説明

金属と合成樹脂との接合構造及び接合方法

【課題】金属部と合成樹脂部との接合面を適切に密封状態に保持することができる金属と合成樹脂との接合構造及び接合方法を提供する。
【解決手段】金属部13の外面に合成樹脂部14を射出成形して、金属部13と合成樹脂部14とを一体に接合する。この場合、発泡材21が混入されたシール前駆体22を金属部13の外面に添着した後に、その金属部13の外面に合成樹脂部14を射出成形するとともに、発泡材21を加熱より発泡させる。この発泡により、金属部13と合成樹脂部14との間に、弾発力の強い発泡状態のシール18を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属と合成樹脂とが接合された構成において、金属部と合成樹脂部との接合構造及び接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、エンジンのシリンダヘッドカバーにおいては、軽量化や騒音抑制の目的のために、合成樹脂により成形した構成が採用されつつある。そして、このような構成のシリンダヘッドカバーには、例えばエンジンのバルブの開閉タイミング調節機構に対して作動油の供給を制御するためのオイルコントロールバルブが同カバーに埋設状態で装着されたものがある。
【0003】
この場合、温度変化や、振動等に抗するために、例えば特許文献1に開示されるように、オイルコントロールバルブを装着するために剛性の高い金属スリーブを設け、この金属スリーブの外周に合成樹脂のカバー本体部分を一体に射出成形したシリンダヘッドカバーが提案されている。
【0004】
一方、特許文献2には、金属製のヒートシンクの外周縁に沿って合成樹脂製の保持枠を一体に射出成形してなる電子制御回路用ケースの蓋体が開示されている。そして、この特許文献2の構成では、ヒートシンクの外周縁に凹溝が形成され、この凹溝に弾性材料製のシール部材が配置された状態で、ヒートシンクの外周縁に合成樹脂製の保持枠が射出成形される。このため、ヒートシンクと保持枠との接合面にシール部材が圧縮力を受けた状態で埋設される。
【特許文献1】特開2006−316640号公報
【特許文献2】特開2006−339403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の従来構成においては、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1に記載の従来構成では、金属スリーブと合成樹脂のカバー本体部分との間の接合面にシール構造が施されていない。このため、金属スリーブとカバー本体部分との熱膨張係数の違い等から、それらの接合面に剥離が生じるおそれがある。このような場合には、それらの接合面間に隙間が生じて、金属スリーブとカバー本体部分との間の密封性を保つことができなくなり、オイル漏れ等が生じるおそれがある。
【0006】
これに対して、特許文献2に記載の従来構成では、金属製のヒートシンクと合成樹脂製の保持枠との接合面にシール部材が埋設されている。このため、特許文献2の構成においては、特許文献1に記載の構成に比較して、ある程度の密封効果を期待することができる。ところが、この特許文献2の従来構成では、ヒートシンクと保持枠との接合面に埋設されているにすぎない。このため、シール部材の圧縮率が小さく、シール部材は強い反発力を蓄勢して内在している状態ではない。従って、シール部材のシール能力に不安がある。特に、温度変化によって金属製のヒートシンクと合成樹脂製の保持枠とが異なった熱膨張係数にて伸縮した場合に、シール部材がその伸縮に追従して適切に変形することができず、密封性を十分に発揮することができないおそれがあるという問題があった。
【0007】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。
この発明の目的は、金属部と合成樹脂部とが異なった熱膨張係数で伸縮した場合でも、金属部と合成樹脂部との接合面間を常に密封状態に保持することができる金属と合成樹脂との接合構造及び接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、金属と合成樹脂との接合構造に係る発明は、金属部と合成樹脂部とを接合するとともに、それらの間にシールを介在させた金属と合成樹脂との接合構造において、前記シールとして、金属部と合成樹脂部との間に介在された後に発泡させたものを用いたことを特徴としている。
【0009】
