説明

金属とセラミックスの接合体および電力流通用開閉装置

【課題】
本発明の課題は,金属とセラミックスの接合体のセラミックス側における残留応力の過度な増大を防止し、信頼性の高い接合体を得ることにある。また、信頼性の高い電力流通用開閉装置を提供することにある。
【解決手段】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、金属とセラミックスの接合体の、セラミックス側にろう付を目的として施してあるメタライズ処理の端部が,当該メタライズ処理を施されたセラミックス面の端部より内側へずれていることにある。当該ずれ量は0.2mm以上が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度が要求される金属とセラミックスの接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属とセラミックスとは、素材の物理的・機械的特性が大きく異なることから、これらを接合した接合部には残留応力が発生する。
【0003】
金属とセラミックスの残留応力を低減する技術として、金属側へのスリット加工、特殊な中間層などにより、接合部の面積および金属側の剛性を低減、セラミックス側への残留応力の負荷を減じる手法等が考案されている。中間層以外を設ける手法としては、ろう材が形成したフィレットの曲率等の形状に関する工夫として特開2001−35326(特許文献1)がある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−35326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、フィレットの形成の仕方などの具体的な手法は言及されていない。実際にはフィレットの曲率は、材料の表面状態や接合部位,微妙な雰囲気の変化に起因するロット間のバラツキが大きく、フィレットの形状を制御することは簡単ではない。また、単にフィレット形状を制御しただけでは、必ずしも局所的なセラミックスの残留応力を低減できない。
【0006】
また、フィレット形状を制御するにはろう材の流れの制御が極めて重要である。特に、ろう材による接合の場合、ろう材が予想しえない箇所に付着・蒸着することにより、製品にしばしば不具合が生じることがある。例えば、大電流・大電圧の遮断に用いる真空遮断器などでは、回路と真空容器間の絶縁を保つCuとAl23のろう付部位における、ろう材のべ一パやろう流れの不良が致命的な欠陥に繋がる場合がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、セラミックス側における残留応力の過度な増大を防止することであり、そのためにろう付における金属とセラミックスの接合において、安定したフィレット形状を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、金属とセラミックスの接合体の、セラミックス側にろう付を目的として施してあるメタライズ処理の端部が、当該メタライズ処理を施されたセラミックス面の端部より内側へずれていることにある。当該ずれ量は0.2mm以上が望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ろう付によって接合された金属/セラミックス接合体における残留応力を低減でき、信頼性の高い接合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の接合体の構成,組成を説明する。
【0011】
金属とセラミックスの接合において残留応力が集中する箇所は、金属とセラミックス接合部のエッジ部分であることが多い。従って、ろう材によって形成された、または金属とセラミクス接合部周辺のフィレットは、エッジにおける残留応力の低減にとって極めて有効である。残留応力を低減するため、フィレットは安定して形成されることが望ましい。フィレットの形状は、被接合物およびろう材の材質,被接合物の表面状態,ろう材の量,接合処理における雰囲気およびその温度に複雑に左右される。
【0012】
ろう材の量を増やすことは、安定したフィレットの形成に役立つが、一方で過剰なろう材が流れてくることにより弊害が生じやすい。例えば、ろう材がセラミックス面の端部にまで流れると、セラミックス側に大きな残留応力が生じ割れを誘発する可能性がある。
【0013】
ろう材の量を調整すること以外の、ろう材をセラミックス端部にまで到達させない手法として、メタライズ層の面積を制御することが挙げられる。通常のろう材の場合、メタライズを施した面以上にろう材が濡れることは殆んどない(ろう材がTi,Zr等の活性元素を多量に含む場合はセラミックスにも比較的よく濡れる)。セラミクス部材の全面ではなく、それよりも少し小さい範囲をろう材の占める面とすることにより、つまり、周囲に残されたセラミクス面によりろう材の広がりが抑制され、保持されることとなる。
