の開口部(4)を備えたレジストパターン(5)を形成するレジストパターン形成ステップと、ラウリル硫酸ナトリウム及びホルムアルデヒドの少なくともいずれかを含む第1の添加剤と、芳香族スルフォン酸塩を含む第2の添加剤と、芳香族イミドを含む第3の添加剤Cとがそれぞれ添加されためっき液を用い、かつ、前記めっき用導電膜(2)に所定の電流を供給することにより、前記レジストパターン(5)上の前記開口部(4)に対応する位置に、略半円柱状または略半球状のめっき構造物(6)を形成するめっきステップと、前記めっき構造物(6)が形成されている前記レジストパターン(5)上に金属めっきを行って、前記めっき構造物(6)の形状が反転転写された略半円柱形状または略半球状の凹部(8)を有する金型(9)を形成する金型形成ステップと、前記金型(9)、又は前記金型(9)から作製したスタンパを用いて、前記凹部(8)の形状が反転転写された略半円柱形状または略半球状のレンズ(11)を有するレンズシート(12)を成形する成形ステップと、を含むことを特徴とするレンズシートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レンズシートのレンズ部となる金型の凸部を形成する際に、1種類のめっき液でも所望のレンズ形状を得ることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る金型の製造方法の一形態を説明するための模式的断面図である。
【図2】本発明に係る金型の製造方法の一形態を説明するための模式的断面図である。
【図3】本発明に係る金型の製造方法の一形態を説明するための模式的断面図である。
【図4】本発明に係る金型の製造方法の一形態を説明するための模式的断面図である。
【図5】本発明に係る金型の製造方法の一形態を説明するための模式的断面図である。
【図6】本発明に係るレンズシートの製造方法の一形態を説明するための模式的断面図である。
【図7】本発明に係るレンズシートの製造方法の一形態を説明するための模式的断面図である。
【図8】電流密度3.3A/dmにて作製した略半円柱形状のめっき構造物をレーザー顕微鏡で測定したときの断面形状を示す図である。
【図9】電流密度5.6A/dmにて作製した略半円柱形状のめっき構造物をレーザー顕微鏡で測定したときの断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態を、図1〜図9を用いて説明する。
【0010】
以下に、本発明の一実施の形態の一例として、シリンドリカルレンズが複数配列されたレンズシート、所謂シート状のレンチキュラーレンズを成形するための、金型の製造方法及びレンズシートの製造方法について説明する。
【0011】
図1に示すように、板状の基材であるガラス盤1上に電気めっき用導電膜2を形成する。
ここでは、電気めっき用導電膜2として、スパッタリング法を用いて厚さが100nmのニッケル(Ni)膜を成膜した。
【0012】
図2に示すように、電気めっき用導電膜2上にフォトレジスト膜3を形成する。
ここでは、スピンコート法を用いて厚さが120nmのフォトレジスト膜3を形成した。
次に、フォトレジスト膜3の所定の領域を感光させた後、感光した領域のフォトレジスト膜3を現像して除去することで、電気めっき用導電膜2が露出した、複数の溝部4がストライプ状に設けられたフォトレジストバターン5が得られる。なお、図2では、複数の溝部4は紙面手前−奥方向に延在している。
ここでは、レーザビームを用いてフォトレジスト膜3の所定の領域を感光させた。また、溝部4の幅を1.3μmとし、ピッチを40μmとした。
【0013】
図3に示すように、電気めっき用導電膜2に外部から所定の電流を供給して電気めっきを行うことにより、略半円柱形状のめっき構造物6が複数の溝部4それぞれに対応してストライプ状に複数形成される。
略半円柱形状のめっき構造物6は、後述するレンズシート12のシリンドリカルレンズ11に対応している。
【0014】
略半円柱形状のめっき構造物6を形成するためのめっき液及びめっき方法については後で詳細に説明する。
【0015】
図4に示すように、略半円柱形状のめっき構造物6の表面に対して、金属薄膜形成及びアッシングを順次行った後に、電気めっきを行って、めっき構造物7を形成する。