従って、この発明の接合構造では、金属部と合成樹脂部との接合部に組み込まれた後に、発泡により強い弾発力を内在したシールが、金属部と合成樹脂部との間に介在されている。このため、金属部と合成樹脂部とが異なった熱膨張係数で伸縮した場合でも、シールが伸縮に適切に追従して弾性変形されて、金属部と合成樹脂部との接合面間を常に密封状態に保持することができる。
【0010】
また、前記の接合構造において、前記金属部が円筒外周面を有し、前記合成樹脂部は前記金属部の円筒外周面を包囲するように射出形成されたものであるとよい。このように構成した場合には、金属部の円筒外周面とその円筒外周面上に射出成形された合成樹脂部との接合面を、シールにより常に密封状態に保持することができる。
【0011】
そして、前記の構成において、前記金属部に環状溝を設け、前記シールをその環状溝内に設けることにより、シールを適切な所要位置に配置できる。
さらに、前記シールとして、その金属部と接する面に複数の環状突を用いれば、シール性を向上することができる。
【0012】
さらに、金属と合成樹脂との接合方法に係る発明は、金属部と合成樹脂部とを接合するとともに、それらの間にシールを介在させる金属と合成樹脂との接合方法において、発泡材が混入されたシール前駆体を前記金属部の外面に添着した後に、その金属部の外面に合成樹脂部を射出成形するとともに、前記発泡材を発泡させることを特徴としている。
【0013】
従って、シール前駆体に混入した発泡材の発泡により、強い弾発力のシールを形成することができる。よって、この接合方法により製造した接合構造においては、前記のように金属部と合成樹脂部との接合面をシールにより常に密封状態に保持することができる。
【0014】
さらに、前記接合方法において、前記発泡材として流体を封入したマイクロカプセルを用いるとよい。この場合には、シール前駆体に対する発泡材の混入が容易であるとともに、独立気泡を形成できて、シール性の良好な接合構造を得ることができる。
【0015】
さらに、前記接合方法において、前記金属部が円筒外周面を有し、前記合成樹脂部は前記金属部の円筒外周面を包囲するように射出形成されるとよい。この場合には、前記のように、金属部の円筒外周面とその円筒外周面上に射出成形された合成樹脂部との接合面を、シールにより常に密封状態に保持することができる。
【0016】
さらに、前記接合方法において、前記金属部の円筒外周面に環状溝を形成し、前記シール前駆体をその環状溝内に収容するとよい。この場合には、金属部の外周面上の所要位置において、シール前駆体の発泡により大きな弾発力のシールを形成することができる。
【0017】
さらに、前記接合方法において、液状のシール前駆体を前記環状溝内に注入し、そのシール前駆体を硬化させた後に発泡材を発泡させるとよい。この場合には、シール前駆体を液体状態で金属部の外周面の環状溝内に容易に収容配置することができるとともに、金属部の外周面上に合成樹脂部を射出成形する際には、シール前駆体を硬化状態にて環状溝内において保持することができる。
【0018】
さらに、前記接合方法において、環状をなす硬化後のシール前駆体を前記金属部の円筒外周面に巻回するとよい。この場合には、金属部の円筒外周面にシール前駆体を巻回により容易に配置することができる。
【0019】
さらに、前記接合方法において、シール前駆体として、金属部の周面に接する複数の環状突部を有するものを用いるとよい。この場合には、環状突部が金属部の外周面に圧接された状態でシールが形成されて、金属部の外周面と合成樹脂部との接合面の密封効果を高めることができる。
【0020】
さらに、前記接合方法において、シール前駆体を合成樹脂部の射出圧力によって、前記金属部の環状溝内に位置させるとよい。この場合には、金属部の環状溝内に沿ってシールが湾曲形成されて、広い面積のシールめんを確保でき、密封効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、この発明によれば、金属部と合成樹脂部との接合面間を適切な密封状態に保持することができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下に、この発明をエンジンのシリンダヘッドカバーにおいて具体化した第1実施形態を、図1及び図2に基づいて説明する。
【0023】
図1に示すように、エンジンのシリンダヘッド11上にはシリンダヘッドカバー12が装着されている。このシリンダヘッドカバー12は、円筒部13aを有するようにアルミニウム合金やマグネシウム合金等の金属材にて形成された金属部としてのバルブ装着体13を備えている。また、シリンダヘッドカバー12は、ガラス繊維が混合されたナイロン66等の耐熱性合成樹脂により射出成形にて一体形成されたカバー本体14を備えている。このカバー本体14は、前記バルブ装着体13の円筒部13aの外周面,すなわち円筒外周面を包囲した状態で、その円筒部13aの外周面に形成されている。そして、このシリンダヘッドカバー12におけるバルブ装着体13の円筒部13aの内側には、シリンダヘッド11上のバルブタイミング調節機構15に対する作動油の供給を制御するためのオイルコントロールバルブ16が着脱可能に装着される。