【0014】
従って、セラミックス面の端部からメタライズ層の端部を0.2mm 以上、好ましくは1mm以上程度空けることによりセラミックス端部の残留応力の増大を防止することができる。
【0015】
また、接合体の形・大きさや使用するろう材の量により、適切なメタライズ層端部の位置は異なる。接合体が大型になるほど、また使用するろう材の量が多くなるほど、セラミックス端部から離すべきメタライズ端部の距離も大きくなるが、少なくとも接合径が
φ200程度の金属/セラミックス接合体までは、端部からそれぞれ0.5mm程度離すことによりろう材またはメタライズ層のセラミックス側に発生する残留応力を押さえ、セラミックス側の割れを抑えることができる。従って、メタライズ処理の端部を、当該メタライズ処理を施しているセラミックスの面の端部から離すべき距離は0.2mm 、好ましくは1mm以上とする。
【0016】
この時に、被接合体である金属とセラミックスの間にフィレットを形成するためには、金属側の接合面積より、少なくともメタライズ処理を施した面の面積が大きくなっている必要がある。接合面積は、接合体の用途や製品の仕様により変化するため限定できないが、金属側の端部とメタライズ処理部の端部の距離で限定することができる。ろう材の量によるが、金属側の端部とメタライズ処理した面の端部が0.2mm 以上、好ましくは0.5
mm以上離れていれば安定したフィレットを形成することが可能である。
【実施例1】
【0017】
図1に本発明の接合体の模式図を示す。セラミックス端部はメタライズ処理部の端部より0.2mm以上離れており、かつ金属側端部から0.2mm以上離れていることが特徴である。このとき、フィレットが形成できるように、メタライズ処理部の端部と金属側端部は、メタライズ処理部の端部の方がセラミックス端部に近い関係でなければいけない。
【0018】
セラミックス側にメタライズ処理を施さずに、活性なTi,Zr入りのろう材を用いて金属とセラミックスを接合する場合、使用するろう材量の調整により、セラミックス端部と使用されたろう材の端部との位置関係は上記と同じく0.2mm 以上離れていることが望ましい。
【0019】
当該接合体は、主として電力流通用開閉器に用いられる構成部品を想定している。従って、回路の開時の引張力と閉時における衝撃に耐える必要がある。従って、その材質はある程度の強度を有する構造材料に限られる。一般に、電力流通用開閉器の金属とセラミックの接合体は、銅とアルミナあるいはステンレス鋼とアルミナになる。但し、使用環境により、金属側およびセラミックス側により強度の高い材料が用いられる場合がある。
【0020】
金属の材質として、鋼とその合金,鉄とその合金,アルミニウムとその合金,ニッケルとその合金,コバルトとその合金が挙げられる。その他、これらの強化元素としてZn,Sn,SiやCが適宜添加される。従って、金属部材にはCu,Fe,Al,Ni,Cr,Co,Zn,Sn,Si,Cの元素が適宜組み合わせて使用される。
【0021】
他方、セラミックスの材質としては、アルミナ,炭化珪素,窒化珪素,ジルコニア、あるいはこれらの複合材料が挙げられる。さらに、適宜他の元素を加えることが可能である。従って、セラミクスは、構成元素Al,Si,Zr,O,C,N、あるいは焼結助剤や添加元素のY,Ca,Ti,Mgを少なくとも一つを含む材質が考えられる。
【0022】
ろう材の材質としては、上記のTi,Zr入りのろう材のほか、Ag,Cu,Mn,
Ni等を含んでいるものもよい。
【0023】
本発明の金属/セラミックス接合体における残留応力低減の原理は、接合界面近傍の機械的な形状効果によるものが主であるので、その材質の組み合わせを変化させてもセラミックス側の残留応力を低減する効果がある。従って、銅とアルミナあるいはステンレスとアルミナ以外の材質の組み合わせでも、強度あるいは耐衝撃性を要求される金属とセラミックスの接合体において有効である。
【実施例2】
【0024】
図2の構造を有する接合体を、表1に示すCu/Al23接合体条件で作製した。
【0025】
【表1】

【0026】
Cu側には引張試験機に取り付けできるようにネジ加工を施した。金属側の材質は無酸素Cuとし、セラミックス側はφ30×30のAl23円柱とした。但し、Al23の端部はC:0.25mmの面取を行ったため、実質的な接合面はφ29.5である。Cu側の接合径は、φ10〜29.5 とした。接合に用いたろう材は72wt%Ag−28wt%
Cu(BAg−8)とした。ろう材の厚さは0.12mmとして、Cu側径に合わせてカットしたものを用いた。Al23側へのメタライズ処理はMo−Mn法とし、メタライズ処理したのち、さらにろう材流れ改善のためNiめっきを施した。メタライズ処理は