ここでは、金属薄膜形成として、ニッケル膜をスパッタリング法を用いて形成した。また、アッシングとして酸素(O)アッシングを行った。また、電気めっきとしてニッケル電鋳を行った。
【0016】
図5に示すように、めっき構造物7を、略半円柱形状のめっき構造物6が形成されているガラス盤1から離型することにより、略半円柱形状のめっき構造物6の形状が反転転写された、略半円柱形状の凹部8がストライプ状に複数形成された金型9が得られる。
【0017】
図6に示すように、上記の金型9を用いて樹脂成形を行って樹脂成形体10を作製する。その後、樹脂成形体10を金型9から離型することにより、図7に示すように、略半円柱形状のシリンドリカルレンズ11がストライプ状に複数形成されたレンズシート12が得られる。シリンドリカルレンズ11がストライプ状に複数形成されたレンズシート12の一形態としてレンチキュラーレンズがある。
【0018】
なお、上述の説明では金型9から直接、レンズシート12を成形したがこれに限定されるものではなく、金型9をマスター原盤としてスタンパを作製し、このスタンパを用いてレンズシート12を成形するようにしてもよい。
【0019】
ここで、略半円柱形状のめっき構造物6を形成するためのめっき液及びめっき方法について説明する。
【0020】
略半円柱形状のめっき構造物6を形成するためのめっき液は、ラウリル硫酸ナトリウム及びホルムアルデヒドの少なくともいずれかを含む添加剤Aと、芳香族スルフォン酸塩を含む添加剤Bと、芳香族イミドを含む添加剤Cとがそれぞれ添加されたスルファミン酸ニッケル浴からなる。添加剤Aは界面活性剤として機能する。添加剤Bは成長を抑えて層状結晶により光沢効果が得られるように光沢剤として機能する。添加剤Cは柱状結晶により微細化される効果が得られるように機能する。
【0021】
上述のめっき液を用いることによって、1種類のめっき液のみで、略半円柱形状のめっき構造物6を一度に複数形成することが可能になる。
ここでは、スルファミン酸ニッケル浴に対する添加剤Aの添加量を3ml/lとし、添加剤Bの添加量を5ml/lとし、添加剤Cの添加量を5ml/lとした。
【0022】
レンズシート12におけるシリンドリカルレンズ11のレンズ形状(半円柱の幅と高さの比率)は、略半円柱形状のめっき構造物6を形成するときの溝部4の幅及びめっき電流密度で制御することができる。また、シリンドリカルレンズ11の大きさ(高さ)は略半円柱形状のめっき構造物6を形成するときの積算電流量によって制御することができる。例えば、溝部4の幅を狭くし、かつ、めっき電流密度を大きくすることによって、レンズ形状に起因する半円柱の幅に対する高さの比率を大きくすることができる。
【0023】
ところで、添加剤Aのみが添加されたスルファミン酸ニッケル浴では、溝部4の幅を狭くすると電気めっき用導電膜2とめっき構造物6との密着性が悪化し、かつ、めっき電流密度を大きくするとめっき構造物6の内部応力が大きくなるので、レンズ形状を安定的に形成することは難しい。
そこで、添加剤Aのみが添加されたスルファミン酸ニッケル浴に上記の添加剤B及びCをさらに添加することによって、溝部4の幅を狭くし、かつ、めっき電流密度を大きくするが可能になりので、レンズ形状を安定的に形成することができる。
【0024】
ここで、積算電流量を例えば13A(アンペア)×H(時間)と固定にし、めっき電流密度を例えば3.3A/dmと5.6A/dmとに変えたときの略半円柱形状のめっき構造物(6)をレーザー顕微鏡で測定したときの断面形状を図8及び図9に示す。図8はめっき電流密度が3.3A/dmの場合、図9はめっき電流密度が5.6A/dmの場合のめっき構造物(6)の断面形状をそれぞれ示す。また、図8及び図9において、横軸はめっき構造物(6)の幅を示し、縦軸はめっき構造物(6)の高さを示す。
【0025】
図8及び図9に示す略半円柱形状のめっき構造物は、幅が40μmと同じであるが、高さが、めっき電流密度3.3A/dmの場合には2.1μmであったのに対し、めっき電流密度5.6A/dmの場合には2.5μmであった。
即ち、積算電流量が同じ(例えば13A・H)であってもめっき電流密度を変えることにより、略半円柱形状のめっき構造物(6)の形状(半円柱の幅と高さの比率)を変えることができる。