【0024】
図1及び図2(b)に示すように、前記シリンダヘッドカバー12におけるバルブ装着体13の円筒部13aの外周面,すなわち外面には、断面四角形状の環状溝17が形成されている。環状溝17内にはシリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性を有するゴムよりなるシール18が発泡された状態で収容配置されている。このシール18によって、金属部としてのバルブ装着体13の円筒部13aの外周面と、合成樹脂部としてのカバー本体14との接合面間が密封されている。
【0025】
次に、前記シリンダヘッドカバー12の製造に際して、バルブ装着体13とカバー本体14とを接合する接合方法について説明する。
さて、このシリンダヘッドカバー12の製造時には、図2(a)に示すように、金属材よりなるバルブ装着体13の円筒部13a上の環状溝17内にシール前駆体22を全周均等に注入する。このシール前駆体22は、発泡材21が混入されるとともに、溶剤により液状をなし、未硬化(未架橋)状態である。その後、シール前駆体22を自然乾燥等により硬化(架橋)させる。
【0026】
前記発泡材21としては、気体または液体等の流体を封入したマイクロカプセルが用いられている。具体的には、熱可塑性ポリマー(例えば、アクリルニトリルコポリマー)よりなるシェルの内部に、窒素等の圧縮状態の気体または低沸点の液体炭化水素等の液体を封入した構成のマイクロカプセルが用いられる。このマイクロカプセルの平均粒径は15〜40μmである。このマイクロカプセルの混入量は、シール前駆体22に対して0.5〜3重量パーセント程度である。
【0027】
この状態で、バルブ装着体13を図示しない成形型内にセットした後、バルブ装着体13の円筒部13aの外周面が合成樹脂によって包囲されるように、合成樹脂のカバー本体14を射出成形する。そして、このとき、図2(a)及び図2(b)に示すように、成形熱により、シール前駆体22に混入された発泡材21のマイクロカプセルのシェルが軟化するとともに、そのシェル内に封入された流体が膨張または揮発される。このため、前記シェルが破裂して、マイクロカプセル内から気体が流出し、気泡23が発生する。そして、この気泡により、シール前駆体22が発泡されて、シール前駆体22の周囲が開放された開放状態であれば、そのシール前駆体22の体積が1.2〜2倍程度に膨張される。従って、バルブ装着体13の環状溝17内であって、バルブ装着体13とカバー本体14との間に気泡23を含む発泡状態のシール18が圧縮状態で形成される。ここで、前記気泡はマイクロカプセルの破裂によって形成されるため、化学発泡の場合とは異なり、連泡は形成されず、独立気泡が形成される。また、注入された合成樹脂の熱により、シール18のバルブ装着体13と接する表層にはスキン層が形成される。
【0028】
よって、このシリンダヘッドカバー12の成形状態では、発泡状態のシール18がバルブ装着体13の環状溝17の内面及びカバー本体14の内周面に強い弾発力で圧接して、金属材よりなるバルブ装着体13と合成樹脂よりなるカバー本体14との接合面間が効果的に密封される。
【0029】
従って、この実施形態においては、以下の各種の効果を得ることができる。
(1) 発泡状態のシール18は、発泡にともなう膨張が抑制されるため、強い弾発力を内在している。このため、金属部としてのバルブ装着体13と合成樹脂部としてのカバー本体14とが異なった熱膨張係数下において伸縮した場合でも、あるいは、シリンダヘッドカバー12が激しく振動された場合でも、シール18は伸縮等に追従した弾性変形を適切に行う。このため、バルブ装着体13とカバー本体14との接合面を常に密封状態に保持することができる。
【0030】
(2) バルブ装着体13の円筒部13aの外周面の環状溝17内に液状のシール前駆体22を注入し、そのシール前駆体22をあらかじめ硬化させた後に、シール前駆体22中の発泡材21を発泡させている。このため、シール前駆体22を注入によりバルブ装着体13の環状溝17内に容易に配置することができる。そして、バルブ装着体13上に合成樹脂のカバー本体14を射出成形する際には、シール前駆体22を硬化状態にて環状溝17内において動くことなく保持することができて、シール18を所要位置に適切に配置できる。