Al23側の全面に施した。引張試験結果では、Cu側径の増加に伴い引張強さが低下する傾向が認められた。特にCu側径がφ25を超える試料では強度の低下が激しく、実用に支障をきたすレベルの強度低下であった。また、φ25を超える場合、ろう材が
Al23端部にまで達する傾向が顕著にみとめられた。
【0027】
表2に示すCu/Al23接合体を作製した。接合体の構造は表1におけるa−9とほぼ同じであり、Al23側のメタライズ処理の面積(径)を変化させた。
【0028】
【表2】

【0029】
引張強さは、メタライズ層の径がCu側径を0.2〜0.5上回るところで極大となる傾向が認められた。尚、b−1,b−2では均一なフィレットが形成されなかったのに対し、b−3〜b−7では比較的安定した形状のフィレットが形成された。また、b−3,b−4のフィレットが最も曲率が最も大きく、b−5,b−6,b−7の順にフィレットの曲率が小さくなる傾向が認められた。
【0030】
表3に示すCu/Al23接合体を作製した。接合体の構造は表1に示すa−1〜a−16とほぼ同じであるが、Al23側のメタライズ径をCu径に対してφ0.5 だけ大きくした。
【0031】
【表3】

【0032】
尚、c−15,c−16に関してはメタライズ径がAl23径と同じであり、実質a−15,a−16と全く同じ種類の試料である。引張強さは、Cu側径の増加に対して僅かに低下する傾向が認められるが、a−1〜a−16に比べて緩やかであり、Cu側径φ28.5 まで150MPa以上の引張強さを保っことができている。
【0033】
a−1〜a−16およびc−16の耐衝撃性試験を行った。試験は、接合体を所定の高さから落下させることにより、接合体の破損の有無を調べた。接合体の受ける衝撃エネルギは約5Jであり、真空開閉装置による電極の開閉時を模擬している。耐衝撃性試験の結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
aシリーズではa−1〜a−11までは10000回の衝撃負荷を加えても破損はなかったが、a−12〜a−16では、1〜10回目の衝撃でAl23が割れた。cシリーズでは、c−1〜c−14まで10000回の衝撃負荷を加えても破損が無く、c−15,c−16は10回以内の衝撃負荷でAl23が割れた。
【0036】
引張試験および耐衝撃試験の結果から,ろう材がAl23端部にかかることにより、接合体の強度および耐衝撃性が著しく低下する傾向が認められた。
【実施例3】
【0037】
図3は、本発明の接合体を内包する電力流通用開閉装置の上面図(a)及び断面図(b)である。接地真空容器1には、2つの遮断器部又は断路器部の可動電極12,13及び固定電極10,11と、1つの接地装置部の可動電極15及び固定電極14が収容され、又接地真空容器1に取り付けた真空圧力測定装置の真空圧力測定端子25が設けられている。上面図(a)に示す様に、2つの遮断器部又は断路器部を一列にし、1つの接地装置部と外部接続導体27とを一列にして互いに並列に配置したものである。
【0038】
外部接続導体27は、接地真空容器1外で中央部に円筒状のアルミナ,ジルコニア等のセラミックスからなる絶縁物を挟んで上下に非磁性ステンレス鋼のキャップによって接地真空容器1に絶縁されて接続されている。
【0039】
接地真空容器1は大部分が強度の高い金属例えば非磁性ステンレス鋼などの導電性材料で構成される。そして接地真空容器1は接地されている。又、接地真空容器1の真空圧力は、真空度測定装置25によって監視される。接地真空容器1と真空容器内部導体との絶縁は前述のセラミックスからなる絶縁物4,5,19,20,21,26によって保たれている。
【0040】
接地真空容器1の内部に、接離自在な固定電極10と可動電極12,固定電極11と可動電極13,固定電極14と可動電極15が配置され、各可動電極を操作機構の指令によって接離させて投入及び切動作を行う。可動電極12,13,15はそれぞれ可動導体
16,17,18に接続され、それぞれ絶縁物19,20,21を介して、可動ロッド
28,29,30に接続され、操作機構部へと接続される。可動ロッド28,29,30はそれぞれベローズ22,23,24により気密に封止される。固定電極10と可動電極12,固定電極11と可動電極13の接続部分の周囲は、非磁性ステンレス鋼からなるシールドカバーが設けられている。
【0041】
固定電極10は接続導体2に接続され、接地真空容器1の外部との接続が行われる。同様に固定電極11は接続導体3に接続され、接地真空容器1の外部との接続が行われる。接続導体2,3は接地真空容器1外では更に絶縁物4,5によって被われている。
【0042】