【0026】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0027】
例えば、本発明の一実施の形態として、シリンドリカルレンズが複数配列されたレンズシート、所謂シート状のレンチキュラーレンズを成形するための、金型の製造方法及びレンズシートの製造方法を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【0028】
例えば、上述の実施形態では、フォトレジスト膜に溝部をストライプ状に形成したが、この溝部に替えて、フォトレジスト膜に複数の円状または多角形状の開口部を形成するようにしてもよい。
溝部に替えて円状または多角形状の開口部を形成することにより、略半円柱状のシリンドリカルレンズに替えて略半球状のマイクロレンズが複数配置されたレンズシートを得ることができる。
マイクロレンズのレンズ形状(半球の幅と高さの比率)はシリンドリカルレンズのときと同様に、上記開口部の幅及びめっき電流密度で制御することができる。また、マイクロレンズの大きさ(高さ)も同様に積算電流量によって制御することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ガラス盤
2 電気めっき用導電膜(Ni膜)
3 フォトレジスト膜
4 溝部
5 レジストパターン
6,7 めっき構造物
8 凹部
9 金型
10 樹脂成形体
11 レンズ(シリンドリカルレンズ)
12 レンズシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基材上にめっき用導電膜を形成するめっき用導電膜形成ステップと、
前記めっき用導電膜上に、所定の幅を有する溝状、円状または多角形状の開口部を備えたレジストパターンを形成するレジストパターン形成ステップと、
ラウリル硫酸ナトリウム及びホルムアルデヒドの少なくともいずれかを含む第1の添加剤と、芳香族スルフォン酸塩を含む第2の添加剤と、芳香族イミドを含む第3の添加剤Cとがそれぞれ添加されためっき液を用い、かつ、前記めっき用導電膜に所定の電流を供給することにより、前記レジストパターン上の前記開口部に対応する位置に、略半円柱状または略半球状のめっき構造物を形成するめっきステップと、
前記めっき構造物が形成されている前記レジストパターン上に金属めっきを行って、前記めっき構造物の形状が反転転写された略半円柱形状または略半球状の凹部を有する金型を形成する金型形成ステップと、
を含むことを特徴とする金型の製造方法。
【請求項2】
板状の基材上にめっき用導電膜を形成するめっき用導電膜形成ステップと、
前記めっき用導電膜上に、所定の幅を有する溝状、円状または多角形状の開口部を備えたレジストパターンを形成するレジストパターン形成ステップと、
ラウリル硫酸ナトリウム及びホルムアルデヒドの少なくともいずれかを含む第1の添加剤と、芳香族スルフォン酸塩を含む第2の添加剤と、芳香族イミドを含む第3の添加剤Cとがそれぞれ添加されためっき液を用い、かつ、前記めっき用導電膜に所定の電流を供給することにより、前記レジストパターン上の前記開口部に対応する位置に、略半円柱状または略半球状のめっき構造物を形成するめっきステップと、
前記めっき構造物が形成されている前記レジストパターン上に金属めっきを行って、前記めっき構造物の形状が反転転写された略半円柱形状または略半球状の凹部を有する金型を形成する金型形成ステップと、
前記金型、又は前記金型から作製したスタンパを用いて、前記凹部の形状が反転転写された略半円柱形状または略半球状のレンズを有するレンズシートを成形する成形ステップと、
を含むことを特徴とするレンズシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−63558(P2013−63558A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202988(P2011−202988)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(509159894)ビクタークリエイティブメディア株式会社 (2)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】