【0031】
(3) バルブ装着体13の環状溝17内の空間において、シール前駆体22の発泡によりシール18が形成されるため、シール前駆体22の圧縮率が高くなって、強い弾発力のシール18を形成することができる。
【0032】
(4) シール前駆体22に混入する発泡材21として、流体を封入したマイクロカプセルを用いているため、シール前駆体22に対する発泡材21の混入を簡単に行うことができるとともに、加熱にともなうマイクロカプセルのシェルの軟化により、内部に封入した流体が流出して、シール前駆体22を効果的に発泡させることができる。
【0033】
(5) シール18は、マイクロカプセルの発泡により、独立気泡による発泡状態となって、連泡は形成されず、このため、シール性の高いシール18を得ることができる。
(6) マイクロカプセルとして、その粒径を適宜に選択して用いれば、気泡の大きさを調節できる。また、マイクロカプセルの使用量を適宜に設定すれば、シール全体の体積に対する発泡率を調整できる。従って、シール18のシール能力を容易に調整できる。
【0034】
(7) シール18のバルブ装着体13と接する表層にはスキン層が形成されるため、シール性が向上する。
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0035】
さて、この第2実施形態においては、図3(a)に示すように、カバー本体14の樹脂の射出成形に先立って、金属材よりなるバルブ装着体13の円筒部13aの外周面にシート状をなす硬化状態のシール前駆体26を巻回する。このシート状のシール前駆体26の内面には、複数の環状突部26aが円筒部13aの軸線方向において相互間隔をおいて形成されている。また、このシール前駆体26には、前記第1実施形態の場合と同様に、流体を封入したマイクロカプセルよりなる発泡材21が混入されている。
【0036】
そして、図3(b)に示すように、バルブ装着体13上に合成樹脂のカバー本体14を射出成形すると、その成形熱によりシール前駆体26中の発泡材21が発泡されて気泡23が発生する。また、これと同時に、合成樹脂の成形圧力により、シール前駆体26はバルブ装着体13状に圧着される。このようにして、シール18が形成される。このため、バルブ装着体13の円筒部13aの外周面とカバー本体14との接合面の間には、気泡23を含む発泡状態のシール18が形成される。
【0037】
この場合、シール前駆体26の内面に複数の環状突部26aが形成されているため、それらの環状突部26aにより円筒部13aの外周面とシール18との間には、接触圧の高い部分と低い部分とが交互に現れる。
【0038】
従って、この第2実施形態においては、前記第1実施形態に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。また、この第2実施形態では、以下の効果を得ることができる。
(8) シート状のシール前駆体26を使用しているため、そのシール前駆体26を金属材よりなるバルブ装着体13の円筒部13aの外周面に容易に巻回配置することができる。
【0039】
(9) 円筒部13aの外周面とシール18との間に、接触圧の高い部分と低い部分とが交互に現れることにより、ラビリンス様のシール作用を得ることができ、バルブ装着体13とカバー本体14との接合面間の密封効果を高めることができる。
【0040】
(第3実施形態)
次に、この発明の第3実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
さて、この第3実施形態においては、図4(a)に示すように、バルブ装着体13の円筒部13aの外周面に断面半円形状の環状溝27が形成されている。そして、カバー本体14の樹脂の射出成形に先立って、この環状溝27を覆うように、円筒部13aの外周面に硬化状態のシート状をなすシール前駆体26が巻回される。このシール前駆体26には、前記第1及び第2実施形態の場合と同様に、流体を封入したマイクロカプセルよりなる発泡材21が混入されている。
【0041】
その後、図4(b)に示すように、バルブ装着体13上に合成樹脂のカバー本体14を射出成形すると、その成形熱によりシール前駆体26中の発泡材21が発泡されて気泡23が発生する。従って、バルブ装着体13の円筒部13aの外周面とカバー本体14との接合面に、気泡23を含む発泡状態のシール18が形成される。また、この場合、合成樹脂の射出圧力により、シール前駆体26が環状溝27側に押圧されるため、シール18が環状溝17の内面に沿って湾曲形成される。
【0042】