外部と接続される接続導体2と接続導体3との間は、可動導体17からフレキシブル導体31を介して可動導体16に接続されるため、可動電極13,可動電極12が入状態の場合電気的に接続される。また、接地部固定電極14は、可動導体18がフレキシブル導体32を介して接地端子部導体33に接続されるため、接地部可動電極15が入状態の場合接地端子部の外部接続導体27と電気的に接続される。
【0043】
外部接続導体27は、フレキシブル導体32との接続部と接地端子部導体33とが一体に接続されており、絶縁物26によって接地真空容器1とが絶縁されている。
【0044】
フレキシブル導体31,32は、真空容器中に配置するため、真空中で動作できるよう通電部に薄板(0.1mm〜0.2mm)の無酸素銅を積層して用い、各無酸素銅薄板間にそれより薄板の酸化層を有するステンレス板を挿入することで、真空中で無酸素鋼同士が凝着せず、フレキシブル性が維持できる構造とした。
【0045】
又、フレキシブル導体を主回路通電部との距離がとれるように通電部と反対方向に凸形状とした。本発明における接合体構造を、当該真空スイッチの絶縁物4,5,19,20,21,26に適用し、当該装置が必要なスペックを満足することを確認した。
【0046】
上記のような接合体により、信頼性の高い電力流通用開閉装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明における接合体の接合面構造を示す図である。
【図2】実施例1において試作した接合体の概賂を示す図である。
【図3】実施例2において試作した電力流通用開閉装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…接地真空容器、2,3…接続導体、4,5,19,20,21,26…絶縁物、
10,11…固定電極、12,13…可動電極、14…接地部固定電極、15…接地部可動電極、16,17,18…可動導体、22,23,24…ベローズ、25…真空度測定端子、27…外部接続導体、28,29,30…可動ロッド、31,32…フレキシブル導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、表面にメタライズ処理を施されている領域を有するセラミックス部材との接合体であって、前記メタライズ処理された領域は、前記セラミックス部材のメタライズ処理を施された面の面積より小さいことを特徴とする接合体。
【請求項2】
請求項1に記載された接合体であって、
前記メタライズ処理された領域の周囲は0.2mm 以上の幅のセラミックス表面が表れていることを特徴とする接合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載された接合体であって、
前記メタライズ処理された領域の面積は前記金属部材の接合面の面積より大きく、前記メタライズ処理された領域の端部は、前記金属部材の端部から0.2mm 以上離れていることを特徴とする接合体。
【請求項4】
金属部材とセラミックス部材をろう材により接合した接合体であって、前記セラミックス部材の接合面の端部と前記ろう材の端部とが0.2mm 以上離れて接合されていることを特徴とする接合体。
【請求項5】
請求項4に記載された接合体であって、
前記ろう材の端部は前記金属部材の端部から0.2mm 以上はなれていることを特徴とする接合体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載された接合体であって、
前記金属はCu,Fe,Al,Ni,Cr,Zn,Sn,Co,S1,Cの元素のうち少なくとも一つを含み、前記セラミックスはAl,Si,O,C,N,Mg,Y,Ca,Ti,Zrの元素のうち少なくとも一つを含むことことを特徴とする接合体。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載された接合体であって、
前記ろう材はAg,Cu,Mn,Niのうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする接合体。
【請求項8】
請求項4に記載された接合体であって,前記ろう材はTi,Zrの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする接合体。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれかの接合体を用いたことを特徴とする電力流通用開閉装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−321661(P2006−321661A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143389(P2005−143389)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】