従って、この第3実施形態においても、前記第1実施形態に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。また、この第3実施形態では、以下の効果を得ることができる。
(10) シール18がバルブ装着体13の円筒部13a上の環状溝17に沿って湾曲形成されるため、シール面積が広くなり、バルブ装着体13とカバー本体14との接合面間の密封効果を高めることができる。
【0043】
(第4実施形態)
次に、この発明の第4実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
さて、この第4実施形態においては、図5(a)に示すように、バルブ装着体13の円筒部13aの外周面に第1実施形態と同様に断面四角形状のシール前駆体29の注入用の環状溝17が形成される。そして、この第4実施形態においては、前記環状溝17に対して射出成形にともなう合成樹脂流(矢印方向)の下流側に隣接位置するように、環状の受け溝28が形成されている。そして、環状溝17内には発泡材21が混入された液状のシール前駆体29が注入される。ただし、この第4実施形態において使用されるシール前駆体29は溶剤に溶融されたものではなく、単に溶融された未硬化(未架橋)状態のものを用いる。なお、ここで、シール前駆体29を環状溝17に対して円筒部13aの外周面と同一平面が形成されるように注入してもよいが、図5(a)に示すように、シール前駆体29はその周面が凹むように注入することが好ましい。
【0044】
そして、この第4実施形態においては、図5(b)に示すように、環状溝17内に注入された液状のシール前駆体29が硬化する前に、バルブ装着体13上にカバー本体14を構成する合成樹脂が射出成形される。このため、その成形熱によりシール前駆体29が硬化されるとともに、そのシール前駆体29中の発泡材21が発泡されて気泡23が発生する。このため、円筒部13a上の環状溝17内で、気泡23を含む発泡状態のシール18が形成される。この場合、合成樹脂の射出成形にともない、硬化前のシール前駆体29が合成樹脂流に巻き込まれて、環状溝17内から漏れ出すおそれがあるが、前記ように、前記のように周面が凹むように注入されているため、漏れ出すおそれを低減できる。そして、仮に漏れだしたとしても、そのシール前駆体29の漏出部29aは環状溝17に対して合成樹脂流の下流側に隣接する受け溝28内に流入して、その受け溝28の下流側に移動することが阻止される。
【0045】
従って、この第4実施形態においても、前記第1実施形態に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。また、この第4実施形態では、以下の効果がある。
(11) 液状のシール前駆体29の硬化前に合成樹脂の射出成形を開始することができるため、製造時間を短縮することができる。
【0046】
(12) 合成樹脂の射出成形時に、硬化前のシール前駆体29が漏れ出すことを抑制でき、仮に漏れ出すことがあっても、受け溝28にて回収することができるため、バルブ装着体13とカバー本体14との間の不要な部分にゴム材が介在されることを防止できる。
【0047】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記各実施形態では、バルブ装着体13の円筒部13aの外周にカバー本体14を接合した。これに対し、図6(a)(b)に示すように、バルブ装着体13の円筒部13aの内周に環状溝17を設けるとともに、そのバルブ装着体13の内周面にカバー本体14を接合する構成においてこの発明を具体化すること。従って、シール18は、バルブ装着体13の内周面側に設けられる。
【0048】
・ 前記各実施形態においては、合成樹脂の成形熱を利用して、シール前駆体22,26,29に混入した発泡材21を発泡させているが、金属部に対する合成樹脂部の射出成形後の後工程で、成形品を発泡温度まで加熱して、シール18を発泡形成してもよい。これは、マイクロカプセルのシェルや封入されて流体を適宜選択することによって可能となる。
【0049】
・ 前記各実施形態においては、シリンダヘッドカバー12の製造に際して、金属材よりなるバルブ装着体13の円筒部13aの外周面や内周面に合成樹脂のカバー本体14を接合する場合において具体化したが、金属部の平坦状の側面または端面に合成樹脂部を接合形成する場合に具体化してもよい。この場合、シールは環状ではなく,つまり無端状ではなく、端末を有する形状となる。
【0050】
・ バルブ装着体13と固体状態の円筒部13aとを超音波溶着や振動溶着する製造方法においてこの発明を具体化すること。この場合は、バルブ装着体13と円筒部13aとの接合方法は異なるが、接合前にバルブ装着体13に対して発泡材21が混入されたシール前駆体26を添着することについては前記各実施形態と同様である。
【0051】
・ この発明を他の用途、例えば、合成樹脂製の燃料タンクにおいて、その燃料取り入れ口に金属製の円筒状口金を固定する構造において具体化すること。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の金属と合成樹脂との接合構造をエンジンのシリンダヘッドカバーに具体化した第1実施形態を示す要部断面図。
【図2】(a)及び(b)は図1のシリンダヘッドカバーの製造過程を順に示す部分拡大断面図。
【図3】(a)及び(b)は第2実施形態のシリンダヘッドカバーの製造過程を順に示す部分拡大断面図。
【図4】(a)及び(b)は第3実施形態のシリンダヘッドカバーの製造過程を順に示す部分拡大断面図。
【図5】(a)及び(b)は第4実施形態のシリンダヘッドカバーの製造過程を順に示す部分拡大断面図。
【図6】(a)及び(b)は変形例のシリンダヘッドカバーの製造過程を順に示す部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0053】
12…シリンダヘッドカバー、13…金属部としてのバルブ装着体、13a…円筒部、14…合成樹脂部としてのカバー本体、17…環状溝、18…シール、21…発泡材、22…シール前駆体、26…シート状のシール前駆体、27…環状溝、29…液状のシール前駆体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部と合成樹脂部とを接合するとともに、それらの間にシールを介在させた金属と合成樹脂との接合構造において、
前記シールとして、金属部と合成樹脂部との間に介在された後に発泡させたものを用いたことを特徴とする金属と合成樹脂との接合構造。
【請求項2】
前記金属部が円筒外周面を有し、前記合成樹脂部は前記金属部の円筒外周面を包囲するように射出形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の金属と合成樹脂との接合構造。
【請求項3】
前記金属部に環状溝を設け、前記シールをその環状溝内に設けたことを特徴とする請求項2に記載の金属と合成樹脂との接合構造。
【請求項4】
前記シールは、その金属部と接する面に複数の環状突部を有することを特徴とする請求項2または3に記載の金属と合成樹脂との接合構造。
【請求項5】
金属部と合成樹脂部とを接合するとともに、それらの間にシールを介在させる金属と合成樹脂との接合方法において、
発泡材が混入されたシール前駆体を前記金属部の外面に添着した後に、その金属部の外面に合成樹脂部を射出成形するとともに、前記発泡材を発泡させることを特徴とする金属と合成樹脂との接合方法。
【請求項6】
前記発泡材は流体を封入したマイクロカプセルであることを特徴とする請求項5に記載の金属と合成樹脂との接合方法。
【請求項7】
前記金属部が円筒外周面を有し、前記合成樹脂部は前記金属部の円筒外周面を包囲するように射出形成されることを特徴とする請求項5または6に記載の金属と合成樹脂との接合方法。
【請求項8】
前記金属部に環状溝を設け、前記シール前駆体をその環状溝内に設けることを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載の金属と合成樹脂との接合方法。
【請求項9】
液状のシール前駆体を前記環状溝内に注入し、そのシール前駆体を硬化させた後に発泡材を発泡させることを特徴とする請求項8の金属と合成樹脂との接合方法。
【請求項10】
環状をなす硬化後のシール前駆体を金属部の周面に巻回することを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載の金属と合成樹脂との接合方法。
【請求項11】
前記シール前駆体は金属部の周面に接する面に複数の環状突部を有することを特徴とする請求項10に記載の金属と合成樹脂との接合方法。
【請求項12】
シール前駆体を合成樹脂部の射出圧力によって、前記金属部の環状溝内に位置させることを特徴とする請求項10に記載の金属と合成樹脂との接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−272984(P2008−272984A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117360(P2007−117360)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】